説明

好熱性微生物の形質転換方法

【課題】本発明は、形質転換効率が高い好熱性微生物の形質転換方法を提供すること。
【解決手段】本発明は、好熱性微生物の形質転換方法を提供し、該方法は、該好熱性微生物由来のDNAメチル化酵素またはこれと同一の活性を有する酵素によってメチル化DNAを調製する工程、および該メチル化DNAを該好熱性微生物に導入する工程を含み、該酵素は、該好熱性微生物とは異なる種の宿主中に存在し、そして該酵素以外のDNAメチル化酵素は、該宿主中に存在しない。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、好熱性微生物の形質転換方法に関する。
【背景技術】
【0002】
好熱性微生物は古くから研究されており、数多くの好熱性微生物が単離、同定されている。好熱性微生物は耐熱性酵素の供給源であるとともに、高温下の発酵などバイオプロセスの宿主としても適している。高温下のバイオプロセスは、菌体内の高い代謝速度に加えて、雑菌増殖の防止、発酵熱の有効利用、原料および生産物の水溶性向上など、数多くの点で、従来の常温下のバイオプロセスにはない利点を有する。
【0003】
しかし、好熱性微生物の形質転換方法は、一部の微生物について報告されているのみである。一般に、微生物は、外敵の侵入から自らを防護する手段として制限修飾系を発達させている。制限修飾系とは、ウイルスやファージなどといった外来DNAから自己を守るために発達した機構である。I〜III型制限修飾系は、DNAを切断する制限酵素とDNAをメチル化する修飾酵素とから構成される。これら制限修飾系を保有する細菌内では、異種生物由来またはウイルスなどのDNAが細菌に侵入したとしても、制限酵素により切断を受け複製できない。修飾酵素は、制限酵素が認識する塩基配列と同じ塩基配列を認識してこれをメチル化し、制限酵素による切断からDNAを守る役割を果たす。自らのDNAが生成した直後にこれをメチル化することによって、自らのDNAを自らの制限酵素から保護している。すなわち、外来DNAを微生物に導入して微生物を形質転換するには、制限修飾系の解除または克服が重要な手段となり得る。好熱性微生物の多くは、上述のI〜III型の制限修飾系のほかにIV型の制限系も有している。IV型の制限系は、「余分なメチル化」を認識し切断するという特徴を有し、IV型の制限系の解除もきわめて重要である。このため、バイオプロセスには、制限修飾系が詳しく研究されている大腸菌や枯草菌など特定の微生物が汎用されている。
【0004】
新たな宿主に対する形質転換系の開発も進められている。非特許文献1には、クロストリジウム・ディフィシル(Clostridium difficile)CD6株に対する形質転換系が記載されている。クロストリジウム・ディフィシルに導入する核酸を調製するための大腸菌HB101株に対して、クロストリジウム・ディフィシルの制限修飾系による制限を回避するために、クロストリジウム・ディフィシルの修飾酵素と類似の修飾酵素であるM.Sau96Iの遺伝子を導入して、このメチル化酵素の遺伝子を発現する宿主を構築したことが記載されている。このような大腸菌宿主を用いて調製した核酸を接合伝達法によりクロストリジウム・ディフィシルに導入したところ、形質転換効率が上昇し、核酸供与体あたり1.0×10−7〜1.0×10−6の値が得られている。
【0005】
非特許文献2には、ビフィドバクテリウム・アドレセンティス(Bifidobacterium adolescentis)に対する形質転換系が記載されている。ビフィドバクテリウム・アドレセンティスに導入する核酸を調製するための大腸菌TOP10株に対して、ビフィドバクテリウム・アドレセンティスの制限修飾系による制限を回避するために、ビフィドバクテリウム・アドレセンティスのゲノム情報からII型制限修飾系の修飾酵素であるメチル化酵素のBAD1233およびBAD1283の遺伝子を同定し、これらの遺伝子を導入してこれらのメチル化酵素の遺伝子を発現する宿主を構築したことが記載されている。このような大腸菌宿主を用いて調製した核酸を電気穿孔法によりビフィドバクテリウム・アドレセンティスに導入したところ、形質転換効率が10〜10倍上昇している。非特許文献2には、I型制限修飾系の修飾酵素の利用についても記載されている。
【0006】
特許文献1には、好熱性バチラス属細菌に対する形質転換系が記載されている。具体的には、ヘモフィラス・アエジプチウス(Haemophilus aegyptius)由来のHaeIIIメチルトランスフェラーゼ(メチル化酵素)の遺伝子を大腸菌に導入してこの酵素の遺伝子を発現する宿主を構築し、このような大腸菌宿主を用いて調製した核酸を電気穿孔法によりバチラス属細菌に導入すると、形質転換効率が上昇した。このバチラス属細菌にはHaeIII制限修飾系(GGCC配列を認識する系)に相同または類似の制限修飾系(例えば、GGGCCC配列を認識する系など)があると思われる。
【0007】
ところで、好熱性微生物の中でも、特にジオバチラス・カウストフィラス(Geobacillus kaustophilus)に対する期待が大きい。ジオバチラス・カウストフィラスは、耐熱性酵素の供給源として長く利用されてきた経緯があり、ゲノム情報が公開されている点、培養が容易である点、栄養要求性がほとんどない点、グラム陽性菌のため高いタンパク質分泌能が期待できる点、GC含量が50%程度であるため比較的GC含量の影響を受けずに異種遺伝子の発現が期待できる点など、数多くの利点を有するからである。しかし、形質転換系はまだ確立されていない。ジオバチラス・カウストフィラスは、ゲノム情報から2つのI型制限修飾系および1つのII型制限修飾系のほかに3つのIV型制限系を有すると推定されている。ゲノムが公開されているジオバチラス(Geobacillus)属の多く(例えば、Geobacillus kaustophilus、Geobacillus sp. WCH70、Geobacillus sp. Y412MC10、Geobacillus sp. Y412MC61、Geobacillus thermodenitrificans NG80-2)もIV型制限系を有すると推定されている。
【0008】
特許文献2および非特許文献3には、核酸受容体となるジオバチラス・サーモグルコシダシウス(Geobacillus thermoglucosidasius)に対して核酸供与体となる大腸菌JM109株で調製したDNAを電気穿孔法により導入して形質転換体を得たことが記載されている。しかし、この例では、特に制限修飾系の解除は行われていない。これは、この細菌が、たまたま制限修飾系を有していないからと考えられる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】国際特許出願公開第01/85966号公報
【特許文献2】特表2008−539710号公報
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】D. Purdyら、Mol. Microbiol.、2002年、第46巻、p. 439-452
【非特許文献2】K. Yasuiら、[online]、2008年11月12日、Nucleic Acids Res.、2009年、第37巻、第1号、e3、doi:10.1093/nar/gkn884
【非特許文献3】R. E. Crippsら、Metabolic Engineering、2009年、第11巻、p. 398-408
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、形質転換効率が高い好熱性微生物の形質転換方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意研究を行った結果、好熱性微生物由来のDNAメチル化酵素またはこれと同一の活性を有する酵素の遺伝子を好熱性微生物とは異なる種の宿主中で発現させ、かつこの宿主中でこれらの酵素以外のDNAメチル化酵素の遺伝子を発現させないことによって、このように作製された宿主を用いて調製したDNAによる好熱性微生物の形質転換効率が非常に高いことを見出し、本発明を完成させた。
