定置網の垣網
【課題】 比較的簡単な改良によってエチゼンクラゲ等の巨大クラゲの入網を排除し、魚類を有効に捕獲する定置網を提供することを課題としている。
【構成】 海流が流れている漁場に設置される定置網において、定置網の垣網にエチゼンクラゲ等の巨大クラゲが下流に向かって通過する開口及び開口に巨大クラゲを誘導するガイドを垣網に設けて、垣網に沿って移動してきた巨大クラゲは途中から垣網の下流方向に脱出させて入網を阻止し、魚類のみを捕獲することを特徴としている。開口の幅は巨大クラゲが通過する幅とし、1〜2メートル程度にする。
【構成】 海流が流れている漁場に設置される定置網において、定置網の垣網にエチゼンクラゲ等の巨大クラゲが下流に向かって通過する開口及び開口に巨大クラゲを誘導するガイドを垣網に設けて、垣網に沿って移動してきた巨大クラゲは途中から垣網の下流方向に脱出させて入網を阻止し、魚類のみを捕獲することを特徴としている。開口の幅は巨大クラゲが通過する幅とし、1〜2メートル程度にする。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、エチゼンクラゲ等の巨大クラゲが囲網の端口から進入するのを防止した定置網の垣網に関するものである。
【背景技術】
【0002】
定置網(又は建網ともいう)は漁場に網を敷設し、回遊してきて網に迷い込んだ魚を漁獲する方法であり、日本における漁獲技術の1つとして従来から使用され、現在なおも採用されている漁獲方法である。日本近海には多くの海流(例えば、黒潮や親潮)が流れており、この海流に乗っていろいろな種類の魚、例えば、鰯、鰺、鯖、鰹、鮪、ブリや鮭等が回遊してくる。これは、小魚の餌となる動物プランクトンが海流により運ばれたり、潮境に寄せ集められたりして大発生し、それを求めて食物連鎖を構成する様々な大小の魚が集まってくる。
【0003】
定置網の種類や構成及び敷設方法等については多くの文献やホームページ(以下、HPと略記する)に開示されている。例えば、非特許文献1〜4に掲載されている。ここでは、図13に標準的な大型定置網の1例を示す。図13に示すように、定置網50は垣網51、囲網52、袋網53等から構成されている。なお、囲網52、袋網53を合わせて身網ということもある。囲網52の内部には運動場と呼んでいるスペース52aと登網部と呼ばれているスペース52bとが設けられている。定置網50(垣網51、囲網52、袋網53)の海中における固定は、定置網50の上縁に設けられたロープに浮き(浮子)を設けて海面に浮かせ、更に固定用ロープ54が浮子を取り付けた箇所で垂直に接続され、固定用ロープ54の他端には海底に沈められた固定重り(沈子)55に結ばれ、定置網50を固定している。また、囲網52には囲網入口(端口)56が設けられ、端口56の央部又は端部に垣網51が接続され、垣網51の他端は海岸の磯にまで延長している。垣網51の全長は数十メートルから数百メートルに及ぶ。垣網51の固定方法の1例を図14に示す。図14において、垣網51の上縁には合成繊維又は鋼製のロープ61が取り付けられ、ロープ61に多数の浮子62が固定されている。浮子62によって垣網51の上縁は水面上に保持される。一方、垣網51の下縁には沈子63が取り付けられ、垣網51が海中で張られた状態を維持する。また、垣網51の端口端は、他のロープ、例えば、囲網56の上縁に設けられたロープ64に結んで固定する。垣網51の他端(陸地側端)は浮子65、沈子66を介して海底に固定する。
【0004】
上記した構成により、海流に乗って回遊して来た魚が垣網51に進路を遮られ、一部の魚が端口56の方向に誘導される。誘導された魚は端口56を通って囲網52の内部に入る。その一部は運動場52aの内部で遊泳し、外部に逃げて行くが、他の一部は登網部52bを登って、袋網53へ進入する。袋網53の入口は狭められ、かつ、段差が設けられているため、袋網53に入った魚類は簡単に外部に脱出はできない。なお、袋網を設けた定置網を落し網と呼んでいる。袋網を2段に設けた2重落し網も開発されている。
【非特許文献1】野村正恒著、最新漁業技術一般、成山堂書店、180〜196頁、平成12年4月出版
【非特許文献2】金田禎之著、日本の漁業と漁法、成山堂書店、74〜85頁、平成17年6月出版
【非特許文献3】鈴木マリーンHP、海の散歩道0302、釣師の通らない道Vol.10、周辺の海の環境−9、定置網−4、定置網のしくみ
【非特許文献4】泉澤水産HP、定置網
【0005】
垣網51は回遊してきた魚群を誘導するものであり、魚群の行動を考慮して設置される。海流に乗ってきた魚は沖合から湾内に突入すると、先ず、等深線に沿って移動する。垣網51はこれらの魚をできる限り多く端口56方向に誘導するように張られている。即ち、図15に示すように、沿岸付近では等深線と大体40〜50度の角度で交差し、垣網51の中間、或いは身網60近くでは等深線と直角に近づくように張立てる(非特許文献5参照)。
【非特許文献5】井上実著、漁具と魚の行動、第2章の2垣網に対する魚の行動、PP29−41、恒星社厚生閣刊
【0006】
等深線に沿って移動してきた魚17は垣網51に遭遇すると図16に示すように種々の方向(矢印L、S、R、B方向)に進路を変更する。網目を通過する(S方向)魚、端口56方向(L方向)に進む魚、沿岸方向(R方向)に進む魚、元の方向(B方向)に引き返す魚がおり、必ずしも大半の魚がL方向に進む訳ではない。しかし、障害物に出会った魚は勾配が急であれば(等深線が密集している所では)遊泳層より深いところ(深み)、暗いところに沈降する傾向があることが実験的に認められている。そして、ここでは、L方向に進む魚の挙動のみが重要である。
【0007】
さらに、端口56方向に進む魚であっても、垣網51に対する魚(又は魚群)の行動は魚種によって一様ではなく、垣網51の材料と目合、垣網51の姿勢と角度、魚の成群状態、周りの明るさなどにも影響される。例えば、図17に示すように、ブリの場合は30m位の水深の層から垣網51に接近し、垣網51から10m位離れて垣網51に沿って泳ぎ、黒鮪では昼間は10〜15m離れるが夜間では5〜6m位まで接近して泳ぐと言われている(非特許文献1)。
【0008】
上記した定置網は海流に乗って回遊してくる魚類を捕獲する漁法であり、比較的に少ない労力で、しかも大量の魚類を捕獲することができ、種々の魚類に適用できる有力な漁法の1つであった。しかし、非特許文献6,7に示すように、近年、中国や韓国の沿岸でエチゼンクラゲが大量発生し、成長しながら海流(対馬暖流)に乗って日本海を北上し、日本海の沿岸にも来遊するという現象が頻発するようになってきた。日本海沿岸に来遊したエチゼンクラゲは定置網にも進入し、定置網漁業に大きな被害を与えている。図18に示すように、成長したエチゼンクラゲの大きなものは、傘81の直径(D)が100cm以上にもなり、正常な個体では糸状付属器82の長さ(L)は傘径Dの3〜5倍にもなる。また、重量も200kgにもなるために、エチゼンクラゲの入網により漁具の破損、操業効率の低下、操業海域の縮小、選別時間の増加、クラゲの触手による魚体の損傷(商品価値の低下)等の被害が生じている。なお、実際に遊泳している成長したエチゼンクラゲの糸状付属器82は大部分が失われている。
【非特許文献6】島根県水産試験場HP、エチゼンクラゲについて
【非特許文献7】安田徹編、海のUHOクラゲ、116−120頁、恒星社厚生閣
【0009】
エチゼンクラゲの定置網への入網を防止する有効な手段は現在の所、まだ開発中である。提案された方法としては非特許文献8に開示されているものがある。図19(A)はこの垣網51の構造を示し、図19(B)はこの垣網51の作用効果を示す。この垣網51は垣網部51aの下側に目合の大きい捨て網部51bを設けてエチゼンクラゲを通過させる仕組みになっている。具体的な実施例では、垣網部51aは海面から41.5mの深さまで目合いが45cmの網を使用し、捨て網部51bは垣網部51aの下部から海底(55.5mの深さ)まで目合いが150cmの網を使用している。また、設置方法は図示のように、海面から海底に向けて潮流に対して後方に斜めになるように張り立てる。移動してきたエチゼンクラゲは垣網51の垣網部51aに遭遇すると垣網部51aに沿って潜り込み、捨て網部51bから抜けて下流に向けて移動する。試験結果では魚類を逃がすことなくエチゼンクラゲだけを通過させることができたと報告している。しかし、この垣網51には、以下のような問題点がある。即ち、直接に囲網52の端口56付近に到達したエチゼンクラゲは囲網52、箱網53の内部に入ってしまうおそれがあり、従来のような被害が発生する。また、エチゼンクラゲは薄明時刻の夕方や朝方、日中の天候が曇天時や小雨の場合等に海面に浮遊する性質があるが、これらの場合にも垣網に沿って潜り込み、捨て網部から抜けるか否かが疑問である。さらに、垣網は海底までの深さが40m以下の浅い場所にも設置されるが、この場合に捨て網部51bを設けないと大量のクラゲが垣網51に漂着して垣網51が破損する等の不都合が生じるおそれもある。また、40m以上の深い海中を泳いでいる魚は捨て網部51bの網目から抜けて逃げてしまうという問題もある。
