説明

多孔質シート及びその製造方法

【課題】透明性の高い、高断熱な多孔質シートを提供する。
【解決手段】平均空孔径が10nm以上70nm以下の空孔を有する中空粒子を含有する分散液を濃縮及び成型した後、乾燥することを特徴とする多孔質シート及びその製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ナノレベルの空孔を有する多孔性骨格の構造体からなる断熱材の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般住宅やオフィス用ビル等の建物において、冷暖房に係るエネルギーの出入りの大部分はガラス窓やガラス扉を介するものである。窓の機能を損なわないような、断熱性、光透過性に優れた透明断熱材料として、極めて低密度なシリカの乾燥ゲル体であるシリカエアロゲルが検討されている。しかし、その製造工程は、ゾルゲル反応による網目構造形成に時間がかかる欠点がある。また、得られた網目構造がランダムであるため、構造の柔軟性が低く、シート状に成型するためには乾燥が均一に進むように、注意深く、長時間をかけて行う必要が(例えば、非特許文献1参照)ある。しかしこの方法でも10cm角以上の大きさのシートを得ることは容易でない。
【0003】
一方、シリカを中心とした、中空粒子を断熱材料に用いる試みも(例えば、特許文献1参照)ある。中空粒子は、個々の形状が球状に近いため、圧縮、引っ張り等の機械的ストレスに強い特徴がある。特許文献1には、中空粒子の分散液を用いた断熱塗料が提案されている。しかし、この断熱塗料等に適する分散液の作製方法を提供しているものの、均一な成型体の作製方法を提供するものではない。
【0004】
さらに中空粒子を樹脂に練り込み、中空粒子を分散させたフィルムを作製する方法も提案されて(例えば、特許文献2参照)いる。この手法では、樹脂中に分散させるため、樹脂に対する体積分率を大きくすることが困難であり、十分な断熱性を得ることができないという課題がある。
【0005】
さらに、シリカの脆弱さを補うことができる、有機置換基を導入したランダムな構造を持つゲルの作製方法も提案されているが、作製方法に制約があり、その結果、十分な空隙率を得ることができず、透明性が低い(例えば、特許文献3参照)という課題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2009−107857号公報
【特許文献2】特開2007−70458号公報
【特許文献3】特開2007−99540号公報
【非特許文献】
【0007】
【非特許文献1】「マルチセラミックス膜新断熱材料の開発」NEDO報告H21.8.6
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は上記課題に鑑みなされたものであり、その目的は、透明性の高い、高断熱な多孔質シートを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の課題は、以下の構成により達成される。
【0010】
1.平均空孔径が10nm以上70nm以下の空孔を有する中空粒子を含有する分散液を濃縮及び成型した後、乾燥することを特徴とする多孔質シートの製造方法。
【0011】
2.前記濃縮の方法が、前記分散液の加圧濾過であり、加圧が0.1MPa以上20MPa以下であることを特徴とする前記1に記載の多孔質シートの製造方法。
【0012】
3.前記中空粒子の平均粒子径が100nm以上500nm以下であることを特徴とする前記1又は2に記載の多孔質シートの製造方法。
【0013】
4.前記1から3のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする多孔質シート。
【0014】
5.前記中空粒子の材料が有機・無機ハイブリッド材料であることを特徴とする多孔質シート。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、透明性の高い、高断熱な透明多孔質シートを得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明を実施形態に基づいて説明するが、これらに限定されるものではない。