【0013】
本発明は、好熱性微生物の形質転換方法を提供し、該方法は、該好熱性微生物由来のDNAメチル化酵素またはこれと同一の活性を有する酵素によってメチル化DNAを調製する工程、および該メチル化DNAを該好熱性微生物に導入する工程を含み、該酵素は、該好熱性微生物とは異なる種の宿主中に存在し、そして該酵素以外のDNAメチル化酵素は、該宿主中に存在しない。
【0014】
1つの実施態様では、制限酵素は、上記宿主中に存在しない。
【0015】
1つの実施態様では、上記メチル化DNAを調製する工程は、(1)上記好熱性微生物由来のDNAメチル化酵素またはこれと同一の活性を有する酵素の遺伝子を発現し、該酵素以外のDNAメチル化酵素の遺伝子を発現しない宿主を作製する工程、および(2)該工程(1)で得られた宿主に任意のDNAを導入して、形質転換体を調製する工程を含む。
【0016】
1つの実施態様では、上記工程(1)において、上記宿主は、制限酵素の遺伝子を発現しない。
【0017】
1つの実施態様では、上記メチル化DNAを上記好熱性微生物に導入する工程において、該メチル化DNAを接合伝達法により導入する。
【0018】
1つの実施態様では、上記好熱性微生物は、ジオバチラス属細菌である。
【0019】
1つの実施態様では、上記ジオバチラス属細菌は、ジオバチラス・カウストフィラスである。
【0020】
1つの実施態様では、上記宿主は、大腸菌である。
【発明の効果】
【0021】
本発明によれば、好熱性微生物の形質転換を高い形質転換効率で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】プラスミドpIR408(a)、pSTE33T(b)およびpUCG18T(c)の構造を示す模式図である。
【図2】2重交叉相同組換え実験において、用いたプラスミドpΔGK1155−1の構造を示す模式図(a)、PCR解析の結果を示す電気泳動写真(b)、ウラシル要求性のスクリーニング結果を示す写真(c)および実験手順を示す模式図(d)である。
【図3】GK1155遺伝子のマーカーフリー欠失実験において、用いたプラスミドpΔGK1155−2の構造を示す模式図(a)、PCR解析の結果を示す電気泳動写真(b)および実験手順を示す模式図(c)である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明で用いる好熱性微生物とは、生育至適温度が45℃以上または生育限界温度が55℃以上の微生物をいい、生育可能温度が好ましくは40〜130℃、より好ましくは42〜75℃の微生物をいう。ここで、微生物とは、細菌(真正細菌)、始原菌(古細菌)および真核微生物を含む。好熱性微生物としては、例えば、ジオバチラス(Geobacillus)属細菌、バチラス(Bacillus)属細菌、サーマス(Thermus)属細菌、アクイフェックス(Aquifex)属細菌、サーモトーガ(Thermotoga)属細菌、サーモデスルフォバクテリウム(Thermodesulfobacterium)属細菌、メタノピラス(Methanopyrus)属始原菌、ジオゲンマ(Geogemma)属始原菌、ピロロバス(Pyrolobus)属始原菌、ピロディクチウム(Pyrodictium)属始原菌、ハイパーサーマス(Hyperthermus)属始原菌,ピロコッカス(Pyrococcus)属始原菌、ピロバキュルム(Pyrobaculum)属始原菌、アエロピュルム(Aeropyrum)属始原菌、サーモコッカス(Thermococcus)属細菌、メタノカルドコッカス(Methanocaldococcus)属始原菌、スルフォロバス(Sulfolobus)属始原菌、サーモマイセス(Thermomyces)属子嚢菌が挙げられる。好ましくはジオバチラス属細菌であり、より好ましくはジオバチラス・カウストフィラス(Geobacillus kaustophilus)である。
【0024】
本発明でいう形質転換とは、微生物のゲノムDNAの改変または微生物へのDNAの導入によりもたらされる改変をいい、染色体DNAの欠失、複製、変異、または自律複製プラスミドの導入による形質変化すべてを含む。導入されたDNAは、染色体に組み込まれて維持、複製されてもよく、プラスミドなどのように染色体とは独立して維持、複製されてもよい。DNAを微生物の染色体の特定の部位に組み込む場合には、相同組換え技術を用いてもよい。
【0025】
本発明の方法は、形質転換の対象とする好熱性微生物由来のDNAメチル化酵素またはこれと同一の活性を有する酵素によってメチル化DNAを調製する工程と、このように調製されたメチル化DNAを形質転換の対象とする好熱性微生物に導入する工程とを含む。
【0026】
本発明で用いるDNAメチル化酵素とは、DNAの塩基配列上の特定の塩基をメチル化する酵素(メチラーゼ)、特定の塩基にメチル基を転移する酵素(メチルトランスフェラーゼ)、または修飾酵素をいう。
【0027】
DNAメチル化酵素は主として微生物などの生体防御系の1つである制限修飾系に由来する。制限修飾系としては、I型、II型、III型およびIV型が挙げられる。
【0028】
I〜III型制限修飾系は、自身のDNAをメチル化などで修飾する修飾酵素と、DNAの特定配列を認識切断するが、修飾を受けた部位は切断しない制限酵素との組み合わせからなり、外部から侵入したファージなどのDNAを選択的に切断分解する生体防御系である。I型制限修飾系は、3種類のサブユニットR、MおよびSから構成される複合体であり、サブユニットは、それぞれ制限(切断)、修飾(メチル化)および認識を担う。II型制限修飾系は、制限酵素および修飾酵素から構成されるが、一般に複合体を形成していない。II型制限修飾系には、遺伝子工学で用いられる制限酵素のほとんどが属し、対応するメチラーゼによって制限酵素の反応が抑制される。III型制限修飾系は、2種類のサブユニットRおよびMから構成される複合体であり、サブユニットは、それぞれ制限(切断)および修飾(メチル化)を担う。
【0029】
IV型制限系は制限酵素のみから構成され、修飾酵素を含まない。ファージなどにみられるメチル化DNAを認識し切断する。IV型制限系は、「余分なメチル化」を認識し切断するという特徴を有する。認識配列については不明確なものがほとんどであるが、様々なメチル化DNAを認識し切断するとされている。
【0030】
本発明では、形質転換の対象とする好熱性微生物由来のDNAメチル化酵素を用いるが、これと同一の活性を有する限り、ほかに由来する酵素を用いてもよい。すなわち、形質転換の対象とする好熱性微生物の制限修飾系によるDNAの切断を回避するメチル化をDNAに導入することができる酵素であればよい。
【0031】
形質転換の対象とする好熱性微生物由来のDNAメチル化酵素またはこれと同一の活性を有する酵素によってメチル化されたDNAは、好熱性微生物に導入された後もDNAメチル化酵素に対応する制限酵素による切断を受けない。このため、形質転換効率が上昇する。
【0032】
メチル化されるDNAは、特に制限されず、任意のDNAである。天然由来のものであっても、人工的なものであってもよい。例えば、生物から抽出して得られるものであっても、PCRや有機合成などの人工的な方法によって得られるものであってもよい。
【0033】
