説明

容器詰緑茶類飲料の製造方法

【目的】 天然型カテキン類が良好に保存され、風味と色調の優れた容器詰緑茶飲料の製造方法を提供する。
【構成】 緑茶類の茶葉を飲用水で抽出した抽出液を容器に充填・密封後加熱殺菌するかまたは加熱殺菌後に容器に無菌的雰囲気下で充填・密封する容器詰緑茶飲料の製造方法において、有機酸の添加により、pHを4.5以上5.5以下、好ましくは4.8以上5.3以下に調節した抽出用水により茶葉の抽出を行う。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は容器詰緑茶類飲料の製造方法に関する。さらに詳しくは、緑茶類に特有の機能性成分である天然型カテキン類が良好に保存され、風味と色調の優れた容器詰緑茶類飲料の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】従来の容器詰緑茶類飲料の製造方法では、茶葉の抽出、容器への充填、密封殺菌中に風味、色調及び有効成分の変化が生じる。この変化を防止するために、例えば不活性ガス雰囲気下で茶葉の抽出を行う方法(特開平2−291230)、容器に充填・密封時にヘッドスペースに窒素ガスフローを行う方法(特公昭62−42580)などが提案されている。
【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記従来の方法はいずれも機能性成分の保持面からは不十分であり、特にカテキン類が多く、かつそれが変化しやすい緑茶類(非発酵茶)においては、より効果的な品質保持が可能な製造法の開発が必要となっていた。
【0004】最近、食品の機能性研究が進展した結果、茶類の最も重要な機能性成分はフラボノイド化合物の一種であるカテキン類であり、そのなかでも特に没食子酸エステルである(−)−エピカテキンガレートや(−)−エピガロカテキンガレートが重要であることが明かにされている(例えば松村敬一郎編「茶の科学」朝倉書店1991年刊)。なお、ここでいう機能性カテキン類とは、(−)−エピカテキン、(−)−エピガロカテキン、(−)−エピカテキンガレート及び(−)−エピガロカテキンガレートなどの天然型カテキン類を指し、(+)−カテキンをはじめとする二次的生成の可能性のあるその他のカテキン類は含まれない。
【0005】本発明者らはこの点に着目し、容器詰緑茶類飲料の製造時の抽出・充填・殺菌操作中にこれら機能性の天然型カテキン類が良好に保持される条件を定め、これらが安定かつ豊富に含まれた容器詰緑茶類飲料の製造方法の確立をはかることを目的として研究を行った結果、本発明に到達した。
【0006】
【課題を解決するための手段】上記本発明の目的を達成する容器詰緑茶飲料の製造方法は、煎茶、番茶、釜いり茶等緑茶類の茶葉を飲用水で抽出した抽出液を容器に充填・密封後加熱殺菌するかまたは加熱殺菌後に容器に無菌的雰囲気下で充填・密封する容器詰緑茶類飲料の製造方法において、pHが4.5以上5.5以下、好ましくは4.8以上5.3以下の抽出用水により茶葉の抽出を行うことを特徴とする。
【0007】容器詰緑茶類飲料の製造方法において、茶葉を抽出する時の諸条件が容器詰後の品質に大きな影響を及ぼす。これらについて研究したところ、主な要因は、1)抽出時のpH及びpH安定性、2)抽出時の雰囲気特に酸素、3)抽出水に含まれる各種イオンの影響、であることが判明した。
【0008】1)抽出時のpH一般に茶葉はpHの低い酸性溶液で抽出すると有効成分の抽出効率が低く、色調が劣ると従来からいわれていた。この点について研究したところ、意外にも弱酸性溶液で抽出したほうが中性溶液で抽出するよりも抽出効率が大きいことが明かとなった。更に機能性カテキン類の抽出性や安定性はpHが6.0を超えると著しく低下すること、また色調はpHが6.5を超えると濃化するが、これはカテキン類の重合に伴うポリフェノール化合物の着色であり、本来の緑茶の色調とはあまり関係が無いことが明かとなった。各カテキン類のpHによる濃度変化と併せてビタミンCも抽出用水のpHが5.5以上になると損失が大きい。また、緑茶の重要成分であるカフェインは殆どpHの影響を受けない。
