説明

多孔質架橋粒子および分離剤の製造方法ならびに分離方法

【課題】蛋白質の液体クロマトグラフィー分離剤として好適な、細孔径の大きな担体の表面に高分子を効率よく導入してなる表面修飾多孔質架橋粒子および分離剤を提供する。
【解決手段】表面に水酸基と共有結合しうる官能基を有する多孔質架橋粒子に対し、一級水酸基を有する高分子を共有結合にて固定化する表面修飾多孔質架橋粒子の製造方法。この表面修飾多孔質架橋粒子に相互作用性官能基を導入する分離剤の製造方法。表面に水酸基と共有結合しうる官能基を有する多孔質架橋粒子に対し、一級水酸基および相互作用性官能基を有する高分子を該一級水酸基の共有結合にて固定化する分離剤の製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、表面修飾多孔質架橋粒子および分離剤の製造方法ならびに分離方法に関するものである。詳しくは、本発明は、液体クロマトグラフィー用分離剤として好適に用いられる表面修飾多孔質架橋粒子および分離剤の製造方法ならびにこの分離剤を用いた分離方法に関する。更に詳しくは、本発明は、蛋白質分離に適した液体クロマトグラフィー用分離剤として好適に用いられる表面修飾多孔質架橋粒子および分離剤の製造方法ならびにこの分離剤を用いた分離方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液体クロマトグラフィー用分離剤に用いられる担体としては、シリカゲル、ヒドロキシアパタイト等の無機系担体や、アガロース、デキストラン、セルロース、キトサン等の天然高分子系担体、およびポリスチレン、ポリ(メタ)アクリル酸エステル等の合成高分子系担体が知られている。これらの担体はそのままで、または多様な分離モードでの使用を可能とするために必要に応じて各種官能基を付与して用いられる。担体への官能基の導入は、通常は担体の多孔性の有無に関わらず、担体表面に直接、またはスペーサーと称される比較的分子量の小さな化合物を介して行われる。
【0003】
いずれのタイプの分離剤であっても、分離対象物の吸着量が大きいことが望まれる。
分離対象物の分子量が小さい場合には、得られた分離剤の分離対象物の吸着量は、担体を多孔質構造として比表面積を高くすることで増大させることが可能である。
しかしながら、蛋白質のように分離対象物の分子量が大きい場合には、多孔質構造を発達させた担体では細孔径が小さくなることから、分離対象物が細孔内部に拡散できない、または拡散速度が低いためクロマトグラフィー法を用いる場合に流速を上げると分離対象物の細孔内部への拡散が充分に行われない、等の理由から、動的吸着量が低くなる問題があった。
【0004】
分子量の大きい分離対象物の担体の細孔内部への拡散効率を高めるためには、細孔径の大きな担体を用いる必要があるが、細孔径の大きな担体は比表面積が小さくなることから、分離対象物の吸着量が下がることとなる。このようなことから、担体表面に直接、またはスペーサーと称される比較的分子量の小さな化合物を介して官能基を導入した従来の担体では、蛋白質のような分子量が大きな分離対象物に対して高い吸着量を示すものが存在しなかった。
【0005】
この問題を解決するために、細孔径の大きな担体の表面に高分子を導入する方法が各種検討されてきた。
【0006】
例えば、特許文献1には、ヒドロキシル基を有する支持体を基材とし、その表面が共有結合した重合度2〜100のポリマーで被覆されている分離剤が開示されている。
【0007】
また、特許文献2には、エクステンダーと称する水溶性高分子を共有結合させた基礎マトリクスを含む親和性のある構造を示すビーズが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平1−310744号公報
【特許文献2】特表2001−510397号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明者らの検討によれば、前記特許文献1に記載されている技術では、グラフト重合により重合度2〜100のポリマーを導入する必要があるが、工業的なレベルでの生産スケールにおいて、基材表面の被覆ポリマーの重合度を安定的に制御することが困難であるという問題があるものと考えられる。
【0010】
