説明

多孔質構造体の製造方法

【課題】表層が剥離し難いとともに比表面積が大きい多孔質構造体を、大量かつ低コストにて製造し得る方法を提供する。
【解決手段】少なくとも一部がシリカによって形成されている基材上に石灰を付着させる工程と、石灰が付着した基材を蒸気養生して表層を形成する工程と、を含む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質構造体の製造方法に関するものであり、更に詳細には、基材の表面に多孔質である表層が備えられている多孔質構造体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリカ等によって形成された基材の表面に多孔質である表層を備えた多孔質構造体が様々な用途に用いられている。
【0003】
例えば、特許文献1には、保温材または断熱材として用いられる、ケイ酸カルシウム化合物を主成分とする多孔質構造体が記載されている。当該多孔質構造体の製造方法では、原料であるシリカと石灰との粉末混合物を型枠に入れて所定の形態に成形した後、当該粉末混合物を加圧しながら蒸気養生を行うことによって、ケイ酸カルシウム化合物を主成分とする多孔質構造体を製造している。なお、上述したように特許文献1に記載の技術では、加圧しながら蒸気養生を行っている。その理由は、加圧することなく蒸気養生を行えば、原料であるシリカと石灰との粉末混合物が洗い流されて、失われるからである。
【0004】
また、特許文献2には、多孔質シリカ層によって覆われたケイ酸粒子からなる光触媒用担体が記載されている。当該光触媒用担体の製造方法では、石灰を含む水溶液中でケイ酸粒子を水熱反応させることによって、ケイ酸粒子の表面上にケイ酸カルシウム層を形成している。そして、当該ケイ酸カルシウム層を、必要に応じて炭酸化処理した後、酸処理することによって、多孔質であるシリカ層を形成している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2001−31415号公報(公開日:2001年2月6日)
【特許文献2】特開2005−7308号公報(公開日:2005年1月13日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、上記従来の多孔質構造体の製造方法は、多孔質構造体を大量かつ低コストにて製造できないという問題点がある。
【0007】
特許文献1に記載の技術は、原料としてシリカと石灰との粉末混合物を用いているので、当該粉末混合物を成形する必要があるとともに、蒸気養生を行うときに粉末混合物を加圧する必要がある。そのため、成形用、加圧用の特別な装置が必要であるとともに製造工程が複雑化するので、多孔質構造体を多量かつ低コストにて製造できないという問題点を有している。
【0008】
特許文献2に記載の技術は、石灰を含有する水溶液中でケイ酸粒子を水熱反応させるので、特別な水熱反応装置が必要である。しかしながら、このような多量の液体を用いる必要がある水熱反応装置を大型化して多孔質構造体を大量に製造することは困難であるとともに、非常にコストがかかるという問題点を有している。例えば、水熱反応装置を大型化すると大量の水の重量に耐え得る架台などが必要になる。しかしながら、当該架台の作製には、非常にコストがかかる。また、水熱反応装置を大型化すれば、大量の水の水圧および蒸気圧の2つの圧力に耐え得る圧力容器が必要になる。しかしながら、当該圧力容器の作製には、非常にコストがかかる。なお、現在用いられている水熱反応装置は、一般的には、蒸気養生装置の1/50以下の容量を有するものである。
【0009】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、表層が剥離し難いとともに比表面積が大きい多孔質構造体を、大量かつ低コストにて製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、表面上に石灰が付着した基材を蒸気養生すれば、大型化が容易であるとともに低コストである装置によって、多孔質であるとともに剥がれ難い表層を備えた多孔質構造体を大量かつ低コストにて製造することが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0011】
本発明の多孔質構造体の製造方法は、上記課題を解決するために、少なくとも一部がシリカによって形成されている基材上に石灰を付着させる工程と、上記石灰が付着した基材を蒸気養生して表層を形成する工程と、を含むことを特徴としている。
【0012】
上記構成によれば、基材の構成成分であるシリカと石灰とから、多孔質であるケイ酸カルシウム層を形成することができる。
【0013】
本発明の多孔質構造体の製造方法は、上記石灰を付着させる工程では、水または水酸化アルカリ水溶液中に石灰を分散させた水溶液中に、上記基材を浸漬することが好ましい。
【0014】
上記構成によれば、基材の表面に均質に石灰を付着させることができるとともに、均質なケイ酸カルシウム層を形成することができる。
【0015】
本発明の多孔質構造体の製造方法では、上記水溶液は、0.5wt%〜10wt%の濃度にて石灰を含んでいることが好ましい。
【0016】
上記構成によれば、十分な厚さを有する表層を形成することができるとともに、表層の厚さを所望の厚さに調節することができる。
【0017】
本発明の多孔質構造体の製造方法では、上記表層に対してリン酸化合物を付着させる工程と、上記リン酸化合物が付着した表層を蒸気養生する工程と、を含むことが好ましい。
【0018】
上記構成によれば、ケイ酸カルシウム層から多孔質であるシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層を形成することができる。
【0019】
本発明の多孔質構造体の製造方法は、上記表層を、リン酸化合物を含有する水溶液中で水熱処理する工程を含むことが好ましい。
【0020】
上記構成によれば、ケイ酸カルシウム層から多孔質であるシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層を形成することができる。
【0021】
本発明の多孔質構造体の製造方法は、上記リン酸化合物が付着した表層を蒸気養生する工程、または前記水熱処理する工程の後に、更に酸処理する工程を含むことが好ましい。
【0022】
上記構成によれば、シリカ・ハイドロキシアパタイト複合層からハイドロキシアパタイトを溶解・除去することによって、多孔質であるシリカ層を形成することができる。
【0023】
本発明の多孔質構造体の製造方法は、上記表層を炭酸化処理する工程を含むことが好ましい。
【0024】
上記構成によれば、ケイ酸カルシウム層から多孔質であるシリカ・炭酸カルシウム複合層を形成することができる。
