説明

変色から銀と銀合金の表面を保護するための方法

変色から銀と銀合金の表面を保護する方法は、処理される表面を有機溶媒中での洗浄による事前処理にまず晒す工程と、酸化銀の薄層を保証することができる酸性溶液に、洗浄した表面を浸す工程と、式 CH(CHSH(nは10と16の間である)の少なくとも1つのチオールの溶液に、酸化させた表面を浸す工程と、少なくとも50°Cの温度で水蒸気を含む環境下で、あらかじめ酸化させた銀表面に、前記チオールの分子を化学反応させる工程を含むことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は変色から銀と銀合金の表面を保護する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
空気に晒された銀と銀合金の表面の自然変色は、銀製食器製造業者にとっては重大な問題となることが知られている。この点において、様々な市場調査で、銀製食器品の市場の減少の主たる理由の1つは、硫化した(sulphurated)銀化合物の形成の結果としての表面の変色に関係があることが示されてきた。
【0003】
銀製品(用語「銀の製品」が純銀の製品と、マイクロメーターの厚みの銀層でコーティングされた卑金属または合金で作られた製品の両方を意味する)の変色は、金属そのもの深い腐食をもたらすことなく、金属表面のみに関係するプロセスである。変色はその反射スペクトルの進行性の変質作用を含み、その表面色の変化を生じさせる。そのプロセスは回復不可能な損害を引き起こすわけではないが、銀の変色は入念な表面の清浄を必要とし、それはエンドユーザーをうんざりさせるだけでなく、卸業者や小売り業者をもますますうんざりさせる。
【0004】
このため、変色からの銀表面の保護は、数十年来多くの研究の主題であった。特に、例えば、薄いポリマー層で銀の表面を保護するか、または、銀の製造終了後、製品の表面上に堆積させるワックスまたは界面活性剤を使用することによって、変色を防ぐか著しく減らすことが既に提案されてきた。これらの既知の方法は、酸素の、SOなどの硫化した揮発性のオキシダントの、または、HSなどの非酸化性の硫化した揮発性化合物の、金属表面への吸着を防ぐか、または、一般的には妨害するという原則に基づいている。
【0005】
固体の製品と、貴金属でコーティングされた卑金属合金で作られた製品との両方の場合で、さほど陽電性でなく従って変色プロセスにさほど高感度でない貴金属の合金に銀を置き換えることによって、表面の変色を防ぐ方法も知られている。
【0006】
しかしながら、これらの既知の方法はすべて、材料の反射スペクトルの変化を必ず含むため、製品の外観を目に見えて変更するという本質的な欠点を呈している。
【0007】
金、銀、銅などの金属に、有機分子の自然に並んだ(spontaneously ordered)分子層(自然に集まった(spontaneously assembled)[SAM]層として知られている)を堆積させるための方法も提案されている。これらは、色や明るさを目につくほどに変える必要はなく、表面の変色を防ぐか遅らせる要件を一致させることができるプロセス工程の開発のために新しい設備を開設した。
【0008】
SAM層は、固体表面上での分子の化学吸着によって形成された正しく並べられた有機分子の単層または下位の単層である。周期表の群11(IB)の金属(Cu、Ag、Au)の表面の場合、適切な溶液から始まる直接的な金属硫黄結合の形成を介して、溶液中のチオールから始まる前記SAM層を形成するためのプロセスが知られている[非特許文献1]。もし、自己集合した層が任意の形状と大きさの表面を覆うことができ、超高真空技術に頼ることなく、結果として製造費を削減して得られることができれば、これらの自己集合した層の自然な形成は本発明に従った所望のものである。
【0009】
さらに、単一に近いコーティンググレードのSAM層が、銀の表面に向かうSOなどの揮発性の酸化剤ガス、および/または、HSなどの非酸化性の硫化した揮発性化合物に対して、(すなわち、同じ表面への相対的な吸着)効果的な拡散障壁を構成するということが知られている。特に、適切な水溶液または有機チオール溶液に銀の表面を浸すことからなる手順を用いて、前記表面に一般式CH(CHSHのチオールを堆積させることが提唱されてきた(特許文献1)。特に、この手順が銀の酸硫化物の成長を遅らせ、従って、銀の製品の変色を部分的に防ぐのに有効であることに注目されてきた。
【0010】
しかしながら、この既知のプロセスは、製品の表面が最小の摩耗(例えば、柔軟な布による除塵)にさらされるか、または、熱い液体に接触させられる場合、通常の取扱いを受けたり中程度の機能的な使用に晒されたりする製品の変色を防ぐのには理想的ではない。これらの製品の表面の劣化した保護能力は2つの因子によるものと思われる:
―特許文献1に記載の集まる手順は、表面の銀の原子とチオールの硫黄原子との間の所定の共有結合の形成が、反応:
非酸化表面上のAg+RSH→Ag−SR+1/2H(Rは一般的なアルキル)で、すなわち、
酸化表面上のAg−O1/2+RSH→Ag−SR+1/2HOで、すなわち
ヒドロキシル化した表面上のAg−OH+RSH→Ag−SR+H
によって自然に生じると仮定している。しかしながら、これらの反応は周囲温度では完了せず、その結果、物理吸着チオールから薄くコーティングされる表面の一部がコーティングされず、起こり得る局所的な酸化プロセス(点食)の引き金を引くこともある。さらに、表面に存在するチオールの小片は、物理吸着されることができるが化学吸着されることができないため、穏やかな処理条件下でも機械的または化学的手段によって表面から容易に除去可能である。
―固体の銀で、または、銀層でコーティングされた卑金属または金属合金で作られた製品の表面に、マイクロメーター幅の引っかき傷(scoring)が存在していることは、金属の表面がチオール溶液に全体的に浸潤していないこと、つまり、チオールとは完全には反応しないことを意味している。このことにより、保護されていない表面領域で起こり得る酸化プロセスの引き金が引かれ、結果として、表面変色(均一でないのが一般的)の外観の説明がつく。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】PCT/US1999/006775
【非特許文献】
【0012】
【非特許文献1】J.C. Love, L.A. Estroff, J.K. Kriebel, R.G. Nuzzo and G.M. Whitesides, “Self−assembled monolayers of thiolates on metals as a form of nanotechnology” Chemical Review, 105 (2005) 1103−1169
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0013】
この問題は、請求項1に記載の如く、変色から銀と銀合金の表面を保護する方法によって本発明によって解決される。
【0014】
本発明の好ましい実施形態は添付の図面に関して、非制限的な例によって以後にさらに明確にされる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】UNI EN ISO 4538に従って加速度的な変色に使用される装置を概略的に示す。
【図2】銀と変色しつつある銀の表面についての、可視の紫外線領域の反射スペクトルによるグラフを示す。
【図3】特許文献1と本発明とに従って処理された銀でコーティングされた表面について、UNI EN ISO 4538に従って測定された変色の程度の時間変動を示す。
【図4】未処理の銀でコーティングした表面についてUNI EN ISO 4538に従って、および、本発明に従って、測定された変色の程度の時間変動を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
上記のように、本発明の方法は、最初に、銀でコーティングされた表面を徹底的な評価にかける工程と、疎水性物質の任意のコーティングと、金属表面上にある任意の機械加工くず(machining residues)を取り除く工程とからなる。
【0017】
表面は、流水と界面活性剤を用いた最初の予備的な表面洗浄によって脱脂される。
【0018】
この予備工程の後、このように処理された表面を備える製品は、異なる有機溶媒に浸され、その後加熱され、超音波による撹拌にさらされる。
【0019】
下記は、この事前処理の実施の例を表わす。
−70°Cでトリクロロエチレン中で(または、65°でシクロヘキサン中で)10分
−60°Cで超音波撹拌下で、トリクロロエチレン(または、シクロヘキサン)中でさらに10分
−60°Cでアセトン中で10分
−60°Cで超音波撹拌下で、アセトン中でさらに10分
−70°Cでエタノール中で10分、
−60°Cで超音波撹拌下で、エタノール中でさらに10分
【0020】
有機溶媒中の一連の脱脂の終了後、製品は150秒間10体積%硫酸(HSO)溶液に周囲温度で浸され、再蒸留水ですすがれる。この処理の目的は、薄い酸化層、可能であれば水和層を生じさせて、銀の表面を活性化させて、これによってその後のチオール結合プロセスを容易にすることである。
【0021】
製品はその後、再蒸留水ですすがれ、乾燥窒素流(a stream of dry nitrogen)で乾かされる。
【0022】
