説明

多孔質粉体の製造方法

【課題】 汚泥焼却灰の有効な再利用を図り、優れた調湿材料や消臭材料として適用することができる、製造効率の良好な多孔質粉体の製造方法を提供する。また更に、多孔質粉体を製造する際の乾燥工程で用いる乾燥設備を腐食させることなく、また、乾燥工程の時間を短くして乾燥コストを低減させることを可能とする、多孔質粉体の製造方法を提供する。
【解決手段】 多孔質粉体の製造方法は、汚泥焼却灰を酸水溶液と接触させることによる酸処理工程、粉体中和剤による中和処理工程、次いで風乾処理工程を行い、該風乾処理工程を経た後に乾燥処理工程を実施され、特に前記風乾処理工程は、常温常圧の大気中で、中和処理後の汚泥焼却灰を静置することにより実施される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多孔質粉体の製造方法に関し、特に、汚泥焼却灰を用いて効率よく製造することできる、調湿性や消臭性等にすぐれた多孔質粉体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、下水道の普及に伴い下水処理量は年々増加しており、それとともに発生する汚泥量も着実に増加してきている。
かかる増大する汚泥を処理するために、汚泥を減量化(減容化)することが行われており、そのため汚泥を焼却処理したり、汚泥を溶融処理したりすることが実施されている。
特に汚泥の焼却処理が積極的に行われており、それに伴い焼却灰の発生量も増加している。
【0003】
このような現状下では、発生した汚泥や当該汚泥を焼却した焼却灰のほとんどが最終処分場で埋め立て処分されており、処分地の制約が大きい大都市のみならず、新たに下水処理を開始した中小都市においても莫大な埋め立て費用が大きな問題となっている。
そのため、例えば汚泥の焼却灰を加圧成形した後焼成してレンガを製造したり、前記焼却灰を加圧造粒して人造骨材にしたり、また、当該焼却灰を溶融して得られたスラグを路盤材に利用する技術等が提案されているが、その適用には限界がある。
【0004】
また、最近、生活環境の快適性、具体的には快適な居住空間を実現するために住居の気密性が高くなってきている。
かかる居住空間の気密性を高めた結果、屋外と屋内で温度差が生じ、特に冬期の結露により、カビ、ダニが発生し、室内の汚れだけでなく、人体に対してもアレルギーを引き起こす等の問題が生じている。
【0005】
これらの問題を解決すべく、調湿性にすぐれた建材の開発が進められている。
従来より、吸放湿性材料、例えば調湿性を有する材料として、木質系の建材を使用することによりこれらの問題を緩和してきたが、近年木材資源の高騰により、かかる木質系建材は非常にコスト高の材料となっており、使用が難しくなっている。
また、例えば、無機質系建材では、珪藻土、ゾノトライト、トバモライト等を主成分とするものが開発されているが、より安価に製造でき、所望する高い調湿性を得ることは難しく、より調湿性の高い材料の開発が望まれている。
【0006】
かかる点に鑑み、特開2000−263012号公報には、汚泥焼却灰に、硫酸水溶液を添加後、乾燥することにより、BET比表面積が6.5m/g以上の多孔質粉体を製造する方法が開示されており、かかる方法によって得られた多孔質粉体は、調湿材料または脱臭剤として利用できることが記載されている。
更に、特開2002−79081号公報には、汚泥焼却灰に、塩酸水溶液又は硝酸水溶液を添加後、乾燥することにより、BET比表面積が7m/g以上の多孔質粉体を製造する方法が開示されており、かかる方法は、更に中和処理(水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム又は消石灰)をすることにより、製造設備の耐酸性対策が不要となり、また弱アルカリ性とすることでカビの発生を抑制できることが記載されている。
かかる方法により得られた多孔質粉体は、調湿材料または脱臭剤として利用することができることも記載されている。
【0007】
また、特開2004−136189号公報には、汚泥焼却灰を酸処理(硫酸水溶液、塩酸水溶液又は硫酸水溶液)および中和処理(水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム又は消石灰)して得られた処理物を押し出し成形し、多孔質粒状成形体を製造する方法、及び当該方法により得られた多孔質粉体成形体を、調湿材料または脱臭剤として利用することが記載されている。
【0008】
