説明

容器貫通配管の補修方法

【発明の詳細な説明】
「産業上の利用分野」
本発明は、容器貫通配管の補修方法に係り、特に、配管貫通用穴の溶接部近傍に欠陥部が生じた場合の改良や、その補修を実施する場合に有用な補修方法に関するものである。
「従来の技術」
原子力発電関連プラント、各種エネルギ関連プラント、化学プラント、火力発電プラント等には、容器を貫通した状態の配管、つまり、容器貫通管が使用される。
例えば、第2図に示すように、沸騰水型原子炉における原子炉圧力容器には、その容器壁(容器下鏡部)1に明けた配管貫通用穴2を経由して容器貫通管(配管)3が貫通しているとともに、該容器貫通管3が配管貫通用穴2の上縁部との間の溶接部4により取り付けられており、原子炉の状態を検出するための各種センサの信号伝達等を行なっている。
このような容器貫通管3は、機械的強度の優れた容器壁1に取り付けられているために、容器貫通管3の伸縮や曲げによる変形力の影響が、配管壁や溶接部4に現れ易く、十分な信頼性を確保することが要求され、また、定期検査時等において、溶接部4あるいはその近傍の配管壁の状態を検査することが望ましい。
一方、第3図に示すように、溶接部4の下部近傍の配管壁に、クラック等の欠陥部Xが生じていた場合は、容器内流体が欠陥部Xを経由して下鏡アニュラス部5に流れ落ちる可能性があり、この場合には溶接部4の部分を解体し、新規の配管を再溶接によって取り付ける等の補修方法が考えられている。
「発明が解決しようとする課題」
しかしながら、このような補修方法は、非常に大掛かりなものとなり、補修対象となる容器貫通管3が、前述した原子炉圧力容器の場合であると、原子炉の運転開始後においては、補修作業従事者の放射線被曝線量を十分に管理する必要性が生じる。
したがって、例えば、溶接部4を解体することなく、容器貫通管3の内部から欠陥部Xの補修作業を実施することができると好都合であるが、その技術は未だ確立されていない。
本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、(i)容器貫通管を取り付けている溶接部を解体することなく欠陥部の補修を実施すること。
(ii)補修作業後における新たな欠陥部の発生を抑制すること。
等を目的とするものである。
「課題を解決するための手段」
本発明では2つの手段を提案しており、第1の手段は、容器貫通管を取り付けている溶接部の外方に離間した位置で容器貫通管を切断して該切断部分を除去する工程と、残された容器貫通管の欠陥部を含む開口部近傍の管穴の拡大加工を行なう工程と、前記切断部分より外方に離間している配管貫通用穴の内面に嵌合支持部を形成する工程と、該嵌合支持部に係合支持される被支持部を有する金属スリーブの先端を前記管穴の拡大加工部に挿入する工程と、金属スリーブの被支持部を嵌合支持部に係合支持状態とする工程と、金属スリーブの先端と容器貫通管内面との間をシール溶接する工程とを組み合わせている容器貫通配管の補修方法である。
また、第2の手段は、第1の手段における工程の途中に、金属スリーブの被支持部を嵌合支持部に係合支持状態とするとともに、金属スリーブの壁を拡管して拡管部分を配管貫通用穴の内壁に圧接させた後、金属スリーブの先端と容器貫通管内面との間をシール溶接する工程を付加して組み合わせている容器貫通配管の補修方法である。
「作用」
第1の手段において、配管貫通用穴の中に新規の金属スリーブを挿入して、被支持部を嵌合支持部に係合して支持状態とすることにより、金属スリーブの抜け止めがなされる。また、金属スリーブによって欠陥部の内側を覆い、この状態で金属スリーブの先端と容器貫通管内面との間をシール溶接すると、容器貫通管の内部とその外側との間が閉塞された状態となり、当初の溶接部を解体することなく補修可能となる。
また、第2の手段において、金属スリーブの被支持部を嵌合支持部に係合支持させた状態で金属スリーブの管壁を半径外方向に塑性変形させる拡管を行なうと、金属スリーブの管壁と配管貫通用穴の内面とが圧接状態となって、この部分にシール性が生じるとともに、金属スリーブのずれ止めがなされる。
したがって、被支持部と嵌合支持部との係合支持に加えて、拡管部分においても金属スリーブの支持が行なわれ、拡管前に金属スリーブをその挿入方向に僅かに移動させて、被支持部と嵌合支持部との係合支持を緩めた状態で拡管を行なうと、拡管後に形成されたシール溶接部に外力が加わることを低減するとともに、拡管部分より外方の金属スリーブにおける熱変位等の微小移動が許容され、補修作業後における新たな欠陥部の発生を抑制するものとなる。この場合にあっても、熱変位等よりも大きな金属スリーブの移動は、被支持部が嵌合支持部に係合支持されることにより拘束されることになる。
「実施例」
第1図(A)ないし第1図(C)は、本発明に係る容器貫通配管の補修方法を、第2図及び第3図に示した原子炉圧力容器における容器壁1の容器貫通管3に適用した一実施例を示すものである。