【非特許文献8】島根県水産試験所HP、とびっくす(トビウオ通信号外)第7号、2−(2)定置網、平成18年3月30日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願発明はこのような状況下でなされたものであり、比較的簡単な改良によってエチゼンクラゲ等の巨大クラゲの入網を排除し、魚を有効に捕獲する定置網を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記の課題を解決するために、回遊する魚類の性質とエチゼンクラゲ等の巨大クラゲの性質との相違を利用する。最も大きな相違の1つとして、エチゼンクラゲ等の巨大クラゲはプランクトンの一種であり、遊泳能力が弱いため、速い海流の流れに逆らえない生物であるのに対して、回遊魚類はネクストンであって、鮪のように海流に逆らって泳ぐ遊泳能力がある生物である(非特許文献9参照)。次に、第2番目の相違として、魚類は外界を認識できる眼(魚眼)を持っているが、エチゼンクラゲは外界を認識できる眼を持っていないことである。
【非特許文献9】久保田信他監修、クラゲのふしぎ、技術評論社、平成18年9月1日発行
【0012】
魚眼は図9(A)に示すように、角膜71、水晶体(レンズ)72、靱帯73、ガラス様体74、網膜75、虹彩76、視神経77等で構成されている。レンズ72は水とほぼ同じ濃度の液体で満たされており、網膜75に像を結ばせるためにレンズ72の曲率が大きくなっている。魚は靱帯73によってレンズ72と網膜75の距離をわずかに調節するだけで網膜75上に像の焦点を結ばせる。魚のレンズ72は球形で焦点距離が著しく短い。従って、約1mの範囲内の対象ならはっきりと識別できるが、視覚のとどく最高の距離は15m程度である。水の透明度が極めて良好な場合でも魚が物を認め得る距離は最大30m以下である。また、魚の目は、図9(B)に示すように凸形状の顔の両側に各々1個ずつ眼を持っており、両眼で1個の物を見るより、単眼視でそれぞれの眼が重なり合わない別々の像を見ることが多い。例えば、マスの成魚では、図10に示すように、単眼視の水平視野(α)は約160度(なお、垂直視野は150度)である。また、両眼視(前方視)による水平視野(β)は20〜30度である。従って、魚は両眼視野の中では図11に示すように、正確な距離を測り、物の形状を認識できるが、単眼視(側方視)の視野では両眼視の場合よりも遠くまで見えるけれども、物の形状は、はっきりせず、動きだけを感じる。従って、餌や外敵の動きは側方視で捕らえ、その形状の確認は(振り向いて)前方視でなされる。なお、前方視の視覚の届く範囲は最高でも15メートル位である。
【非特許文献10】井上実著、魚の行動と漁法、第3章「感覚」、恒星社厚生閣刊(1978)
【0013】
一方、ミズクラゲの場合、眼は傘の縁辺部に眼点として存在するが、眼のレンズもなく、光の強弱は判別できても、人や魚のように物、例えば垣網の網自体を眼で見る(認識する)ことはできない。エチゼンクラゲについても同様と考えられる。しかし、傘の周縁部に無数の感覚器があり、ここで物を触覚により認識していると考えられている。
【0014】
以上のことから従来の垣網51に対する魚17とエチゼンクラゲ10の行動を比較すると図17に示すようになる。即ち、湾内に突入した魚17は等深線に沿って移動し、垣網51に遭遇する。垣網51に遭遇した魚17は逃避的に垣網51から数メートル(4〜5m)〜20メートル位離れて垣網51に沿って沖方向へ移動し、端口56から囲網(身網)60内へ進入する。これに対して潮流に乗ってきたエチゼンクラゲ10は垣網51に遭遇すると近接した状態で垣網51に沿って移動し、囲網(身網)60内へ進入する。
【0015】
魚17が垣網51に遭遇した場合、垣網51は魚17の移動方向と略直角に張られているために魚17は垣網51を両眼視でしっかりと確認することができる。従って、これを異物(通常海には存在しない異物)として認識し、逃避的に垣網51から一定距離を離れて垣網51に沿って沖方向(深み方向)へ移動する。しかし、垣網51に沿って移動しているときは、特別な異変を感じない限り、魚17は垣網51を単眼視状態で側方視しているのであり、垣網51をぼんやりとしか認識していない。
【0016】
図12は魚17が垣網51に沿って移動しているときの明視できる範囲を示す。図12において、魚17が垣網51から距離Dを離れて移動する場合を示す。距離Dは数mから20m位である。一点鎖線7は両眼視の水平視野の中心線(視軸)で、この中心線7を挟んで両眼視の視野角度をβとした場合に点Pまでの距離をXとし、点Pまでの長さをLとする。距離Dが3(m)〜10(m)の場合について距離Xと長さLを求めると図12の下表のようになる。この結果から理解できるように、魚17が垣網51に沿って移動する場合に魚17が垣網51を認識できるのは、水平視野角度が20度の魚17では垣網51からの距離が3(m)離れて移動する場合が限界であり、水平視野角度が30度の魚17でも垣網51からの距離が5(m)離れて移動する場合が限界である(距離Lが15メートルを超えている)。以上の説明から魚17が垣網51に沿って移動している場合(単眼視の場合)は、垣網51をはっきりと認識していないことが理解できる。
【0017】
しかしながら、垣網51は魚群17の通路を遮断して身網の方向へ誘導するためのものであり、魚類17にとって見えやすい黄色や藁色等が使用されている。また、海流が垣網51当たって生じる低周波音(100〜1000Hz)も感じることができる。従って、垣網51に大きな開口を設けると、魚類17がその開口に気付いて開口を通過して逃げてしまうおそれがある。そこで、本願発明は以下の構成を採用している。
【0018】
請求項1に記載の発明は、海流が流れている漁場に設置される定置網において、前記定置網の垣網に巨大クラゲが下流に向かって通過する開口を設けると共に該開口に巨大クラゲを誘導するガイドを設けたことを特徴としている。
本発明は巨大クラゲの入網を確実に排除することを主目的としている。
【0019】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記開口にカバーを設けて前記垣網に沿って移動する魚が該開口を気付かないか、或いは注視しないようにしたことを特徴としている。
本発明はガイド網と共にカバー網を設けて、魚類が開口に気付いて垣網から下流に逃げてしまうことを防止することを主目的としている。
【0020】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記開口は、海面近傍から正常な巨大クラゲが遊泳する深さまでとしたことを特徴としている。
【0021】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3に記載の発明において、前記開口は、幅1〜3メートルの長方形としたことを特徴としている。
【0022】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4に記載の発明において、前記開口の深さは、水深30メートル以内又は垣網の底部の水深と同一にしたことを特徴としている。
【0023】
請求項6に記載の発明は、請求項1 〜請求項5に記載の発明において、前記開口を前記垣網の長さ方向に対して(20〜50)メートルごとに設けたことを特徴としている。
【0024】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6に記載の発明において、前記カバー部、ガイド部は前記垣網の網材と同一の網材を利用して形成したことを特徴としている。
【0025】
請求項8に記載の発明は、海流が流れている漁場に設置される定置網において、前記定置網の垣網を複数の区分に分割し、隣接する2つの区分のうち、海岸側区分の沖側縁辺部と沖側区分の海岸側縁辺部との間に巨大クラゲが通過できる開口を形成したことを特徴としている。
【0026】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の発明において、前記開口は、隣接する2つの区分のうち、海岸側区分の沖側縁辺部を海流の下流方向に曲げて配置し、又は、沖側区分の海岸側縁辺部を海流の上流方向に曲げて配置して形成したことを特徴としている。
【0027】
請求項10に記載の発明は、請求項8に記載の発明において、前記開口は、隣接する2つの区分のうち、海岸側区分の垣網を海流の上流方向に移動させて配置し、又は、沖側区分の垣網を海流の海流方向に移動させて配置して形成したことを特徴としている。
【0028】
請求項11に記載の発明は、請求項9又は請求項10に記載の発明において、前記隣接する区分の垣網において、海岸側区分の沖側端を含む縁部と前記沖側区分の海岸側端を含む縁部とが、海流の上流方向から見た場合に重複するように構成したことを特徴としている。
