説明

多重滅菌包装物及びこれを用いた滅菌物の入庫方法。

【課題】クリーン度の高いエリアに、滅菌済み消耗品等を高いクリーン度を保ったまま入庫するための多重滅菌包装物及び滅菌物の入庫方法を提供する。
【解決手段】パスボックス25の蓋を開け、三重滅菌包装物6の最外部の滅菌袋5cを破り、二重滅菌包装物6’をパスボックス25内に入れ、次に、クリーンルーム側からパスボックスの蓋を開け、二重滅菌包装物を搬入する。次に、グローブボックス15の扉を開け、二重滅菌包装物の最外部の滅菌袋5bを破り、中の一重滅菌包装物6”を取り出してグローブボックス内に入れる。次に、グローブボックス内のクリーン度が100以下になるまで待機する。次に、グローブボックスの操作穴18a,18bに取り付けられたグローブを用いて一重滅菌包装物の包装を破り、内部の消耗品を載せた台車23を連通部16に搬送し、ここで操作ロボットにより台車上の消耗品を自動細胞培養装置内に取り込む。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、多重滅菌包装物及びこれを用いた滅菌物の入庫方法に関し、更に詳細には、自動細胞培養装置内部等のクリーン度の高いエリアに、滅菌済みの消耗品等を高いクリーン度を保ったまま入庫するための多重滅菌包装物及びこれを用いた滅菌物の入庫方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動細胞培養装置内部等はクリーン度の高い状態にあり、ここにピペット用チップ、ディッシュ、遠心管、サンプル管等の消耗品を入庫する際には、菌で汚染されないように特に注意が必要である。従来より、滅菌済みの消耗品は滅菌袋入りの状態で供給されており、これをクリーンベンチに搬入する場合には、滅菌袋にアルコールを噴霧してクリーンベンチ内に入庫し、クリーンベンチ内で滅菌袋から滅菌済みの消耗品を取り出すのが通常である。しかし、アルコール噴霧では滅菌袋に付いた全ての雑菌が除去できるわけではなく、また、作業者によってアルコール噴霧の程度がまちまちで、人的要因により滅が残る可能性がある。
【0003】
この点を考慮し、作業室内で消耗品を過酸化水素蒸気を使用して滅菌することが検討されている(特許文献1)。しかし、この方法では、例えば密閉し得る蓋のある容器では過酸化水素蒸気が容器内に浸入しないため、滅菌を行うことはできない。また、蓋を緩めておけば蒸気は浸入するが、滅菌修了後においても蒸気が容器内に残留するという問題点がある。
【特許文献1】特開2005−278565号公報、段落番号〔0007〕
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような従来技術の問題点を解決するために為されたものであり、本発明の目的は、自動細胞培養装置内部等のクリーン度の高いエリアに、滅菌済みの消耗品等を高いクリーン度を保ったまま入庫するための多重滅菌包装物及びこれを用いた滅菌物の入庫方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明の多重滅菌包装物は、滅菌物を滅菌袋を用いて多重包装した多重滅菌包装物であって、最外部の滅菌袋の外側を除き、各滅菌袋の内側及び外側が滅菌されていることを特徴とする。
【0006】
このように滅菌物を滅菌袋を用いて無菌状態で多重包装した多重滅菌包装物を使用すれば、クリーン度の高いエリアに搬入する直前に最外部の滅菌袋を破って中身を取り出し、これを高いクリーン度のエリアに搬入することができ、滅菌物への菌の付着を極力避けることが可能となる。
【0007】
ここで、滅菌物としては、例えば、滅菌済みのピペット用チップ、ディッシュ、遠心管、サンプル管等を挙げることができる。
【0008】
本発明の滅菌物の入庫方法は、クリーン度の低いエリアからクリーン度の高いエリアに滅菌物を移動させて入庫を行う上記多重滅菌包装物を用いた滅菌物の入庫方法であって、前記多重滅菌包装物を収容している所定のクリーン度のエリアにおいて、前記多重滅菌包装物の最外部の滅菌袋から中身を取り出して、クリーン度の高いエリアに搬入することを特徴とする。