【0025】
本発明の多孔質構造体の製造方法は、上記炭酸化処理する工程の後に、更に酸処理する工程を含むことが好ましい。
【0026】
上記構成によれば、シリカ・炭酸カルシウム複合層から炭酸カルシウムを溶解・除去することによって、多孔質であるシリカ層を形成することができる。
【0027】
本発明の多孔質構造体の製造方法は、上記酸処理では、酸として塩酸、硝酸、炭酸、ギ酸、シュウ酸、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、乳酸または酸性陽イオン交換剤を用いることが好ましい。
【0028】
上記構成によれば、ハイドロキシアパタイトまたは炭酸カルシウムを効果的に溶解・除去することができる。
【0029】
本発明の多孔質構造体の製造方法では、上記基材は、多孔質であることが好ましい。
【0030】
上記構成によれば、比表面積を更に大きくすることができる。
【発明の効果】
【0031】
本発明は、以上のように、少なくとも一部がシリカによって形成されている基材上に石灰を付着させる工程と、上記石灰が付着した基材を蒸気養生して表層を形成する工程と、を含む方法である。
【0032】
本発明では、基材上に石灰を付着させるとともに、蒸気養生によって基材の構成成分であるシリカと石灰とからケイ酸カルシウム層が形成される。換言すれば、本発明は、従来技術のような、シリカと石灰との粉末混合物を型枠に入れて所定の形態に成形する工程や、石灰水溶液中でケイ酸粒子を水熱反応させる工程を必要としない。それ故、製造装置(例えば、蒸気養生装置など)を大型化することが容易であるので、多孔質構造体を大量生産することができるとともに、製造コストを低減することができるという効果を奏する。
【0033】
本発明は、シリカと石灰との粉末混合物を型枠に入れて所定の形態に成形する工程を必要としないので、既に成形されている基材の表面を容易に多孔質化することができるという効果を奏する。
【0034】
本発明では、基材と石灰とが化学反応を起こすことによって、ケイ酸カルシウム層が、基材と一体化した状態にて形成される。それ故、表層(例えば、ケイ酸カルシウム層、シリカ・ハイドロキシアパタイト複合層、シリカ・炭酸カルシウム複合層またはシリカ層)が基材から剥離することを防ぐことができるという効果を奏する。
【0035】
本発明では、基材上に石灰を付着させる。基材上に付着させる石灰の量(または濃度)は容易に調節することが可能なので、基材上に形成される表層(例えば、ケイ酸カルシウム層、シリカ・ハイドロキシアパタイト複合層、シリカ・炭酸カルシウム複合層またはシリカ層)の厚さを容易に調節することができるという効果を奏する。
【0036】
本発明によれば、比表面積が大きいとともに、物質に対する吸着効果が高い多孔質構造体を容易に作製することができるという効果を奏する。
【図面の簡単な説明】
【0037】
【図1】(a)および(b)は、蒸気養生装置の一実施形態を示す模式図である。
【図2】(a)は、蒸気養生を行う前の基材の表面を示す拡大写真であり、(b)は、蒸気養生を行った後の基材の表面を示す拡大写真である。
【図3】(a)は、実施例における蒸気養生処理を行う前の基材のSEM観察結果であり、(b)は、実施例における蒸気養生処理を行った後の基材のSEM観察結果であり、(c)は、実施例におけるシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層被覆構造体のSEM観察結果であり、(d)は、実施例における多孔質シリカ被覆構造体のSEM観察結果であり、(e)は、実施例におけるシリカ・炭酸カルシウム複合層被覆構造体のSEM観察結果であり、(f)は、実施例におけるシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層被覆構造体のSEM観察結果である。
【発明を実施するための形態】
【0038】
本発明の一実施形態について以下に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0039】
本発明の多孔質構造体の製造方法では、基材上に多孔質である表層が形成される。当該表層としては特に限定されないが、例えば、ケイ酸カルシウム層、シリカ・ハイドロキシアパタイト複合層、シリカ・炭酸カルシウム複合層およびシリカ層を挙げることができる。以下に、各層を備えた多孔質構造体の製造方法について説明する。なお、表層の種類は、これらに限定されない。
【0040】
〔1〕ケイ酸カルシウム層を備える多孔質構造体の製造方法
本実施形態の多孔質構造体の製造方法は、少なくとも一部がシリカによって形成されている基材上に石灰を付着させる工程を含んでいる。
【0041】
上記基材は、少なくともその一部がシリカによって形成されているものであればよく、シリカ以外の部分の材質および基材に占める割合は、特に限定されない。例えば、少なくとも基材の表面がシリカによって形成されていることが好ましい。本実施形態の多孔質構造体の製造方法では、基材に含まれるシリカと石灰とが反応することによってケイ酸カルシウム層が形成されるので、上記構成であれば、基材の表面を効果的に多孔質のケイ酸カルシウム層によって覆うことができる。
【0042】
上記基材の形状は特に限定されないが、多孔質であることが好ましい。上記構成によれば、表面積の広い基材上にケイ酸カルシウム層を形成することができるので、多孔質構造体の比表面積をより大きなものにすることができるとともに、物質の吸着効果を高めることができる。なお、多孔質である基材は、市販のものを使用することも可能であるし、公知の方法に従って作製することも可能である。公知の方法に従って作製する場合の具体的な作製方法は特に限定されないが、例えば、特開2005−60180号公報(公開日:2005年3月10日)に記載の方法に従って作製することが好ましい(当該文献は、本明細書中に参考として援用される)。上記構成によれば、より比表面積が大きな多孔質構造体を作製することができる。
【0043】
本実施形態の多孔質構造体の製造方法では、上記基材上に石灰を付着させる。
【0044】
上記石灰としては特に限定されないが、例えば、生石灰(酸化カルシウム)または消石灰(水酸化カルシウム)を用いることが好ましい。生石灰を用いれば、ケイ酸カルシウム層を容易に設けることができるとともに、それに続いて、シリカ・ハイドロキシアパタイト複合層、更にはシリカ層を容易に形成することができる。一方、消石灰を用いれば、ケイ酸カルシウム層を容易に設けることができるとともに、それに続いて、シリカ・炭酸カルシウム複合層、更にはシリカ層を容易に形成することができる。勿論、生石灰および消石灰を混合して用いることも可能である。
【0045】