しかし、これら従来の多孔質粉体は、図1に模式的に示すように、その製造にあたり、酸処理、中和処理した後に乾燥装置による乾燥工程を経て製造されているが、これらの従来の多孔質粉体の製造方法においては、中和混練処理後に若干の酸が未中和のまま残留しており、該残留酸が乾燥工程で用いる乾燥装置中で揮発することにより、乾燥装置を腐食させて装置の寿命を短くし、製造効率を悪くさせてしまう問題や、更には場合によっては、装置の腐食により製造を中断せざるを得なくなるような問題が生じている。
【特許文献1】特開2000−263012号公報
【特許文献2】特開2002−79081号公報
【特許文献3】特開2004−136189号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
従って、本発明の目的は、上記問題点を解決し、汚泥焼却灰の有効な再利用を図り、優れた調湿材料や消臭材料として適用することができる、製造効率の良好な多孔質粉体の製造方法を提供することである。
更に本発明の目的は、上記目的に加えて、多孔質粉体を製造する際の乾燥工程で用いる乾燥設備を腐食させることなく、また、乾燥工程の時間を短くして乾燥コストを低減させることを可能とする、多孔質粉体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明は、汚泥焼却灰に酸処理及び中和処理を施して、乾燥工程に供する前に、風乾工程を設けることで、上記課題が達成できることを見出し、本発明を達成するに至った。
すなわち、本発明の多孔質粉体の製造方法は、汚泥焼却灰と酸水溶液との接触による酸処理工程、粉体中和剤による中和処理工程、次いで風乾処理工程を行い、該風乾処理工程を経た後に乾燥処理工程を実施することを特徴とする、多孔質粉体の製造方法である。
【0011】
好適には、請求項2記載の多孔質粉体の製造方法は、前記請求項1記載の多孔質粉体の製造方法において、前記風乾処理工程は、常温常圧の大気中で、中和処理後の汚泥焼却灰を静置することにより実施することを特徴とする多孔質粉体の製造方法であり、更に請求項3記載の多孔質粉体の製造方法は、請求項1または2記載の多孔質粉体の製造方法において、前記中和処理工程後、該処理物を成形する工程を備えることを特徴とする多孔質粉体の製造方法であり、また更に請求項4記載の多孔質粉体の製造方法は、前記請求項1〜3いずれか項記載の多孔質粉体の製造方法において、汚泥焼却灰は5〜40質量%の水分を含むことを特徴とする、多孔質粉体の製造方法である。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多孔質粉体の製造方法は、汚泥焼却灰と酸水溶液との接触による酸処理工程、粉体中和剤による中和処理工程を行った後乾燥工程に供する前に、風乾工程を設けることで、中和工程後の汚泥焼却灰に残留する酸を低減することができ、これにより乾燥工程で用いる乾燥設備の腐食を防止することが可能となり、これらの設備の耐用期間の延命化が可能となる。
また、風乾処理によりかかる残留酸の中和反応時間を確保することも可能となる。
更に、該風乾工程を設けることで、含水率が低減でき、乾燥工程での乾燥時間が短縮されて、乾燥コストの低減、更には多孔質粉体を製造するコストの低減が図れることとなる。
【0013】
また、本発明の製造方法により得られた多孔質粉体は、空孔や特性が均質であり、多孔質粉体として優れた特性を有するものであり、この多孔質粉体を調湿材料の有効成分として用いることにより、良好でかつ安定した調湿効果を、また消臭材料の有効成分として用いることにより、良好でかつ安定した消臭効果を発揮することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0014】
本発明を最良の実施形態例により説明するが、これらに限定されるものではない。
本発明の多孔質粉体の製造方法は、汚泥焼却灰と酸水溶液との接触による酸処理工程、粉体中和剤による中和処理工程、次いで風乾処理工程を行い、該風乾処理工程を経た後に乾燥処理工程を実施するものである。
このように、中和工程後、乾燥工程前に、風乾処理工程を設けることで、残留酸成分や水分を蒸発させることができるとともに、残留酸の中和反応時間も確保できることとなる。
【0015】
本発明の製造方法において使用する原料汚泥焼却灰としては、下水処理場で発生する汚泥を焼却した汚泥焼却灰の他に、し尿、家庭用雑排水、産業用排水処理等によって発生した汚泥の焼却灰等があげられ、これらは、一般に処理場で含水率60〜90質量%程度まで脱水処理された汚泥を焼却したものである。
