天体走行車両に装着される車輪用の接地体及びそれを用いた天体走行車両用車輪
【課題】車輪の接地体の改良により、十分なトラクション性能を確保しつつ、車輪の空転や砂中への沈み込みを防止する。
【解決手段】
天体表面上を走行する車両に装着される車輪1用の接地体5であって、天体表面と接触する部分に配置された多孔質部材7と、該多孔質部材7を支持する支持部材9とを具えることを特徴とする。
【解決手段】
天体表面上を走行する車両に装着される車輪1用の接地体5であって、天体表面と接触する部分に配置された多孔質部材7と、該多孔質部材7を支持する支持部材9とを具えることを特徴とする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、惑星及び衛星等の天体の表面上を走行する天体走行車両に装着される車輪用の接地体に関し、特に、かかる車輪のトラクション性能を向上させる接地体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、惑星及び衛星といった地球とは異なる周囲環境下で走行する車両に装着される車輪としては、特許文献1に記載されたものが知られている。この文献に記載の車輪には、車輪本体の外輪に周方向に所定の間隔をもって配設され、弾性機構によって外径方向に弾性力が付与された粉塵規制部材が設けられている。そして、かかる部材により、惑星表面に対するトラクション性能の向上をも図っている。また、旧ソ連によって打ち上げられた月面車(ルノホート)の車輪には、トラクション性能を確保する観点から、図14に示すように、その外周部105(接地体)にスパイク状の突起部105aが所定の間隔に設けられている。
【特許文献1】特開平08−002204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、例えは月面のように、粒径が非常に小さく、流動性の高い砂地等でその表面が覆われている天体にて使用される場合には、このような粉塵規制部材やスパイク状の突起部が逆に走行の妨げになる場合がある。例えば、ルノホートにおいては、月面のクレータ付近で車輪が空転したり砂中に沈み込んだりし、走行に多大な困難を伴ったとの報告がなされている。これはつまり、車輪回転時にスパイク状の突起部がシャベルのように作用し、車輪自らをアリ地獄のごとく砂中に潜り込ませてしまうからである。また、このような問題は、車輪の接地体に局所的な負荷の加わる砂斜面にて使用する場合にさらに顕著となり、無人で走行することを前提とした天体走行車両にとっては走行不能状態から脱出する手段を備えていない限り致命的な問題となる。
【0004】
それゆえこの発明は、車輪の接地体の改良により、十分なトラクション性能を確保しつつ、車輪の空転や砂中への沈み込みを防止することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の目的を達成するため、この発明は、天体表面上を走行する車両に装着される車輪用の接地体であって、前記天体表面と接触する部分に配置された多孔質部材と、該多孔質部材を支持する支持部材とを具えることを特徴とする接地体である。なお、ここでいう「天体」とは、衛星、惑星、小惑星及び彗星を含むものとする。また、「多孔質部材」とは、内部に無数の微小な空孔をもつ部材を指すものとする。
【0006】
かかる接地体を天体走行車両に装着する車輪に適用した場合、多孔質部材を含む接地体を砂等で覆われた接地面の表面形状に対応するよう変形させ、接地圧を均一化及び低減することができるので、砂を崩したり掘ったりすることなくトラクション性能を確保することができる。
【0007】
従って、この発明の接地体によれば、十分なトラクション性能を確保しつつ、車輪の空転や砂中への沈み込みを防止することができる。また、この発明の接地体によれば、構造が簡単であるとともに軽量である。
【0008】
このようにこの発明の接地体は、粒径が非常に小さく、流動性の高い砂地表面を有する天体にて使用される場合に特に効果的に用いることができることから、例えば月面にて使用される月面走行車両用車輪に好適に適用できる。
【0009】
また、支持部材は板状をなし、接地体は、該板状の支持部材上に多孔質部材を積層してなることが好ましい。
【0010】
さらに、板状の支持部材は、多孔質部材が積層される面に形成されて接地時の負荷によって該多孔質部材から突き出る突起を有することが好ましい。
【0011】
さらに、多孔質部材は、繊維を三次元的に交絡して形成されるものであり、該繊維は、その表面に突起物を有することが好ましい。
【0012】
さらに、多孔質部材の体積空隙率は、0.1%〜50%であることが好ましい。
【0013】
しかも、多孔質部材の厚みは、0.1mm〜10mmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
この発明の天体走行車両に装着される車輪用の接地体によれば、十分なトラクション性能を確保しつつ、車輪の空転や砂中への沈み込みを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の接地体の実施例を天体走行車両用車輪の実施形態として図面を参照しつつ詳細に説明する。ここで、図1は、この発明の接地体を適用した天体走行車両用車輪(以下、単に「車輪」という。)の概略側面図である。図2は、図1の車輪に適用した接地体の幅方向断面図である。図3は、図1に示す車輪の一部の斜視図である。図5は、図1に示す車輪を接地させた状態で示す側面図である。
【0016】
図1に示すように、車輪1は、車両の車軸(図示省略)に接続されるハブ体3と、このハブ体3に対して車輪半径方向外方に位置し該車輪の周面を形成する接地体5とを具える。接地体5は、車両走行時に天体の表面に接触(接地)するものである。
【0017】
接地体5は、図2に示すように、天体表面と接触する部分に配置された所定厚みの多孔質部材7と、該多孔質部材7を支持する支持部材9とから構成される。支持部材9は、薄い板状をなし、後述する連結体に固定されて車輪周方向に連続して延びる。多孔質部材7は、支持部材9の外周面上に積層し接着剤にて接着できる他、リベットやクリップ等により固着できるが、何れにせよ車輪転動時の接地体の屈曲(弾性変形)を妨げないよう留意する。多孔質部材7としては、繊維を機械的又は化学的に処理し三次元的に絡ませたフェルト状の部材や海綿状の多孔構造を有するスポンジ状の部材、さらには短繊維やフィラメントを機械的、熱的、又は化学的に絡ませて形成した不織布状の部材等も適用できる。これら部材を構成する素材としては、耐熱性及び耐久性を考慮すると金属やセラミック、ガラス、樹脂等を好適に利用できるがこれらに限定されず、使用環境に応じて種々のものを選択できる。