また、前記特許文献2には、エクステンダーは、吸着する物質に親和性を有する2つまたはそれ以上の構造を有すること、非ポリペプチドであること等の記載はあるが、エクステンダーのより詳細な記載はない。そして、その実施例1として、デキストラン溶液を基礎マトリクスに添加しているが、要するデキストランの使用量が多くなるため、経済的に効率が低いという問題がある。
【0011】
本発明は、担体の表面に高分子を効率よく導入した表面修飾多孔質架橋粒子およびこの表面修飾多孔質架橋粒子に相互作用性官能基を導入した分離剤を提供すること、特に蛋白質の液体クロマトグラフィーに適した表面修飾多孔質架橋粒子および分離剤を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決すべく検討を重ねた結果、表面に水酸基と共有結合しうる官能基を有する多孔質架橋粒子に対し、一級水酸基を有する高分子を共有結合にて固定化することにより得られる表面修飾多孔質架橋粒子が、上記の課題に対して極めて有効であることを見出し、本発明に到達した。
【0013】
即ち、本発明は以下を要旨とする。
【0014】
[1] 表面に水酸基と共有結合しうる官能基を有する多孔質架橋粒子に対し、一級水酸基を有する高分子を共有結合にて固定化することを特徴とする表面修飾多孔質架橋粒子の製造方法。
【0015】
[2] 前記高分子が合成高分子であることを特徴とする[1]に記載の表面修飾多孔質架橋粒子の製造方法。
【0016】
[3] [1]又は[2]に記載の表面修飾多孔質架橋粒子の製造方法で製造された表面修飾多孔質架橋粒子に、相互作用性官能基を導入することを特徴とする分離剤の製造方法。
【0017】
[4] 前記相互作用性官能基が、前記一級水酸基を有する高分子に共有結合にて固定化することにより導入されることを特徴とする[3]に記載の分離剤の製造方法。
【0018】
[5] 前記相互作用性官能基がイオン交換基であることを特徴とする[3]又は[4]のいずれかに記載の分離剤の製造方法。
【0019】
[6] 前記相互作用性官能基がアフィニティーリガンドであることを特徴とする[3]又は[4]に記載の分離剤の製造方法。
【0020】
[7] 前記相互作用性官能基が、アルキル基、フェニル基およびポリアルキルエーテル基のいずれかを含むことを特徴とする[3]又は[4]に記載の分離剤の製造方法。
【0021】
[8] [3]ないし[7]のいずれかに記載の分離剤の製造方法で製造された分離剤を用いることを特徴とする吸着分離方法。
【0022】
[9] [3]ないし[7]のいずれかに記載の分離剤の製造方法で製造された分離剤を用いることを特徴とするクロマトグラフィー分離方法。
【0023】
[10] 分離対象物が蛋白質であることを特徴とする[8]に記載の吸着分離方法。
【0024】
[11] 分離対象物が蛋白質であることを特徴とする[9]に記載のクロマトグラフィー分離方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、細孔径の大きな多孔質架橋粒子を担体として、その表面に高分子を効率的に導入可能な製造方法を提供することができる。
また、本発明によれば、蛋白質等の高分子量の分離対象物の吸着分離に適した分離剤を製造する方法を提供することができる。
更に、本発明によれば、工業的なスケールであっても、経済効率がよく、また安定して、表面修飾多孔質架橋粒子及び分離剤を製造する方法を提供することができる。
【0026】
本発明に係る分離剤に導入される相互作用性官能基としては、イオン交換基;アフィニティーリガンド;アルキル基、フェニル基およびポリアルキルエーテル基などの疎水基が好ましく、このような相互作用性官能基を導入した分離剤は、特に蛋白質等の高分子物質の吸着剤として、とりわけクロマトグラフィー用分離剤として有効に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下に本発明について詳述するが、本発明は、以下の実施の形態に限定されるものではなく、その要旨の範囲内で種々に変更して実施することができる。なお、本明細書において「〜」という表現を用いる場合、その前後の数値または物性値を含む表現として用いるものとする。
【0028】