【0017】
(多孔質シートの構成)
本発明の多孔質シート製造方法においては、平均空孔径が10nm以上70nm以下の空孔を有する中空粒子を用いる。
【0018】
本発明に係る中空粒子とは、粒子の内部に空孔を有する粒子をいう。空孔とは、空気等のガス、真空空間又は最終的に除去される液体等が存在している部分をいう。中空粒子における空孔の外側部分はシェルとも呼ばれる。シェルは薄膜状であるが、一部に穴が開いているものもある。特に微細な中空粒子では、小さな粒子が、網目状につながって面状になっているものもある。本発明においては、どのような形態の中空粒子を用いてもかまわないが、中空内部の空気分子の動きを抑制することができるため、シェルに存在する穴が少ない方が好ましい。さらには、シェルに穴が存在しない方がより好ましい。
【0019】
また、中空粒子の空孔径は、内部に存在する気体の平均自由工程よりも短いことが好ましい。気体の平均自由工程は、気体の種類、圧力、温度などに依存するが、室温の空気では、およそ70nmである。そのため平均空孔径は、70nm以下が好ましく、さらに好ましくは50nm以下である。一方、中空粒子のシェルの厚みは、強度向上のため、ある程度の厚みを持たせることが好ましい。そのため、平均空孔径が10nm以上であることが好ましい。また、空孔径が10nm以上であることによりシェルの形成が容易にできるため、中空粒子としての空隙率が上がる。その結果、多孔質シート全体としての空孔率も上がるため好ましい。また多孔質シートとしての厚みは、0.1mm以上が好ましく、更に好ましくは1mm以上である。また多孔質シートの厚みが20mm以下であることが好ましい。20mm以下であると、多孔質シートの透明性を得ることができるため、好ましい。
【0020】
(空孔径、空隙径、空隙率、粒子径)
本発明における平均空孔径は、中空粒子の空孔を同体積の球に換算した時の直径(球換算空孔)の数平均値であり、この値は電子顕微鏡写真から評価することができる。例えば、日本電子製透過型電子顕微鏡(JEM2010F)に備えられた画像処理プログラムを使用し、球換算粒径の数平均値を算出することができる。即ち、多孔質シートの透過型電子顕微鏡写真を撮影し、一定の視野範囲にある中空粒子の空孔径を100個以上測定して各粒子の球換算粒径を求め、その数平均値を求めることにより測定することができる。前述のように、本発明における平均空孔径は、10nm以上70nm以下が好ましく、さらに好ましくは、10nm以上50nm以下である。
【0021】
また、本発明における平均粒子径は、中空粒子の凝集体を同体積の球に換算した時の直径の数平均値であり、この値は光散乱法により測定することができる。すなわち、レーザなどの光源を用いた光散乱法に基づく粒度分布測定装置によって粒度分布を測定し、その平均値から平均粒子径を求めることができる。光散乱法による測定方法として、例えば、マルバーン社製のゼータサイザー3000HSを使用し、平均粒子径を算出することができる。本発明における平均粒子径は、50nm以上1000nm以下が好ましく、さらに好ましくは、100nm以上500nm以下である。
【0022】
また本発明では、あらかじめ空孔を有する中空粒子を濃縮し成型するため、中空粒子間にも空間が発生する。本発明における空隙は、中空粒子の空孔と粒子間の空間を両方含めたものを指す。シート状に成型したときの空隙径は、水銀圧入法、小角X線散乱測定装置、TEM測定などで測定可能である。本発明における平均空隙径は、例えば水銀圧入法を用いる場合、オートポアIII9420(島津製作所製)により測定した空隙径を数回測定して、その数平均値を求めることにより測定することができる。本発明における平均空隙径は、20nm以上70nm以下であることが好ましく、さらに好ましくは、25nm以上60nm以下である。
【0023】
