説明

変異インテグラーゼを有するレトロ因子

【課題】インテグラーゼ活性を欠損したレトロ因子、当該レトロ因子を含む細胞、レトロ因子によって引き起こされる疾患の発症を予防もしくは遅延させるか、または当該疾患を治療するための医薬組成物、および意図していない対象への感染がなく安全で、かつ簡便な遺伝子サイレンシング法のためのベクターなどを提供する。
【解決手段】遺伝子構造的にレトロウイルスに類似するLTR型レトロトランスポゾン、詳細には、イネいもち病菌(Magnaporthe grisea;Pyricularia griseaまたはPyricularia oryzae)に由来するgypsy型のLTR型レトロトランスポゾン、MAGGYにおいて、インテグラーゼの特定のアミノ酸領域に変異を導入することによってインテグラーゼ活性を欠失した変異体のうち、RNAiを誘導する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、インテグラーゼ活性を欠損したレトロ因子、それらを含む核酸構築物、および当該核酸構築物で形質転換した細胞に関するものである。本発明はさらに、本発明のレトロ因子または当該レトロ因子を有する核酸構築物を含む、レトロ因子によって引き起こされる疾患の発症を予防もしくは遅延するか、または当該疾患を治療するための医薬組成物、ならびに上記レトロ因子または上記核酸構築物を用いた遺伝子サイレンシング法に関する。
【背景技術】
【0002】
RNAi(RNA干渉:RNA interference)は、細胞内に2本鎖RNAが存在することによって配列特異的な遺伝子発現抑制が誘導されることであり、その機構は酵母からヒトに及ぶ広範な生物種で保存されている。RNAi機構はウイルスなどの侵入に対する防御機構として進化してきたとする説が一般的であり、RNAi機構の中間産物であるsiRNAを用いた種々の研究において、レトロウイルスを含む様々なウイルスの増殖抑制効果を示唆する報告がなされている(非特許文献1を参照のこと)。
【0003】
レトロウイルスの中でも、ヒト免疫不全ウイルス(HIV:Human Immunodeficiency Virus)は、マクロファージ、樹状細胞およびCD4 T細胞といった免疫細胞に感染し、これら細胞を破壊することが知られている。これにより被感染者はカリニ肺炎のような日和見感染症に代表される後天性免疫不全症候群(AIDS:Acquired Immunodeficiency Syndrome)と呼ばれる重度の免疫不全状態に陥る。
【0004】
HIV感染症の発症を予防もしくは遅延するか、または当該感染症を治療するための様々な方法が開発されており、いくつかの抗ウイルス剤が臨床において既に用いられている。近年、HIVワクチンについてもその必要性は高まっているが、開発されたワクチンのHIVタイプに対する特異性の問題やHIVの変異頻度の高さから、未だ有効なワクチンの開発には至っていない。
【0005】
一方で、タンパク質の機能解析を目的として特定の遺伝子の発現を抑制する遺伝子サイレンシング(gene silencing)を行うことは研究分野において広く用いられているストラテジーであり、ウイルス感染を利用してRNAiを誘導する手法としては、動物においてアデノ随伴ウイルスを用いる手法や、植物においてタバコ ラットル ウイルス(tabacco rattle virus)をベースにしたVIGS法(Virus-Induced Gene Silencing)などが知られている(非特許文献2)。
【0006】
しかし、これらの手法はウイルス感染を利用しているので、感染によって引き起こされる副次的な作用を排除することができずにいる。また、感染性を維持したウイルスを用いる場合、意図しない個体への感染の可能性があり、安全性の問題が指摘されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】ウイルス 第55巻 第1号: pp.1-8, 2005
【非特許文献2】Plant Cell, 27(2): 209-19, 2008
【非特許文献3】Mol Gen Genet, 26;251(6): 665-74, 1996
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の解決課題は、遺伝子操作技術を用いて変異を導入することでインテグラーゼ活性を欠損したレトロ因子を用いて、HIVなどのレトロ因子によって引き起こされる疾患の発症を予防もしくは遅延するか、または当該疾患を治療する上でより有効なワクチンを提供することであった。また、本発明の解決課題は、インテグラーゼ活性を欠損していることによって意図していない対象への感染がなく安全な遺伝子サイレンシング法を提供することにあった。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を重ね、遺伝子構造的にレトロウイルスに類似するLTR型レトロトランスポゾン、詳細には、イネいもち病菌(Magnaporthe grisea;Pyricularia griseaまたはPyricularia oryzae)に由来するgypsy型のLTR型レトロトランスポゾン、MAGGY(非特許文献3)において、インテグラーゼの特定のアミノ酸領域に変異を導入することによってインテグラーゼ活性を欠失した変異体のうち、RNAiを誘導するものを発見した。また、驚くべきことに、レトロウイルスにおいても同様の変異体がRNAiを誘導することを発見し、本発明を完成するに至った。これらのレトロ因子を用いることで、患者のRNAi機構のみならず、免疫系をも介した、HIVなどのレトロ因子によって引き起こされる疾患の発症を予防もしくは遅延するか、または当該疾患を治療することが可能になった。また、これらのレトロ因子を用いることで意図していない対象への感染や新たな転移による遺伝子破壊等がなく安全で、かつ使用するベクターの構築に一度のクローニングしか必要としない簡便な遺伝子サイレンシング法が可能になった。
