説明

容器栽培培地

【課題】野菜類の品質、風味を向上させる養分を吸収する毛細根と、定植した苗の発育すなわち収穫量を向上させる養分を吸収する主根とを同時に発達させる容器栽培培地を提供する。
【解決手段】栽培容器2を使用した野菜類の栽培において、保水力、保肥力の高い材料からなる5cm以上の厚さの第1倍地層31と、ピートモスに軽石を分散させた3cm以上の厚さの第2倍地層32とを栽培容器2に層状に充填した容器栽培培地30を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜類の栽培培地に関する。
【背景技術】
【0002】
ピートモスは撥水性、低PH値、高い毛管抵抗値を示す。これに対し、ピートモス混合割合が20〜40重量%のピートモスとロックウール粒状綿との混合培地を果菜類の栽培に用いると、ピートモス自体の低PHが中和され、毛管抵抗値も低くなって保水性が高まり、さらに非イオン界面活性剤を散布すると撥水性が解消されることが知られている。(例えば、特許文献1参照。)しかし、このような混合培地は、果菜類の栽培における生育面の改良を可能とするものであるが、品質、風味を改良するものではない。
【0003】
主としてバーミキュライトからなる上層、主としてバーク堆肥からなる中間層、主としてバーミキュライトからなる下層の3層からなる培地で植物を栽培すると、植物が張る根の機能分担が各層で異なるとともに、組み合せた培地内の水分配分が均等となり、植物の生育不良・生育ムラを防止できることが開示されている。(例えば、特許文献2参照。)しかし、この方法の複層培地も、果菜類の栽培における生育面の改良を可能とするものであるが、品質、風味を改良するものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特許第2508577号公報
【特許文献2】特開2002−360062号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載のピートモス混合割合が20〜40重量%のピートモスとロックウール粒状綿との混合培地にさらに非イオン界面活性剤を散布して果菜類の栽培培地に用いる方法では、収穫する野菜の発育は向上するものの、品質、風味の向上については期待できないという問題があった。
【0006】
また、特許文献2に記載の、複数層からなる培地を用いて植物を栽培する方法では、培地内の水分配分が均等となり、植物の生育不良・生育ムラは防止できるものの、野菜類の品質、風味の向上については期待できず、さらに、各層の材料による主根、細根、毛細根それぞれの発達度の差異については開示がないという問題があった。
【0007】
本発明は上記問題点を鑑みなされたものであって、野菜類の品質、風味を向上させる養分を吸収する毛細根と、定植した苗の発育すなわち収穫量を向上させる養分を吸収する主根とを同時に発達させる容器栽培培地を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
このような目的は、下記(1)〜(4)の本発明により達成される。
【0009】
(1)保水力、保肥力の高い材料からなる5cm以上の厚さの第1倍地層と、
ピートモスに軽石を分散させた3cm以上の厚さの第2倍地層とを層状に含むことを特徴とする容器栽培培地。
【0010】
(2)第1倍地層における保水力、保肥力の高い材料が、赤土、赤玉土、ベントナイト、モンモリロナイトのうちの少なくとも1種以上を含むことを特徴とする(1)に記載の容器栽培培地。
【0011】
(3)第2倍地層に分散させた軽石の含有量が10〜30質量%であることを特徴とする(1)又は(2)に記載の容器栽培培地。
【0012】
(4)容器培地の最上層に3cm以上の厚さのゼオライトの第3倍地層とをさらに含むことを特徴とする(1)〜(3)のいずれかに記載の容器栽培培地。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、野菜類の品質、風味を向上させ、かつ、定植した苗の発育すなわち収穫量も向上させる容器栽培培地を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】本発明の第1実施形態に係る容器栽培培地を模式的に示した断面図である。
【図2】本発明の第2の実施形態に係る容器栽培培地を模式的に示した断面図である。
【図3】本発明の実施例4におけるトマトの根の発達状況を模式的に示した断面図である。
【図4】aは、本発明の実施例4のプランタ側面内壁におけるトマトの根の発達状況の概観写真、bは、本発明の実施例4のプランタ底面内壁におけるトマトの根の発達状況の概観写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施するための形態(以下、「実施形態」という。)について詳細に説明する。以下に示す実施形態は、本発明の技術的思想を具体化するための物や方法を例示するものであって、本発明の技術的思想は、野菜一般に限定せず、さらに果樹にも適用可能であり、また、構成材料の種類、構成条件等を下記のものに特定するものでない。本発明の技術的思想は、特許請求の範囲に記載された技術的範囲内において、種々の変更を加えることができる。