また本発明における空隙率は、見かけの比重と素材の真比重から算出できる他、適当な液体をシートに吸わせ、そのときの質量変化と見かけの体積変化から吸液量を計算し、元の空隙率に換算することも可能である。本発明における空隙率は、90%以上であることが好ましい。
【0024】
(多孔質シートの材料)
本発明における中空粒子の材料は、有機材料、無機材料又は有機・無機ハイブリッド材料の一種あるいは、これらを組み合わせて用いることができる。
【0025】
有機材料としては、例えばスチレン樹脂、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、ポリエーテルポリウレタン樹脂、ポリカーボネートポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、アミノ樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ブタジエン−アクリロニトリル樹脂等のゴム系樹脂等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0026】
無機材料としては、シリコーン樹脂等の樹脂材料や、アルミナ、チタニア、シリカ、ジルコニア等の金属酸化物等が用いられるがこれらに限定されるものではない。これらの中で、微細な空孔を形成する上で粒径や構造体のサイズの制御のし易さから、シリカが好ましく用いられる。
【0027】
また有機・無機ハイブリッド材料としては、前記有機材料として挙げた樹脂にケイ酸メチルあるいはケイ酸エチル、またはそれらのオリゴマー等のシランカップリング剤等で無機成分を結合させたものや、有機基が結合したシランカップリング剤を縮合したもの、あるいはチタンやジルコニア等のアルコキシド等を有機基に結合させたもの等が用いられるが、これらに限定されるものではない。これらの中で、微細な空孔を形成する上で粒径や構造体のサイズの制御のし易さから、シランカップリング剤を有機基に結合した材料が好ましく用いられる。
【0028】
上記材料のうち、シート化における均一化の容易性や、ナノサイズ化した場合の構造安定性を鑑みると、有機・無機ハイブリッド材料の使用が好ましい。
【0029】
本発明では、中空粒子を含有する分散液を濃縮しながら成型する。成型に必要な粒子の結着を行うため、分散媒に空隙率を低下させないレベルで少量のバインダーを含有させておくことも可能である。溶液状態でも、ラテックスのような分散状態でもよい。バインダー材料としては、多糖類、熱可塑性樹脂およびゴム弾性を有するポリマーなどが挙げられ、どのような材料を用いても良い。配合量は分散液全体に対して5質量%〜30質量%が好ましく、特に10質量%〜20質量%が好ましい。
【0030】
中空粒子の表面に表面処理として各種の結合性官能基を設けることも好ましい。イソシアネート基やビニル基など、重合性の架橋基を導入することは好ましい。また、シラノール基や、エポキシ基など、公知の反応性基はすべて適用可能である。
【0031】
(中空粒子の作製方法)
中空粒子の作製方法としては、例えば下記のような手法が知られている。
(1)コアになる粒子にシェルを設けた後、コア部分のみを除去する方法を用いることにより中空粒子を作製することができる。コアになる粒子としては、金属酸化物や、金属炭酸塩、金属などが用いられる。
(2)O/W/O型のミセルを利用する方法により中空粒子を作製することができる。具体的には、ミセルの界面でシェルを析出させた後、内部の液体の除去をすることにより中空粒子を作製することができる。ミセルのため、内部の液体の除去が容易である。
(3)気泡の周りにシェルを設け、内部を中空化することにより中空粒子を作製することができる。この方法を用いると内部が気泡となっているため、内部を除去する必要が無い。
【0032】
これらの手法に限らず、平均空孔径が10nm以上70nm以下の空孔を有する中空粒子の空孔を設けることができればどのような手法を用いてもよい。好ましくはコアになる粒子にシェルを設けた後、コアを除去して中空粒子を作製する方法である。理由としては、平均空孔径が10nm以上70nm以下の空孔を有する中空粒子を製造しやすいためである。その他の理由として、コアになる粒子を内部に残したまま、加熱処理をすることができるため、シェルを安定化した後でコアを除去するプロセスがとり易いこともある。
