説明

孔傾斜計測治具及び孔傾斜計測方法

【課題】計測対象孔の近傍に障害物がある場合であっても、信頼性の高い計測結果が得られる孔傾斜計測治具及び孔傾斜計測方法を提供する。
【解決手段】管孔加工面Wbに形成された管孔Waに挿入された状態でその中心軸線1a周りに回転可能なロッド部1と、ロッド部1に設けられ、中心軸線1aが延びる軸方向と直交する直交方向に延在するアーム部2と、アーム部2において上記直交方向に間隔をあけて設けられ、中心軸線1a周りにおける第1の位置にアーム部2が位置するときと、該中心軸線1a周りにおける上記第1の位置と異なる第2の位置にアーム部2が位置するときとの、管孔加工面Wbに対する上記軸方向における相対距離の変化を計測可能な複数の計測部3と、を有する孔傾斜計測治具A及び当該孔傾斜計測治具Aを用いた孔傾斜計測方法を採用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔傾斜計測治具及び孔傾斜計測方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
熱交換器として、管板と称される円盤状の板材に支持された複数の伝熱管の内外に流体を流し、それら内外の流体の温度差によって熱交換を行うシェル&チューブ型の熱交換器が知られている(下記特許文献1参照)。これらの伝熱管は、熱交換器の性能を決定付ける部品であると共に、熱交換効率を高めるために細径化及び薄厚化が進む傾向にあるため、伝熱管の製作管理には細心の注意を払う必要がある。
【0003】
これらの伝熱管は、管板の厚さ方向に貫通するように形成された複数の管孔に挿入された後、溶接等によって管板に固定されるため、管孔が管板の厚さ方向に対して傾斜した状態で形成されてしまった場合、管孔に対する伝熱管の挿入作業を阻害すると共に、伝熱管に変形を与えたり、隣接する伝熱管同士の接触を招くなど、熱交換器の運転寿命に悪影響を与える虞がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平9−280771号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
したがって、管板の管孔の施工後には、後の工程の伝熱管の挿入に問題がないかどうかを検査するため、管板の平面に対する管孔の直角度(傾き)を計測しなければならない。しかしながら、管板には、管孔の他に、平面に対して面直方向に突出する突出部(例えば管板外縁のハブや管板の平面中央に跨る仕切り板)等の計測の障害となる障害物が存在している。このため、例えば、所定の孔傾斜計測治具を管孔に挿入して1回転させようとしても、場所によっては当該突出部と干渉してしまい、挿入や回転が制限され、信頼性の高い計測結果が得られないという問題がある。
【0006】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、計測対象孔の近傍に障害物がある場合であっても、信頼性の高い計測結果が得られる孔傾斜計測治具及び孔傾斜計測方法の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するために、本発明は、平面に形成された計測対象孔に挿入された状態でその中心軸線周りに回転可能なロッド部と、上記ロッド部に設けられ、上記中心軸線が延びる軸方向と直交する直交方向に延在するアーム部と、上記アーム部において上記直交方向に間隔をあけて設けられ、上記中心軸線周りにおける第1の位置に上記アーム部が位置するときと、該中心軸線周りにおける上記第1の位置と異なる第2の位置に上記アーム部が位置するときとの、上記平面に対する上記軸方向における相対距離の変化を計測可能な複数の計測部と、を有する孔傾斜計測治具を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、ロッド部に直交して設けられたアーム部に計測部を2つ以上、直交方向において所定の間隔をあけて設けることで、当該計測部のうち少なくとも2つの計測結果と当該2つの計測部との間の距離とに基づいて、平面に対する中心軸線の傾きを求め、そして、中心軸線周りの第1の位置と第2の位置との相対距離の変化でもってロッド部とアーム部の傾き分を補正することによって、信頼性の高い平面に対する中心軸線の傾きを得ることができる。
