説明

封孔済み細孔材料の製造方法及びその利用

【課題】耐摩耗性に優れる封孔された細孔を有する材料の製造方法を提供する。
【解決手段】陽極酸化によって得られる、酸化アルミニウムを主体とし多数の細孔を含んだ細孔層を有する細孔材料の細孔層の細孔の開口側をアルミニウムイオンを含有する封孔用液を接触させて前記多数の細孔の開口の少なくとも一部を閉鎖するようにする。こうすることで、細孔の開口側を選択的に封孔でき、耐摩耗性の低下を抑制又は回避できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、封孔された細孔を有する材料の製造方法及びその利用に関する。
【背景技術】
【0002】
アルミニウム合金の表面には、陽極酸化により、安定でかつ厚い多孔質型の酸化皮膜(陽極酸化皮膜)を形成する。こうした多孔質型の陽極酸化皮膜は、その合金表面への防食性、保護性を付与するほか、酸化面から垂直なポア(細孔)を利用することで着色などの各種機能が付与されるのに用いられている。
【0003】
多孔質型陽極酸化膜は、通常、陽極酸化後の後処理として、ポアを封鎖する封孔処理が行われる。封孔処理は、ポアを封じることで耐食性や耐久性を向上させることを目的としている。一般に封孔処理では、陽極酸化皮膜の表面及びポア内部を水和反応により体積膨張させてポアを閉塞させるとともに、酸化皮膜を不活性化して耐食性や耐汚染性を得る。ポア内部の水和反応では、ベーマイト(Al23・H2O)を形成させて酸化皮膜の体積を膨張させる。
【0004】
こうした封孔処理に関しては、各種の処理方法があることが知られている(非特許文献1)。また、封孔処理を効率的に行うための各種の試みも検討されている(特許文献1)。
【0005】
【特許文献1】特開2005−29891号公報
【非特許文献1】http://www.techno-qanda.net/dsweb/Get/Document-16340/0007封孔処理(Alの陽極酸化)ものづくり基盤技術・技能教本マニュアル(中小企業総合事業団)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、こうした封孔処理全般に関し、ベーマイトの生成により耐食性は向上するのに反して耐摩耗性が低下することが知られていた。したがって、従来の封孔処理では耐食性と耐摩耗性とを両立させるのは困難であり、耐摩耗性の低下の許容範囲でしか耐食性を向上させることしかできなかった。
【0007】
また、従来の封孔処理では、ポア内部の体積膨張等によりポアを閉塞するものであるため、ポアの完全な封鎖は困難であった。このため、ポア開口側が選択的に閉鎖された状態の中空状酸化皮膜を備える構造体を得ることはできなかった。また、耐食性の向上のためにポアの閉塞性を高めるのに多大な時間を要していた。
【0008】
加えて、従来の封孔処理のうち、沸騰水や水蒸気を用いる方法ではエネルギーコストがかさみ、金属塩を用いる方法では最終仕上げでワイピング作業が必要で、接着性が著しく低下する。また、金属塩の金属が陽極酸化アルミナ内に残るため、不純物の混入が避けられなかった。インプレグネーションによる方法ではフッ酸、フッ化アンモニウムなど腐食性溶液を使用しなければならない。また、低温(25-35℃)で封孔処理を行うため、封孔後、14日間程度のポストシーリングが必要とし、エージング時間を短縮するためには沸騰水または酢酸ニッケル封孔を行う必要がある。
【0009】
以上のように、現状において、アルミニウムの多孔質型陽極酸化皮膜の封孔処理に関しては耐摩耗性の観点で満足できるものではなかった。さらに、処理操作及びエネルギーコストの観点からも不十分なものであった。
【0010】
そこで、本発明は、耐摩耗性に優れる封孔された細孔を有する材料及びその製造方法を提供することを一つの目的とする。また、本発明は、より低いエネルギーコストで封孔処理が可能な封孔済み細孔材料の製造方法を提供することを他の一つの目的とする。さらに、本発明は、効率的に封孔処理が可能な封孔された細孔を有する酸化アルミニウム材料の製造方法を提供することを他の一つの目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記した課題に鑑み、陽極酸化によって得られる多孔質酸化アルミニウム層の封孔処理について種々の検討を行ったところ、金属アルミニウムの化学的溶解処理を陽極酸化表面に対して実施することによって、意外にも細孔の開口を閉鎖できることを見出した。また、この細孔開口の閉鎖が、従来のポア内部の体積膨張によらないで開口近傍での選択的な閉鎖によることを見出した。これらの知見に基づき本発明者らは、本発明を完成した。本発明によれば以下の手段が提供される。
