説明

多層膜光フィルタ

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、多層膜からなる光フィルタに関し、特に所望の狭い波長帯域を反射し他の帯域を透過させる多層膜光フィルタの、膜積層構造に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図5は、狭帯域反射フィルタとして用いられる多層膜光フィルタの、従来例の構造を示したものである。溶融石英(SiO2)の基板11の上に、それぞれ屈折率の異なる材料の薄膜からなる、高屈折率層12と低屈折率層13が、この一組を基本要素として各50層、計100層積層されている。本例では、高屈折率層12の材料にTiO2(屈折率2.3)が、低屈折層13の材料には、SiO2(屈折率1.45)が用いられている。
【0003】ここで、多層膜光フィルタの各基本要素における高屈折率層12の屈折率n1、膜厚d1、及び低屈折率層13の屈折率n2、膜厚d2は、次式で表されるブラッグの反射条件、n1d1cosθ1+n2d2cosθ2=λ/2を満たすように設定される。なお、λは所要の反射帯域の中心波長、θ1、θ2は各層への光の入射角で、多層膜光フィルタ表面への光の入射角θとは次式の関係にある。
n0sinθ=n1sinθ1=n2sinθ2ここでn0は空気の屈折率である。図5の例においては、膜厚d1が5nm、膜厚d2は185nmである。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】図6は従来例の多層膜光フィルタの反射特性を示す図であり、横軸の波長の範囲での、各波長光の反射率を表している。波長500nmにおいて反射率は強いピーク強度を有し、狭帯域反射フィルタとして実用に供されている。しかしながら該多層膜光フィルターでは、反射帯域の特に低波長側、450〜480nmにかけて、反射率が比較的に高いいわゆるサイドスロープと称される領域があり、その範囲では反射率の上下の変動も激しい。従って、反射光の選択性が充分でなく、所望の波長以外の光がノイズとして含まれ、透過光では必要な波長光が不足するという問題点があった。
【0005】本発明の目的は、上記の課題を解決し、反射帯域ピーク両側におけるサイドスロープ領域を狭くしてピークをより急峻にした、反射光の選択性が高くノイズの少ない多層膜光フィルタを提供することにある。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者は、屈折率が異なる材料と膜厚の組合わせを各種検討した結果、従来例の多層膜構造の両側に、高屈折率層と低屈折率層の膜厚の比率が段階的に変化する層が存在することにより選択性が向上することを見出し、本発明に到達したものである。
【0007】即ち上記目的達成のため、本発明は、異なる屈折率を有する積層された2層を基本要素として、該基本要素を繰り返し基板上に積層した多層膜からなり、前記多層膜は中央部の多層膜群と、該多層膜群を挟んで対向する両端部の多層膜群とからなり、前記基本要素の膜厚は前記多層膜群の全領域で等しく、前記中央部の多層膜群において前記基本要素はブラッグの反射条件を満たしており、前記両端部の多層膜群において基本要素が外側に向かうにつれて段階的に高屈折率層の膜厚を小さくしたことを特徴とする多層膜光フィルタである。このような構成により、サイドスロープ領域が狭くなってより急峻なピーク形状となり、ノイズの少ない狭帯域反射特性を得ることができる。
【0008】また本発明は、前記基板の屈折率は前記低屈折率層と略同一であることが望ましく、さらに、前記基板と反対側の最外層に、反射防止膜が積層されていることが望ましい。これらの構成によりサイドスロープ領域はさらに狭まり、また、反射帯域外での反射率が全般的に低下して選択性も向上する。
【0009】
【発明の実施の形態】本発明の実施の形態を図1乃至図4R>4により説明する。図1は第1の実施形態の多層膜光フィルタの膜構成を示すものである。屈折率の異なる2層、高屈折率層2と低屈折率層3を基本要素として、該基本要素が基板1上に繰り返し積層されて多層膜を構成している。ここで高屈折率層2にはTiO2膜(屈折率2.3)を、低屈折率層3にはSiO2膜(屈折率1.45)を採用している。基板1の材料は、低屈折率層3と同じSiO2である。
【0010】このような多層膜光フィルタは、スパッタ、真空蒸着、イオンプレーティング等の薄膜形成技術を用いて製作される。例えばスパッタ法においては、真空チャンバ内にチタン(Ti)とシリコン(Si)、2個のターゲットを置き、反応ガスとして酸素を供給して、それぞれの酸化物膜を基板1上に堆積させる。成膜装置には何らかの検知手段を配置して成膜中の膜厚を監視し、所定の膜厚になった時点でもう一方のターゲットに切り換える。この作業を所定回数繰り返して目的とする多層膜光フィルタが得られる。
【0011】前記多層膜は光フィルタは、中央部の多層膜群7と、該多層膜群7を挟んで対向する、両端の多層膜群8とから構成されている。前記中央部の多層膜群7は、基本要素の50層、計100層からなり、高屈折率層2の屈折率n1、膜厚d1、及び低屈折率層3の屈折率n2、膜厚d2は、ブラッグの反射条件を満たすように設定されている。それぞれの値は図5の例と同様に、膜厚d1が5nm、膜厚d2は185nmとしている。
