説明

多孔性フッ化樹脂組成物の製造方法

【課題】フッ化樹脂組成物に多数の微細孔を形成することにより、優れたろ過機能を有し、かつ機械的強度にも優れた多孔性フッ化樹脂組成物の製造方法を提供する。
【解決手段】フッ化樹脂の粉末またはペレットに、平均粒子径が0.5〜200μmのアラミド微粒子を該フッ化樹脂重量に対し5〜70重量%混合し、圧縮成型して厚みが100〜2000μmの樹脂組成物とした後、該樹脂組成物を、溶剤に浸漬し、アラミド微粒子を溶出し、微細孔を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多数の微細孔を有する多孔性フッ化樹脂組成物の製造方法に関し、より詳しくは、優れた耐薬品性、濾過性能、及び機械的物性を備えた水処理用ろ過材、またはエレクトロニクス分野における精密ろ過材として有用な微細孔を有するフッ化樹脂樹脂を容易に得ることができる多孔性フッ化樹脂組成物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリオレフィン系樹脂からなる、多孔質フィルムや多孔質中空糸等の多孔質成形体は、所望の微細孔を有し、かつ安価、軽量であることから様々な分野で広く使用されている。例えば、半導体製造工程における洗浄用薬品や気体中の微粒子の分離、醸造品の無菌分離、血液製剤中のビールス除去、血液の透析、海水の脱塩等の精密な濾過膜や分離膜として、さらには電池のセパレータ等として好適に使用されている。
【0003】
なかでもフッ素樹脂は、特に耐薬品性、耐溶剤性、耐熱性等の特性に優れることから、その多孔質成形体がフィルター材料等として、多くの検討がなされている。ポリテトラフルオロエチレン(以下、「PTFE」ということがある。)は、乳化重合によリ得られるそのファインパウダーを、カレンダー成形して得た予備成型品とし、これを延伸することにより、比較的容易に繊維状化(フィブリル化)するので、微細孔を有する高多孔質のPTFEフィルムが得られる。当該高多孔質PTFEフィルムは、血液成分分析、血清、注射薬の除菌等臨床医学分野、LSIの洗浄水や洗浄薬品中の微粒子除去等の半導体産業分野、大気汚染検査等の公衆衛生分野等でフィルター膜として好適に使用されている。また、高多孔質のPTFEは、強い撥水・撥油性を有することから、その微細孔が水蒸気は通すが水滴は遮断する特性を有する通気性防水布として、産業分野のみならず、一般の防水衣料の分野でも広く使用されている。
【0004】
しかしながら、PTFEの多孔質成形体は、その材質に由来して比較的軟質であるため、耐クリープ性が充分でなく、巻回すると潰れが生じ、濾過性が低下するという問題がある。また、PTFEは、溶融粘度が極めて高く、一般のポリオレフィン系樹脂で用いられている押出成形、射出成形等の溶融成形が困難であるという問題もある。従って、当該成形体の形態は、フィルム状等に限定され、用途に応じた任意の形態、例えば中空糸等の形態とすることは、一般には困難とされている。
【0005】
また、上記いわゆる延伸法により製造されPTFE多孔質チューブは、PTFEが管軸方向に繊維状化しているため、管軸方向の強度はあるが、半径方向の強度が弱く、濾過材として使用した場合、濾過圧により裂け目ができる等の問題がある。
【0006】
一方、同様にして延伸法により製造されるフッ化ビニリデン系樹脂製の多孔質フィルムも水処理膜や電池セパレータとして使用されているが、一般のポリオレフィン系樹脂と比較して耐薬品性は優れるものの、一部の薬品に容易に侵されるという欠点があり、また、機械的強度が低い。
【0007】
これら延伸法による多孔体に対し、フッ素樹脂に溶媒可溶性樹脂(又は耐熱性有機液状体)や可溶性無機微粉末を混合し、溶融成形して得られた中空管やフィルム状の成形体を、溶媒等で処理して当該可溶性樹脂等を溶出せしめて多孔質化する方法(溶出法)が知られている。
【0008】
たとえば、特許文献1〜2には、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体に、クロロトリフルオロエチレンオリゴマーや、フッ化ビニリデン共重合体、及びシリカ微粉末を配合し、溶融成形して得た膜や中空管等の成形体を、1,1,1−トリクロルエタンやアセトンで処理してクロロトリフルオロエチレンオリゴマー等を抽出し、さらにアルカリ水溶液で処理してシリカ微粉末を溶解抽出することにより多孔質化する、エチレン−テトラフルオロエチレン共重合体の多孔質成形体の製造方法が記載されている。さらに、特許文献3には、特許文献1〜2により得られた多孔体を、フッ素樹脂のガラス転移温度(Tg)以上融点(Tm)未満の温度で熱処理することにより機械的強度を上げる方法が記載されている。
