説明

多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製方法およびその方法により作製された多孔性陽極酸化アルミナ膜

【課題】微小間隔でかつ規則的に配列された細孔を有する多孔性陽極酸化アルミナ膜を、容易にかつ安価に作製可能な技術を提供する。
【解決手段】規則的に配列した表面凹凸構造をアルミニウム表面に転写する転写工程と、該転写工程により得られたアルミニウム表面の凹凸構造のうち、規則的に配列された複数の窪みを起点として所定形状の細孔を有する多孔性陽極酸化アルミナ膜を形成する陽極酸化工程とを有し、前記表面凹凸構造上にアルミニウムを析出させてその構造をアルミニウム表面に転写する多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製方法、およびその方法により作製された多孔性陽極酸化アルミナ膜。とくに、表面凹凸構造の形成に微粒子の規則配列を利用することで、容易にかつ安価に所望の表面凹凸構造を形成できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製方法およびその方法により作製された多孔性陽極酸化アルミナ膜に関し、とくに細孔が所定の微小間隔で規則的に配列した多孔性陽極酸化アルミナ膜を容易にかつ安価に作製できる技術に関する。
【背景技術】
【0002】
均一な細孔径を有する多孔性材料として、従来から多孔性陽極酸化アルミナ膜が知られている。多孔性陽極酸化アルミナ膜は、アルミニウムを酸性電解液中で陽極酸化することによりアルミニウムの表面に形成される多孔性のアルミナ膜であり、膜面に垂直な細孔が自己規則化的に形成され、細孔径の均一性が比較的良好であるという特徴を有していることから、フィルターをはじめとする機能材料の他、種々のナノデバイス作製の出発構造としての利用が期待されている。多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製方法として、平滑なアルミニウム表面に周期的に欠陥を形成し、該欠陥を陽極酸化の開始点として細孔を形成する方法が知られている。また、特許文献1には、上述した従来技術により作製された多孔性陽極酸化皮膜における細孔配列の規則性が低いという問題点を解消し、各細孔の間隔が一定で規則正しく配列した多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製方法が開示されている。すなわち、上述の目的を達成するために、陽極酸化を行うアルミニウム板の平滑性を有する表面に、あらかじめ陽極酸化時に形成されるアルミナ膜の細孔の間隔および配列と同一の間隔および配列に複数の窪み(凹部)を形成した後、前記アルミニウム板を陽極酸化することにより、所定形状の細孔が前記複数の窪みの間隔および配列と同一の間隔および配列で規則的に配列した多孔性の陽極酸化アルミナ膜を作製するものである。この提案技術では、窪みに対応した複数の突起を表面に備えた基板(鋳型:モールド)を陽極酸化するアルミニウム板表面に押し付けることにより、アルミニウム板表面に陽極酸化時に形成されるアルミナ膜の細孔の間隔および配列と同一の間隔および配列の窪みを形成した後、上記アルミニウム板を陽極酸化することにより、細孔が所定の間隔で規則的に配列した多孔性陽極酸化アルミナ膜を作製するようにしている。すなわち、上述のような突起を備えた基板をアルミニウム板に印加することにより実施できる。
【特許文献1】特開平10−121292号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記特許文献1に記載の方法では、アルミニウム表面に窪みを形成するにあたり、微細突起構造を持つ鋳型(モールド)をアルミニウム表面に押し付ける、機械的なプレス等の方法を用いるため、使用するモールドに機械的な強度が要求される。そのため、モールドの素材に高価な高強度材料が要求されたり、モールドに大きな厚みが要求されることがある。
【0004】
