説明

大型構造物の吊上げ装置及び吊上げ方法

【目的】 剛性が低く変形し易い大型構造物を、変形させることなく、傾斜させて吊り上げることができる大型構造物の吊上げ装置及び吊上げ方法を提供する。
【構成】 大型構造物の吊上げ装置1が、大型構造物を支持するに足りる剛性を有する材料で形成された天秤5と、天秤5から吊下され吊り荷4に接続される複数の吊り荷ワイヤ6と、天秤5の一端部と中央部とに掛け渡たされた吊上げワイヤ8と、吊上げワイヤ8の中間部を支承する滑車11と、滑車11を吊り上げる第1のフック2と天秤5の他端部間に緩く連結される控えワイヤ12と、上記重機から第1のフックとは別に繰り出され、他端部を吊り下げて天秤5を傾動するための第2のフック3とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、大型構造物の据付作業を行うに際して使用する吊上げ装置及び吊上げ方法に係り、特に剛性が低く、変形し易い大型構造物の吊上げに適した吊上げ装置及び吊上げ方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】図3は、従来の大型構造物の吊上げ装置の一例を示す概略図である。図示するように、吊上げ装置21は、吊り荷22となる大型構造物の全長と略等しい長さの鋼材によって形成された天秤23と、この天秤23の両端上部に取り付けられた吊上げワイヤ24と、上記天秤23の両端下部に取り付けられた一対の吊り荷ワイヤ25と、各吊り荷ワイヤ25の下端部に取り付けたシャックル等の取付け金具(図示せず)とから成っている。
【0003】従来、上記吊上げ装置21を使用した大型構造物の据付作業は、次のような吊上げ方法により行われていた。まず、吊り荷ワイヤ25の下端部の取付け金具を吊り荷22に固定した門形状の取付け治具26に係合すると共に、吊上げワイヤ24をクレーン等の重機から吊下されるフック27に引っ掛ける。
【0004】次に、重機の巻取ワイヤ28を巻き上げて吊上げ装置21を介して吊り荷22を吊り上げ、ブームを旋回又は伸縮させて吊り荷22を据付位置に上方に移動させる。そして、巻取ワイヤ28を巻き戻して吊り荷22を据付位置に着座させ、仮置き又は仮付け等していた。
【0005】
【発明が解決しようとする課題】ところで、従来の大型構造物の吊上げ装置及び吊上げ方法は、剛性が高く、変形し難い吊り荷22の据付作業には適するが、剛性が低く、変形し易い吊り荷22の据付作業には適さないという問題があった。
【0006】即ち、タンクの屋根板のように板厚が5mm〜8mm程度の薄板を吊り上げる場合には、屋根板が撓んで変形し易く、予め付与した曲率が損なわれる。
【0007】特に、図4に示すように、地下タンク29の底部29a上で架台30やルーフラフタを組み立て、これに沿って吊り荷22である屋根板を仮付けする場合には、架台30の曲率に合せて屋根板24を傾斜させる必要があるが、上記吊上げ装置21及び吊上げ方法では屋根板24を傾斜させて吊り上げることは実質的にできなかった。
【0008】かかる場合に、吊り荷ワイヤ25の長さや吊り点を変化させれば屋根板24を傾斜させることができるが、傾斜角度が可変ではないため、現場における据付作業には適さない。
【0009】本発明の目的は、上記課題に鑑み、剛性が低く、変形し易い大型構造物の据付作業に際して、大型構造物を変形させることなく、傾斜させて吊り上げることができる大型構造物の吊上げ装置及び吊上げ方法を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成すべく、本発明に係る大型構造物の吊上げ装置は、重機から繰り出されるフックと、大型構造物である吊り荷との間に介設して吊り荷を吊り上げ、これを据付位置に着座させる大型構造物の吊上げ装置において、上記大型構造物を支持するに足りる剛性を有する材料で形成された天秤と、この天秤から吊下され吊り荷に接続される複数の同一長さの吊り荷ワイヤと、上記天秤の一端部と中央部とに掛け渡たされた吊上げワイヤと、この吊上げワイヤの中間部を支承する滑車と、この滑車を吊り上げる第1のフックと上記天秤の他端部間に緩く連結され控えワイヤと、上記重機から第1のフックとは別に繰り出され、上記他端部を吊り下げて天秤を傾動するための第2のフックとを備えているものである。