【0012】前記両端の多層膜群8は基本要素の19層からなり、各基本要素は、その膜厚である膜厚d1と膜厚d2の和を一定に保ちながら、中央から外側に行くにつれて高屈折率層2の膜厚d1を0.25nmずつ、段階的に小さくしている。低屈折率層3の膜厚d2は膜厚d1の減少分だけ大きくなり、最外側の基本要素において、膜厚d1は0.25nm、膜厚d2は189.75nmとなる。
【0013】図2に、本実施形態の多層膜光フィルタの反射特性を示す。図6の従来例と比較すると、反射帯域の低波長側のサイドスロープは大幅に改善され、ピーク強度も増加して、より選択性の高い狭帯域反射フィルタとなっている。
【0014】図3は本発明の第2の実施形態の膜構成である。前記中央の多層膜群7と両端の多層膜群8の膜構成は第1の実施形態と場合と同一とし、フィルタの表面側となる最外側に、MgF2からなる膜厚105nmの、波長500nmを中心とした反射防止膜5を積層したものである。図では反射防止膜5を単層としているが、要求する反射防止性能を満たすものであれば多層膜構造を採用することもできる。
【0015】図4は第2の実施形態の多層膜光フィルタの反射特性を示す。前記第1の実施形態の場合の図2と比較すると、表面での不要な反射を防ぐ反射防止膜5の効果により、サイドスロープの幅は更に狭くピークは急峻になり、加えて、図2では約5%であった反射帯域外における反射率が、全波長範囲で低下している。特にピーク両側の近傍ではほぼゼロになるという顕著な効果を奏している。なお、このように反射防止膜5を積層する場合、最外側に高屈折率層2の層があるときはさらに低屈折率層3を1層付加した後反射防止膜を積層する方が、上記の効果は僅かながら増す傾向にある。
【0016】膜材料としては、前記の他に、高屈折率層2にCeO2、Ta2O5等、低屈折率層3にAl2O3、CeF3等を用いても、本発明の膜構成により同様の効果が期待できる。また前記両端の多層膜群8において、膜厚d1の減少率を小さくし僅かずつ薄くしていく程ピークが急峻になり、反射フィルタとしての特性的には望ましい。しかし膜厚d1の減少率を小さくするほど両端の多層膜群8の積層数を増すことになるため、要求特性と製作費用の観点から適当な値を決定することになる。
【0017】
【発明の効果】以上説明したように、本発明は、中央部の多層膜群7の両側に、高屈折率層2の膜厚d1が段階的に小さくなり、低屈折率層3の膜厚d2がd1の減少分だけ段階的に大きくなる両端の多層膜群8を付加するという新規な構成とすることにより、反射帯域外側のサイドスロープが狭くなり、ノイズの少ない選択性の高い反射特性を得ることができる。低屈折率層3と基板1の屈折率を略同一とすると、反射特性はさらに向上する。また、基板1には低屈折率層3が接する配置とし、基板と反対側の最外層に反射防止膜5を積層することにより、サイドスロープを抑える効果が高まることに加えて反射帯域外での反射率が顕著に低下し、選択性はさらに向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の第1の実施形態の多層膜光フィルタの膜構成図。
【図2】本発明の第1の実施形態の多層膜光フィルタの反射特性図。
【図3】本発明の第2の実施形態の多層膜光フィルタの膜構成図。
【図4】本発明の第2の実施形態の多層膜光フィルタの反射特性図。
【図5】従来例の多層膜光フィルタの膜構成図。
【図6】従来例の多層膜光フィルタの反射特性図。
【符号の説明】
1 基板
2 高屈折率層
3 低屈折率層
5 反射防止膜
7 中央の多層膜群
8 両端の多層膜群
11 基板
12 高屈折率層
13 低屈折率層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 異なる屈折率を有する積層された2層を基本要素として、該基本要素を繰り返し基板上に積層した多層膜からなり、前記多層膜は中央部の多層膜群と、該多層膜群を挟んで対向する両端部の多層膜群とからなり、前記基本要素の膜厚は前記多層膜群の全領域で等しく、前記中央部の多層膜群において前記基本要素はブラッグの反射条件を満たしており、前記両端部の多層膜群において基本要素が外側に向かうにつれて段階的に高屈折率層の膜厚を小さくしたことを特徴とする多層膜光フィルタ。
【請求項2】 前記低屈折率層の屈折率は、前記基板と略同一であることを特徴とする請求項1記載の多層膜光フィルタ。
【請求項3】 前記基板と反対側の最外層に、反射防止膜が積層されていることを特徴とする請求項2記載の多層膜光フィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【特許番号】特許第3373182号(P3373182)
【登録日】平成14年11月22日(2002.11.22)
【発行日】平成15年2月4日(2003.2.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平11−273133
【出願日】平成11年9月27日(1999.9.27)
【公開番号】特開2001−100024(P2001−100024A)
【公開日】平成13年4月13日(2001.4.13)
【審査請求日】平成12年5月23日(2000.5.23)
【出願人】(000010098)アルプス電気株式会社 (4,263)
【参考文献】
【文献】特開 平7−49418(JP,A)
【文献】特開 平6−160622(JP,A)
【文献】特開 昭62−66205(JP,A)
【文献】特開 昭59−195205(JP,A)