【0012】
本発明の封孔済み細孔を有する材料の製造方法は、以下の工程(a)及び(b):
(a)酸化アルミニウムを主体とし多数の細孔を含んだ細孔層を有する細孔材料を準備する工程、
(b)前記細孔材料の前記細孔層の開口側にアルミニウムイオンを含有する封孔用液を接触させて前記多数の細孔の開口の少なくとも一部を閉鎖する工程と、
を備えることができる。
【0013】
本発明の封孔済み細孔を有する材料の製造方法によれば、アルミニウムイオンを封孔用液側から前記細孔層の開口側に供給することにより細孔の開口を閉鎖することができる。細孔の封孔は酸化アルミニウムのベーマイト化等による体積膨張によらないため、封孔による耐摩耗性の低下が回避又は抑制されている。したがって、本製造方法によれば、耐摩耗性を維持又は向上させた酸化アルミニウムを主体とする細孔層の細孔が封孔された材料を容易に得ることができる。また、陽極酸化による細孔層を備える細孔材料から良好な耐食性と耐摩耗性を備える材料を得ることができる。
【0014】
また、上記アルミニウムイオンの供給による封孔処理を経て得られる材料では、細孔の開口側が選択的に閉鎖され、その結果細孔が中空状になっていることがわかっている。したがって、本製造方法によれば、直管状の中空部を有する材料を得ることができる。
【0015】
また、本発明は、沸騰水処理や水蒸気による水和処理によらないで封孔処理が可能であるため、効率的にかつより低いエネルギーコストで封孔処理が可能である。
【0016】
本製造方法において、前記封孔用液はハロゲン化物含有有機溶剤を含むことができる。また、前記ハロゲン化物含有有機溶剤はメタノールを含有することができる。さらに、前記ハロゲン化物含有有機溶剤におけるハロゲンは臭素又はヨウ素とすることができ、前記封孔用液は、臭化メチル又はヨウ化メチルを含有するメタノールを含むことができる。
【0017】
また、本製造方法においては、前記準備される前記細孔材料は前記細孔層を支持するアルミニウム基部を備えることができる。この態様において、前記封孔用液を前記細孔層に対して選択的に供給することもできるし、前記封孔用液は、金属アルミニウムを選択的に溶解する溶解液であり、該封孔用液を前記細孔層とアルミニウム基部とに対して供給することもできる。さらに、前記アルミニウム基部をアルミニウムを含有しない前記封孔用液に接触させて前記封孔用液中にアルミニウムイオンを生成させることにより、前記開口側にアルミニウムイオンを含有する封孔用液を接触させることもできる。なお、前記細孔層の層厚は50μm以上であることが好ましい。前記細孔材料は、前記細孔層の前記細孔内部又はそれ以外の部分に色材を有することもできる。
【0018】
前記(b)工程における前記封孔用液と前記細孔層の前記開口側との接触は、−4℃以上10℃以下で実施することが好ましい。また、前記(b)工程により、前記細孔層の前記開口側の耐摩耗性を前記(b)工程実施前よりも向上させるようにすることも好ましい。
【0019】
本発明によれば、上述に製造方法のいずれかによって得られる、酸化アルミニウムを主体とし直管状の多数の中空部が配列された中空部層を備える材料が提供される。
【0020】
本発明によれば、酸化アルミニウムを主体とし直管状の多数の中空部が配列された中空部層を備える材料が提供される。本発明において前記中空部は、アルミニウムを陽極酸化して得られる細孔の開口側が封鎖されて得られるものであることが好ましい。また、前記中空部層を備えて三次元形状を有する構造体であることが好ましい。この態様において、前記構造体は、前記中空部層を支持するアルミニウム基部を有していてもよいし、前記中空部層を主体とする自立膜であってもよい。さらに、前記中空部層は、前記中空部内部又はそれ以外の部分に色材を有することもできる。さらにまた、前記中空部層の層厚は50μm以上とすることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0021】
