説明

多孔質セラミックス焼成体の製造方法。

【課題】多孔質セラミックス焼成体の保水性能を向上させて、例えば、ヒートアイランド対策用に好適な吸水速度が速く、吸水率が高く、その上、放水速度が遅い多孔質セラミックス焼成体を提供する。
【解決手段】風化火山灰の焼成物と、焼成されたバーミキュライトとを含有し、17%以上の開気孔率を有する焼成体であることを特徴とする多孔質セラミックス焼成体にあり、この多孔質セラミックス焼成体は、大きい吸水性能及び保水性能を有し、一旦保水した水分を長時間に亘って徐々に放出する性能を有しており、比較的安価に、且つ、安定して大量に供給することができるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質セラミックス焼成体及びその製造方法に関し、特に、高い吸水速度及び高い吸水率を有し、また、一旦、吸水又は保水した水について徐放性を有して、保水材又は保水体として有用な多孔質セラミックス焼成体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多孔質セラミックス焼成体は、セラミックス多孔体として、例えば、構造材料、フィルター、生体材料、触媒担体、耐火材、断熱材、防音材料などとして、様々な分野で広範にわたり使用されている。しかし、セラミックス多孔体は、殆ど、焼成工程を経て製造されており、一般に、保水性及び放湿性が低いものとなっている。
鹿沼土、大沢土及び膠質土等の風化火山灰は、それに含まれるアロフェン等による保水能力を利用して、顆粒状のまま園芸土として利用されている。アロフェンは、含水アルミニウム珪酸塩であって、30〜50オングストロームの外径で、水分子が出入りできる孔を有する中空の粒子からなっている。アロフェンを、モルタル、石膏、消石灰、ドロマイト等の凝結硬化剤と混合し、必要に応じて更に水を添加して混練し、混練物を押し出し、養生硬化させたることにより、調湿建材とし、又は、アロフェンと、木節粘土、蛙目粘土、珪石、陶石等の他のセラミック原料と混合し、プレス成形し、焼成して得られた保水性及び放湿性を有する調湿建材は、知られている(特許文献1参照)。
また、バーミキュライトは、熱処理や、化学処理により膨張する性質を利用して、園芸土や断熱材などに使用されている。また、吸湿性はあるが放湿性が不十分な石膏、セメント、珪酸カルシウム、スラグ石膏等の水硬性材料に、未膨張バーミキュライトを配合した建材用組成物において、さらに膨張バーミキュライトを配合して、放湿能力を向上させた建材組成物は、知られている(特許文献2参照)。
【特許文献1】特開平8−144387号公報
【特許文献2】特開2003−146719号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
従来、焼成工程を経て製造された多孔質セラミックス焼成体においては、いずれもその中に存在する気孔の面は、反応性に乏しい不活性な物質から構成されている。そのために、気孔率が大きい多孔質セラミックス焼成体の場合は、その気孔内に水分を吸水することとなって、吸水能力は大きくなるが、乾燥条件下では、吸水していた水分は速やかに放出されてしまう。特に、ガラス粉末を成形・焼成して得られる発泡セラミックスは、高い気孔率を有するため、非常に高い吸水率が得られる。しかし、気孔がインクボトル状の狭い通路を経て外部と繋がっているため、吸水速度が遅い割には、放水速度が速く、高い保水性能を得ることができず、問題とされている。
【0004】
風化火山灰は、軽石として、又は粘土として大量に存在し、中空で球形状のナノ粒子のアロフェンやイモゴライトを含み、低温での焼結性と保水性に優れている。しかし、風化火山灰は、セラミックス素材として、一部が使用されるにとどまっており、最近、調湿建材、その他新しい用途の開発が始められている。また、大量に存在するバーミキュライトは、板状の形態で熱処理や化学処理により膨張して多孔質となる性質を有し、また、板状であるため流体の透過に対する遮蔽的な作用を有し、そして、他の粒子と複合し焼成したときに強度を向上させる働きなどを有しているが、断熱材料や遮音材料など建材として、一部が使用されるにとどまり、新しい用途の開発が望まれている。
【0005】
また、例えば、ヒートアイランド現象を避けるための一つとして、吸水速度が速く、吸水率がおおきく、しかもその上、水分の放出速度が遅い材料が望まれている。
