説明

射撃訓練装置

【課題】標的台車の位置調整と標的台車を外す作業が容易で、保守作業を行うためのメンテナンススペースを確保した射撃訓練装置を提供する。
【解決手段】コンクリートスラブ5に取り付けられる射撃床から突出する隠顕動作可能な標的1を射撃手に対して移動させる射撃訓練装置において、標的1を搭載する標的台車4と、標的台車4の車輪17が走行する軌道11と、軌道11を支持するためのコンクリートスラブ5の下面から垂直にのびるとともにコンクリートスラブ5の下面及び側面にて固定される複数の支持部材12と、支持部材12上に設置される軌道11の位置を調整するために支持部材12をコンクリートスラブ5にアンカーボルト13を介して固定し調整するための位置調整ナット14と、を備え、標的台車4の下方の支持部材間12にメンテナンススペースとなるピット21を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、警察官、自衛官、海上保安官等が実弾を用いて行う、移動及び隠顕動作が可能な射撃訓練装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来の警察官、自衛官、海上保安官等が実弾を用いて行う、移動及び隠顕動作が可能な射撃訓練装置の正面から見た断面図を図3に示す。図3において、コンクリートスラブ5の中に標的1を搭載した標的台車4を実弾射撃を行う射撃手に対して前後方向に移動させるためのピット6が設けられている。コンクリートスラブ5で覆われたピット6内には標的台車4を射撃手に対して前後方向に移動させるための懸架式軌道31が軌道固定部32に固定されて設置してあり、軌道固定部32はコンクリートスラブ5に取り付けられている。
【0003】
標的台車4には車輪17が取り付けられており、前記懸架式軌道31を上下から挟むように固定していて、車輪17が懸架式軌道31にそって射撃手に対して前後方向に移動することができるようになっている。標的1は支柱2によって標的台車4に固定されており、標的台車4の中に設置してある図示省略の隠顕用電動機で標的1を射撃手に対して見えたり隠れたりの隠顕動作ができるようになっている。
【特許文献1】特開平9−318299号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら従来の構成では、標的を搭載した標的台車をその両側の軌道上に懸架するように配置した構造にしているため、標的台車の車輪の構造が煩雑になり、メンテナンス時等に標的台車を外したりする作業が容易に行えないという課題があった。
【課題を解決するための手段】
【0005】
従来の課題を解決するために、本発明の射撃訓練装置は、標的を搭載する標的台車と、前記標的台車の車輪が走行する軌道と、前記軌道を支持するためのコンクリートスラブの下面から垂直にのびるとともに前記コンクリートスラブの下面及び側面にて固定される支持部材と、前記支持部材上に設置される前記軌道の位置を調整するために、前記支持部材を前記コンクリートスラブにアンカーボルトを介して固定し調整するための位置調整ナットと、を備え、前記支持部材の高さを調整して保守作業を行うためのメンテナンススペースを確保するものである。
【発明の効果】
【0006】
本発明の射撃訓練装置によれば、標的台車の車輪と軌道の構造が容易になり、メンテナンス作業も容易に行えるようになるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0007】
以下に、本発明の射撃訓練装置の実施の形態を図面とともに詳細に説明する。
【実施例1】
【0008】
図1は、本発明の実施例1に用いる射撃訓練装置を設置してある射撃場全体を天面から見た図であり、図2は本発明の実施例2に用いる射撃訓練装置について正面から見た断面図である。
【0009】
図1において射撃手23の前後方向であるY方向33には、走行用溝8が3レーン設置されており、それぞれの走行用溝8からは、標的1が床面7から上に出ており、射撃手23に対してY方向33に移動しながら、標的1が射撃手23に対して見えたり隠れたりの隠顕動作をする。また、図1には走行用溝8しか記載されていないが、図2からわかるように、走行用溝8の下方には走行用溝8に平行にピット6が設置されている。
【0010】
