説明

変異導入遺伝子およびそれを導入したノックイン非ヒト動物

【課題】遺伝子の標的遺伝子変異が導入された変異導入遺伝子およびその変異導入遺伝子を有するES細胞ならびにノックイン非ヒト動物を提供する。
【解決手段】変異導入DNA配列に変異導入カセットを導入した標的変異導入遺伝子であって、該変異導入DNA配列が、標的組換えベクター由来の長腕領域−短腕領域を含む配列構成からなり;該変異導入カセットが、5’側第1変異lox配列と3’側第1変異lox配列とからなる第1lox配列因子と、該第1lox配列因子に挟まれている変異導入領域とを含む配列構成からなり、かつ、該変異導入領域が、標的変異DNA配列部分とポジティブ選択マーカーカセットとを含む配列構成からなり;該変異導入領域が、標的組換えベクターの標的組換えカセットと、変異導入ベクターの可変式変異導入カセットとのlox特異的組換えにより導入された標的組換え領域である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、変異導入遺伝子およびそれを導入したノックイン非ヒト動物に関する。更に詳細には、この発明は、遺伝子の標的遺伝子変異が導入された変異導入遺伝子およびその変異導入遺伝子を有するES細胞ならびにノックイン非ヒト動物に関するものである。
【背景技術】
【0002】
生物は、遺伝子という遺伝情報を保持する「設計図」によって、その生命を維持するためのあらゆる機能が制御されていると言っても過言ではない。この遺伝子の全ての遺伝情報は、DNA と言われる4塩基からなる塩基対の組合せによって制御されている。この塩基対の組合せに何らかの原因で異変が発生して遺伝子に変異が生じると、その遺伝情報が正常に機能しなくなり、様々な疾患などを発症することになる。
【0003】
例えば、ヒトの疾患の起因や発症などのメカニズムを解明するためには、ヒトの体内でどの遺伝子がかかる疾患の起因や発症などの発現に関与しているかを調べることが重要である。しかしながら、ヒトの生体を利用して疾患の起因や発症などの発現に関与している遺伝子を調べることは不可能であり、またヒトの組織を使用して直接調べることも倫理上問題である。
【0004】
ところが、ヒトを含む動物のゲノム解析が進んだ結果、ヒトゲノムは、マウスなどの実験動物のゲノムと大部分が共通していて、ヒトと類似した生理機能を持っていることが判ってきている。そこで、ヒトの遺伝子変異をマウスなどの実験動物の遺伝子に導入して、その遺伝子変異に関与する遺伝子を発現することができれば、その遺伝子発現による実験動物の生理機能のメカニズムなどを解明することで、ヒトの遺伝子機能を調べることができることになる。当然のことながら、実験動物は、ヒトとは異なる生理機能を有しているので、その動物実験から得られた結果をそのままヒトに応用することはできない。そこで、その動物実験から得られた結果をヒトに応用することができるように、実験動物の内在性遺伝子をヒトの遺伝子に改変して、ヒトの疾患などのメカニズムを解明するための遺伝子改変モデル動物が作出されている。
【0005】
遺伝子改変モデル動物としては、例えば、代謝酵素や受容体などの遺伝子を欠損させたノックアウトマウス等のノックアウト動物、マウスなどの実験動物の内在性遺伝子にヒトの外来遺伝子を導入したノックイン動物などが知られている。現在では、様々な疾患に関わる遺伝子を改変した遺伝子改変モデル動物が作出されている。
【0006】
遺伝子ノックアウト動物は、その本来の特定遺伝子の全部もしくは一部が破壊、欠損、置換などの改変がされて、その遺伝子の発現が抑制され、その機能を発揮できないように作出されたモデル動物である。ノックアウト動物は、その本来の特定遺伝子が改変されて、その変異遺伝子に対応するタンパク質は産生されないことから、その遺伝子および遺伝子産物の機能の調査、あるいは重要性の評価のために非常に有用な実験系である。しかし、ヒトの一般的な遺伝子疾患の大部分は遺伝子全体の欠失ではなく点変異によるアミノ酸置換等に起因するものであり、そのような遺伝子異常のモデルとしてノックアウト動物は適切ではない。
【0007】
一般的なトランスジェニック動物では、変異遺伝子を数kbのコアプロモーター配列の制御下で発現させ、また、変異遺伝子が挿入される染色体上の部位が予測できないため、移入した遺伝子が期待通りに発現しない場合が頻繁に起こり、かかるトランスジェニック動物による遺伝子機能の解析、病態モデル開発の大きな障害になってきた。このようにトランスジェニック動物を使用した動物実験には問題があるとしても、トランスジェニック動物は、短期間で作出でき実験結果を早く評価することができることから、非常に多くの研究に現在利用されている。
【0008】
一方、ノックイン動物においては、その動物が本来内在して持つ正常遺伝子を外来の変異遺伝子で置換することから、その外来遺伝子に由来する変異タンパク質は、その動物に本来内在している正常タンパク質の影響を受けにくいといえる。すなわち、その外来遺伝子についての実験結果は、その外来遺伝子本来の機能に由来しているものと考えられる。
【0009】
また、ノックイン動物は、遺伝子ターゲッテイングを利用してES細胞から作出されることから、外来変異遺伝子を内在性のプロモーター活性で正確に発現させることができるので、目的の動物モデルを確実に作出することができるという利点もある。
【0010】
このことから、遺伝子疾患の病態をより忠実に模倣し突然変異の影響を正しく評価するためには、ノックイン動物がノックアウト動物よりも有利であると言える。ただし、ノックイン動物を作出するには、その作出技術は確立しているものの、その作出手法は煩雑で、作出には1.5〜2年という長期間と、多額の費用を必要とするという問題がある。そこで、ノックイン動物を簡潔にかつ短期間に作出できる手法の開発が要請されている。
【0011】
一方、マウスなどの細胞や遺伝子操作のための最も有用なツールの一つとしてCre-loxPシステムが知られている(非特許文献1−6)。このCre-loxPシステムは、2個のloxP部位に挟まれたDNA配列部分を組換え酵素リコンビナーゼCre(cyclinization recombinase)によって切除することができるシステムである。このCre-loxPシステムの2個のloxP 部位間に外来遺伝子などのDNAを挿入すると、CreリコンビナーゼによるloxP配列の切断・組換え(cyclinization recombination)事象により、その挿入DNAが削除されることになる。
【0012】
そこで、本発明者らは、このような性質を持つCre-loxPシステムを利用して、外来DNAを効率的に導入することができるように、DNAを挟んでいる2個のloxP配列の一方もしくは両方を変異させて、Creリコンビナーゼがそのlox配列を認識できないようにまたは認識し難いようにするとともに、組換えによって2個のlox配列に挟まれている外来DNA配列部位が削除されずに挿入されるように工夫した(例えば、非特許文献6〜8ならびに特許文献1、2参照)。つまり、Creリコンビナーゼは、塩基対を形成するloxPの2本鎖の一方または両方に、センス鎖またはアンチセンス鎖のいずれかに変異を導入した変異型lox配列が存在すれば、その中央部のスペーサ配列を切断・結合することができる。その結果、その2個のlox配列に挟まれていた外来DNA 配列部位が組み換えられて挿入されることになる。
【0013】
このような変異型loxP配列を利用して、DNAや発光遺伝子等のレポーター遺伝子などの外来遺伝子を導入したトラップベクター(例えば、特許文献1参照)と共に、かかるトラップベクターを導入したノックアウト動物を作出する手法(例えば、特許文献2参照)が考案されている。また、変異型loxP配列であるlox71配列を導入したアクセプターベクターと別の変異型loxP配列であるlox66配列を導入したドナーベクターの変異lox配列同士、またアクセプターベクターとドナーベクターのloxP配列同士がCreリコンビナーゼによる組換えにより、ドナーベクターのlox66配列とloxP配列との間に導入した外来DNAをゲノムに安定的に挿入する技術も考案されている(例えば、特許文献3参照)。
【非特許文献1】Sauer, B., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 85, 5166-5170, 1988
【非特許文献2】Gu, H., et al., Cell, 73, 1155-1164, 1993
【非特許文献3】Araki, K., Imaizumi, K., Oike, Y. and Yamamura, K., J. Biochem. (Tokyo), 122, 977-982, 1997
【非特許文献4】Lakso, M., et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 6232-6236, 1992
【非特許文献5】Rosant, J., et al., Nature Med., 1, 592-594, 1995
【非特許文献6】Araki, K., Araki, M., and Yamamura, K., Nucleic Acids Res., 2002, Vol. 30, No. 19 e103
【非特許文献7】Albert, H., et al., Plant J, 7, 649-659, 1995
【非特許文献8】Araki, K., Araki, M. and Yamamura, K.: Nucleic Acid Res. 25, 868-872, 1997
【特許文献1】国際公開番号WO01/05987A1号公報
【特許文献2】特開2002−345477号公報
【特許文献3】特開2006−333742号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
そこで、本発明者らは、かかる変異型loxP配列を含むCre-loxPシステムを利用して、外来遺伝子として、例えば、疾患に関連する遺伝子を導入してノックイン動物を作出すると共に、その作出するために必要な手法を確立すべく鋭意研究した結果、ノックインマウスを作出するための手法を見出すと共に、そのノックインマウスを作出するために包括的に適用することができる可変式変異導入カセットを見出して、この発明を完成するに至った。さらに、本発明者らは、特にかかるノックインマウスの作出手法ならびに可変式変異導入カセットが、その他のノックイン非ヒト動物の作出に幅広く適用できることも見出した。
【0015】
