説明

射出成形回路部品の製造方法

【目的】 生産性が高く、パターン密度及び精度が高い電気回路を形成した射出成形回路部品を提供する。
【構成】 無電解めっき用触媒を配合した合成樹脂からなる射出成形品2の表面に、予め電気回路が形成される部分以外を被覆するようにネガパターン層4を形成した後、ネガパターン層4で被覆されていない射出成形品2の露出面を粗化し、得られた粗化面に無電解めっきを施して電気導体被膜3を形成することにより電気回路を形成することを特徴としている。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、射出成形品の表面に無電解めっきを施すことにより電気回路を形成する射出成形回路部品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】近年、無電解めっき法により射出成形品に電気導体回路を形成した射出成形回路部品が開発されている。これは電気製品や工業製品の小型化高密度化に対応して立体的な基板上に電気回路を形成することにより集積密度を向上させるためである。
【0003】このような射出成形回路部品には下記のようなものがある。
【0004】(従来例1)無電解めっき用触媒を配合した合成樹脂(以下「易めっき性材料」という。)を第1の金型を用いて射出成形により一次成形品を形成した後、無電解めっき用触媒を配合していない合成樹脂(以下「難めっき性材料」という。)を一次成形品と共に第2の金型内に挿入した状態で射出成形により二次成形品を形成し、電気導体回路を形成する部分のみ易めっき性材料が表面に露出させ、他の部分を難めっき性材料で被覆する。その後易めっき性材料の露出面を粗化し、無電解めっき法により電気導体回路を形成した射出成形回路部品。
【0005】(従来例2)易めっき性材料の射出成形品の表面を粗化した後、感光性触媒を塗布し、電気導体回路を形成する領域のみ光を透過するようにした露光マスクを用いて、光を照射し、光の照射された部分を活性化した状態に焼き付け、その他の部分の感光性触媒を洗浄した後、無電解めっき法により電気導体回路を形成した射出成形回路部品。
【0006】(従来例3)無電解めっき用触媒を配合した合成樹脂の射出成形品の表面を粗化した後、無電解めっき法により射出成形品の全面に電気導体被膜を形成した後、電気導体被膜上に感光性レジスト被膜を形成し、電気導体回路を形成する領域のみ光が透過する露光マスクを用いて感光性レジスト被膜に光を照射した後現像し、感光性レジスト被膜のうち、電気導体回路を形成する領域のみに感光性レジスト被膜が残るようにした後、感光性レジスト被膜の形成された電気導体被膜を溶解することにより電気導体回路を形成した射出成形回路部品。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】ところで(従来例1)の場合は、水平な平面部だけでなく垂直な平面部や曲面部に電気導体回路を形成するのが容易であるものの、金型を2個使用するかあるいは特殊な金型を1個使用するかのいずれかであり、射出成形を2回行うために、射出工程が複雑となるので生産性に問題があった。また、射出成形を2回行って電気導体回路を形成するための下地パターンを形成するために、成形可能性の面で形状が制約され、導体回路幅や回路の集積密度が限定されていた。さらに一次成形される易めっき性材料の耐熱性が、二次成形される難めっき性材料の成形温度より高くする必要があり、材料の組み合わせが制約されてしまう。
【0008】また、(従来例2)及び(従来例3)の場合には、微細な電気導体回路を形成することができる反面、水平な平面部にしか電気導体回路を形成することができず、垂直な平面部や曲面部には電気導体回路を形成することができない。さらに電気導体回路を形成した部分以外は粗化された表面が露出しているため、表面の強度、吸湿性及び信頼性の面で問題があった。そのため、粗化された表面を溶剤で処理して再生したり、塗膜を形成して保護する必要があり、それらの工程のために生産性に問題があり、信頼性の面でも問題があった。
【0009】そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、生産性が高く、パターン密度及び精度が高い電気回路を形成した射出成形回路部品を提供することにある。
【0010】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明は、無電解めっき用触媒を配合した合成樹脂からなる射出成形品の表面に、予め電気回路が形成される部分以外を被覆するようにネガパターン層を形成した後、ネガパターン層で被覆されていない射出成形品の露出面を粗化し、得られた粗化面に無電解めっきを施して電気導体被膜を形成することにより電気回路を形成するものである。