【0033】
(中空粒子の分散液作製法)
液体である分散媒に分散した状態で中空粒子を作製することが容易なため、本発明における分散媒は中空粒子を作製する当初の液体に分散された状態で用いることが好ましいが、置換等の方法により特定の液体に置換したり、別の液体を加えた混合物であっても良い。特に好ましくは、水または有機溶媒であり、後の乾燥工程の負荷を鑑み沸点が150度以下の液体が好ましい。
【0034】
中空粒子の分散液では、中空粒子が凝集した状態で存在することが多いため、各種方法で分散処理を行い、平均粒子径を制御することも好ましい。分散法として、高速攪拌、高圧分散、超音波分散又は微小ビーズを用いたメディア分散などが適用可能である。これらに限らず公知の手法が適用可能であるが、特に高圧分散やメディア分散が好ましい。
【0035】
分散機を用いる以外の平均粒子径の制御方法も使用可能である。たとえば、コア粒子にCaCOを用い、塩酸で溶解し中空粒子とする場合、激しく発生するCOガスにより、中空粒子の凝集を解き、平均粒子径を小さくすることもできる。あるいは、内部に液体が存在する条件化で冷却し、固体とすることで起きる体積膨張を小粒形化に利用する方法なども適用可能である。
【0036】
中空粒子における平均粒子径は、50nm以上1000nmが好ましく、さらに好ましくは100nm以上、500nm以下である。当該範囲にあると、平均空隙径が70nm以下に調整し易く、均一な空孔を有する多孔質シートを製造することが容易になるためである。
【0037】
(濃縮、成型、乾燥方法)
本発明における濃縮とは、分散媒の液体成分を分散液から分離して、結果として中空粒子の濃度を上昇させることをさす。粒子の濃度がある程度以上に上昇すると、粒子間距離が短くなり粒子の接触、固定化が進むため、結果としてゲル化、凝集状態(粒子全体がくっつき、成型された状態)になる。このときの濃度は、粒子径や分散媒の種類、中空粒子の表面状態に依存し、一概には述べられないが、およそ中空粒子として空孔を粒子体積に含めたときに、粒子体積の液全体に占める割合が5体積%以上になるまで濃縮された時点で起きる。本発明においては、粒子の分散状態が安定で、10体積%以上まで濃縮された時にゲル化・凝集が始まるような状態が好ましい。粒子の細密充填に近い70体積%までにはこのような現象が起きる事が多い。本発明では、ゲル化が強固に進む前に、ある程度の速度で加圧を行う事で必要なレベルまで強制的に濃縮を行い、乾燥負荷を低減する事もできる。
【0038】
濃縮方法として、a)加熱、減圧による溶媒の留去や、b)遠心分離による比重差を利用した分離、c)加圧を利用した加圧濾過による分離などがあげられる。これらの濃縮時には、粒子のゲル化・凝集が急速に進むため、途中で型に移すことが困難である。そのため、濃縮はシート型の中で進められることが好ましい。特に遠心分離や加圧濾過による濃縮は均一に濃縮しやすい。また分散液状態で濃縮を行うことで、液体を用いない単なる粉体のプレスに比べ均一に成型しやすいメリットがある。特に、加圧を利用した加圧濾過による濃縮、成型は、装置が単純にできることから好ましい。ここでいう均一とは、空隙率や、空孔径のシート面内方向でのばらつきが少ないことをいう。厚み方向にもこのようなばらつきが無いことが好ましい。
【0039】
加圧濾過の場合、圧力は、0.1MPa以上20MPa以下であることが好ましい。さらに好ましくは、1MPa以上20MPa以下である。当該範囲であると、濃縮の時間が短時間となり、また均一な多孔質シートを製造することができる。
【0040】
加圧濾過による濃縮方法では、a)型に入れ機械的にプレスする手法や、b)送液ポンプを用いて液を介し、型内で加圧する手法などが挙げられる。さらに詳細に説明する。
【0041】
