説明

多点吊り作業における目標荷重算出方法、およびアクチュエータ選定方法

【課題】吊り荷に配置された複数の吊り点に作用させる目標荷重を算出する。
【解決手段】吊り荷10のX軸成分、Y軸成分においてそれぞれ吊り点10a,10c、吊り点10d,10f間の距離と、各吊り点と重心位置Gとの間の距離a,bを求めると共に仮想荷重を定める。吊り荷10のX軸成分、Y軸成分のそれぞれに対し、モーメントの釣合いより求められる各吊り点に作用する仮想荷重を示す式を立て、未知数として表される吊り点に関しては各軸成分それぞれの吊り点に作用する荷重と各吊り点に作用する荷重の平均値との2乗偏差の和を求める式を立て、この式に仮想荷重を示す式を代入し、未知数について微分する。導き出された数式を未知数について移項すると共に仮想荷重を示す式に代入し、各吊り点に対して各軸成分に対応した仮想荷重の値を得る。各軸成分について求めた仮想荷重をそれぞれ乗算することにより各吊り点に作用させる目標荷重を算出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重量物を多点吊りする際の目標荷重を算出する方法、および重量物を多点吊りする際に使用するアクチュエータを選定する方法に係り、特にプラント等施設における大型重量物を安全に安定させて吊上げる際に必要とされる各吊り点に作用させる荷重を目標荷重として算出する方法、およびこれを利用したアクチュエータの選定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
重量物を吊搬する際に、天秤を使った多点吊り作業が行われることがある。この吊り作業を行う場合には、安全上の問題から、吊り上げ時の水平保持が義務付けられている。また、各吊り点におけるチェーンブロックの荷重バラツキを防ぐためにバランスを保つ必要がある。現状では、この吊り作業時におけるバランスと吊り荷の傾斜調整は、熟練作業者が、各々の吊り点でチェーンブロックの巻上げ巻き出しを繰り返してワイヤの張りを調整することによって行われている。しかし、この作業には、熟練者の経験と勘が必要で、多くの作業時間が費やされてしまうという実状がある。
【0003】
このような経験則的な手法をアシストする技術として、特許文献1に開示されているような技術が提案されている。特許文献1に開示されている技術は、予め算出しておいた設定値に対して、各吊り点に配置されたロードセルによる荷重計測値を合致させるように、チェーンブロックを遠隔操作して吊り荷の姿勢制御を成すというものである。
【特許文献1】特開2004−123248号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかし、特許文献1では予め算出される設定値の算出方法は開示されていない。元来、未知数である吊り点の目標荷重(設定値)を算出しようとした場合、力の釣合い式や、軸回り(吊り点回り)のモーメント式を用いた算出が試みられていたが、この場合、未知数の数に対して計算式の数が足らない場合には、その算出方法が冗長なものとなるといった問題があった。
【0005】
そこで本発明では、未知数である吊り点の目標荷重の算出を簡易な手法で行い、かつ算出される目標荷重が吊り荷の吊り上げ姿勢をバランス良く保つことのできるものとする多点吊り作業における目標荷重算出方法を提供することを目的とする。また、本発明では、前記目標荷重算出方法を用いて算出された目標荷重を利用して、吊り荷の吊り上げに用いるアクチュエータを選定する方法を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するための本発明に係る多点吊り作業における目標荷重算出方法は、天秤を介して吊り荷を4点以上で多点吊りする際に各吊り点に作用させる荷重の目標値を算出する方法であって、吊り上げ対象とする吊り荷と前記天秤とを重ね合わせた際に、前記天秤に設けた吊下げ位置から前記吊り荷に対して鉛直線を下ろした位置にそれぞれ吊り点を配置する工程と、前記吊り荷を平置き状態でXY座標系に配置したものと仮定し、前記吊り荷の重心位置と、前記複数の吊り点の位置を求める工程と、X軸成分、Y軸成分においてそれぞれ最も端部に位置する2つの吊り点間の距離と、前記2つの吊り点と重心位置との距離、前記重心位置に作用する荷重として定めた任意の仮想荷重、および前記2つの吊り点間に配置された他の吊り点それぞれの位置関係に基づいて、前記2つの吊り点それぞれに作用する荷重を示す第1の式と第2の式をモーメントの釣合いから導きだし、X軸成分、Y軸成分