太陽熱利用集熱器の選択吸収面およびその形成方法
【課題】環境負荷が小さく、短時間の処理で特性の良好な選択吸収面をステンレス鋼に形成できる太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法を提供する。
【解決手段】44.0〜65.0重量%(wt%)の硫酸を含む硫酸水溶液に、0.5〜7.0wt%のメタバナジン酸塩としてのメタバナジン酸ナトリウムを添加してなる化成処理溶液を用意し、浴温度85.5〜124℃でステンレス鋼を75〜1320秒の浸漬時間で浸漬させる。
【解決手段】44.0〜65.0重量%(wt%)の硫酸を含む硫酸水溶液に、0.5〜7.0wt%のメタバナジン酸塩としてのメタバナジン酸ナトリウムを添加してなる化成処理溶液を用意し、浴温度85.5〜124℃でステンレス鋼を75〜1320秒の浸漬時間で浸漬させる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽熱利用集熱器には、耐蝕性に優れたステンレス鋼に選択吸収面を形成したものがある。このステンレス鋼に選択吸収面を形成する方法としては、化成処理、めっき、スパッタリング、熱酸化、黒色塗料の塗布などの手法がある。これらの手法のうち、化成処理が工業的に最も優れている。この化成処理方法としては、酸性酸化法、アルカリ性酸化法、硫化酸化法、溶融塩浴法などがある。従来の化成処理方法としては、特許文献1〜3に記載の発明が知られている。
【0003】
特許文献1には、特に好ましい方法として、酸性酸化法およびアルカリ性酸化法が挙げられている。この酸性酸化法は、重クロム酸カリウムもしくは重クロム酸ナトリウムと硫酸からなる酸性溶液中で温度50〜150℃、浸漬時間3〜40分間化成処理することでフェライト系およびオーステナイト系ステンレス鋼の表面に選択吸収面を形成する。
【0004】
特許文献2には、ステンレス鋼板を硫酸銅溶液および硫酸溶液で化成処理する方法が開示されている。
【0005】
特許文献3は、40〜60重量%硫酸水溶液に過マンガン酸塩を3〜10重量%添加し、酸素ガスの発生が停止するまで反応させて得られる溶液に、ステンレス鋼を65℃〜120℃の温度範囲で所定時間浸漬して選択吸収面を形成する方法である。上記特許文献3の方法では、6価クロムを使わない点で環境負荷が小さく、120℃以下の反応温度にて比較的短時間で望ましい特性を持つ選択吸収面を形成できるという利点があった。
【0006】
【特許文献1】特開昭52−38652号公報
【特許文献2】特開昭58−8948号公報
【特許文献3】特開2006−336960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1の方法では、6価クロムを使うため環境負荷が大きいという問題がある。また、上記特許文献2の方法では、100℃以上の高温で処理しなくてはならないため、エネルギー消費が多く、水分の蒸発による浴組成が不安定になり易く、処理時間が極めて長いという問題がある。さらに、上記各方法では、化成処理反応のためにステンレス鋼基板へのBA処理(光輝焼鈍処理)が必要であった。このBA処理は、2B処理(大気焼鈍処理)に比べて溶接性が悪くなるという問題があった。さらに、上記特許文献3の方法で得られる選択吸収面と同様に環境負荷が小さく、且つ選択吸収面として同等以上に望ましい特性を持ち、さらに浸漬時間が短く、低浴温の処理が可能な選択吸収面の形成方法が要望されている。
【0008】
そこで、本発明の目的は、環境負荷が小さく、短時間の処理で特性の良好な選択吸収面をステンレス鋼に形成できる太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、環境負荷が小さく、かつ太陽熱利用集熱器の選択吸収面として優れた特性である、UV・可視・近赤外域については吸収率が高く、熱放射に関わる赤外域については放射率が低いという特性を持つ選択吸収面を得るための、ステンレス鋼の化成処理条件を鋭意検討した結果、44.0〜65.0重量%の硫酸を含む硫酸水溶液に、メタバナジン酸塩を添加してなる化成処理溶液にステンレス鋼を浸漬させることが有効であることを見出した。本発明は、太陽熱利用集熱器の選択吸収面およびその形成方法であり、44.0〜65.0重量%の硫酸を含む硫酸水溶液に、メタバナジン酸塩を添加してなる化成処理溶液にステンレス鋼を浸漬させることを要旨とする。
【0010】
ここで、バナジン酸塩は、0.5〜7.0重量%が添加されることが好ましい。また、化成処理溶液の浴温度は、85.5〜124℃であることが好ましい。さらに、ステンレス鋼の浸漬時間は、75〜1320秒であることが好ましい。
【0011】
添加成分であるメタバナジン酸塩は、メタバナジン酸ナトリウムとメタバナジン酸アンモニウムを用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、環境負荷が小さく、短時間の処理で特性の良好な選択吸収面をステンレス鋼に形成できる太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法について説明する。本実施の形態によれば、太陽熱利用集熱器に用いられるステンレス鋼に熱吸収率の高い選択吸収面を形成することができる。
【0014】
本実施の形態に係る太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法は、44.0〜65.0重量%(wt%)の硫酸を含む硫酸水溶液に、0.5〜7.0wt%のメタバナジン酸塩としてのメタバナジン酸ナトリウムを添加してなる化成処理溶液を用意し、浴温度85.5〜124℃でステンレス鋼を75〜1320秒の浸漬時間で浸漬させる。
【0015】
本実施の形態では、ステンレス鋼としてオーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系用いる。
【0016】
本実施の形態では、化成処理用溶液として、硫酸水溶液に5価バナジウム(V)を含むメタバナジン酸ナトリウムを添加した溶液を用いる。
【0017】
化成処理用溶液全体における硫酸の濃度(浴濃度)は、44.0〜65.0wt%の範囲の濃度である。硫酸の濃度が44.0wt%未満であると、浴温を高くするか、長い浸漬時間が必要となり、生産性が悪くなる。また、硫酸の濃度が65.0wt%を越えると、浸漬時間が短くなり、高い選択吸収効率を持つ選択吸収面を得るための制御が難しくなる。
【0018】
化成処理用溶液全体におけるメタバナジン酸ナトリウムの濃度(浴濃度)は、0.5〜7.0wt%の範囲の濃度である。メタバナジン酸塩の濃度が0.5wt%未満であると、浴温を高くするか、長い浸漬時間が必要となり、生産性が悪くなる。また、メタバナジン酸塩濃度が7.0wt%を越えると、浸漬時間が短くなり、高い選択吸収効率をもつ選択吸収面を得るための制御が難しくなる。
【0019】
化成処理用溶液の温度(浴温度)は、85.5〜124℃の範囲の温度である。
浸漬時間(処理時間)は、75〜1320秒の範囲であることが、製造される選択吸収面の熱収支特性の点において好ましいことが見出された。
【0020】
望ましい熱収支特性とは、太陽光による熱の主要な要素であるUV・可視・近赤外域の吸収である吸収率は高く、一方で選択吸収面からの熱放射に関わる赤外域の放射である放射率は低いという、太陽光の熱を効率よく吸収しつつも保持する熱を放射して逃がすことの少ない特性である。
【0021】
化成処理を行うステンレス鋼の種類については、耐食性の面からフェライト系ステンレス鋼を用いることが好ましいが、本発明の選択吸収面の形成方法はフェライト系ステンレス鋼に限定される方法ではなく、オーステナイト系およびマルテンサイト系ステンレス鋼においても適用可能である。
【0022】
本実施の形態では、メタバナジン酸塩としては、メタバナジン酸ナトリウム(NaV03)を用いるが、後述するように、メタバナジン酸アンモニウム(NH4VO3)を用いてもよい。
【0023】
本実施の形態に係る太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法によれば、選択吸収面効率(ηss)が0.65以上、吸収率(α)が0.75以上、放射率(ε)が0.15以下の特性を持つ選択吸収面を形成することができる。すなわち、本実施の形態に太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法によれば、選択吸収面効率(ηss)の下限値(閾値)が0.65、吸収率(α)の下限値(閾値)が0.75、放射率(ε)の上限値(閾値)が0.15となる。
【0024】
また、本実施の形態に係る太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法によれば、ステンレス鋼にBA処理(光輝焼鈍処理)が施されたBA材、ステンレス鋼に2B処理(大気焼鈍処理)が施された2B材ともに同等の選択吸収特性(吸収率と放射率)を有する選択吸収面が得られる。
【0025】
〔実施例〕
45.9〜51.4w%硫酸水溶液に、メタバナジン酸塩としてメタバナジン酸ナトリウム3.4〜4.5w%となるように添加して得た溶液で、下表1〜12に示す浸漬温度、浸漬時間の条件で、ステンレス鋼に選択吸収面を形成した。ステンレス鋼(基板)としては、フェライト系ステンレス鋼の一種であるSUS434系のJFE434LN2(JFEスチール(株))をBA処理したJFE434LN2−BA材と、2B処理したJFE434LN2−2B材を用いた。
【0026】
選択吸収特性の評価は、以下のようにして行った。
吸収率αは、UV・可視・近赤外域(300〜2100nm)の反射率Rを島津製作所製UV−3100を用いて測定し、下記の数式1のIおよびIIにて算出した。
【0027】
放射率εは、同様に赤外域(2500〜25000nm)の反射率Rを日本電子製WINSPEC100を用いて測定し、下記の数式1のIIIおよびIVにて算出した。
【0028】
【数1】
【0029】
選択吸収面効率(ηss)については、下記の数式2より算出した。
【0030】
【数2】
【0031】
