説明

害虫誘引駆除組成物

【課題】害虫を誘引して駆除する薬剤の誘因物質が長期保存中に変化し、外観変化や害虫誘殺効力の劣化が起こる場合があるので、これらの現象が起こりにくい害虫誘殺性毒餌剤を提供する。
【解決手段】殺虫成分、糖類およびアミノ化合物を構成成分として含有する害虫可食性の誘引成分に、亜硫酸化合物もしくはチオール化合物又はその両方を含有させた組成物を製造することにより誘引成分の変化が起こりにくい害虫誘殺性毒餌剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は農作物を食害する害虫、特にナメクジやカタツムリ等の腹足綱害虫を誘引し、摂食させて駆除する組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
農作物を加害する農業害虫、貯穀害虫、花卉など園芸用植物を加害する園芸害虫、人を刺したり病気など媒介する衛生害虫、人に嫌悪感をあたえる不快害虫など、人間にとって有害な虫類を総称して害虫という。本発明が対象とする害虫は農作物や園芸植物などを食害する主に無脊椎の腹足綱害虫や昆虫であり、具体的にはナメクジ、カタツムリ、各種作物食害昆虫類である。このような害虫を駆除する薬剤の一形態として摂食させて駆除する毒餌製剤があり、特に夜行性のナメクジ類やネキリムシ、ヨトウムシなどの害虫は昼間は石の下や草葉の陰に潜んでいるため農薬等の散布では薬剤が虫体に到達しにくいので効果が弱く、また、作物に直接薬剤を散布してその作物を摂食させて駆除するのは残留農薬の問題から使用時期に制限が設定される等から扱いにくい。
【0003】
このような理由から害虫を誘引して摂食させてその中に含まれる殺虫成分で駆除する製剤、つまり、毒餌製剤が研究され、開発されている。例えば、バナナの実を含有した難水溶性のナメクジ駆除剤(特許文献1参照)、植物質粉体や動物質粉体などのナメクジ類の可食性粉体、メタアルデヒド、糊剤及びpH調節剤を必須成分とするナメクジ類駆除剤(特許文献2参照)、殺虫活性成分、醗酵乳、穀物粉、糖及びデキストリン等を利用したゴキブリ駆除に適した毒餌剤(特許文献3参照)、脂肪族多価アルコールを含有させ10万から200万cpの粘度に調節した複足綱動物誘引防除毒餌剤(特許文献4参照)メタアルデヒドと酒粕を用いる事を特徴とするナメクジ・カタツムリ駆除剤(特許文献5参照)、農薬活性成分、酒粕、エタノール及び水を含有する粒状誘引駆除剤(特許文献6参照)等が開発されている。
【0004】
これらの毒餌剤に使用されている誘引物質は蛋白質、でんぷん、糖類等で構成されたアミノ化合物と糖類を含有するものが多く、これらを使用した製剤には長期の保存や熱が懸かった状態で特有の化学変化が起こり、それが外観の変化や、誘殺効果の劣化の原因となる恐れがあるが、この問題について、及び、この問題を回避する方法について記述されたものは無く、せっかく酒粕や醗酵物を利用して誘殺性が高い処方が組めても誘殺性が劣化したり、外観が褐変するという問題は未解決のままであった。
【0005】
【特許文献1】特開平02−28103号公報
【特許文献2】特開平08−175906号公報
【特許文献3】特開平10−81602号公報
【特許文献4】特開平09−110603号公報
【特許文献5】特開平10−25207号公報
【特許文献6】特開2001−206810号公報
【特許文献7】特開2006−256977(第3−4頁)
【非特許文献1】中林敏郎他2名 「食品の変色とその化学」光琳書院 昭和42年11月30日、P.280−285
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
作物の食害をもたらす害虫に対し誘殺性が高く、外観変化や効力劣化が生じにくい害虫誘引駆除剤が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意研究した結果、アミノ化合物と糖類を構成成分として含有する天然物由来の害虫可食性誘引物質を使用した毒餌製剤は長期の保存や製剤の加熱工程で外観が褐色に変化し、害虫誘引性が阻害されることを発見し、それがメイラード反応に起因することが分かり、一種のメイラード反応阻害物質である亜硫酸化合物および/あるいはチオール化合物を処方に組み込んだ毒餌製剤が上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
