説明

家畜の分娩・発情検知センサ、及びそれを用いた検知装置並びに検知方法

【課題】 従来、分娩情報または発情情報を検知するために様々な装置や方法が開示されているが、いずれも精度の高い分娩情報または発情情報を判定することは難しかった。
【解決手段】 家畜の尻尾および足に装着されて、家畜の尻尾の尾上げ行動および歩行等の運動量を計測する3次元加速度センサと、該3次元加速度センサで計測された加速度データを、時系列で記録するとともに演算する演算部を備えており、該演算部が少なくとも家畜の分娩状態または発情状態を表す信号を出力し、該出力された信号を送信器で無線送信するように形成されていることを特徴とする、家畜の分娩・発情検知センサおよびそれを用いた家畜の分娩・発情検知装置ならびに家畜の分娩・発情検知方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、牛などの家畜の尻尾および足に装着して、家畜の分娩状態や発情状態を検知する家畜の分娩・発情検知センサ、及びそれを用いた検知装置並びに検知方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、牛の飼育方法としてフリーストール(放し飼い)とタイストール(繋ぎ飼い)がある。それぞれについて、牛の分娩や発情を検知するために様々な装置や方法が開示されている。例えば、牛の脚部、首部または顎部等に装着型振動計を装着し、振動数値の解析による牛の発情・分娩日時の予知方法および装置であって、装着型振動計を起動スイッチの操作で駆動させ、間欠振動数値、連続振動数値、静動または振動停止数値などを発生させて、これら振動数値情報を集中計算装置に伝送、入力、記憶し、棒グラフ、折れ線グラフ等の図表に図表化し、解析機能で解析された解析内容に基づき、牛の発情を集中計算装置の発情予知機能で発情の時期を予知し、かつ、受精後の分娩日時予知を集中計算装置の分娩日時予知機能で分娩日時を予知する方法、およびその方法に用いる装着型発情・分娩日時予知装置が開示されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
光センサを家畜の尻尾に装着するものとして、家畜の外陰部を観測する観測手段からの色情報に基づき、家畜の出産時の破水の徴候を判断する、家畜の出産管理方法及び装置が開示されている(例えば、特許文献2参照。)。
【0004】
また、家畜の足及び首に装着されて、それぞれの振動を検知しカウントする振動検知機と、複数の累積カウント値からなるカウントデータを時系列で記憶するカウントデータメモリと、歩行時及び採食時のカウントデータを解析する解析手段とを備え、歩行量及び採食量でもって放牧された動物の健康状態を管理する放牧管理装置が開示されている(例えば、特許文献3参照。)。
【0005】
また、互いに直交する3軸の加速度を検知して各加速度データを出力する加速度センサと、各加速度データを時系列で記憶するデータメモリと、データメモリと接続されて各加速度データを解析する解析部とを備え、放牧された動物に装着されて、解析部が動物の少なくとも睡眠状態又は走行状態を表す状態信号を所定時間毎に出力する放牧管理装置及びその方法が開示されている(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−325077号公報
【特許文献2】特開2002−095375号公報
【特許文献3】特開平10−213655号公報
【特許文献4】特開平10−295212号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1に記載の分娩日時を予知する方法およびその方法に用いる装着型発情・分娩日時予知装置は、牛の脚部、首部または顎部に装着して、牛の発情を集中計算装置の発情予知機能で発情の時期を予知し、かつ、受精後の分娩日時予知を集中計算装置の分娩日時予知機能で分娩日時を予知するものである。
【0008】
特許文献2に記載の出産管理装置は、家畜の尻尾に装着して外陰部を観測する観測手段からの色情報に基づき、家畜の出産時の破水の徴候を判断するものである。
【0009】
特許文献3は特に放牧に適した管理装置であって、牛の足及び首に振動検知機を装着して、それぞれの振動を検知し、複数の累積カウント値から歩行時及び採食時のカウントデータを解析して動物の健康状態を管理するものである。また、特許文献4も放牧管理装置であり、牛の首部に加速度センサを装着して睡眠状態又は走行状態を表す状態信号を出力するものである。
【0010】