(実施例1〜11)
実施例1〜11は、メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)に対する硫酸のモル濃度(mol/l)の比の値R[(硫酸のモル濃度(mol/l)/メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)]を14に設定し、浴温度119℃と124℃とし、SUS基板としてJFE434LN2−BA材を用いて、浸漬時間を3分〜7分として化成処理を行った。その結果は、下表1に示す。
【0032】
下表1に示したように、上記条件において優れた特性を持つ選択吸収面が得られた。本発明によって得られる優れた特性とは、太陽光による熱の主要な部分であるUV・可視・近赤外域の吸収である吸収率αが0.75以上と高く、且つ選択吸収面からの熱放射に関わる赤外域の放射である放射率εが0.15以下であるという、太陽光の熱を効率よく吸収しつつも保持する熱を放射して逃がすことの少ない特性である。また、この吸収率αと放射率εを併せて評価した指数である選択吸収面効率についても0.65以上という良好な値である。
【0033】
【表1】
【0034】
なお、図1は、実施例1〜11の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と、吸収率および放射率との関係を示す図である。図1からは、実施例1〜11において浴温度が124℃である実施例7〜11が浸漬時間が3〜4.5分(180〜270秒)と短い時間で吸収率が0.87以上の高い値であることが判る。なお、浴温度119℃である実施例1〜6においても、比較的浸漬時間が少ない(4.5〜7分)条件でも吸収率が0.75以上であり、放射率は0.15以下であって、良好な特性を持つ選択吸収面が得られることが判る。また、放射率においても、浴温度124℃である実施例7〜11が浸漬時間が3〜4.5分と短くても低い(0.15以下の)放射率であることが判る。
【0035】
また、図2は、実施例1〜11の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と数熱効率(選択吸収面効率)との関係を示す図である。この図2からは、浴温度が124℃の実施例7〜11が浸漬時間が3〜4.5分と短く、しかも選択吸収面効率が0.72以上と良好な特性を持つ選択吸収面が得られることが判る。なお、浴温度119℃の実施例1〜6においても浸漬時間は実施例7〜11よりもやや長いが、選択吸収面効率は0.65以上の良好な特性を持つ選択吸収面が得られることが判る。
【0036】
(実施例12〜22)
実施例12〜22は、メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)に対する硫酸のモル濃度(mol/l)の比の値R[硫酸のモル濃度(mol/l)/メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)]を14に設定し、浴温度119℃と124℃とし、SUS基板としてJFE434LN2−2B材を用いて、浸漬時間を3分〜7分として化成処理を行った。その結果は、下表2に示す。
【0037】
下表2に示したように、上記実施例12〜22においても優れた特性を持つ選択吸収面が得られた。すなわち、吸収率αが0.75以上で、放射率εが0.15以下、しかも選択吸収面効率についても0.65以上という良好な値である。
【0038】
【表2】
【0039】
なお、図3は、実施例12〜22の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と、吸収率および放射率との関係を示す図である。図3からは、実施例12〜22において浴温度が124℃である実施例18〜22が浸漬時間が3〜4.5分(180〜270秒)と短い時間で吸収率が0.87以上の高い値であることが判る。なお、浴温度119℃である実施例12〜17においても、比較的浸漬時間が少ない(4.5〜7分)条件でも吸収率が0.83以上であり、放射率は0.13以下であって、良好な特性を持つ選択吸収面が得られることが判る。また、放射率においても、浴温度124℃である実施例18〜22が浸漬時間が3〜4.5分と短くても低い(0.13以下の)放射率であることが判る。
【0040】
また、図4は、実施例12〜22の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と数熱効率(選択吸収面効率)との関係を示す図である。この図4からは、浴温度が124℃の実施例18〜22が浸漬時間が3〜4.5分と短く、しかも選択吸収面効率が0.72以上と良好な特性を持つ選択吸収面が得られることが判る。なお、浴温度119℃の実施例12〜17においても浸漬時間は実施例13〜22よりもやや長いが、選択吸収面効率は0.66以上の良好な特性を持つ選択吸収面が得られることが判る。
【0041】
(実施例23〜31)
実施例23〜31は、下表3に示すように、メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)に対する硫酸のモル濃度(mol/l)の比の値R[硫酸のモル濃度(mol/l)/メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)]を17に設定し、浴温度119℃と124℃とし、SUS基板としてJFE434LN2−BA材を用いて、浸漬時間を3分〜7.5分として化成処理を行った。その結果は、下表3に示す。
【0042】
下表3に示したように、実施例23〜31においても優れた特性を持つ選択吸収面が得られた。すなわち、吸収率αが0.75以上で、放射率εが0.15以下、しかも選択吸収面効率についても0.65以上という良好な値である。
【0043】
【表3】
【0044】
なお、図5は、実施例23〜31の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と、吸収率および放射率との関係を示す図である。図5からは、実施例23〜31において浴温度が124℃である実施例28〜31が浸漬時間が3〜4分(180〜240秒)と短い時間で吸収率が0.86以上の高い値であることが判る。なお、浴温度119℃である実施例23〜27においても、比較的浸漬時間が少ない(5.5〜7.5分)条件でも吸収率が0.85以上であり、放射率は0.15以下であって、良好な特性を持つ選択吸収面が得られることが判る。また、放射率においても、浴温度124℃である実施例28〜31が浸漬時間が3〜4分と短くても低い(0.15以下の)放射率であることが判る。
【0045】
また、図6は、実施例23〜31の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と数熱効率(選択吸収面効率)との関係を示す図である。この図6からは、浴温度が124℃の実施例28〜31が浸漬時間が3〜4分と短く、しかも選択吸収面効率が0.73以上と良好な特性を持つ選択吸収面が得られることが判る。なお、浴温度119℃の実施例23〜27においても浸漬時間は実施例28〜31よりもやや長いが、選択吸収面効率は0.69以上の良好な特性を持つ選択吸収面が得られることが判る。
【0046】
(実施例32〜40)
実施例32〜40は、メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)に対する硫酸のモル濃度(mol/l)の比の値R[硫酸のモル濃度(mol/l)/メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)]を17に設定し、浴温度119℃と124℃とし、SUS基板としてJFE434LN2−2B材を用いて、浸漬時間を3分〜7.5分として化成処理を行った。その結果は、下表4、図7および図8に示す。
【0047】
下表4、図7および図8に示したように、上記実施例32〜40においても優れた特性を持つ選択吸収面が得られた。すなわち、吸収率αが0.75以上で、放射率εが0.15以下、しかも選択吸収面効率についても0.65以上という良好な値である。
【0048】
【表4】
【0049】
(実施例41〜49)
実施例41〜49は、メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)に対する硫酸のモル濃度(mol/l)の比の値R[硫酸のモル濃度(mol/l)/メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)]を20に設定し、浴温度119℃と124℃とし、SUS基板としてJFE434LN2−BA材を用いて、浸漬時間を3.5分〜7分として化成処理を行った。その結果は、下表5、図9および図10に示す。
【0050】
下表5、図9および図10に示したように、上記実施例41〜49においても優れた特性を持つ選択吸収面が得られた。すなわち、吸収率αが0.75以上で、放射率εが0.15以下、しかも選択吸収面効率についても0.65以上という良好な値である。
【0051】
【表5】
【0052】
(実施例50〜59)
実施例50〜59は、メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)に対する硫酸のモル濃度(mol/l)の比の値R[硫酸のモル濃度(mol/l)/メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)]を20に設定し、浴温度119℃と124℃とし、SUS基板としてJFE434LN2−2B材を用いて、浸漬時間を3.5分〜7分として化成処理を行った。その結果は、下表6、図11および図12に示す。
【0053】
下表6、図11および図12に示したように、上記実施例50〜59においても優れた特性を持つ選択吸収面が得られた。すなわち、吸収率αが0.75以上で、放射率εが0.15以下、しかも選択吸収面効率についても0.65以上という良好な値である。
【0054】
【表6】
【0055】
(実施例60〜65)