また、上述のような規則的な窪み間隔を機械的に形成するために必要なモールドは、電子ビームリソグラフィー技術、フォトリソグラフィー技術などの微細加工技術を用いて作製されるため、モールドの作製に高価な設備を必要とする。また、作製できるモールドの大きさも、上述微細加工の速度が著しく遅いため、mmオーダー角以上の大きなものは作製が困難となっている。また、微細加工を行うための装置は非常に高価であるため、多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製のためにこの装置を用いることは、経済的ではない。さらに、上述微細加工技術を用いても、その原理的な問題点から、数10nmよりサイズの小さな規則的な突起配列の形成は困難である。
【0005】
そこで本発明の課題は、微小間隔でかつ規則的に配列された細孔を有する多孔性陽極酸化アルミナ膜を、容易にかつ安価に作製可能な技術を提供することにある。また、モールドを使用する方法で多孔性陽極酸化アルミナ膜を作製する場合にあっても、所望のモールドを容易にかつ安価に作製可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明に係る多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製方法は、規則的に配列した表面凹凸構造をアルミニウム表面に転写する転写工程と、該転写工程により得られたアルミニウム表面の凹凸構造のうち、規則的に配列された複数の窪みを起点として所定形状の細孔を有する多孔性陽極酸化アルミナ膜を形成する陽極酸化工程とを有し、前記転写工程ではアルミニウムを蒸着法によって前記表面凹凸構造の上に析出させて転写することを特徴とする方法からなる。所定形状の細孔は、実質的に上記規則的に配列された窪みと同一の間隔および配列で形成される。この方法では、従来のモールド押し付け法と比較して、アルミニウムを蒸着法によって上記表面凹凸構造の上に析出させることにより、該構造の物理的強弱に影響されずにその構造を転写することができる。蒸着法としては、CVD法、PVD法、スパッター法などの各種の化学的又は物理的蒸着法を用いることができる。
【0007】
上記方法においては、上記表面凹凸構造を微細加工法により形成する工程を有する形態を採ることができる。微細加工法としては、電子ビームリソグラフィー、フォトリソグラフィーなどの方法を適宜用いることができる。この表面凹凸構造は、微細加工法により作製された第1の表面凹凸構造を用いることができ、また、その第1の表面凹凸構造を鋳型にして転写することにより得られる第2の表面凹凸構造を、更には同様の操作を任意の回数繰り返して得られる別の表面凹凸構造を用いることができるのは言うまでもない。
【0008】
また、本発明に係る多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製方法は、規則的に配列した表面凹凸構造をアルミニウム表面に転写する転写工程と、該転写工程により得られたアルミニウム表面の凹凸構造のうち、規則的に配列された複数の窪みを起点として所定形状の細孔を有する多孔性陽極酸化アルミナ膜を形成する陽極酸化工程とを有し、前記表面凹凸構造を、微粒子を規則的に配列することにより形成することを特徴とする方法からなる。所定形状の細孔は、実質的に上記規則的に配列された窪みと同一の間隔および配列で形成される。つまり、微粒子が自己規則的に集合した場合に生ずる二次元規則配列を利用して、その表面凹凸構造のアルミニウム表面へ転写し、転写により生じたアルミニウム表面の凹凸構造の窪みの規則配列を利用して陽極酸化することにより細孔を形成する方法である。このような微粒子を用いた二次元の規則的な配列は自己規則的にその形状を形成し、電子ビームリソグラフィー装置等の高価な微細加工装置を必要とせず、経済的な方法となる。
【0009】
上記方法においては、上記表面凹凸構造は、微粒子を規則的に配列させることにより得られる第1の表面凹凸構造を用いることができ、また、その第1の表面凹凸構造を鋳型にして転写することにより得られる第2の表面凹凸構造を、更には同様の操作を任意の回数繰り返して得られる別の表面凹凸構造を用いることができるのは言うまでもない。
【0010】