本発明は、吸水速度が速く、吸水率が高く、しかもその上、水分の放出速度が遅い性質を有して、比較的低廉で、ヒートアイランド対策用に好適な、例えば保水性アスファルト舗装のフィラー材、舗道ブロック材及び保水性建材として使用可能なセラミックス材料を提供することを目的としている。
本発明者らは、吸水速度が速く、吸水率がおおきく、しかもその上、水分の放出速度が遅い性質を有する多孔質セラミックス材料を得るには、多孔質セラミックス焼成体の保水性能を向上させることが必要であると考えて、多孔質セラミックス焼成体の製造に用いる原料について検討を行い、特に、風化火山灰及びバーミキュライトの性質に着目して、これらを素材にして形成される多孔質セラミックス焼成体の微細構造の関係を調べ、本発明に至った。
【課題を解決するための手段】
【0006】
また、本発明者らは、風化火山灰とバーミキュライト粉末を、粉末状で又はペースト状で混合し、乾燥、焼成することで多孔質セラミックス焼成体を製造することができ、これにより得られた多孔質セラミックス焼成体は、水分を保持する気孔を有して保水性がある、例えば、素材として使用するアロフェン粒子及びバーミキュライト粒子により、吸水速度が速く、且つ吸水率が大きいにも拘わらず、水分の放出速度が遅く、また保水機能に優れる性質を有することを発見した。
【0007】
本発明は、多孔質セラミックス焼成体の保水性能を向上させて、例えば、ヒートアイランド対策用に好適な吸水速度が速く、吸水率が高く、その上、放水速度が遅いセラミックス多孔体を提供することを目的としている。
即ち、本発明は、風化火山灰の焼成物と、焼成されたバーミキュライトとを含有し、17%以上の開気孔率を有する焼成体であることを特徴とする多孔質セラミックス焼成体にあり、また、本発明は、風化火山灰の焼成物と、焼成されたバーミキュライトと、焼成された廃ガラス粉末とを含有し、17%以上の開気孔率を有する焼成体であることを特徴とする多孔質セラミックス焼成体にあり、さらに、本発明は、風化火山灰の焼成物の30乃至90質量部と、焼成されたバーミキュライトの10乃至70質量部とを含有し、17%以上の開気孔率を有する焼成体であることを特徴とする多孔質セラミックス焼成体にあり、さらにまた、本発明は、風化火山灰の焼成物の50乃至80質量部と、焼成されたバーミキュライトの10質量部と、焼成された廃ガラス粉末の10乃至40質量部とを含有し、17%以上の開気孔率を有する焼成体であることを特徴とする多孔質セラミックス焼成体にある。そしてこれらに加えて、本発明は、風化火山灰と、バーミキュライトとの混合物を成形し、この成形物を、500乃至1000℃の温度で加熱して、17%以上の開気孔率を有する多孔質セラミックス焼成体を製造することを特徴とする多孔質セラミックス焼成体の製造方法にあり、また、本発明は、風化火山灰と、バーミキュライトと、廃ガラス粉末との混合物を成形し、この成形物を、500乃至1000℃の温度で加熱して、17%以上の開気孔率を有する多孔質セラミックス焼成体を製造することを特徴とする多孔質セラミックス焼成体の製造方法にあり、さらにまた、本発明は、風化火山灰の30乃至90質量部と、バーミキュライトの10乃至70質量部を含有する混合物を成形し、この成形物を、500乃至1000℃の温度で加熱して、17%以上の開気孔率を有する多孔質セラミックス焼成体を製造することを特徴とする多孔質セラミックス焼成体の製造方法にあり、さらに加えて、本発明は、風化火山灰の50乃至80質量部と、バーミキュライトの10質量部と、廃ガラス粉末の10乃至40質量部を含有する混合物を成形し、この成形物を、500乃至1000℃の温度で加熱して、17%以上の開気孔率を有する多孔質セラミックス焼成体を製造することを特徴とする多孔質セラミックス焼成体の製造方法にある。
【0008】
そして、本発明の焼成体において、焼成されたバーミキュライトは、その一部に、バーミキュライトより少ない量の焼成された雲母若しくはタルク又はこれの混合物を含むものとすることができる。また、本発明において、焼成体は、さらに、発泡ガラス粉末焼成物、ガラス繊維焼成物、セピオライト焼成物、セメント粉末焼成物若しくは有機質粉末焼成物又はこれら二以上の焼成物の混合物を含有するものとすることができる。さらに、本発明の焼成体及びその製造方法において、風化火山灰と、バーミキュライトとの混合物は、更に、発泡ガラス粉末、水ガラス、ガラス繊維、セピオライト、セメント粉末若しくは有機質粉末又はこれらの二以上の混合物を含有するものとすることができる。
