説明

室内環境診断方法

【課題】
有害な特定化学物質を放散する家具、建材などの室内発生源の室内環境への影響を評価する基礎データを提供する.
【解決手段】
各発生源から放散される特定化学物質の単位面積・単位時間あたりの放散量(Fn)と、各発生源の表面積(Sn)に基づき、各発生源の単位時間あたり発生量(Qn)を算出し、これに基づき、各発生源のみが個別に室内に置かれたと想定したときの特定化学物質の個別室内濃度(Cn)を算出し、この個別室内濃度(Cn)に基づき室内環境への影響を評価する基礎データを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、家具、建材などの室内発生源から放散されるホルムアルデヒド等の有害な特定化学物質により汚染される室内環境について各発生源による影響を診断する室内環境診断方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、新築住宅に住む居住者に、頭痛、喉の痛み、眼の痛み、鼻炎、嘔吐、呼吸器障害、めまい、皮膚炎など様々な体調不良が生じている症例が数多く報告され、「シックハウス症候群」と呼ばれて社会的問題となっている。
このシックハウス症候群の発症メカニズムは未解明なところもあるが、主として、住宅内で使用される建材、家具、調度品、カーペット、カーテンなどに含まれるホルムアルデヒドや揮発性有機化合物(VOC)やなどの有害化学物質が放散されることによる室内空気汚染であると考えられている。
【0003】
ところで、新築の家などの居住者がこのようなシックハウス症候群に罹ったとき、あるいは新築に限らず高濃度の室内汚染が発見されても、その発生源を特定することは困難であった。
家具であれば、その家具を搬出した状態で室内濃度を測定することにより発生源を特定することは不可能ではないが、床材、壁材、天井材などのように家屋に建て付けられた建材は搬出することができない。
さらに、複数の発生源から放散されている場合に、その発生量を如何に調整すれば室内環境指針値まで下げられるのか判断できない。
【0004】
すなわち、室内濃度が環境基準を上回る場合に、原因となる家具を交換したり、リフォームにより原因となる建材を交換するなどの何らかの対策が必要になるが、居住者にとっては最大の費用対効果が得られるような対策をとりたいという要請が高い。
この場合に、個々の室内発生源から放散された特定化学物質が、室内濃度を上昇させるのにどの程度影響しているのか知ることが重要である。
例えば、単位面積あたりの放散量は多くても表面積が小さければ室内濃度に与える影響は小さく、放散量は比較的少なくても表面積が大きければ室内濃度に与える影響が大きいということがいえるが、実際には、個々の室内発生源が夫々どの程度影響しているのか知ることはできなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで本発明は、第一に、家具、建材などの室内発生源から放散されるホルムアルデヒド等の有害な特定化学物質により汚染される室内環境について、個々の室内発生源による影響を数値化し、当該発生源を除去又は交換した場合の室内環境変化をシミュレーションする基礎データを提供し、第二にその基礎データに基づくシミュレーションの結果を提示できるようにすることを技術的課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
この課題を解決するために、本発明は、有害な特定化学物質を放散する各室内発生源の室内環境への影響を評価する基礎データを出力するようになされた室内環境診断方法において、各発生源から放散される特定化学物質の単位面積・単位時間あたりの放散量と、各発生源の表面積に基づき、各発生源の単位時間あたり発生量を算出し、これに基づき、各発生源のみが個別に室内に置かれたと想定したときの特定化学物質の個別室内濃度を算出し、この個別室内濃度を前記基礎データとして出力することを特徴としている。
【発明の効果】
【0007】
各室内発生源から放散される特定化学物質の放散量Fnを測定すると、その放散量Fnは単位面積・単位時間あたりの重量であるから、これと各発生源の表面積Snの積を算出することにより、各発生源の単位時間あたり発生量Qn=Fn・Snが求められる。
次いで、これに基づき、各室内発生源が個別に室内に置かれたと想定したときの特定化学物質の個別室内濃度Cnを例えば次式により算出する。