【0008】
また、本発明においては、上記ロッド部に設けられ、該ロッド部が上記計測対象孔に挿入された状態で上記平面に少なくとも一部が当接可能な当接部を有するという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、ロッド部の軸方向における相対移動が、当接部の平面に対する当接によって規制されるため、アーム部に設けられた複数の計測部の計測結果に影響を与えないようにすることができる。
【0009】
また、本発明においては、上記複数の計測部のそれぞれの上記間隔を保ったまま、上記複数の計測部のそれぞれと上記中心軸線との上記直交方向における相対距離を調節可能な調節部を有するという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、中心軸線に対する複数の計測部の直交方向における相対距離を調整することで、回転に伴う複数の計測部の少なくとも一部と障害物との干渉を回避することができる。また、複数の計測部は、互いの間隔を保ったまま平行移動するため、平面に対する中心軸線の傾きを求めるためのパラメータに影響を与えないようにすることができる。
【0010】
また、本発明においては、上記計測部が3つ以上設けられているという構成を採用する。
この構成を採用することによって、本発明では、仮に、複数の計測部のうちの1つが、他の計測対象孔の上に位置してしまい正確な相対距離の計測結果が得られない場合であっても、残りの少なくとも2つの計測部の計測結果に基づいて、平面に対する中心軸線の傾きを求めることができる。
【0011】
また、本発明においては、先に記載の孔傾斜計測治具を用い、上記相対距離の変化を計測する計測工程と、上記計測工程における計測結果に基づいて、上記平面に対する上記中心軸線の傾きを算出する算出工程と、を有する孔傾斜計測方法という手法を採用する。
この手法を採用することによって、本発明では、信頼性の高い平面に対する中心軸線の傾きを求めることができる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、計測対象孔の近傍に障害物がある場合であっても、信頼性の高い計測結果が得られる孔傾斜計測治具及び孔傾斜計測方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明の実施形態における孔傾斜計測治具Aを示す構成概略図である。
【図2】本発明の実施形態における孔傾斜計測治具Aを示す斜視図である。
【図3】本発明の実施形態における孔傾斜計測治具Aを用いた孔傾斜計測方法について説明するための図である。
【図4】比較例1として孔傾斜計測治具Bを用いた孔傾斜計測方法について説明するための図である。
【図5】比較例2として孔傾斜計測治具Cを用いた孔傾斜計測方法について説明するための図である。
【図6】本発明の実施形態における管板Wに形成された管孔Waを示す斜視図である。
【図7】本発明の第2実施形態における孔傾斜計測治具Aを示す構成概略図である。
【図8】本発明の第2実施形態における孔傾斜計測治具Aを示す斜視図である。
【図9】本発明の第3実施形態における孔傾斜計測治具Aを示す構成概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施形態について図面を参照して説明する。
なお、以下の図面において、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
【0015】
[第1実施形態]
図1は、本発明の実施形態における孔傾斜計測治具Aを示す構成概略図である。図2は、本発明の実施形態における孔傾斜計測治具Aを示す斜視図である。なお、図2においては、計測部3を不図示としている。