DNA上の塩基配列が有する情報の観点からは、好ましくは遺伝子であり、より好ましくはタンパク質をコードする遺伝子である。タンパク質をコードする遺伝子を導入する場合には、該遺伝子を導入した好熱性微生物中で該遺伝子からタンパク質を発現するために、様々なDNA断片を該遺伝子に付加し得る。例えば、プロモーター断片を該遺伝子の上流に付加し得る。例えば、ターミネーター断片を該遺伝子の下流に付加し得る。プロモーターとしては、シグマプロモーター、マルトース代謝オペロンプロモーター、トリプトファン生合成オペロンプロモーターが挙げられるが、特に制限されない。ターミネーターとしては、T7ターミネーター、ラムダバクテリオファージt0ターミネーター、rrnBターミネーターが挙げられるが、特に制限されない。さらに、例えば、該遺伝子から発現するタンパク質を菌体外に分泌させるために分泌シグナルを該遺伝子の上流に付加し得る。これらのDNA断片が発現カセットを構成し、プラスミドとして維持されていることが好ましい。
【0034】
プラスミドは、プラスミドの調製および形質転換体の検出を容易にする点で、選択マーカーと適切な複製遺伝子とを有することが好ましい。選択マーカーとしては、例えば、薬剤耐性遺伝子、栄養要求性遺伝子が挙げられる。薬剤耐性遺伝子としては、例えば、アンピシリン耐性遺伝子(Amp)、カナマイシン耐性遺伝子(Kan)が挙げられるが、特に制限されない。栄養要求性遺伝子としては、ウラシル生合成遺伝子、トリプトファン生合成遺伝子、ヒスチジン生合成遺伝子が挙げられるが、特に制限されない。栄養要求性遺伝子は、対応する栄養生合成遺伝子が欠失している宿主を用いる場合に好ましく用いられる。
【0035】
メチル化DNAを形質転換の対象とする好熱性微生物に導入する方法としては、特に制限されないが、例えば、接合伝達法、電気穿孔法、プロトプラスト融合法、パーティクルガン法、コンピテントセルを用いる方法が挙げられる。好ましくは接合伝達法である。接合伝達法では、核酸供与体(好熱性微生物とは異なる種の宿主、大腸菌など)が核酸受容体(好熱性微生物)と接合し、核酸供与体の中の核酸を核酸受容体に伝達する。接合伝達法によりDNAを導入するには、核酸供与体の中に接合と伝達に関与する遺伝子(tra遺伝子またはmob遺伝子)が発現している必要がある。このような遺伝子を含むプラスミドとしては、例えば、RP4由来プラスミド、RP1由来プラスミド、R68.45由来プラスミド、R388由来プラスミド、S−a由来プラスミド、プラスミドpMD101、プラスミドpUB307、プラスミドpRK2013、プラスミドpJRD215、プラスミドpSUP1011が挙げられる。接合伝達は、核酸供与体から核酸を一旦回収する必要がなく、単に核酸供与体と核酸受容体とを混合させるだけでよいため、簡単にDNAを導入することができる。大腸菌などの好熱性微生物とは異なる種の宿主、特に常温菌から好熱性微生物にDNAを接合伝達する場合、接合伝達後に、温度を好熱性微生物の生育温度まで上昇させることにより、核酸供与体が死滅するため、DNAが導入された核酸受容体を簡単に選別することができる。
【0036】
本発明の特徴は、形質転換の対象とする好熱性微生物由来のDNAメチル化酵素またはこれと同一の活性を有する酵素が好熱性微生物とは異なる種の宿主中に存在して、すなわちインビボにおいて、形質転換に用いるDNAをメチル化する点にある。インビボのメチル化は、インビトロのメチル化に比べて、簡単かつ確実に大量のメチル化DNAを調製できる。
【0037】
形質転換の対象とする好熱性微生物とは異なる種の宿主としては、特に制限されないが、ゲノムや形質転換系などがよく研究されている点で大腸菌が好ましい。
【0038】
本発明の特徴はまた、形質転換の対象とする好熱性微生物由来のDNAメチル化酵素またはこれと同一の活性を有する酵素以外のDNAメチル化酵素が、上記宿主中に存在しない点、すなわち形質転換に用いるDNAは、形質転換の対象とする好熱性微生物由来のDNAメチル化酵素またはこれと同一の活性を有する酵素によるメチル化以外にはメチル化されない点にある。IV型制限系は「余分なメチル化」を認識して切断する。IV型制限系による制限を回避するために、好ましくは形質転換に用いるDNAは、形質転換の対象とする好熱性微生物由来のDNAメチル化酵素またはこれと同一の活性を有する酵素によるメチル化以外に受けるメチル化が抑制される必要がある。このために、メチル化DNAを調製する宿主由来のDNAメチル化酵素の遺伝子を欠失させることが好ましい。
【0039】
本発明では、形質転換の対象とする好熱性微生物由来のDNAメチル化酵素またはこれと同一の活性を有する酵素が、好熱性微生物とは異なる種の宿主中に存在して、形質転換に用いるDNAをメチル化する。このメチル化DNAを宿主由来のIV型制限系による制限から保護するために、制限酵素が上記宿主中に存在しないことが好ましい。このために、メチル化DNAを調製する宿主由来の制限酵素の遺伝子を欠失させることが好ましい。
【0040】
具体的に、メチル化DNAを調製する工程は、
(1)メチル化DNAの調製に用いる宿主として、形質転換の対象とする好熱性微生物由来のDNAメチル化酵素またはこれと同一の活性を有する酵素の遺伝子を発現し、これらの酵素以外のDNAメチル化酵素の遺伝子を発現しない宿主を作製する工程、および
(2)工程(1)で得られた宿主に任意のDNAを導入して、形質転換体を調製する工程
を含む。
【0041】
(1)形質転換の対象とする好熱性微生物由来のDNAメチル化酵素またはこれと同一の活性を有する酵素の遺伝子を発現し、これらの酵素以外のDNAメチル化酵素の遺伝子を発現しない宿主を作製する方法としては、特に制限されないが、例えば、メチル化DNAの調製に用いる宿主に対して、宿主由来のDNAメチル化酵素の遺伝子を欠失させ、かつ形質転換の対象とする好熱性微生物由来のDNAメチル化酵素またはこれと同一の活性を有する酵素の遺伝子を導入する方法が挙げられる。好ましくは、宿主由来のすべてのDNAメチル化酵素の遺伝子を欠失させ、かつ形質転換の対象とする好熱性微生物由来のすべてのDNAメチル化酵素またはこれと同一の活性を有する酵素の遺伝子を導入する。
【0042】
さらに、上記工程(1)において用いる宿主に対して、宿主由来の制限酵素の遺伝子を欠失させることが好ましい。より好ましくは、宿主由来のすべての制限酵素の遺伝子を欠失させる。
【0043】
あるいは、形質転換の対象とする好熱性微生物由来のDNAメチル化酵素と同一の活性を有する酵素がメチル化DNAの調製に用いる宿主中に存在する場合には、これを好熱性微生物由来のDNAメチル化酵素またはこれと同一の活性を有する酵素の代用として用いることができる。この場合、特に宿主の遺伝子を操作する必要がない。
【0044】
遺伝子を欠失させる方法としては、特に制限されない。例えば、相同組換え技術、変異誘発剤を用いる方法が挙げられる。目的とする遺伝子を効率的に欠失させることができる点で、相同組換え技術が好ましい。相同組換え技術としては、例えば、Cre−loxPを用いる方法、FLPリコンビナーゼを用いる方法、遺伝子ターゲティング法が挙げられる。具体的には、例えば、欠失させるDNAメチル化酵素の遺伝子のコーディング領域の中に薬剤耐性遺伝子が挿入された構造を有するプラスミドを構築し、このプラスミドを大腸菌に導入する。大腸菌を薬剤存在下で培養すると、薬剤耐性遺伝子によって破壊されたDNAメチル化酵素の遺伝子が、正常なDNAメチル化酵素の遺伝子と組換えを起こした大腸菌が選択的に増殖する。好ましくは、すべてのDNAメチル化酵素の遺伝子について同様の操作を繰り返す。
【0045】
遺伝子を導入する方法としては、特に制限されない。上述のメチル化DNAを好熱性微生物に導入する方法と同様の方法が用いられる。好ましくは、すべてのDNAメチル化酵素の遺伝子について同様の操作を繰り返す。
【0046】
(2)工程(1)で得られた宿主に任意のDNAを導入して、形質転換体を調製する方法としては、特に制限されない。上述のメチル化DNAを好熱性微生物に導入する方法と同様の方法が用いられる。形質転換体は、形質転換体の由来に応じて、当業者が通常用いる方法により適宜培養して調製し得る。
【0047】