しかしながら、特許文献1、3および4に示す装置は、精度が悪く信頼性が低いため、あまり普及するに至っていない。また、特許文献2に示す装置は、尻尾に装着した光センサが糞尿等で汚損されて色情報の判定精度が低下するおそれがあり、信頼性が低いという問題点があった。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明は、上記課題を解決するためになさなれたものであり、牛の出産状態および発情状態を高精度で判定し、牛から離間した場所にあっても、牛に装着した報知器で報知されるとともに、携帯電話等の携帯情報端末で迅速かつ容易に知ることができる家畜の分娩・発情検知センサ、及びそれを用いた検知装置並びに検知方法を提供することを目的としている。
【0012】
牛の出産に関して、尻尾上げが顕著な牛の出産予知は以下の知見に基づいている。即ち、分娩が近づいた牛は尻尾を上げる回数(以下、尾上げ回数という)が増えることが知られている。本発明はこれに着目して、尻尾上げを3次元加速度センサで検知して、その尾上げ回数の変化を連続して時系列的にデータ収集すると、分娩前には尾上げ回数が急激に増加する分娩兆候が現れることを長期間にわたる数多くの実験により把握した。分娩兆候は分娩の数時間前に現れるので、この特性を利用して分娩を予知して畜産家等に報知するようにしている。尾上げ回数の検知には3次元加速度センサ(X・Y・Z軸)を用いることにより、ハエ追いの尻尾行動と、分娩に伴う尾上げ回数を、3次元のデータにより分別することができるので、分娩兆候の検知精度が向上する。
【0013】
牛の出産に関して、尾上げ回数が顕著でない牛の出産予知は以下の知見に基づいている。即ち、多くの牛の中には尾上げ回数があまり変化せず、分娩兆候が分かり難い固体がある。この場合は、牛のそわそわ行動など(以下、運動量という)を足に装着した3次元加速度センサで検知し、尾上げ回数のデータと合わせて判定することで、従来のように単独のセンサで検知する方法に比べて、より高精度で分娩兆候を検知することが可能となった。
【0014】
牛の発情に関しては、フリーストール(放し飼い)のための発情報知器(例えば、足に着ける万歩計、製品名:牛歩)が公知であるが、タイストール(繋ぎ飼い)においては厩舎等に繋がれているので、発情による運動量が制限されるため、発情兆候を精度よく検知する手段がない現状にある。そこで、発明者は長期間にわたり牛の観察実験を行なった結果、タイストールにおいても発情前には、運動量と尾上げ回数が増加する現象が現れることを把握した。しかし、この現象は顕著なものでないため、従来製品である万歩計を用いても発情のデータとして検知することは難しい。
【0015】
発明者は上記に注目して、足に3次元加速度センサを装着して運動量を検知するとともに、尻尾に3次元加速度センサを装着して尾上げ回数を検知し、これら2つのデータを合わせて判定することにより、タイストールされた牛の発情検知の精度を向上させる装置と方法を発明するに至った。なお、発明者による実験によれば、多くの牛は発情の4日ほど前から、運動量の増加(即ち、発情兆候)が現れる。そこで、尻尾および足に3次元加速度センサを装着し、尾上げ回数と運動量を連続して時系列的にデータ収集して、発情情報として報知するものである。
【0016】
本発明の請求項1および6に示す家畜の分娩・発情検知センサおよびそれを用いた分娩・発情検知方法は、3次元加速度センサを牛の尻尾および足に装着し、牛の尻尾の尾上げ回数および歩行等の運動量を計測するものである。各3次元加速度センサで計測された加速度データは、分娩・発情検知センサに設けられた演算部で時系列に記録されるとともに演算され、その結果を牛の分娩状態または発情状態を表す信号として出力し、その出力された信号を送信器により無線送信するものである。
【0017】
このように、本発明では3次元加速度センサを牛の尻尾および足に装着して、尾上げ回数および運動量を計測し、それぞれの計測データを関連づけて総合的に判定することにより、牛の分娩状況および発情状況を高精度で判定することができる。従来、牛の分娩状況または発情状況を検知するために牛の首、背中、尻尾または足にセンサ等を取付ける方法が試みられているが、各部位に単独で装着して検知するだけでは、正確な分娩状況または発情状況を得ることは難しい。本発明で示すように3次元加速度センサを牛の尻尾および足に装着して、それぞれの計測データを関連づけて総合的に判定することにより、牛の分娩状況および発情状況を高精度で判定することが可能となる。
【0018】