【0010】
すなわち、本発明は下記に関するものである:
(1)インテグラーゼ活性を欠損したレトロ因子;
(2)インテグラーゼの触媒活性中心領域において変異が生じているものである、(1)に記載のレトロ因子;
(3)インテグラーゼ活性を欠損したLTR型レトロトランスポゾン;
(4)前記LTR型レトロトランスポゾンがgypsy型である、(3)に記載のLTR型レトロトランスポゾン;
(5)前記LTR型レトロトランスポゾンがイネ科植物いもち病菌由来である、(3)または(4)に記載のLTR型レトロトランスポゾン;
(6)インテグラーゼの触媒活性中心領域において変異が生じている、(3)〜(5)のいずれかに記載のLTR型レトロトランスポゾン;
(7)インテグラーゼのアミノ酸配列において、前記LTR型レトロトランスポゾンをコードするヌクレオチド配列(配列番号1)の4284〜4286番目に対応するアミノ酸位置、4464〜4466番目に対応するアミノ酸位置および4572〜4574番目に対応するアミノ酸位置の少なくとも1つにて欠失、置換または付加が生じているものである、(6)に記載のLTR型レトロトランスポゾン;
(8)(3)〜(7)のいずれかに記載のLTR型レトロトランスポゾンをコードするヌクレオチド配列を有する核酸構築物;
(9)(8)に記載の核酸構築物で形質転換した細胞;
(10)(8)に記載の核酸構築物を用いた遺伝子サイレンシング法;
(11)インテグラーゼ活性を欠損したレトロウイルス;
(12)前記レトロウイルスがヒト免疫不全ウイルス(HIV:Human Immunodeficiency Virus)である、(11)に記載のレトロウイルス;
(13)前記レトロウイルスがHIV−1である、(12)に記載のレトロウイルス;
(14)インテグラーゼの触媒活性中心領域において変異が生じている、(11)〜(13)のいずれか1項に記載のレトロウイルス;
(15)インテグラーゼのアミノ酸配列(配列番号3)において、64番目のアミノ酸位置、116番目のアミノ酸位置および152番目のアミノ酸位置の少なくとも1つにて欠失、置換または付加が生じているものである、(14)に記載のレトロウイルス;
(16)(11)〜(15)のいずれかに記載のレトロウイルスを感染させた細胞;
(17)(11)〜(15)のいずれかに記載のレトロウイルスを用いた遺伝子サイレンシング法。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、RNAi機構のみならず、免疫系をも介した、HIVなどのレトロ因子によって引き起こされる疾患の発症を予防もしくは遅延するか、または当該疾患を治療する上でより有効性の高い医薬組成物が提供される。また、意図していない対象への感染や新たな転移による遺伝子破壊等がなく安全で、かつ簡便な遺伝子サイレンシング法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、MAGGYおよびその変異体の遺伝子構造を示す。
【図2】図2は、MAGGY変異体のRNAi誘導能を示す。各変異体について、複数の株から得られた結果を示している。
【図3】図3Aは、各株におけるMAGGYが有する保存アミノ酸およびそれらに対して導入した変異を示す。図3Bは、MAGGYアミノ酸置換体のRNAi誘導能を示す。各変異体について、複数の株から得られた結果を示している。
【図4】図4は、MAGGYのコピー数とRNAi誘導能の関係を示す。各変異体のレーンについて、複数の株から得られた結果を示している。
【図5】図5は、細胞内でのMAGGYに由来するmRNAの蓄積を示す。各変異体について、複数の株から得られた結果を示している。
【図6】図6は、HIVアミノ酸置換体のRNAi誘導能を示す。
【発明を実施するための形態】
【0013】
すなわち、本発明は、第1の態様において、インテグラーゼ活性を欠損したレトロ因子に関する。本発明のレトロ因子は、その両端に同方向反復配列(LTR:Long Terminal Repeat)を有し、LTR領域に存在するプロモーターの活性により転写され、RNA中間体から逆転写された後にインテグラーゼによってゲノムDNAに挿入される転移因子であればよい。本発明のレトロ因子としては、例えば、LTR型レトロトランスポゾン、およびエンベロープタンパク質をコードするenv遺伝子をさらに有するレトロウイルスが挙げられる。また、本発明のレトロ因子は、逆転写酵素によって合成されたヌクレオチド配列を宿主ゲノムに組込む活性が欠損したものであればいずれでもよい。例えば、インテグラーゼのZnフィンガー領域、触媒活性中心領域、または非特異的DNA結合領域のいずれかに変異が生じていてもよいが、好ましくは、インテグラーゼの触媒活性中心領域にて変異が生じているものである。
【0014】
なお、本発明のレトロ因子は、DNA上にコードされている形態、および転移中間体としてRNA上にコードされている形態またはウイルス粒子形態のいずれでもよい。
【0015】
また、本発明のレトロ因子がコードするインテグラーゼは、逆転写酵素によって合成したヌクレオチド配列を宿主ゲノムに組込む活性が欠損したものであればいずれでもよい。