したがって、この発明は、例えば、てんかん等の疾患関連遺伝子などの遺伝子変異を導入した変異導入遺伝子ならびにその作製方法、その変異導入遺伝子を導入して作製したES細胞ならびにノックイン非ヒト動物、およびその変異導入遺伝子を作製するための遺伝子変異を含んだ可変式変異導入カセットを提供することを目的としている。
【0016】
つまり、この発明は、標的組換えベクターに導入された2個の変異型loxP配列間に挟まれた変異導入の標的である標的組換え遺伝子と、変異導入ベクターに導入された2個の変異型loxP配列間に挟まれた標的変異を導入した標的変異遺伝子とをCre-loxPシステムを利用して相同組換えにより標的組換えベクターに組換え導入して変異導入遺伝子ならびにその作製方法を提供することを目的としている。
【0017】
この発明の別の目的は、標的組換えベクターの変異型loxP配列との間でlox特異的組換えにより組換えられる可変式変異導入カセットであって、その可変式変異導入カセットが、その変異型loxP配列と組変わる変異 lox 配列因子と、この変異lox配列因子に挟まれた変異導入領域とを含む配列構成からなり、かつ、この変異導入領域が、標的変異遺伝子中の標的変異DNA配列部分とポジティブ選択マーカーカセットとを含む配列構成からなっている可変式変異導入カセットを提供することである。
【0018】
この発明の更なる目的は、上記標的組換えベクターをマウスなどの非ヒト動物のES細胞に導入することによって作製された薬剤耐性ES細胞に、変異導入ベクターの標的変異DNA配列部分を、lox特異的組換えにより変異組換えベクター中に組換え導入することによって作製される薬剤耐性ES細胞を提供することである。
【0019】
この発明の更に別の目的は、上記標的変異導入遺伝子を含む薬剤耐性ES細胞を導入したノックイン非ヒト動物、特にノックインマウスを提供することである。
【0020】
ここで、本明細書に使用する用語について説明する。まず、本明細書では、用語「可変式変異導入カセット」およびこれに関連する用語は、所望の標的遺伝子変異を所望の遺伝子の所定部位に導入するためのツールであって、導入可能な遺伝子変異が該遺伝子の種類に関係なく、あらゆる遺伝子の変異を導入可能であるツールを意味している。
【0021】
本明細書で使用する「変異lox配列」という用語は、loxP配列を構成する中央部に位置する8塩基のスペーサー配列を挟んだ5’側逆反復配列および/または3’側逆反復配列のそれぞれ13塩基のうち、その1個もしくは複数個の塩基が別の塩基で置換されている変異lox配列を意味している。また、用語「第1(第2または第3)lox配列因子」は、それぞれのlox配列因子を構成する5’側第1(第2または第3)変異lox配列と3’側第1(第2または第3)変異lox配列のそれぞれの対を意味して使用されている。ここで、「5’側第1(第2または第3)変異lox配列」とは、その第1(第2または第3)lox配列因子で挟まれている DNA配列領域の5’側に位置するそれぞれの変異lox配列を意味している。同様に、「3’側第1(第2または第3)変異lox配列」は、その第1(第2または第3)lox配列因子で挟まれているDNA配列領域の3’側に位置するそれぞれの変異lox配列を意味している。
【0022】
また、「5’側第1変異lox配列」は、その5’側逆反復配列と3’側逆反復配列の両方が変異配列になって、その5’側逆反復配列と3’側逆反復配列の両方の変異配列が5’側第2変異lox配列の5’側逆反復配列と5’側第3変異lox配列の3’側逆反復配列に由来する変異lox配列を表している。一方、「5’側第2変異lox配列」は、その5’側逆反復配列が変異配列である変異lox配列を意味し、「5’側第3変異lox配列」は、その3’側逆反復配列が変異配列である変異lox配列を意味している。さらに、「3’側第1(第2または第3)変異lox配列」は、loxP配列の2個の逆反復配列で挟まれているスペーサ配列の8塩基のうちの1個もしくは複数個の塩基が別の塩基でそれぞれ置換されている変異lox配列を意味している。なお、この発明においては、「3’側第1変異lox配列」、「3’側第2変異lox配列」および「3’側第3変異lox配列」は、いずれも同一であってもよく、あるいは異なっていてもよい。
【0023】
さらに、本明細書で使用する用語「変異DNA配列」およびこれに関連する用語は、例えば、標的遺伝子の変異を有するエクソン部分のcDNA配列もしくはこれに関連するDNA配列または該エクソン部分とその他のエクソン部分の全部もしくは1部を含むcDNA配列もしくはこれに関連する DNA 配列を意味して使用している。
【課題を解決するための手段】
【0024】
上記目的を達成するために、この発明は、
変異導入DNA配列(20)に変異導入カセット(30)を導入した配列構成からなる標的変異導入遺伝子(10)であって、
該変異導入DNA配列(20)が、標的組換えベクター(14)由来の長腕領域(26a)−短腕領域(26b)を含む配列構成からなり;
該変異導入カセット(30)が、5’側第1変異lox配列(32a)と3’側第1変異lox配列(32b)とからなる第1lox配列因子(32)と、該第1lox配列因子に挟まれている変異導入領域(35)とを含む配列構成からなり、かつ、該変異導入領域(35)が、標的変異DNA配列部分(37)とポジティブ選択マーカーカセット(39)とを含む配列構成からなり;
該変異導入領域(35)が、標的組換えベクター(14)の標的組換えカセット(40)と、変異導入ベクター(16)の可変式変異導入カセット(50)とのlox特異的組換えにより導入された標的組換え領域(29)であること;
からなる標的変異導入遺伝子を提供する。
この発明は、その好ましい態様として、上記標的変異導入遺伝子であって、
5’側第1変異lox配列(32a)が、標的組換えベクター(14)の第2lox配列因子(42)の5’側第2変異lox配列(42a)と、変異導入ベクター(16)の第3lox配列因子(52)の5’側第3変異lox配列(52a)とのlox特異的組換えにより組換えられた変異lox配列であること;また、
3’側第1変異lox配列(32b)が、標的組換えベクター(14)の第2lox配列因子(42)の3’側第2変異lox配列(42b)と、変異導入ベクター(16)の第3lox配列因子(52)の3’側第3変異lox配列(52b)とのlox特異的組換えにより組換えられた変異lox配列であることからなる標的変異導入遺伝子を提供する。
【0025】
この発明は、その好ましい態様として、上記標的組換えカセット(40)が、上記5’側第2変異lox配列(42a)と3’側第2変異lox配列(42b)とからなる第2lox配列因子(42)と、上記第2lox配列因子(42)に挟まれている標的組換え遺伝子(12)の標的組換えDNA配列部分(25)とポジティブ選択マーカーカセット(45)とを含む配列構成からなっている標的変異導入遺伝子を提供する。
【0026】
この発明は、その好ましい態様として、上記可変式変異導入カセット(50)が、上記5’側第3変異lox配列(52a)と3’側第3変異lox配列(52b)とからなる第3lox配列因子(52)と第3lox配列因子(52)に挟まれた変異導入領域(35)とを含む配列構成からなっていて、かつ、変異導入領域(35)が、標的変異 DNA 配列部分(37)とポジティブ選択マーカーカセット(39)とを含む配列構成からなっている標的変異導入遺伝子を提供する。
【0027】
この発明は、その好ましい態様として、上記標的変異DNA配列部分(37)が、例えば、ヒトの常染色体優性の良性家族性新生児けいれん(BFNC)関連電位依存性カリウムチャンネルの遺伝子KCNQ2サブユニットなどの標的変異遺伝子(18)の標的変異(例えばY284C またはA306T)を含むエクソン配列(例えば、エキクソン6)部分である標的変異導入遺伝子を提供する。
【0028】
また、この発明は、その別の形態として、上記標的変異導入遺伝子の作製方法であって、第2lox配列因子(42)を含む標的組換えベクター(40)を含む配列構成を持つ標的組換えベクター(14)と、第3lox配列因子(52)を含む可変式変異導入カセット(50)を含む配列構成を持つ変異導入ベクター(16)とを、Creレコンビナーゼシステムを用いて、lox特異的組換えにより、該標的組換えベクター(14)中の標的組換えカセット(40)に含まれる標的組換え領域(29)を、該変異導入ベクター(16)中の該可変式変異導入カセット(50)の変位導入領域(35)と組換えることにより、標的変異DNA配列部分(37)が導入されている標的変異導入遺伝子(10)を作製することからなる標的変異導入遺伝子の作製方法を提供する。
【0029】
この発明は、その好ましい形態として、上記5’側第1変異lox配列(32a)が、標的組換えベクター(14)の第2lox配列因子(42)の5’側第2変異lox配列(42a)と、変異導入ベクター(16)の第3lox配列因子(52)の5’側第3変異lox配列(52a)とのlox特異的組換えにより組換えられた変異lox配列であること;
該3’側第1変異lox配列(32b)が、標的組換えベクター(14)の第2lox配列因子(42)の3’側第2変異lox配列(42b)と、変異導入ベクター(16)の第3lox配列因子(52)の3’側第3変異lox配列(52b)とのlox特異的組換えにより組換えられた変異lox配列であること;
からなる標的変異導入遺伝子の作製方法を提供する。
【0030】
この発明は、その好ましい別の態様として、上記標的組換えカセット(40)が、該5’側第2変異lox配列(42a)と該3’側第2変異lox配列(42b)とからなる第2lox配列因子(42)と、該第2lox配列因子(42)に挟まれている標的組換え遺伝子(12)の標的組換えDNA配列部分(25)とポジティブ選択マーカーカセット(45)とを含む配列構成からなっている標的変異導入遺伝子の作製方法を提供する。
【0031】
この発明は、その好ましい別の態様として、上記可変式変異導入カセット(50)が5’側第3変異lox配列(52a)と3’側第3変異lox配列(52b)とからなる第3lox配列因子(52)と第3lox配列因子(52)に挟まれた変異導入領域(35)とを含む配列構成からなっていて、かつ、変異導入領域(35)が、標的変異DNA配列部分(37)とポジティブ選択マーカーカセット(39)と、を含む配列構成からなっている標的変異導入遺伝子の作製方法を提供する。
【0032】
この発明は、その好ましい態様として、上記標的変異DNA 配列部分(37)が、例えば、ヒトの常染色体優性の良性家族性新生児けいれん(BFNC)関連電位依存性カリウムチャンネルの遺伝子KCNQ2サブユニットなどの標的変異遺伝子(18)の標的変異(例えばY284CまたはA306T)を含むエクソン配列(例えば、エクソン6)部分である標的変異導入遺伝子の作製方法を提供する。