また、この方法においては、上記転写工程では、好ましくは、アルミニウムを蒸着法によって上記表面凹凸構造の上に析出させて転写することができる。この方法では、従来のモールド押し付け法と比較して、アルミニウムを蒸着法によって上記表面凹凸構造の上に析出させることにより、該構造の物理的強弱に影響されずにその構造を転写することができる。蒸着法としては、CVD法、PVD法、スパッター法などの各種の化学的又は物理的蒸着法を用いることができる。また、このような蒸着法以外にも、一旦上記表面凹凸構造を転写させた鋳型を作製し、その鋳型を押し付ける方法など、各種転写方法を用いて上記表面凹凸構造をアルミニウム表面に転写することができる。
【0011】
また、上記方法では、規則的に配列する微粒子として様々な粒子を用いることができる。例えば、金属、高分子、金属もしくは非金属の酸化物、炭化物または窒化物のいずれかを原料として用いた微粒子を使用できる。高分子には、生体高分子、人工高分子または天然高分子等のあらゆる種類の高分子を用いることができる。微粒子のサイズは数100nmから数nmまで様々なものを用いることができる。とくに、金属、酸化物、炭化物、窒化物の微粒子は、50nm以下の粒径の微粒子を合成するのに効果的であり、かつ、自己規則的な配列を形成するのに効果的である。例えば、後述の実施例に示す如く、金属酸化物微粒子の中でも酸化鉄微粒子を用いた場合、生体高分子の中でもフェリチンを用いた場合に、優れた規則配列が得られる。このような大きさの規則構造は、電子ビームリソグラフィー装置等の微細加工技術を用いても形成が困難であり、前記課題を解決するために本発明に係る微粒子規則配列を用いることが効果的となる。また、高分子材料を用いた微粒子の規則配列を用いる場合も、従来の微細加工技術を利用する方法と比較して経済的な方法である。上記各種微粒子においては、後述の実施例に示す如く、金属酸化物微粒子の中でも酸化鉄微粒子を用いることが好ましい。
【0012】
微粒子の規則的な配列は、例えば所定の表面形態を有する基板上で行うことができる。微粒子を規則配列させる基板は、微粒子が周期的な規則配列を形成でき、上記微粒子の規則配列により得られる表面凹凸構造をアルミニウム表面に転写可能とすることができる表面形態を有するものであれば、あらゆる基板を用いることができる。すなわち、従来のモールドを用いた機械的プレスによる細孔開始点付与の方法では、モールドの面に対して平滑なアルミニウム基板が必要となるが、本発明では、微粒子が規則的に配列できさえすれば、基板表面の凹凸形状はそれほど問題にならない。このような微粒子規則配列を形成できる基板としては、例えば、シリコン、ガラス、カーボン、マイカなどを材料とするものを用いることができ、このような基板上で、微粒子が自己規則的に周期的構造を形成することができる。もちろん基板表面には微粒子規則配列向上のために、表面テクスチャリング、スパッター等の物理的処理、あるいは疎水化、表面修飾などの化学的な処理を用いた表面改質を行ってもかまわない。
【0013】
本発明に係る方法においては、単に多孔性陽極酸化アルミナの出発原料となるアルミニウムへ機械的な開始点付与を行う方法とは異なり、前記転写工程において、例えば微粒子状のアルミニウムを真空蒸着、スパッターなどの方法により、アルミニウムを規則的に配列された微粒子の表面に析出させることにより微粒子規則配列による表面凹凸構造を析出されたアルミニウムの表面に転写する方法を用いることができる。そのため規則的な突起構造を用いて機械的にアルミニウム表面に規則的な窪み方法を形成する方法と異なり、規則的な突起構造に機械的な強度が必要とされないという利点がある。とくに微粒子の規則配列を利用する方法では、凹凸構造が規則的に配列する微粒子物質であればあらゆる物質を用いることができる。特に機械的強度の低いたんぱく質などの生体高分子微粒子の自己規則配列の表面凹凸構造の転写を行う工程を用いてアルミナの作製が可能となる。
【0014】
一方で、前記転写工程では、微粒子規則配列による表面凹凸構造を転写した鋳型を作製し、該鋳型をアルミニウム表面に押し付けることにより、鋳型の表面凹凸構造をアルミニウム表面に転写する方法を用いることもできる。すなわち、多孔性陽極酸化アルミナの出発原料となるアルミニウムへの細孔形成開始点付与にあたり、従来のような機械的な開始点付与のための鋳型の作製へ応用することができる。この場合にも先に述べたように、電子ビーム描画装置等の高価な微細加工装置を必要としないこと、微細加工装置でも加工困難な微細な凹凸を形成することができるという利点がある。