本発明の方法において、メチル化DNAを形質転換の対象とする好熱性微生物に導入する工程で、例えば、接合伝達法、プロトプラスト融合法を用いる場合は、上記工程(2)の後、形質転換体からDNAを回収する必要はないが、例えば、電気穿孔法を用いる場合は、上記工程(2)の後、形質転換体からDNAを回収する必要がある。形質転換体からのDNAの回収は、形質転換体の由来に応じて、当業者が通常用いる方法により行われ得る。
【実施例】
【0048】
以下に、実施例を示して本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されない。
【0049】
プラスミドDNAの抽出にはWizard Plus SV Minipreps(Promega社製)を用いた。アガロースゲルからのDNAの回収にはQIAquick Gel Extraction Kit(Qiagen社製)を用いた。
【0050】
実施例1:好熱性微生物由来のDNAメチル化酵素遺伝子発現プラスミドの作製
プラスミドpACYCDuet−1(Novagen社製)のp15A複製起点(p15Aori)およびクロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm)を含む領域をPCR法(プライマー1F:配列番号1およびプライマー1R:配列番号2)により増幅した。得られた増幅断片を制限酵素BglIIで消化し、DNA ligaseを用いて自己環化させた。得られたプラスミドをpIR101と命名した。
【0051】
QuickChange Site-Directed Mutagenesis Kit(Stratagen社製)を用いてpIR101に含まれる2ヶ所の制限酵素DraI部位を破壊した。制限酵素DraI部位の破壊には、プライマー2F:配列番号3およびプライマー2R:配列番号4、ならびにプライマー3F:配列番号5およびプライマー3R:配列番号6を用いた。得られたプラスミドをpIR200と命名した。
【0052】
プラスミドpUC19(タカラバイオ株式会社製)に含まれるlacプロモーター領域をPCR法(プライマー4F:配列番号7およびプライマー4R:配列番号8)により増幅した。得られた増幅断片を制限酵素BamHIおよびEcoRIで消化し、pIR101の制限酵素BglII−EcoRI部位間に挿入した。得られたプラスミドをpIR102と命名した。
【0053】
pIR102に含まれるlacプロモーター領域をPCR法(プライマー5F:配列番号9およびプライマー5R:配列番号10)により増幅した。得られた増幅断片を制限酵素BamHIおよびEcoRIで消化し、pIR200の制限酵素BglII−EcoRI部位間に挿入した。得られたプラスミドをpIR201と命名した。
【0054】
pIR201中に含まれるlacプロモーター領域をPCR法(プライマー6F:配列番号11およびプライマー6R:配列番号12)により増幅した。得られた増幅断片を制限酵素BamHIおよびEcoRIで消化し、pIR200の制限酵素BglII−EcoRI部位間に挿入した。得られたプラスミドをpIR202と命名した。
【0055】
QuickChange Site-Directed Mutagenesis Kitを用いてpIR202に制限酵素BamHI部位を導入した。制限酵素BamHI部位の導入には、プライマー7F:配列番号13およびプライマー7R:配列番号14を用いた。得られたプラスミドをpIR203と命名した。
【0056】
大腸菌DH5α株のゲノムDNAを鋳型としてhsp70(dnaK)遺伝子上流のプロモーター領域(dnaK promoter)をPCR法(プライマー8F:配列番号15およびプライマー8R:配列番号16)により増幅した。得られた増幅断片を制限酵素NdeIおよび制限酵素BamHIで消化し、pIR203の制限酵素NdeI−BamHI部位間に挿入した。得られたプラスミドをpIR207と命名した。このプラスミドは、p15A複製起点(p15Aori)、クロラムフェニコール耐性遺伝子(Cm)、およびhsp70(dnaK)遺伝子上流のプロモーター領域(dnaK promoter)を含み、プロモーター領域の下流にマルチクローニング部位を有する。プロモーターからマルチクローニング部位までを含む領域は2つのSwaI部位に挟まれている。
【0057】
ジオバチラス・カウストフィラスHTA426株(JCM12893)のゲノムDNAには、2つのI型制限修飾系遺伝子群(GK0343−GK0344−GK0346およびGK1380−GK1381−GK1382)が存在する。これらのうちDNAのメチル化に関与するMサブユニット遺伝子(GK0343およびGK1380)ならびにSサブユニット遺伝子(GK0344およびGK1381)をそれぞれPCR法により増幅した。GK0343遺伝子の増幅にはプライマー9F:配列番号17およびプライマー9R:配列番号18を用いた。GK0344遺伝子の増幅には、プライマー10F:配列番号19およびプライマー10R:配列番号20を用いた。GK1380遺伝子の増幅にはプライマー11F:配列番号21およびプライマー11R:配列番号22を用いた。GK1381遺伝子の増幅にはプライマー12F:配列番号23およびプライマー12R:配列番号24を用いた。
【0058】
GK0343遺伝子とGK0344遺伝子との増幅断片を融合PCR法によって連結し、連結した断片をpCR4Blunt−TOPO(Invitrogen社製)ベクターにクローニングした。得られたプラスミドのGK0343−GK0344遺伝子に含まれる2ヶ所のNdeI部位を破壊するために、このプラスミドを鋳型としてPCR(プライマー13F:配列番号25およびプライマー13R:配列番号26)を行い、次いで得られた増幅断片に対してQuickChange Site-Directed Mutagenesis Kitを用いて部位特異的変異を導入した。得られたプラスミドからGK0343−GK0344遺伝子領域を制限酵素NdeIおよびBamHIで消化して切り出し、pIR207の制限酵素NdeI−BamHI部位間に挿入した。得られたプラスミドをpIR399と命名した。
【0059】
GK1380遺伝子とGK1381遺伝子との増幅断片を融合PCR法によって連結し、連結した断片をpCR4Blunt−TOPOベクターにクローニングした。得られたプラスミドのGK1380−GK1381遺伝子に含まれる2ヶ所のNdeI部位を破壊するために、このプラスミドを鋳型としてPCR(プライマー14F:配列番号27およびプライマー14R:配列番号28)を行い、次いで得られた増幅断片に対してQuickChange Site-Directed Mutagenesis Kitを用いて部位特異的変異を導入した。得られたプラスミドからGK1380−GK1381遺伝子領域を制限酵素NdeIおよびBamHIで消化して切り出し、pIR207の制限酵素NdeI−BamHI部位間に挿入した。得られたプラスミドをpIR401と命名した。
【0060】
pIR399からGK0343−GK0344遺伝子発現カセットを制限酵素SwaIで消化して切り出した。このカセット断片と制限酵素SpeIで消化したpIR401とを混合し、In-fusion PCR Cloning Kit(Clontech社製)を用いて両DNA断片を連結した。得られたプラスミドをpIR408(図1(a))と命名した。このプラスミドは、直列に連結されたGK1380−GK1381遺伝子発現カセット(上流:hsdM2S2)とGK0343−GK0344遺伝子発現カセット(下流:hsdM1S1)を有する。
【0061】
ジオバチラス・カウストフィラスHTA426株のゲノムDNAには、2つのI型制限修飾系遺伝子群のほかに1つのII型制限修飾系遺伝子群(GKP08−GKP09)が存在する。これらのうちDNAメチラーゼ遺伝子GKP08をPCR法(プライマー15F:配列番号29およびプライマー15R:配列番号30)により増幅した。得られた増幅断片を制限酵素NdeIおよびBamHIで消化し、pIR207の制限酵素NdeI−BamHI部位間に挿入した。得られたプラスミドをpIR405と命名した。