それぞれにおいて、前記第1、第2の2つの式により示される吊り点と未知数として示される他の吊り点との和で前記仮想荷重の値を除算して、各吊り点に作用する荷重の平均値を算出し、各軸成分それぞれの吊り点に作用する荷重と前記各吊り点に作用する荷重の平均値との2乗偏差の和を求める第3の式を立て、当該第3の式に前記第1、第2の式を代入して表される前記未知数に関する2次方程式を、各未知数により微分することで当該各未知数についての一次方程式を導き出し、当該一次方程式を各未知数について移項して、各軸成分における吊り点の数と各吊り点に作用する仮想荷重を示す式の数を一致させ、X軸成分、Y軸成分において対応する各点毎に導き出した数式を掛け合わせ、前記仮想荷重の積を前記吊り荷の荷重に変換することで、各吊り点に作用させる目標荷重を算出する工程とを有することを特徴とする。
【0007】
また、上記のような特徴を有する多点吊り作業における目標荷重算出方法は、X軸成分、Y軸成分のそれぞれにおいて、Z軸方向の荷重の釣合い式を立て、これを第4の式として前記第3の式に代入した上で前記各未知数についての一次方程式を導き出すようにしても良い。
【0008】
また、本発明に係る多点吊り作業におけるアクチュエータ選定方法は、天秤を介して重量物を4点以上で多点吊りする際に各吊り点に配置するアクチュエータを選定する方法であって、吊り上げ対象とする吊り荷と前記天秤とを重ね合わせた際に、前記天秤に設けた吊下げ位置から前記吊り荷に対して鉛直線を下ろした位置にそれぞれ吊り点を配置する工程と、前記吊り荷を平置き状態でXY座標系に配置したものと仮定し、前記吊り荷の重心位置と、前記複数の吊り点の位置を求める工程と、X軸成分、Y軸成分においてそれぞれ最も端部に位置する2つの吊り点間の距離と、前記2つの吊り点と重心位置との距離、前記重心位置に作用する荷重として定めた任意の仮想荷重、および前記2つの吊り点間に配置された他の吊り点それぞれの位置関係に基づいて、前記2つの吊り点それぞれに作用する荷重を示す第1の式と第2の式をモーメントの釣合いから導きだし、X軸成分、Y軸成分それぞれにおいて、前記第1、第2の2つの式により示される吊り点と未知数として示される他の吊り点との和で前記仮想荷重の値を除算して、各吊り点に作用する荷重の平均値を算出し、各軸成分それぞれの吊り点に作用する荷重と前記各吊り点に作用する荷重の平均値との2乗偏差の和を求める第3の式を立て、当該第3の式に前記第1、第2の式を代入して表される前記未知数に関する2次方程式を、各未知数により微分することで当該各未知数についての一次方程式を導き出し、当該一次方程式を各未知数について移項して、各軸成分における吊り点の数と各吊り点に作用する仮想荷重を示す式の数を一致させ、X軸成分、Y軸成分において対応する各点毎に導き出した数式を掛け合わせ、前記仮想荷重の積を前記吊り荷の荷重に変換することで、各吊り点に作用させる目標荷重を算出する工程とをもって算出した前記各吊り点に作用させる目標荷重の中から最も大きな値を選択し、各吊り点に配置するアクチュエータに、前記最も大きな目標荷重よりも大きく、前記吊り荷の荷重よりも小さな定格荷重を有するものを選択することを特徴とする。
【0009】
また、上記のような特徴を有する多点吊り作業におけるアクチュエータ選定方法では、X軸成分、Y軸成分のそれぞれにおいて、Z軸方向の荷重の釣合い式を立て、これを第4の式として前記第3の式に代入した上で前記各未知数についての一次方程式を導き出すようにしても良い。
【発明の効果】
【0010】
多点吊り作業を行うにあたり、上記のような方法で目標荷重を算出することによれば、未知数である各吊り点に作用させる目標荷重の算出を従来に比べて簡易に行うことが可能となる。また、各吊り点に作用する荷重の平均値と、各吊り点に作用する荷重との2乗偏差の和が最小となるように、各未知数毎に微分し、これにより導き出される式を利用して荷重を求めていることより、全ての吊り点に作用する荷重と平均荷重との偏差を最小とすることができる。よって、目標荷重に従って荷重配分されて吊り上げられた吊り荷の吊り上げ姿勢は、バランス良く保たれることとなる。
【0011】
なお、上記方法によりアクチュエータを選定することによれば、選定されたアクチュエータの定格荷重は、吊り荷を吊り上げる際に必要十分なものとすることができる。このため、従来よりも小さな定格荷重のアクチュエータを選定することができ、アクチュエータを安価なものとすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、本発明の多点吊り作業における目標荷重算出方法、およびアクチュエータ選定方法に係る実施の形態について図面を参照しつつ詳細に説明する。