一連の表面の準備の終了後、製品は、式CH(CHSH(nは10と16の間である)のチオール溶液にすぐに移される。好ましくは、イソプロパノール中の、ペンタデカンチオール(CH(CH14SH)またはヘキサデカンチオール(CH(CH15SH)またはウンデカンチオール(CH(CH10SH)の0.15M溶液は、約30°Cの温度で用いられる。その後、製品は磁気攪拌下で少なくとも2時間反応させたままにする。この後、サンプルは、10分間、周囲温度で超音波攪拌下でイソプロパノール中でまずすすがれ、その後、10分間周囲温度で超音波攪拌下で、再度新鮮なイソプロパノール中で2度目のすすぎが行われる。チオール溶液を準備するために使用されるイソプロパノールと、洗浄工程で使用されるイソプロパノールの両方を、一時間かけて乾燥窒素を通り抜けさせることによって、あらかじめガス抜きする。イソプロパノール中での2度のすすぎは、表面から、金属表面上に直接的には物理吸着していない分子を取り除く。製品はその後、窒素流中で乾かされ、少なくとも10分間、50°Cの温度で空気乾燥器(oven in air)に置かれる。これを通過することは、チオールと酸化した銀表面と間の反応によって水分子を除去する反応のおかげで結論に進むことを可能にし、その結果として、変色から製品表面を確実にほぼ完全に保護する際に必須である。
【0023】
本発明に従って方法を使用した後の有効な表面保護を確かめるために、試験チャンバーが、イタリアの標準UNI EN ISO4538(「チオアセトアミド腐食試験」1998年3月)の教示に従って加速度的な条件下の大気変色を評価するために用意された。
【0024】
チャンバーの仕組みが図1で示される。チャンバーは、試験に影響を与えかねない任意のガスまたは蒸気を放出することなく揮発性硫化物による腐食に耐えることができなければならない、蓋(4)を備えたガラス容器(2)と、チオアセトアミド(CH)(CS(NH))用の容器の役割を果たす、試験チャンバーに挿入される非金属の不活性物質のディスク(6)と、試験片(10)を支持するためにディスク(6)上の試験環境に位置付けられる非金属の不活性物質の支持部とから本質的になる試験環境を含む。
【0025】
試験を行なっている間、試験環境は、垂直の壁に対して十分に押圧される吸い取り紙(12)によって覆われ、酢酸ナトリウムトリハイドレードNa(CHCOO)3HO(10mlの再蒸留水に溶かした30gの酢酸ナトリウムトリハイドレード)の溶液に浸した。
【0026】
チオアセトアミド粉末(14)の薄い均一な層はディスク(6)上にまき散らされる(0.050g/dmと等しいかそれより大きなディスクを覆う程度を確保するなどのために約0.020gの量で)。その後、試験片(10)は、酢酸ナトリウムで湿らせた吸い取り紙(12)か、支持ディスク上のチオアセトアミドのいずれかに触れないような位置で、支持部(8)上に置かれる。チャンバーはその後、25°Cと30°Cの間で温度制御される。これらの条件下で、酢酸ナトリウム溶液は、平衡状態で、75%というチャンバー内の既知の固定された相対湿度を測定する。
【0027】
変色試験は、本発明の方法で処理されたかまたは処理されていない、7ミクロンの銀の層でコーティングされたベース合金の平板からなる試験片を、比較してさらすことにより行なわれる。その後、変色の程度は、試験片双方の外観を視覚的に比較することにより、および、可視紫外線領域の正反射率測定により、所定の時間間隔の後に評価される。
【0028】
形成されたばかりの試験片と、激しい変色工程を受けた試験片のスペクトル写真が図2に示される。
【0029】
水蒸気を含む条件下であらかじめ酸化された表面との化学反応によって表面上にチオール分子を集めることが、表面保護プロセスの効率性を目的とした重要な修正をいかにして構成するのかを確認してさらに強調するために、特許文献1と科学文献で主張される内容と比較される。図3は、2つの銀のサンプルについて、ISO 4538に従って、加速度変色試験に由来する時間に対する変色曲線を示す。これらの中から、第1のサンプルは、特許文献1に従って処理され(つまり、チオール分子が吸着される銀の表面を熱処理することなく)、第2のサンプルは、本発明に従った手順と、溶液からチオール分子を吸着した後、10分間にわたって大気中50°Cで銀の表面を熱処理する工程を含む手順とによって処理された。曲線Aは特許文献1に従って処理された銀のサンプルの処理時間に対する偏向点(deflection point)での波長の変化を示し、曲線Bは本発明に従って処理された銀のサンプルについて同じ変化を示している。正反射率での可視紫外線領域のスペクトル写真間の比較は、反射曲線の偏向点の時間的変位(time displacement)を確認するために行われ、該変位は金属銀では318nmであり、変色後はさらに高い波長に移る。保護継続時間の差は、熱処理をせずに得られたチオール層と比較して、熱処理後の表面と化学的に反応するために作られたチオール層の方が優れた安定性を強調する。