すなわち、本発明は
(1)殺虫成分と、糖類およびアミノ化合物を含有する天然物由来の害虫可食性誘引物質と、亜硫酸化合物もしくはチオール化合物又はその両方を含有することを特徴とする害虫誘引駆除組成物、
(2)糖類およびアミノ化合物を含有する害虫可食性誘引物質が酒粕であることを特徴とする(1)に記載の害虫誘引駆除組成物、
(3)害虫駆除組成物が粒状組成物であることを特徴とする(1)または(2)に記載の害虫誘引駆除組成物、
(4)害虫が腹足綱害虫であることを特徴とする(1)乃至(3)のいずれかに記載の害虫誘引駆除組成物、
に関する。
【発明の効果】
【0009】
本発明は製造時の乾燥工程および製品(害虫誘引駆除剤)の長期保存中における害虫の誘殺効果の劣化を抑制し、さらに製品の外観が変化しにくい害虫誘引駆除組成物を提供する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明に使用できる殺虫成分としては、食用作物や園芸作物を食害する害虫に殺虫活性を有するものであれば特に限定されず、有機リン系殺虫化合物、カーバメイト系殺虫化合物、ピレスロイド系殺虫化合物、成長抑制殺虫化合物(IGR)、天然物由来の殺虫化合物や、例えばメタアルデヒドのような腹足綱害虫に卓効を示す化合物などが使用できる。
【0011】
具体的には、有機リン系殺虫化合物としてカルビンホス、クロルピリホス、クロルピリホスメチル、イソキサチオン、ジメチルビンホス、シアノホス、ダイアジノン、ジクロルボス、フェニトロチオン、フェンチオン、マラチオン、ピリミホスメチル、プロチオホス、ピリダフェンチオン、テトラクロルビンホス、トリクロルホン、ブロモホス、プロペタンホス、等が、カーバメート系殺虫成分としてはBPMC,NAC(カルバリル)、MIPC,PHC,エチオフェンカーブ、カルボスルファン、メソミル、チオジカルブ、等が、更にまた、ピレスロイド系殺虫成分としてはサイパーメスリン、デルタメスリン、フェンバレレート、フリバリネート、ペルメトリン、シフルトリン、テフルトリン、シラフルオフェン、等が、IGR系殺虫成分としてはテフルベンズロン、シフルベンズロン、テブフェノジド、クロマフェノジド、シロマジン、ヘキサフルムロン等が、また、天然物由来の殺虫成分としてはアバメクチン、ネライストキシン由来化合物等が、その他にはイミダクロピリド、チアメトキサム等が、また、特に腹足綱に卓効を示す化合物としてメタアルデヒド、燐酸第二鉄等が挙げられるが、これらに限定されるものではなく、1種または2種以上の殺虫成分を組合わせて使用することができる。
【0012】
本発明の組成物における殺虫成分の含有量は、製剤形態や使用する殺虫成分の殺虫活性や対象害虫の性質を考慮して適宜決めることができるが、粒状組成物(以下、粒剤と記す)
の場合、通常、0.1〜20重量%、好ましくは0.5〜10重量%の範囲である。
【0013】
本発明に使用できる糖類およびアミノ化合物を含有する害虫可食性誘引物質としては、害虫を誘引できる糖類及びアミノ化合物を含有する天然物由来の害虫可食性誘引物質であればよく、食害をもたらす害虫の被食害作物を利用した、例えば穀物類、果実類、葉菜類、果菜類等、或いはその乾燥物や各種酒類粕のような醗酵物などを製剤加工し易い形態にしたものや、腹足綱害虫に特に誘引性を強く発揮する日本酒の酒粕(以下、単に酒粕と記す)等が挙げられる。酒粕には例えば普通酒粕、本醸造酒粕、純米酒酒粕、吟醸酒粕、大吟醸酒粕、融米酒粕等があるが(特許文献6参照)、いずれも特にナメクジ・カタツムリ類には誘引効果が強いので、入手しやすい酒粕を使用すればよい。
【0014】