【0062】
実施例2:形質転換に用いる発現プラスミドの作製
プラスミドpRK2013(D. H. Figurskiら、Proc. Natl. Acad. Sci. USA、1979年、第76巻、p. 1648-1652)に含まれるoriT領域をPCR法(プライマー16F:配列番号31およびプライマー16R:配列番号32)により増幅した。得られた増幅断片を制限酵素EcoRIで消化し、プラスミドpSTE33(I. Narumiら、Biotechnol. Lett.、1993年、第15巻、p. 815-820)およびpUCG18(M. P. Taylorら、Plasmid、2008年、第60巻、p. 45-52)の制限酵素EcoRI部位にそれぞれ挿入した。得られたプラスミドをそれぞれpSTE33T(図1(b))およびpUCG18T(図1(c))と命名した。
【0063】
2つのオリゴヌクレオチド(プライマー17F:配列番号33およびプライマー17R:配列番号34)を融合PCR法によって連結し、連結した断片を制限酵素BamHIで消化し、pUC19の制限酵素BamHI部位にクローニングした。得られたプラスミドをpLX19と命名した。このプラスミドは2つの制限酵素BamHI部位間にloxP配列を有する。
【0064】
QuickChange Site-Directed Mutagenesis Kitを用いて、pUC19に制限酵素MunI、FbaIおよびBglII部位を導入した。制限酵素部位の導入には、プライマー18F:配列番号35およびプライマー18R:配列番号36を用いた。得られたプラスミドをpGKE11と命名した。
【0065】
pRK2013に含まれるoriT領域をPCR法(プライマー19F:配列番号37およびプライマー19R:配列番号38)により増幅した。得られた増幅断片を制限酵素PciIで消化し、pGKE11およびpUC19の制限酵素PciI部位にそれぞれ挿入した。得られたプラスミドをそれぞれpGKE11TおよびpUC19Tと命名した。
【0066】
pSTE33に含まれるTK101遺伝子(耐熱性カナマイシン耐性遺伝子)をPCR法(プライマー20F:配列番号39およびプライマー20R:配列番号40)により増幅した。ジオバチラス・カウストフィラスHTA426株のゲノムDNAを鋳型としてシグマAプロモーター領域をPCR法(プライマー21F:配列番号41およびプライマー21R:配列番号42)により増幅した。得られた2つのDNA断片を融合PCR法によって連結した。得られたDNAを制限酵素BamHIで消化し、pLX19の制限酵素BamHI部位およびBglII部位にそれぞれクローニングした。得られたプラスミドをそれぞれpLX19−TK101およびpTK19と命名した。
【0067】
ジオバチラス・カウストフィラスHTA426株のゲノムDNAを鋳型としてGK1155遺伝子の上流領域(プライマー22F:配列番号43およびプライマー22R:配列番号44)および下流領域(プライマー23F:配列番号45およびプライマー23R:配列番号46)をそれぞれPCR法により増幅した。得られた上流領域の断片を制限酵素EcoRIおよびBamHIで消化し、pUC19の制限酵素EcoRI−BamHI部位間にクローニングし、得られた下流領域の断片を制限酵素BamHIおよびSphIで消化し、pUC19の制限酵素BamHI−SphI部位間にクローニングした。得られたプラスミドの制限酵素BamHI部位に、pLX19−TK101から制限酵素BamHIで消化して切り出したTK101遺伝子を挿入した。得られたプラスミドの制限酵素EcoRI部位に、プラスミドpRK2013に含まれるoriT領域をPCR法(プライマー16Fおよび16R)により増幅して得られた増幅断片を制限酵素EcoRIで消化し、挿入した。得られたプラスミドをpΔGK1155−1と命名した。
【0068】
ジオバチラス・カウストフィラスHTA426株のゲノムDNAを鋳型としてGK1155遺伝子の上流領域(プライマー22Fおよび22R)および下流領域(プライマー24F:配列番号47およびプライマー23R)をそれぞれPCR法により増幅した。得られた上流領域の断片を制限酵素EcoRIおよびBamHIで消化し、pTK19の制限酵素EcoRI−BamHI部位間にクローニングし、得られた下流領域の断片を制限酵素BamHI−SphIで消化し、pTK19の制限酵素BamHI−SphI部位間にクローニングした。得られたプラスミドをpΔGK1155−2と命名した。
【0069】
ジオバチラス・カウストフィラスHTA426株のゲノムDNAを鋳型としてGK0707遺伝子の上流領域(プライマー25F:配列番号48およびプライマー25R:配列番号49)および下流領域(プライマー26F:配列番号50およびプライマー26R:配列番号51)をそれぞれPCR法により増幅した。得られた上流領域の断片を制限酵素AatIIで消化し、pGKE11の制限酵素AatII部位にクローニングし、得られた下流領域の断片を制限酵素BamHIで消化し、pGKE11の制限酵素BglII部位にクローニングした。次いで、pLX19−TK101から制限酵素BamHIで消化して切り出したTK101遺伝子をpGKE11の制限酵素FbaI部位にクローニングし、pUC19Tから制限酵素PciIで消化して切り出したoriT遺伝子をpGKE11の制限酵素PciI部位にクローニングした。得られたプラスミドをpGAM15と命名した。
【0070】
ジオバチラス・カウストフィラスHTA426株のゲノムDNAを鋳型としてGK0704遺伝子のプロモーター領域をPCR法(プライマー27F:配列番号52およびプライマー27R:配列番号53)により増幅した。得られた増幅断片を制限酵素HindIIIおよびSphIで消化し、pGAM15の制限酵素HindIII−SphI部位間に挿入した。得られたプラスミドをpGAM31と命名した。
【0071】
ジオバチラス・カウストフィラスATCC8005株のゲノムDNAを鋳型として耐熱性β−ガラクトシダーゼをコードするbgaB遺伝子(H. Hirataら、J. Bacteriol.、1986年、第166巻、p. 722-727)をPCR法(プライマー28F:配列番号54およびプライマー28R:配列番号55)により増幅した。得られた増幅断片を制限酵素PstIおよびBamHIで消化し、pGAM15およびpGAM31の制限酵素PstI−BamHI部位間にそれぞれ挿入した。得られたプラスミドをそれぞれpGAM15−bgaBおよびpGAM31−bgaBと命名した。
【0072】
ジオバチラス・ステアロサーモフィラスATCC12980株のゲノムDNAを鋳型として耐熱性α−アミラーゼをコードするamyE遺伝子(N. Suzukiら、Appl. Microbiol. Biotechnol.、2009年、第82巻、p. 491-500)をPCR法(プライマー29F:配列番号56およびプライマー29R:配列番号57)により増幅した。得られた増幅断片を制限酵素SphIおよびBglIIで消化し、pGAM15の制限酵素SphI−BamHI部位間に挿入した。得られたプラスミドをpGAM15−BSamyEと命名した。
【0073】
実施例3:DNAメチル化酵素を欠失させるためのプラスミドの作製
大腸菌TOP10株(Invitrogen社製)のゲノムDNAを鋳型としてdam遺伝子の上流領域(プライマー30F:配列番号58およびプライマー30R:配列番号59)および下流領域(プライマー31F:配列番号60およびプライマー31R:配列番号61)をそれぞれPCR法により増幅した。大腸菌ER1821株(New England BioLab社製)のゲノムDNAを鋳型としてmetB遺伝子を含む領域をPCR法(プライマー32F:配列番号62およびプライマー32R:配列番号63)により増幅した。得られた上流領域の断片を制限酵素HindIIIおよびSphIで消化し、pUC19の制限酵素HindIII−SphI部位間に挿入した。次いで、得られたプラスミドの制限酵素SphI−XbaI部位間に、上記で得られたmetB遺伝子を含む領域の断片を制限酵素SphIおよびNotIで消化し、上記で得られた下流領域の断片を制限酵素NotIおよびXbaIで消化し、これらを直列に連結して挿入した。得られたプラスミドをpΔDamと命名した。
