子宮筋層由来間葉系幹細胞
本発明は、成体幹細胞単離方法、単離された細胞及びそれらの用途に関する。より詳細には、本発明は、平滑筋、脂肪細胞、骨芽細胞、骨格筋及び神経組織を含む数多くの種々の中胚葉組織型に分化することができ、したがって再生医療に好適である、子宮筋層由来の単離成体幹細胞に関する。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、成体幹細胞の単離方法、これにより単離された細胞及びそれらの用途に関する。より詳細には、本発明は、子宮筋層由来であり、分化されて一連の細胞系譜を生じ、そして細胞表面抗原などの特異的マーカーを提示する、単離された成体幹細胞に関する。本発明により提供される細胞は、例えば、細胞療法並びに新規な薬剤の研究及び開発に使用できる。
【背景技術】
【0002】
現在、幹細胞研究の分野での技術開発によって、幹細胞は器官又は組織移植を必要とする種類の病変のための、有望な器官源及び組織源であると考えられるようになった。実際、幹細胞療法は、老化及び損傷組織の修復及び/又は再生に非常に有望である。
【0003】
理論的には、幹細胞は、制限のない期間中に自己保全のための細胞分裂をして、表現型的及び遺伝子型的に同一の細胞を生じる。さらに、幹細胞は、ある種のシグナル又は刺激の存在下で、一種又は数種の細胞型に分化する能力を有している。
【0004】
レシピエントの免疫系が異物として認識しないように、患者の幹細胞又は免疫適合性異種細胞から器官及び細胞を生成することは、ドナーの不足及び拒絶反応の危険によって生じる問題を解決するという、一連の関連した利点が得られる。器官及び組織の再生に幹細胞を使用することは、軟骨、骨及び筋肉病変、神経変性疾患、免疫学的拒絶反応、心臓疾患及び皮膚疾患を含む、種々の人体病変のための有望な代替療法となる。
【0005】
細胞療法の用途の他に、幹細胞には、生物薬学的研究及び開発活動を容易にするという、生物医学技術に関連する数多くの他の潜在的用途がある。これらの用途のうちの一つは、新しい薬物の研究及び開発の迅速さ及び効力を実質的に向上させるのに役立つ、ヒト及び動物の疾患の細胞モデルの開発である。現段階では、臨床試験に入る前に新規化合物の生物学的活性を測定するのに最も一般的に使用される方法は、不完全な生化学的手法、又はコストがかかり且つ不十分な動物モデルから構成されている。幹細胞は、新規な治療化合物の研究及び開発のため、並びにそれらの活性、代謝及び毒性を測定するための、インビボ試験用の、実質的に無制限量の細胞(未分化細胞及び分化細胞の両方)の潜在的供給源であろう。このような試験、特に高処理量スクリーニング(HTS)の開発によって、治療活性を有する化合物を開発するのに必要とされる時間と費用が減少し、実験に動物を使用する必要性が大きく減少し、また、臨床試験中に患者が化合物の悪影響に曝されることが減るであろう。さらに、種々の個体からの種々の種類の細胞が入手できることにより、特定の個体に対する、治療可能性のある化合物の効果をよりよく理解でき、化合物の活性が個体の遺伝子構造と関連している薬理ゲノムの分野での十分な開発につながるであろう。幹細胞及びそれらの分化した子孫も、発生、細胞分化及び腫瘍過程を含む多種多様な生物学的プロセスに関与する新規な遺伝子の研究及び特徴付けの過程に非常に有益である。
【0006】
幹細胞の起源に応じて、我々は、胚幹細胞(ES細胞)と成体幹細胞とを区別する。ES細胞は、未分化胚芽細胞の内部細胞塊に由来し、それらの最も適切な特徴点は、多能性であることである。このことは、3つの胚層に由来する成体組織を生じることができることを意味している。成体幹細胞は、経時的に少なくなるが、数十年間人体にとどまることができる、成体組織に存在する部分的に損傷した細胞である。
【0007】
ES幹細胞の高多能性にもかかわらず、成体幹細胞の使用を基本とする療法は、ES細胞を基本とする療法に比べ一連の利点を提供する。まず、分化を誘発することなくES細胞の培養条件を制御することは複雑であり、この種類の細胞を用いるには経済的コスト及び作業量が必要となる。さらに、ES細胞は、特定の病変を治療するのに必要とする特異的な細胞種となる前に、化学的に複雑な化合物により制御されたプロセスである、いくつかの中間段階を経る必要がある。また、胚組織からの未分化幹細胞は、奇形癌として知られている種類の腫瘍を生じる確率が高いので、ES細胞を治療に使用する際の安全性に関する問題もある。最後に、ES細胞由来の細胞は、このような細胞の免疫学的プロファイルは、レシピエントとは異なるので、ES細胞由来の細胞は、通常免疫学系により拒絶される。この問題は、体細胞の核を患者から女性のドナーの卵母細胞に移動させることにより自己ES細胞を得ることができる、「治療型クローニング」として知られているプロセスを用いることにより対応することができるが、この手法は、ヒトにおいてはまだ開発されておらず、そして重大な倫理的且つ法的な問題を引き起こす。別の解決法として、全身の免疫適合性を有する「汎用」細胞株の生成があげられるが、この時点では、このような細胞を得ることができる技術はない。
【0008】
これとは異なり、成体幹細胞は、自己移植により得られる場合には免疫系により拒絶されない。さらに、これらが部分的に損傷している事実は、特殊化細胞を生成するのに必要とする分化段階数を減少させる。さらに、この種の細胞の使用は、いずれの種類の法的又は倫理的議論と関係しない。さらに、これらの種類の細胞は、ES細胞よりも分化の可能性が小さいけれども、これらのほとんどは実際に多能性であり、このことは複数の組織に分化できることを意味している。このことが示唆していることは、成体幹細胞の適切なソースが得られる場合、複数の治療用途をカバーすることができる種々の細胞の種類を提供することができる。
【0009】
「多能性成体前駆細胞」(MAPC)と称される新規な種類の哺乳動物幹細胞が、最近骨髄及び他の組織から単離された。この種の幹細胞は、いわゆる間葉系幹細胞の前駆体であると思われ、大きな多能性を示す。しかしながら、これらを単離し、培養する過程は長く、コストがかかり、そして多量のさまざまな成長因子を使用する。ここ数年において、数多くの異なる種類の中胚葉幹細胞が、マウスとヒト組織の両方から単離され、異なる程度に特徴づけされた。これらには、内皮前駆細胞(EPC)、多能性成体前駆細胞(MAPC)、サイドポピュレーション細胞(SP)、中胚葉性血管芽細胞、筋内皮からの幹/前駆細胞、洞路(sinovia)、真皮及び脂肪組織が含まれる。種々の実験手順、種々のソース及び部分的な特徴付けによっても、まだこれらの細胞の異質性を完全に理解することができず、それらの起源及び可能な系列の関係については、さらに知られていない。どんな場合でも、MDSC又はMAPCなどのこれらの細胞の多くは、生体内で骨格筋に分化することが明らかとなった。これらの細胞の一部分は、生体内で広く成長するが、EPC及びSPなどの他のものは生体内では成長しない。一方では、EPC及びSPは循環することができるが、全身送達は、他の細胞型のほとんどについては試験されていない。例えば、脂肪組織から単離された細胞が、生体内で広範に成長し、骨格筋を含むいくつかの組織に分化し、ヒトジストロフィン発現線維を生じることが、最近示された。しかしながら、これらの細胞は、他の細胞型に効率的に分化するか、又は容易に得たり、成長したりすることがほとんどできない。
【0010】
したがって、多能性幹細胞の容易に入手できるソースを得ることが必要である。特に、顕著な危険や痛みがなく、単離コスト及び培養コストが高くなく、そして他の細胞型からの汚染が最小であり、そして培養中の核型異常の恐れ及び腫瘍形成の可能性がない、生存被検者から容易に単離することができる細胞が必要とされている。
【0011】
文献EP1876233は、子宮内膜組織に由来する細胞集団又は月経血、臍帯血又は胎児の付属器から単離した子宮内膜組織からの細胞集団の単離を記載している。これらの細胞は、心臓の筋細胞に分化することができる。Masanori O.等(PNAS、2007.vol.104、47:18700−18705)は、幹細胞の表現型及び機能的特性を有するヒト子宮筋層におけるサイドポピュレーションの単離について記載した。前記細胞は、表面マーカーCD90、CD73、CD105、CD34及びSTRO−1について陽性であり、CD44について陰性である。前記細胞は、脂肪細胞、骨細胞及び平滑筋細胞に分化することができた。前記細胞集団の単離は、子宮摘出により、すなわち、子宮の外科的除去によりおこなわれる。
【発明の概要】
【0012】
本発明者らは、簡単且つ非侵襲性の手法を用いることにより、成体マウスの子宮壁から、特に子宮筋組織から、新規な細胞集団を単離した。これらの細胞は、平滑筋、脂肪細胞、骨芽細胞、骨格筋及び神経組織を含む数多くの種々の中胚葉組織型に分化することができ、したがって、再生医療に好適である。
【0013】
したがって、第一の態様によれば、本発明は、単離された、子宮筋層由来の間葉系幹細胞集団であって、前記細胞集団の細胞は、CD31、CD34、CD44、CD117、SSEA−4、HLA−DR及びWGA−レクチン表面マーカーについて陽性であり、CD13、CD45、CD80、CD133、CD146、TRA1−60及びTRA1−81表面マーカーについて陰性であることを特徴とする幹細胞集団に関する。
【0014】
別の態様によれば、薬剤として使用される、本発明の前記単離幹細胞集団に関する。
【0015】
さらなる態様によれば、本発明は、組織変性状態の処置用である、本発明の単離幹細胞集団に関する。
【0016】
別の態様によれば、本発明は、本発明による単離幹細胞集団と、許容しうる医薬用ビヒクルとを含んでなる、医薬組成物に関する。
【0017】
さらなる態様によれば、本発明は、子宮筋組織から幹細胞集団を単離するための方法であって、前記細胞集団の細胞が、CD31、CD34、CD44、CD117、SSEA−4及びWGA−レクチン表面マーカーについて陽性であり、CD13、CD45、CD80、CD133、CD146、TRA1−60及びTRA1−81表面マーカーについて陰性であり、前記方法が:
i)固体表面上で好適な細胞培養培地中において、子宮筋組織試料を、前記試料の細胞が前記固体表面に付着する条件下でインキュベーションする工程と;
ii)前記細胞培養液から、前記固体表面に付着しないか、又は付着能が低い細胞を回収する工程と;
iii)選択された細胞集団が意図する表現型を示すことを確認する工程と
を含んでなることを特徴とする方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】フローサイトメトリーにより分析された表面マーカー発現についての図である。抗体パネルを用いたFACS分析:CD13、CD31、CD34、CD44、CD45、CD80、CD90、CD117、CD133、CD146、PAL、HLA−DR、TRA1−60、TRA1−81、SSEA−4、WGA及びTMRM。
【図1B】図1Aの続きである。
【図1C】図1Bの続きである。
【図1D】図1Cの続きである。
【図1E】図1Dの続きである。
【図1F】図1Eの続きである。
【図1G】図1Fの続きである。
【図1H】図1Gの続きである。
【図2】PCRにより分析されるMAMpsマーカーの発現ついての図である。種々のクローン細胞から抽出したRNAを、PCRにより、Sox2、hTERT、MEF2a/2c 及びTbx2/5のようなマーカー遺伝子の存在について分析した。
【図3】細胞集団の100%における異なるレベルでの発現を示すアルカリホスファターゼについての染色の図である。
【図4】神経幹細胞増殖媒体における培養の1週間後のネスチンについての、EMSC免疫染色を示す図である。フェーズコントラスト (左パネル)、ネスチン(中央パネル)、核(右パネル)。(対物レンズ20×のニコン蛍光倒立顕微鏡におけるニコンカメラでとった顕微鏡写真である。)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、生体内で複数の細胞型に分化する能力を示す、子宮筋組織から単離された新規な間葉系幹細胞集団に関する。
【0020】
したがって、第一の態様によれば、単離された子宮筋層由来間葉系幹細胞集団(以下、「本発明の細胞集団」と称する)であって、前記細胞集団の細胞が、CD31、CD34、CD44、CD117、SSEA−4(時期特異的胚抗原−4)、HLA−DR及びWGA−レクチン(コムギ胚芽凝集素−レクチン)表面マーカーについて陽性であり、CD13、CD45、CD80、CD133、CD146、TRA1−60及びTRA1−81(腫瘍拒絶抗原1)表面マーカーについて陰性であることを特徴とする。
【0021】
本明細書において、用語「MHC」(主要組織適合性遺伝子複合体)は、細胞表面抗原提示タンパク質をコードする遺伝子の一部を指す。ヒトにおいて、これらの遺伝子は、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子と称される。本明細書では、略字MHC又はHLAは同義的に使用される。
【0022】
本明細書において、細胞集団に用いられる、用語「単離された」とは、人体又は動物の体から単離された細胞集団であって、生体内又は生体外で、前記細胞集団と関連している1つ以上の細胞集団を実質的に含有していないことを意味する。
【0023】
以下において「本発明の細胞」と呼ばれる、本発明の細胞集団の細胞は、子宮筋組織由来である。用語「子宮筋組織」は、子宮壁の中間層由来の組織を指す。本明細書において、用語「子宮」は、頸管及び子宮腔を含む。したがって、明細書及び請求の範囲を通じて、用語「子宮組織」は、頸管及び子宮腔におけるいずれかの物質を指す。
【0024】
本発明の細胞は、ヒトを含むいずれかの好適な動物の子宮筋組織のいずれかの好適なソースから得ることができる。一般的に、前記細胞は、非病的産後の哺乳動物の子宮筋組織から得られる。特定の実施態様によれば、本発明の細胞集団の細胞は、哺乳動物、例えば、齧歯類、霊長類等由来であり、好ましくはヒト由来である。
【0025】
上記したように、本発明の細胞は、CD31、CD34、CD44、CD117、SSEA−4、HLA−DR及びWGA−レクチン表面マーカーについて陽性であり、CD13、CD45、CD80、CD133、CD146、TRA1−60及びTRA1−81表面マーカーについて陰性であることを特徴とする。
【0026】
本明細書において、細胞表面マーカーに関しての「陰性」とは、本発明の細胞を含んでなる細胞集団において、通常の方法及び装置(例えば、市販の抗体及び当該技術分野において既知の標準プロトコルとともに使用されるCalibur(Becton Dickinson)FACSシステム)を用いたときに、バックグラウンド信号より上のフローサイトメトリーにおける特異的細胞表面マーカーについてのシグナルを示すのが、細胞の10%未満、好ましくは9%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満であり、又は細胞のいずれも示さないことを意味する。
【0027】
特定の実施態様によれば、本発明の細胞は、以下の細胞表面マーカーCD31、CD34、CD44、CD117、SSEA−4、HLA−DR及びWGA−レクチンを発現する、すなわち、本発明の細胞は前記細胞表面マーカーについて陽性であることを特徴とする。好ましくは、本発明の細胞は、前記細胞表面マーカーの顕著な発現レベルを示すことを特徴とする。本明細書で使用されている表現「顕著な発現」は、本発明の細胞を含んでなる細胞集団において、通常の方法及び装置(例えば、市販の抗体及び当該技術分野において既知の標準プロトコルとともに使用されるCalibur(Becton Dickinson)FACSシステム)を用いたとき、バックグラウンド信号より上のフローサイトメトリーにおける特異的細胞表面マーカーについてのシグナルを示すものが、細胞の10%超、好ましくは20%超、30%超、40%超、50%超、60%超、70%超、80%超、90%超であるか、又は細胞の全てであることを意味する。バックグラウンド信号は、通常のFACS分析において各表面マーカーを検出するのに使用される特異的抗体と同じアイソタイプの非特異的抗体により示されるシグナル強度として定義される。したがって、陽性であると考えられるマーカーについては、観察される特異的シグナルは、通常の方法及び装置(例えば、市販の抗体及び当該技術分野において既知の標準プロトコルとともに使用されるCalibur(Becton Dickinson)FACSシステム)を用いたとき、バックグラウンド信号強度より10%超、好ましくは20%超、30%超、40%超、50%超、60%超、70%超、80%超、90%超、500%超、1000%超、5000%超、10000%超又はそれ以上である。
【0028】
前記細胞−表面マーカー(例えば、細胞受容体及び膜貫通型タンパク質)に対する、市販且つ既知のモノクローナル抗体を使用して、本発明の細胞を同定することができる。
【0029】
本発明の特定の実施態様によれば、本発明の細胞集団の細胞は、以下の遺伝子の少なくとも1つを発現することを特徴とする:Mef2c(筋細胞エンハンサー因子2C)、Sox2(SRY(性決定領域Y)−box2)、Tbx5(T−box5)
及びhTERT(テロメラーゼ逆転写酵素触媒サブユニット)。より特定の実施態様によれば、前記細胞は、Mef2a(筋細胞エンハンサー因子2A)及びTbx2(T−box5)遺伝子を発現しない。
【0030】
本明細書において、用語「遺伝子」は、転写及び/又は翻訳調節配列及び/又はコード領域及び/又は非翻訳配列(例えば、イントロン、5’−及び3’−未翻訳配列)を含んでなる遺伝子であることができる。遺伝子のコード領域は、アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列又はtRNA、rRNA、触媒RNA、siRNA、miRNA若しくはアンチセンスRNAなどの機能性RNAであることができる。また、遺伝子は、5’−又は3’−未翻訳配列を任意に連結して含んでなるコード領域(例えば、エクソン及びmiRNA)に相当するmRNA又はcDNAでもよい。また、遺伝子は、コード領域及び/又は5’−若しくは3’−未翻訳配列の全て若しくは一部を連結して含んでなる、生体内で産生された増幅核酸分子であってもよい。