【0015】
上述した微粒子規則配列を得るためには、例えば、ポリスチレン、シリカなどの球形をした微粒子、金属、酸化物などに両親媒性有機物の配位したコロイドなどの自己規則的に配列を形成する物質からなる微粒子で、その配列が、4方、6方などの周期的な繰り返し構造をとるものを用いることができる。この規則配列は広い範囲にわたり配列するものが望ましい。正六角形の頂点に粒子の中心が来るような、いわゆる6方細密充填構造の規則的な配列を形成する場合、規則的な配列を得るためには粒子の大きさのばらつき指標であるCV値が5%以下であることが望ましい。また、粒子は必ずしも球状をしていなくともよく、微粒子が規則的な配列を形成し、その規則構造表面にアルミニウムを析出させた際に、微粒子配列の表面の突起構造がアルミニウムに写し取られる高さがあればよい。
【0016】
微粒子規則配列上に析出されるアルミニウム層は、真空蒸着、スパッター等の物理的製膜方法により、アルミニウムを微粒子状に粉砕した後、微粒子規則配列上に析出させる方法により形成される。もちろん、規則的に配列した微粒子表面の凹凸構造をアルミニウムに写し取ることができる方法であれば前述以外のアルミニウム層を形成する方法を適用することができる。しかし、微粒子表面上に析出したアルミニウムが化学反応でアルミニウムあるいはアルミニウム酸化物以外の化合物に変性しないほうが望ましい。
【0017】
陽極酸化によって自己規則化的に形成された多孔性陽極酸化アルミナ膜の細孔は、最終的には六方充填配列を形成する傾向がある。このときの細孔間隔は、陽極酸化電圧によって決まり、この間隔と同一の間隔で窪みを形成すると規則性が良好となる。陽極酸化により形成される細孔の間隔は、陽極酸化時の電圧に比例し、その比例定数は約2.5nm/Vであることが知られている。そこで本発明に係る多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製方法においては、陽極酸化を行うアルミニウム板表面に複数の窪みを、各窪みの間隔を2.5nm/Vで除することによって得られるアノード酸化電圧で陽極酸化を行うことが好ましい。ここで陽極酸化に用いる電解液は、アルミニウムの酸化物に溶媒作用のあるものであればよく、例えばシュウ酸の他、硫酸、シュウ酸と硫酸の混合浴、リン酸などの酸性電解液を用いることができる。例えば、陽極酸化にシュウ酸浴を用いる場合には、前記陽極酸化工程では、シュウ酸浴中においてアノード酸化電圧が35乃至80Vの電圧範囲で前記アルミニウムを陽極酸化することにより、前記複数の窪みに対応した複数の細孔を形成することが好ましい。また、陽極酸化に硫酸浴を用いる場合には、前記陽極酸化工程では、硫酸浴中においてアノード酸化電圧が3乃至28Vの電圧範囲で前記アルミニウムを陽極酸化することにより、前記複数の窪みに対応した複数の細孔を形成することが好ましい。しかし、25nm未満の細孔周期の場合は各窪みの間隔を2.5nm/Vで除した数値より低めの電圧で陽極酸化を行うと規則性が良好な細孔が得られる傾向がある。つまり、規則的に配列した細孔の間隔が25nm未満の場合には、陽極酸化時に化成する電圧と細孔間隔との比例定数である約2.5nm/Vから計算された値より低い電圧で化成することが好ましい。なお、これらの混合浴を用いる場合には、上記の中間の電圧で良好な結果が得られる。また、化成電圧が10V以下の場合は、上記電圧より低めの、好ましくは0〜50%程度低めの電圧で化成すると良好な規則的な細孔配置が得られる。
【0018】
上記のような本発明に係る多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製方法により、とくに、細孔の間隔が30nm以下の多孔性陽極酸化アルミナ膜を容易にかつ安価に形成することができる。
【0019】