本発明の請求項2および7に示す家畜の分娩・発情検知センサおよびそれを用いた分娩・発情検知方法は、3次元加速度センサで計測された牛の尾上げ回数と運動量について、演算部で所定時間当たりの頻度が演算され、その演算値の多寡に基づいて家畜の分娩状態または発情状態を判定し、その判定結果を表す信号を所定時間毎に出力し、該出力された信号を送信器で無線送信するものである。牛は、分娩が近づくと尾上げ回数が顕著になり、発情が近づくと歩行等の運動量が顕著になることが知見されている。そこで、本発明では、3次元加速度センサで尾上げ回数と運動量を計測し、演算部で所定時間当たりの頻度を演算し、それぞれの演算結果を合わせて総合的に判定しているので、牛の分娩状況および発情状況を高精度で判定することができる。
【0019】
本発明の請求項3および8に示す家畜の分娩・発情検知センサおよびそれを用いた分娩・発情検知方法は、牛の個体を識別するための識別符号が付加されており、演算部より出力された信号に識別符号を付加して送信器から無線送信するとともに、前記演算部から出力された信号によって駆動され、牛の管理者等が容易に点灯状態を視認できる表示器が形成されている。このように、本発明では、厩舎等において複数頭が飼育されている牛の特定を遠隔地から容易に確認することができるとともに、分娩・発情検知センサに設けられた報知器が音、音声または光で報知することにより該当する牛を容易に確認することができる。
【0020】
本発明の請求項4に示す家畜の分娩・発情検知センサは、牛の尻尾および足に装着手段により取付けられている。牛の尻尾は、糞尿の排泄やハエの振り払い等で頻繁に動いており、強い力で尻尾を振り回すことがあるので、尻尾に装着する分娩・発情検知センサは、装着手段により尻尾の長尺方向と直交する円周部に強固に被着されている。また、牛は歩行、立位と座位の繰り返し、そわそわ行動等の運動を行なうので、足に装着する分娩・発情検知センサは地面や柵への当接や体重による圧迫等を受けても外れないよう、装着手段により強固に足に巻着されている。これにより、本発明の分娩・発情検知センサは、容易に着脱が可能であるが、牛の尻尾上げや歩行等の運動で外れることはない。
【0021】
本発明の請求項5に示す家畜の分娩・発情検知装置は、3次元加速度センサ、演算部および送信器等が一体的に形成された2個の分娩・発情検知センサと、各分娩・発情検知センサから送信された信号を受信する受信器と、受信した信号を牛の尾上げ回数の演算値の多寡と、運動量の演算値の多寡との組合せにより、牛の分娩状態または発情状態を判定する制御部と、制御部の判定結果を画面表示または離間した場所にある受信端末に送信する送信器より構成されている。これにより、牛から離間した場所においても、該牛の分娩状態または発情状態を容易に認識することが可能となる。
【0022】
2個の分娩・発情検知センサで計測された計測データは、送信器により無線送信され、コンピュータに備えられた受信器から制御部に伝送される。制御部では分娩状況および発情状況について演算、判定を行い、このデータは牛の固体(牛のID)毎に記憶、蓄積され、次回の分娩や発情判定のデータとして活用される。これにより、分娩および発情の回数や年数が増加するにしたがって、学習機能によりデータが更新されるので、判定精度が格段に向上する。
【発明の効果】
【0023】
本発明では、3次元加速度センサを牛の尻尾および足に装着して、牛の尻尾の尾上げ回数および歩行等の運動量を計測し、それぞれの計測データを合せて総合的に判定することにより、牛の分娩状況および発情状況を高精度で判定することができる。また、分娩・発情検知センサには識別符号が付加されているので、厩舎等で複数頭飼育されている牛の特定を遠隔地から容易に認識することができる。また、分娩・発情検知センサに設けられた報知器が音、音声または光で報知することにより該当する牛を容易に確認することができる。
【0024】
本発明によれば、分娩の4〜5時間前に分娩兆候または発情兆候を検知することができるので、畜産家等は余裕をもって出産や発情に備えることができる。したがって、牛を常時看視することから開放され、しかも逆子や難産による母牛、子牛の遺失を防止することができる。また、発情時期の的確な検知により種付けのタイミングを逸することがない。
【0025】
本発明の家畜の分娩・発情検知センサは、尻尾の長尺方向と直交する円周部に強固に装着することができる装着手段、または、地面や柵への当接や体重による圧迫等によっても容易に外れないよう強固に足に装着する装着手段が設けられている。これにより、本発明の分娩・発情検知センサは、容易に着脱が可能であるとともに、牛の尻尾や足に装着しても尻尾上げや歩行等の運動で外れることはない。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明の家畜の分娩・発情検知センサのブロック図である。