【0029】
請求項12に記載の発明は、海流が流れている漁場に設置される定置網において、前記定置網の垣網に沿って誘導されてきた巨大クラゲを溜めるための窪み部を該垣網に設けたことを特徴としている。
【0030】
請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の発明において、前記窪み部に進入した巨大クラゲを下流方向に開放する開口を設けたことを特徴としている。
【0031】
請求項14に記載の発明は、請求項12に記載の発明において、前記垣網に沿って誘導されてきた魚が前記窪み部に進入しないように該窪み部の上流側にカバーを設けたことを特徴としている。
【0032】
請求項15に記載の発明は、請求項8〜請求項14に記載の発明において、前記開口の幅は1〜2メートルとした特徴としている。
【発明の効果】
【0033】
本願の発明によれば、海流に乗って回遊し、定置網に進入するエチゼンクラゲクラゲ等の巨大クラゲを垣網の下流側に逃がすようにしたので、巨大クラゲによる被害をなくし、或いは大幅に減少させて、魚類を有効に捕獲することができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
<実施形態1>
図1は、本発明を実施する実施形態1の上流側から見た垣網の正面斜視図を示す。図2は垣網11のガイド13並びにカバー14の上から見た平面図を示す。図1において、垣網11の上側(海面側)ロープ7には複数の浮子8が設けられ、浮子8からロープにより沈子6が海底に載置され、網部6が張られた状態で固定される。網部6は海中の魚群の通路を遮断するように張られる。このため、網部6は、見えやすい黄色や藁色等の網糸が使用される。網部6の適当な箇所に、図1に示すように、巨大クラゲ10を逃がすための開口12を設ける。
【0035】
開口12は、幅は(1〜3)メートルで、縦長さは略海面の位置(例えば、海面下0〜3メートル)から適当な深さ位置(例えば、30メートル)又は海底の深さ位置(浅い海底の場所では)までの矩形で構成されている。開口12は網部6の横方向長さに対して巨大クラゲ10の来遊する数を考慮して適切な個数を設ける。例えば、網部6の横長さ(30〜50)メートルにつき1個の割合で開口12を設ける。垣網11の上流側に来遊した巨大クラゲ10を適宜下流側に開放するためである。
【0036】
開口12の沖側に巨大クラゲ10を誘導するためのガイド13が設けられている。ガイド13はガイド面の縁部をロープで縁取りし、内側にガイド網13nを張る。ガイド網13nは網部9と同じ網糸、網目で構成してもよい。ガイド13の上縁には略「コ」字形状の浮棒13aを取付けて、両端をロープ等で浮子8に固定する。ガイド網13nは、浮棒13aの入口側を除いて、ガイド面に張る。ガイド網13nの下縁には沈み棒13cを設けて、沈み棒13cの適宜な箇所に重り13dを設けて海底に固定する。なお、ガイド面は開口12の幅に比べて大きく(2倍程度に)する。垣網11に沿って泳ぐ魚に対して開口12がガイド網13nの陰になって直接見えないようにするためである。また、ガイド13の出口側(図の右側)縁を垣網11に接続して巨大クラゲ10を確実に開口12に導くようにするのが好ましい。
【0037】
ガイド13の入口から岸方向に適当な距離(2〜4メートル)離れた位置にカバー14を設ける。カバー14は、垣網11に沿って(特に、垣網11に近接しながら)沖方向に移動する魚17にとって開口12の発見を困難にして、魚17が開口12から下流方向に逃げて行くのを防止する。カバー14はカバー面の縁部をロープで縁取りし、内側にカバー網14nを張る。カバー面の上側縁にV字型の浮棒14aを設けて、その両端をロープ7に設けられた浮子8に固定する。なお、カバー面は浮棒14a岸側面の片面に設ける。また、カバー面の下縁に沈み棒14cを設けて、沈み棒14cの適宜な箇所に重り14dを設けて海底に固定する。
【0038】
図2で、魚17と巨大クラゲ10が沖方向に移動する状況の説明図を示す。図2におけるように、垣網11の開口12の沖側の辺を点G0とし、開口の岸側の辺をFとする。距離W(F、G0)は開口12の幅を示す。折れ線(G0,G1,G2)はガイド13の網部13nを上から見た線である。また、直線(C0,C1)はカバー14の網部14nを上から見た直線である。ガイド網13nの水平距離Lは点G0と点G2の水平距離(G0,G2)で、ガイド網13nの先端G2とカバー網13nの先端C1との水平距離をBとする。また、一点鎖線17sは魚17が沖方向に進むラインである。距離Dは垣網11とライン17sとの距離である。なお、点G2は点G1の垣網11からの距離と等しいか、遠くの点を選ぶ。
【0039】
図2は、幅Wを2.5メートル、距離Lを4メートル、距離Bを2.25メートル、距離Dを5メートル、巨大クラゲ10の傘径を1メートルとした場合の縮尺図を示している。図2において、巨大クラゲ10は岸方向から沖方向に(左から右に)移動する。先ず、巨大クラゲ10はカバー網14nに遭遇し、網14nに沿って、1.5メートルほど上流に向かう。しかし、点C1から下流方向に向かって移動し、点G2を通過するときには垣網11に十分に接近しており、更に右方向に移動するとガイド網13nに従って開口12に到達し、開口12から下流に向かって移動する。
【0040】
一方、魚17はカバー網14nに気付けば少し上流方向(図の上方向)に移動するが、気付かない場合はそのままライン17s上を移動する。従って、魚17にとっては開口12が直接見えず、ガイド網13nを通してしか見えない。魚17はライン17s上を移動しているときは、敵に追われているとかの特別の事情がないかぎり、単眼視で垣網11を見ているために距離感がなく、ぼんやりとしか見えないため、垣網11とガイド網13n、カバー網14nとの区別は認識できない。従って、魚17は開口12に注意を払わずに端口56方向に移動する。逆に、巨大クラゲ10は垣網11に沿って端口方向に移動し、開口12から開放されて下流に向かうために端口56に到達しない。
【0041】
以上に述べたように、巨大クラゲ10を開口12から確実に下流方向に通過させ、同時に魚17に開口12を気付かせないようにガイド13,カバー14を構成する。
【0042】
<実施形態1の変更例>
図3及び図4の(A)〜(D)は、上記実施形態のガイド13,カバー14の変更例を示す。図(A)はカバー14を湾曲状にして沖方向に延長し、ガイド13を垣網11の上流方向に突き出るように形成し、ガイド機能を完全にすると共に、下流方向にもガイド13延長して開口12を気付き難くさせた例である。図(B)はカバー14を省略し、ガイド13を垣網11の下流側に設けた例である。この例では、魚17が開口12を通過するまでは、距離感がないために、ガイド13と垣網11とを誤認識し、開口12から相当距離沖側に進んだところで開口12の一部がぼんやり見えるだけなので魚17はそのまま沖方向に移動する。また、図(C)は開口12の上流にガイド13を平行に、又は少し傾斜させて設けた例である。図(D)はカバー14を省略した例である。
【0043】
<実施形態2>
図5は請求項8、請求項9に対応する実施形態である。図5において、垣網21を複数の区間(区分)に分割し、分割した隣接区分の境界に開口22を設ける。即ち、分割した境界点Pの海岸側区分の沖側端点Aを海流の下流側方向に曲げて移動させ、沖側区分の海岸側端点Bを上流側方向に曲げて配置し、垣網21の点Pに開口22を設ける。開口22は点Aと点Bを結んだ点線の直線で示す。この場合の開口の幅は距離(A,B)ではなく点Aを含んだ縁部(曲線)と点Bを含んだ縁部(曲線)間の距離である。なお、点Aを含む縁部と点Bを含む縁部は海流の流れ方向から見た場合に両縁部が重複するようにしてもよい。
この場合の垣網の固定方法は、まず、垣網21を元の曲線に沿って固定する。次に、開口22は直線(A、B)をロープで張架し、点A及び点Bにロープを結び、そのロープに沈子を結んで固定する。
【0044】
実施形態2は上記の構成により、海流に乗って回遊してきたエチゼンクラゲ10は垣網21に接近すると、進路を変えて垣網21に沿って沖方向に移動する。このとき、エチゼンクラゲ10は開口22を通過して海流の下流方向に向けて遊泳(脱出)する。一方海流に乗ってきた魚類17は垣網21に接近すると、垣網21から数メートないし十数メートル離れて垣網21に沿って沖方向に移動する。従って、魚類17は開口22を発見できずそのまま進行し、端口16から囲網15の内部に進入する。
【0045】
<実施形態2の変更例>
図6、図7は請求項10に対応する実施形態で、実施形態2を変更した例である。図6において、図の点線のように張られた垣網31を複数の区分に分割し、海岸側に最も近い区分31aは元の位置に配置し、それに隣接する区分31b、31c、・・を順次海流の上流側に移動させて開口32a、32b、32c、・・を形成する。なお、この場合においても、区分の端点を延長して、海流の流れ方向から見たときに重複するようにしてもよい。開口32a、32b、・・・の各幅は当地に来襲するエチゼンクラゲの大きさを考慮して(1〜2)メートルとする。なお、略1.5メートル程度とするのが好ましい。
