説明

多孔質体の製造方法及び多孔質体を有する構造体

【課題】流体圧を効率よく利用して、この流体圧に基づき効率よく弾性変形し、効率よく作動させることができる構造体を提供する。
【解決手段】流体圧の作用を受けることにより弾性変形をする多孔質体内部の孔には、この多孔質体における流体の透過を抑制するように多孔質体の孔を塞ぐ被覆材が埋入されており、この多孔質体の表面には、前記被覆材が実質的に存在していないことを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質体の製造方法及び前記多孔質体を有する構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
弾性を有する多孔質材料の一つであるポリジメチルシロキサン等のシリコーンラバーは、微細型を用いて成型することにより微細構造を形成させることができる。前記シリコーンラバーのなかでも、ポリジメチルシロキサンは、柔軟性、弾性、透明性及び生体適合性に優れている。そのため前記ポリジメチルシロキサンは、例えば、微小電気機械システム(MEMS)分野、微小化学分析システム(μTAS)分野等における薄膜、生化学分析チップの流路、バルーンアクチュエータ、バルブ、ポンプ等のデバイスの材料として用いられている(例えば、特許文献1〜3を参照)。
【0003】
しかしながら、前記ポリジメチルシロキサンは、多孔質構造を形成するため、当該ポリジメチルシロキサンを材料として用いたデバイスでは、前記多孔質構造の孔を介して、気体、液体等の流体が透過性する場合がある。そのため、前記デバイスでは、流体が透過することに伴って、流体圧が損なわれることがある。また、流体が反応性を有する流体である場合、この流体が外界へ漏れることにより外界に影響を与える場合もある。したがって、例えば、前記ポリジメチルシロキサンをバルーンアクチュエータの材料として用いた場合、当該バルーンアクチュエータは、流体圧を効率よく利用することができないため、この流体圧に基づき効率よく弾性変形をすることができず、効率よく作動させることができないことがある。
【0004】
そこで、前記ポリジメチルシロキサンが材料として用いたデバイスにおける流体の透過を抑制するために、このデバイスを、ポリモノクロロパラキシリレン(パリレンC)で被覆することが提案されている(例えば、非特許文献1を参照)。
【特許文献1】特開2005−114414号公報
【特許文献2】特開2007−85998号公報
【特許文献3】特開2006−181407号公報
【非特許文献1】ヤング・シク・シン、外7名、「パリレン被覆したPDMSベースのマイクロPCRチップ(PDMA-based micro PCR chip with Parylene coating)」、ジャーナル オブ マイクロメカニクス アンド マイクロエンジニアリング(Journal of Micromechanics and Microengineering)、2003年、第13巻、p768-774
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、非特許文献1のようにパリレンCで被覆されたデバイスは、パリレンCがポリジメチルシロキサンに比べて硬いため、その弾性変形が阻害されることがある。そのため、非特許文献1のようにパリレンCで被覆されたデバイスは、ポリジメチルシロキサン本来の弾性等の特性を十分に得ることができず、流体圧等を効率よく利用することができない場合がある。
【0006】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、弾性を有する多孔質材料の弾性を維持しつつ、当該多孔質材料における流体の透過を抑制することができる多孔質材料からなる構造体の製造方法を提供することを目的とする。また、本発明は、流体圧を効率よく利用して、この流体圧に基づき効率よく弾性変形し、効率よく作動させることができるバルーンアクチュエータを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の多孔質体の製造方法は、流体圧の作用を受けることにより弾性変形をする多孔質体の製造方法であって、前記多孔質体の表面を、被覆材で被覆することにより当該多孔質体内部の孔に前記被覆材を埋入させ、その後、この多孔質体の表面から、前記被覆材を除去することを特徴としている。
