説明

導電性高分子複合物の製造方法

【構成】一般式(I)を繰り返し単位とするポリアニリン及びその誘導体と重合性スルホン酸とを複合後にスルホン酸を重合することを特徴とする導電性高分子複合物の製造方法。


(式中、R1 〜R4 は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアルコキシ基である。)
【効果】ポリ又はオリゴスルホン酸系ドーパントをポリアニリン系導電性高分子中に均一に混合でき、物理的、化学的安定性、加工性に優れた導電性高分子複合物が得られる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は導電性高分子複合物の製造方法に関し、詳しくは物理的及び化学的安定性に優れるスルホン酸とポリアニリン系導電性高分子の複合方法に関するものである。
【0002】
【従来の技術】導電性高分子は、有機導電体、有機半導体としての応用はもとより、その新規な物理特性、電気化学特性が注目を集めており、電池、表示素子、光電変換素子、センサー、帯電防止材等、各種機能素子用素材として、また非線形光学材料、帯電防止材料、電波吸収材料等の機能性材料としての応用が期待されている。イオンドーピング法によりポリアセチレンの導電性が著しく上昇することが見出されて以来(フィジクス・レビュ−・レター、39巻、109項、1977年)、各種のイオンドーピング型導電性高分子が提案されている。ドーピングには、電子受容体(酸化剤)添加により、高分子内に正孔を多数発生させるP型ドーピングと、電子供与体(還元剤)添加により、高分子内に自由電子を多数発生させるN型ドーピングがある。P型導電性高分子のドーパントとしては、ハロゲンイオンのような小さなものから、巨大環状分子、更には高分子電解質まで可能であり、これら各種ドーパントのドーピング方法及び得られた導電性高分子の特性と用途開発が新技術として注目されている。
【0003】上記ドーパントとしてフッ化物イオンのような無機アニオンがよく使用されるが、これら低分子ドーパントは多量にドープされ得るものの、導電性高分子中で移動し易く、また加熱により脱離し易い等、材料としての安定性に問題がある。また、この様な低分子ドーパントでドープされた導電性高分子複合物は一般的に自立性が悪く、脆いという欠点を有する。
【0004】このことから、近年アニオン基を有する高分子電解質をドーパントとすることが提案されており、例えば、特開昭59−98165号では高分子アニオンをドーパントとする導電性高分子組成物が提案されている。この組成物はドーパントとして、スルホン化ポリエチレン、スルホン化ポリスチレン、スルホン化ポリ(2,5ージメチルフェニレンオキシド)、スルホン化ポリビニルアルコール等が挙げられており、アニオン基はスルホン酸基より形成されている。この提案は従来の無機アニオンをドーパントとする導電性高分子に比較して安定で強度良好な導電性高分子複合物が得られることを示したものであり注目される。しかしながら、これらは高分子であるため、導電性高分子内部まで均一にドーピングすることが困難であり、また、導電性等の機能性を発現するための重要な因子であるドーピング率が低いという問題がある。
【0005】一方、酸化染料としてのアニリンの酸化重合体に関する研究も、アニリンブラックに等で古くより行なわれている。特に、アニリンブラック生成の中間体であるアニリンの8量体がエメラルディンとして確認されており( ジャーナル オブケミカルソサエティ−, 97, 2388(1910); 101, 1117(1912))、これは酢酸、ピリジン、DMFに可溶である。次いで、近年になって、このエメラルディンの硫酸塩が高い導電性を有することも見い出された( ジャーナル オブ ポリマ−サイエンス, C, 16, 2931; 2943(1967); 22, 1187(1969))。更に最近では、アニリンの化学的又は電気化学的酸化重合により得られたエメラルディン類似のポリアニリンが塩酸等のプロトン酸で容易にドープされ高い導電性を示すことが報告されている( ジャ−ナル オブ ケミカル ソサエティ−, ケミカル.コミュニケ−ション,1784(1987)) 。