【0016】
本発明は、第2の態様において、インテグラーゼ活性を欠損したLTR型レトロトランスポゾンに関する。LTR型レトロトランスポゾンは、逆転写酵素のほかにRNaseH、インテグラーゼをコードするが、それぞれをコードするヌクレオチド配列上のドメインの配置によってgypsy型またはcopia型に分類される。gypsy型のLTR型レトロトランスポゾンとしては、ショウジョウバエのgypsy因子、出芽酵母のTy3が挙げられる。また、copia型のLTR型レトロトランスポゾンとしては、ショウジョウバエのcopia因子、出芽酵母のTy1が挙げられる。本発明のLTR型レトロトランスポゾンは、gypsy型およびcopia型のいずれのLTR型レトロトランスポゾンでもよいが、好ましくはgypsy型のLTR型レトロトランスポゾンである。また、本発明のレトロトランスポゾンはいずれの生物種に由来してもよいが、好ましくはいもち病菌由来であって、より好ましくはイネいもち病菌由来である。最も好ましくは、本発明のレトロトランスポゾンは、イネいもち病菌に由来する、gypsy型のLTR型レトロトランスポゾンであって、例えば、配列番号1で示すヌクレオチド配列によってコードされるMAGGYである。
【0017】
本発明のLTR型レトロトランスポゾンは、逆転写酵素によって合成されたヌクレオチド配列を宿主ゲノムに組込む活性が欠損したものであればいずれでもよい。例えば、インテグラーゼのZnフィンガー領域、触媒活性中心領域、または非特異的DNA結合領域のいずれかに変異が生じていてもよいが、好ましくは、インテグラーゼの触媒活性中心領域にて変異が生じているものである。例えば、上記MAGGYがコードするインテグラーゼのアミノ酸配列において、上記MAGGYをコードするヌクレオチド配列(配列番号1)の4284〜4286番目に対応するアミノ酸位置(Asp)、4464〜4466番目に対応するアミノ酸位置(Asp)および4572〜4574番目に対応するアミノ酸位置(Glu)の少なくとも1つにて欠失、置換または付加が生じているLTR型レトロトランスポゾンであってもよく、好ましくは4464〜4466番目に対応するアミノ酸位置(Asp)および/または4572〜4574番目に対応するアミノ酸位置(Glu)にて欠失、置換または付加が生じているLTR型レトロトランスポゾンであるが、これらに限定されるものではない。上記アミノ酸位置での置換は、いずれのアミノ酸残基によるものでもよい。
【0018】
本発明のLTR型レトロトランスポゾンは上記以外の変異体を包含する。すなわち、変異体は上記のアミノ酸位置のほかに変異を生じているものであって、上記と同等の機能を有するものである。例えば、1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、さらに好ましくは4個、さらに好ましくは3個、最も好ましくは2個のヌクレオチドが欠失、置換もしくは付加されたヌクレオチド配列を有するLTR型レトロトランスポゾンであってもよい。あるいは、変異体は、一般に、上記MAGGYと少なくとも50%の相同性を有するヌクレオチド配列を有するレトロトランスポゾンであってもよく、好ましくは60%、より好ましくは70%、さらに好ましくは80%、もっとも好ましくは90%以上(例えば、90%、95%、97%、98%または99%など)の相同性を有するヌクレオチド配列を有するレトロトランスポゾンであってもよい。
【0019】
上記のようなヌクレオチド配列の相同性は、例えば、FASTA、BLAST、DNASIS(日立ソフトウェアエンジニアリング(株)製)、GENETYX((株)ジェネティクス製)を用いて測定することができる。
【0020】
あるいは、前記変異体は、変異していないヌクレオチド配列にストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るヌクレオチド配列を有するレトロトランスポゾンであってもよい。上記ストリンジェントな条件とは、ハイブリダイゼーションおよび/またはハイブリダイゼーション後の洗浄に用いる溶液の組成、温度などによって決定され得る条件であって、当業者によって適宜設定され得る。例えば、J. Sambrook et al.,“Molecular Cloning: A Laboratory Manual, Second Edition”, 1989, Cold Spring Harbor Laboratory Pressに記載されるような条件が挙げられる。例えば、6×SSC、5×デンハルト溶液(Denhardt's solution)、0.5% SDS、100μg/ml変性サケ精子DNAを含む溶液中、50℃、より好ましくは68℃にてプローブとハイブリダイズさせた後で、2×SSC、0.1% SDSの溶液中で室温にて洗浄してもよいが、ストリンジェンシーを増大させるために、好ましくは0.1×SSC、0.5%SDSの溶液中で68℃にて洗浄してもよい。あるいは、ハイブリダイズさせた後で、65℃で、2×SSPE(Frederick M. Ausubel et al., “Current Protocols in Molecular Biology”, 1987, John Wiley & Sons, Hoboken NJ.に記載)および0.1% SDSを含む溶液中で15分を2回、次いで0.5×SSPEおよび0.1% SDSを含む溶液中でさらに15分を2回、さらに0.1×SSPEおよび0.1% SDSを含む溶液中で15分を2回洗浄してもよく、ストリンジェンシーを増大させるために、好ましくは、65℃で、2×SSPE、0.1% SDSおよびホルムアミド(5〜50%)を含む溶液中で15分を2回、0.5×SSPE、0.1% SDSおよびホルムアミド(5〜50%)を含む溶液中でさらに15分を2回、次いで0.1×SSPE、0.1% SDSおよびホルムアミド(5〜50%)を含む溶液中で15分を2回洗浄を行ってもよい。