本発明の焼成体の製造方法において、原料のバーミキュライトは、バーミキュライトの一部に、バーミキュライトより少ない量の雲母若しくはタルク又はこれの混合物を含むものとすることができ、また、バーミキュライトの一部を、バーミキュライトより少ない量の雲母若しくはタルク又はこれの混合物で置換することができる。本発明の焼成体の製造方法において、バーミキュライトは、焼成されたバーミキュライト若しくは未焼成バーミキュライト又はこれらの混合物とすることができる。
【発明の効果】
【0009】
本発明の多孔質セラミックス焼成体は、例えば、30乃至90質量部の風化火山灰の焼成物と、10乃至70質量部の焼成されたバーミキュライト、雲母若しくはタルク又はこれら二以上の混合物とを含有し、17%以上の開気孔率を有するものであり、大量に存在する風化火山灰と、大量に存在するバーミキュライト、雲母若しくはタルク又はこれら二以上の混合物とを原料にして製造されるものである。そして、本発明の多孔質セラミックス焼成体は、概略1.1であって、軽量であり、大きい吸水性能及び保水性能を有して、一旦保水した水分を長時間に亘って徐々に放出する性能、即ち、徐放性を有するものであり、比較的安価に、しかも、安定して大量に供給することができるものである。したがって、本発明の多孔質セラミックス焼成体は、例えば、ヒートアイランド対策用の保水材料として、保水性アスファルト舗装のフィラー材、舗道ブロック材、及び屋根材や外壁材などの保水性建材などに使用可能なものであり、これにより、風化火山灰及びバーミキュライトの用途の拡大を図ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明の多孔質セラミックス焼成体は、風化火山灰の焼成物と、焼成されたバーミキュライトとを含有し、17%以上の開気孔率を有する焼成体である。本発明において、多孔質セラミックス焼成体は、風化火山灰と、バーミキュライトとを、乾式法により例えば粉末状態で混合し、又は湿式法により例えばペースト状で混合して、成形後、乾燥、焼成することで製造することができる。本発明において、バーミキュライトは、その一部を、雲母若しくはタルク又は雲母及びタルクの混合物で置換して原料とすることができる。
本発明において、風化火山灰は、その中に中空で球形状のナノ粒子であるアロフェン及び/又はイモゴライトを含み、比較的低い温度での焼結性を有するものであれば、産地の如何に係らず使用可能である。一方、バーミキュライトは、900℃以下の温度で膨張する性質を有するものであれば、マグネシウムバーミキュライト、カリウムバーミキュライト及びその他のバーミキュライトを使用することができる。しかし、800℃以下の温度、より好ましくは、500℃以下の温度で膨張する性質を有するバーミキュライトであるのが、比較的低い温度でバーミキュライトを膨張させることができるので好ましい。
【0011】
本発明において、風化火山灰とバーミキュライトの混合は、粒状物若しくは粉状物又は粒状物及び粉状物の混合状態で行うことができる。しかし、原料の風化火山灰及びバーミキュライトを、水、アルコール又は有機溶媒の存在下に、ペースト状又はスラリー状にして混合を行うと、粉塵の発生を避けることができて好ましい。風化火山灰とバーミキュライトの粒度は、双方共、例えば、5mm以下、即ち、目開きが5mm以下の篩を通過した粉体乃至粒体を使用することができる。本発明において、例えば、風化火山灰とバーミキュライトは、3時間以内の時間で混合される。+風化火山灰とバーミキュライトの混合は、容器回転型ミキサー等の混合装置により行うことができ、また、ボールミルやロッドミルにより混合することができる。風化火山灰とバーミキュライトの混合にボールミルやロッドミルを使用して、30分以上に亙って混合すると、混合過程で、風化火山灰とバーミキュライトは、共に粉砕されて、均一に混合されることとなるので好ましい。本発明におけるこのような粉砕工程は、バーミキュライトと風化火山灰との両粉末を混合することと、バーミキュライトの粒子を粉砕して、膨張性を抑える目的で行われており、バーミキュライトの粒子が粉砕によって粒子が微細にされると、膨張性が少なくなって、焼成体の形状が維持できるようになるので好ましい。風化火山灰とバーミキュライトの混合比率は、例えば、風化火山灰が、10〜90質量%であり、バーミキュライトが10〜90質量%であって、双方合わせて、100質量%に混合される。
【0012】