【0011】上記吊上げ装置の構成において、上記吊り荷ワイヤが、大型構造物の撓みを防止するに足りる本数だけ天秤に吊下されているものである。
【0012】また、本発明に係る大型構造物の吊上げ方法は、重機から繰り出されるフックに吊上げ装置を吊下し、この吊上げ装置を介して大型構造物である吊り荷を吊り上げ、これを据付位置に着座させる大型構造物の吊上げ方法において、上記吊上げ装置を構成する天秤の一端部と中央部とに掛け渡たされた吊上げワイヤの中間部を支承する滑車を第1のフックで吊り上げると共に、この第1のフックと上記天秤の他端部とを延出され控えワイヤで緩く連結し、その他端部を第2のフックで吊り上げて天秤を傾斜させるものである。
【0013】上記吊上げ方法の構成において、上記大型構造物を、その撓みを防止するに足りる本数で且つそれぞれ同一長さの吊り荷ワイヤで天秤から吊下するものである。
【0014】
【作用】上記吊上げ装置の構成によれば、大型構造物である吊り荷は、天秤から複数の吊り荷ワイヤによって吊下されている。この天秤の一端部と中央部とに掛け渡たされた吊上げワイヤの中央部を支承する滑車は、クレーン等の重機から繰り出される第1のフックによって吊り上げられる。一方、この第1のフックから上記天秤の他端部を介して延出される控えワイヤは、ゆるく接続される。また第2のフックは天秤の他端部を吊りワイヤを介し吊り上げられる。このように第1のフック及び第2のフックで吊上げワイヤ、吊りワイヤと控えワイヤとを吊り上げることにより、天秤に支持された吊り荷が合吊りされる。
【0015】この状態で、第1のフックを上昇させると、第1のフックの上昇移動が控えワイヤによって規制されるので、上記天秤の他端部を支点として天秤が傾斜し、この天秤に吊下した吊り荷も傾斜することになる。
【0016】また、上記天秤に、大型構造物の撓みを防止するに足りる同一長さで複数の吊り荷ワイヤを吊下すれば、剛性が低く変形し易い大型構造物を、変形させることなく、所望の傾斜角度に合せて傾斜させて吊り上げることができるものである。
【0017】一方、上記吊上げ方法の構成によれば、まず、クレーン等の重機から繰り出される第1のフックによって、吊上げ装置を構成する天秤の一端部と中央部とに掛け渡たされた吊上げワイヤの中央部を支承する滑車を吊り上げる。これと共に、天秤の他端部を介して延出された控えワイヤを吊り上げる。また、天秤の他端部を吊りワイヤを介し第2のフックで吊り上げる。また、天秤の他端部を吊りワイヤを介し第2のフックで吊り上げる。このようにして第1のフック及び第2のフックにより吊上げワイヤと控えワイヤとを吊り上げ、天秤に支持された吊り荷を合吊りする。次に、第1のフックを上昇させると、第1のフックの上昇移動が控えワイヤによって規制され、上記天秤の他端部を支点として天秤が傾斜することになり、これに吊下した吊り荷も傾斜するものである。次に、重機のブームを旋回又は伸縮して、第1のフック及び第2のフックを移動し、吊り荷を据付位置の上方に位置させる。
【0018】また、上記大型構造物を吊り上げる際に、大型構造物を、その撓みを防止するに足りる同一長さの本数の吊り荷ワイヤで天秤から吊下すれば、剛性が低く変形し易い大型構造物を、変形させることなく、所望の傾斜角度に合せて傾斜させて吊り上げることができるものである。
【0019】
【実施例】以下、本発明に係る大型構造物の吊上げ装置及び吊上げ方法の好適実施例を添付図面に基づいて詳述する。
【0020】図1は、本発明に係る大型構造物の吊上げ装置の一実施例を示す概略図である。図示するように、本実施例の吊上げ装置1は、クレーン等の重機から繰り出される巻取ワイヤ15に取り付けられたフック2及び巻取ワイヤ17に取り付けられたフック3と、大型構造物4との間に介設して大型構造物4を吊り上げるものである。