【図2】本発明の家畜の分娩・発情検知装置のシステム構成図である。
【図3】牛分娩時の尾上げ行動を示す図表である。
【図4】牛発情時の運動量を示す図表である。
【図5】本発明の家畜の分娩・発情検知センサを尻尾に装着したときのデータ変化を示す図表である。
【図6】本発明の家畜の分娩・発情検知センサを足に装着したときのデータ変化を示す図表である。
【図7】本発明による家畜の分娩状況または発情状況判定のアルゴリズムである。
【図8】本発明の家畜の分娩・発情検知センサを牛の尻尾および足に装着した状態を示す斜視図である。
【図9】本発明の家畜の分娩・発情検知センサ(尻尾センサ)を示したもので、(a)は斜視図、(b)は(a)のA矢視図である。
【図10】本発明の家畜の分娩・発情検知センサ(尻尾センサ)の上面断面図であり、(a)は挿入状態、(b)は締付状態を示したものである。
【図11】本発明の他の実施形態を示す家畜の分娩・発情検知センサ(尻尾センサ)であり、(a)は正面図、(b)は側面図である。
【図12】本発明の他の実施形態を示す家畜の分娩・発情検知センサ(尻尾センサ)の操作説明図であり、(a)は閉状態、(b)は開状態である。
【図13】本発明の家畜の分娩・発情検知センサ(足センサ)を示したもので、(a)は斜視図、(b)はベルトの係着状態を説明する拡大図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明の実施形態について図面を参照しながら詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではなく、要旨を逸脱しない範囲において適宜変更することが可能である。
【0028】
図1において、家畜の分娩・発情検知センサ1,2は3次元加速度センサ10、A/D変換器20、演算・判定部30、出力部40、報知器50、送信器60および電池70より構成されている。3次元加速度センサ10は、牛の尻尾または足に装着して前後、左右、上下の三次元方向の体動を振動数として計測し、この振動数をカウントするものである。A/D変換器20は、3次元加速度センサ10で計測した振動数、すなわちアナログ信号をコンピュータで処理可能なディジタル信号に変換するもので、一般にA/D変換(Analog/Digital Conversion)と呼ばれている。
【0029】
演算・判定部30は、3次元加速度センサ10が計測した振動数を、時系列な単位時間当たりの回数(尾上げ回数または運動量)として演算し、前記単位時間当たりの回数の多寡を小、中、大に区分けして判定する。また、出力部40は、前記区分けされた判定信号を報知器50および送信器60に出力する。
【0030】
報知器50は、牛と離間した距離に位置する畜産家等に報知するもので、音、音声または光の少なくとも1以上の報知機能を備えており、光による点灯または発光にはLEDが用いられている。なお、報知器50を設けない構成とすることも可能である。送信器60は、前記単位時間当たりの回数の多寡を小、中、大に区分けして判定した判定信号を、遠隔地にあるコンピュータCに送信するものである。電池70は、家畜の分娩・発情検知センサ1,2を構成する各機器に電気を供給するための電源であり、主としてボタン電池が用いられている。家畜の分娩・発情検知センサ1,2は、電池70を容易に交換できるような構造に形成されている。
【0031】
図2において、家畜の分娩・発情検知装置3は、家畜の分娩・発情検知センサ1,2、コンピュータC、携帯電話37および/または専用受信器38から構成されている。コンピュータCは、家畜の分娩・発情検知センサ1,2から離間した近距離(例えば、無線LANにおいては100m以内)に設置されており、中央処理装置31、記憶装置32、表示装置33、受信器34、送信器35および報知器36より構成されている。家畜の分娩・発情検知センサ1,2から送信された判定信号を含むデータ化された情報は、無線伝送によりコンピュータCの受信器34で受信される。データ化された情報はコンピュータCの中央処理装置31で処理され、その結果は表示装置33に表示されるとともに、分娩状態および出産状態は報知器36により音、音声または光の少なくとも1以上の報知機能で報知される。一方、中央処理装置31で処理された分娩状態および出産状態のデータは、送信器35により携帯電話37および/または専用受信器38(音、音声または光の報知機能に特化したもの)に無線送信される。
【0032】