【0009】これらカテキン類の減少の主な理由は、カテキン類の酸化や重合が生じる前に、3−オキシフラバノン構造において3位の不斉炭素原子に結合した官能基の立体異性化が生じることにある。この立体異性化により天然型カテキン類が損失し二次生成物が生じることは、カテキン類の機能性の損失につながり、緑茶飲料本来の機能喪失につながるので好ましいことではない。且つその異性化反応はpHの低い領域では比較的に進行が遅いが、pHが5.5を超えると速やかとなり、6.0を超えると著しく加速され、しかも液の着色が顕著になる。
【0010】これをモデル的に(−)−エピカテキン(標準試薬)のクエン酸緩衝溶液をレトルト殺菌を想定した121℃、6分の条件で加熱した時に異性化して(+)−カテキンを生じる場合について、pHとの関係で溶液の褐変度とともに図1に示す。また、加熱殺菌時にも実際に緑茶飲料でpHがカテキン類の保持に大きい影響を与えていることを、初期のカテキン類濃度に対する残存率で図2に示す。図2において、(+)−カテキンのみがpHが大きくなると著増しているが、(+)−カテキンは元来、天然の緑茶には微量しか含まれておらず、このように二次的生成物が著増することは飲料の機能性保持の観点からも好ましいことではない。 抽出用水のpH調節のために使用される調節剤としては、L−アスコルビン酸、エリソルビン酸、クエン酸、フマル酸、リンゴ酸、乳酸、グルコン酸等の有機酸および/またはその塩類が好適である。
【0011】調整するpHの範囲は20−25℃において4.5から5.5であり、より好ましくは4.8から5.3である。茶種によりほうじ茶では高い側、番茶、釜いり茶では中程度、煎茶では低い側が良い。pHが5.5を超えると着色が進み見かけ上抽出効率は増大したかに見えるが、緑茶の重要成分である天然型カテキン類の損耗が著しくなる。pHが4.5を下回るとカテキン類の安定性は大きいが見かけ上の色調が薄くなる上、且つ酸味が強く感じられるようになる。また煎茶ではクロロフィルの損傷により色調が不良となることがある。最も好ましいのはカテキン類の安定性が高く風味に影響の少ないpH4.8から5.3の範囲である。またpHを上記4.8から5.3の様な弱酸性の狭い範囲に調節して安定させるのは困難な場合がある。その場合には、上記酸類の塩例えばナトリウム塩などを用いて緩衝溶液として抽出するとpHの安定性が高まる。しかし塩類の添加量が多くなると結果的にナトリウムイオンが多量に含有されることとなり、風味面への影響を注意する必要がある。また、抽出を緩衝溶液で行う場合に、無機塩類を上記有機酸溶液に添加して緩衝化してもよい。この無機塩類は衛生上無害で風味に影響を及ぼさない限り水溶性であればいかなる物質でもよいが、好ましくはアルカリまたはアルカリ土類金属すなわちカリウム、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムの炭酸水素塩、炭酸塩、水酸化物、第二リン酸塩、第三リン酸塩などがよい。
【0012】一般に有機酸の添加量は酸の種類により異なるが、上記pH範囲を得るには抽出水100ml当り5−50mgの範囲である。また塩類の添加量も酸組成や塩の種類により異なるが、過剰を添加すると濁りや風味低下を生じる場合があり無機イオン濃度として抽出水100ml当り10mg以下がよい。
【0013】抽出用水のpHを上記範囲に調整する方法としては、抽出用水に予め有機酸および/または有機酸塩類を添加・溶解しておくことが好ましいが、これに限らず、抽出用水に茶葉を入れて抽出する際に茶葉と同時に有機酸を添加してもよいし、茶葉にビタミンC等の有機酸を予め混合しておいて茶葉を抽出用水に入れた時この有機酸が溶解するようにしてもよい。
【0014】2)抽出時の雰囲気特に酸素の除去茶葉には数多くの香気成分、呈味成分や機能性成分が含まれており、これらは加熱時に容易に酸化される場合が多い。これを防止するため従来は単に煮沸脱気した抽出水を用いたり、窒素ガス等の不活性ガスを通気し抽出水中の溶存酸素を除去しつついわゆる非酸化的雰囲気下で抽出する方法が提案されていた。しかしこれらの方法では茶葉の抽出時に茶葉中に吸着されている酸素と、抽出された被酸化成分が急速に反応したり、抽出時に攪拌したとき空気中の酸素が急速に拡散して成分の変質が避けられない。