本発明において、アロフェンを含む風化火山灰と、バーミキュライトとの混合物の質量比率は、特に限定するものではないが、5:5〜9:1とするのが好ましい。アロフェンを含む火山灰軽石等の風化火山灰の混合比率が少ないと、焼結性が低下し、得られるセラミックス多孔体の吸水率が低下して好ましくない。逆に多いと、焼成収縮が大きくなり、また、徐放性が低下することとなって好ましくない。風化火山灰及びバーミキュライトの混合成形物の焼成時におけるバーミキュライトの膨張による前記成形物の変形及びクラックの発生は、未焼成バーミキュライトを細かく、例えば、0.25mm以下の粒度に粉砕することにより抑えることができる。原料のバーミキュライトとして、焼成処理したバーミキュライトを用いると、クラックの発生を抑えることができ、また、焼成体の変形を少なくすることができる。
本発明においては、アロフェンを含む風化火山灰と、バーミキュライトとの混合、又はアロフェンを含む風化火山灰と、バーミキュライト、雲母若しくはタルク又はこれら二以上の混合物との混合は、ボールミル等の混合と同時に粉砕を行うことができる混合機を使用して行うのが好ましい。
【0013】
バーミキュライトは、アロフェン等の風化火山灰に比して粒径が大きい状態で得られ、しかも、加熱により膨張するために、バーミキュライトとアロフェン等の風化火山灰の混合物の粒度は、例えば0.25mm以下にまで小さくするのが好ましい。バーミキュライトとアロフェン等の風化火山灰の混合物の粒度を、例えば0.25mm以下にすると、成形がし易い上に焼成時におけるバーミキュライトの膨張による成形物の変形を抑えことができるので、好ましい。そこで、本発明においては、例えば、ボールミル等の混合兼用の粉砕機により30分以上の時間に亘り粉砕して、例えば、0.25mm以下の粒度とされる。
混合により得られた風化火山灰と、バーミキュライトとの混合物は、適宜の形状、例えば、円柱状、球状、中空円筒状、回転楕円体形状、立方体形状、直方体形状又はその他の適宜形状の粒体、造粒物又は塊状物等の成形体に成形することができる。成形には、押型を利用した乾式での一軸成型法、ペーストを押し出す方法及び流し込む方法などの成形方法を使用することができる。
【0014】
風化火山灰と、バーミキュライトとの混合物の成形体は、500乃至1000℃の温度で、1乃至5時間加熱される。高い開気孔率のセラミックス多孔体を製造するには、アロフェンの混合比率を高くすることが必要であり、アロフェンの混合比率を高くするほど、開気孔率を高くすることができる。したがって、開気孔率を高くするためには、アロフェンを含有する、例えば、鹿沼土等の風化火山灰の混合比率を高くすることが必要であり、例えば鹿沼土等の風化火山灰の混合比率を高くするほど、開気孔率を高くすることができる。高い開気孔率を保つには、焼結を避けて焼成することが望ましく、風化火山灰と、バーミキュライト、雲母若しくはタルク又はこれら二以上の混合物との混合物の成形体の焼成温度は、800℃以下の温度で焼成するのが好ましい。バーミキュライト、雲母若しくはタルク又はこれら二以上の混合物は、予め焼成処理をすることにより、焼成工程におけるクラックの発生が防止できるので好ましい。焼成は、通常用いられている焼成炉であれば特に種類を選ばない。
【0015】
本発明のセラミックス焼成体の用途は、特に限定するものではないが、軽量であって、水分について徐放性を有しているので、例えば、ヒートアイランド対応のための保水材として、舗道や舗道ブロックの保水材、屋根材や外壁材などの保水性建材などに使用できる。
【実施例】
【0016】
以下に、例を挙げて、本発明について具体的に説明するが、本発明は、この例示及び説明の内容により、何ら限定されるものではない。
例1
本例は、アロフェンを含む風化火山灰とバーミキュライトの種々の混合比の原料混合物について、多孔質セラミックス焼成体を調製した例である。
本例において、アロフェンを含む風化火山灰の原料として市販の園芸用鹿沼土を使用し、また、バーミキュライトとして未焼成バーミキュライト(ベルミテック社製)を使用した。
0.25mm篩目の篩を通過した、即ち0.25mm以下の粒度の園芸用鹿沼土7質量部に、同じく0.25mm篩目の篩を通過した、即ち0.25mm以下の粒度の未焼成バーミキュライト3質量部を混合して、ボールミルに入れて1時間混合し、混合粉末を得た。得られた混合粉末をステンレス製の金型を用いて、直径10mmで厚さが5mmの円柱に、乾式で成形した。得られた成形体を、電気炉に入れて、10℃/分の昇温速度で温度を上げて、800℃の焼成温度で1時間焼成した。得られた800℃焼成体の開気孔率は、17〜67%であった。なお、開気孔率は吸水率と同じである。