本発明は、封孔済み細孔材料の製造方法及び中空部層を備える酸化アルミニウム材料及びその製造方法に関する。以下、本発明の実施形態である封孔済み細孔材料の製造方法及び酸化アルミニウム材料について適宜図面を参照しながら詳細に説明する。図1は、封孔済み細孔材料を得るための工程の一例を示す図であり、図2は、細孔材料の一例を示す図であり、図3は、図1に示す工程によって得られる封孔済み細孔材料の一例を示す図であり、図4は、封孔済み細孔材料の他の一例を示す図である。
【0022】
(封孔済み細孔材料の製造方法)
(細孔材料の準備)
本発明の製造方法(以下、単に本製造方法という。)は、図1に示すように、上記(a)工程、すなわち、陽極酸化によって得られる、酸化アルミニウムを主体とし多数の細孔を含んだ細孔層を有する細孔材料を準備する工程を備えている。(a)工程で準備する細孔材料は、図2に例示するように、アルミニウム又はそのアルミニウム基合金を陽極酸化して得られる多孔質型酸化皮膜を細孔層として有することができる。
【0023】
細孔材料の出発原料となるアルミニウム又はアルミニウム基合金からなる材料(以下、単にアルミニウム系材料という。)については特に限定しない。例えば、アルミニウム基合金としては、アルミニウム以外の合金成分として、公知のアルミニウム基合金から適宜選択して使用することができるが、例えば、シリコン(Si)、ニオブ(Nb)、タンタル(Ta)、チタン(Ti)、ジルコニウム(Zr)、ハフニウム(Hf)、亜鉛(Zn)、銅(Cu)、コバルト(Co)、ニッケル(Ni)、クロム(Cr)、マンガン(Mn)及びモリブデン(Mo)、タングステン(W)、マグネシウム(Mg)、鉄(Fe)等が挙げられる。アルミニウム基合金は、これらの合金成分から選択される1種又は2種以上を含有する合金であることが好ましい。アルミニウム以外の合金成分は、好ましくは、マグネシウム(Mg)、シリコン(Si)及び鉄(Fe)から選択される1種又は2種以上とすることができる。
【0024】
アルミニウム系材料の形態も特に限定されない。任意の断面の板状や長尺体状ほか、任意の三次元形状を有することができる。出発原料の形態は封孔済み細孔材料の用途に応じた任意の形態を取ることができる。また、出発材料は、それ自体で独立した形状を備えている必要は必ずしもなく、他の三次元構造体の表面及び/又は内部の一部を構成していてもよい。
【0025】
細孔材料は、こうしたアルミニウム材料の少なくとも一部の陽極酸化によって酸化することによって得ることができる。陽極酸化は、所定の電解液中でアルミニウム系材料を陽極として通電することで表面を酸化するものである。アルミニウム系材料を陽極酸化する方法としては、各種方法が知られている。得ようとする耐食性等や最終用途やその後の処理等を考慮して公知の各種手法から適宜選択して用いることができる。陽極酸化は、電解液の組成や皮膜の種類に応じて分類されている。例えば、電解液の組成により分類される方法としては、硫酸、シュウ酸、クロム酸及びホウ酸等を用いる酸性浴法、アンモニア−フッ化物、アルカリ−過酸化物、リン酸ナトリウム、などを用いるアルカリ性浴、ホウ酸−ホルムアミド、溶融塩を用いる非水浴法等が挙げられる。また、皮膜の種類により分類される方法としては、硫酸系、シュウ酸系、硫酸系(Sunford法)等の硬質皮膜用、Kalcolor、Duranodic300等の自然発色、浅田法による電解着色による着色皮膜用が挙げられる。本製造方法においては、なかでも、硬質な陽極酸化皮膜が得られることから硫酸法を好ましく用いることができる。また、本製造方法においては、化学的方法、電気化学的方法及び塗装法など従来公知の方法により陽極酸化皮膜素地自体に色材を含有させることができる。
【0026】
図2に例示するように、アルミニウム系材料を陽極酸化することで、その電極面には、緻密なバリア層を底部に有する多孔質型の酸化皮膜(細孔層)が形成される。多孔質型酸化皮膜においては、陽極酸化時における電極電圧及び電流に基づく細孔径、細孔深さ及びセル径(隣り合う細孔の中心間距離)を有し直管状の多数の細孔が配列されている。多孔質型酸化皮膜は、細孔の底部側に相当する箇所においては、各細孔について略半球状の底部を構成して出発原料であるアルミニウム系材料の非酸化層と境界を構成している。細孔層の厚みは特に限定されないが、好ましくは、平均50μm以上である。層厚が平均50μm以上であると、後段の(b)工程を実施して得られる封孔済み細孔材料が陽極酸化皮膜に由来する封孔済み細孔層のみからなる場合であっても、自立膜などの自立した三次元構造体を容易に構成することができる。なお、層厚の平均値は、多孔質型酸化皮膜についての適数箇所の断面を観察し、これらの断面における複数以上の層厚の平均値とすることが好ましい。また、自立膜の場合、マイクロメータや膜厚計などを利用して計測することができる。