【0008】
本発明の製造方法では、前記多孔質体の表面を、前記被覆材で被覆することにより当該多孔質体内部の孔に前記被覆材を埋入させ、その後、この構造体の表面から、前記被覆材を除去するため、多孔質体の弾性特性を維持しつつ、当該多孔質体における流体の透過を抑制することができる。
【0009】
前記多孔質体は、シリコーンラバーからなるのが好ましい。このように、前記多孔質体がシリコーンラバーからなる場合、この多孔質体は、優れた弾性特性を示すことができる。
【0010】
なかでも、前記多孔質体は、ポリジメチルシロキサンを材料とするものが好ましい。このように、前記多孔質体がポリジメチルシロキサンを材料とするものである場合、この多孔質体は、優れた弾性特性を示すことができる。
【0011】
前記被覆材は、パリレンが好ましい。このように、前記被覆材がパリレンである場合、前記多孔質体内部の孔を、流体の透過を抑制するように塞ぐことができる。
【0012】
本発明の構造体は、1つの側面では、流体圧の作用を受けることにより弾性変形をする多孔質体を有する構造体であって、前記多孔質体が、前述した製造方法により得られる多孔質体であることを特徴とする構造体である。
【0013】
前記構造体は、前述した製造方法により得られる多孔質体を有するため、多孔質体の弾性特性を維持しつつ、当該多孔質体における流体の透過を抑制することができる。そのため、本発明のバルーンアクチュエータは、流体圧を効率よく利用して、この流体圧に基づき効率よく弾性変形し、効率よく作動させることができる。
【0014】
本発明の構造体は、他の側面では、流体圧の作用を受けることにより弾性変形をする多孔質体を有する構造体であって、前記多孔質体内部の孔には、この多孔質体における流体の透過を抑制するように多孔質体の孔を塞ぐ被覆材が埋入されており、この多孔質体の表面には、前記被覆材が実質的に存在していないことを特徴とする構造体である。
【0015】
前記構造体は、前記多孔質体内部の孔には、この多孔質体における流体の透過を抑制するように多孔質体の孔を塞ぐ被覆材が埋入されており、この多孔質体の表面には、前記被覆材が実質的に存在していないため、多孔質体の弾性特性を維持しつつ、当該多孔質体における流体の透過を抑制することができる。そのため、本発明の構造体は、流体圧を効率よく利用して、この流体圧に基づき効率よく弾性変形し、効率よく作動させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明の多孔質体の製造方法は、多孔質体の弾性特性を維持しつつ、当該多孔質体における流体の透過を抑制することができるという優れた効果を奏する。また、本発明の構造体は、流体圧を効率よく利用して、この流体圧に基づき効率よく弾性変形し、効率よく作動させることができるという優れた効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0017】
[バルーンアクチュエータ]
以下、添付図面を参照しつつ、本発明の構造体の実施の形態を詳細に説明する。
図1は、本発明の一実施の形態に係る構造体であるバルーンアクチュエータを採用した医療用器具を示す概略断面説明図である。また、図2は、図1に示されるバルーンアクチュエータの膜体(多孔質体)を示す概略断面説明図である。
【0018】
図1に示される医療用器具100は、内視鏡手術用鉗子等として用いられる医療用器具である。
図1に示される医療用器具100は、器具本体101の先端にバルーンアクチュエータ111を複数備えている一対のフィンガー部110を備えている。このバルーンアクチュエータ111は、第1膜体1aと第2膜体1bとからなる。
【0019】
