説明

多抗原同時検出用ナノ粒子

【課題】測定抗原物質を認識する抗体の由来種や対応する2次抗体の入手可能性を考慮することなく、多抗原を同時に免疫学的測定法によって検出すること本発明の課題である。また免疫学的測定における検出感度を上昇させることも課題となる。
【解決手段】本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、自己組織化能を有するタンパク質が脂質2重膜を取り込むことにより形成されるナノ粒子であって、該粒子は蛍光を発することが可能な物質によって修飾されることを特徴とし、該自己組織化能を有するタンパク質が抗体結合能を有することを特徴とする多抗原同時検出用ナノ粒子の開発に至った。
本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子を用いることによって、測定抗原物質を認識する抗体の由来種や対応する2次抗体の入手可能性を考慮することなく、多抗原を同時に免疫学的測定法によって検出することが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願の発明は、自己組織化能を有するタンパク質が、脂質2重膜を取り込むことにより形成されるナノ粒子であって、該粒子は蛍光を発することが可能な物質によって修飾されており、該自己組織化能を有するタンパク質が抗体結合能を有し、該抗体によって捕捉される抗原物質を、ウエスタンブロッティング法、蛍光免疫検定法(FIA)、蛍光免疫測定法(FLISA)、細胞免疫染色法、組織免疫染色法、フローサイトメトリー法、蛍光標示式細胞分取法(FACS)、タンパク質マイクロアレイ法、in vivoイメージングなどを用いて多抗原を同時に検出するナノ粒子を提供する。
【背景技術】
【0002】
近年の免疫学的測定法の技術進歩によって、多種の抗原を測定する方法やそれに必要なツールなどが開発されている。しかしながら、このような測定に必須とされる抗体は、その機能の多様性から免疫学的測定法に使用するに当たり、様々な恩恵をもたらす一方様々な制約を課すという欠点も有する。一般的に免疫学的測定法とは、
(i)測定対象となる抗原物質を認識する抗体(1次抗体)によって捕捉させる工程、
(ii)引き続いて一次抗体を、蛍光色素・発色色素・酵素などの各種物質によって標識化された、その他の抗体(2次抗体)によって認識する工程、
(iii)該標識化する物質を検出することで、測定対象となる抗原物質を測定方法である。
【0003】
ここで2次抗体は、1次抗体を特異的に認識するものであることが不可欠である。1次抗体が特殊な動物種由来のものである場合は、それに対応する2次抗体が入手不可能であることもありえる。
【0004】
また、数種類の抗原を同時に測定する免疫学的測定法として免疫細胞(または組織)染色法や、フローサイトメトリー法、FACS法などが挙げられる。ここで、所望の測定対象となる抗原が2種類以上存在し、各々の抗原に特異的に認識する抗体が同一の動物種由来のものしか入手できない場合は、その測定は断念されることになってしまう。なぜならば、1次抗体の検出に用いる標識化2次抗体は、通常、1次抗体の動物種を認識するため、同じ動物種由来の異なる抗原に対する1次抗体を区別することは不可能である。
さらに、数種類の標識化抗体を2次抗体として用いたとしても、それぞれの1次抗体を差別化し、異なる標識化された2次抗体をそれぞれに結合させることは極めて困難であり、同一系内での反応を行う限り不可能である。
【0005】
そこで、前記の免疫細胞(または組織)染色法や、フローサイトメトリー法、FACS法、タンパク質マイクロアレイ法を用いて、多抗原を同時に測定する方法ではそれぞれの抗原に対して異なる動物種の1次抗体を選択する必要があり、更にこのような選択が必須であるために、抗体の特異性の度合いや入手の容易性、価格の手頃さなどの選択の余地が少なくなる。ひいては、抗体を自作することも必要となる。たとえ運よく測定対象物質を認識する1次抗体の動物種がすべて異なる組み合わせで入手できたとしても、それぞれに対応する異なる色素によって標識化された2次抗体を入手する必要があり、最終的に測定を実現させる難易度は高い。せいぜい2〜3種類程度の抗原を同時に測定することが限度である。そこで、2次抗体を介さずに1次抗体のみで上記測定を可能にするために、1次抗体を直接標識化した製品や、所望の1次抗体を標識化するためのキットが市場に存在する。しかしながら該方法を採用するに当たって、前者の抗体は入手が容易ではないこと、後者の方法では経済的に不利な状況などがあり得ることから、多抗原同時測定の問題点を解決できていない。
【0006】
抗原タンパク質を容易に解析する他の免疫学的測定法として、ウエスタンブロッティング法がある。上記の免疫細胞(または組織)染色法などの方法とは、測定対象となる物質の分子量が明確に判断される点において異なる。この方法は主に酵素が標識された2次抗体又は直接酵素が標識された1次抗体を用いることが一般的であり、標識化された酵素の働きによって基質を発色させて抗原物質を検出する方法(発色法)、または標識化された酵素の働きによって基質を発光させて抗原物質を検出する方法(発光法)が主に選択される。
【0007】
これらの方法では、たとえ異なる1次抗体を用いて所望の多抗原を同時に測定するにしても、該1次抗体に対応するそれぞれの2次抗体の標識酵素を異なるものに設計しても、同時に検出する実験系において、検出する基質の発光や発色は1種類の基質しか選択することができない。したがって、様々な抗原を区別して認識することは出来ない。
【0008】
ウエスタンブロッティング法においては多種のタンパク質を含むクルードサンプル中に含まれる特定のタンパク質を抗原として測定することが望ましい場合があり得る。しかしながら上記の問題点から、異なる多抗原を識別して免疫学的な測定を行うことは不可能に近く、数段階の処理に分けて手間のかかる実験操作が必要となる。そこで、蛍光標識された2次抗体を用いて、検出する方法が検出機器の技術進歩によって可能となったが、上記の免疫細胞(または組織)染色法などにおける問題点と同様に、抗体種などの組み合わせにかかる問題が生じており、画期的な解決には至っていない。
【0009】
近年、市販が開始された試薬として、Zenon Alexa Fluorラベリングキット(Molecular Probes社)が存在する。しかしながら、該キットは動物種およびサブタイプ特異的な蛍光標識2次抗体であることを特徴としており、所望の多抗原を認識するすべての1次抗体に対応するものをカバーするには、動物種と抗体サブタイプ数と蛍光色素数の乗算によって得られる、多数の製品を用意する必要があるため、根本的な解決には至っていない。
【0010】
免疫学的測定法において必須である1次抗体の抗原認識能は、非常に重要であるにもかかわらず、市場にはごく少量の抗原を特異的に認識する能力のない質の悪い抗体があまた存在する。しかしながら所望の抗原を測定するためには、時間的・経済的な事情により、そのような質の悪い抗体を選択せざるを得ないこともありえる。そこで、1次抗体や2次抗体の感度を上昇させる試薬があまた存在するが、すべて問題を解決するには至っておらず、画期的な技術の開発が切望されている。
【0011】
本発明者らによって報告されたProtein A由来のZZドメインを介して抗体を提示するタンパク質ナノ粒子は、ドラック及び遺伝子デリバリーシステムへの応用(特許文献1)や抗体整列用センシング基板などへの応用(特許文献2)に、利用可能である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】特開2004−2313
【特許文献2】特開2007−127626
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子を用いることで、上記のような免疫学的測定における抗体の選択の制約を回避することができ、免疫学的測定における多抗原の同時検出が可能となる。すなわち、本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子を用いることによって、測定抗原物質を認識する抗体の由来種や対応する2次抗体の入手可能性を考慮することなく、多抗原を同時に免疫学的測定法によって検出することが可能となる。さらに、免疫学的測定における検出感度を上昇させることも可能になる。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意検討を重ねた結果、自己組織化能を有するタンパク質が、脂質2重膜を取り込むことにより形成されるナノ粒子であって、該粒子は蛍光を発することが可能な物質によって修飾されることを特徴とし、該自己組織化能を有するタンパク質が抗体結合能を有することを特徴とする多抗原同時検出用ナノ粒子の開発に至った。