【0013】
まず、図1を参照して、本実施形態に係る目標荷重算出方法を適用する吊り荷の吊り上げ形態の例について説明する。吊り上げ対象とされる吊り荷10は、図示しないクレーン等の吊り上げ手段に接続された天秤30と、この天秤30に接続された複数のアクチュエータ20とにより吊下されることとなる。
【0014】
前記天秤30は実施形態の場合、矩形状を成し、3点×2列に配置された吊下げ位置を有する。そして、ワイヤやチェーン等の索条32を介して図示しないクレーンのフック等に吊下されている。
【0015】
前記アクチュエータ20は例えば、チェーンブロックと、このチェーンブロックにおけるチェーンの巻き出し、巻上げを行うためのモータ等の駆動手段、および前記チェーンに付与された荷重を計測するためのロードセル等の荷重計測手段とから構成される。このような構成とすることで、ロードセルによりチェーンに掛かる荷重を計測すると共に、荷重の多寡に応じてモータによりチェーンの巻き出し、巻上げを行い、チェーンの張り具合を調整することが可能となる。
【0016】
前記吊り荷10は本実施形態の場合、説明を簡単化するために、平面形態を矩形とすると共に、前記天秤30とほぼ同じ大きさとした。このような形態の吊り荷10に対してまず、天秤30に配置された複数の吊下げ位置から前記吊り荷に対して鉛直線を降ろした位置にそれぞれ対応させた吊り点10a〜10fを定める。これにより、吊り荷10に設定される吊り点10a〜10fの形態も前記天秤に配置された吊下げ位置と同じ矩形状を成す3点×2列となる。なお、前記アクチュエータ20は、天秤30における吊下げ位置と吊り荷に定めた吊り点10a〜10fを締結するように配置される。
【0017】
そして、吊り荷10を平置き状態でX,Y座標系に配置したと仮定した場合の、重心位置Gと、前記複数の吊り点10a〜10fそれぞれの位置を求める。なお、求める吊り点10a〜10fの位置としては、X,Y座標系に従った座標位置のみでなく、吊り荷10のX軸成分、Y軸成分のそれぞれにおいて、モーメントの釣合い等の式を立てるために必要とされるパラメータを得ることができれば良い。例えば本実施形態の場合、X軸成分、Y軸成分においてそれぞれ吊り荷10の最も端部寄りに配置された吊り点10a,10d(10c,10f)、および吊り点10a,10c(10d,10f)間の距離b、a、吊り点10a,10c(10d,10f)間に配置された吊り点10b(10e)と吊り点10a,10c間の距離aとの配置関係、重心位置Gと吊り点10a,10c,10d,10fのいずれか1つ(実施形態では吊り点10a)を結ぶ直線lの長さ、および重心位置Gから吊り点10a,10cを結ぶ直線に向けて降ろした直線l’と前記直線lとの成す角θを求めれば良い(図3参照)。なお、吊り荷10の重心位置Gは、設計モデル等を用いて導き出すようにすれば良い。
【0018】
前記吊り荷10は、水平姿勢を保つように吊り上げられるため上述したように、X,Y座標系に対して水平に表すことができる。そして、吊り荷10における吊り点10a〜10fの位置と天秤30における吊下げ位置とはそれぞれ鉛直線により対応させて定められるため、複数のアクチュエータ20はそれぞれ、Z軸と平行に配置されることとなる。
【0019】
本実施形態では、各吊り点10a〜10fに作用する目標荷重を算出するにあたり、吊り荷10を+X軸側から平面視した場合と+Y軸側から平面視した場合とにおける吊り点10a〜10fに作用する荷重(仮想荷重)をそれぞれ算出し、これらを乗ずることで最終的な目標荷重を導き出す手段を採る。なお、図2は、吊り荷10と吊り点10a〜10fに作用される荷重の関係を模式的に示した斜視図である。
【0020】
まず、吊り荷10を+X軸側から平面視した場合における吊り点10a〜10fの仮想荷重を算出する。なお、図4は、吊り荷を+X軸側から平面視した場合における重量配分を示す模式図である。実施形態の場合、吊り点10aと吊り点10d、吊り点10cと吊り点10f、および吊り点10bと吊り点10eの配置位置は、図4に示す平面上ではそれぞれ同一視することができる。このため、それぞれの吊り点位置に相当する点をA点、B点、C点と設定し、それぞれの点に掛かる仮想荷重をR、R、Rとした場合、R、Rはそれぞれ、X軸回りのモーメントの釣合いから、数式1、数式2のように示すことができる。なお、C点はA点B点の中点に位置するものとする。
【数1】