【0031】
用語「遺伝子発現」は、DNAコードのmRNAへの転写、mRNAのリボソームへのトランスロケーション及びRNAメッセージのタンパク質への翻訳を含むプロセスを指す。前記遺伝子の発現レベルの測定は、当該技術分野において既知の標準的方法により実施できる。例示の非限定的な例として、前記方法は、上記した遺伝子によりコードされているmRNAの発現レベルを測定することを含む。このために、本発明の細胞を含んでなる生物試料を処理して、物理的又は機械的に細胞構造を破壊し、細胞内成分を水性又は有機溶液に放出して核酸を調整し、さらなる分析に附する。核酸は当業者に知られており且つ市販されている手順により試料から抽出される。次に、当該技術分野において典型的な方法のいずれか、例えば、Sambrook、Fischer and Maniatis、Molecular Cloning、実習マニュアル、(第2版)、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク(1989)により抽出する。好ましくは、抽出プロセス中にRNAの分解を回避するように注意が必要である。
【0032】
遺伝子発現プロファイリングの全ての手法が本発明の以下の態様を実施するのに好適に使用されるが、遺伝子mRNA発現レベルは、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によりしばしば測定される。
【0033】
異なる試料間のmRNA発現の値を標準化するために、試験試料における意図するmRNAの発現レベルを、対照RNAの発現と比較することができる。好ましくは、対照RNAは、ハウスキーピング遺伝子に由来し、且つ構成的に発現され、必須の細胞機能を実施するタンパク質をコードするmRNAである。本発明に使用される好ましいハウスキーピング遺伝子として、β−2−ミクログロブリン、ユビキチン、18−Sリボソームタンパク質、サイクロフィリン、GAPDH及びアクチンなどが挙げられる。
【0034】
好ましくは、本発明の種々の実施態様によれば、検出方法が、試料中におけるマーカー(単一または複数)の有無に関する情報ともに出力(すなわち、読み出し又はシグナル)を与える。本発明によれば、この出力は、定性的である(例えば、「陽性」又は「陰性」)。この意味で、「陽性遺伝子発現」は、いずれかの標準増幅反応を用いた前記遺伝子の増幅産物が得られたときと考える。前記増幅産物を評価又は検出するための手段は、当該技術分野において周知である。例示すると、前記方法として、例えば、本発明の実施例1に示されるアガロースゲルにおけるバンドの可視化などが挙げられる。前記増幅反応を実施するために、前記遺伝子用の特異的増幅オリゴヌクレオチドが使用される。
【0035】
用語「オリゴヌクレオチドプライマー」又は「増幅オリゴヌクレオチド」は、ここでは区別なく使用され、下限が約2〜5残基であり、上限が約500〜900残基のサイズ範囲であるもの含む、一般的に1,000残基未満の高分子核酸を指す。好ましい実施態様によれば、オリゴヌクレオチドプライマーは、下限が約5〜約15残基であり、上限が約100〜200残基のサイズ範囲である。より好ましくは、本発明のオリゴヌクレオチドプライマーは、下限が約10〜約15残基であり、上限が約17〜100残基であるサイズ範囲である。オリゴヌクレオチドプライマーは天然核酸から精製することができるけれども、一般的に様々な周知の酵素的又は化学的方法のいずれかを用いて合成される。用語「増幅オリゴヌクレオチド」は、標的核酸又はその補体にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを指し、核酸増幅反応に関与する。増幅オリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの3’端が、鋳型として別の核酸鎖を用いて酵素的に延長されたプライマー及びプロモータープライマーを含む。ある実施態様によれば、増幅オリゴヌクレオチドは、標的配列(又はその相補鎖)の領域に相補である、少なくとも約10の連続した塩基、より好ましくは約12の連続した塩基を含む。標的結合塩基は、結合する配列に対して、少なくとも約80%、より好ましくは約90%〜100%相補である。増幅オリゴヌクレオチドは、好ましくは長さが約10塩基〜約60塩基であり、修飾ヌクレオチド又は塩基類似体を含んでいてもよい。本発明に使用される増幅オリゴヌクレオチドの例示的非制限的な例として、本発明の実施例1に開示されているものなどが挙げられる。
【0036】
本発明の別の特定の実施態様によれば、本発明の細胞は、アルカリホスファターゼタンパク質を発現する。
【0037】
アルカリホスファターゼ(ALP)は、数多くの種類の分子、例えば、ヌクレオチド、タンパク質及びアルカロイドからリン酸基の除去に関与する加水分解酵素である。アルカリホスファターゼは幹細胞膜マーカーであり、この酵素の高度発現は未分化多能性幹細胞と関連している。胚性幹(ES)、胚性生殖(EG)及び胚性癌(EC)細胞のような全ての霊長類多能性幹細胞は、アルカリホスファターゼ活性を示す。
【0038】
当該技術分野において、酵素反応に続き、比色又はファーストレッドバイオレット染料、蛍光検出、および免疫染色をおこなう方法に基づくようなALPの検出のための、既知の種々の方法が存在する。
【0039】
本発明によれば、タンパク質発現プロファイリングのいずれの標準的な手法も、本発明の上述した態様の実施に使用するのに好適である。特に、アルカリホスファターゼタンパク質発現は、通常の方法及び装置(例えば、市販の抗体及び当該技術分野において既知の標準プロトコルとともに使用されるCalibur(Becton Dickinson)FACSシステム)を用いたフローサイトメトリー法により検出できる。別法として、アルカリホスファターゼタンパク質発現は、前記タンパク質に対する特異的抗体を使用する標準的なタンパク質発現アッセイにより測定することができる。このようなアッセイには、ラジオイムノアッセイ、酵素免疫測定法(例えば、ELISA)、免疫蛍光、免疫沈降、ラテックス凝集法、血球凝集及び組織化学的検査などがある。例示的非限定的例として、アルカリホスファターゼタンパク質発現は、本発明の実施例1に記載されているようにして測定される。
【0040】
ミトコンドリア膜電位(ΔΨm)はミトコンドリア機能の鍵となる指標であり、in situでのΔΨmの特徴付けにより、ミトコンドリアバイオエナジェティックス及び細胞代謝を正確に測定できる。ΔΨmを測定する方法は、非侵襲性の理由から、テトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)などの一価のカチオン性蛍光染料を用いることを含む。蛍光膜透過カチオンプローブTMRMは、無傷細胞におけるΔΨmの分析において、より容易に使用されるプローブの1つである。細胞及びミトコンドリア生理機能、タンパク質の局在化及びリアルタイム酵素動力学に対応したΔΨmを測定することができることにより、壊死及びアポトーシス細胞死の進行、さらには刺激及び薬物を添加後の細胞の生存の特徴付けが可能となる。
【0041】
特定の実施態様によれば、前記細胞集団の細胞は、低ミトコンドリア膜電位を示す。本発明によれば、用語「低ミトコンドリア膜電位」は、本発明の細胞を含んでなる細胞集団において、通常の方法及び装置(例えば、Calibur(Becton Dickinson)FACSシステム)を用いたとき、バックグラウンド信号より上のフローサイトメトリーにおける特異的ミトコンドリア膜マーカーについてのシグナルを示すのは、細胞の10%未満、好ましくは9%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満であるか、又はどの細胞も示さないことを意味する。
【0042】
有利なことに、本発明の細胞は、インビボ腫瘍形成活性を示さない。したがって、本発明の別の特定の実施態様によれば、本発明の細胞集団は、腫瘍活性を示さない。本明細書における表現「腫瘍活性」は、腫瘍細胞を生じる変容挙動又は増殖表現型を指す。
【0043】
本発明の細胞の腫瘍活性は、免疫不全マウス株を用いた動物実験を実施することにより検証することができる。これらの実験においては、数百万の細胞をレシピエント動物に皮下移植し、数週間維持し、腫瘍形成について分析する。一つの特定のアッセイが、本発明の実施例1に開示されている。
【0044】
本発明の細胞は、増殖し、いくつかの細胞系統に分化する能力を示す。好ましい実施態様によれば、本発明の細胞は、少なくとも2つ、より好ましくは3つ、4つ、5つ、6つ、7つ又はそれ以上の細胞系譜に分化する能力を示す。この意味で、本発明の細胞は、通常の方法により、増殖し、他の系譜の細胞に分化することができる。
【0045】
本発明の特定の実施態様によれば、本発明の細胞集団の細胞は、平滑筋細胞に分化する能力を示す。別の特定の実施態様によれば、前記の集団の細胞は、脂肪細胞に分化する能力を示す。さらなる実施態様によれば、前記集団の細胞は、骨芽細胞に分化する能力を示す。別の特定の実施態様によれば、前記集団の細胞は、神経細胞に分化する能力を示す。
【0046】
未分化カウンターパートから分化細胞を同定し、その後単離する方法もまた、当該技術分野において周知の方法により実施することができる。
【0047】
また、本発明の細胞は、ex vivo増殖させることもできる。すなわち、単離後、本発明の細胞は、培養培地において生体外で維持し、増殖させることができる。このような培地は、例えば、抗生物質(例えば、100単位/mlペニシリン及びl00μg/mlストレプトマイシン)を含有するかあるいは含有せず、5mMグルタミンを含有し、2〜20%のウシ胎仔血清(FBS)を添加した、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)からなるものである。使用される細胞に必要とするとき、培地及び/又は培地補助剤の濃度を変更又は調整ことは、当業者には既知である。血清は、しばしば生存能力と増殖に必要である細胞性及び非細胞性因子と成分を含有する。血清としては、例えば、FBS、ウシ血清(BS)、子ウシ血清(CS)、ウシ胎仔血清(FCS)、新生ウシ血清(NCS)、ヤギ血清(GS)、ウマ血清(HS)、ブタ血清、ヒツジ血清、ウサギ血清、ラット血清(RS)などが挙げられる。また、本発明の細胞がヒト由来のものである場合、細胞培養培地にヒト血清(好ましくは自己由来)を添加することも意図される。補体カスケードの成分を不活性化することが必要であると思われる場合、血清を55〜65℃で熱不活性化できる。血清濃度の調節、培養培地からの血清の回収を使用して、1つ以上の所望細胞型の生存を促進することもできる。好ましくは、本発明の細胞は、約2%〜約25%のFBS濃度が有効であろう。別の実施態様によれば、本発明の細胞は、一定の組成の培養培地において増殖することができ、その場合、血清を、当該技術分野において既知の血清アルブミン、血清トランスフェリン、セレニウム及び組換えタンパク質、例えば、インスリン、血小板由来成長因子(PDGF)及び塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)(これらには限定されない)により置き換えられる。
【0048】
数多くの細胞培養媒地は、すでにアミノ酸を含有しているが、一部は細胞培養の前に補充が必要である。このようなアミノ酸として、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン酸、L−アスパラギン、L−システイン、L−シスチン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、L−グリシンなどがあるが、これらには限定されない。
【0049】
また、抗菌物質も典型的に細胞培養に使用して、細菌、マイコプラズマ及び真菌汚染を軽減する。典型的には、使用される抗生物質又は抗真菌化合物は、ペニシリン/ストレプトマイシンの混合物であり、また、アンフォテリシン(フンギソン(R))、アンピシリン、ゲンタマイシン、ブレオマイシン、ハイグロマシン、カナマイシン、マイトマイシンなどを挙げることができるけれども、これらには限定されない。
【0050】
ホルモンもまた、細胞培養に有利に使用することができ、D−アルドステロン、ジエチルスチルベストロール(DES)、デキサメタゾン、b−エストラジオール、ヒドロコルチゾン、インスリン、プロラクチン、プロゲステロン、ソマトスタチン/ヒト成長ホルモン(HGH)などが挙げられるが、これらには限定されない。
【0051】
また、本発明の細胞の維持条件では、細胞が未分化形態のままであることができる細胞因子を含有することもできる。分化の前に、細胞分化を阻害する補充剤は培養培地から除去しなければならないことは、当業者には明らかである。また、全ての細胞がこれらの因子を必要とするわけではないことも明らかである。実際に、これらの因子は、細胞型によっては、望ましくない影響を誘発する。
【0052】
本発明の別の特定の実施態様によれば、前記細胞は、限定された増殖速度を示す。実際に、ここに示すデータは、本発明の細胞を、生体内で広範に、しかしながら、無期限ではなく成長させることができることを明らかにする。これらの細胞は、生体内でほぼ30継代後に老化する。
【0053】
本発明の細胞は、トランスフェクトするか、また遺伝子操作して、少なくとも一種の意図するポリペプチドを発現できる。したがって、別の特定の実施態様によれば、本発明の細胞は遺伝子組換えされたものである。
【0054】
ポリヌクレオチドを人工操作のいずれかの好適な手段により細胞に移行された場合、又は細胞がポリヌクレオチドを受け継いだ最初に変更された細胞の後代である場合に、細胞が「遺伝子組換え」されるか、「トランスフェクト」されるか、又は「遺伝子形質転換」されると言われる。ポリヌクレオチドは、意図するタンパク質をコードする転写可能な配列をしばしば含み、それにより細胞が高レベルでタンパク質を発現する。遺伝子変化は、変更細胞の後代が同じ変更を有する場合に「遺伝性」であると言われる。「形質転換細胞」は、本発明のポリヌクレオチドをコードする核酸分子が、例えば、組換えDNA法又はウイルスにより導入された細胞(又はその先代又は祖先に導入されたもの)を意味する。「核酸」又は「核酸分子」は、1本鎖又は2本鎖形態におけるデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドポリマーを指し、特記のない限りは、天然のヌクレオチドとして同様に機能することができる公知の天然ヌクレオチドの類似体を包含することができる。「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は、本明細書では互換的に使用されて、アミノ酸残基のポリマーを指す。これらの用語は、1つ以上のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工化学的類似物であるアミノ酸ポリマー、さらには天然アミノ酸ポリマー及び非天然アミノ酸ポリマーに適用される。アミノ酸類似物は、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然アミノ酸と類似の方法で機能する化学化合物を指す。
【0055】
近年、MSCは、組織修復及び再生における役割が増加している。組織損傷の種々のモデルにおいて、MSCは、損傷した組織の回復を向上させる。
【0056】
本発明の細胞は、白血球が内皮(CD44)に付着し且つそれを横断するのに用いるタンパク質のいくつかを発現し、したがって、経動脈的に送達されたときに、骨形成組織内及び脂肪細胞間の骨格筋の間質に拡散することができる。一方では、本明細書に示すデータから、本発明の細胞は、生体内で永久ではないが広範に成長できることが明らかである。このことは、細胞療法プロトコルのさらなる懸念が、生体内での広範な増殖は、分化及び/又は自己複製能を損なうか、又は悪性転換を生じることさえある恐れがあることを考えると極めて重要である。実際に、上記したように、前記細胞は、生体内で約30継代後に老化する。さらに、これらの細胞は、2倍体核型を維持し、免疫不全マウスにおいて腫瘍形成しない。
【0057】
本明細書において用語「核型」は、染色体の数と形態の両方により定義される、一定の種の個々の細胞又は細胞株の染色体特性を指す。典型的には、核型は、顕微鏡写真又はコンピュータ生成画像からの前期又は中期(又は凝縮)染色体の体系化したアレイとして提示される。別法として、間期染色体は、間期細胞核から放出されたヒストン枯渇DNA繊維として分析できる。染色体数が種の染色体数と比較して変化ないときには、正常核型と考えられる。
【0058】
したがって、さらなる態様によれば、本発明は、薬剤として使用される本発明の単離幹細胞集団に関する。特定の実施態様によれば、本発明の細胞集団は、組織変性状態を処置するための薬剤として使用される。本明細書において用語「組織変性状態」は、病的状態を示す組織を指す。したがって、本発明によれば、本発明の細胞集団又は組成物は、組織修復及び/又は再生用薬剤として使用することができる。この意味で、本発明の細胞集団は、前記組織における幹細胞の増殖、再生及び/又は生着を高めるため、すなわち、老化及び/又は損傷した組織を修復及び/又は再生するために使用できる。
【0059】
より特定の実施態様によれば、前記組織変性状態は、骨格筋変性、心臓組織変性、骨組織変性、神経組織変性、肺変性、肝臓変性、腎臓変性又は前記組織変性状態のうちの複数が同時になった状態である。
【0060】
本明細書において用語「治療する」、「治療」及び「治療すること」は、本発明の細胞集団又は前記細胞集団を含んでなる医薬組成物を前記治療を必要とする対象への投与から生じる疾患に関連した1つ以上の症状の軽減を指す。したがって、本明細書で使用されている「治療」は、哺乳動物、特にヒトの障害、疾患又は状態のいずれの治療をも網羅し、以下のことを含む:(a)疾患又は状態になりやすいがまだその状態になっているとは診断されていない対象がその疾患又は状態を生じることを防止すること;(b)疾患又は状態を阻害すること、すなわち、その進行を阻止すること;又は(c)疾患又は状態を軽減すること、すなわち、疾患又は状態の退行若しくは1つ以上の疾患又は状態の症状を改善すること。この方法により処置される対象の集団には、望ましくない状態又は疾患を患った対象、さらには状態又は疾患の進行の恐れのある対象などがある。本明細書で使用されている用語「障害」及び「疾患」は、同義的に使用され、身体機能を損ない、死に至ることがある、対象における異常又は病的状態を指す。