a)機械的にプレスする方法では、所定の大きさの2枚のプレス板で上下から挟み、周辺部は枠材で密閉する。上下のプレス板の内、少なくとも1枚は細孔を有している。中空粒子が1000nm以下と微粒子であるため、細孔径も小さいことが必要になる。目安としては、微粒子の2−3倍程度の細孔径である必要があり、200nmであれば500nm以下の微細な細孔を有する板が必要になる。適する板としては、セラミック多孔板が好ましい。このような細孔を有する板を使用すると、濾過抵抗が大きくなり、高圧を発生させられる大型のポンプが必要になるため、100nm以上の細孔を有する板を用いることが好ましい。あるいは、有機の薄いMF膜やUF膜を、それより若干細孔径の大きなセラミック多孔板上に張り合わせて用いる事で補強し、小さな細孔径と、十分な濾過速度を得ることが可能である。
【0042】
b)の液を用いて加圧濾過する手法では、所定量の中空粒子分散液を、型内に圧を加えながら注入する。a)と同様に微細な細孔を有する板をシート状の型の少なくとも1面に配する。細孔に必要な条件は、a)と同様である。
【0043】
a)、b)で加圧濾過時、あるいは分散液の注入時に目詰まりが起きた場合、若干逆洗浄を行い、再び加圧濃縮するなど、濾過で用いられる一般的な手段は適用可能である。
【0044】
本発明における成型とは、型に中空粒子を含有した分散液を注入して形を作ることをいう。成型は、分散液を濃縮した後に行っても、分散液を濃縮をしながら行ってもよい。
【0045】
型内で一体化し成型された状態になった後、加熱や減圧で残りの溶媒を除去、乾燥することで多孔質シートを製造することができる。本発明における乾燥は、熱風、真空、赤外線、遠赤外線、電子線および低湿風を単独あるいは組み合わせた方法を用いることできる。乾燥温度としては40〜200℃が好ましい。乾燥時間は、1〜60分で行うことが好ましい。
【0046】
乾燥を行うに際して、溶媒を乾燥収縮のおき難い、中空粒子表面との界面張力の小さい溶媒に置換してから行うことも可能である。このような溶媒の例として、アセトン、フッ素系溶媒等を用いることができる。また、水を乾燥させる場合、高湿下での乾燥である加熱水蒸気乾燥を利用することも好ましい。超臨界乾燥を用いることも可能で、中空粒子を用いる本発明では、通常のエアロゲル乾燥に比べ、乾燥条件の厳密な制御が不要であるという利点がある。
【0047】
(透明基材)
本発明の主要構成ではないが、得られた多孔質シートの少なくとも片面を透明基材に貼合して使用することが好ましい。透明基材としては可撓性のあるガラス基板や樹脂製の基板が好適である。樹脂基材に用いられる樹脂としては、例えば塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル樹脂、酢酸ビニル樹脂、酢酸ビニルとビニルアルコールの共重合体、部分加水分解した塩化ビニル−酢酸ビニル共重合体、塩化ビニル−塩化ビニリデン共重合体、塩化ビニル−アクリロニトリル共重合体、エチレン−ビニルアルコール共重合体、塩素化ポリ塩化ビニル、エチレン−塩化ビニル共重合体、エチレン−酢酸ビニル共重合体等のビニル系重合体または共重合体、ニトロセルロース、セルロースアセテートプロピオネート(好ましくはアセチル基置換度1.8〜2.3、プロピオニル基置換度0.1〜1.0)、ジアセチルセルロース、セルロースアセテートブチレート樹脂等のセルロース誘導体、マレイン酸及び/またはアクリル酸の共重合体、アクリル酸エステル共重合体、アクリロニトリル−スチレン共重合体、塩素化ポリエチレン、アクリロニトリル−塩素化ポリエチレン−スチレン共重合体、メチルメタクリレート−ブタジエン−スチレン共重合体、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール樹脂、ポリビニルアセタール樹脂、ポリビニルブチラール樹脂、ウレタン樹脂、ポリエステルポリウレタン樹脂、ポリエーテルポリウレタン樹脂、ポリカーボネートポリウレタン樹脂、ポリエステル樹脂、ポリエーテル樹脂、ポリアミド樹脂、アミノ樹脂、スチレン−ブタジエン樹脂、ブタジエン−アクリロニトリル樹脂等のゴム系樹脂等を挙げることができるが、これらに限定されるものではない。
【0048】
透明基材の厚みとしては、多孔質シートとしてのハンドリングを考慮し、50〜1000μm、好ましくは70〜500μmである。