なお、本明細書において、「(メタ)アクリル」とは、「アクリル」と「メタクリル」の一方または双方をさし、「(共)重合」とは「重合」と「共重合」の一方または双方を意味する。また、「(ポリ)アルキレン………」は「アルキレン………」と「ポリアルキレン………」の一方または双方を意味する。「(ポリ)エチレン………」についても同様である。
また、以下において、本発明の製造方法により製造された表面修飾多孔質架橋粒子を「本発明の表面修飾多孔質架橋粒子」と称し、本発明の製造方法により製造された分離剤を「本発明の分離剤」と称す。本発明において、架橋粒子とは、3次元的に網目状の分子構造を有するものをいう。
【0029】
[表面修飾多孔質架橋粒子の製造方法]
本発明の表面修飾多孔質架橋粒子の製造方法は、表面に水酸基と共有結合しうる官能基を有する多孔質架橋粒子(以下、「表面に水酸基と共有結合しうる官能基を有する多孔質架橋粒子」を「多孔質架橋粒子A」と称す場合がある。)に対し、一級水酸基を有する高分子(以下、「一級水酸基を有する高分子」を「高分子B」と称す場合がある。)を共有結合にて固定化することを特徴とする。
【0030】
<多孔質架橋粒子A>
本発明において用いられる、担体としての多孔質架橋粒子Aを構成する高分子物質としては、その表面に水酸基と共有結合しうる官能基を有するものであれば、天然系高分子および合成高分子の何れも用いることができる。
【0031】
天然系高分子としてはアガロース、デキストラン、セルロース、キトサン、グルコマンナン等が挙げられる。これらの天然系高分子は、表面に水酸基を有するため、該水酸基に対して、エピクロルヒドリン、(ポリ)アルキレングリコールジグリシジルエーテル、アルキレンジイソシアネート等の架橋剤を用いて架橋構造を導入することにより、多孔質架橋粒子Aとすることができる。
【0032】
また、合成高分子としては、スチレン、エチルスチレン、メチルスチレン、ヒドロキシスチレン、クロロスチレン等のスチレン系単量体などの芳香族モノビニル化合物;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、シクロヘキシル(メタ)アクリレート、グリセリンモノ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル類;(メタ)アクリルアミド、ジメチル(メタ)アクリルアミド、ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド等の(メタ)アクリルアミド類;(メタ)アクリロニトリルのようなニトリル類;グリシジル(メタ)アクリレート、4,5−エポキシブチル(メタ)アクリレート、9,10−エポキシステアリル(メタ)アクリレート等のエポキシ基含有化合物;その他のビニルエステル類、ビニルエーテル類等のモノビニル単量体の1種又は2種以上を(共)重合した後、得られた(共)重合物に対してエピクロルヒドリン、(ポリ)アルキレングリコールジグリシジルエーテル、アルキレンジイソシアネート等の架橋剤を用いて架橋構造を導入することにより多孔質架橋粒子としたものや、ジビニルベンゼン、トリビニルベンゼン等の芳香族ポリビニル化合物、(ポリ)エチレングリコールジ(メタ)アクリル酸エステル、グリセロールジ(メタ)アクリル酸エステル等のポリ(メタ)アクリル酸エステル類、ポリカルボン酸ポリビニルエステル類、ポリカルボン酸ポリアリルエステル類、ポリオールポリビニルエーテル類、ポリオールポリアリルエーテル類、ブタジエン、メチレンビスアクリルアミド、イソシアヌル酸トリアリル等のポリビニル化合物の1種又は2種以上を(共)重合させたもの、もしくはこのようなポリビニル化合物の1種又は2種以上と、上述のモノビニル単量体の1種又は2種以上とを共重合して得られる多孔質架橋粒子を用いることができる。
【0033】
工業的な生産性を考慮すると、合成高分子としては、ポリビニル化合物の1種又は2種以上とモノビニル単量体の1種又は2種以上を共重合させたものが、多孔質架橋粒子Aとして好ましい。
【0034】
また、本発明において用いられる多孔質架橋粒子Aの形状としては、不定形状および球状の何れも用いられるが、液体クロマトグラフィー分離に用いる場合を考慮すると、球状であることが好ましく、その平均粒子径は好ましくは0.5〜1000μm、より好ましくは1〜200μm、更に好ましくは2〜100μmの範囲である。平均粒子径がこの範囲より小さいと、カラムに充填して通液した時の圧力損失が大きくなり、そのため通液速度を高くできず、処理効率が低下する傾向にある。一方、この範囲を超えて平均粒子径が大きいと、吸着量や分離性能が低下する傾向にある。