本発明に係る多孔性陽極酸化アルミナ膜は、上記のような本発明に係る方法により作製されたものであり、とくに細孔の間隔が30nm以下のものとして形成できる。もっとも、細孔の間隔が30nmよりも大きいものも、本発明に係る方法により作製することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば次のような効果が得られる。
(1) 規則的に配列した表面凹凸構造をアルミニウム表面に転写することにより、その凹凸構造の周期に対応した高規則的な細孔構造をもつアルミナ膜を作製することができる。自己規則的に配列する陽極酸化ポーラスアルミナと比較して、広い範囲の周期で高規則性アルミナ膜を得ることができる。
(2) とくに微粒子の規則配列を利用する方法では、50ナノメートル以下の微粒子を用いることにより、リソグラフィー等では作製困難な小さな周期の高規則的な細孔の多孔性陽極酸化アルミナ膜を容易にかつ安価に作製することができる。
(3) また、自己規則的に配列する微粒子は広範囲にわたる規則配列を簡便に得ることができる。これにより、単なる微細加工では作製困難な広範囲にわたる規則構造を容易にかつ安価に得ることが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
以下に、本発明に係る多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製方法の実施の形態について、図面を参照して説明する。図1は、本発明の第1の実施の形態において用いるアルミニウム板の平面図である。アルミニウム板10の表面にはあらかじめ微細な窪み11が形成されており、これらの窪みは陽極酸化によって形成される細孔の間隔および配列と一致している。なお、用いるアルミニウムは99.99%以上の純度を有することが望ましい。
【0022】
図1に示したような微細な窪み11が形成されたアルミニウム板10は、微細加工法により形成された表面凹凸構造を、その上に蒸着されたアルミニウムの表面に転写することによって作製可能である。また、微粒子の規則配列を利用し、規則的に配列された微粒子の表面凹凸構造をアルミニウムの表面に転写することによっても作製可能である。本実施の形態においては、図1に示したアルミニウムは微粒子規則配列にアルミニウムを析出させることによって形成した。図2に示した断面図を参照にして説明すると次のようになる。まず、平滑な基板21上に微粒子22の規則配列を形成する(図2(a))。次に蒸着、スパッター等の物理的製膜手法によりアルミニウム(板)10を微粒子規則配列上に析出させる(図2(b))。次に基板からアルミニウム板10を剥離後(図2(c))、微粒子の溶解などの手法を用いることにより、アルミニウム板10から微粒子配列を除去すると表面に規則的な窪み11の配列が形成されたアルミニウム板10(図2(d))が得られるが、微粒子を除去していないアルミニウム板を用いてもよい。
【0023】
このようにしてアルミニウム板10の表面に窪み11を形成した後、これを酸性電解液中において陽極酸化し、多孔性陽極酸化アルミナ膜を形成する。そのプロセスは次のようなものである。図1および図2(d)に示す如く、微細な窪み11を形成したアルミニウム板10をシュウ酸等の酸性電解液中で陽極酸化すると、図3(a)に示すように、アルミニウム板10の表面に陽極酸化アルミナ膜30が形成される。このアルミナ膜30は、アルミニウムの素地に接した部分に形成される無孔質で誘電性のある薄いバリア層32と、これに接してそれぞれ中央に細孔31を有する多孔層33とからなっている。このとき、細孔31は、あらかじめ形成された窪み11の部分から形成される。さらに陽極酸化を続けると、図3(b)に示すように、陽極酸化アルミナ膜30の多孔層33は厚くなり、それにつれて陽極酸化アルミナ膜の細孔31も深くなる。その結果、アルミニウム板10表面に設けた窪み11に対応する位置に独立した垂直性および直進性の良い細孔が形成される。なお、本発明において使用できる電解液は、アルミニウムの酸化物に溶媒作用のある電解液であればよく、具体的にはシュウ酸の他、硫酸、シュウ酸と硫酸の混合浴、リン酸などの酸性電解液が挙げられる。
【0024】