【0046】
図6は垣網31(31a、31b、・・・)の固定方法の例を示す。図6において、垣網31の上縁にステップ状にしたロープ33を設け、ロープ33に多数の浮子を設けて垣網31(31a、31b、・・・)の上縁を海面に保持すると共に、ロープ33の全ての折点(角)を沈子によって海底に固定する。また、垣網31(31a、31b、・・・)の下縁にも従来技術と同様に沈子を設ける。
【0047】
実施形態2は上記の構成により、海流に乗って回遊してきたエチゼンクラゲ10は垣網21(又は31、以下同じ)に接近すると、進路を変えて垣網21に沿って沖方向に移動する。このとき、エチゼンクラゲ10は開口22(又は32)を通過して海流の下流方向に向けて遊泳(脱出)する。一方海流に乗ってきた魚類17は垣網21に接近すると、垣網21から数メートないし十数メートル離れて垣網21に沿って沖方向に移動する。従って、魚類17は開口22を通過することはできず、端口16から囲網15の内部に進入する。
【0048】
<実施形態3>
図8は本発明の請求項12〜請求項14に対応する実施形態3の平面図を示す。図8において、垣網41は従来の垣網51と略同様に張られる。従来の垣網51と異なる点は、垣網41の途中に1個又は複数個の窪み部42を設けた点である。窪み部42は図示のように、海流の下流側に凹んでいる。窪み部42の間口(入口)ABの幅は垣網41に沿って移動してきたエチゼンクラゲ10が窪み部42に入ってしまう程度に広く(例えば、数メートル)する。また、窪み部42の奥行きは窪み部42の奥まで進入したチゼンクラゲ10が出口側の点Bから上流に向かって簡単に脱出できないようにする。また、垣網41の固定方法は、間口ABを直線で結んだ垣網41の上縁にロープを設けて、該ロープを従来技術と同様に固定し、該ロープの点A、点Bに窪み部42の両端を固定し、窪み部42の垣網を所定の形状に合わせて固定する。
【0049】
さらに、窪み部42の下流側底部に開口43を設けてエチゼンクラゲ10が垣網41の下流側に脱出できるようにする。これによって、窪み部42に溜まったエチゼンクラゲ10の一部は適宜に垣網41の下流方向に脱出し、他の一部が窪み部42に留まる。このため、魚類17はエチゼンクラゲ10を嫌って窪み部42に進入しない。更に、窪み部42の上流側に適度の長さのカバー44を設ける。カバー44の海岸側端点Cと点Aとの距離は1.5メートル以上とし、沖側端点Dは点Bと一致させてもよい。この場合、エチゼンクラゲ10は確実に窪み部42に進入する。一方、魚類17は窪み部42に進入せずに、カバー44の上流側に沿って端口16から囲網15の内部に進入する。
【0050】
実施形態3は上記の構成により、海流に乗って回遊してきたエチゼンクラゲ10は垣網31に接近すると、進路を変えて垣網41に沿って沖方向に移動する。このとき、エチゼンクラゲ10は窪み部42に溜まる。溜まったエチゼンクラゲ10は開口43を通過して海流の下流方向に向けて遊泳(脱出)する。一方海流に乗ってきた魚類17は垣網41に接近すると、垣網41から数メートないし十数メートル離れて垣網41に沿って沖方向に移動する。従って、魚類17は窪み部42の上流側を垣網41及びカバー44に沿って移動し、端口16から囲網15の内部に進入する。
【0051】
以上に説明したように、本実施形態1〜実施形態3の定置網によれば、海流に乗って魚類17とエチゼンクラゲ10が一緒に回遊して来た場合にも、エチゼンクラゲ10は囲垣網15の内部に進入せず、魚類17のみが囲網15の内部に進入する。従って、魚類17のみを捕獲できるという効果がある。また、エチゼンクラゲ10を下流方向に放出するので、エチゼンクラゲ10による被害(囲網の破損等)を防止することもできる。
【0052】
以上本発明の実施形態を図面に基づいて詳述してきたが、本発明の技術的範囲はこれに限られるものではない。例えば、上記実施形態では片端口の場合を説明したが、両端口を採用した場合も本発明の技術的範囲に属する。また、垣網の固定方法は上記実施形態に述べた方法に限定されない。囲網や箱網等の敷設方法や位置についても同様である。また、上記実施形態では落とし網の場合について述べてきたが、本発明の技術的範囲はこれに限られず、他の形式の定置網やサイズの異なる中型又は小型の定置網にも適用される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明を実施した実施形態1の正面図を示す。
【図2】実施形態1の平面図を示す。
【図3】実施形態1の変更例の平面図を示す。
【図4】実施形態1の変更例の平面図を示す。
【図5】実施形態2の全体平面図を示す。
【図6】実施形態2の変更例の平面図を示す。
【図7】実施形態2の固定例を示す。
【図8】実施形態3の平面図を示す。
【図9】(A)魚眼の構造を示す。(B)魚の両眼の配置を示す。
【図10】魚の両眼視の水平視野と単眼視の水平視野を示す。
【図11】魚の両眼視と単眼視の見え方を示す。
【図12】魚の明視の範囲を示す。
【図13】標準的な定置網の構成例を示す。
【図14】垣網の構成例を示す。
【図15】魚群の行動と等深線の関係を示す。
【図16】魚群の垣網に対する行動パターンを示す。
【図17】垣網に対する魚群の行動と巨大クラゲの行動を示す。
【図18】成長したエチゼンクラゲの構成を示す。
【図19】従来のエチゼンクラゲの入網を防止した垣網を示す。
【符号の説明】
【0054】
10 エチゼンクラゲ等の巨大クラゲ
11、21、31、41、51 垣網
12、22,32、43 垣網の開口
13 ガイド
14、44 カバー
15 囲網
16、56 端口
17 魚類
42 窪み部
【技術分野】
【0001】
この発明は、エチゼンクラゲ等の巨大クラゲが囲網の端口から進入するのを防止した定置網の垣網に関するものである。
【背景技術】
【0002】
定置網(又は建網ともいう)は漁場に網を敷設し、回遊してきて網に迷い込んだ魚を漁獲する方法であり、日本における漁獲技術の1つとして従来から使用され、現在なおも採用されている漁獲方法である。日本近海には多くの海流(例えば、黒潮や親潮)が流れており、この海流に乗っていろいろな種類の魚、例えば、鰯、鰺、鯖、鰹、鮪、ブリや鮭等が回遊してくる。これは、小魚の餌となる動物プランクトンが海流により運ばれたり、潮境に寄せ集められたりして大発生し、それを求めて食物連鎖を構成する様々な大小の魚が集まってくる。
【0003】
定置網の種類や構成及び敷設方法等については多くの文献やホームページ(以下、HPと略記する)に開示されている。例えば、非特許文献1〜4に掲載されている。ここでは、図13に標準的な大型定置網の1例を示す。図13に示すように、定置網50は垣網51、囲網52、袋網53等から構成されている。なお、囲網52、袋網53を合わせて身網ということもある。囲網52の内部には運動場と呼んでいるスペース52aと登網部と呼ばれているスペース52bとが設けられている。定置網50(垣網51、囲網52、袋網53)の海中における固定は、定置網50の上縁に設けられたロープに浮き(浮子)を設けて海面に浮かせ、更に固定用ロープ54が浮子を取り付けた箇所で垂直に接続され、固定用ロープ54の他端には海底に沈められた固定重り(沈子)55に結ばれ、定置網50を固定している。また、囲網52には囲網入口(端口)56が設けられ、端口56の央部又は端部に垣網51が接続され、垣網51の他端は海岸の磯にまで延長している。垣網51の全長は数十メートルから数百メートルに及ぶ。垣網51の固定方法の1例を図14に示す。図14において、垣網51の上縁には合成繊維又は鋼製のロープ61が取り付けられ、ロープ61に多数の浮子62が固定されている。浮子62によって垣網51の上縁は水面上に保持される。一方、垣網51の下縁には沈子63が取り付けられ、垣網51が海中で張られた状態を維持する。また、垣網51の端口端は、他のロープ、例えば、囲網56の上縁に設けられたロープ64に結んで固定する。垣網51の他端(陸地側端)は浮子65、沈子66を介して海底に固定する。
【0004】
上記した構成により、海流に乗って回遊して来た魚が垣網51に進路を遮られ、一部の魚が端口56の方向に誘導される。誘導された魚は端口56を通って囲網52の内部に入る。その一部は運動場52aの内部で遊泳し、外部に逃げて行くが、他の一部は登網部52bを登って、袋網53へ進入する。袋網53の入口は狭められ、かつ、段差が設けられているため、袋網53に入った魚類は簡単に外部に脱出はできない。なお、袋網を設けた定置網を落し網と呼んでいる。袋網を2段に設けた2重落し網も開発されている。
【非特許文献1】野村正恒著、最新漁業技術一般、成山堂書店、180〜196頁、平成12年4月出版
