説明

実験動物経肺投与用装置

本発明は、実質的に閉鎖された動物収容育房からなり、育房壁を介して通じる薬品ネブライザー、および育房内を新鮮な空気と交換し得る1つ以上のフィルター付き入口を有する実験動物医薬品試験装置に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は医薬品の開発に関し、より詳しくは、動物における前臨床安全性および有効性の研究を実施するための用具の改善に関する。
【背景技術】
【0002】
医薬品開発は時間を費し、費用のかかる活動である。その手順は、安全性と、その薬物が有効であることの確実性の双方について厳格に規定されている。医薬となる可能性について検討された多くの化合物が、殆ど初期の研究段階で脱落してしまう。化学的試験に続き、インビトロと動物での検討による広範囲の研究が実施される。
【0003】
動物での研究は医薬品開発の不可欠の部分である。典型的に、候補薬物は最初に分離細胞、組織切片または臓器にて試験される。生きている動物での研究は、実験室の人工的環境で薬物が作用したと同じ様式で薬物が生体内でも作用するかどうかを示すものである。またその研究は、生体の異なる細胞と臓器間の相互作用に薬物がどのように影響するかをも示す。有望な薬物が動物において安全であり、かつ有効であると思われる場合には、次いでヒトで試行検討される。
【0004】
薬理学および肺毒物学の研究のためには、乾燥粉末を動物に投与することが、乾燥粉末吸入療法の開発において必要とされるステップである。これらの研究を実施するためには、乾燥粉末治療薬をエーロゾル化し、制御され、測定可能であり、かつ再現性のある方法で動物に送達する必要がある;その際、粉末治療薬は以下の所定の粒度分布とする:1)ヒトと同様の方法で動物に投与したときのその有効性と安全性について、可能性のある化合物を選別すること;および2)当該治療薬がヒトでの試験に安全であるとするFDAの規定を満たすこと。現行の乾燥粉末エーロゾル化システムは、当該技術分野の現状を代表するものであるが、比較的未発達のものであり効果的ではなく、それ自体では多くの場合に活性医薬成分の貴重な量目を相当量無駄にしてしまう。さらにこれらのエーロゾル化システムは、究極の意図する商品としての送達装置を確実には反映していない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】米国特許出願第12/828,133号明細書
【特許文献2】米国仮特許出願第61/222,418号明細書
【特許文献3】米国特許第6,026,809号明細書
【特許文献4】米国特許第6,142,146号明細書
【特許文献5】米国特許第6,152,130号明細書
【特許文献6】米国特許第7,318,434号明細書
【特許文献7】米国特許第7,334,577号明細書
【特許文献8】米国特許第7,343,914号明細書
【特許文献9】米国特許出願公開第2005/0172962号明細書
【特許文献10】米国特許出願公開第2008/0202514号明細書
【発明の概要】
【0006】
本発明は活性医薬成分の動物試験を実施するための改善されたシステムを提供する。以前に我々は、入念に制御された粒度を有する活性医薬成分を患者の肺に送達するための乾燥粉末吸入器における、乾燥粉末医薬の凝集化阻止およびエーロゾル化のための振動機構を採用したユニークな乾燥粉末吸入器について記載した。これらの同一の乾燥粉末吸入器は、前臨床動物試験における動物による吸入のための閉鎖環境において、活性医薬成分の“雲状物”を生成させるためにも有利に採用し得る。また、これらの同一の乾燥粉末吸入器は、所望用量の薬物を所定の時間投与できるように、断続方式でエーロゾル雲状物を生成させる振動機構を手動で作動させることによっても使用し得る;あるいは手動による作動は、動物の吸気またはチェーン・ストークス型呼吸を感知してエーロゾル化を自動的に作動させる原動機と置き換えてもよい。閉鎖環境とは、限定されるものではないが、動物を収容する育房もしくはチャンバー(全身投与のために動物をその中に収容する)、または外部の投与場所から動物が息を吸い込む育房もしくはチャンバー、または顔面マスクもしくは鼻限定マスクもしくは鼻腔カニューレなどを介して動物に直接チューブを挿入することなどである(記載例としては、出願人の係属中特許文献1;特許文献2に基づく;同時に提出した代理人事件記録簿マイクロドース(MICRODOSE)09.01;参照により本明細書の一部とする)。