【0035】
多孔質架橋粒子Aの平均粒子径は、既知の方法で測定することができる。例えば、光学顕微鏡にて、100個以上の粒子径を測定し、その分布から体積メジアン径を算出することで平均粒子径が得られる。
【0036】
また、多孔質架橋粒子Aの粒子径分布については、体積分布における90%粒径を40%粒径で除した値である均一係数が1.4以下、好ましくは1.3以下、更に好ましくは1.2以下と、粒子径分布の狭いものであることが好ましい。即ち、均一係数は、通常小さい方がカラムに充填して通液する時の圧力損失が小さくなり好ましい。一方、均一係数が1.0であることは粒子径が完全に均一であることを意味するものであり、実際の製造においては困難である。このため、均一係数は通常1.0より大きくなる。均一係数を前記上限以下とするための方法として、篩による分別、水流を用いる水篩、気流を用いる風篩など、分級する方法が挙げられる。
【0037】
なお、多孔質架橋粒子Aの均一係数は、三菱化学株式会社イオン交換樹脂事業部発行「ダイヤイオン(登録商標) イオン交換樹脂・合成吸着剤マニュアル1」改訂4版(平成20年10月10日)第140〜141頁に記載される公知の算出法に従い、算出される値であり、より具体的には以下において記載する方法により測定することができる。まず、前記の方法により求められた平均粒子径から粒径分布図を得る。その粒径分布図より、平均粒子径の大きい粒子から体積分率で、40%の点を「40%残留径」、90%の点を「有効径」として求め、均一係数を下記式により算出する。
(均一係数)=(40%残留径(mm))/(有効径(mm))
【0038】
また、本発明において用いられる多孔質架橋粒子Aの多孔質構造については、水銀ポロシメーターにより測定した細孔容積が通常0.2〜2.5ml/g、特に0.2〜2.0ml/gの範囲が好ましい。細孔容積は大きい程吸着量が大きくなり好ましいが、過度に大きいと粒子の機械的強度が低下する傾向にある。
【0039】
また、多孔質架橋粒子Aの最頻度半径は通常1nm〜1μm、特に2〜500nm、とりわけ10〜300nmの範囲が好ましい。最頻度半径が上記範囲よりも小さいと、分離対象の蛋白質等が粒子の細孔中に入りにくくなり、結果的に吸着量が低下する傾向にある。一方、最頻度半径が上記範囲を超えて大きくなると、細孔内部に吸着に寄与しない空間ができてしまい、やはり吸着量が低下する傾向にあり、更に粒子の機械的な強度も低下する傾向にある。
【0040】
更に、多孔質架橋粒子AのBET法にて測定した比表面積については通常2〜1500m/g、特に5〜1000m/gの範囲であることが好ましい。比表面積が上記範囲よりも小さいと吸着量が低くなる傾向にあり、大きい場合にはそれに伴い細孔径が小さくなることから分離対象の蛋白質等が粒子の細孔中に入りにくくなり、結果的に吸着量が低下する傾向にある。
【0041】
本発明において用いられる多孔質架橋粒子Aは、その表面に水酸基と共有結合しうる官能基を有する。水酸基と共有結合しうる官能基としては、水酸基、カルボキシル基、スルホン基、イソシアネート基、クロル基等のハロゲン基およびエポキシ基等が挙げられ、好ましくはイソシアネート基、クロル基等のハロゲン基、エポキシ基であり、特に好ましくはエポキシ基が挙げられる。ここで、本発明において、多孔質架橋粒子Aの表面とは、架橋粒子を構成する外表面のみならず、細孔内の表面も含む意味で用いるものとする。
【0042】
多孔質架橋粒子Aが有する水酸基と共有結合しうる官能基の量については通常、0.001〜10ミリ当量/gの範囲であり、0.01〜5ミリ当量/gの範囲であることが好ましい。多孔質架橋粒子Aの水酸基と共有結合しうる官能基が前記下限値以上であると、多孔質架橋粒子Aに対する高分子Bの固定化の効率の面で好ましく、一方、前記上限値以下であると、多孔質架橋粒子の力学的強度を維持する構成成分が増えるため、好ましい。
【0043】