【0015】
本発明は以下の通りである。
項1
自己組織化能を有するタンパク質が、脂質二重膜を取り込むことによって形成されるナノ粒子であって、該ナノ粒子が蛍光物質によって蛍光標識化されていること及び、該自己組織化能を有するタンパク質が抗体若しくは抗体断片、または抗体結合用ポリペプチドを有することを特徴とする、多抗原同時検出用ナノ粒子。
項2
前記の自己組織化能を有するタンパク質がB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)タンパク質であるであることを特徴とする、項1に記載の多抗原同時検出用ナノ粒子。
項3
前記の抗体結合用ポリペプチドがZZタグであることを特徴とする、項1または項2に記載の多抗原同時検出用ナノ粒子。
項4
項1〜3に記載の多抗原同時検出用ナノ粒子を1種類以上用いて、前記の抗体若しくは抗体断片、または前記の抗体結合用ポリペプチドに結合させた抗体によって捕捉される抗原物質を、免疫学的測定法によって検出する方法。
項5
前記の抗体を結合させる工程において化学架橋剤を用いることを特徴とする、項4に記載の方法。
項6
多抗原同時検出用ナノ粒子に結合していない、遊離した抗体もしくは抗体断片を、該抗体と特異的に結合するアフィニティレジンを用いて除去する工程を含む、項4または項5のいずれかに記載の方法。
項7
多抗原同時検出用ナノ粒子に結合していない、遊離した抗体を、蛍光標識化されていない多抗原同時測定用ナノ粒子を用いて除去する工程を含む、項5〜6のいずれか1項に記載の方法。
項8
前記の抗体を結合させる工程において、多抗原同時測定用ナノ粒子と抗体の分子量のモル量の比が1:0.005〜1:10であることを特徴とする項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
項9
項1〜4のいずれか1項に記載の多抗原同時測定用ナノ粒子を、1種類以上含む免疫学的測定用キット。
項10
項1〜4のいずれか1項に記載の多抗原同時測定用ナノ粒子を、2種類以上含む免疫学的測定用キット。
項11
蛍光標識化されていない多抗原同時測定用ナノ粒子を含む項9または項10に記載の免疫学的測定用キット。
項12
項1〜4のいずれか1項に記載の多抗原同時検出用ナノ粒子を含む、免疫学的測定用キット組成物。
【発明の効果】
【0016】
本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子が生物種や抗体のサブタイプを問わずに広範な抗体に結合する性質を利用し、従来は同時に使用することが困難であった抗体の組み合わせでも、簡便かつ効率的に多種類の抗原を同時にバイオイメージング技術により検出する技術を提供することが出来る。したがって、本技術では(蛍光色素数)だけ用意すればよいので効率的である。また、本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子には、1分子の抗体と比べて極めて大量の蛍光色素を結合できるので蛍光輝度が高い。さらに、本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子はその表面に抗体を整列化して結合・提示されるので、高い抗原捕捉能力を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】(a)本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子および、(b)抗体が結合した多抗原同時検出用ナノ粒子の1つの態様を表す模式図である。
【図2】本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子に結合しない遊離抗体を除去する工程を表した模式図である。
【図3】(a)本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子を用いたウエスタンブロッティング法による免疫学的測定法と、従来の蛍光物質結合抗体を用いたウエスタンブロッティング法による免疫学的測定法を単一抗原の検出において比較した模式図および、(b)その結果を表す図である。(b)の左のパネルは、本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子を用いた結果を示し、右のパネルは従来の蛍光標識化2次抗体を用いた結果を示す。
【図4】(a)本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子と市販品であるZenonを用いるウエスタンブロッティング法において、単一抗原の検出の比較を表した模式図および結果の図である。(b)本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子と市販品であるZenonを用いるウエスタンブロッティング法において、多抗原の検出の比較を表した模式図および結果の図である。
【図5】(a)本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子を用いたウエスタンブロッティング法による免疫学的測定法によって多抗原を同時検出する模式図および、(b)その結果を表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
この発明におけるその他の用語や概念は、発明の実施形態の説明や実施例において詳しく規定する。また、この発明を実施するために使用する様々な技術は、特にその出典を明示した技術を除いては、公知の文献等に基づいて当業者であれば容易かつ確実に実施可能である。例えば、遺伝子工学および分子生物学的技術はSambrook and Maniatis, 「Molecular Cloning−A Laboratory Manual」, Cold Spring Harbor Laboratory Press, New York, 2001; Ausubel, F. M. et al. 「Current Protocols in Molecular Biology」, John Wiley & Sons, New York, N.Y, 2007等に記載されている。
【0019】
本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子は、自己組織化能を有するタンパク質を形成するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含んだタンパク質発現ベクターを用いて宿主細胞を形質転換し、該形質転換体を大量培養することで産生される。好ましくは、特開2007−127626「免疫学的測定用ナノ粒子」に記載された方法によって産生される。
【0020】
本発明における脂質二重膜は、8〜20nmの厚さで2枚の脂質の層からなっており、それぞれの層の中で、両親媒性脂質の極性の頭部が親水系の溶媒と接触しており、非極性の炭化水素の部分が2重層の内部を向いているものをいう。脂質2重膜の例としては、細胞膜や核膜、小胞体膜、ゴルジ体膜、液胞膜のような生細胞における生体膜、または人工的に作製したリポソーム等が挙げられる。中でも小胞体膜由来の脂質2重膜がより好ましい。脂質二重膜としては、真核生物、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞、昆虫細胞など由来のものが好ましく、特に好ましくは酵母由来の脂質二重膜が用いられる。
【0021】
本発明の自己組織化能を有するタンパク質は、種々のウイルスから得られるウイルス粒子構成タンパク質を適用することができる。例として、B型肝炎ウイルス(Hepatitis B Virus;HBV)やC型肝炎ウイルス(Hepatitis C Virus)、マイクロウイルス(Micro Virus)、ファージウイルス(Phage Virus)、アデノウイルス(Adeno Virus)、パルボウイルス(Parvo Virus)、パポバウイルス(Papova Virus)、レトロウイルス(Retro Virus)、レオウイルス(Reo Virus)、コロナウイルス(Corona Virus)、カイコ細胞質多角体病ウイルス(Bombyx Mori Cytoplasmic Polyhedrosis Virus)、レトロウイルス(Retro Virus)、レンチウイルス(Lenti Virus)、カリシウイルス、ノロウイルス、サポウイルスなどの構成タンパク質や膜タンパク質、表面抗原タンパク質、または多角体タンパク質等が挙げられる。より好ましい例としては、肝炎ウイルス由来のタンパク質が挙げられる。更に好ましくはB型肝炎ウイルス由来のタンパク質である。最も好ましくはヒトB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)タンパク質である。このとき、自己組織能が失われない限りにおいて、種々の変異を持つ変異体であってもよく、HBsAgタンパク質のアミノ酸の一部を欠失、置換、挿入させることにより、抗体提示の効率を上昇させることができる。