図2において、標的1は、支柱2及び標的支持部3によって標的台車4に搭載されている。支柱2及び標的支持部3は、図1における射撃手23が射撃訓練で発射した弾丸から守るために防弾ラバー9により保護されている。防弾ラバー9の目的は弾丸を受け止めることが目的ではなく支柱2及び標的支持部3に弾丸が直撃しないようにすることが目的であり、弾丸が防弾ラバー9で兆弾し弾丸の運動エネルギーを吸収するような構造になっている。
弾丸の兆弾については図1における射撃手23に弾丸が跳ね返ってあたることを防止するために、弾丸が防弾ラバー9にあたったときに弾丸の持っている運動エネルギーが吸収されるような材質になっている。運動エネルギーを奪われた弾丸は図1における射撃手23まで跳ね返ることなく、床面7の上に落ちるか、走行用溝8よりピット6の内部に落ちる。弾丸が床面7の上に散乱しても射撃訓練の実施に影響はなく、ピット6内に落ちた場合でもピット6の地面に散乱するだけであるので、射撃訓練の実施には影響はない。
【0011】
また、標的1は標的台車4に設置された隠顕動作用電動機20により、射撃手に対して見えたり隠れたりする隠顕動作を行うことができる。隠顕動作用電動機20の電力送電及び信号送信は、標的台車4と射撃場の図示省略の制御部との間が電源線、信号線で接続されていることにより行われる構造になっている。
【0012】
ピット6は、コンクリートスラブ5でピット6内部の両側及び下面(地面)を覆われていて、上面は床面7で覆われている。床面7は、弾丸が床面7で兆弾する際に、弾丸の運動エネルギーを吸収することで図1における射撃手23に危険が及ばないことを可能とする材質で覆われている。
【0013】
コンクリートスラブ5はコンクリート構造物であり、射撃場の工事の際にコンクリートを流し込んで製作するが、コンクリートの特性上どうしても表面には粗さが出てしまう。このため標的台車4が走行する軌道11をコンクリートスラブ5上に設置すると、標的台車4に微妙な傾きが出て走行に影響が出るし、標的台車4の傾きが出ないように軌道11を調整することは困難を極める。
【0014】
このため、本実施例においては支持部材12を垂直方向調整用アンカーボルト13、垂直方向位置調整ナット14、水平方向調整用アンカーボルト18及び水平方向位置調整ナット19を用いてコンクリートスラブ5の下面(地面)及び側面に固定することとした。こうすれば、コンクリートスラブ5の下面(地面)及び側面に凹凸があったり、表面が一定になっていない場合でも、垂直方向調整用アンカーボルト13と水平方向調整用アンカーボルト18をコンクリートスラブ5に打ち込んで、その後垂直方向調整用アンカーボルト13と水平方向調整用アンカーボルト18に、各々支持部材12を挟み込むように設置した複数個の垂直方向位置調整ナット14と水平方向位置調整ナット19を必要に応じ締めたり弛めたりして支持部材12の水平、垂直方向の位置を調整することで、標的台車4が走行する軌道11の水平、垂直方向の位置を任意の位置とすることが可能となり、コンクリートスラブ5の下面(地面)及び側面の凹凸に影響されることなく軌道11を設置することができる。
【0015】
即ち、支持部材12を垂直方向調整用アンカーボルト13と水平方向調整用アンカーボルト18を用いてコンクリートスラブ5の下面及び側面に設置するが、垂直方向位置調整ナット14を調整することにより、軌道11のコンクリートスラブ5の下面に対する垂直方向である高さを、また、水平方向位置調整用ナット19を調整することにより、軌道11のコンクリートスラブ5の下面に対する水平方向の調整を容易にすることができる。
【0016】
標的台車4には走行用の車輪17が具備されており、前記車輪17は支持部材12及び支持部材延長部16の上に設置された、軌道11上を走行することで、標的台車4は射撃手に対して前後方向に移動することができる。
【0017】
標的台車4の駆動方法は、標的台車4に駆動用電動機を設置するのではなく、射場側に図示省略の標的台車移動用電動機を設けて、前記標的台車移動用電動機と標的台車4の進行方向に対する前後に設けられた図示省略のワイヤ固定金具とを図示省略の複数のワイヤで接続して、標的台車4を前進させる場合は前記標的台車移動用電動機を正回転駆動する事で前記複数のワイヤを巻上げることで行い、標的台車4を後退させる場合は前記標的台車移動用電動機を逆回転駆動する事で前記複数のワイヤを巻戻すことで行うことで標的台車4をY方向33に移動させている。
