説明

変位検出器の設置装置

【課題】エレベータの電磁ブレーキに備えられるプランジャのストロークを測定する変位検出器を、正しい位置に容易に設置することができる変位検出器の設置装置の提供。
【解決手段】本発明は、エレベータに備えられる電磁ブレーキ1のプランジャ2の変位距離を計測する変位検出器5を、その計測部4がプランジャ2の表面3に対向するように保持する保持手段を備え、この保持手段は、変位検出器5に取り付けられる取り付け部材、例えば板状部材6と、プランジャ2の表面3に載置され、板状部材6に係合部11を介して離脱可能に係合する載置部材、例えばL字状ブラケット7とから成り、L字状ブラケット7を板状部材6に係合している状態から離脱させた際に、板状部材6を、L字状ブラケット7が係合しているときと同等の形態に支持する支持部材、例えばスタンド部8を備えた構成にしてある。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、コイルに電流を流すことにより変位するエレベータに備えられる電磁ブレーキのプランジャの変位距離を計測する変位検出器を、所定位置に設置する変位検出器の設置装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的なエレベータでは、乗客を運ぶ乗かごを駆動するモータの回転を停止させる電磁ブレーキが設けられている。この電磁ブレーキは、電磁コイルに電流を流すことでプランジャを、モータの回転が停止する位置まで変位させるように構成されている。したがって、この電磁ブレーキのプランジャの変位距離(ストローク)を定期的に測定し、これが正常な数値であることを診断することは、エレベータの保全作業において重要なものである。
【0003】
このようなプランジャの変位距離の診断を行う従来技術として、特許文献1に開示されたものがある。この従来技術は、非接触の変位検出器でプランジャのストロークを測定するものであり、機械的に精度良く、且つ保守員の経験に左右されることなく診断可能となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平06−329358号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、前述したプランジャのストロークの測定には、20μm単位の測定精度が要求され、この測定には変位検出器の設置形態が大きく影響する。しかし、前述した従来技術にあっては、この変位検出器の設置形態については考慮がなされておらず、したがって変位検出器の設置形態が望ましいものでないときには、測定精度を悪化させてしまう懸念があった。
【0006】
本発明は、前述した従来技術における実状からなされたもので、その目的は、エレベータの電磁ブレーキに備えられるプランジャのストロークを測定する変位検出器を、正しい位置に容易に設置することができる変位検出器の設置装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記目的を達成するために、本発明に係る変位検出器の設置装置は、コイルに電流を流すことにより変位するエレベータに備えられる電磁ブレーキのプランジャの変位距離を計測する変位検出器を、所定位置に設置する変位検出器の設置装置において、前記変位検出器を、その測定部が前記プランジャの表面に対向するように保持する保持手段を備え、前記保持手段は、前記変位検出器に取り付けられる取り付け部材と、前記プランジャの前記表面に載置され、前記取り付け部材に係合部を介して離脱可能に係合する載置部材とから成り、前記載置部材を前記取り付け部材に係合している状態から離脱させた際に、前記取り付け部材を、前記載置部材が係合しているときと同等の形態に支持する支持部材を備えたことを特徴としている。
【0008】
このように構成した本発明は、プランジャの変位距離を計測するために変位検出器を設置するに際しては、例えば、変位検出器に取り付けられた取り付け部材を係合部を介して載置部材に係合させた状態で、載置部材をプランジャの表面に載置する。この状態で支持部材によって取り付け部材を支持させる。これにより、変位検出器の測定部がプランジャの表面に対向するように、変位検出器は正しい位置に設置される。この状態において載置部材を取り付け部材から離脱させる。このように載置部材を離脱させることにより、電磁ブレーキのプランジャは、載置部材に干渉することなく、変位検出器の測定部に向かって変位可能となる。また、前述のように載置部材を取り付け部材から離脱させた際に、取り付け部材は支持部材によって、載置部材が係合しているときと同等の形態に支持される。すなわち本発明は、保持手段及び支持部材によって、変位検出器を正しい位置に容易に設置することができる。これにより、変位検出器の測定精度を、常に安定した高い測定精度に維持することができる。
【0009】
また本発明は、少なくとも変位検出器に取り付けられる取り付け部材と、載置部材とに分割することができる。