これらの誘引物質に更に誘引摂食性を増すために蔗糖、果糖、廃糖蜜、澱粉糖、異性化糖、バナナや果物の破砕物等の糖類や魚粉、動物加工粉体などのアミノ化合物含有物などを加えることもでき、対象の摂食性害虫の誘引摂食性に合わせて適宜選択すればよい。また、メイラード反応を起こすのは還元糖であるが、還元糖でない蔗糖のようなものでも分解物が還元糖になるものはここで言う糖類に含まれる。本発明の組成物における上記誘引物質の配合量は、一般的に、多い方が誘引性が強いが、製造コスト、殺虫成分量、その他必要とされる原材料量も考慮して決める必要があり、通常、5〜98重量%、好ましくは10〜95重量%が使用される。
【0015】
本発明に使用できるメイラード反応阻害物質としては亜硫酸化合物かチオール化合物を単独、或いは併用して使用する。メイラード反応とはアミノカルボニル反応とも言われ、各種アミノ酸、ペプチド、蛋白質等、アミノ基を有する化合物と、カルボニル基を有する還元糖が熱がかかるとより早く反応し、黄色、黄褐色、褐色、黒褐色と、焦げ色に変わっていく反応であり、常温でも長期保存中に起こる反応であるが、その反応過程についてはまだ十分に解明されていない部分もあり、何段階かの反応により反応物が生成される。その反応生成物は糖類、アミノ化合物の違い、反応条件等によって異なるが、芳香性のある反応物を生成する為、折角の害虫誘引性物質がその物質の芳香と異なる反応生成物に変わるため、その一部が変わっただけでも誘引物質の減少により、或いは誘引性が撹乱されることにより誘引性が低下したり無くなったりすることが分かり、特に腹足綱害虫であるナメクジ類に誘殺効果の劣化が顕著に起こることが分かった。
【0016】
元来、メイラード反応はホットケーキの表面やパンの表面の焦げの香ばしさや、味噌、醤油、コーヒー、紅茶等の香りやこくなど、食品の加工に有効に利用されてきた。反面、近年はこの反応生成物が人間の体内での老化や各種病気の原因にもなることでその反応阻害物質の研究開発が盛んに行われている(特許文献7参照)。
【0017】
メイラード反応阻害物質はその数段階にわたる複雑な反応過程を有するメイラード反応の反応過程の何れかを有効にブロックできれば反応を阻害したり遅延したりすることができ、一般的に抗酸化物質(特許文献7参照)、カルボニル化合物と反応して誘導体を生成する物質、メイラード反応阻害酵素等がメイラード反応を阻害できると言われている。しかし、本目的の検討過程で抗酸化剤としてのBHA(ブチル化ヒドロキシアニソール)、イソアスコルビン酸ナトリウムやメイラード反応阻害酵素のハイデラーゼ15(天野エンザイム社製)では十分な結果は得られず、メイラード反応阻害物質でもカルボニル化合物と反応して褐変を阻害する亜硫酸化合物および/あるいはアマドリ転位生成物の褐変を防ぐチオール化合物(非特許文献1参照)が乾燥時や長期保存による褐変を顕著に軽減し、ナメクジ類等の害虫の誘引性の劣化を顕著に抑制することができた。
【0018】
メイラード反応を阻害でき、本発明に使用できる亜硫酸化合物としては亜硫酸およびそ
の塩類が挙げられ、具体的には亜硫酸ナトリウム、亜硫酸亜鉛、亜硫酸アンモニウム、亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸カリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム、亜硫酸ジイソプロピル、亜硫酸水素アンモニウム、亜硫酸バリウム等であるが、亜硫酸基が存在する化合物であればこれらに限定される訳ではなく、また、チオール化合物は具体的にはメルカプトプロパンジオール、システイン、メルカプト酢酸、3−メルカプトプロピオン酸、チオフェノール等であり、チオール基を有する化合物であればこれらに限定される訳ではないが、メルカプタン臭の強いものは製剤しにくく、なるべく臭いの弱い、例えばメルカプトプロパンジオールのような化合物が好ましい。また、これらの亜硫酸化合物やチオール化合物(以下、本メイラード反応阻害物質と記す)は単独で、又は2種類以上を併用して用いることができ、亜硫酸化合物とチオール化合物を併用することもできる。これらの化合物の所定量をどのような方法で組成物の中に含有させても構わないが、粒剤の場合、製造過程で混合して粒剤化したり、メルカプトプロパンジオールのような液状物質の場合はその他の原材料で粒剤化した後、吸着して担持させたりして製剤化することができる。本メイラード反応阻害物質の添加量としては組成物に対して通常0.2〜20重量%、より好ましくは0.5〜10重量%である。