【0021】この吊上げ装置1の本体である天秤5は、大型構造物4を支持するに足りる剛性を有する材料、例えばH鋼材やチャンネル鋼材等によって形成されている。この天秤5は、大型構造物4の全長と略等しい長さを有しており、本実施例にあっては大型構造物4としてタンクの屋根板を採用するので、屋根板の曲率に合せてその下面が湾曲凹状に形成されている。
【0022】また、この天秤5の下面には、複数の吊り荷ワイヤ6が吊下されている。本実施例にあっては、天秤5の下面の両端部及び中央部にそれぞれ1対、合計6本の吊り荷ワイヤ6が吊下されており、これら吊り荷ワイヤ6には同一長さのものが使用される。各吊り荷ワイヤ6の下端部にはシャックル等の取付け金具(図示せず)が取り付けられており、この取付け金具は屋根板としての大型構造物4に仮付けされた門形状の取付け治具7に係合される。
【0023】尚、本実施例にあっては、上記天秤5に6本の吊り荷ワイヤ6を吊下したが、この本数に限るものではなく、タンクの屋根板等の大型構造物4の撓みを防止するに足りる本数及び吊り点を電子計算機により適宜算出して設定される。また、本実施例にあっては、各吊り荷ワイヤ6の下端部に取り付けた取付け金具を大型構造物4に仮付けした取付け治具7に係合させるように構成したが、これに限るものではなく、上記取付け治具7に各吊り荷ワイヤ6を直接係合させても良い。
【0024】上記天秤5の上面の一端部と中央部とには、これらの間隔よりも十分に長い吊上げワイヤ8が掛け渡たされている。即ち、この吊上げワイヤ8の一端部は天秤5の上面一端部の取付け金具9に取り付けられ、その他端部は天秤5の上面中央部の取付け金具10に取り付けられている。そして、この吊上げワイヤ8の中央部乃至中間部は滑車11によって支承されるようになっており、この滑車11はクレーン等の重機から繰り出される第1のフック2によって吊り上げられる。本実施例には2台の重機が使用され、この第1のフック2は一方の重機から繰り出される。
【0025】また、上記天秤5の他端側には、上記第1のフック2から天秤5の上面他端部に設けた金具13間に図示の実線で示すよう天秤5の最大傾斜を規制する控えワイヤ12が連結される。この金具13は吊りワイヤ18を介して他の重機の第2のフック3によって吊り上げられる。控えワイヤ12の基端部は第1のフック2に引っ掛けられており、その他端が天秤5の上面他端部の取付け金具13に緩んだ状態で連結されることで、天秤5が滑車11を中心に傾動できると共にその最大傾斜を控えワイヤ12が規制するようになっている。
【0026】尚、本実施例にあっては、2台の重機を使用し、第1のフック2と第2のフック3とを別個の重機から繰り出すように構成したが、これに限るものではなく、1台の重機から親フックと子フックとを繰り出して、第1のフック2及び第2のフック3として使用しても良い。
【0027】次に、上記実施例の吊上げ装置1における作用を、本発明に係る大型構造物の吊上げ方法とともに説明する。本実施例の吊上げ方法は、上述した吊上げ装置1を使用して行うものであり、まず、一方の重機から繰り出される第1のフック2によって、上記天秤5の一端部と中央部とに掛け渡した吊上げワイヤ8の中央部乃至中間部を支承する滑車11を吊り上げる。
【0028】この状態で大型構造物4を傾けるには他方の重機から繰り出される第2のフック3によって吊りワイヤ18を引き下げるか、第1のフック2を持ち上げて控えワイヤ12がピンと張るようにすることで任意の角度に傾斜できる。
【0029】次に、重機のブームを旋回又は伸縮して、第1のフック2を移動し、傾斜させた大型構造物4を据付位置の上方に位置させる。例えば、地下タンクの屋根板の組立作業を行う場合には、図2に示すように、地下タンク14の底部14aで大型構造物4を仮組することが多いので、第1のフック2によって、大型構造物4を地下タンク14の底部14a直上に位置させる。