【0011】本発明は上記構成に加え、ネガパターン層を印刷により形成してもよい。
【0012】本発明は上記構成に加え、ネガパターン層を予めシート上に形成しておき、ネガパターン層の射出成形品の表面に接する側に、接着剤層を形成し、ネガパターン層をシートごと射出成形品の表面に押圧し、接着剤層で射出成形品の表面に接着させた後シートを除去することによりネガパターン層を形成してもよい。
【0013】
【作用】上記構成によれば、1回の射出成形により立体的な成形品を形成するので生産性が向上する。また射出成形品の上に転写や印刷などで電気回路のネガパターン層を形成するので、ネガパターン層で被覆されていない露出面を粗化した後無電解めっきを施すので、粗化面が露出することがなくなり、強度が向上すると共にパターン密度及び精度が高い電気回路が形成される。さらにネガパターンの形成工程が空気中で行われるため、合成樹脂が水や薬品を吸収することがないので信頼性が向上する。
【0014】本発明における合成樹脂としては、ポリスルフォン、ポリエーテルスルフォン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリアリルスルフォン、ポリオキシ安息香酸系液晶構造ポリマ等の耐熱性の高いエンジニアリングプラスチック及びそれらの組成物や、エポキシ樹脂、フェノール樹脂等の熱硬化性樹脂及びそれらの組成物があるが特に限定されるものではない。
【0015】無電解めっき用触媒としては、パラジウム、ルテニウム、錫、銅及びそれらの群のうち少なくとも1種類を吸着させた無機フィラがあるが特にこれらに限定されるものではない。
【0016】射出成形品の表面の粗化法としては、薬液によるエッチング粗化法、サンドブラスト法やバス研磨等による物理的粗化法を適用できるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0017】ネガパターン層の形成法としては、印刷、マスク塗装、シート転写などの転写接着法があるが、特にこれらに限定されるものではないが、予めネガパターン層をシート上に形成しておき、ネガパターン層の射出成形品の表面に接触する側の表面に接着剤層を形成し、ネガパターン層をシートごと射出成形品の表面に押圧し、接着剤層で射出成形品の表面に接着させた後、ネガパターン層からシートを除去することにより射出成形品にネガパターン層を形成する方法、すなわち転写による方法が電気回路のパターン精度を向上させる上で有効である。
【0018】
【実施例】以下、本発明の一実施例を添付図面に基づいて詳述する。
【0019】図1(a)〜(d)は本発明の射出成形回路部品の製造方法を示す図であり、図2(a)〜(c)は本発明の射出成形回路部品の他の製造方法の一部を示す図である。
【0020】図1(d)は射出成形回路部品1の完成品の断面図であり、略帽子型の射出成形品2の表面に電気導体被膜3からなる電気回路が形成されており、電気回路以外の部分はネガパターン層4で覆われている。
【0021】このような射出成形回路部品の製造方法について以下述べる。
【0022】(実施例1)無電解めっき用触媒として例えば焼成クレーの表面にパラジウムを0.5wt%吸着させた焼成クレーを10wt%配合したポリエーテルスルフォンで立体的な形状を有する射出成形品2を形成する(図1(a))。
【0023】他方、射出成形品2の表面(図では上側の面)に電気回路を形成するための印刷用版5を形成する。印刷用版5は、電気回路のパターン(ポジパターン)と同一形状を有する板部6と、電気回路以外のパターン(ネガパターン)と同一形状を有する網目部7とからなっており、電気回路を形成すべく射出成形品の表面に密着するようになっている。板部6は例えば樹脂からなり、網目部7はスクリーン印刷可能な網目を有する網からなっている(図1(b))。
【0024】射出成形品2の上に印刷用版5を被せて密着した後、液状エポキシ系樹脂を印刷用版5の上から塗布することにより、射出成形品2の網目部7の位置に液状エポキシ系樹脂が印刷される。射出成形品2の側面や裏面にも液状エポキシ系樹脂を塗布する。印刷及び塗布後液状エポキシ系樹脂を加熱硬化させると液状エポキシ系樹脂がネガパターン層4となる(図1(c))。
【0025】射出成形品2の露出面、すなわちポジパターン部8を例えば薬液により粗化し、その粗化面に例えば銅の無電解めっきを施すとポジパターン部8に電気導体被膜3からなる電気回路を有する射出成形回路部品1が形成される(図1(d))。