また、牛の個体を識別するために、前記家畜の分娩・発情検知センサ1,2には識別情報が付加されている。識別情報としては既知のRFIDタグ7(図示しない)が用いられている。RFIDタグ7とはデータキャリアシステム(移動体識別装置)において使用されるラジオ フリキュエンシー アイデンティフィケーション(Radio Frequency Identification)タグのことをいう。RFIDタグ7としては、内部アンテナとICチップがケース内に収納されてなる公知のRFIDタグが使用される。使用されるRFIDタグ7の形状は特に限定されずディスク型、カード型、円筒型等、種々の形状のものから適宜選択して使用できるが、牛の尻尾または足に装着するのに適したものを使用することが好ましい。RFIDタグ7内部のICチップには、ID用メモリや通信に必要な制御回路等が収められており、ID用メモリには装着される牛に固有の識別コードが牛識別情報として登録機(図示しない)によって書き込まれている。
【0033】
図3において、縦軸は尾上げ行動(指数)を示したもので、横軸は日数(時間)経過を示したものである。図3に示すように、平常時の尾上げ行動(指数)は0〜3であるが、5時間前から分娩直前までは尾上げ行動(指数)が増加して5〜20となって分娩兆候が見られ、分娩時には尾上げ行動(指数)が激増して40に達していることが知見できた。
【0034】
図4において、縦軸は運動量(指数)を示したもので、横軸は日数経過を示したものである。図4に示すように、平常時の運動量(指数)は50以下であるが、発情の兆候があるときは、運動量(指数)が一時的に突出し、発情時は運動量(指数)が連続して突出して200〜280になることが知見できた。なお、図中の兆候1から兆候5は発情の兆候を示したもので、発情は発情時を示したものである。
【0035】
図5において、縦軸は尾上げ回数を示したもので、横軸は時間(経過)を示したものである。図中のフリーカーブは、単位時間毎の尾上げ回数を曲線で連結して表したものである。前記曲線は尾上げ回数の多寡により、小、中、大の3区分に区分けがなされ、中区分の領域では発情の兆候があり、大区分の領域では出産の兆候があることが知見できた。
【0036】
図6において、縦軸は足踏み回数および寝たり起きたりの回数を示したもので、横軸は時間(経過)を示したものである。図中のフリーカーブは、単位時間毎の足踏み回数等を曲線で連結して表したものである。前記曲線は足踏み回数等の多寡により、小、中、大の3区分に区分けがなされ、小区分の領域では出産の兆候があり、中区分の領域では発情または出産の兆候があり、大区分の領域では発情の兆候があることが知見できた。
【0037】
図7において、足に装着した家畜の分娩・発情検知センサ(以下、足センサという)と、尻尾に装着した家畜の分娩・発情検知センサ(以下、尻尾センサという)のデータ量を、それぞれ小、中、大に区分けし、足センサと尻尾センサのデータ量の多寡の組合せにより、出産状態であるか、発情状態であるかを判定する。
【0038】
分娩検知の判定(図3、図4参照)。
1.通常でも、尻尾を上げるが、尾上げ回数は小さい。
2.分娩が近づくと、尻尾の尾上げ回数が次第に増加する。
3.この回数は分娩4〜5時間前から頻繁になる。
4.また、分娩が近くなると、牛がそわそわ行動や寝たり起きたりの行動をするので、この体動を足センサで検出する。
5.尾上げ回数と、そわそわ行動等の運動量の2つのデータを合せて総合的に判定することにより分娩検知の精度を格段に上げることができる。
【0039】
発情検知の判定(図4参照)。
1.発情4日ほど前から運動量が増加し、発情兆候が現れる。
2.発情数時間前から、運動量は非常に顕著になる。
3.発情兆候と発情のデータには明らかに有意差があり、データによって発情が検知できる。
【0040】
前記に基づいて、図7に示すような判定が行なわれる。即ち、足センサが小区分で尻尾センサが中区分または大区分であれば分娩の状態、足センサが中区分で尻尾センサが中区分であれば分娩状態または発情状態、足センサが中区分で尻尾センサが大区分であれば分娩状態、足センサが大区分で尻尾センサが小区分または中区分であれば発情状態と判定する。
【0041】
図8において、尻尾センサ1は牛の尻尾に装着され、足センサ2は牛の足に装着されている。尻尾センサ1と足センサ2の機能は略同一であるが、装着手段の構造が異なっている。以下、尻尾センサの構造について図9〜図10に基づき説明する。尻尾センサ1は、本体部11、尻尾把持部12および締付リング13より構成されている。本体部11は、図9(b)に示すように強化プラスチック製で略楕円形(または、略円形、略方形など)に成型されており、中央部分には牛の尻尾Tを貫通させるための貫通穴14が設けられている。また、尻尾センサ1は牛の糞尿等で汚損されるため、前記本体部11は防水構造としている。なお、電池70の収納部16は容易に電池交換が可能な構造となっている。