【0061】
用語「対象」は、動物、好ましくは哺乳動物、例えば、非霊長類(例えば、雌牛、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラット又はマウス)並びに霊長類(例えば、サル又はヒト)を指す。好ましい実施態様によれば、対象はヒトである。
【0062】
活性成分、すなわち本発明の細胞集団を、それ単独で投与することもできるが、本発明による細胞集団の有効量を活性成分として含んでなる医薬製剤又は組成物の一部としてそれを提供することが好ましい。本発明に関連した医薬製剤又は組成物は、活性成分(単一または複数)と、薬学的に許容しうる担体及び他の添加物(一緒に又は別個に)との組み合わせを意味する。したがって、別の態様によれば、本発明は、本発明の単離幹細胞集団と許容しうる医薬ビヒクル又は担体とを含んでなる医薬組成物を指す。
【0063】
特定の実施態様によれば、用語「薬学的に許容しうる」とは、連邦若しくは州政府の監督官庁によって承認されたか、又は米国薬局方、ヨーロッパ薬局方若しくは他の一般的に認識される薬局方において、動物、より具体的にはヒトへの使用が記載されていることを意味する。
【0064】
本発明に関連して用語「担体」とは、本発明の細胞集団と反応せず、希釈剤、アジュバント、賦形剤又はビヒクルとして製剤に添加するか、又は製剤に形態若しくは稠度を与えるために添加できる、不活性な非毒性物質のいずれか一つを意味する。担体は、活性成分の標的組織への送達又は浸透を改善して、望ましくない副作用などを減少させる効果を有していてもよい。また、担体は、製剤に食用着香剤などを含有させるために製剤を安定化する物質(例えば、防腐剤)であることもできる。担体、安定化剤及びアジュバントの例については、E. W. Martin、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES、MacK Pub Co (1990年6月)を参照されたい。また、所望ならば、組成物に少量のpH緩衝剤を含有することもできる。
【0065】
このような組成物は、予防又は治療に有効な量の予防薬又は治療薬を、好ましくは精製された形態で、好適な量のアーナー(earner)とともに含有して、対象に投与するのに適切な形態とする。製剤は、投与方法に適合しなければならない。好ましい実施態様によれば、医薬組成物は、無菌であり、対象、好ましくは動物対象、より好ましくは哺乳動物対象、最も好ましくはヒト対象への投与に適当な形態である。
【0066】
本発明の医薬組成物は、種々の形態であることができる。これらには、固体、半固体及び液体剤形、例えば、凍結乾燥製剤、液剤又は懸濁剤、注射剤及び不溶解性液などがある。好ましい形態は、投与及び治療用途の意図する方法に依存する。
【0067】
本発明の細胞集団、又は前記細胞集団を含んでなる医薬組成物を、それを必要とする対象に、通常の手段により投与することができる。特定の実施態様によれば、前記細胞集団を、生体外(例えば、移植又は生着前にグラフトとして)又は生体内で動物組織に直接移すことを含む方法により、対象に投与する。細胞は、一般的に組織の種類により異なる適切な方法により所望の組織に移される。例えば、細胞を、細胞を含有する培養培地にグラフトを浸漬(又はグラフトに培養培地を注ぐ)ことにより、グラフトに移行させることができる。別法として、細胞を、組織内の所望の部位に播種して集団を確立することができる。細胞を、カテーテル、トロカール、カニューレ、ステント(細胞を播種できる)などの装置を用いて生体内の部位に移行することができる。
【0068】
さらに、活性物質を、所望の作用を妨害しない他の活性物質、又は所望の作用を補うか、あるいは別の作用を有する物質と混合することもできる。本発明の化合物、すなわち、細胞集団は、組成物における単独の薬学的に活性な組成物として製剤化してもよいし、又は他の活性成分、例えば、組織変性状態の処置に有用な他の薬剤と組み合わせることもできる。したがって、本発明の細胞集団及び組成物を併用療法で投与してもよい。用語「併用療法」は、障害に関連した1つ以上の症状の改善のための本発明の方法で、他の活性剤又は処置方法とともに本発明の細胞集団を使用することを指す。これらの他の薬剤又は処置として、このような障害の処置について既知の薬物及び療法を挙げることができる。本発明の薬剤を他の療法又は処置方法と併用することは、同時であっても、又は順次であってもよい。すなわち、2つの処置は、本発明の細胞集団又は前記細胞集団を含んでなる医薬組成物を、他の療法又は処置療法前又は後に投与してよい。担当医は、細胞集団又は前記細胞集団を含んでなる医薬組成物を、他の薬剤、療法又は治療方法と組み合わせて投与する適切な順序を決定することができる。
【0069】
他の態様によれば、本発明は、骨格筋変性、心臓組織変性、骨組織変性、神経組織変性、肺変性、肝臓変性、腎臓変性又は前記組織変性状態のうちの複数が同時になった状態を含む組織変性状態に関連するがこれらには限定されない1つ以上の症状を防止、処置又は改善するための薬剤を調製するための、本発明の細胞の使用に関する。
【0070】
別の態様によれば、本発明は、子宮筋組織から幹細胞集団を単離するための方法であって、前記細胞集団の細胞が、CD31、CD34、CD44、CD117、SSEA−4及びWGA−レクチン表面マーカーについて陽性であり、CD13、CD45、CD80、CD133、CD146、TRA1−60及びTRA1−81表面マーカーについて陰性であり、前記方法が:
i)固体表面上で好適な細胞培養培地中において、子宮筋組織試料を、前記試料の細胞が前記固体表面に付着する条件下でインキュベーションする工程と;
ii)前記細胞培養液から、前記固体表面に付着しないか、又は付着能が低い細胞を回収する工程と;
iii)選択された細胞集団が意図する表現型を示すことを確認する工程と
を含んでなることを特徴とする、方法(以下、「本発明の方法」と称する)に関する。
【0071】
本明細書において用語「固体表面」は、細胞が付着することができるいずれかの物質を指す。特定の実施態様によれば、前記物質は、ゼラチンである。本発明による実施例1に示すように、子宮筋組織試料を、他の細胞型について上記したようにして、ゼラチン1%を塗布したペトリ皿に移した(Minasi、M.G.等;Sampaolesi M等 2003.Science.301:487−492)。これらの試料を15日間培養し、線維芽細胞様細胞の初期増殖後、小さい円形で且つ屈折細胞が出現した。基質に付着しにくく、浮上したこれらの細胞は、最初の培養液から静かにピペットにより容易に集められた。前記浮上細胞は、ポリクローナル集団として増殖するか、又は限定希釈によりクローニングした。したがって、本発明の方法の工程ii)によれば、本明細書で使用されている表現「低付着能」は、細胞(例えば、線維芽細胞)が前記固体表面に付着することができる標準条件下で、前記固体表面に付着せず、したがって、培養培地に浮上するか、又は前記培養培地から、例えば、静かにピペットにより容易に集めることができる細胞を指す。
【0072】
本発明の細胞は、ヒトを含むいずれかの好適な動物由来のいずれかの好適な子宮筋組織源から、通常の手段により得ることができる。特定の場合において、子宮筋組織試料は、子宮剥離により子宮体の下子宮セグメントから得られる。試料採取では、本発明の実施例1で説明した適切な道具で頸管内子宮管から剥離細胞を集めることがおこなわれる。一般的に、前記細胞は、非病的産後の哺乳動物の子宮筋組織から得られる。特定の実施態様によれば、本発明の細胞集団の細胞は、哺乳動物、例えば、齧歯類、霊長類、好ましくはヒト由来である。動物内の子宮筋組織細胞が生育可能である限りは、生存していても、死亡していてもよい。典型的には、ヒト子宮筋細胞は、上記したようなよく知られているプロトコルを用いて、生存ドナーから得られる。
【0073】
子宮筋組織の試料を、好ましくは処理する前に洗浄して、本発明の細胞を物質の残部から分離する。残りの細胞は一般的に種々のサイズの塊で存在し、プロトコルを細胞自体の損傷を最小に抑えながら全体構造を分解するようにした工程を用いて進行することができる。細胞の塊は、機械的攪拌、音波エネルギー、熱エネルギーなどの処理を用いて分解できる。
【0074】
最終的な単離の後、細胞を培養し、所望ならば、数及び生存能力についてアッセイして、収量を評価することができる。望ましくは、細胞を、適切な細胞密度及び培養条件で、好適な細胞培養培地を用いて、固体表面上で、分化なしで培養する。したがって、特定の実施態様によれば、細胞を、好適な細胞培養培地[例えば、DMEM、典型的には5〜15%(例えば、10%)の好適な血清、例えば、ウシ胎児血清又はヒト血清を添加]の存在下で通常ゼラチン製の固体表面上で分化なしで培養し、細胞が固体表面に付着し、増殖する条件下でインキュベーションする。
【0075】
細胞を、同じ培地中、同じ条件下で、必要に応じて細胞培養培地を交換しながら、適当なコンフルーエンス、典型的には約80%細胞コンフルーエンスに到達するまで、維持する。所望の細胞コンフルーエンスに到達後、細胞を、トリプシンなどの脱離剤を用いて、連続継代させ、適切な細胞密度(通常2,000〜10,000細胞/cm2)で、より大きな細胞培養表面上に播種することにより増殖できる。したがって、次に細胞を、発生表現型をまだ保持しながら、分化なしでこのような培地において少なくとも2回継代させる。より好ましくは、細胞を、発生表現型を失うことなく、少なくとも10回(例えば、少なくとも15回、又はさらには少なくとも20回)継代させることができる。典型的には、細胞を、約100細胞/cm2〜約100,000細胞/cm2(例えば、約500細胞/cm2〜約50,000細胞/cm2又はより特には約1,000細胞/cm2〜約20,000細胞/cm2)などの所望の密度でプレーティングする。より低密度(例えば、約300細胞/cm2)でプレーティングした場合、細胞をより容易にクローン的に単離できる。例えば、数日後、このような密度でプレーティングした細胞が増殖して、均一な集団となる。特定の実施態様によれば、細胞密度は、2,000−10,000細胞/cm2である。上記方法の結果として、意図する表現型を有する均一な細胞集団が得られる。実施例1には、マウスの子宮筋組織からの本発明の細胞の単離について、詳細に記載されている。
【0076】
意図する表現型を確認することは、通常の手段を使用することにより実施できる。細胞−表面マーカーは、通常、陽性/陰性選択、例えば、細胞中の存在/不存在を確認する必要がある、細胞−表面マーカーに対するモノクローナル抗体に基づいたいずれかの好適な通常の手段で同定できるが、但し他の方法を使用することもできる。したがって、特定の実施態様によれば、CD13、CD45、CD80、CD133、CD146、TRA1−60及びTRA1−81表面マーカーのうちの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、好ましくは全てに対するモノクローナル抗体を使用して、選択された細胞における前記マーカーが存在しないことを確認し、CD31、CD34、CD44、CD117、SSEA−4、HLA−DR及びWGA−レクチンのうちの1つ、2つ、3つ、4つ、好ましくは全てに対するモノクローナル抗体を使用して、それらの存在、又は前記マーカーの少なくとも1つ、好ましくは全ての検出可能な発現レベルを確認する。前記モノクローナル抗体は、既知且つ市販されているか、又は通常の方法により当業者により得ることができる。
【0077】
本発明により提供される細胞及び細胞集団は、必要に応じて、細胞集団をクローニングするのに好適な方法を用いて、クローン的に増殖できる。例えば、細胞の増殖集団を、物理的に採取し、別個のプレート(又はマルチウエルプレートのウエル)に播種することができる。別法として、細胞を、単一細胞を各ウエルに配置するのを容易にするための統計比率でマルチウエルプレート上にサブクローニングすることができる(例えば、約0.1〜約1細胞/ウエル又はさらに約0.25〜約0.5細胞/ウエル、例えば、約0.5細胞/ウエル)。勿論、細胞を、低密度でプレーティング(例えば、ペトリ皿又は他の好適な基質に)し、クローニングリングなどの装置を用いて他の細胞からそれらを単離することによりクローニングすることができる。クローナル集団の産生を、いずれかの好適な培養培地において増殖することができる。いずれにしても、単離した細胞を、それらの発生的表現型を評価できる好適な点まで培養できる。
【0078】
本発明の細胞集団の細胞を単離するための工程及び手順のいずれも、必要に応じて手動で実施することができる。別法として、このような細胞を単離するプロセスは、当該技術分野においてその例が既知である、一つ以上の好適な装置により促進し及び/又は自動化することができる。
【0079】
別の態様によれば、本発明は、本発明の細胞を含有する細胞集団を含んでなるキットに関する。
【0080】
他の態様によれば、本発明は、前記障害又は疾患を患った対象における組織変性状態と関連した一以上の症状を防止、処置又は改善するための、本発明の細胞を含有する細胞集団の使用に関する。
【0081】
他の態様によれば、本発明は、前記障害又は疾患を患った対象における組織変性状態と関連した一以上の症状を防止、治療又は改善する方法であって、このような処置を必要としている前記対象に、本発明の細胞を含有する細胞集団を予防的又は治療的に有効な量を投与することを含んでなる。特定の実施態様によれば、前記組織変性状態は,骨格筋変性、心臓組織変性、骨組織変性、神経組織変性、肺変性、肝臓変性、腎臓変性又は前記組織変性状態の複数が同時におきた状態である。
【0082】
本発明を、実施例により、より詳細に説明するが、これらの実施例は添付図面を参照して本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるわけではない。
【実施例】
【0083】
子宮組織からのマウス成体子宮筋前駆体(MAMp)の単離、生体内増殖及び分化
I.材料及び方法
子宮及び子宮筋外植
子宮筋外植片を、子宮剥離により子宮体の下子宮セグメントから採取した。試料採取では、適切な道具で頸管内子宮管から剥離細胞を集めることがおこなわれる。全ての外植片を、使用前に子宮内膜、漿膜、脂肪及び線維組織のトリミングをした。手法は、子宮頸部細胞診と類似のものである。
【0084】
子宮筋組織は、室温で、酸素添加(O295%、CO25%)生理食塩水(PBS)中、獲得後最大24時間維持できる。試料を、10%FBS−DMEM+5mMグルタミン及び抗生物質の存在下でゼラチン1%を塗布したペトリ皿に移した。これらの試料を15日間培養し、線維芽細胞様細胞の初期増殖後、小さい円形及び屈折細胞が出現した。この細胞集団は、最初の培養をゆっくりとピペットで容易に採取し、カウントし、ゼラチン1%塗布p96ウエル皿上で、限定希釈によりクローニングした。
【0085】
子宮筋前駆体は、子宮外植片からも得た。4カ月C57マウスから得た子宮筋組織片(10〜30mg)を、抗生物質含有DMEM w/o FCS(ウシ胎児血清)に保持した。次に、各片を、Ca/Mgを含有するPBS中ですすぎ、外科用メスで直径1〜2mm片にシャープに細分化した。小管を含むフラグメントを、10%FBS−DMEM+5mMグルタミン及び抗生物質の存在下、ゼラチン1%を塗布したペトリ皿に移した。これらのフラグメントを15日間培養し、線維芽細胞様細胞の初期増殖後、小円形且つ屈折性細胞が出現した。この細胞集団を、最初の培養液をゆっくりとピペットで容易に集め、カウントし、ゼラチン1%塗布p96ウエル皿上で限定希釈によりクローニングした。
【0086】
異なる有効なクローンを、位相コントラストモルホロジーにより選択した後、表面マーカー発現により特徴付けた。
【0087】
分化アッセイ
異なる細胞型への分化を、既に周知の公開されたプロトコルに準じて誘発させた。
【0088】
培養液を、分化培地(2%ウマ血清添加DMEM)に移した。平滑筋細胞と骨芽細胞への分化を、既に報告されているようにして、それぞれTGFβ1及びBMP2での処理により誘発させた(Minasi、M.G.等、2002。Development 129、2773−2783)。骨格筋細胞への分化を、MAMpをC2C12マウス筋芽細胞とともに共培養することにより誘発させた。心臓細胞への分化を、10μM5−アザシチジンで48時間処理した後に分析した。5日後、培養液を固定し、着色溶液で染色するか、又は横紋ミオシン(MF20)に対する抗体で染色した。
【0089】
神経細胞への分化は、培養培地を神経幹細胞増殖培地に変化させることからなる:最終濃度4.5mg/ml、N2追加(Gibco−Invitrogen)、B27追加(Gibco−Invitrogen)、20μg/mlインスリン(Sigma)、2μg/mlヘパリン(Sigma)、20ng/mlβFGF(Sigma)、10ng/mlEGF(Sigma)まで、D−グルコース(Sigma)を添加したDMEM:F12培地(Sigma)。神経幹細胞増殖培地を、2回変更し、培養1週間後、細胞を処理して免疫細胞化学分析をおこなった。さらに、細胞を神経幹細胞分化培地(最終濃度4.5mg/mlまで、D−グルコース(Sigma)を添加したDMEM:F12(Sigma)、N2追加(Gibco−Invitrogen)、B27追加(Gibco−Invitrogen)、2μg/mlヘパリン(Sigma)及び1%FBS(Sigma))においてさらに1週間増殖し、神経培養用特異的培地(Neurobasal−A (Gibco−Invitrogen)、B27(Gibco−Invitrogen)、Glutamax−I (Gibco−Invitrogen)、P/S (Sigma))でさらに1週間増殖し、並びにオリゴデンドロサイト分化(DMEM(Sigma)、4.5mg/mL D−グルコース、100μg/mL BSA(Sigma)、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン(Sigma)、2mM L−グルタミン(Sigma)、60μg/mL N−アセチル−L−システイン(Sigma)、N2追加(Gibco−Invitrogen)、20ng/mL bFGF(PeproTech)及び10ng/mL PDGF−AA(PeproTech))した。この後、細胞を処理して、免疫細胞化学分析をおこなった。ヒト核の同定を、Hoechstにより確認した。分化率(%)を、分化したMAMp数をカウントすることにより計算した。