実施例60〜65は、メタバナジン酸ナトリウムの重量%(4.6w%)に対する硫酸の重量%(51.5wt%)、それぞれのモル濃度(mol/l)の比の値R[硫酸のモル濃度(mol/l)/メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)]をR=7(mol/l)/0.5(mol/l)=14に設定し、浴温度95℃とし、SUS基板としてJFE434LN2−BA材および430LN−BA材を用いて、浸漬時間を3分〜5分として化成処理を行った。その結果は、下表7、図13および図14に示す。
【0056】
下表7、図13および図14に示したように、上記実施例60〜65においても優れた特性を持つ選択吸収面が得られた。すなわち、JFE430LN−BA材を用いた実施例63〜65では、吸収率αが本実施の形態の閾値0.75以上で、放射率εが閾値0.15以下、しかも選択吸収面効率についても閾値0.65以上という良好な値である。
【0057】
【表7】
【0058】
(実施例66〜71)
実施例66〜71は、メタバナジン酸ナトリウムの重量%(4.6w%)に対する硫酸の重量%(51.5wt%)、それぞれのモル濃度(mol/l)の比の値R[硫酸のモル濃度(mol/l)/メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)]を14に設定し、浴温度95℃とし、SUS基板としてJFE434LN2−2B材および430LN−2B材を用いて、浸漬時間を3分〜5分として化成処理を行った。その結果は、下表8、図15および図16に示す。
【0059】
下表8、図15および図16に示したように、上記実施例66〜71においても優れた特性を持つ選択吸収面が得られた。すなわち、JFE430LN−2B材とJFE434LN2−2B材のどちらをを用いた場合も、吸収率αが本実施の形態の閾値0.75以上で、放射率εが閾値0.15以下、しかも選択吸収面効率についても閾値0.65以上という良好な値である。
【0060】
【表8】
【0061】
(実施例72〜83)
実施例72〜83は、メタバナジン酸ナトリウムの重量%(1w%)に対する硫酸の重量%(60wt%)、それぞれのモル濃度(mol/l)の比の値R[硫酸のモル濃度(mol/l)/メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)]を75に設定し、浴温度90℃と110℃とし、SUS基板としてJFE434LN2−BA材を用いて、浸漬時間を160〜540秒として化成処理を行った。その結果は、下表9、図17および図18に示す。
【0062】
下表9、図17および図18に示したように、上記実施例72〜83においても優れた特性を持つ選択吸収面が得られた。すなわち、浴温度110℃の実施例78〜83では165〜240秒の浸漬時間で、吸収率αが本実施の形態の閾値0.75以上(0.82以上)で、放射率εが閾値0.15以下(0.14以下)、しかも選択吸収面効率についても閾値0.65以上(0.68)という良好な値である。
【0063】
【表9】
【0064】
(実施例84〜104)
実施例84〜104は、メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)に対する硫酸のモル濃度(mol/l)の比の値R[硫酸のモル濃度(mol/l)/メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)]を10〜144に設定し、SUS基板としてJFE434LN2−BA材を用いて、硫酸の重量%を44.9〜65.0重量%の範囲に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を0.5〜7.0重量%の範囲に設定して化成処理を行い、浴組成比の値Rと特性と関係を調べたものである。その結果は、下表10に示す。
【0065】
下表10に示したように、上記実施例84〜104においても、本実施の形態に係る硫酸の重量%とメタバナジン酸ナトリウムの重量%の限定範囲(硫酸の重量%:44〜65重量%、メタバナジン酸ナトリウムの重量%:0.5〜7.0wt%)であれば優れた特性を持つ選択吸収面が得らることが判った。
すなわち、JFE434LN2−BA材を用いた場合、吸収率αが本実施の形態の閾値0.75以上で、かつ放射率εが閾値0.15以下、しかも選択吸収面効率についても閾値0.65以上という良好な値である。
【0066】
【表10】
【0067】
(実施例105〜119)
実施例105〜119は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の設定範囲の上限もしくは上限近傍の濃度に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の設定範囲の下限近傍もしくは上限(7.0wt%)に振って、化成処理を行っている。SUS基板としては、JFE434LN2−BA材を用いた。その結果は、下表11に示す。
【0068】
【表11】
【0069】
上記表11に示すように、実施例105〜119では、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の下限近傍もしくは上限に振った場合も、吸収率αが本実施の形態の閾値0.75以上で、かつ放射率εが閾値0.15以下、しかも選択吸収面効率についても閾値0.65以上という良好な値である。
【0070】
(実施例120〜141および比較例1、2)
実施例120〜141は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の限定範囲の上限もしくは上限近傍の濃度に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の下限近傍もしくは上限(7.0wt%)に振って、化成処理を行っている。比較例1、2は、硫酸を40.9wt%と42.7wt%として、本実施の形態の限定範囲の下限(44wt%)より小さく設定されている。また、比較例1、2においてメタバナジン酸ナトリウムは5.0wt%、5.2wt%として、本実施の形態の限定範囲内に設定した。実施例120〜141および比較例1、2では、SUS基板としては、JFE434LN2−BA材を用いた。その結果は、下表12に示す。
【0071】
【表12】
【0072】
上記表12に示すように、実施例120〜141では、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の下限近傍もしくは上限に振った場合も、吸収率αが本実施の形態の閾値0.75以上で、かつ放射率εが閾値0.15以下、しかも選択吸収面効率についても閾値0.65以上という良好な値である。
【0073】
しかし、比較例1、2では、硫酸の重量%が、本実施の形態の選択吸収面の形成方法における硫酸の重量%の限定範囲の下限(44.0wt%)より小さいため、放射率εが閾値0.15以上となり、しかも選択吸収面効率についても閾値0.65以下という値であった。
【0074】
したがって、上記実施例120〜141および比較例1、2の結果より、硫酸の重量%の下限は44.0wt%が、臨界的意義を有することが判る。
【0075】
(比較例3〜8)
下表13に示すように、比較例3は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の限定範囲の下限(44.0wt%)を下回る43.0wt%に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の下限(0.5wt%)に近い2.0wt%とした。
【0076】
比較例4は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の限定範囲の下限(44.0wt%)を下回る43.0wt%に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の上限(7.0wt%)に近い5.0wt%とした。
【0077】
比較例5は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の限定範囲の上限(65.0wt%)を上回る66.0wt%に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の上限(7.0wt%)に近い5.0wt%とした。
【0078】
比較例6は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の限定範囲内で下限(44.0wt%)に近い46.0wt%に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の下限(0.5wt%)を下回る0.3wt%とした。
【0079】
比較例7は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の限定範囲内で下限(44.0wt%)に近い46.0wt%に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の上限(7.0wt%)を上回る7.2wt%とした。
【0080】
比較例8は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の限定範囲内で上限(65.0wt%)に近い60.0wt%に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の上限(7.0wt%)を上回る7.2wt%とした。
【0081】
比較例3〜8では、SUS基板としては、JFE434LN2−BA材を用いた。
【0082】
比較例3〜8では、上記の設定条件で化成処理を行った。なお、浴温度は、本実施の形態の限定範囲である85.5℃〜124℃の範囲内である、100℃もしくは110℃とした。また、浸漬時間は、本実施の形態の限定範囲である75秒〜1320秒の限定範囲である200秒、1000秒とした。化成処理の結果は、下表13に示す。
【0083】
【表13】