【0006】ポリアニリンは空気中で安定であり、また合成も比較的容易であるため、最近特に注目されている導電性高分子である。但し、ポリアニリンは一部の極性溶媒に僅かに溶ける程度の溶解性しか有しないため、導電性高分子を各種用途に応用する場合に必要な加工性という点で不利になっている。本発明者らはこの加工性を積極的に付与するには、ポリアニリンの側鎖にアルコキシ基やアルキル基を導入して可溶化させることが有効であることを見出した(特開昭61-206106 号)。しかしながら、上記導電性高分子同様、均一に多量にドーピングを行なうには、低分子であるプロトン酸を用いる以外に方法はなく、従ってドーピング状態での安定性としては上述したような問題が残っていた。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、物理的、化学的に安定なドーパントを均一に混合した物理的、化学的安定性、特に熱安定性に優れたポリアニリン系導電性高分子複合物を与えることにある。更に詳しくは、安定性に優れたスルホン酸系高分子ドーパントをポリアニリン系化合物内に均一に混合する方法を提案するものである。
【0008】
【課題を解決するための手段】本発明者らは上記問題点を解決するために鋭意検討を行なった結果、イオン性が強く混合後に高分子化が可能な重合性スルホン酸がポリアニリン系化合物に容易にドープすることに着目し、ドープ後にこれらスルホン酸を重合させることにより、高分子ドーパントを均一にポリアニリン系化合物内に導入できることを見出し、本発明に至った。導電性高分子の中でも特にポリアニリンはアミン及びイミン構造を有するため、プロトン酸との新和性が強く、スルホン酸が容易にド−プすることも本発明の特徴と言える。即ち本発明は、下記の一般式(I)で表される構造を繰返し単位とするポリアニリン誘導体と重合性スルホン酸とを複合し、次いでスルホン酸を重合することを特徴とする導電性高分子複合物の製造方法に関するものである。
【0009】
【化2】


(式中、R1 〜R4 は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基、又はアルコキシ基である。)
【0010】以下、本発明を具体的に説明する。本発明の一般式(I)で表される繰返し単位とするポリアニリン誘導体の例としては、ポリアニリン、ポリ−o−トルイジン、ポリ−m−トルイジン、ポリ−o−アニシジン、ポリ−m−アニシジン、ポリキシリジン、ポリ−2,5−ジメトキシアニリン、ポリ−2,6−ジメトキシアニリン、ポリ−2,5−ジエトキシアニリン、ポリ−2,6−ジエトキシアニリン、ポリ−o−エトキシアニリン、ポリ−m−エトキシアニリン及びこれらの共重合体を挙げることができるが、特にこれらに限定されるものではない。前記ポリアニリン誘導体の側鎖の導入量は、多いほど溶解性という点では都合が良いが、あまり多過ぎると立体障害、分子量の低下等が起こり、電気伝導性という点で好ましくない。従って、好ましい誘導体としては、ポリ−o−アニシジン、ポリ−m−アニシジン、ポリ−2,5−ジメトキシアニリン、ポリ−2,6−ジメトキシアニリン、ポリ−o−エトキシアニリン、ポリ−m−エトキシアニリンが挙げられる。
【0011】本発明のポリアニリン誘導体の重合方法は特に限定されるものではないが、一般には、例えば、ジャ−ナル オブ ケミカル ソサエティ−, ケミカル.コミュニケ−ション,1784(1987)等で報告されている様に、アニリン、o−アニシジン、2,5−ジメトキシアニリン等のアニリン誘導体を電気化学的又は化学的に酸化重合する方法がとられている。