【0010】
また本発明は、前記発明において、前記保持手段の前記載置部材は、前記プランジャの前記表面に当接させた平坦部と、この平坦部の一端部から鉛直方向に立設させた立設部とを含むL字状ブラケットから成り、前記取り付け部材は、前記プランジャの変位方向に沿って延設され、前記係合部を介して前記L字状ブラケットの前記立設部の上に設けられる板状部材から成り、前記支持部材は、前記保持手段の前記板状部材を支持する屈曲式のスタンド部から成ることを特徴としている。
【0011】
このように構成した本発明は、保持手段が、それぞれ形状の単純なL字状ブラケットと板状部材から成り、支持部材が製作が比較的容易な屈曲式のスタンド部から成ることから、実用性に富む。
【0012】
また本発明は、前記発明において、前記スタンド部は、前記電磁ブレーキの外側ケースに接着される第1マグネットと、前記板状部材に接着される第2マグネットと、一端を前記第1マグネットに固定され、他端を前記第2マグネットに固定され、屈曲可能な支柱部とを含むことを特徴としている。
【0013】
このように構成した本発明は、スタンド部が、入手しやすい第1マグネット、第2マグネット、及び屈曲可能な支柱部から成ることから、このスタンド部の製作が容易である。また、このスタンド部を取り付けるに際しては、第1マグネットを電磁ブレーキの外側ケースに取り付け、第2マグネットを保持手段の板状部材に取り付ければ済むので、このスタンド部の取り付けが簡単である。したがって、当該変位検出器の設置装置の組み立て工数を少なく抑えることができる。
【0014】
また本発明は、前記発明において、前記板状部材と前記L字状ブラケットとの前記係合部は、前記L字状ブラケットを前記プランジャの前記表面に沿う方向に摺動させることが可能な形状部から成ることを特徴としている。
【0015】
このように構成した本発明は、変位検出器の測定部をプランジャの表面に対向させた状態で、L字状ブラケットを板状部材から離脱させる際には、L字状ブラケットを単にプランジャの表面に沿う方向に摺動させればよいので、このL字状ブラケットを簡単に離脱させることができる。このことも当該変位検出器の設置装置の組み立て工数を少なく抑えることに貢献する。
【0016】
また本発明は、前記発明において、前記変位検出器は、前記測定部からレーザ光の照射が可能なものから成り、前記載置部材に、前記プランジャの変位方向に沿って形成され、前記変位検出器から照射されるレーザ光を前記プランジャの前記表面に導き、その表面における反射光を前記変位検出器の前記測定部に導く貫通穴を形成したことを特徴としている。
【0017】
このように構成した本発明は、変位検出器の測定部をプランジャの表面に対向させた状態で、変位検出器の測定部からレーザ光を載置部材の貫通穴に照射し、プランジャの表面からの反射光を変位検出器の測定部で測定することにより、変位検出器が正しく設置されていることを容易に確認することができる。
【発明の効果】
【0018】
本発明は、エレベータに備えられる電磁ブレーキのプランジャの変位距離を計測する変位検出器を、その測定部がプランジャの表面に対向するように保持する保持手段を備え、この保持手段は、変位検出器に取り付けられる取付け部材と、プランジャの表面に載置され、取り付け部材に係合部を介して離脱可能に係合する載置部材とから成り、載置部材を取り付け部材に係合している状態から離脱させた際に、取り付け部材を、載置部材が係合しているときと同等の形態に支持する支持部材を備えた構成にしてある。この構成に伴って本発明は、変位検出器を正しい位置に容易に設置することができる。これにより本発明は、変位検出器の測定精度を、常に安定した高い測定精度に維持することができ、従来技術では見出せない信頼性の高い変位検出器の設置装置を実現させることができる。
【0019】
また本発明は、少なくとも変位検出器に取り付けられる取り付け部材と、載置部材とに分割することができる。これにより本発明は、持ち運び及び保管が簡単であり、実用性に富む。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明に係る変位検出器の設置装置の一実施形態を示す側面図である。
【図2】本実施形態に備えられる保持手段を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明に係る変位検出器の設置装置の実施の形態を図に基づいて説明する。
【0022】
図1は本発明に係る変位検出器の設置装置の一実施形態を示す側面図、図2は本実施形態に備えられる保持手段を示す斜視図である。本実施形態に係る変位検出器の設置装置は、エレベータに備えられる電磁ブレーキのプランジャのストロークを計測する図1に示す変位検出器5を所定位置に設置するものである。
【0023】