【0084】
上記表13に示すように、比較例3の結果から、硫酸の重量%が43.0wt%となると、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の下限もしくは上限に近い場合に、吸収率αが0.379と大幅に低下して本実施の形態の閾値0.75からはかけ離れてしまう。また、比較例3の選択吸収面効率にあっては、0.302と大幅に低下して、本実施の形態の限定範囲の閾値0.65以下という選択吸収面として悪い特性を示した。また、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本発明の限定範囲内の上限に近づけた比較例4では、放射率εが0.17と上がってしまい、本実施の形態の限定範囲の閾値0.15を大きく上回ってしまい、選択吸収面として悪い特性を示した。
【0085】
このため、比較例3および比較例4を検討することによっても、硫酸の重量%の限定範囲の下限値44.0wt%を裏付けることができる。
【0086】
比較例5の結果からは、硫酸の重量%が66.0wt%となると、メタバナジン酸ナトリウムの重量%が本実施の形態の限定範囲内の上限近傍にあっても、吸収率αが0.75を大きく下回る0.632となり、選択吸収面効率は0.530と本実施の形態の限定範囲の閾値0.65を大きく下回り、選択吸収面として悪い特性となることが判る。
【0087】
このため、比較例5の結果を検討することにより、硫酸の重量%の限定範囲の上限値は、65.0wt%であることが裏付けられる。
【0088】
比較例6の結果からは、硫酸の重量%が本実施の形態の限定範囲内の下限近傍であっても、メタバナジン酸ナトリウムの重量%が本実施の形態の限定範囲の下限0.5wt%を下回ると吸収率αと選択吸収面効率が大幅に悪化することが判る。したがって、本実施の形態のメタバナジン酸ナトリウムの重量%の下限値は、0.5wt%が臨界的意義を有することが判る。
【0089】
同様にして、比較例7および比較例8の結果からは、メタバナジン酸ナトリウムの重量%の限定範囲の上限値は、7.0wt%が臨界的意義を有することが判る。
【0090】
(比較例9〜12)
下表14に示すように、比較例9は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の限定範囲内で下限(44.0wt%)に近い46.0wt%に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲内で下限(0.5wt%)に近い2.0wt%とし、浴温度が本実施の形態の限定範囲の下限85.5℃よりも低い84℃に設定している。
【0091】
比較例10は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の限定範囲内で上限(65.0wt%)に近い60.0wt%に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の上限(7.0wt%)に近い5.0wt%とし、浴温度が本実施の形態の限定範囲の上限(124℃)より高い126℃に設定されている。
【0092】
比較例11は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の限定範囲内で下限(44.0wt%)に近い46.0wt%に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の下限(0.5wt%)に近い2.0wt%とし、浴温度が本実施の形態の限定範囲内の100℃に設定し、浸漬時間を本実施の形態の限定範囲の下限(75秒)を下回る70秒に設定されている。
【0093】
比較例12は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の限定範囲内で上限(65.0wt%)に近い60.0wt%に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲内で上限(7.0wt%)に近い5.0wt%とし、浴温度が本実施の形態の限定範囲(85.5℃〜124℃)内である110℃とし、浸漬時間を本実施の形態の限定範囲(75秒〜1320秒)の上限1320秒を上回る1350秒に設定されている。
【0094】
比較例9〜12では、SUS基板としては、JFE434LN2−BA材を用いた。
【0095】
比較例9〜12では、上記の設定条件で化成処理を行った。その結果は、下表14に示す。
【0096】
【表14】
【0097】
上記表14に示すように、比較例9の結果から、硫酸の重量%やメタバナジン酸ナトリウムの重量%が限定範囲内にあっても、浴温度が84℃と限定範囲の下限85.5℃を下回ると吸収率αと選択吸収面効率が大幅に下回ることが判る。なお、このような一連の実験結果から、浴温度の下限値は、85.5℃が臨界的意義を有することが判った。
【0098】
比較例10の結果からは、本実施の形態の浴温度の限定範囲の上限値124℃を越える126℃では、吸収率αと選択吸収面効率が大幅に低下することが判った。したがって、本実施の形態の浴温度の上限124℃の臨界的意義を裏付けることができた。
【0099】
比較例11の結果からは、硫酸の重量%とメタバナジン酸ナトリウムの重量%と浴温度とが限定範囲内にあっても、浸漬時間が70秒であると、吸収率αと選択吸収面効率が大幅に低下することが判った。この条件では、浸漬時間の下限は75秒が臨界的意義を有することが判った。
【0100】
比較例12の結果からは、硫酸の重量%とメタバナジン酸ナトリウムの重量%と浴温度とが限定範囲内であっても、浸漬時間が1350秒であると、吸収率αと選択吸収面効率が大幅に低下することが判った。この条件では、浸漬時間の上限は1320秒が臨界的意義を有することが判った。
【0101】
以上、本実施の形態に係る太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法の各実施例および比較例について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、メタバナジン酸塩としてメタバナジン酸ナトリウムの他に、下表15に示す実施例142〜152の化成処理の結果からも判るように、メタバナジン酸アンモニウム(NH4VO3)を適用することが可能である。
【0102】
【表15】
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】実施例1〜11の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と、吸収率および放射率との関係を示す図である。
【図2】実施例1〜11の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と数熱効率(選択吸収面効率)との関係を示す図である。
【図3】実施例12〜22の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と、吸収率および放射率との関係を示す図である。
【図4】実施例12〜22の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と数熱効率(選択吸収面効率)との関係を示す図である。
【図5】実施例23〜31の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と、吸収率および放射率との関係を示す図である。
【図6】実施例23〜31の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と数熱効率(選択吸収面効率)との関係を示す図である。
【図7】実施例32〜40の浸漬時間と吸収率と放射率との関係を示す図である。
【図8】実施例32〜40の選択吸収面効率と浸漬時間との関係を示す図である。
【図9】実施例41〜49の浸漬時間と吸収率と放射率との関係を示す図である。
【図10】実施例41〜49の選択吸収面効率と浸漬時間との関係を示す図である。
【図11】実施例50〜59の浸漬時間と吸収率と放射率との関係を示す図である。
【図12】実施例50〜59の選択吸収面効率と浸漬時間との関係を示す図である。
【図13】実施例60〜65の浸漬時間と吸収率と放射率との関係を示す図である。
【図14】実施例60〜65の選択吸収面効率と浸漬時間との関係を示す図である。
【図15】実施例66〜71の浸漬時間と吸収率と放射率との関係を示す図である。
【図16】実施例66〜71の選択吸収面効率と浸漬時間との関係を示す図である。
【図17】実施例72〜83の浸漬時間と吸収率と放射率との関係を示す図である。
【図18】実施例72〜83の選択吸収面効率と浸漬時間との関係を示す図である。
【技術分野】
【0001】
本発明は、太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、太陽熱利用集熱器には、耐蝕性に優れたステンレス鋼に選択吸収面を形成したものがある。このステンレス鋼に選択吸収面を形成する方法としては、化成処理、めっき、スパッタリング、熱酸化、黒色塗料の塗布などの手法がある。これらの手法のうち、化成処理が工業的に最も優れている。この化成処理方法としては、酸性酸化法、アルカリ性酸化法、硫化酸化法、溶融塩浴法などがある。従来の化成処理方法としては、特許文献1〜3に記載の発明が知られている。
【0003】
特許文献1には、特に好ましい方法として、酸性酸化法およびアルカリ性酸化法が挙げられている。この酸性酸化法は、重クロム酸カリウムもしくは重クロム酸ナトリウムと硫酸からなる酸性溶液中で温度50〜150℃、浸漬時間3〜40分間化成処理することでフェライト系およびオーステナイト系ステンレス鋼の表面に選択吸収面を形成する。
【0004】
特許文献2には、ステンレス鋼板を硫酸銅溶液および硫酸溶液で化成処理する方法が開示されている。
【0005】