【0022】
本発明の自己組織化能を有するタンパク質は、例えば宿主細胞に対して、由来する天然タンパク質や遺伝子工学的に組み替えられたタンパク質、種々の合成タンパク質等である。
【0023】
本発明において宿主細胞とは、真核生物、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞、昆虫細胞など由来のものが好ましく、より好ましくは酵母細胞である。より好ましくは、出芽酵母(Saccharomyces scerevisiae)であり、特に好ましくは、BY21445株、BY4708株、BY4709株、(ナショナルバイオリソースプロジェクト)またはJT007−1D株である。最も好ましくは、JT007−1D株である。
【0024】
本発明のナノ粒子は、内部に空間を有する中空ナノ粒子であっても良いものとする。その空間は必ずしも気体系の空間である必要はなく、溶液系の空間であってもよいものとする。
【0025】
本発明の、自己組織化能を有するタンパク質が脂質2重膜を取り込むことにより形成されるナノサイズの粒子を生産する生物種にとくに制限はなく、真核生物、原核生物いずれによる生産であっても良いが、自己組織化能を高めるため、真核生物による生産が好ましく、さらに好ましくは酵母細胞による生産である。ウイルス、ファージなどの感染工程を含むことや、組換え体も、本発明のナノサイズの粒子を生産する生物種の範囲である。
【0026】
本発明において宿主細胞とは、真核生物、例えば、動物細胞、植物細胞、真菌細胞、昆虫細胞など由来のものが好ましく、より好ましくは酵母細胞である。より好ましくは、出芽酵母(Saccharomyces scerevisiae)であり、特に好ましくは、BY21445株、BY4708株、BY4709株、(ナショナルバイオリソースプロジェクト)またはJT007−1D株である。最も好ましくは、JT007−1D株である。
【0027】
本発明のナノ粒子は、5〜1000nmの直径を持つ粒子である。好ましくは10〜500nmの直径を持つ粒子である。より好ましくは20〜300nmの直径を持つ粒子である。さらに好ましくは30〜200nmの直径を持つ粒子である。最も好ましくは40〜150nmの直径を持つ粒子である。
【0028】
本発明の多抗原同時測定用ナノ粒子は、好ましくは、主にタンパク質と脂質、糖を主要な構成成分とし、そのうち主要な成分はタンパク質である。
【0029】
本発明の抗体結合部位を持つタンパク質が自己組織化する能力を有することは、結合される抗体の高密度整列、並びに高密度提示を可能にし、免疫学的測定における感度の向上において重要な性質である。さらに、自己組織化する能力を有することは、自己組織化の過程で、他の夾雑タンパク質を排除することを示し、これは免疫学的測定の精度を向上(非特異的シグナルを抑制)させる上で重要な性質である。さらに、さらに、脂質二重膜を取り込むことによって、HBsAg Lタンパク質の膜配向性を正しく保ち,L蛋白質に含まれるZZドメインを効率よく粒子の外側へ提示可能である。
【0030】
本発明における蛍光物質は、特定の波長範囲の電磁波の光エネルギーを吸収することで化合物内の電子が励起し、基底状態に戻る際に余分なエネルギーを電磁波として放出するものであれば特に限定されない。例としては、CyDye(登録商標)、Alaxa Fluor(Molecular Probe社:登録商標)、フルオレセイン、フルオレセインイソチオシアネート(Fluorescein Isothiocyanate;FITC)、DyLight(登録商標)、ローダミン、テトラメチルローダミンイソチオシアネート(Tetramethyl Rhodamine Isothiocyanate;TRITC)テキサスレッド(登録商標)、ダンシル、DAPI、Hoechst、量子ドット、緑色蛍光タンパク質(Green Fluorescence Protein;GFP)アナログ、LI−COR dye、Cascade Blue、IRDyeなどが挙げられる。
【0031】
本発明における多抗原同時検出用ナノ粒子には、単一の抗体に対して数種類の蛍光物質によって修飾することも可能である。他の態様として、同一の抗原を認識する数種類の抗体に対して、それぞれ異なる傾向物質によって修飾された多抗原同時検出用ナノ粒子させて用いることが可能である。本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子を用いると、1次抗体に対して2次抗体を作用させる工程は必要なく、抗体と細胞を作用させる工程のみで済むために、測定対象となる抗原を含む細胞のバイアビリティが向上する効果が得られる。また、本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子に修飾できる標識物質が多いため、2次抗体を用いることによって得られる感度の増幅効果が失われることはない。その際、それぞれの蛍光色素に対して吸収可能な励起光を照射することによってより詳細な解析を行うことが可能となる。具体的にこのような効果は、フローサイトメトリー法またはFACSを用いる解析で得ることができる。ノイズ低減された情報を得ることができる。また、細胞分取の際には、より純度の高い単一性のある細胞集団を得ることが出来る。
【0032】
本発明において多抗原同時検出用ナノ粒子を蛍光標識化する方法は、市販の1級アミンに所望の化合物を結合させ、被結合分子を標識化することのできる化学架橋剤を含むキットを用いてもよいものとする。例えばAmersham CyDye monoreactive NHS Esters(GEヘルスケアバイオサイエンス)、CyDye Antibody Labelling Kits(GEヘルスケアバイオサイエンス)、Amersham CyDye Maleimides(GEヘルスケアバイオサイエンス)などのキットを用いることが挙げられる。架橋剤のスペーサー分子の構造は、本発明の目的が達成される範囲において特に限定されることはない。
【0033】
本発明における多抗原同時検出用ナノ粒子を蛍光標識化する方法として、脂質2重膜に対して、疎水性相互作用などを機序とした方法を用いて蛍光標識化しても良いものとする。該機序によって標識できる分子の例として、Vybrant(登録商標) Multicolor Cell−Labeling Kit *DiO、 DiI、 DiD(Molecular probes社)、PKH67 Green Fluorescent Cell Linker Midi Kit for General Cell Membrane Labeling(Sigma社)などが挙げられる。
【0034】
本発明における多抗原同時検出用ナノ粒子を蛍光標識化する方法として、蛍光タンパク質を、自己組織化能を有するタンパク質に融合させる方法であっても良いものとする。例えば、自己組織化能を有するタンパク質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列を含んだ発現ベクターに、蛍光タンパク質のアミノ酸配列をコードするポリヌクレオチド配列を組み込んだ発現ベクターと適当な宿主細胞を用いて、蛍光標識化多抗原同時検出用ナノ粒子を作成方法が挙げられる。すなわち、多抗原同時検出用ナノ粒子にあらかじめ蛍光タンパク質が融合した態様で、生合成によって得る方法である。本発明の蛍光タンパク質の例として、GFP(Green Fluorescence Protein)、CFP(Cyan Fluorescence Protein)、YFP(Yellow Fluorescence Protein)、RFP(Red Fluorescent Protein)、OFP(Orange Fluorescent Protein)などが挙げられる。
【0035】