水酸基と共有結合しうる官能基を有する多孔質架橋粒子Aを得るには、前述の合成高分子の(共)重合に用いるポリビニル化合物および/又はモノビニル単量体として、上記の水酸基と共有結合しうる官能基を有するものを用いるか、または後反応によって上記の水酸基と共有結合しうる官能基に変換可能な官能基を有するものを用い、その後に後反応にて変換したものを用いることが好ましい。
【0044】
多孔質架橋粒子Aは、1種を単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0045】
<高分子B>
本発明においては、多孔質架橋粒子Aに対し、高分子Bを共有結合にて固定化することを特徴とする。
【0046】
本発明において用いられる高分子Bとしては、一級水酸基を有するものであれば、天然系高分子および合成高分子の何れも用いることができる。本発明において、多孔質架橋粒子Aに対して高分子Bを固定化した後、更に後述の相互作用性官能基を導入して本発明の分離剤を製造する場合、この高分子Bは、多孔質架橋粒子Aと共有結合にて結合する一級水酸基の他に、相互作用性官能基と結合し得る官能基を有することも好ましい。このような相互作用性官能基と結合し得る官能基としては、二級水酸基、三級水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン基、イソシアネート基、クロル基等のハロゲン基およびエポキシ基等が挙げられる。
【0047】
高分子Bとしては、好ましくは親水性を有するものであり、より好ましくは水酸基を複数有する天然系高分子または合成高分子である。天然系高分子としてはアガロース、キトサン、グルコマンナン等やヒドロキシプロピルセルロース、カルボキシメチルセルロース等の改質セルロース等が挙げられる。また、合成高分子としては、ポリグリセリン、ポリグリシドール、アリルグリシジルエーテル−グリシドール共重合体等のポリエーテルポリオール類、(メタ)アクリル酸ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2,3−ジヒドロキシプロピル等の(メタ)アクリル酸ヒドロキシアルキル類、ヒドロキシエチルビニルエーテル、ヒドロキシブチルビニルエーテル等のヒドロキシアルキルビニルエーテル類、メチロールアクリルアミド、ヒドロキシエチルアクリルアミド等のアルキロールアクリルアミド類等の一級水酸基を含むモノビニル単量体の1種又は2種以上の(共)重合体またはこれらの一級水酸基を含むモノビニル単量体の1種又は2種以上とその他の官能基を含むモノビニル単量体の1種又は2種以上との共重合体等が挙げられる。なお、その他の官能基を含むモノビニル単量体については前述した相互作用性官能基、または相互作用性官能基を後反応にて導入し得る官能基を含むものも好ましい。また、高分子Bとしては、合成高分子がより好ましい。これは合成高分子の方が通常、天然高分子よりも純度が高く、多孔質架橋粒子Aへの固定化反応が制御しやすいことなどの理由による。
【0048】
高分子Bの分子量については特に制限はないが、通常、100以上、好ましくは200以上、より好ましくは250以上であり、一方、通常、5,000,000以下、好ましくは1,000,000以下、より好ましくは600,000以下である。高分子Bの分子量が小さ過ぎると、多孔質架橋粒子Aに高分子Bを固定化することによる本発明の吸着量向上効果が低減する傾向にあり、一方で大き過ぎると固定化された高分子Bが多孔質架橋粒子Aの細孔内空間の大多数を占めることにより蛋白質等の高分子量の分離対象物が細孔内空間に拡散浸透する余地が少なくなることとなる。
【0049】
また、多孔質架橋粒子Aへの高分子Bの固定化量については、高分子Bを固定化する前の多孔質架橋粒子Aの重量Wと、これに高分子Bを固定化して得られる本発明の表面修飾多孔質架橋粒子を減圧乾燥法等の方法により恒量とした重量Wから下記式で算出される固定化率として、通常0.1〜30%、特に0.5〜20%であることが好ましい。
固定化率={(W−W)/W}×100
【0050】
固定化率が少な過ぎると、多孔質架橋粒子Aに高分子Bを固定化することによる本発明の吸着量向上効果を十分に得ることができず、多過ぎると固定化された高分子Bが多孔質架橋粒子Aの細孔内空間の大多数を占めることにより蛋白質等の高分子量の分離対象物が細孔内空間に拡散浸透する余地が少なくなることとなる。
【0051】
<共有結合による固定化方法>