特許文献3は、40〜60重量%硫酸水溶液に過マンガン酸塩を3〜10重量%添加し、酸素ガスの発生が停止するまで反応させて得られる溶液に、ステンレス鋼を65℃〜120℃の温度範囲で所定時間浸漬して選択吸収面を形成する方法である。上記特許文献3の方法では、6価クロムを使わない点で環境負荷が小さく、120℃以下の反応温度にて比較的短時間で望ましい特性を持つ選択吸収面を形成できるという利点があった。
【0006】
【特許文献1】特開昭52−38652号公報
【特許文献2】特開昭58−8948号公報
【特許文献3】特開2006−336960号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記特許文献1の方法では、6価クロムを使うため環境負荷が大きいという問題がある。また、上記特許文献2の方法では、100℃以上の高温で処理しなくてはならないため、エネルギー消費が多く、水分の蒸発による浴組成が不安定になり易く、処理時間が極めて長いという問題がある。さらに、上記各方法では、化成処理反応のためにステンレス鋼基板へのBA処理(光輝焼鈍処理)が必要であった。このBA処理は、2B処理(大気焼鈍処理)に比べて溶接性が悪くなるという問題があった。さらに、上記特許文献3の方法で得られる選択吸収面と同様に環境負荷が小さく、且つ選択吸収面として同等以上に望ましい特性を持ち、さらに浸漬時間が短く、低浴温の処理が可能な選択吸収面の形成方法が要望されている。
【0008】
そこで、本発明の目的は、環境負荷が小さく、短時間の処理で特性の良好な選択吸収面をステンレス鋼に形成できる太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、環境負荷が小さく、かつ太陽熱利用集熱器の選択吸収面として優れた特性である、UV・可視・近赤外域については吸収率が高く、熱放射に関わる赤外域については放射率が低いという特性を持つ選択吸収面を得るための、ステンレス鋼の化成処理条件を鋭意検討した結果、44.0〜65.0重量%の硫酸を含む硫酸水溶液に、メタバナジン酸塩を添加してなる化成処理溶液にステンレス鋼を浸漬させることが有効であることを見出した。本発明は、太陽熱利用集熱器の選択吸収面およびその形成方法であり、44.0〜65.0重量%の硫酸を含む硫酸水溶液に、メタバナジン酸塩を添加してなる化成処理溶液にステンレス鋼を浸漬させることを要旨とする。
【0010】
ここで、バナジン酸塩は、0.5〜7.0重量%が添加されることが好ましい。また、化成処理溶液の浴温度は、85.5〜124℃であることが好ましい。さらに、ステンレス鋼の浸漬時間は、75〜1320秒であることが好ましい。
【0011】
添加成分であるメタバナジン酸塩は、メタバナジン酸ナトリウムとメタバナジン酸アンモニウムを用いることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、環境負荷が小さく、短時間の処理で特性の良好な選択吸収面をステンレス鋼に形成できる太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態に係る太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法について説明する。本実施の形態によれば、太陽熱利用集熱器に用いられるステンレス鋼に熱吸収率の高い選択吸収面を形成することができる。
【0014】
本実施の形態に係る太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法は、44.0〜65.0重量%(wt%)の硫酸を含む硫酸水溶液に、0.5〜7.0wt%のメタバナジン酸塩としてのメタバナジン酸ナトリウムを添加してなる化成処理溶液を用意し、浴温度85.5〜124℃でステンレス鋼を75〜1320秒の浸漬時間で浸漬させる。
【0015】
本実施の形態では、ステンレス鋼としてオーステナイト系、フェライト系、マルテンサイト系用いる。
【0016】
本実施の形態では、化成処理用溶液として、硫酸水溶液に5価バナジウム(V)を含むメタバナジン酸ナトリウムを添加した溶液を用いる。
【0017】
化成処理用溶液全体における硫酸の濃度(浴濃度)は、44.0〜65.0wt%の範囲の濃度である。硫酸の濃度が44.0wt%未満であると、浴温を高くするか、長い浸漬時間が必要となり、生産性が悪くなる。また、硫酸の濃度が65.0wt%を越えると、浸漬時間が短くなり、高い選択吸収効率を持つ選択吸収面を得るための制御が難しくなる。
【0018】
化成処理用溶液全体におけるメタバナジン酸ナトリウムの濃度(浴濃度)は、0.5〜7.0wt%の範囲の濃度である。メタバナジン酸塩の濃度が0.5wt%未満であると、浴温を高くするか、長い浸漬時間が必要となり、生産性が悪くなる。また、メタバナジン酸塩濃度が7.0wt%を越えると、浸漬時間が短くなり、高い選択吸収効率をもつ選択吸収面を得るための制御が難しくなる。
【0019】
化成処理用溶液の温度(浴温度)は、85.5〜124℃の範囲の温度である。
浸漬時間(処理時間)は、75〜1320秒の範囲であることが、製造される選択吸収面の熱収支特性の点において好ましいことが見出された。
【0020】
望ましい熱収支特性とは、太陽光による熱の主要な要素であるUV・可視・近赤外域の吸収である吸収率は高く、一方で選択吸収面からの熱放射に関わる赤外域の放射である放射率は低いという、太陽光の熱を効率よく吸収しつつも保持する熱を放射して逃がすことの少ない特性である。
【0021】
化成処理を行うステンレス鋼の種類については、耐食性の面からフェライト系ステンレス鋼を用いることが好ましいが、本発明の選択吸収面の形成方法はフェライト系ステンレス鋼に限定される方法ではなく、オーステナイト系およびマルテンサイト系ステンレス鋼においても適用可能である。
【0022】
本実施の形態では、メタバナジン酸塩としては、メタバナジン酸ナトリウム(NaV03)を用いるが、後述するように、メタバナジン酸アンモニウム(NH4VO3)を用いてもよい。
【0023】
本実施の形態に係る太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法によれば、選択吸収面効率(ηss)が0.65以上、吸収率(α)が0.75以上、放射率(ε)が0.15以下の特性を持つ選択吸収面を形成することができる。すなわち、本実施の形態に太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法によれば、選択吸収面効率(ηss)の下限値(閾値)が0.65、吸収率(α)の下限値(閾値)が0.75、放射率(ε)の上限値(閾値)が0.15となる。
【0024】
また、本実施の形態に係る太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法によれば、ステンレス鋼にBA処理(光輝焼鈍処理)が施されたBA材、ステンレス鋼に2B処理(大気焼鈍処理)が施された2B材ともに同等の選択吸収特性(吸収率と放射率)を有する選択吸収面が得られる。
【0025】
〔実施例〕
45.9〜51.4w%硫酸水溶液に、メタバナジン酸塩としてメタバナジン酸ナトリウム3.4〜4.5w%となるように添加して得た溶液で、下表1〜12に示す浸漬温度、浸漬時間の条件で、ステンレス鋼に選択吸収面を形成した。ステンレス鋼(基板)としては、フェライト系ステンレス鋼の一種であるSUS434系のJFE434LN2(JFEスチール(株))をBA処理したJFE434LN2−BA材と、2B処理したJFE434LN2−2B材を用いた。
【0026】
選択吸収特性の評価は、以下のようにして行った。
吸収率αは、UV・可視・近赤外域(300〜2100nm)の反射率Rを島津製作所製UV−3100を用いて測定し、下記の数式1のIおよびIIにて算出した。
【0027】
放射率εは、同様に赤外域(2500〜25000nm)の反射率Rを日本電子製WINSPEC100を用いて測定し、下記の数式1のIIIおよびIVにて算出した。
【0028】
【数1】
【0029】
選択吸収面効率(ηss)については、下記の数式2より算出した。
【0030】
【数2】
【0031】
(実施例1〜11)
実施例1〜11は、メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)に対する硫酸のモル濃度(mol/l)の比の値R[(硫酸のモル濃度(mol/l)/メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)]を14に設定し、浴温度119℃と124℃とし、SUS基板としてJFE434LN2−BA材を用いて、浸漬時間を3分〜7分として化成処理を行った。その結果は、下表1に示す。
【0032】
下表1に示したように、上記条件において優れた特性を持つ選択吸収面が得られた。本発明によって得られる優れた特性とは、太陽光による熱の主要な部分であるUV・可視・近赤外域の吸収である吸収率αが0.75以上と高く、且つ選択吸収面からの熱放射に関わる赤外域の放射である放射率εが0.15以下であるという、太陽光の熱を効率よく吸収しつつも保持する熱を放射して逃がすことの少ない特性である。また、この吸収率αと放射率εを併せて評価した指数である選択吸収面効率についても0.65以上という良好な値である。
【0033】
【表1】
【0034】
なお、図1は、実施例1〜11の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と、吸収率および放射率との関係を示す図である。図1からは、実施例1〜11において浴温度が124℃である実施例7〜11が浸漬時間が3〜4.5分(180〜270秒)と短い時間で吸収率が0.87以上の高い値であることが判る。なお、浴温度119℃である実施例1〜6においても、比較的浸漬時間が少ない(4.5〜7分)条件でも吸収率が0.75以上であり、放射率は0.15以下であって、良好な特性を持つ選択吸収面が得られることが判る。また、放射率においても、浴温度124℃である実施例7〜11が浸漬時間が3〜4.5分と短くても低い(0.15以下の)放射率であることが判る。
【0035】