【0033】
さらに、この発明は、その別の形態として、上記5’側第3変異lox配列(52a)と3’側第3変異lox配列(52b)とからなる第3lox配列因子(52)と、第3lox配列因子(52)に挟まれた変異導入領域(35)とを含む配列構成からなっていて、かつ、変異導入領域(35)が、標的変異遺伝子(18)中の標的変異 DNA 配列部分(37)とポジティブ選択マーカーカセット(39)とを含む配列構成からなる可変式変異導入カセット(50)を提供する。
【0034】
この発明は、その別の形態の好ましい態様として、上記標的変異DNA配列部分(37)が、ヒトの常染色体優性の良性家族性新生児けいれん(BFNC)関連電位依存性カリウムチャンネルの遺伝子KCNQ2サブユニットの変異遺伝子部位(例えば、エクソン6配列部位)の遺伝子変異(例えば、Y284C配列またはA306T 配列)である可変式変異導入カセットを提供する。
【0035】
また、この発明は、その別の形態として、上記標的組換えベクターと変異導入ベクターとのlox特異的組換えにより相同組換えられて作製された上記標的変異導入遺伝子(10)が導入されている変異遺伝子導入ES細胞を提供する。
【0036】
さらに、この発明は、その別の形態として、上記標的組換えベクターと変異導入ベクターとのlox特異的組換えにより相同組換えられて作製された上記標的変異導入遺伝子(10)が導入されたノックイン非ヒト動物を提供する。
【0037】
その別の形態によるこの発明の好ましい態様として、例えば、上記標的変異導入遺伝子(10)であるヒトの常染色体優性の良性家族性新生児けいれん(BFNC)関連電位依存性カリウムチャンネルの遺伝子KCNQ2サブユニットの変異遺伝子部位(例えば、エクソン6配列部位)の遺伝子変異(例えば、Y284C配列またはA306T配列)が導入されたノックイン非ヒト動物を提供する。
【発明の効果】
【0038】
この発明は、例えば、てんかんなどの疾患関連遺伝子の標的遺伝子変異が導入された変異導入遺伝子ならびにその作製方法、その変異導入遺伝子を作製するための可変式変異導入カセットおよびその変異導入遺伝子を有するES細胞ならびにノックイン非ヒト動物を作出するために大きな効果を奏することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0039】
この発明は、例えば疾患関連遺伝子の遺伝子変異のDNA配列を相同組換えによりその遺伝子配列塩基の改変(つまり、欠失、追加または置換)して、その遺伝子機能を抑制もしくは欠損した変異導入遺伝子ならびにその作製方法、およびそれを導入したES細胞ならびにかかる細胞を導入して作出したマウスなどのノックイン非ヒト動物に関するものである。
【0040】
以下、この発明に係る標的変異導入遺伝子を図1〜3を参照しながら詳細に説明する。なお、図1は、この発明において、標的変異を導入した目的遺伝子である標的変異導入遺伝子(10)およびその変異を導入する標的変異DNA配列部分(37)を含む変異導入カセット(30)の配列構成を示す模式図である。図2は、標的変異導入遺伝子(10)を作製するための標的組換えベクター(12)ならびに標的組換え DNA 配列部分(25)を含む標的組換えカセット(40)の配列構成を示す模式図である。図3は、標的変異導入遺伝子(10)を作製するための標的組換えベクター(12)と相同組換えをさせる変異導入ベクター(16)ならびに標的変異遺伝子(18)の標的変異 DNA 配列部分(37)を含む可変式変異導入カセット(50)の配列構成を示す模式図である。なお、各図に示す模式図は、この発明を簡潔に説明するための例示に過ぎないものであって、この発明は、これらの図によって制限されるものではないことを十分に理解すべきである。
【0041】
この発明に係る標的変異導入遺伝子は、標的組換えベクター中の標的組換え遺伝子由来の標的組換えDNA配列を、変異導入ベクター中の標的変異遺伝子由来の遺伝子変異を含む標的変異 DNA 配列と、Cre-loxシステムを使用した相同組換えによって組み換えて作製することができる相同組換え体である。
【0042】
図1および3で示すように、この発明による標的変異導入がされた標的変異導入遺伝子(10)の変異導入DNA配列部分(20)は、例えば、第1lox配列因子(32)ならびにこの第1lox 配列因子に挟まれていて、標的変異を有するエクソン配列部分である標的変異DNA配列部分(37)を含む変異導入領域(35)とからなる変異導入カセット(30)と、標的変異を有していないエクソン配列部分ならびにイントロン配列部分と、からなる配列構成を有している。
【0043】
この発明における変異導入カセット(30)の配列構成因子である第1lox配列因子(32)は、上記したように、5’側第1変異lox配列(32a)と3’側第1変異lox配列(32b)とから構成されている。5’側第1変異lox配列(32a)は、後述するように、標的組換えベクター中の第2lox配列因子(42)の5’側第2変異lox配列(42a)と、標的導入ベクターの第3lox配列因子(52)の5’側第3変異lox配列(52a)とのlox特異的組換えにより組換えられた変異lox配列である。他方、第1lox配列因子のもう一方の3’側第1変異lox 配列(32b)は、後述するように、標的組換えベクター中の第2lox配列因子の3’側第2変異lox配列(42b)と、標的導入ベクターの第3lox配列因子の3’側第3変異lox配列(52b)とのlox特異的組換えにより組換えられた変異lox配列である。ただし、この発明においては、3’側変異lox配列はいずれも同一のDNA 配列構成にしているので、3’側第1変異lox配列は、第2lox配列因子の3’側第2変異lox配列と、第3lox配列因子の3’側第3変異lox配列とのlox特異的組換えにより組換えられても同一のDNA 配列を有していることになる。
【0044】
また、変異導入カセット(30)の変異導入領域(35)は、図1に示すように、上記第1lox配列因子(32)に挟まれている、標的変異が導入されているDNA配列部分を含むDNA配列領域であって、標的組換えベクター(14)と変異導入ベクター(16)とのCre−loxシステムのlox特異的組換えによる相同組換えにより導入された標的変異を含むDNA配列を含んでいる。その他、この変異導入領域(35)には、変異導入ベクター(16)の可変式変異導入カセット(50)由来のポジティブ選択マーカーカセット(39)も含まれている。
【0045】
上記のように、この発明の標的変異導入遺伝子(10)の変異導入DNA配列部分(20)は、標的組換えベクター(14)と変異導入ベクター(16)とのCre−loxシステムによる相同組換えによって、標的組換えベクター(14)と変異導入ベクター(16)との5’側変異lox配列同士、ならびにそれらの3’側変異lox配列同士が互いに反応して5’側第1変異lox配列(32a)と3’側第1変異lox配列(32b)に組変わると共に、標的組換えベクター(14)の第2lox配列因子(42)に挟まれていた標的組換え領域(29)が削除されて、変異導入ベクター(16)の第3lox配列因子(52)に挟まれていた変異導入領域のDNA配列部分と置換されることによって作製することができる。なお、上記標的変異導入DNA配列(20)を作製する手法自体は当該技術分野では公知の手法で実施することができる。
【0046】
ここで、特記すべきことは、この発明は、全ての遺伝子に適用することができる包括的な技法であると言えることである。ただし、本明細書では、説明を簡潔にするために、ヒトの常染色体優性の良性家族性新生児けいれん(BFNC)で発見された、電位依存性カリウムチャンネルの遺伝子KCNQ2サブユニットならびにその遺伝子変異であるエクソン6における2種類の遺伝子変異(Y284CおよびA306T)について説明するが、当然のことながら、この発明はこれに一切限定されるものではなく、また下記説明は、この発明の態様を具体的に説明するための例示に過ぎないものと理解すべきである。
【0047】
まず、この発明に係る標的組換えベクターについて簡単に説明する。この発明の標的組換えベクターは、マウスなどの非ヒト動物のES細胞のゲノムDNA中の所定の遺伝子に後からの相同組換えによる変異導入を容易にするためのlox配列因子を導入するベクターであって、目的とする変異を導入することができるように、基盤となるプラスミドに組み込まれる。かかるプラスミドとしては、特に限定されるものではなく、いずれも使用することができ、例えば、pBluescript II SK+、pGEM、pBR322、pUC18、pUC19、pUC118、pUC119等のpUC類、pSP64、pSP65、pSP73等のpSP類、pGEM-3、pGEM-4、pGEM-3Z等のpGEM類などを挙げることができるが、標的組換えベクター構築のために後に挿入されるDNA断片に存在する制限酵素切断部位の種類および配列順序を考慮して適宜選択する必要がある。
【0048】
この発明の標的組換えベクターの構築に用いるゲノムDNA断片は、例えばKCNQ2遺伝子などの標的とする遺伝子のDNA塩基配列情報をゲノムデータベースより入手し、その情報を基にしてマウスバクテリア人工染色体ライブラリー(BAC)クローン等を鋳型として遺伝子の必要な領域をPCRで増幅するか、またはゲノムライブラリーから単離したクローンを用いて作製することができる。このように増幅して得られたKCNQ2遺伝子の塩基配列断片のうち、変異導入の標的部位であるエクソン部分に対して、例えば、5’側長腕領域は約5.5 kb、また3’側短腕領域は約2 kbの部分断片となるように設計する。また、オリゴヌクレオチド対のそれぞれのオリゴヌクレオチドは、当該技術分野で慣用されている方法で作製することができる。なお、相同組換えのための長腕領域ならびに短腕領域を個々に作成することも可能である。
【0049】
より具体的には、図2に示すように、この発明の標的組換えベクター(14)は、その5’-末端側から、例えば、プラスミド由来部分と、ネガティブ選択マーカーカセット(44)と、相同組換えのための長腕領域であるKCNQ2 遺伝子などの遺伝子DNA部分配列(26a)と、第2lox配列因子(42)の5’側第2変異lox配列(42a)と、ポジティブ選択マーカーカセット(39)と、相同組換えのための短腕領域(26b)である遺伝子部分配列と、該ブラスミド由来部分と、ベクター直線化用制限酵素切断部位と、を含むように構築することができる。
【0050】