【実施例】
【0049】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例において「%」の表示を用いるが、特に断りがない限り「質量%」を表す。
【0050】
(製造例)
〈中空粒子及び分散液の作製〉
(実施例1〜12、15、16、18、19)
表面処理された微粒子炭酸カルシウム(白石工業(株)製、Actifort700、1次粒径20nm)24gを450gのエタノール中に投入し、メディア分散機(壽工業(株)製、ウルトラアペックスミル、0.05mmジルコニアビーズ使用)で炭酸カルシウムを分散させた。そこに、28%アンモニア水21g、テトラエトキシシラン3.8g、メチルトリメトキシシラン2.5gを添加し、12時間撹拌を続け、有機官能基を有するシリカによりコートされた炭酸カルシウムを調製した。
【0051】
つづいて、シリカによりコートされた炭酸カルシウムのスラリーを吸引ろ過にて脱液、エタノール1200mlによる洗浄、及び水1200mlによる洗浄を行った後、再び水800ml中に分散させた。
【0052】
そこに、2.5モル/lのHClを200ml添加(液全体の酸濃度0.5モル/l)し、1時間撹拌して炭酸カルシウムを溶解させた。
【0053】
この中空粒子の作り方において、コアとなる炭酸カルシウムの粒径を60nm、100nmとしたものをそれぞれシェル化し、平均空孔径の異なる中空粒子を得ることが出来た。
【0054】
(実施例13、14、17)
実施例3において、メチルトリメトキシシラン2.5gの代わりに、テトラエトキシシランを3.9g加えた以外は同様にして、実施例13、14の中空粒子を作製した。
【0055】
実施例17では、4nmの超微粒子ダイヤモンド(ナノ炭素研究所製)をコアにし、シリカを用いてシェルを作製した。0.1%でエタノールに分散されたダイヤモンド分散液450gに、実施例13と同様にシリカによりコートした後、600℃で焼成し、平均空孔径が5nmの中空粒子を得た。得られた塊を予備解砕後、再び450gのエタノール中にウルトラアペックスミルを用いて分散し、中空粒子の分散液とした。
【0056】
〈濃縮、成型方法〉
得られた中空粒子を含有する分散液を用いて、下記のように濃縮、成型及び乾燥を行った。実施例1〜14、17〜19は、(濃縮・成型1)を用いた。また、実施例15は(濃縮・成型2)を、実施例16は(濃縮・成型3)を用いた。
【0057】
(濃縮・成型1)加圧濾過:
底面を200nmの多孔板とする、高さ20cm、直径11.2cm筒状の型に得られた中空粒子分散液1lを入れて、型の上側をOリングを嵌めた円盤で密閉状態になるようにして所定の圧力で加圧した。型の高さが2mmになるまで加圧を続けた。
【0058】
(濃縮・成型2)遠心分離:
遠心分離機(月島機械(株)製)内部に、200nmの多孔板を設置し、遠心分離で2000Gを与え、1lの液を20mlに濃縮した。あらかじめ10cm角の板上に濃縮された液が堆積するように液を設置し、得られたシートの厚みは約2mmであった。
【0059】
(濃縮・成型3)減圧濾過:
底面を200nmの多孔板とする高さ20cm、直径11.2cm筒状の型に入れた中空粒子の分散液を、底面から減圧濾過した。減圧は40Torr(1Torrは、1.33322×10である)とし、脱水により厚みが2mmになるまで続けた。
【0060】
〈乾燥方法〉
各種の濃縮法で得られた成型シートを十分な量のアセトンに1日浸漬して置換した後、さらにフッ素系溶媒(3M社製 HFE−7100)に1日置換した。その後、乾燥窒素を導入した50度のオーブン内で、溶媒を完全に乾燥した。
【0061】
〈評価方法〉
中空粒子の空孔径:FIB(集束イオンビーム)で切断した粒子の空孔径を日本電子製透過型電子顕微鏡(JEM2010F)で測定し、100個の粒子の平均値を求めた。
【0062】
(評価1)
中空粒子の平均粒子径:マルバーン社製のゼータサイザー3000HSを用い、体積換算平均粒子径として求めた。
【0063】
(評価2)