本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子に結合させることができる抗体は、モノクローナル抗体であってもポリクローナル抗体であってもよいものとする。
【0036】
本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子に結合させることができる抗体の由来となる動物種は特に限定されない。
【0037】
本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子に結合させることができる抗体は、その抗体の定常領域によって分別されるすべての種のグロブリン分子を結合させることができるものとする。
【0038】
本発明の抗体断片は抗体の有する抗原認識能を有しているタンパク質又はペプチドであれば良いものとする。その例としては、植田克美監修の「抗体医薬の最前線」(シーエムシー出版)に記載の抗体断片やそれらの多価化抗体などの抗体構造物が挙げられる。
【0039】
本発明の抗原物質とは、生体内における免疫システムにおいて非自己または異物と認識され、該抗原に特異性を持って結合する抗体を産生しうることのできる物質である。例えばタンパク質、タンパク質若しくはペプチド、糖鎖、糖脂質、脂質、または単純な化学物質があげられる。
【0040】
本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子において、抗体が結合する部位は抗体と特異性を持って結合する部位であれば特に限定されない。例としてはProtein Aに含まれるZドメインや、Protein GもしくはProtein Lの抗体結合部位などが挙げられる。最も好ましくはProtein Aに含まれるZドメインである。
【0041】
本発明において抗体が結合する部位は、自己組織化能を有するタンパク質と疎水的に結合していてもよく、化学結合などにより共有的に結合しても良い。好ましい態様は、抗体が結合する部位が融合タンパク質として自己組織化能を有するタンパク質に融合していることである。そこで、融合の部位は自己組織化能を失わない限りにおいて、N末端からC末端までの全ての場所に存在し得るが、粒子を形成したときに外側に存在することが好ましい。上記の融合タンパク質の作製方法の例として、自己組織化能を有するタンパク質のポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含んだタンパク質発現ベクターに、抗体と特異性を持って結合する部位に相当するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を挿入したタンパク質発現ベクターと、適当な宿主細胞を用いることによって、多抗原同時検出用ナノ粒子を作製する方法が挙げられる。
【0042】
本発明におけるZZタグは、Zドメインと呼ばれるProtein Aのもつ抗体のFc領域との結合部位がタンデムに並んだドメインを示す。ZZタグのアミノ酸配列は、次のような繰返し配列もしくはその変異体である。AQHDEAVDNKFNKEQQNAFYEILHLPNLNEEQRNAFIQSLKDDPSQSANLLAEAKKLNDAQAPKVDNKFNKEQQNAFYEILHLPNLNEEQRNAFIQSLKDDPSQSANLLAEAKKLNDAQAPK(配列番号1)。ZZタグは分子量が小さく立体障害を起こさない観点からも好ましく用いられる。自己組織化能を有するタンパク質を形成するポリペプチドをコードするポリヌクレオチド配列を含んだ、タンパク質発現ベクターに配列番号2のヌクレオチド配列を挿入して、適当な宿主細胞で発現させることで作製することができる。このZZ領域(ZZタグ)と呼ばれるポリペプチドもしくはその変異体を用いることで、立体障害なく、抗体をより高効率に多抗原同時検出用ナノ粒子表面に整列提示することが可能となり、免疫学的測定をより感度を向上させることも可能となる。
【0043】
本発明における多抗原同時検出用ナノ粒子と測定抗原を認識する抗体分子(以下、該抗体を抗原認識抗体とする)の結合は、
(i)多抗原同時検出用ナノ粒子の抗体認識部位に、該抗体を認識することが出来るその他の抗体(以下、該抗体をアダプター抗体とする)を、多抗原同時検出用ナノ粒子に結合させる工程、
(ii)工程(i)によって多抗原同時検出用ナノ粒子に結合されたアダプター抗体と、抗原認識抗体を結合させる工程、
によって、結合の効率を上昇させることが可能となる。
【0044】
別の態様として、
(i)多抗原同時検出用ナノ粒子にアダプター抗体の抗体断片を結合させる工程、
(ii)工程(i)によって多抗原同時検出用ナノ粒子に結合されたアダプター抗体の抗体断片と、抗原認識抗体を結合させる工程、
によっても、結合の効率を上昇させることが可能となる。
【0045】
本発明における蛍光未標識化多抗原同時検出用ナノ粒子とは、自己組織化能を有するタンパク質が、脂質二重膜を取り込むことによって形成されるナノ粒子であって、該ナノ粒子が蛍光を発する化合物によって修飾されていないことを特徴とし、さらに該自己組織化能を有するタンパク質が抗体結合用ポリペプチドを有することを特徴とする、多抗原同時検出用ナノ粒子である。すなわち、該粒子は抗体結合能を有するものの、励起光に対して蛍光を発する能力が無い多抗原同時検出用ナノ粒子である。
【0046】
本発明における抗体除去用ゲルレジンは、多抗原同時検出用ナノ粒子と結合せずに遊離した抗体と特異的に結合する抗体認識部位を有するものであればよく、抗体の定常領域に結合するものが望ましい。また、ゲルレジンとは担体に該抗体認識部位を有する分子が結合したものが望ましい。例えばプロテインAセファロース、プロテインGセファロース、プロテインLセファロース、プロテインAアガロース、プロテインGアガロース、プロテインLアガロース、などの抗体認識部位を有する分子がセファロースに結合したものが挙げられる。
【0047】
本発明における抗体除去用ゲルレジンは、抗体と特異的に結合する抗原そのものを用いて除去することも可能である。抗原タンパク質や抗原認識部位のペプチドをアガロースやセルロースなどの担体にあらかじめ結合させておいて、前記の遊離抗体を除去することが可能である。
【0048】
本発明における免疫学的測定とは、抗体と抗原の特異的な結合を用いることで、抗体によって補足される抗原分子を認識して対象の抗原分子を測定すること、または抗原によって補足される抗体分子を認識して対象の抗原分子を測定することである。例として、ウエスタンブロッティング法、蛍光免疫検定法(FIA)、蛍光免疫測定法(FLISA)、細胞免疫染色法、組織免疫染色法、フローサイトメトリー法、蛍光標示式細胞分取法(FACS)、タンパク質マイクロアレイ法およびin vivoイメージング法、などが挙げられる。
【0049】
本発明における免疫学的測定用キットとは、該キットに1つでも多抗原同時検出用ナノ粒子が含まれていればよいものとし、他のキット組成物と混合されて提供されてよいものとする。例えば、数種類のボトルによって提供される1のキットであって、該キットを構成する1つまたは2以上のボトルのすべてが、多抗原同時検出用ナノ粒子からなる態様で提供される場合や、1つのボトルに数種類の多抗原同時検出用ナノ粒子が含まる態様があげられる。
【0050】
本発明の免疫学的測定用キット組成物とは、免疫学的測定を目的としたキットの構成物であって、1の独立した組成物としての態様であることを表す。例えば他のキットと共に用いることで、免疫学的測定が達成できることを特徴とする1のボトルに、本発明の多抗原同時測定用ナノ粒子が含まれる態様が挙げられる。
【0051】
本発明における多抗原同時検出用ナノ粒子を用いて免疫学的測定を行う方法は、
(a):多抗原同時検出用ナノ粒子と結合を所望する抗体を溶液中で混ぜ合わせ、インキュベーションする工程、
(b):(a)の工程によって得られた溶液を、抗原と認識できる環境下に存在させ、前記の抗体によって該抗原を捕捉する工程、
(c):(b)の工程によって捕捉された抗原を、多抗原同時検出用ナノ粒子に修飾された蛍光物質を検出・定量し、抗原を認識・測定する工程、
によって実施される。
【0052】
多抗原同時検出用ナノ粒子が、既に抗体若しくは抗体断片が結合した態様で作製されていれば、上記の(a)工程は必ずしも必要ないものとする。
【0053】
多抗原同時検出用ナノ粒子が、既に抗体若しくは抗体断片が結合した態様で作製されていれば、上記の(a)工程は必ずしも必要ないものとする。
【0054】