上記配列構成において、ネガティブ選択マーカーカセット(44)は、例えば、プロモーター配列と、ネガティブ選択マーカー遺伝子と、ポリA付加配列(pA)と、を含む配列因子として構成することができる。ネガティブ選択マーカー遺伝子は、ベクターを細胞に導入した際に、そのベクターがゲノムDNAの標的部位と相同組換えを起こした細胞だけを選択するものであり、かかるマーカー遺伝子としては、例えば、ジフテリア毒素Aフラグメント遺伝子(DT-A)など細胞毒タンパク質を産生する遺伝子や、ヘルペスウイルスチミジンキナーゼ遺伝子(HSV-tk)など毒性物質の代謝を変化させる遺伝子を使用することができる。
【0051】
また、プロモーター配列としては、例えば、Tk遺伝子MC1プロモーター配列などが挙げられ、またポリA付加配列(pA)としては、例えば、ウサギβグロビン遺伝子ポリA付加配列などが挙げられる。また、ジフテリア毒素Aコード領域とポリA付加配列(pA)との間に、SV40 T抗原遺伝子イントロン配列が含まれるように構築するのがよい。
【0052】
このようにネガティブ選択マーカーとしてジフテリア毒素Aコード領域(DT-A)を使用したDT-Aカセットは、例えば、所定のプラスミド pDT/ApA の両側を適切な制限酵素で切断することによって作製することができる。また、このプラスミドは、当該技術分野で公知の方法によって作製することができる。
【0053】
この発明に係る標的組換えベクターの上記配列構成のうち、第2lox配列因子(42)の5’側第2変異lox配列(42a)としては、例えば、lox71配列、またその3’側第2変異lox配列(42b)としてはlox2272配列などを使用することができる。ただし、第2lox配列因子(42)としては、lox71配列とlox2272配列との組合せに特に限定されるものではなく、同等の作用効果を発揮することができる変異lox配列であれば、いずれの変異lox配列でも利用することができる。
【0054】
ここで、5’側第2変異lox配列の1例であるlox71配列は、loxP配列の5’側末端の逆反復配列の塩基配列を変異させた変異型lox配列であり、該逆反復配列の13塩基(ATAACTTCGTATA)のうち5’側の最初の5個の塩基配列をTATTGに変異された配列を持っている。他方3’側第2変異lox配列を構成するlox2272配列は、loxP配列のスペーサ配列を変異させた変異型lox配列であって、その8塩基(GCATACAT)の2番目のCをGに、また7番目のAをTに置換した配列を有している。
【0055】
この発明において使用するlox71配列は、上記lox71配列に相当する34 bpの二本鎖DNAの両末端に、制限酵素切断部位と相補結合可能な突出配列(5'-CTAG-3')を付加した配列構成を有するように設計するのがよい。このような配列構成を持つlox71配列は、例えば、適切なオリゴヌクレオチド対を加熱変性した後徐冷して塩基対合させ、ポリヌクレオチドキナーゼを触媒としてATPをリン酸基供与体として両鎖の5’側末端をリン酸化することによって作製することができる。また、オリゴヌクレオチド対のそれぞれのオリゴヌクレオチドは、当該技術分野で慣用されている方法で作製することができる。
【0056】
上記配列因子のうち、ポジティブ選択マーカーカセット(45)は、例えば、FRT配列と、PGK/薬物耐性遺伝子マーカーカセットと3’側第2変異lox配列としてのlox2272配列と、ポリA付加配列(pA)と、FRT配列と、からなる構成にするのがよい。ここで、PGK/薬物耐性遺伝子マーカーカセットは、PGKプロモーターと、ネオマイシン耐性遺伝子(NeoR)などの薬物耐性遺伝子マーカーとから構成するのがよい。
【0057】
上記ポジティブ選択マーカーカセットの薬物耐性遺伝子マーカーとしては、例えば、ネオマイシン耐性遺伝子(NeoR)を使用するPGK/neoカセットは、例えば、プラスミドp03を鋳型として、所定のオリゴヌクレオチド対を用いたPCRを用いて塩基配列の断片として増幅し、その後両末端に人工的に付加した制限酵素認識部位を切断することによって作製することができる。また、オリゴヌクレオチド対のそれぞれのオリゴヌクレオチドは、当該技術分野で慣用されている方法で作製することができる。
【0058】
上記のような配列構成を有する標的組換えベクターは、例えば、pBluescript II SK+プラスミドを適切な制限酵素で切断し、その切断部位にDT-Aカセット(44)を組み込んだ後に、次に適切な制限酵素で切断し、その切断部位に長腕―短腕断片(26a、26b)を組み込み、つぎにその長腕−短腕断片を適切な制限酵素で切断し、その切断部位(28a、28b)にlox71配列断片を組み込んだ後、長腕領域の所定のエクソン6(25)の末端より約200bp上流側を切断し、その切断部位にPGK/薬物耐性遺伝子マーカーカセットを組み込み、その後pBluescript II SK+由来部分を切断して直鎖化することによって作製することができる。上記のようにして作製した標的組換えベクターは塩基配列の決定により確認することができる。
【0059】
次に、この発明に係る変異導入ベクターについて図3を参照しながら説明する。
【0060】
この変異導入ベクター(16)は、上記標的組換えベクターとのlox特異的組換えにより、上記標的組換えベクター中の標的部位に標的変異 DNA 配列部分(37)を組換え導入するように設計したベクターである。この発明の可変式変異導入カセットは、プラスミドを基盤として作製することができ、そのために使用できるプラスミドベクターとしては、例えば、pBR322、pUC(pUC18、pUC19、pUC118、pUC119等)、pBluescript II、pSP(pSP64、pSP65等)、pGEM(pGEM-3、pGEM-4、pGEM-3Z等)などが挙げられる。
【0061】
この発明の変異導入ベクターの配列構成は、例えば5’側第3変異lox配列(52a)と3’側第3変異lox配列(52b)とからなる第3lox配列因子(52)と、この第3lox配列因子に挟まれた標的変異遺伝子(18)の標的変異を含む標的変異DNA配列部分(37)と、ピューロマイシン耐性遺伝子などのポジテイブ選択マーカーカセット(39)と、から構成されるように設計することができる。より具体的には、この発明の可変式変異導入カセット(50)は、例えば5’側第3変異lox配列−標的変異DNA配列部分−ポジテイブ選択マーカーカセット−FRT配列−3’側第3変異lox配列からなる配列構成に設計することができる。
【0062】
この発明の変異導入ベクターの可変式変異導入カセット(50)は、上記したように、標的変異を有する標的変異遺伝子(18)の標的変異 DNA 配列部分(37)を含む変異導入領域(35)が、その両末端を第3lox配列因子(52)の5’側第3変異lox配列(52a)と3’側第3変異lox配列(52b)で挟まれる配列構成になるように設計するのがよい。この変異導入ベクター(16)の可変式変異導入カセット(50)は、変異を有する遺伝子であれば、いずれに対しても適用することができることから、特に特定の変異遺伝子に限定されるものではない。また、その標的変異DNA配列部分(37)にしても、変異遺伝子の変異遺伝情報を有するならば、いずれのエクソン配列あるいはイントロン配列であってもよく、特定の変異に限定されるものではない。
【0063】
この変異導入ベクターの配列構成のうち、第3変異lox配列因子(52)は、その5’側第3変異lox配列(52a)が、標的組換えベクターの第2変異lox配列(42)の5’側第2変異lox配列(42a)とのlox特異的組換えにより、標的変異導入遺伝子(10)の標的変異導入DNA配列部分(20)中の第1変異lox配列(32)の5’側第1変異lox配列(32a)に組換えられて、標的組換えベクター中に導入されるように設計する。このためには、変異導入ベクター(14)中の第3変異lox配列因子(52)の5’側第3変異lox配列(52a)としては、例えばloxKMR3配列とし、標的組換えベクター(14)中の第2変異lox配列(42)の5’側第2変異lox配列(42a)としては、例えばlox71配列にするのがよい。このloxKMR3配列は、lox71配列とのlox特異的組換えにより、第3変異lox配列因子(52)の5’側第3変異lox配列(52a)としてlox71/KMR3配列に組換えられる。他方、変異導入ベクターの3’側第3変異lox配列は、標的組換えベクターと同一の3’側変異lox配列であるlox2272配列に設計するのがよい。これにより、標的変異導入遺伝子中の変異導入カセット(30)の3’側第1変異lox配列(32b)がlox2272配列のままに構築されるとともに、第1変異lox配列(32)に挟まれた標的変異DNA配列を含む変異導入領域(35)が、標的組換えベクターの標的組換え領域(29)と組換って変異導入DNA配列(20)を含む標的変異導入遺伝子(10)が作製される。
【0064】
ここで、5’側第3変異lox配列としてのloxKMR3配列は、loxP配列の3’側逆反復配列が、その3’側末端から5番目から7番目の3塩基配列(5'-GAA)を3塩基配列(5'-CGG)に置換した変異lox配列である。また、このloxKMR3配列と5’側第2変異lox配列であるlox71配列との組換えにより形成されるlox71/KMR3配列は、その5’側 逆反復配列が5’側第2変異lox配列の5’側 逆反復配列由来であり、またその3’側 逆反復配列が5’側第2変異lox配列の3’側 逆反復配列由来である変異DNA配列構成を有している。
【0065】
この変異導入ベクターの配列構成のうち、ポジテイブ選択マーカーカセット(37)としては、例えば、ピューロマイシン耐性遺伝子カセット(Puroカセット)などを使用することができる。Puroカセットは、例えば、FRT配列と、プロモーター配列と、ピューロマイシン耐性遺伝子(PuroR)配列と、3’側第3変異lox配列と、からなる配列構成になるように設計することができる。Puroカセットは、所定のプラスミドを鋳型とし、適切なオリゴヌクレオチド対を用いたPCRにより 所定の長さの断片として増幅した後、5’末端および3’末端に人工付加された制限酵素認識部位を切断することによって調製することができる。
【0066】
本明細書においては、発明の説明を簡潔にするために、ヒトの常染色体優性の良性家族性新生児けいれん(BFNC)に関連する電位依存性カリウムチャンネルの遺伝子KCNQ2サブユニットのエクソン6部分に存在する遺伝子変異配列部分であるY284CおよびA306Tを例として説明する。
【0067】