【0015】これに対し、本発明では予め従来の方法で脱気した抽出水中にL−アスコルビン酸、エリソルビン酸などの還元性有機酸および/またはその塩類を小量添加・溶解させておき、いわゆる還元的雰囲気下で茶葉を抽出することにより、抽出時における有効成分の損失を最小限に防止することが出来る。この還元的雰囲気の構成は、抽出水に単に還元性有機酸類を添加するのみでも達成できるが、抽出水に溶存する酸素による酸化損失が生じ、その効果が減少したり製品の貯蔵中に褐変が促進されたりすることがあるので、より好ましくは、添加前に、抽出水から煮沸脱気、真空脱気、窒素ガス通気、中空糸膜脱気などの方法により予め溶存酸素を除去しておく方がよい。
【0016】次ぎに添加量は、茶の種類、抽出水の水質、茶葉/抽出水比率、抽出温度・時間条件等によって異なるが、一般的には5mg/100ml(5mg%)から50mg%の範囲で、好ましくは10mg%から20mg%の範囲が良い。
【0017】添加量が5mg%以下では効果が認められず、50mg%以上ではpHを調整した後でも風味に悪影響がでることがある。
【0018】3)抽出水に含まれるイオンの影響茶の風味は、使用する抽出水の水質に大きく影響されることは従来からよく知られている事柄である。鉄、亜鉛などの金属陽イオン、ナトリウム、マグネシウム、カルシウムなどが多く含まれた原水をそのまま抽出水として用いると茶飲料の色調、濁り、風味に大きい影響の出ることがある。また、塩素、硫酸イオンなどは風味に影響を及ぼすことがある。したがって、茶飲料製造用の抽出水は予め陽陰イオン交換を行い、さらにのぞましくは活性炭処理により原水中の有機物を十分に除去した高度精製水をもちい、これに上記の添加成分を加えることがよい。
【0019】容器詰茶飲料に使用される容器は金属缶、プラスチック容器および金属箔やプラスチックフィルムと複合された紙容器等であって、プラスチック容器の場合はポリエチレンテレフタレートを主成分とする成形容器(いわゆるPETボトル)や、ポリオレフィンを主体とし、中間層にエチレン/酢酸ビニル鹸化物共重合体(EvOH)やポリ塩化ビニリデンの酸素バリヤー層を含む多層成形容器(カップ状成形物を含む)等を使用することができる。
【0020】また容器詰緑茶飲料は、本発明の特徴をなす点を除いては、従来慣行的に行われている一般的な方法で製造することができる。すなわち、金属缶のように容器に充填後、加熱殺菌出来る場合にあっては食品衛生法に定められた120℃、4分以上の条件でレトルト殺菌で製造される。PETボトル、紙容器のようにレトルト殺菌出来ないものについては、予め上記と同等の殺菌条件、例えばプレート式熱交換器等で高温短時間殺菌後、一定の温度迄冷却して容器に充填する等の方法が採用される。
【0021】
【実施例】以下本発明の実施例について説明する。以下説明する実施例においては、カフェイン及びカテキン類の測定法は、高速液体クロマトグラフを用い、カラム逆相分配クロマトグラフィー用ULTRONC18(信和化工(株))、カラム温度は43℃でグラジェント法に従った。すなわちA液は0.1%のアセトニトリル及び5%N,N−ジメチルホルムアミド含有の0.1%リン酸溶液、B液はアセトニトリルで、試料注入量は10μl,UV検出器波長は280nmの条件で行った。またビタミンCの測定は2,6−ジクロロフェノールインドフェノール錯体のキシレン抽出法によった。
【0022】実施例1宇治産やぶきた種の中級煎茶600gを用い、原水(川西市水道水)をイオン交換、活性炭処理、中空糸膜濾過の順で精製した精製水60kgを一旦沸騰させ、60℃まで冷却してからビタミンC(食添グレード)12gを加えて(20mg/100g、pH5.1)溶解してから60℃に保持しつつ茶葉を入れ、ゆるやかにかきまぜながら3分間抽出し、250メッシュのナイロン濾布で濾過し、95℃まで加熱してから200g入りのテインフリースチール製接着缶(東洋製罐(株)製トーヨーシーム缶)に充填しヘッドスペースを窒素ガスでフラッシングしながら蓋を巻締めた。次いでこの缶を蒸気レトルトに入れて加熱し、レトルト温度が121℃に達温してから6分間殺菌し、ただちに取り出して冷水中で冷却した。
【0023】また、同時に、比較例として、ビタミンCを添加しないもの(pH5.8)、ビタミンCを30g添加したもの(50mg/100g、pH4.3)も調製し、同様の工程で缶詰とした。
【0024】缶詰を製造してから2週間、常温で保存したのち、上述の方法で残存カフェインカテキン類の分析を行い、同時に専門パネル6名による官能評価を行った。
【0025】その結果を表1に示す。
【0026】
【表1】