【0018】
標的台車4を支持部材12及び支部材延長部16の上に設置された軌道11から懸架するように設置すると、軌道11上に車輪17が単純に乗っているだけというような方法はとれずに、車輪17で軌道11を上下から挟み込むような構造の複雑な走行部となり、簡単に標的台車4を取り外すことが困難となってしまう。そこで本実施例では、例えば新幹線車両のように軌道11上に車輪17を単純に乗せるだけでよく、メンテナンスの際や、故障の際に簡単に標的台車4を取り外すことが可能な構造とした。また、車輪17の形状は車輪17が軌道11から脱輪しないように、標的台車4の進行方向に対する左右方向の位置規制を可能にする形状となっている。即ち全ての車輪17は位置規制が可能となるように単純な円盤形状ではなくつば付きの円盤形状となっており、つば部分が軌道11の側面部で位置規制されることで車輪17が軌道11に対し位置規制されることとなる。且つ標的台車4の進行方向に対する右方向に設置される車輪17と左方向に設置される車輪17は標的台車4の進行方向から見て左右対称となるように標的台車4に設置されているため、標的台車4が軌道11から脱輪することはない。
【0019】
即ち、標的台車4の両側に装着される車輪17のつばの部分は、標的台車4の両側の軌道11の同じ面側に接して位置規制をする。同じ面側とは、標的台車4の中心部に対して軌道11の内側側面同士又は、軌道11の外側側面同士である。
【0020】
また、この構造に拠れば、標的台車4に設置された車輪17をゴムタイヤとし、軌道11を面軌道とすることで所定の走行平面上をゴムタイヤが単純に転がって走行することも可能となる。但し、この場合はゴムタイヤを面軌道から脱輪させないための位置規制手段を別途設ける必要がある。
【0021】
標的台車4を支持部材12上の軌道11にのせるもう1つの理由は、メンテナンススペース21を確保することにある。
【0022】
本願の射撃訓練装置では、メンテナンス時、故障時等に作業を行う場合、標的台車4の上側から作業を行おうとすれば、床面7が邪魔になり床面7を外さない限り作業を行うことができない。日常の点検作業などの場合に床面7を外すのは大変な労力であり、このためメンテナンススペース21を標的台車4の下にとることで、標的台車4、軌道11、車輪17等のメンテナンスを行うことが可能である。また、隠顕用電動機20については、作業がしやすいように標的台車4の下に設置している。
【0023】
メンテナンススペース21は人が入って作業を行う必要があるため、人が楽に作業できる程度の高さが必要であり、コンクリートスラブ5の下面(地面)から標的台車4の下部までの垂直距離は、0.5m〜2.0mの範囲内にあることが望ましい。この垂直距離が0.5m未満であれば人が入っての楽な作業が困難になる。また、2.0mを超えるようになれば、支持部材12、コンクリートスラブ5の材料費、工事費が高くなるため好ましくない。
適切なメンテナンススペース21は指示部材12の高さを、垂直方向調整用アンカーボルト13に設置された垂直位置調整ナット14を締めることで高くしたり、垂直位置調整ナット14を弛めることで低くしたりして調整するか、あるいは施工時にコンクリートスラブ5の高さを適切な高さに施工することで確保することが可能である。
【0024】
軌道11については標的台車4の進行方向に対して平行に複数設置され、車輪17については、標的台車4に当該標的台車4の進行方向に対して前後方向に複数個設置されている他、標的台車4の進行方向に対して左右方向には、図2で示すように2組設置されているが、標的台車4の安定性を保つために支持部延長部材16上に、軌道11を追加設置し、追加設置した軌道11に対応する車輪17の組を標的台車4に追加設置する方法もとることができる。
【0025】
標的台車4が走行するピット6は、図1における射撃手23に対してY方向33にのみ設置されているが(図1においては、床面7で隠されているためピット6は表示されておらず、実際に表示されているのは走行用溝8だけである)、この場合標的1の横方向の動きがなく、凶悪犯罪が多い時代に合わせた実戦的な射撃訓練であると言えない面がある。このため、横方向の移動に対応して、図4のように走行用溝8を射撃手に対して蛇行した構成にすることで、横方向の移動が可能となる。また走行用溝8の蛇行については、正弦波のように規則的な蛇行であれば、射撃手23が標的1の横方向の移動を覚えてしまい、実戦的な射撃訓練とはいえないため、走行用溝8はランダムな蛇行にしている。こうすることで、射撃手23にとっては、予期せぬ左右方向の動きが現れることになり、凶悪犯に対してより効果的な実戦に即した射撃訓練が可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0026】