Cn(t)=(1-exp(-N×t))(Cout+(Qn/N/V))+C(t)×exp(-N×t)
N:換気回数
t:時間
Cout:屋外の特定化学物質濃度
Qn:各室内発生源からの発生量
V:室内の容積
この個別室内濃度は、各室内発生源に起因する特定化学物質の室内濃度の値であるから、この値により発生源による室内環境への影響を評価することができる。
したがって、例えば、請求項2のように、個別室内濃度を予め設定された室内環境指針値と比較して5段階評価もしくは10段階評価などの多段階で表示することにより、その室内発生源が環境基準に適合しているか否かなど室内濃度に与える影響の大きさを観念的に知ることができる。
【0008】
また、請求項3のように、個別室内濃度に替えて、室内発生源の総発生量に占める前記各発生源の発生量で表わされる寄与率Knを例えば次式で算出し、この寄与率Knを基礎データとして出力してもよい。
Kn=Qn/ΣQ×100(%)
この寄与率は、各室内発生源からの発生量が室内濃度全体に占める割合を示すもので、寄与率が大きい発生源について、その特定化学物質の発生量を減らせば、室内濃度を大幅に改善することができる。
【0009】
さらに、請求項4のように、現状の室内環境について、室内を閉切った状態での室内濃度−時間変化を表わす室内濃度線を算出すれば、任意の時間経過後の室内濃度を推定することができ、請求項5のように、任意の室内発生源の発生量を減少させた場合をシミュレーションして予測室内濃度線を算出すれば、どの程度室内濃度を減少させることができるが判断でき、特に、請求項6のように、室内濃度線及び予測室内濃度線を同一グラフ面上にグラフ表示すればシミュレーション結果が一目瞭然となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、有害な特定化学物質が放散される室内発生源による室内環境への影響を評価する基礎データを算出することを目的とする。
【0011】
以下、本発明を実施するための最良の形態を図面に基づいて具体的に説明する。
図1は本発明に係る室内環境診断方法に使用する情報処理手段の一例を示す説明図、 図2は本発明に使用するパッシブ型放散フラックスサンプラの一例を示す断面図、図3はその分解組縦図、図4は放散量測定装置の例を示す説明図、図5は本発明に係る室内環境診断方法の手順を示すフローチャート、図6は診断結果を占めすレポートの例を示す説明図、図7はシミュレーションの手順を示すフローチャート、図8はシミュレーション結果を示すグラフである。
【0012】
本例の室内環境診断方法は、有害な特定化学物質としてホルムアルデヒドを放散する室内発生源による室内環境への影響を評価する基礎データを得るもので、予め診断対象となる建造物の部屋の室内濃度を測定すると共に、その部屋の容積、家具、床面、壁面、天井面などの各室内発生源から放散される特定化学物質の単位面積・単位時間あたりの放散量Fnを測定すると共に、各室内発生源の表面積Snを測定し、これらの値をパソコンなどの情報処理装置1へ入力する。
【0013】
情報処理装置1は、所定のデータを入力するデータ入力装置2と、そのデータ及びデータ処理プログラム等を記憶した記憶装置3と、前記プログラムに従ってデータ処理する演算処理部4と、処理結果を出力するディスプレイ、プリンタなどの出力装置5を備えている。
情報処理装置1に必要な各種データが入力されると、記憶装置3に予め設定された診断プログラムPRG1により室内発生源の室内環境への影響が評価され、また、シミュレーションプログラムPRG2により任意の室内発生源の発生量を減少させたときの室内濃度変化のシミュレーションが実行される。
【0014】
処理を開始する前に、まず、必要な各種データを測定する。
各発生源については、例えば、同じ壁面でも異なる建材が使用されている部分は、異なる発生源として夫々に放散量Fnと面積Snを測定する。
また、窓を閉切った状態の室内濃度C(t)は時間関数で求められるが、従来公知の装置を用いて、窓を十分開放した状態における室内濃度C(t)と、窓を閉切って所定時間(30分〜2時間)経過した時点での室内濃度C(t)を測定し、この二つのデータに基づいて算出する。
【0015】
各室内発生源から放散されるホルムアルデヒドの放散量Fnは、例えば図2及び図3に示すパッシブ型放散フラックスサンプラ11を用いて測定する。
