説明

多重化装置

【課題】ギルバードセル回路で構成される多重化装置の高速化を目的とする。
【解決手段】
多重化装置を構成するギルバードセル回路に含まれる、第1のトランジスタペアー、第2のトランジスタペアーおよび第3のトランジスタペアーのうち、第1のトランジスタペアーと第2のトランジスタペアーの各ベースに直列にインダクタンスの片端を接続し、他端にキャパシタンスの片端を接続し、該キャパシタンスの他端を接地することにより高速化を実現する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ギルバードセル回路を使用する多重化装置の高速化に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、高速通信に対応する多重化装置として、ギルバードセル回路を使用するものが知られている(例えば、下記文献)。
【0003】
図8により、従来の多重化装置の動作を説明する。この図は、2つのデジタル入力信号を1つのデジタル出力信号に多重化する場合の例である。1つのデジタル信号(D1P、D1N)がQ1、Q2のベースに入力される。他方のデジタル信号(D2P、D2N)がQ3、Q4のベースに入力される。さらにクロック(CKP、CKN)がQ5、Q6のベースに接続される。このときQ5の電圧がQ6の電圧より高い場合、Q6はカットオフされる。逆にQ5の電圧がQ6の電圧より低い場合、Q5がカットオフされることになる。そうすると、クロック信号の半クロック毎にQ1、Q2のトランジスタペアーとQ3、Q4のトランジスタペアーのいずれかが選択される。
【0004】
ここで、Q1とQ2のトランジスタペアーが選択されたとき、Q1とQ2のベースに入力された信号がQP、QNとして出力されることになる。
【0005】
同様に、Q3とQ4のトランジスタペアーが選択されたとき、Q3とQ4のベースに入力された信号がQP、QNとして出力されることになる。
【0006】
図9は、この入力信号D1P、D1N(D1Nは図示せず)とD2P、D2N(D2Nは図示せず)、クロック信号CKP、CKN(CKNは図示せず)および出力信号QP、QN(QNは図示せず)の動作タイミングを示している。
【0007】
上記で説明したとおり、クロックCKPがハイレベルのとき、QPはD1Pを出力する。クロックCKPがローレベルのとき、QPはD2Pを出力する。
【0008】
したがって、この図に示すように、クロックCKPの切り換わりにより、D1PとD2Pのいずれかが選択出力され、1クロックの間にD1PとD2Pを多重化した信号が出力される。
【0009】
【非特許文献1】Behzad Razavi著,”Design of Integrated Circuits for Optical Communications”pp.333-334,McGRAW-Hill 2003年発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、上述した多重化装置においては、出力側の伝送速度が40Gbit/s程度が限界でそれ以上の速度を実現することは困難であった。
【0011】
本発明は、このような課題に鑑みてなされたものであり、高速化で問題となる信号入力部であるトランジスタベース部の接地特性を改善することにより、100Gbit/sといったより高速の伝送速度に対応しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、第1のデジタル信号を入力する第1のトランジスタペアと、第2のデジタル信号を入力する第2のトランジスタペアーと、
前記第1のデジタル信号と前記第2のデジタル信号のいずれかを選択し出力するためのクロックを入力する第3のトランジスタペアーとを含む、ギルバードセル回路により構成された多重化装置において、
前記第1のデジタル信号は、所定のキャパシタンスを介して接地されるとともに、前記第1のトランジスタペアーの各トランジスタのベースに所定のインダクタンスを介して入力されており、
前記第2のデジタル信号は、所定のキャパシタンスを介して接地されるとともに、前記第2のトランジスタペアーの各トランジスタのベースに所定のインダクタンスを介して入力されている、ことを特徴としている。
【0013】
また、別の発明は前記多重化装置で前記インダクタンスの値が20〜120pHであり、前記キャパシタンスの値が1〜100fFであることを特徴としている。
【0014】
さらに、別の発明は、第1のデジタル信号を入力する第1のトランジスタペアーと、
第2のデジタル信号を入力する第2のトランジスタペアーと、
前記第1のデジタル信号と前記第2のデジタル信号のいずれかを選択し出力するためのクロックを入力する第3のトランジスタペアーとを含む、ギルバードセル回路により構成された多重化装置において、
前記第1のデジタル信号は、所定のキャパシタンスを介して接地され、さらに抵抗を介して電源に接続されるとともに、前記第1のトランジスタペアーの各トランジスタのベースに所定のインダクタンスを介して入力され、