【0009】
また、上記の方法では、前記所定のクリーン度のエリアにおいて、クリーン度が搬入先のクリーン度の高いエリアのクリーン度と同じになった後に、前記多重滅菌包装物の最外部の滅菌袋から中身を取り出して前記クリーン度の次に高いエリアに搬入してもよい。
【0010】
更に、上記何れかの滅菌物の入庫方法を複数回繰り返してもよい。
【0011】
このように多重滅菌包装物の最外部の滅菌袋を破ってから中身を取り出してクリーン度高いエリアに搬入することにより、滅菌物への菌の付着を極力避けることが可能となる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の多重滅菌包装物を使用し、本発明の滅菌物の入庫方法を実施することにより、自動細胞培養装置内部等のクリーン度の高いエリアに、滅菌済みの消耗品等を高いクリーン度を保ったまま入庫することが可能となる。また、この操作を繰り返し行うことにより、菌で汚染されることなく滅菌物の入庫を行うことが可能となる。しかも、人的要因により菌で汚染させることもない。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の実施形態について、図面を参照しながら説明する。図1は本発明の多重滅菌包装物によって包装される消耗品を図式的に例示したものである。本実施形態において、多重滅菌包装物によって包装される消耗品は、ピペット用チップ1、ディッシュ2、遠心管3及びサンプル管4であり、実際に包装されるのは、ピペット用チップ1及びチップ用スタンド1a(同図(a))、ラベル2bを貼付したディッシュ2及びディッシュ用スタンド2a(同図(b))、ラベル3bを貼付した遠心管3及び遠心管用スタンド3a(同図(c))、ラベル4bを貼付したサンプル管4及びサンプル管用スタンド4a(同図(d))である。図1(a)〜(d)に示した包装対象物は、図2に示すように、それぞれ三重に滅菌袋によって包装される。即ち、最も内側の滅菌袋5a、2番目の滅菌袋5b及び最外部の滅菌袋5cにより、三重に包装される。このように三重包装された包装物は、電子線照射、ガンマ線照射等により滅菌されて、それぞれチップ1の三重滅菌包装物6、ディッシュ2の三重滅菌包装物7、遠心管3の三重滅菌包装物8及びサンプル管4の三重滅菌包装物9が得られる。
【0014】
図3は本発明の滅菌物の入庫方法が実施されて多重滅菌包装物が搬入される自動細胞培養装置20の模式図である。本実施形態における自動細胞培養装置20は、所定のクリーン度に設定されたクリーンルーム(図示せず)内に設置されて使用されるものであり、機器設置部10内に設置された操作ロボット11と、細胞の培養などを行う上下に配されたインキュベータ部12,12とを備えている。また、自動細胞培養装置20内には、細胞の遠心分離、ピペット装置等の細胞培養に必要な機器を備えた操作部13を備えている。更に、本実施形態では、滅菌済みのピペット用チップ、ディッシュ、遠心管、サンプル管等の入庫を行う入庫部14を備えており、この入庫部14は、グローブボックス15と、連通部16とにより構成されている。
【0015】
図4は入庫部14の詳細を示す斜視図である。入庫部14のグローブボックス15は、ボックス本体19と扉17とを備え、ボックス本体19の前面には、2つの操作穴18a,18bを備えている。操作穴18a,18bには、それぞれグローブボックス15内で無菌的に人手で作業するためのグローブがボックス本体19の内側に向けて取り付けられている(図示せず)。また、ボックス本体19内には、搬入品を搬送する台車23と、台車23が走行するためのレール24とが設けられている。更に、ボックス本体19の上下には、ボックス本体19内にクリーンなエアーを供給するためのフィルター21及び22が取り付けられている。
【0016】