【0009】
しかしながら、これらの方法はいずれも溶融成形が可能なフッ素樹脂に限定されており、フッ素樹脂の中でも、高耐熱性かつ高耐薬品性を有し、優れた電気絶縁性、摺動性が得られるPTFEのようなフッ化樹脂の多孔体については上記方法では得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特公昭63−11370号公報
【特許文献2】特許第3265678号公報
【特許文献3】特開2008−13615号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、上記従来技術の有する問題点を解決し、フッ化樹脂組成物に多数の微細孔を形成することにより、優れたろ過機能を有し、かつ機械的強度にも優れた多孔性フッ化樹脂組成物の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らが検討したところ、高温成形に耐えられるアラミド微粒子を利用することにより、フッ化樹脂組成物に微細孔を形成することを着想し、上記課題を解決するに至った。
【0013】
かくして、本発明によれば、フッ化樹脂の粉末またはペレットに、平均粒子径が0.5〜200μmのアラミド微粒子を該フッ化樹脂重量に対し5〜70重量%混合し、圧縮成型して厚みが100〜2000μmの樹脂組成物とした後、該樹脂組成物を、溶剤に浸漬し、アラミド微粒子を溶出し、微細孔を形成することを特徴とする多孔性フッ化樹脂組成物の製造方法が提供される。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、アラミド微粒子は、ポリテトラフルオロエチレン樹脂等のフッ化樹脂を360〜380℃という高温下での圧縮成型に耐えることができるため、成形後にアラミド微粒子を溶出させるとにより、フィルム状のものに限らず、厚みのある平板や中空管に、微細孔を形成することが可能になる。このため、優れた耐薬品性、ろ過機能を有し、かつ機械的強度に優れた多孔性のフッ化樹脂組成物を製造することが可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明は、多孔性フッ化樹脂組成物の製造方法を提供するものである。本発明は、特に平板や中空管の形態で微細孔を形成するのが難しいとされ、かつ高耐熱性、高耐薬品性、電気絶縁性、摺動性といった優れた特性を有している、ポリテトラフルオロエチレン(4フッ化)(PTFE)に適用してその効果を十分に発揮することができるが、その他のフッ化樹脂、例えば、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(4.6フッ化)、テトラフルオロエチレン・エチレン共重合体、ポリビニリデンフルオライド(2フッ化)、ポリクロロトリフルオロエチレン(3フッ化)、クロロトリフルオエチレン・エチレン共重合体などにも、十分適用可能なものである。
【0016】
本発明においては、フッ化樹脂の粉末またはペレットに、アラミド微粒子を該フッ化樹脂組成物に混合して、圧縮成型し樹脂組成物とした後、該樹脂組成物を、溶剤によりアラミド微粒子を溶出することが肝要である。フッ化樹脂は、PTFEのように、溶融粘度が高く、一般の熱可塑性樹脂のように押出成形や射出成形によって成形することが難しく、ましてや微細孔を有するような複雑な成形体を製造することは困難である。そこで、本発明者らは、高温に耐えることができるアラミド微粒子に着目し、これを予めフッ化樹脂粉末等と混合し高温での圧縮成形を行い、後で該微粒子を溶出させることで、フッ化樹脂に容易に微細孔を成形できることを着想したものである。
【0017】
アラミド微粒子としては、樹脂を成型する際に360〜380℃の高温で加圧焼成するため、400℃もの高温に耐えうる、パラ系またはメタ系芳香族ポリアミド微粒子、特にパラ系の芳香族ポリアミド微粒子、すなわち、ポリパラフェニレンテレフタルアミド微粒子、または、これに第3成分を共重合したポリパラフェニレンテレフタルアミド共重合体微粒子を用いるのが好ましい。なかでも、より平均粒子径の小さい微粒子を作製することが可能であるという理由から、下記式に示すコポリパラフェニレン・3.4‘オキシジフェニレンテレフタルアミドが好ましく例示される。
【0018】
【化1】

(ここで、m及びnは正の整数を表す。)
【0019】
アラミド微粒子の平均粒子径は0.5〜200μmである必要があり、好ましくは1〜100μm、より好ましくは1〜70μmである。平均粒子径が0.5μm未満では、二次凝集を起こしやすくなるため均一に分散させるのが難しい。一方、平均粒子径が200μmを越えると、樹脂組成物の強度が低下する傾向にあり、特に樹脂組成物の厚みが小さい場合は強度の低下が発生し易い。また、孔径の均一性を損ない、ろ過性能が極端に低下する恐れがある。
【0020】
また、粒度分析計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)を用いて求めた平均粒子径D50値が5μmの場合、標準偏差が2.5μm以下、平均粒子径D50値が10μmの場合、標準偏差が5μm以下、平均粒子径D50値が25μmの場合、標準偏差が12μm以下、平均粒子径D50値が50μmの場合は標準偏差が25μm以下であることが望ましい。標準偏差は小さければ小さいほど好ましく、これにより、均一な孔径が得られる。
【0021】
本発明においては、アラミド微粒子の含有量を樹脂組成物重量に対し5〜70重量%とする必要があり、好ましくは5〜50重量%である。アラミド微粒子の含有量が5重量%未満では、被接着面において十分な凹凸が得られず十分な接着効果が得られない恐れがあり、一方、70重量%を越えると、樹脂組成物の強度が低下する恐れがある。
【0022】
さらにフッ化樹脂の圧縮成形について詳細に説明する。本発明に用いるフッ化樹脂、特にポリテトラフルオロエチレン樹脂は加熱しても溶融しないため、一般に以下のような方法が多くとられている。パイプ形状の金型中に、粉末状樹脂を投入し圧縮成型したのち、360℃〜380℃で焼成し、金型より取り出し、そのまま冷却して、機械加工などで必要な形状に仕上げる方法が多く用いられる。上記で得られたパイプ状のビレットは、これをスライス加工することにより、帯状のスカイビングシートとすることができる。なお、本発明において、アラミド微粒子は、フッ化樹脂の粉末状またはペレットにあらかじめ分散混合させた後で、圧縮成型を行うことができる。
【0023】
上記により得られた組成物は、例えば、N−メチル−2−ピロリドン(NMP)、ジメチルアセトアミド(DMAC)等の溶媒に浸漬させることにより該微粒子を溶解することができる。このとき、該微粒子が溶解しきらず樹脂組成物中に残留するのを防ぐため、溶媒中にて超音波処理を行うのが望ましい。さらに、塩化カルシウム、塩化リチウムなどの塩を溶媒に添加することにより、溶解しやすくなる。塩の添加量としては溶媒量に対して1〜10重量%であることが好ましく、1重量%以下ではその効果が発揮されない恐れがあり、10重量%以上では、洗浄後に塩が残留する恐れがあるため好ましくない。その後水洗することにより、溶解物を取り除き目的物を得る。このとき、水洗中で超音波処理するのが望ましい。
【0024】
本発明の樹脂組成物は、厚みが100〜2000μmであり、好ましくは300〜1000μmである。厚みが100μm未満では、該樹脂組成物の強度が低下する恐れがあり、2000μmを超えると、溶媒により該微粒子を溶解させる際に、十分に溶媒が浸透せず、該微粒子が残留する恐れがある。
【実施例】
【0025】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明する。尚、実施例中の各物性は下記の方法により測定した。
【0026】
(1)平均粒子径、標準偏差
粒度分析計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)を用いて平均粒子径D50の値を求めた。D50値は次のように定義される。
D50:一つの粉体の集合を仮定し、その粒度分布が求められている場合、その粉体の集団の全体積を100%として累積カーブを求めたとき、その累積カーブが50%となる点の粒子径
また、標準偏差は以下の式によって求めた。
標準偏差=(D84−D16)/2
D84:累積カーブが84%となる点の粒子径
D16:累積カーブが16%となる点の粒子径
なお、上記標準偏差は、測定した粒度分布の分布幅の目安となるもので、上記の式が示すように統計学上の標準偏差(統計的誤差)を意味するものではない。
【0027】
(2)厚み
JIS L 1096−90に準拠した方法により、ディジマティック厚さ試験機を用いて織物測定用荷重(240g/m)にて測定を行った。
【0028】
(3)破断強度(MPa)
JIS K 7137に準拠した方法により、測定を行った。
【0029】
(4)ろ過性能
該樹脂成型物の透水性能と阻止性能を次の方法により測定した。温度25℃で、水圧1kg/cmをかけて水をろ過し、その透過量(l)を単位時間(min)および単位面積(cm)あたりの値に換算することで透水量を求めた。また、平均粒径0.020μmのポリスチレンラテックス粒子を分散させた水を同様にろ過し、原水中と透過水中のラテックス粒子の濃度を波長237nmの紫外吸収係数を測定して求め、その濃度比から阻止率を求め、評価した。波長237nmの紫外吸収係数の測定は、分光光度計(U−3200)(日立製作所製)を用いた。