【0074】
大腸菌TOP10株のゲノムDNAを鋳型としてdcm遺伝子の上流領域(プライマー33F:配列番号64およびプライマー33R:配列番号65)および下流領域(プライマー34F:配列番号66およびプライマー34R:配列番号67)をそれぞれPCR法により増幅した。大腸菌ER1821株のゲノムDNAを鋳型としてプロモーターを含むlacZ遺伝子をPCR法(プライマー35F:配列番号68およびプライマー35R:配列番号69)により増幅した。得られた上流領域を制限酵素HindIIIおよびSphIで消化し、pUC19の制限酵素HindIII−SphI部位間に挿入した。次いで、得られたプラスミドの制限酵素SphI−XbaI部位間に、上記で得られたプロモーターを含むlacZ遺伝子を制限酵素SphIおよびNotIで消化し、上記で得られた下流領域の断片を制限酵素NotIおよびXbaIで消化し、これらを直列に連結して挿入した。得られたプラスミドをpΔDcmと命名した。
【0075】
実施例4:大腸菌宿主の作製
pΔDamを鋳型としてdam遺伝子欠失用DNA断片をPCR法(プライマー30Fおよび31R)により増幅した。得られたDNA断片に混入する鋳型DNA(pΔDam)を制限酵素DpnIで消化した。得られたDNA断片をQIAquick PCR Purification Kit(Qiagen社製)を用いて精製し、大腸菌ER1793株(New England BioLab社製)に電気穿孔法により導入した。菌体を滅菌水で洗浄し、MM1最少固体培地(0.6%(w/v)NaHPO、0.3%(w/v)KHPO、0.05%(w/v)NaCl、0.01%(w/v)チアミン、1mM MgSO、0.1mM CaCl、33μM FeCl、0.004%(w/v)L−トリプトファン、0.002%(w/v)L−ヒスチジン、0.2%(w/v)D−グルコース、1.5%(w/v)寒天末)に塗布し、37℃にて2日間培養した。生育したコロニーの中からアンピシリン感受性株をスクリーニングして、大腸菌IR21株を得た。IR21株のdam遺伝子が欠失していることは、PCR解析および制限酵素マッピングにより確認した。IR21株の遺伝子型は以下のとおりである:F- fhuA2 Δ(lacZ)r1 glnV44 e14-(McrA-) trp-31 his-1 rpsL104(StrR) xyl-4 mtl-2 metB1 Δ(mcrC-mrr)114::IS10 Δdam::metB。
【0076】
pΔDcmを鋳型としてdcm遺伝子欠失用DNA断片をPCR法(プライマー33Fおよび34R)により増幅した。得られたDNA断片に混入する鋳型DNA(pΔDcm)を制限酵素DpnIで消化した。得られたDNA断片をQIAquick PCR Purification Kitを用いて精製し、大腸菌ER1793株およびIR21株に電気穿孔法によりそれぞれ導入した。菌体を滅菌水で洗浄し、MM2最少固体培地(0.6%(w/v)NaHPO、0.3%(w/v)KHPO、0.05%(w/v)NaCl、0.01%(w/v)チアミン、1mM MgSO、0.1mM CaCl、33μM FeCl、0.004%(w/v)L−トリプトファン、0.002%(w/v)L−ヒスチジン、0.002%(w/v)L−メチオニン、0.2%(w/v)ラクトース、0.002%(w/v)5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシド、1.5%(w/v)寒天末)に塗布し、37℃で2日間培養した。青色を呈するコロニーの中からアンピシリン感受性株をスクリーニングすることで、IR24株ならびにIR27株をそれぞれ得た。両株のdcm遺伝子が欠失して、PCR解析および制限酵素マッピングにより確認した。両株の遺伝子型は以下のとおりである:IR24、Δ(lacZ)r1 glnV44 e14-(McrA-) trp-31 his-1 rpsL104(StrR) xyl-4 mtl-2 metB1 Δ(mcrC-mrr)114::IS10 Δdcm::lacZ;IR27、Δ(lacZ)r1 glnV44 e14-(McrA-) trp-31 his-1 rpsL104(StrR) xyl-4 mtl-2 metB1 Δ(mcrC-mrr)114::IS10 Δdam::metB Δdcm::lacZ。
【0077】
IR27株に接合伝達プラスミドpUB307(P. M. Bennettら、Mol. Gen. Genet.、1977年、第154巻、p. 205-211)(RP1由来プラスミド)を電気穿孔法で導入し、菌体を25μg/mLのカナマイシンおよび6.5μg/mLのテトラサイクリンを含有するLB固体培地に塗布し、37℃にて培養した。生育したコロニーの1つを大腸菌BR27株として得た。
【0078】
IR24株にpUB307を電気穿孔法で導入し、菌体を25μg/mLのカナマイシンを含有するLB固体培地に塗布し、37℃にて培養した。生育したコロニーの1つを大腸菌BR24株として得た。
【0079】
BR27株にpIR207を電気穿孔法で導入し、菌体を25μg/mLのカナマイシン、6.5μg/mLのテトラサイクリンおよび12.5μg/mLのクロラムフェノコールを含有するLB固体培地に塗布し、37℃にて培養した。生育したコロニーの1つを大腸菌BR397株として得た。同様にして、BR24株にpIR207、pIR399、pIR401およびpIR408をそれぞれ導入し、得られた大腸菌をそれぞれ大腸菌BR398株、大腸菌BR399株、大腸菌BR401株および大腸菌BR408株と命名した。
【0080】
実施例5:異種メチル化の確認
大腸菌を12.5μg/mLのクロラムフェニコールを含有するLB液体培地で37℃にて24時間培養し、ゲノムDNAを常法に従い抽出した。C. W. Gehrkeら、J. Chromatog.、1984年、第301巻、p. 199-219に記載の方法に従い、ゲノムDNAをモノデオキシヌクレオシドにまで分解し、逆相HPLCを用いてその組成を分析した。実施例4と同様にして、大腸菌IR27株にpIR207を電気穿孔法で導入して得られた大腸菌(以下、このようにして得られた大腸菌を「大腸菌IR27[pIR207]」のように記載することがある)のゲノムDNAからは、既知のいかなるメチル化核酸(5−メチルデオキシシチジン、5mdC;N−6−メトルデオキシアデノシン、6mdA;N−4−メチルデオキシシチジン、4mdC)も検出されなかった。大腸菌IR27[pIR399]のゲノムDNAからは、有意な6mdAが検出された。そのモル比率は全デオキシアデノシンの0.08%であった。大腸菌IR27[pIR401]およびIR27[pIR408]のゲノムDNAからも、有意な6mdAが検出された。そのモル比率は、それぞれ全デオキシアデノシンの0.10%および0.21%であった。以上の結果から、pIR399、pIR401およびpIR408にクローン化したジオバチラス・カウストフィラスHTA426株由来のI型メチル化酵素遺伝子群は、大腸菌中で機能的に発現し、宿主大腸菌のDNAを異種メチル化することが示された。
【0081】
同様にして、pIR405を導入して得られた大腸菌を解析したところ、大腸菌IR27[pIR405]のゲノムDNAからは、全デオキシアデノシンの1.9%に相当する6mdAが検出された。GKP08は、AlwIメチラーゼと58%の遺伝子配列相同性を示すことから、AlwIメチラーゼと同じく「GGATC」配列中のアデニンのN−6−メチル化を触媒すると予想できた。そこで、ジオバチラス・カウストフィラスHTA426株およびIR27[pIR405]のゲノムDNAの制限酵素マッピングを行ったところ、いずれも制限酵素DpnIで消化されたが、制限酵素AlwIでは切断されなかった。以上の結果は、GKP08が「GGATC」配列中アデニンのN−6−メチル化の原因となることを示す。