このパッシブ型放散フラックスサンプラ11は、ガスバリア性を有する中空ケース12が中空円板型に形成され、その底面12aに、該底面12aを検査対象物13に貼り付けた状態でその検査対象物13から放散される化学物質をケース12内に取り込む開口部14が形成され、ケース12の内面には、前記化学物質と湿潤環境下で変色反応を呈する試験片15が前記開口部14に対向して貼り付けられている。
【0016】
これによって、フラックスサンプラ11を検査対象物13に貼り付けた状態で、検査対象物13の表面から試験片15までの距離を一定に維持できる。
また、中空ケース12は、検査対象物13に貼り付けたままの状態で試験片15の色変化を外部から観察できるように全体が透明に形成されており、底面12aの反対面側が試験片15を裏面から観察する観察部12bとなっており、その外周縁には貼付け・取外しを容易に行い得るようにフランジ12cが形成されている。
【0017】
なお、試験片15は、例えば1cm×1cm程度の大きさの紙製基材シートに発色剤となるINT(p−ヨードニトロテトラゾリュウムバイオレット)と、反応触媒となるデヒドロゲナーゼ及びジアフォラーゼの二種類の酵素が担持されている。
これにより、水に濡らした試験片15にホルムアルデヒドが接すると、デヒドロゲナーゼによりホルムアルデヒドの水素が脱離されて、蟻酸とNADH(ニコチンアミドアデニンジヌクレオチド)に分解され、そのNADHとINTがジアフォラーゼにより反応してINTが減ることにより発色する。
【0018】
ケース12内には、環状の保水紙(保水材)16が、開口部14から試験片15に至る流路を囲むように配されており、測定時に開口部14からケース12内に水滴を滴下することによりその水滴を吸引し、試験片15を湿潤環境に維持する。
また、開口部14には、その端縁からケース12の内側に延びる環状リブ17が形成されており、開口部14から滴下された水滴が表面張力で滞ることなく保水紙16に案内されると共に、検査対象物13から放散される化学物質を開口部14に対向して設けられた試験片15に真っ直ぐに導いてその放散量に応じた変色反応をより正確に生じさせるようになっている。
【0019】
そして、本例では、中空ケース12が、厚さ0.5mm程度のプラスチックで、直径×厚さ=2cm×3mm程度、開口部14の直径が5mm程度に形成されている。
この程度の厚さのプラスチック製ケース12を用いた場合、ホルムアルデヒドはそのプラスチックを透過してしまうので、対ホルムアルデヒドのガスバリア性を高めるために、ケース12の外面又は内面の少なくとも一方に透明のDLC膜(ダイヤモンドライクカーボン膜)、シリカ蒸着膜などのガスバリア膜18が蒸着され、本例ではDLC膜が形成されている。
DLC膜はホルムアルデヒドに対するガスバリア性が極めて高いので、室内空気に含まれるホルムアルデヒドがケース12を透過して試験片15を変色させることがなく、検査対象物13から放散されたホルムアルデヒドの放散フラックスのみを正確に測定できる。
なお、中空ケース12はプラスチック製に限らずガラスその他任意の材料を使用することができ、ガラスを使用した場合はもともとガスバリア性が高いので、ガスバリア膜を形成する必要はない。
【0020】
そして、中空ケース12の底面12aには、開口部14の周囲に環状の接着層19が形成され、保存状態でケース12内に湿気が入らないように、その接着層19に円形アルミシート20が貼り付けられて開口部14が気密に封止されている。
【0021】
このフラックスサンプラ11を用いて測定する場合、図2(a)に示すように、開口部14を上向にしてアルミシート20を剥がし、その開口部14からケース12内に水を滴下し、試験片15を湿潤させると共に、測定中に試験片15を湿潤環境に維持できるように保水紙16も湿らせておく。
このとき、開口部14には環状リブ17が形成されているので、水滴がその表面張力により開口部14の端縁に滞ることがなく、スムースにケース12内に流入する。
【0022】
次いで、図2(b)に示すように、ケース底面12aを壁面、床面、天井面、家具など任意の検査対象物13に貼り付ける。
この場合において、開口部14が下向きになるように貼り付けても、ケース12内の水滴が開口部14に形成された環状リブ17に堰き止められるので、開口部14から流れ出すことがない。
【0023】
この状態で、検査対象物13から放散される化学物質が開口部14を通り、ケース12内に取り込まれ、環状リブ17で形成された流路に案内されて、その正面に配された試験片15に達する。