【0019】
本発明の組成物の製剤形態は粒剤、粉剤、ペースト剤等いろいろな形態が可能で、特に限定はされないが、粉剤やペースト剤は野外にそのまま処理すると、風雨などで拡散して、毒餌の性能が発揮されないので害虫が出入りでき、風雨から薬剤を保護する箱(ベイトボックス)の中に入れて設置する必要がある。一方、粒剤のような固形剤はそのまま野外に処理しても毒餌性能が発揮されるので、簡便に使用できるのが利点である。但し、雨等で簡単に崩れてしまわないような製剤にしておく必要がある。
【0020】
本発明では上記した原材料、つまり、殺虫成分、害虫可食性誘引物質、本メイラード反応阻害物質以外に製剤化し易い物理性にするための粉状担体が必要となることがある。例えば酒粕を使用する粒剤の場合、水分やアルコール分などの液体をかなり含むため、適当に水分を吸収して粒剤化前の混合物を粒剤化し易い形態にしておく必要があり、また、できた粒剤が貯蔵中に変形したり、粉化したり固まったりしないような適度な硬さや表面性を有するようにしておく必要があり、これにはホワイトカーボン、無水酸化アルミニウム、でんぷん類(小麦粉、トウモロコシ粉、ジャガイモ粉等)、珪藻土、結晶性セルロース、タルク、クレー、ベントナイト、ゼオライト、バーミキュライト、木粉等の粉体を適宜使用する。
【0021】
本発明の組成物にはその他に必要により、着色剤、防菌防黴剤、酸化防止剤、誤食防止剤、粒硬化剤、誘引効力増強剤などの添加剤を単独または組合わせて使用できる。例えば、着色剤としては酸化鉄、酸化亜鉛、酸化チタン、酸化クロム、などの無機顔料や食用赤色3号、食用緑色3号、食用青色1号等の食用色素、クロロフィル、ベニバナ等の天然色素などが、防菌防黴剤としては、ソルビン酸及びその塩、安息香酸及びその塩、デヒドロ酢酸及びその塩、チアベンダゾール、プロクセルGXL(アイ・シー・アイ社製)等が、誤食防止剤としてはトウガラシ粉末、カプサイシン、フロキシン、タートランジ、デナトニウムベンゾエート等が、粒剤の場合の粒硬化剤としては貯蔵中、あるいは野外に処理された後に雨等で崩れないように接着性のある各種の天然或いは合成高分子物質を原材料粒子間のバインダーとして組み込むことができる。誘引効力増強剤としては糖類、エタノールのようなアルコール類等が挙げられ、適宜使用することができる。
【0022】
次に本発明の組成物の製造法について説明する。粒剤等の成型固形物以外の例えば粉剤、ペースト剤などは必要原材料を混合したり、練り合わせたりして作製すればよいので比較的容易に製造でき、適宜設計されたベイトボックスに入れる形態にすればよい。粒剤の製造方法としては大きく湿式造粒法と乾式造粒法があり、湿式造粒法は水分を主体とする液体が関与して各原材料が混練され、粒状にして乾燥して粒状物を得る方法であり、乾式法は各原材料を混合した段階で湿り気のない粉体であり、これを加圧により固形化して粒状物を得る方法で、原則として乾燥工程は必要ない。
【0023】
湿式造粒法としては以下の方法等が挙げられる。
殺虫成分、害虫可食性誘引物質、本メイラード反応阻害物質、その他必要に応じた添加剤を混合し、粉状で練り合せることができない場合は加水を、水分等の液物質が多すぎて軟らか過ぎる場合は粉状担体を混合して造粒機から出やすい状態に混練機で均一に混練し、造粒機で麺状に押し出す。これを整粒機(例えばマルメライザー;不二パウダル社製)でカットして流動層乾燥機等の乾燥機で乾燥して、必要とするサイズの篩でオーバーサイズとアンダーサイズを除去して粒剤とする。造粒機にはスクリーンを回転棒の回りに設けてテーパーのついた回転棒で横から押出す横出し造粒機、前にスクリーンを設けた前出し造粒機、下にスクリーンを設けて上から回転する重量体で押出すディスクペレッタ等があるが何れも使用でき、その押出す直径は0.3〜7mmが良く、更に好ましくは0.5〜5mmである。粒のサイズを整える篩の目開きは0.2〜10mm程度が適当であるが、特にこれに限定される訳ではない。乾燥機の条件はあまり高熱の空気を使用すると、メイラード反応が進んだり、誘引物質が除去されて効力低下の原因になるので、熱風温度は100℃以下で乾燥終了時の品温は70℃以下が好ましい。乾燥後の残存水分は酒粕を使用した場合、1〜20%程度にコントロールするのが良く、1%以下に強乾燥するのはあまり好ましくない。