【0016】
本実施形態における孔傾斜計測治具Aは、熱交換器における管板Wを貫通するように形成された管孔Waを計測対象孔とし、当該管孔Waの厚さ方向に対する傾斜状態を計測するために用いられる治具である。この孔傾斜計測治具Aは、ロッド部1と、アーム部2と、複数の計測部3と、当接部4とを有する。
【0017】
なお、図1中において、管板Wの厚さ方向をZ軸方向とし、当該Z軸方向に延びる軸に直交する2つの軸の方向をX軸方向及びY軸方向とする。また、図1では、説明の便宜上、Z軸(厚さ方向)に対してYZ平面内で傾斜した状態(傾斜角θ)の管孔Waを図示している。すなわち、傾斜角θは、XY平面に対して直交するZ軸に対する中心軸線1aの傾きを示している。
【0018】
ロッド部1は、管板Wの管孔加工面(平面)Wbに形成された管孔Waに挿入自在な棒状部材である。ロッド部1は、管孔Waに挿入された状態でその中心軸線1a周りに回転可能な丸棒形状を有する(図2参照)。このロッド部1の直径は、管孔Waの直径に応じて挿入作業に支障がない程度に適宜設定すれば良いが、挿入後のロッド部1と管孔Waとの間のクリアランスが大きすぎると、管孔Waの傾斜状態の計測精度が低下するため、可能な限りロッド部1の直径を管孔Waの直径に近い値とすることが好ましい。
【0019】
また、図1においては、ロッド部1の一端が管板Wの背面(管孔加工面Wbの反対側の面)から突出するように図示しているが、必ずしもロッド部1の一端が管板Wの背面から突出する程度にロッド部1の長さを設定する必要はない。但し、管孔Waの傾斜状態の計測精度低下を防ぐためには、図1に示すように、ロッド部1を管孔Waの内周面とその全長に亘って当接した状態で保持することが好ましいため、ロッド部1の長さは管孔Waの長さ(管板Wの厚さ)以上とすることが好ましい。
【0020】
アーム部2は、ロッド部1に設けられ、ロッド部1の中心軸線1aが延びる軸方向と直交する直交方向に延在している。アーム部2は、ロッド部1の端部から直交方向一方側に延在した角棒形状を有する(図2参照)。アーム部2は、ロッド部1が管孔Waに挿入された状態で、管板Wの管孔加工面Wb側において、ロッド部1と共に中心軸線1a周りに回転自在な構成となっている。
【0021】
このアーム部2の長さは、アーム部2を回転させた場合に管板Wの管孔加工面Wbに接触しない程度に適宜設定すれば良いが、ロッド部1の長さと比べて長くなり過ぎると、アーム部2を回転させた場合にロッド部1が管孔Wa内で動きやすくなる(管孔Waの傾斜状態の計測精度低下を招く)ため、ロッド部1の長さより短くすることが好ましい。
【0022】
計測部3は、アーム部2において直交方向に間隔をあけて複数(本実施形態では2つ)設けられている。計測部3は、中心軸線1a周りにおける第1の位置にアーム部2が位置するとき(図1において実線で示す)と、該中心軸線1a周りにおける上記第1の位置と異なる第2の位置にアーム部2が位置するとき(図2において2点鎖線で示す)との、管孔加工面Wbに対する軸方向の相対距離の変化を計測可能な構成となっている。
【0023】
本実施形態では、計測部3として、管孔加工面Wbに対し接触して計測を行うダイアルゲージを採用している。なお、計測部3としては、管孔加工面Wbに対し非接触で計測を行う光学式、レーザ式、超音波式等の距離計を採用してもよい。アーム部2には、中心軸線1aから離間して第1の計測部3aが固定配置され、また、第1の計測部3aよりも中心軸線1aから離間して第2の計測部3bが固定配置されている。アーム部2には、第1の計測部3aを固定配置する孔部5aと、第2の計測部3bを固定配置する孔部5bとが形成されている(図2参照)。
【0024】