また、図2は、実施例1〜11の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と数熱効率(選択吸収面効率)との関係を示す図である。この図2からは、浴温度が124℃の実施例7〜11が浸漬時間が3〜4.5分と短く、しかも選択吸収面効率が0.72以上と良好な特性を持つ選択吸収面が得られることが判る。なお、浴温度119℃の実施例1〜6においても浸漬時間は実施例7〜11よりもやや長いが、選択吸収面効率は0.65以上の良好な特性を持つ選択吸収面が得られることが判る。
【0036】
(実施例12〜22)
実施例12〜22は、メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)に対する硫酸のモル濃度(mol/l)の比の値R[硫酸のモル濃度(mol/l)/メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)]を14に設定し、浴温度119℃と124℃とし、SUS基板としてJFE434LN2−2B材を用いて、浸漬時間を3分〜7分として化成処理を行った。その結果は、下表2に示す。
【0037】
下表2に示したように、上記実施例12〜22においても優れた特性を持つ選択吸収面が得られた。すなわち、吸収率αが0.75以上で、放射率εが0.15以下、しかも選択吸収面効率についても0.65以上という良好な値である。
【0038】
【表2】
【0039】
なお、図3は、実施例12〜22の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と、吸収率および放射率との関係を示す図である。図3からは、実施例12〜22において浴温度が124℃である実施例18〜22が浸漬時間が3〜4.5分(180〜270秒)と短い時間で吸収率が0.87以上の高い値であることが判る。なお、浴温度119℃である実施例12〜17においても、比較的浸漬時間が少ない(4.5〜7分)条件でも吸収率が0.83以上であり、放射率は0.13以下であって、良好な特性を持つ選択吸収面が得られることが判る。また、放射率においても、浴温度124℃である実施例18〜22が浸漬時間が3〜4.5分と短くても低い(0.13以下の)放射率であることが判る。
【0040】
また、図4は、実施例12〜22の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と数熱効率(選択吸収面効率)との関係を示す図である。この図4からは、浴温度が124℃の実施例18〜22が浸漬時間が3〜4.5分と短く、しかも選択吸収面効率が0.72以上と良好な特性を持つ選択吸収面が得られることが判る。なお、浴温度119℃の実施例12〜17においても浸漬時間は実施例13〜22よりもやや長いが、選択吸収面効率は0.66以上の良好な特性を持つ選択吸収面が得られることが判る。
【0041】
(実施例23〜31)
実施例23〜31は、下表3に示すように、メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)に対する硫酸のモル濃度(mol/l)の比の値R[硫酸のモル濃度(mol/l)/メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)]を17に設定し、浴温度119℃と124℃とし、SUS基板としてJFE434LN2−BA材を用いて、浸漬時間を3分〜7.5分として化成処理を行った。その結果は、下表3に示す。
【0042】
下表3に示したように、実施例23〜31においても優れた特性を持つ選択吸収面が得られた。すなわち、吸収率αが0.75以上で、放射率εが0.15以下、しかも選択吸収面効率についても0.65以上という良好な値である。
【0043】
【表3】
【0044】
なお、図5は、実施例23〜31の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と、吸収率および放射率との関係を示す図である。図5からは、実施例23〜31において浴温度が124℃である実施例28〜31が浸漬時間が3〜4分(180〜240秒)と短い時間で吸収率が0.86以上の高い値であることが判る。なお、浴温度119℃である実施例23〜27においても、比較的浸漬時間が少ない(5.5〜7.5分)条件でも吸収率が0.85以上であり、放射率は0.15以下であって、良好な特性を持つ選択吸収面が得られることが判る。また、放射率においても、浴温度124℃である実施例28〜31が浸漬時間が3〜4分と短くても低い(0.15以下の)放射率であることが判る。
【0045】
また、図6は、実施例23〜31の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と数熱効率(選択吸収面効率)との関係を示す図である。この図6からは、浴温度が124℃の実施例28〜31が浸漬時間が3〜4分と短く、しかも選択吸収面効率が0.73以上と良好な特性を持つ選択吸収面が得られることが判る。なお、浴温度119℃の実施例23〜27においても浸漬時間は実施例28〜31よりもやや長いが、選択吸収面効率は0.69以上の良好な特性を持つ選択吸収面が得られることが判る。
【0046】
(実施例32〜40)
実施例32〜40は、メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)に対する硫酸のモル濃度(mol/l)の比の値R[硫酸のモル濃度(mol/l)/メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)]を17に設定し、浴温度119℃と124℃とし、SUS基板としてJFE434LN2−2B材を用いて、浸漬時間を3分〜7.5分として化成処理を行った。その結果は、下表4、図7および図8に示す。
【0047】
下表4、図7および図8に示したように、上記実施例32〜40においても優れた特性を持つ選択吸収面が得られた。すなわち、吸収率αが0.75以上で、放射率εが0.15以下、しかも選択吸収面効率についても0.65以上という良好な値である。
【0048】
【表4】
【0049】
(実施例41〜49)
実施例41〜49は、メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)に対する硫酸のモル濃度(mol/l)の比の値R[硫酸のモル濃度(mol/l)/メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)]を20に設定し、浴温度119℃と124℃とし、SUS基板としてJFE434LN2−BA材を用いて、浸漬時間を3.5分〜7分として化成処理を行った。その結果は、下表5、図9および図10に示す。
【0050】
下表5、図9および図10に示したように、上記実施例41〜49においても優れた特性を持つ選択吸収面が得られた。すなわち、吸収率αが0.75以上で、放射率εが0.15以下、しかも選択吸収面効率についても0.65以上という良好な値である。
【0051】
【表5】
【0052】
(実施例50〜59)
実施例50〜59は、メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)に対する硫酸のモル濃度(mol/l)の比の値R[硫酸のモル濃度(mol/l)/メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)]を20に設定し、浴温度119℃と124℃とし、SUS基板としてJFE434LN2−2B材を用いて、浸漬時間を3.5分〜7分として化成処理を行った。その結果は、下表6、図11および図12に示す。
【0053】
下表6、図11および図12に示したように、上記実施例50〜59においても優れた特性を持つ選択吸収面が得られた。すなわち、吸収率αが0.75以上で、放射率εが0.15以下、しかも選択吸収面効率についても0.65以上という良好な値である。
【0054】
【表6】
【0055】
(実施例60〜65)
実施例60〜65は、メタバナジン酸ナトリウムの重量%(4.6w%)に対する硫酸の重量%(51.5wt%)、それぞれのモル濃度(mol/l)の比の値R[硫酸のモル濃度(mol/l)/メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)]をR=7(mol/l)/0.5(mol/l)=14に設定し、浴温度95℃とし、SUS基板としてJFE434LN2−BA材および430LN−BA材を用いて、浸漬時間を3分〜5分として化成処理を行った。その結果は、下表7、図13および図14に示す。
【0056】
下表7、図13および図14に示したように、上記実施例60〜65においても優れた特性を持つ選択吸収面が得られた。すなわち、JFE430LN−BA材を用いた実施例63〜65では、吸収率αが本実施の形態の閾値0.75以上で、放射率εが閾値0.15以下、しかも選択吸収面効率についても閾値0.65以上という良好な値である。
【0057】
【表7】
【0058】
(実施例66〜71)
実施例66〜71は、メタバナジン酸ナトリウムの重量%(4.6w%)に対する硫酸の重量%(51.5wt%)、それぞれのモル濃度(mol/l)の比の値R[硫酸のモル濃度(mol/l)/メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)]を14に設定し、浴温度95℃とし、SUS基板としてJFE434LN2−2B材および430LN−2B材を用いて、浸漬時間を3分〜5分として化成処理を行った。その結果は、下表8、図15および図16に示す。
【0059】
下表8、図15および図16に示したように、上記実施例66〜71においても優れた特性を持つ選択吸収面が得られた。すなわち、JFE430LN−2B材とJFE434LN2−2B材のどちらをを用いた場合も、吸収率αが本実施の形態の閾値0.75以上で、放射率εが閾値0.15以下、しかも選択吸収面効率についても閾値0.65以上という良好な値である。
【0060】
【表8】
【0061】
(実施例72〜83)