本例において、多孔質セラミックス焼成体の開気孔率は、水銀圧入式の水銀ポロシメータ〔カルロ・エルバ(C・E Instrument)社製〕Pascal 140及びPascal 240を使用して、0.01乃至1000μmの範囲を測定した。実施例2の焼成体の開気孔は、1μmにピーク中心を有し、0.1乃至10μmに広がる分布を持っていた。バーミキュライトの混合比率が大きくなると、例えば、実施例1の焼成体の開気孔は、1μm以外に20μmにもピーク中心を有し、10乃至100μmに広がる分布であった。アロフェンが多くなると、0.1μmより小さな気孔も多くなった。
以下、未焼成バーミキュライトに対する園芸用鹿沼土の質量比(園芸用鹿沼土/未焼成バーミキュライト)を変えて、種々の混合粉末を製造し、製造された混合粉末を、ステンレス製の金型を用いて、直径10mmで厚さが5mmの円柱に、乾式で成形し、得られた成形体を室温にて乾燥したのち、10℃/分の昇温速度で温度を上げて、800℃の焼成温度で1時間焼成した。得られた多孔質セラミックス焼成体について、吸水率、含水率が吸水率の50%になる時間(時間)及び圧縮強度を測定した。
本例において、園芸用鹿沼土/未焼成バーミキュライトの質量比が8/2の混合粉末の事例を実施例1とし、園芸用鹿沼土/未焼成バーミキュライトの質量比が9/1の混合粉末の事例を実施例2とした。参考例1は、未焼成バーミキュライトのみの事例(園芸用鹿沼土/未焼成バーミキュライトの質量比が0/10)であり、参考例2は、園芸用鹿沼土のみの事例(園芸用鹿沼土/未焼成バーミキュライトの質量比が10/0)である。
その結果を、以下の表1に示す。
【0017】
【表1】

【0018】
表1の混合比率の欄において、Aは混合粉末中の園芸用鹿沼土の質量部を示し、Bは該混合粉末中の未焼成バーミキュライトの質量部を示す。開気孔率の形成は、園芸用鹿沼土の混合比率を、未焼成バーミキュライトに比して、高くするほど高くなった。
【0019】
参考例1のバーミキュライトの焼成物の場合は、比較的粒径が大きいために、本発明の原料混合物と比較して、成形が困難であり、また、焼成時の膨張量が大きいために、焼成体として実用的ではない。
また、焼成体の含水水分の放出の程度を示す「含水率が吸水率の50%に到達する時間」についてみると、参考例1の未焼成バーミキュライトの場合は、18.8時間であるのに対し、本発明の多孔質セラミックス焼成体の実施例1では29時間であり、また、本発明の実施例2では、31時間であって、その含水水分の放出時間は、未焼成バーミキュライトの場合に比して、1.6乃至1.7倍であり、本発明の多孔質セラミックス焼成体の実施例が、参考例1に比して、徐放性に優れることを示している。また同様に、参考例2の園芸用鹿沼土の場合は、含水水分の放出の程度を示す「含水率が吸水率の50%に到達する時間」が20.4時間であるのに対し、本発明の実施例1では29時間であり、また、本発明の実施例2では31時間であって、その含水水分の放出時間は、園芸鹿沼土の場合に比して、1.4乃至1.5倍であり、本発明の多孔質セラミックス焼成体の実施例1及び2は、共に、参考例2に比して、徐放性に優れることを示している。
これは、本発明の実施例1およびの多孔質セラミックス焼成体が有する徐放性が、園芸用鹿沼土の焼成体のみ及び未焼成バーミキュライトのみでは得ることができないものであることを示すものである。
本例において、表1中の「含水率が吸水率の50%に到達する時間(時間)」は、室温20℃及び相対湿度55%の環境において測定した値である。本例におけるこの値は、本例の多孔質セラミックス焼成体が、20℃の室温で相対湿度55%の環境下において、吸水率の50%以上の含水率を29時間以上維持して水分を放出できる徐放性を有するものであることを示すものである。
本例において、実施例1の多孔質セラミックス焼成体の比重は、1.13であり、実施例2の多孔質セラミックス焼成体の比重は、1.08であって、何れも軽量であった。参考例2の焼成体の比重は0.94であった。
例2
【0020】
本例においても、例1と同様に、アロフェンを含む風化火山灰の原料として市販の園芸用鹿沼土を使用し、また、バーミキュライトとして未焼成バーミキュライト(ベルミテック社製)を使用した。