【0090】
細胞増殖の分析
細胞を、異なる培地において密度3x103細胞/cm2でプレーティングし、平均3日ごとに継代させた。継代ごとに、細胞数を、血球計で三重にカウントした。クローンの成長曲線について、細胞を、完全DMEM又は胚性培地中、最初に1x104細胞/cm2でプレーティングし、5日ごとに継代させた。継代ごとに、細胞数を、血球計で三重にカウントした。
【0091】
核型分析
分析の72時間前に1/3コンフルーエンスでプレーティングした細胞を、製造業者の説明書にしたがって、Karyomaxキット(Invitrogen)で処理した。分析した核型の各々について、5つの異なる中期増殖を調べた。
【0092】
腫瘍原性
腫瘍形成の可能性を試験するために、5匹のヌードマウスに、107MAMpを皮下注射した。4カ月後、マウスを犠牲し、分析して、肉眼検出可能な腫瘍の存在を調べた。
【0093】
免疫蛍光
細胞を、ゼラチン塗布ガラスカバースリップ上で増殖させて、PBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで10分間固定した。試料を、液体窒素中冷却イソペンタンで凍結し、連続8μm(厚)切片を、Leycaクリオスタットで切断した。組織切片を洗浄剤なしでインキュベーションしながら、細胞を室温で30分間、PBS中、0.2%Triton X−100、1% BSAで透過処理した。細胞及び組織切片を、10%ロバ血清とともに、室温で30分間インキュベーションし、適切な希釈で、一次抗体とともに、4℃で一晩インキュベーションした。インキュベーション後、試料を、透過化緩衝液とともに、2回洗浄後、適切なFITC又はTRiTC複合抗マウス又は抗ウサギIgG及びHoechstとともに、室温で45分間インキュベーションした。3回最終洗浄した後、カバースリップを、PBS中Mowiolを用いてスライドガラス上にマウントし、蛍光顕微鏡(Nikon)下で分析した。他の組織切片又は細胞を、説明したようにしてX−Galで染色した(Sampaolesi M等 2003.Science.301:487−492)。
【0094】
抗体
以下の抗体を使用した:1:100希釈での抗ラミニンモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体(Sigma);1:5希釈でのMF20抗体、Sigma社製抗スムースαアクチン1:300希釈、ポリクローナル抗ネスチン抗体(Abcam)、β−III−チューブリン(抗−TUJ1抗体、Abcam)、ダブルコルチン(抗−Dcx抗体、Abcam)、及びMAP2(Sigma)(神経マーカーとして)、GFAP(Sigma)(星状膠細胞マーカーとして)及びRIP(Developmental Studies Hybridoma Bank)(オリゴデンドロサイトマーカーとして)。核を、ビスベンズイミド(Sigma)で染色した。
【0095】
FACS分析(FACS Calibur(Becton Dickinson))のために、以下の抗体を使用した:BD Biosciences社製CD44、CD34、CD45、CD117、CD133、ID labs社製CD31、CD13、Biocytes社製CD146、Abcam社製CD80、CD90、SSEA−4、WGA、Biotech社製TRA1−60及びTRA1−81、Molecular Probes社製TMRM。
【0096】
遺伝子発現分析
RNAを、増殖しながら、異なるMAMpクローン細胞から抽出した。RT−PCRを実施し、他の群(Mef2c、Sox2、Tbx5、hTERT、Mef2a及びTbx2)による前記した発生又は分化に関与する異なる遺伝子の発現を分析した。
【0097】
PCRの条件は、全てのプライマーについて一般的なものであった:94℃で4分間。94℃、45秒の30サイクル;55℃、45秒;72℃、45秒。72℃で10分間の最終行程。
使用プライマーのリスト:
Mef2aプライマーフォワード:TTGAGGCTCTGAACAAGAAGG
Mef2aプライマーリバース:GCATTGCCAGTACTTGGTGG
Mef2cプライマーフォワード:AACACGGGGACTATGGGGAGAAA
Mef2cプライマーリバース:TATGGCTGGACACTGGGATGGTA
Tbx2プライマーフォワード:GGTGCAGACAGACAGTGCGT
Tbx2プライマーリバース:AGGCCAGTAGGTGACCCATG
Tbx5プライマーフォワード:CCAGCTCGGCGAAGGGATGTTT
Tbx5プライマーリバース:CCGACGCCGTGTACCGAGTGAT
Sox2プライマーフォワード:GGCAGCTACAGCATGATGCAGGAGC
Sox2プライマーリバース:CTGGTCATGGAGTTGTACTGCAGG
mTERT:ヒト/マウスTERTプライマーペア(R&D systems)
【0098】
アルカリホスファターゼ(AP)反応
MAMpを、高密度で、AP活性を分析する前に、プレート上で5日間培養した。
【0099】
5日目に、培地を吸引し、細胞をPBS中で3分間、4%パラホルムアルデヒドで固定した。その後、固定液を吸引し、PBS1×でリンスした。
【0100】
染色溶液を、添加した(ファーストレッドバイオレットと、ナフトール、ホスファターゼ溶液及び水とを、2:1:1比で混合する)。検出キット(Millipore)において、各ウエルを覆い、暗所において室温で15分間インキュベーションする。溶液を吸引し、プレートをPBS1xですすぎ、顕微鏡でバイオレット細胞数をカウントし、分析する。
【0101】
結果
一次マウス子宮バイオプシーからの細胞の単離及び生体内増殖
上記したように、子宮バイオプシーを、顕微鏡下で解剖した:管のフラグメント及び包囲している間葉系組織を細分し、他の細胞型について上記したようなゼラチン塗布皿上にプレーティングした(上記したMinasi、M.G.等;上記したSampaolesi M等 2003)。線維芽細胞様細胞の初期増殖後、小さい円形且つ屈折細胞が出現した。これらの細胞は、基質への付着性がよくなく、したがって、ゆっくりとピペットで集められた。浮遊細胞を、ポリクローナル集団として成長させるか、又は場合によっては、限定希釈によりクローニングした。集団における細胞の大多数が、三角形で屈折性の形態を獲得し、約30回の継代の間、倍増時間約36時間で、高増殖速度を維持した。増殖速度は、マウスの年齢(4〜8カ月の範囲)とはほぼ無関係であった。この増殖速度により、最初10.000細胞から、約3x109個の最終細胞数となった。この細胞数は、注射に好適であろう。30回継代(約60PD)後、これ以上分化しない大きな扁平細胞が増加した頻度で出現し、さらに数回の継代後、集団全体が老化した。初期及び末期の継代で、細胞が正常2倍体核型を維持した。腫瘍原性について試験するために、107MAMpをSCID/ベージュマウスに皮下注射した。10匹の注射したマウスを注射後最大6カ月間維持したところ、剖検の際に肉眼で検出できるいずれの可視できる腫瘍を発生しなかった(データは図示せず)。
【0102】
マウス子宮筋前駆体の表現型
MAMpを、フローサイトメトリー及びPCR遺伝子発現によりさらに特徴付けし、異なる細胞型に分化する能力を分析した。
【0103】
表面マーカー及び遺伝子発現の特徴付け
MAMpクローンを、以下の幹細胞マーカーの細胞表面での発現について、フローサイトメトリーにより分析した:CD31、CD34、CD44、CD117、アルカリホスファターゼ(PAL)、HLA−DR、SSEA−1、HLA−DR、WGA、CD13、CD45、CD80、CD90、CD133、CD146、TRA1−60/81及びテトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)。全てのクローンは、CD31、CD34、CD44、CD117、SSEA−4、HLA−DR及びWGA−レクチン表面マーカーについて陽性であり、CD13、CD45、CD80、CD133、CD146、TRA1−60及びTRA1−81表面マーカーについては陰性であった。百分率については表1を、そしてFACSプロファイルについては図1を参照。
【0104】
【表1】
【0105】
RNAを、増殖させながら、異なるMAMpクローン細胞から抽出した。RT−PCRを実施し、他の群において上記した発生又は分化に関与する異なる遺伝子の発現を分析した。MAMpはMef2c、Sox2、Tbx5及びhTERTについて陽性であり、Mef2a及びTbx2について陰性である(図2参照)。
【0106】
MAMpの分化能
MAMpの生体内特徴付けを完了するために、異なる中胚葉細胞型への最終分化を受ける能力を試験した。MAMpは、形質転換成長因子β(TGFβ)、インスリン−デキサメタゾン又は骨形態形成タンパク質2(BMP2)で処理したとき、平滑筋、脂肪細胞又は骨芽細胞に容易に分化する。48時間ごとに5μM5−アザシチジンを添加することにより心筋分化が誘発されたとき、MAMp1%未満が肉腫ミオシンを発現した(データ図示せず)。このことは、これらの細胞が心筋形成を受ける中程度の能力を有することを示している。骨格筋分化を、MAMpをマウス筋原細胞と共培養することにより誘発したとき、極めて高い割合(50%超)がハイブリッド筋管に融合した(図6C)。また、MAMpは、神経幹細胞増殖培地へ変更後に、神経組織に分化することもできた(方法を参照)。神経幹細胞増殖培地において1日後、そして1週間の間、細胞の増殖速度が低下し、形状が変化しはじめた。一部の細胞は細長いプロセスを提示し、他のものは似ている神経球よりもロゼットを形成した。ほとんどの細胞は、ネスチンについて陽性であった(図4)。さらに、細胞は、3種の神経マーカー(Tuj−1、Dcx及びMAP2)、星状膠細胞マーカーGFAP及びオリゴデンドロサイトマーカー、RIPについて陽性染色を示した。さらに、Tuj−1陽性細胞の形態は、神経芽細胞の形態と極めて類似していた。さらに、MAMpは、生来ホスファターゼアルカリ性反応について陽性であった(図3)。
【0107】
考察
本発明は、マウス成体子宮組織からの子宮筋前駆体の単離を示す。前記前駆体は、30回の継代まで成長でき、幹細胞表面マーカー及び遺伝子を発現する。他に、これらの前駆体は、異なる中胚葉組織型に分化することができ、再生医療に好適である。
【0108】
子宮筋前駆体は、さらに外科的介入の必要なく、診断に使用されるバイオプシーだけから容易に単離できる。細胞源は、実用的な理由だけではなく重要である。多能性中胚葉前駆体は、存在する組織の細胞型にみられるある種の局部的分化拘束を受ける。したがって、多能性を有したままで維持する中胚葉前駆体源を有することは興味深いことである。
【0109】
中胚葉の他の幹細胞との比較
ここ数年において、数多くの異なる種類の中胚葉幹細胞を、マウス組織とヒト組織から単離し、異なる程度に特徴付けした。これらには、内皮前駆細胞(EPC)、多能性成体前駆細胞(MAPC)、サイドポピュレーション細胞(SP)、中胚葉性血管芽細胞、筋内皮からの幹/前駆細胞、洞管(sinovia)、真皮及び脂肪組織などがある。異なる実験手順、異なる起源及び部分的特徴付けでは、これらの細胞の不均一性を完全に理解できず、そしてそれらの起源及び可能な系統関係についてはさらに知られていない。いずれせよ、MDSC又はMAPCなどのこれらの細胞の数多くのものは、生体内で骨格筋に分化することが判明した。これらの細胞の一部分は、生体外で広範に増殖するが、EPC及びSPなどの他のものは増殖しない;一方、EPC及びSPは循環するが、全身送達は他の細胞型のほとんどについては試験されなかった。例えば、最近、脂肪組織から単離した細胞は生体外で広範に増殖し、骨格筋を含むいくつかの組織に分化し、ヒトジストロフィン発現繊維を生じることができる。しかしながら、これらの細胞のほとんどは、他の細胞型に有効に分化し、得られ、容易に成長できない。
【0110】
臨床試験のための視点
これからの臨床プロトコルにおいて、全身送達は偏性選択である。本発明の子宮筋前駆体は、白血球が内皮に付着し横断するのに使用し、したがって、頸動脈に送達されたとき、骨形成組織内及び脂肪細胞間の骨格筋の間質に拡散できるある種のタンパク質を発現できる。
【0111】
今後の細胞療法プロトコルについてのさらなる関心事は、生体外での広範な増殖が分化及び/又は自己複製能に支障をきたすか、又はさらに悪性転換を生じることがあるかもしれないという恐れである。ここで提供されるデータから、本発明の細胞は広範に増殖できるが、生体外では無制限に増殖するわけではない。これらの細胞は、2倍体核型を維持し、免疫不全マウスにおいて腫瘍形成せず、生体外で約30回継代後老化が起こる。
【0112】
最後に、ここで2つのプロトコルが細胞療法について選択できる:生体外での遺伝子修正後の自己細胞、又は免疫抑制又はできれば誘発された養子免疫寛容の存在下での正常ドナー細胞。ドナー細胞移植は、これらの問題を克服するが、生後まもなく開始される生涯にわたる免疫抑制の必要性に直面する。
【技術分野】
【0001】
本発明は、成体幹細胞の単離方法、これにより単離された細胞及びそれらの用途に関する。より詳細には、本発明は、子宮筋層由来であり、分化されて一連の細胞系譜を生じ、そして細胞表面抗原などの特異的マーカーを提示する、単離された成体幹細胞に関する。本発明により提供される細胞は、例えば、細胞療法並びに新規な薬剤の研究及び開発に使用できる。
【背景技術】
【0002】
現在、幹細胞研究の分野での技術開発によって、幹細胞は器官又は組織移植を必要とする種類の病変のための、有望な器官源及び組織源であると考えられるようになった。実際、幹細胞療法は、老化及び損傷組織の修復及び/又は再生に非常に有望である。
【0003】
理論的には、幹細胞は、制限のない期間中に自己保全のための細胞分裂をして、表現型的及び遺伝子型的に同一の細胞を生じる。さらに、幹細胞は、ある種のシグナル又は刺激の存在下で、一種又は数種の細胞型に分化する能力を有している。
【0004】
レシピエントの免疫系が異物として認識しないように、患者の幹細胞又は免疫適合性異種細胞から器官及び細胞を生成することは、ドナーの不足及び拒絶反応の危険によって生じる問題を解決するという、一連の関連した利点が得られる。器官及び組織の再生に幹細胞を使用することは、軟骨、骨及び筋肉病変、神経変性疾患、免疫学的拒絶反応、心臓疾患及び皮膚疾患を含む、種々の人体病変のための有望な代替療法となる。
【0005】
細胞療法の用途の他に、幹細胞には、生物薬学的研究及び開発活動を容易にするという、生物医学技術に関連する数多くの他の潜在的用途がある。これらの用途のうちの一つは、新しい薬物の研究及び開発の迅速さ及び効力を実質的に向上させるのに役立つ、ヒト及び動物の疾患の細胞モデルの開発である。現段階では、臨床試験に入る前に新規化合物の生物学的活性を測定するのに最も一般的に使用される方法は、不完全な生化学的手法、又はコストがかかり且つ不十分な動物モデルから構成されている。幹細胞は、新規な治療化合物の研究及び開発のため、並びにそれらの活性、代謝及び毒性を測定するための、インビボ試験用の、実質的に無制限量の細胞(未分化細胞及び分化細胞の両方)の潜在的供給源であろう。このような試験、特に高処理量スクリーニング(HTS)の開発によって、治療活性を有する化合物を開発するのに必要とされる時間と費用が減少し、実験に動物を使用する必要性が大きく減少し、また、臨床試験中に患者が化合物の悪影響に曝されることが減るであろう。さらに、種々の個体からの種々の種類の細胞が入手できることにより、特定の個体に対する、治療可能性のある化合物の効果をよりよく理解でき、化合物の活性が個体の遺伝子構造と関連している薬理ゲノムの分野での十分な開発につながるであろう。幹細胞及びそれらの分化した子孫も、発生、細胞分化及び腫瘍過程を含む多種多様な生物学的プロセスに関与する新規な遺伝子の研究及び特徴付けの過程に非常に有益である。
【0006】
幹細胞の起源に応じて、我々は、胚幹細胞(ES細胞)と成体幹細胞とを区別する。ES細胞は、未分化胚芽細胞の内部細胞塊に由来し、それらの最も適切な特徴点は、多能性であることである。このことは、3つの胚層に由来する成体組織を生じることができることを意味している。成体幹細胞は、経時的に少なくなるが、数十年間人体にとどまることができる、成体組織に存在する部分的に損傷した細胞である。
【0007】
ES幹細胞の高多能性にもかかわらず、成体幹細胞の使用を基本とする療法は、ES細胞を基本とする療法に比べ一連の利点を提供する。まず、分化を誘発することなくES細胞の培養条件を制御することは複雑であり、この種類の細胞を用いるには経済的コスト及び作業量が必要となる。さらに、ES細胞は、特定の病変を治療するのに必要とする特異的な細胞種となる前に、化学的に複雑な化合物により制御されたプロセスである、いくつかの中間段階を経る必要がある。また、胚組織からの未分化幹細胞は、奇形癌として知られている種類の腫瘍を生じる確率が高いので、ES細胞を治療に使用する際の安全性に関する問題もある。最後に、ES細胞由来の細胞は、このような細胞の免疫学的プロファイルは、レシピエントとは異なるので、ES細胞由来の細胞は、通常免疫学系により拒絶される。この問題は、体細胞の核を患者から女性のドナーの卵母細胞に移動させることにより自己ES細胞を得ることができる、「治療型クローニング」として知られているプロセスを用いることにより対応することができるが、この手法は、ヒトにおいてはまだ開発されておらず、そして重大な倫理的且つ法的な問題を引き起こす。別の解決法として、全身の免疫適合性を有する「汎用」細胞株の生成があげられるが、この時点では、このような細胞を得ることができる技術はない。