実施例72〜83は、メタバナジン酸ナトリウムの重量%(1w%)に対する硫酸の重量%(60wt%)、それぞれのモル濃度(mol/l)の比の値R[硫酸のモル濃度(mol/l)/メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)]を75に設定し、浴温度90℃と110℃とし、SUS基板としてJFE434LN2−BA材を用いて、浸漬時間を160〜540秒として化成処理を行った。その結果は、下表9、図17および図18に示す。
【0062】
下表9、図17および図18に示したように、上記実施例72〜83においても優れた特性を持つ選択吸収面が得られた。すなわち、浴温度110℃の実施例78〜83では165〜240秒の浸漬時間で、吸収率αが本実施の形態の閾値0.75以上(0.82以上)で、放射率εが閾値0.15以下(0.14以下)、しかも選択吸収面効率についても閾値0.65以上(0.68)という良好な値である。
【0063】
【表9】
【0064】
(実施例84〜104)
実施例84〜104は、メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)に対する硫酸のモル濃度(mol/l)の比の値R[硫酸のモル濃度(mol/l)/メタバナジン酸ナトリウムのモル濃度(mol/l)]を10〜144に設定し、SUS基板としてJFE434LN2−BA材を用いて、硫酸の重量%を44.9〜65.0重量%の範囲に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を0.5〜7.0重量%の範囲に設定して化成処理を行い、浴組成比の値Rと特性と関係を調べたものである。その結果は、下表10に示す。
【0065】
下表10に示したように、上記実施例84〜104においても、本実施の形態に係る硫酸の重量%とメタバナジン酸ナトリウムの重量%の限定範囲(硫酸の重量%:44〜65重量%、メタバナジン酸ナトリウムの重量%:0.5〜7.0wt%)であれば優れた特性を持つ選択吸収面が得らることが判った。
すなわち、JFE434LN2−BA材を用いた場合、吸収率αが本実施の形態の閾値0.75以上で、かつ放射率εが閾値0.15以下、しかも選択吸収面効率についても閾値0.65以上という良好な値である。
【0066】
【表10】
【0067】
(実施例105〜119)
実施例105〜119は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の設定範囲の上限もしくは上限近傍の濃度に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の設定範囲の下限近傍もしくは上限(7.0wt%)に振って、化成処理を行っている。SUS基板としては、JFE434LN2−BA材を用いた。その結果は、下表11に示す。
【0068】
【表11】
【0069】
上記表11に示すように、実施例105〜119では、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の下限近傍もしくは上限に振った場合も、吸収率αが本実施の形態の閾値0.75以上で、かつ放射率εが閾値0.15以下、しかも選択吸収面効率についても閾値0.65以上という良好な値である。
【0070】
(実施例120〜141および比較例1、2)
実施例120〜141は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の限定範囲の上限もしくは上限近傍の濃度に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の下限近傍もしくは上限(7.0wt%)に振って、化成処理を行っている。比較例1、2は、硫酸を40.9wt%と42.7wt%として、本実施の形態の限定範囲の下限(44wt%)より小さく設定されている。また、比較例1、2においてメタバナジン酸ナトリウムは5.0wt%、5.2wt%として、本実施の形態の限定範囲内に設定した。実施例120〜141および比較例1、2では、SUS基板としては、JFE434LN2−BA材を用いた。その結果は、下表12に示す。
【0071】
【表12】
【0072】
上記表12に示すように、実施例120〜141では、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の下限近傍もしくは上限に振った場合も、吸収率αが本実施の形態の閾値0.75以上で、かつ放射率εが閾値0.15以下、しかも選択吸収面効率についても閾値0.65以上という良好な値である。
【0073】
しかし、比較例1、2では、硫酸の重量%が、本実施の形態の選択吸収面の形成方法における硫酸の重量%の限定範囲の下限(44.0wt%)より小さいため、放射率εが閾値0.15以上となり、しかも選択吸収面効率についても閾値0.65以下という値であった。
【0074】
したがって、上記実施例120〜141および比較例1、2の結果より、硫酸の重量%の下限は44.0wt%が、臨界的意義を有することが判る。
【0075】
(比較例3〜8)
下表13に示すように、比較例3は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の限定範囲の下限(44.0wt%)を下回る43.0wt%に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の下限(0.5wt%)に近い2.0wt%とした。
【0076】
比較例4は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の限定範囲の下限(44.0wt%)を下回る43.0wt%に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の上限(7.0wt%)に近い5.0wt%とした。
【0077】
比較例5は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の限定範囲の上限(65.0wt%)を上回る66.0wt%に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の上限(7.0wt%)に近い5.0wt%とした。
【0078】
比較例6は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の限定範囲内で下限(44.0wt%)に近い46.0wt%に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の下限(0.5wt%)を下回る0.3wt%とした。
【0079】
比較例7は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の限定範囲内で下限(44.0wt%)に近い46.0wt%に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の上限(7.0wt%)を上回る7.2wt%とした。
【0080】
比較例8は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の限定範囲内で上限(65.0wt%)に近い60.0wt%に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の上限(7.0wt%)を上回る7.2wt%とした。
【0081】
比較例3〜8では、SUS基板としては、JFE434LN2−BA材を用いた。
【0082】
比較例3〜8では、上記の設定条件で化成処理を行った。なお、浴温度は、本実施の形態の限定範囲である85.5℃〜124℃の範囲内である、100℃もしくは110℃とした。また、浸漬時間は、本実施の形態の限定範囲である75秒〜1320秒の限定範囲である200秒、1000秒とした。化成処理の結果は、下表13に示す。
【0083】
【表13】
【0084】
上記表13に示すように、比較例3の結果から、硫酸の重量%が43.0wt%となると、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の下限もしくは上限に近い場合に、吸収率αが0.379と大幅に低下して本実施の形態の閾値0.75からはかけ離れてしまう。また、比較例3の選択吸収面効率にあっては、0.302と大幅に低下して、本実施の形態の限定範囲の閾値0.65以下という選択吸収面として悪い特性を示した。また、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本発明の限定範囲内の上限に近づけた比較例4では、放射率εが0.17と上がってしまい、本実施の形態の限定範囲の閾値0.15を大きく上回ってしまい、選択吸収面として悪い特性を示した。
【0085】
このため、比較例3および比較例4を検討することによっても、硫酸の重量%の限定範囲の下限値44.0wt%を裏付けることができる。
【0086】
比較例5の結果からは、硫酸の重量%が66.0wt%となると、メタバナジン酸ナトリウムの重量%が本実施の形態の限定範囲内の上限近傍にあっても、吸収率αが0.75を大きく下回る0.632となり、選択吸収面効率は0.530と本実施の形態の限定範囲の閾値0.65を大きく下回り、選択吸収面として悪い特性となることが判る。
【0087】
このため、比較例5の結果を検討することにより、硫酸の重量%の限定範囲の上限値は、65.0wt%であることが裏付けられる。
【0088】
比較例6の結果からは、硫酸の重量%が本実施の形態の限定範囲内の下限近傍であっても、メタバナジン酸ナトリウムの重量%が本実施の形態の限定範囲の下限0.5wt%を下回ると吸収率αと選択吸収面効率が大幅に悪化することが判る。したがって、本実施の形態のメタバナジン酸ナトリウムの重量%の下限値は、0.5wt%が臨界的意義を有することが判る。
【0089】
同様にして、比較例7および比較例8の結果からは、メタバナジン酸ナトリウムの重量%の限定範囲の上限値は、7.0wt%が臨界的意義を有することが判る。