【0027】実施例2宇治産やぶきた中級煎茶を用い、実施例1の場合に準じ、重量比で1%の茶葉を60℃、3分間抽出した。抽出に先だって精製水に0.1Mクエン酸と0.2Mリン酸二ナトリウム水溶液を種々の割合で混合してクエン酸濃度として100g当り3mgから30mgの範囲で添加して精製水のpHが4.0、5.0、5.5、6.0、6.5、7.0及び8.0となるように調整し、このpH調整水を用いて抽出操作を行った。抽出後上記の方法でカテキン類とビタミンC量、及び抽出液の着色度を430nmの吸光度でもとめ、それと原材料の茶葉を50%アセトニトリルで30分間振とう抽出し同様にカテキン類を高速液体クロマトグラフで測定し、これをカテキン類の100%抽出率として各pHに対する抽出率を求めた。個々のカテキン類の濃度と茶葉中の全含有量に対する抽出比率(%)及びビタミンCの濃度と官能試験の結果を表2、表3に、カテキン類の抽出率と液着色に及ぼすpHの影響を図3に示した。
【0028】
【表2】


【0029】
【表3】


【0030】実施例3実施例1と同じ煎茶を用い、抽出条件は茶葉量1%、60℃、30分として表4に示した種々の抽出用水で抽出後、孔径10ミクロンのフィルターで窒素加圧濾過し、プレート式熱交換機で135℃、30秒で高温短時間殺菌し、85℃まで冷却してからオゾン水殺菌した1.5L入りPETボトルにクリーンベンチ内で充填し、ただちにアルミキャップを装着して冷水中で冷却した。
【0021】これを2週間室温で貯蔵後、カテキン類の存在量と官能的変化を調べた。
【0032】結果を表4に示す。
【0033】
【表4】


【0034】
【発明の効果】本発明によれば、緑茶類の抽出に際し、pHが4.5以上5.5以下好ましくは4.8以上5.3以下の抽出用水により茶葉の抽出を行うことにより、緑茶類に特有の機能性成分である天然型カテキン類が良好に保存され、かつ風味と色調の優れた容器詰緑茶類飲料を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】pHと(+)−カテキンの生成度および溶液の褐変度との関係を示すグラフである。
【図2】煎茶抽出液の加熱殺菌時のpHによるカフェイン、カテキン類の変化を示すグラフである。
【図3】抽出用水のpHによる抽出率の変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 煎茶、番茶、釜いり茶等緑茶類の茶葉を飲用水で抽出した抽出液を容器に充填・密封後加熱殺菌するかまたは加熱殺菌後に容器に無菌的雰囲気下で充填・密封する容器詰緑茶類飲料の製造方法において、pHが4.5以上5.5以下の抽出用水により茶葉の抽出を行うことを特徴とする容器詰緑茶類飲料の製造方法。
【請求項2】 pHが4.8以上5.3以下の抽出用水により茶葉の抽出を行うことを特徴とする請求項1記載の容器詰緑茶類飲料の製造方法。
【請求項3】 抽出用水に有機酸および有機酸塩の少くとも一方を添加することにより前記pHの抽出用水を調製することを特徴とする請求項1または2記載の容器詰緑茶類飲料の製造方法。
【請求項4】 抽出用水のpHを調節する前に予め抽出用水中の溶存酸素を減少させることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の容器詰緑茶類飲料の製造方法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate


【図3】
image rotate


【公開番号】特開平5−168407
【公開日】平成5年(1993)7月2日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−356224
【出願日】平成3年(1991)12月24日
【出願人】(000003768)東洋製罐株式会社 (1,150)