【数2】

【0021】
ここで、m’は、+X軸側から平面視した場合に重心位置Gに作用する仮想質量であり、gは重力加速度である。なお、仮想質量m’は任意に定めることで足りるが、例えば後述する仮想質量m’’との積が吊り荷の質量mとなる値とすると良い。上記数式1、数式2において、RについてはR、R、Rに作用する荷重の平均値(平均仮想荷重)1/3m’gと各吊り点に作用する仮想荷重との2乗偏差の和J(数式3参照)が0となる値を定めると良い。具体的には、数式1,数式2を数式3に代入した上で、数式3をRで微分し、これをRについて移項すれば良い。このようにしてRを定めることにより、全ての吊り点に作用する仮想荷重と平均仮想荷重との偏差を最小とすることができる。
【数3】

【0022】
このような手法によりRを求めると、仮想荷重Rは、数式4のように示すことができ、このように求めたRの値を数式1、数式2にそれぞれ代入することで、仮想荷重R、Rはそれぞれ数式5、数式6のように示すことができる。
【数4】

【数5】

【数6】

【0023】
次に、吊り荷を+Y軸側から平面視した場合における吊り点10a〜10fの仮想荷重を算出する。なお、図5は、吊り荷10を+Y軸側から平面視した場合における重量配分を示す模式図である。実施形態の場合、吊り点10d,10e,10fの配置位置と、吊り点10a,10b,10cの配置位置は、図5に示す平面上ではそれぞれ同一視することができる。このため、それぞれの吊り点位置に相当する点をD点、E点と設定し、それぞれの点に掛かる仮想荷重をR、Rとした場合、R、Rはそれぞれ、Y軸回りのモーメントの釣合い式から、数式7、数式8のように示すことができる。
【数7】

【数8】

【0024】
ここで、m’’は、+Y軸側から平面視した場合に重心位置Gに作用する仮想質量であり、gは重力加速度である。
そして、吊り荷10の質量をmとした場合、質量mは仮想質量m’、m’’の積として示すことができ、各仮想荷重R〜Rはそれぞれ、重心Gからの距離に依存している。このため、6つの吊り点10a〜10fの目標荷重F1〜F6については、長さと荷重の比の関係より、数式9〜14のように示すことができる。
【数9】