【0027】
多孔質型酸化皮膜は、アルミニウムの陽極酸化によって得られる酸化アルミニウムを主体としているが、酸化アルミニウム以外に電解液や出発原料であるアルミニウム系材料に由来する成分を含有することができる。
【0028】
細孔材料は、こうした陽極酸化皮膜を表面の一部に有する材料であればよい。したがって、アルミニウム系材料の一部分にのみ陽極酸化を実施して細孔層を形成したものであってもよい。例えば、基板状のアルミニウム系材料の片面あるいはその一部を陽極酸化して細孔層を形成したものであってもよい。アルミニウム系材料のおおよそ全体に対してそれ自体を細孔層とすることができる。例えば、基板状のアルミニウム系材料の両面に対してそれぞれ陽極酸化して両面に細孔層を形成したものであってもよい。
【0029】
また、細孔材料は、細孔層を備えていればよく、細孔層以外に陽極酸化されていないアルミニウム系材料に由来するアルミニウム基部を備えていてもよい。アルミニウム基部を有する場合、後段の(b)工程において、アルミニウムを選択的に溶解する封孔用液にアルミニウム基部を浸漬することによって、アルミニウムイオンを含有する封孔用液をその場で調製することができる。
【0030】
こうしたアルミニウム基部は、通常、細孔層の細孔底部側に細孔層を支持するように備えられている。また、細孔材料は、こうしたアルミニウム基部が除去されたものであってもよい。なお、アルミニウム基部が多すぎる場合などアルミニウム基部の一部又は全部を(b)工程に先立って除去することもできる。アルミニウム基部の除去にはエッチング法のほか、例えばハロゲン分解法による金属アルミニウムの化学的溶解処理にて溶解除去することができる。典型的な方法としては、アルミニウム基部を選択的にハロゲン分解法による分解液に浸漬等するなどの手法を採用できる。
【0031】
陽極酸化して得られる細孔層を備える細孔材料は、そのまま後段の(b)工程に供給して封孔処理を実施することもできるし、色材を細孔内あるいはその近傍に付与するなどして細孔層を着色する着色工程を実施し、その後に、(b)工程を実施してもよい。なお、陽極酸化皮膜の着色は、陽極酸化を利用する方法(自然発色)のほか、陽極酸化後に行う電解着色法(交流電解、直流電解)や陽極酸化後における有機染料や無機染料による染色法を採用できる。すなわち、細孔材料は、細孔層の細孔又はそれ以外の部分(例えば、皮膜のセル壁内部)に色材を含有することができる。本製造方法にあっては、公知の着色法を含め種類を問わないで適用することができる。
【0032】
以上のように、細孔材料は、出発原料であるアルミニウム系材料の形態、陽極酸化部位及びその後のアルミニウム基部除去の有無に基づいて種々の形態を採ることができる。また、細孔材料は、細孔層の細孔部又はそれ以外の部分において色材を含有していてもよい。なお、細孔材料を準備する工程は、上述のようにして陽極酸化を実施して入手するのに限定されないで、予めこうした細孔層を有する細孔材料を商業的に入手することによっても実施可能である。
【0033】
(封孔処理)
次に、本製造方法が備えることのできる上記(b)工程について説明する。(b)工程は、細孔材料の前記細孔層の開口側にアルミニウムイオンを含有する封孔用液を接触させて前記多数の細孔の開口の少なくとも一部を閉鎖する工程とすることができる。
【0034】
アルミニウムイオンを含有する封孔用液は、アルミニウムの溶解に用いられる液剤を好ましく用いることができる。より好ましくは選択的にアルミニウムを溶解し、酸化アルミニウムを溶解しない液剤である。こうした封孔用液としては、例えば、0.1質量%以上60質量%以下の塩化第二水銀を用いることができる。また、封孔用液としては、臭化メチルのメタノール溶液、ヨウ化メチルのメタノール溶液、ハロゲン化アンモニウムのメタノール溶液、臭化メチルの酢酸メチル溶液など各種のハロゲン分解法に用いられるハロゲン化物含有有機溶剤を1種又は2種以上選択して用いることができる。こうしたハロゲン化物含有有機溶剤におけるハロゲンは、ヨウ素及び臭素を用いることが好ましい。また、有機溶剤は、メタノールほか酢酸メチルを好ましく用いることができるが、より好ましくはメタノールである。
【0035】