【0012】電気化学的酸化重合は、陽極酸化によって行われ、電流密度約0.01〜50mA/cm2 、電解電圧0.1〜30Vの範囲で、定電流法、定電圧法及びそれ以外のいかなる方法をも用いることができる。重合は水溶液中、有機溶媒中又はこれらの混合溶媒中で行われる。電解液のpHとしては特に制限はないが、好ましくはpHが3以下、特に好ましくは2以下である。pH調節に用いる酸の具体例としては、HCl、HBF4 、CF3 COOH、H2 SO4 及びHNO3 、パラトルエンスルホン酸等の強酸をあげることができるが、特にこれらに限定されるものではない。
【0013】化学的酸化重合の場合には、例えばアニリン誘導体を酸性溶液中で過酸化物、過硫酸塩のような酸化剤で酸化重合させることができる。この場合に用いる酸としては、電気化学的酸化重合の場合に用いるものと同様のものが用いられるが、同じくこれらに限定されるものではない。
【0014】このような方法で得られるポリアニリン誘導体の分子量は特に限定されないが、通常2000以上のものが得られている。また、このような方法によって得られるポリアニリン誘導体は、一般的に重合溶液中のアニオンをド−パントとして含んだ状態で得られる場合が多く、従って重合性スルホン酸を添加する前にこれらアニオンを脱ド−プする必要がある。脱ド−プの方法としては特に制限はないが、一般にはアンモニア水等の塩基で処理する方法がとられる。
【0015】本発明の重合性スルホン酸としては、スチレンスルホン酸、ビニルスルホン酸及びそれらの誘導体が挙げられる。これらの中でパラスチレンスルホン酸が反応性、安定性等で優れている。本発明のポリアニリン誘導体と重合性スルホン酸の複合量としてはスルホン酸/ポリアニリン誘導体のモノマーユニットのモル比が0.01以上10以下が好ましく、更に好ましくは0.1以上2以下である。モル比が0.01以下の場合には、ドープ量が小さく電気伝導度向上に効果がない。また10以上の場合、複合物中のスルホン酸の量が多過ぎるため、導電性高分子の電気伝導性を阻害することになる。
【0016】本発明のポリアニリン誘導体と重合性スルホン酸を複合させる方法としては、特に制限はないが、固体状のポリアニリン誘導体を重合性スルホン酸溶液中に浸す方法やポリアニリン誘導体が溶媒に可溶な場合には溶液同志を混合する方法が一般的にとられる。特に、溶液状態で混合すれば、成膜等の加工面で大きな利点となる。この場合の溶媒は、ポリアニリン誘導体が溶解するものであれば、特に限定されない。また複合時の温度、時間は特に限定されない。ポリアニリン誘導体とスルホン酸との親和性が高く、通常、10℃から100℃の範囲で30分から10時間程度撹拌混合すればよい。
【0017】本発明では、ポリアニリン誘導体/重合性スルホン酸複合後に複合物中のスルホン酸を重合させることを特徴とする。その重合方法に特に制限はないが、触媒を使用するとその残留物が最終的な複合物の電気伝導度等に影響する可能性が有るので、加熱等の無触媒系で重合する方法が好ましい。この場合の加熱温度、時間は使用するスルホン酸によって異なるが、一般的には150℃から250℃の範囲で0.5時間以上を要する。また、加熱処理の雰囲気としては、ポリアニリン誘導体の酸化劣化を防止する意味で減圧下や不活性雰囲気下等の酸素を排した状態が好ましい。また、他の触媒作用を有する物質を併用することもできる。このようにして得られた複合物中のスルホン酸重合体は、5〜50量体付近のものが多く生成している。
【0018】
【発明の効果】本発明によればポリ又はオリゴスルホン酸系ドーパントをポリアニリン系導電性高分子中に均一に混合でき、物理的、化学的安定性、加工性に優れた導電性高分子複合物が得られる。この手法は、各種の導電性高分子に適用でき、各種光電子素子の構成材料や帯電防止材料、電波吸収材料等の導電性高分子の応用上極めて有用である。