基材上に石灰を付着させる具体的な方法は特に限定されず、粉末状の石灰を基材に対して付着させることも可能であるし、当該粉末状の石灰を溶解・分散させた水溶液を基材に対して塗布することも可能である。基材の表面全体に均質な表層を設けるという観点からは、上記水溶液を基材に対して塗布することが好ましいといえる。
【0046】
石灰を溶解・分散させた水溶液は、石灰を溶媒に対して溶解・分散させることによって作製され得る。石灰を溶媒に対して溶解・分散させる具体的な方法は特に限定されるものではなく、従来公知の方法を用いることが可能である。例えば、ホモジナイザーや従来公知の懸濁液製造装置を用いて、石灰と溶媒とを混合すればよい。
【0047】
上記溶媒としては特に限定されないが、例えば、水または水酸化アルカリ水溶液を用いることが好ましい。また、上記水酸化アルカリ水溶液の更に具体的な構成は特に限定されないが、例えば、水酸化リチウム水溶液、水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カリウム水溶液などを用いることが好ましい。更に低コストにて表層を形成することを考慮すれば、水酸化アルカリ水溶液の中では、水酸化カリウム水溶液を用いることが好ましく、水酸化ナトリウム水溶液を用いることが更に好ましいといえる。また、表層に絶縁性の機能を付与することを考慮すれば、水酸化アルカリ水溶液の中では、水酸化カリウム水溶液または水酸化リチウム水溶液を用いることが好ましいといえる。勿論、これらの水酸化アルカリ水溶液は、単独で用いることも可能であるし、複数を混合して用いることも可能である。水と水酸化アルカリ水溶液とを比較した場合、水酸化アルカリ水溶液を用いる場合の方が、シリカと石灰との反応速度を上昇させることができるので好ましい。
【0048】
上記水酸化アルカリ水溶液における水酸化アルカリ物質のモル濃度は特に限定されるものではないが、モル濃度が低すぎると、生成するケイ酸カルシウムの結晶形態が変化しない傾向や、水熱反応の促進効果が十分に発揮されない傾向を示す。逆に、モル濃度が高すぎると、水熱反応の促進効果が飽和し、その結果、生成するケイ酸カルシウム層が所望の物性を満足しなくなる傾向を示す。したがって、上記水酸化アルカリ水溶液における水酸化アルカリ物質のモル濃度は、具体的には、0.01M〜1.0Mであることが好ましい。当該構成によれば、生成するケイ酸カルシウムの結晶形態を変化させたり、水熱反応を促進させたりする効果を得ることができる。なお、本明細書において「A〜B」と記載した場合には、「A以上B以下」が意図される。
【0049】
上記溶媒に対する石灰の添加量は特に限定されるものではなく、溶媒中に石灰を分散させることができるとともに、ケイ酸カルシウム層を形成し得る量であれば良い。例えば、0.5wt%〜10wt%になるように溶媒に対して石灰を添加することが好ましく、5wt%〜10wt%になるように溶媒に対して石灰を添加することが更に好ましく、3wt%〜7wt%になるように溶媒に対して石灰を添加することが更に好ましい。本実施形態の多孔質構造体の製造方法では、溶媒に対する石灰の添加量を調節することによって、表層の厚さを調節することができる。一般的には、石灰の添加量が多いほど、厚い表層を形成することができ、それ故、物質の吸着効果を高めることができる。
【0050】
上記基材上に石灰を付着させる具体的な方法としては特に限定されない。例えば、基材を、石灰を含有する水溶液中に浸漬することも可能であるし、スプレーにて石灰を含有する水溶液を基材上に塗布することも可能である。なお、基材上に均質な表層を設けるという観点からは、浸漬する方法の方が優れているといえる。
【0051】
本実施形態の多孔質構造体の製造方法では、石灰が付着した基材を蒸気養生することによって、基材上に、多孔質であるケイ酸カルシウム層が設けられる。なお、本明細書において「蒸気養生」とは、加温の蒸気中で行う水熱反応促進養生が意図される。ここで、「養生」とは、適度な温度と湿度を確保し、基材の表面に被膜を形成して基材を保護することを意図する。また、本明細書において「水熱処理」とは、加温の水溶液中で行う養生を意図する。
【0052】
蒸気養生を行うための蒸気養生装置としては特に限定されず、適宜公知の蒸気養生装置を用いることができる。図1(a)および図(b)に、蒸気養生装置の一例を示す。図1(a)は、蒸気養生装置10の外観を示す模式図であり、図1(b)は、蒸気養生装置10の断面図である。図1(b)に示すように、石灰が付着した基材1が網3に吊るされ、当該網3が蒸気養生装置10内に配置されている。そして、蒸気養生装置10の下部には、基材1が浸からないように水2が配置されている。そして、蒸気養生装置10に設けられた開閉可能な扉4を閉め、蒸気養生装置10内で基材1が蒸気養生される。蒸気養生を行うと、基材1の構成成分であるシリカと基材1上に付着した石灰とが反応し、その結果、基材1上に多孔質であるケイ酸カルシウム層が形成される。
【0053】
蒸気養生の反応温度は特に限定されないが、例えば、100℃〜180℃であることが好ましく、120℃〜160℃であることが更に好ましい。上記反応温度であれば、水熱反応を十分に促進させることができる。
【0054】
蒸気養生の反応時間は特に限定されるものではなく、ケイ酸カルシウムを十分に蒸気養生することができる時間であればよい。具体的には、石灰を水に分散させた場合には、シリカと石灰との反応速度が遅いので、石灰を水酸化アルカリ水溶液に分散させた場合よりも長く反応させることが好ましい。また、反応時間は、蒸気養生の反応温度に応じて適宜変更することが好ましい。より具体的には、石灰を水中に分散させるとともに、反応温度を100℃とする場合には、反応時間を10時間〜30時間とすることが好ましい。一方、石灰を水酸化アルカリ水溶液中に分散させるとともに、反応温度を100℃とする場合には、反応時間を8〜20時間とすることが好ましい。上記反応条件によれば、水溶液中でオ−トクレ−ブを用いて高温高圧条件下でケイ酸カルシウム層を水熱合成するという従来法よりも、優れた物性を有するケイ酸カルシウム層を容易に形成することができる。
【0055】
以上のようにして、基材上に多孔質であるケイ酸カルシウム層が設けられた多孔質構造体を製造することができる。
【0056】
〔2〕シリカ・ハイドロキシアパタイト複合層を備える多孔質構造体の製造方法