そして、予め設定された所定時間(30分〜2時間)経過すると、放散フラックスが多いところは試験片15が濃赤色に変化し、少ないところは淡赤色に変化し、0に近いところはほとんど変化しない。
したがって、前述同様、試験片15の色に応じて放散フラックスを測定することができる。
【0024】
このとき、予め作成されたカラーチャートから放散量を読み取ることも可能であるが、より正確を期すために、試験片15の色変化を図4に示す放散量測定器21で、光学的に読み取るようにしても良い。
【0025】
図4は、本発明に係る放散フラックスを算出する放散フラックス測定装置を示す。
本例の測定装置21は、上述したフラックスサンプラ11を用いて放散フラックスを測定するもので、遮光蓋22の内側に試験片15の色変化を光学的に測定する遮光室23が形成されると共に、検出された色変化に基づき放散フラックスを算出する演算処理装置24と、その値を表示する液晶ディスプレ25を備えている。
【0026】
遮光室23内には、フラックスサンプラ11を位置決めするセッティングステージ26と、そのフラックスサンプラ11の観察部12bに測定光を照射する光源27と、前記フラックスサンプラ11の観察部12bからの反射光強度を検出する光センサ28が配されている。
【0027】
セッティングステージ26にフラックスサンプラ11をその観察部12bを下向きにしてセットすると、セッティングステージ26下方に配された光源27から試験片15の位置に測定光が照射される。
試験片15はホルムアルデヒドと反応して赤〜赤紫系に変色するので、光源27はその補色関係にある緑系の光を測定光として出力するLEDが用いられ、本例では測定光の中心波長が555nmに選定されている。
【0028】
また、光センサ28としては、波長500〜600nmにピーク感度を有するホトダイオードが使用されており、ホルムアルデヒドの放散フラックスが多いときは試験片15が濃色に変化して測定光が吸収されるので、光センサ28で検出される反射光強度が低下し、放散フラックスが少ないときは試験片15の変色が少なく測定光の吸収が少ないので反射光強度が相対的に高くなる。
【0029】
演算処理装置24では、反射光強度に基づき変色に伴う吸光度を算出し、吸光度に基づき放散量を算出する。
まず、吸光度Pは次式により算出する。
P=[1−L/L]×100(%)
:反応前の試験片15若しくは基準白色の反射光強度
:反応後の試験片15についての反射光強度
【0030】
そして、吸光度−放散量変換テーブル29に、既知の基準放散量Fnで測定されたサンプラ11の吸光度Pnに基づき放散量Fnと吸光度Pnの関係を記憶させておき、反応後のフラックスサンプラ11ついて算出された吸光度Pに基づいて、吸光度−放散量変換テーブル29を参照し放散量Fが求められる。
ここで、吸光度−放散量変換テーブル29は、Fn=f(Pn)の関数で表わされる場合であっても、その変換値を数表化して記憶している場合であっても良い。
【0031】
このようにすれば、放散量Fnは数値として出力することができるので、試験片15の微妙な色変化について、カラーチャートとの比較が困難な場合であっても、正確に放散量を算出することができる。
【0032】
このようにして、室内濃度が高い部屋についてその部屋の家具、床面、壁面、天井面などの各室内発生源から放散される特定化学物質の単位面積・単位時間あたりの放散量Fnを測定し、各発生源の寸法から表面積Snを計測したら、これらの値をパソコンなどの情報処理装置1へ入力する。
【0033】
図5は診断プログラムPRG1の処理手順を示すフローチャートであって、ステップSTP1で、測定対象となる部屋で実測されたホルムアルデヒドの室内濃度C(t)及びC(t)、その部屋の家具・建材などの各室内発生源からの放散量Fn、その表面積Snを入力する。
【0034】
入力が完了すると、ステップSTP2に移行して、各室内発生源からの発生量Qnを、
Qn=Fn・Sn
により算出し、所定の記憶領域に記憶すると共に、発生量の総和Jを
J=ΣQn
により算出し、所定の記憶領域に記憶しておく。
【0035】
次いで、ステップSTP3に移行し、ホルムアルデヒドの室内濃度C(t)及びC(t)に基づいて室内濃度の時間関数C(t)を次式により算出する。
C(t)=(1-exp(-N×t))(Cout+(J/N/V))+C(t)×exp(-N×t)
N:換気回数
t:時間
Cout:屋外のホルムアルデヒド濃度
J:発生量の総和
V:室内の容積