【非特許文献2】金田禎之著、日本の漁業と漁法、成山堂書店、74〜85頁、平成17年6月出版
【非特許文献3】鈴木マリーンHP、海の散歩道0302、釣師の通らない道Vol.10、周辺の海の環境−9、定置網−4、定置網のしくみ
【非特許文献4】泉澤水産HP、定置網
【0005】
垣網51は回遊してきた魚群を誘導するものであり、魚群の行動を考慮して設置される。海流に乗ってきた魚は沖合から湾内に突入すると、先ず、等深線に沿って移動する。垣網51はこれらの魚をできる限り多く端口56方向に誘導するように張られている。即ち、図15に示すように、沿岸付近では等深線と大体40〜50度の角度で交差し、垣網51の中間、或いは身網60近くでは等深線と直角に近づくように張立てる(非特許文献5参照)。
【非特許文献5】井上実著、漁具と魚の行動、第2章の2垣網に対する魚の行動、PP29−41、恒星社厚生閣刊
【0006】
等深線に沿って移動してきた魚17は垣網51に遭遇すると図16に示すように種々の方向(矢印L、S、R、B方向)に進路を変更する。網目を通過する(S方向)魚、端口56方向(L方向)に進む魚、沿岸方向(R方向)に進む魚、元の方向(B方向)に引き返す魚がおり、必ずしも大半の魚がL方向に進む訳ではない。しかし、障害物に出会った魚は勾配が急であれば(等深線が密集している所では)遊泳層より深いところ(深み)、暗いところに沈降する傾向があることが実験的に認められている。そして、ここでは、L方向に進む魚の挙動のみが重要である。
【0007】
さらに、端口56方向に進む魚であっても、垣網51に対する魚(又は魚群)の行動は魚種によって一様ではなく、垣網51の材料と目合、垣網51の姿勢と角度、魚の成群状態、周りの明るさなどにも影響される。例えば、図17に示すように、ブリの場合は30m位の水深の層から垣網51に接近し、垣網51から10m位離れて垣網51に沿って泳ぎ、黒鮪では昼間は10〜15m離れるが夜間では5〜6m位まで接近して泳ぐと言われている(非特許文献1)。
【0008】
上記した定置網は海流に乗って回遊してくる魚類を捕獲する漁法であり、比較的に少ない労力で、しかも大量の魚類を捕獲することができ、種々の魚類に適用できる有力な漁法の1つであった。しかし、非特許文献6,7に示すように、近年、中国や韓国の沿岸でエチゼンクラゲが大量発生し、成長しながら海流(対馬暖流)に乗って日本海を北上し、日本海の沿岸にも来遊するという現象が頻発するようになってきた。日本海沿岸に来遊したエチゼンクラゲは定置網にも進入し、定置網漁業に大きな被害を与えている。図18に示すように、成長したエチゼンクラゲの大きなものは、傘81の直径(D)が100cm以上にもなり、正常な個体では糸状付属器82の長さ(L)は傘径Dの3〜5倍にもなる。また、重量も200kgにもなるために、エチゼンクラゲの入網により漁具の破損、操業効率の低下、操業海域の縮小、選別時間の増加、クラゲの触手による魚体の損傷(商品価値の低下)等の被害が生じている。なお、実際に遊泳している成長したエチゼンクラゲの糸状付属器82は大部分が失われている。
【非特許文献6】島根県水産試験場HP、エチゼンクラゲについて
【非特許文献7】安田徹編、海のUHOクラゲ、116−120頁、恒星社厚生閣
【0009】
エチゼンクラゲの定置網への入網を防止する有効な手段は現在の所、まだ開発中である。提案された方法としては非特許文献8に開示されているものがある。図19(A)はこの垣網51の構造を示し、図19(B)はこの垣網51の作用効果を示す。この垣網51は垣網部51aの下側に目合の大きい捨て網部51bを設けてエチゼンクラゲを通過させる仕組みになっている。具体的な実施例では、垣網部51aは海面から41.5mの深さまで目合いが45cmの網を使用し、捨て網部51bは垣網部51aの下部から海底(55.5mの深さ)まで目合いが150cmの網を使用している。また、設置方法は図示のように、海面から海底に向けて潮流に対して後方に斜めになるように張り立てる。移動してきたエチゼンクラゲは垣網51の垣網部51aに遭遇すると垣網部51aに沿って潜り込み、捨て網部51bから抜けて下流に向けて移動する。試験結果では魚類を逃がすことなくエチゼンクラゲだけを通過させることができたと報告している。しかし、この垣網51には、以下のような問題点がある。即ち、直接に囲網52の端口56付近に到達したエチゼンクラゲは囲網52、箱網53の内部に入ってしまうおそれがあり、従来のような被害が発生する。また、エチゼンクラゲは薄明時刻の夕方や朝方、日中の天候が曇天時や小雨の場合等に海面に浮遊する性質があるが、これらの場合にも垣網に沿って潜り込み、捨て網部から抜けるか否かが疑問である。さらに、垣網は海底までの深さが40m以下の浅い場所にも設置されるが、この場合に捨て網部51bを設けないと大量のクラゲが垣網51に漂着して垣網51が破損する等の不都合が生じるおそれもある。また、40m以上の深い海中を泳いでいる魚は捨て網部51bの網目から抜けて逃げてしまうという問題もある。
【非特許文献8】島根県水産試験所HP、とびっくす(トビウオ通信号外)第7号、2−(2)定置網、平成18年3月30日発行
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本願発明はこのような状況下でなされたものであり、比較的簡単な改良によってエチゼンクラゲ等の巨大クラゲの入網を排除し、魚を有効に捕獲する定置網を提供することを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は上記の課題を解決するために、回遊する魚類の性質とエチゼンクラゲ等の巨大クラゲの性質との相違を利用する。最も大きな相違の1つとして、エチゼンクラゲ等の巨大クラゲはプランクトンの一種であり、遊泳能力が弱いため、速い海流の流れに逆らえない生物であるのに対して、回遊魚類はネクストンであって、鮪のように海流に逆らって泳ぐ遊泳能力がある生物である(非特許文献9参照)。次に、第2番目の相違として、魚類は外界を認識できる眼(魚眼)を持っているが、エチゼンクラゲは外界を認識できる眼を持っていないことである。
【非特許文献9】久保田信他監修、クラゲのふしぎ、技術評論社、平成18年9月1日発行
【0012】
魚眼は図9(A)に示すように、角膜71、水晶体(レンズ)72、靱帯73、ガラス様体74、網膜75、虹彩76、視神経77等で構成されている。レンズ72は水とほぼ同じ濃度の液体で満たされており、網膜75に像を結ばせるためにレンズ72の曲率が大きくなっている。魚は靱帯73によってレンズ72と網膜75の距離をわずかに調節するだけで網膜75上に像の焦点を結ばせる。魚のレンズ72は球形で焦点距離が著しく短い。従って、約1mの範囲内の対象ならはっきりと識別できるが、視覚のとどく最高の距離は15m程度である。水の透明度が極めて良好な場合でも魚が物を認め得る距離は最大30m以下である。また、魚の目は、図9(B)に示すように凸形状の顔の両側に各々1個ずつ眼を持っており、両眼で1個の物を見るより、単眼視でそれぞれの眼が重なり合わない別々の像を見ることが多い。例えば、マスの成魚では、図10に示すように、単眼視の水平視野(α)は約160度(なお、垂直視野は150度)である。また、両眼視(前方視)による水平視野(β)は20〜30度である。従って、魚は両眼視野の中では図11に示すように、正確な距離を測り、物の形状を認識できるが、単眼視(側方視)の視野では両眼視の場合よりも遠くまで見えるけれども、物の形状は、はっきりせず、動きだけを感じる。従って、餌や外敵の動きは側方視で捕らえ、その形状の確認は(振り向いて)前方視でなされる。なお、前方視の視覚の届く範囲は最高でも15メートル位である。
【非特許文献10】井上実著、魚の行動と漁法、第3章「感覚」、恒星社厚生閣刊(1978)
【0013】
一方、ミズクラゲの場合、眼は傘の縁辺部に眼点として存在するが、眼のレンズもなく、光の強弱は判別できても、人や魚のように物、例えば垣網の網自体を眼で見る(認識する)ことはできない。エチゼンクラゲについても同様と考えられる。しかし、傘の周縁部に無数の感覚器があり、ここで物を触覚により認識していると考えられている。
【0014】
以上のことから従来の垣網51に対する魚17とエチゼンクラゲ10の行動を比較すると図17に示すようになる。即ち、湾内に突入した魚17は等深線に沿って移動し、垣網51に遭遇する。垣網51に遭遇した魚17は逃避的に垣網51から数メートル(4〜5m)〜20メートル位離れて垣網51に沿って沖方向へ移動し、端口56から囲網(身網)60内へ進入する。これに対して潮流に乗ってきたエチゼンクラゲ10は垣網51に遭遇すると近接した状態で垣網51に沿って移動し、囲網(身網)60内へ進入する。
【0015】