【0042】
図9(a)に示すように、前記本体部11に設けられた貫通穴14の軸心と平行に、この軸芯を共通とし両端が開口された略円筒状の尻尾把持部12が延設されている。尻尾保持部12は可撓性を有する強化プラスチック製で、先端部分にはフランジ15が形成されており、後述する円筒状の締付リング13が尻尾把持部12の外周面にスライド自在に嵌合されている。尻尾保持部12は本体部11を除いてフランジ側から2つ割に形成されており、この2つ割に形成されている2箇所の部分は軸心方向にテーパ状の割り溝17が設けられている。また、尻尾保持部12の肉厚は本体部側からフランジ側方向にむけて厚くなるテーパ状となっており、強化プラスチック製の締付リング13を尻尾保持部12の外周に沿ってフランジ側にスライドさせると、2つ割に形成された尻尾把持部12が締付リング13によって押圧されて縮径されるようになっている。
【0043】
図10(a)において、牛の尻尾Tに尻尾センサ1が挿入されている。牛の尻尾Tは根元側から先端側に向かって細くなっているので、尻尾把持部12の内周面と尻尾Tの外周面との間に隙間18が生じている。図10(b)において、締付リング13を図10(a)に示す位置からフランジ側に移動させると、締付リング13が可撓性を有する尻尾把持部12の外周を縮径しながら移動するので、2つ割に形成された尻尾把持部12が半径方向の中心へ向って押圧され、尻尾把持部12の内面が尻尾Tを強く締め付けることになる。
【0044】
前記尻尾保持部12の2つ割に形成された円筒状の内面には、対向して多数の突起19が設けられている。この突起19は尻尾センサ1を牛の尻尾Tに装着させるときに、突起19の先端が牛の皮膚に当接または食い込んで、尻尾Tを強く締め付けるので、牛が強い力で尻尾Tを振り回しても、尻尾センサ1が容易に脱落することがない。なお、突起19の形状は、先端が尖っていればよく、例えば、角錐、円錐、鋸歯状などを用いることができる。
【0045】
また、前記本体部11の任意位置(例えば、両側面)には、表示器24が設けられており、牛が分娩状況または発情状況と判定された場合に、LEDによる点灯または発光により牛の飼育家等が容易に視認できるようになっている。
【0046】
図11および図12において、本発明の他の実施形態を示す尻尾センサ1aは、装着手段がクリップ状となっており、本体部11aは、強化プラスチックを用いて略方形に成形されている。また、尻尾センサ1aは牛の糞尿等で汚損されるため、本体部11aは防水構造としている。なお、電池70の収納部16aは容易に電池交換が可能な構造となっている。前記本体部11aは、後述する棒状ピン48の側面に取り付けられている。また、前記本体部11aの任意位置には、表示器24が設けられており、牛が分娩状況または発情状況と判定された場合に、LEDによる点灯または発光により牛の飼育家等が容易に視認できるようになっている。
【0047】
前記本体部11aには尻尾Tへの装着手段として強化プラスチック製のクリップが形成されている。クリップは第1の挟持部材41、第2の挟持部材51およびこれらを閉に付勢した状態で連結する連結付勢部材42から形成されている。第1の挟持部材41は、細長い第1の支持辺43の同一側から、これに片持ち支持された状態で複数の第1の挟持歯44を、互いに同一ピッチP間隔で一体的に櫛歯状に突設させて成型されている。各第1の挟持歯44は半円弧又は半楕円弧より長い湾曲形状を有している。
【0048】
第1の挟持部材41の第1の支持辺43の中央部には、抑え片45が第1の挟持歯44の突出方向に対して斜め背面側(図12(a)、(b)中の左上側)へ一体的に突設されている。抑え片45の付け根において、一対の連結片46が間隔を置いて第1の支持辺43又は抑え片45から一体的に突設されており、それら連結片46には位置の揃った貫通孔47が第1の支持辺43に沿って形成されている。
【0049】
第2の挟持部材51は、第1の支持辺43と同様に細長い第2の支持辺53の同一側から、これに片持ち支持された状態で湾曲させた複数の第2の挟持歯54を、互いに同一ピッチP間隔で一体的に櫛歯状に突設させて成型されている。各第2の挟持歯54は、第1の挟持歯44と同様に半円弧状又は半楕円弧状より長い形状を有して突設させて形成されており、第1の挟持部材41の先端部と第2挟持部材51の先端部は閉で交差した状態に形成されている。
【0050】