本発明においては、これらの焼却灰をいずれも使用でき、1種または混合して用いてもよい。
特に、下水処理場で発生する汚泥量は、前記したように年々下水道の普及とともに増加しているので、本発明の方法は、汚泥の有効な再利用として極めて有用である。
【0016】
また一般に、焼却灰には、高分子凝集剤を使用した汚泥を焼却したものと、石灰系凝集剤を使用した汚泥を焼却したものがあるが、減容化対策から最近では高分子凝集剤を使用したものが多く、本発明においては両者とも利用が可能ではあるが、石灰系凝集剤を使用した場合は石灰が多量に生成されるため、あまり好ましくない。
汚泥焼却灰の形態は、酸添加により十分な溶解反応が行われ、最終的に均質な多孔質粒状体が得られれば特に制限はされず、粉末等の成形されていないものに限らず、ペレット状、板状、錠剤状等に成形されたものでも酸添加による接触処理が可能であり、本発明の方法において使用することができる。
【0017】
本発明における酸処理工程は、前記汚泥焼却灰を酸水溶液と接触させて酸処理を行う工程である。
ここで、汚泥焼却灰に添加される酸水溶液としては、硫酸水溶液、塩酸水溶液、硝酸水溶液等の鉱酸を用いることが好ましく、これらの硫酸水溶液、塩酸水溶液又は硝酸水溶液としては、市場で入手しうる市販品や、金属精錬工業等から発生する廃硫酸、廃塩酸、廃硝酸等の水溶液も使用することもできる。
使用する酸水溶液の濃度としては、特に限定されないが、0.1〜13規定程度とするのが通常である。
【0018】
また、汚泥焼却灰に添加される酸水溶液の添加量としては、100%の酸(硫酸、塩酸、硝酸等)に換算して、汚泥焼却灰100質量部に対し、0.5質量部以上、好ましくは4.0〜25質量部添加する。
これは、かかる範囲で混合すると、溶解反応も十分であり、得られる多孔質粉体の調湿性能や消臭性能が良好となるからである。
なお、添加混練時の温度は10〜90℃程度が、反応を促進する面から望ましい。
【0019】
このように、汚泥焼却灰に、酸水溶液を添加して混合又は混練することにより、焼却灰表面が浸漬状態になり、焼却灰中に含有されている酸可溶性成分が溶解除去されて、酸処理物を多孔質化することができる。
焼却灰と酸水溶液との混練時間は、汚泥焼却灰の特性に応じて、任意に設定することができる。
かかる酸処理混練時間を変化させることにより細孔径分布を変化させることが可能である。すなわち、混練時間を長くすることにより、例えば、10nm以下、特に6nm以下の微細な細孔容積を更に増加させることが可能であり、これらの微細な細孔容積が増加するほど、水蒸気等の吸放湿性能を高めることができる。
通常、酸水溶液添加後、0.1時間〜10日程度、好ましくは、0.1時間〜1日程度とするのが適当である。
【0020】
次いで、得られた酸処理物を中和処理工程に供する。
これは、多孔質の粉体とする場合、そのままでは、粉体製造設備の厳しい耐酸性対策が必要となるからである。
【0021】
上記中和処理は、汚泥焼却灰に酸水溶液を添加し接触処理した後、粉体中和剤を添加してpHを5.5〜9.0程度にすることにより行われる。
該粉体中和剤としては、例えば、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カルシウム(Ca(OH))、消石灰、アンモニア、CaCOを主成分とするライムストーン(石灰岩)、コーラルサンド等のアルカリ性の材料を挙げることができ、特に、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム、消石灰等が好適である。
また、中和剤の添加量は、処理物がpH5.5〜9.0となるように添加する。
このように、酸処理物に、中和剤を添加して混合又は混練することにより、粉体製造設備の厳しい耐酸性対策が不必要となり、多孔性が良好な粉体を得ることができる。
【0022】
次いで中和処理後の汚泥焼却灰を風乾する。
該風乾工程は、常温常圧の大気中で、上記中和処理工程を経た後の灰を、攪拌または静置することで実施される。
このように常温常圧下の大気中で攪拌または静置することで、残留酸や水分を蒸発させることができ、更には、残留酸の中和反応時間が確保できる。
【0023】
なお、中和後の汚泥焼却灰を攪拌することにより、残留酸の中和反応が迅速に進むこととなり、短時間で風乾処理を終了することが可能であるが、中和処理後の灰を大気中で静置していることによってもかかる風乾処理を実施することは十分可能である。