【0024】
乾式造粒法は水分等の液状物質が少なく、混合物が乾いた状態の場合に適している。具体的には殺虫成分、害虫可食性誘引物質、本メイラード反応阻害物質、必要に応じてその他添加剤を均一に混合し、打錠機や圧縮機(ブリケットマシーン)で圧縮物を作成し、必要に応じて破砕機(フラッシュミル)で適当な大きさの粒に砕いて、篩でオーバーサイズ及びアンダーサイズを除去して粒剤を得る。篩の目開きは0.2〜5mm程度が適当であるが、特にこれに限定される訳ではない。
【0025】
上記湿式造粒法、乾式造粒法ともその原材料、例えば殺虫成分やメイラード反応阻害物質等が油状物質である場合には、その全部、或いは一部を粒状物質を作製した後に吸着させても本発明の粒剤を得ることができる。
【0026】
本発明の組成物は流通や保管の便のために包材によって包装しておくが、包材としては誘引成分や殺虫成分が抜けないようにガスバリア性のある材質を使用した方が良い反面、メイラード反応は密閉性が高いほど進む場合があるので、そのようなことを配慮して適当な包材を選択しなければならない。具体的には、低密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリカーボネート、塩化ビニリデン共重合物、ポリエチレンテレフタレート、ポリアミド、アルミ箔、更にこれら包材のアルミ蒸着フィルムやシリカ蒸着フィルム、等が挙げられる。これら包材はフィルムの厚さを調整したり、フィルムの多層化を行うことができる。また、形態は袋状でもボトル状でも構わなく、取扱い易いように工夫すれば良い。また、保存中に醗酵ガス等が発生する場合や、密閉性が高くメイラード反応が進み易い場合などは、ピンホール等を設けておくと良い。
【0027】
本発明の組成物は食用作物や園芸作物を食害する害虫を誘引して駆除するために使用され、対象となる害虫としては、土壌表面を移動して作物を食害する、例えばヨトウムシ、ネキリムシなどの鱗し目害虫、コオロギ等の直翅目害虫、ゴキブリ目害虫、ナメクジ、カタツムリ等の腹足綱害虫などが挙げられるが、これらに限定される訳ではない。とりわけ誘引物質として酒粕を使用した本発明の組成物は腹足綱害虫、具体的にはナメクジ、チャコウラナメクジ、アシヒダナメクジ、ノナメクジ等のナメクジ類、ウスカワマイマイ、オナジマイマイ、アフリカマイマイ、スクミリンゴガイ等のカタツムリやマイマイ類に特に優れている。
【0028】
本発明の粒剤は害虫が生息する場所に施用すると、誘引物質に誘われた害虫が本発明の粒剤を摂食して死に至り駆除される。施用法としてはそのまま散布しても、蓋が無くナメクジが入りやすい高さのカップなどに入れて設置しても良く、カップには水が溜まらないように、また、誘引物質を拡散し易いように底等に小さい孔を開けておいても良い。施用量は1平方メートル当り、0.1〜10g、より好ましくは0.5〜5g程度であるがこれに限定されるものではない。
【0029】
以下に実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。また、部は重量部を示す。
【実施例1】
【0030】
メタアルデヒド5.7部、普通酒粕(固形分50%、土井酒造社製)140部、ピロ亜硫酸カリウム3.0部、カープレックス#80(DSL.ジャパン社製)22部をポリ袋内で混練し、ミンチ機(ボニーミンサーNo.5、φ3.2mm、ボニー社製)で麺状に押出してポリ袋内に入れ、3〜5mm程度の長さにカットするために空気で膨らませた中で激しく振り、80℃の乾熱器内で水分が10%程度になるまで乾燥して、本発明の黄白色粒剤を得た。
【実施例2】
【0031】
