説明

容器詰飲食品の加熱履歴の推定方法

【課題】ブラックコーヒーや乳入りコーヒー、ココアのようなカフェ酸を含有している容器詰飲食品を加温販売する際に、該容器詰飲食品の高温における適正な保存管理のために、該容器詰飲食品の高温で保存された期間又は温度を精度良く、簡便かつ明瞭に推定する実用的な方法を提供すること。
【解決手段】カフェ酸を含有する容器詰飲食品において、飲食品中の4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度を測定し、飲食品中の4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度比を算定し、該濃度比を、予め高温保存の期間又は温度が既知の容器詰飲食品について測定・算定した4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度比と比較することにより、カフェ酸を含有する容器詰飲食品の高温保存の期間又は温度を推定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加温により高温下で流通、保存される容器詰飲食品の加熱履歴(高温保存の期間又は温度)を推定する方法、特に、ブラックコーヒーや乳入りコーヒー、或いはココアなどのようなカフェ酸を含有している容器詰飲食品を加温販売する際の、高温で保存された期間又は温度を精度良く、簡便かつ明瞭に推定する方法、及び、該方法を高温保存容器詰飲食品の流通、保存管理に用いる方法に関する。
【背景技術】
【0002】
缶入りのブラックコーヒーや、ミルクコーヒーのようなコーヒー飲料、或いはココアのようなカフェ酸含有の容器詰飲料、又はカフェ酸含有の容器詰食品等においては、近年、加温タイプの自動販売機やコンビニエンスストアの普及等、商品の流通形態の変化に伴って、自動販売機や店頭で加温して保存・販売することが広く行われている。しかし、かかる容器詰飲食品の保存・販売形態において、容器詰飲食品が、自動販売機や店頭で本来設定されている保存期間以上に長期間加温されて保存された場合、フレーバーの変化、更には、ミルクコーヒーであれば、乳脂肪の分離や凝集物が発生し、著しく品質が劣化してしまう場合がある。また、これが微生物による変敗と誤認されることもある。従って、容器詰飲食品の提供者としては、容器詰飲食品が受けた熱履歴や高温保存の期間又は温度を何らかの手法により推定し、管理する必要が生じる場合がある。
【0003】
従来より、容器詰飲食品等が受けた加熱履歴を検出する手段として、加熱履歴により変色するインク等のインジケータを用いる方法が知られている。例えば、特開平9−95633号公報には、トリフェニルメタンフタリド類のような電子供与性化合物、モノフェノール類、ジフェノール類のような電子受容性化合物、炭化水素系樹脂、アクリル酸系樹脂のような油溶性樹脂、及び溶剤からなる加熱履歴を表示するインキ組成物を用いる方法が、特開平11−140339号公報には、3−(1−n−オクチル−2−メチルインドール−3−イル)−3−(4−ジエチルアミノ−2−エトキシフェニル)−4−アザフタリドのような塩基性染料と呈色剤及び1,2−ジフェノキシエタンのような熱可塑性物質を含有せしめた不可逆型示温材料を用いて、缶入り飲料等の温度履歴を管理する方法が開示されている。
【0004】
また、特開平11−296086号公報には、メチルエローのような染料と、有機酸、その金属塩と、導電性付与物質とを含有するインクを包装飲食品の流通過程における温度履歴のインジケータとして用いる方法が、特開2001−272283号公報には、酵素反応が発色反応を起こす酵素と酵素基質からなる包装食品等の温度履歴インジケータを用いて包装食品の温度履歴を検出する方法が、特開2008−70341号公報には、還元性の糖類、アルカリ金属化合物、及び還元性糖類によって還元されて識別可能に色が変化する色素からなる温度履歴インジケータを用いて、食品等の貯蔵・保管中の温度履歴を検知する方法が開示されている。
【0005】
一方、飲食品等の温度履歴の検知方法として、温度履歴インジケータの使用に代えて、容器詰飲食品等の加熱履歴による飲食品自体の経時的変化を直接測定して、熱履歴を推定する手法が知られている。例えば、飲食品の近赤外スペクトルを測定する手法(近赤外分光法)を用いて食品の加熱履歴を直接的に推定する方法が報告されている(食品工業50(16)60−67、2007)。また、特開2003−65957号公報には、飲食品等において、高温の加熱殺菌工程を経た飲食品の極微弱発光を計測することで飲食品の殺菌強度や保存履歴等を推定する方法が開示されている。
【0006】