【数10】

【数11】

【数12】

【数13】

【数14】

【0025】
このように、本実施形態に係る目標荷重算出方法によれば、吊り荷10の重心位置Gと、複数の吊り点10a〜10fの位置(例えばXY座標等)を求めることができれば、未知数である各吊り点10a〜10fの目標荷重を簡易に算出することができる。また、目標荷重の算出に用いる仮想荷重R〜Rの算出に、平均仮想荷重との2乗偏差を用いた最小自乗法を用い、複数の吊り点における平均仮想荷重に基づいて、未知数である仮想荷重(本実施形態においては仮想荷重R)を算出することより、全ての吊り点10a〜10fに作用する仮想荷重と平均仮想荷重との偏差の和を最小とすることができる。したがって、当該仮想荷重に基づいて算出される目標荷重も平均荷重(平均目標荷重)との偏差を最小とすることができる。よって、算出された目標荷重に基づいてアクチュエータ20に作用する荷重が定められて吊り上げられる吊り荷10の吊り上げ姿勢はバランス良く水平に保たれることとなる。
このような目標荷重算出方法を利用して吊り荷の吊り上げを行う場合、以下のような手順で行うことが望ましい(図6参照)。
【0026】
上記のような実施形態では、まず、重心位置Gと吊り点10aを結ぶ直線lの長さと、垂線l’と直線lの成す各θ、吊り点10bの位置、および吊荷の縦横寸法a、bを測定する(ステップ10)。次に、上記実施形態のようにして、各吊り点10a〜10fにおける目標荷重F1〜F6を算出する(ステップ20)。その後、吊り荷10に対する玉掛け作業を行い、クレーンの巻上げを行うことにより、天秤30を吊り上げる(ステップ30)。
【0027】
そして、アクチュエータ20の巻上げを行い、天秤30と吊り荷10との間に掛かる索条を張った状態にする(ステップ40)。ここで、各吊り点10a〜10fにおいてアクチュエータ20に作用している荷重を計測すると共に、当該計測荷重と算出した目標荷重F1〜F6とを比較する(ステップ50)。そして、例えば計測荷重が目標荷重よりも大きかった場合にはアクチュエータ20の巻下げを行い、アクチュエータ20に作用する荷重を軽減させる(ステップ60)。一方、計測荷重が目標荷重よりも小さかった場合にはアクチュエータ20の巻上げを行い、アクチュエータ20に作用する荷重を増加させる(ステップ70)。そして、アクチュエータ20の巻下げや巻上げを行った後の計測荷重と目標荷重を比較し、両者が一致した場合には(ステップ80)、吊り上げ時の重心角度の微調整を行い、クレーンの巻上げによる吊り荷10の吊り上げに移行する(ステップ90)。一方、計測荷重と目標荷重とが一致しない場合には、再びステップ50へ戻り、アクチュエータ20による索条の張り具合の調整を行う。
【0028】
上記実施形態では、説明を簡単化するために、吊り荷10の形状を矩形とし、吊り点10a〜10fの配置も線対称な矩形型としていた。しかしながら、吊り荷10の形状を任意なものとし、吊り点10a〜10fの配置も任意なものとした場合、及び吊り点の数を変化させた場合であっても、重心位置G、及び複数の吊り点それぞれのXY座標を知ることができれば、上記実施形態に係る目標荷重算出方法を適用して各吊り点に作用させる目標荷重を算出することができる。
【0029】
具体的には、まず、モーメントの釣合いに基づいて、各成分(例えばX軸成分)において吊り荷の最も端部寄りに位置する2つの吊り点に作用する仮想荷重(上記実施形態におけるR、R)を示す式を立てる。なお、各吊り点と、重心位置との距離は、各吊り点の座標位置に基づいて算出すれば良い。
【0030】
そして、上記実施形態と同様に、X軸、Y軸の各成分においてモーメントの釣合い式を立てるために利用される吊り点の数(例えば6つ(上記実施形態では3つの吊り点がX軸成分Y軸成分にてそれぞれ重複していたため3つとしている))に作用する仮想荷重の平均値(平均仮想荷重)を算出し、当該平均仮想荷重と各吊り点に作用させる荷重との2乗偏差の和を求める式を立て、当該式に上記仮想荷重を示す式を代入する。
【0031】