本実施形態の多孔質構造体は、〔1〕に記載のケイ酸カルシウム層が設けられた多孔質構造体を用いて製造することができる。つまり、基材上に設けられたケイ酸カルシウム層を、リン酸化合物を用いた蒸気養生、または、リン酸化合物を含有する水溶液中で水熱処理することによって、当該ケイ酸カルシウム層から多孔質であるシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層を形成し、これによって、本実施の形態の多孔質構造体を製造することができる。つまり、ケイ酸カルシウム層に含まれる酸化カルシウムとリン酸化合物とが反応してハイドロキシアパタイトが形成され、その結果、ケイ酸カルシウム層から、シリカ・ハイドロキシアパタイト複合層が形成される。なお、シリカ・ハイドロキシアパタイト複合膜は、箔状または繊維状の一次粒子が三次元的に絡み合って二次粒子を形成した多孔質シリカを、ハイドロキシアパタイトにて被覆して複合体化したものである。
【0057】
以下に、蒸気養生または水熱処理の各々によってシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層を形成する方法を説明する。
【0058】
〔2−1〕蒸気養生
蒸気養生によってシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層を形成する場合には、まず、ケイ酸カルシウム層上にリン酸化合物を付着させる。
【0059】
ケイ酸カルシウム層上にリン酸化合物を付着させる具体的な方法は特に限定されないが、例えば、リン酸化合物を含有する水溶液中に、ケイ酸カルシウム層を備える多孔質構造体を浸漬することが好ましい。上記構成によれば、ケイ酸カルシウム層に含まれる酸化カルシウムを該層の表面に溶出させ易い。そして、表面に溶出した酸化カルシウムとリン酸とを反応させることによって、表層の最も外側にハイドロキシアパタイト(リン酸カルシウム)を形成することができる。
【0060】
リン酸化合物を含有する水溶液を用いる場合には、当該水溶液中のリン酸化合物の濃度は特に限定されないが、例えば、5wt%〜25wt%であることが好ましく、10wt%〜20wt%であることが更に好ましい。上記構成によれば、蒸気養生によって、効果的にシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層を形成することができる。
【0061】
上記リン酸化合物は、カルシウム化合物でなければよく、その具体的な構成は特に限定されない。例えば、リン酸またはリン酸塩(カルシウム塩を除く)であることが好ましく、リン酸塩であることがより好ましい。勿論、リン酸とリン酸塩との混合物であってもよい。
【0062】
上記リン酸塩としては、例えば、第一リン酸ナトリウム、第二リン酸ナトリウム、第三リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、第一リン酸カリウム、第二リン酸カリウム、第三リン酸カリウム、ピロリン酸カリウム、第一リン酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム、第三リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム、リン酸2水素アンモニウム、リン酸3アンモニウム、第一リン酸カルシウム、リン酸水素アンモニウムナトリウム、ピロリン水素ナトリウム、ピロリン酸水素カリウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸ナトリウムおよびメタリン酸アンモニウム等を挙げることができる。これらのリン酸塩は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
本実施形態の多孔質構造体の製造方法では、リン酸化合物が付着したケイ酸カルシウム層を蒸気養生することによって、多孔質であるシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層が形成される。
【0064】
蒸気養生を行うための蒸気養生装置としては特に限定されず、適宜公知の蒸気養生装置を用いることができる。例えば、図1(a)および図1(b)に示す蒸気養生装置を用いることが可能である。なお、当該上記養生装置の具体的な構成については既に説明したので、ここではその説明を省略する。
【0065】
蒸気養生の処理温度および処理時間は特に限定されるものではなく、ハイドロキシアパタイトが生成するために十分な処理温度および処理時間であればよい。具体的な処理温度としては、例えば、60℃〜140℃であることが好ましく、80℃〜120℃であることがより好ましい。上記範囲内であれば、好適にハイドロキシアパタイトの生成反応が起こる。また、処理時間は、リン酸イオン濃度、反応温度およびハイドロキシアパタイトで被覆される表層の厚さに基づいて適宜変更すればよい。例えば、1時間〜数十時間の範囲で処理することが好ましい。
【0066】
〔2−2〕水熱処理
水溶液中の水熱処理によってシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層を形成する場合には、ケイ酸カルシウム層が、リン酸化合物を含有する水溶液中で水熱処理されることが好ましい。
【0067】
上記リン酸化合物を含有する水溶液中のリン酸化合物の濃度は特に限定されないが、例えば、2wt%〜25wt%であることが好ましく、5wt%〜20wt%であることが更に好ましい。上記構成によれば、水熱処理によって、効果的にシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層を形成することができる。
【0068】
上記リン酸化合物は、カルシウム化合物でなければよく、その具体的な構成は特に限定されない。例えば、リン酸またはリン酸塩(カルシウム塩を除く)であることが好ましく、リン酸塩であることがより好ましい。また、リン酸とリン酸塩との混合物であってもよい。
【0069】
上記リン酸塩としては、例えば、第一リン酸ナトリウム、第二リン酸ナトリウム、第三リン酸ナトリウム、ピロリン酸ナトリウム、第一リン酸カリウム、第二リン酸カリウム、第三リン酸カリウム、ピロリン酸カリウム、第一リン酸アンモニウム、第二リン酸アンモニウム、第三リン酸アンモニウム、リン酸水素アンモニウム、リン酸水素2アンモニウム、リン酸2水素アンモニウム、リン酸3アンモニウム、第一リン酸カルシウム、リン酸水素アンモニウムナトリウム、ピロリン水素ナトリウム、ピロリン酸水素カリウム、ピロリン酸アンモニウム、メタリン酸ナトリウムおよびメタリン酸アンモニウム等を挙げることができる。これらのリン酸塩は、単独で用いてもよいし、複数を組み合わせて用いてもよい。
【0070】
水熱処理の処理温度および処理時間は特に限定されるものではなく、ハイドロキシアパタイトが生成するために十分な処理温度および処理時間であればよい。具体的な処理温度としては、例えば、40℃〜100℃であることが好ましく、60℃〜95℃であることがより好ましい。上記範囲内であれば、好適にハイドロキシアパタイトの生成反応が起こる。また、処理時間は、リン酸イオン濃度、反応温度およびハイドロキシアパタイトで被覆される表層の厚さに基づいて適宜変更すればよい。例えば、1時間〜数十時間の範囲で処理することが好ましい。