【0021】
本発明は、第3の態様において、本発明のレトロトランスポゾンをコードするヌクレオチド配列を含む核酸構築物、および本発明のレトロトランスポゾンをコードするヌクレオチド配列を含む核酸フラグメントまたは当該核酸構築物で形質転換した細胞に関する。本発明の核酸構築物を作製するために、いかなるベクターまたはプラスミドを使用してもよく、例えば、pBluescript SK II(+)、pUC19およびpBR322などが挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、本発明のレトロトランスポゾンは、遺伝子サイレンシング法にて使用するために、所望のヌクレオチド配列をさらに有してもよい。例えば、特定の遺伝子のセンス鎖またはアンチセンス鎖をコードするヌクレオチド配列を有してもよい。これらの所望のヌクレオチド配列は、所望の遺伝子サイレンシング効果が得られる限り、LTR型レトロトランスポゾンをコードするヌクレオチド配列上であればいずれの部位に存在してもでもよい。上記MAGGYをコードするヌクレオチド配列において、ORF2領域と3’UTR領域との間の非翻訳領域(UTR)であってもよく、例えば、配列番号1で示すヌクレオチド配列の5358番目から5385番目の間であってもよい。
【0022】
さらに、本発明の細胞は、例えば、大腸菌、植物細胞などの宿主細胞を上記フラグメントまたは核酸構築物を用いて形質転換することにより製造することができる。核酸構築物を用いた細胞の形質転換には、当該分野において既知の方法を使用すればよい。例えば、上記フラグメントまたは核酸構築物を細胞に直接導入する種々の物理的方法および化学的方法であってもよい。例えば、物理的方法としては、エレクトロポレーション法、パーティクルガン法やマイクロインジェクション法が挙げられ、化学的方法としては、ポリエチレングリコールを用いる方法が挙げられるが、これらに限定されるものではない。また、形質転換細胞の選抜、および所望の細胞の獲得には、当該分野において既知の方法を用いてもよい。また、形質転換細胞の選抜のために、当該核酸構築物は選択マーカーをさらに含むか、当該核酸構築物とは別の、選択マーカーを有するベクターで細胞を同時形質転換してもよい。本発明で使用し得る選択マーカーとしては、ハイグロマイシンB、ジェネティシン(G418)、およびベノミルやピリチアミンなどが挙げられる。
【0023】
なお、本発明のレトロトランスポゾンは、DNA上にコードされている形態、転移中間体としてRNA上にコードされる形態のいずれでもよい。
【0024】
本発明は、第4の態様において、上記核酸構築物を用いた遺伝子サイレンシング法に関する。所望のヌクレオチド配列を有する本発明のレトロトランスポゾンを目的の細胞に導入すればよく、目的の細胞は、いずれの生物種由来のものでもよい。上記核酸構築物の細胞への導入には、当該分野において既知の方法を使用すればよい。
【0025】
本発明は、第5の態様において、インテグラーゼ活性を欠損したレトロウイルスに関する。本発明のレトロウイルスは、ゲノムRNAをDNAに変換する生活環を有し、かつゲノムRNA中に逆転写酵素をコードしているものであればいずれでもよい。例えば、本発明のレトロウイルスとしては、RNAガンウイルスのほかに、スプマウイルス属およびレンチウイルス属レトロウイルスが挙げられるが、これらに限定されるものではない。RNAガンウイルスとしては、ラウス肉腫ウイルス(RSV:Rous Sarcoma Virus)、トリ白血病ウイルス(ALV:Avian Leukosis Virus)、マウス白血病ウイルス(MLV:Murine Lekemia Virus)、マウス肉腫ウイルス(H−MSV:Harvey Murine Sarcoma Virus)、マウス乳癌ウイルス(MMTV:Mouse Mammary Tumor Virus)、ヒトT細胞白血病ウイルス(HTLV:Human T cell Leukemia Virus)、ウシ白血病ウイルス(Bovine Leukemia Virus)などが挙げられる。スプマウイルス属ウイルスとしては、チンパンジー泡沫状ウイルスなどが挙げられる。また、レンチウイルス属レトロウイルスとしては、HIV、ネコ免疫不全ウイルス(FIV:Feline Immunodeficiency Virus)、サル免疫不全ウイルス(SIV:Simmian Immunodeficiency Virus)、ウマ免疫不全ウイルス(EIV:Equine Immunodeficiency Virus)、およびウシ免疫不全ウイルス(BIV:Bovine Imuunodeficiency Virus)などが挙げられる。好ましくは、本発明のレトロウイルはレンチウイルス属レトロウイルスであって、より好ましくはHIVである。さらに、HIVはHIV−1およびHIV−2のいずれでもよいが、より好ましくはHIV−1であって、さらに好ましくは配列番号2で示すヌクレオチド配列を有するHIV−1 NY5/BRU(LAV−1)組換えクローンpNL4−3(Human immunodeficiency virus type 1, NY5/BRU (LAV-1) recombinant clone pNL4-3)株である。