上記のような各種の加熱或いは温度履歴の検知方法は、各種の飲食品等において、それぞれの加熱或いは温度履歴の検知の目的に応じて利用し得るものであるが、該方法は飲食品等の流通や保存において置かれた加熱や温度の履歴の検知には用いることができるものであっても、例えば、加温流通のような高温保存の期間又は温度の定量的な推定には用いることができないものであった。
【0007】
他方、最近、加温タイプの自動販売機や店頭加温販売において、高温で保存される缶入りミルクコーヒー、缶入りミルクティー、ココア飲料等の容器入り乳飲料等の保存期間を推定する方法が開示されている。この方法は、乳飲料中の乳タンパク質のα−カゼインとβ−カゼインの濃度比を測定し、高温保存期間未知の容器入り乳飲料の高温保存期間を推定する方法であり(特開2000−287656号公報)、該方法は、容器入り乳飲料等の高温保存の保存期間の定量的な推定に用いることができるものであるが、公報に示されているように、その測定値であるβ−カゼイン/α−カゼインの濃度比が、保存期間の早い時期(1〜2週)に急速に低下し、測定可能な加熱履歴期間が短いために、設定した保存管理の指標となる期間を検知するために、必ずしも満足のいく方法とはなっていない。
【0008】
【特許文献1】特開平9−95633号公報。
【特許文献2】特開平11−140339号公報。
【特許文献3】特開平11−296086号公報。
【特許文献4】特開2000−287656号公報
【特許文献5】特開2001−272283号公報。
【特許文献6】特開2003−65957号公報。
【特許文献7】特開2008−70341号公報。
【非特許文献1】食品工業50(16)、60−67、2007。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
近年、加温タイプの自動販売機やコンビニエンスストアの普及等、商品の流通形態の変化に伴って、容器詰飲食品の自動販売機や店頭で加温して保存・販売することが広く行われるようになっている。かかる容器詰飲食品の保存・販売においては、適正な高温保存の期間又は温度の管理が必要となり、その製品管理のために個々の製品の高温保存の期間又は温度を把握することが必要となる。しかしながら、おのおのの商品に対して、その高温保存の履歴を克明に記録することは困難であり、また、従来知られている加熱履歴により変色するインクのようなインジケーターを用いる方法、極微弱発光を計測する手法、近赤外スペクトルを測定する手法では、簡便ではあるが高温保存の期間又は温度を定量的に推定することは困難である。また、加温期間を推定する方法として知られているα−カゼインとβ−カゼインの濃度比を測定する方法では、測定可能な加熱履歴期間が短く、個々の製品の高温保存の期間又は温度の適正な管理のための保存管理の指標とすべき期間の測定が難しいという問題がある。
【0010】
そこで、本発明の課題は、ブラックコーヒーや乳入りコーヒー、ココアのようなカフェ酸を含有している容器詰飲食品を加温販売する際に、該容器詰飲食品の高温における適正な保存管理のために、該容器詰飲食品の高温で保存された期間又は温度を精度良く、簡便かつ明瞭に推定する実用的な方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意研究を重ねる中で、容器詰めコーヒー飲料を高温保管した際に、乳入りコーヒー中に含まれているカフェ酸が容器中で熱反応によって、継時的に、4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼン(4−(1−Hydroxyethyl)−1,2−dihydroxybenzene)という物質に変換されることに注目し、飲食品中の4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度比が、高温保管管理のための温度条件下、及び高温保管管理の指標とすべき期間において、経時的に、直線的に増加することを見い出し、しかも、室温のように加温しない状態では、該濃度比の経時的な増加が極めて少ないか或いは無いことを見い出し、該4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度比を測定・算定することによって、高温保存期間未知又は高温保存温度未知の容器詰飲食品の高温保存の期間又は温度を精度良く、簡便かつ明瞭に推定することができることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明は、カフェ酸を含有する容器詰飲食品において、飲食品中の4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度を測定し、飲食品中の4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度比を算定し、該濃度比を、高温保存温度が既知の場合には、該容器詰飲食品について予め求めた該高温保存温度における、保存期間に対する4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度比の測定・算定結果と比較することにより高温保存期間を推定し、或いは、保存期間が既知の場合には、該容器詰飲食品について予め求めた該高温保存期間における、保存温度に対する4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度比の測定・算定結果とを比較することにより高温保存温度を推定することからなる高温保存期間未知或いは高温保存温度未知のカフェ酸を含有する容器詰飲食品の高温保存期間或いは高温保存温度を推定する方法からなる。