前記第2のデジタル信号は、所定のキャパシタンスを介して接地され、さらに抵抗を介して電源に接続されるとともに、前記第2のトランジスタペアーの各トランジスタのベースに所定のインダクタンスを介して入力されている、ことを特徴としている。
【発明の効果】
【0015】
第1のデジタル信号と第2のデジタル信号のそれぞれにキャパシタンスを並列に接続し接地するとともに、インダクタンスを介して第1のトランジスタペアーの各トランジスタと第2のトランジスタペアーの各トランジスタのベースに接続することにより、該各トランジスタのベース電圧を高周波まで一定に保つことができ、高周波特性が改善され、伝送速度が100Gbit/sの高速度の多重化装置を実現できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】

以下、多重化装置に係る発明の実施の形態について説明する。
【0017】
図1を例に実施例1を説明する。従来例と同一の構成部分には同一の符号をつけている。この図は、従来例と同様に2つのデジタル入力信号を1つのデジタル出力信号に多重化する場合の例を示している。トランジスタQ1、Q2、Q3、Q4、Q5、Q6は、ギルバードセル回路を構成する。トランジスタペアーQ1、Q2は1つのデジタル入力信号を受信するものである。Q1、Q2のコレクタは抵抗R1を介して接地されている。トランジスタペアーQ3、Q4は他のデジタル入力信号を受信するものである。Q3、Q4のコレクタは抵抗R2を介して接地されている。トランジスタペアーQ5、Q6はクロック信号を受信するものである。Q5、Q6のエミッタはR3を介して所定の電圧に接続されている。
【0018】
受動素子1は、インダクタンスL1、キャパシタンスC1で構成される。キャパシタンスの一端は、接地されている。キャパシタンスの他端は、インダクタンスの一端に並列に接続され、インダクタンスの他端はベースに直列に接続されている。このインダクタンスの値とキャパシタンスの値の組み合わせによりトランジスタQ1,Q2、Q3、Q4のベース電圧を高周波においても一定に保つことができ、トランジスタの高周波特性を改善する。
【0019】
D1PとD1Nは、2つのデジタル入力信号のうち、1つのデジタル入力信号を表している。信号は平衡信号である。
【0020】
D2PとD2Nは、2つのデジタル入力信号のうち、他方のデジタル入力信号を表している。信号は平衡信号である。
【0021】
D1P、D1N信号及びD2P、D2N信号が不平衡であっても同じ動作である。
【0022】
CKPとCKNは、クロック信号を表している。この場合、クロック信号は平衡信号である。不平衡であっても同じ動作である。
【0023】
このクロック信号の半クロック毎に2つのデジタル入力信号の1つが選択され、多重化装置から出力される。1クロックで考えれば、2つのデジタル入力信号が多重化されたものが出力されることになる。
【0024】
図2は本発明の実施例2である。本実施例は上述の実施例1と受動素子11が異なり他は同一である。
【0025】
受動素子11は、インダクタンスL1、キャパシタンスC1および抵抗R4で構成される。キャパシタンスの一端は、接地されている。抵抗の一端は、所定の電圧Vに接続されている。キャパシタンスの他端と抵抗の他端は互いに接続され、さらにインダクタンスの一端に並列に接続されている。インダクタンスの他端はベースに直列に接続されている。このインダクタンスの値とキャパシタンスの値及び抵抗の値の組み合わせにより上述の実施例と同様に、トランジスタの高周波特性を改善する。
【0026】
本発明の実施例3について説明する。実施例3は上述の実施例1とは受動素子12が異なりその他は同一である。受動素子12の構成を図3に示す。受動素子12は、ZLとZHにより構成されている。
【0027】
ZLとZHは、マイクロストリップラインあるいはコプレーナウェーブガイドといった伝送線路で実現されている。ZLは低インピーダンスとし、ZHは高インピーダンスとしている。これにより、実施例1と同様にトランジスタの高周波特性を改善する。
【0028】
本発明の実施例4について説明する。実施例4は、上述の実施例3の受動素子12を受動素子13としているものである。受動素子13の構成を図4に示す。受動素子13は、ZL、ZHおよびR5により構成されている。ZLとZHは、実施例3の受動素子12を構成するものと同じである。R5は、ZLとZHとの間に並列に接続し、所定の電圧に接続する。この構成によっても、同様にトランジスタの高周波特性を改善する。
【0029】
本発明の実施例5について説明する。実施例5は、上述の実施例3の受動素子12を受動素子14としているものである。受動素子14の構成を図5に示す。受動素子14は、ZL、ZH、R5およびキャパシタンスC2により構成されている。ZLとZHは、実施例3の受動素子12を構成するものと同じである。R5は、ZLとZHとの間に並列に接続し、所定の電圧に接続する。C2は、ZLとZHとの間に並列に接続し、他端を接地する。この構成によっても、同様にトランジスタの高周波特性を改善する。