【0007】
本発明のさらなる特徴と利点は、下記に示す図面と組み合わせて、以下の詳細な説明から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】図1は、本発明の一実施態様による実験動物全身投与装置を説明する。
【図2】図2は、本発明の他の実施態様による実験動物の“鼻限定”投与装置を説明する。
【図3】図3は、本発明のさらに別の実施態様を説明する。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1は、本発明の一実施態様を説明し、図中の医薬ネブライザー10は動物収容の育房14の側壁12を介して通じている。ネブライザー10は、好ましくは、乾燥粉末ネブライザーからなり、導管16を介して、実質的に気密の密閉状態を形成する側壁12の開口部18に通じている。この実施態様において、開口部18は、好ましくは、動物収容育房14の上部に位置し、粉末医薬の雲状物が育房14の上部に注入されて、粉末が育房14の床に沈降する前に育房の1匹もしくは複数の動物により粉末のバルクが吸入されるようになっている。本発明の好適な実施態様においては、空気が導管20と送風機22を介して育房14から再循環する。この方法において、未使用の薬物は無駄にならずに循環される。所望によっては、粉末化医薬成分を少しも漏出させることなく、密閉系中に新鮮な空気を導入するために、1個以上のフィルターを付した入口24を設けてもよい。
【0010】
医薬用ネブライザーは、好ましくは、マイクロドース セラピューテクス,インコーポレイテッド(MicroDose Therapeutx, Inc.)(モンマウスジャンクション、ニュージャージー)から入手し得る振動式乾燥粉末吸入器である。高周波数ピエゾバイブレーターを含む乾燥粉末吸入器(参照:http://mdtx.com/delivery-platforms/dry-powder-inhaler)。特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6、特許文献7、特許文献8および特許文献9、特許文献10(すべて共通の譲受人)。
【0011】
図2は、本発明の別の実施態様を説明するものであり、ここでは実験動物を拘束してその動物の鼻または口に薬剤を送達させるものである。実験動物の“鼻限定”投与装置は、動物収容チャンバー36に開口するメインチャンバー32とサイドチャンバー34とを含む投与チャンバー30からなる。動物収容チャンバー36は、実験動物38をヒトの力で拘束し、実質的に呼吸マスクとして作用するチャンバー42に当該動物の口と鼻が位置するような大きさのものとする。あるいは、鼻腔カニューレまたはマウスピースをチャンバー42に備え付けてもよい。チャンバー42(または場合により鼻腔カニューレまたはマウスピース)は、サイドチャンバー34と通じており、同様にチャンバー34はメインチャンバー32と通じている。薬剤は開口部44を経てメインチャンバー32に導入され、メインチャンバー32の下端で粉末薬の雲状物としてチャンバー42を介して動物に搬送される。雲状物は乾燥粉末エーロゾル発生器46にて創出した乾燥粉末エーロゾル化医薬品を掃引することにより創出され、加圧搬送気流により加圧空気源48から搬送される。空気圧は圧力調整装置50および任意のフロー制御装置52により調整する。
【0012】
この装置は、好ましくは、ガス洗浄機56、乾燥機58および空中への放出直前のフィルター60と排気送風機62に繋がる投与チャンバー30の上端に隣接して位置する出口54からなる。本方法においては、医薬の損失が最少となり、また実験室作業者の医薬への接触も最低となる。
【0013】
このシステムを完結するのはコンピューター64であり、これが空気流、乾燥粉末エーロゾル発生機操作の期間と頻度、振動素子の一定時間にまたは断続的に作動する回数などを制御する。該システムはまた装置と投与などの状況を表示する装置の操作に対しての視覚、聴覚もしくは触覚によるフィードバックをも含み得る。
【0014】