対をなすフィンガー部110は、第2膜体1b側が互いに対向するように設けられており、各フィンガー部110は、フィンガー部110の先端Eが閉じるように動作し、対象物を掴むことができる。
【0020】
バルーンアクチュエータ111の第1膜体1a及び第2膜体1bは、ポリジメチルシロキサンを材料として構成されている。前記ポリジメチルシロキサンは、生体適合性を有するとともに、柔軟性に優れている。したがって、バルーンアクチュエータ111を備えているフィンガー部110は、対象物を傷つけにくく、かつ生体適合性に優れるため、このフィンガー部110を備えている医療用器具100は、医療用に適している。
【0021】
なお、前記バルーンアクチュエータの膜体(多孔質体)を構成する材料は、流体圧の作用を受けることにより弾性変形をする多孔質材料である。バルーンアクチュエータ111の第1膜体1a及び第2膜体1bでは、前記ポリジメチルシロキサンに代えて、他のシリコーンラバーを用いることができる。
なお、ポリジメチルシロキサンなどを材料とする多孔質体の孔は、前記材料に応じて異なるが、連続した微細な孔である。
【0022】
医療用器具100では、フィンガー部110は複数本ではなく、1本であってもよい。例えば、フィンガー部110の先端Eに針等の機能部材を取り付けておき、この機能部材を適切な位置へ移動させるためにフィンガー部110を用いてもよい。また、機能部材は、あまり膨張しない第2膜体1b側に設けるのが好ましい。第2膜体1b側であれば、バルーンアクチュエータ111の近傍でも機能部材を設けることができ、コンパクト化を図ることができる。
【0023】
前記バルーンアクチュエータ111の第1膜体1a及び第2膜体1bそれぞれにおいては、図2に示されるように、第1膜体1a及び第2膜体1bそれぞれを構成するポリジメチルシロキサンによる多孔質構造の孔の小径部に、被覆材であるパリレンC(ポリモノクロロパラキシリレン)が埋入されている被覆材埋入部3が形成されており、前記孔の小径部を塞いでいる。
第1膜体1a及び第2膜体1bでは、この被覆材埋入部3のパリレンCにより、それぞれにおける流体の透過が抑制されることとなる。
【0024】
図2に示される膜体1では、孔の小径部に被覆材埋入部3が形成され、孔の大径部では、この孔の内壁に、被覆材であるパリレンCからなる被覆層である孔部被覆層4が形成されているとともに、当該孔内部に空間部2が形成されている。
このように、前記孔は、当該孔の小径部に被覆材が埋入されて、流体の透過を抑制するように塞がれている。孔の大径部では、弾性変形を阻害しない範囲で、その表面が被覆されていてもよい。
【0025】
また、第1膜体1a及び第2膜体1bそれぞれの表面5は、被覆材が実質的に存在していない状態となっている。
なお、本明細書において、「被覆材が実質的に存在していない」状態とは、被覆材により多孔質体の弾性変形が阻害されない状態をいう。したがって、第1膜体1a及び第2膜体1bそれぞれの表面5には、被覆材により多孔質体の弾性変形が阻害されない範囲であれば、被覆材が微量に存在していてもよい。
【0026】
図1に示される医療用器具100では、第1膜体1aの外側表面近傍部112及び第2膜体1bの外側表面近傍部113のそれぞれにおける孔の小径部に被覆材が埋入されて、流体の透過を抑制するように塞がれている。なお、図1に示される医療用器具100では、第1膜体1a及び第2膜体1bそれぞれの図示していない内側表面近傍部における孔の小径部に被覆材が埋入されて、流体の透過を抑制するように塞がれていてもよい。
【0027】
図1に示される医療用器具100では、被覆材として、パリレンCが用いられているが、かかる被覆材は、パリレンN、パリレンD、パリレンF等のパリレンC以外のポリパラキシリレン化合物、金、ニッケル、アルミニウム、銅等の金属、フッ素樹脂、ポリイミド化合物、カーボン等であってもよい。
【0028】
前記被覆材の中では、前記多孔質体に基づく弾性を十分に維持しつつ、当該多孔質材料体における流体の透過を十分に抑制することができ、シーリング特性、耐薬品性、生体適合性、絶縁性等に優れる観点から、ポリパラキシリレン化合物が好ましい。また、ポリパラキシリレン化合物は、例えば、常温化学気相成長法による成膜により、すきまへも良好に浸透させることができる。