図1では、第2の計測部3bが、アーム部2においてロッド部1の中心軸線1aから最も離れた位置、つまりアーム部2の端部に配置され、第1の計測部3aが、中心軸線1aと第2の計測部3bとの中間の位置、つまりアーム部2の中間部に配置された状態を図示しているが、必ずしもこの位置関係で計測部3を配置する必要はなく、第1の計測部3aと第2の計測部3bとが所定の間隔を保って且つ中心軸線1aから離間した位置関係であれば良い。但し、第1の計測部3aと第2の計測部3bとが近づく程、また、中心軸線1aに対して近づく程、管孔Waの傾斜状態の計測精度が低下するため、可能な限り第1の計測部3aと第2の計測部3bとを離し、また、中心軸線1aに対して離して配置することが好ましい。
【0025】
当接部4は、ロッド部1に設けられ、該ロッド部1が管孔Waに挿入された状態で管孔加工面Wbに少なくとも一部が当接可能な構成となっている。この当接部4は、管板Wに対するロッド部1の軸方向における相対移動(落ち込み)を規制し、計測部3への計測結果に影響を与えないようにする。当接部4は、ロッド部1よりもひと回り大きな円盤形状を有する。この当接部4の大きさは、ロッド部1を中心軸線1a周りに回転させたときに管板Wの管孔加工面Wbに接触する程度に適宜設定すればよいが、大きすぎると、後述する突出物(図6参照)と干渉して、ロッド部1の管孔Waへの挿入を阻害するため、可能な限り小さいことが好ましい。
【0026】
以上が孔傾斜計測治具Aの構成に関する説明であり、以下ではこの孔傾斜計測治具Aを用いて管孔Waの傾斜状態を計測する孔傾斜計測方法について、図3〜図6を参照しながら具体的に説明する。
【0027】
図3は、本発明の実施形態における孔傾斜計測治具Aを用いた孔傾斜計測方法について説明するための図である。図4は、比較例1として孔傾斜計測治具Bを用いた孔傾斜計測方法について説明するための図である。図5は、比較例2として孔傾斜計測治具Cを用いた孔傾斜計測方法について説明するための図である。図6は、本発明の実施形態における管板Wに形成された管孔Waを示す斜視図である。なお、図3〜図5においては、解析条件を一定にするべく各孔傾斜計測治具をモデル化している。したがって、例えば、上述した図1及び図2に示す孔傾斜計測治具Aと、図3に示す孔傾斜計測治具Aとは、諸形状は異なるが、本質的な構成としては同一である。
先ず、比較例1として孔傾斜計測治具Bを用いた孔傾斜計測方法について説明する。
【0028】
(比較例1)
図4に示すように、比較例1としての孔傾斜計測治具Bは、計測部3が1つである点と、当接部4が大きい点(具体的にはアーム部2の根元高さの中心軸線1aから計測部3までの距離L1の1/2の半径を有する点)と、が本実施形態に係る孔傾斜計測治具Aと異なる。
【0029】
孔傾斜計測治具Bを用いた孔傾斜計測方法の第1の工程としては、先ず、図4(a)に示すように中心軸線1a周りにおける第1の位置にアーム部2が位置するときと、図4(b)に示すように中心軸線1a周りにおける第2の位置にアーム部2が位置するときとの、管孔加工面Wbに対する軸方向の相対距離の変化を計測部3によって計測する。
【0030】
具体的には、図4(a)に示すように、中心軸線1a周りにおける第1の位置にアーム部2が位置するときに、計測部3によって管孔加工面Wbに対するアーム部2の軸方向の相対距離X1を求める。その後、ロッド部1の中心軸線1a周りにアーム部2を第1の位置から180度回転させて、第2の位置に位置させる。そして、図4(b)に示すように、中心軸線1a周りにおける第2の位置にアーム部2が位置するときに、計測部3によって管孔加工面Wbに対するアーム部2の軸方向の相対距離X2を求める。そして、第1の位置と第2の位置との相対距離の変化は、X1とX2の差分から求めることができる。
【0031】
次に、孔傾斜計測治具Bを用いた孔傾斜計測方法の第2の工程として、上記工程における計測結果に基づいて、管孔加工面Wbに対する中心軸線1aの直角度(傾き)を算出する。例えば、図1に示すように、管孔WaがZ軸に対してYZ平面内で傾斜した状態(傾斜角θ)で形成されている場合において、基準面(管孔加工面Wb)のXY平面に対する傾斜角が0°であると仮定すると、計測面(アーム部2に対して平行な面)のXY平面に対する傾斜角が管孔Waの傾斜角θとして算出されることになる。