魚17が垣網51に遭遇した場合、垣網51は魚17の移動方向と略直角に張られているために魚17は垣網51を両眼視でしっかりと確認することができる。従って、これを異物(通常海には存在しない異物)として認識し、逃避的に垣網51から一定距離を離れて垣網51に沿って沖方向(深み方向)へ移動する。しかし、垣網51に沿って移動しているときは、特別な異変を感じない限り、魚17は垣網51を単眼視状態で側方視しているのであり、垣網51をぼんやりとしか認識していない。
【0016】
図12は魚17が垣網51に沿って移動しているときの明視できる範囲を示す。図12において、魚17が垣網51から距離Dを離れて移動する場合を示す。距離Dは数mから20m位である。一点鎖線7は両眼視の水平視野の中心線(視軸)で、この中心線7を挟んで両眼視の視野角度をβとした場合に点Pまでの距離をXとし、点Pまでの長さをLとする。距離Dが3(m)〜10(m)の場合について距離Xと長さLを求めると図12の下表のようになる。この結果から理解できるように、魚17が垣網51に沿って移動する場合に魚17が垣網51を認識できるのは、水平視野角度が20度の魚17では垣網51からの距離が3(m)離れて移動する場合が限界であり、水平視野角度が30度の魚17でも垣網51からの距離が5(m)離れて移動する場合が限界である(距離Lが15メートルを超えている)。以上の説明から魚17が垣網51に沿って移動している場合(単眼視の場合)は、垣網51をはっきりと認識していないことが理解できる。
【0017】
しかしながら、垣網51は魚群17の通路を遮断して身網の方向へ誘導するためのものであり、魚類17にとって見えやすい黄色や藁色等が使用されている。また、海流が垣網51当たって生じる低周波音(100〜1000Hz)も感じることができる。従って、垣網51に大きな開口を設けると、魚類17がその開口に気付いて開口を通過して逃げてしまうおそれがある。そこで、本願発明は以下の構成を採用している。
【0018】
請求項1に記載の発明は、海流が流れている漁場に設置される定置網において、前記定置網の垣網に巨大クラゲが下流に向かって通過する開口を設けると共に該開口に巨大クラゲを誘導するガイドを設けたことを特徴としている。
本発明は巨大クラゲの入網を確実に排除することを主目的としている。
【0019】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記開口にカバーを設けて前記垣網に沿って移動する魚が該開口を気付かないか、或いは注視しないようにしたことを特徴としている。
本発明はガイド網と共にカバー網を設けて、魚類が開口に気付いて垣網から下流に逃げてしまうことを防止することを主目的としている。
【0020】
請求項3に記載の発明は、請求項1又は請求項2に記載の発明において、前記開口は、海面近傍から正常な巨大クラゲが遊泳する深さまでとしたことを特徴としている。
【0021】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜請求項3に記載の発明において、前記開口は、幅1〜3メートルの長方形としたことを特徴としている。
【0022】
請求項5に記載の発明は、請求項1〜請求項4に記載の発明において、前記開口の深さは、水深30メートル以内又は垣網の底部の水深と同一にしたことを特徴としている。
【0023】
請求項6に記載の発明は、請求項1 〜請求項5に記載の発明において、前記開口を前記垣網の長さ方向に対して(20〜50)メートルごとに設けたことを特徴としている。
【0024】
請求項7に記載の発明は、請求項1〜請求項6に記載の発明において、前記カバー部、ガイド部は前記垣網の網材と同一の網材を利用して形成したことを特徴としている。
【0025】
請求項8に記載の発明は、海流が流れている漁場に設置される定置網において、前記定置網の垣網を複数の区分に分割し、隣接する2つの区分のうち、海岸側区分の沖側縁辺部と沖側区分の海岸側縁辺部との間に巨大クラゲが通過できる開口を形成したことを特徴としている。
【0026】
請求項9に記載の発明は、請求項8に記載の発明において、前記開口は、隣接する2つの区分のうち、海岸側区分の沖側縁辺部を海流の下流方向に曲げて配置し、又は、沖側区分の海岸側縁辺部を海流の上流方向に曲げて配置して形成したことを特徴としている。
【0027】
請求項10に記載の発明は、請求項8に記載の発明において、前記開口は、隣接する2つの区分のうち、海岸側区分の垣網を海流の上流方向に移動させて配置し、又は、沖側区分の垣網を海流の海流方向に移動させて配置して形成したことを特徴としている。
【0028】
請求項11に記載の発明は、請求項9又は請求項10に記載の発明において、前記隣接する区分の垣網において、海岸側区分の沖側端を含む縁部と前記沖側区分の海岸側端を含む縁部とが、海流の上流方向から見た場合に重複するように構成したことを特徴としている。
【0029】
請求項12に記載の発明は、海流が流れている漁場に設置される定置網において、前記定置網の垣網に沿って誘導されてきた巨大クラゲを溜めるための窪み部を該垣網に設けたことを特徴としている。
【0030】
請求項13に記載の発明は、請求項12に記載の発明において、前記窪み部に進入した巨大クラゲを下流方向に開放する開口を設けたことを特徴としている。
【0031】
請求項14に記載の発明は、請求項12に記載の発明において、前記垣網に沿って誘導されてきた魚が前記窪み部に進入しないように該窪み部の上流側にカバーを設けたことを特徴としている。
【0032】
請求項15に記載の発明は、請求項8〜請求項14に記載の発明において、前記開口の幅は1〜2メートルとした特徴としている。
【発明の効果】
【0033】
本願の発明によれば、海流に乗って回遊し、定置網に進入するエチゼンクラゲクラゲ等の巨大クラゲを垣網の下流側に逃がすようにしたので、巨大クラゲによる被害をなくし、或いは大幅に減少させて、魚類を有効に捕獲することができるという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0034】
<実施形態1>
図1は、本発明を実施する実施形態1の上流側から見た垣網の正面斜視図を示す。図2は垣網11のガイド13並びにカバー14の上から見た平面図を示す。図1において、垣網11の上側(海面側)ロープ7には複数の浮子8が設けられ、浮子8からロープにより沈子6が海底に載置され、網部6が張られた状態で固定される。網部6は海中の魚群の通路を遮断するように張られる。このため、網部6は、見えやすい黄色や藁色等の網糸が使用される。網部6の適当な箇所に、図1に示すように、巨大クラゲ10を逃がすための開口12を設ける。
【0035】
開口12は、幅は(1〜3)メートルで、縦長さは略海面の位置(例えば、海面下0〜3メートル)から適当な深さ位置(例えば、30メートル)又は海底の深さ位置(浅い海底の場所では)までの矩形で構成されている。開口12は網部6の横方向長さに対して巨大クラゲ10の来遊する数を考慮して適切な個数を設ける。例えば、網部6の横長さ(30〜50)メートルにつき1個の割合で開口12を設ける。垣網11の上流側に来遊した巨大クラゲ10を適宜下流側に開放するためである。
【0036】
開口12の沖側に巨大クラゲ10を誘導するためのガイド13が設けられている。ガイド13はガイド面の縁部をロープで縁取りし、内側にガイド網13nを張る。ガイド網13nは網部9と同じ網糸、網目で構成してもよい。ガイド13の上縁には略「コ」字形状の浮棒13aを取付けて、両端をロープ等で浮子8に固定する。ガイド網13nは、浮棒13aの入口側を除いて、ガイド面に張る。ガイド網13nの下縁には沈み棒13cを設けて、沈み棒13cの適宜な箇所に重り13dを設けて海底に固定する。なお、ガイド面は開口12の幅に比べて大きく(2倍程度に)する。垣網11に沿って泳ぐ魚に対して開口12がガイド網13nの陰になって直接見えないようにするためである。また、ガイド13の出口側(図の右側)縁を垣網11に接続して巨大クラゲ10を確実に開口12に導くようにするのが好ましい。
【0037】
ガイド13の入口から岸方向に適当な距離(2〜4メートル)離れた位置にカバー14を設ける。カバー14は、垣網11に沿って(特に、垣網11に近接しながら)沖方向に移動する魚17にとって開口12の発見を困難にして、魚17が開口12から下流方向に逃げて行くのを防止する。カバー14はカバー面の縁部をロープで縁取りし、内側にカバー網14nを張る。カバー面の上側縁にV字型の浮棒14aを設けて、その両端をロープ7に設けられた浮子8に固定する。なお、カバー面は浮棒14a岸側面の片面に設ける。また、カバー面の下縁に沈み棒14cを設けて、沈み棒14cの適宜な箇所に重り14dを設けて海底に固定する。
【0038】
図2で、魚17と巨大クラゲ10が沖方向に移動する状況の説明図を示す。図2におけるように、垣網11の開口12の沖側の辺を点G0とし、開口の岸側の辺をFとする。距離W(F、G0)は開口12の幅を示す。折れ線(G0,G1,G2)はガイド13の網部13nを上から見た線である。また、直線(C0,C1)はカバー14の網部14nを上から見た直線である。ガイド網13nの水平距離Lは点G0と点G2の水平距離(G0,G2)で、ガイド網13nの先端G2とカバー網13nの先端C1との水平距離をBとする。また、一点鎖線17sは魚17が沖方向に進むラインである。距離Dは垣網11とライン17sとの距離である。なお、点G2は点G1の垣網11からの距離と等しいか、遠くの点を選ぶ。