【0071】
以上のようにして、多孔質であるシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層が設けられた多孔質構造体を製造することができる。
【0072】
〔3〕シリカ層を備える多孔質構造体の製造方法−1
本実施形態の多孔質構造体は、〔2〕に記載のシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層が設けられた多孔質構造体を用いて製造することができる。つまり、基材上に設けられたシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層を酸処理することによって、当該複合層からハイドロキシアパタイトが溶解・除去され、その結果、多孔質であるシリカ層が形成される。
【0073】
本実施形態の多孔質構造体の表層は、箔状または繊維状の一次粒子が三次元的に絡み合って二次粒子を形成した多孔質シリカであって、アセトアルデヒド等の吸着効果が優れている。
【0074】
上記酸処理で用いられる酸は、上記シリカ・ハイドロキシアパタイト複合層に含まれるハイドロキシアパタイトを溶解・除去できるものであればよく、特に限定されるものではない。例えば、塩酸、硝酸または炭酸等の無機酸を好適に用いることができる。上記酸としては、ギ酸、シュウ酸、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、乳酸または酸性陽イオン交換剤等の有機酸を用いることも可能である。
【0075】
上記酸処理における処理温度および処理時間は、特に限定されるものではなく、ハイドロキシアパタイトを溶解するために十分な処理温度および処理時間であればよい。具体的には、上記処理温度は、室温(約25℃)〜100℃であることが好ましい。上記範囲内であれば、ハイドロキシアパタイトを効率的に溶解・除去することができる。また、上記処理時間は、処理温度等に応じて適宜設定することが可能であるが、一般的には、数十分〜数時間であることが好ましい。
【0076】
以上のようにして、多孔質であるシリカ層が設けられた多孔質構造体を製造することができる。
【0077】
〔4〕シリカ・炭酸カルシウム複合層を備える多孔質構造体の製造方法
本実施形態の多孔質構造体は、〔1〕に記載のケイ酸カルシウム層が設けられた多孔質構造体を用いて製造することができる。つまり、基材上に設けられたケイ酸カルシウム層を、炭酸化処理することによって、当該ケイ酸カルシウム層から多孔質であるシリカ・炭酸カルシウム複合層を形成し、これによって、本実施形態の多孔質構造体を製造することができる。つまり、ケイ酸カルシウム層に含まれる酸化カルシウムと二酸化炭素とが反応して炭酸カルシウムが形成され、その結果、ケイ酸カルシウム層から、シリカ・炭酸カルシウム複合層が形成される。なお、シリカ・炭酸カルシウム複合膜は、箔状または繊維状の一次粒子が三次元的に絡み合って二次粒子を形成した多孔質シリカを、炭酸カルシウムにて被覆して複合体化したものである。
【0078】
ケイ酸カルシウム層を炭酸化する方法は特に限定されないが、例えば、図1(a)および図1(b)に示す蒸気養生装置を用いて炭酸化することが可能である。具体的には、〔1〕にて説明したように蒸気養生装置内で基材上にケイ酸カルシウム層を形成した後、蒸気養生装置内の気体を二酸化炭素に置換することによって、ケイ酸カルシウム層を炭酸化することが可能である。なお、二酸化炭素の置換には、適宜公知のポンプを用いればよい。
【0079】
上記炭酸化処理における処理温度および処理時間は、特に限定されるものではなく、炭酸カルシウムを十分に形成し得るものであればよい。具体的には、上記処理温度は5℃〜50℃であることが好ましい。また、上記処理時間は、1時間〜24時間であることが好ましい。上記範囲内であれば、好適に炭酸カルシウムの生成反応が起こる。
【0080】
以上のようにして、多孔質であるシリカ・炭酸カルシウム複合層が設けられた多孔質構造体を製造することができる。
【0081】
〔5〕シリカ層を備える多孔質構造体の製造方法−2
本実施形態の多孔質構造体は、〔4〕に記載のシリカ・炭酸カルシウム複合層が設けられた多孔質構造体を用いて製造することができる。つまり、基材上に設けられたシリカ・炭酸カルシウム複合層を酸処理することによって、当該複合層から炭酸カルシウムが溶解・除去され、その結果、多孔質であるシリカ層が形成される。
【0082】
本実施形態の多孔質構造体の表層は、箔状または繊維状の一次粒子が三次元的に絡み合って二次粒子を形成した多孔質シリカであって、アセトアルデヒド等の吸着効果が優れている。
【0083】
上記酸処理で用いられる酸は、上記シリカ・炭酸カルシウム複合層に含まれる炭酸カルシウムを溶解・除去できるものであればよく、特に限定されるものではない。例えば、塩酸、硝酸等の無機酸を好適に用いることができる。また、上記酸としては、ギ酸、シュウ酸、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、乳酸または酸性陽イオン交換剤等の有機酸を用いることも可能である。
【0084】
また、上記酸処理における処理温度および処理時間は、特に限定されるものではなく、炭酸カルシウムを溶解するために十分な処理温度および処理時間であればよい。具体的には、上記処理温度は、室温(約25℃)〜100℃であることが好ましい。上記範囲内であれば、炭酸カルシウムを効率的に溶解・除去することができる。また、上記処理時間は、処理温度等に応じて適宜設定することが可能であるが、一般的には、数十分〜数時間であることが好ましい。
【0085】
以上のようにして、多孔質であるシリカ層が設けられた多孔質構造体を製造することができる。
【0086】
〔6〕多孔質構造体
本発明の製造方法によって作製される多孔質構造体は、多孔質である表層が基材上に設けられたものである。
【0087】
上記表層の具体的な成分としては特に限定されないが、例えば、ケイ酸カルシウム、シリカ・ハイドロキシアパタイト複合体、シリカ・炭酸カルシウム複合体およびシリカであることが好ましい。
【0088】
上記表層の膜厚は、特に限定されない。上述したように、基材上に付着させる石灰の量および密度(更に具体的には、石灰を溶解・分散させる水溶液中の石灰の濃度など)を調整することによって所望の膜厚(例えば、2μm〜200μm)に調節することが可能である。
【0089】
本実施形態の多孔質構造体の比表面積は、特に限定されない。例えば、5m/g以上であることが好ましく、30m/g以上であることが更に好ましく、60m/g以上であることが最も好ましいが、これらに限定されない。一般的に、比表面積が大きいほど、吸着能力が大きくなる。
