説明

射出成形用組成物及びこれを用いた炭化物分散焼結品の製造方法

【構成】 金属粉末と、ポリシラスチレンを含有する有機バインダーとからなる射出成形用組成物。この組成物を射出成形し、得られた成形体を 200〜400 ℃にて脱バインダー処理し、さらに焼結処理をする工程を有する炭化物分散焼結品の製造方法。
【効果】 本発明の組成物を利用すれば、製造段階での収縮率が極めて小さく、寸法精度の高い焼結品を得ることができ、しかもサブミクロンオーダーよりもさらに微細な炭化物粒子が分散しているために強度が改良された焼結品が得られる。したがって、本発明の組成物及び製造方法は、機械的及び電気的特性に優れ、かつ高い寸法精度が要求される精密機械部品等の製造に適する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、射出成形用組成物及びこれを用いた炭化物分散焼結品の製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】単体金属や合金からなる金属中に炭化物粒子を均一に分散させた射出成形焼結製品は、単体金属又は合金の場合に比較して、その強度が増大する事が既に知られている。かかる製品を製造する従来の方法としては、金属粉末と炭化物粉末とをボールミル又はVブレンダー等で混合し、この混合物にさらに有機バインダーを投入したのち撹拌して射出成形用組成物を得、この組成物を射出成形後得られた成形体を脱バインダー処理し、さらに焼結処理する方法が知られている。
【0003】
【発明が解決しようとしている課題】しかしながら、上記の方法によると炭化物粒子の分散状態は満足出来るレベルに容易に到達するものの、分散された炭化物粒子の粒径は原料として使用された炭化物粉末自体の性状に大きく依存する。そのため、分散炭化物粒子の粒径はせいぜいサブミクロン程度で止まり、サブミクロンオーダーよりさらに微細な炭化物粒子を金属中に分散させることは不可能に近い。その結果、得られる炭化物分散焼結品の強度も頭打ちの状態になっていた。
【0004】また、金属粉末と有機バインダーとを混合撹拌して得られた射出成形用組成物から射出成形、焼結処理により焼結品を製造する方法では、工程の都合上、有機バインダーの添加量を少量に低減することが困難で、熱可塑性樹脂を5〜12重量%添加しているのが実情である。その結果、脱バインダー処理における成形体の収縮量が過大であり、最終製品の寸法精度が大きく低下する。さらに、最終工程である次の焼結処理においても寸法の縮減が起こるので、最終製品の仕上がり寸法を精密に制御する上で収縮率の低減が大きな課題であった。
【0005】そこで、本発明の課題は、製造段階での収縮率が極めて小さく、寸法精度の高い焼結品を得ることができ、しかもサブミクロンオーダーよりもさらに微細な炭化物粒子が分散しているために強度が改良された焼結品が得られる射出成形用組成物及びにこれを用いた炭化物分散焼結品の製造方法を提供することである。
【0006】
【課題を解決するための手段】本発明者らは、上記の課題を解決して目的を達成させる為に鋭意研究を重ねた結果、バインダーとしての機能を十分に持ちながら、脱バインダー処理時の加熱によりその大部分が都合よく微細な炭化物粒子に転化し得るポリシラスチレン樹脂を利用することにより、上記の課題が解決されることを見出した。
【0007】すなわち、本発明によると、金属粉末と、ポリシラスチレンを含有する有機バインダーとからなる射出成形用組成物が提供される。
【0008】本発明の組成物に原料として使用される金属粉末は、単体金属でも合金でもこれらの混合粉末でもよい。例えば、Cu、Fe、Ni、Ti等のの単体金属、Fe−Ni、Fe−Cr−C 、Cu−Ni、SUS316、SUS304等の合金の粉末が例示される。
【0009】この組成物のおいては、金属粉末の含有量は90〜97重量%で、有機バインダーの含有量は3〜10重量%であることが好ましい。金属粉末が90重量%未満の場合には所望の機械的強度が充分に得られず、金属粉末が97重量%を超えた場合には、射出成形工程における組成物の流動性が悪化すると共に、製品の成形性も悪化する。
【0010】また、有機バインダーに含まれるポリシラスチレンの組成物中の含有量は、1〜9重量%が好ましい。ポリシラスチレン含有量が1重量%未満では、製品の強度及び寸法精度の向上が余り期待できない。また、ポリシラスチレン含有量が9重量%を超えた場合には有機バインダーの金属粉末との混練性が低下して成形性が悪化するとともに焼結品中の SiCの分散性も低下する。
【0011】有機バインダーとして、ポリシラスチレンともに使用される他の有機樹脂としては、例えば、ポリスチレン、ポリプロピレン、パラフィンワックス、カルナウバワックス、アクリル樹脂等があげられる。
【0012】本発明の組成物を使用して炭化物分散焼結品を製造するには、該組成物を射出成形し、得られた成形体を 200〜400 ℃にて脱バインダー処理し、さらに焼結処理を行えばよい。脱バインダー処理は窒素、真空中などの不活性雰囲気中で行うのが好ましい。
【0013】上記の製造方法の脱バインダー処理において、脱バインダー処理の温度が 200℃未満では必要な処理時間が過度に長くなって実用的でなく、またこの処理温度が 400℃を超えると有機バインダーのガス化が盛んになり、製品の表面に発泡痕を残したり、場合に因っては、成形品の形状を全く残さなくなる程損なうことがある。
【0014】
【作用】本発明に用いられる有機バインダーに含まれるポリシラスチレンは、前記の脱バインダー工程において熱分解して SiCに転化し、射出成形体で有機バインダーが占めていた領域の一部乃至は大部分を代わりに占める形となる。従来の方法で、有機バインダーが占めていた領域の空洞化に伴い成形体の収縮が脱バインダー及び焼結工程で生じていたが、本発明の場合には生成する SiCにより置換されるので、製品の寸法収縮は大幅に低減することができる。さらに、こうして生じたSiCの粒径は極めて微細でかつ分散状態も良好であることから、製品の強度も大幅に向上する。
【0015】
【実施例】
実施例1原料粉として平均粒径が10ミクロンの銅粉の95.0重量%と、有機バインダーとしてポリシラスチレンの 1.5重量%とポリスチレンの 3.5重量%とを充分に混合した射出成形用組成物を90℃にて、 600kg/cm2 の射出圧力、30mm/secの射出速度にて金型に射出成形し、成形体を製作した。
【0016】上記の成形体を窒素雰囲気中で 300℃に30分間加熱保持することによって、先ず、成形体より有機バインダーの発散部分を除去し、その後、Ar気流中にて半連続式の焼結炉を用いて、1050℃で1時間の焼結処理を施し、JSPM標準2−64に基づいた粉末焼結体引っ張り試験片を得た。
【0017】この試験片を、(株)島津製作所製、島津オートグラフAE−5000を用いて試験に供し、引っ張り破断強度を測定したところ、引っ張り強度は85kg/mm2 であった。成形体を基準として焼結品の収縮率は 4.7%と測定された。
【0018】上記と同様にして40片の試験片を製造し、それらについて長さ方向の寸法の平均値と標準偏差を算出し、標準偏差を平均値で徐した数値により製品寸法のバラツキとして評価した。焼結製品の長さ方向のバラツキは 0.001であった。
【0019】また、上記の焼結製品より顕微鏡試料を切り出し、顕微鏡にて 10000倍に拡大した視野で測定した SiCの粒径は 0.011μm であり、その含有量は 0.7重量%であった。
【0020】また、金型を交換することによって射出成形体の形状を変更して、長さ15mm、幅15mm、厚さ3mmの形状をもった焼結品の電気伝導度を測定する試験片を作成し、この試験片を用い、シグマテスターにより焼結品の電気伝導度を測定したところ、99%の導電率(IACS)を示した。以上の結果を表1にまとめて示した。
【0021】実施例2原料粉としての平均粒径10μm の銅粉を94.0重量%とし、この原料粉に有機バインダーとして、ポリシラスチレン 4.0重量%と、ポリスチレン 2.0重量%とを添加し、混合撹拌した射出成形用の組成物を用いた他は実施例1と同様な処理を行って試験片を製造した。実施例1と同様にして諸特性を測定したところ、表1に示す結果が得られた。
【0022】実施例3原料粉としての平均粒径15μm の銅粉を91.0重量%とし、この原料粉に有機バインダーとして、ポリシラスチレン 8.0重量%と、ポリスチレン 1.0重量%と添加し、混合撹拌した射出成形用の組成物を用いた他は実施例1と同様な処理を行って試験片を製造した。実施例1と同様にして諸特性を測定したところ、表1に示す結果が得られた。
【0023】比較例1原料粉としての平均粒径10μm の銅粉を92.0重量%とし、この原料粉に有機バインダーとして、ポリスチレンを 4.0重量%と、ポリプロピレン 2.0重量%とを添加し、さらに、平均粒径 0.4μm の SiCの微粉末を 2.0重量%添加して、混合撹拌した射出成形用の組成物を用いた他は実施例1と同様な同様な処理を行って試験片を製造した。
【0024】実施例1と同様にして諸特性を測定したところ、表1に示す結果が得られた。以上の結果を実施例2と比較した場合、等量の SiCを含有しながら、比較例の特性値は実施例に比較して著しく劣るものであった。
【0025】比較例2原料粉としての平均粒径15μm の銅粉を88.0重量%とし、この原料粉に有機バインダーとして、ポリスチレンを 4.0重量%と、ポリプロピレン 4.0重量%とを添加し、さらに、平均粒径 0.4μm の SiC微粉末を 4.0重量%を添加して、混合撹拌した射出成形用の組成物を用いた他は実施例1と同様な同様な処理を行って試験片を製造した。
【0026】実施例1と同様にして諸特性を測定したところ、表1に示す結果が得られた。以上の結果を実施例3と比較した場合、等量の SiCを含有しながら、比較例の特性値は実施例に比較して著しく劣るものであった。
【0027】
【表1】