【0026】
さらに、本発明のレトロウイルスは、逆転写酵素によって合成されたヌクレオチド配列を宿主ゲノムに組込む活性が欠損したものであればいずれでもよい。例えば、インテグラーゼのZnフィンガー領域、触媒活性中心領域、または非特異的DNA結合領域のいずれかに変異が生じていてもよいが、好ましくは、インテグラーゼの触媒活性中心領域に変異が生じているものである。上記HIV−1 NY5/BRU(LAV−1)組換えクローンpNL4−3株がコードするインテグラーゼのアミノ酸配列(配列番号3)において、64番目のアミノ酸位置(Asp)、116番目のアミノ酸位置(Asp)および152番目のアミノ酸位置(Glu)の少なくとも1つにて欠失、置換または付加が生じているレトロウイルスであってもよく、好ましくは、116番目のアミノ酸位置(Asp)および/または152番目のアミノ酸位置(Glu)にて欠失、置換または付加が生じているレトロウイルスでもよいが、これらに限定されるものではない。上記アミノ酸位置の置換は、いずれのアミノ酸残基によるものでもよい。
【0027】
本発明のレトロウイルスは上記以外の変異体を包含する。すなわち、変異体は上記のアミノ酸位置のほかに変異を生じているものであって、上記と同等の機能を有するものである。例えば、1〜30個、好ましくは1〜20個、より好ましくは1〜10個、さらに好ましくは1〜5個、さらに好ましくは4個、さらに好ましくは3個、最も好ましくは2個のヌクレオチドが欠失、置換もしくは付加されたヌクレオチド配列によってコードされるレトロウイルスであってもよい。あるいは、変異体は、一般に、上記HIV−1 NY5/BRU(LAV−1)組換えクローンpNL4−3株をコードするヌクレオチド配列と少なくとも50%の相同性を有するヌクレオチド配列を有するレトロウイルスであってもよく、好ましくは60%、より好ましくは70%、さらに好ましくは80%、もっとも好ましくは90%以上(例えば、90%、95%、97%、98%または99%など)の相同性を有するヌクレオチド配列によってコードされるレトロウイルスであってもよい。あるいは、変異体は、変異していないヌクレオチド配列に上記ストリンジェントな条件下でハイブリダイズし得るヌクレオチド配列によってコードされるレトロウイルスであってもよい。
【0028】
また、本発明のレトロウイルスは、遺伝子サイレンシングで使用するために、所望のヌクレオチド配列をさらに有してもよい。例えば、目的の遺伝子のセンス鎖またはアンチセンス鎖をコードするヌクレオチド配列を有していてもよい。これらの所望のヌクレオチド配列は、所望の遺伝子サイレンシング効果が得られる限り、レトロウイルスをコードするヌクレオチド配列上であればいずれの部位に存在してもよい。例えば、配列番号2で示すヌクレオチド配列の5097番目から6220番目の間に存在してもよい。あるいは、所望の遺伝子サイレンシング効果が得られる限り、レトロウイルスが有する、例えば、env遺伝子またはnef遺伝子配列などを上記ヌクレオチド配列で作動可能に置換してもよい。
【0029】
なお、本発明のレトロウイルスは、宿主のゲノムDNA上にコードされている形態、ウイルス粒子状の形態のいずれでもよい。
【0030】
本発明は、第6の態様において、本発明のレトロウイルスを感染させた細胞に関する。本発明の細胞は、例えば、大腸菌、酵母、昆虫細胞、動物細胞などの宿主細胞を上記レトロウイルスに感染させることによって製造することができる。レトロウイルスの細胞への感染には、当該分野において既知の方法を使用すればよい。また、レトロウイルスに感染した細胞の選抜、および所望の細胞の取得には、公知の方法を用いてもよい。
【0031】
本発明は、第7の態様において、本発明のレトロ因子を含む、レトロ因子によって引き起こされる疾患の発症を予防、遅延、および治療するための医薬組成物に関する。レトロ因子によって引き起こされる疾患としては、ヒトでは、HTLVによるHTLV関連脊髄症(HAM:HTLV Associated Myelopathy)、HIVによるAIDSなどが挙げられる。
【0032】
本発明は、第8の態様において、上記レトロウイルスを用いた遺伝子サイレンシング法に関する。所望のヌクレオチド配列を有する本発明のレトロウイルスを目的の細胞に感染させればよく、目的の細胞は、いずれの生物種由来のものでもよい。レトロウイルスの細胞への感染には、当該分野において既知の方法を使用すればよい。
【0033】
以下に実施例を示して本発明を具体的かつ詳細に説明するが、実施例は本発明を限定するものと解してはならない。
【実施例1】
【0034】
変異を導入したMAGGYのRNAi誘導能の検証
(1)MAGGYおよびその変異体を含むプラスミドの作製