遺伝子KCNQ2サブユニットの遺伝子変異Y284Cは、KCNQ2サブユニット(例えば、GenBank/AF033348、GenPept/CA195764)の第284番目チロシン(Y)がシステイン(C)に変異する塩基置換であり、遺伝子変異A306TはKCNQ2サブユニットの第306番目アラニン(A)がスレオニン(T)に変異する塩基塩基である。これらの塩基置換箇所は、KCNQ2ゲノム遺伝子のエクソン6に位置することから、この発明における標的変異DNA配列部分としては、KCNQ2遺伝子のエクソン6領域の当該塩基を置換したものを使用することができる。具体的には配列番号1(遺伝子変異Y284C)および配列番号3(遺伝子変異A306T)に示したDNAである。すなわち配列番号1および3はそれぞれKCNQ2遺伝子のエクソン6領域に相当するが、配列番号1は23番目のAがGに置換しており、その結果としてこの変異塩基配列(配列番号1)は配列番号2のアミノ酸配列をコードしている(配列番号2において、8番目のチロシンがシステインに置換している)。一方、配列番号3は100番目のGがAに置換しており、その結果としてこの塩基置換配列(配列番号3)は配列番号4のアミノ酸配列をコードしている(配列番号4において、34番目のアラニンがスレオニンに置換している)。
【0068】
そこで、この発明に係る可変式変異導入カセット(50)の変異導入領域(35)は、標的変異DNA配列部分(37)として、KCNQ2遺伝子の遺伝子変異Y284CまたはA306Tが存在する変異エクソン6配列部分を含むKCNQ2遺伝子断片になるように設計するのがよい。一方、KCNQ2遺伝子に存在するその他の遺伝子変異を標的にする場合には、エクソン6を含む下流側すべてのエクソンをイントロンを除き連結したcDNA断片に該当する変異を導入し、可変式変異導入カセットを設計するとよい。このことは、同様に、その他の変異遺伝子についても適用することができる。
【0069】
この発明においては、かかる遺伝子変異(Y284C変異またはA306T変異等の遺伝子変異)を含む遺伝子DNA断片は、例えば、マウスKCNQ2遺伝子のエクソン6を含むDNA断片にY284CまたはA306T変異をそれぞれ導入し、さらに 5’末端にloxKMR3配列を付加したものである。
【0070】
例えば、そのエクソン6のY284C変異を含むKCNQ2遺伝子断片は、KCNQ2遺伝子のエクソン6周辺部分を鋳型とし、エクソン6周辺領域増幅・loxKMR3配列導入用−Y284C変異導入用オリゴヌクレオチド対を用いたPCRによりY284Cとなる塩基置換を含む5’側断片および3’側断片をそれぞれ増幅した。これらの2つの断片を、上記エクソン6周辺領域増幅・loxKMR3配列導入用オリゴヌクレオチド対を用いてLigation-independent cloning法およびPCRにより連結・増幅して所定の長さの断片として得ることができる。
【0071】
また、A306T変異を含むKCNQ2遺伝子断片は、上記Y284C変異を含むKCNQ2遺伝子断片と同様にして、下記実施例1で作製したKCNQ2標的組換えベクターのエクソン6周辺部分を鋳型とし、エクソン6周辺領域増幅・loxKMR3 配列導入用−A306T変異導入用オリゴヌクレオチド対を用いたPCRによりA306Tとなる塩基置換を含む5’側断片および3’側断片をそれぞれ増幅した。これらの2つの断片を、上記エクソン6周辺領域増幅・loxKMR3 配列導入用オリゴヌクレオチド対を用いてLigation-independent cloning法およびPCRにより連結・増幅して所定の長さの断片として得ることができる。
【0072】
この発明において、上記のような配列構成を持つ変異導入ベクターは、例えば、制限酵素で切断した適切なプラスミドにPuroカセットを組み込んで、制限酵素で切断した後、その切断部位に上記の変異を含むKCNQ2遺伝子断片をそれぞれ組み込んで構築することができる。
【0073】
この発明において作製された標的組換えベクターは、エレクトロポレーション法などの常法に従ってマウスES細胞へ導入することによって、KCNQ2遺伝子の変異導入可能なアクセプターES細胞に構築することができる。つまり、継代したセミコンフルエント状態のマウスES細胞をトリプシン処理により浮遊状態にし、これに放電することによりDNAの導入を行うことができる。
【0074】
エレクトロポレーションにより標的組換えベクターを導入した細胞のうち、相同組換えが起きた細胞は、そのベクター内にマーカー遺伝子の発現により選択することができる。例えば、マーカー遺伝子が薬剤耐性遺伝子であれば、その細胞をその薬剤の存在下で適当な期間培養することによって選択することができる。つまり、標的組換えベクターを組み込んだ細胞は、例えば、KSR-GMEM培地などの適切な培地に懸濁した後、G418含有培地に交換し培養することにより非組換え細胞および非相同組換え細胞を死滅させてそれらの細胞の除去を行うことができる。
【0075】
上記によりG418含有培地中で生存してコロニーを形成した標的相同組換えES細胞の単離と選別を行うことができる。この標的相同組換えES細胞の単離と選別は、かかるコロニーから標的相同組換えを起こした細胞の候補として単離したES細胞を培養し、それから抽出したDNAを用いてPCRやサザンハイブリダイゼーション法などによって選別することができる。このうち、PCRは、相同組換え検出をするためのNeo耐性遺伝子−短腕領域下流側間増幅用オリゴヌクレオチド対を用いてNeo耐性遺伝子の3’末端部分と標的組換えベクターの短腕領域の3’末端の下流側に隣接するKCNQ2遺伝子の部分配列との間の断片を増幅する反応を行うことによって増幅 DNA 産物を得ることができる。
【0076】
このようにして得られた増幅 DNA 産物を適切な制限酵素で切断し、短腕領域の3’側領域をプローブとしてサザンブロット解析を行って、標的相同組換えによってDNA断片が作製されたことを確認して、このクローンES細胞を、KCNQ2遺伝子に変異導入可能なアクセプターES細胞として凍結保存し、以降の操作に用いるのがよい。
【0077】
この発明においては、このようにして得られたアクセプターES細胞を用いて、変異導入ベクターに含まれる遺伝子変異を、Cre−loxシステムを用いたlox特異的組換えによってKCNQ2遺伝子へ導入することができる。このKCNQ2遺伝子への遺伝子変異導入は、上記アクセプターES細胞株のクローンを用い、そのアクセプターES細胞に、上記変異導入ベクターとCreリコンビナーゼ発現ベクターとを、エレクトロポレーション法などの常法によって導入することによって行うことができる。
【0078】
このようにアクセプターES細胞に変異導入ベクターを組み込むと共に、Creリコンビナーゼ遺伝子をプラスミドに組み込んだCre発現ベクターを感染させることによって、アクセプターES細胞に導入された標的組換えベクターDNA中のlox配列因子に挟まれている標的DNA配列部分が、Cre発現ベクターから発現したCreリコンビナーゼとlox配列因子の相互作用による特異的組換えによってアクセプターES細胞中のKCNQ2遺伝子に導入できる。
【0079】
上記のようにして変異導入ベクターが導入されたアクセプターES細胞のうち、特異的組換えにより変異導入が起きた細胞は、抗生物質耐性により選別することができる。Creによる特異的組換えにより変異導入カセットが導入された細胞では、標的組換えベクターのネオマイシン耐性遺伝子が除去され、その代わりにピューロマイシン耐性遺伝子をもつ。そのため、抗生物質ピューロマイシンを含む適切な培養液中で培養することにより、非組換えの細胞は死滅し、特異的組換えにより変異導入された細胞を選別することができる。生存した細胞コロニーを単離し、さらに培養後、一部からDNAを抽出してPCR法やサザンハイブリダイゼーション法により変異の導入を確定することができる。
【0080】
この発明に係るノックイン非ヒト哺乳動物は、上記のようにして組換えにより標的変異DNA配列部分を挿入したES細胞を、対象動物であるヒト以外の哺乳動物に導入することによって作出することができる。対象動物としては、例えば、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ、イヌ、ネコ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、ウシ、サルなどから選択することができるが、好ましくは、マウス、ラット、モルモット、ハムスター、ウサギ等の齧歯類動物であり、特に好ましくはマウスである。
【0081】
上記のようにして組換えにより標的変異DNA配列部分を挿入したES細胞は、例えば、野生型マウスの胚盤胞または8細胞期の宿主胚に凝集法やマイクロインジュクション法により注入し、胚盤胞期まで発生させた後、これを偽妊娠状態の仮親マウス等の仮親動物の子宮に移植し出産させてキメラ動物を作製することができる。
【0082】
マウスの場合には、FSH様作用を有するPMSGやLH様作用を有するhCG等のホルモン剤により過排卵処理を施した雌マウスを雄マウスと交配させる。受精後適当な時期に胚盤胞または8細胞期胚をそれぞれ子宮や卵管から初期発生胚を回収する。このようにして回収した胚に対して、上記相同組換え ES 細胞をインビトロ(in vitro)において注入し、キメラ胚を作製する。
【0083】
一方、仮親とするための偽妊娠雌マウスは、正常性周期の雌マウスを精管結紮などの処置をした雄マウスと交配することにより作出することができる。作出した偽妊娠マウスに対して、上記の方法により作製したキメラ胚を子宮内移植し、妊娠、出産させることによりキメラマウスを作製することができる。キメラ胚の着床、妊娠がより確実に起こるようにするため、受精卵を採取する雌マウスと仮親となる偽妊娠マウスとを、同一の性周期にある雌マウス群から作出するのが好ましい。
【0084】
上記ES細胞に由来する生殖細胞を持つマウス個体については、このキメラマウスを純系のマウスと交配して、次世代個体に現れるES細胞由来の様々な形質を指標として、そのES細胞がキメラマウス生殖系列に導入されたことを確認することができる。かかる確認の容易さを考慮すると、上記キメラマウスを純系のマウスと交配して得られる次世代個体にES細胞由来の被毛色が現れることから、その次世代個体の被毛色を指標として、ES細胞が生殖系列へ導入されたことを確認することが好ましい。マウスにおいては、野ネズミ色(アグーチ色)、黒色、黄土色、チョコレート色、白色などの被毛色が知られているが、使用するES細胞の由来系統を考慮して、キメラマウスと交配させるマウス系統を適宜選択することがよい。また、体の尾部先端などから DNA を抽出し、サザンブロット解析やPCRアッセイを行うことにより選抜を行うことも可能である。