メタアルデヒド5.7部、普通酒粕(固形分50%、土井酒造社製)140部、亜硫酸水素ナトリウム3.0部、カープレックス#80(DSL.ジャパン社製)22部をポリ袋内で混練し、以下、実施例1と同様の方法で本発明の黄白色粒剤を得た。
【実施例3】
【0032】
メタアルデヒド5.7部、普通酒粕(固形分50%、土井酒造社製)140部、メルカプトプロパンジオール3.0部、カープレックス#80(DSL.ジャパン社製)22部をポリ袋内で混練し、以下、実施例1と同様の方法で本発明の黄白色粒剤を得た。
(比較例1)
【0033】
メタアルデヒド5.0部、タルク65.0部、ベントナイト30部、水20部をポリ袋内で混練し、以下、実施例1と同様の方法で対照の灰色粒剤を得た。
(比較例2)
【0034】
メタアルデヒド5.7部、普通酒粕(固形分50%、土井酒造社製)140部、カープレックス#80(DSL.ジャパン社製)22部をポリ袋内で混練し、以下、実施例1と同様の方法で対照の黄褐色粒剤を得た。
(比較例3)
【0035】
メタアルデヒド5.7部、普通酒粕(固形分50%、土井酒造社製)140部、ブチル化ヒドロキシアニソール(酸化防止剤)3.0部、カープレックス#80(DSL.ジャパン社製)22部をポリ袋内で混練し、以下、実施例1と同様の方法で対照の黄褐色粒剤を得た。
【0036】
(試験法)実施例および比較例の粒剤をピンホールを有したアルミ袋に入れて、40℃の恒温槽に入れ、18週間後に外観の変化の観察と野外でのナメクジの誘殺効果試験を実施した。
(ナメクジの誘殺効果試験)上面直径70mm、底面直径50mmのプラスチック製透明アイスクリームカップに実施例および比較例の検体を各1g量り取り、茶の木の下に置いて3日後のカップ内のナメクジ類の誘殺数を調べた。各検体は5個ずつ設置し、合計の数値を示す。
【0037】
(試験結果)試験;2007年6月18日、試験地;静岡県牧之原市細江の茶畑
表1
40℃保存後外観 誘殺数(冷蔵庫保存) 誘殺数(40℃保存)
実施例1 淡黄褐色 122 113
実施例2 淡黄褐色 112 101
実施例3 淡黄褐色 105 98
比較例1 灰色 5 4
比較例2 茶褐色 88 35
比較例3 茶褐色 62 11
【0038】
(考察)実施例は製造時の乾燥で黄白色であったが、本発明のメイラード反応阻害剤を添加してない比較例2、酸化防止剤を添加した比較例3は製造時の乾燥で黄褐色、40℃では何れも茶褐色に変化しており、ナメクジ誘殺数も減少し、40℃保存後は効力の大幅劣化が観察された。実施例は外観変化が淡黄褐色程度に留まり、誘殺性の劣化も少なく、本発明のメイラード反応阻害剤組み込み処方の有効性が確認された。比較例1は酒粕を使用してないため、誘殺効果はほとんど観察されず、メタアルデヒドだけでは誘引効果は低かった。尚、この圃場で観察されたナメクジはほとんどがチャコウラナメクジであった。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
殺虫成分と、糖類およびアミノ化合物を含有する天然物由来の害虫可食性誘引物質と、亜硫酸化合物もしくはチオール化合物又はその両方を含有することを特徴とする害虫誘引駆除組成物。
【請求項2】
糖類およびアミノ化合物を含有する害虫可食性誘引物質が酒粕であることを特徴とする請求項1に記載の害虫誘引駆除組成物。
【請求項3】
害虫駆除組成物が粒状組成物であることを特徴とする請求項1または請求項2に記載の害虫誘引駆除組成物。
【請求項4】
駆除される害虫が腹足綱害虫であることを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の害虫誘引駆除組成物。


【公開番号】特開2009−51792(P2009−51792A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−222276(P2007−222276)
【出願日】平成19年8月29日(2007.8.29)
【出願人】(596111472)株式会社トモグリーン・ケミカル (1)
【Fターム(参考)】