本例は、園芸用鹿沼土/未焼成バーミキュライトの質量比が、9/1の混合比の原料混合物を、600℃の焼成温度、700℃の焼成温度、750℃の焼成温度又は800℃の焼成温度と、焼成温度を違えて焼成して、多孔質セラミックス焼成体を調製した事例である。各焼成温度において得られた多孔質セラミックス焼成体について、含水率、含水率が吸水率の50%に到達する時間及び圧縮強度を測定した。
本例において、0.25mm以下の粒度の鹿沼土9質量部に、同じく0.25mm以下の粒度の未焼成バーミキュライト1質量部を混合して、ボールミルに入れて1時間混合し、混合粉末を得た。得られた混合粉末をステンレス製の金型を用いて、直径10mmで厚さが5mmの円柱に、乾式で成形した。得られた成形体を電気炉に入れて、徐々に温度を上げて、例えば、10℃/分の昇温速度で温度を上げて、焼成温度で2時間焼成した。
比較例の製品として、廃ガラス粉末のみを原料として成形し、その成形品を900℃に焼成して得られた発泡ガラス焼成体を使用した。この比較例の発泡ガラス焼成体は、本例の多孔質セラミックス焼成体と同程度の吸水率を示した。しかし、この比較例の製品では、10分後でも吸水率の約50%しか吸水せず、吸水率に達するには24時間以上を要した。
本例の多孔質セラミックス焼成体及び比較例の発泡ガラス焼成体について、吸水率、含水率が吸水率の50%に到達する時間及び圧縮強度を測定した結果を、表2に示す。
【0021】
【表2】

【0022】
表2中「含水率が最大吸水率の50%に到達する時間(時間)」は、室温20℃及び相対湿度55%の環境において測定した値である。本例におけるこの値は、本例の多孔質セラミックス焼成体が、20℃の室温で相対湿度55%の環境下において、吸水率の50%以上の含水率を30時間以上維持して水分を放出できる徐放性を有するものであることを示すものである。
比較例の発泡ガラス焼成物の場合、吸水率は44%と大きいが、含水水分の放出の程度を示す「含水率が吸水率の50%に到達する時間」は、3.9時間と極めて短時間である。したがって、その含水水分の放出時間は、実施例1の場合は、比較例に比して、7.4倍であり、実施例2の場合は、比較例に比して、7.9倍である。したがって、本発明の多孔質セラミックス焼成体の実施例1及び2は、共に、比較例に比して、徐放性が格段に優れることを示している。
【0023】
本例における多孔質セラミックス焼成体では、何れも吸水率の90%に到達する時間が1分以内と短い時間であった。これに対して、比較例の発泡ガラス焼成物では、吸水率の90%に到達する時間は24時間と長時間であり、両製品の吸水速度は大変相違している。これは、両製品の間で、気孔の形状に大きな相違があることと、連通部分の気孔径の大きさが異なることに由来するものと思われる。
本例における多孔質セラミックス焼成体についての吸水率は、鹿沼土の含有率を60質量%以上とした場合では、焼成温度が800℃の焼成品でも40%以上の高い吸水率を示した。同じ鹿沼土の含有率の場合で、焼成温度を700℃で焼成して得られた製品の吸水率は、800℃の焼成品の場合と比べて約10%吸水率が高くなった。
例3
【0024】
本例は、アロフェンを含む風化火山灰と、バーミキュライトと、廃ガラス粉末とを、種々の混合比で混合した原料混合物について、多孔質セラミックス焼成体を調製した例である。
本例においては、多孔質セラミックス焼成体の原料として、アロフェンを含む風化火山灰の原料として市販の園芸用鹿沼土を使用し、バーミキュライトとして焼成バーミキュライト(ベルミテック社製)を使用し、さらに、廃ガラス粉末として、無色壜ガラス廃材を粉砕して得られた廃ガラス粉末を使用した。
園芸用鹿沼土と、焼成バーミキュライトと、廃ガラス粉末とを種々の混合比で混合した原料混合物を、ボールミルにて30分混合し、混合粉末を得た。この得られた混合粉末を、ステンレス製の金型を用いて、直径10mmで厚さが5mmの円柱に、乾式で成形した。得られた成形体を電気炉で、800℃で1時間焼成した。
本例において、園芸用鹿沼土/焼成バーミキュライト/廃ガラス粉末の混合質量比が、2/1/7の原料混合物の事例を実施例3とし、園芸用鹿沼土/焼成バーミキュライト/廃ガラス粉末の質量比が4.5/1/4.5の原料混合物の事例を実施例4とし、園芸用鹿沼土/未焼成バーミキュライト/廃ガラス粉末の質量比が7/1/2の原料混合物の事例を実施例5とした。得られた多孔質セラミックス焼成体について、吸水率(%)及び含水率が吸水率の50%に到達する時間(時間)を測定した。その結果を、以下の表3に示す。
【0025】
【表3】

【0026】
これらの例において、開気孔率の形成は、園芸用鹿沼土の混合比率を高くするほど高くなった。