以下、工程順に説明する。
[既設配管の閉塞工程]
第1図(A)に示すように、容器壁(例えば主として低合金鋼によって構成される)1に明けた配管貫通用穴2を貫通している容器貫通管(例えばSUS304からなる配管)3の管穴3aの中に閉塞栓6を装着して上下に区画する。この場合、原子炉圧力容器の内部に、原子炉冷却水を存在させた状態とするとともに、閉塞栓6の装着後はその上に水を充満させ、作業員の放射線被曝を低減しながら作業を行なう(以下の各作業においても同様である)。
[容器貫通管の切断工程]
第1図(A)に示すように、容器貫通管3に発生した欠陥部(または欠陥の発生の疑わしい箇所)Xと溶接部4とに対して、その外方(下方)に離間した位置Y−Y′で容器貫通管3を切断して、その切断外方部分を除去する。
[管穴の拡大加工工程]
前述の切断によって残された容器貫通管3の管穴3aの中に、適宜工具や研削具等を挿入して、容器貫通管3の欠陥部Xを含む管壁を例えば半分程度切削または研削し、第1図(B)に示すように、管穴3aの拡大加工を行なって拡大加工部3bを形成する。
[嵌合支持部の形成工程]
容器壁1における配管貫通用穴2の内面において、前記切断位置Y−Y′より外方(下方)に離間した位置の内面を、適宜工具で切削または研削して、第1図(B)に示すように、嵌合支持部7を形成する。該嵌合支持部7は、例えば、配管貫通用穴2を広げた状態の環状溝7aと、該環状溝7aの底部に最大径を合わせたスプライン溝7bと、段部7cとからなるものとされる。
[新規金属スリーブの形成]
第1図(C)に組み合わせた状態で示すように、前記拡大加工部3bと嵌合支持部7とに対応して、新規の金属スリーブ8を形成する。該金属スリーブ8は、その先端部に、貫通管3の拡大加工部3bに挿入される細径部8aが形成され、該細径部8aから外方に離間した表面には、被支持部8bが形成されて、該被支持部8bが、環状溝7aに係合した状態で回転可能となる大きさとされるとともに、スプライン溝7bの部分を上下方向に移動可能とするために歯形状のスプライン突条を有するものとされており、細径部8aと被支持部8bとの間には後述する拡管を行なうために直管部分が残される。なお、新規の金属スリーブ8の材質は、SUS316等が選定される。
[金属スリーブの挿入及び係合支持工程]
金属スリーブ8における被支持部8bを嵌合支持部7のスプライン溝7bに位置合わせしながら、環状溝7bの位置に押し込むことにより、金属スリーブ8における細径部8aの先端を、容器貫通管3の拡大加工部3bに挿入するとともに、被支持部8bを環状溝7bに係合させた状態で、金属スリーブ8を若干回転させて、被支持部8bの下面を嵌合支持部7の段部7cに引っ掛けた状態にする。このような支持状態とすることにより、金属スリーブ8の抜け止めがなされる。
「拡管工程」
金属スリーブ8の中に適宜機器を挿入する等により、ロール法や局部的内圧負荷法によって、第1図(C)の各矢印で示すように、管壁を半径外方向に塑性変形を伴って膨張させる拡管を行なう。この拡管の範囲は、前述した直管部分に適用され、拡管部分9の壁を配管貫通用穴2の内壁に圧接させた状態とする。
このような拡管部分9を形成することにより、金属スリーブ8と配管貫通用穴2の内面とが圧接状態となって、この部分にシール性が生じるとともに、金属スリーブ8のずれ止めがなされる。したがって、拡管工程の実施前に、金属スリーブ8を環状溝7aと被支持部8bとの係合部分の『がた』分(例えば1mm以下の微小間隙)だけ上方向に僅かに移動させて、係合支持を緩めた状態で拡管を行なうようにすると、次工程で形成されるシール溶接部10に外力が加わることを低減できるようになる。
[シール溶接工程]
拡管部分9によって金属スリーブ8の固定を行なった状態で、細径部8aの先端と容器貫通管3における内面との間を、例えばTIGトーチを使用して、ノンフィラー状態でシール溶接すること等により、シール溶接部10を形成して、容器貫通管3の内部とその外側の下鏡アニュラス部5との間を閉塞する。
「金属スリーブ取り付け後の状態]
第1図(C)に示すように、溶接部4の下部近傍の欠陥部Xは、当初からの容器貫通管3の管壁に一部が残されるものの、その内面が新規の金属スリーブ8の細径部8aで覆われることによって、シール溶接部10が内外方向の密封を行なうため、容器貫通管3の内部流体が、残された欠陥部Xあるいは拡大加工部3bを経由して、下鏡アニュラス部5に漏洩することがなくなる。
一方、当初から設置されている容器貫通管3の支持は、主として溶接部4によって行なわれ、新規の金属スリーブ8の支持は、主として嵌合支持部7や拡管部分9によって行なわれることになり、第1図(C)にあっては、説明は便宜上、被支持部8bと環状溝7aとの間に上下方向の小間隙を空けて記載しているが、溶接部4と嵌合支持部7との距離が、熱変位の影響を受けて伸縮する分だけ上下移動が許容されて、外力が付加された場合には、嵌合支持部7によって移動が拘束され、シール溶接部10あるいは細径部8a等に影響を及ぼすことを避けて、新たな欠陥部Xの発生を抑制するものとなる。