(a)の工程において、多抗原同時検出用ナノ粒子と前記の抗体を混ぜ合わせる際のそれぞれのモル量の比は、1:0.005〜1:10の範囲である。より好ましくは1:0.01〜1:1の範囲である。更に好ましくは1:0.02〜1:0.4の範囲である。(a)の工程において、抗体と多抗原同時検出用ナノ粒子の結合は、化学架橋剤を用いてより強固にしても良いものとする。
【0055】
(a)の工程において、インキュベーションする時間は1分〜12時間の範囲である。より好ましくは30分〜2時間の範囲である。
【0056】
(a)の工程において、インキュベーションする温度環境は4℃〜30℃の範囲である。より好ましくは20℃〜25℃の範囲である。
【0057】
(a)の工程と(b)の工程の間に、多抗原同時検出用ナノ粒子と結合しなかった遊離抗体を取り除く工程として
(d):(a)の工程によって得られた溶液に、グリシンを加えて、更に抗体除去用レジンと混ぜ合わせて、インキュベーションする工程、
があってもよいものとする。
【0058】
(d)の工程において、インキュベーションする時間は10秒〜5分の範囲である。より好ましくは30秒〜3分の範囲である。
【0059】
(d)の工程において、インキュベーションする温度環境は15℃〜30℃の範囲である。より好ましくは20℃〜25℃の範囲である。
【0060】
(b)の工程には、インキュベーションの環境中に多抗原同時検出用ナノ粒子から遊離した抗体を取り除くために、蛍光未標識化多抗原同時検出用ナノ粒子を同時に加えてインキュベーションしても良いものとする。
【0061】
(b)および(c)の工程には、(a)の工程によって作成した2種類以上の多抗原同時検出用ナノ粒子を用いて、2種類以上の多抗原を認識・測定することが出来る。その際、各々の多抗原同時検出用ナノ粒子に標識された蛍光分子は、異なる励起波長によって励起されることが望ましい。ある程度励起波長の異なる蛍光分子の組み合わせによって多抗原を同時に認識・測定する場合は、励起光の範囲を選択するフィルターなどを工夫して組み合わせることが可能である。また、大多数の抗原を同時に認識・測定する場合であって、非常に近い励起波長を有する蛍光物質の組み合わせによる場合であっても、例えば共焦点レーザー操作顕微鏡LSM510META(Zeiss社)に搭載された、プリズムを通して励起光を選択することで、本願発明の多抗原同時測定が可能となる。具体的には、プリズムによって分けられた光を、emissison finger printingなる方法で分離することの出来る方法である。このように数種類の蛍光物質をその同時検出する方法については科学雑誌Nature MethodsのAppliation Note「Imaging Six Proteins at a Time with the LSM 510 META from Carl Zeiss.」(2006年7月11日オンライン発表)に記載の方法を用いることによって、当業者が実施することができる。
【0062】
ウエスタンブロッティング法は所望の抗原物質の測定のみならず、該抗原の分子量情報も得られることが特徴である。そこで、本発明の多抗原同時測定用ナノ粒子をウエスタンブロッティング法に用いることによって、従来の技術よりも多くの利点が得られる。具体的な効果を以下に示す。
1.免疫沈降法によって調整したサンプルのウエスタンブロッティング法による解析
免疫沈降法とは、抗体を用いて所望の測定対象物質を濃縮することや、タンパク質―タンパク質などの生体分子間の相互作用を解析する際に多く用いられている方法である。このような免疫沈降法を用いて作製したサンプル中には測定の対象となる抗原のみならず抗体分子そのものも含まれることになる。
【0063】
従来のウエスタンブロッティング法では、該方法の工程に含まれる抗体分子そのもの(重鎖:50〜70kDa、軽鎖:20〜30kDa)が検出されてしまい、目的の測定対象となる抗原分子が、抗体分子その物の分子量の範囲に該当すれば、該測定対象抗原物質の検出が出来ない問題があった。これは、ウエスタンブロッティング法の工程に含まれるSDS−PAGEの処理によってサンプル中に含まれる抗体が変性されていても、該変性抗体を2次抗体が認識して捕捉することが問題であるためである。従って、測定対象の抗原物質を認識した1次抗体のみを認識することが出来ず、免疫沈降法とウエスタンブロッティング法の組み合わせる実験手法には常に困難が生じていた。
【0064】
これらの問題を解決するために、直接標識物質が修飾された1次抗体を用いる方法、若しくは1次抗体を自ら標識用いる方法、または変性した抗体分子は認識せず、非変性の1次抗体のみを認識する2次抗体が市販されている。しかしながら前者の2つは上記の従来技術で記載したとおり、入手の困難性や経済的な面を考慮して課題が残り、後者は満足のいく結果が得られる質の2次抗体は存在しない。
【0065】
そこで、本発明の多抗原同時測定用ナノ粒子をウエスタンブロッティングにて用いる際、2次抗体は必要とせずに所望の抗原を測定することが出来るので、上記のような問題は発生すらしない。また、測定対象となる抗原物質が多数のタンパク質等からなる複合体である際には、多抗原同時測定用ナノ粒子をウエスタンブロッティングにて用いることによって、同時に多数の抗原物質を測定することも可能となる。さらに、2次抗体を用いることによって得られる効果とされる、検出強度の上昇の点においても、本発明の多抗原同時測定用ナノ粒子は多数の蛍光色素を結合させることが出来るので、検出強度が2次抗体を用いる方法と比較して劣ることはない。
2.細胞内シグナルトランスダクション関連タンパク質の網羅的解析
細胞内のシグナル伝達に関与するタンパク質の解析には主にウエスタンブロッティング法が用いられる。これらのタンパク質はリン酸化を受けることによってその活性を評価することが多く、リン酸化タンパク質を特異的に認識する抗体も多く市販されている。また、これらのシグナル伝達に関与するタンパク質の多くは、ファミリーを形成しており、さらに各種タンパク質の多くは、多数のサブタイプを有する該ファミリーに属するすべてのタンパク質を網羅的に解析する際は、所望の検出対象となるすべての抗原に対して、それぞれに同一条件にて調整したサンプルを用意して、解析する必要がある。しかしながら、本発明の多抗原同時測定用ナノ粒子を用いることによって、各抗原に対して同一のサンプルを用意する必要はなく非常に有効である。本発明はそれぞれの抗体に対して、それぞれ異なる蛍光色素を有するプローブを提供することが出来るからである。
【0066】
その他の態様として、前記のリン酸化タンパク質は様々な生命現象に呼応して、1のタンパク質が2以上の機能を有するものが存在し、該タンパク質は多数のリン酸化部位を有していることが多い。そこで、このような多機能タンパク質の解析においては、各種機能に対してリン酸化部位を同定することが一般的である。従って、多数のリン酸化部位を区別して認識できる抗リン酸化抗体を多数用いて、同時に該リン酸化部位を同定することも、本発明は提供することができる。
3.2種類以上のタンパク質によって構成される高次構造を有するタンパク質の解析
タンパク質には、オペロンと呼ばれる1の遺伝子群によって形成される2以上のタンパク質によって、該タンパク質の機能を発揮させる仕組みを有するものが存在する。特に、真菌類が有する酵素などにはこのような機能を持つものが多い。すなわち、該酵素の解析には、異なる2以上のタンパク質を同時に解析する必要がある。
4.生体内においてプロセッシングを受けるタンパク質の解析
生体内のタンパク質などの抗原物質は様々なプロセッシングを受ける。例えばシグナルペプチドの有無、タンパク質中のドメイン構造体の欠失若しくは付加、または糖鎖修飾の有無などである。前記のプロセッシングは、SDS−PAGEによって分子量変化を認識できる現象であれば、それぞれの抗原分子を、多抗原同時測定用ナノ粒子を用いて測定または解析することが可能となる。
5.ウエスタンブロッティング改変法への適用
ウエスタンブロッティング法は上記の通り抗原と抗体の相互作用によって抗原を測定する方法であるが、該方法を元に様々な変法が開発されている。例えばウエストウエスタン法、ファーウエスタン法や、EMSA(Electrophoresis Mobility Shift Assay)法などである。本発明の多抗原同時測定用ナノ粒子は、1次抗体、2次抗体と抗体を作用させる工程が分かれていないので、PVDF膜などのタンパク質をメンブレンに転写させてタンパク質間の相互作用を測定するウエストウエスタン法やファーウエスタン法などに用いることが有効である。
【0067】