ここで、Coutは測定可能であり、未知数はNのみであるから、横軸に時間t、縦軸に室内濃度C(t)をとって、
(t、C(t))=(t、C(t))
(t、C(t))=(t、C(t))
の二つの点を通るようにNをフィッティングすればNの値が求まる。
【0036】
さらに、ステップSTP4では、室内発生源からのホルムアルデヒドの総発生量に占める各発生源の発生量で表わされる寄与率Knを、
Kn=Qn/J×100(%)
により算出し、所定の記憶領域に記憶する。
【0037】
そして、ステップSTP5では、各室内発生源が個別に室内に置かれたと想定したときの特定化学物質の個別室内濃度Cnを、ステップSTP3で求めた室内濃度C(t)の式に基づき、発生量の総和Jに替えてその発生源の発生量Qnを用いる。
Cn(t)=(1-exp(-N×t))(Cout+(Qn/N/V))+C(t)×exp(-N×t)
N:換気回数
t:時間
Cout:屋外のホルムアルデヒド濃度
Qn:各室内発生源からの発生量
V:室内の容積
なお、室内濃度は部屋を閉切った状態で8時間経過した時点での濃度を基準とするので、t=480( min)を代入し、Cn(480)の値を用いる。
この個別室内濃度Cnは、各室内発生源に起因する特定化学物質の室内濃度の値であるから、この値により発生源による室内環境への影響を評価することができる。
【0038】
したがって、ステップSTP6では、この値を例えば学会等で定められている室内環境指針値と比較することにより、下記のようにAAA〜Dまで6段階評価すれば、ホルムアルデヒドの発生量に関し十分な知識がなくても結果の良否を簡単に判断できる。
AAA:0.008ppm以下
AA :0.008〜0.04ppm
A :0.04〜0.08ppm
B :0.08〜0.10ppm
C :0.10〜0.16ppm
D :0.16ppm以上
その際、表記としてはより分かりやすいように、現状の評価点から、その室内発生源を除去したときに到達するであろう評価点を示す方法を用いる。例えば、ある家具について、現状の評価がCである場合に、その家具を取り除くとAになるようなときには、「C―>A」のような形で表現する。
なお、この場合に家具を取り除いたときの評価は、後述するシミュレーションプログラムPRG2に従い、各室内発生源ごとに減少率を100%としたときの室内濃度Csimを算出し、その濃度を上述したAAA〜Dまでの6段階で評価すればよい。
【0039】
ステップSTP7では診断結果を出力して処理を終了する。
図6はその診断結果の一例を示し、壁(ビニール壁紙)、壁(板張り)、天井、床、扉、ベッド、クローゼット、机、いすが室内発生源となる寝室について測定した場合を示している。
診断結果では、ステップSTP3で算出された室内濃度C(t)がグラフ表示されると共に、閉切り状態で所定時間経過した後のホルムアルデヒドの室内濃度が表示される.
また、夫々の発生源ごとに、寄与率Kn、放散量Fn、面積Sn、発生量Qn、判定結果が表形式で出力される。
この診断結果によれば、グラフより、窓を閉切後4時間経過した時点で室内環境指針値(0.08ppm)を超え、判定基準となる8時間経過時には0.108ppmに達していることがわかる。
【0040】
そこで、次にシミュレーションプログラムPRG2を実行し、室内発生源に対策を施した場合の室内濃度をシミュレーションするために、まず、各室内発生源に対して削減率dnを設定する。
この削減率dnは、何らの対策も施さない場合は0%であり、交換・廃棄により削減が期待できる場合に25%、50%、75%、100%というように0〜100%まで5段階で設定できるようになっている。
ここで、寄与率Knは、壁(板張り)が63.8%、扉が24%と高く、この2つの発生源から全体の約90%のホルムアルデヒドが発生していることがわかる。
そこで、これら両方ともノンホルムアルデヒド仕様に交換した場合と、これらを個別にノンホルムアルデヒド仕様に交換した場合について、シミュレーションを行う。
この場合に、ノンホルムアルデヒド仕様に交換する場合の削減率を100%とし、交換しない場合の削減率を0%とする。
【0041】
図7はシミュレーションプログラムPRG2の処理手順を示し、ステップSTP11で夫々の発生源ごとに削減率dnを入力すると、ステップSTP12で予測室内濃度Csim(t)を算出する。
これも、前記ステップSTP3で算出された式に基づき、発生量の総和Jに替えて、削減された発生量Jsim=ΣQn・dnを用いる。