ポリパラキシリレン化合物のなかでは、成膜速度が比較的速く、良好な膜が得られる観点から、好ましくはパリレンCである。
【0029】
[製造方法]
以下、添付図面を参照しつつ、前述したバルーンアクチュエータの膜体の製造方法を例として、本発明の製造方法の実施の形態を詳細に説明する。
図3は、バルーンアクチュエータの製造工程図である。また、図4は、図3に示される成型工程における各工程を示す工程図である。図5は、図3に示される被覆工程及びエッチング工程の際のバルーンアクチュエータの膜体の表面近傍部を示す概略説明図である。
【0030】
図3に示されるように、バルーンアクチュエータの膜体は、成型工程S1と、被覆工程S2と、エッチング工程S3とを含む製造方法により製造することができる。
【0031】
成型工程S1において、バルーンアクチュエータ110を構成する第1膜体1aと第2膜体1bとが成型される。
【0032】
バルーンアクチュエータ110を構成する第1膜体1aは、空間部115や微細な凹部を有しており、これらの微細な凹凸形状を形成するため、モールド130を使用して成形される。
【0033】
第1膜体1aを形成するモールド130は、エッチマスク用のアルミニウム蒸着プロセスとICP−RIEプロセスを用いて、所望形状に形成される。図4(a1)に示すように、このモールド130に、ポリジメチルシロキサン含有被覆材〔東レダウコーニング(株)製、商品名:SYLGARD 184W/C〕の基剤と硬化剤との混合物をスピンコーターにより塗布することにより、ポリジメチルシロキサンからなる所望の膜厚の膜が形成される。
【0034】
バルーンアクチュエータ111を構成する第2膜体1bは、平坦であるため、図4(a2)に示すように、平坦なガラス板131を用いて形成させることができる。このガラス板131に、ポリジメチルシロキサン含有被覆材〔東レダウコーニング(株)製、商品名:SYLGARD 184W/C〕の基剤と硬化剤との混合物をスピンコーターにより塗布することにより、ポリジメチルシロキサンからなる所望の膜厚の膜が形成される。
【0035】
第1膜体1a及び第2膜体1bそれぞれの硬度は、基剤と硬化剤との混合比を調節することで変えることができる。また、第1膜体1a及び第2膜体1bそれぞれの厚さは、スピンコーターの回転速度を調節することで所望の厚さを得ることができる。
【0036】
図4(b1)(b2)に示すように、第1膜体1aの接合面1a−1と、第2膜体1bの接合面1b−1は、酸素プラズマとメタノールによって接着のために改質される。そして、図4(c)に示すように、接合面1a−1,1b−1同士が対向するように第1膜体1aと第2膜体1bとを重ね合わせられ、熱処理が行なわれる。そして、図4(d)のようにガラス板131を取り除くことにより、バルーンアクチュエータ110が完成する。
【0037】
つぎに、被覆工程S2において、前記成型工程S1で成型されたポリジメチルシロキサンにより構成されている構造体である図5(a)のバルーンアクチュエータの膜体本体11の表面14上に、前記ポリジメチルシロキサンの多孔質構造の孔の孔部小径部15を塞ぐ被覆材であるパリレンCからなる被覆層21を化学気相成長法により形成させる。これにより、前記孔に、パリレンCを簡単に埋入させることができ、かかる孔の内部にパリレンCを浸透させ、当該パリレンCで簡単に効率よく塞ぐことができる。
このとき、図5(a)に示される被覆層21を形成させる前の膜体本体11の表面14上に、パリレンCからなる被覆層21を形成させることにより、孔の内部にパリレンCが侵入して、図5(a)に示される孔部小径部15では、図5(b)に示される被覆材埋入部25が形成されて孔が塞がれるとともに、図5(a)に示される孔部大径部12では、その内壁面13上に、図5(b)に示される孔部被覆層23が形成される。
【0038】