【0090】
本実施形態の多孔質構造体の物質(例えば、アセトアルデヒド)への吸着率も特に限定されないが、例えば、少なくとも70%以上の吸着率を実現することが可能である。
【0091】
上記基材は、少なくともその一部がシリカによって形成されているものであればよく、シリカ以外の部分の材質および基材に占める割合は、特に限定されない。例えば、少なくとも基材の表面がシリカによって形成されているものであることが好ましい。
【0092】
上記基材の形状は特に限定されないが、多孔質であることが好ましい。例えば、上記基材は、スポンジ状骨格を備えた基材であって、気孔率が95%以上であることが好ましい。更に、上記基材は、架橋太さの平均が1mm以下であることが好ましい。更に、上記基材は、光透過率が8.5%/10mm〜10.0%/10mmであることが好ましい。なお、このような基材は、特開2005−60180号公報(公開日:2005年3月10日)に記載の方法によって作製することが可能である。
【実施例】
【0093】
〔1.膜厚の測定〕
基材上に形成された表層の膜厚は、SEMを用いて測定した。更に具体的には、デジタルマイクロスコープ(キ−エンス社製)を用いて膜厚を測定した。なお、具体的な測定方法は、当該SEMに添付のプロトコールに従った。
【0094】
〔2.BET比表面積の測定〕
BET比表面積は、オートソーブ(湯浅アイオニクス社製)を用いて測定した。具体的には、200℃にて十分に加熱脱気した試料に対して窒素ガスを吸着させる多点法に基づいて、BET比表面積を測定した。なお、その他の詳細な実験方法は、当該オ−トソ−ブに添付のプロトコールに従った。
【0095】
〔3.耐熱性の判定〕
基材上に形成された表層の耐熱性は、以下のようにして判定した。まず、多孔質構造体を、10℃/minにて室温から500℃まで昇温して30分間保持し、その後、300℃にまで電気炉中で放冷した。その後、電気炉から多孔質構造体を取り出し、SEMを用いて、基材からの表層の剥離を観察した。
【0096】
そして、剥離(腐食)が全くない状態を「◎」とし、剥離がほとんどない状態を「○」とし、剥離がある状態を「×」として判定した。
【0097】
〔4.アセトアルデヒドの吸着率の測定〕
多孔質構造体へのアセトアルデヒドの吸着率は、4Lの攪拌機付きデシケータ、エアーポンプ、カラムおよび気化容器等を用いて測定した。具体的には、気化容器内に、系全体の濃度が約100ppmになるようにアセトアルデヒドを添加した。カラム内に約5gの試料(多孔質構造体)を入れて当該カラムを系に接続し、アセトアルデヒドを系全体に循環させた。循環開始120分後に系内に残存するアセトアルデヒド濃度を、検知管を用いて測定した。系内の初期のアセトアルデヒド濃度と、120分後に系内に残存するアセトアルデヒド濃度との差から、多孔質構造体へのアセトアルデヒドの吸着率を求めた。
【0098】
〔5.基材の作製〕
実施例に用いた基材は、木村らによって開示された公知の方法(特開2005−60180号公報、公開日:2005年3月10日)によって作製された多孔質のシリカ基材を用いた。簡潔に言えば、スポンジ状骨格を有する原型構造体に対して陶土スラリーを含浸させ、当該原型構造体を焼結させることによって作製された基材を用いた。
【0099】
〔実施例1:ケイ酸カルシウム被覆構造体の作製〕
ホモジナイザーを用いて攪拌混合しながら、300mLの水に対して5wt%になるように生石灰を徐々に加え、石灰を含有する水溶液を作製した。
【0100】
上記水溶液中に基材を浸漬し、当該基材の表面上に石灰を付着させた。その後、図1(a)および図1(b)に示すように、表面上に石灰が付着した基材をステンレス製の網に吊るし、当該網を蒸気養生装置内に入れた。蒸気養生装置の下部には水を入れ、140℃にて8時間の蒸気養生を行った。
【0101】
まず、蒸気養生処理を行う前後における基材の表面の様子を、SEM(scanning electron microscope:走査型電子顕微鏡)等によって観察した。
【0102】
まず、図2(a)および図2(b)に、基材の表面の様子を観察した拡大写真を示す。なお、図2(a)は、蒸気養生を行う前の基材の外観を示し、図2(b)は、蒸気養生を行った後の基材の外観を示す。図2(a)および図2(b)から明らかなように、蒸気養生処理する前後の基材の外観には、一見すると差異が無いように思われた。
【0103】
次いで、図3(a)および図3(b)に、SEMによって観察した基材の表面の更に詳細な様子(換言すれば、高倍率にて観察した様子)を示す。なお、図3(a)は、蒸気養生を行う前の基材のSEM観察結果を示し、図3(b)は、蒸気養生を行った後の基材のSEM観察結果を示す。
【0104】
図3(a)および図3(b)から明らかなように、蒸気養生を行う前後における基材表面のSEM観察結果は、大きく異なっていた。具体的には、図3(a)に示すように、上記基材はスポンジに陶石スラリーを含浸させた後で焼成することによって形成したものであるため、蒸気養生を行う前の基材は、緻密な焼結体であった。なお、図3(a)では、基材作製時の冷却処理時に入ったと考えられる亀裂も観察できる。一方、図3(b)に示すように、蒸気養生を行った後の基材は、その表面が、多孔質なケイ酸カルシウム層によって覆われていた。
【0105】
以上のようにして作製したケイ酸カルシウム被覆構造体に関して、上述した方法に従い、表層の膜厚、BET比表面積、耐熱性およびアセトアルデヒドの吸着率を測定した。その結果を表1に示す。表1からも明らかなように、本実施例のケイ酸カルシウム被覆構造体は、膜厚が十分に厚いとともに、BET比表面積が大きく、しかも、耐熱性およびアセトアルデヒドの吸着性に優れていた。
【0106】
〔実施例2:シリカ・ハイドロキシアパタイト複合層被覆構造体の作製〕
実施例1で得られたケイ酸カルシウム被覆構造体を20wt%のリン酸水素2アンモニウム水溶液に浸漬し、表面に形成されたケイ酸カルシウム層にリン酸水素2アンモニウム水溶液を吸収させた。その後、下部に水が入った蒸気養生装置にて120℃にて30分間の蒸気養生処理を行い(図1参照)、本実施例のシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層被覆構造体を得た。
【0107】
本実施例のシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層被覆構造体の表面の詳細な様子を、SEMによって観察した。その結果を、図3(c)に示す。
【0108】