本発明のなおさらなる実施態様において、該ネブライザーは、実験動物のチェーン・ストークス型呼吸を感知することにより、停止と作動を誘発するものでもよく、例えば、出願人の上記係属中特許文献1(参照により本明細書の一部とする)の教示に従って、1回または数回の呼吸について操作し得る。例示すると、出願人の上記の係属出願の図6および7に示すように、吸入および/または呼気のサイクルを感知すると、エーロゾル発生器が短時間作動し、引き続いて一定量のチェースエアが粒子を動物に搬送するか、または随行する。吸入容量が低く、また吸入サイクルが短い場合、肺での析出を確かのものとするために、十分な量のチェースエアが必要である。吸入と呼気動作間の性質の差異を測定または同定するために使用し得るセンサーまたはセンサーの組み合わせを用いてエーロゾル発生器を同時に作動させ、またスイッチを開閉する。動物の吸入/呼気の検出に使用し得るセンサーの例は、フローセンサー、圧力センサー、吸気と呼気間の温度差を測定する温度センサー、吸気と呼気間の気体成分レベルの差を測定する二酸化炭素もしくは一酸化窒素もしくは他の気体のセンサーなどであり、また物理的測定システム、例えば、胸腔の拡張と収縮を測定する胸部ストラップなどもこの目的に採用し得る。本発明は新規かつ重要な利点を提供する。本発明の特徴と利点は、当該医薬ネブライザーが現存のシステムよりも優れた正確性、効率、および再現性を提供する能力を有することである。また、本発明は慎重に制御された肺用薬物投与量を、目標とする所望の粒度分布での送達を可能とする。薬物活性成分は、“正味の”噴霧乾燥もしくは微粉化薬物、またはラクトースとの混合物として送達してもよい。既存の実験動物試験用チャンバーと違って、本発明による実験動物試験用装置は目標とする大量媒体を空気力学的粒子径に維持するために、微粉化装置を組み入れる必要がない。従って、本発明は極めて少量の薬物の取り扱いを可能とし、薬物の無駄な消失を減少させ、より制御の行き届いた試験環境とより優れた一貫性のある用量送達を提供する。さらに、記載されたシステムは、ヒト用に開発された乾燥ネブライザーと手持ち式の吸入器とで使用される中核システムを直接に反映している。従って、動物試験について記載した、振動型乾燥粉末吸入器法を用いる実験動物への乾燥粉末活性医薬成分の投与は、ヒトにおける同じ活性医薬成分の送達をより厳密に模倣したものである。それ故、実験室で試験動物に乾燥粉末活性医薬成分を送達するための原動機として、ヒトでの送達に使用するものと本質的に同じ原動機を使用することにより、ヒト治験での毒性に関する初期薬学的研究のための送達規模が、より予測可能なものとなる。
【0015】
上記の発明においては、その精神と範囲から逸脱することなく、様々な変更をなし得る。例えば、実験動物に送達する場合、下部呼吸器官では粒度を制御することにより実施するが、それとは対照的に、鼻腔経路への送達では薬物量を制御することが可能である。さらにその他の変形も可能である。例えば、図3を参照すると、別の実施態様において、噴霧された薬物は顔面マスクもしくは鼻腔カニューレに繋がるチューブを介して個々の実験動物である霊長類に投与し得る;また、所望により、投与量は、例えば、吸入と呼気を感知することにより、他の実施態様に関して上で説明したように、ネブライザーのスイッチを開閉することで制御し得る。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
実質的に閉鎖された動物収容育房からなり、育房壁を介して通じる薬品ネブライザー、および育房内を新鮮な空気と交換し得る1つ以上のフィルター付き入口を有する実験動物医薬品試験装置。
【請求項2】
該ネブライザーが振動式乾燥粉末吸入器からなる請求項1に記載の装置。
【請求項3】
該振動装置がピエゾバイブレーターからなる請求項2に記載の装置。
【請求項4】
さらにマイクロプロセッサーおよび該ネブライザーを制御する装置を含んでなる請求項1に記載の装置。
【請求項5】
さらに該ネブライザーを制御するタイマーを含んでなる請求項1に記載の装置。
【請求項6】
さらに該動物収容育房に接続する気流装置を制御する電気制御装置を含んでなる請求項1に記載の装置。
【請求項7】
該投与送達量を該ネブライザーの一定時間にまたは断続的に作動する回数により決定する請求項1に記載の装置。
【請求項8】
さらに装置と投与の状況を表示する装置オペレーターへの視覚、聴覚もしくは触覚によるフィードバックを含んでなる請求項1に記載の装置。