MAGGYの全長を含むプラスミドpMGY70(Genetics,153, 693-703, 1999)を制限酵素SalIおよびStuIによって切断し、セルフライゲーションさせて、MAGGYのgag遺伝子内部をコードする領域(配列番号1で示すヌクレオチド配列の539番目から888番目)を欠失させて、GAG変異体(pMGY-ΔGAG)を作製した。上記pMGY70を制限酵素EcoRVによって切断し、セルフライゲーションさせ、MAGGYの逆転写酵素内部をコードする領域(配列番号1で示すヌクレオチド配列の2241番目から2753番目)を欠失させて、RT変異体(pMGY-ΔRT)を作製した。上記pMGY70を制限酵素EcoE65Iによって切断し、T4 DNAポリメラーゼで処理し、セルフライゲーションさせて5塩基対を挿入し、MAGGYのインテグラーゼのN末端側をコードする領域(配列番号1で示すヌクレオチド配列の4093番目)にてフレームシフトを生じさせ、インテグラーゼの読み枠の途中で終止コドンを有するINT変異体(pMGY-ΔINT)を作製した。QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene社)を用いて、MAGGYがコードするインテグラーゼC末端側のクロモドメインモチーフをコードする領域中のチミン(配列番号1で示すヌクレオチド配列の5244番目)をグアニンに置換して、T5244G変異体(pMGY-T5244G)を作製した。
【0035】
(2)形質転換体の作製および検証
MAGGY因子を保有しないイネ科植物いもち病菌株(Br48)を、CM液体培地(0.3%カザミノ酸、0.3%酵母エキス、0.5%スクロース)にて、26℃、5日間培養した。培養した液体培地を4層のガーゼによって濾過した。得られた菌体を10mg/mlのLyzing enzyme(Sigma社)を含むSTCバッファー(1M ソルビトール、50mM Tris−HCl(pH8.0)、50mM CaCl)にて3時間振盪し、いもち病菌をプロトプラスト化した。菌体処理液を4層のガーゼで濾過し、濾液としてプロトプラストを回収した。回収した菌体を遠心分離(2,000×g、5分間)し、STCバッファーを用いて1回洗浄した。氷上にて、得られたプロトプラスト液100μlにMAGGYまたはその変異体を含むプラスミド約5μgを加えた。また、形質転換の選択マーカーとして、ハイグロマイシン耐性遺伝子を発現するプラスミド(pSH75)約5μgを加えた。当該混合物を氷上にて10分静置した。この混合物に、PEG溶液(60%ポリエチレングリコール 3350、50mM Tris−HCl(pH 8.0)、50mM CaCl)100μl、200μl、400μlおよび800μlを懸濁しながら段階的に添加し、氷上にて15分間静置した。遠心分離(2000g、5分間)によってプロトプラストを沈殿させ、回収したプロトプラスト液をSTCバッファー100μlに再懸濁した。
【0036】
得られたプロトプラスト液を、50℃にて温浴したCM培地(1%寒天を含む)と混合した後で、シャーレに注いだ。作製したシャーレを26℃にて一晩培養した後で、500μg/μlのハイグロマイシンを含むCM寒天培地を重層し、さらに3〜4日間、26℃にて培養した。ハイグロマイシンを含んだ培地上に形成された形質転換体のコロニーをCM液体培地にて4〜5日培養した後で、菌体を回収した。回収した菌体を液体窒素の存在下で磨砕し、菌体100mgあたりTri−reagent(Sigma社)1mlを加え、混和した。5分間静置した後で、クロロホルム0.2mlを加えて、ボルテックスで30秒間混合した。遠心分離(10,000g、15分間)した後に、回収した上清にイソプロパノール2mlを加えて、沈殿としてRNAを得た。75%エタノールによって沈殿を洗浄し、乾燥させた後で、30〜50μl程度のDEPC処理水に溶解させた。得られたRNAを17.5%の尿素/アクリルアミド変性ゲルを用いた電気泳動によって分離し、TBEバッファーを使用し、低分子RNAを含むゲルの下半分をトランスブロット装置(Bio−Rad社)によってHybond−Nx(GEヘルスケア社)に転写した。ランダムプライム法で調製した32PラベルのMAGGY用プローブを、UltraHybハイブリ溶液(Ambion社)中にて、42℃で一晩ハイブリダイズさせた。得られたメンブレンを洗浄し、MAGGY配列に由来するsiRNAを検出した。マーカーとして21ntおよび26ntのMAGGY配列を持つオリゴDNAを用いた。
【0037】
(3)検証結果
結果を図2に示す。転移能を欠くpMGY-ΔGAG、pMGY-ΔRTおよびpMGY-ΔINTでは、著しいsiRNA蓄積量の減少が認められており、RNAiの誘導能が失われているか、または大幅に低下していることが示唆された。また、転移効率が著しく低下したpMGY-T5244Gでは、野生株と比べてsiRNA蓄積量がわずかながら減少しているものの、RNAiを誘導することが示された。
【実施例2】
【0038】
変異インテグラーゼを有するMAGGYのRNAi誘導能の検証
(1)MAGGYおよびその変異体を含むプラスミドの作製
QuikChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagene社)を用いて、変異体を作製した。配列番号1に示すヌクレオチド配列の4185番目および4194番目のチミンを、配列番号4および5でそれぞれ示すプライマーを用いてグアニンに置換して、インテグラーゼのN末端領域に存在するZnフィンガー様モチーフの二つのシステインを共にグリシンに置換したΔH2C2変異体を作製した。配列番号1に示すヌクレオチド配列の4464番目のグアニンを、配列番号6および7でそれぞれ示すプライマーを用いてチミジンに置換して、インテグラーゼの活性中心モチーフ中のアスパラギン酸をチロシンに置換したDdE変異体を作製した。配列番号1で示すヌクレオチド配列の4573番目のアデニンを、配列番号8および9でそれぞれ示すプライマーを用いてチミンに置換して、インテグラーゼの活性中心モチーフ中のグルタミン酸をシステインに置換したDDe変異体を作製した。配列番号1で示すヌクレオチド配列のグアニンおよび4573番目のアデニンを、上記変異体の作製に用いたプライマーを用いてそれぞれチミンに置換して、インテグラーゼの活性中心モチーフに存在するアスパラギン酸をチロシンに置換し、かつグルタミン酸をシステインに置換したDde変異体を作製した。