多孔質架橋粒子Aに対し、高分子Bを共有結合にて固定化する方法としては、例えばクロル基等のハロゲン基を表面に有する多孔質架橋粒子Aに対し、高分子Bを共有結合にて固定化する場合には、Williamsonエーテル合成法を用いることが可能であり、また、エポキシ基を表面に有する多孔質架橋粒子Aに対し、高分子Bを共有結合にて固定化する場合には、アルカリ触媒或いは酸性触媒を用いて、又は無触媒のいずれの方法でも固定化反応を行うことができる。
【0052】
固定化反応に用いる溶媒についても、高分子Bを溶解することができる範囲において有機溶媒系、有機溶媒/水混合溶媒系および水系いずれをも用いることが可能であり、反応温度および反応時間についても公知の反応条件に基いて適宜選択することができるが、例えばエポキシ基を表面に有する多孔質架橋粒子の場合には反応温度は通常0〜200℃、反応時間は通常1分〜60時間である。
【0053】
なお、多孔質架橋粒子Aに高分子Bを固定化した後は、多孔質架橋粒子Aの表面に残存する水酸基と共有結合し得る官能基を加水分解等により相互作用性官能基と結合し得る基に変換してもよい。
【0054】
[分離剤の製造方法]
本発明の分離剤の製造方法は、上記の本発明の表面修飾多孔質架橋粒子の製造方法により製造された本発明の表面修飾多孔質架橋粒子に、更に相互作用性官能基を導入する方法であってもよく、また、本発明の表面修飾多孔質架橋粒子の製造に当り、予め相互作用性官能基が導入された高分子Bを用いる方法であってもよい。
【0055】
<相互作用性官能基>
本発明の分離剤に導入される相互作用性官能基としては、本発明の分離剤の用途に応じて適宜決定され、例えば液体クロマトグラフィー用分離剤としての用途においては、各種のイオン交換基、アフィニティーリガンド、疎水性相互作用基の中から適宜選択される。本発明の分離剤を用いて蛋白質を分離する場合には、これらの相互作用性官能基を、分離対象物の蛋白質に合わせて適宜選択することにより、蛋白質の吸着能が特に優れたものとなる。
【0056】
イオン交換基としては、例えば、カルボキシメチル基等のカルボキシル基や、ホスホノエチル基等のホスホノアルキル基や、スルホエチル基、スルホプロピル基、2−メチルプロパンスルホン酸基等のスルホアルキル基や、アルキルアミノ基、ジアルキルアミノ基、トリアルキルアンモニウム基等の各種アルキルアミノ基、ピリジン基等が挙げられる。
【0057】
アフィニティーリガンドとしては、プロテインA、プロテインG、プロテインLおよびこれらの機能性変異体、各種抗体、もしくはこれらの疑似ペプチドリガンド類、各種色素類、レクチン類、オリゴ核酸等の核酸類等が挙げられるが、蛋白質の分離用途においては、蛋白質に親和性のある生化学活性を有する物質で多孔質架橋粒子A及び/又は高分子Bに固定化可能なものであれば特に限定されない。
特に、抗体の分離を主目的とする場合、リガンドとしては免疫グロブリンの一部と特異
的に結合可能なものが好ましく、その中でもプロテインA、プロテインG、プロテインLおよびこれらの変異体が交替の分離に用いる際の選択率が高く好ましい。
【0058】
疎水性相互作用基としては、炭素数1〜40のアルキル基、フェニル基、アルキル基の炭素数が1〜10で繰り返し数が2〜100のポリアルキルエーテル基等が挙げられ、好ましくは炭素数4〜18のアルキル基、フェニル基、アルキル基の炭素数が2〜4で繰り返し数が2〜20のポリアルキルエーテル基等が挙げられる。
【0059】
本発明の分離剤は、これらの相互作用性官能基のうちの1種のみを有するものであってもよく、2種以上を有するものであってもよい。
【0060】
<表面修飾多孔質架橋粒子への相互作用性官能基の導入>
本発明の表面修飾多孔質架橋粒子に更に相互作用性官能基を導入する方法としては、前述の相互作用性官能基を有する化合物を表面修飾多孔質架橋粒子に反応させればよい。表面修飾多孔質架橋粒子に反応させる相互作用性官能基を有する化合物としては、表面修飾多孔質架橋粒子の水酸基、カルボキシル基、アミノ基、スルホン基、イソシアネート基、クロル基等のハロゲン基およびエポキシ基等と反応する化合物が好ましい。
【0061】
これらは1種を単独で用いてもよく、2種以上を混合して用いてもよい。
【0062】
