説明

孔口昇降装置

【課題】試験装置を試錘孔内に挿入するための装置支持部材を昇降させながら尚且つ試錐孔から湧き出る地下水の孔外への流出を防止することを可能とする。
【解決手段】ケーシングパイプ6を昇降させる間はスライドパイプ3側の上シール部2のシール部材2aとスライダガイドパイプ5側の下シール部4のシール部材4aとの少なくとも一方が水密性を発揮して両シール部材2a,4aが同時に水密性を発揮しない状態にはならないように制御されるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、孔口昇降装置に関する。さらに詳述すると、本発明は、下端に固定された例えば水理試験装置や採水装置を試錘孔内に挿入するためのケーシングパイプやロッドを昇降させる際に用いて好適な孔口昇降装置に関する。
【背景技術】
【0002】
トンネルや坑道あるいは地上から穿たれたボーリング孔においても湧水を伴うボーリング孔を用いて実施される水理試験では、試験装置設置時に発生する地下水の湧水が間隙水圧の低下を引き起こして試験の長期化を引き起こす虞がある。また、自然環境保全に配慮した地下水保護の観点からも必要以上の湧水の流出は防止することが望まれると共に、健康や自然環境に悪影響を与える物質が混入している虞がある場合には特に試験中に湧き出る地下水の処理が問題になる。
【0003】
試錐孔の開口部に設置され、掘削作業中などに地盤中のガスや石油が孔口から噴出した際に流体の孔外への流出を防止する従来の装置として暴噴防止装置がある(特許文献1)。この暴噴防止装置100は、図6に示すように、海底掘削船101の吊り上げ装置102で昇降操作される掘削用のライザー管103の下端に取り付けられると共に、海底104の孔口に設けられたウエルヘッド108にコネクタ107が勘合した状態でライザー管103を通して海底104の掘削を行っている間に地盤中のガスや石油がライザー管103側に噴出することを防止するものである。このため、暴噴防止装置100は、ガスや石油が噴出した際には装置内の管を切断して孔口を弁体等で閉じて孔口に装置の構成部材の一部が残される構造となっており、具体的には、暴噴防止装置100のフレーム106にはライザー管103に接続されるジョイント111,ゴムにより孔を締め切る上部アニュラー112,切断時にウエルヘッド108側に残される下部アニュラー113,弁体が作動して孔を締め切ったりパイプを切断するラム部114及びコネクタ107が備えられ、コネクタ107とウエルヘッド108とが接続された状態で孔口からガスや石油が噴出した場合にはラム部114によってパイプが切断されてジョイント111及び上部アニュラー112と下部アニュラー113側とが切り離されると共に下部アニュラー113によって孔を締め切ることで海中への孔内の流体の流出が阻止される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−11340号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1の暴噴防止装置100では、孔口からのガスや石油の噴出が発生した場合にはライザー管103を切断して下部アニュラー113によって孔口を締め切って孔内の流体の流出を阻止することはできる一方で、ライザー管103を昇降させながら尚且つガスや石油の噴出を堰き止めることはできない。したがって、例えば水理試験装置や採水装置が下端に固定されたケーシングパイプやロッドを昇降させながら尚且つ試錐孔からの地下水の湧水を堰き止めることはできない。
【0006】
そこで、本発明は、下端に固定された例えば水理試験装置や採水装置を試錘孔内に挿入するためのケーシングパイプやロッドを昇降させながら尚且つ試錐孔から湧き出る地下水の孔外への流出を防止することができる孔口昇降装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
かかる目的を達成するため、請求項1記載の孔口昇降装置は、試錐孔の孔口に設置されて試験装置が下端に取り付けられた装置支持部材を試錐孔内を昇降させる孔口昇降装置であって、装置支持部材の周囲を取り囲むと共に周壁同士が水密性を備えながら軸心方向に摺動可能に組み合わされている筒状のスライド部材及びスライダガイド部材を有し、装置支持部材とスライド部材との間の間隙に対して水密性を発揮する状態と発揮しない状態との制御が可能であるシール部材を備えるシール部をスライド部材が有すると共に装置支持部材とスライドガイド部材との間の間隙に対して水密性を発揮する状態と発揮しない状態との制御が可能であるシール部材を備えるシール部をスライドガイド部材が有し、装置支持部材を昇降させる間はスライド部材のシール部材とスライダガイド部材のシール部材との少なくとも一方が水密性を発揮して両シール部材が同時に水密性を発揮しない状態にはならないように制御されるようにしている。
【0008】
したがって、この孔口昇降装置によると、装置支持部材を昇降させる間はスライド部材のシール部材とスライダガイド部材のシール部材との両方が同時に水密性を発揮しない状態にはならないようにしているので、装置支持部材を試錐孔内を昇降させながらも当該装置支持部材の周囲の間隙を封止して当該間隙の水密性が確保される。
【0009】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の孔口昇降装置において、装置支持部材がケーシングパイプであると共に該ケーシングパイプを軸心方向に貫通するロッドを備え、ケーシングパイプとロッドとの間の間隙を、試錘孔内において採水区間を設定するために試験装置が備えるパッカーを拡張させるための配管として使うようにしている。この場合には、装置支持部材の周囲に配置すると当該周囲の間隙の水密性を阻害してしまうチューブや通信ケーブルを別途設けることなく、試錐孔内に挿入されたパッカーの操作をすることができる。
【0010】
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載の孔口昇降装置において、装置支持部材がケーシングパイプであると共に該ケーシングパイプを軸心方向に貫通するロッドを備え、当該ロッドを、試験装置を作動させるためのトリガーとして使うようにしている。この場合には、装置支持部材の周囲に配置すると当該周囲の間隙の水密性を阻害してしまうチューブや通信ケーブルを別途設けることなく、試錐孔内に挿入された試験装置の操作をすることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明の孔口昇降装置によれば、装置支持部材を試錐孔内を昇降させながらも当該装置支持部材の周囲の間隙を封止して当該間隙の水密性を確保することができるので、試錐孔から湧き出る地下水の孔外への流出を防止し、良好な試験現場の保持や自然環境の保全を図ることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】実施形態の孔口昇降装置の概略構造を説明する縦断面図である。
【図2】実施形態の孔口昇降装置の採水装置の概略構造を説明する縦断面図である。
【図3】孔口昇降装置によるケーシングパイプの昇降の動作を説明する縦断面図である。
【図4】孔口昇降装置によるケーシングパイプの昇降の動作を説明する縦断面図である。
【図5】採水装置による試錐孔内の地下水の採取の動作を説明する縦断面図である。
【図6】従来の暴噴防止装置の全体構造を示す側面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の構成を図面に示す実施の形態の一例に基づいて詳細に説明する。
【0014】
図1から図5に、本発明の孔口昇降装置の実施形態の一例を示す。なお、本実施形態では、地盤20に穿たれた試錐孔21の孔口部分に孔口基部22が設置されており、当該孔口基部22に孔口昇降装置1が取り付けられて用いられる場合を例に挙げて説明する。なお、以下の説明においては、孔口基部22に取り付けられた状態を基準にして孔口昇降装置1の上下方向(即ち鉛直方向)及び水平方向を定義する。そして、孔口昇降装置1及び当該装置の構成部品並びに試錐孔21及び孔口基部22の軸心方向とは上下方向(即ち鉛直方向)であるものとする。
【0015】
孔口基部22は、試錐孔21の孔口周囲の地盤20の地表面に対して凹みとして形成されたコンクリート製の凹型枠体22aと、軸心方向の貫通孔を有する筒状(本実施形態では円筒状)に形成されて試錐孔21と同心軸上に配置された外側ケーシングパイプ22b及び内側ケーシングパイプ22cと、当該内側ケーシングパイプ22cの上端に取り付けられたゲートバルブ22dとを有する。そして、孔口基部22は、外側ケーシングパイプ22b及び内側ケーシングパイプ22cが凹型枠体22aを貫通して試錐孔21に差し込まれ固定されて設置され、ゲートバルブ22dを閉じた状態において試錐孔21から湧き出る地下水が孔口から流出することを阻止する。また、ゲートバルブ22dの上端には外周水平方向に張り出して取付フランジ22eが形成される。
【0016】
そして、本実施形態の孔口昇降装置1は、試錐孔21の孔口に設置されて試験装置としての採水装置10が下端に取り付けられた装置支持部材としてのケーシングパイプ6を試錐孔21内を昇降させる孔口昇降装置であって、装置支持部材としてのケーシングパイプ6の周囲を取り囲むと共に周壁同士が水密性を備えながら軸心方向に摺動可能に組み合わされている筒状のスライドパイプ3及びスライダガイドパイプ5を有し、ケーシングパイプ6とスライドパイプ3との間の間隙に対して水密性を発揮する状態と発揮しない状態との制御が可能であるシール部材2aを備える上シール部2を有すると共にケーシングパイプ6とスライドガイドパイプ5との間の間隙に対して水密性を発揮する状態と発揮しない状態との制御が可能であるシール部材4aを備える下シール部4を有し、ケーシングパイプ6を昇降させる間はスライドパイプ3側の上シール部2のシール部材2aとスライダガイドパイプ5側の下シール部4のシール部材4aとの少なくとも一方が水密性を発揮して両シール部材2a,4aが同時に水密性を発揮しない状態にはならないように制御されるようにしている。
【0017】
孔口昇降装置1を構成する上シール部2とスライドパイプ3と下シール部4とスライダガイドパイプ5とは軸心方向の貫通孔をいずれも有する。そして、上シール部2とスライドパイプ3と下シール部4とスライダガイドパイプ5とが孔口昇降装置1として組み合わされた状態でこれらの貫通孔が全て連通して孔口昇降装置1としての軸心方向の貫通孔を形成する。そして、孔口昇降装置1としての軸心方向の貫通孔は孔口基部22の軸心方向の貫通孔を介して試錐孔21と連通する。
【0018】
また、本実施形態では、採水装置10が下端に取り付けられたケーシングパイプ6を孔口昇降装置1が昇降させる場合を例に挙げて説明する。また、本実施形態では、採水装置10による採水操作を行うために採水装置10と連結するロッド7がケーシングパイプ6の軸心方向の貫通孔を貫通して設けられる。なお、採水装置10の予定深度(即ち、採水区間の深度)に合わせて必要な本数のケーシングパイプ6,ロッド7がそれぞれ連結される。また、ケーシングパイプ6及びロッド7は軸心方向の貫通孔を有する筒状(本実施形態では円筒状)であると共に、ロッド7の外周面とケーシングパイプ6の内周面との間には間隙が設けられる。
【0019】
上シール部2並びに下シール部4としては、拡張と収縮との制御が可能な環状のシール部材2a,4aを有する噴出防止装置(BOP(:Blowout Preventer の略)とも呼ばれる)若しくは噴出防止装置と同様の機能を有するものが用いられる。
【0020】
上シール部2及び下シール部4にはそれぞれ制御装置(図示省略)が接続されており、当該制御装置によってシール部材2aとシール部材4aとの拡張・収縮の制御が相互に独立に行われる。具体的には、シール部材2a,4aに対し、ケーシングパイプ6(及びロッド7)を貫通させた状態で、拡張させることによってシール部2,4とケーシングパイプ6との間の水密性を確保して漏水を防止することと、収縮させることによってシール部2,4に対してケーシングパイプ6を自由に通過させることとの制御が相互に独立に行われる。
【0021】
上シール部2の下端面には軸心方向の貫通孔を有する筒状(本実施形態では円筒状)のスライドパイプ3が取り付けられる。上シール部2とスライドパイプ3とは、例えばOリングが両者の間に備え付けられることによって接合部分における水密性が確保され漏水が防止された状態で結合される。
【0022】
下シール部4は、下端面と孔口基部22の取付フランジ22eの上端面とが接合されることによって孔口基部22の上端に固定される。孔口基部22と下シール部4とは、例えばOリングが両者の間に備え付けられることによって接合部分における水密性が確保され漏水が防止された状態で結合される。
【0023】
また、下シール部4の上端面には軸心方向の貫通孔を有する筒状(本実施形態では円筒状)のスライダガイドパイプ5が取り付けられる。下シール部4とスライダガイドパイプ5とは、例えばOリングが両者の間に備え付けられることによって接合部分における水密性が確保され漏水が防止された状態で結合される。
【0024】
スライダガイドパイプ5はスライドパイプ3の軸心方向の貫通孔に摺動可能に挿入される。スライダガイドパイプ5とスライドパイプ3とは、例えばOリング若しくはアマゾンパッキンをスライドパイプ3の内周面の下端寄りの位置に取り付けてスライダガイドパイプ5の外周面との間に噛ませることによって摺動面における水密性が確保され漏水が防止された状態で組み合わされる。本実施形態では、スライドパイプ3の周壁の下端にアマゾンパッキンを備えた状態で下端側から締め込み用リングを嵌め付けることによってアマゾンパッキンをスライドパイプ3に取り付けるようにしている。
【0025】
以上により、孔口基部22に対して下シール部4及びスライダガイドパイプ5が固定され、これらに対して上シール部2及びスライドパイプ3が上下動可能に組み合わされる。
【0026】
そして、これら上シール部2及びスライドパイプ3,下シール部4及びスライダガイドパイプ5,並びに孔口基部22を上下方向に貫通する態様でケーシングパイプ6とその下端に取り付けられた採水装置10が試錐孔21内に挿入される。なお、ケーシングパイプ6と採水装置10とが試錐孔21内に挿入される際には孔口基部22のゲートバルブ22dが開けられる。また、ロッド7はケーシングパイプ6及び採水装置10を予定深度に設置した後にケーシングパイプ6内へ挿入して設置する。
【0027】
次に、本実施形態における採水装置10は、図2に示すように、ケーシングパイプ6の下端に取り付けられたプッシュロッドシリンダ13と、ロッド7の下端に取り付けられてプッシュロッドシリンダ13内部に配置されるロッド先端パイプ11及びその下端に取り付けられたプッシュロッド12と、プッシュロッドシリンダ13内部の下部に取り付けられたメインバルブ14及びスプリング15と、プッシュロッドシリンダ13の下端に取り付けられて流体通過孔13cと連通する誘導パイプ17と、当該誘導パイプ17の周面に取り付けられた上パッカー16Aと、当該上パッカー16Aの下方に配設された下パッカー16Bと、両パッカー16A,16Bの間に設けられて誘導パイプ17の下端と接合するストレーナ19とを有する。
【0028】
なお、ケーシングパイプ6の下端部とプッシュロッドシリンダ13の上端部,ロッド7の下端部とロッド先端パイプ11の上端部とは、それぞれ、例えばOリングが備え付けられることによって接合部分における水密性が確保され漏水が防止された状態で結合される。
【0029】
ロッド先端パイプ11は軸心方向の貫通孔を有する短身の筒状(本実施形態では円筒状)に形成されて上端部がロッド7の下端部に取り付けられる。
【0030】
プッシュロッド12は、径の大きさが軸心方向区間によって異なるものの軸心方向の貫通孔を有する筒状(本実施形態では円筒状)に形成される。そして、プッシュロッド12は、軸心方向中間部分の径が小さい中間部12cと、当該中間部12cよりも径が大きい上側部分のロッド受部12a及び下側部分のロッドヘッド部12bとからなる。また、ロッドヘッド部12bの下端面には下端開口部12dが形成されている。
【0031】
プッシュロッド12の上側部分であるロッド受部12aにはロッド先端パイプ11の下端部が嵌め合わされ得る(言い換えると、ロッド先端パイプ11の外周面とロッド受部12aの内周面とは摺動可能であって両者は着脱自在である)。そして、ロッド先端パイプ11とロッド受部12aとは、例えばOリングが備え付けられることによって嵌め合わされた部分における水密性が確保され漏水が防止された状態で嵌め合わされる。
【0032】
プッシュロッドシリンダ13は、径の大きさが軸心方向区間によって異なるものの軸心方向の貫通孔を有する筒状(本実施形態では円筒状)に形成され、ロッド先端パイプ11及びプッシュロッド12のロッド受部12aを収容する上部シリンダ中空部13aとプッシュロッド12のロッドヘッド部12bを収容する下部シリンダ中空部13bとを内部に有する。また、プッシュロッドシリンダ13の下端には下方に延出する管状の流体通過孔13cが形成される。
【0033】
そして、プッシュロッドシリンダ13の内周面のうち上部シリンダ中空部13aと下部シリンダ中空部13bとの境界部分にあたる帯状の部分13dが、プッシュロッド12の中間部12cの外周面と、例えばOリングが備え付けられることによって水密性が確保され漏水が防止された状態で摺動可能に接している。これにより、プッシュロッドシリンダ13に対してプッシュロッド12は軸心方向に摺動可能でありながら上部シリンダ中空部13aと下部シリンダ中空部13bとの間で流体の流出入はない。
【0034】
なお、上部シリンダ中空部13aの周面とロッド先端パイプ11及びプッシュロッド12のロッド受部12aの外周面との間には間隙が設けられる。そして、当該間隙はロッド7とケーシングパイプ6との間の間隙と連通する。
【0035】
メインバルブ14は、上側の径が大きく下側の径が小さい錐形に形成されて軸心方向に配置され、プッシュロッドシリンダ13の下端に形成された流体通過孔13cに取り付けられる。
【0036】
そして、プッシュロッド12のロッドヘッド部12bが下部シリンダ中空部13bの最上部に位置したときに、メインバルブ14の上端寄りの部分がプッシュロッド12の下端開口部12dに嵌め合わさる。このとき、両者の接合部分に例えばOリングが備え付けられることによって水密性が確保され、メインバルブ14の上端寄りの部分が下端開口部12dに嵌った状態では、下端開口部12dにおける流体の流出入はない。
【0037】
また、メインバルブ14には、プッシュロッドシリンダ13の流体通過孔13cに向けての下端面開口と下部シリンダ中空部13bに向けての側面開口とを有して流体通過孔13cと下部シリンダ中空部13bとを連通する流体流路14aが形成されている。
【0038】
スプリング15は、軸心位置にメインバルブ14を貫通させる態様で配置され(言い換えると、メインバルブ14の周囲に配置され)、プッシュロッド12とプッシュロッドシリンダ13との間に介されてプッシュロッドシリンダ13に対してプッシュロッド12を押し上げる弾性力を発揮する。
【0039】
プッシュロッドシリンダ13の下端には軸心方向の貫通孔を有する筒状(本実施形態では円筒状)の誘導パイプ17が取り付けられ、当該誘導パイプ17の下端部に軸心方向の貫通孔を有する筒状(本実施形態では円筒状)のストレーナ19が取り付けられる。また、ストレーナ19の下端には採水装置10のヘッドが取り付けられ、当該ヘッドの周囲に下パッカー16Bが取り付けられる。
【0040】
以上の構成により、下部シリンダ中空部13bと流体流路14aと流体通過孔13cと誘導パイプ17の貫通孔とストレーナ19の貫通孔とが連通することになり、ストレーナ19を通過させて取り込まれた試錐孔21内の流体が下部シリンダ中空部13bに誘導される。
【0041】
また、本実施形態の採水装置10には、プッシュロッドシリンダ13の上部シリンダ中空部13aと上パッカー16Aとの間に第一のパッカー用配管18Aが設けられると共に、上パッカー16Aと下パッカー16Bとの間に第二のパッカー用配管18Bが設けられる。
【0042】
さらに、採水装置10を予定深度に設置した状態において、ポートが設けられたケーシングパイプ6が最上端のケーシングパイプ6として継ぎ足され、ケーシングパイプ6とロッド7との上端が水密性が確保された状態で塞がれる。
【0043】
これにより、地上に設置された例えばコンプレッサを作動させ、ケーシングパイプ6のポートを通してロッド7の外周面とケーシングパイプ6の内周面との間の間隙〜ロッド先端パイプ11及びプッシュロッド12のロッド受部12aの外周面とプッシュロッドシリンダ13の上部シリンダ中空部13aの周面との間の間隙〜第一のパッカー用配管18Aを経由させて上パッカー16A内に流体を送り込むことができると共に、第二のパッカー用配管18Bを更に経由させて下パッカー16B内にも流体を送り込むことができる。すなわち、地上からの操作によって上パッカー16A及び下パッカー16Bを拡張させて試錐孔21内の任意の深度に両パッカー16A,16Bによって閉鎖された採水区間が設定される。
【0044】
上述の構成を有する孔口昇降装置1によるケーシングパイプ6の昇降の動作を図3及び図4を用いて以下に説明する。なお、図3及び図4において、孔口昇降装置1並びにケーシングパイプ6は、それぞれの動作の障害にならないように適切な態様で架台やクレーンなど(図示していない)によって支えられている。
【0045】
また、以下の説明においては、シール部2,4のシール部材2a,4aが拡張してケーシングパイプ6との間で水密性が確保され漏水が防止されている状態のことをシール部がON状態であると呼び、シール部材2a,4aが収縮してケーシングパイプ6がシール部2,4の区間を自由に通過することができる状態のことをシール部がOFF状態であると呼ぶ。
【0046】
まず、ケーシングパイプ6を試錐孔21内に降下させる場合の孔口昇降装置1の動作について説明する。
【0047】
ここでの説明は、ゲートバルブ22dが開かれて孔口基部22に採水装置10が挿入されていると共に、上シール部2及び下シール部4が共にON状態であって採水装置10が下端に取り付けられたケーシングパイプ6を保持している状態からはじめる(図3(A))。なお、この状態では、下シール部4がON状態であって水密性が確保されているので、試錐孔21から湧き出る地下水が地上に流出することはない。
【0048】
降下動作としては、ケーシングパイプ6の上端部に別のケーシングパイプ6を継ぎ足す(同(B))。なお、ケーシングパイプ6同士は、例えばOリングが両者の間に備え付けられることによって接合部分における水密性が確保され漏水が防止された状態で結合される。
【0049】
次に、上シール部2が、OFF状態にされると共に引き上げられ(同(C))、引き上げられた位置においてON状態にされる(同(D))。なお、上シール部2が引き上げられる際には上シール部2の下端に取り付けられたスライドパイプ3も一緒に引き上げられ、このとき、スライドパイプ3とスライダガイドパイプ5との摺動面における水密性が確保された状態でスライドパイプ3がスライダガイドパイプ5に対して摺動する。
【0050】
次に、下シール部4がOFF状態にされる(図4(A))。このとき、下シール部4のシール部材4aによってこれまで止水されていた地下水(即ち、試錐孔21における湧水)が下シール部4を通過して上シール部2の位置までケーシングパイプ6とスライドパイプ3・スライダガイドパイプ5との間の間隙に進入する。しかしながら、この状態においては上シール部2がON状態であって水密性が確保されているので、試錐孔21から湧き出る地下水が地上に流出することはない。
【0051】
次に、上シール部2が押し下げられる(同(B))。なお、上シール部2が押し下げられる際にはスライドパイプ3も一緒に押し下げられ、このとき、両者の摺動面における水密性が確保された状態でスライドパイプ3がスライダガイドパイプ5に対して摺動する。また、このとき、上シール部2はON状態であるので、上シール部2に保持されているケーシングパイプ6も一緒に押し下げられ、上シール部2とケーシングパイプ6との間で水密性が確保されているので上シール部2の位置までケーシングパイプ6とスライドパイプ3・スライダガイドパイプ5との間に進入した地下水は漏水することなく試錐孔21内に押し戻される。
【0052】
次に、上シール部2がON状態にされる(同(C))。この状態は図3(A)の状態と同じであり、以降は、最下端のケーシングパイプ6に取り付けられた採水装置10が予定深度に達するまでケーシングパイプ6を継ぎ足しながら図3及び図4の手順を繰り返す。
【0053】
また、ケーシングパイプ6を試錐孔21内から上昇させる(言い換えると、引き上げる)場合は、図4(C)の状態から同(B)→(A)→ 図3(D)→(C)→(B)→(A)(これで、図4(C)の状態に戻る)の動作を繰り返す。
【0054】
ここで、ケーシングパイプ6を引き上げる場合には、図4(A)の状態では上シール部2の位置までケーシングパイプ6とスライドパイプ3・スライダガイドパイプ5との間に地下水が進入しているので、地下水が進入している状態のまま図3(C)→(B)の動作に進むと地下水が流出してしまうことになる。そこで、上シール部2若しくはスライドパイプ3の上端寄りの位置にポートを設け、当該ポートを介して図4(A)の状態の時に地上に設置された例えばコンプレッサを作動させて空気を注入することによってケーシングパイプ6とスライドパイプ3・スライダガイドパイプ5との間の地下水を試錐孔21内に押し戻してから以降の動作に進むようにすることが望ましい。
【0055】
続いて、上述の構成を有する採水装置10による試錐孔21内の地下水の採取の動作を図5を用いて以下に説明する。
【0056】
試錐孔21内の予定深度までケーシングパイプ6の下端に取り付けられた採水装置10を降下させた後に、下端に先端パイプ11を取り付けたロッド7の上端に別のロッド7を継ぎ足しながらケーシングパイプ6内に挿入し、図5(A)に示すように、プッシュロッド12のロッド受部12aの上方位置まで先端パイプ11を進入させる。なお、図5(A)には図示していないが、試錐孔21内を移動させる際には両パッカー16A,16Bには圧力をかけずに収縮させておく。
【0057】
このとき、プッシュロッド12のロッドヘッド部12bはスプリング15の弾性力によって下部シリンダ中空部13bの最上部まで押し上げられていると共に、メインバルブ14の上端寄りの部分とプッシュロッド12の下端開口部12dとが嵌め合わされている。そして、この状態では、ストレーナ19から取り込まれた試錐孔21内の地下水は、下部シリンダ中空部13bまでは進入することができるものの、下端開口部12dがメインバルブ14の上端寄りの部分によって塞がれているのでプッシュロッド12内に進入することはできない。
【0058】
そして、地上からロッド7が更に押し下げられ、図5(B)に示すように、ロッド先端パイプ11の下端部分がプッシュロッド12のロッド受部12aに嵌められる。この状態で、地上に設置された例えばコンプレッサを作動させてケーシングパイプ6とロッド7との間の間隙に圧力がかけられ、第一のパッカー用配管18A及び第二のパッカー用配管18Bも介して圧力がかけられて上パッカー16A及び下パッカー16Bが拡張させられる。これにより、試錐孔21内の予定深度に両パッカー16A,16Bによって閉鎖された採水区間が設定される。
【0059】
なお、両パッカー16A,16Bを拡張させる際には、圧力をかける前に、両パッカー16A,16Bを拡張させるために圧力をかける空間(具体的には例えば両パッカー16A,16Bの内部やロッド7の外周面とケーシングパイプ6の内周面との間の間隙など)を水で満たしておくようにしても良い。ロッド7とケーシングパイプ6との間の間隙を圧力をかける前に水で満たしておくようにすることにより、パッカー拡張圧力のうち水頭分を差し引くことができるので必要とされる圧力を小さくすることができる。
【0060】
次に、地上からロッド7が更に押し下げられるとプッシュロッド12が押し下げられて下端開口部12dがメインバルブ14の上端寄りの部分から下方にずれる(同(C))。そして、メインバルブ14は下側の方が径が小さい錐形であるので、メインバルブ14が下端開口部12dを塞ぐことができなくなり、下端開口部12dとメインバルブ14との間に生じた隙間を通過して試錐孔21内の地下水がプッシュロッド12内に進入する。
【0061】
プッシュロッド12内に進入した地下水は、ロッド7の貫通孔内に流れ込み、地上まで連結された複数のロッド7の貫通孔を経由して地上で回収される。
【0062】
そして、必要な量の地下水が採水された時点でロッド7が押し上げられると、プッシュロッド12のロッドヘッド部12bがスプリング15の弾性力によって下部シリンダ中空部13bの最上部まで押し上げられる(同(B))。このとき、下端開口部12dがメインバルブ14の上端寄りの部分に位置するようになって下端開口部12dが塞がれる。これによって、試錐孔21内の地下水はプッシュロッド12内に進入することができなくなる。
【0063】
上述のように、本実施形態の採水装置10によれば、採水するための導水パイプとメインバルブを作動させるためのトリガーとの役割をケーシングパイプ6内のロッド7に持たせると共に、採水区間を設定する上下パッカーを作動させるためのチャンバー(配管)の役割をケーシングパイプ6とロッド7との間の間隙に持たせるようにしているので、通常はケーシングの外側に這わせるパッカー拡張用及びバルブ制御用の圧力チューブや通信ケーブルを用いないようにすることができ、これによって試錐孔内の地下水の流出を防ぐための上下シール部2,4を備える構造が可能になっている。
【0064】
以上のように構成された本発明の孔口昇降装置によれば、装置支持部材としてのケーシングパイプ6を昇降させる間はスライドパイプ3側のシール部材2aとスライダガイドパイプ5側のシール部材4aとの両方が同時に水密性を発揮しない状態にはならないようにしているので、装置支持部材を試錐孔21内を昇降させながらも装置支持部材の周囲の間隙を封止して水密性を確保することができ、試錐孔21内の地下水の孔外への流出を防止することができる。
【0065】
なお、上述の形態は本発明の好適な形態の一例ではあるがこれに限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲において種々変形実施可能である。例えば、本実施形態では、ケーシングパイプ6の下端に採水装置10が取り付けられて当該採水装置10を試錐孔21内の予定深度まで降下させる装置として用いられる場合を例に挙げて説明したが、ケーシングパイプ6は本発明の孔口昇降装置が昇降させる対象物の一例であり、また、採水装置10は本発明の孔口昇降装置が昇降させる対象物の下端に取り付けられる物の一例に過ぎない。すなわち、本発明の孔口昇降装置が昇降させる物は本実施形態のケーシングパイプ6には限られないし、また、昇降させる対象物の下端に取り付けられる物は本実施形態の採水装置10には限られない。
【符号の説明】
【0066】
1 孔口昇降装置
2 上シール部
3 スライドパイプ
4 下シール部
5 スライダガイドパイプ
6 ケーシングパイプ
7 ロッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試錐孔の孔口に設置されて試験装置が下端に取り付けられた装置支持部材を前記試錐孔内を昇降させる孔口昇降装置であって、前記装置支持部材の周囲を取り囲むと共に周壁同士が水密性を備えながら軸心方向に摺動可能に組み合わされている筒状のスライド部材及びスライダガイド部材を有し、前記装置支持部材と前記スライド部材との間の間隙に対して水密性を発揮する状態と発揮しない状態との制御が可能であるシール部材を備えるシール部を前記スライド部材が有すると共に前記装置支持部材と前記スライドガイド部材との間の間隙に対して水密性を発揮する状態と発揮しない状態との制御が可能であるシール部材を備えるシール部を前記スライドガイド部材が有し、前記装置支持部材を昇降させる間は前記スライド部材のシール部材と前記スライダガイド部材のシール部材との少なくとも一方が水密性を発揮して両シール部材が同時に水密性を発揮しない状態にはならないように制御されることを特徴とする孔口昇降装置。
【請求項2】
前記装置支持部材がケーシングパイプであると共に該ケーシングパイプを軸心方向に貫通するロッドを備え、前記ケーシングパイプと前記ロッドとの間の間隙を、前記試錘孔内において採水区間を設定するために前記試験装置が備えるパッカーを拡張させるための配管として使うことを特徴とする請求項1記載の孔口昇降装置。
【請求項3】
前記装置支持部材がケーシングパイプであると共に該ケーシングパイプを軸心方向に貫通するロッドを備え、当該ロッドを、前記試験装置を作動させるためのトリガーとして使うことを特徴とする請求項1記載の孔口昇降装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−26880(P2011−26880A)
【公開日】平成23年2月10日(2011.2.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−175043(P2009−175043)
【出願日】平成21年7月28日(2009.7.28)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成20年度、経済産業省、地層処分技術調査等委託費(地層処分共通技術調査:岩盤中地下水移行評価技術高度化開発)委託事業、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願
【出願人】(000173809)財団法人電力中央研究所 (1,040)