この多孔性陽極酸化アルミナ膜の細孔の間隔は、陽極酸化時の電圧、すなわち陽極酸化電圧(アノード酸化電圧)に比例し、その比例定数は約2.5nm/Vであることが知られている。したがって、本発明の多孔性陽極酸化アルミナ膜は、あらかじめ、陽極酸化時に形成される細孔の間隔および配列と同一の間隔および配列で、この間隔と同一の間隔で窪み11を形成すると規則性が良好となる。しかし、細孔周期が25nm以下である場合は、規則的な配列を得るための陽極酸化時の電圧は上記比例定数で求めた電圧より0〜3V低めで化成することが望ましい。また、細孔間隔の配列の規則性を向上できる陽極酸化の条件は、シュウ酸浴においては35〜80V、硫酸浴においては3〜28Vの電圧範囲、また、これらの混合浴を用いる場合には、上記の中間の電圧で良好な結果が得られる。したがって、良好な六方充填配列を形成するためには、上記電圧に対応する細孔間隔で窪みを形成することが望ましい。このような条件下では細孔間隔が0.01〜0.2μmの多孔性陽極酸化アルミナ膜が得られる。上述のようにして形成された細孔が等間隔に配列した多孔性陽極酸化アルミナ膜30の平面図を図4に示す。この多孔性陽極酸化アルミナ膜30において細孔31は、あらかじめアルミニウム板10上に等間隔で正六角形状に配列された窪みに対応して、良好な六方充填配列を形成している。
【0025】
また、本発明の別の実施形態を図5に示す。図5に示した断面図を参照にして説明すると、まず、平滑な基板41上に微粒子42の規則配列を形成する(図5(a))。次に蒸着、スパッター等の物理的製膜手法あるいはめっきなどの化学的製膜手法により、金属で微粒子規則配列上に薄膜43を析出させる(図5(b))。次に微粒子規則配列上に析出した金属薄膜43を微粒子42から剥離することにより、微粒子突起配列転写された金属箔膜44が得られる(図5(c))。これに蒸着、スパッター等の物理的方法、あるいはめっきなどの化学的な方法により金属箔膜と同種あるいは異種の金属45を析出させることにより微粒子凹凸構造が転写された鋳型46が形成される(図5(d))。形成された鋳型46をアルミニウムの表面にプレス等の機械的な方法を用いることにより、図1に示したような規則的な窪み構造が転写されたアルミニウムを得ることができる。得られたアルミニウムを上記方法により陽極酸化することにより規則的に細孔が配置した多孔性アルミナ膜が得られる。
【0026】
図6に、本発明のさらに別の実施形態を示す。本発明では、上述のような微粒子の規則配列を利用せずに、多孔性陽極酸化アルミナ膜を作製することができる。すなわち、図6(a)に示すように、まず、規則的に配列した表面凹凸構造51を有するモールド52を準備する。この表面凹凸構造51は、例えば、電子ビームリソグラフィー、フォトリソグラフィーなどの微細加工法により形成可能である。モールド52の表面凹凸構造51上に、図6(b)に示すようにアルミニウム53を蒸着法によって析出させ、表面凹凸構造51をアルミニウム53の表面に転写する。転写後に、モールド52を除去すると、アルミニウム53の表面には、図6(c)に示すように、上記表面凹凸構造51に対応した表面凹凸構造が形成される。この転写工程により得られたアルミニウム表面の凹凸構造のうち、規則的に配列された複数の窪み54を起点とする陽極酸化を行うことにより、図6(d)に示すような、所定形状の細孔55を有する多孔性陽極酸化アルミナ膜56を形成することができる。
【実施例】
【0027】
次に、実施例を挙げ、本発明をさらに具体的に説明する。
<実施例1>
ガラス基板上に粒径200nmポリスチレンビーズの溶液(日新EM社製)を滴下、乾燥させることにより、ポリスチレンビーズが二次元的に正六角形状に規則的に配列した構造を得た。得られた規則配列に抵抗過熱型の真空蒸着機で純度99.99%のアルミニウムを厚さ3μm真空蒸着した。アルミニウムをガラス基板から機械的に剥離後、トルエンに含浸し、表面のポリスチレンビーズを除去した。ポリスチレンビーズを除去することにより、表面にビーズの周期に対応した凹凸構造が形成されたアルミニウムが得られた。このアルミニウムを0.5M(モル)濃度のシュウ酸中で、16℃、80Vで定電圧陽極酸化を行った。その結果、細孔間隔が200nmで、各細孔に対し、正六角形状に周囲の細孔が等間隔に配列した多孔性陽極酸化アルミナ膜を得た。