【0082】
実施例6:ジオバチラス・カウストフィラスの形質転換1:プラスミドの導入
(接合伝達法)
GKP08遺伝子が原因となるN−6−メチル化は、大腸菌におけるDamメチル化に包括されることから、核酸供与体となる大腸菌として、特記のない限りBR24派生株を用いた。適切な抗生物質(25μg/mLカナマイシン、6.5μg/mLテトラサイクリン、12.5μg/mLクロラムフェノコール、25μg/mLアンピシリン)を含有するLB液体培地で核酸供与体を37℃にて一晩前培養し、回収した菌体を、抗生物質を含まないLB液体培地で洗浄した。菌体を光学濁度(OD600)が約0.1になるように新しいLB液体培地に接種し、光学濁度が0.5になるまで37℃にて振盪培養した。核酸受容体となるジオバチラス・カウストフィラスHTA426株はLB液体培地で55℃にて一晩前培養した。得られた培養液を0.1%(v/v)となるように新しいLB液体培地に接種し、55〜60℃にて、OD600が0.5になるまで培養した。得られたジオバチラス・カウストフィラス培養液は室温まで冷却した。ジオバチラス・カウストフィラス培養液(9mL)と核酸供与体培養液(1mL)とを混合し、菌体を吸引ろ過により膜フィルター(0.22μm)上に濃縮した。得られた膜フィルターを、菌体回収面がLB固体培地表面に接するように、LB固体培地上に静置した(37℃、一晩)。次いで、膜フィルター上の菌体をLB液体培地に懸濁し、5μg/mLカナマイシンを含有するLB固体培地に塗布し、60℃にて一晩培養し、生育したコロニーを形質転換体として得た。
【0083】
(プラスミドの導入)
ジオバチラス・カウストフィラスHTA426株をpUCG18Tの核酸受容体とし、大腸菌BR397[pUCG18T]、BR398[pUCG18T]、BR399[pUCG18T]、BR401[pUCG18T]およびBR408[pUCG18T]をpUCG18Tの核酸供与体とした接合伝達を行った。接合伝達後のジオバチラス・カウストフィラス菌体をLB固体培地および5μg/mLのカナマイシンを含有するLB固体培地にそれぞれ塗布し、60℃にて一晩培養し、生育したコロニー数から接合伝達効率を算出した。結果を以下の表1に示す。
【0084】
同様にして、ジオバチラス・カウストフィラスHTA426株をpSTE33Tの核酸受容体とし、大腸菌BR397[pSTE33T]、BR398[pSTE33T]、BR399[pSTE33T]、BR401[pSTE33T]およびBR408[pSTE33T]をpSTE33Tの核酸供与体とした接合伝達を行った。接合伝達後のジオバチラス・カウストフィラス菌体をLB固体培地および5μg/mLのカナマイシンを含有するLB固体培地にそれぞれ塗布し、60℃にて一晩培養し、生育したコロニー数から接合伝達効率を算出した。結果を表1に示す。
【0085】
【表1】

【0086】
表1より、pUCG18Tの場合、DNAメチル化酵素としてdamが接合伝達効率(形質転換効率)に支配的に影響を及ぼしていることがわかる。しかし、pSTE33Tの場合、DNAメチル化酵素としてhsdM1S1、hsdM2S2およびdamのすべてが接合伝達効率(形質転換効率)に均等に影響を及ぼしており、3つの酵素が揃うと形質転換効率が高くなることがわかる。
【0087】
pSTE33Tで形質転換されたジオバチラス・カウストフィラスを5μg/mLのカナマイシンを含有するLB液体培地で60℃にて一晩振盪培養し、培養菌体中に含まれるプラスミドDNAを単離した。得られたプラスミドDNAは、制限酵素マッピング、PCR解析およびDNA配列解析により、pSTE33Tであることを確認した。得られたプラスミドDNAは大腸菌を形質転換できることも確認した。
【0088】
pUCG18Tで形質転換されたジオバチラス・カウストフィラスを5μg/mLのカナマイシンを含有するLB液体培地で60℃にて一晩振盪培養し、培養菌体中に含まれるプラスミドDNAを単離した。得られたプラスミドDNAは、低コピー数のため、制限酵素マッピングできるほど量がなかったが、PCR解析により、pUCG18Tであることを確認した。得られたプラスミドは大腸菌を形質転換できることも確認した。
【0089】
pUCG18TおよびpSTE33Tで形質転換されたジオバチラス・カウストフィラスを5μg/mLのカナマイシンを含有するLB液体培地で60℃にて一晩それぞれ振盪培養した。培養菌体中に含まれるプラスミドのコピー数をL. Wuら、J. Gen. Microbiol.、1989年、第135巻、p. 1315-1324に記載の方法に従い解析した。
【0090】
pUCG18TおよびpSTE33Tで形質転換されたジオバチラス・カウストフィラスをLB液体培地で60℃にて一晩それぞれ振盪培養した後、その一部をLB固体培地および5μg/mLのカナマイシンを含有するLB固体培地に塗布し、60℃にて一晩それぞれ培養した。生育したコロニー数から各プラスミドの残存率を算出した。
【0091】
実施例7:ジオバチラス・カウストフィラスの形質転換2:2重交叉相同組換えによるGK1155遺伝子の欠失
ジオバチラス・カウストフィラスHTA426株を核酸受容体とし、大腸菌BR408[pΔGK1155−1]を核酸供与体とした接合伝達により、ジオバチラス・カウストフィラスHTA426株にpΔGK1155−1を導入した。接合伝達後の菌体を5μg/mLのカナマイシンを含有するLB固体培地上に塗布し、60℃にて一晩培養した。生育したコロニーをMM3最少固体培地(0.03%(w/v)KSO、0.25%(w/v)NaHPO・12HO、0.1%(w/v)NHCl、0.0003%(w/v)MnCl・4HO、0.0005%(w/v)CaCl・2HO、0.0007%(w/v)FeCl・6HO、0.00004%(w/v)ZnSO・7HO、0.000001%(w/v)HBO、0.000005%(w/v)CoCl・6HO、0.00002%(w/v)CuSO・5HO、0.000001%(w/v)NiCl・6HO、0.000025%(w/v)エチレンジアミン四酢酸塩、1%(w/v)D−グルコース、0.1%(w/v)カザミノ酸、10mMトリス(ヒドロキシメチル)アミノメタン−HCl緩衝液、pH7.5、0.04%(w/v)MgSO・7HO、2%(w/v)寒天末、10μg/mLウラシル)に移し、ウラシル要求性株をスクリーニングした。得られたウラシル要求性株の1つを、MK27株と命名した。MK27株のGK1155遺伝子はTK101遺伝子の挿入により欠失(ΔGK1155::TK101)していることをPCR解析により確認した(図2)。
【0092】
実施例8:ジオバチラス・カウストフィラスの形質転換3:GK1155遺伝子のマーカーフリー欠失
ジオバチラス・カウストフィラスHTA426株を核酸受容体とし、大腸菌BR408[pΔGK1155−2]を核酸供与体とした接合伝達により、ジオバチラス・カウストフィラスHTA426株にpΔGK1155−2を導入した。接合伝達後の菌体を5μg/mLのカナマイシンを含有するLB固体培地上に塗布し、60℃にて一晩培養した。生育したコロニーの1つをLB液体培地100mLに接種し、60℃にて一晩振盪培養した。得られた培養液の一部(10μl)を新しいLB液体培地100mLに接種し、引き続き60℃にて一晩振盪培養した。同様の操作をさらに2回繰り返した後、培養液の一部をLB固体培地に塗布し、60℃にて一晩培養した。生育したコロニー約1000個をLB固体培地および5μg/mLのカナマイシンを含有するLB液体培地に接種し、カナマイシン感受性株をスクリーニングした。得られた8株のカナマイシン感受性株をMM3最少固体培地および10μg/mLのウラシルを含有するMM3最少固体培地に塗布し、ウラシル要求性株をスクリーニングした。得られた4株のウラシル要求性株のうち1クローンをジオバチラス・カウストフィラスMK54株と命名した。MK54株のGK1155遺伝子はin−frame欠失(ΔGK1155)していることをPCR解析により確認した(図3)。