したがって、傾斜角θは、X1とX2との差分と、距離L1とをパラメータとして、下式(1)で示すことができる。
【0032】
【数1】

【0033】
比較例1においては、当接部4が大きく、アーム部2を回転させたとしても、その円盤形状の外縁の一部が、管孔加工面Wbに常に「片当り」して、当接点Pが移動することはないため、孔傾斜計測治具Bの姿勢が一定でガタつくことがない。したがって、比較例1においては、傾斜角θについて信頼性の高い計測結果が得られる。
【0034】
しかしながら、図6に示すように、管板Wには、管孔加工面Wbに対して面直方向(Z軸方向)に突出する突出部として、管板Wの外縁に設けられたハブ100や、管板Wの管孔加工面Wb中央を横切るように跨る仕切り板101が存在している。このため、比較例1の孔傾斜計測治具Bは、当接部4が円盤形状で大きいが故に、突出部と干渉して管孔Waに挿入できず、図6において実線で図示されている管孔Waについては計測できないという問題がある。
【0035】
(比較例2)
図5に示すように、比較例2としての孔傾斜計測治具Cは、当接部4が円盤形状でない点(例えば半円形状あるいは棒形状である点)が、比較例1に係る孔傾斜計測治具Bと異なる。なお、孔傾斜計測治具Cを用いた孔傾斜計測方法は、比較例1の孔傾斜計測治具Bを用いた孔傾斜計測方法と同じであるので、その説明は割愛する。
【0036】
比較例2においては、当接部4が円盤形状ではない(換言すると円盤形状を部分的に切除した形状である)ため、比較例1よりも挿入できる管孔Waの数が増える。しかしながら、比較例1のように、当接部4が円盤形状ではないため、管孔加工面Wbに「片当り」することがなく、図5(a)に示す第1の位置と、図5(b)に示す第2の位置とで当接点Pが移動し、孔傾斜計測治具Bの姿勢がガタつく。具体的には、アーム部2が第2の位置に位置するとき、孔傾斜計測治具Bが全体として中心軸線1aに沿って軸方向に移動する(落ち込む)。
【0037】
したがって、比較例2においては、比較例1に比べて、傾斜角θについて信頼性の高い計測結果が得られない。
なお、「片当り」は、比較例1に示すように円盤形状の当接部4が十分に大きいときに得られる作用効果であり、図1及び図2に示すような小さな当接部4では同じ円盤形状であっても、当該作用効果は得ることはできず、比較例2と同様に当接点Pが移動してしまう。
【0038】
(実施例)
図3に示すように、実施例としての孔傾斜計測治具Aを用いた孔傾斜計測方法によれば、比較例2のような当接部4であっても、「片当り」分(ロッド部1とアーム部2の傾き分)を補正することで、ハブ100や仕切り板101と干渉する部位に形成された管孔Waの傾斜角θについて、比較例1と同様に、信頼性の高い計測結果が得られる。以下、孔傾斜計測治具Aを用いた孔傾斜計測方法について説明する。
【0039】
孔傾斜計測治具Aを用いた孔傾斜計測方法の第1の工程として、先ず、図3(a)に示すように中心軸線1a周りにおける第1の位置にアーム部2が位置するときと、図3(b)に示すように中心軸線1a周りにおける第2の位置にアーム部2が位置するときとの、管孔加工面Wbに対する軸方向の相対距離の変化を複数の計測部3によって計測する(計測工程)。
【0040】
具体的には、図4(a)に示すように、中心軸線1a周りにおける第1の位置にアーム部2が位置するときに、第1の計測部3aによって管孔加工面Wbに対するアーム部2の軸方向の相対距離Y1を求め、また、第2の計測部3bによって管孔加工面Wbに対するアーム部2の軸方向の相対距離X1を求める。その後、ロッド部1の中心軸線1a周りにアーム部2を第1の位置から180度回転させて、第2の位置に位置させる。
【0041】
そして、図4(b)に示すように、中心軸線1a周りにおける第2の位置にアーム部2が位置するときに、第1の計測部3aによって管孔加工面Wbに対するアーム部2の軸方向の相対距離Y2を求め、また、第2の計測部3bによって管孔加工面Wbに対するアーム部2の軸方向の相対距離X2を求める。そして、第1の位置と第2の位置との相対距離の変化は、Y1とY2の差分、X1とX2の差分からそれぞれ求めることができる。