【0028】
<実施例2>
単結晶シリコン基板上に粒径13nmの酸化鉄にオレイン酸が配位した微粒子のトルエン溶液を滴下、乾燥することにより、16nm周期の二次元的に正六角形状に規則的に配列した構造を得た。得られた16nm周期の酸化鉄微粒子配列に純度99.99%のアルミニウムをDCスパッターにより厚さ800nm程度スパッターした。得られたアルミニウムを基板から剥離し、0.3M(モル)硫酸中で16℃、4Vで陽極酸化を行った。その結果、細孔間隔が16nm周期で各細孔に対し、正六角形状に周囲の細孔が等間隔に配列した多孔性陽極酸化アルミナ膜を得た。
【0029】
<実施例3>
タンパク質(生体高分子)の一種であるフェリチンをグルコース溶液中に注入し、フェリチンが比重差により表面に浮き上がってきた後、グルコース溶液表面に二次元結晶膜を形成した。この膜を基板に転写し、表面に金属をスパッターすることにより、規則的な凹凸構造を有する金属薄膜を形成した。この表面にNiなどを電析により析出させることにより、微粒子配列が転写された凹凸構造を持つ鋳型を作製した。この鋳型をプレスにより研磨加工したアルミニウム表面に押し付けることにより、表面に規則的な凹凸構造を持つアルミニウムを形成した。このアルミニウムを陽極酸化することにより、正六角形状に周囲の細孔が等間隔に配列した多孔性陽極酸化アルミナ膜を得た。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の第1の実施の形態で用いた正六角形状に配列した窪みを有するアルミニウム板の平面図である。
【図2】本発明の第1の実施の形態においてアルミニウム板表面に窪みを形成する手順を説明する概略断面図である。
【図3】本発明の第1の実施の形態において陽極酸化によって多孔性陽極酸化アルミナ膜が形成される様子を説明する概略断面図である。
【図4】本発明の第1の実施の形態において形成された陽極酸化アルミナ膜の平面図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態において微粒子規則配列からアルミニウム表面への規則構造形成のための鋳型を作製する手順を説明する概略断面図である。
【図6】本発明のさらに別の実施の形態における多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製手順を説明する概略断面図である。
【符号の説明】
【0031】
10 アルミニウム板
11 窪み(凹部)
21 基板
22 微粒子
30 陽極酸化アルミナ膜
31 細孔
32 バリア層(無孔層)
33 多孔層
41 基板
42 微粒子
43 金属薄膜
44 金属箔膜
45 金属箔膜と同種あるいは異種の金属
46 鋳型
51 表面凹凸構造
52 モールド
53 アルミニウム
54 窪み
55 細孔
56 多孔性陽極酸化アルミナ膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
規則的に配列した表面凹凸構造をアルミニウム表面に転写する転写工程と、該転写工程により得られたアルミニウム表面の凹凸構造のうち、規則的に配列された複数の窪みを起点として所定形状の細孔を有する多孔性陽極酸化アルミナ膜を形成する陽極酸化工程とを有し、前記転写工程ではアルミニウムを蒸着法によって前記表面凹凸構造の上に析出させて転写することを特徴とする多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製方法。
【請求項2】
前記表面凹凸構造を微細加工法により形成する工程を有する、請求項1の多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製方法。
【請求項3】
規則的に配列した表面凹凸構造をアルミニウム表面に転写する転写工程と、該転写工程により得られたアルミニウム表面の凹凸構造のうち、規則的に配列された複数の窪みを起点として所定形状の細孔を有する多孔性陽極酸化アルミナ膜を形成する陽極酸化工程とを有し、前記表面凹凸構造を、微粒子を規則的に配列することにより形成することを特徴とする多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製方法。