【0093】
実施例9:ジオバチラス・カウストフィラスの形質転換4:異種遺伝子amyEの発現
ジオバチラス・カウストフィラスHTA426株を核酸受容体とし、大腸菌BR408[pGAM15−BSamyE]を核酸供与体とした接合伝達により、ジオバチラス・カウストフィラスHTA426株にpGAM15−BSamyEを導入した。得られた形質転換体の1つをMK42株と命名した。MK42株のゲノムにpGAM15−BSamyE由来の発現カセット(sigAプロモーターとその下流のamyE遺伝子)が組み込まれていることをPCR解析により確認した。MK42株を1%(w/v)可溶性デンプンを含むLB固体培地に塗布し、60℃にて一晩培養した。培地中の未分解デンプンをヨウ素・よう化カリウム液(ナカライテスク)で染色することで、α−アミラーゼ活性の有無を定性的に評価した。
【0094】
MK42株を5μg/mLのカナマイシンを含有するLB液体培地に接種し、60℃にて24時間培養した。得られた菌体を遠心分離により回収し、2mLの抽出用緩衝液(0.1M 3−モルホリノプロパンスルホン酸−NaOH緩衝液、pH6.9)に懸濁した後、超音波破砕した。均一化された懸濁液を遠心分離し、上清を粗酵素抽出液として得た。EnzChek Ultra Amylase Assay Kit(Molecular Probes社製)を用いて粗酵素抽出液中のα−アミラーゼ活性を定量した。なお、酵素反応は60℃にて行った。結果を以下の表2に示す。
【0095】
実施例10:ジオバチラス・カウストフィラスの形質転換5:異種遺伝子bgaBの発現
ジオバチラス・カウストフィラスHTA426株を核酸受容体とし、大腸菌BR408[pGAM15−bgaB]を核酸供与体とした接合伝達により、ジオバチラス・カウストフィラスHTA426株にpGAM15−bgaBを導入した。得られた形質転換体の1つをMK39株と命名した。MK39株のゲノムにpGAM15−bgaB由来の発現カセット(sigAプロモーターとその下流のbgaB遺伝子)が組み込まれていることをPCR解析により確認した。MK39株を200μg/mLの5−ブロモ−4−クロロ−3−インドリル−β−D−ガラクトピラノシドを含有するLB固体培地に塗布し、60℃にて一晩培養した。コロニーが青色を呈色するか否かでβ−ガラクトシダーゼ活性の有無を定性的に評価した。
【0096】
MK39株を5μg/mLのカナマイシンを含有するLB液体培地に接種し、60℃にて24時間培養した。得られた菌体を遠心分離により回収し、2mLの抽出用緩衝液(50mMリン酸ナトリウム緩衝液、pH5.0)に懸濁した後、超音波破砕した。均一化された懸濁液を遠心分離し、上清を粗酵素抽出液として得た。粗酵素抽出液にp−ニトロフェニル−β−D−ガラクトピラノシドを加え、その分解速度を測定することにより、粗酵素抽出液中のβ−ガラクトシダーゼ活性を評価した。なお、酵素反応は60℃にて行った。結果を表2に示す。
【0097】
【表2】

【0098】
表2より、異種遺伝子のamyEおよびbgaBは、ジオバチラス・カウストフィラスに導入された後も、菌体内で維持されるだけでなく、それぞれα−アミラーゼおよびβ−ガラクトシダーゼの遺伝子を発現することがわかる。また、amyEから発現したα−アミラーゼは、正常にプロセッシングを受けて分泌されることがわかる。
【0099】
実施例11:ジオバチラス・カウストフィラスの形質転換6:誘導型プロモーターによるbgaB遺伝子の発現
ジオバチラス・カウストフィラスHTA426株を核酸受容体とし、大腸菌BR408[pGAM31−bgaB]を核酸供与体とした接合伝達により、ジオバチラス・カウストフィラスHTA426株にpGAM31−bgaBを導入した。得られた形質転換体の1つをMK61株と命名した。MK61株のゲノムにpGAM31−bgaB由来の発現カセット(GK0704プロモーターとその下流のbgaB遺伝子)が組み込まれていることをPCR解析により確認した。MK61株をMM3最少液体培地、1%(w/v)D−グルコースを含有するMM3最少液体培地、1%(w/v)マルトースを含有するMM3最少液体培地、1%(w/v)可溶性デンプンを含有するMM3最少液体培地、1%(w/v)ミオ−イノシトールを含有するMM3最少液体培地、1%(w/v)D−キシロースを含有するMM3最少液体培地、1%(w/v)L−アラビノースを含有するMM3最少液体培地、および1%(w/v)キシロオリゴ糖を含有するMM3最少液体培地にそれぞれ接種し、60℃にて48時間培養した。実施例10と同様にして、得られた菌体から粗酵素抽出液を調製し、粗酵素抽出液中のβ−ガラクトシダーゼ活性を測定した。Bio-Rad Protein Assay kit(Bio-Rad社製)を用いて粗酵素抽出液中の総タンパク質量を測定した。その際に、ウシ血清アルブミンを標準タンパク質として用いた。総タンパク質量あたりのβ−ガラクトシダーゼ活性を比活性として求めた。結果を表3に示す。
【0100】
【表3】

【0101】
表3より、マルトースや可溶性デンプンによりbgaBの発現が強く誘導されていることがわかる。このことから、GK0704プロモーターは誘導型プロモーターとして利用できることが明らかとなった。
【産業上の利用可能性】
【0102】
本発明によれば、好熱性微生物の形質転換を高い形質転換効率で行うことができる。好熱性微生物の形質転換体は、高温下の発酵などバイオプロセスに用いることができ、高温下のバイオプロセスは、菌体内の高い代謝速度に加えて、雑菌増殖の防止、発酵熱の有効利用、原料および生産物の水溶性向上など、数多くの点で、従来の常温下のバイオプロセスにはない利点を有する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
好熱性微生物の形質転換方法であって、
該好熱性微生物由来のDNAメチル化酵素またはこれと同一の活性を有する酵素によってメチル化DNAを調製する工程、および
該メチル化DNAを該好熱性微生物に導入する工程
を含み、
該酵素が、該好熱性微生物とは異なる種の宿主中に存在し、そして
該酵素以外のDNAメチル化酵素が、該宿主中に存在しない、方法。
【請求項2】
制限酵素が、前記宿主中に存在しない、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記メチル化DNAを調製する工程が、
(1)前記好熱性微生物由来のDNAメチル化酵素またはこれと同一の活性を有する酵素の遺伝子を発現し、該酵素以外のDNAメチル化酵素の遺伝子を発現しない宿主を作製する工程、および
(2)該工程(1)で得られた宿主に任意のDNAを導入して、形質転換体を調製する工程
を含む、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記工程(1)において、前記宿主が、制限酵素の遺伝子を発現しない、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記メチル化DNAを前記好熱性微生物に導入する工程において、該メチル化DNAを接合伝達法により導入する、請求項1から4のいずれかの項に記載の方法。
【請求項6】
前記好熱性微生物が、ジオバチラス属細菌である、請求項1から5のいずれかの項に記載の方法。
【請求項7】
前記ジオバチラス属細菌が、ジオバチラス・カウストフィラスである、請求項6に記載の方法。
【請求項8】
前記宿主が、大腸菌である、請求項1から7のいずれかの項に記載の方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate