説明

安全な突然変異ウイルスワクチン

本発明は、安全なワクチン、および、このようなワクチンを製造する方法を提供する。本発明のワクチンは、同じ科の少なくとも2種の生きた突然変異ウイルス、または、このようなウイルスをコードする核酸分子を含み、ここにおいて、これら2つのウイルスのそれぞれ、または、それらをコードする核酸は、望ましい表現型を付与する突然変異を含み、ウイルス中の突然変異は、突然変異ウイルスが互いに組換えを起こして突然変異が除去されないようにゲノムの同じ部位に存在する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、一般的に、動物への投与に適したウイルス感染に対するワクチンに関する。より具体的には、本発明は、安全なワクチン、および、このようなワクチンを製造する方法に関する。本発明のワクチンは、同じ科の少なくとも2種の生きた突然変異ウイルス、または、このようなウイルスをコードする核酸分子を含み、ここにおいて、上記各ウイルスまたはそれらをコードする核酸は、望ましい表現型を付与する突然変異を含み、ウイルス中の突然変異は、突然変異ウイルスが互いに組換えを起こして突然変異が除去されないようにゲノムの同じ部位に存在する。
【背景技術】
【0002】
ウイルスの科であるフラビウイルス科は、ペスチウイルス属、フラビウイルス属およびヘパシウイルス属からなる。ペスチウイルス属の代表としては、ウシウイルス性下痢ウイルス1(BVDV−1)、BVDV−2、豚コレラウイルス、および、ボーダー病ウイルスのような種がある。この科の仲間のビリオンは、約9.5〜12.3kbのプラス鎖RNAゲノムをカプセル化する。このゲノムのRNAは、連続した長いオープンリーディングフレーム(ORF)を含み、ORFは、ポリタンパク質に翻訳され、それらは細胞性およびウイルス性のプロテアーゼでプロセシングされ、成熟したウイルスタンパク質が生成する。ペスチウイルスの仲間に関しては、ORFは、約3900個のアミノ酸からなるポリタンパク質をコードし、これらは共翻訳と翻訳後修飾によって以下の成熟ウイルスタンパク質にプロセシングされる(5’から3’へ):Npro、C、Ems、E1、E2、NS2−3、NS4A、NS4B、NS5A、および、NS5B。
【0003】
ペスチウイルスの仲間のいくつかにおいて、それらの組織培養細胞への作用、すなわち細胞病原性(細胞変性、または、cp)、および、非細胞病原性(非細胞変性、または、ncp)に基づいた2種のバイオタイプが発見されている。ゲノム解析により、細胞の配列が挿入されていることが明らかになっており、場合によっては、cpペスチウイルスのゲノム中(但し、対応するncpペスチウイルスのRNA中ではない)、ウイルスの配列の複製、ゲノムの再配列、および/または、のウイルスの配列の欠失を伴う。これは、cpペスチウイルスは、RNA組換えによってncpペスチウイルスから発生することを示す。
【0004】
BVDVは、広く分布するウシの病原体である。免疫が正常な動物では、BVDV−1は通常、軽度の下痢しか引き起こさないが、BVDV−2は、血小板減少症、出血、および、急性の致死性の病気を引き起こす可能性がある。BVDVは、妊娠したウシの胎盤を越えることができ、その結果、持続感染を受けた(PI)子牛が誕生する可能性がある(Malmquist,J.Am.Vet.Med.Assoc.152:763〜768(1968年);Ross等,J.Am.Vet.Med.Assoc.188:618〜619(1986年))。ウイルス血症の子牛は、上記ウイルスに対して免疫寛容であり、その残りの生命において永久的にウイルス血症である。それらは、粘膜の病気の大発生源を提供し(Liess等,Dtsch.Tieraerztl.Wschr.81:481〜487(1974年))、肺炎または腸疾患のような病気を引き起こす微生物に、非常に感染を起こしやすい(Barber等,Vet.Rec.117:459〜464(1985年))。いずれの遺伝子型のウイルスも、2つのバイオタイプ(cpまたはncp)のどちらでも存在する可能性がある。cpまたはncpBVDVのいずれかで感染させた細胞は両方とも、NS2−3を発現するが、それに対して、NS3は、cpBVDVで感染させた後にしか検出されないことから、cp表現型は、NS3の発現に関係している。NS3は、NS2−3のC末端部分と共直線性を有する。NS3の発現は、cpBVDVに関して観察されるゲノムの改変の結果のようである。
【0005】
現在利用可能なウイルスワクチンとしては、死菌または弱毒生ウイルスワクチン、生きたベクターを用いた(live−vectored)ワクチン、サブユニットワクチン、および、DNAまたはRNAワクチンが挙げられる。Roth等,“New Technology For Improved Vaccine Safety And Efficacy”,Veterinary Clinics North America:Food Animal Practice 17(3):585〜597(2001年)を参照。ウイルスの弱毒化は、UV放射線照射、化学処理、または、インビトロでの高次の連続継代によって達成できる。これらの方法により誘導された突然変異の数、位置および性質は、ゲノム配列の解析を行わない限りわからない。弱毒化はまた、所定の遺伝学的な改変、例えば、毒性を付与することがわかっているウイルスの配列の特異的な欠失、または、ウイルスのゲノムへの配列の挿入を行うことによって達成することもできる。弱毒化生ウイルスワクチンの使用に関する問題点の一つは、弱毒化突然変異ウイルスは、インビボで組換えを起こす可能性があり、それにより、弱毒化する突然変異が除去され、毒性が回復することである。例えば、毒性の(野生型)野生株の存在下で、ウイルスのゲノムに欠失を有する弱毒化ウイルスは、毒性の株と組換えを起こす可能性があり、それにより、欠失した配列を回復させる。例えば、上記のRoth等を参照。また、細胞由来の挿入物を含む細胞変性ペスチウイルスは、細胞培養において、細胞の配列の欠失によって、場合によってはRNA組換えによって非細胞変性ウイルスを発生させることも観察されている。例えば、Baroth等,“Insertion of cellular NEDD8 coding sequences in a pestivirus”,Virology.278(2):456〜66,(2000年)、および、Becher等,“RNA recombination between persisting pestivirus and a vaccine strain:generation of cytopathogenic virus and induction of lethal disease”,Journal of Virology 75(14):6256〜64(2001年)を参照。ワクチン組成物に、同じ種、属または科由来の2種の弱毒化突然変異ウイルスが含まれることが望ましい場合、ワクチン接種した動物において、2種のウイルスが組換えを起こし、それによって、弱毒化する突然変異が除去される可能性があるという問題がある。例えば、Glazenburg等,“Genetic recombination of pseudorabies virus:evidence that homologous recombination between insert sequences is less frequent than between autologous sequences” Archives of Virology,140(4):671〜85(1995年)を参照。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ウイルス感染から動物を防御する安全で効果的なワクチンを開発する必要がある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、同じ科の少なくとも2種の生きた突然変異ウイルス、または、このようなウイルスをコードする核酸分子を含む安全なワクチンを提供し、ここにおいて、各ウイルスまたはそれらをコードする核酸は、望ましい表現型を付与する突然変異を含み、ウイルス中の突然変異は、突然変異ウイルスが互いに組換えを起こして突然変異が除去されないようにゲノムの同じ部位に存在する。
【0008】
本発明はまた、2種またはそれ以上の同じ科、属または種の生きた突然変異ウイルスを選択または構築することによって安全なウイルスワクチンを製造する方法を提供し、ここにおいて、各ウイルスは、望ましい表現型を付与する突然変異を含み、ウイルス中の突然変異は、突然変異ウイルスが相同組換えを起こして突然変異が除去されないようにゲノムの同じ部位に存在する。
【0009】
本発明はさらに、本発明のワクチン組成物を動物に投与することによって、動物をウイルス感染から防御する方法を提供する。
【0010】
図1は、細胞由来の挿入物と、両端にあるBVDV−1のNADL株およびBVDV−2の53637株のNS2−3領域のウイルスの配列のアライメントである。
【0011】
本発明によれば、同じ科の生きた突然変異ウイルスは、ウイルスのゲノムの同じ部位に突然変異を含み、これらは、互いに組換えを起こして突然変異を除去することはできない、と一意的に認識されている。
【0012】
従って、一実施形態において、本発明は、少なくとも2種、すなわち2種またはそれ以上の、同じ科の生きた突然変異ウイルス、または、このようなウイルスをコードする核酸分子を含む安全なワクチン組成物を提供し、ここにおいて、ウイルス中の突然変異は、突然変異ウイルスが互いに組換えを起こして突然変異が除去されないようにゲノムの同じ部位に存在する。
【0013】
その他の実施形態において、本発明は、上述の安全なウイルスワクチンを製造する方法を提供する。特に、安全なワクチンは、2種またはそれ以上の同じ科、属または種の生きた突然変異ウイルスを選択または構築することによって製造され、ここにおいて、各ウイルスは、望ましい表現型(例えば、毒性の弱毒化、細胞の親和性またはバイオタイプの変更、種の親和性の変更、または、外来遺伝子カセットの発現)を付与する突然変異を含み、ウイルス中の突然変異は、突然変異ウイルスが互いに相同組換えを起こして突然変異が除去されないようにゲノムの同じ部位に存在する。
【0014】
用語「ワクチン」または「ワクチン組成物」は、動物に接種させた際に、ウイルスの病原性の型に対する完全な、または部分的な免疫性を誘導する、または、ウイルスの病原性の型によって引き起こされる病気の症状を緩和する生きた突然変異ウイルスを含む組成物を意味する。ウイルスに対するワクチン組成物の防御作用は通常、被検体において、免疫反応、すなわち細胞媒介性または体液性免疫反応のいずれか、または、それら両方の組み合わせを誘導することによって達成される。一般的に言えば、ウイルス感染発生率の根絶または減少、症状の回復、または、感染した被検体からのウイルス除去の促進は、ワクチン組成物の防御作用の指標である。
【0015】
「動物」は、鳥類、例えば、ニワトリ、シチメンチョウ、家畜の水鳥、ならびに、あらゆる哺乳動物、例えば、ウシ、ヒツジ、ブタ、ヤギ、イヌ、ネコおよびウマを意味する。
【0016】
本発明で用いられる用語「ウイルス」、「ウイルス分離株」または「ウイルス株」は、ウイルスのゲノムDNAまたはRNA、付随するタンパク質、およびその他の化学成分(例えば脂質)を含む、ウイルス粒子またはビリオンを意味する。
【0017】
「ウイルスをコードする核酸分子」または「ウイルスの核酸分子」は、RNAまたはDNAいずれかの形態の、ウイルスのゲノムの核酸分子を意味する。
【0018】
「突然変異」は、1個またはそれ以上のヌクレオチドの欠失、挿入もしくは置換、または、それらの組み合わせを意味する。本発明によれば、このような突然変異は、好ましくは、望ましい表現型(例えば毒性の弱毒化、細胞の親和性またはバイオタイプの変更、種の親和性の変更、または、外来遺伝子カセットの発現)を付与する。特に好ましい突然変異は、弱毒化された毒性を付与する突然変異である。
【0019】
「弱毒化」は、上記ウイルスで感染させた動物において、ウイルスが、増殖する、および/または、病気を引き起こす能力を、部分的または完全に失っていることを意味する。例えば、弱毒化ウイルスとは、弱毒化ウイルスの野生型の病原性の型は複製できる動物に存在する場合、まったく複製が不可能であるか、または、1回または2〜3回の複製に限定されるか、または、細胞または組織親和性が制限されるウイルスであり得る。
【0020】
弱毒化ウイルスは、ウイルスの病原性に関与する遺伝子に1またはそれ以上の突然変異を含んでいてもよい。このような突然変異はまた、「弱毒突然変異」ともいう。弱毒化ウイルスは、UV放射線照射、化学処理、または、野生型の病原性ウイルスのインビトロでの高次の連続継代によって野生型の病原性ウイルスから生産することができる。あるいは、弱毒化ウイルスは、特定の毒性を付与することがわかっているウイルスの配列の欠失、ウイルスのゲノムへの配列の挿入を作製することによって、または、ウイルスのゲノムに1またはそれ以上の点突然変異を作製することによって野生型の病原性ウイルスから生産することができる。弱毒化ウイルスは、動物から得られたウイルス分離株であってもよく、このような分離株は、人工的な手段以外の事象、例えば、宿主動物で発生した事象(例えば組換え)によってウイルスの野生型の病原性の型から誘導される。
【0021】
本発明のワクチン組成物に含まれる2またはそれ以上の生きた突然変異ウイルスは、同じゲノム部位に存在する突然変異を含む。「同じゲノム部位」は、ウイルスのゲノムのヌクレオチド配列を並べると、ウイルスのゲノム中の突然変異が、ウイルスのゲノム間で相同組換えを起こして突然変異が除去される機会がなくなるように互いにオーバーラップしていることを意味する。言い換えれば、ウイルスのゲノムのヌクレオチド配列を並べると、並べられた配列において、連続した部分が少なくとも1つ存在する(ここにおいて、並べられたウイルスのゲノムの配列は、突然変異配列である)。当業者であれば使用可能な、核酸配列を比較し並べるためのコンピュータープログラムが多数ある。配列は、最適に比較するために並べられる(例えば、第二の核酸配列との最適なアライメントのために、核酸配列にギャップを導入してもよい)。例えば、Altschul等,1990年,J.Mol.Biol.215:403〜410で説明されているようなNBLASTおよび XBLASTプログラム、Altschul等,1997年,Nucleic Acids Res.25:3389〜3402で説明されているようなギャップ有りBLASTプログラム、および、上記のAltschul等,1997年で説明されているようなPSI−Blastプログラムがある。BLAST、ギャップ有りBLAST、および、PSI−Blastプログラムを利用する場合、それぞれのプログラムのデフォルトパラメーター(例えば、XBLASTおよびNBLAST)を用いることができる(http://www.ncbi.nlm.nih.govを参照)。
【0022】
一般的に言えば、本発明の概念、すなわち、同じゲノム部位に突然変異を有する同じ科の生きた突然変異ウイルスの2種またはそれ以上が同じワクチン組成物中に含まれることは、ウイルスのゲノムが相同組換えを起こすのに十分な配列同一性を有するあらゆる科由来の突然変異ウイルスに当てはまる。ヌクレオチド同一性がわずか15個のヌクレオチドでも、効率的な相同組換えを引き起こし得ることが示されている(NagyおよびBujarski,J.Virol.69:131〜140,1995年)。
【0023】
本発明は、特にフラビウイルス科のウイルスに適用される。フラビウイルス科は、ペスチウイルス属、フラビウイルス属およびヘパシウイルス属で構成される。フラビウイルス科の仲間のビリオンは、約9.5〜12.3kbのプラス鎖RNAゲノムをカプセル化する。連続した長いオープンリーディングフレームを含むゲノムのRNAは、ポリタンパク質に翻訳され、それらは細胞性およびウイルス性のプロテアーゼでプロセシングされ、成熟ウイルスタンパク質が生成する。
【0024】
好ましくは、本発明のワクチン組成物の突然変異ウイルスは、同じ属の、同一の種または異なる種のいずれかに属するものである。
【0025】
好ましい実施形態において、本発明のワクチン組成物は、ペスチウイルス属由来の生きた突然変異ウイルスの2種またはそれ以上を含む。ペスチウイルス属の代表としては、ウシウイルス性下痢ウイルス1型(BVDV−1)、ウシウイルス性下痢ウイルス2型(BVDV−2)、豚コレラウイルス、および、ボーダー病ウィルスのような種がある。約3900個のアミノ酸からなるポリタンパク質をコードするORFは、共翻訳および翻訳後修飾によってプロセシングされ、以下の成熟ウイルスタンパク質(5’から3’):Npro、C、Ems、E1、E2、NS2−3、NS4A、NS4B、NS5A、および、NS5Bになる。
【0026】
通常は、BVDVは、RNAの形態のゲノムを有する。RNAは、クローニングに使用するために、DNAに逆転写することができる。従って、本発明において核酸およびBVDウイルスの配列と言う場合は、ウイルスRNA配列と、ウイルスRNA配列から誘導されたDNA配列の両方を包含する。便宜上、後述の配列表に示されたBVDVのゲノム配列は、DNA配列のみを示す。それぞれに対応するRNA配列は、当業者であれば容易に推定可能である。
【0027】
より好ましい実施形態において、本発明のワクチン組成物は、細胞変性のBVDV−1、および、細胞変性のBVDV−2を含み、ここにおいて、両方のウイルスの細胞変性のバイオタイプに関連する突然変異は、2種の突然変異ウイルスが、組換えを起こして突然変異が除去されないように、ゲノムの同じ部位に存在する。
【0028】
BVDV−1とBVDV−2は、BVDVの極めて関連の高い2つの遺伝子型の代表である。この2種のウイルスのヌクレオチド配列は、ゲノム全体では約70%の同一性を有し、NS2−3領域内では、それよりわずかに高いパーセントの同一性を有する。少なくともNS2−3領域内での、BVDV−1のウイルスのゲノムとBVDV−2のウイルスのゲノムとの同一性(%)は、相同組換えを起こすのに十分であると考えられる。
【0029】
BVDV−1は通常、動物において軽度の下痢しか引き起こさないが、それに対してBVDV−2は、血小板減少症、出血および急性の致死性の病気を発生させ得る高い毒性を有するウイルスである(Corapi等,J.Virol.63:3934〜3943;Bolin等,Am.J.Vet.Res.53:2157〜2163;Pellerin等,Virology 203:260〜268,1994年;Ridpath等,Virology 205:66〜74,1994年;Carman等,J.Vet.Diagn.Invest.10:27〜35,1998年)。このようなウイルスの2つのタイプは、別個の抗原性を有し、これは、MAbパネルによって、および、動物中で生じたウイルス特異的抗血清を用いて交叉的に中和することによって決定される(Corapi等,Am.J.Vet.Res.51:1388〜1394,1990年)。いずれかの遺伝子型のウイルスは、2種のバイオタイプ、すなわち細胞病原性の(細胞変性の、または、cp)または非細胞病原性の(非細胞変性の、または、ncp)のいずれか一方として存在する可能性がある。cpウイルスは、培養細胞で細胞変性効果(例えば細胞の溶解)を誘導するが、非細胞変性ウイルスはそれらを誘導しない。
【0030】
望ましくは、BVDV−1およびBVDV−2の両方に対する防御を提供するワクチンを製造することである。しかしながら、これら2種のウイルス間で高度の配列同一性を有するために、ワクチン接種した動物内で、同じワクチン組成物に含まれる細胞変性の生きたBVDV−1と、細胞変性の生きたBVDV−2が、互いに組換えを起こし、非細胞変性ウイルスを生産する可能性がある。BVDV−1とBVDV−2との間の組換えは、証明されている。例えば、Ridpath等,Virology 212:259〜262(1995年)を参照。妊娠したウシの胎児に、免疫能力が発達する前にncpウイルスで感染させることにより、妊娠期間にわたりウイルス血症状態の胎児が生じる可能性があり、それに続き、持続的にウイルス血症の子ウシが誕生する可能性がある。このような子ウシは、cpBVDVに重複感染すると粘膜の病気で死亡する可能性がある。従って、BVDV−1およびBVDV−2の両方に対して動物を防御するためには、本発明によって提供される、同じゲノム部位に突然変異を有する生きたcpBVDV−1と生きたcpBVDV−2を含むワクチン組成物が、特に望ましい。
【0031】
一実施形態において、本発明のワクチン組成物には、動物から得られたBVDVcp分離株を用いることができる。BVDV−1およびBVDV−2の両方のcp分離株が報告されており、当業者にとって、例えば、BVDV−1のNADL株(ATCC#VR1422またはVR−534)、BVDV−2の53637株(ATCCでPTA−4859として寄託されている)、および、RidpathおよびNeill,J.Virol 74:8771〜8774,(2000年)で説明されたような、タイプ2の野生型分離株が利用可能である。一般的に、これまで報告されているcp分離株は、異種配列の挿入を含み、このような異種配列としては、なかでも、例えばユビキチンコード配列(Genbank登録番号M96687、または、De Moerlooze等,J.Gen.Virol.74:1433〜1438,(1993年))、ウシNEDD8のコード配列(上記のBaroth等)、または、Bos taurusのDnaJ1のコード配列(後述の実施例で説明されている)が挙げられる。
【0032】
その他の実施形態において、cpBVDVは、BVDVゲノムで定義された改変を作製すること、例えば、特定のウイルスの配列を欠失させること、特定のウイルスのゲノム部位に配列を挿入すること、または、1またはそれ以上の置換を作製すること、またはそれらの組み合わせによって、生産される。
【0033】
cpBVDVが、異種(すなわち、ウイルスにとって外来)配列を、特定のゲノム部位に挿入することによって生産される場合、挿入される配列の性質は、一般的に、本発明にとって重要ではない。加えて、このような挿入は、挿入により弱毒化した表現型が生じるのであれば特定の部位に限定されない。cp分離株における異種配列はNS2−3領域に見出されることが多いことから、好ましい挿入位置は、NS2−3領域、特に、例えばBVDV−1のNADL株のアミノ酸残基#1679〜#1680に相当する推定上のNS2−3切断部位の周囲の部分(番号付けは、公開されたゲノム配列のGenbank登録番号M31182、配列番号4に基づく)である。
【0034】
cpBVDV−1は、これらのウイルスが同じゲノム部位にcpバイオタイプに関連する突然変異を有するように、動物から得られたcpBVDV−2分離株で同定された突然変異を模擬するように定義されたゲノムの改変を作製することによって生産できる。同様に、cpBVDV−2は、動物から得られたcpBVDV−1分離株で同定された突然変異を模擬するように定義されたゲノムの改変を作製する方法によって生産できる。
【0035】
好ましい実施形態において、本発明のワクチン組成物は、NADL(cpBVDV−1分離株)、および、BVDV−2の53637株(cpBVDV−2分離株)を含み、ここにおいて、これら2つのcp分離株はそれぞれ、ゲノムの同じ部位に、細胞変性性のバイオタイプを生じさせる突然変異を含む。BVDV−1のNADL株のゲノム配列は、配列番号4に記載されており、BVDV−2の53637株は、ATCCにPTA−4859として寄託されている。これらの分離株はいずれも、NS2−3領域に挿入物を含む。弱毒化したcpBVDV−1は、アミノ酸1536位のグリシン残基をコードするコドンの三番目のヌクレオチドであるヌクレオチド位置#4993(NADL配列の番号付け)におけるチミジンの3’に、Bos taurusのDnaJ1のコード配列の挿入を含む。弱毒化したcpBVDV−2は、同じゲノム部位にBos taurusのDnaJ1のコード配列の挿入物を含む。
【0036】
本発明によれば、本発明のワクチン組成物で用いられるcpBVDV分離株は、弱毒化されているため、非病原性である。弱毒化の方法は当業者既知であるが、以下でも説明する。
【0037】
その他の実施形態において、本発明のワクチン組成物は、弱毒化したBVDV−1と弱毒化したBVDV−2を含み、ここにおいて、両方のウイルスにおける弱毒化させる突然変異は、2種の突然変異ウイルスが、組換えを起こして弱毒化させる突然変異が除去されないように、ゲノムの同じ部位に存在する。
【0038】
弱毒化したBVDVは、UV放射線照射、化学処理、または、インビトロでのウイルスの病原性の型の高次の連続継代によって生産される。これらの方法で生産された突然変異の性質とゲノムの位置を決定するために、配列解析を行ってもよい。このような突然変異は、1またはそれ以上のヌクレオチドの欠失、挿入もしくは置換の形態、または、それらの組み合わせであり得る。あるいは、弱毒化したBVDVはBVDVゲノムに定義された改変を作製することによって、例えば、特定のウイルスの配列を欠失させること、特定のウイルスのゲノム部位に配列を挿入すること、もしくは、1またはそれ以上の置換を作製すること、またはそれらの組み合わせによって、生産される。
【0039】
上述したように、本発明のワクチン組成物に使用するための生きた突然変異ウイルスは、同じ科、属または種に属するものが可能であり、ここにおいて、ウイルスのゲノムは、相同組換えを起こすのに十分な配列同一性を有する。本発明のワクチン組成物に使用するのに適したウイルスの組み合わせのさらなる例としては、これらに限定されないが、異なるタイプのポリオウイルスの組み合わせ、感染性気管支炎ウイルスの複数の生きた突然変異体株の組み合わせ、ニューカッスル病ウイルスの複数の生きた突然変異体株の組み合わせ、イヌアデノウイルス−1とイヌアデノウイルス−2の組み合わせ、ウマヘルペスウイルス−1とウマヘルペスウイルス−4の組み合わせ、インフルエンザウイルスの複数の生きた突然変異体株の組み合わせ、ネコカリシウイルスの複数の生きた弱毒化した株の組み合わせ、ロタウイルスの複数の血清型の組み合わせ、ライノウイルスの複数の血清型の組み合わせ、口蹄疫ウイルスの複数の血清型の組み合わせ、ブタ繁殖・呼吸障害症候群ウイルスの欧州の遺伝子型と北米の遺伝子型の組み合わせ、伝染性ファブリーキウス嚢病ウイルスの標準株と変異体株の組み合わせが挙げられる。
【0040】
本発明によれば、本ワクチンに使用するのに好ましい形態はウイルス粒子であるが、同じ科、属または種の突然変異ウイルスをコードする核酸分子を、同様にワクチンに直接用いてもよい。DNAまたはRNA分子は、「裸の」形態で存在してもよく、または、細胞による摂取を容易にする物質(例えば、リポソームまたはカチオン脂質)に連結させてもよい。核酸(DNAまたはmRNA)を利用するワクチンおよびワクチン接種の手法は、当業界においてよく説明されており、例えば、米国特許第5,703,055号、米国特許第5,580,859号、米国特許第5,589,466号、国際特許公報WO98/35562、および、Ramsay等,1997年,Immunol.Cell Biol.75:360〜363;Davis,1997年,Cur.Opinion Biotech.8:635〜640;Manickan等,1997年,Critical Rev.Immunol.17:139〜154;Robinson,1997年,Vaccine 15(8):785〜787;Robinson等,1996年,AIDS Res.Hum.Retr.12(5):455〜457;LaiおよびBennett,1998年,Critical Rev.Immunol.18:449〜484;および、VogelおよびSarver,1995年,Clin.Microbiol.Rev.8(3):406〜410で説明されており、これらは全て、この参照により本明細書中に含まれる。
【0041】
2種またはそれ以上の同じ科、属または種に属する生きた突然変異ウイルスに加えて、本ワクチン組成物は、その他の抗原性の成分を含んでもよい。本発明に係る使用に適したその他の抗原性の成分としては、これらに限定されないが、以下のような病原菌、例えば、マイコプラズマ・ヒオニューモニエ(Mycoplasma hyopneumonia)、ヘモフィルス・ソムナス(Haemophilus somnus)、ヘモフィルス・パラスイス(Haemophilus parasuis)、ボルデテラ・ブロンキセプチカ(Bordetella bronchiseptica)、炭疽菌(Bacillus anthracis)、アクチノバチルス・プレウロニューモニエ(Actinobacillus pleuropneumonie)、パスツレラ・ムルトシダ(Pasteurella multocida)、マンヘミア・ヘモリチカ(Mannhemia haemolytica)、マイコプラズマ・ボビス(Mycoplasma bovis)、マイコプラズマ・ガラナシエウム(Mycoplasma galanacieum)、マイコプラズマ・ガリセプティクム(Mycoplasma gallisepticum)、マイコバクテリウム・ボビス(Mycobacterium bovis)、マイコバクテリウム・パラツベルクローシス(Mycobacterium paratuberculosis)、クロストリジウム属、ストレプトコッカス・ウベリス(Streptococcus uberis)、ストレプトコッカス・スイス(Streptococcus suis)、スタフィロコッカス・アウレウス(Staphylococcus aureus)、エリジペロスリックス・ルゾパシエ(Erysipelothrix rhusopathiae)、カンピロバクター属、フソバクテリウム・ネクロフォールム(Fusobacterium necrophorum)、大腸菌、ローソニア・イントラセルラーリス(Lawsonia intracellularis)、リステリア菌、ロッキー山紅斑熱リケッチア、ボレリア属、エールリヒア属、クラミジア属、ブルセラ属、ビブリオ属、サルモネラ・エンテリカ血清型、レプトスピラ属;病原性の菌類、例えばカンジダ;原生動物、例えばクリプトスポリジウム・パルヴム(Cryptosporidium parvum)、ネオスポラ・カニウム(Neospora canium)、トキソプラズマ原虫、アイメリア属、バベシア属、ジアルジア属;蠕虫類、例えばオステルタジア属、クーペリア属、捻転胃虫属、ファスキオラ属から製造された抗原が挙げられ、これらは、不活性化された、全体または部分的な細胞標品の形態、または、遺伝子工学技術または化学合成により得られた抗原性分子の形態のいずれかである。さらなる抗原としては、病原性ウイルス、例えばマレック病ウイルス、伝染性ファブリーキウス嚢病ウイルス、ニューカッスル病ウイルス、ニワトリ貧血ウイルス、鶏痘ウイルス、トリ白血病ウイルス、伝染性喉頭気管炎ウイルス、網内皮細胞のウイルス、イヌパルボウイルス、イヌジステンパーウイルス、イヌヘルペスウイルス、イヌコロナウイルス、イヌパラインフルエンザ−5、ネコ汎白血球減少症ウイルス、ネコヘルペスウイルス、ネコカリシウイルス、ネコ免疫不全ウィルス、ネコ伝染性腹膜炎ウイルス、ウマヘルペスウイルス、ウマ動脈炎ウイルス、ウマ感染性貧血ウイルス、東部ウマ脳炎ウイルス、西部ウマ脳炎ウイルス、ベネズエラウマ脳炎ウイルス、西ナイルウイルス、伝染性胃腸炎ウイルス、ウシコロナウイルス、ウシヘルペスウイルス−1,3,6、ウシパラインフルエンザウイルス、ウシRSウイルス、ウシ白血病ウイルス、牛疫ウイルス、口蹄疫ウイルス、狂犬病ウイルス、アフリカ豚コレラウイルス、ブタパルボウイルス、PRRSウイルス、ブタサーコウイルス、インフルエンザウイルス、ブタ水胞病ウイルス、Techen発熱ウイルス、仮性狂犬病ウイルスが挙げられ、これらは、改変された、生きた(弱毒化した)ウイルス標品、不活性化された全体または部分的なウイルス標品の形態、または、遺伝子工学技術または化学合成により得られた抗原性分子の形態のいずれかである。追加の弱毒化生ワクチンが用いられる場合、このような追加のウイルスは、好ましくは、上述のような2つの主要な弱毒化ウイルスの科とは異なる科に属するものである。
【0042】
好ましい実施形態において、本発明は、BVDV−1のNADL株から誘導された弱毒化したcpBVDV−1、BVDV−2の53637株から誘導された弱毒化したcpBVDV−2(ここにおいて、これら2つのcp分離株はそれぞれ、同じゲノム部位にcpバイオタイプに関連する突然変異を含む)、および、不活性化された形態、または、改変された、生きた形態のいずれかの、以下の抗原性成分の少なくとも1種(すなわち、1種またはそれ以上)を含むワクチン組成物を提供する:ウシヘルペスウイルス−1、ウシRSウイルス、パラインフルエンザウイルス−3、カンピロバクター・フィタス(Campylobacter fetus)、レプトスピラ・カニコラ(Leptospira canicola)、レプトスピラ・グリポティフォーサ(Leptospira grippotyphosa)、レプトスピラ・ハージョ(Leptospira hardjo)、レプトスピラ・イクテロへモリジア(Leptospira icterohaemorrhagiae)、レプトスピラ・ポモナ(Leptospira pomona)、または、マンヘミア・ヘモリチカ(Mannhemia haemolytica)。
【0043】
加えて、本発明のワクチン組成物は、1またはそれ以上の獣医学的に許容できる担体を含んでもよい。本発明で用いられる「獣医学的に許容できる担体」は、全てのあらゆる溶媒、分散媒、コーティング剤、アジュバント、安定剤、希釈剤、保存剤、抗菌剤および抗真菌剤、等張剤、吸収遅延物質などを含む。希釈剤としては、水、生理食塩水、デキストロース、エタノール、グリセロールなどが挙げられる。等張剤としては、なかでも、塩化ナトリウム、デキストロース、マンニトール、ソルビトール、および、ラクトースが挙げられる、。安定剤としては、なかでも、アルブミンが挙げられる。本ワクチン組成物は、例えば、インターロイキン、インターフェロン、または、その他のサイトカインのような1またはそれ以上のその他の免疫調節物質をさらに含んでもよい。
【0044】
ワクチン組成物に使用するのに適したアジュバントとしては、これらに限定されないが、数ある中でも、RIBIアジュバントシステム(Ribi社)、アラム、水酸化アルミニウムゲル、水中油型エマルジョン、油中水型エマルジョンが挙げられ、例えば、フロインド完全および不完全アジュバント、ブロックコポリマー(CytRx,アトランタ,ジョージア州)、SAF−M(カイロン(Chiron),エメリービル,カリフォルニア州)、AMPHIGEN(R)アジュバント、サポニン、Quil A、コレステロール、QS−21(ケンブリッジ・バイオテック社(Cambridge Biotech Inc.)、ケンブリッジ,マサチューセッツ州)、または、その他のサポニン断片、モノホスホリル脂質A、アブリジン(Avridine)脂質−アミンアジュバント、E.coli由来の熱不安定性のエンテロトキシン(組換え、または別の方法による)、コレラ毒素、または、ムラミールジペプチドである。
【0045】
典型的には、生きた突然変異体ウイルスは、ワクチン中に、約1×106〜約1×108ウイルス粒子/用量の量で、獣医学的に許容できる担体と共に、約0.5〜約5mlの容積で存在する。効果的に防御作用を提供するワクチン組成物中の正確なウイルス量は、熟練した獣医師によって決定することができる。本ワクチンにウイルスのDNAまたはRNA分子が用いられる場合、核酸の量は、一般的に、約0.1μg/ml〜約5.0mg/mlと予想される。
【0046】
本発明のワクチン組成物は、投与経路に応じた様々な形態に作製できる。例えば、本ワクチン組成物は、注射のための使用に適した滅菌水溶液または分散液の形態に作製することができ、または、凍結乾燥技術を用いて凍結乾燥形態に作製することができる。凍結乾燥した組成物は通常、約4℃に維持され、安定化する溶液(例えば、アジュバント含有または非含有の生理食塩水またはHEPES)中で再溶解させることができる。
【0047】
本発明のワクチン組成物は、ワクチン組成物に含まれるウイルスの病原性の型によって引き起こされる病気を治療または予防するために、動物に投与することができる。それゆえに、本発明は、ウイルスによって引き起こされる病気に対するワクチンの動物への接種方法も提供する。
【0048】
本発明の方法を実施する際に、本発明のワクチン組成物は、動物に、好ましくは非経口経路で投与されるが、その他の投与経路も同様に用いることができ、例えば、経口、鼻腔内、筋肉内、リンパ節内、皮内、腹膜内、皮下、直腸または膣への投与によって、または、経路の併用によって投与される。追加免疫の計画が必要な場合もあり、その用量計画は、最適なワクチン接種が提供されるように調節することができる。
【0049】
以下の実施例により、本発明をさらに説明するが、これに限定されない。
【実施例】
【0050】
実施例I
BVDV2の53637株における細胞由来の挿入物の位置の決定
BVDV2−53637からのNS2−3領域におけるあらゆる細胞由来の挿入物の位置を同定しマッピングするために、この領域の配列の一部を決定した。ウイルスRNAから、フォワードプライマー53637U1(5’−CGTCCACAGATGGTTTGGT−3’;配列番号1)、および、リバースプライマー53637L(5’−GGCTATGTATTGGACGTAACCC−3’;配列番号2)を用いて670塩基のRT−PCR産物を増幅した。このRT−PCR産物を精製し、配列解析した(配列番号3)。BVDV1−NADL(Genbank登録番号M31182、配列番号4)と並べたところ、著しい類似性が観察された(図1)。ウイルスは両方とも、Bos taurusのDnaJ1遺伝子から誘導された挿入物をインフレームで含む。NADLの場合、この挿入物は、90個のアミノ酸(270個のヌクレオチド)の長さであり、NADLポリタンパク質中のグリシン−1536とプロリン−1627との間に位置する。これらの位置は、SD−1のような非細胞変性のBVDV1株(Genbank登録番号AAA42860、配列番号6)のグリシン−1536とプロリン−1537に対応しており、これは、NADLにおけるゲノムの改変は、単なる挿入であって、それに伴うウイルスのフランキング配列の欠失または複製がないことを示す。BVDV1−NADLのように、BVDV2−53637におけるBos taurusのDnaJ1遺伝子部分の挿入が存在する。この細胞由来の挿入物は、さらに長く(131個のアミノ酸、393個のヌクレオチド)、BVDV1−NADLにおける挿入に対して両方向に伸長している。NS2−3領域内での細胞由来の挿入物の位置は、2種ウイルスで同一である。BVDV1−NADLとは異なり、BVDV2−53637の挿入物は、ウイルスのフランキング配列の5個のアミノ酸(15個のヌクレオチド)の欠失を伴う。挿入物の5’末端の端にある3個のアミノ酸残基がなく、一方で、挿入物の3’末端の端にある2個のアミノ酸残基がない。細胞由来の挿入物が2種のワクチンウイルスにおいて同じゲノム位置にあるため、それらは、非細胞変性のキメラウイルスを生産するための挿入を欠失させて相同組換えすることができない。
【0051】
実施例II
共に継代させたBVDV1−NADL/BVDV2−53637培養物で、非細胞変性のBVDVウイルスを検出する試み
2種のワクチンウイルスが組換えを起こして検出可能なレベルの非細胞変性のBVDVが生産されるかどうかを決定するために、これらのウイルスを感染しやすい細胞で共培養し、高感度のヘミネステッド(hemi−nested)RT−PCR分析を用いて、過量のなお細胞由来の挿入物を含む長い細胞変性産物のなかから、潜在的非細胞変性ウイルスを検出した。インビトロで異種間の組換えが起こる可能性を高めるために、6−ウェルプレート中で、各ウイルスを、感染多重度2〜4で、密集したBK−6細胞に同時に植え付けた(1実験あたり12反復した)。2〜3日共培養した後、細胞の凍結と融解を2回繰り返し、細胞の死細胞片を低速での遠心分離で除去した。次に、得られた上清液を、次の代の接種材料として用いた。数回の研究で、全7回の連続した継代を行った。継代の間、BVDV1−NADLはBVDV2−53637より迅速に成長したが、7回継代後でも、II型ウイルスがネステッドRT−PCRを用いて検出された。高感度のヘミネステッドRT−PCR分析を、あらゆる非細胞変性ウイルスを検出するための試みに用いた。
【0052】
第1回目のRT−PCRでは、フォワードプライマー53637U1(配列番号1)、または、NADL4744(5’−CGTGGCTTCTTGGTACGGG−3’、配列番号7)が、リバースプライマー53637L(配列番号2)、または、NADL5305(5’−AGCGGTATATTGTACAAAGCCA−3’、配列番号8)と併せて用いられた。BVDV1、BVDV2、および、異種間の組換え体を検出するために、フォワードとリバースプライマーの全4種の組み合わせが用いられた。予想されるRT−PCR産物のサイズは、細胞変性のBVDV1−NADLでは562bpであり、細胞変性のBVDV2−53637では670bpであった。非細胞変性ウイルスは、検出可能なレベルで存在する場合、第一回目の産物として292bp(BVDV1−NADL)、または、277bp(BVDV2−53637)が生産されると予想された。異種間の組換え体のサイズは、組換え部位の位置に応じて、元のいずれか一方の長さ、または、中間体の長さと類似していると予想された。非細胞変性のBVDVは、第1回目のRT−PCRの後では、一度も検出されなかった。
【0053】
かなり過量の細胞変性のBVDVの存在下で非細胞変性のBVDVを検出する感度を高めるために、ネステッドPCRの前に制限酵素消化工程を入れて、細胞変性ウイルスから誘導された大きいNS2−3テンプレートを破壊した。Bos taurusのDnaJ1挿入物内で切断されるが、その端にあるウイルスの配列を切断しないという観察に基づいて、MspIおよびDraIの組み合わせを選択した。第二回目(ヘミネステッド)PCRでは、フォワードプライマー53637U2(5’−TGCACGATCTGTGAAGGGAAAGAA−3’、配列番号9)、または、NADL4844(5’−TGCACTGTATGTGAGGGCCGAGAG−3’、配列番号10)を、同じ2種のリバースプライマー53637LまたはNADL5305と併せて用いた。異種間の組換え体も、同様にBVDV1およびBVDV2も検出する試みに適したプライマーの組み合わせを用いた。予想されるRT−PCR産物サイズは、細胞変性のBVDV1−NADLでは462bpであり、細胞変性のBVDV2−53637では570bpであった(細胞変性のBVDVのRT−PCR産物の不完全な消化により、低いレベルで存在する)。非細胞変性ウイルスは、検出可能なレベルで存在する場合、第二回目の産物として192bp(BVDV1−NADL)、または、177bp(BVDV2−53637)を生産すると予想された。異種間の組換え体のサイズは、組換え部位の位置に応じて、元のいずれか一方の長さ、または、中間体の長さのサイズと類似していると予想された。非細胞変性のBVDVは、第2回目のPCRの後では、一度も検出されなかった。2〜3の個々の反応では、様々なサイズの通常では見られないバンドが観察された。全ての100〜300bpのバンドは、潜在的非細胞変性の産物と思われ、これをDNA配列解析した。いずれの場合においても、通常では見られないバンドは、PCR中の誤ったプライミングの結果であった。いずれの研究においても、非細胞変性ウイルスの証拠は見出されなかった。
【図面の簡単な説明】
【0054】
【図1】細胞由来の挿入物と、両端にあるBVDV−1のNADL株およびBVDV−2の53637株のNS2−3領域のウイルスの配列のアライメントである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウイルスはそれぞれ、ウイルスのゲノムに突然変異を含み、該ウイルス中の突然変異は、突然変異ウイルスが互いに組換えを起こして突然変異が除去されないようにゲノムの同じ部位に存在する、同じ科の少なくとも2種の生きた突然変異ウイルスを含むワクチン組成物。
【請求項2】
科は、フラビウイルス科である、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項3】
2種の生きた突然変異ウイルスはいずれも、ペスチウイルス属に属する、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項4】
2種の生きた突然変異ウイルスは、突然変異BVDV−1、および、突然変異BVDV−2からなる、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項5】
2種の生きた突然変異ウイルスは、細胞変性性の(cp)BVDV−1、および、cpBVDV−2からなり、これらはいずれも弱毒化されている、請求項4に記載のワクチン組成物。
【請求項6】
cpBVDV−1およびcpBVDV−2はいずれも、細胞変性性のバイオタイプを引き起こすNS2−3領域に突然変異を含む、請求項5に記載のワクチン組成物。
【請求項7】
cpBVDV−1は、BVDV−1のNADL株であり、cpBVDV−2は、BVDV−2の53637株である、請求項6に記載のワクチン組成物。
【請求項8】
ウシヘルペスウイルス−1、ウシRSウイルス、パラインフルエンザウイルス−3、カンピロバクター・フィタス、レプトスピラ・カニコラ、レプトスピラ・グリポティフォーサ、レプトスピラ・ハージョ、レプトスピラ・イクテロへモリジア、レプトスピラ・ポモナ、または、マンヘミア・ヘモリチカの少なくとも1種をさらに含む、請求項4に記載のワクチン組成物。
【請求項9】
獣医学的に許容できる担体をさらに含む、請求項1に記載のワクチン組成物。
【請求項10】
同じ科の2種の生きた突然変異ウイルスを選択または構築することを含み、ここで、該ウイルスはそれぞれ、突然変異を含み、該ウイルス中の突然変異は、突然変異ウイルスが相同組換えを起こして突然変異が除去されないようにゲノムの同じ部位に存在する、安全なウイルスワクチンを製造する方法。
【請求項11】
突然変異は、欠失、挿入、置換、または、これらの組み合わせから選択される、請求項10に記載の方法。
【請求項12】
突然変異は、毒性の弱毒化、細胞の親和性またはバイオタイプの変更、種の親和性の変更、外来遺伝子カセットの発現、または、これらの組み合わせから選択される表現型を付与する、請求項10に記載の方法。
【請求項13】
科は、フラビウイルス科である、請求項10に記載の方法。
【請求項14】
2種の生きた突然変異ウイルスは、ペスチウイルス属に属する、請求項10に記載の方法。
【請求項15】
2種の生きた突然変異ウイルスは、突然変異BVDV−1、および、突然変異BVDV−2からなる、請求項10に記載の方法。

【図1】
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【公表番号】特表2007−500702(P2007−500702A)
【公表日】平成19年1月18日(2007.1.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−521967(P2006−521967)
【出願日】平成16年7月26日(2004.7.26)
【国際出願番号】PCT/US2004/024011
【国際公開番号】WO2005/021034
【国際公開日】平成17年3月10日(2005.3.10)
【出願人】(397067152)ファイザー・プロダクツ・インク (504)
【Fターム(参考)】