本発明において、高温保存期間における加温の温度としては、45〜80℃を挙げることができる。また、本発明において、カフェ酸を含有する容器詰飲食品としては、ブラックコーヒー、乳入りコーヒー、及び、ココアから選ばれる容器詰飲食品を挙げることができる。
【0013】
本発明の容器詰飲食品の高温保存の期間又は温度を推定する方法では、4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度比の増加は、室温のような加温しない状態では、該濃度比の値の経時的な増加が極めて少ない或いは無いことから、該濃度比の増加から、容器詰飲食品が高温保存された期間又は温度を精度良く、簡便かつ明瞭に推定することが可能である。更に、4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸は、容器詰飲食品の容器を開封後に10℃以下で保管すれば、少なくとも1週間は溶液中での含量が変化しないことから、該条件を採用することにより、更に精度のよい測定を行なうことができる。
【0014】
すなわち具体的には本発明は、(1)カフェ酸を含有する容器詰飲食品において、飲食品中の4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度を測定し、飲食品中の4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度比を算定し、該濃度比を、高温保存温度が既知の場合には、該容器詰飲食品について予め求めた該高温保存温度における、保存期間に対する4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度比の測定・算定結果と比較することにより高温保存期間を推定し、或いは、保存期間が既知の場合には、該容器詰飲食品について予め求めた該高温保存期間における、保存温度に対する4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度比の測定・算定結果とを比較することにより高温保存温度を推定することを特徴とする高温保存期間未知或いは高温保存温度未知の容器詰飲食品の高温保存期間或いは高温保存温度を推定する方法や、(2)高温保存期間における加温の温度が、45〜80℃であることを特徴とする上記(1)に記載の高温保存期間未知或いは高温保存温度未知の容器詰飲食品の高温保存期間或いは高温保存温度を推定する方法や、(3)カフェ酸を含有する容器詰飲食品が、ブラックコーヒー、乳入りコーヒー、及び、ココアから選ばれる容器詰飲食品であることを特徴とする上記(1)又は(2)記載の高温保存期間未知或いは高温保存温度未知の容器詰飲食品の高温保存期間或いは高温保存温度を推定する方法からなる。
【発明の効果】
【0015】
加温タイプの自動販売機やコンビニエンスストアの普及等、商品の流通形態の変化に伴って、容器詰飲食品の自動販売機や店頭で加温して保存・販売することが広く行われているが、かかる容器詰飲食品の保存・販売においては、適正な高温保存の期間又は温度の管理が必要となり、その製品管理のために個々の製品の高温保存の期間又は温度を把握することが必要となる。そこで、本発明の方法を用いることにより、缶入りのブラックコーヒーや、乳入りコーヒーのようなコーヒー飲料、或いはココアのようなカフェ酸含有の容器詰飲料、又はカフェ酸含有の容器詰食品等のようなカフェ酸を含有している容器詰飲食品を加温販売する際に、該容器詰飲食品の高温で保存された期間又は温度を精度良く、簡便かつ明瞭に推定することができる。したがって、本発明はかかる容器詰飲食品を加温販売する際に、該容器詰飲食品の高温における適正な保存管理のための実用的な方法を提供することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明は、カフェ酸を含有する容器詰飲食品において、飲食品中の4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度を測定し、飲食品中の4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度比を算定し、該濃度比を、予め高温保存の期間又は温度が既知の容器詰飲食品について測定・算定した4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度比と比較することにより、カフェ酸を含有する容器詰飲食品の高温保存の期間又は温度を推定する方法からなる。