上記の方法において、解析の対象となる抗原物質の計算分子量が同一か、あるいは近似していたとしても、異なる修飾を受けた抗原物質の識別は、ウエスタンブロッティング法に用いるSDS−PAGEにおける移動度が異なることから可能である。また、それらを識別する解像度を上げることは、ポリアクリルアミドゲルを工夫することによって可能となる。
【0068】
本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子を用いて、FACS用いた免疫学的測定の手法の一例を示す。
【0069】
フローサイトメトリーまたは蛍光活性化セルソーター(Fluorescence Activated Cell Sorter)(FACS)の方法は、Current Protocols in Cytometry and Current Protocols in Immunology, John Wiley & Sons, Inc., New Yorkを基に実施することが出来る。
【0070】
A.細胞質表面染色
(i)細胞を50 mLのチューブに回収する。5 分間1000 rpmで遠心し、上清を吸引除去し、1xPBS(-) で終濃度1x107 cells/mLになるように穏やかに再懸濁する工程、(ただし、接着細胞の場合トリプシン処理は行なわず、0.2%のEDTA/PBS(-)による処理で細胞を剥離後、1xPBS(-)で洗浄する工程となる。)
(ii)至適濃度にFACS bufferで希釈した抗体−多抗原同時検出用ナノ粒子の複合体もしくは、蛍光未標識化多抗原同時検出用ナノ粒子を106 cells あたり20 μLチューブに加える工程、
(iii)調製した細胞サンプル100 mLをチューブに加え、ボルテックスをかけ、暗所・氷上で15〜30分間インキュベートし、染色反応を行う工程、
(iv)FACS buffer (2%FBS in PBS(-))で細胞を3回洗浄する。5分間1000 pmで遠心後、上清を吸引除去し、再度FACS buffer を1mL加え、穏やかに再懸濁する工程、
(v)FACS解析を行い、陽性細胞を分取する工程、
多抗原同時検出用ナノ粒子の蛍光強度は極めて高いため、従来の蛍光標識抗体を用いた方法よりも、より低出力のレーザーを用いて、低侵襲性のFACS解析が可能となり、分取後の細胞の生存率を著しく上昇させることが出来ると予想される。また、同種抗体を用いたマルチカラー解析による分取も可能となる。
【0071】
B.細胞質内染色
(i)細胞を50 mLのチューブに回収する。5分間2000 rpmで遠心し、培地を吸引除去し、室温に戻した1xPBS(-)で終濃度1x107 cells/mLとなるように再懸濁する工程、
(ii)5 分間2000 rpmで遠心し、PBS(-) を除いて4℃の1xPBS(-)を50 mL用いて洗浄する。再度5 分間2000rpm で遠心し、PBS(-)を除く工程、
(iii)1x106 cellsあたり4℃の4%パラホルムアルデヒド/PBS(-) 1mLを加え、氷上で15〜30分間インキュベートし細胞を固定する工程、
(iv)4℃の1xPBSを50 mL用いて細胞を2 回洗浄し、遠心後上清を吸引除去する工程、
(v)106 cellsあたり−20℃の100%メタノールを1 mL加え、ボルテックス後、氷上で15分間インキュベートする工程、(又は、4℃の0.1%サポニン/PBS(-)を1 mL加え、氷上で1時間インキュベートする工程、)
(vi)細胞を5分間2000 rpmで遠心し、4℃のFACS bufferを用いて2回洗浄する。
(vii)5 分間2000 rpmで遠心し上清を吸引除去する工程、
(viii)107 cells あたり1 mLのFACS bufferを加え、100 μLずつチューブに分注する工程、
(ix)至適濃度にFACS bufferで希釈した抗体−多抗原同時検出用ナノ粒子の複合体もしくは、蛍光未標識化多抗原同時検出用ナノ粒子を20 μLをチューブに加え、暗所室温で1時間インキュベートし、染色反応を行う工程、
(x)1 mLのFACS buffer用いて細胞を3回洗浄し、500 μLのFACS bufferで再懸濁する。
(xi)FACS解析を行う工程。
【0072】
本発明の多抗原同時測定用ナノ粒子の蛍光強度は極めて高いため、従来の蛍光標識抗体法に比べ検出感度が高く、これまで感度不足のため不可能であったFACS解析が可能となると予想される。また、同種抗体を用いたマルチカラー解析も可能となる。
【0073】
本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子を用いた、組織染色法による免疫学的測定の手法の一例を示す。
マウス組織切片(パラフィン、凍結、樹脂など)の作製
(i)スライドグラスに切片を貼付け、風乾する工程、
(ii)PBS(-)で2回x 2分間洗浄する工程、
(iii)抗マウスFc Fabフラグメント/0.2% normal goat serum in PBS(-)によって、室温で1時間ブロッキングする工程、
(iv)PBS(-)で2回x 2分間洗浄する工程、
(v)マウス由来一次抗体−多抗原同時検出用ナノ粒子の複合体を含む0.2% normal goat serum in PBS(-)によって、室温1時間反応させる工程、
(vi)PBS(-)で3回x 10分間洗浄する工程、
(vii)カバーガラスで封埋する工程、
(viii)顕微鏡を用いて観察する工程。
マルチカラー検出の場合
(i)スライドグラスに切片を貼付け、風乾する工程、
(ii)PBS(-)で2回x 2分間洗浄する工程、
(iii)抗マウスFc Fabフラグメント/0.2% normal goat serum in PBS(-)によって、室温で1時間ブロッキングする工程、
(iv)PBS(-)で2回x 2分間洗浄する工程、
(v)数種のマウス由来一次抗体−多抗原同時検出用ナノ粒子の複合体および、過剰量の未標識ZZ-BNC/0.2% normal goat serum in PBS(-)によって、室温1時間反応。
(vi)PBS(-)で3回x 10分間洗浄する工程、
(vii)カバーガラスで封埋する工程、
(viii)顕微鏡を用いて観察する工程。
【0074】
本発明の多抗原同時測定用ナノ粒子を用いて、マウス組織の蛍光免疫染色を行う利点として、通常マウス組織をマウス由来抗体を一次抗体として蛍光免疫染色を行う場合、マウス組織中に含まれる内在性のマウス抗体(IgG)が一次抗体の検出に用いる2次抗体(抗マウスIgG)と反応し、高いバックグランンドとなるため、目的とする抗原の検出が極めて困難となる。この問題を解決するため、Vector社より、マウス組織中の内在性IgGを未標識抗マウスIgG Fab フラグメントによってマスクするキット(Mouse on Mouse, Vector M.O.M. Fluorescein Kit, FMK-2201)が市販されている。さらに本キットでは、マウス組織中の内在性Fc受容体によるバックグランドを回避するため、マウス由来の1次抗体の検出を、ビオチン化抗マウスIgG Fabフラグメントおよび蛍光標識アビジンを用いることを推奨している。
【0075】
しかしながら、組織中の内在性マウス抗体分子であるIgGのブロッキングが十分でないことや、ビオチン−アビジン結合を用いた検出系のため、組織中の内在性ビオチンによるバックグランドが問題となるなどの問題点が多い。さらに、本キットを用いて複数のマウス由来抗体を1次抗体として多重染色では、個々の抗体についてそれぞれ別々に染色反応を行う必要があり、またその都度IgGのブロッキングから行う必要があるため、染色手順が極めて難雑であり、多くの時間と試薬が必要となる。
【0076】
一方で、本発明の多抗原同時測定用ナノ粒子を用いた組織染色では、1次抗体は予め蛍光標識した抗体結合能を有するポリペプチドを含む自己組織化能を有するタンパク質によって形成されるナノ粒子上に結合又は架橋させるため、マウス組織中の内在性IgGをマスクする必要はなく、予め内在性のFc受容体を抗マウスFcもしくはFabフラグメントによってブロッキングするのみで、簡便に蛍光染色が可能である。
【0077】
また特筆すべき点として、多種類のマウス由来一次抗体を用いた多重染色の場合、多抗原同時測定用ナノ粒子を用いることによって、これまで不可能であった複数の抗体の同時反応による複数抗原の同時検出が可能であり、時間と試薬を大幅に節約できる。
また、ラット組織に対して、ラット由来抗体を1次抗体として蛍光免疫染色を行う場合も同様の利点がある。
【0078】