【0016】
(第1実施形態)
図1は、本発明の第1実施形態に係る容器栽培培地30を模式的に示した断面図である。
【0017】
栽培容器2は不通根性の材質からなることが好ましく、底部に複数の排液孔21を設けたものを用いる。栽培容器2は、培地充填厚さが20cm以下のものを用いるのが一般的である。
【0018】
容器栽培培地30は、保水力、保肥力の高い材料からなる5cm以上の厚さの第1倍地層31と、ピートモスに、通気性及び水分吸収性を有す軽石を分散させた3cm以上の厚さの第2倍地層32とを層状に含む。
【0019】
植物の根には、主根、細根及び毛細根があるが、果菜、葉菜を含む野菜類を栽培する場合、苗の発育を促進する、すなわち、収穫量を高める養分は主根から吸収され、収穫物の品質、風味を高める養分は毛細根から吸収される。従って、収穫物の品質、風味の向上、及び定植した苗の発育すなわち収穫量の向上を達成するためには、毛細根と主根を同時に発達させる必要がある。
【0020】
第1倍地層31と第2倍地層32の上下関係はどちらでもよいが、栽培容器2の底部で主根を発達させるために、第1倍地層31を底部にする方が好ましい。
【0021】
容器栽培倍地30の厚さは、栽培する果菜類、葉菜類の種類にもよるが、第1倍地層31は、培地の量を確保して主根を発達させるために、5cm以上の厚さとすることが好ましい。第2倍地層32は、培地表面に繁茂した毛細根が散布した液肥の養分を効果的に吸収するので、3cm以上の厚さとすることが好ましい。容器栽培倍地30の厚さの上限は、使用する栽培容器2によって制限される。
【0022】
第1倍地層31は、主根の発達を促進するため、保水力、保肥力の高い材料から構成される。
【0023】
第1倍地層31の保水力、保肥力の高い材料は、赤土、赤玉土、ベントナイト、モンモリロナイトのうちの少なくとも1種以上を用いることができる。中でも、安価に入手できる赤土又は赤玉土が好ましい。
【0024】
第2倍地層32は、栽培する野菜類の品質、風味を向上させる養分を吸収する毛細根の発達を促進するため、ピートモスに通気性及び水分吸収性を有する軽石を分散させたものが用いられる。
【0025】
ピートモスは、ミズゴケ、アシ、ヨシ、スゲ、ヌマガヤ、ヤナギ等の植物が堆積し、腐食化した泥炭を脱水、粉砕したもので、繊維状の形態をしている。ピートモスはカナダ、ロシア、北ヨーロッパに無尽蔵に埋蔵されていると言われており、日本ではミズゴケが主原料となるヨーロッパ産のピートモスが多く流通している。しかし、ピートモス表面には油分やロウ分が含まれ、乾燥すると撥水性が強くなるので、ピートモスのみからなる培地は、吸水が困難な、排水性の高いものとなる。また、ピートモスは毛管抵抗値が高いので、ピートモス中では主根、細根、毛細根のいずれも発達しにくくなる。
【0026】
軽石は、マグマが噴火の際に地下深部から上昇し、減圧されてマグマに溶解していた水等の揮発成分が発泡して多孔質となったもので、吸水性、保水性を有するが、過剰な水分を容易に排出するので排水性も有する。また、根の呼吸作用等によって発生する炭酸ガスを排出し、根のまわりに酸素を供給する通気性にも優れる。軽石を破砕して粒子サイズをそろえたものが入手可能である。
【0027】
第2倍地層32における軽石の含有量が10質量%未満であると、第2倍地層32の水はけが良くなりすぎ、30質量%を超えると第2倍地層32に水分が停滞しすぎる。
【0028】
(第2実施形態)
図2は、本発明の第2実施形態に係る容器栽培培地30を模式的に示した断面図である。容器栽培培地30は、第1実施形態における第2倍地層32の上にさらに3cm以上の厚さのゼオライトの第3倍地層33を設けたものである。
【0029】
本発明の第1実施形態における第2倍地層32は液体の拡散性が低いので、液肥を散布しても、第2倍地層32中では、液肥は横方向に均一に分布しにくい。本発明の第2実施形態においては、液体の拡散性の高いゼオライトを第3倍地層33として第2倍地層32の上に配置することにより、第3倍地層33に上部から散布した液肥を第3倍地層33内でまず横方向に均一に分布し、次いで下部の倍地層に浸透していくので、第2倍地層32の毛細根、第1倍地層31の主根からの液肥の吸収が効率よく行われる。
【0030】
アルミノケイ酸塩であるゼオライトは多孔質物質で吸着性、吸水性に優れる。また、カチオンは、水溶液中で容易に他のカチオンに置き換えることができるため、ゼオライトは高いイオン交換能、すなわち高いCEC(塩基置換容量)を有する。150以上のCECを持つ天然ゼオライトが入手可能である。人工ゼオライトは180〜400のCEC、合成ゼオライトは400〜600のCECを示すが、これらは高価である。
【0031】
ゼオライトの第3倍地層33は、厚さの均一性を保つ観点から、3cm以上の厚さとすることが好ましい。
【実施例】
【0032】
本発明に係る容器栽培培地30を用いて、ミニトマト、きゅうり、春菊の苗の根の発達状況を観察したところ、いずれも同様の結果を示したので、以下にミニトマトの苗の栽培の実施例を示す。実施例においては、栽培容器2としてプラスチック製のプランタを用いた。プランタは、内寸法が巾25cm、長さ60cm、深さ20cmで、底部に複数の直径φ1cmの排液孔21が設けられている。このプランタに容器栽培培地30を充填してから、別途容器栽培したミニトマトの苗を、巾の中央部に4本、13cm等間隔に定植した。プランタの上部から、容器栽培培地30の表面に水をじょうろで1リットル/回・日散布した。40日目に4本の苗をプランタから取り出し、培地を払い落して毛細根と主根の発達状況を観察した。