膜体本体11の表面14上における被覆層21の形成は、前記化学気相成長法に代えて、被覆材の種類に応じた他の方法によっても行なうことができる。かかる方法としては、例えば、物理気相成長法、塗布法等が挙げられる。
【0039】
孔部小径部15の内径A−Bは、被覆材を埋入することによりこの孔部小径部を塞ぐことができる程度の内径であればよい。
【0040】
その後、エッチング工程S3において、前記被覆工程S2で得られた図5(b)に示される被覆後のバルーンアクチュエータの膜体本体11の表面14上の被覆層21に、酸素プラズマを照射することにより、当該被覆層21をエッチングして除去する。
これにより、図5(c)に示されるように、膜体本体11の表面14から被覆層21が除去されて被覆材であるパリレンCが実質的に存在しない状態となるとともに、膜体本体11の孔の孔部小径部15では、図5(b)に示される被覆材埋入部25はそのまま維持され、孔が塞がれた状態のまま維持される。その結果、流体の透過を効果的に抑制することができるバルーンアクチュエータが得られる。このように、被覆層21に、酸素プラズマを照射した場合、膜体本体11の表面14よりも内部に存在する被覆材埋入部25を維持して孔が塞がれた状態を維持しつつ、膜体本体11の表面14に形成されている被覆層21を効率よく除去することができる。
なお、図5(c)に示されるように、孔の大径部において、内壁面13には、孔部被覆層23がそのまま維持され、孔の空間部が残る。
【0041】
なお、図3に示される方法では、エッチング工程S3は、酸素プラズマエッチングを行なうにより、被覆層21を除去しているが、酸素プラズマエッチングに代えて、アルゴンプラズマエッチング等を行なってもよい。
【0042】
本実施の形態の製造方法は、バルーンアクチュエータのみならず、流体圧の作用を受けることにより弾性変形をする多孔質体を有する構造体であれば、例えば、チャネル、チャンバ、ポンプ、バルブ、ミキサー等の構造体にも適用することができる。
【0043】
このように、本実施の形態の製造方法を、前記流体圧の作用を受けることにより弾性変形をする多孔質体を有する構造体を製造するに際して適用することにより、弾性が維持されながらも、物質透過が抑制された構造体を得ることができる。
【実施例】
【0044】
以下、実施例により、本発明の一実施の形態に係る製造方法をより詳細に説明するが、本発明は、かかる実施例により何ら限定されるものではない。
【0045】
(実施例1)
ポリジメチルシロキサン含有被覆材〔東レダウコーニング(株)製、商品名:SYLGARD、184W/C〕の基剤と硬化剤とを、10/1〔基剤/硬化剤(体積比)〕の混合比となるように混合した。その後、得られたポリジメチルシロキサン含有被覆材の混合物を真空チャンバ内で脱気して気泡を除去した。
【0046】
ダイヤフラム構造の組み立て工程では、Siのドライエッチングによりパターン形成されたSiフレーム上でのポリジメチルシロキサンのスピンコーティングを採用した。
【0047】
Siウエハーの裏面にCr薄膜を蒸着させた後、Deep−RIEエッチングマスクのためにパターン形成させた。ウインドウサイズは、1.0×4.0mm2であった。
【0048】
つぎに、得られたシリコン基板をスピンコーターに設置した。このシリコン基板の前面に、前記ポリジメチルシロキサン含有被覆材の混合物をのせた。その後、前記シリコン基板を1000rpmで30秒間回転させることにより、前記シリコン基板の表面にポリジメチルシロキサン含有被覆材の混合物を塗布した。その後、シリコン基板を、75℃で1時間維持して、前記混合物の塗布部を硬化させ、多孔質体であるポリジメチルシロキサンからなる膜を形成させた。前記膜の厚さは、約110μmであった。
【0049】
その後、シリコン基板の裏面のSiをエッチングして、ポリジメチルシロキサンダイヤフラムを製造した。
【0050】
つぎに、ジパラキシレンダイマー〔クックソンエレクトロニクスカンパニー製、商品名:DPX−C〕0.3gと、パリレン蒸着システム〔クックソンエレクトロニクス(株)社製、商品名:Lab−coater PDS2010〕とを用いて、前記ポリジメチルシロキサンダイヤフラムの表面に被覆材であるパリレンCを蒸着させて、前記ポリジメチルシロキサンダイヤフラムの表面をパリレンCで被覆した。これにより、パリレンCからなる被覆層を有するパリレンC被覆ポリジメチルシロキサンダイヤフラムを得た。