【0018】
図3に示すように、ハブ体3と接地体5との間には、車両の重量に基づいて接地体5を車輪半径方向内方に弾性変形させつつ(すなわち、ハブ体3と接地体5とを近接方向に弾性的に相対変位させつつ)該重量を支持する複数の連結体11が配置されている。
【0019】
この例の連結体11は、ハブ体3のフランジ部3aから車輪半径方向外方に延び、接地体5に到達する前に終端する、一対の第1連結体11a、11aと、接地体5の内周面から車輪半径方向内方に延び、ハブ体3に到達する前に終端する第2連結体11bと、これら第1連結体11a及び第2連結体11bとを弾性的に連結する複数個のコイルばね11c(弾性体)とを具えてなる。第1連結体11aは、車輪周方向全周に亘って適宜のピッチで多数配置されている。また、第1連結体11aは、曲げ剛性を高める観点からチャンネル状の板材で形成されている。第2連結体11bは、車輪周方向に隣り合う第1連結体11a間に延出している。第2連結体11bは、この実施形態では平板材で形成されている。コイルばね11cは、第1連結体11aの車輪半径方向の外端近傍と、第2連結体11bの車輪半径方向の内端近傍との間に掛け渡されている。この実施形態では、各第2連結体11bに、それに隣接する4つの第1連結体11aから計8個のコイルばね11cが延びるよう設けられているが、コイルばね11cの個数は適宜変更可能である。
【0020】
さらにこの車輪1では、接地体5に車輪周方向の張力を付与して接地体5のバックリングを防止するU字状の板ばね15(張力付与手段)が、接地体5の内面上にその凸側が半径方向内方を向くように全周に亘って適宜のピッチで配設されている。U字状の板ばね15は、車輪周方向に隣接する第2連結体11b間を繋ぐように配設しても良い。なお、上記バックリングとは、図4の車輪側面輪郭図にて示すように、走行時に接地体の踏み込み端E1及び蹴り出し端E2(主として踏み込み端E1)が荷重を支える一方で、踏み込み端E1と蹴り出し端E2との間で接地体Pが部分的に座屈し、接地体Pの一部が接地面Gから浮き上がる現象であり、ひとたびバックリングが発生すると、接地体Pの接地面Gとの接触面積が減少し、車輪の空転等の原因となるものである。
【0021】
さらにこの車輪1では、車輪周方向に隣接する第2連結体11b同士を車輪周方向に互いに離反させるよう付勢するU字状のばね部材16(図3参照)が設けられていり、これにより転動時においても車輪1の形状は確実に保持される。
【0022】
この実施形態の車輪1を車両(図示省略)に装着し接地面Gに接地させると、図5に示すように、車両からの荷重により接地領域内のコイルばね11cが伸長し、第2連結体11bは車輪半径方向内方に変位する(第1連結体11aと第2連結体11bとは車輪半径方向に沿って近接方向に相対変位する。)。この結果、接地領域内にある接地体5は接地面Gの形状に対応して大きく撓み変形し、接地体5の接地長は長くなり接地圧は低減される。そして、接地体5は多孔質部材7を含むことから、接地時には接地面Gの表面形状に対応して大きく変形する。従って、接地体5の接地圧は均一化及び低減され、すなわち局所的な接地圧の増大が抑制されるので、砂を崩したり掘ったりすることなくトラクション性能は確保される。また、この実施形態の接地体5のように、接地体5の踏面に、砂を入り込ませる空孔が露出している場合にはエッジ効果がより高まり、トラクション性能はより向上する。
【0023】
さらに、接地領域内の接地体5は、U字状の板ばね15により張力が付与され伸長状態となるので、負荷転動時においてもかかる接地体5に、図4に示すようなバックリングが生じて接地体5が接地面Gから浮き上がることはなく、接地体5は接地面Gに常時均一に押し付けられる。
【0024】
しかも、この実施形態では、第1連結体11a、第2連結体11b及びコイルばね11cは接地体5の両端部よりも幅方向内側に位置しているので、これらが走行時に外部の障害物(岩石等)に接触するおそれがない。
【0025】
ここで、この発明に従ったより好適な接地体につき説明する。図6は、この発明の好適な接地体の一部を拡大して示す模式図であり、図7は、この発明の他の好適な接地体を示す断面図であり、(a)は接地前の状態を、(b)は接地後の状態をそれぞれ示している。図6に示すように、この接地体5の多孔質部材7は、繊維17を三次元的に交絡して形成されており、該繊維17はその表面に砥粒状の突起物19を有するものである。これによれば、砂地路面を走行するときには、多孔質部材7を含む接地体5を砂地路面の表面形状に対応するよう変形させ接地圧を均一化及び低減することができ、一方で砂地以外の路面、例えば岩塊上を走行するときには突起物19をスパイクとして機能させ、安定した走行を達成することができる。またこの例では、多孔質部材7の空孔内に砂を入り込ませることができるので、トラクション性能をさらに向上させることができる。
【0026】
また、図7(a)に示すように、板状の支持部材9の、多孔質部材7が積層される面に鋭利な突起20を設け、地面Gへの接地時の負荷によって該突起20が多孔質部材から突き出るようにして(図7(b)参照)突起20をスパイクとして機能させることもできる。具体的には、接地時に突起20自らを伸張させて多孔質部材7から突き出るようにしても良く、あるいは同一圧力を付与したときの圧縮変形率を突起20より多孔質部材7を大きくすることで、図7に示すように、接地時に多孔質部材7が押し潰されることにより突起20が突出する構成としても良い。
【0027】
ところで、多孔質部材7の体積空隙率は、0.1%〜50%とすることが好ましい。多孔質部材7の体積空隙率が0.1%未満の場合は、接地体5を接地面Gの表面形状に十分に対応させることができないおそれがあり、50%を超えるとトラクション性能が十分でなくなるおそれがあるからである。また接地体5の踏面に露出した空孔に砂を取り込ませることによるトラクション性能のさらなる向上を図る観点からは、空孔の平均孔径は、走行する天体表面を覆う平均砂径の100%〜500%であることが好ましい。
【0028】
また、多孔質部材7の厚みは、0.1mm〜10mmとすることが好ましい。多孔質部材7の厚みが0.1mm未満の場合は、接地体5を接地面Gの表面形状に十分に対応させることができなくなるおそれがあり、10mmを超えると走行時に多孔質部材7が千切れたり破損したりするおそれがあるからである。
【0029】
加えて、本発明の接地体を適用した車輪においては、その平均接地圧が1kPa〜2kPaとすることが好適である。平均接地圧が1kPa未満の場合は、トラクション性能が十分でなくなるおそれがあるからであり、2kPaを超えると空孔が潰れ接地体を接地面の表面形状に十分に対応させることができなくなるおそれがあるからである。