【0017】
本発明の高温保存の期間又は温度の推定方法において、カフェ酸を含有する容器詰飲食品としては、カフェ酸を含有している飲食品であれば良く、該飲食品において特に限定されることはない。該飲食品としては、例えば、コーヒー飲料やココア飲料を代表とするカフェ酸を含む原材料を用いた飲食品を挙げることができる。また、カフェ酸を含む原材料を用いた飲食品の他、本来、原材料にカフェ酸を含有しない材料から調製されている飲食品において、外部からカフェ酸を添加することによって、本発明の方法を適用することができる。また、カフェ酸を構造体に持つ化合物、例えばクロロゲン酸等が含有している原材料に、酸やアルカリを作用させたり、クロロゲン酸エステラーゼ等の酵素処理によってカフェ酸を含有せしめた飲食品も本発明の方法を適用することができる。
【0018】
飲食品の形態としては、液体をはじめとして、半固体、固体等、いずれの形態でも良い。このような飲料として、ブラックコーヒー、乳入りコーヒー、ココアなどが、また食品として、カフェ酸を含有させた各種の健康食品等を挙げることができる。また、飲食品が詰められている容器についても特に限定はされず、PETボトル、缶(アルミニウム、スチール)、紙、レトルトパウチ、瓶(ガラス)等を挙げることができる。
【0019】
分析対象とするカフェ酸を含有する容器詰飲食品の試料調製の段階としては、開栓後であり、好ましくは開栓後、常温(加温器から出して段々温度が下がる分も加味し、試料調整までの時間から常温になっている時間の方が長いと推定し常温とした。)では半日以内、最も好ましくは常温では開栓直後である。なおここでいう開栓直後とは、開栓から30分以内であって、その間に試料調製の工程に入ることを意味する。好ましい開栓後の態様において、常温ではなく、10℃以下の低温に保存することにより試料調製までの時間を延ばすことができる。例えば、好ましくは4週間、最も好ましくは1週間である。
【0020】
容器詰飲食品が、高温保存期間において、加温される温度たる高温としては、45〜80℃のうちの任意の温度であり、通常用いられる好ましい温度としては、50〜70℃であるが、コンビニエンスストア等での販売店では加温器に入れられた状態で、自動販売機でも加温された状態で保管されている場合での加温履歴推定には50〜60℃での加温状態を想定することが最も好ましい。
【0021】
本発明の高温保存の期間又は温度を推定する方法は、カフェ酸を含有する容器詰飲食品において、飲食品中の4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度を測定し、飲食品中の4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度比を算定し、該濃度比を、高温保存温度が既知の場合には、該容器詰飲食品について予め求めた該高温保存温度における、保存期間に対する4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度比の測定・算定結果と比較することにより高温保存期間を推定し、或いは、保存期間が既知の場合には、該容器詰飲食品について予め求めた該高温保存期間における、保存温度に対する4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度比の測定・算定結果とを比較することにより高温保存温度を推定することにより行なわれるが、容器詰飲食品中のカフェ酸、及び、4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンの濃度を測定するには、液体クロマトグラフィーなどのクロマトグラフィーが使用できる。該測定方法の他、特異的抗体を用いたELISA法、NMR法、FT−IR法等を挙げることができるが、液体クロマトグラフィーを用いる手法が簡便で特異性が高く望ましい。液体クロマトグラフィーで分離した当該物質の検出方法については、特に限定されることはなく、質量分析計を用いる手法(LC−MS法)、UV吸収を測定する手法(LC−UV法)、物質の蛍光を測定する手法等が挙げられる。
【0022】