【0051】
つぎに、前記パリレンC被覆ポリジメチルシロキサンダイヤフラムの表面に、150Wのエッチングパワーで、酸素ガスの流速:5.07×10-3Pa・m3/secにて30分間の条件で、エッチング装置〔サムコ(株)製、商品名:RIE−10N〕を用いて、酸素プラズマを照射することによりパリレンCからなる被覆層を除去した。これにより、パリレンCコーキングポリジメチルシロキサンダイヤフラムを得た。得られたパリレンCコーキングポリジメチルシロキサンダイヤフラムを実施例1のダイヤフラムとして用いた。
【0052】
(比較例1)
前記実施例1におけるポリジメチルシロキサンダイヤフラムを比較例1のダイヤフラムとして用いた。
【0053】
(比較例2)
前記実施例1におけるパリレンC被覆ポリジメチルシロキサンダイヤフラムを比較例2のダイヤフラムとして用いた。
【0054】
(試験例)
(1)ダイヤフラムの気体漏れ試験
前記実施例1、比較例1及び2それぞれのダイヤフラムを窒素ボンベに連結されたホルダーに取り付け、20kPaの開始圧を、前記ホルダーのチャンバに負荷した。変位が安定した時に、バルブを閉じた。なお、ホルダーの圧力は、ひずみゲージ圧力センサ〔(株)共和電業製、商品名:PGM−5KH〕を用いて測定した。
【0055】
ダイヤフラムの膜の中心の変位を、レーザー変位計〔(株)キーエンス製、商品名:LC−2430〕を用いて測定した。測定された変位を、マルチメータ(ヒューレット・パッカード(株)製、商品名:34401A)を介して、コンピュータに保存した。膜の中心での変位変化を、圧力負荷開始から10時間観察した。変位変化は、式(1):変位変化=Dt/Di×100(%)
(式中、Diは、膜の中心での開始変位を示し、Dtは、一定時間後の変位を示す)
により算出した。一定圧力負荷条件下における実施例1、比較例1及び2それぞれのダイヤフラムの経時的な変位変化を示すグラフを図6に示す。
【0056】
図6の結果より、パリレンCコーキングポリジメチルシロキサンダイヤフラムである実施例1のダイヤフラムは、パリレンC被覆ポリジメチルシロキサンダイヤフラムである比較例2のダイヤフラムと同様に、圧力負荷開始から10時間経過時でも変位変化の値が変わらないため、流体である気体の透過を抑制していることがわかる。
【0057】
しかしながら、パリレンCによる被覆及びパリレンCコーキングのいずれの処理も行なわれていないポリジメチルシロキサンダイヤフラムである比較例1のダイヤフラムでは、多孔質構造の孔を介した気体漏れにより起因する変位変化が見られることがわかる。このように、比較例1のダイヤフラムでは、気体漏れを生じ、圧力損失が引き起こされる。
【0058】
このように、パリレンCコーキングポリジメチルシロキサンダイヤフラムは、ポリジメチルシロキサンの多孔質構造の孔が塞がれているため、この孔を介する気体の透過(気体漏れ)が抑制され、高い密封性を示すことがわかる。
【0059】
(2)ダイヤフラムの荷重たわみ試験
前記(1)と同様に、実施例1、比較例1及び2それぞれのダイヤフラムを窒素ボンベに連結されたホルダーに取り付け、種々の圧力を、前記ホルダーのチャンバに負荷した。ダイヤフラムの膜の中心の変位を、レーザー変位計〔(株)キーエンス製、商品名:LC−2430〕を用いて測定した。なお、ホルダーの圧力は、ひずみゲージ圧力センサ〔(株)共和電業製、商品名:PGM−5KH〕を用いて測定した。種々の圧力負荷条件下における実施例1、比較例1及び2それぞれのダイヤフラムの変位を示すグラフを図7に示す。
【0060】
図7の結果から、負荷された圧力が25kPaである場合、パリレンCコーキングポリジメチルシロキサンダイヤフラムである実施例1のダイヤフラムにおける変位は、265.3μmであり、パリレンC被覆ポリジメチルシロキサンダイヤフラムである比較例2のダイヤフラムにおける変位は、187.7μmであるため、実施例1のダイヤフラムは、比較例2のダイヤフラムよりも、より弾性変形しやすいことがわかる。