【0030】
実施される試験の加速度係数を測定するさらなる目的のために、一年間大気にさらしたままの未処理の銀サンプルが、ISO 4538に従って加速度的な変色試験にさらされた未処理銀のサンプルと比較された。比較については、反射率曲線の偏向点を移動させる前述の方法が使用された。
【0031】
こうして、自然の変色プロセスと加速度的な変色プロセスの一次速度定数間の比が約14000に等しいということが判定された。この値に基づいて、したがって、本発明による処理は5年以上にわたって目に見えて明白な変色を防ぐことができるものと推測された。
【0032】
処理の寿命は、本発明の方法によって処理されたサンプルと処理されていないサンプルを、素手での取り扱い、柔軟な布による、液体洗剤を用いた手動洗浄による、食洗機による、および、熱い流動食との接触による機械洗浄にさらすことによってさらに確認された。
【0033】
図4は、ISO 4538に従って行なわれた、加速度的な変色試験に関する変色曲線のパターンを比較して示す。すべての熟慮される例において、本発明の方法は、4年以上にわたって許容可能な保護を保証することができることが示された。
【0034】
本発明の方法が卑金属合金支持部の不完全な研磨に由来する摩耗を特徴とする銀でコーティングされた表面でも有効であることも、直接的な金属組織光学顕微鏡観察によって確認された。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
変色から銀と銀合金の表面を保護するための方法であって、
前記方法は、
−処理される表面を有機溶媒中で洗浄による事前処理にまず晒す工程と、
−酸化銀の薄層の形成を保証することができる酸性溶液に、洗浄した表面を浸す工程と、
−nが10と16の間である、式 CH(CHSHの少なくとも1つのチオールの溶液に、酸化させた表面を浸す工程と、
−少なくとも50°Cの温度で水蒸気を含む環境下で、あらかじめ酸化させた銀表面に、前記チオールの分子を化学反応させる工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項2】
処理される表面を、少なくとも1つの有機溶媒中に浸すことによって洗浄する工程を含むことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
有機溶媒中に浸された表面を加熱する工程を含むことを特徴とする請求項1または2のいずれかに記載の方法。
【請求項4】
前記加熱工程において、表面を熱攪拌にさらす工程を含むことを特徴とする請求項3に記載の方法。
【請求項5】
硫酸溶液中に、あらかじめ洗浄された表面を浸す工程を含むことを特徴とする請求項1乃至4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
ペンタデカンチオール溶液中に、酸化させた表面を浸す工程を含むことを特徴とする請求項1乃至5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
ヘキサデカンチオール溶液中に、酸化させた表面を浸す工程を含むことを特徴とする請求項1乃至6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
ウンデカンチオール溶液中に、酸化させた表面を浸す工程を含むことを特徴とする請求項1乃至7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
少なくとも2時間、約30°Cの温度で、少なくとも1つのチオールの溶液中に、酸化させた表面を浸す工程を含むことを特徴とする請求項1乃至8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
少なくとも50°Cの温度で水蒸気を含む環境下で、あらかじめ酸化させた銀表面に、前記チオールの分子を化学反応させる工程を含むことを特徴とする請求項1乃至9のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2013−520570(P2013−520570A)
【公表日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−554436(P2012−554436)
【出願日】平成23年2月23日(2011.2.23)
【国際出願番号】PCT/IB2011/000369
【国際公開番号】WO2011/104614
【国際公開日】平成23年9月1日(2011.9.1)
【出願人】(512220134)メサ エス.エー.エス.ジ マリムペンサ シモナ イー ダビデ イー シー. (1)
【Fターム(参考)】