容器詰飲食品中のカフェ酸、及び、4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンの濃度を測定するに際して、液体クロマトグラフィーを用いる場合に、液体クロマトグラフィーに供する際のサンプルの前処理についても特に限定されることはなく、飲食品を適当な溶媒で希釈してそのまま供するほか、有機溶媒等による当該物質の抽出や、有機溶媒や酸による除タンパク操作、固相抽出法による精製等を実施しても良い。また、検出器による検出感度を高めるためや、カラムによる分離を改善するために、各種誘導体化操作を実施しても良い。
【0023】
本発明の容器詰飲食品の高温保存の期間又は温度を推定する方法を用いて、該容器詰飲食品の高温保存の期間又は温度を推定するには、予め該容器詰飲食品を所定の温度で、所定期間保存して、経時的に、4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度比を求めておき、該の濃度比−高温保存期間の関係から、試料である高温保存の期間又は温度が未知の容器詰飲食品について測定・算定した4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度比と、前記予め高温保存の期間又は温度が既知の容器詰飲食品について測定・算定した濃度比とを比較することにより、高温保存の期間又は温度が未知の容器詰飲食品の高温保存の期間又は温度を推定することにより行う。
【0024】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
[LC−MSによる測定]
(a.試料):
市販の乳入りコーヒー飲料缶を35℃、50℃、60℃、70℃で、0、1、2、3、4週間保存したものを作成し、これらは測定まで未開封のまま4℃で保管した。
【0026】
(b.試料の前処理法):
得られた各々のコーヒー飲料から500μlをサンプリングし、50μlの1M塩酸、及び、500μlの酢酸エチルを添加した。本混合液を激しく撹拌した後、高速微量遠心機によって遠心し、有機相と水相を分離した。有機相を回収後に、もう一度、500μlの酢酸エチルを添加し、同様の操作により有機相を回収し、先の有機相と混合した。得られた有機相を窒素気流下で乾燥させた後、300μlの20%メタノールを添加して乾燥物を溶解させた。溶液は0.22μmの遠心式フィルターデバイスを用いて濾過し、サンプル溶液とした。
【0027】
(c.測定法)
<分析装置>
Alliance 2690Separations Module (日本ウォーターズ(株))、カラムオーブン:CTO6A((株)島津製作所)、フォトダイオードアレイ検出器:2996 Photodiode Array Detector (日本ウォーターズ(株))、カラム:Capcell pak C18 MGII 内径3.0mm×長さ100mm、粒子径3μm((株)資生堂)
【0028】
<分析条件>
サンプル注入量:10μl、流量:0.4ml/min、PDA検出器設定波長:200nm〜400nm、カラムオーブン温度:40℃、溶離液A:0.1%ギ酸水溶液、溶離液B:0.1%ギ酸/メタノール溶液
【0029】
<質量分析条件>
イオン化モード:エレクトロスプレーイオン化法−ネガティブイオン検出、測定モード:スキャンモード、測定質量範囲:m/z=80〜300、コーン電圧:20V、ソース温度:120℃、脱溶媒ガス温度:350℃
【0030】
<濃度勾配条件>
濃度勾配条件を、表1に示す。
【0031】
【表1】

【0032】
(結果)
上記の条件で4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンの保持時間は4.6分、カフェ酸の保持時間は9.5分であった。4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンについてはm/z=153(親イオン、[M−H])の、カフェ酸についてはm/z=179(親イオン)のマスクロマトグラム上のピーク面積をそれぞれ算出し、各々の面積値の商(4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼン/カフェ酸)を含有比とした。各々の乳入りコーヒー飲料缶サンプルについて当該含有比を求め、保存期間と含有比の関係を図1(各温度帯における、当該含有比の経時変化(開栓直後))に示した。
【0033】
その結果、含有比は経時的に直線的に増加すること、及び、劣化に伴う含有比の増加速度は保存温度に依存し、アレニウス式を満たすことが明らかになった(図2:含有比増加速度のアレニウスプロット(開栓直後))。また、当該含有比は35℃以下ではほとんど変動しないことが明らかとなり、本指標は常温輸送中には変動しないことも明らかとなった。このことから、当該含有比の測定によって、(1)未知試料の任意条件下での加温履歴の推定、(2)理論的な加速試験条件の算出、(3)活性化エネルギーによる反応性の比較などにも利用できることが判明した。
【0034】
(e.開封後の当該含有比)