入庫部14の連通部16は、グローブボックス15内の搬入品を機器設置部10に取り入れるために設けられており、その内部にはボックス本体19から延伸するレール24を備え、連通部16と機器設置部10との間には、扉16aが設けられている。搬入物を載せた台車23がレール24上を走行し、連通部16内で搬送物は操作ロボット11(図1)によって把持され、自動細胞培養装置20内に取り入れられる。
【0017】
図5は、外部からクリーンルーム及び入庫部14を介して自動細胞培養装置20内に三重滅菌包装物内の滅菌物を入庫する本発明の滅菌物の入庫方法の一実施形態を示しており、図6はそのフローチャートを示している。本実施形態では、外部(図示せず)のクリーン度は100,000より大きく、クリーンルーム(図示せず)のクリーン度は100,000以下であり、グローブボックス15内のクリーン度は100,000から100以下にまでクリーンなエアーを供給することにより、下げることができるように構成されている。自動細胞培養装置20内のクリーン度は100である。なお、図5及び図6では、三重滅菌包装物6に包装されているピペット用チップ1を自動細胞培養装置20内に入庫する場合について説明するが、ディッシュ2の三重滅菌包装物7、遠心管3の三重滅菌包装物8及びサンプル管4の三重滅菌包装物9を自動細胞培養装置20内に入庫する場合も同様である。
【0018】
本実施形態では、クリーンルームとその外部との間に、緩衝域としてパスボックス25(図5(a))が設けられている。三重滅菌包装物6のクリーンルーム内への搬入に際しては、まず、パスボックス25の蓋を開け、続いて三重滅菌包装物6の最外部の滅菌袋5cを破り、その中身の二重滅菌包装物6’を取り出す。この二重滅菌包装物6’を即座にパスボックス25内に入れ、蓋を閉める(図6のS1)。ここで、パスボックス25の蓋を開けてから閉めるまでの一連の動作は、二重滅菌包装物6’の最外部の滅菌袋5bへの菌の付着及びクリーンルームへの雑菌の侵入を防止するために、手早く行う必要がある。
【0019】
次に、二重滅菌包装物6’を搬入すべきクリーン度の高いクリーンルーム側からパスボックス25の扉を開け、パスボックス25内のクリーン度が100,000以下になれば、図5(b)に示すように、クリーンルーム内に二重滅菌包装物6’を搬入する(S3)。なお、クリーンルーム内への二重滅菌包装物6’の搬入に先だち、紫外線照射を行う場合もある(S2)。
【0020】
次に、図5(c)に示すように、グローブボックス15の扉17(図4)を開け、続いて二重滅菌包装物6’の最外部の滅菌袋5bを破り、その中身の一重滅菌包装物6”を取り出してグローブボックス15内に即座に収容するとともに、扉17を即座に閉める(S4)。この時点では、グローブボックス15内のクリーン度はクリーンルーム内のクリーン度とほぼ同じレベルである。ここで、扉17を開けてから閉めるまでの一連の動作は、グローブボックス15内及び一重滅菌包装物6”の滅菌袋5aへの菌の付着をできる限り抑制するため、手早く行う必要がある。次に、グローブボックス15内にクリーンなエアーを供給し、グローブボックス15内のクリーン度が100以下になるまで待機する(S5)。
【0021】
次に、グローブボックス15内のクリーン度が100以下になれば、図5(d)に示すように、グローブボックス15の操作穴18a,18b(図4)に取り付けたグローブを用いて一重滅菌包装物6”の包装を破り、内部のピペット用チップ1及びチップ用スタンド1aを台車23に載せる(S6)。ピペット用チップ1及びチップ用スタンド1aを載せた台車23は連通部16に搬送される。操作ロボット11は台車23上のチップ用スタンド1aを把持し、自動細胞培養装置20内に取り込むことにより(S7)、ピペット用チップ1の入庫が完了する。
【0022】
本実施形態の三重滅菌包装物を使用すれば、滅菌済みのピペット用チップ、ディッシュ、遠心管、サンプル管等の消耗品を、その付随物であるスタンドやラベルなどを含めてクリーン度の高い自動細胞培養装置20内に搬入することができる。また、本実施形態の滅菌物の入庫方法によれば、上記三重滅菌包装物を使用して、クリーン度の低い外部から順次クリーン度の高いエリアに高いクリーン度を維持したまま滅菌物を搬入することが可能となる。