【0039】
図2は、幅Wを2.5メートル、距離Lを4メートル、距離Bを2.25メートル、距離Dを5メートル、巨大クラゲ10の傘径を1メートルとした場合の縮尺図を示している。図2において、巨大クラゲ10は岸方向から沖方向に(左から右に)移動する。先ず、巨大クラゲ10はカバー網14nに遭遇し、網14nに沿って、1.5メートルほど上流に向かう。しかし、点C1から下流方向に向かって移動し、点G2を通過するときには垣網11に十分に接近しており、更に右方向に移動するとガイド網13nに従って開口12に到達し、開口12から下流に向かって移動する。
【0040】
一方、魚17はカバー網14nに気付けば少し上流方向(図の上方向)に移動するが、気付かない場合はそのままライン17s上を移動する。従って、魚17にとっては開口12が直接見えず、ガイド網13nを通してしか見えない。魚17はライン17s上を移動しているときは、敵に追われているとかの特別の事情がないかぎり、単眼視で垣網11を見ているために距離感がなく、ぼんやりとしか見えないため、垣網11とガイド網13n、カバー網14nとの区別は認識できない。従って、魚17は開口12に注意を払わずに端口56方向に移動する。逆に、巨大クラゲ10は垣網11に沿って端口方向に移動し、開口12から開放されて下流に向かうために端口56に到達しない。
【0041】
以上に述べたように、巨大クラゲ10を開口12から確実に下流方向に通過させ、同時に魚17に開口12を気付かせないようにガイド13,カバー14を構成する。
【0042】
<実施形態1の変更例>
図3及び図4の(A)〜(D)は、上記実施形態のガイド13,カバー14の変更例を示す。図(A)はカバー14を湾曲状にして沖方向に延長し、ガイド13を垣網11の上流方向に突き出るように形成し、ガイド機能を完全にすると共に、下流方向にもガイド13延長して開口12を気付き難くさせた例である。図(B)はカバー14を省略し、ガイド13を垣網11の下流側に設けた例である。この例では、魚17が開口12を通過するまでは、距離感がないために、ガイド13と垣網11とを誤認識し、開口12から相当距離沖側に進んだところで開口12の一部がぼんやり見えるだけなので魚17はそのまま沖方向に移動する。また、図(C)は開口12の上流にガイド13を平行に、又は少し傾斜させて設けた例である。図(D)はカバー14を省略した例である。
【0043】
<実施形態2>
図5は請求項8、請求項9に対応する実施形態である。図5において、垣網21を複数の区間(区分)に分割し、分割した隣接区分の境界に開口22を設ける。即ち、分割した境界点Pの海岸側区分の沖側端点Aを海流の下流側方向に曲げて移動させ、沖側区分の海岸側端点Bを上流側方向に曲げて配置し、垣網21の点Pに開口22を設ける。開口22は点Aと点Bを結んだ点線の直線で示す。この場合の開口の幅は距離(A,B)ではなく点Aを含んだ縁部(曲線)と点Bを含んだ縁部(曲線)間の距離である。なお、点Aを含む縁部と点Bを含む縁部は海流の流れ方向から見た場合に両縁部が重複するようにしてもよい。
この場合の垣網の固定方法は、まず、垣網21を元の曲線に沿って固定する。次に、開口22は直線(A、B)をロープで張架し、点A及び点Bにロープを結び、そのロープに沈子を結んで固定する。
【0044】
実施形態2は上記の構成により、海流に乗って回遊してきたエチゼンクラゲ10は垣網21に接近すると、進路を変えて垣網21に沿って沖方向に移動する。このとき、エチゼンクラゲ10は開口22を通過して海流の下流方向に向けて遊泳(脱出)する。一方海流に乗ってきた魚類17は垣網21に接近すると、垣網21から数メートないし十数メートル離れて垣網21に沿って沖方向に移動する。従って、魚類17は開口22を発見できずそのまま進行し、端口16から囲網15の内部に進入する。
【0045】
<実施形態2の変更例>
図6、図7は請求項10に対応する実施形態で、実施形態2を変更した例である。図6において、図の点線のように張られた垣網31を複数の区分に分割し、海岸側に最も近い区分31aは元の位置に配置し、それに隣接する区分31b、31c、・・を順次海流の上流側に移動させて開口32a、32b、32c、・・を形成する。なお、この場合においても、区分の端点を延長して、海流の流れ方向から見たときに重複するようにしてもよい。開口32a、32b、・・・の各幅は当地に来襲するエチゼンクラゲの大きさを考慮して(1〜2)メートルとする。なお、略1.5メートル程度とするのが好ましい。
【0046】
図6は垣網31(31a、31b、・・・)の固定方法の例を示す。図6において、垣網31の上縁にステップ状にしたロープ33を設け、ロープ33に多数の浮子を設けて垣網31(31a、31b、・・・)の上縁を海面に保持すると共に、ロープ33の全ての折点(角)を沈子によって海底に固定する。また、垣網31(31a、31b、・・・)の下縁にも従来技術と同様に沈子を設ける。
【0047】
実施形態2は上記の構成により、海流に乗って回遊してきたエチゼンクラゲ10は垣網21(又は31、以下同じ)に接近すると、進路を変えて垣網21に沿って沖方向に移動する。このとき、エチゼンクラゲ10は開口22(又は32)を通過して海流の下流方向に向けて遊泳(脱出)する。一方海流に乗ってきた魚類17は垣網21に接近すると、垣網21から数メートないし十数メートル離れて垣網21に沿って沖方向に移動する。従って、魚類17は開口22を通過することはできず、端口16から囲網15の内部に進入する。
【0048】
<実施形態3>
図8は本発明の請求項12〜請求項14に対応する実施形態3の平面図を示す。図8において、垣網41は従来の垣網51と略同様に張られる。従来の垣網51と異なる点は、垣網41の途中に1個又は複数個の窪み部42を設けた点である。窪み部42は図示のように、海流の下流側に凹んでいる。窪み部42の間口(入口)ABの幅は垣網41に沿って移動してきたエチゼンクラゲ10が窪み部42に入ってしまう程度に広く(例えば、数メートル)する。また、窪み部42の奥行きは窪み部42の奥まで進入したチゼンクラゲ10が出口側の点Bから上流に向かって簡単に脱出できないようにする。また、垣網41の固定方法は、間口ABを直線で結んだ垣網41の上縁にロープを設けて、該ロープを従来技術と同様に固定し、該ロープの点A、点Bに窪み部42の両端を固定し、窪み部42の垣網を所定の形状に合わせて固定する。
【0049】
さらに、窪み部42の下流側底部に開口43を設けてエチゼンクラゲ10が垣網41の下流側に脱出できるようにする。これによって、窪み部42に溜まったエチゼンクラゲ10の一部は適宜に垣網41の下流方向に脱出し、他の一部が窪み部42に留まる。このため、魚類17はエチゼンクラゲ10を嫌って窪み部42に進入しない。更に、窪み部42の上流側に適度の長さのカバー44を設ける。カバー44の海岸側端点Cと点Aとの距離は1.5メートル以上とし、沖側端点Dは点Bと一致させてもよい。この場合、エチゼンクラゲ10は確実に窪み部42に進入する。一方、魚類17は窪み部42に進入せずに、カバー44の上流側に沿って端口16から囲網15の内部に進入する。
【0050】
実施形態3は上記の構成により、海流に乗って回遊してきたエチゼンクラゲ10は垣網31に接近すると、進路を変えて垣網41に沿って沖方向に移動する。このとき、エチゼンクラゲ10は窪み部42に溜まる。溜まったエチゼンクラゲ10は開口43を通過して海流の下流方向に向けて遊泳(脱出)する。一方海流に乗ってきた魚類17は垣網41に接近すると、垣網41から数メートないし十数メートル離れて垣網41に沿って沖方向に移動する。従って、魚類17は窪み部42の上流側を垣網41及びカバー44に沿って移動し、端口16から囲網15の内部に進入する。
【0051】
以上に説明したように、本実施形態1〜実施形態3の定置網によれば、海流に乗って魚類17とエチゼンクラゲ10が一緒に回遊して来た場合にも、エチゼンクラゲ10は囲垣網15の内部に進入せず、魚類17のみが囲網15の内部に進入する。従って、魚類17のみを捕獲できるという効果がある。また、エチゼンクラゲ10を下流方向に放出するので、エチゼンクラゲ10による被害(囲網の破損等)を防止することもできる。
【0052】
以上本発明の実施形態を図面に基づいて詳述してきたが、本発明の技術的範囲はこれに限られるものではない。例えば、上記実施形態では片端口の場合を説明したが、両端口を採用した場合も本発明の技術的範囲に属する。また、垣網の固定方法は上記実施形態に述べた方法に限定されない。囲網や箱網等の敷設方法や位置についても同様である。また、上記実施形態では落とし網の場合について述べてきたが、本発明の技術的範囲はこれに限られず、他の形式の定置網やサイズの異なる中型又は小型の定置網にも適用される。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明を実施した実施形態1の正面図を示す。