通常、風乾処理は、常温常圧の大気中に放置する方法で、1日〜7日程度、好ましくは、1日〜2日程度とするのが適当である。このように、乾燥工程前に風乾工程を設けることで、乾燥設備を腐食させることもなく、該設備の耐酸性対策が不必要となり、多孔性が良好な粉体を得ることができる。
【0024】
上記風乾工程を経た処理物は乾燥工程に供される。
乾燥方法としては、特に制限はないが、例えば、回転ドラム式乾燥機、パドル式乾燥機、流動層式乾燥機、気流乾燥機、遠心薄膜式乾燥機等を用いた乾燥方法が挙げられ、下水処理場で現状使用している乾燥機を用いた乾燥方法でも十分に対応可能である。また、乾燥温度は、90〜300℃が好ましい。
本発明において乾燥工程の前に風乾工程を設けているため、これらの乾燥装置を酸で腐食させることを防止できるとともに、含有される水分量を減少させることができるため、乾燥工程を短くすることが可能となる。
【0025】
乾燥後の含水率は、5質量%未満が好ましく、絶乾状態が多孔質粉体として特に優れた効果を示す。乾燥が不十分では細孔容積が減少すると共に水分の吸放湿性能が低下してしまう。
ここで、含水率は、「下水試験方法(1997年度版)第4章第6節蒸発残留物及び含水率」に準拠して、乾燥前の試料質量と、105〜110℃で2時間乾燥後の試料質量とを測定し、(乾燥前の質量−乾燥後の質量)/(乾燥前の質量)に対する百分率で表される値である。
【0026】
具体的に、本発明の多孔質粉体の製造方法について説明する。
また、図2は、本発明の多孔質粉体の製造方法の一例を模式的に示す図である。
より良質な多孔質粉体を製造するには、汚泥焼却灰と酸水溶液との混合・混練作業、酸処理された汚泥焼却灰(酸処理物)と中和剤との混合・混練作業を、十分に行うと共に連続的に処理することが望ましい。
また、酸処理効果の低減を防止し、作業環境を良好に保つためには、混練時に発生する水蒸気および酸性ガスが大気中に多量に拡散することを抑制する必要がある。
【0027】
このような観点から、本発明者らは本発明の多孔質粉体の製造方法は、密閉型混練機により行われることが適し、特に、混練機構として二軸押し出し混練機が最も好ましいことを見出した。
好適な二軸押し出し混練機の具体的構成としては、スクリュー本数が2本または3本であり、二本軸は、平行なタイプあるいはコニカルなタイプでスクリューが軸を斜交させたもののいずれでも可能である。
また、スクリューフライトは、かみ合い型又は非かみ合い型のいずれでも可能であるが、前者の方が混練効果が大きいので好ましい。
スクリュー回転方向は、同方向又は異方向のいずれでも可能であるが、前者の方が混練効果が大きいので好ましい。
【0028】
このような二軸押し出し混練機を用いて、当該押し出し混練機の同一軸上に沿って、汚泥焼却灰投入部、酸水溶液投入部、中和剤投入部を、押し出し方向の上流側から下流に向かって順次配置して、それぞれ、汚泥焼却を投入し、上記した酸水溶液を用いて酸処理を行い、上記中和剤を用いて中和処理を行う。
本発明の方法においては、各前記処理を密閉状態で連続して実施して、混練機全体の密閉度を高めることが必要であり、このため、各投入部には以下のような構造を採用する。
汚泥焼却灰投入部では、汚泥焼却灰をサークルフィーダーやロータリーフィーダーなどの定量供給機により、二軸押し出し混練機に投入する。
【0029】
酸水溶液投入部では、上記硫酸水溶液、塩酸水溶液または硝酸水溶液などの酸水溶液を定量ポンプで注入する。
また、中和剤投入部では、水酸化ナトリウム水溶液または水酸化カルシウム又は消石灰のスラリーなどの中和剤を定量ポンプで注入する。
なお、これらの投入部の機構は、全て自動化することが可能であり、これらの機構を用いて、二軸押し出し混練機を含む多孔質粉体の製造工程全体を自動化することも可能となる。
【0030】
二軸押し出し混練機の同一軸上に沿って汚泥焼却灰や酸処理物が連続的に搬送されているが、これら搬送物の送出密度は通常一定では無く、主に搬送に寄与する部分と混練に居する部分とがある。
二軸押し出し混練機に対する酸水溶液投入部及び中和剤投入部の配置位置は、汚泥焼却灰及び酸処理物である搬送物の送出密度が最も高い位置に配置されることが好ましい。
【0031】
搬送物の送出密度が高い場所は、最も搬送物が集中している場所であり、二軸押し出し混練機内のシリンダー全体に搬送物が詰まっている場所でもある。