空隙径:オートポアIII9420(島津製作所製)を用い、水銀圧入法による平均空隙径の測定を行った。具体的には、オートポアIII9420(島津製作所製)により5回測定して、その数平均値を求めることにより測定した。
【0064】
(評価3)
熱伝導率:熱線プローブ式熱伝導率測定装置(京都電子工業(株)製 QTM−500)を用い測定を行った。熱伝導率が低いほど、断熱性が高いということになる。
【0065】
(評価4)
光透過率:紫外可視分光光度計(日本分光(株)製 V−570)にて光透過率を測定し、JIS R3106に基づいて光透過率を求めた。光透過率が高いほど、透明性が高いということになる。
【0066】
(実施例1〜19の説明)
実施例1〜19において、表1に記載の通りの条件で実験を行った。
【0067】
実施例1〜19における平均粒子径は、中空粒子作製時のアペックスミルによる分散時間を調節する事で調整した。3000nmの平均粒子径の中空粒子を作製するには2分程度の分散時間が必要であり、25nmの平均粒子径を得るには、120分の分散時間が必要であった。その後のシェル化で、25nmのコア粒子を用いた場合のみ、平均粒子径が30nmまで増大したが、他の粒子では粒子径の増大は測定されなかった。なお、どの系もシートの空隙率はほぼ95%であったが、実施例6は、濃縮方法として特に加圧等を行わなかったため、3日間放置しても18mmまでしか濃縮させられなかった。その後そのまま乾燥したため、一体化されなかった中空粒子が型壁面へ局所的に付着物として残ったままになり、空隙率は求められなかった。
【0068】
実施例5では、急速に濃縮が進んだため、局所的に液体の流出が進んだ部分ができた。結果として、多孔質シートに流れ模様の亀裂が入り、多孔質シートが破壊された状況になった。
【0069】
実施例19では、濃縮の際に多孔板の代わりに、孔のないセラミック板を用いた為、液が濃縮されず、多孔質シートの一体化もおこらなかった。
【0070】
実施例11、12では、凝集粒子の端に位置する中空粒子が極端に変形し、空隙がほとんど見られなくなっている粒子もあった。逆に、凝集粒子間に大きな空隙が残っており、空隙径の分布が2つに別れたと想定される。
【0071】
実施例13でも、凝集した中空粒子同士の間隙に比較的大きい空隙が残っていることが確認された。
【0072】
その他実施例1〜19で得られた各多孔質シートの評価結果を表1に示す。
【0073】
【表1】

【0074】
表1の物性評価結果から明らかなように、本発明に係わる多孔質シートは、高い断熱性、透明性を有していることがわかる。本発明の製造方法による多孔質シートは、窓用の断熱材として用いるのに好適である。また、住宅だけでなく、車両、その他の窓にも用いる事が出来る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平均空孔径が10nm以上70nm以下の空孔を有する中空粒子を含有する分散液を濃縮及び成型した後、乾燥することを特徴とする多孔質シートの製造方法。
【請求項2】
前記濃縮の方法が、前記分散液の加圧濾過であり、加圧が0.1MPa以上20MPa以下であることを特徴とする請求項1に記載の多孔質シートの製造方法。
【請求項3】
前記中空粒子の平均粒子径が100nm以上500nm以下であることを特徴とする請求項1又は2に記載の多孔質シートの製造方法。
【請求項4】
請求項1から3のいずれか1項に記載の製造方法により製造されたことを特徴とする多孔質シート。
【請求項5】
前記中空粒子の材料が有機・無機ハイブリッド材料であることを特徴とする多孔質シート。

【公開番号】特開2012−67192(P2012−67192A)
【公開日】平成24年4月5日(2012.4.5)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−213253(P2010−213253)
【出願日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【出願人】(000001270)コニカミノルタホールディングス株式会社 (4,463)
【Fターム(参考)】