得られた800℃焼成体の開気孔率は、17〜67%で、鹿沼土の混合比率が高いほど大きくなる。
表3の混合比率において、Aは混合粉末中の園芸用鹿沼土の質量部を示し、Bは該混合粉末中の未焼成バーミキュライトの質量部を示し、Cは廃ガラス粉末の質量部を示す。
表3中「含水率が吸水率の50%に到達する時間(時間)」は、室温20℃及び相対湿度55%の環境において測定した値である。実施例5におけるこの値は、本例の多孔質セラミックス焼成体が、20℃の室温で相対湿度55%の環境下において、吸水率の50%以上の含水率を32時間以上維持して水分を放出できる徐放性を有するものであることを示すものである。
例4
【0027】
本例においては、例3において使用した、園芸用鹿沼土/未焼成バーミキュライト/廃ガラス粉末の質量比が、7/1/2の原料混合物について、焼成温度を違えて多孔質セラミックス焼成体を調製し、各焼成温度で得られた多孔質セラミックス焼成体について開気孔率を測定した。本例において、高い開気孔率を保つには700℃以下の焼成温度での焼成が望ましいことがわかった。未焼成処理のバーミキュライトを用いると、焼成による膨張率が大きすぎるため試料に多数クラックが発生するが、30分以上の時間に亘って混合して、バーミキュライトの粒度を小さくすることにより、多孔質セラミックス焼成体におけるクラックの発生及び変形を防ぐことができることが分かった。また、バーミキュライトとして、予め焼成処理したバーミキュライトを用いることにより、多孔質セラミックス焼成体におけるクラックの発生及び変形を抑えることができることが分かった。
本例において、直径10mmで厚さが5mmの大きさの多孔質セラミックス焼成体は、1分以内で最大吸水率の90%以上となる速い吸水速度を示した。本例において、吸水率は、多孔質セラミック焼成体を24時間水に浸して、多孔質セラミック焼成体の質量に対する吸水した水の質量を百分率で示した値である。
また、本例の多孔質セラミックス焼成体は、室温20℃及び相対湿度55%の環境において、含水率が吸水率の50%に到達する時間は、32時間であった。この時間は、20℃の室温で相対湿度55%の環境下において、吸水率の50%以上の含水率を維持できる時間を示しており、換言すれば、吸水率の50%以上の含水率を維持して、32時間に亙って水分を放出できるという徐放性を有することを示すものである。
【0028】
鹿沼土のみを800℃で焼成した例では、室温・相対湿度55%の環境下における吸水率の50%の含水率に到達する時間は、20時間であり、バーミキュライトのみを800℃で焼成した例では、室温・相対湿度55%の環境下における吸水率の50%の含水率に到達する時間は、19時間であった。本例で得られた多孔質セラミックス焼成体は、20℃の室温及び相対湿度55%の環境下における吸水率の50%以上の保水率を20時間以上維持して、水分放出についての徐放性を達成することができた。
【0029】
以上の例においては、原料のアロフェン又はそれを含む風化火山灰として、栃木県鹿沼市周辺の軽石層が風化してアロフェン化したもので、特に、鹿沼土と称されるものを使用した。しかし、鹿沼土に替えて、例えば、北海道の支笏火山灰、摩周火山灰、東北の十和田火山灰、焼石岳の火山灰、箱根火山灰、富士火山灰、木曾御岳火山灰、大山火山灰及び阿蘇火山灰等の火山灰の風化火山灰で、アロフェン化した風化火山灰やイモゴライトを多く含む風化火山灰を使用することができる。また、以上の例においては、バーミキュライトを使用したが、バーミキュライトを、雲母やタルクなどの粘土鉱物で置き換えることができる。また、セピオライトやガラス繊維などの繊維状の珪酸塩鉱物及び無機ケイ酸塩の追加使用は強度の向上に効果がある。発泡ガラス粉末や焼成により気孔となる有機質粉末などの気孔を形成する作用を有する原料並びに水ガラス、セメント粉末などの自己硬化性作用を有する原料も用いることは特性の向上には好ましい。
【産業上の利用可能性】
【0030】
本発明は、大量に存在する風化火山灰及びバーミキュライトを原料として、例えば、20℃の室温及び相対湿度55%の環境下で吸水率の50%以上の保水率を、例えば20時間以上維持して水分を放出する徐放性を有する上に、さらに、安定して大量に製造できる、比較的安価な多孔質セラミックス焼成体を提供するものである。この多孔質セラミックス焼成体は、例えば、ヒートアイランド対策用の保水材料、保水性アスファルト舗装のフィラー材、舗道ブロック材及び屋根材や外壁材等の保水性建材などとして使用でき、大量に存在する風化火山灰及びバーミキュライトの有効利用を図ることができる。したがって、本発明は、環境改善を図る上で、且つ、産業の発展に寄与する上で有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