【0030】
受動素子を付加することにより高周波特性がどの程度改善されるか、図6と図7により説明する。図6は、特性を測定するための結線図である。図7はその測定結果である。
【0031】
図6のとおり、トランジスタQ1、Q2、Q3、Q4のベースは受動素子を介して一定の電圧Vに接続しておく。この状態で、Q5、Q6に信号CKP、CKNを入力し出力QP、QNの特性を測定するものである。
【0032】
図7のとおり、受動素子を付加することにより高周波まで特性がフラットとなっている。例えば、3dBダウンの周波数が、受動素子を付加しない場合、54GHzである。一方、受動素子を付加した場合、3dBダウンの周波数が61GHzである。高周波特性が大きく改善していることがわかる。
【0033】
以上説明したとおり、キャパシタンスの一端を接地し、他端をインダクタンスの一端に並列に接続するとともに、インダクタンスの他端をトランジスタQ1、Q2、Q3、Q4のベースに接続することにより高周波においてベース電圧を一定に保つことができ、高周波特性を改善することができる。これにより、100Gbit/sに対応する多重化装置を実現できる。さらに抵抗を並列に付加しても同等の多重化装置を実現できる。

【図面の簡単な説明】
【0034】
【図1】本発明の多重化装置の実施例1の構成を示す図
【図2】本発明の多重化装置の他の実施例2の構成を示す図
【図3】本発明の多重化装置の他の実施例3の構成を示す図
【図4】本発明の多重化装置の他の実施例4の構成を示す図
【図5】本発明の多重化装置の他の実施例5の構成を示す図
【図6】本発明の高周波特性を測定する結線図
【図7】高周波特性の測定結果を示す図
【図8】従来の多重化装置の構成を示す図
【図9】多重化装置の動作タイミングを示す図
【符号の説明】
【0035】
1、11〜14:受動素子
C1、C2:キャパシタンス
L1:インダクタンス
Q1〜Q6:トランジスタ
R1〜R5:抵抗
ZL、ZH:伝送線路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1のデジタル信号を入力する第1のトランジスタペアーと、
第2のデジタル信号を入力する第2のトランジスタペアーと、
前記第1のデジタル信号と前記第2のデジタル信号のいずれかを選択し出力するためのクロックを入力する第3のトランジスタペアーとを含む、ギルバードセル回路により構成された多重化装置において、
前記第1のデジタル信号は、所定のキャパシタンスを介して接地されるとともに、前記第1のトランジスタペアーの各トランジスタのベースに所定のインダクタンスを介して入力されており、
前記第2のデジタル信号は、所定のキャパシタンスを介して接地されるとともに、前記第2のトランジスタペアーの各トランジスタのベースに所定のインダクタンスを介して入力されている、ことを特徴とする多重化装置。
【請求項2】
前記インダクタンスの値が20〜120pHであり、前記キャパシタンスの値が1〜100fFであることを特徴とする請求項1記載の多重化装置。
【請求項3】
第1のデジタル信号を入力する第1のトランジスタペアーと、
第2のデジタル信号を入力する第2のトランジスタペアーと、
前記第1のデジタル信号と前記第2のデジタル信号のいずれかを選択し出力するためのクロックを入力する第3のトランジスタペアーとを含む、ギルバードセル回路により構成された多重化装置において、
前記第1のデジタル信号は、所定のキャパシタンスを介して接地され、さらに抵抗を介して電源に接続されるとともに、前記第1のトランジスタペアーの各トランジスタのベースに所定のインダクタンスを介して入力され、
前記第2のデジタル信号は、所定のキャパシタンスを介して接地され、さらに抵抗を介して電源に接続されるとともに、前記第2のトランジスタペアーの各トランジスタのベースに所定のインダクタンスを介して入力されている、ことを特徴とする多重化装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2010−141541(P2010−141541A)
【公開日】平成22年6月24日(2010.6.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−315157(P2008−315157)
【出願日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年10月9日 The Institute of Engineering and Technology発行の「Electronics Letters(Vol.44 No.21)」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年10月9日 インターネットアドレス「http://scitation.aip.org/dbt/dbt.jsp?KEY=ELLEAK&Volume=44&Issue=21#MAJOR7」に発表
【出願人】(000000572)アンリツ株式会社 (838)
【Fターム(参考)】