【0028】表1の結果は、本発明の製品は機械的特性並びに電気的特性の両面において、優れていることを示す。
【0029】
【発明の効果】本発明の組成物を利用すれば、製造段階での収縮率が極めて小さく、寸法精度の高い焼結品を得ることができ、しかもサブミクロンオーダーよりもさらに微細な炭化物粒子が分散しているために強度が改良された焼結品が得られる。したがって、本発明の組成物及び製造方法は、機械的及び電気的特性に優れ、かつ高い寸法精度が要求される精密機械部品等の製造に適する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 金属粉末と、ポリシラスチレンを含有する有機バインダーとからなる射出成形用組成物。
【請求項2】 前記の原料粉末の含有量が90〜97重量%で、有機バインダーの含有量が3〜10重量%である、請求項1記載の射出成形用組成物。
【請求項3】 前記の有機バインダーに含まれるポリシラスチレンの該組成物中の割合が1〜9重量%である請求項1又は2記載の射出成形用組成物。
【請求項4】 請求項1〜3のいずれか1項に記載の組成物を射出成形し、得られた成形体を 200〜400 ℃にて脱バインダー処理し、さらに焼結処理をする工程を有する炭化物分散焼結品の製造方法。

【公開番号】特開平5−171211
【公開日】平成5年(1993)7月9日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平3−356298
【出願日】平成3年(1991)12月24日
【出願人】(000183303)住友金属鉱山株式会社 (2,015)