【0008】
これとは異なり、成体幹細胞は、自己移植により得られる場合には免疫系により拒絶されない。さらに、これらが部分的に損傷している事実は、特殊化細胞を生成するのに必要とする分化段階数を減少させる。さらに、この種の細胞の使用は、いずれの種類の法的又は倫理的議論と関係しない。さらに、これらの種類の細胞は、ES細胞よりも分化の可能性が小さいけれども、これらのほとんどは実際に多能性であり、このことは複数の組織に分化できることを意味している。このことが示唆していることは、成体幹細胞の適切なソースが得られる場合、複数の治療用途をカバーすることができる種々の細胞の種類を提供することができる。
【0009】
「多能性成体前駆細胞」(MAPC)と称される新規な種類の哺乳動物幹細胞が、最近骨髄及び他の組織から単離された。この種の幹細胞は、いわゆる間葉系幹細胞の前駆体であると思われ、大きな多能性を示す。しかしながら、これらを単離し、培養する過程は長く、コストがかかり、そして多量のさまざまな成長因子を使用する。ここ数年において、数多くの異なる種類の中胚葉幹細胞が、マウスとヒト組織の両方から単離され、異なる程度に特徴づけされた。これらには、内皮前駆細胞(EPC)、多能性成体前駆細胞(MAPC)、サイドポピュレーション細胞(SP)、中胚葉性血管芽細胞、筋内皮からの幹/前駆細胞、洞路(sinovia)、真皮及び脂肪組織が含まれる。種々の実験手順、種々のソース及び部分的な特徴付けによっても、まだこれらの細胞の異質性を完全に理解することができず、それらの起源及び可能な系列の関係については、さらに知られていない。どんな場合でも、MDSC又はMAPCなどのこれらの細胞の多くは、生体内で骨格筋に分化することが明らかとなった。これらの細胞の一部分は、生体内で広く成長するが、EPC及びSPなどの他のものは生体内では成長しない。一方では、EPC及びSPは循環することができるが、全身送達は、他の細胞型のほとんどについては試験されていない。例えば、脂肪組織から単離された細胞が、生体内で広範に成長し、骨格筋を含むいくつかの組織に分化し、ヒトジストロフィン発現線維を生じることが、最近示された。しかしながら、これらの細胞は、他の細胞型に効率的に分化するか、又は容易に得たり、成長したりすることがほとんどできない。
【0010】
したがって、多能性幹細胞の容易に入手できるソースを得ることが必要である。特に、顕著な危険や痛みがなく、単離コスト及び培養コストが高くなく、そして他の細胞型からの汚染が最小であり、そして培養中の核型異常の恐れ及び腫瘍形成の可能性がない、生存被検者から容易に単離することができる細胞が必要とされている。
【0011】
文献EP1876233は、子宮内膜組織に由来する細胞集団又は月経血、臍帯血又は胎児の付属器から単離した子宮内膜組織からの細胞集団の単離を記載している。これらの細胞は、心臓の筋細胞に分化することができる。Masanori O.等(PNAS、2007.vol.104、47:18700−18705)は、幹細胞の表現型及び機能的特性を有するヒト子宮筋層におけるサイドポピュレーションの単離について記載した。前記細胞は、表面マーカーCD90、CD73、CD105、CD34及びSTRO−1について陽性であり、CD44について陰性である。前記細胞は、脂肪細胞、骨細胞及び平滑筋細胞に分化することができた。前記細胞集団の単離は、子宮摘出により、すなわち、子宮の外科的除去によりおこなわれる。
【発明の概要】
【0012】
本発明者らは、簡単且つ非侵襲性の手法を用いることにより、成体マウスの子宮壁から、特に子宮筋組織から、新規な細胞集団を単離した。これらの細胞は、平滑筋、脂肪細胞、骨芽細胞、骨格筋及び神経組織を含む数多くの種々の中胚葉組織型に分化することができ、したがって、再生医療に好適である。
【0013】
したがって、第一の態様によれば、本発明は、単離された、子宮筋層由来の間葉系幹細胞集団であって、前記細胞集団の細胞は、CD31、CD34、CD44、CD117、SSEA−4、HLA−DR及びWGA−レクチン表面マーカーについて陽性であり、CD13、CD45、CD80、CD133、CD146、TRA1−60及びTRA1−81表面マーカーについて陰性であることを特徴とする幹細胞集団に関する。
【0014】
別の態様によれば、薬剤として使用される、本発明の前記単離幹細胞集団に関する。
【0015】
さらなる態様によれば、本発明は、組織変性状態の処置用である、本発明の単離幹細胞集団に関する。
【0016】
別の態様によれば、本発明は、本発明による単離幹細胞集団と、許容しうる医薬用ビヒクルとを含んでなる、医薬組成物に関する。
【0017】
さらなる態様によれば、本発明は、子宮筋組織から幹細胞集団を単離するための方法であって、前記細胞集団の細胞が、CD31、CD34、CD44、CD117、SSEA−4及びWGA−レクチン表面マーカーについて陽性であり、CD13、CD45、CD80、CD133、CD146、TRA1−60及びTRA1−81表面マーカーについて陰性であり、前記方法が:
i)固体表面上で好適な細胞培養培地中において、子宮筋組織試料を、前記試料の細胞が前記固体表面に付着する条件下でインキュベーションする工程と;
ii)前記細胞培養液から、前記固体表面に付着しないか、又は付着能が低い細胞を回収する工程と;
iii)選択された細胞集団が意図する表現型を示すことを確認する工程と
を含んでなることを特徴とする方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1A】フローサイトメトリーにより分析された表面マーカー発現についての図である。抗体パネルを用いたFACS分析:CD13、CD31、CD34、CD44、CD45、CD80、CD90、CD117、CD133、CD146、PAL、HLA−DR、TRA1−60、TRA1−81、SSEA−4、WGA及びTMRM。
【図1B】図1Aの続きである。
【図1C】図1Bの続きである。
【図1D】図1Cの続きである。
【図1E】図1Dの続きである。
【図1F】図1Eの続きである。
【図1G】図1Fの続きである。
【図1H】図1Gの続きである。
【図2】PCRにより分析されるMAMpsマーカーの発現ついての図である。種々のクローン細胞から抽出したRNAを、PCRにより、Sox2、hTERT、MEF2a/2c 及びTbx2/5のようなマーカー遺伝子の存在について分析した。
【図3】細胞集団の100%における異なるレベルでの発現を示すアルカリホスファターゼについての染色の図である。
【図4】神経幹細胞増殖媒体における培養の1週間後のネスチンについての、EMSC免疫染色を示す図である。フェーズコントラスト (左パネル)、ネスチン(中央パネル)、核(右パネル)。(対物レンズ20×のニコン蛍光倒立顕微鏡におけるニコンカメラでとった顕微鏡写真である。)
【発明を実施するための形態】
【0019】
本発明は、生体内で複数の細胞型に分化する能力を示す、子宮筋組織から単離された新規な間葉系幹細胞集団に関する。
【0020】
したがって、第一の態様によれば、単離された子宮筋層由来間葉系幹細胞集団(以下、「本発明の細胞集団」と称する)であって、前記細胞集団の細胞が、CD31、CD34、CD44、CD117、SSEA−4(時期特異的胚抗原−4)、HLA−DR及びWGA−レクチン(コムギ胚芽凝集素−レクチン)表面マーカーについて陽性であり、CD13、CD45、CD80、CD133、CD146、TRA1−60及びTRA1−81(腫瘍拒絶抗原1)表面マーカーについて陰性であることを特徴とする。
【0021】
本明細書において、用語「MHC」(主要組織適合性遺伝子複合体)は、細胞表面抗原提示タンパク質をコードする遺伝子の一部を指す。ヒトにおいて、これらの遺伝子は、ヒト白血球抗原(HLA)遺伝子と称される。本明細書では、略字MHC又はHLAは同義的に使用される。
【0022】
本明細書において、細胞集団に用いられる、用語「単離された」とは、人体又は動物の体から単離された細胞集団であって、生体内又は生体外で、前記細胞集団と関連している1つ以上の細胞集団を実質的に含有していないことを意味する。
【0023】
以下において「本発明の細胞」と呼ばれる、本発明の細胞集団の細胞は、子宮筋組織由来である。用語「子宮筋組織」は、子宮壁の中間層由来の組織を指す。本明細書において、用語「子宮」は、頸管及び子宮腔を含む。したがって、明細書及び請求の範囲を通じて、用語「子宮組織」は、頸管及び子宮腔におけるいずれかの物質を指す。
【0024】
本発明の細胞は、ヒトを含むいずれかの好適な動物の子宮筋組織のいずれかの好適なソースから得ることができる。一般的に、前記細胞は、非病的産後の哺乳動物の子宮筋組織から得られる。特定の実施態様によれば、本発明の細胞集団の細胞は、哺乳動物、例えば、齧歯類、霊長類等由来であり、好ましくはヒト由来である。
【0025】
上記したように、本発明の細胞は、CD31、CD34、CD44、CD117、SSEA−4、HLA−DR及びWGA−レクチン表面マーカーについて陽性であり、CD13、CD45、CD80、CD133、CD146、TRA1−60及びTRA1−81表面マーカーについて陰性であることを特徴とする。
【0026】
本明細書において、細胞表面マーカーに関しての「陰性」とは、本発明の細胞を含んでなる細胞集団において、通常の方法及び装置(例えば、市販の抗体及び当該技術分野において既知の標準プロトコルとともに使用されるCalibur(Becton Dickinson)FACSシステム)を用いたときに、バックグラウンド信号より上のフローサイトメトリーにおける特異的細胞表面マーカーについてのシグナルを示すのが、細胞の10%未満、好ましくは9%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満であり、又は細胞のいずれも示さないことを意味する。
【0027】
特定の実施態様によれば、本発明の細胞は、以下の細胞表面マーカーCD31、CD34、CD44、CD117、SSEA−4、HLA−DR及びWGA−レクチンを発現する、すなわち、本発明の細胞は前記細胞表面マーカーについて陽性であることを特徴とする。好ましくは、本発明の細胞は、前記細胞表面マーカーの顕著な発現レベルを示すことを特徴とする。本明細書で使用されている表現「顕著な発現」は、本発明の細胞を含んでなる細胞集団において、通常の方法及び装置(例えば、市販の抗体及び当該技術分野において既知の標準プロトコルとともに使用されるCalibur(Becton Dickinson)FACSシステム)を用いたとき、バックグラウンド信号より上のフローサイトメトリーにおける特異的細胞表面マーカーについてのシグナルを示すものが、細胞の10%超、好ましくは20%超、30%超、40%超、50%超、60%超、70%超、80%超、90%超であるか、又は細胞の全てであることを意味する。バックグラウンド信号は、通常のFACS分析において各表面マーカーを検出するのに使用される特異的抗体と同じアイソタイプの非特異的抗体により示されるシグナル強度として定義される。したがって、陽性であると考えられるマーカーについては、観察される特異的シグナルは、通常の方法及び装置(例えば、市販の抗体及び当該技術分野において既知の標準プロトコルとともに使用されるCalibur(Becton Dickinson)FACSシステム)を用いたとき、バックグラウンド信号強度より10%超、好ましくは20%超、30%超、40%超、50%超、60%超、70%超、80%超、90%超、500%超、1000%超、5000%超、10000%超又はそれ以上である。
【0028】
前記細胞−表面マーカー(例えば、細胞受容体及び膜貫通型タンパク質)に対する、市販且つ既知のモノクローナル抗体を使用して、本発明の細胞を同定することができる。
【0029】
本発明の特定の実施態様によれば、本発明の細胞集団の細胞は、以下の遺伝子の少なくとも1つを発現することを特徴とする:Mef2c(筋細胞エンハンサー因子2C)、Sox2(SRY(性決定領域Y)−box2)、Tbx5(T−box5)
及びhTERT(テロメラーゼ逆転写酵素触媒サブユニット)。より特定の実施態様によれば、前記細胞は、Mef2a(筋細胞エンハンサー因子2A)及びTbx2(T−box5)遺伝子を発現しない。
【0030】
本明細書において、用語「遺伝子」は、転写及び/又は翻訳調節配列及び/又はコード領域及び/又は非翻訳配列(例えば、イントロン、5’−及び3’−未翻訳配列)を含んでなる遺伝子であることができる。遺伝子のコード領域は、アミノ酸配列をコードするヌクレオチド配列又はtRNA、rRNA、触媒RNA、siRNA、miRNA若しくはアンチセンスRNAなどの機能性RNAであることができる。また、遺伝子は、5’−又は3’−未翻訳配列を任意に連結して含んでなるコード領域(例えば、エクソン及びmiRNA)に相当するmRNA又はcDNAでもよい。また、遺伝子は、コード領域及び/又は5’−若しくは3’−未翻訳配列の全て若しくは一部を連結して含んでなる、生体内で産生された増幅核酸分子であってもよい。
【0031】
用語「遺伝子発現」は、DNAコードのmRNAへの転写、mRNAのリボソームへのトランスロケーション及びRNAメッセージのタンパク質への翻訳を含むプロセスを指す。前記遺伝子の発現レベルの測定は、当該技術分野において既知の標準的方法により実施できる。例示の非限定的な例として、前記方法は、上記した遺伝子によりコードされているmRNAの発現レベルを測定することを含む。このために、本発明の細胞を含んでなる生物試料を処理して、物理的又は機械的に細胞構造を破壊し、細胞内成分を水性又は有機溶液に放出して核酸を調整し、さらなる分析に附する。核酸は当業者に知られており且つ市販されている手順により試料から抽出される。次に、当該技術分野において典型的な方法のいずれか、例えば、Sambrook、Fischer and Maniatis、Molecular Cloning、実習マニュアル、(第2版)、Cold Spring Harbor Laboratory Press、ニューヨーク(1989)により抽出する。好ましくは、抽出プロセス中にRNAの分解を回避するように注意が必要である。
【0032】
遺伝子発現プロファイリングの全ての手法が本発明の以下の態様を実施するのに好適に使用されるが、遺伝子mRNA発現レベルは、逆転写ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)によりしばしば測定される。
【0033】
異なる試料間のmRNA発現の値を標準化するために、試験試料における意図するmRNAの発現レベルを、対照RNAの発現と比較することができる。好ましくは、対照RNAは、ハウスキーピング遺伝子に由来し、且つ構成的に発現され、必須の細胞機能を実施するタンパク質をコードするmRNAである。本発明に使用される好ましいハウスキーピング遺伝子として、β−2−ミクログロブリン、ユビキチン、18−Sリボソームタンパク質、サイクロフィリン、GAPDH及びアクチンなどが挙げられる。
【0034】
好ましくは、本発明の種々の実施態様によれば、検出方法が、試料中におけるマーカー(単一または複数)の有無に関する情報ともに出力(すなわち、読み出し又はシグナル)を与える。本発明によれば、この出力は、定性的である(例えば、「陽性」又は「陰性」)。この意味で、「陽性遺伝子発現」は、いずれかの標準増幅反応を用いた前記遺伝子の増幅産物が得られたときと考える。前記増幅産物を評価又は検出するための手段は、当該技術分野において周知である。例示すると、前記方法として、例えば、本発明の実施例1に示されるアガロースゲルにおけるバンドの可視化などが挙げられる。前記増幅反応を実施するために、前記遺伝子用の特異的増幅オリゴヌクレオチドが使用される。
【0035】
用語「オリゴヌクレオチドプライマー」又は「増幅オリゴヌクレオチド」は、ここでは区別なく使用され、下限が約2〜5残基であり、上限が約500〜900残基のサイズ範囲であるもの含む、一般的に1,000残基未満の高分子核酸を指す。好ましい実施態様によれば、オリゴヌクレオチドプライマーは、下限が約5〜約15残基であり、上限が約100〜200残基のサイズ範囲である。より好ましくは、本発明のオリゴヌクレオチドプライマーは、下限が約10〜約15残基であり、上限が約17〜100残基であるサイズ範囲である。オリゴヌクレオチドプライマーは天然核酸から精製することができるけれども、一般的に様々な周知の酵素的又は化学的方法のいずれかを用いて合成される。用語「増幅オリゴヌクレオチド」は、標的核酸又はその補体にハイブリダイズするオリゴヌクレオチドを指し、核酸増幅反応に関与する。増幅オリゴヌクレオチドは、オリゴヌクレオチドの3’端が、鋳型として別の核酸鎖を用いて酵素的に延長されたプライマー及びプロモータープライマーを含む。ある実施態様によれば、増幅オリゴヌクレオチドは、標的配列(又はその相補鎖)の領域に相補である、少なくとも約10の連続した塩基、より好ましくは約12の連続した塩基を含む。標的結合塩基は、結合する配列に対して、少なくとも約80%、より好ましくは約90%〜100%相補である。増幅オリゴヌクレオチドは、好ましくは長さが約10塩基〜約60塩基であり、修飾ヌクレオチド又は塩基類似体を含んでいてもよい。本発明に使用される増幅オリゴヌクレオチドの例示的非制限的な例として、本発明の実施例1に開示されているものなどが挙げられる。
【0036】
本発明の別の特定の実施態様によれば、本発明の細胞は、アルカリホスファターゼタンパク質を発現する。
【0037】
アルカリホスファターゼ(ALP)は、数多くの種類の分子、例えば、ヌクレオチド、タンパク質及びアルカロイドからリン酸基の除去に関与する加水分解酵素である。アルカリホスファターゼは幹細胞膜マーカーであり、この酵素の高度発現は未分化多能性幹細胞と関連している。胚性幹(ES)、胚性生殖(EG)及び胚性癌(EC)細胞のような全ての霊長類多能性幹細胞は、アルカリホスファターゼ活性を示す。
【0038】
当該技術分野において、酵素反応に続き、比色又はファーストレッドバイオレット染料、蛍光検出、および免疫染色をおこなう方法に基づくようなALPの検出のための、既知の種々の方法が存在する。