第2の挟持部材51の第2の支持辺53の中央部には、抑え片55が第2の挟持歯54の突出方向に対して斜め背面側にして抑え片55とは反対側(図12(a)、(b)中の右上側)へ第2の支持辺53から一体的に突設されている。抑え片55の付け根において、第1の挟持部材41の一対の連結片46に当接するような一対の連結片56が間隔を置いて第2の支持辺53又は抑え片55から一体的に突設されており、それら連結片56には連結片46の貫通孔47に位置を揃えた貫通孔57が第2の支持辺53に沿って形成されている。
【0051】

それら第1および第2の挟持部材41、51は、図11、図12に示すように、第1の挟持部材41の連結片46の間に第2の挟持部材51の連結片56をはめ込み当接させて互いの貫通孔47,57、を合わせた状態で、これらに棒状ピン48が挿入保持され、第1および第2の挟持歯44、54が空間を置いて重なって対面するように連結されており、弾性を有するバネ線を螺旋状に形成したコイルバネ49をその棒状ピン48に挿通するとともにコイルバネ49の両端を抑え片45、55に圧接させ、第1および第2の挟持歯44、54の先端間が閉または狭まるよう付勢されている。
【0052】
すなわち、連結片46、56、貫通孔47、57、棒状ピン48およびコイルバネ49により、上述したように第1および第2の挟持部材41、51を付勢した状態で第1および第2の支持辺43、53を連結するヒンジ構成の連結付勢部材42が形成されており、通常は、第1および第2の挟持歯44、54の先端同士が交差する状態となっており、付勢力に抗して、例えば、抑え片45、55間を狭めるように手等で摘むと、第1および第2の挟持歯44、54の先端が拡開するようになっている。
【0053】
上述した第1および第2の挟持歯44,54には、多数の突起19が互いに対向、かつ、当接しないように位置をずらせて設けられている。この突起19は尻尾センサ1を牛の尻尾Tに挟着させるときに、突起19の先端が牛の皮膚に当接または食い込んで、尻尾Tを強く締め付けるので、牛が強い力で尻尾Tを振り回しても、尻尾センサ1aが容易に脱落することがない。なお、突起19の形状については、前記と同様である。また、付勢力に抗して、例えば、抑え片45、55間を狭めるように手等で摘むだけで尻尾Tから尻尾センサ1aを取り外すことが可能となり、取付けや取外し等の扱いが極めて簡単である。
【0054】
図13おいて、足センサ2は本体部21と足把持部22より構成されている。本体部21は、強化プラスチック製で略方形に成型されており防水構造としている。なお、電池70の収納部16aは容易に電池交換が可能な構造となっている。前記本体部21は、牛の足に巻着する平ベルト23に固定されている。また、前記本体部21の任意位置には、表示器24が設けられており、牛が分娩状況または発情状況と判定された場合に、LEDによる点灯または発光により牛の飼育家等が容易に視認できるようになっている。前記平ベルト23の一端部には平ベルト23の巻着状態を保持する係止手段として、表面にラック(鋸歯状の戻り防止片)が形成されたラックベルト25を設け、他の端部には前記ラックベルト25を挿入する挿入溝26が設けられている。ラックベルト25を選択的に移動抑制する手段として、前記挿入溝26の内部にラチェット(図示しない)が揺動自在に取付けられており、リリースボタン27を押下げるとラックベルト25は挿入溝26より引き出すことができる。リリースボタン27を押下げない状態ではラチェットがラックベルト25の移動を抑制するので、一方向にのみ送り移動が可能となり、挿入溝26の方向には進むが、挿入溝26から引き出すことはできない。これにより、牛の足Lが柵等に当接、または立位と座位を繰り返す等の運動を行なっても、足センサ2が牛の足Lより脱落することはない。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明は、主として厩舎で飼育されているタイストールの牛の分娩状態や発情状態を検知する、家畜の分娩・発情検知センサ、及びそれを用いた検知装置並びに検知方法に関するものである。しかしながら、これに限定されるものではなく、牛以外に馬、豚などの家畜に適用することや、放牧されているタイストールの家畜にも広く適用することが可能なものである。
【符号の説明】
【0056】
1、1a 家畜の分娩・発情検知センサ(尻尾センサ)
2 家畜の分娩・発情検知センサ(足センサ)
3 家畜の分娩・発情検知装置
10 3次元加速度センサ
20 A/D変換機
30 演算・判定部
40 出力部
50 報知器
60 送信器
70 電池
11,11a、21 本体部
12 尻尾保持部
13 締付リング
14 貫通穴
15 フランジ
16,16a 収納部
17 テーパ状の割り溝