また、封孔用液は、アルミニウムの電解研磨に用いられる溶液であってもよい。例えば、10質量%〜20質量%の炭酸ナトリウム水溶液、2.5質量%〜7.5質量%のリン酸三ナトリウム水溶液、10質量%〜20質量%の硫酸水溶液、40質量%〜60質量%のリン酸水溶液、5質量%〜15質量%のクロム酸を用いることができる。封孔用液として電解研磨に用いる水溶液を利用する場合には、細孔の開口の閉鎖のために、(b)工程を電解工程として実施する。
【0036】
封孔用液としては、装置コストや処理コスト等を考慮すると、電解研磨によらないハロゲン分解法に基づく液剤を用いることが好ましい。
【0037】
これらの封孔用液中におけるアルミニウムイオン濃度については特に限定しない。細孔層の細孔の開口を閉鎖できる程度であればよい。
【0038】
アルミニウムイオンを含有する封孔用液は、予めアルミニウムイオンを含有するものであってもよいが、細孔材料としてアルミニウム基部を備える場合には、アルミニウムを溶解可能な溶解剤である封孔用液をアルミニウム基部に接触させることでアルミニウムを溶解させて、結果として封孔用液にアルミニウムイオンを生成させ含有させることができ、結果として細孔の開口側にアルミニウムイオンを含有する封孔用液を接触させることができる。特に、アルミニウム基部の除去が必要な場合には、アルミニウム基部と細孔の開口側とをアルミニウム溶解液に接触させることでアルミニウム基部の除去と開口の閉鎖との双方を実現できる。最も好ましくは、細孔材料の細孔層の開口側とアルミニウム基部とを同時にアルミニウム溶解剤である封孔用液に接触させる。
【0039】
なお、アルミニウム溶解剤にアルミニウムイオンを含有させるには、必ずしも細孔材料のアルミニウム基部とアルミニウム溶解剤とを接触させる必要はなく、アルミニウムイオン供給源としてのアルミニウム又はアルミニウム基合金を含む材料をアルミニウム溶解剤と接触させることもできる。このようなアルミニウムイオン供給源は、細孔材料の細孔層の開口側とアルミニウム溶解剤との接触させる際に、細孔材料と共存させてもよいし、予めアルミニウム溶解剤とアルミニウムイオン供給源とを接触させた上、アルミニウムイオンを含有するアルミニウム溶解剤を細孔材料の細孔層の開口側と接触させてもよい。
【0040】
アルミニウムイオンを含有する封孔用剤(アルミニウム溶解剤であってもよい。)による封孔処理は、細孔層の細孔開口側に対して実施すれば細孔の開口側を閉鎖することができる。封孔処理は、細孔層の開口面の全体に対して行ってもよいし、部分的に行ってもよい。部分的に行う場合、封孔処理領域を開口面の全体に分散させて行ってもよいし、特定部分にのみ行ってもよい。
【0041】
また、このような封孔処理を、アルミニウム基部を有する細孔材料において細孔層の開口側に対して選択的に行うことで、アルミニウム基部により支持され少なくとも一部が封孔された細孔を有する封孔済み細孔材料を得ることができる。また、細孔層とアルミニウム基部との双方に対して封孔処理(アルミニウム基部に対しては溶解処理となる)を行ってもよい。上述のように、アルミニウム基部に対しては細孔層と同時に封孔処理を行ってもよいし、細孔層に対する処理とは別個に行ってもよい。こうすることでアルミニウム基部を除去あるいは減量して自立膜等の封孔された細孔層を主体とする自立した三次元構造体を容易に構築できる。
【0042】
封孔処理に際し、封孔用液を細孔材料に供給するには各種の液体供給形態を採用できる。典型的には、浸漬、ディップコート、噴霧等が挙げられる。また、細孔材料の一部に選択的に処理用液を供給して封孔処理を実施する場合には、必要に応じて細孔材料の任意の一部に対してマスキング等を行うこともできる。
【0043】
封孔処理は、細孔の少なくとも一部の開口を閉鎖できるように実施する。細孔の閉鎖程度(各細孔における閉鎖率)は、封孔用液の組成、温度、処理時間等を調節することで必要に応じて適宜調節することができる。封孔処理に供する細孔材料の開口側領域により閉鎖する開口数(領域)を調節する。耐摩耗性や耐汚染性の向上にはできるだけ多くの開口を閉鎖することが好ましく、おおよそ全ての開口を閉鎖することが最も好ましい。
【0044】
封孔処理の温度は特に限定しないが、好ましくは−4℃以上10℃以下で実施する。−4℃よりも低いと反応速度が遅すぎ、10℃を超えると反応速度が速すぎて制御が困難だからである。より好ましくは、−2℃以上であり、8℃以下である。封孔処理の時間も特に限定しない。得ようとする細孔の細孔径、セル径のほか、アルミニウム基部の除去量によって適宜調節することができる。