【0039】
本発明によれば、タンパク質発現プロファイリングのいずれの標準的な手法も、本発明の上述した態様の実施に使用するのに好適である。特に、アルカリホスファターゼタンパク質発現は、通常の方法及び装置(例えば、市販の抗体及び当該技術分野において既知の標準プロトコルとともに使用されるCalibur(Becton Dickinson)FACSシステム)を用いたフローサイトメトリー法により検出できる。別法として、アルカリホスファターゼタンパク質発現は、前記タンパク質に対する特異的抗体を使用する標準的なタンパク質発現アッセイにより測定することができる。このようなアッセイには、ラジオイムノアッセイ、酵素免疫測定法(例えば、ELISA)、免疫蛍光、免疫沈降、ラテックス凝集法、血球凝集及び組織化学的検査などがある。例示的非限定的例として、アルカリホスファターゼタンパク質発現は、本発明の実施例1に記載されているようにして測定される。
【0040】
ミトコンドリア膜電位(ΔΨm)はミトコンドリア機能の鍵となる指標であり、in situでのΔΨmの特徴付けにより、ミトコンドリアバイオエナジェティックス及び細胞代謝を正確に測定できる。ΔΨmを測定する方法は、非侵襲性の理由から、テトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)などの一価のカチオン性蛍光染料を用いることを含む。蛍光膜透過カチオンプローブTMRMは、無傷細胞におけるΔΨmの分析において、より容易に使用されるプローブの1つである。細胞及びミトコンドリア生理機能、タンパク質の局在化及びリアルタイム酵素動力学に対応したΔΨmを測定することができることにより、壊死及びアポトーシス細胞死の進行、さらには刺激及び薬物を添加後の細胞の生存の特徴付けが可能となる。
【0041】
特定の実施態様によれば、前記細胞集団の細胞は、低ミトコンドリア膜電位を示す。本発明によれば、用語「低ミトコンドリア膜電位」は、本発明の細胞を含んでなる細胞集団において、通常の方法及び装置(例えば、Calibur(Becton Dickinson)FACSシステム)を用いたとき、バックグラウンド信号より上のフローサイトメトリーにおける特異的ミトコンドリア膜マーカーについてのシグナルを示すのは、細胞の10%未満、好ましくは9%未満、8%未満、7%未満、6%未満、5%未満、4%未満、3%未満、2%未満、1%未満であるか、又はどの細胞も示さないことを意味する。
【0042】
有利なことに、本発明の細胞は、インビボ腫瘍形成活性を示さない。したがって、本発明の別の特定の実施態様によれば、本発明の細胞集団は、腫瘍活性を示さない。本明細書における表現「腫瘍活性」は、腫瘍細胞を生じる変容挙動又は増殖表現型を指す。
【0043】
本発明の細胞の腫瘍活性は、免疫不全マウス株を用いた動物実験を実施することにより検証することができる。これらの実験においては、数百万の細胞をレシピエント動物に皮下移植し、数週間維持し、腫瘍形成について分析する。一つの特定のアッセイが、本発明の実施例1に開示されている。
【0044】
本発明の細胞は、増殖し、いくつかの細胞系統に分化する能力を示す。好ましい実施態様によれば、本発明の細胞は、少なくとも2つ、より好ましくは3つ、4つ、5つ、6つ、7つ又はそれ以上の細胞系譜に分化する能力を示す。この意味で、本発明の細胞は、通常の方法により、増殖し、他の系譜の細胞に分化することができる。
【0045】
本発明の特定の実施態様によれば、本発明の細胞集団の細胞は、平滑筋細胞に分化する能力を示す。別の特定の実施態様によれば、前記の集団の細胞は、脂肪細胞に分化する能力を示す。さらなる実施態様によれば、前記集団の細胞は、骨芽細胞に分化する能力を示す。別の特定の実施態様によれば、前記集団の細胞は、神経細胞に分化する能力を示す。
【0046】
未分化カウンターパートから分化細胞を同定し、その後単離する方法もまた、当該技術分野において周知の方法により実施することができる。
【0047】
また、本発明の細胞は、ex vivo増殖させることもできる。すなわち、単離後、本発明の細胞は、培養培地において生体外で維持し、増殖させることができる。このような培地は、例えば、抗生物質(例えば、100単位/mlペニシリン及びl00μg/mlストレプトマイシン)を含有するかあるいは含有せず、5mMグルタミンを含有し、2〜20%のウシ胎仔血清(FBS)を添加した、ダルベッコ変法イーグル培地(DMEM)からなるものである。使用される細胞に必要とするとき、培地及び/又は培地補助剤の濃度を変更又は調整ことは、当業者には既知である。血清は、しばしば生存能力と増殖に必要である細胞性及び非細胞性因子と成分を含有する。血清としては、例えば、FBS、ウシ血清(BS)、子ウシ血清(CS)、ウシ胎仔血清(FCS)、新生ウシ血清(NCS)、ヤギ血清(GS)、ウマ血清(HS)、ブタ血清、ヒツジ血清、ウサギ血清、ラット血清(RS)などが挙げられる。また、本発明の細胞がヒト由来のものである場合、細胞培養培地にヒト血清(好ましくは自己由来)を添加することも意図される。補体カスケードの成分を不活性化することが必要であると思われる場合、血清を55〜65℃で熱不活性化できる。血清濃度の調節、培養培地からの血清の回収を使用して、1つ以上の所望細胞型の生存を促進することもできる。好ましくは、本発明の細胞は、約2%〜約25%のFBS濃度が有効であろう。別の実施態様によれば、本発明の細胞は、一定の組成の培養培地において増殖することができ、その場合、血清を、当該技術分野において既知の血清アルブミン、血清トランスフェリン、セレニウム及び組換えタンパク質、例えば、インスリン、血小板由来成長因子(PDGF)及び塩基性線維芽細胞成長因子(bFGF)(これらには限定されない)により置き換えられる。
【0048】
数多くの細胞培養媒地は、すでにアミノ酸を含有しているが、一部は細胞培養の前に補充が必要である。このようなアミノ酸として、L−アラニン、L−アルギニン、L−アスパラギン酸、L−アスパラギン、L−システイン、L−シスチン、L−グルタミン酸、L−グルタミン、L−グリシンなどがあるが、これらには限定されない。
【0049】
また、抗菌物質も典型的に細胞培養に使用して、細菌、マイコプラズマ及び真菌汚染を軽減する。典型的には、使用される抗生物質又は抗真菌化合物は、ペニシリン/ストレプトマイシンの混合物であり、また、アンフォテリシン(フンギソン(R))、アンピシリン、ゲンタマイシン、ブレオマイシン、ハイグロマシン、カナマイシン、マイトマイシンなどを挙げることができるけれども、これらには限定されない。
【0050】
ホルモンもまた、細胞培養に有利に使用することができ、D−アルドステロン、ジエチルスチルベストロール(DES)、デキサメタゾン、b−エストラジオール、ヒドロコルチゾン、インスリン、プロラクチン、プロゲステロン、ソマトスタチン/ヒト成長ホルモン(HGH)などが挙げられるが、これらには限定されない。
【0051】
また、本発明の細胞の維持条件では、細胞が未分化形態のままであることができる細胞因子を含有することもできる。分化の前に、細胞分化を阻害する補充剤は培養培地から除去しなければならないことは、当業者には明らかである。また、全ての細胞がこれらの因子を必要とするわけではないことも明らかである。実際に、これらの因子は、細胞型によっては、望ましくない影響を誘発する。
【0052】
本発明の別の特定の実施態様によれば、前記細胞は、限定された増殖速度を示す。実際に、ここに示すデータは、本発明の細胞を、生体内で広範に、しかしながら、無期限ではなく成長させることができることを明らかにする。これらの細胞は、生体内でほぼ30継代後に老化する。
【0053】
本発明の細胞は、トランスフェクトするか、また遺伝子操作して、少なくとも一種の意図するポリペプチドを発現できる。したがって、別の特定の実施態様によれば、本発明の細胞は遺伝子組換えされたものである。
【0054】
ポリヌクレオチドを人工操作のいずれかの好適な手段により細胞に移行された場合、又は細胞がポリヌクレオチドを受け継いだ最初に変更された細胞の後代である場合に、細胞が「遺伝子組換え」されるか、「トランスフェクト」されるか、又は「遺伝子形質転換」されると言われる。ポリヌクレオチドは、意図するタンパク質をコードする転写可能な配列をしばしば含み、それにより細胞が高レベルでタンパク質を発現する。遺伝子変化は、変更細胞の後代が同じ変更を有する場合に「遺伝性」であると言われる。「形質転換細胞」は、本発明のポリヌクレオチドをコードする核酸分子が、例えば、組換えDNA法又はウイルスにより導入された細胞(又はその先代又は祖先に導入されたもの)を意味する。「核酸」又は「核酸分子」は、1本鎖又は2本鎖形態におけるデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチドポリマーを指し、特記のない限りは、天然のヌクレオチドとして同様に機能することができる公知の天然ヌクレオチドの類似体を包含することができる。「ポリペプチド」、「ペプチド」及び「タンパク質」は、本明細書では互換的に使用されて、アミノ酸残基のポリマーを指す。これらの用語は、1つ以上のアミノ酸残基が対応する天然アミノ酸の人工化学的類似物であるアミノ酸ポリマー、さらには天然アミノ酸ポリマー及び非天然アミノ酸ポリマーに適用される。アミノ酸類似物は、アミノ酸の一般的な化学構造とは異なる構造を有するが、天然アミノ酸と類似の方法で機能する化学化合物を指す。
【0055】
近年、MSCは、組織修復及び再生における役割が増加している。組織損傷の種々のモデルにおいて、MSCは、損傷した組織の回復を向上させる。
【0056】
本発明の細胞は、白血球が内皮(CD44)に付着し且つそれを横断するのに用いるタンパク質のいくつかを発現し、したがって、経動脈的に送達されたときに、骨形成組織内及び脂肪細胞間の骨格筋の間質に拡散することができる。一方では、本明細書に示すデータから、本発明の細胞は、生体内で永久ではないが広範に成長できることが明らかである。このことは、細胞療法プロトコルのさらなる懸念が、生体内での広範な増殖は、分化及び/又は自己複製能を損なうか、又は悪性転換を生じることさえある恐れがあることを考えると極めて重要である。実際に、上記したように、前記細胞は、生体内で約30継代後に老化する。さらに、これらの細胞は、2倍体核型を維持し、免疫不全マウスにおいて腫瘍形成しない。
【0057】
本明細書において用語「核型」は、染色体の数と形態の両方により定義される、一定の種の個々の細胞又は細胞株の染色体特性を指す。典型的には、核型は、顕微鏡写真又はコンピュータ生成画像からの前期又は中期(又は凝縮)染色体の体系化したアレイとして提示される。別法として、間期染色体は、間期細胞核から放出されたヒストン枯渇DNA繊維として分析できる。染色体数が種の染色体数と比較して変化ないときには、正常核型と考えられる。
【0058】
したがって、さらなる態様によれば、本発明は、薬剤として使用される本発明の単離幹細胞集団に関する。特定の実施態様によれば、本発明の細胞集団は、組織変性状態を処置するための薬剤として使用される。本明細書において用語「組織変性状態」は、病的状態を示す組織を指す。したがって、本発明によれば、本発明の細胞集団又は組成物は、組織修復及び/又は再生用薬剤として使用することができる。この意味で、本発明の細胞集団は、前記組織における幹細胞の増殖、再生及び/又は生着を高めるため、すなわち、老化及び/又は損傷した組織を修復及び/又は再生するために使用できる。
【0059】
より特定の実施態様によれば、前記組織変性状態は、骨格筋変性、心臓組織変性、骨組織変性、神経組織変性、肺変性、肝臓変性、腎臓変性又は前記組織変性状態のうちの複数が同時になった状態である。
【0060】
本明細書において用語「治療する」、「治療」及び「治療すること」は、本発明の細胞集団又は前記細胞集団を含んでなる医薬組成物を前記治療を必要とする対象への投与から生じる疾患に関連した1つ以上の症状の軽減を指す。したがって、本明細書で使用されている「治療」は、哺乳動物、特にヒトの障害、疾患又は状態のいずれの治療をも網羅し、以下のことを含む:(a)疾患又は状態になりやすいがまだその状態になっているとは診断されていない対象がその疾患又は状態を生じることを防止すること;(b)疾患又は状態を阻害すること、すなわち、その進行を阻止すること;又は(c)疾患又は状態を軽減すること、すなわち、疾患又は状態の退行若しくは1つ以上の疾患又は状態の症状を改善すること。この方法により処置される対象の集団には、望ましくない状態又は疾患を患った対象、さらには状態又は疾患の進行の恐れのある対象などがある。本明細書で使用されている用語「障害」及び「疾患」は、同義的に使用され、身体機能を損ない、死に至ることがある、対象における異常又は病的状態を指す。
【0061】
用語「対象」は、動物、好ましくは哺乳動物、例えば、非霊長類(例えば、雌牛、ブタ、ウマ、ネコ、イヌ、ラット又はマウス)並びに霊長類(例えば、サル又はヒト)を指す。好ましい実施態様によれば、対象はヒトである。
【0062】
活性成分、すなわち本発明の細胞集団を、それ単独で投与することもできるが、本発明による細胞集団の有効量を活性成分として含んでなる医薬製剤又は組成物の一部としてそれを提供することが好ましい。本発明に関連した医薬製剤又は組成物は、活性成分(単一または複数)と、薬学的に許容しうる担体及び他の添加物(一緒に又は別個に)との組み合わせを意味する。したがって、別の態様によれば、本発明は、本発明の単離幹細胞集団と許容しうる医薬ビヒクル又は担体とを含んでなる医薬組成物を指す。
【0063】
特定の実施態様によれば、用語「薬学的に許容しうる」とは、連邦若しくは州政府の監督官庁によって承認されたか、又は米国薬局方、ヨーロッパ薬局方若しくは他の一般的に認識される薬局方において、動物、より具体的にはヒトへの使用が記載されていることを意味する。
【0064】
本発明に関連して用語「担体」とは、本発明の細胞集団と反応せず、希釈剤、アジュバント、賦形剤又はビヒクルとして製剤に添加するか、又は製剤に形態若しくは稠度を与えるために添加できる、不活性な非毒性物質のいずれか一つを意味する。担体は、活性成分の標的組織への送達又は浸透を改善して、望ましくない副作用などを減少させる効果を有していてもよい。また、担体は、製剤に食用着香剤などを含有させるために製剤を安定化する物質(例えば、防腐剤)であることもできる。担体、安定化剤及びアジュバントの例については、E. W. Martin、REMINGTON’S PHARMACEUTICAL SCIENCES、MacK Pub Co (1990年6月)を参照されたい。また、所望ならば、組成物に少量のpH緩衝剤を含有することもできる。
【0065】
このような組成物は、予防又は治療に有効な量の予防薬又は治療薬を、好ましくは精製された形態で、好適な量のアーナー(earner)とともに含有して、対象に投与するのに適切な形態とする。製剤は、投与方法に適合しなければならない。好ましい実施態様によれば、医薬組成物は、無菌であり、対象、好ましくは動物対象、より好ましくは哺乳動物対象、最も好ましくはヒト対象への投与に適当な形態である。
【0066】
本発明の医薬組成物は、種々の形態であることができる。これらには、固体、半固体及び液体剤形、例えば、凍結乾燥製剤、液剤又は懸濁剤、注射剤及び不溶解性液などがある。好ましい形態は、投与及び治療用途の意図する方法に依存する。
【0067】
本発明の細胞集団、又は前記細胞集団を含んでなる医薬組成物を、それを必要とする対象に、通常の手段により投与することができる。特定の実施態様によれば、前記細胞集団を、生体外(例えば、移植又は生着前にグラフトとして)又は生体内で動物組織に直接移すことを含む方法により、対象に投与する。細胞は、一般的に組織の種類により異なる適切な方法により所望の組織に移される。例えば、細胞を、細胞を含有する培養培地にグラフトを浸漬(又はグラフトに培養培地を注ぐ)ことにより、グラフトに移行させることができる。別法として、細胞を、組織内の所望の部位に播種して集団を確立することができる。細胞を、カテーテル、トロカール、カニューレ、ステント(細胞を播種できる)などの装置を用いて生体内の部位に移行することができる。
【0068】
さらに、活性物質を、所望の作用を妨害しない他の活性物質、又は所望の作用を補うか、あるいは別の作用を有する物質と混合することもできる。本発明の化合物、すなわち、細胞集団は、組成物における単独の薬学的に活性な組成物として製剤化してもよいし、又は他の活性成分、例えば、組織変性状態の処置に有用な他の薬剤と組み合わせることもできる。したがって、本発明の細胞集団及び組成物を併用療法で投与してもよい。用語「併用療法」は、障害に関連した1つ以上の症状の改善のための本発明の方法で、他の活性剤又は処置方法とともに本発明の細胞集団を使用することを指す。これらの他の薬剤又は処置として、このような障害の処置について既知の薬物及び療法を挙げることができる。本発明の薬剤を他の療法又は処置方法と併用することは、同時であっても、又は順次であってもよい。すなわち、2つの処置は、本発明の細胞集団又は前記細胞集団を含んでなる医薬組成物を、他の療法又は処置療法前又は後に投与してよい。担当医は、細胞集団又は前記細胞集団を含んでなる医薬組成物を、他の薬剤、療法又は治療方法と組み合わせて投与する適切な順序を決定することができる。
【0069】
他の態様によれば、本発明は、骨格筋変性、心臓組織変性、骨組織変性、神経組織変性、肺変性、肝臓変性、腎臓変性又は前記組織変性状態のうちの複数が同時になった状態を含む組織変性状態に関連するがこれらには限定されない1つ以上の症状を防止、処置又は改善するための薬剤を調製するための、本発明の細胞の使用に関する。
【0070】
別の態様によれば、本発明は、子宮筋組織から幹細胞集団を単離するための方法であって、前記細胞集団の細胞が、CD31、CD34、CD44、CD117、SSEA−4及びWGA−レクチン表面マーカーについて陽性であり、CD13、CD45、CD80、CD133、CD146、TRA1−60及びTRA1−81表面マーカーについて陰性であり、前記方法が:
i)固体表面上で好適な細胞培養培地中において、子宮筋組織試料を、前記試料の細胞が前記固体表面に付着する条件下でインキュベーションする工程と;