【0033】
(実施例1)
市販のヨーロッパ産ピートモスに、軽石を10質量%分散させた第2倍地層32のみで10cmの厚さに充填して容器栽培培地30とした。軽石は、粒子サイズ約3〜6mmの市販の「園芸用軽石パミス」小粒を用いた。
【0034】
(実施例2)
軽石分散量を20質量%としたこと以外は、実施例1と同様である。
【0035】
(実施例3)
軽石分散量を30質量%としたこと以外は、実施例1と同様である。
【0036】
(実施例4)
粒子サイズ1.7〜6mmの赤玉土小粒からなる第1倍地層31を10cmの厚さにプランタの底部に充填し、その上に軽石を20質量%分散させた第2倍地層32を3cmの厚さに充填した。軽石は、実施例1と同様のものを用いた。
【0037】
(実施例5)
第1倍地層31、第2倍地層32は実施例4と同様とし、さらに第3倍地層33として、第2倍地層32の上部に、市販の粒度3mmの粒状ゼオライトを3cmの厚さに充填した。
【0038】
【表1】

【0039】
表1に実施例の観察結果を示す。実施例2においては、容器栽培培地30の表面、容器栽培培地30とプランタが接触しているプランタの内壁及び底部に毛細根がびっしりと大量に繁茂しているのが観察された。実施例1と3においても、容器栽培培地30の表面、容器栽培培地30とプランタが接触しているプランタの内壁及び底部に毛細根が繁茂はしているが、向こう側が透けて見える程度であった。
【0040】
図3は、実施例4におけるトマトの根の発達状況を模式的に示した断面図である。第1倍地層31では主根が、第2倍地層32では毛細根が、それぞれ選択的に発達しているのが観察された。実施例4ではまた、容器栽培培地30の表面、容器栽培培地30とプランタが接触しているプランタの内壁及び底部に毛細根がびっしりと大量に繁茂しているのが観察された。内側部分、すなわち、苗の直下を含む部分には、主根が十分発達しているのが観察された。
【0041】
図4は、実施例4で栽培したトマトの苗をプランタから引き抜いて、根の状況を観察した外観写真である。図4aはプランタ側壁の内壁部、図4bはプランタ底部の内壁部に相当し、ともに毛細根が大量に繁茂しているのがわかる。
【0042】
実施例4にさらに第2倍地層32の上に、第3倍地層33としてゼオライトを充填した実施例5においては、根の発達状況は実施例4と同様であった。
【0043】
以上、実施形態を用いて本発明を説明したが、本発明の技術的範囲は上記実施形態に記載の範囲には限定されないことは言うまでもない。上記実施形態に、多様な変更または改良を加えることが可能であることが当業者には明らかである。またその様な変更または改良を加えた形態も本発明の技術的範囲に含まれ得ることが、特許請求の範囲の記載から明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0044】
本発明に係る容器栽培培地30は、果菜類、葉菜類の品質、風味、並びに収穫量を向上させることを可能にするものであり、栽培容器を多数配置することにより大量生産することも可能にするので、産業上の利用可能性は極めて大きい。
【符号の説明】
【0045】
1 容器栽培培地を充填した栽培容器
2 栽培容器
5 トマトの苗
21 排液孔
30 容器栽培培地
31 第1倍地層
32 第2倍地層
33 第3倍地層
41 主根
42 細根
43 毛細根

【特許請求の範囲】
【請求項1】
保水力、保肥力の高い材料からなる5cm以上の厚さの第1倍地層と、
ピートモスに軽石を分散させた3cm以上の厚さの第2倍地層と
を層状に含むことを特徴とする容器栽培培地。
【請求項2】
前記第1倍地層における前記保水力、保肥力の高い材料が、赤土、赤玉土、ベントナイト、モンモリロナイトのうちの少なくとも1種以上を含むことを特徴とする請求項1に記載の容器栽培培地。
【請求項3】
前記第2倍地層に分散させた前記軽石の含有量が10〜30質量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載の容器栽培培地。
【請求項4】
前記容器培地の最上層に3cm以上の厚さのゼオライトの第3倍地層と
をさらに含むことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の容器栽培培地。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2012−60981(P2012−60981A)
【公開日】平成24年3月29日(2012.3.29)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−210222(P2010−210222)
【出願日】平成22年9月17日(2010.9.17)
【出願人】(302064762)株式会社日本総合研究所 (367)
【Fターム(参考)】