【0090】
(比較例9〜12)
下表14に示すように、比較例9は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の限定範囲内で下限(44.0wt%)に近い46.0wt%に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲内で下限(0.5wt%)に近い2.0wt%とし、浴温度が本実施の形態の限定範囲の下限85.5℃よりも低い84℃に設定している。
【0091】
比較例10は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の限定範囲内で上限(65.0wt%)に近い60.0wt%に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の上限(7.0wt%)に近い5.0wt%とし、浴温度が本実施の形態の限定範囲の上限(124℃)より高い126℃に設定されている。
【0092】
比較例11は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の限定範囲内で下限(44.0wt%)に近い46.0wt%に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲の下限(0.5wt%)に近い2.0wt%とし、浴温度が本実施の形態の限定範囲内の100℃に設定し、浸漬時間を本実施の形態の限定範囲の下限(75秒)を下回る70秒に設定されている。
【0093】
比較例12は、硫酸の重量%を、本実施の形態の硫酸の重量%の限定範囲内で上限(65.0wt%)に近い60.0wt%に設定し、メタバナジン酸ナトリウムの重量%を本実施の形態の限定範囲内で上限(7.0wt%)に近い5.0wt%とし、浴温度が本実施の形態の限定範囲(85.5℃〜124℃)内である110℃とし、浸漬時間を本実施の形態の限定範囲(75秒〜1320秒)の上限1320秒を上回る1350秒に設定されている。
【0094】
比較例9〜12では、SUS基板としては、JFE434LN2−BA材を用いた。
【0095】
比較例9〜12では、上記の設定条件で化成処理を行った。その結果は、下表14に示す。
【0096】
【表14】
【0097】
上記表14に示すように、比較例9の結果から、硫酸の重量%やメタバナジン酸ナトリウムの重量%が限定範囲内にあっても、浴温度が84℃と限定範囲の下限85.5℃を下回ると吸収率αと選択吸収面効率が大幅に下回ることが判る。なお、このような一連の実験結果から、浴温度の下限値は、85.5℃が臨界的意義を有することが判った。
【0098】
比較例10の結果からは、本実施の形態の浴温度の限定範囲の上限値124℃を越える126℃では、吸収率αと選択吸収面効率が大幅に低下することが判った。したがって、本実施の形態の浴温度の上限124℃の臨界的意義を裏付けることができた。
【0099】
比較例11の結果からは、硫酸の重量%とメタバナジン酸ナトリウムの重量%と浴温度とが限定範囲内にあっても、浸漬時間が70秒であると、吸収率αと選択吸収面効率が大幅に低下することが判った。この条件では、浸漬時間の下限は75秒が臨界的意義を有することが判った。
【0100】
比較例12の結果からは、硫酸の重量%とメタバナジン酸ナトリウムの重量%と浴温度とが限定範囲内であっても、浸漬時間が1350秒であると、吸収率αと選択吸収面効率が大幅に低下することが判った。この条件では、浸漬時間の上限は1320秒が臨界的意義を有することが判った。
【0101】
以上、本実施の形態に係る太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法の各実施例および比較例について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、メタバナジン酸塩としてメタバナジン酸ナトリウムの他に、下表15に示す実施例142〜152の化成処理の結果からも判るように、メタバナジン酸アンモニウム(NH4VO3)を適用することが可能である。
【0102】
【表15】
【図面の簡単な説明】
【0103】
【図1】実施例1〜11の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と、吸収率および放射率との関係を示す図である。
【図2】実施例1〜11の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と数熱効率(選択吸収面効率)との関係を示す図である。
【図3】実施例12〜22の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と、吸収率および放射率との関係を示す図である。
【図4】実施例12〜22の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と数熱効率(選択吸収面効率)との関係を示す図である。
【図5】実施例23〜31の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と、吸収率および放射率との関係を示す図である。
【図6】実施例23〜31の浴温度が119℃と124℃の場合の浸漬時間と数熱効率(選択吸収面効率)との関係を示す図である。
【図7】実施例32〜40の浸漬時間と吸収率と放射率との関係を示す図である。
【図8】実施例32〜40の選択吸収面効率と浸漬時間との関係を示す図である。
【図9】実施例41〜49の浸漬時間と吸収率と放射率との関係を示す図である。
【図10】実施例41〜49の選択吸収面効率と浸漬時間との関係を示す図である。
【図11】実施例50〜59の浸漬時間と吸収率と放射率との関係を示す図である。
【図12】実施例50〜59の選択吸収面効率と浸漬時間との関係を示す図である。
【図13】実施例60〜65の浸漬時間と吸収率と放射率との関係を示す図である。
【図14】実施例60〜65の選択吸収面効率と浸漬時間との関係を示す図である。
【図15】実施例66〜71の浸漬時間と吸収率と放射率との関係を示す図である。
【図16】実施例66〜71の選択吸収面効率と浸漬時間との関係を示す図である。
【図17】実施例72〜83の浸漬時間と吸収率と放射率との関係を示す図である。
【図18】実施例72〜83の選択吸収面効率と浸漬時間との関係を示す図である。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
44.0〜65.0重量%の硫酸を含む硫酸水溶液に、メタバナジン酸塩を添加してなる化成処理溶液にステンレス鋼を浸漬させることを特徴とする太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法。
【請求項2】
前記バナジン酸塩は、0.5〜7.0重量%が添加されることを特徴とする請求項1に記載の太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法。
【請求項3】
前記化成処理溶液の浴温度は、85.5〜124℃であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法。
【請求項4】
前記ステンレス鋼の浸漬時間は、75〜1320秒であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法。
【請求項5】
前記メタバナジン酸塩は、メタバナジン酸ナトリウムまたはメタバナジン酸アンモニウムであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法で形成されたことを特徴とする太陽熱利用集熱器の選択吸収面。
【請求項1】
44.0〜65.0重量%の硫酸を含む硫酸水溶液に、メタバナジン酸塩を添加してなる化成処理溶液にステンレス鋼を浸漬させることを特徴とする太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法。
【請求項2】
前記バナジン酸塩は、0.5〜7.0重量%が添加されることを特徴とする請求項1に記載の太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法。
【請求項3】
前記化成処理溶液の浴温度は、85.5〜124℃であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法。
【請求項4】
前記ステンレス鋼の浸漬時間は、75〜1320秒であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか一項に記載の太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法。
【請求項5】
前記メタバナジン酸塩は、メタバナジン酸ナトリウムまたはメタバナジン酸アンモニウムであることを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか一項に記載の太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法。
【請求項6】
請求項1乃至請求項5のいずれか一項に記載の太陽熱利用集熱器の選択吸収面の形成方法で形成されたことを特徴とする太陽熱利用集熱器の選択吸収面。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【公開番号】特開2009−185327(P2009−185327A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−25564(P2008−25564)
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成20年2月5日(2008.2.5)
【出願人】(000006895)矢崎総業株式会社 (7,019)
【Fターム(参考)】
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