本発明は、警察官、自衛官及び海上保安官等が行う実弾の射撃訓練に用いる射撃訓練装置に利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】本発明の実施例1の射撃訓練装置を設置する射撃場を天面からみた図
【図2】本発明の実施例1に用いる射撃訓練装置の標的台車を正面から見た断面図
【図3】本発明の実施例1に用いる標的が左右方向に移動する射撃場を天面から見た図
【図4】従来技術の射撃訓練装置を正面から見た断面図
【符号の説明】
【0028】
1 標的
2 支柱
3 標的支持部
4 標的台車
5 コンクリートスラブ
6 ピット
7 床面
8 走行用溝
9 防弾ラバー
11 軌道
12 支持部材
13 垂直方向調整用アンカーボルト
14 垂直方向位置調整ナット
16 支持部材延長部
17 車輪
18 水平方向調整用アンカーボルト
19 水平方向位置調整ナット
20 隠顕動作用電動機
21 メンテナンススペース
23 射撃手
31 懸架式軌道
32 軌道固定部
33 Y方向

【特許請求の範囲】
【請求項1】
コンクリートスラブに取り付けられる射撃床から突出する隠顕動作可能な標的を射撃手に対して移動させる射撃訓練装置において、
前記標的を搭載する標的台車と、前記標的台車の車輪が走行する軌道と、前記軌道を支持するための前記コンクリートスラブの下面から垂直にのびるとともに前記コンクリートスラブの下面及び側面にて固定される複数の支持部材と、前記支持部材上に設置される軌道の位置を調整するために前記支持部材を前記コンクリートスラブにアンカーボルトを介して固定し調整するための位置調整ナットと、を備え、
前記標的台車の下方の前記支持部材間にメンテナンススペースとなるピットを形成することを特徴とする射撃訓練装置。
【請求項2】
前記コンクリートスラブ下面に固定される前記アンカーボルトの前記位置調整ナットを調整して、前記標的台車の軌道の垂直方向である高さの調整をすることを特徴とする請求項1に記載の射撃訓練装置。
【請求項3】
前記コンクリートスラブ側面に固定される前記アンカーボルトの前記位置調整ナットを調整して、前記標的台車の軌道の水平方向の位置調整をすることを特徴とする請求項1に記載の射撃訓練装置。
【請求項4】
前記射撃床は、弾丸が当たって兆弾しないように運動エネルギーを吸収する材質で覆われていることを特徴とする請求項1に記載の射撃訓練装置。
【請求項5】
前記標的台車が走行する軌道を収納するピットは、直線方向のみならず蛇行して設置されることを特徴とする請求項1に記載の射撃訓練装置。
【請求項6】
前記標的は、該標的の支柱と標的支持部を介して標的台車に搭載され、当該支柱と標的支持部は、弾丸の運動エネルギーを吸収する防弾カバーで覆われることを特徴とする請求項1に記載の射撃訓練装置。
【請求項7】
前記標的台車に設置される車輪を前記軌道上に搭載し、前記台車をワイヤで牽引して移動させることを特徴とする請求項1に記載の射撃訓練装置。
【請求項8】
前記標的台車の両端部に設置される車輪は、前記起動上を走行する部分と軌道側面に接し当該車輪の位置規制をして脱輪を防止するためのつばの部分からなり、前記左右の車輪のつば部分が前記軌道の同じ側の側面と接して位置規制し前記台車を移動させることを特徴とする請求項1に記載の射撃訓練装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2007−162981(P2007−162981A)
【公開日】平成19年6月28日(2007.6.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−357414(P2005−357414)
【出願日】平成17年12月12日(2005.12.12)
【出願人】(000005821)松下電器産業株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】