【0030】
次いで、この発明の接地体を適用した種々の車輪につき図を参照しつつ説明する。ここで、図8は、この発明の接地体を適用した他の車輪の概略斜視図である。図9は、図8に示す車輪の連結体の、車輪半径方向に沿う部分断面図であり、(a)は、接地前の状態を、(b)は、接地後の状態を示すものである。
【0031】
図8に示すように、車輪21は、車両の車軸(図示省略)に接続されるハブ体23と、このハブ体23に対して車輪半径方向外方に位置し該車輪の周面を形成する接地体25とを具える。接地体25は、先の実施形態と同様、車輪周方向に連続した薄板状の支持部材29に、所定厚みの多孔質部材27を貼付してなるものである。
【0032】
ハブ体23は、環状をなし、その中心に車両の車軸を通すための軸孔23aが設けれ、さらにその軸孔23aの周りには、車輪固定用のボルト(図示省略)を通すボルト孔23bが設けられている。
【0033】
ハブ体23の幅方向両端部近傍には、車輪半径方向外方に延び、接地体25に到達する前に終端する、車輪周方向に複数配列された第1連結体31aが立設されている。第1連結体31aは、棒体で構成され、車輪周方向に適宜のピッチで配置されている。第1連結体31aとハブ体23とは、溶接、嵌合、係合及び螺合等種々の固定方法により相互に固定可能である。
【0034】
一方で、接地体25の内周面には、そこから車輪半径方向内方であって第1連結体31aに向けて延び、ハブ体23に到達する前に終端する、車輪周方向に複数配列された第2連結体31bが設けられている。第2連結体31bは、この実施形態では有底の円筒で形成されている。第2連結体31bは、第1連結体31a同様に種々の固定方法により接地体25に固定可能である。
【0035】
また、図9に示すように、第1連結体31aは、第2連結体31bの筒内に挿入されるとともに、第1連結体31aの先端と第2連結体11bの内底部との間には、コイルばね31c(弾性体)が挿設されている。
【0036】
さらに、この車輪21は、接地体25に車輪周方向の張力を付与するU字状の板ばね35(張力付与手段)が、接地体25の内周面上に車輪全周に亘って多数設けられている(図8参照)。U字状の板ばね35は、接地体25の内周面上にその凸側が半径方向内方を向き、接地体25に図8の矢印方向の付勢力を与えるよう配置されている。張力付与手段としては、U字状の板ばね35の他に、コイルばねや平坦な薄板、また可撓性を有する範囲でI型部材等を用いることができる。
【0037】
この実施形態の車輪21を車両に装着し接地面Gに接地させると、図9(b)に示すように、車両からの荷重(図中の矢印参照)により接地領域内のコイルばね31cが収縮し、第1連結体31aと第2連結体31bとは車輪半径方向に沿って近接方向に相対変位する。この結果、接地領域内にある接地体25は接地面Gの形状に対応して大きく撓み変形(弾性変形)する。そして、接地体25は多孔質部材27を含むことから、接地時には接地面Gの表面形状に対応して大きく変形する。従って、接地体25の接地圧は均一化及び低減され、すなわち局所的な接地圧の増大が抑制されるので、砂を崩したり掘ったりすることなくトラクション性能は確保される。また、この実施形態の接地体25のように、接地体25の踏面に、砂を入り込ませる空孔が露出している場合には、トラクション性能はより向上する。
【0038】
さらに、接地領域内の接地体25は、U字状の板ばね35により張力が付与され伸長状態となるので、負荷転動時においてもかかる接地体25に、図4に示すようなバックリングが生じて接地体25が接地面Gから浮き上がることはなく、接地体25は接地面Gに常時均一に押し付けられる。
【0039】
しかも、この実施形態では、第1連結体31a、第2連結体31b及びコイルばね31cは接地体25の両端部よりも幅方向内側に位置しているので、これらが走行時に外部の障害物(岩石等)に接触するおそれがない。
【0040】
図10は、この発明の接地体を適用したさらに他の車輪の概略斜視図である。この図に示すように、車輪41は、円盤形状のハブ体43と、このハブ体43の車輪半径方向外方に配置された接地体45とを有する。接地体45は、先の実施形態と同様、車輪周方向に連続した薄板状の支持部材49に、所定厚みの多孔質部材47を貼付してなるものである。ハブ体43と接地体45との間には、車両の重量に基づいてこれらハブ体43と接地体45とでなす距離を縮めつつ車輪幅方向外方に弾性的に突出変形する連結体としての薄い板ばね部材51が設けられている(図10では、板ばね部材51は、一部を実線で、残りを仮想線で省略して示しているが、板ばね部材51は、図12に示すように車輪全周にわたって配置されている。)。
【0041】
板ばね部材51は、ハブ体43の幅方向の一端部から車輪半径方向外方に延びた後に接地体45の内周面に沿って延び、さらにハブ体43の幅方向の他端部に向けて車輪半径方向内方に延びてそこに固定されている。板ばね部材51は、車輪全周に適宜のピッチで配置することができるが、走行時に車輪周方向に隣接する板ばね部材51同士が接触して板ばね部材51の弾性変形を阻害しないよう留意する。板ばね部材51は、車輪半径方向の荷重に基づいて車輪幅方向外方に突出変形するよう、図11(a)に示すように、ハブ体43と接地体45の間が車輪幅方向に予め凸に湾曲している。従って、板ばね部材51は、ハブ体43と接地体45とを互いに連結するとともに車輪半径方向の荷重を支持する。なお、図示例では、予め湾曲した板ばね部材51を示したが、車輪41の接地時に車輪幅方向外方へ復元可能に屈曲するよう予め屈曲した板ばね部材(図示省略)を用いても良い。また、図示例では、ハブ体43の幅方向の一端部から接地体45の内周面上を通って他端部に延びる板ばね部材51は、一本の連続した板ばね部材51で形成されているが、ハブ体43の幅方向の一端部から接地体45の内周面まで延びる分割板ばね部材(図示省略)と、ハブ体43の幅方向の他端部から接地体45の内周面まで延びる分割板ばね部材(図示省略)とを別個に設けることもできる。この場合、これら別個の分割板ばね部材は、車輪周方向位置を異ならせることができる。
【0042】
またこの車輪41は、接地体45に車輪周方向の張力を付与するU字状の板ばね53(張力付与手段)が、接地体45の内周面上に車輪全周に亘って多数設けられている(図10参照)。U字状の板ばね53は、接地体45の内周面上にその凸側が半径方向内方を向き、接地体45に図10の矢印方向の付勢力を与えるよう配置されている。
【0043】