上述したように図3(b)では、多孔質なケイ酸カルシウム層によって基材が覆われているとともに、当該ケイ酸カルシウム層は、繊維状の一次粒子が三次元的に絡み合って二次粒子を形成していた。実施例2では、図3(c)に示すように、ケイ酸カルシウムとリン酸水素2アンモニウムとが反応することによって、上記ケイ酸カルシウム層が、ハイドロキシアパタイトによって覆われた多孔質のシリカ層に変換されていた。
【0109】
本実施例のシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層被覆三次元構造体に関して、上述した方法に従い、表層の膜厚、BET比表面積、耐熱性およびアセトアルデヒドの吸着率を測定した。その結果を表1に示す。表1からも明らかなように、本実施例のケイ酸カルシウム被覆三次元構造体は、BET比表面積が実施例1と比較して大きく、しかも、耐熱性およびアセトアルデヒドの吸着性に優れていた。
【0110】
〔実施例3:シリカ・ハイドロキシアパタイト複合層被覆構造体の作製〕
実施例1で得られたケイ酸カルシウム被覆構造体を80℃に加熱した300mLの5wt%のリン酸水素2アンモニウム水溶液に浸漬して2時間保持した。これによって、ケイ酸カルシウムとリン酸水素2アンモニウムとが反応し、その結果、上記ケイ酸カルシウム層が、ハイドロキシアパタイトによって覆われた多孔質のシリカ層に変換された。
【0111】
以上のようにして得られた本実施例のシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層被覆構造体の表面をSEMによって観察した結果、図3(c)とほぼ同様の表面形態であった。なお、観察結果は図3(c)とほぼ同様であったので、ここでは図示することを省略する。
【0112】
本実施例のシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層被覆構造体に関して、上述した方法に従い、表層の膜厚、BET比表面積、耐熱性およびアセトアルデヒドの吸着率を測定した。その結果を表1に示す。表1からも明らかなように、本実施例のケイ酸カルシウム被覆三次元構造体は、BET比表面積が実施例1と比較して大きく、しかも、耐熱性およびアセトアルデヒドの吸着性に優れていた。
【0113】
〔実施例4:多孔質シリカ被覆構造体の作製〕
本実施例では、酸処理を行うことによってシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層被覆構造体からハイドロキシアパタイトのみを除去し、基材を覆う表層を多孔質であるシリカ層のみにした。
【0114】
まず、実施例2にて得たシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層被覆構造体を300mLの水溶液に浸漬した。pHコントローラに接続された液送ポンプを使用して、pHが急激に低下しないようにしながら、上記水溶液に対して1モルの塩酸を徐々に添加した。1モルの塩酸を徐々に添加して水溶液のpHを2.0とし、当該水溶液中にてシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層被覆構造体を30分間保持した。そして、以上のように酸処理を行うことによって、ハイドロキシアパタイトのみを表層から溶解・除去した。
【0115】
本実施例の多孔質シリカ被覆構造体の表面の詳細な様子を、SEMによって観察した。その結果を、図3(d)に示す。図3(d)に示すように、多孔質であるシリカ層によって基材の表面が覆われていた。
【0116】
本実施例の多孔質シリカ被覆構造体に関して、上述した方法に従い、表層の膜厚、BET比表面積、耐熱性およびアセトアルデヒドの吸着率を測定した。その結果を表1に示す。表1からも明らかなように、本実施例の多孔質シリカ被覆構造体は、BET比表面積が実施例1〜3と比較して更に大きく、しかも、耐熱性およびアセトアルデヒドの吸着性に優れていた。
〔実施例5:シリカ・炭酸カルシウム複合層被覆構造体の作製〕
300mLの0.1M水酸化ナトリウム水溶液に、10wt%になるように消石灰を入れ、ホモジナイザ−を用いて攪拌混合した。
【0117】
この懸濁した消石灰を含有する水溶液に基材を浸漬し、当該基材の表面上に消石灰を付着させた。その後、表面上に消石灰が付着した基材をステンレス製の網に吊して蒸気養生装置に入れ、さらに当該蒸気養生装置の下部に水を入れて、160℃にて4時間の蒸気養生処理を行った(図1参照)。
【0118】
このようにして得られたケイ酸カルシウム被覆構造体を、蒸気養生装置に入れたままの状態で室温にまで冷却した。水流ポンプを用いて蒸気養生装置内を脱気した後、当該蒸気養生装置内へ2000mLの二酸化炭素を充填し、基材上のケイ酸カルシウム層を室温(25℃)で4時間、炭酸化処理した。当該炭化処理によって、ケイ酸カルシウム層からシリカ・炭酸カルシウム複合層を形成した。
【0119】
本実施例のシリカ・炭酸カルシウム複合層の表面の詳細な様子を、SEMによって観察した。その結果を、図3(e)に示す。図3(e)に示すように、多孔質であるシリカ・炭酸カルシウム複合層の上に、サイコロ状の炭酸カルシウムの結晶が多数観察された。
【0120】
本実施例のシリカ・炭酸カルシウム複合層被覆構造体に関して、上述した方法に従い、表層の膜厚、BET比表面積、耐熱性およびアセトアルデヒドの吸着率を測定した。その結果を表1に示す。表1からも明らかなように、本実施例のシリカ・炭酸カルシウム複合層被覆構造体は、膜厚が十分に厚いとともに、BET比表面積が大きく、しかも、耐熱性およびアセトアルデヒドの吸着性に優れていた。
【0121】
〔実施例6:多孔質シリカ被覆構造体の作製〕
本実施例では、炭酸化処理を行うことによってシリカ・炭酸カルシウム複合層被覆構造体を作製し、更に酸処理を行うことによってシリカ・炭酸カルシウム複合層被覆構造体から炭酸カルシウムのみを溶解・除去し、基材を覆う表層を多孔質であるシリカ層のみにした。
【0122】
まず、300mLの0.1M水酸化ナトリウム水溶液に、10wt%になるように消石灰を入れ、ホモジナイザ−を用いて攪拌混合した。
【0123】
この懸濁した消石灰を含有する水溶液に基材を浸漬し、当該基材の表面上に消石灰を付着させた。その後、表面上に消石灰が付着した基材をステンレス製の網に吊して蒸気養生装置に入れ、さらに当該蒸気養生装置の下部に水を入れて、160℃にて4時間の蒸気養生処理を行った(図1参照)。
【0124】
このようにして得られたケイ酸カルシウム被覆構造体を、蒸気養生装置に入れたままの状態で室温にまで冷却した。水流ポンプを用いて蒸気養生装置内を脱気した後、当該蒸気養生装置内へ2000mLの二酸化炭素を充填し、基材上のケイ酸カルシウム層を室温(25℃)で4時間、炭酸化処理した。当該炭化処理によって、ケイ酸カルシウム層からシリカ・炭酸カルシウム複合層を形成した。
【0125】