本実施形態は、例えば測定部4からレーザ光の照射が可能な変位検出器5を、その測定部4が電磁ブレーキ1のプランジャ2の表面3に対向するように保持する保持手段を備えている。この保持手段は、変位検出器5に取り付けられる取り付け部材と、プランジャ2の表面3に載置され、取り付け部材に係合部11を介して離脱可能に係合する載置部材とから成っている。また本実施形態は、前述の載置部材を前述の取り付け部材に係合している状態から離脱させた際に、取り付け部材を、載置部材が係合しているときと同等の形態に支持する支持部材を備えている。
【0024】
前述した保持手段の載置部材は、例えばプランジャ2の表面3に当接させた平坦部9と、この平坦部9の一端部から鉛直方向に立設させた立設部10とを含むL字状ブラケット7から成っている。また、前述の取り付け部材は、図1の矢印17で示すプランジャ2の変位方向に沿って延設され、係合部11を介してL字状ブラケット7の立設部10の上に設けられる板状部材6から成っている。
【0025】
板状部材6とL字状ブラケット7との係合部11は、例えばL字状ブラケット7をプランジャ2の表面3に沿う方向に摺動させることが可能な形状部から成っている。例えばこの係合部11は、板状部材6の下端に矢印17方向と直交する方向(図1の紙面と直交する方向)に延設される凸部11aと、L字状ブラケット7の立設部10の上端に矢印17方向と直交する方向(図1の紙面と直交する方向)に延設され、凸部11aに対して摺動可能に係合する凹部11bとから成っている。
【0026】
また、L字状ブラケット7の平坦部9には、矢印17で示すプランジャ2の変位方向に沿って形成され、変位検出器5の測定部4から照射されるレーザ光を矢印18で示すようにプランジャ2の表面3に導き、その表面3における反射光を変位検出器5の測定部4に導く貫通穴16を形成してある。
【0027】
前述した支持部材は、板状部材6を支持する屈曲式のスタンド部8から成っている。このスタンド部8は、電磁ブレーキ1の外側ケース12に接着される第1マグネット13と、板状部材6に接着される第2マグネット14と、一端を第1マグネット13に固定され、他端を第2マグネット14に固定され、屈曲可能な支柱部15とを含んでいる。
【0028】
前述のように構成した本実施形態を、プランジャ2の変位距離すなわちストロークを計測するために変位検出器5を設置するに際しては、例えば変位検出器5に取り付けられた板状部材6の凸部11aをL字状ブラケット7の立設部10の凹部11bに係合させた状態で、L字状ブラケット7の平坦部9をプランジャ2の表面3に載置する。この状態でスタンド部8によって板状部材6を支持させる。すなわち、スタンド部8の第1マグネット13を電磁ブレーキ1の外側ケース12に接着させ、支柱部15を適宜屈曲させて第2マグネット14を板状部材6に接着させる。これにより変位検出器5は正しい位置に設置される。
【0029】
なお、この状態において、変位検出器5の測定部4からレーザ光をL字状ブラケット7の平坦部9の貫通穴16に向かって照射した際に、プランジャ2の表面3の反射光が変位検出器5の測定部4で計測されれば、変位検出器5が正しい位置に設置されたことを容易に確認することができる。
【0030】
このような状態において、L字状ブラケット7をプランジャ2の表面3に沿って摺動させることにより、L字状ブラケット7を板状部材6から離脱させることができる。このようにL字状ブラケット7を離脱させることにより、電磁ブレーキ1のプランジャ2は、L字状ブラケット7に干渉することなく、変位検出器5の測定部4に向かって矢印17で示すように変位可能な状態となる。このようにL字状ブラケット7を離脱させた際に、板状部材6はスタンド部8によって、L字状ブラケット7が係合しているときと同等の形態に支持される。
【0031】
このように変位検出器5がプランジャ2の表面3に対して正しい位置に設置された状態において、プランジャ2のストロークが正常な数値であるかどうかを診断するには、例えば電磁ブレーキ1のコイルに通電させない状態において、変位検出器5の測定部4からレーザ光を照射させ、その反射光に応じて変位検出器5の測定部4とプランジャ2の表面3との距離である第1距離を演算する。次に、電磁ブレーキ1のコイルに通電し、電磁ブレーキ1のプランジャ2をストロークさせ、ストロークが完了した時点における変位検出器5の測定部4とプランジャ2の表面3との距離である第2距離を演算する。ここで、求められた第1距離から第2距離を引いた値がプランジャ2の現実のストロークとなる。このようにして求められたプランジャ2の現実のストロークが、正常と見做される値かどうかが判別される。この判別で、異常と見做される場合には、電磁ブレーキ1の交換等の必要な処置が取られることになる。
【0032】
以上のように構成した本実施形態によれば、保持手段を構成する載置部材すなわちL字状ブラケット7、及び取り付け部材すなわち板状部材6と、支持部材を構成するスタンド部8とによって、変位検出器5を正しい位置に容易に設置することができる。これにより、変位検出器5の測定精度を、常に安定した高い測定精度に維持することができ、信頼性の高い変位検出器の設置装置を実現させることができる。
【0033】