【請求項4】
前記転写工程では、アルミニウムを蒸着法によって前記表面凹凸構造の上に析出させて転写する、請求項3の多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製方法。
【請求項5】
前記規則的に配列する微粒子は、金属、高分子、金属もしくは非金属の酸化物、炭化物または窒化物のいずれかを原料として用いた微粒子からなる、請求項3または4の多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製方法。
【請求項6】
50nm以下の粒径を有する微粒子を用いる、請求項5の多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製方法。
【請求項7】
基板上に微粒子を規則的に配列するとともに、該基板として、前記表面凹凸構造をアルミニウム表面に転写可能な程度に所定の粗な表面形態を有する基板を用いる、請求項3〜6のいずれかに記載の多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製方法。
【請求項8】
前記基板が、シリコン、ガラス、カーボン、マイカなどを材料とするものからなる、請求項7の多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製方法。
【請求項9】
前記転写工程では、微粒子規則配列による表面凹凸構造を転写した鋳型を作製し、該鋳型をアルミニウム表面に押し付けることにより、鋳型の表面凹凸構造をアルミニウム表面に転写する、請求項3、5〜8のいずれかに記載の多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製方法。
【請求項10】
前記陽極酸化工程では、シュウ酸浴中においてアノード酸化電圧が35乃至80Vの電圧範囲で前記アルミニウムを陽極酸化することにより、前記複数の窪みに対応した複数の細孔を形成する、請求項1〜9のいずれかに記載の多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製方法。
【請求項11】
前記陽極酸化工程では、硫酸浴中においてアノード酸化電圧が3乃至28Vの電圧範囲で前記アルミニウムを陽極酸化することにより、前記複数の窪みに対応した複数の細孔を形成する、請求項1〜9のいずれかに記載の多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製方法。
【請求項12】
規則的に配列した細孔の間隔が25nm未満の場合には、陽極酸化時に化成する電圧と細孔間隔との比例定数である約2.5nm/Vから計算された値より低い電圧で化成する、請求項11の多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製方法。
【請求項13】
細孔の間隔が30nm以下の多孔性陽極酸化アルミナ膜を形成する、請求項1〜12のいずれかに記載の多孔性陽極酸化アルミナ膜の作製方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の方法により作製された、細孔の間隔が30nm以下の多孔性陽極酸化アルミナ膜。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−231580(P2008−231580A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−172149(P2008−172149)
【出願日】平成20年7月1日(2008.7.1)
【分割の表示】特願2003−311362(P2003−311362)の分割
【原出願日】平成15年9月3日(2003.9.3)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成15年3月25日 社団法人 電気化学会発行の「電気化学会創立70周年記念大会 講演要旨集」に発表
【出願人】(591243103)財団法人神奈川科学技術アカデミー (271)