18 隙間
19 突起
4b 情報処理部
5 記憶部
6 通信部
7 RFIDタグ
8 電池
22 足把持部
23 平ベルト
24 表示器
25 ラックベルト
26 挿入溝
27 リリースボタン
30 コンピュータ
31 中央処理装置
32 記憶装置
33 表示装置
34 受信器
35 送信器
36 警報器
37 携帯電話
38 専用受信器
41 第1の挟持部材
42 連結付勢部材
43 第1の支持辺
44 第1の挟持歯
45、55 押え片
46,56 連結片
47,57 間津孔
48 棒状ピン
49 コイルバネ
51 第2の挟持部材
53 第2の支持辺
54 第2の挟持歯
C コンピュータ
L 牛の足
P ピッチ
T 牛の尻尾

【特許請求の範囲】
【請求項1】
家畜の尻尾および足に装着されて、家畜の尻尾の尾上げ行動および歩行等の運動量を計測する3次元加速度センサと、該3次元加速度センサで計測された加速度データを、時系列で記録するとともに演算する演算部を備えており、演算部が少なくとも家畜の分娩状態または発情状態を表す信号を出力し、該出力された信号を送信器で無線送信するように形成されていることを特徴とする、家畜の分娩・発情検知センサ。
【請求項2】
前記3次元加速度センサで計測された尾上げ行動と運動量は、演算部で所定時間当たりの頻度が演算され、その演算値の多寡に基づいて家畜の分娩状態または発情状態を判定して、その判定結果を表す信号を所定時間毎に出力し、該出力された信号を送信器で無線送信するように形成されていることを特徴とする、請求項1に記載の家畜の分娩・発情検知センサ。
【請求項3】
前記家畜の分娩・発情検知センサには、家畜の個体を識別するための識別符号が付加されており、演算部より出力された信号に識別符号を付加して送信器から無線送信するとともに、前記演算部から出力された信号によって駆動され、畜産家等が容易に分娩状態または発情状態を確認できる報知手段が設けられていることを特徴とする、請求項1または2に記載の家畜の分娩・発情検知センサ。
【請求項4】
前記分娩・発情検知センサは、家畜の尻尾および足に取付けられるものであり、尻尾または足に装着する装着手段が設けられていることを特徴とする請求項1〜3に記載の家畜の分娩・発情検知センサ。
【請求項5】
2個の分娩・発情検知センサと、各分娩・発情検知センサから送信された信号を受信する受信器と、受信した信号を尾上げ行動の演算値の多寡と、運動量の演算値の多寡との組合せにより、家畜の分娩状態または発情状態を判定する制御部と、制御部の判定結果を画面表示または離間した場所にある受信端末に送信する送信器より構成されていることを特徴とする、家畜の分娩・発情検知装置。
【請求項6】
3次元加速度センサを家畜の尻尾および足に装着して、家畜の尻尾の尾上げ行動および歩行等の運動量を計測し、前記3次元加速度センサで計測された加速度データを時系列でデータメモリに記録し、前記データメモリと接続されている演算部で、各加速度データを演算し、前記演算結果に基づいて少なくとも家畜の分娩状態または発情状態を表す信号を出力することを特徴とする、家畜の分娩・発情検知方法。
【請求項7】
前記3次元加速度センサで計測された尾上げ行動と運動量は、演算部で所定時間当たりの頻度が演算され、その演算値の多寡に基づいて家畜の分娩状態または発情状態を判定し、その判定結果を表す信号を所定時間毎に出力し、その出力された信号を送信器で無線送信することを特徴とする、請求項6に記載の家畜の分娩・発情検知方法。
【請求項8】
前記家畜の分娩・発情検知センサには、家畜の個体を識別するための識別符号が付加されており、演算部より出力された信号に識別符号を付加して送信器から無線送信し、送信された無線信号を受信器で受信し、受信した信号を尾上げ行動の演算値の多寡と、運動量の演算値の多寡との組合せにより、家畜の分娩状態または発情状態を制御部で判定し、その判定結果を画面表示または離間した場所にある受信端末に送信することを特徴とする、請求項6または7に記載の家畜の分娩・発情検知方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【公開番号】特開2011−234668(P2011−234668A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−108641(P2010−108641)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【公序良俗違反の表示】
(特許庁注:以下のものは登録商標)
1.万歩計
【出願人】(595114447)株式会社テクノスジャパン (9)