本発明の多抗原同時測定用ナノ粒子を用いて、マウス組織以外の蛍光免疫染色を行う利点として、ウエスタンブロッティング法と同様に、これまで不可能であった複数の同種由来抗体を用いた抗原の同時検出が可能となり、同一切片中に存在する複数の抗原の空間的な分布の差をより詳細に(連続切片中でずれなく)解析できる。また、多抗原同時測定用ナノ粒子の蛍光強度が高いため、高感度な検出が可能である。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例に従いより詳細に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されない。
【0080】
本実施例では、本発明における多抗原同時検出用ナノ粒子の1つの態様として、IgG Fc結合ドメインであるStaphylococcus aureus Protein A由来のZドメインを2個タンデムに有し、変異型HBsAgのLタンパク質で構成されるナノ粒子であることを特徴とする、ZZ粒子(以下ZZ−BNC)に対して、種々のCyDye蛍光色素(Cy2、Cy3、Cy5、Cy7)を標識したCy−ZZ−BNC(Cy2−ZZ−BNC、Cy3−ZZ−BNC、Cy5−ZZ−BNC、Cy7−ZZ−BNC)を作製し、更に各種抗体をそれぞれ異なる蛍光標識化ZZ−BNC結合にさせて、抗体−Cy−ZZ−BNC複合体を作製した。前記抗体に対応する各抗原タンパク質を、SDS−PAGEによって分離した後に、PDVF膜へ転写した。該PVDF膜に対して、各種抗体−Cy−ZZ−BNC複合体をプローブとして抗原タンパク質の検出をウエスタンブロッティング法によって行った。前記各抗原蛋白質の検出は、フルオロ・イメージアナライザー FLA−9000(富士フィルム、日本)を用いて行った。
【0081】
その結果、単一抗原の検出系においては、一次及び二次抗体を用いる従来の蛍光発光法と比較して、検出される抗原シグナルの強度が増加し、さらに抗原の検出限界が上昇した。また、手法の簡便化により操作時間が短縮された。
【0082】
多種抗原検出系においては、同種由来の抗体の使用にもかかわらず、該抗体を同時に使用しても多種抗原を一度に検出(マルチカラー検出)することが可能となり、更には抗原の蛍光強度および検出限界が上昇した。したがって、多抗原同時検出用ナノ粒子を用いた高感度マルチカラーバイオイメージングへの新しい応用技術が開発された。
実施例1:Cy蛍光色素標識ZZ−BNC(Cy−ZZ−BNC)の作製
本実施例では、本発明者らによって報告されたJ. Biol. Chem. 1992 Jan 25;267(3):1953−61.記載の遺伝子組換え酵母(Saccharomyces cerevisiae AH22R(leu2)株)の記載に基づいて作製した、ZZタグを提示するHBsAgのLタンパク質を発現するZZ−BNC(特許出展)を用いた。
【0083】
種々のCy蛍光色素[Cy2 bisfunctional reactive dye to label,Cy3 bisfunctional reactive dye to label,Cy5 bisfunctional reactive dye to label,Cy7 bisfunctional reactive dye to label(ジーイーヘルスケア、米国)]に、ZZ−BNC (1 mg/ml)を各々添加し、室温で1時間反応させた。リン酸緩衝化生理食塩水(PBS(-)、pH7.4)で平衡化したSephadex G−25クロマトグラフィー(ジーイーヘルスケア)10 mlに供し、その後PBSで溶出して、各種Cy−ZZ−BNC(Cy2−ZZ−BNC、Cy3−ZZ−BNC、Cy5−ZZ−BNC、Cy7−ZZ−BNCを回収した(図1−a)。
実施例2:抗体−Cy−ZZ−BNC複合体の作製
単一抗原の検出系において、5 μgのCy2−ZZ−BNCと、1 μgのanti−vimentin mouse IgG2a(プロゲン)をPBS 50 μlに添加し、その後室温で30分間反応させて、anti−vimentin−Cy2−ZZ−BNC複合体を作製した(図1−b)。
【0084】
また、マルチカラー検出系では、5μg各種Cy−ZZ−BNCと測定対象となる各種抗原に対する1 μgの抗体、および 50μMのBS3(ピアス、ロックフォード、イリノイ、米国)をPBS 50 μl中に添加し、室温で30分間反応させた後、100μM Glycine を加え、反応を停止した。各種多抗原同時測定用ナノ粒子と抗体の組み合わせは、Cy2−ZZ−BNCに対してanti−GST mouse IgG2a(ナカライテスク、京都、日本)、Cy3−ZZ−BNCに対してanti−actin mouse IgG2a(シグマ、セントルイス、ミズーリ州、米国、Cy5−ZZ−BNCに対してanti−tubulin mouse IgG2b(ミリポア)、Cy7−ZZ−BNCに対してanti−desmin mouse IgG2a(アブノバ)である(図4−a)。反応停止後に残存する、遊離の抗体を除くために、PBSで平衡化したnProtein A sepharose 4 Fast Flow(ジーイーヘルスケア)100 μlに該反応液を添加し、室温で15分間インキュベーションした後、遠心分離(10,000 rpm、2分間、4℃)をおこない、各抗体−Cy−ZZ−BNC複合体(anti−GST−Cy2−ZZ−BNC、anti−actin−Cy3−ZZ−BNC、anti−tubulin−Cy5−ZZ−BNC、anti−desmin−Cy7−ZZ−BNC)を回収した(図2)。各抗体−Cy−ZZ−BNC複合体に未蛍光標識で、かつ抗体の結合していないZZ−BNC(5 μg)を添加し、30分間反応させた後、前記の4種類の抗体−Cy−ZZ−BNC複合体を混合して、マルチカラー用の抗体−Cy−ZZ−BNC複合体を作製した。
実施例3:抗体−Cy−ZZ−BNC複合体を用いた単一抗原検出法と蛍光発光検出法(従来法)との比較(図3−a)
抗原[Vimentin(プロゲン);分子量約55kDa](500、50、5、0.5 ng)を14 %ゲルのドデシル硫酸ナトリウム−ポリアクリルアミドゲル電気泳動(SDS−PAGE)で分離し、PVDF膜(Immobilon−FL transfer membrane,ミリポア)に転写した。ブロッキングバッファー[5% スキムミルク/TBST(0.2 M Tris−HCl、1.4 M NaCl、0.05 % Tween 20)]を用いて、該PVDF膜を4℃の環境下にて50 mlで1時間ブロッキングした後、500 μlのブロッキングバッファーと混合したanti−vimentin−Cy2−ZZ−BNC複合体(50 μl)を、室温で1時間作用させた。
【0085】
また比較実験例として、蛍光標識2次抗体を使用した蛍光発光検出法(従来法)を同時に行った。従来法は、ブロッキングバッファーにて1/1000に希釈した一次抗体(anti−vimentin)を、室温で1時間、転写後のPVDF膜と作用させ、その後TBSTで洗浄した。引きつづき前記のPVDF膜に対して、ブロッキングバッファーにて1/100に希釈した二次抗体[Cy2−conjugated Affini Pure Goat anti−mouse IgG(H+L)(ジャクソンイムノリサーチ)]を、室温で1時間作用させた。最後に、該PVDF膜をTBSTで洗浄後、フルオロ・イメージアナライザーFLA−9000(富士フィルム、日本)を用いて解析した。
【0086】
結果を図3−bに示す。抗原であるvimentinは、多抗原同時検出用ナノ粒子を用いた方法では5 ng、従来法では50 ngまで検出されたことから、従来法と比較して検出限界が約10倍上昇し、更に蛍光強度も上昇した。すなわち、抗体のみからなる従来法と比較して、本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子を用いる方法のほうが優れていることがわかる。これは、多抗原同時検出用ナノ粒子に結合させることのできる蛍光物質の量が多いために生ずる結果である。さらに、多抗原同時検出用ナノ粒子に結合させることのできる抗体の量が多いことにも起因する。また、検出方法の簡便化されたことによって操作時間が短縮された。
実施例4:抗体−Cy−ZZ−BNC複合体およびZenonのシングルカラーとマルチカラー検出の比較
シングルカラー検出法では、各々500、50、5、または0.5 ngの各種抗原[Actin(シグマ社;分子量約42kDa)またはDesmin(プロゲン社;分子量約53kDa)]を測定対象サンプルとした。これらの測定対象サンプルを、14%ゲルのSDS−PAGE法によって分離した。その後、測定対象サンプルを、PVDF膜に転写した後、該PVDF膜を50 mlのブロッキングバッファーを用いて4℃の環境下、1時間ブロッキングした。PVDF膜は、各々の測定対象抗原を評価するために、二枚作製した。