【0085】
上記のようにして、胚内に移植された組換えES細胞が生殖系列に導入された動物を選択し、そのキメラ動物を繁殖させることにより、目的変異遺伝子が発現した個体を得ることができる。得られたヘテロ接合体マウス同士を交配させることにより、目的変異遺伝子が導入されたホモ接合マウスを得ることができる。作出された変異遺伝子を保有するヘテロ接合体またはホモ接合体は、生殖細胞および体細胞のすべてに安定的にその遺伝子変異を有していることから、交配等により効率よくその変異を子孫動物に伝達することができる。
【0086】
以下、この発明を、実施例により更に詳細に説明する。ただし、下記実施例は、ヒトの常染色体優性の良性家族性新生児けいれん(BFNC)で発見された、電位依存性カリウムチャンネルの遺伝子KCNQ2サブユニットの2種類の遺伝子変異(Y284CおよびA306T)を例にしたものであるが、この発明を具体的に説明するためだけに記載するのであって、この発明を一切限定するためでなく、あくまでもこの発明の具体的説明のための例示に過ぎないことと理解しておくべきである。
【実施例1】
【0087】
(1)標的組換えベクターの配列構成
標的組換えベクターは、その 5’-末端側から、プラスミド由来部分と、ネガティブ選択マーカーカセットと、相同組換えのための長腕領域である KCNQ2 遺伝子部分配列と、5’側lox配列因子としてのlox71配列と、ポジティブ選択マーカーカセットと、相同組換えのための短腕領域である遺伝子部分配列と、該ブラスミド由来部分と、ベクター直線化用制限酵素切断部位と、からなる配列構成からなっている。
【0088】
図2および4に示すように、この標的組換えベクター(pTgKCNQ2)は、pBluescript II SK+プラスミドを基盤として、全長が14,164 bp(配列番号5)のDNA配列を有するように構築した。その配列構成は次の通りであり、プラスミドマップを図4に示す。
【0089】
塩基番号1―673:pBluescript II SK+由来部分
塩基番号674―2301:DT-Aカセット
塩基番号2316 ―7483:KCNQ2遺伝子部分配列(相同組換えのための長腕領域)
塩基番号7484 ―7517:lox71配列
塩基番号8091 ―10138:PGK/Neoカセット
塩基番号10145 ―11939:KCNQ2遺伝子部分配列(相同組換えのための短腕領域)
塩基番号11940 ―14164:pBluescript II SK+由来部分
塩基番号11950 ―11954:制限酵素Sac II切断部位(ベクター直線化用)
(1−1)プラスミド
基盤としたプラスミドpBluescript II SK+は、大腸菌より抽出した閉環状DNA(2,960 bp: Strategene社)を制限酵素Xho IおよびXba Iで切断して直線化した。
(1−2)ネガティブ選択マーカーカセット(DT-Aカセット)
ネガティブ選択マーカーカセットは、MC1プロモーターと、ジフテリア毒素Aコード領域(DT-A)と、ポリA付加配列(pA)とからなる配列構成からなっている。
【0090】
プラスミドpDT/ApA(荒木喜美氏より分与)を5’-側をXho I、また3’-側をSpe Iで切断し、1.6 kbの断片として精製した。
(1−3)KCNQ2遺伝子の相同組換えのための長腕領域ならびに短腕領域
相同組換えのための長腕領域と短腕領域となるKCNQ2遺伝子部分配列は、マウスKCNQ2遺伝子のイントロン2からイントロン7に亘る領域となるように設計した。そして、標的遺伝子であるKCNQ2遺伝子の長腕領域と短腕領域は、KCNQ2遺伝子を含むB6マウスBACクローンRPCI23-401L17を鋳型とし、下記配列を持つ長腕−短腕領域増幅用オリゴヌクレオチド対を用いたPCRにより7.4 kbの断片として増幅した。このうち、長腕領域は5’-側5.6 kbの領域に相当し、また短腕領域は3’-側1.8 kbの領域に相当する。
【0091】
上記長腕−短腕領域増幅用オリゴヌクレオチド対は、配列番号6および7に表わすような下記塩基配列をそれぞれ有するように設計した。
【0092】
配列番号6:
5’-GGGAAGGAGCGGCCGCAGGAAGGGGGTGGAGGGCACTGGACCTG-3’(KQ2-LA5’s)
配列番号7:
5’-GACGGTGCGCGGCCGCCGTGGCAGCCTGGGAAAGGCCAGAAAGAT-3’(KQ2-SA3’a)
なお、上記配列のうち、下線部は制限酵素認識配列を表している。
(1−4)5’側第2変異lox配列因子としてのlox71 配列
5’側第2lox配列因子としてのlox71配列は、loxP配列に相当する34 bpの二本鎖DNAの両末端に、制限酵素Spe I切断部位と相補結合可能な突出配列(5’-CTAG-3’)を付加した配列である。lox71配列は、下記配列を持つlox71配列合成用オリゴヌクレオチド対を、95℃で加熱変性の後室温まで徐冷して塩基対合させ、T4ポリヌクレオチドキナーゼを触媒としてATPをリン酸基供与体として両鎖の5’側末端をリン酸化して調製した。
【0093】
上記に示すlox71配列合成用オリゴヌクレオチド対は、配列番号8および9で示すような下記塩基配列をそれぞれ有するように設計した。
【0094】
配列番号8:
5’-CTAGATAACTTCGTATAATGTATGCTATACGAACGGTA-3’(lox71s)
配列番号9:
5’-CTAGTACCGTTCGTATAGCATACATTATACGAAGTTAT-3’(lox71a)
上記配列のうち、ボツクス内の塩基配列はlox71配列に相当する塩基配列である。
【0095】
(1−5)ポジティブ選択マーカーカセット(Neoカセット)
ポジティブ選択マーカーカセットは、FRT配列と、PGK/薬物耐性遺伝子マーカーカセットと、3’側lox配列因子としてのlox2272配列と、ポリA付加配列(pA)と、FRT配列と、から構成されるように説計した。ここで、薬物耐性遺伝子マーカーとしてはネオマイシン耐性遺伝子(NeoR)を使用した。
【0096】
ポジティブ選択マーカーカセットは、プラスミドp03(荒木喜美氏より分与)を鋳型とし、下記配列をもつNeoカセット増幅用オリゴヌクレオチド対を用いたPCRにより2.1 kbの断片として増幅した。その後、両末端に人工付加した制限酵素認識部位をNhe Iで切断して除去した。
【0097】
Neoカセット増幅用オリゴヌクレオチド対は、配列番号10および11でそれぞれ示すような下記配列を有するように設計した。
【0098】
配列番号10:
5’-TCGAGCTAGCTAATAACTTCGTATAGCATACA-3’(Nh-loxPs)
配列番号11:
5’-GAATGCTAGCTTGCATGCCTGCAGGT-3’(Nh-FRTa)
上記配列のうち、下線部は制限酵素認識配列である。
(2)標的組換えベクターの作製法
実施例(1−1)において制限酵素Xho IとXba Iで切断したプラスミドpBluescript II SK+に、実施例(1−2)で調製したDT-Aカセットを組み込んだ後、これをNot Iで切断し、その切断部位に実施例(1−3)で調製した長腕−短腕領域断片を組み込んだ。さらに、長腕−短腕領域を組み込んだ断片をSpe Iで切断し、その切断部位に実施例(1−4)で調製したlox71断片を組み込んだ。次に、lox71断片を組み込んだ断片の長腕領域のエクソン6の5’ー末端より約200 bp上流側をXba Iで切断し、その切断部位に実施例(1−5)で調製したNeo カセットを組み込んで標的組換えベクターを作製した。標的組換えベクターが作製されていることは、塩基配列の決定により確認した。このようにして作製した標的組換えベクターはES細胞へ導入される。
【実施例2】
【0099】
本実施例は、実施例1で作製した標的組換えベクターとの相同組換えに使用される変異導入ベクターに関するものである。
【0100】
このKCNQ2変異導入ベクター(pMtKCNQ2YCおよびpMtKCNQ2AT)は、アクセプターES細胞のKCNQ2遺伝子に、特異的組換えによりTyr284→CysあるいはAla306→Thrとなるようなヌクレオチド置換を導入するための2種類のベクターである。上記いずれかのヌクレオチド置換を含む570 bpのKCNQ2 遺伝子断片(exon 6およびその前後)の5’末端にloxKMR3配列を、3’末端にピューロマイシン耐性遺伝子(PuroR)およびlox2272配列を配置した。これらのベクターをCreリコンビナーゼ発現ベクターと共にアクセプターES細胞へ導入すると、Creリコンビナーゼの作用により、アクセプターES細胞のKCNQ2遺伝子上に配置されたlox 71-lox2272間の領域が変異KCNQ2配列と高効率で置換される。置換された細胞はピューロマイシン耐性となるため、ポジティブ選択が可能となる。このKCNQ2変異導入ベクター(pMtKCNQ2YCおよびpMtKCNQ2AT)は、いずれも4895 bp(配列番号12)で、配列構成は以下のとおり、またプラスミドマップは図6に示すとおりである。
【0101】
1 - 2243 pBluescript II SK+ 由来部分
2243 - 2277 loxKMR3 配列
2278 - 2847 KCNQ2 遺伝子部分配列(変異を含むexon 6および周辺領域)
2848 - 4243 PGK/Puro カセット
4238 - 4895 pBluescript II SK+ 由来部分
上記KCNQ2遺伝子部分の構成は下記のとおりである。
【0102】
2278 - 2471 intron 5 (3’末端部分)
2472 - 2582 exon 6 (変異を含む)
2583 - 2847 intron 6 (5’末端部分)
2506 変異部位(TAC(Tyr) → TGC(Cys))(pMtKCNQ2YCのみ)
2571 変異部位(GCT(Ala) → ACT(Thr))(pMtKCNQ2ATのみ)
上記PGK/Puroカセットには下記の配列因子が含まれる。
【0103】
2850 - 2949 FRT配列
2966 - 3522 PGK遺伝子 プロモーター領域
3523 - 4122 ピューロマイシン-N-アセチルトランスフェラーゼ コード領域
4204 - 4237 lox2272配列
(2−1)ブラスミド
基盤としたプラスミド(p3T)は、大腸菌より抽出した閉環状DNA(3,003 bp;MoBiTec社) をHind IIIおよびKpn Iで切断して直線化した。
(2−2)ピューロマイシン耐性遺伝子カセット(Puroカセット)