【0023】
なお、上記では滅菌物を滅菌袋を用いて三重に包装した三重滅菌包装物について説明したが、本発明はこれに限定されるものではなく、要求されるクリーン度に応じて何重に包装するかを決定することができる。
【産業上の利用可能性】
【0024】
本発明の多重滅菌包装物及び滅菌物の入庫方法を使用すれば、クリーン度を殆ど低下させることなく滅菌物の入庫を行うことが可能なので、細胞培養装置、無菌培養装置等の分野で利用可能である。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の多重滅菌包装物によって包装される消耗品を表す模式図である。
【図2】図1の消耗品を多重包装した多重滅菌包装物を表す模式図である。
【図3】本発明の多重滅菌包装物が搬入され、本発明の滅菌物の入庫方法が実施される自動細胞培養装置の模式図である。
【図4】図3の入庫部の詳細を示す斜視図である。
【図5】外部からクリーンルーム及び入庫部を介して自動細胞培養装置内に三重滅菌包装物内の滅菌物を入庫する本発明の滅菌物の入庫方法の一実施形態を示す模式図である。
【図6】図5の入庫方法を示すフローチャートである。
【符号の説明】
【0026】
1 ピペット用チップ
2 ディッシュ
3 遠心管
4 サンプル管
1a チップ用スタンド
2a ディッシュ用スタンド
3a 遠心管用スタンド
4a サンプル管用スタンド
2b,3b,4b ラベル
5a,5b,5c 滅菌袋
6,7,8,9 三重滅菌包装物
20 自動細胞培養装置
10 機器設置部
11 操作ロボット
12 インキュベータ部
13 操作部
14 入庫部
15 グローブボックス
16 連通部
17 扉
18a,18b 操作穴
19 ボックス本体
23 台車
24 レール
25 パスボックス
6’ 二重滅菌包装物
6” 一重滅菌包装物

【特許請求の範囲】
【請求項1】
滅菌物を滅菌袋を用いて多重包装した多重滅菌包装物であって、最外部の滅菌袋の外側を除き、各滅菌袋の内側及び外側が滅菌状態であることを特徴とする多重滅菌包装物。
【請求項2】
前記滅菌物が、滅菌済みのピペット用チップ、ディッシュ、遠心管及びサンプル管の何れかである請求項1記載の多重滅菌包装物。
【請求項3】
クリーン度の低いエリアからクリーン度の高いエリアに滅菌物を移動させて入庫を行う請求項1又は2に記載の多重滅菌包装物を用いた滅菌物の入庫方法であって、前記多重滅菌包装物を収容している所定のクリーン度のエリアにおいて、前記多重滅菌包装物の最外部の滅菌袋から中身を取り出して、クリーン度の次に高いエリアに搬入することを特徴とする滅菌物の入庫方法。
【請求項4】
前記所定のクリーン度のエリアにおいて、クリーン度がクリーン度の次に高いエリアのクリーン度と同じになった後に、前記多重滅菌包装物の最外部の滅菌袋から中身を取り出して前記クリーン度の次に高いエリアに搬入することを特徴とする請求項3に記載の滅菌物の入庫方法。
【請求項5】
請求項3又は4に記載の滅菌物の入庫方法を複数回繰り返すことを特徴とする滅菌物の入庫方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2008−239168(P2008−239168A)
【公開日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−78776(P2007−78776)
【出願日】平成19年3月26日(2007.3.26)
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成16年度独立行政法人科学技術振興機構「多患者細胞自動培養装置」委託研究、産業活力再生特別措置法第30条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000000974)川崎重工業株式会社 (1,710)
【Fターム(参考)】