【0039】
(2)形質転換体の作製および検証
実施例1(2)と同様の方法によって、形質転換体を作製し、RNAi誘導能を検証した。
【0040】
(3)検証結果
結果を図3に示す。ΔH2C2変異体においてsiRNA蓄積量が著しく減少しており、RNAiの誘導能が失われているか、または大幅に低下していることが示唆された。インテグラーゼの触媒活性中心領域の変異体であるDdE変異体およびDde変異体では、siRNA蓄積量が低下したものの、RNAiを誘導していることが示された。一方、DDe変異体では野生型と同等のsiRNAの蓄積が認められ、強いRNAi誘導能を保持していることが示された。
【実施例3】
【0041】
変異インテグラーゼを有するMAGGYのコピー数とRNAi誘導能の間の相関の検証
(1)MAGGYおよびその変異体を含むプラスミドの作製
実施例1(1)および実施例2(1)で作製した変異体を用いた。
【0042】
(2)形質転換体の作製および検証
ゲノムDNAの解析は、サザン法によって行った。Plant genomic DNA mini kit(VIOGENE社)を用いて、実施例1(2)で示す方法で培養した菌体からゲノムDNAを抽出し、ゲノムDNA約2μgをEcoRIで37℃、1時間処理した後で、TAE 0.9% アガロースゲル電気泳動を行った。泳動後のゲルに対してアルカリ処理(0.5N NaOH、1.5M NaCl)を施し、次いで中和処理(1M Tris-HCl、pH7.5、1.5M NaCl)を行い、キャピラリートランスファーによって、ゲル中のゲノムDNAをナイロンメンブレン(HYBOND-Nx)に転写した。MAGGY配列の検出は、32PラベルしたMAGGY断片(配列番号1で示すヌクレオチド配列の4660〜5348番目)をプローブとして用いることによって行った。
【0043】
(3)検証結果
結果を図4に示す。ゲノム中の各因子の数は1〜10コピー程度と推定されたが、蓄積されるsiRNAの量、すなわち誘導されるRNAiの強度は、ゲノム中のコピー数とほとんど相関はなかった。むしろ導入された変異体のタイプによって規定されていることが示された。誘起されたRNAiの強度は、図2および3で示すものとほぼ合致するものであった。
【実施例4】
【0044】
細胞内でのMAGGYに由来するmRNAの蓄積の検証
(1)MAGGYおよびその変異体を含むプラスミドの作製
実施例1(1)および実施例2(1)で作製した変異体を用いた。
【0045】
(2)形質転換体の作製および検証
実施例1(2)と同様の方法により形質転換体を作製した。ノーザン法によりMAGGY mRNAの解析を行った。QIAGEN社のRNeasy Plant mini kitを用いて、実施例1(2)で示す方法で培養した菌体から全RNAを抽出した。全RNA約10μgを、ホルムアルデヒド/MOPS変性1%アガロースゲルを用いた電気泳動に供した。キャピラリートランスファーを用いて、泳動後のゲルからナイロンメンブレン(HYBOND-Nx)にRNAを転写した。MAGGY配列の検出は、32PラベルされたMAGGYの断片(配列番号1で示すヌクレオチド配列の4660〜5348番目)をプローブとして用いることによって行った。
【0046】
(3)検証結果
結果を図5に示す。野生株(WT)に比べて、RNAiをほとんど誘起していないpMGY-ΔGAG、pMGY-ΔRTおよびpMGY-ΔINTでは多量のMAGGY mRNAの蓄積が認められた。これらは、RNAiによるmRNAの分解が起こっていないか、またはその程度が軽微であることが原因であると考えられる。一方で、RNAiの誘導が認められたDDe変異体およびDde変異体では、MAGGY mRNAの蓄積量の減少とRNAiの誘導に相関関係が認められた。
【実施例5】
【0047】
変異インテグラーゼを有するHIVのRNAi誘導能の検証
(1)変異インテグラーゼを有するHIV−1の作製
HIV-1の感染性クローン(HIV−1 NY5/BRU(LAV−1)組換えクローンpNL4−3)をコードするヌクレオチド配列を含むプラスミドpNL4-3(J. Virol, 59, 284-291, 1986)由来の4.3kbフラグメントを、pBluescript SK(ストラタジーン社製)にサブクローニングした。塩基置換T7−GEN in vitro mutagenesis kit(Biochemical社製)を用いて、上記プラスミドに変異を導入し、HIV−1インテグラーゼD116G変異体(DdE)を作製した。上記D116G変異体では、HIV-1インテグラーゼの触媒活性中心領域に存在するアスパラギン酸(配列番号3で示すアミノ酸配列の116番目)がグリシンに置換されている。
【0048】
野生型HIV-1またはD116G変異体をコードするプラスミドDNA 1μg、およびマウス白血病ウイルス アンホトロピックエンベロープ発現ベクター(pDJ−1)1μgをリポフェクトアミン(BRL社製)10μlと混合し、30℃にて30分間反応させた。この反応物を293T細胞に加え、トランスフェクションさせた。トランスフェクションを6時間行った後で、10%子牛血清を含むDMEM(Dulbecco's modified Eagle's medium)4mlを加えて、さらに培養した。培養を48時間行った後で、293T細胞から培養液中に放出されたシュードタイプウイルスを含む培養液の上清を回収し、0.45μmのフィルターで濾過した。4μg/mlのDNaseで処理したものを、シュードタイプウイルス液とした。