数式の代入により2つの未知数が消えるため、前記2乗偏差の和を求める式には、4つの未知数に対してそれぞれ下に凸のグラフを示す2次方程式が含まれることとなる。そしてこの2次方程式を、それぞれの未知数について微分することにより、各未知数に対する1次方程式が導き出される。4つの未知数に対する1次方程式がそれぞれ導き出されることにより、6つの未知数のそれぞれに対応した方程式が導き出されたことになる。よって、これらの式をX軸成分、Y軸成分それぞれの仮想荷重とし、これらを乗算することで各吊り点に作用させる目標荷重を算出することができる。
【0032】
なお、上記実施形態においては、モーメントの釣合いに基づく荷重の釣合い式のみを用いて目標荷重を算出していたが、Z軸方向の力の釣合い式を立て、任意の吊り点について移項した上で、これを平均仮想荷重と各吊り点に作用させる荷重との2乗偏差の和を求める式に代入しても良い。このようにして目標荷重を算出することによれば、未知数として最小自乗法を用いて導き出す式の数が減ることとなり、算出される目標荷重の精度を向上させることが可能となる。
【0033】
また、上記のような目標荷重算出方法によれば、各吊り点10a〜10fに作用する荷重を容易に算出することができることより、これに基づいて各吊り点10a〜10fに作用する荷重の最大値を知ることができる。このため、吊り荷10の吊り上げに使用するアクチュエータ20に関し、従来よりも無駄無く、適正な定格荷重を有する物を選定することが可能となる。
【0034】
例えば重量30tの吊り荷の吊り上げを6点吊りにより行う場合、従来では、各吊り点に作用する重量のバランスが不明であったため、各吊り点に作用する荷重は、0〜30t×9.8Nとした上で、アクチュエータを選定し、吊り上げ作業を行っていた。このため、各吊り点にはそれぞれ定格荷重30t以上のアクチュエータ(例えばチェーンブロック)を備える必要があった。
【0035】
これに対し、上記実施形態に係る目標荷重算出方法を利用することによれば、各吊り点に作用する目標荷重を予め算出することができる。このため、図7に示すように重心が吊り荷10の中心である場合には、各吊り点10a〜10fにそれぞれ平均荷重30t/6×9.8Nの荷重が作用するということを予め知ることができる。このため、吊り荷の吊り上げを行う際には、各吊り点に対して定格荷重5t以上のアクチュエータを採用すれば良いこととなり、従来に比べて無駄が無く、安価なものを選定し、かつ安全に吊り荷の吊り上げ作業を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】吊り荷と天秤との配置形態を示す模式図である。
【図2】吊り荷の重心位置と吊り荷に配置された吊り点、および各吊り点に作用する荷重の関係を模式的に示した斜視図である。
【図3】吊り荷の重心位置と吊り点との関係を平面視した状態を示す模式図である。
【図4】吊り荷を+X軸側から見た場合における重量バランスを示す模式図である。
【図5】吊り荷を+Y軸側から見た場合における重量バランスを示す模式図である。
【図6】吊り荷の各吊り点に作用させる荷重の算出から吊り荷の吊り上げまでの流れを示すフロー図である。
【図7】吊り荷の吊り上げを行うアクチュエータを選定する際の説明を行うための参考図である。
【符号の説明】
【0037】
10………吊り荷、10a〜10f………吊り点、20………アクチュエータ、30………天秤、32………索条。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
天秤を介して吊り荷を4点以上で多点吊りする際に各吊り点に作用させる荷重の目標値を算出する方法であって、
吊り上げ対象とする吊り荷と前記天秤とを重ね合わせた際に、前記天秤に設けた吊下げ位置から前記吊り荷に対して鉛直線を下ろした位置にそれぞれ吊り点を配置する工程と、
前記吊り荷を平置き状態でXY座標系に配置したものと仮定し、前記吊り荷の重心位置と、前記複数の吊り点の位置を求める工程と、