ii)前記細胞培養液から、前記固体表面に付着しないか、又は付着能が低い細胞を回収する工程と;
iii)選択された細胞集団が意図する表現型を示すことを確認する工程と
を含んでなることを特徴とする、方法(以下、「本発明の方法」と称する)に関する。
【0071】
本明細書において用語「固体表面」は、細胞が付着することができるいずれかの物質を指す。特定の実施態様によれば、前記物質は、ゼラチンである。本発明による実施例1に示すように、子宮筋組織試料を、他の細胞型について上記したようにして、ゼラチン1%を塗布したペトリ皿に移した(Minasi、M.G.等;Sampaolesi M等 2003.Science.301:487−492)。これらの試料を15日間培養し、線維芽細胞様細胞の初期増殖後、小さい円形で且つ屈折細胞が出現した。基質に付着しにくく、浮上したこれらの細胞は、最初の培養液から静かにピペットにより容易に集められた。前記浮上細胞は、ポリクローナル集団として増殖するか、又は限定希釈によりクローニングした。したがって、本発明の方法の工程ii)によれば、本明細書で使用されている表現「低付着能」は、細胞(例えば、線維芽細胞)が前記固体表面に付着することができる標準条件下で、前記固体表面に付着せず、したがって、培養培地に浮上するか、又は前記培養培地から、例えば、静かにピペットにより容易に集めることができる細胞を指す。
【0072】
本発明の細胞は、ヒトを含むいずれかの好適な動物由来のいずれかの好適な子宮筋組織源から、通常の手段により得ることができる。特定の場合において、子宮筋組織試料は、子宮剥離により子宮体の下子宮セグメントから得られる。試料採取では、本発明の実施例1で説明した適切な道具で頸管内子宮管から剥離細胞を集めることがおこなわれる。一般的に、前記細胞は、非病的産後の哺乳動物の子宮筋組織から得られる。特定の実施態様によれば、本発明の細胞集団の細胞は、哺乳動物、例えば、齧歯類、霊長類、好ましくはヒト由来である。動物内の子宮筋組織細胞が生育可能である限りは、生存していても、死亡していてもよい。典型的には、ヒト子宮筋細胞は、上記したようなよく知られているプロトコルを用いて、生存ドナーから得られる。
【0073】
子宮筋組織の試料を、好ましくは処理する前に洗浄して、本発明の細胞を物質の残部から分離する。残りの細胞は一般的に種々のサイズの塊で存在し、プロトコルを細胞自体の損傷を最小に抑えながら全体構造を分解するようにした工程を用いて進行することができる。細胞の塊は、機械的攪拌、音波エネルギー、熱エネルギーなどの処理を用いて分解できる。
【0074】
最終的な単離の後、細胞を培養し、所望ならば、数及び生存能力についてアッセイして、収量を評価することができる。望ましくは、細胞を、適切な細胞密度及び培養条件で、好適な細胞培養培地を用いて、固体表面上で、分化なしで培養する。したがって、特定の実施態様によれば、細胞を、好適な細胞培養培地[例えば、DMEM、典型的には5〜15%(例えば、10%)の好適な血清、例えば、ウシ胎児血清又はヒト血清を添加]の存在下で通常ゼラチン製の固体表面上で分化なしで培養し、細胞が固体表面に付着し、増殖する条件下でインキュベーションする。
【0075】
細胞を、同じ培地中、同じ条件下で、必要に応じて細胞培養培地を交換しながら、適当なコンフルーエンス、典型的には約80%細胞コンフルーエンスに到達するまで、維持する。所望の細胞コンフルーエンスに到達後、細胞を、トリプシンなどの脱離剤を用いて、連続継代させ、適切な細胞密度(通常2,000〜10,000細胞/cm2)で、より大きな細胞培養表面上に播種することにより増殖できる。したがって、次に細胞を、発生表現型をまだ保持しながら、分化なしでこのような培地において少なくとも2回継代させる。より好ましくは、細胞を、発生表現型を失うことなく、少なくとも10回(例えば、少なくとも15回、又はさらには少なくとも20回)継代させることができる。典型的には、細胞を、約100細胞/cm2〜約100,000細胞/cm2(例えば、約500細胞/cm2〜約50,000細胞/cm2又はより特には約1,000細胞/cm2〜約20,000細胞/cm2)などの所望の密度でプレーティングする。より低密度(例えば、約300細胞/cm2)でプレーティングした場合、細胞をより容易にクローン的に単離できる。例えば、数日後、このような密度でプレーティングした細胞が増殖して、均一な集団となる。特定の実施態様によれば、細胞密度は、2,000−10,000細胞/cm2である。上記方法の結果として、意図する表現型を有する均一な細胞集団が得られる。実施例1には、マウスの子宮筋組織からの本発明の細胞の単離について、詳細に記載されている。
【0076】
意図する表現型を確認することは、通常の手段を使用することにより実施できる。細胞−表面マーカーは、通常、陽性/陰性選択、例えば、細胞中の存在/不存在を確認する必要がある、細胞−表面マーカーに対するモノクローナル抗体に基づいたいずれかの好適な通常の手段で同定できるが、但し他の方法を使用することもできる。したがって、特定の実施態様によれば、CD13、CD45、CD80、CD133、CD146、TRA1−60及びTRA1−81表面マーカーのうちの1つ、2つ、3つ、4つ、5つ、6つ、7つ、好ましくは全てに対するモノクローナル抗体を使用して、選択された細胞における前記マーカーが存在しないことを確認し、CD31、CD34、CD44、CD117、SSEA−4、HLA−DR及びWGA−レクチンのうちの1つ、2つ、3つ、4つ、好ましくは全てに対するモノクローナル抗体を使用して、それらの存在、又は前記マーカーの少なくとも1つ、好ましくは全ての検出可能な発現レベルを確認する。前記モノクローナル抗体は、既知且つ市販されているか、又は通常の方法により当業者により得ることができる。
【0077】
本発明により提供される細胞及び細胞集団は、必要に応じて、細胞集団をクローニングするのに好適な方法を用いて、クローン的に増殖できる。例えば、細胞の増殖集団を、物理的に採取し、別個のプレート(又はマルチウエルプレートのウエル)に播種することができる。別法として、細胞を、単一細胞を各ウエルに配置するのを容易にするための統計比率でマルチウエルプレート上にサブクローニングすることができる(例えば、約0.1〜約1細胞/ウエル又はさらに約0.25〜約0.5細胞/ウエル、例えば、約0.5細胞/ウエル)。勿論、細胞を、低密度でプレーティング(例えば、ペトリ皿又は他の好適な基質に)し、クローニングリングなどの装置を用いて他の細胞からそれらを単離することによりクローニングすることができる。クローナル集団の産生を、いずれかの好適な培養培地において増殖することができる。いずれにしても、単離した細胞を、それらの発生的表現型を評価できる好適な点まで培養できる。
【0078】
本発明の細胞集団の細胞を単離するための工程及び手順のいずれも、必要に応じて手動で実施することができる。別法として、このような細胞を単離するプロセスは、当該技術分野においてその例が既知である、一つ以上の好適な装置により促進し及び/又は自動化することができる。
【0079】
別の態様によれば、本発明は、本発明の細胞を含有する細胞集団を含んでなるキットに関する。
【0080】
他の態様によれば、本発明は、前記障害又は疾患を患った対象における組織変性状態と関連した一以上の症状を防止、処置又は改善するための、本発明の細胞を含有する細胞集団の使用に関する。
【0081】
他の態様によれば、本発明は、前記障害又は疾患を患った対象における組織変性状態と関連した一以上の症状を防止、治療又は改善する方法であって、このような処置を必要としている前記対象に、本発明の細胞を含有する細胞集団を予防的又は治療的に有効な量を投与することを含んでなる。特定の実施態様によれば、前記組織変性状態は,骨格筋変性、心臓組織変性、骨組織変性、神経組織変性、肺変性、肝臓変性、腎臓変性又は前記組織変性状態の複数が同時におきた状態である。
【0082】
本発明を、実施例により、より詳細に説明するが、これらの実施例は添付図面を参照して本発明を説明するためのものであり、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるわけではない。
【実施例】
【0083】
子宮組織からのマウス成体子宮筋前駆体(MAMp)の単離、生体内増殖及び分化
I.材料及び方法
子宮及び子宮筋外植
子宮筋外植片を、子宮剥離により子宮体の下子宮セグメントから採取した。試料採取では、適切な道具で頸管内子宮管から剥離細胞を集めることがおこなわれる。全ての外植片を、使用前に子宮内膜、漿膜、脂肪及び線維組織のトリミングをした。手法は、子宮頸部細胞診と類似のものである。
【0084】
子宮筋組織は、室温で、酸素添加(O295%、CO25%)生理食塩水(PBS)中、獲得後最大24時間維持できる。試料を、10%FBS−DMEM+5mMグルタミン及び抗生物質の存在下でゼラチン1%を塗布したペトリ皿に移した。これらの試料を15日間培養し、線維芽細胞様細胞の初期増殖後、小さい円形及び屈折細胞が出現した。この細胞集団は、最初の培養をゆっくりとピペットで容易に採取し、カウントし、ゼラチン1%塗布p96ウエル皿上で、限定希釈によりクローニングした。
【0085】
子宮筋前駆体は、子宮外植片からも得た。4カ月C57マウスから得た子宮筋組織片(10〜30mg)を、抗生物質含有DMEM w/o FCS(ウシ胎児血清)に保持した。次に、各片を、Ca/Mgを含有するPBS中ですすぎ、外科用メスで直径1〜2mm片にシャープに細分化した。小管を含むフラグメントを、10%FBS−DMEM+5mMグルタミン及び抗生物質の存在下、ゼラチン1%を塗布したペトリ皿に移した。これらのフラグメントを15日間培養し、線維芽細胞様細胞の初期増殖後、小円形且つ屈折性細胞が出現した。この細胞集団を、最初の培養液をゆっくりとピペットで容易に集め、カウントし、ゼラチン1%塗布p96ウエル皿上で限定希釈によりクローニングした。
【0086】
異なる有効なクローンを、位相コントラストモルホロジーにより選択した後、表面マーカー発現により特徴付けた。
【0087】
分化アッセイ
異なる細胞型への分化を、既に周知の公開されたプロトコルに準じて誘発させた。
【0088】
培養液を、分化培地(2%ウマ血清添加DMEM)に移した。平滑筋細胞と骨芽細胞への分化を、既に報告されているようにして、それぞれTGFβ1及びBMP2での処理により誘発させた(Minasi、M.G.等、2002。Development 129、2773−2783)。骨格筋細胞への分化を、MAMpをC2C12マウス筋芽細胞とともに共培養することにより誘発させた。心臓細胞への分化を、10μM5−アザシチジンで48時間処理した後に分析した。5日後、培養液を固定し、着色溶液で染色するか、又は横紋ミオシン(MF20)に対する抗体で染色した。
【0089】
神経細胞への分化は、培養培地を神経幹細胞増殖培地に変化させることからなる:最終濃度4.5mg/ml、N2追加(Gibco−Invitrogen)、B27追加(Gibco−Invitrogen)、20μg/mlインスリン(Sigma)、2μg/mlヘパリン(Sigma)、20ng/mlβFGF(Sigma)、10ng/mlEGF(Sigma)まで、D−グルコース(Sigma)を添加したDMEM:F12培地(Sigma)。神経幹細胞増殖培地を、2回変更し、培養1週間後、細胞を処理して免疫細胞化学分析をおこなった。さらに、細胞を神経幹細胞分化培地(最終濃度4.5mg/mlまで、D−グルコース(Sigma)を添加したDMEM:F12(Sigma)、N2追加(Gibco−Invitrogen)、B27追加(Gibco−Invitrogen)、2μg/mlヘパリン(Sigma)及び1%FBS(Sigma))においてさらに1週間増殖し、神経培養用特異的培地(Neurobasal−A (Gibco−Invitrogen)、B27(Gibco−Invitrogen)、Glutamax−I (Gibco−Invitrogen)、P/S (Sigma))でさらに1週間増殖し、並びにオリゴデンドロサイト分化(DMEM(Sigma)、4.5mg/mL D−グルコース、100μg/mL BSA(Sigma)、100U/mLペニシリン、100μg/mLストレプトマイシン(Sigma)、2mM L−グルタミン(Sigma)、60μg/mL N−アセチル−L−システイン(Sigma)、N2追加(Gibco−Invitrogen)、20ng/mL bFGF(PeproTech)及び10ng/mL PDGF−AA(PeproTech))した。この後、細胞を処理して、免疫細胞化学分析をおこなった。ヒト核の同定を、Hoechstにより確認した。分化率(%)を、分化したMAMp数をカウントすることにより計算した。
【0090】
細胞増殖の分析
細胞を、異なる培地において密度3x103細胞/cm2でプレーティングし、平均3日ごとに継代させた。継代ごとに、細胞数を、血球計で三重にカウントした。クローンの成長曲線について、細胞を、完全DMEM又は胚性培地中、最初に1x104細胞/cm2でプレーティングし、5日ごとに継代させた。継代ごとに、細胞数を、血球計で三重にカウントした。
【0091】
核型分析
分析の72時間前に1/3コンフルーエンスでプレーティングした細胞を、製造業者の説明書にしたがって、Karyomaxキット(Invitrogen)で処理した。分析した核型の各々について、5つの異なる中期増殖を調べた。
【0092】
腫瘍原性
腫瘍形成の可能性を試験するために、5匹のヌードマウスに、107MAMpを皮下注射した。4カ月後、マウスを犠牲し、分析して、肉眼検出可能な腫瘍の存在を調べた。
【0093】
免疫蛍光
細胞を、ゼラチン塗布ガラスカバースリップ上で増殖させて、PBSで洗浄し、4%パラホルムアルデヒドで10分間固定した。試料を、液体窒素中冷却イソペンタンで凍結し、連続8μm(厚)切片を、Leycaクリオスタットで切断した。組織切片を洗浄剤なしでインキュベーションしながら、細胞を室温で30分間、PBS中、0.2%Triton X−100、1% BSAで透過処理した。細胞及び組織切片を、10%ロバ血清とともに、室温で30分間インキュベーションし、適切な希釈で、一次抗体とともに、4℃で一晩インキュベーションした。インキュベーション後、試料を、透過化緩衝液とともに、2回洗浄後、適切なFITC又はTRiTC複合抗マウス又は抗ウサギIgG及びHoechstとともに、室温で45分間インキュベーションした。3回最終洗浄した後、カバースリップを、PBS中Mowiolを用いてスライドガラス上にマウントし、蛍光顕微鏡(Nikon)下で分析した。他の組織切片又は細胞を、説明したようにしてX−Galで染色した(Sampaolesi M等 2003.Science.301:487−492)。
【0094】
抗体
以下の抗体を使用した:1:100希釈での抗ラミニンモノクローナル抗体又はポリクローナル抗体(Sigma);1:5希釈でのMF20抗体、Sigma社製抗スムースαアクチン1:300希釈、ポリクローナル抗ネスチン抗体(Abcam)、β−III−チューブリン(抗−TUJ1抗体、Abcam)、ダブルコルチン(抗−Dcx抗体、Abcam)、及びMAP2(Sigma)(神経マーカーとして)、GFAP(Sigma)(星状膠細胞マーカーとして)及びRIP(Developmental Studies Hybridoma Bank)(オリゴデンドロサイトマーカーとして)。核を、ビスベンズイミド(Sigma)で染色した。
【0095】
FACS分析(FACS Calibur(Becton Dickinson))のために、以下の抗体を使用した:BD Biosciences社製CD44、CD34、CD45、CD117、CD133、ID labs社製CD31、CD13、Biocytes社製CD146、Abcam社製CD80、CD90、SSEA−4、WGA、Biotech社製TRA1−60及びTRA1−81、Molecular Probes社製TMRM。
【0096】
遺伝子発現分析
RNAを、増殖しながら、異なるMAMpクローン細胞から抽出した。RT−PCRを実施し、他の群(Mef2c、Sox2、Tbx5、hTERT、Mef2a及びTbx2)による前記した発生又は分化に関与する異なる遺伝子の発現を分析した。
【0097】
PCRの条件は、全てのプライマーについて一般的なものであった:94℃で4分間。94℃、45秒の30サイクル;55℃、45秒;72℃、45秒。72℃で10分間の最終行程。
使用プライマーのリスト:
Mef2aプライマーフォワード:TTGAGGCTCTGAACAAGAAGG
Mef2aプライマーリバース:GCATTGCCAGTACTTGGTGG
Mef2cプライマーフォワード:AACACGGGGACTATGGGGAGAAA
Mef2cプライマーリバース:TATGGCTGGACACTGGGATGGTA
Tbx2プライマーフォワード:GGTGCAGACAGACAGTGCGT
Tbx2プライマーリバース:AGGCCAGTAGGTGACCCATG
Tbx5プライマーフォワード:CCAGCTCGGCGAAGGGATGTTT
Tbx5プライマーリバース:CCGACGCCGTGTACCGAGTGAT
Sox2プライマーフォワード:GGCAGCTACAGCATGATGCAGGAGC
Sox2プライマーリバース:CTGGTCATGGAGTTGTACTGCAGG
mTERT:ヒト/マウスTERTプライマーペア(R&D systems)
【0098】
アルカリホスファターゼ(AP)反応
MAMpを、高密度で、AP活性を分析する前に、プレート上で5日間培養した。
【0099】
5日目に、培地を吸引し、細胞をPBS中で3分間、4%パラホルムアルデヒドで固定した。その後、固定液を吸引し、PBS1×でリンスした。
【0100】
染色溶液を、添加した(ファーストレッドバイオレットと、ナフトール、ホスファターゼ溶液及び水とを、2:1:1比で混合する)。検出キット(Millipore)において、各ウエルを覆い、暗所において室温で15分間インキュベーションする。溶液を吸引し、プレートをPBS1xですすぎ、顕微鏡でバイオレット細胞数をカウントし、分析する。
【0101】
結果
一次マウス子宮バイオプシーからの細胞の単離及び生体内増殖