【0030】
[実施例1]
ポリテトラフルオロエチレン樹脂(ダイキン工業株式会社製「ポリフロンTMPTFE」)に、粒度分析計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)を用いて求めた平均粒子径D50の値が10.1μmであり、標準偏差が3.4μmであるコポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミド微粒子(帝人テクノプロダクツ製「テクノーラ」)を、フッ化樹脂粉末中に20重量%の割合で投入し、圧縮成型した後、380℃で焼成することによりパイプ状のビレットを形成し、このビレットをスライス加工することにより、帯状のスカイビングシートを得た。
さらにこのスカイビングシートを、4重量%の塩化カルシウムを含むN−メチル−2−ピロリドン(以下、NMP)に120℃下で1日間浸漬し、超音波処理を行うことによって該微粒子を溶解した後、40℃の温水中で超音波洗浄を行い、乾燥して樹脂組成物を得た。結果を表1に示す。
【0031】
[実施例2]
微粒子を、粒度分析計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)を用いて求めた平均粒子径D50の値が48.4μm、標準偏差が21.0μmであるコポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミド微粒子(帝人テクノプロダクツ製「テクノーラ」)に変更し、フッ化樹脂粉末中に50重量%の割合で混合した以外は実施例1と同様として樹脂組成物を得た。結果を表1に示す。
【0032】
[実施例3]
微粒子を、粒度分析計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)を用いて求めた平均粒子径D50の値が150μm、標準偏差が70μmであるポリメタフェニレンイソフタルアミド微粒子(帝人テクノプロダクツ製「コーネックス」)に、溶媒を、ジメチルアセトアミド(DMAC)に変更した以外は実施例1と同様として樹脂組成物を得た。結果を表1に示す。
【0033】
[比較例1]
微粒子を、フッ化樹脂粉末中に80重量%の割合で混合した以外は実施例1と同様として樹脂組成物を得た。結果を表1に示す。
【0034】
[比較例2]
微粒子を、粒度分析計(日機装社製「マイクロトラックUPA」)を用いて求めた平均粒子径D50の値が250μm、標準偏差が100μmであるコポリパラフェニレン・3.4’オキシジフェニレンテレフタルアミド微粒子(帝人テクノプロダクツ製「テクノーラ」)に変更した以外は実施例1と同様として樹脂組成物を得た。結果を表1に示す。
【0035】
【表1】

【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明によれば、優れた耐薬品性、ろ過機能を有し、かつ機械的強度に優れた多孔性のフッ化樹脂組成物を容易に製造することができ、濾過材、水処理材、電池用セパレータに応用することができる。また、フィルム状のものに限らず、厚みのある平板や中空管に、微細孔を形成したフッ化樹脂組成物を得ることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フッ化樹脂の粉末またはペレットに、平均粒子径が0.5〜200μmのアラミド微粒子を該フッ化樹脂重量に対し5〜70重量%混合し、圧縮成型して厚みが100〜2000μmの樹脂組成物とした後、該樹脂組成物を、溶剤に浸漬し、アラミド微粒子を溶出し、微細孔を形成することを特徴とする多孔性フッ化樹脂組成物の製造方法。
【請求項2】
溶剤がN−メチル−2−ピロリドン、または、ジメチルアセトアミドである請求項1記載の多孔性フッ化樹脂組成物の製造方法。
【請求項3】
請求項1記載の該フッ化樹脂がポリテトラフルオロエチレン樹脂である多孔性フッ化樹脂組成物の製造方法。

【公開番号】特開2011−116820(P2011−116820A)
【公開日】平成23年6月16日(2011.6.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−273469(P2009−273469)
【出願日】平成21年12月1日(2009.12.1)
【出願人】(303013268)帝人テクノプロダクツ株式会社 (504)
【Fターム(参考)】