X軸成分、Y軸成分においてそれぞれ最も端部に位置する2つの吊り点間の距離と、前記2つの吊り点と重心位置との距離、前記重心位置に作用する荷重として定めた任意の仮想荷重、および前記2つの吊り点間に配置された他の吊り点それぞれの位置関係に基づいて、前記2つの吊り点それぞれに作用する荷重を示す第1の式と第2の式をモーメントの釣合いから導きだし、X軸成分、Y軸成分それぞれにおいて、前記第1、第2の2つの式により示される吊り点と未知数として示される他の吊り点との和で前記仮想荷重の値を除算して、各吊り点に作用する荷重の平均値を算出し、各軸成分それぞれの吊り点に作用する荷重と前記各吊り点に作用する荷重の平均値との2乗偏差の和を求める第3の式を立て、当該第3の式に前記第1、第2の式を代入して表される前記未知数に関する2次方程式を、各未知数により微分することで当該各未知数についての一次方程式を導き出し、当該一次方程式を各未知数について移項して、各軸成分における吊り点の数と各吊り点に作用する仮想荷重を示す式の数を一致させ、X軸成分、Y軸成分において対応する各点毎に導き出した数式を掛け合わせ、前記仮想荷重の積を前記吊り荷の荷重に変換することで、各吊り点に作用させる目標荷重を算出する工程とを有することを特徴とする多点吊り作業における目標荷重算出方法。
【請求項2】
X軸成分、Y軸成分のそれぞれにおいて、Z軸方向の荷重の釣合い式を立て、これを第4の式として前記第3の式に代入した上で前記各未知数についての一次方程式を導き出すことを特徴とする請求項1に記載の多点吊り作業における目標荷重算出方法。
【請求項3】
天秤を介して重量物を4点以上で多点吊りする際に各吊り点に配置するアクチュエータを選定する方法であって、
吊り上げ対象とする吊り荷と前記天秤とを重ね合わせた際に、前記天秤に設けた吊下げ位置から前記吊り荷に対して鉛直線を下ろした位置にそれぞれ吊り点を配置する工程と、前記吊り荷を平置き状態でXY座標系に配置したものと仮定し、前記吊り荷の重心位置と、前記複数の吊り点の位置を求める工程と、X軸成分、Y軸成分においてそれぞれ最も端部に位置する2つの吊り点間の距離と、前記2つの吊り点と重心位置との距離、前記重心位置に作用する荷重として定めた任意の仮想荷重、および前記2つの吊り点間に配置された他の吊り点それぞれの位置関係に基づいて、前記2つの吊り点それぞれに作用する荷重を示す第1の式と第2の式をモーメントの釣合いから導きだし、X軸成分、Y軸成分それぞれにおいて、前記第1、第2の2つの式により示される吊り点と未知数として示される他の吊り点との和で前記仮想荷重の値を除算して、各吊り点に作用する荷重の平均値を算出し、各軸成分それぞれの吊り点に作用する荷重と前記各吊り点に作用する荷重の平均値との2乗偏差の和を求める第3の式を立て、当該第3の式に前記第1、第2の式を代入して表される前記未知数に関する2次方程式を、各未知数により微分することで当該各未知数についての一次方程式を導き出し、当該一次方程式を各未知数について移項して、各軸成分における吊り点の数と各吊り点に作用する仮想荷重を示す式の数を一致させ、X軸成分、Y軸成分において対応する各点毎に導き出した数式を掛け合わせ、前記仮想荷重の積を前記吊り荷の荷重に変換することで、各吊り点に作用させる目標荷重を算出する工程とをもって算出した前記各吊り点に作用させる目標荷重の中から最も大きな値を選択し、各吊り点に配置するアクチュエータに、前記最も大きな目標荷重よりも大きく、前記吊り荷の荷重よりも小さな定格荷重を有するものを選択することを特徴とする多点吊り作業におけるアクチュエータ選定方法。
【請求項4】
X軸成分、Y軸成分のそれぞれにおいて、Z軸方向の荷重の釣合い式を立て、これを第4の式として前記第3の式に代入した上で前記各未知数についての一次方程式を導き出すことを特徴とする請求項3に記載の多点吊り作業におけるアクチュエータ選定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2009−29528(P2009−29528A)
【公開日】平成21年2月12日(2009.2.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−192358(P2007−192358)
【出願日】平成19年7月24日(2007.7.24)
【出願人】(000005452)株式会社日立プラントテクノロジー (1,767)