【0045】
(b)工程は、細孔層の開口側の耐摩耗性を封孔処理前の細孔層の開口側よりも高めるように実施することもできる。従来の封孔処理とは異なり、酸化アルミニウムの加水分解反応によって細孔内部の体積膨張によらないで細孔を封孔することができるからである。耐摩耗性を向上させるような化学的溶解処理の条件は、複数の処理条件で化学的溶解処理を実施して、処理前後の細孔層の開口側の耐摩耗性を評価することにより得ることができる。耐摩耗性の評価は、例えば、砂落し摩耗試験法、噴射摩耗試験及び往復平面運動摩耗試験(以上、JIS H 8682)を用いることができる。
【0046】
(b)工程後には、必要に応じて乾燥工程、仕上げ研磨工程及び塗装工程等が実施される。
【0047】
(b)工程を経て得られる材料は、細孔材料に由来する細孔層の少なくとも一部の細孔の開口が閉鎖された封孔済み細孔材料である。また、この封孔済み細孔材料において、(b)工程において採用する封孔処理による封孔により、多孔質型陽極酸化皮膜の細孔の特徴、すなわち、直管状の細孔の開口が閉鎖されて得られる直管状の中空状部を備えるものとなっている。このような直管状の中空部を多数配列して備える中空部層を備える材料は従来得られておらず、こうした中空部は、軽量化、熱伝導率の低下等に有利である。
【0048】
図3には、アルミニウム基部を封孔処理前、封孔処理時あるいは封孔処理後に除去した状態の封孔済み細孔材料の断面構造を示す。図3に示すように、得られる封孔済み細孔材料は、バリア層を底部に有するとともに、細孔の封孔により得られる直管状の中空部を有する中空部層を備えるものとなっている。また、細孔の開口を封孔した部分は、開口を被覆するような皮膜として形成されている。
【0049】
図4には封孔済み細孔材料の他の一例を示す。図4に例示する封孔済み細孔材料は、アルミニウム基部の少なくとも一部を維持している以外は図3に示す封孔済み細孔材料と同様の中空部層を備えている。
【0050】
以上説明したように、本製造方法によれば、従来にない新たな手法により簡易に効率的に金属アルミニウム細孔材料の細孔の開口を閉鎖することができる。本製造方法によれば、封孔処理に際して金属アルミニウムの化学的溶解処理を伴うこともできる。さらに、本製造方法によれば、従来とは異なる細孔閉鎖形態を有する封孔済み細孔材料を得ることができる。得られる封孔済み細孔材料では、封孔による耐摩耗性の低下が回避又は抑制されている。したがって、本製造方法によれば、従来に比して耐摩耗性を維持又は向上させつつ耐食性に優れた封孔済み細孔材料を容易に得ることができる。
【0051】
また、本製造方法によれば、従来に比して低温での処理が可能となっており、封孔処理に必要なエネルギーコストを低減することができる。
【0052】
(中空構造を備える材料)
本発明の中空構造を備える材料は、酸化アルミニウムを主体とし直管状の多数の中空部が配列された中空部層を備えることができる。本発明の材料は、耐摩耗性の低下を回避又は抑制しつつ優れた耐食性を有することができる。このような中空構造部分を備えることで、所望の耐食性が、耐摩耗性の低下を抑制し、維持しあるいは向上させつつ確保されたものとすることができる。また、中空構造を備えることで、装飾性ほか多様な機能性の付与又は向上が可能となっている。特に、軽量化や熱伝導率が低いことが好ましいため、ドア、窓枠、パネル等に用途に適した材料となっている。
【0053】
本発明の材料は、本製造方法によって得られるものであってもよい。すなわち、アルミニウムを陽極酸化して得られる多孔質型酸化皮膜の細孔の開口側が封鎖されて得られるものであってもよい。
【0054】
本発明の材料の三次元形態は特に限定しない。陽極酸化前の細孔材料の形態に対応したものであってもよい。その後、機械的に加工されていてもよい。本発明の材料は、例えば、中空部層を備えて三次元形状を有する構造体とすることができる。例えば、本製造方法において既に説明したように、細孔材料のアルミニウム基部が除去されている場合など、本材料が中空部層を主体としあるいは中空部層からなる場合には、自立膜などの自立した三次元構造体とすることができる。また、アルミニウム基部を維持している場合には、中空部層を支持するアルミニウム基部を有する形態であってもよい。
【0055】