Csim(t)=(1-exp(-N×t))(Cout+(Jsim /N/V))+C(t)×exp(-N×t)
N:換気回数
t:時間
Cout:屋外のホルムアルデヒド濃度
Jsim:削減された発生量
V:室内の容積
【0042】
そして、ステップSTP13でその結果を室内濃度線と同一グラフ面上に重ね、例えば色を変えてグラフ表示して処理を終了する。
これにより、室内濃度がどの程度削減されたかを一目で見ることができ、窓を閉切った状態でも室内環境指針値以下に低減することができるか否かを容易にシミュレーションすることができる。
【0043】
図8はそのシミュレーション結果を示し、予測室内濃度線Csim(t)は、現状の室内濃度C(t)よりもはるかに低減されていることがわかる。
ここで、壁(板張り)のみをノンホルムアルデヒド仕様に交換した場合は、窓を8時間以上閉切った状態でも室内濃度が0.04と室内環境指針値0.08を下回り、それだけで評価Aはとなる。
また、扉のみをノンホルムアルデヒド使用に交換しても、室内濃度は0.085と室内環境指針値を僅かに超えてしまい評価Cとなるが、壁(板張り)と扉の双方をノンホルムアルデヒド仕様に交換した場合は、ホルムアルデヒドの室内濃度が0.02程度まで低下し、評価はAAとなることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0044】
以上述べたように、本発明は、有害な特定化学物質を放散する各室内発生源の室内環境への影響を評価する基礎データを出力して室内環境診断する用途に適用できる。
【図面の簡単な説明】
【0045】
【図1】本発明方法に使用する情報処理手段の一例を示す説明図。
【図2】本発明方法に使用する放散フラックスサンプラの一例を示す断面図。
【図3】その分解組縦図。
【図4】放散量測定装置の例を示す説明図。
【図5】本発明方法の処理手順を示すフローチャート。
【図6】診断結果を示すレポートの例を示す説明図。
【図7】シミュレーションの処理手順を示すフローチャート。
【図8】シミュレーション結果を示すレポートの例を示す説明図。
【符号の説明】
【0046】
1 情報処理装置
2 データ入力装置
3 記憶装置
4 演算処理部
5 出力装置


【特許請求の範囲】
【請求項1】
有害な特定化学物質を放散する各室内発生源の室内環境への影響を評価する基礎データを算出するようになされた室内環境診断方法において、
各発生源から放散される特定化学物質の単位面積・単位時間あたりの放散量と、各発生源の表面積に基づき、各発生源の単位時間あたり発生量を算出し、
これに基づき、各発生源のみが個別に室内に置かれたと想定したときの特定化学物質の個別室内濃度を前記基礎データとして算出することを特徴とする室内環境診断方法。
【請求項2】
前記個別室内濃度を予め設定された室内環境指針値と比較して多段階評価する請求項1記載の室内環境診断方法。
【請求項3】
有害な特定化学物質を放散する各室内発生源の室内環境への影響を評価する基礎データを算出るようになされた室内環境診断方法において、
各発生源から放散される特定化学物質の単位面積・単位時間あたりの放散量と、各発生源の表面積に基づき、各発生源の単位時間あたり発生量を算出し、
発生源からの特定化学物質の総発生量に占める前記各発生源の発生量で表わされる寄与率を前記基礎データとして算出することを特徴とする室内環境診断方法。
【請求項4】
測定対象となる室内で実測された特定化学物質の室内濃度に基づいて、その室内を閉切った状態での室内濃度−時間変化を表わす室内濃度線を算出する請求項1又は3記載の室内環境診断方法。
【請求項5】
任意の室内発生源の発生量を減少させたときの予測室内濃度線を算出する請求項4記載の室内環境診断方法。
【請求項6】
前記室内濃度線及び予測室内濃度線を同一グラフ面上にグラフ表示する請求項5記載の室内環境診断方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−126131(P2006−126131A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−318010(P2004−318010)
【出願日】平成16年11月1日(2004.11.1)
【出願人】(504014060)
【出願人】(502435834)ふくはうちテクノロジー株式会社 (5)
【出願人】(503368270)日本リビング株式会社 (1)