このような場所では、投入される液体(スラリー状を含む)や固体は、搬送物に強く押し付けられ、搬送物と均一に混じり合うことが可能となる。
また、シリンダーの周囲からこれらの酸水溶液や中和剤が投入されるため、搬送物とシリンダーとの隙間にこれらの投入物が入り込み、搬送物とシリンダーとの摩擦力を緩和し、円滑な搬送を実現するための潤滑作用も期待できる。
【0032】
搬送物の送出密度が高い場所とは、スクリューの軸に対する角度が直角に近づく場所であり、同一軸方向で搬送部分と混練部分とが分けられる場合には、混練部分に入る入口部分などがこれに該当する。
【0033】
また二軸押し出し混練機による連続式混練の他に、二軸混練機を用いたバッチ式でも製造は可能である。
二軸混練機は混練容器内に混練羽根が2本あり、その混練羽根の回転により、混練容器内に投入された材料が均一に混練される。混練物の排出については容器底部が開放するタイプや容器自体が傾動するタイプなどがある。
このような二軸混練機を用いて、汚泥焼却灰に対して酸水溶液を投入後、混練して酸処理を行い、続いて中和剤を投入後、混練して中和処理を行い、その中和処理物を混練容器より排出する。
酸水溶液については、硫酸水溶液、塩酸水溶液または硝酸水溶液などの酸水溶液をポンプなどを用いて投入する。
また、中和剤については、水酸化ナトリウム、水酸化カルシウム又は消石灰を水溶液もしくはスラリー状または粉体のまま投入する。
【0034】
二軸押し出し混練機または二軸混練機より排出された処理物は、必要に応じて、成形処理される。
具体的には、押し出された処理物を成形機に入れ、ペレット状等に成形後、上記風乾工程に課して、その後乾燥して使用することも可能である。
また、成形することなく直接、風乾工程・乾燥工程に課しても良いし、一旦水洗後濾過しその残留物を風乾工程・乾燥工程に課しても良い。
一旦水洗後に風乾工程・乾燥工程を経ることで、処理物表面の不純物等を除去することが可能であり、吸着性能も向上する。
【0035】
以上、本発明の多孔質粉体の製造方法により、得られた乾燥処理物である多孔質粉体は、極めて微細な細孔容積が増大された多孔質であるため吸湿性が高く、又放湿性も良好であるため、吸放湿性能が従来のものより向上した調湿材料として、また悪臭ガスを効率よく吸着することができる消臭材料として好適に利用することができる。
【実施例】
【0036】
本発明を次の実施例、試験例により一層具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。
(実施例及び試験例)
下水汚泥焼却灰として、高分子凝集剤を添加後脱水した汚泥を、流動床型焼却炉にて焼却したものを使用した。
ニーダー(KDAJ−200型:不二パウダル社製)を用いて、当該下水汚泥焼却灰(乾燥灰)100質量部(30kg)に対して、水道水を30質量部(9kg)添加して、混錬した後、11Nの塩酸(和光純薬 製品コード085−01077)を20質量部(6kg)添加し、十分に混練して酸処理を施した。
【0037】
次いで、当該下水汚泥焼却灰(乾燥灰)100質量部に対して、消石灰(和光純薬 製品コード032−00627)を15質量部(4.5kg)添加し、混練して中和処理を施した。
該送出混錬物を直ちに造粒機(F−5−S/11−175D型:不二パウダル社製)により造粒し(φ3mm、長さ10mm程度)、該造粒物を風乾工程に供した。
【0038】
風乾工程は、該造粒物4.5kgを底が編状(目開き2mm)になった棚板に層厚が約2cmとなるように広げて、常温常圧の大気下に0〜7日間静置することで行った。
ここで、静置日数と、風乾処理物中の塩素濃度または水分量との関係を表1及び図3、表2及び図4に示す。
なお、表1中、中和処理直後(風乾処理直前)の灰中に含まれる塩素を100として、各風乾日数と残留塩素の含有率を相対評価で表した。
【0039】
また、各風乾処理物中の塩素濃度は図5のようにして測定した。
具体的には、まず、風乾処理物は密閉容器内に入れ、キャリアガスとして空気を流しながら、マントルヒーターにより150℃に加熱し、発生した水蒸気および塩化水素ガスを0.1質量%水酸化ナトリウム水溶液に吸収させ、その吸収液中の塩素濃度を電位差滴定(三菱化学社製 自動滴定装置GT−100)により測定し、風乾処理物中の残留塩酸濃度を算出した。
【0040】
【表1】

【0041】
【表2】

【0042】
表1及び図3、表2及び図4から明らかなように、風乾処理を1日行うと、中和処理灰中の残留塩素量が初期の40%に減少する。