また、新規の金属スリーブ8のシール溶接後の適宜時期において、前述した閉塞栓6は撤去される。
<他の実施態様> 以上説明した実施例に代えて、次の構成を採用することができる。
(イ)原子炉圧力容器以外の容器貫通配管の補修に適用すること。
(ロ)配管の回りに溶接によってフランジを取り付けている部分の補修に適用すること。
(ハ)嵌合支持部におけるスプライン構造をねじ構造に代えて、金属スリーブを回転させながらねじ込む方法とすること。そして、ねじ嵌合部分における軸方向の『がた』を利用して、前述したシール溶接部の保護を行なうこと。
「発明の効果」
以上説明したように、本発明に係る容器貫通配管の補修方法は、■容器貫通管の取り付け用溶接部をそのままの状態で残して補修するため、溶接部を解体して容器貫通管を交換する方法と比較して、労力を著しく低減することができる。
■容器内に内部流体を存在させたままの状態で、残された容器貫通管と溶接部とにより隔離して補修作業を行なうことにより、内部流体の存在による補修作業の影響を少なくすることができる。
■上記により、特に、運転開始後の沸騰水型原子炉における容器貫通管の補修作業に適用した場合にあっては、原子炉圧力容器内に原子炉冷却水を存在させたまま補修作業を行なうことにより、作業従事者の被曝線量を低減させ、作業性を向上させることができる。
■拡管部と嵌合支持部とにより金属スリーブを支持することによって、シール溶接部に熱変位や外力による大きな力を付与しないようにしているので、シール溶接部の保護を図り、新たな欠陥部が発生することを抑制することができる。
等の優れた効果を奏するものである。
【図面の簡単な説明】
第1図(A)ないし第1図(C)は本発明に係る容器貫通配管の補修方法を原子炉圧力容器の容器貫通管に適用した一実施例を示す工程説明図、第2図は沸騰水型原子炉における下鏡部を貫通する配管の例を示す正断面図、第3図は容器貫通管の溶接部近傍における欠陥部の説明図である。
1……容器壁(容器下鏡部)、
2……配管貫通用穴、
3……容器貫通管(配管)、
3a……管穴、
3b……拡大加工部、
4……溶接部、
5……下鏡アニュラス部、
6……閉塞栓、
7……嵌合支持部、
7a……環状溝、
7b……スプライン溝、
7c……段部、
8……金属スリーブ、
8a……細径部、
8b……被支持部、
9……拡管部分、
10……シール溶接部、
X……欠陥部。

【特許請求の範囲】
【請求項1】容器貫通管を取り付けている溶接部の外方に離間した位置で容器貫通管を切断して該切断部分を除去する工程と、残された容器貫通管の欠陥部を含む開口部近傍の管穴の拡大加工を行なう工程と、前記切断部分より外方に離間している配管貫通用穴の内面に嵌合支持部を形成する工程と、該嵌合支持部に係合支持される被支持部を有する金属スリーブの先端を前記管穴の拡大加工部に挿入する工程と、金属スリーブの被支持部を嵌合支持部に係合支持状態とする工程と、金属スリーブの先端と容器貫通管内面との間をシール溶接する工程とを有することを特徴とする容器貫通配管の補修方法。
【請求項2】金属スリーブの被支持部を嵌合支持部に係合支持状態とするとともに、金属スリーブの壁を拡管して拡管部分を配管貫通用穴の内壁に圧接させた後、金属スリーブの先端と容器貫通管内面との間をシール溶接することを特徴とする請求項1記載の容器貫通配管の補修方法。

【第1図(A)】
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【第1図(B)】
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【第1図(C)】
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【第2図】
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【第3図】
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【特許番号】第2751339号
【登録日】平成10年(1998)2月27日
【発行日】平成10年(1998)5月18日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−58461
【出願日】平成1年(1989)3月10日
【公開番号】特開平2−235594
【公開日】平成2年(1990)9月18日
【審査請求日】平成8年(1996)3月8日
【出願人】(999999999)石川島播磨重工業株式会社