【0061】
以上のように、ポリジメチルシロキサンを材料とする多孔質体を有する構造体の表面に、パリレンCを被覆することにより、被覆層を形成させた後、この表面の被覆層を除去する本発明の製造方法によれば、ポリジメチルシロキサンを材料とする多孔質体を有する構造体に対して、空気の透過を抑制する高いシーリング性と、大きい弾性変形能とを付与することができることがわかる。このように、本発明の製造方法によれば、多孔質体の弾性特性を維持しつつ、当該多孔質体における流体の透過を抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0062】
【図1】本発明の一実施の形態に係るバルーンアクチュエータを採用した医療用器具を示す概略断面説明図である。
【図2】図1に示されるバルーンアクチュエータの膜体(構造体)を示す概略断面説明図である。
【図3】バルーンアクチュエータの製造工程図である。
【図4】図3に示される成型工程における各工程を示す工程図である。
【図5】図3に示される被覆工程及びエッチング工程の際のバルーンアクチュエータの膜体の表面近傍部を示す概略説明図である。
【図6】実施例1の構造体の経時的な変位変化を示すグラフである。
【図7】実施例1の構造体の圧力による変位を示すグラフである。
【符号の説明】
【0063】
1 膜体
1a 第1膜体
1a−1 接合面
1b 第2膜体
1b−1 接合面
2 空間部
3 被覆材埋入部
4 孔部被覆層
5 表面
11 膜体本体
12 孔部大径部
13 内壁面
14 表面
15 孔部小径部
21 被覆層
23 孔部被覆層
25 被覆材埋入部
100 医療用器具
101 器具本体
110 フィンガー部
111 バルーンアクチュエータ
111a バルーンアクチュエータ
111b バルーンアクチュエータ
111c バルーンアクチュエータ
112 外側表面近傍部
113 外側表面近傍部
115 空間部
130 モールド
131 ガラス板

【特許請求の範囲】
【請求項1】
流体圧の作用を受けることにより弾性変形をする多孔質体の製造方法であって、
前記多孔質体の表面を、被覆材で被覆することにより当該多孔質体内部の孔に前記被覆材を埋入させ、その後、この多孔質体の表面から、前記被覆材を除去することを特徴とする、多孔質体の製造方法。
【請求項2】
前記多孔質体が、シリコーンラバーを材料としてなる請求項1記載の製造方法。
【請求項3】
前記多孔質体が、ポリジメチルシロキサンを材料としてなる請求項1又は2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記被覆材が、パリレンである請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
流体圧の作用を受けることにより弾性変形をする多孔質体を有する構造体であって、
前記多孔質体が、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法により得られる多孔質体であることを特徴とする構造体。
【請求項6】
流体圧の作用を受けることにより弾性変形をする多孔質体を有する構造体であって、
前記多孔質体内部の孔には、この多孔質体における流体の透過を抑制するように多孔質体の孔を塞ぐ被覆材が埋入されており、この多孔質体の表面には、前記被覆材が実質的に存在していないことを特徴とする構造体。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−155543(P2009−155543A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−337368(P2007−337368)
【出願日】平成19年12月27日(2007.12.27)
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】