ピューロマイシン耐性遺伝子カセット(Puroカセット)は、FRT配列-PGKプロモーター(PPGK)-ピューロマイシン耐性遺伝子(PuroR)-lox2272配列からなる配列構成になるように設計した。
【0104】
Puroカセットは、プラスミドp04(荒木喜美氏より分与)を鋳型とし、下記オリゴヌクレオチド対を用いたPCRにより1.5 kbの断片として増幅した。その後、5’-および3’-末端に人工付加された制限酵素認識部位をHind IIIおよびKpn Iで切断した。
【0105】
Puroカセット増幅用オリゴヌクレオチド対は、配列番号13および14でそれぞれ示すような下記配列を有するように設計した。
【0106】
配列番号13:
5’-AACAAGCTTCAAAAGCGCTCTGAAGTTCCTAT-3’(Hd-FRTs)
配列番号14:
5’-ATAGGTACCATAACTTCGTATAAAGTATCCTATACGAAGTTA-3’(Kp-lox2272a)
上記配列のうち、下線部は、制限酵素認識配列である。
【実施例3】
【0107】
本実施例は、KCNQ2遺伝子に変異導入可能なアクセプターES細胞の構築に関する。かかるアクセプターES細胞の構築は下記の通りに行った(図7参照)。
【0108】
マウスES細胞をデイッシュ2枚に継代し、セミコンフルエント状態のマウスES細胞(フィーダーフリーKPTU株)をトリプシン処理によりディッシュより剥離しPBSに懸濁して全量1.6 mlとした。これに直線化した実施例1で作製した標的組換えベクター20 μgを加え、10分間氷上で冷却した後、2個のエレクトロポレーション用キュベットに等分して移し、ジーンパルサー(バイオラッド社)を用いて0.8 kV、3.0 μFの条件で1回ずつ放電してDNAの導入を行った。
【0109】
上記のようにして標的組換えベクターをマウスES細胞にエレクトロポレーションでDNAを導入し、標的組換えにより染色体上のKCNQ2遺伝子座に上記配列因子を導入した。かかる配列因子が導入されたマウスES細胞株は、ゲノムDNA中にネオマイシン耐性遺伝子(NeoR)を含む標的組換えベクターが安定的に挿入された細胞のみが生存できるように、ネオマイシン(G418)を含有する培地によってマウスES細胞を培養して選別した。つまり、かかる配列因子が導入されたマウスES細胞株は、エレクトロポレーション後の細胞を KSR-GMEM培地60 mlに懸濁し、6枚のディッシュに等分して培養し、24時間後に200 μg/mlのG418含有培地に交換し、その後2日に1回G418含有培地の交換を行って7日間培養することによって選別した。また、非相同組換え細胞によりKCNQ2遺伝子座以外の位置に標的組換えベクターが挿入された細胞は、長腕領域の外部に配置されたDT-A遺伝子より発現する致死性毒素により排除した。
【0110】
さらに、上記によりG418含有培地中で生存してコロニーを形成したES細胞から相同組換えES細胞の単離と選別を行った。上記のようにしてES細胞をG418含有培地によって選別した結果、合計約500個のES細胞がG418含有培地中で生存しコロニーを形成した。それらの細胞のうち、144個を標的相同組換えを起こした細胞の候補として単離・培養し、それらからDNAを抽出し、その抽出DNAを用いてPCRによる選別を行った。このPCRは、相同組換え検出をするための下記配列を持つNeo耐性遺伝子−短腕領域下流側間増幅用オリゴヌクレオチド対を用いてNeo耐性遺伝子の3’末端部分と標的組換えベクターの短腕領域の3’末端の下流側に隣接するKCNQ2遺伝子の部分配列との間の2.0 kbの断片を増幅する反応を行った。この増幅反応の結果、9個のクローンにおいて増幅産物が確認された。
【0111】
上記Neo耐性遺伝子−短腕領域下流側間増幅用オリゴヌクレオチド対は、配列番号15および16に示すように、下記塩基配列を持つように設計した。
【0112】
配列番号15:
5’-GCAAAACCAAATTCCGGGCCAGCTCATTC-3’(Neo3’s)
配列番号16:
5’-ATTTGTCCTGCTTCAGTGCTGTATTGGGAT-3’(KQ2CA3’a)
一方、これら増幅産物のDNAについて下記配列を持つプライマー対を用いてPCRを行ったところ、増幅産物は確認されなかったことからに、非相同組換えによる標的組換えベクターの挿入は起きていないと判断できた。つまり、これらのDNAを制限酵素BspH Iおよび Bgl IIで切断し、短腕領域3’側領域をプローブとしてサザンブロット解析を行ったところ、9個のクローンすべてにおいて標的相同組換えの場合に予想された3.2 kbのDNA断片が検出された。このことから、これら9クローンES細胞において期待された標的組換えを確認し、KCNQ2遺伝子に変異導入可能なアクセプターES細胞として凍結保存し、以降の操作に用いた。
【0113】
非相同組換え検出のためのDT-A遺伝子−長腕上流側間増幅用プライマー対は、配列番号17および18で示すように下記配列を有するように設計した。
【0114】
配列番号17:5’-CCTGTGCAGGAAATCGTGTCAGGGCG-3’(DT-A3’s)
配列番号18:5’-TTCTCTTCCAGCTGGATCGGGGTGC-3’(KQ2LA5’a)
エクソン6周辺領域増幅・loxKMR3配列導入用プライマー対は、配列番号19および20で示すように下記配列を有するように設計した。
【0115】
配列番号19:
5’-TAGGATCCATAACTTCGTATAGCATACATTATACCTTGTTATCTAGTA-3’(BH-KMR/E6s)
配列番号20:
5’-GATAAGCTTAGAATCATTCAGATGGGAAAGCCACA-3’(Hd-E6a)
上記配列において、下線部は制限酵素認識配列、ボックスはloxKMR3配列、ゴシック文字は変異置換部位を示す。
【0116】
Y284C変異導入用プライマー対は、配列番号21および22で示すように下記配列を有するように設計した。
【0117】
配列番号21:
5’-CGACCATTGGCTACGGGGACAAGTGCCCTCA-3’(Y284Cs)
配列番号22:
5’-GCCTCCCGTTCCAGGTCTGAGGGCACTTGT-3’(Y284Ca)
A306A変異導入用プライマー対は、配列番号23および24で示すように下記配列を有するように設計した。
【0118】
配列番号23:
5’-CCCTCATTGGTGTCTCGTTCTTTACTCTTC-3’(A306Ts)
配列番号24:
5’-TCCCAAAATGCCAGCAGGAAGAGTAAAGAA-3’(A306Ta)
【実施例4】
【0119】
さらに、実施例3で作製・単離した変異アクセプター ES 細胞株のクローンに、実施例2で得られた変異導入ベクターとCreリコンビナーゼ発現ベクターとを、400V、125 μFの条件でエレクトロポレーション法によって共導入し、染色体上のKCNQ2遺伝子の2つのlox配列間に変異配列が導入されているかどうかと、置換された変異ES細胞をピューロマイシン耐性遺伝子によって選別・単離した。つまり、上記のようにしてエレクトロポレーションした後の細胞をKSR-GMEM培地60 mlに懸濁し、6枚の10 cmディッシュに等分して培養し、24時間後に2 μg/mlのピューロマイシンを含む培地に交換した。その後、2日に1回ピューロマイシン含有培地の交換を行い、7日間培養することにより2つのlox配列間が変異遺伝子配列と置換された細胞のみにコロニーが形成されたことを確認した(図8参照)。
【0120】
上記で得られたKCNQ2変異ES細胞の単離と確認を行った。上記のようにしてコロニー形成をしたピューロマイシン耐性細胞株を複数単離し、KCNQ2変異ES細胞の候補として凍結保存した。この細胞の一部よりDNAを抽出し、変異を含む領域をPCRにより増幅したのち、塩基配列の決定により変異導入を確認した。
【実施例5】
【0121】
上記のようにして樹立したKCNQ2変異ES細胞をマウスに注入してノックインマウスを常法に従って作出した。つまり、KCNQ2変異ES細胞クローンをICRマウス由来の桑果胚と凝集させ1晩培養した後、ES細胞と桑果胚とが凝集した混合胚を選択した。このキメラ胚を偽妊娠雌(仮親)の子宮の中へ移植した。約17日後に出生した産仔のうち、被毛色がKCNQ2細胞由来組織を持つキメラマウスを選択した。このキメラマウスが性成熟する生後8週以降にC57BL/6マウスと交配することにより、ESクローン由来のKCNQ2変異細胞を体内にモザイク状に持つF1マウス(ヘテロ接合体)個体を得た。このF1マウスをFlp発現マウスと交配して、FRT配列で挟まれたピューロマイシン耐性遺伝子などの不要な配列因子を除去し、KCNQ2 遺伝子に上記変異(Y284C)ならびに(A306T)がそれぞれ含み、その以外のDNA配列は野生型とほぼ等しい所望の変異ノックインマウスを作出した(図9参照)。
【産業上の利用可能性】
【0122】
この発明に係る可変式変異導入ベクターは、あらゆる遺伝子の変異に対して適用することができ、かつ、所望の遺伝子変異を導入した変異遺伝子を持つノックインマウスなどのノックイン非ヒト哺乳動物を迅速に作出することができる。その上、この発明のノックイン非ヒト哺乳動物は、あらゆる疾患の起因や発症などの原因解明などの研究に大いに寄与することができることから、特に医療分野などに多大の貢献が期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0123】
【図1】この発明に係る標的変異導入遺伝子の配列構成を示す模式図。(A)は標的変異導入遺伝子(10)の配列構成を示す模式図、(B)は変異導入カセット(30)の配列構成を示す模式図、(C)は変異導入カセット(30)のより具体的配列構成を示す模式図である。
【図2】この発明に係る標的組換えベクター(14)の配列構成を示す模式図。(A)は標的組換え遺伝子(12)の配列構成を示す模式図、(B)は標的組換えカセット(40)の配列構成を示す模式図、(C)は変異導入カセット(40)のより具体的配列構成を示す模式図である。
【図3】この発明に係る標的変異ベクター(16)の配列構成を示す模式図。(A)は標的変異遺伝子(18)の配列構成を示す模式図、(B)は可変式変異導入カセット(50)の配列構成を示す模式図、(C)および(D)は可変式変異導入カセット(50)のより具体的配列構成をそれぞれ示す模式図である。
【図4】この発明の標的組換えベクターのプラスミドマップを示す図。
【図5】KCNQ2 遺伝子(A)、標的組換えベクター(B)および変異導入ベクター(C)の配列構成を示す模式図。