本発明材料は、中空部層の中空部又はそれ以外の部分に色材を有することができる。こうした色材は、上述のように、例えば、アルミニウム系材料の陽極酸化時とともに多孔質型陽極酸化皮膜に含まれていてもよいし、その後の工程により中空部等に導入されていてもよい。中空部層の層厚は特に限定しないが、50μm以上であることが好ましい。50μm以上であると、中空部層のみから自立可能な三次元構造体を構築することができる。機械的強度及びハンドリング性の観点からより好ましくは、100μm以上である。
【0056】
以下、本発明を具体例を挙げて説明するが、本発明は以下の実施例に制限されるものではない。
【実施例1】
【0057】
アルミニウム合金(A1085)試料(直径50mm×0.5mm厚さ)をヘキサン洗浄後、1M−水酸化ナトリウム溶液に浸漬後、蒸留水洗浄を行った。さらに1M−硝酸溶液に浸漬しデスマット処理を行い、蒸留水洗浄後、表面酸化膜を除去した。このアルミニウム合金試料を1M−硫酸水溶液浴中で0℃,25V,25時間の条件で、前記合金試料の一部について陽極酸化処理を行った。この結果、アルミニウム合金基部に多孔質型陽極酸化皮膜を有する陽極酸化アルミニウム合金試料が得られた。
【0058】
この陽極酸化アルミニウム合金試料の陽極酸化部(直径30mm×0.3mm厚)及びその裏面側を含む部分(直径50mm×0.5mm厚)を、臭素−メタノール溶液150ml中に氷温にて6時間浸漬した。
【0059】
この浸漬処理により、陽極酸化皮膜を支持するアルミニウム合金基部が溶解するとともに陽極酸化皮膜の細孔の開口が閉鎖された。浸漬処理後の試料の開口側表面の走査型電子顕微鏡による観察結果を図5に示す。図5に示すように、多孔質型陽極酸化皮膜の細孔の開口を被覆する皮膜が形成されていた。また、浸漬処理後の試料は、封孔済みの細孔を有する酸化アルミニウムの自立膜であった。また、図6に封孔された細孔材料の断面の一部の透過型電子顕微鏡による観察結果を示す。図6に示すように、直管状の中空部の形成が確認された。
【0060】
なお、同様にして得られた陽極酸化アルミニウム合金試料の全体について、封孔用液150mlを用いて24時間浸漬処理する以外は上記の浸漬処理を実施したところ、アルミニウム合金基部を含むおおよそすべての残存アルミニウム合金部分を除去することができた。
【0061】
以上のことから、アルミニウム合金を陽極酸化して得られる多孔質型酸化皮膜に対してアルミニウムを溶解して得られるアルミニウムイオンを含有する臭素−メタノール溶液を接触させることで細孔の開口を被覆する皮膜を形成して封孔できることがわかった。
【実施例2】
【0062】
アルミニウム合金(A1085)試料(直径45mm×0.4mm厚)をヘキサン洗浄後、1M−水酸化ナトリウム溶液に浸漬後、蒸留水洗浄を行った。さらに1M−硝酸溶液に浸漬しデスマット処理を行い、蒸留水洗浄後、表面酸化膜を除去した。このアルミニウム合金試料を1M−硫酸水溶液浴中で0℃,25V,25時間の条件で、前記合金試料の一部について陽極酸化処理を行った。この結果、アルミニウム合金基部に多孔質型陽極酸化皮膜を有する陽極酸化アルミニウム合金試料が得られた。
【0063】
この陽極酸化アルミニウム合金試料の陽極酸化部(直径30mm×0.3mm厚)及びその裏面側を含む部分(直径45mm×0.4mm厚)を、臭素−メタノール溶液150ml中に氷温にて6時間浸漬した。
【0064】
この浸漬処理により、陽極酸化皮膜を支持するアルミニウム合金基部が溶解するとともに陽極酸化皮膜の細孔の開口が閉鎖された。浸漬処理後の試料の開口側表面の走査型電子顕微鏡で観察したところ、実施例1と同様、細孔の開口を被覆する皮膜が形成されていた。浸漬処理後の試料は、封孔済みの細孔を有する酸化アルミニウムの自立膜であった。
【0065】
以上のことから、アルミニウム合金を陽極酸化して得られる多孔質型酸化皮膜に対してアルミニウムを溶解して得られるアルミニウムイオンを含有するヨウ素−メタノール溶液を接触させることで細孔の開口を被覆する皮膜を形成して封孔できることがわかった。
【図面の簡単な説明】
【0066】
【図1】封孔済み細孔材料の製造工程の一例を示す図である。点線枠で表示される工程は、必要に応じて実施する工程である。
【図2】細孔材料の一例を示す図である。
【図3】封孔済み細孔材料の一例を示す図である。
【図4】封孔済み細孔材料の他の一例を示す図である。
【図5】実施例1において得られる封孔済み細孔材料の表面の走査型電子顕微鏡写真である。