【0049】
(2)形質転換体の作製および検証
THP-1細胞を50ng/mlのPMA(phorbol 12-myristate 13-acetate)で処理することによってマクロファージ様に分化させた細胞を、1×10細胞あたり20pmoleのDicer1またはDicer2 siRNA、およびコントロールsiRNA(Negative Control Medium GC Duplex(invitrogen社))で処理した。siRNAで処理した細胞を、シュードタイプウイルス液と混合し、37℃で6時間静置し、感染させた。シュードタイプウイルスに感染させたTHP-1細胞をPBSで3回洗浄した後で、培養液に再懸濁した。24時間培養した後で、全ての感染細胞をPBSで3回洗浄し、1×ルシフェラーゼ溶解液(プロメガ社製)200μlを加えて溶解した。この溶解液10μlをluminometer Monolight 2010(カリフォルニア州のサンディエゴのアナリティカル・ルミネッセンス・ラボラトリー社製)を用いるルシフェラーゼアッセイ法に供し、ウイルス遺伝子発現量を測定した。
【0050】
(3)検証結果
結果を図6に示す。野生株では、Dicer1およびDicer2 siRNAの処理によってルシフェラーゼ活性が約2倍に増加した。HIV-1がRNAi誘導し、その結果感染が抑制されていることが示唆された。また、D116G変異体では、Dicer1およびDicer2 siRNAの処理によって、ルシフェラーゼ活性が約20倍、または約10倍それぞれ増高した。D116G変異体もまたRNAiを誘導する能力を保持していることが示された。
【産業上の利用可能性】
【0051】
本発明により、インテグラーゼ活性を欠損したレトロ因子によりRNAiが誘導されるので、レトロ因子によって引き起こされる疾患の発症を予防もしくは遅延させるか、または当該疾患を治療するための医薬組成物の分野において利用可能である。また、意図していない対象への感染、および新たな転移がなく安全で、かつ簡便な遺伝子サイレンシング法の分野においても利用可能である。
【配列表フリーテキスト】
【0052】
SEQ ID NO: 4-9 ; PCR primer.

【特許請求の範囲】
【請求項1】
インテグラーゼ活性を欠損したレトロ因子。
【請求項2】
インテグラーゼの触媒活性中心領域において変異が生じているものである、請求項1に記載のレトロ因子。
【請求項3】
インテグラーゼ活性を欠損したLTR型レトロトランスポゾン。
【請求項4】
前記LTR型レトロトランスポゾンがgypsy型である、請求項3に記載のLTR型レトロトランスポゾン。
【請求項5】
前記LTR型レトロトランスポゾンがイネ科植物いもち病菌由来である、請求項3または4に記載のLTR型レトロトランスポゾン。
【請求項6】
インテグラーゼの触媒活性中心領域において変異が生じている、請求項3〜5のいずれか1項に記載のLTR型レトロトランスポゾン。
【請求項7】
インテグラーゼのアミノ酸配列において、前記LTR型レトロトランスポゾンをコードするヌクレオチド配列(配列番号1)の4284〜4286番目に対応するアミノ酸位置、4464〜4466番目に対応するアミノ酸位置および4572〜4574番目に対応するアミノ酸位置の少なくとも1つにて欠失、置換または付加が生じているものである、請求項6に記載のLTR型レトロトランスポゾン。
【請求項8】
請求項3〜7のいずれか1項に記載のLTR型レトロトランスポゾンをコードするヌクレオチド配列を有する核酸構築物。
【請求項9】
請求項8に記載の核酸構築物で形質転換した細胞。
【請求項10】
請求項8に記載の核酸構築物を用いた遺伝子サイレンシング法。
【請求項11】
インテグラーゼ活性を欠損したレトロウイルス。
【請求項12】
前記レトロウイルスがヒト免疫不全ウイルス(HIV:Human Immunodeficiency Virus)である、請求項11に記載のレトロウイルス。
【請求項13】
前記レトロウイルスがHIV−1である、請求項12に記載のレトロウイルス。
【請求項14】
インテグラーゼの触媒活性中心領域において変異が生じている、請求項11〜13のいずれか1項に記載のレトロウイルス。
【請求項15】
インテグラーゼのアミノ酸配列(配列番号3)において、64番目のアミノ酸位置、116番目のアミノ酸位置および152番目のアミノ酸位置の少なくとも1つにて欠失、置換または付加が生じているものである、請求項14に記載のレトロウイルス。
【請求項16】
請求項11〜15のいずれか1項に記載のレトロウイルスを感染させた細胞。
【請求項17】
請求項11〜15のいずれか1項に記載のレトロウイルスを用いた遺伝子サイレンシング法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−193779(P2010−193779A)
【公開日】平成22年9月9日(2010.9.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−42405(P2009−42405)
【出願日】平成21年2月25日(2009.2.25)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年9月5日 日本遺伝学会主催の「日本遺伝学会第80回大会」において発表
【出願人】(504150450)国立大学法人神戸大学 (421)
【Fターム(参考)】