また風乾処理を4日実施すると、含水率も、風乾処理を開始する中和処理直後の含水率22.7%から14.2%に減少することがわかる。
なお、含水率は、乾燥前の試料質量と105℃で2時間乾燥後の試料質量とを測定し、(乾燥前の質量−乾燥後の質量)/(乾燥前の質量)に対する百分率で表される値である。
【0043】
次いで、各風乾処理物を、大型熱風循環乾燥機(アルプ社製 GT−150)を用いて150℃で保持して乾燥させ、多孔質粉体を得た。
各多孔質粉体の含水率は、全て0質量%であった。
含水量が0%となるまでの上記乾燥工程(温度105℃)における乾燥時間は、上記風乾処理を経ていないものは5時間、上記風乾処理を1日実施したものは4時間、上記風乾処理を4日実施したものは3.5時間、上記風乾処理を7日実施したものは3時間であった。
これより、風乾処理を実施したもののほうが、乾燥工程時間が短くなり、乾燥工程の省力化ができたことが確認され、更に、乾燥装置の腐食も少ないことが明らかとなった。
【0044】
次いで、得られた多孔質粉体の吸湿試験(上記風乾処理を0日間、7日間実施した粉体)を次の方法により行った。
シャーレに入れた各多孔質粉体試料10gを、恒温恒湿器(エスペック社製 LHL−113)内に静置して行った。
具体的には、恒温恒湿器を20℃、50%RHに設定し、水分吸着量がほぼ平衡に達する24時間後の質量(事前調湿)Aを測定した。
【0045】
次いで恒温恒湿器を20℃、90%RHに設定変更し、前記平衡状態に達した各多孔質粉体試料を、前記と同様に、24時間保持し(吸湿)、次いで、吸湿後の試料を再び、20℃、50%RHに設定した恒温恒湿器内に24時間保持し(放湿)、この吸放湿サイクルを2サイクル繰り返した。
該2サイクル目の吸湿時試料質量Bと放湿時試料質量Cを秤量して、吸放湿量(%)を以下の式により求めた。
吸放湿量(%)=(B−C)/A×100
【0046】
その試験結果を表3に示す。
但し、最初に試料を20℃の恒温室において相対湿度50%の環境を設定して24時間静置した事前調湿後の試料の質量を質量変化率100%として表して、各吸湿過程及び放出過程における各試料の質量の変化率で表示した。
【0047】
【表3】

【0048】
表3より、本発明で得られた多孔質粉体は、有効な多孔質性により、吸放湿性能が優れていることが確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明の多孔質粉体は、調湿材料のみならず、悪臭ガス吸着材等の消臭材料としても有効に適用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】従来の多孔質粉体の製造工程を模式的に示す図である。
【図2】本発明多孔質粉体の製造工程の一例を模式的に示す図である。
【図3】風乾処理日数と含まれる塩素量との関係の一例を示す線図である。
【図4】風乾処理日数と含まれる含水量との関係の一例を示す線図である。
【図5】塩素または含水量を測定する方法を概略的に示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
汚泥焼却灰を酸水溶液と接触させることによる酸処理工程、粉体中和剤による中和処理工程、次いで風乾処理工程を行い、該風乾処理工程を経た後に乾燥処理工程を実施することを特徴とする、多孔質粉体の製造方法。
【請求項2】
請求項1記載の多孔質粉体の製造方法において、前記風乾処理工程は、常温常圧の大気中で、中和処理後の汚泥焼却灰を静置することにより実施することを特徴とする、多孔質粉体の製造方法。
【請求項3】
請求項1または2記載の多孔質粉体の製造方法において、前記中和処理工程後、該処理物を成形する工程を備えることを特徴とする、多孔質粉体の製造方法。
【請求項4】
請求項1〜3いずれかの項記載の多孔質粉体の製造方法において、汚泥焼却灰は5〜40質量%の水分を含むことを特徴とする、多孔質粉体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−39609(P2009−39609A)
【公開日】平成21年2月26日(2009.2.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−205064(P2007−205064)
【出願日】平成19年8月7日(2007.8.7)
【出願人】(000183266)住友大阪セメント株式会社 (1,342)
【Fターム(参考)】