【0042】
孔傾斜計測治具Aを用いた孔傾斜計測方法の第2の工程として、次に、上記計測工程における計測結果に基づいて、管孔加工面Wbに対する中心軸線1aの傾きを算出する(算出工程)。上述した比較例1と同様にして基準面(管孔加工面Wb)のXY平面に対する傾斜角が0°であると仮定すると、傾斜角θは、X1とX2との差分と、Y1とY2との差分と、距離L2(第1の計測部3aと第2の計測部3bとの直交方向における間隔)とをパラメータとして、下式(2)で示すことができる。
【0043】
【数2】

【0044】
上式(2)に示すように、ロッド部1に直交して設けられたアーム部2に計測部3を2つ以上、直交方向において所定の間隔(距離L2)をあけて設けることで、当該計測部3のうち少なくとも2つの計測結果と距離L2とに基づいて、傾斜角θを求めることができる。すなわち、アーム部2が第1の位置から第2の位置に移動して、孔傾斜計測治具Aが全体として中心軸線1aに沿って軸方向に移動して(落ち込んで)も、第1の位置において第1の計測部3aのY1を基準とする第2の計測部3bのX1の距離L2に対する比率と、第2の位置において第1の計測部3aのY2を基準とする第2の計測部3bのX2の距離L2に対する比率との平均をとることで、「片当り」分を補正することができる。
【0045】
図3〜図5に示すモデルの解析の結果、比較例1の計測結果(θ=1.0046°)に対し、比較例2の計測結果(θ=0.7342°)は小数点第1位の精度であったが、実施例の計測結果(θ=1.0129°)は小数点第2の精度であった。
このように、孔傾斜計測治具Aを用いた孔傾斜計測方法によれば、比較例1と同様に、信頼性の高い計測結果が得られる。
【0046】
したがって、上述した本実施形態によれば、管孔加工面Wbに形成された管孔Waに挿入された状態でその中心軸線1a周りに回転可能なロッド部1と、ロッド部1に設けられ、中心軸線1aが延びる軸方向と直交する直交方向に延在するアーム部2と、アーム部2において上記直交方向に間隔をあけて設けられ、中心軸線1a周りにおける第1の位置にアーム部2が位置するときと、該中心軸線1a周りにおける上記第1の位置と異なる第2の位置にアーム部2が位置するときとの、管孔加工面Wbに対する上記軸方向における相対距離の変化を計測可能な複数の計測部3と、を有する孔傾斜計測治具A及び当該孔傾斜計測治具Aを用いた孔傾斜計測方法を採用することによって、管孔Waの近傍に障害物がある場合であっても、信頼性の高い計測結果が得られる。
【0047】
[第2実施形態]
次に、本発明の第2実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
【0048】
図7は、本発明の第2実施形態における孔傾斜計測治具Aを示す構成概略図である。図8は、本発明の第2実施形態における孔傾斜計測治具Aを示す斜視図である。
図に示すように、第2実施形態の孔傾斜計測治具Aは、調節部6を有している点で、上述した実施形態と異なる。
【0049】
調節部6は、複数の計測部3のそれぞれの間隔を保ったまま、複数の計測部3のそれぞれと中心軸線1aとの直交方向における相対距離を調節可能な構成となっている。調節部6は、アーム部2に設けられている。この調節部6は、複数の計測部3のそれぞれの間隔を保持する保持部7と、保持部7を直交方向にスライド自在に案内するガイド部8と、ガイド部8に対して保持部7を締結固定自在なネジ部9と、を有する。
【0050】
保持部7は、角棒形状を有しており、第1の計測部3aを固定配置する孔部5aと、第2の計測部3bを固定配置する孔部5bとが形成されている(図8参照)。
ガイド部8は、ロッド部1に設けられ、ロッド部1の中心軸線1aが延びる軸方向と直交する直交方向に延在している。ガイド部8は、保持部7の両側面と底面とをガイド可能な正面視略コの字のレール形状を有している。
【0051】
保持部7の底面をガイドするガイド部8の底部の中央には、直交方向に沿って溝10が形成されている。溝10は、ガイド部8の端部から中心軸線1aに向かって所定長さで形成されている。溝10の幅は、少なくとも計測部3と干渉しない幅に設定されている。
ネジ部9は、保持部7に形成された雌ネジ孔である孔部5cに螺合すると共に溝10に挿入可能な雄ネジ部を有しており、また、溝10の幅よりも大きなヘッド部を有している。なお、ネジ部9は、保持部7の姿勢安定化のために、さらに追加して設けても良い。
【0052】
上記構成の調節部6によれば、ネジ部9による締結固定を解除することにより、ガイド部8に対して保持部7が直交方向にスライド自在となる。これにより、保持部7は、複数の計測部3のそれぞれの間隔を保ったまま、ガイド部8によって両側面及び底面をガイドされ、直交方向において中心軸線1aに対し離間した所定の位置に移動することができる。この移動の際、複数の計測部3は、溝10に沿って移動するため、ガイド部8と干渉することはない。保持部7の位置調節が終了したら、ネジ部9の螺入によりガイド部8に対し保持部7を締結固定する。このようにして、複数の計測部3のそれぞれと中心軸線1aとの直交方向における相対距離を調節することができる。
【0053】
上述した本発明の第2実施形態によれば、中心軸線1aに対する複数の計測部3の直交方向における相対距離を調整することで、中心軸線1a周り回転に伴って、複数の計測部3の少なくとも一部と、図6に示すような障害物(ハブ100、仕切り板101)との干渉を回避することができる。したがって、例えば、アーム部2の長さが異なる複数の孔傾斜計測治具Aを用意しなくても、管孔Waの傾斜状態を計測することができる。
【0054】
また、複数の孔傾斜計測治具Aを用意すると、各ロッド部1の加工精度は個体差があるので、ロッド部1を共通して使えるこの第2実施形態の孔傾斜計測治具Aによれば、より信頼性の高い計測結果が得られる。また、複数の計測部3は、互いの間隔を保ったまま平行移動するため、上式(2)に示すように、管孔加工面Wbに対する中心軸線1aの傾きを求めるためのパラメータに影響を与えないようにすることができる。
【0055】
[第3実施形態]
次に、本発明の第3実施形態について説明する。以下の説明において、上述の実施形態と同一又は同等の構成部分については同一の符号を付し、その説明を簡略若しくは省略する。
【0056】
図9は、本発明の第3実施形態における孔傾斜計測治具Aを示す構成概略図である。
図に示すように、第3実施形態の孔傾斜計測治具Aには、第1の計測部3a、第2の計測部3bの他に、第3の計測部3cが設けられ、計測部3が計3つ設けられている点で、上述した実施形態と異なる。
【0057】
第3の計測部3cは、第1の計測部3a、第2の計測部3bのそれぞれに対して直交方向において間隔をあけて設けられている。図9では、第3の計測部3cが、アーム部2において第1の計測部3aと第2の計測部3bとの中間の位置に配置された状態を図示しているが、必ずしもこの位置関係で配置する必要はなく、例えば、中間の位置に対し、第1の計測部3a寄りであっても、第2の計測部3b寄りであってもよい。また、第3の計測部3cの配置は、後述する理由から、図6に示す管孔Waの互いに隣り合う間隔に基づいて設定することが好ましい。
【0058】
上記構成の第3実施形態によれば、仮に、複数の計測部3のうちの1つ(例えば第1の計測部3a)が、図9において2点鎖線で示す第2の位置において計測対象でない他の管孔Waの上に位置してしまい正確な相対距離の計測結果が得られない場合であっても、残りの第2の計測部3b及び第3の計測部3cの計測結果に基づいて、管孔加工面Wbに対する中心軸線1aの傾きを求めることができる。
【0059】