【図6】この発明の変異導入ベクターのプラスミドマップを示す図。
【図7】この発明の標的組換えベクターをマウスES細胞に導入してKCNQ2遺伝子DNA配列部分を導入したのマウスES細胞の作製手順を示す図。
【図8】図7で作製したマウス ES 細胞と変異導入ベクターとの相同組換えによりKCNQ2遺伝子の変異DNA配列部分が導入されたマウス変異ES細胞の作製手順を示す図。
【図9】図8で作製したマウス変異ES細胞から変異ノックインマウスを作出する手順を示す図。
【符号の説明】
【0124】
10標的変異導入遺伝子
12標的組換え遺伝子
14標的組換えベクター
16変異導入ベクター
18標的変異遺伝子
20変異導入 DNA 配列部分
25標的組換え DNA 配列部分
26a長腕領域
26b短腕領域
28a第1制限酵素切断部位
28b第2制限酵素切断部位
29標的組換え領域
30変異導入カセット
32第1lox配列因子
32a5’側第1変異lox配列
32b3’側第1変異lox配列
35変異導入領域
37標的DNA配列部分
39ポジティブ選択マーカーカセット
40標的組換えカセット
42第2lox配列因子
42a5’側第2変異lox配列
42b3’側第2変異lox配列
44ネガティブ選択マーカーカセット
45ポジティブ選択マーカーカセット
47ポリA配列
50可変式変異導入カセット
52第3lox配列因子
52a5’側第3変異lox配列
52b3’側第3変異lox配列

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変異導入DNA配列に変異導入カセットを導入した標的変異導入遺伝子であって、
該変異導入DNA配列が、標的組換えベクター由来の長腕領域−短腕領域を含む配列構成からなり;
該変異導入カセットが、5’側第1変異lox配列と3’側第1変異lox配列とからなる第1lox配列因子と、該第1lox配列因子に挟まれている変異導入領域を含む配列構成からなり、かつ、該変異導入領域が、標的変異DNA配列部分とポジティブ選択マーカーカセットとを含む配列構成からなり;
該変異導入領域が、標的組換えベクターの標的組換えカセットと、変異導入ベクターの可変式変異導入カセットとのlox特異的組換えにより導入された標的組換え領域であること;
を特徴とする標的変異導入遺伝子。
【請求項2】
請求項1に記載の標的変異導入遺伝子において、
該5’側第1変異lox配列が、標的組換えベクターの第2lox配列因子の5’側第2変異lox配列と、変異導入ベクターの第3lox配列因子の5’側第3変異lox配列とのlox特異的組換えにより組換えられた変異lox配列であること;
該3’側第1変異lox配列が、標的組換えベクターの第2lox配列因子の3’側第2変異lox配列と、変異導入ベクターの第3lox配列因子の3’側第3変異lox配列とのlox特異的組換えにより組換えられた変異lox配列であること;
を特徴とする標的変異導入遺伝子。
【請求項3】
請求項1または2に記載の標的変異導入遺伝子において、該標的組換えカセットが、該5’側第2変異lox配列と該3’側第2変異lox配列とからなる第2lox 配列因子と、該第2lox配列因子に挟まれている標的組換え遺伝子の標的組換えDNA配列部分とポジティブ選択マーカーカセットとを含む配列構成からなっていることを特徴とする標的変異導入遺伝子。
【請求項4】
請求項1または2に記載の標的変異導入遺伝子において、該可変式変異導入カセットが、該5’側第3変異lox配列と該3’側第3変異lox配列とからなる第3lox配列因子と該第3lox配列因子に挟まれた変異導入領域とを含む配列構成からなっていて、かつ、該変異導入領域が、該標的変異DNA配列部分とポジティブ選択マーカーカセットとを含む配列構成からなっていることを特徴とする標的変異導入遺伝子。
【請求項5】
請求項1、2または4に記載の標的変異導入遺伝子において、該標的変異DNA配列部分が、標的変異遺伝子の標的変異を含むエクソン配列部分であることを特徴とする標的変異導入遺伝子。
【請求項6】
請求項5に記載の標的変異導入遺伝子において、該標的変異遺伝子がヒトの常染色体優性の良性家族性新生児けいれん(BFNC)関連電位依存性カリウムチャンネルKCNQ2サブユニットの遺伝子由来であることを特徴とする標的変異導入遺伝子。
【請求項7】
請求項5に記載の標的変異導入遺伝子において、該エクソン配列部分がエクソン6であることを特徴とする標的変異導入遺伝子。
【請求項8】
請求項5ないし7のいずれか1項に記載の標的変異導入遺伝子において、該標的変異遺伝子の標的変異が遺伝子KCNQ2のY284C(配列番号1および2)またはA306T(配列番号3および4)であることを特徴とする標的変異導入遺伝子。
【請求項9】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の標的変異導入遺伝子の作製方法であって、第2lox配列因子を含む標的組換えベクターを含む配列構成を持つ標的組換えベクターと、第3lox配列因子を含む可変式変異導入カセットを含む配列構成を持つ変異導入ベクターとを、Creリコンビナーゼシステムを用いて、lox特異的組換えにより、該標的組換えベクター中の標的組換えカセットに含まれる標的組換え領域を、該変異導入ベクター中の該可変式変異導入カセットの変位導入領域と組換えることにより、標的変異DNA配列部分が導入されている標的変異導入遺伝子を作製することを特徴とする標的変異導入遺伝子の作製方法。
【請求項10】
請求項9に記載の標的変異導入遺伝子の作製方法でおいて、
該5’側第1変異lox配列が、標的組換えベクターの第2lox配列因子の5’側第2変異lox配列と、変異導入ベクターの第3lox配列因子の5’側第3変異lox配列とのlox特異的組換えにより組換えられた変異lox配列であること;
該3’側第1変異lox配列が、標的組換えベクターの第2lox配列因子の3’側第2変異lox配列と、変異導入ベクターの第3lox配列因子の3’側第3変異lox配列とのlox特異的組換えにより組換えられた変異lox配列であること;、
を特徴とする標的変異導入遺伝子の作製方法。
【請求項11】
請求項9または10に記載の標的変異導入遺伝子の作製方法において、該標的組換えカセットが、該5’側第2変異lox配列と該3’側第2変異lox配列とからなる第2lox配列因子と、該第2lox配列因子に挟まれている標的組換え遺伝子の標的組換えDNA配列部分とポジティブ選択マーカーカセットとを含む配列構成からなっていることを特徴とする標的変異導入遺伝子の作製方法。
【請求項12】
請求項9ないし11のいずれか1項に記載の標的変異導入遺伝子の作製方法において、該可変式変異導入カセットが、該5’側第3変異lox配列と該3’側第3変異lox配列とからなる第3lox配列因子と該第3lox配列因子に挟まれた変異導入領域とを含む配列構成からなっていて、かつ、該変異導入領域が、該標的変異 DNA 配列部分とポジティブ選択マーカーカセットと、を含む配列構成からなっていることを特徴とする標的変異導入遺伝子の作製方法。
【請求項13】
請求項9ないし12のいずれか1項に記載の標的変異導入遺伝子の作製方法において、該標的変異DNA配列部分が、標的変異遺伝子の標的変異を含むエクソン配列部分であることを特徴とする標的変異導入遺伝子の作製方法。
【請求項14】
請求項13に記載の標的変異導入遺伝子の作製方法において、該標的変異遺伝子がヒトの常染色体優性の良性家族性新生児けいれん(BFNC)関連電位依存性カリウムチャンネル KCNQ2 サブユニットの遺伝子由来であることを特徴とする標的変異導入遺伝子の作製方法。
【請求項15】
請求項13または14に記載の標的変異導入遺伝子の作製方法において、該エクソン配列部分がエクソン6であることを特徴とする標的変異導入遺伝子の作製方法。
【請求項16】
請求項13ないし15のいずれか1項に記載の標的変異導入遺伝子の作製方法において、該標的変異遺伝子の標的変異が遺伝子KCNQ2のY284C(配列番号1および2)またはA306T(配列番号3および4)であることを特徴とする標的変異導入遺伝子の作製方法。
【請求項17】
5’側第3変異lox配列と3’側第3変異lox配列とからなる第3lox配列因子と、該第3lox配列因子に挟まれた変異導入領域とを含む配列構成からなっていて、かつ、該変異導入領域が、標的変異遺伝子中の標的変異DNA配列部分とポジティブ選択マーカーカセットとを含む配列構成からなっている可変式変異導入カセットであることを特徴とする可変式変異導入カセット。
【請求項18】
請求項17に記載のことを特徴とする可変式変異導入カセットにおいて、該標的変異DNA配列部分が、ヒトの常染色体優性の良性家族性新生児けいれん(BFNC)関連電位依存性カリウムチャンネルの遺伝子KCNQ2サブユニットのY284C(配列番号1および2)またはA306T(配列番号3および4)であることを特徴とする可変式変異導入カセット。
【請求項19】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の標的変異導入遺伝子が導入されていることを特徴とする変異遺伝子導入ES細胞。
【請求項20】
請求項1ないし8のいずれか1項に記載の標的変異導入遺伝子が導入されていることを特徴とするノックイン非ヒト動物。
【請求項21】
請求項20に記載のノックイン非ヒト動物において、該標的変異導入遺伝子がヒトの常染色体優性の良性家族性新生児けいれん(BFNC)関連電位依存性カリウムチャンネルの遺伝子KCNQ2サブユニット由来であることを特徴とするノックイン非ヒト動物。
【請求項22】
請求項20または21に記載のノックイン非ヒト動物において、該標的変異導入遺伝子が遺伝子KCNQ2サブユニットのエクソン6であることを特徴とするノックイン非ヒト動物。
【請求項23】
請求項20、21または22に記載のノックイン非ヒト動物において、該標的変異導入遺伝子が変異遺伝子KCNQ2のY284C(配列番号1および2)またはA306T(配列番号3および4)であることを特徴とするノックイン非ヒト動物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−99006(P2010−99006A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−273446(P2008−273446)
【出願日】平成20年10月23日(2008.10.23)
【出願人】(598015084)学校法人福岡大学 (114)
【出願人】(504159235)国立大学法人 熊本大学 (314)
【Fターム(参考)】