【図2】実施形態1の平面図を示す。
【図3】実施形態1の変更例の平面図を示す。
【図4】実施形態1の変更例の平面図を示す。
【図5】実施形態2の全体平面図を示す。
【図6】実施形態2の変更例の平面図を示す。
【図7】実施形態2の固定例を示す。
【図8】実施形態3の平面図を示す。
【図9】(A)魚眼の構造を示す。(B)魚の両眼の配置を示す。
【図10】魚の両眼視の水平視野と単眼視の水平視野を示す。
【図11】魚の両眼視と単眼視の見え方を示す。
【図12】魚の明視の範囲を示す。
【図13】標準的な定置網の構成例を示す。
【図14】垣網の構成例を示す。
【図15】魚群の行動と等深線の関係を示す。
【図16】魚群の垣網に対する行動パターンを示す。
【図17】垣網に対する魚群の行動と巨大クラゲの行動を示す。
【図18】成長したエチゼンクラゲの構成を示す。
【図19】従来のエチゼンクラゲの入網を防止した垣網を示す。
【符号の説明】
【0054】
10 エチゼンクラゲ等の巨大クラゲ
11、21、31、41、51 垣網
12、22,32、43 垣網の開口
13 ガイド
14、44 カバー
15 囲網
16、56 端口
17 魚類
42 窪み部
【特許請求の範囲】
【請求項1】
海流が流れている漁場に設置される定置網において、前記定置網の垣網に巨大クラゲが下流に向かって通過する開口を設けると共に該開口に巨大クラゲを誘導するガイドを設けたことを特徴とする定置網の垣網。
【請求項2】
前記開口にカバーを設けて前記垣網に沿って移動する魚が該開口を気付かないか、或いは注視しないようにしたことを特徴とする請求項1に記載の定置網の垣網。
【請求項3】
前記開口は、海面近傍から正常な巨大クラゲが遊泳する深さまでとしたことを特徴とする請求項1又は請求項2の何れか1に記載の定置網の垣網。
【請求項4】
前記開口は、幅1〜3メートルの長方形としたことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1に記載の定置網の垣網。
【請求項5】
前記開口の深さは、水深30メートル以内又は垣網の底部の水深と同一にしたことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1に記載の定置網の垣網。
【請求項6】
前記開口は、前記垣網の長さ方向に対して(20〜50)メートルごとに設けたことを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか1に記載の定置網の垣網。
【請求項7】
前記カバー、ガイドは前記垣網と同一の網材を利用して形成したことを特徴とする請求項1〜請求項6の何れか1に記載の定置網の垣網。
【請求項8】
海流が流れている漁場に設置される定置網において、前記定置網の垣網を複数の区分に分割し、隣接する2つの区分のうち、海岸側区分の沖側縁辺部と沖側区分の海岸側縁辺部との間に巨大クラゲが通過できる開口を形成したことを特徴とする定置網の垣網。
【請求項9】
前記開口は、隣接する2つの区分のうち、海岸側区分の沖側縁辺部を海流の下流方向に曲げて配置し、又は、沖側区分の海岸側縁辺部を海流の上流方向に曲げて配置して形成したことを特徴とする請求項8に記載の定置網の垣網。
【請求項10】
前記開口は、隣接する2つの区分のうち、海岸側区分の垣網を海流の上流方向に移動させて配置し、又は、沖側区分の垣網を海流の海流方向に移動させて配置して形成したことを特徴とする請求項8に記載の定置網の垣網。
【請求項11】
前記隣接する区分の垣網において、海岸側区分の沖側端を含む縁部と前記沖側区分の海岸側端を含む縁部とが、海流の上流方向から見た場合に重複するように構成したことを特徴とする請求項9又は請求項10の何れか1に記載の定置網の垣網。
【請求項12】
海流が流れている漁場に設置される定置網において、前記定置網の垣網に沿って誘導されてきた巨大クラゲを溜めるための窪み部を該垣網に設けたことを特徴とする定置網の垣網。
【請求項13】
前記窪み部に進入した巨大クラゲを下流方向に開放する開口を設けたことを特徴とする請求項12に記載の定置網の垣網。
【請求項14】
前記垣網に沿って誘導されてきた魚が前記窪み部に進入しないように該窪み部の上流側にカバーを設けたことを特徴とする請求項12に記載の定置網の垣網。
【請求項15】
前記開口の幅は1〜2メートルとした特徴とする請求項8〜請求項14の何れか1に記載の定置網の垣網。
【請求項1】
海流が流れている漁場に設置される定置網において、前記定置網の垣網に巨大クラゲが下流に向かって通過する開口を設けると共に該開口に巨大クラゲを誘導するガイドを設けたことを特徴とする定置網の垣網。
【請求項2】
前記開口にカバーを設けて前記垣網に沿って移動する魚が該開口を気付かないか、或いは注視しないようにしたことを特徴とする請求項1に記載の定置網の垣網。
【請求項3】
前記開口は、海面近傍から正常な巨大クラゲが遊泳する深さまでとしたことを特徴とする請求項1又は請求項2の何れか1に記載の定置網の垣網。
【請求項4】
前記開口は、幅1〜3メートルの長方形としたことを特徴とする請求項1〜請求項3の何れか1に記載の定置網の垣網。
【請求項5】
前記開口の深さは、水深30メートル以内又は垣網の底部の水深と同一にしたことを特徴とする請求項1〜請求項4の何れか1に記載の定置網の垣網。
【請求項6】
前記開口は、前記垣網の長さ方向に対して(20〜50)メートルごとに設けたことを特徴とする請求項1〜請求項5の何れか1に記載の定置網の垣網。
【請求項7】
前記カバー、ガイドは前記垣網と同一の網材を利用して形成したことを特徴とする請求項1〜請求項6の何れか1に記載の定置網の垣網。
【請求項8】
海流が流れている漁場に設置される定置網において、前記定置網の垣網を複数の区分に分割し、隣接する2つの区分のうち、海岸側区分の沖側縁辺部と沖側区分の海岸側縁辺部との間に巨大クラゲが通過できる開口を形成したことを特徴とする定置網の垣網。
【請求項9】
前記開口は、隣接する2つの区分のうち、海岸側区分の沖側縁辺部を海流の下流方向に曲げて配置し、又は、沖側区分の海岸側縁辺部を海流の上流方向に曲げて配置して形成したことを特徴とする請求項8に記載の定置網の垣網。
【請求項10】
前記開口は、隣接する2つの区分のうち、海岸側区分の垣網を海流の上流方向に移動させて配置し、又は、沖側区分の垣網を海流の海流方向に移動させて配置して形成したことを特徴とする請求項8に記載の定置網の垣網。
【請求項11】
前記隣接する区分の垣網において、海岸側区分の沖側端を含む縁部と前記沖側区分の海岸側端を含む縁部とが、海流の上流方向から見た場合に重複するように構成したことを特徴とする請求項9又は請求項10の何れか1に記載の定置網の垣網。
【請求項12】
海流が流れている漁場に設置される定置網において、前記定置網の垣網に沿って誘導されてきた巨大クラゲを溜めるための窪み部を該垣網に設けたことを特徴とする定置網の垣網。
【請求項13】
前記窪み部に進入した巨大クラゲを下流方向に開放する開口を設けたことを特徴とする請求項12に記載の定置網の垣網。
【請求項14】
前記垣網に沿って誘導されてきた魚が前記窪み部に進入しないように該窪み部の上流側にカバーを設けたことを特徴とする請求項12に記載の定置網の垣網。
【請求項15】
前記開口の幅は1〜2メートルとした特徴とする請求項8〜請求項14の何れか1に記載の定置網の垣網。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図2】
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【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【公開番号】特開2008−228723(P2008−228723A)
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−219697(P2007−219697)
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(306030301)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成20年10月2日(2008.10.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成19年8月27日(2007.8.27)
【出願人】(306030301)
【Fターム(参考)】
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