【0087】
450μlのブロッキングバッファーに混合させたanti−actin−Cy2−ZZ−BNC複合体またはanti−desmin−Cy2−ZZ−BNC複合体(実施例2で作製したもの)を、前記のそれぞれのPVDF膜に添加して室温で1時間作用させた(図4のa上段左側)。この時、平行してZenon Mouse IgGラベリングキット(モレキュラープローブ)での検出をプロトコルにしたがって行った。Alexa555標識labeling reagent 5 μlとanti−actin mouse IgG2aを1 μgまたはanti−desmin mouse IgG2aを1 μg、PBS 10 μl中に添加し、室温で5分間反応させた後、blocking reaget 5 μlを添加し、室温で5分間反応させた。該反応液とブロッキングバッファー500 μlと混合し、前記のそれぞれのPVDF膜に添加して室温で1時間作用させた(図4のa上段右側)。最後に、各PVDF膜をTBSTで洗浄後、フルオロ・イメージアナライザーFLA−9000で解析した。
【0088】
マルチカラー検出法では、2種類の抗原[ActinまたはDesmin]を、それぞれ500、100、20、4 ngずつ等量混合し、測定対象サンプルとした。これらの測定対象サンプルを、14%ゲルのSDS−PAGEで分離した。その後、測定対象サンプルを、PVDF膜に転写した後、該PVDF膜を50 mlのブロッキングバッファーを用いて4℃の環境下、1時間ブロッキングした。
【0089】
400 μlのブロッキングバッファーと混合させた、2種のマルチカラー用抗体−Cy−ZZ−BNC複合体(anti−actin−Cy3−ZZ−BNCおよびanti−desmin−Cy5−ZZ−BNC;それぞれ実施例2で作製したもの)を、前記のブロッキング後のPVDF膜に添加して室温で1時間作用させた(図4のb上段左側)。この時、平行してZenon Mouse IgGラベリングキットでの検出をプロトコルにしたがって行った。各Alexa標識labeling reagent 5 μlと各種抗原に対する抗体を1 μg(Alexa555標識labeling reagentとanti−actin mouse IgG2a、Alexa647標識labeling reagentとanti−desmin mouse IgG2a)、PBS 10 μl中に添加し、室温で5分間反応させた後、blocking reaget 5 μlを添加し、室温で5分間反応させた。2種の複合体を含む該反応液とブロッキングバッファー500 μlに加えて混合し、前記のPVDF膜に添加して室温で1時間作用させた(図4のb上段右側)。最後に、PVDF膜をTBSTで洗浄後、フルオロ・イメージアナライザーFLA−9000で解析した。
【0090】
結果を、図4のa、bの各下段示す。シングルカラーおよびマルチカラーの両方の検出法において、本発明の多抗原同時測定用ナノ粒子は、Zenonより蛍光強度が上昇し、検出限界が約5〜10倍上昇した。これらの結果は、上記の実施例3の結果と同様に、本発明の多抗原同時測定用ナノ粒子が多数の蛍光色素及び抗体を結合させる能力を有するからである。
実施例5:同種由来の各抗体−Cy−ZZ−BNC複合体を用いた多種抗原の同時検出法(マルチカラー検出法;図5−a)
各500ngの各種抗原[GST;分子量約30kDa、Actin、Tubulin(サイトスケルトン社;分子量約55kDa)、Desmin]を単一測定対象サンプルとした。また、マルチカラー検出法の測定対象サンプルとしては前記4種類の抗原を混合したものを用いた。これらの測定対象サンプルを、14%ゲルのSDS−PAGE法によって分離した。その後、測定対象サンプルをPVDF膜に転写した後、該PVDF膜を50 mlのブロッキングバッファーを用いて4℃の環境下、1時間ブロッキングした。
【0091】
300 μlのブロッキングバッファーに混合させた、マルチカラー用の抗体−Cy−ZZ−BNC複合体(実施例2にて作製した4種類の多抗原同時測定用ナノ粒子の混合物)を、前記のブロッキング後のPVDF膜に添加して室温で1時間作用させた。最後に、該PVDF膜をTBSTで洗浄後、フルオロ・イメージアナライザーFLA−9000(富士フィルム)を用いて、解析した。
【0092】
結果を、図5−bに示す。最も左のレーン(Mix.)が、各種抗原を混合したサンプルである。混合サンプルを構成する各種抗原であるGST、Actin、Tubulin、およびDesminが、それぞれ分子量30kDa、42kDa、55kDa、53kDaとして検出された。各々の抗原を捕捉する抗体と多抗原同時検出用ナノ粒子が有する標識蛍光色素の色の組み合わせを考慮することで、同一レーン内の分子量の異なる抗原をそれぞれに識別し、さらに検出することに成功したものである。最も左のレーンの混合サンプルを構成する各々の抗原の確認は、右に並ぶ4つのレーン(単一測定対象サンプル)の結果と比較して行うことが出来る。
【0093】
したがって、同種由来の抗体を2種類以上同時に使用しても、各々認識するそれぞれの抗原をクロストークすること無く、同時に検出することが可能であった(マルチカラー検出)。
【産業上の利用可能性】
【0094】
本発明の多抗原同時検出用ナノ粒子は、大学や研究機関にて用いられる各種免疫学的測定法の実験試薬として用いることが可能である。また、再生医療や免疫医療などの医療の場面で、フローサイトメーターによる細胞の調整に用いることも可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
自己組織化能を有するタンパク質が、脂質二重膜を取り込むことによって形成されるナノ粒子であって、該ナノ粒子が蛍光物質によって蛍光標識化されていること及び、該自己組織化能を有するタンパク質が抗体若しくは抗体断片、または抗体結合用ポリペプチドを有することを特徴とする、多抗原同時検出用ナノ粒子。
【請求項2】
前記の自己組織化能を有するタンパク質がB型肝炎ウイルス表面抗原(HBsAg)タンパク質であるであることを特徴とする、請求項1に記載の多抗原同時検出用ナノ粒子。
【請求項3】
前記の抗体結合用ポリペプチドがZZタグであることを特徴とする、請求項1または請求項2に記載の多抗原同時検出用ナノ粒子。
【請求項4】
請求項1〜3に記載の多抗原同時検出用ナノ粒子を1種類以上用いて、前記の抗体若しくは抗体断片、または前記の抗体結合用ポリペプチドに結合させた抗体によって捕捉される抗原物質を、免疫学的測定法によって検出する方法。
【請求項5】
前記の抗体を結合させる工程において化学架橋剤を用いることを特徴とする、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
多抗原同時検出用ナノ粒子に結合していない、遊離した抗体もしくは抗体断片を、該抗体と特異的に結合するアフィニティレジンを用いて除去する工程を含む、請求項4または請求項5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
多抗原同時検出用ナノ粒子に結合していない、遊離した抗体を、蛍光標識化されていない多抗原同時測定用ナノ粒子を用いて除去する工程を含む、請求項5〜6のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記の抗体を結合させる工程において、多抗原同時測定用ナノ粒子と抗体の分子量のモル量の比が1:0.005〜1:10であることを特徴とする請求項5〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の多抗原同時測定用ナノ粒子を、1種類以上含む免疫学的測定用キット。
【請求項10】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の多抗原同時測定用ナノ粒子を、2種類以上含む免疫学的測定用キット。
【請求項11】
蛍光標識化されていない多抗原同時測定用ナノ粒子を含む請求項9または請求項10に記載の免疫学的測定用キット。
【請求項12】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の多抗原同時検出用ナノ粒子を含む、免疫学的測定用キット組成物。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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