【図6】実施例1において得られる封孔済み細孔材料の断面の一部の透過型電子顕微鏡鎖写真を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の工程(a)及び(b):
(a)陽極酸化によって得られる、酸化アルミニウムを主体とし多数の細孔を含んだ細孔層を有する細孔材料を準備する工程と、
(b)前記細孔材料の前記細孔層の開口側をアルミニウムイオンを含有する封孔用液を接触させて前記多数の細孔の開口の少なくとも一部を閉鎖する工程と、
を備える、封孔済み細孔材料の製造方法。
【請求項2】
前記封孔用液はハロゲン化物含有有機溶剤を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記ハロゲン化物含有有機溶剤はメタノールを含有する、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記ハロゲン化物含有有機溶剤におけるハロゲンは臭素又はヨウ素である、請求項2又は3に記載の製造方法。
【請求項5】
前記封孔用液は、臭化メチル又はヨウ化メチルを含有するメタノールを含む、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記準備される前記細孔材料は前記細孔層を支持するアルミニウム基部を備えている、請求項1〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記封孔用液を前記細孔層に対して選択的に供給する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項8】
前記封孔用液は、金属アルミニウムを選択的に溶解する溶解液であり、該封孔用液を前記細孔層とアルミニウム基部とに対して供給する、請求項6に記載の製造方法。
【請求項9】
前記アルミニウム基部をアルミニウムを含有しない前記封孔用液に接触させて前記封孔用液中にアルミニウムイオンを生成させることにより、前記開口側にアルミニウムイオンを含有する封孔用液を接触させる、請求項8に記載の製造方法。
【請求項10】
前記封孔用液と前記細孔層の前記開口側との接触は、−4℃以上10℃以下で実施する、請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記細孔層の層厚は50μm以上である、請求項1〜10のいずれかに記載の製造方法。
【請求項12】
前記(b)工程により、前記細孔層の前記開口面側の耐摩耗性を前記(b)工程実施前よりも向上させる、請求項1〜11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
前記準備された細孔材料は、前記細孔層の前記細孔内部又はそれ以外の部分に色材を有する、請求項1〜12のいずれかに記載の製造方法。
【請求項14】
請求項1〜13のいずれかに記載の製造方法によって得られる、酸化アルミニウムを主体とし直管状の多数の中空部が配列された中空部層を備える材料。
【請求項15】
酸化アルミニウムを主体とし直管状の多数の中空部が配列され
た中空部層を、備える材料。
【請求項16】
前記中空部は、アルミニウムを陽極酸化して得られる細孔の開口側が封鎖されて得られる請求項15に記載の材料。
【請求項17】
前記中空部層を備えて三次元形状を有する構造体である、請求項15又は16に記載の材料。
【請求項18】
前記構造体は、前記中空部層を支持するアルミニウム基部を有する、請求項17に記載の材料。
【請求項19】
前記構造体は、前記中空部層を主体とする自立膜である、請求項17に記載の材料。
【請求項20】
前記中空部層は前記中空部又はそれ以外の部分に色材を有する、請求項14〜19のいずれかに記載の材料。
【請求項21】
前記中空部層の層厚は50μm以上である、請求項14〜20のいずれかに記載の材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−155714(P2009−155714A)
【公開日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−338686(P2007−338686)
【出願日】平成19年12月28日(2007.12.28)
【出願人】(000173522)財団法人ファインセラミックスセンター (147)