上記a〜dで測定した缶入りコーヒー飲料をアルミホイルで軽く蓋をし、およそ半日常温で放置し内容液が一度温まった後に、家庭用冷蔵庫(10℃以下)に入れ1週間保存した。1週間保存後に上記と同様の操作によって、当該含有比を求め、加温期間、保存温度の関係を算出した(図3:各温度帯における当該含有比の経時変化(開栓1週間後);図4:含有比増加速度のアレニウスプロット(開栓1週間後))。その結果、本操作によって得られた経時曲線、アレニウス曲線は図1、図2とほぼ完全に一致し、当該含有比は本操作によって変動を受けないことが判明した。このことから、当該含有比の測定によって、消費者が飲食品を開栓して香味異常を感じた商品に対しても、正確かつ簡便に加温履歴を推定できることが判明した。
【実施例2】
【0035】
[LC−UVによる測定]
(a.試料)
市販の乳入りコーヒー飲料缶を35℃、50℃、60℃、70℃で、0、1、2、3、4、8、12週間保存したものを作成し、これらは測定まで未開封のまま4℃で保管した。
【0036】
(b.試料の前処理法)
得られた各々のコーヒー飲料から480μlをサンプリングし、20μlの50%過塩素酸を添加した。本混合液を撹拌後、高速微量遠心機によって遠心し沈殿と上清に分離した。上清200μlを新しいチューブに移した後、200μlの0.5M リン酸ナトリウム緩衝液(pH=7.0)を添加し、良く撹拌後、0.22μmの遠心式フィルターデバイスを用いて濾過し、サンプル溶液とした。
【0037】
(c.測定法)
<分析装置>
ポンプ:LC−10ADvp((株)島津製作所)、カラムオーブン:CTO−10ADvp((株)島津製作所)、オートサンプラー:SIL−10ADvp((株)島津製作所)、フォトダイオードアレイ検出器:SPD−M10Avp((株)島津製作所)、カラム:Develosil RPAQUEOUS−AR−3 内径4.0mm×長さ150mm、粒子径3μm(野村科学(株))
【0038】
<分析条件>
サンプル注入量:30μl、流量:1.0ml/min、PDA検出器設定波長:190nm〜370nm、カラムオーブン温度:40℃、溶離液A:10mMリン酸カリウム緩衝液(pH=2.1)、溶離液B:アセトニトリル
【0039】
<濃度勾配条件>
濃度勾配条件を、表2に示す。
【0040】
【表2】

【0041】
(d.結果)
上記の条件で、4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンの保持時間は7.1分、カフェ酸の保持時間は15.0分であった。4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンについては吸収波長が200nmの、カフェ酸については吸収波長が330nmのクロマトグラム上のピーク面積をそれぞれ算出し、各々の面積値の商(4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼン/カフェ酸)を含有比とした。各々の乳入りコーヒー飲料缶サンプルについて当該含有比を求め、保存期間と含有比の関係を図5(各温度帯における、当該含有比の経時変化(開栓直後))に示した。その結果、含有比は経時的に直線的に増加すること、及び、劣化に伴う含有比の増加速度は保存温度に依存し、アレニウス式を満たすことが明らかになった(図6:含有比増加速度のアレニウスプロット(開栓直後))。また、当該含有比は35℃以下ではほとんど変動しないことが明らかとなり、本指標は常温輸送中には変動しないことも明らかとなった。
【0042】
(d.開封後の当該含有比)
上記a〜dで測定した缶入りコーヒー飲料をアルミホイルで軽く蓋をし、およそ半日常温で放置し内容液が一度温まった後に、家庭用冷蔵庫(10℃以下)に入れ1週間保存した。1週間保存後に上記と同様の操作によって、当該含有比を求め、加温期間、保存温度の関係を算出した(図7:各温度帯における、当該含有比の経時変化(開栓1週間後);図8:含有比増加速度のアレニウスプロット(開栓1週間後))。その結果、本操作によって得られた経時曲線、アレニウス曲線は図5、図6とほぼ完全に一致し、当該含有比は本操作によって変動を受けないことが判明した。このことから、当該含有比の測定によって、消費者が飲食品を開栓して香味異常を感じた商品に対しても、正確かつ簡便に加温履歴を推定できることが判明した。
【図面の簡単な説明】
【0043】
【図1】本発明の容器詰飲食品の高温保存期間の推定方法の実施例において、LC−MSを用いて、容器詰飲料の保存期間と4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼン/カフェ酸の含有比を求める試験において、各温度帯における当該含有比の継時変化(開栓直後)を示す図である。