また本実施形態は、例えば変位検出器5、及びこの変位検出器5に取り付けられる板状部材6と、L字状ブラケット7と、スタンド部8とに3分割することができる。これにより本実施形態は、持ち運び及び保管が簡単であり、実用性に富む。
【0034】
また本実施形態は、保持手段が、それぞれ形状の単純なL字状ブラケット7と板状部材6から成り、支持部材は製作が比較的容易な屈曲式のスタンド部8から成ることから、この点でも実用性に富む。
【0035】
また、本実施形態は、スタンド部8が、入手しやすい第1マグネット13、第2マグネット14、及び屈曲可能な支柱部15から成ることから、このスタンド部8の製作が容易である。また、このスタンド部8を取り付けるに際しては、第1マグネット13を電磁ブレーキ1の外側ケース12に取り付け、第2マグネット14を板状部材6に取り付ければ済むので、このスタンド部8の取り付けが簡単である。したがって、当該変位検出器の設置装置の組み立て工数を少なく抑えることができる。
【0036】
また本実施形態は、変位検出器5の測定部4をプランジャ2の表面3に対向させた状態で、L字状ブラケット7を板状部材6から離脱させる際には、L字状ブラケットを単にプランジャ2の表面3に沿う方向に摺動させればよいので、このL字状ブラケット7を簡単に離脱させることができる。このことも当該変位検出器の設置装置の組み立て工数を少なく抑えることに貢献する。
【符号の説明】
【0037】
1 電磁ブレーキ
2 プランジャ
3 表面
4 測定部
5 変位検出器
6 板状部材(取り付け部材)〔保持手段〕
7 L字状ブラケット(載置部材)〔保持手段〕
8 スタンド部(支持部材)
9 平坦部
10 立設部
11 係合部
11a 凸部
11b 凹部
12 外側ケース
13 第1マグネット
14 第2マグネット
15 支柱部
16 貫通穴
17 矢印
18 矢印

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コイルに電流を流すことにより変位するエレベータに備えられる電磁ブレーキのプランジャの変位距離を計測する変位検出器を、所定位置に設置する変位検出器の設置装置において、
前記変位検出器を、その測定部が前記プランジャの表面に対向するように保持する保持手段を備え、
前記保持手段は、前記変位検出器に取り付けられる取り付け部材と、前記プランジャの前記表面に載置され、前記取り付け部材に係合部を介して離脱可能に係合する載置部材とから成り、
前記載置部材を前記取り付け部材に係合している状態から離脱させた際に、前記取り付け部材を、前記載置部材が係合しているときと同等の形態に支持する支持部材を備えたことを特徴とする変位検出器の設置装置。
【請求項2】
請求項1に記載の変位検出器の設置装置において、
前記保持手段の前記載置部材は、前記プランジャの前記表面に当接させた平坦部と、この平坦部の一端部から鉛直方向に立設させた立設部とを含むL字状ブラケットから成り、
前記取り付け部材は、前記プランジャの変位方向に沿って延設され、前記係合部を介して前記L字状ブラケットの前記立設部の上に設けられる板状部材から成り、
前記支持部材は、前記保持手段の前記板状部材を支持する屈曲式のスタンド部から成ることを特徴とする変位検出器の設置装置。
【請求項3】
請求項2に記載の変位検出器の設置装置において、
前記スタンド部は、前記電磁ブレーキの外側ケースに接着される第1マグネットと、前記板状部材に接着される第2マグネットと、一端を前記第1マグネットに固定され、他端を前記第2マグネットに固定され、屈曲可能な支柱部とを含むことを特徴とする変位検出器の設置装置。
【請求項4】
請求項3に記載の変位検出器の設置装置において、
前記板状部材と前記L字状ブラケットとの前記係合部は、前記L字状ブラケットを前記プランジャの前記表面に沿う方向に摺動させることが可能な形状部から成ることを特徴とする変位検出器の設置装置。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の変位検出器の設置装置において、
前記変位検出器は、前記測定部からレーザ光の照射が可能なものから成り、
前記載置部材に、前記プランジャの変位方向に沿って形成され、前記変位検出器から照射されるレーザ光を前記プランジャの前記表面に導き、その表面における反射光を前記変位検出器の前記測定部に導く貫通穴を形成したことを特徴とする変位検出器の設置装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−1492(P2013−1492A)
【公開日】平成25年1月7日(2013.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−133409(P2011−133409)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(000232955)株式会社日立ビルシステム (895)
【Fターム(参考)】