図11(b)及び図12(b)に示すように、車輪41を車両に装着し、接地面Gに接地させると、接地領域内の板ばね部材51は、車両からの荷重により押し潰され、湾曲状に撓む。すなわち、図11(a)及び図12(a)に示すような接面領域に入る前の、ハブ体43と接地体45との間の板ばね部材51は、接面領域に入ると図11(b)及び図12(b)のように車輪半径方向に圧縮されて湾曲状に撓みを発生し幅方向外方に大きく突出変形する。そして、接地体45は多孔質部材47を含むことから、接地時には接地面Gの表面形状に対応して大きく変形する。従って、接地体45の接地圧は均一化及び低減され、すなわち局所的な接地圧の増大が抑制されるので、砂を崩したり掘ったりすることなくトラクション性能は確保される。また、この実施形態の接地体45のように、接地体45の踏面に、砂を入り込ませる空孔が露出している場合には、トラクション性能はより向上する。
【0044】
また、接地領域内の接地体45は、U字状の板ばね53により車輪周方向に張力が付与され伸長状態となるので、負荷転動時においてもかかる接地体45に、図4に示すようなバックリングが生じて接地体が接地面Gから浮き上がることはなく、接地体45は接地面Gに常時均一に押し付けられる。
【0045】
図13は、この発明の接地体を適用したさらに他の車輪である。この車輪61は、円盤形状のハブ体63と、このハブ体63の車輪半径方向外方に配置された接地体65とを有する。接地体65は、先の実施形態とは異なり、車輪周方向に分割した薄板状の支持部材69に多孔質部材67を貼付し、複数の分割セグメントとして構成したものである。ハブ体63と接地体65との間には、車両の重量に基づいてこれらハブ体63と接地体65とでなす距離を縮めつつ車輪幅方向外方に弾性的に突出変形する連結体としての薄い板ばね部材71が設けられている(図13では、板ばね部材71は、一部を実線で、残りを仮想線で示されているが、板ばね部材71は、車輪全周にわたって配置されているものとする。)。
【0046】
またこの車輪61には、U字状の板ばね73(張力付与手段)が、車輪周方向に隣接する各分割セグメント間に、その凸側が車輪半径方向内方へ向き、これら分割セグメント間に図13の矢印方向の付勢力、すなわち車輪周方向に隣接する分割セグメントを離間させる付勢力を与えるよう配置されている。これによれば、U字状の板ばね73は、接地体65に張力を付与し、走行時における分割セグメント同士の過剰な接近及び接触を防止し、図4に示すような接地体65のバックリングの発生を抑制する。さらに、かかる板ばね73は、分割セグメント同士を連結し、車輪61の形状を保持するよう作用する。
【0047】
なお、上述した実施形態の車輪において、車輪の負荷転動時にて、車輪の周長に対する接地長の比率は、おおよそ10%以上であることが好ましい。これによれば、張力付与手段によりバックリングを抑制しつつ、十分な長さの接地長をより確実に確保できるので、車輪のトラクション性能をより確実に発揮させることができる。
【0048】
また上述したところは、この発明の実施形態の一部を示したにすぎず、この発明の趣旨を逸脱しない限り、これらの構成を相互に組み合わせたり、種々の変更を加えたりすることができる。例えば、接地体の多孔質部材は図示例のものに限らず、接地体を砂地路面の表面形状に対応するよう変形させ接地圧を均一化及び低減することができるものであればどのような形態のものであっても良く、接地体の踏面にて砂を取り込める空孔を有するものが好ましい。そして車輪を構成する各部品の寸法及び材質並びに弾性材料(例えば、板ばねやコイルばね)の弾性係数等も、使用環境(温度や重力、表面状態等)や用途に応じて適宜変更できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0049】
かくしてこの発明の接地体は、天体走行車両に装着する車輪に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】この発明の接地体を適用した天体走行車両用車輪の側面図である。
【図2】図1に示す車輪に適用した接地体の車輪幅方向の断面図である。
【図3】図1に示す車輪の部分斜視図である。
【図4】接地体にバックリングが生じた状態を示す車輪の側面輪郭図である。
【図5】図1に示す車輪を接地させた状態で示す側面図である。
【図6】この発明に従った接地体の好適な一例を示す多孔質部材の拡大模式図である。
【図7】この発明に従った接地体の好適な一例を示す接地体の幅方向断面図である。
【図8】この発明の接地体を適用した他の天体走行車両用車輪の斜視図である。
【図9】図8の車輪に適用された連結体の車輪半径方向に沿う部分断面図であり、(a)は、接地前の状態を、(b)は、接地後の状態をそれぞれ示すものである。
【図10】この発明の接地体を適用した他の天体走行車両用車輪の斜視図である。
【図11】図10の車輪の車輪幅方向断面図であり、(a)は、接地前の状態を、(b)は、接地後の状態をそれぞれ示すものである。
【図12】図10の車輪の車輪側面図であり、(a)は、接地前の状態を、(b)は、接地後の状態をそれぞれ示すものである。
【図13】この発明の接地体を適用した他の天体走行車両用車輪の斜視図である。
【図14】従来の天体走行車両用車輪の概略側面図である。
【符号の説明】
【0051】
1、21、41、61 車輪
3、23、43、63 ハブ体
5、25、45、65 接地体
7、27、47、67 多孔質部材
9、29、49、69 支持部材
11、31 連結体
15、16、35、53、73 U字状の板ばね
17 繊維
19 突起物
20 突起
51、71 板ばね部材
【技術分野】
【0001】
この発明は、惑星及び衛星等の天体の表面上を走行する天体走行車両に装着される車輪用の接地体に関し、特に、かかる車輪のトラクション性能を向上させる接地体に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、惑星及び衛星といった地球とは異なる周囲環境下で走行する車両に装着される車輪としては、特許文献1に記載されたものが知られている。この文献に記載の車輪には、車輪本体の外輪に周方向に所定の間隔をもって配設され、弾性機構によって外径方向に弾性力が付与された粉塵規制部材が設けられている。そして、かかる部材により、惑星表面に対するトラクション性能の向上をも図っている。また、旧ソ連によって打ち上げられた月面車(ルノホート)の車輪には、トラクション性能を確保する観点から、図14に示すように、その外周部105(接地体)にスパイク状の突起部105aが所定の間隔に設けられている。
【特許文献1】特開平08−002204号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