【図2】本発明の容器詰飲食品の高温保存期間の推定方法の実施例において、LC−MSを用いて、容器詰飲料の保存期間と4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼン/カフェ酸の含有比を求める試験において、含有比増加速度のアレニウスプロット(開栓直後)を示す図である。
【図3】本発明の容器詰飲食品の高温保存期間の推定方法の実施例において、LC−MSを用いて、容器詰飲料の保存期間と4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼン/カフェ酸の開封後の当該含有比を求める試験において、各温度帯における当該含有比の継時変化(開栓1週間後)を示す図である。
【図4】本発明の容器詰飲食品の高温保存期間の推定方法の実施例において、LC−MSを用いて、容器詰飲料の保存期間と4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼン/カフェ酸の開封後の当該含有比を求める試験において、含有比増加速度のアレニウスプロット(開栓1週間後)を示す図である。
【図5】本発明の容器詰飲食品の高温保存期間の推定方法の実施例において、LC−UVを用いて、容器詰飲料の保存期間と4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼン/カフェ酸の含有比を求める試験において、各温度帯における当該含有比の継時変化(開栓直後)を示す図である。
【図6】本発明の容器詰飲食品の高温保存期間の推定方法の実施例において、LC−UVを用いて、容器詰飲料の保存期間と4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼン/カフェ酸の含有比を求める試験において、含有比増加速度のアレニウスプロット(開栓直後)を示す図である。
【図7】本発明の容器詰飲食品の高温保存期間の推定方法の実施例において、LC−UVを用いて、容器詰飲料の保存期間と4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼン/カフェ酸の含有比を求める試験において、各温度帯における当該含有比の継時変化(開栓1週間後)を示す図である。
【図8】本発明の容器詰飲食品の高温保存期間の推定方法の実施例において、LC−UVを用いて、容器詰飲料の保存期間と4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼン/カフェ酸の含有比を求める試験において、含有比増加速度のアレニウスプロット(開栓1週間後)を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
カフェ酸を含有する容器詰飲食品において、飲食品中の4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度を測定し、飲食品中の4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度比を算定し、該濃度比を、高温保存温度が既知の場合には、該容器詰飲食品について予め求めた該高温保存温度における、保存期間に対する4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度比の測定・算定結果と比較することにより高温保存期間を推定し、或いは、保存期間が既知の場合には、該容器詰飲食品について予め求めた該高温保存期間における、保存温度に対する4−(1−ヒドロキシエチル)−1,2−ジヒドロキシベンゼンとカフェ酸の濃度比の測定・算定結果とを比較することにより高温保存温度を推定することを特徴とする高温保存期間未知或いは高温保存温度未知の容器詰飲食品の高温保存期間或いは高温保存温度を推定する方法。
【請求項2】
高温保存期間における加温の温度が、45〜80℃であることを特徴とする請求項1に記載の高温保存期間未知或いは高温保存温度未知の容器詰飲食品の高温保存期間或いは高温保存温度を推定する方法。
【請求項3】
カフェ酸を含有する容器詰飲食品が、ブラックコーヒー、乳入りコーヒー、及び、ココアから選ばれる容器詰飲食品であることを特徴とする請求項1又は2記載の高温保存期間未知或いは高温保存温度未知の容器詰飲食品の高温保存期間或いは高温保存温度を推定する方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2010−91442(P2010−91442A)
【公開日】平成22年4月22日(2010.4.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−262361(P2008−262361)
【出願日】平成20年10月9日(2008.10.9)
【出願人】(000253503)キリンホールディングス株式会社 (247)