以上のようにして作製したシリカ・炭酸カルシウム複合層被覆構造体を300mLの水溶液に浸漬した。pHコントローラに接続された液送ポンプを使用して、pHが急激に低下しないようにしながら、上記水溶液に対して1モルの塩酸を徐々に添加した。そして、1モルの塩酸を徐々に添加して水溶液のpHを2.0とし、当該水溶液中でシリカ・炭酸カルシウム複合層被覆構造体を30分間保持した。そして、以上のように酸処理を行うことによって、表層から炭酸カルシウムのみを溶解・除去した。
【0126】
本実施例の多孔質シリカ被覆構造体の表面の詳細な様子を、SEMによって観察した。当該観察結果は、図3(d)とほぼ同様であった。なお、観察結果は図3(d)とほぼ同様であったので、ここでは図示することを省略する。
【0127】
本実施例の多孔質シリカ被覆構造体に関して、上述した方法に従い、表層の膜厚、BET比表面積、耐熱性およびアセトアルデヒドの吸着率を測定した。その結果を表1に示す。表1からも明らかなように、本実施例の多孔質シリカ被覆構造体は、BET比表面積が実施例1〜5と比較して更に大きく、しかも、耐熱性およびアセトアルデヒドの吸着性に優れていた。
【0128】
〔実施例7:シリカ・ハイドロキシアパタイト複合層被覆構造体の作製〕
ホモジナイザーを用いて攪拌混合しながら、300mLの水に対して0.5wt%になるように生石灰を徐々に加え、石灰を含有する水溶液を作製した。
【0129】
上記水溶液中に基材を浸漬し、当該基材の表面上に石灰を付着させた。その後、表面上に石灰が付着した基材をステンレス製の網に吊るし、当該網を蒸気養生装置内に入れた。蒸気養生装置の下部には水を入れ、120℃にて24時間の蒸気養生を行った(図1参照)。
【0130】
このようにして得られたケイ酸カルシウム被覆構造体を10wt%のリン酸水素2アンモニウム水溶液に浸漬し、表面に形成されたケイ酸カルシウム層にリン酸水素2アンモニウム水溶液を吸収させた。その後、下部に水が入った蒸気養生装置にて100℃にて2時間の蒸気養生処理を行い(図1参照)、本実施例のシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層被覆構造体を得た。
【0131】
本実施例のシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層被覆構造体の表面の詳細な様子を、SEMによって観察した。その結果を、図3(f)に示す。
【0132】
図3(f)に示すように、多孔質であるシリカ層が微細なハイドロキシアパタイトによって覆われているのが観察された。
【0133】
本実施例のシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層被覆三次元構造体に関して、上述した方法に従い、表層の膜厚、BET比表面積、耐熱性およびアセトアルデヒドの吸着率を測定した。その結果を表1に示す。表1からも明らかなように、本実施例のシリカ・ハイドロキシアパタイト複合層被覆構造体は、膜厚が十分に厚いとともに、BET比表面積が大きく、しかも、耐熱性およびアセトアルデヒドの吸着性に優れていた。
【0134】
〔比較例1:基材〕
表層を形成していない基材の外観を図2(a)に、SEM観察結果を図3(a)に示し、BET比表面積およびアセトアルデヒドの吸着率を表1に示す。
【0135】
【表1】

【0136】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0137】
本発明は、各種物質の担体(例えば、触媒担体、微生物固定用担体など)、各種物質の吸着材(例えば、VOCガス吸着材、調湿材、水質浄化材、空気浄化材など)、壁材、断熱材、保温材などに用いることが可能である。
【符号の説明】
【0138】
1 基材
2 水
3 網
4 扉
10 蒸気養生装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一部がシリカによって形成されている基材上に石灰を付着させる工程と、
前記石灰が付着した基材を蒸気養生して表層を形成する工程と、を含むことを特徴とする多孔質構造体の製造方法。
【請求項2】
前記石灰を付着させる工程では、水または水酸化アルカリ水溶液中に石灰を分散させた水溶液中に、前記基材を浸漬することを特徴とする請求項1に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項3】
前記水溶液は、0.5wt%〜10wt%の濃度にて石灰を含んでいることを特徴とする請求項2に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項4】
前記表層に対してリン酸化合物を付着させる工程と、
前記リン酸化合物が付着した表層を蒸気養生する工程と、を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項5】
前記表層を、リン酸化合物を含有する水溶液中で水熱処理する工程を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項6】
前記リン酸化合物が付着した表層を蒸気養生する工程、または前記水熱処理する工程の後に、更に酸処理する工程を含むことを特徴とする請求項4または5に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項7】
前記表層を炭酸化処理する工程を含むことを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項8】
前記炭酸化処理する工程の後に、更に酸処理する工程を含むことを特徴とする請求項7に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項9】
前記酸処理では、酸として塩酸、硝酸、炭酸、ギ酸、シュウ酸、酢酸、プロピオン酸、マレイン酸、乳酸または酸性陽イオン交換剤を用いることを特徴とする請求項6または8に記載の多孔質構造体の製造方法。
【請求項10】
前記基材は、多孔質であることを特徴とする請求項1〜9に記載の多孔質構造体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−42514(P2011−42514A)
【公開日】平成23年3月3日(2011.3.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−190403(P2009−190403)
【出願日】平成21年8月19日(2009.8.19)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【出願人】(000186968)昭和化学工業株式会社 (4)
【Fターム(参考)】