ところが、例えは月面のように、粒径が非常に小さく、流動性の高い砂地等でその表面が覆われている天体にて使用される場合には、このような粉塵規制部材やスパイク状の突起部が逆に走行の妨げになる場合がある。例えば、ルノホートにおいては、月面のクレータ付近で車輪が空転したり砂中に沈み込んだりし、走行に多大な困難を伴ったとの報告がなされている。これはつまり、車輪回転時にスパイク状の突起部がシャベルのように作用し、車輪自らをアリ地獄のごとく砂中に潜り込ませてしまうからである。また、このような問題は、車輪の接地体に局所的な負荷の加わる砂斜面にて使用する場合にさらに顕著となり、無人で走行することを前提とした天体走行車両にとっては走行不能状態から脱出する手段を備えていない限り致命的な問題となる。
【0004】
それゆえこの発明は、車輪の接地体の改良により、十分なトラクション性能を確保しつつ、車輪の空転や砂中への沈み込みを防止することを課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
前記の目的を達成するため、この発明は、天体表面上を走行する車両に装着される車輪用の接地体であって、前記天体表面と接触する部分に配置された多孔質部材と、該多孔質部材を支持する支持部材とを具えることを特徴とする接地体である。なお、ここでいう「天体」とは、衛星、惑星、小惑星及び彗星を含むものとする。また、「多孔質部材」とは、内部に無数の微小な空孔をもつ部材を指すものとする。
【0006】
かかる接地体を天体走行車両に装着する車輪に適用した場合、多孔質部材を含む接地体を砂等で覆われた接地面の表面形状に対応するよう変形させ、接地圧を均一化及び低減することができるので、砂を崩したり掘ったりすることなくトラクション性能を確保することができる。
【0007】
従って、この発明の接地体によれば、十分なトラクション性能を確保しつつ、車輪の空転や砂中への沈み込みを防止することができる。また、この発明の接地体によれば、構造が簡単であるとともに軽量である。
【0008】
このようにこの発明の接地体は、粒径が非常に小さく、流動性の高い砂地表面を有する天体にて使用される場合に特に効果的に用いることができることから、例えば月面にて使用される月面走行車両用車輪に好適に適用できる。
【0009】
また、支持部材は板状をなし、接地体は、該板状の支持部材上に多孔質部材を積層してなることが好ましい。
【0010】
さらに、板状の支持部材は、多孔質部材が積層される面に形成されて接地時の負荷によって該多孔質部材から突き出る突起を有することが好ましい。
【0011】
さらに、多孔質部材は、繊維を三次元的に交絡して形成されるものであり、該繊維は、その表面に突起物を有することが好ましい。
【0012】
さらに、多孔質部材の体積空隙率は、0.1%〜50%であることが好ましい。
【0013】
しかも、多孔質部材の厚みは、0.1mm〜10mmであることが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
この発明の天体走行車両に装着される車輪用の接地体によれば、十分なトラクション性能を確保しつつ、車輪の空転や砂中への沈み込みを防止することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、この発明の接地体の実施例を天体走行車両用車輪の実施形態として図面を参照しつつ詳細に説明する。ここで、図1は、この発明の接地体を適用した天体走行車両用車輪(以下、単に「車輪」という。)の概略側面図である。図2は、図1の車輪に適用した接地体の幅方向断面図である。図3は、図1に示す車輪の一部の斜視図である。図5は、図1に示す車輪を接地させた状態で示す側面図である。
【0016】
図1に示すように、車輪1は、車両の車軸(図示省略)に接続されるハブ体3と、このハブ体3に対して車輪半径方向外方に位置し該車輪の周面を形成する接地体5とを具える。接地体5は、車両走行時に天体の表面に接触(接地)するものである。
【0017】
接地体5は、図2に示すように、天体表面と接触する部分に配置された所定厚みの多孔質部材7と、該多孔質部材7を支持する支持部材9とから構成される。支持部材9は、薄い板状をなし、後述する連結体に固定されて車輪周方向に連続して延びる。多孔質部材7は、支持部材9の外周面上に積層し接着剤にて接着できる他、リベットやクリップ等により固着できるが、何れにせよ車輪転動時の接地体の屈曲(弾性変形)を妨げないよう留意する。多孔質部材7としては、繊維を機械的又は化学的に処理し三次元的に絡ませたフェルト状の部材や海綿状の多孔構造を有するスポンジ状の部材、さらには短繊維やフィラメントを機械的、熱的、又は化学的に絡ませて形成した不織布状の部材等も適用できる。これら部材を構成する素材としては、耐熱性及び耐久性を考慮すると金属やセラミック、ガラス、樹脂等を好適に利用できるがこれらに限定されず、使用環境に応じて種々のものを選択できる。
【0018】
図3に示すように、ハブ体3と接地体5との間には、車両の重量に基づいて接地体5を車輪半径方向内方に弾性変形させつつ(すなわち、ハブ体3と接地体5とを近接方向に弾性的に相対変位させつつ)該重量を支持する複数の連結体11が配置されている。
【0019】
この例の連結体11は、ハブ体3のフランジ部3aから車輪半径方向外方に延び、接地体5に到達する前に終端する、一対の第1連結体11a、11aと、接地体5の内周面から車輪半径方向内方に延び、ハブ体3に到達する前に終端する第2連結体11bと、これら第1連結体11a及び第2連結体11bとを弾性的に連結する複数個のコイルばね11c(弾性体)とを具えてなる。第1連結体11aは、車輪周方向全周に亘って適宜のピッチで多数配置されている。また、第1連結体11aは、曲げ剛性を高める観点からチャンネル状の板材で形成されている。第2連結体11bは、車輪周方向に隣り合う第1連結体11a間に延出している。第2連結体11bは、この実施形態では平板材で形成されている。コイルばね11cは、第1連結体11aの車輪半径方向の外端近傍と、第2連結体11bの車輪半径方向の内端近傍との間に掛け渡されている。この実施形態では、各第2連結体11bに、それに隣接する4つの第1連結体11aから計8個のコイルばね11cが延びるよう設けられているが、コイルばね11cの個数は適宜変更可能である。
【0020】
さらにこの車輪1では、接地体5に車輪周方向の張力を付与して接地体5のバックリングを防止するU字状の板ばね15(張力付与手段)が、接地体5の内面上にその凸側が半径方向内方を向くように全周に亘って適宜のピッチで配設されている。U字状の板ばね15は、車輪周方向に隣接する第2連結体11b間を繋ぐように配設しても良い。なお、上記バックリングとは、図4の車輪側面輪郭図にて示すように、走行時に接地体の踏み込み端E1及び蹴り出し端E2(主として踏み込み端E1)が荷重を支える一方で、踏み込み端E1と蹴り出し端E2との間で接地体Pが部分的に座屈し、接地体Pの一部が接地面Gから浮き上がる現象であり、ひとたびバックリングが発生すると、接地体Pの接地面Gとの接触面積が減少し、車輪の空転等の原因となるものである。