風化火山灰の焼成物と、焼成されたバーミキュライトとを含有し、17%以上の開気孔率を有する焼成体であることを特徴とする多孔質セラミックス焼成体。
【請求項2】
風化火山灰の焼成物と、焼成されたバーミキュライトと、焼成された廃ガラス粉末とを含有し、17%以上の開気孔率を有する焼成体であることを特徴とする多孔質セラミックス焼成体。
【請求項3】
焼成体が、さらに、発泡ガラス粉末焼成物、ガラス繊維焼成物、セピオライト焼成物、セメント粉末焼成物若しくは有機質粉末焼成物又はこれら二以上の焼成物の混合物を含有するものであることを特徴とする請求項1又は2に記載の多孔質セラミックス焼成体。
【請求項4】
風化火山灰の焼成物の30乃至90質量部と、焼成されたバーミキュライトの10乃至70質量部とを含有し、17%以上の開気孔率を有する焼成体であることを特徴とする多孔質セラミックス焼成体。
【請求項5】
風化火山灰の焼成物の50乃至80質量部と、焼成されたバーミキュライトの10質量部と、焼成された廃ガラス粉末の10乃至40質量部とを含有し、17%以上の開気孔率を有する焼成体であることを特徴とする多孔質セラミックス焼成体。
【請求項6】
焼成されたバーミキュライトは、その一部に、焼成されたバーミキュライトより少ない量の焼成された雲母若しくはタルク又はこれの混合物を含むものであることを特徴とする請求項1,2、4又は5に記載の多孔質セラミックス焼成体。
【請求項7】
風化火山灰と、バーミキュライトとの混合物を成形し、この成形物を、500乃至1000℃の温度で加熱して、17%以上の開気孔率を有する多孔質セラミックス焼成体を製造することを特徴とする多孔質セラミックス焼成体の製造方法。
【請求項8】
風化火山灰と、バーミキュライトとを、水、アルコール又は有機溶媒と共に混合し、この混合により得られた混合物を成形し、この成形物を、500乃至1000℃の温度で加熱して、17%以上の開気孔率を有する多孔質セラミックス焼成体を製造することを特徴とする多孔質セラミックス焼成体の製造方法。
【請求項9】
風化火山灰と、バーミキュライトと、廃ガラス粉末との混合物を成形し、この成形物を、500乃至1000℃の温度で加熱して、17%以上の開気孔率を有する多孔質セラミックス焼成体を製造することを特徴とする多孔質セラミックス焼成体の製造方法。
【請求項10】
風化火山灰と、バーミキュライトと、廃ガラス粉末とを、水、アルコール又は有機溶媒の存在下に混合し、この混合により得られた混合物を成形し、この成形物を、500乃至1000℃の温度で加熱して、17%以上の開気孔率を有する多孔質セラミックス焼成体を製造することを特徴とする多孔質セラミックス焼成体の製造方法。
【請求項11】
混合物が、更に、発泡ガラス粉末、水ガラス、ガラス繊維、セピオライト、セメント粉末若しくは有機質粉末又はこれらの二以上の混合物を含有するものであることを特徴とする請求項7乃至10の何れか一項に記載の多孔質セラミックス焼成体の製造方法。
【請求項12】
風化火山灰の30乃至90質量部と、バーミキュライトの10乃至70質量部を含有する混合物を成形し、この成形物を、500乃至1000℃の温度で加熱して、17%以上の開気孔率を有する多孔質セラミックス焼成体を製造することを特徴とする多孔質セラミックス焼成体の製造方法。
【請求項13】
風化火山灰の50乃至80質量部と、バーミキュライトの10質量部と、廃ガラス粉末の10乃至40質量部を含有する混合物を成形し、この成形物を、500乃至1000℃の温度で加熱して、17%以上の開気孔率を有する多孔質セラミックス焼成体を製造することを特徴とする多孔質セラミックス焼成体の製造方法。
【請求項14】
バーミキュライトは、その一部に、バーミキュライトより少ない量の雲母若しくはタルク又はこれの混合物を含むものであることを特徴とする請求項7乃至10並びに請求項12及び13のいずれか一項に記載の多孔質セラミックス焼成体の製造方法。
【請求項15】
バーミキュライトが、焼成されたバーミキュライト若しくは未焼成バーミキュライト又はこれらの混合物であることを特徴とする請求項7乃至10及び請求項12乃至14のいずれか一項に記載の多孔質セラミックス焼成体の製造方法。