これらの相互作用性官能基を有する化合物を本発明の表面修飾多孔質架橋粒子に反応させて相互作用性官能基を導入する反応方式には特に制限はなく、一般的には、相互作用性官能基を有する化合物を溶解し得る溶媒に当該相互作用性官能基を有する化合物を溶解させた反応液に、本発明の表面修飾多孔質架橋粒子を加えて所定の温度で所定の時間加熱して反応させればよい。
【0063】
<相互作用性官能基の導入量>
このようにして製造される本発明の分離剤の相互作用性官能基導入量としては、例えば、相互作用性官能基がイオン交換基である場合、イオン交換容量として0.001〜4当量/L−分離剤粒子が好ましく、特に0.01〜2当量/L−分離剤粒子が好ましい。
【0064】
また、相互作用性官能基がアフィニティーリガンドの場合は1マイクロ当量/L−分離剤粒子〜2当量/L−分離剤粒子が好ましい。
【0065】
また、相互作用性官能基が疎水基の場合は0.001当量/L−分離剤粒子〜2当量/L−分離剤粒子が好ましい。
【0066】
[分離対象物および分離方法]
本発明の分離剤は、蛋白質、特に抗体を分離対象物とする吸脱着に好適に使用される。
特に好ましい分離対象物としては、免疫グロブリンまたは免疫グロブリンのFc領域の少なくとも一部を含む融合蛋白質もしくはその化学変性物が挙げられ、中でも免疫グロブリンがモノクローナル抗体またはポリクローナル抗体が好ましい。
これらの分離対象物の吸脱着処理は、以下の工程を経て行うことが好ましい。
【0067】
(a)分離対象物を含む溶液を本発明の分離剤に接触させて、分離対象物を分離剤に吸着させる工程
(b)分離対象物を吸着した分離剤から分離対象物を溶離させる工程
【0068】
このような方法により、本発明の分離剤を用いて、上記のような各種蛋白質を選択性良く分離することが可能である。
このような吸脱着処理に際しては、本発明の分離剤を充填した液体クロマトグラフィー用カラムが好ましく用いられる。
【実施例】
【0069】
以下、実施例を用いて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はその要旨を逸脱しな
い限り、以下の実施例の記載に限定されるものではない。なお、以下の実施例における各種の製造条件や評価結果の値は、本発明の実施態様における上限又は下限の好ましい値としての意味をもつものであり、好ましい範囲は前記した上限又は下限の値と、下記実施例の値又は実施例同士の値との組み合わせで規定される範囲であってもよい。
【0070】
[実施例1]
<表面修飾多孔質架橋粒子の合成>
水酸基と共有結合しうる官能基としてエポキシ基を有するグリシジルメタクリレートと、エチレングリコールジメタクリレートとを重量比70:30で懸濁重合させることにより、多孔質架橋粒子を合成した。この多孔質架橋粒子について、塩酸−ジオキサン法により求められたエポキシ基量は4.38ミリ当量/gであった。これを平均粒子径が60μmで均一係数が1.4以下になるようにステンレスメッシュ製篩いにて篩ったもの(このものの細孔容積は0.94ml/g、最頻度半径は26.1nm、BET比表面積は51m/gである。)10重量部に対し、一級水酸基を有する高分子としてポリグリセリン(阪本薬品工業株式会社製「PG310」)50重量部、溶媒としてジメチルスルホキシド50重量部を加え、120℃にて6時間反応させることにより、表面修飾多孔質架橋粒子を合成した。反応後の粒子を水洗後、0.1重量%硫酸水溶液50重量部を加え、
50℃にて3時間反応させることで残余のエポキシ基を加水分解した。反応後の粒子を水洗後、減圧乾燥して得られた表面修飾多孔質架橋粒子の重量増加率(ポリグリセリンの固定化率)は3.7%であった。
【0071】
<分離剤の製造>
上記で得られた表面修飾多孔質架橋粒子10重量部に対して、相互作用性官能基を有する化合物としてプロパンサルトン12.5重量部、溶媒としてテトラヒドロフラン12.5重量部を加え、加熱還流下、6時間反応させることにより相互作用性官能基として、スルホプロピル基を導入することで分離剤を得た。
【0072】
得られた分離剤粒子のイオン交換容量は、滴定により粒子1Lあたり0.10当量と求められた。
【0073】
<分離剤の蛋白質の動的吸着容量評価>
上記の分離剤粒子を内径6.4mm、長さ30mmのカラムに充填し、流速1.0ml/minにて濃度1mg/mlとしたマウスIgGの(20mMクエン酸ナトリウム+15mM塩化ナトリウム)溶液(pH5.2)を通液し、カラムへの通液量から求められるマウスIgG量から、カラムからの流出液中のマウスIgG量を減じることにより求められた動的吸着容量は、粒子1Lあたり51.6gと求められた。