【請求項9】
該動物の吸入および/または呼気のサイクルを感知し、該ネブライザーが該動物のチェーン・ストークス型呼吸と同時に作動して当該ネブライザーのスイッチが開閉される請求項1に記載の装置。
【請求項10】
吸入および/または呼気を、フローセンサー、圧力センサー、温度センサー、ガスセンサーおよび胸部ストラップからなる群より選択されるセンサーを使用して感知する請求項9に記載の装置。
【請求項11】
乾燥粉末医薬品を動物に送達する装置であって、
エーロゾル化医薬品を導入し得るエーロゾルチャンバーを規定する収容箱;
当該チャンバーの出口;
少なくとも一部、該出口を囲むマスク;および
医薬品をエーロゾル化し、該医薬品を該チャンバーに導入するためのネブライザー;
を含んでなる装置。
【請求項12】
さらにマイクロプロセッサーおよび該ネブライザーを制御する装置を含んでなる請求項11に記載の装置。
【請求項13】
さらに該ネブライザーを制御するタイマーを含んでなる請求項11に記載の装置。
【請求項14】
さらに該チャンバーに接続する気流装置を制御する電気制御装置を含んでなる請求項11に記載の装置。
【請求項15】
該投与送達量を該ネブライザーの一定時間にまたは断続的に作動する回数により決定する請求項11に記載の装置。
【請求項16】
さらに装置と投与の状況を表示する装置オペレーターへの視覚、聴覚もしくは触覚によるフィードバックを含んでなる請求項11に記載の装置。
【請求項17】
該マスクがマウスピースを含む請求項11に記載の装置。
【請求項18】
該マスクが鼻腔カニューレを含む請求項11に記載の装置。
【請求項19】
該動物の吸入および/または呼気のサイクルを感知し、該ネブライザーが該動物のチェーン・ストークス型呼吸と同時に作動して当該ネブライザーのスイッチが開閉される請求項11に記載の装置。
【請求項20】
吸入および/または呼気を、フローセンサー、圧力センサー、温度センサー、ガスセンサーおよび胸部ストラップからなる群より選択されるセンサーを使用して感知する請求項19に記載の装置。
【請求項21】
顔面マスクまたは鼻腔カニューレにチューブを介して繋がる医薬品ネブライザーおよび該ネブライザーを制御する制御装置を含んでなる実験動物医薬品試験装置。
【請求項22】
該ネブライザーが振動式乾燥粉末吸入器からなる請求項21に記載の装置。
【請求項23】
該振動装置がピエゾバイブレーターからなる請求項22に記載の装置。
【請求項24】
さらにマイクロプロセッサーおよび該ネブライザーを制御する装置を含んでなる請求項21に記載の装置。
【請求項25】
該制御装置がマイクロプロセッサーを含んでなる請求項21に記載の装置。
【請求項26】
さらに該ネブライザーに接続する気流装置を制御する電気制御装置を含んでなる請求項21に記載の装置。
【請求項27】
該投与送達量を該ネブライザーの一定時間にまたは断続的に作動する回数により決定する請求項21に記載の装置。
【請求項28】
さらに装置と投与の状況を表示する装置オペレーターへの視覚、聴覚もしくは触覚によるフィードバックを含んでなる請求項21に記載の装置。
【請求項29】
該動物の吸入および/または呼気のサイクルを感知し、該ネブライザーが該動物のチェーン・ストークス型呼吸と同時に作動して当該ネブライザーのスイッチが開閉される請求項21に記載の装置。
【請求項30】
吸入および/または呼気を、フローセンサー、圧力センサー、温度センサー、ガスセンサーおよび胸部ストラップからなる群より選択されるセンサーを使用して感知する請求項29に記載の装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公表番号】特表2012−531974(P2012−531974A)
【公表日】平成24年12月13日(2012.12.13)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−518613(P2012−518613)
【出願日】平成22年7月1日(2010.7.1)
【国際出願番号】PCT/US2010/040822
【国際公開番号】WO2011/003022
【国際公開日】平成23年1月6日(2011.1.6)
【出願人】(500566682)マイクロドース セラピューテクス,インコーポレイテッド (17)