すなわち、図6のように管孔Waが千鳥配置されている場合、管孔加工面Wbに沿う特定の直線方向において計測を行うときに、計測部3の間隔やアーム部3の長さによっては、他の管孔Waが障害物となって計測できない場合があるため、第3の計測部3cを予備的に設けることで、この不具合を解消することができる。なお、この場合、上式(2)の距離L2は、第2の計測部3bと第3の計測部3cとの間の距離となり、Y1、Y2は、第3の計測部3cの計測結果となる。もっとも、予備の計測部3をさらに追加して設けても良いが、計測部3の間隔が狭くなるので、設置数は必要最小限にすることが好ましい。
【0060】
以上、図面を参照しながら本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではない。上述した実施形態において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、本発明の主旨から逸脱しない範囲において設計要求等に基づき種々変更可能である。
【0061】
例えば、上記実施形態では、第1の位置と第2の位置とは中心軸線1a周りに180°回転した位置関係であると説明したが、本発明はこれ以外の位置関係であっても良い。例えば、図6に示すハブ100と仕切り板101との交差部では、アーム部2の長さによっては回転が規制されるので、計測精度は落ちるが、例えば、中心軸線1a周りに120°あるいは90°回転した位置関係等であっても良い。
【0062】
また、例えば、上記実施形態では、計測対象孔として、熱交換器における管板Wに形成された管孔Waを想定して説明したが、本発明がこれ以外の計測対象孔の傾斜状態を計測するために適用可能であることは勿論である。
【符号の説明】
【0063】
A…孔傾斜計測治具、W…管板、Wa…管孔(計測対象孔)、Wb…管孔加工面(平面)、1…ロッド部、1a…中心軸線、2…アーム部、3…計測部、3a…第1の計測部、3b…第2の計測部、3c…第3の計測部、4…当接部、6…調節部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
平面に形成された計測対象孔に挿入された状態でその中心軸線周りに回転可能なロッド部と、
前記ロッド部に設けられ、前記中心軸線が延びる軸方向と直交する直交方向に延在するアーム部と、
前記アーム部において前記直交方向に間隔をあけて設けられ、前記中心軸線周りにおける第1の位置に前記アーム部が位置するときと、該中心軸線周りにおける前記第1の位置と異なる第2の位置に前記アーム部が位置するときとの、前記平面に対する前記軸方向における相対距離の変化を計測可能な複数の計測部と、
を有することを特徴とする孔傾斜計測治具。
【請求項2】
前記ロッド部に設けられ、該ロッド部が前記計測対象孔に挿入された状態で前記平面に少なくとも一部が当接可能な当接部を有することを特徴とする請求項1に記載の孔傾斜計測治具。
【請求項3】
前記複数の計測部のそれぞれの前記間隔を保ったまま、前記複数の計測部のそれぞれと前記中心軸線との前記直交方向における相対距離を調節可能な調節部を有することを特徴とする請求項1または2に記載の孔傾斜計測治具。
【請求項4】
前記計測部が3つ以上設けられていることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載の孔傾斜計測治具。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか一項に記載の孔傾斜計測治具を用い、前記相対距離の変化を計測する計測工程と、
前記計測工程における計測結果に基づいて、前記平面に対する前記中心軸線の傾きを算出する算出工程と、
を有することを特徴とする孔傾斜計測方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−44652(P2013−44652A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−182823(P2011−182823)
【出願日】平成23年8月24日(2011.8.24)
【出願人】(000000099)株式会社IHI (5,014)