【0030】第2のフック3を上下させると上記天秤5が滑車11を支点として回動し傾斜することになる。各吊り荷ワイヤ6は常に重力方向へ垂下されるので、天秤5、大型構造物4及び吊り荷ワイヤ6は全体として平行四辺形状を呈し、天秤5に吊下した大型構造物4もその傾斜角度に沿って傾斜することになる。
【0031】また、本実施例にあっては、大型構造物の撓みを防止するに足りる本数の吊り荷ワイヤ6で大型構造物4を吊下しており、かつ各吊り荷ワイヤ6の長さが均一化されているので、大型構造物4のように剛性が低く変形し易い大型構造物を、変形させることなく、所望の傾斜角度に合せて傾斜させて吊り上げることができる。
【0032】即ち、地下タンク14の底部14aに仮組した架台16やルーフラフタの傾斜角度に合せて大型構造物4を傾斜させることができ、大型構造物4を変形させることなく、その組立作業を効率良く行うことができるものである。
【0033】さらに、本実施例の吊上げ装置1及び吊上げ方法によれば、剛性が低く変形し易い大型構造物を、変形させることなく、水平移動することができ、かつ所望の傾斜角度に合せて傾斜させて吊り上げることができるので、傾斜させた架台16上に仮置する必要がない。
【0034】
【発明の効果】以上述べたように、本発明に係る大型構造物の吊上げ装置及び吊上げ方法によれば、剛性が低く、変形し易い大型構造物の据付作業に際して、大型構造物を変形させることなく、傾斜させて吊り上げることができるという優れた効果を発揮する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明に係る大型構造物の吊上げ装置の一実施例を示す概略図である。
【図2】本実施例の大型構造物の吊上げ装置及び吊上げ方法を使用した地下タンクの屋根板の組立作業を示す概略図である。
【図3】従来の大型構造物の吊上げ装置の一例を示す概略図である。
【図4】従来の大型構造物の吊上げ装置及び吊上げ方法を使用した地下タンクの屋根板の組立作業を示す概略図である。
【符号の説明】
1 吊上げ装置
2 第1のフック
3 第2のフック
4 吊り荷
5 天秤
6 吊り荷ワイヤ
7 取付け治具
8 吊上げワイヤ
9 取付け金具
10 取付け金具
11 滑車
12 控えワイヤ
13 取付け金具
14 地下タンク
14a 底部
15 巻取ワイヤ
16 架台
17 巻取ワイヤ
18 吊りワイヤ

【特許請求の範囲】
【請求項1】 重機から繰り出されるフックと、大型構造物である吊り荷との間に介設して吊り荷を吊り上げ、これを据付位置に着座させる大型構造物の吊上げ装置において、上記大型構造物を支持するに足りる剛性を有する材料で形成された天秤と、該天秤から吊下され吊り荷に接続される複数の吊り荷ワイヤと、上記天秤の一端部と中央部とに掛け渡たされた吊上げワイヤと、該吊上げワイヤの中間部を支承する滑車と、該滑車を吊り上げる第1のフックと上記天秤の他端部間に緩く連結される控えワイヤと、上記重機から第1のフックとは別に繰り出され、上記他端部を吊り下げて天秤を傾動するための第2のフックとを備えていることを特徴とする大型構造物の吊上げ装置。
【請求項2】 上記天秤の下面が構造物と同一形状に形成され上記吊り荷ワイヤが、大型構造物の撓みを防止するに足りる本数で、且つそれぞれ同一の長さで天秤に吊下されている請求項1に記載の大型構造物の吊上げ装置。
【請求項3】 重機から繰り出されるフックに吊上げ装置を吊下し、この吊上げ装置を介して大型構造物である吊り荷を吊り上げ、これを据付位置に着座させる大型構造物の吊上げ方法において、上記吊上げ装置を構成する天秤の一端部と中央部とに掛け渡たされた吊上げワイヤの中間部を支承する滑車を第1のフックで吊り上げると共に、該第1のフックと上記天秤の他端部とを延出され控えワイヤで緩く連結し、その他端部を第2のフックで吊り上げて、天秤を傾動させることを特徴とする大型構造物の吊上げ方法。
【請求項4】 上記大型構造物を、その撓みを防止するに足りる本数の吊り荷ワイヤで天秤から吊下する請求項3に記載の大型構造物の吊上げ方法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【図4】
image rotate