【0074】
[比較例1]
実施例1で用いたエポキシ基を有する多孔質架橋粒子を、実施例1と同様に平均粒子径が60μmになるように篩ったもの10重量部に対し、0.1重量%硫酸水溶液50重量部を加え、50℃にて3時間反応させることでエポキシ基を加水分解した。
反応後の粒子を水洗後、減圧乾燥して得られた粒子10重量部に対して、プロパンサルトン3重量部、ジメチルスルホキシド100重量部を加え、次いで触媒として20重量%水酸化ナトリウム水溶液10重量部を加え、30℃にて7時間反応させることによりスルホプロピル基を導入した。
【0075】
得られた粒子のイオン交換容量は、滴定により粒子1Lあたり0.08当量と求められた。
【0076】
この粒子を1mlのカラムに充填し、実施例1と同様にマウスIgGの動的吸着容量を測定したところ、粒子1Lあたり35.0gであった。
【0077】
[結果の評価]
上記の結果より明らかなように、表面に水酸基と共有結合しうる官能基であるエポキシ基を有する多孔質架橋粒子に対して、一級水酸基を有する高分子であるポリグリセリンを固定化した後、相互作用性官能基としてスルホプロピル基を導入した実施例1の分離剤粒子は、多孔質架橋粒子に一級水酸基を有する高分子を固定化せず、直接相互作用性官能基を導入した比較例1の粒子に比べて、イオン交換容量の差以上に吸着容量の差が大きい。このことから、多孔質架橋粒子への高分子の導入で吸着容量が顕著に改善されたことが分かる。
また、本発明の方法によれば、水酸基と共有結合しうる官能基を有する多孔質架橋粒子に対して一級水酸基を有する高分子を共有結合で固定化することにより、多孔質架橋粒子に対して効率的に高分子を導入することができることが分かる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
表面に水酸基と共有結合しうる官能基を有する多孔質架橋粒子に対し、一級水酸基を有する高分子を共有結合にて固定化することを特徴とする表面修飾多孔質架橋粒子の製造方法。
【請求項2】
前記高分子が合成高分子であることを特徴とする請求項1に記載の表面修飾多孔質架橋粒子の製造方法。
【請求項3】
請求項1又は請求項2に記載の表面修飾多孔質架橋粒子の製造方法で製造された表面修飾多孔質架橋粒子に、相互作用性官能基を導入することを特徴とする分離剤の製造方法。
【請求項4】
前記相互作用性官能基が、前記一級水酸基を有する高分子に共有結合にて固定化することにより導入されることを特徴とする請求項3に記載の分離剤の製造方法。
【請求項5】
前記相互作用性官能基がイオン交換基であることを特徴とする請求項3又は請求項4のいずれかに記載の分離剤の製造方法。
【請求項6】
前記相互作用性官能基がアフィニティーリガンドであることを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の分離剤の製造方法。
【請求項7】
前記相互作用性官能基が、アルキル基、フェニル基およびポリアルキルエーテル基のいずれかを含むことを特徴とする請求項3又は請求項4に記載の分離剤の製造方法。
【請求項8】
請求項3ないし請求項7のいずれか1項に記載の分離剤の製造方法で製造された分離剤を用いることを特徴とする吸着分離方法。
【請求項9】
請求項3ないし請求項7のいずれか1項に記載の分離剤の製造方法で製造された分離剤を用いることを特徴とするクロマトグラフィー分離方法。
【請求項10】
分離対象物が蛋白質であることを特徴とする請求項8に記載の吸着分離方法。
【請求項11】
分離対象物が蛋白質であることを特徴とする請求項9に記載のクロマトグラフィー分離方法。

【公開番号】特開2013−88398(P2013−88398A)
【公開日】平成25年5月13日(2013.5.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−231919(P2011−231919)
【出願日】平成23年10月21日(2011.10.21)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)