上記したように、子宮バイオプシーを、顕微鏡下で解剖した:管のフラグメント及び包囲している間葉系組織を細分し、他の細胞型について上記したようなゼラチン塗布皿上にプレーティングした(上記したMinasi、M.G.等;上記したSampaolesi M等 2003)。線維芽細胞様細胞の初期増殖後、小さい円形且つ屈折細胞が出現した。これらの細胞は、基質への付着性がよくなく、したがって、ゆっくりとピペットで集められた。浮遊細胞を、ポリクローナル集団として成長させるか、又は場合によっては、限定希釈によりクローニングした。集団における細胞の大多数が、三角形で屈折性の形態を獲得し、約30回の継代の間、倍増時間約36時間で、高増殖速度を維持した。増殖速度は、マウスの年齢(4〜8カ月の範囲)とはほぼ無関係であった。この増殖速度により、最初10.000細胞から、約3x109個の最終細胞数となった。この細胞数は、注射に好適であろう。30回継代(約60PD)後、これ以上分化しない大きな扁平細胞が増加した頻度で出現し、さらに数回の継代後、集団全体が老化した。初期及び末期の継代で、細胞が正常2倍体核型を維持した。腫瘍原性について試験するために、107MAMpをSCID/ベージュマウスに皮下注射した。10匹の注射したマウスを注射後最大6カ月間維持したところ、剖検の際に肉眼で検出できるいずれの可視できる腫瘍を発生しなかった(データは図示せず)。
【0102】
マウス子宮筋前駆体の表現型
MAMpを、フローサイトメトリー及びPCR遺伝子発現によりさらに特徴付けし、異なる細胞型に分化する能力を分析した。
【0103】
表面マーカー及び遺伝子発現の特徴付け
MAMpクローンを、以下の幹細胞マーカーの細胞表面での発現について、フローサイトメトリーにより分析した:CD31、CD34、CD44、CD117、アルカリホスファターゼ(PAL)、HLA−DR、SSEA−1、HLA−DR、WGA、CD13、CD45、CD80、CD90、CD133、CD146、TRA1−60/81及びテトラメチルローダミンメチルエステル(TMRM)。全てのクローンは、CD31、CD34、CD44、CD117、SSEA−4、HLA−DR及びWGA−レクチン表面マーカーについて陽性であり、CD13、CD45、CD80、CD133、CD146、TRA1−60及びTRA1−81表面マーカーについては陰性であった。百分率については表1を、そしてFACSプロファイルについては図1を参照。
【0104】
【表1】
【0105】
RNAを、増殖させながら、異なるMAMpクローン細胞から抽出した。RT−PCRを実施し、他の群において上記した発生又は分化に関与する異なる遺伝子の発現を分析した。MAMpはMef2c、Sox2、Tbx5及びhTERTについて陽性であり、Mef2a及びTbx2について陰性である(図2参照)。
【0106】
MAMpの分化能
MAMpの生体内特徴付けを完了するために、異なる中胚葉細胞型への最終分化を受ける能力を試験した。MAMpは、形質転換成長因子β(TGFβ)、インスリン−デキサメタゾン又は骨形態形成タンパク質2(BMP2)で処理したとき、平滑筋、脂肪細胞又は骨芽細胞に容易に分化する。48時間ごとに5μM5−アザシチジンを添加することにより心筋分化が誘発されたとき、MAMp1%未満が肉腫ミオシンを発現した(データ図示せず)。このことは、これらの細胞が心筋形成を受ける中程度の能力を有することを示している。骨格筋分化を、MAMpをマウス筋原細胞と共培養することにより誘発したとき、極めて高い割合(50%超)がハイブリッド筋管に融合した(図6C)。また、MAMpは、神経幹細胞増殖培地へ変更後に、神経組織に分化することもできた(方法を参照)。神経幹細胞増殖培地において1日後、そして1週間の間、細胞の増殖速度が低下し、形状が変化しはじめた。一部の細胞は細長いプロセスを提示し、他のものは似ている神経球よりもロゼットを形成した。ほとんどの細胞は、ネスチンについて陽性であった(図4)。さらに、細胞は、3種の神経マーカー(Tuj−1、Dcx及びMAP2)、星状膠細胞マーカーGFAP及びオリゴデンドロサイトマーカー、RIPについて陽性染色を示した。さらに、Tuj−1陽性細胞の形態は、神経芽細胞の形態と極めて類似していた。さらに、MAMpは、生来ホスファターゼアルカリ性反応について陽性であった(図3)。
【0107】
考察
本発明は、マウス成体子宮組織からの子宮筋前駆体の単離を示す。前記前駆体は、30回の継代まで成長でき、幹細胞表面マーカー及び遺伝子を発現する。他に、これらの前駆体は、異なる中胚葉組織型に分化することができ、再生医療に好適である。
【0108】
子宮筋前駆体は、さらに外科的介入の必要なく、診断に使用されるバイオプシーだけから容易に単離できる。細胞源は、実用的な理由だけではなく重要である。多能性中胚葉前駆体は、存在する組織の細胞型にみられるある種の局部的分化拘束を受ける。したがって、多能性を有したままで維持する中胚葉前駆体源を有することは興味深いことである。
【0109】
中胚葉の他の幹細胞との比較
ここ数年において、数多くの異なる種類の中胚葉幹細胞を、マウス組織とヒト組織から単離し、異なる程度に特徴付けした。これらには、内皮前駆細胞(EPC)、多能性成体前駆細胞(MAPC)、サイドポピュレーション細胞(SP)、中胚葉性血管芽細胞、筋内皮からの幹/前駆細胞、洞管(sinovia)、真皮及び脂肪組織などがある。異なる実験手順、異なる起源及び部分的特徴付けでは、これらの細胞の不均一性を完全に理解できず、そしてそれらの起源及び可能な系統関係についてはさらに知られていない。いずれせよ、MDSC又はMAPCなどのこれらの細胞の数多くのものは、生体内で骨格筋に分化することが判明した。これらの細胞の一部分は、生体外で広範に増殖するが、EPC及びSPなどの他のものは増殖しない;一方、EPC及びSPは循環するが、全身送達は他の細胞型のほとんどについては試験されなかった。例えば、最近、脂肪組織から単離した細胞は生体外で広範に増殖し、骨格筋を含むいくつかの組織に分化し、ヒトジストロフィン発現繊維を生じることができる。しかしながら、これらの細胞のほとんどは、他の細胞型に有効に分化し、得られ、容易に成長できない。
【0110】
臨床試験のための視点
これからの臨床プロトコルにおいて、全身送達は偏性選択である。本発明の子宮筋前駆体は、白血球が内皮に付着し横断するのに使用し、したがって、頸動脈に送達されたとき、骨形成組織内及び脂肪細胞間の骨格筋の間質に拡散できるある種のタンパク質を発現できる。
【0111】
今後の細胞療法プロトコルについてのさらなる関心事は、生体外での広範な増殖が分化及び/又は自己複製能に支障をきたすか、又はさらに悪性転換を生じることがあるかもしれないという恐れである。ここで提供されるデータから、本発明の細胞は広範に増殖できるが、生体外では無制限に増殖するわけではない。これらの細胞は、2倍体核型を維持し、免疫不全マウスにおいて腫瘍形成せず、生体外で約30回継代後老化が起こる。
【0112】
最後に、ここで2つのプロトコルが細胞療法について選択できる:生体外での遺伝子修正後の自己細胞、又は免疫抑制又はできれば誘発された養子免疫寛容の存在下での正常ドナー細胞。ドナー細胞移植は、これらの問題を克服するが、生後まもなく開始される生涯にわたる免疫抑制の必要性に直面する。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
単離された、子宮筋層由来の間葉系幹細胞集団であって、前記細胞集団の細胞が、CD31、CD34、CD44、CD117、SSEA−4、HLA−DR、及びWGA−レクチン表面マーカーについて陽性であり、CD13、CD45、CD80、CD133、CD146、TRA1−60、及びTRA1−81表面マーカーについて陰性であることを特徴とする、幹細胞集団。
【請求項2】
前記細胞集団の細胞が、遺伝子Mef2c、Sox2、Tbx5、及びhTERTの少なくとも一つを発現するものであることを特徴とする、請求項1に記載の単離幹細胞集団。
【請求項3】
前記細胞集団の細胞が、アルカリホスファターゼタンパク質を発現するものであることを特徴とする、請求項1〜2のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団。
【請求項4】
前記細胞集団の細胞が、基準値と比較して低いミトコンドリア膜電位を示すものであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団。
【請求項5】
前記集団が、腫瘍形成活性を示さないものであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団。
【請求項6】
前記集団の細胞が、平滑筋細胞に分化する能力を示すものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団。
【請求項7】
前記集団の細胞が、脂肪細胞に分化する能力を示すものであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団。
【請求項8】
前記集団の細胞が、骨芽細胞に分化する能力を示すものであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団。
【請求項9】
前記集団の細胞が、神経細胞に分化する能力を示すものであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団。
【請求項10】
前記細胞が、制限された増殖率を示すものであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団。
【請求項11】
前記細胞が、遺伝子組換えされたものである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団。
【請求項12】
医薬として使用される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団。
【請求項13】
組織変性状態の治療のための、請求項1〜12のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団。
【請求項14】
前記組織変性状態が、骨格筋変性、心臓組織変性、骨組織変性、神経組織変性、肺変性、肝臓変性、腎臓変性又は前記組織変性状態、またはそれらの複数が同時に生じた状態である、請求項13に記載の単離幹細胞集団。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団と、許容される医薬ビヒクルとを含んでなる、医薬組成物。
【請求項16】
子宮筋組織から幹細胞集団を単離するための方法であって、前記細胞集団の細胞が、CD31、CD34、CD44、CD117、SSEA−4、及びWGA−レクチン表面マーカーについて陽性であり、CD13、CD45、CD80、CD133、CD146、TRA1−60、及びTRA1−81表面マーカーについて陰性であり、前記方法が:
i)固体表面上で好適な細胞培養培地中において、子宮筋組織試料を、前記試料の細胞が前記固体表面に付着する条件下でインキュベーションする工程と;
ii)前記細胞培養液から、前記固体表面に付着しないか、又は付着能が低い細胞を回収する工程と;
iii)選択された細胞集団が意図する表現型を示すことを確認する工程と
を含んでなることを特徴とする、方法。
【請求項17】
前記子宮筋組織試料が生検試料である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記生検試料が剥脱試料である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記方法が、工程i)での培養培地中でのインキュベーションの前に、前記子宮筋組織試料から、漿膜、脂肪及び線維組織を除去することを含んでなる、請求項16〜18のいずれか一項に記載の方法。
【請求項1】
単離された、子宮筋層由来の間葉系幹細胞集団であって、前記細胞集団の細胞が、CD31、CD34、CD44、CD117、SSEA−4、HLA−DR、及びWGA−レクチン表面マーカーについて陽性であり、CD13、CD45、CD80、CD133、CD146、TRA1−60、及びTRA1−81表面マーカーについて陰性であることを特徴とする、幹細胞集団。
【請求項2】
前記細胞集団の細胞が、遺伝子Mef2c、Sox2、Tbx5、及びhTERTの少なくとも一つを発現するものであることを特徴とする、請求項1に記載の単離幹細胞集団。
【請求項3】
前記細胞集団の細胞が、アルカリホスファターゼタンパク質を発現するものであることを特徴とする、請求項1〜2のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団。
【請求項4】
前記細胞集団の細胞が、基準値と比較して低いミトコンドリア膜電位を示すものであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団。
【請求項5】
前記集団が、腫瘍形成活性を示さないものであることを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団。
【請求項6】
前記集団の細胞が、平滑筋細胞に分化する能力を示すものであることを特徴とする、請求項1〜5のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団。
【請求項7】
前記集団の細胞が、脂肪細胞に分化する能力を示すものであることを特徴とする、請求項1〜6のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団。
【請求項8】
前記集団の細胞が、骨芽細胞に分化する能力を示すものであることを特徴とする、請求項1〜7のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団。
【請求項9】
前記集団の細胞が、神経細胞に分化する能力を示すものであることを特徴とする、請求項1〜8のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団。
【請求項10】
前記細胞が、制限された増殖率を示すものであることを特徴とする、請求項1〜9のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団。
【請求項11】
前記細胞が、遺伝子組換えされたものである、請求項1〜10のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団。
【請求項12】
医薬として使用される、請求項1〜11のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団。
【請求項13】
組織変性状態の治療のための、請求項1〜12のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団。
【請求項14】
前記組織変性状態が、骨格筋変性、心臓組織変性、骨組織変性、神経組織変性、肺変性、肝臓変性、腎臓変性又は前記組織変性状態、またはそれらの複数が同時に生じた状態である、請求項13に記載の単離幹細胞集団。
【請求項15】
請求項1〜11のいずれか一項に記載の単離幹細胞集団と、許容される医薬ビヒクルとを含んでなる、医薬組成物。
【請求項16】
子宮筋組織から幹細胞集団を単離するための方法であって、前記細胞集団の細胞が、CD31、CD34、CD44、CD117、SSEA−4、及びWGA−レクチン表面マーカーについて陽性であり、CD13、CD45、CD80、CD133、CD146、TRA1−60、及びTRA1−81表面マーカーについて陰性であり、前記方法が:
i)固体表面上で好適な細胞培養培地中において、子宮筋組織試料を、前記試料の細胞が前記固体表面に付着する条件下でインキュベーションする工程と;
ii)前記細胞培養液から、前記固体表面に付着しないか、又は付着能が低い細胞を回収する工程と;
iii)選択された細胞集団が意図する表現型を示すことを確認する工程と
を含んでなることを特徴とする、方法。
【請求項17】
前記子宮筋組織試料が生検試料である、請求項16に記載の方法。
【請求項18】
前記生検試料が剥脱試料である、請求項17に記載の方法。
【請求項19】
前記方法が、工程i)での培養培地中でのインキュベーションの前に、前記子宮筋組織試料から、漿膜、脂肪及び線維組織を除去することを含んでなる、請求項16〜18のいずれか一項に記載の方法。
【図1A】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図1H】
【図2】
【図3】
【図4】
【図1B】
【図1C】
【図1D】
【図1E】
【図1F】
【図1G】
【図1H】
【図2】
【図3】
【図4】
【公表番号】特表2012−509074(P2012−509074A)
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−536872(P2011−536872)
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065523
【国際公開番号】WO2010/057965
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(511124264)
【氏名又は名称原語表記】DIAZ ARROYO, Manuel
【Fターム(参考)】
【公表日】平成24年4月19日(2012.4.19)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月20日(2009.11.20)
【国際出願番号】PCT/EP2009/065523
【国際公開番号】WO2010/057965
【国際公開日】平成22年5月27日(2010.5.27)
【出願人】(511124264)
【氏名又は名称原語表記】DIAZ ARROYO, Manuel
【Fターム(参考)】
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