【0021】
さらにこの車輪1では、車輪周方向に隣接する第2連結体11b同士を車輪周方向に互いに離反させるよう付勢するU字状のばね部材16(図3参照)が設けられていり、これにより転動時においても車輪1の形状は確実に保持される。
【0022】
この実施形態の車輪1を車両(図示省略)に装着し接地面Gに接地させると、図5に示すように、車両からの荷重により接地領域内のコイルばね11cが伸長し、第2連結体11bは車輪半径方向内方に変位する(第1連結体11aと第2連結体11bとは車輪半径方向に沿って近接方向に相対変位する。)。この結果、接地領域内にある接地体5は接地面Gの形状に対応して大きく撓み変形し、接地体5の接地長は長くなり接地圧は低減される。そして、接地体5は多孔質部材7を含むことから、接地時には接地面Gの表面形状に対応して大きく変形する。従って、接地体5の接地圧は均一化及び低減され、すなわち局所的な接地圧の増大が抑制されるので、砂を崩したり掘ったりすることなくトラクション性能は確保される。また、この実施形態の接地体5のように、接地体5の踏面に、砂を入り込ませる空孔が露出している場合にはエッジ効果がより高まり、トラクション性能はより向上する。
【0023】
さらに、接地領域内の接地体5は、U字状の板ばね15により張力が付与され伸長状態となるので、負荷転動時においてもかかる接地体5に、図4に示すようなバックリングが生じて接地体5が接地面Gから浮き上がることはなく、接地体5は接地面Gに常時均一に押し付けられる。
【0024】
しかも、この実施形態では、第1連結体11a、第2連結体11b及びコイルばね11cは接地体5の両端部よりも幅方向内側に位置しているので、これらが走行時に外部の障害物(岩石等)に接触するおそれがない。
【0025】
ここで、この発明に従ったより好適な接地体につき説明する。図6は、この発明の好適な接地体の一部を拡大して示す模式図であり、図7は、この発明の他の好適な接地体を示す断面図であり、(a)は接地前の状態を、(b)は接地後の状態をそれぞれ示している。図6に示すように、この接地体5の多孔質部材7は、繊維17を三次元的に交絡して形成されており、該繊維17はその表面に砥粒状の突起物19を有するものである。これによれば、砂地路面を走行するときには、多孔質部材7を含む接地体5を砂地路面の表面形状に対応するよう変形させ接地圧を均一化及び低減することができ、一方で砂地以外の路面、例えば岩塊上を走行するときには突起物19をスパイクとして機能させ、安定した走行を達成することができる。またこの例では、多孔質部材7の空孔内に砂を入り込ませることができるので、トラクション性能をさらに向上させることができる。
【0026】
また、図7(a)に示すように、板状の支持部材9の、多孔質部材7が積層される面に鋭利な突起20を設け、地面Gへの接地時の負荷によって該突起20が多孔質部材から突き出るようにして(図7(b)参照)突起20をスパイクとして機能させることもできる。具体的には、接地時に突起20自らを伸張させて多孔質部材7から突き出るようにしても良く、あるいは同一圧力を付与したときの圧縮変形率を突起20より多孔質部材7を大きくすることで、図7に示すように、接地時に多孔質部材7が押し潰されることにより突起20が突出する構成としても良い。
【0027】
ところで、多孔質部材7の体積空隙率は、0.1%〜50%とすることが好ましい。多孔質部材7の体積空隙率が0.1%未満の場合は、接地体5を接地面Gの表面形状に十分に対応させることができないおそれがあり、50%を超えるとトラクション性能が十分でなくなるおそれがあるからである。また接地体5の踏面に露出した空孔に砂を取り込ませることによるトラクション性能のさらなる向上を図る観点からは、空孔の平均孔径は、走行する天体表面を覆う平均砂径の100%〜500%であることが好ましい。
【0028】
また、多孔質部材7の厚みは、0.1mm〜10mmとすることが好ましい。多孔質部材7の厚みが0.1mm未満の場合は、接地体5を接地面Gの表面形状に十分に対応させることができなくなるおそれがあり、10mmを超えると走行時に多孔質部材7が千切れたり破損したりするおそれがあるからである。
【0029】
加えて、本発明の接地体を適用した車輪においては、その平均接地圧が1kPa〜2kPaとすることが好適である。平均接地圧が1kPa未満の場合は、トラクション性能が十分でなくなるおそれがあるからであり、2kPaを超えると空孔が潰れ接地体を接地面の表面形状に十分に対応させることができなくなるおそれがあるからである。
【0030】
次いで、この発明の接地体を適用した種々の車輪につき図を参照しつつ説明する。ここで、図8は、この発明の接地体を適用した他の車輪の概略斜視図である。図9は、図8に示す車輪の連結体の、車輪半径方向に沿う部分断面図であり、(a)は、接地前の状態を、(b)は、接地後の状態を示すものである。
【0031】
図8に示すように、車輪21は、車両の車軸(図示省略)に接続されるハブ体23と、このハブ体23に対して車輪半径方向外方に位置し該車輪の周面を形成する接地体25とを具える。接地体25は、先の実施形態と同様、車輪周方向に連続した薄板状の支持部材29に、所定厚みの多孔質部材27を貼付してなるものである。
【0032】
ハブ体23は、環状をなし、その中心に車両の車軸を通すための軸孔23aが設けれ、さらにその軸孔23aの周りには、車輪固定用のボルト(図示省略)を通すボルト孔23bが設けられている。
【0033】
ハブ体23の幅方向両端部近傍には、車輪半径方向外方に延び、接地体25に到達する前に終端する、車輪周方向に複数配列された第1連結体31aが立設されている。第1連結体31aは、棒体で構成され、車輪周方向に適宜のピッチで配置されている。第1連結体31aとハブ体23とは、溶接、嵌合、係合及び螺合等種々の固定方法により相互に固定可能である。
【0034】
一方で、接地体25の内周面には、そこから車輪半径方向内方であって第1連結体31aに向けて延び、ハブ体23に到達する前に終端する、車輪周方向に複数配列された第2連結体31bが設けられている。第2連結体31bは、この実施形態では有底の円筒で形成されている。第2連結体31bは、第1連結体31a同様に種々の固定方法により接地体25に固定可能である。
【0035】
また、図9に示すように、第1連結体31aは、第2連結体31bの筒内に挿入されるとともに、第1連結体31aの先端と第2連結体11bの内底部との間には、コイルばね31c(弾性体)が挿設されている。
【0036】
さらに、この車輪21は、接地体25に車輪周方向の張力を付与するU字状の板ばね35(張力付与手段)が、接地体25の内周面上に車輪全周に亘って多数設けられている(図8参照)。U字状の板ばね35は、接地体25の内周面上にその凸側が半径方向内方を向き、接地体25に図8の矢印方向の付勢力を与えるよう配置されている。張力付与手段としては、U字状の板ばね35の他に、コイルばねや平坦な薄板、また可撓性を有する範囲でI型部材等を用いることができる。
【0037】
この実施形態の車輪21を車両に装着し接地面Gに接地させると、図9(b)に示すように、車両からの荷重(図中の矢印参照)により接地領域内のコイルばね31cが収縮し、第1連結体31aと第2連結体31bとは車輪半径方向に沿って近接方向に相対変位する。この結果、接地領域内にある接地体25は接地面Gの形状に対応して大きく撓み変形(弾性変形)する。そして、接地体25は多孔質部材27を含むことから、接地時には接地面Gの表面形状に対応して大きく変形する。従って、接地体25の接地圧は均一化及び低減され、すなわち局所的な接地圧の増大が抑制されるので、砂を崩したり掘ったりすることなくトラクション性能は確保される。また、この実施形態の接地体25のように、接地体25の踏面に、砂を入り込ませる空孔が露出している場合には、トラクション性能はより向上する。
【0038】
さらに、接地領域内の接地体25は、U字状の板ばね35により張力が付与され伸長状態となるので、負荷転動時においてもかかる接地体25に、図4に示すようなバックリングが生じて接地体25が接地面Gから浮き上がることはなく、接地体25は接地面Gに常時均一に押し付けられる。
【0039】
しかも、この実施形態では、第1連結体31a、第2連結体31b及びコイルばね31cは接地体25の両端部よりも幅方向内側に位置しているので、これらが走行時に外部の障害物(岩石等)に接触するおそれがない。
【0040】
図10は、この発明の接地体を適用したさらに他の車輪の概略斜視図である。この図に示すように、車輪41は、円盤形状のハブ体43と、このハブ体43の車輪半径方向外方に配置された接地体45とを有する。接地体45は、先の実施形態と同様、車輪周方向に連続した薄板状の支持部材49に、所定厚みの多孔質部材47を貼付してなるものである。ハブ体43と接地体45との間には、車両の重量に基づいてこれらハブ体43と接地体45とでなす距離を縮めつつ車輪幅方向外方に弾性的に突出変形する連結体としての薄い板ばね部材51が設けられている(図10では、板ばね部材51は、一部を実線で、残りを仮想線で省略して示しているが、板ばね部材51は、図12に示すように車輪全周にわたって配置されている。)。
【0041】
板ばね部材51は、ハブ体43の幅方向の一端部から車輪半径方向外方に延びた後に接地体45の内周面に沿って延び、さらにハブ体43の幅方向の他端部に向けて車輪半径方向内方に延びてそこに固定されている。板ばね部材51は、車輪全周に適宜のピッチで配置することができるが、走行時に車輪周方向に隣接する板ばね部材51同士が接触して板ばね部材51の弾性変形を阻害しないよう留意する。板ばね部材51は、車輪半径方向の荷重に基づいて車輪幅方向外方に突出変形するよう、図11(a)に示すように、ハブ体43と接地体45の間が車輪幅方向に予め凸に湾曲している。従って、板ばね部材51は、ハブ体43と接地体45とを互いに連結するとともに車輪半径方向の荷重を支持する。なお、図示例では、予め湾曲した板ばね部材51を示したが、車輪41の接地時に車輪幅方向外方へ復元可能に屈曲するよう予め屈曲した板ばね部材(図示省略)を用いても良い。また、図示例では、ハブ体43の幅方向の一端部から接地体45の内周面上を通って他端部に延びる板ばね部材51は、一本の連続した板ばね部材51で形成されているが、ハブ体43の幅方向の一端部から接地体45の内周面まで延びる分割板ばね部材(図示省略)と、ハブ体43の幅方向の他端部から接地体45の内周面まで延びる分割板ばね部材(図示省略)とを別個に設けることもできる。この場合、これら別個の分割板ばね部材は、車輪周方向位置を異ならせることができる。
【0042】
またこの車輪41は、接地体45に車輪周方向の張力を付与するU字状の板ばね53(張力付与手段)が、接地体45の内周面上に車輪全周に亘って多数設けられている(図10参照)。U字状の板ばね53は、接地体45の内周面上にその凸側が半径方向内方を向き、接地体45に図10の矢印方向の付勢力を与えるよう配置されている。
【0043】
図11(b)及び図12(b)に示すように、車輪41を車両に装着し、接地面Gに接地させると、接地領域内の板ばね部材51は、車両からの荷重により押し潰され、湾曲状に撓む。すなわち、図11(a)及び図12(a)に示すような接面領域に入る前の、ハブ体43と接地体45との間の板ばね部材51は、接面領域に入ると図11(b)及び図12(b)のように車輪半径方向に圧縮されて湾曲状に撓みを発生し幅方向外方に大きく突出変形する。そして、接地体45は多孔質部材47を含むことから、接地時には接地面Gの表面形状に対応して大きく変形する。従って、接地体45の接地圧は均一化及び低減され、すなわち局所的な接地圧の増大が抑制されるので、砂を崩したり掘ったりすることなくトラクション性能は確保される。また、この実施形態の接地体45のように、接地体45の踏面に、砂を入り込ませる空孔が露出している場合には、トラクション性能はより向上する。
【0044】
また、接地領域内の接地体45は、U字状の板ばね53により車輪周方向に張力が付与され伸長状態となるので、負荷転動時においてもかかる接地体45に、図4に示すようなバックリングが生じて接地体が接地面Gから浮き上がることはなく、接地体45は接地面Gに常時均一に押し付けられる。
【0045】
図13は、この発明の接地体を適用したさらに他の車輪である。この車輪61は、円盤形状のハブ体63と、このハブ体63の車輪半径方向外方に配置された接地体65とを有する。接地体65は、先の実施形態とは異なり、車輪周方向に分割した薄板状の支持部材69に多孔質部材67を貼付し、複数の分割セグメントとして構成したものである。ハブ体63と接地体65との間には、車両の重量に基づいてこれらハブ体63と接地体65とでなす距離を縮めつつ車輪幅方向外方に弾性的に突出変形する連結体としての薄い板ばね部材71が設けられている(図13では、板ばね部材71は、一部を実線で、残りを仮想線で示されているが、板ばね部材71は、車輪全周にわたって配置されているものとする。)。
【0046】