【0026】尚、電気導体被膜3の厚さは約0.025mm、幅は約0.3mm、電気導体被膜3間のピッチは約0.6mmであり、電気導体被膜3の剥離強度は1.9〜2.2Kg/cmであり、良好な無電解銅めっき被膜による電気回路が得られた。
【0027】次に実施例の作用を述べる。
【0028】1回の射出成形により立体的な射出成形品2を形成するので生産性が向上する。また射出成形品2の上に印刷で電気回路のネガパターン層4を形成するので、ネガパターン層4で被覆されていない露出面を粗化した後無電解めっきを施すので、粗化面が露出することがなくなり、強度が向上すると共にパターン密度及び精度が高い電気回路が形成される。さらにネガパターンの形成工程が空気中で行われるため、合成樹脂が水や薬品を吸収することがないので信頼性が向上する。
【0029】(実施例2)実施例1で用いたものと同様の射出成形品を準備する(図1(a))。
【0030】他方、シート9a上にエポキシ系樹脂でネガパターン層4を形成し、このネガパターン層4上にエポキシ系の接着剤層10aを形成する。シートは裏表2枚分準備しておく。尚、同実施例においては射出成形品2の一方の表面に電気回路を成形するので、裏面は全面がネガパターン層4となる(図2(a))。
【0031】射出成形品2の表裏両面にそれぞれ接着剤層10a、10bが接触するようにシート9a、9bを密着させ、治具11、12を用いて両側から押圧し、ネガパターン層4を接着剤層10a、10bを介して射出成形品2の両面にそれぞれ接着する(図2(b))。
【0032】射出成形品2に接着剤層10a、10b及びネガパターン層4を接着した後、治具11、12を引き離し、ネガパターン層4から両シート9a、9bを除去する。射出成形品2の露出面を粗化し、無電解銅めっきを施すことにより電気導体被膜3からなる電気回路を有する射出成形回路部品13が形成される(図2(c))。
【0033】尚、電気導体被膜3の厚さは約0.025mm、幅約0.2mm、電気導体被膜3間のピッチは約0.4mmであり、電気導体被膜3の剥離強度は1.9〜2.2Kg/cmであり、良好な無電解めっき被膜による電気回路が得られた。
【0034】実施例1と同様に、1回の射出成形により立体的な成形品を形成するので生産性が向上し、転写で電気回路のネガパターン層を形成するので、強度が向上すると共にパターン密度及び精度が高い電気回路が形成される。
【0035】尚、本実施例ではネガパターン層の形成に印刷あるいは転写を用いたが、電気回路が形成される部分を予めマスクで覆った後液状エポキシ系樹脂を塗装するマスク塗装を用いてもよい。また射出成形品は図では帽子型に成形されているが、これに限定されるものではない。
【0036】
【発明の効果】以上要するに本発明によれば、次のような優れた効果を発揮する。
【0037】1回の射出成形により立体的な成形品を形成するので生産性が向上する。また射出成形品の上に転写や印刷などで電気回路のネガパターン層を形成するので、ネガパターン層で被覆されていない露出面を粗化した後無電解めっきを施すので、粗化面が露出することがなくなり、強度が向上すると共にパターン密度及び精度が高い電気回路が形成される。さらにネガパターンの形成工程が空気中で行われるため、合成樹脂が水や薬品を吸収することがないので信頼性が向上する。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明の射出成形回路部品の製造方法を示す図である。
【図2】本発明の射出成形回路部品の他の製造方法の一部を示す図である。
【符号の説明】
1 射出成形回路部品
2 射出成形品
3 電気導体被膜
4 ネガパターン層

【特許請求の範囲】
【請求項1】 無電解めっき用触媒を配合した合成樹脂からなる射出成形品の表面に、予め電気回路が形成される部分以外を被覆するようにネガパターン層を形成した後、上記ネガパターン層で被覆されていない上記射出成形品の露出面を粗化し、得られた粗化面に無電解めっきを施して電気導体被膜を形成することにより電気回路を形成することを特徴とする射出成形回路部品の製造方法。
【請求項2】 上記ネガパターン層を印刷により形成した請求項1記載の射出成形回路部品の製造方法。
【請求項3】 上記ネガパターン層を予めシート上に形成しておき、該ネガパターン層の射出成形品の表面に接する側に、接着剤層を形成し、上記ネガパターン層をシートごと上記射出成形品の表面に押圧し、上記接着剤層で上記射出成形品の表面に接着させた後上記シートを除去することによりネガパターン層を形成することを特徴とする請求項1記載の射出成形回路部品の製造方法。

【図1】
image rotate


【図2】
image rotate