またこの車輪61には、U字状の板ばね73(張力付与手段)が、車輪周方向に隣接する各分割セグメント間に、その凸側が車輪半径方向内方へ向き、これら分割セグメント間に図13の矢印方向の付勢力、すなわち車輪周方向に隣接する分割セグメントを離間させる付勢力を与えるよう配置されている。これによれば、U字状の板ばね73は、接地体65に張力を付与し、走行時における分割セグメント同士の過剰な接近及び接触を防止し、図4に示すような接地体65のバックリングの発生を抑制する。さらに、かかる板ばね73は、分割セグメント同士を連結し、車輪61の形状を保持するよう作用する。
【0047】
なお、上述した実施形態の車輪において、車輪の負荷転動時にて、車輪の周長に対する接地長の比率は、おおよそ10%以上であることが好ましい。これによれば、張力付与手段によりバックリングを抑制しつつ、十分な長さの接地長をより確実に確保できるので、車輪のトラクション性能をより確実に発揮させることができる。
【0048】
また上述したところは、この発明の実施形態の一部を示したにすぎず、この発明の趣旨を逸脱しない限り、これらの構成を相互に組み合わせたり、種々の変更を加えたりすることができる。例えば、接地体の多孔質部材は図示例のものに限らず、接地体を砂地路面の表面形状に対応するよう変形させ接地圧を均一化及び低減することができるものであればどのような形態のものであっても良く、接地体の踏面にて砂を取り込める空孔を有するものが好ましい。そして車輪を構成する各部品の寸法及び材質並びに弾性材料(例えば、板ばねやコイルばね)の弾性係数等も、使用環境(温度や重力、表面状態等)や用途に応じて適宜変更できることは言うまでもない。
【産業上の利用可能性】
【0049】
かくしてこの発明の接地体は、天体走行車両に装着する車輪に好適に用いることができる。
【図面の簡単な説明】
【0050】
【図1】この発明の接地体を適用した天体走行車両用車輪の側面図である。
【図2】図1に示す車輪に適用した接地体の車輪幅方向の断面図である。
【図3】図1に示す車輪の部分斜視図である。
【図4】接地体にバックリングが生じた状態を示す車輪の側面輪郭図である。
【図5】図1に示す車輪を接地させた状態で示す側面図である。
【図6】この発明に従った接地体の好適な一例を示す多孔質部材の拡大模式図である。
【図7】この発明に従った接地体の好適な一例を示す接地体の幅方向断面図である。
【図8】この発明の接地体を適用した他の天体走行車両用車輪の斜視図である。
【図9】図8の車輪に適用された連結体の車輪半径方向に沿う部分断面図であり、(a)は、接地前の状態を、(b)は、接地後の状態をそれぞれ示すものである。
【図10】この発明の接地体を適用した他の天体走行車両用車輪の斜視図である。
【図11】図10の車輪の車輪幅方向断面図であり、(a)は、接地前の状態を、(b)は、接地後の状態をそれぞれ示すものである。
【図12】図10の車輪の車輪側面図であり、(a)は、接地前の状態を、(b)は、接地後の状態をそれぞれ示すものである。
【図13】この発明の接地体を適用した他の天体走行車両用車輪の斜視図である。
【図14】従来の天体走行車両用車輪の概略側面図である。
【符号の説明】
【0051】
1、21、41、61 車輪
3、23、43、63 ハブ体
5、25、45、65 接地体
7、27、47、67 多孔質部材
9、29、49、69 支持部材
11、31 連結体
15、16、35、53、73 U字状の板ばね
17 繊維
19 突起物
20 突起
51、71 板ばね部材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
天体表面上を走行する車両に装着される車輪用の接地体であって、前記天体表面と接触する部分に配置された多孔質部材と、該多孔質部材を支持する支持部材とを具えることを特徴とする接地体。
【請求項2】
前記支持部材は板状をなし、前記接地体は、該板状の支持部材上に前記多孔質部材を積層してなる、請求項1に記載の接地体。
【請求項3】
前記板状の支持部材は、前記多孔質部材が積層される面に形成されて接地時の負荷によって該多孔質部材から突き出る突起を有する、請求項1又は2に記載の接地体。
【請求項4】
前記多孔質部材は、繊維を三次元的に交絡して形成されるものであり、該繊維は、その表面に突起物を有する、請求項1〜3の何れか一項に記載の接地体。
【請求項5】
前記多孔質部材の体積空隙率は、0.1%〜50%である、請求項1〜4の何れか一項に記載の接地体。
【請求項6】
前記多孔質部材の厚みは、0.1mm〜10mmである、請求項1〜5の何れか一項に記載の接地体。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の接地体を適用してなる天体走行車両用車輪。
【請求項1】
天体表面上を走行する車両に装着される車輪用の接地体であって、前記天体表面と接触する部分に配置された多孔質部材と、該多孔質部材を支持する支持部材とを具えることを特徴とする接地体。
【請求項2】
前記支持部材は板状をなし、前記接地体は、該板状の支持部材上に前記多孔質部材を積層してなる、請求項1に記載の接地体。
【請求項3】
前記板状の支持部材は、前記多孔質部材が積層される面に形成されて接地時の負荷によって該多孔質部材から突き出る突起を有する、請求項1又は2に記載の接地体。
【請求項4】
前記多孔質部材は、繊維を三次元的に交絡して形成されるものであり、該繊維は、その表面に突起物を有する、請求項1〜3の何れか一項に記載の接地体。
【請求項5】
前記多孔質部材の体積空隙率は、0.1%〜50%である、請求項1〜4の何れか一項に記載の接地体。
【請求項6】
前記多孔質部材の厚みは、0.1mm〜10mmである、請求項1〜5の何れか一項に記載の接地体。
【請求項7】
請求項1〜6の何れかに記載の接地体を適用してなる天体走行車両用車輪。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【公開番号】特開2009−292289(P2009−292289A)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−147279(P2008−147279)
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
【公開日】平成21年12月17日(2009.12.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年6月4日(2008.6.4)
【出願人】(000005278)株式会社ブリヂストン (11,469)
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