【0019】
【実施例】以下に実施例を示して、本発明を更に詳細に説明する。
実施例1ガラス製反応容器に、1.5モルのHBF4 水溶液を20ml、及び0.35モルの2,5−ジメトキシアニリンを入れ、pH<1.0の水溶液を調製した。この水溶液に2cmの間隔で各々その電極面積が10cm2 の2つの白金電極を挿入した後、撹拌下で20クーロンの電気量を流して電解酸化重合した。この際、陽極の白金電極上に濃緑色のBF4 アニオンがドープしたポリ−2,5−ジメトキシアニリンが析出した。次いで、この析出物を10%のアンモニア水で洗浄後、蒸留水で洗浄したところ、濃青色に変化した。この重合体を乾燥後、白金電極から剥離し、N−メチルピロリドン(NMP)に溶解し、2wt%の溶液を調製した。この溶液のGPC測定により求めた分子量は、ポリスチレン換算で約10000であった。
【0020】実施例2パラスチレンスルホン酸ソーダを水に溶かし、イオン交換樹脂に通して4wt%のパラスチレンスルホン酸(PSS)水溶液を得た。この溶液をガラス板に塗布し、減圧下、150℃で2時間熱処理した。得られた膜を水に再溶解したところ、強酸性を示した。また、この膜の水溶液中でのGPCを測定したところ、パラスチレンスルホン酸の5〜20量体に相当する分子量のものが生成していることを確認した。
【0021】実施例3実施例1、2で調製した2wt%ポリ−2,5−ジメトキシアニリンのNMP溶液と4wt%PSS水溶液を各々のモノマー比が1:1となるように混合し、ガラス板上にスピンコート(500回転)により成膜し、50℃で約8時間真空乾燥した。得られた緑色膜の表面抵抗(25℃、窒素雰囲気)は3×106 Ω/□であった。次いで、上記膜を150℃で2時間熱処理した後、表面抵抗(25℃、窒素雰囲気)を測定したところ、その値は4×106 Ω/□であった上記複合膜を100℃、窒素雰囲気下で1週間放置後、再度表面抵抗(25℃、窒素雰囲気)を測定したところ、4×106 Ω/□で、表面抵抗はほとんど変化しておらず、高温で安定な電気伝導性膜であることが確認できた。
【0022】実施例41Lの4つ口フラスコに、温度計、撹拌機、コンデンサーを取り付け、1規定のHBF4 水溶液を500mL加え、窒素をバブルしながら33.62gの2,5−ジメトキシアニリンを溶解した。次いで、撹拌下、窒素バブルしながら、11.5gの過硫酸アンモニウムを固体のまま、約30分かけて添加した。この反応は発熱反応であるので、反応中は氷冷により、22℃に保った。添加後、更に2時間反応させた後ろ過し、ろ残を500mLの蒸留水で洗浄した。次いで、この生成物をビ−カ−に移し、500mLの5%アンモニア水で約1時間撹拌洗浄後、ろ過し、ろ残をろ液が中性になるまで、蒸留水で十分に洗浄後、100℃で約8時間減圧乾燥することにより、未ド−プ状態のポリ−2,5−ジメトキシアニリン粉末を化学的方法により得た。更に、これをNMPに溶解し、2wt%の溶液を調製した。この溶液のGPC測定により求めた分子量は、ポリスチレン換算で約8000であった。
【0023】実施例5実施例4、2で調製した2wt%ポリ−2,5−ジメトキシアニリンのNMP溶液と4wt%PSS水溶液を各々のモノマー比が1:1となるように混合し、混合後すぐにガラス板上にスピンコート(500回転)により成膜し、50℃で約8時間真空乾燥した。得られた緑色膜の表面抵抗(25℃、窒素雰囲気)は6×106 Ω/□であった。次いで、上記膜を150℃で2時間熱処理した後、表面抵抗(25℃、窒素雰囲気)を測定したところ、その値は7×106 Ω/□であった上記複合膜を100℃、窒素雰囲気下で1週間放置後、再度表面抵抗(25℃、窒素雰囲気)を測定したところ、7×106 Ω/□で、表面抵抗はほとんど変化しておらず、高温で安定な電気伝導性膜であることが確認できた。
【0024】実施例6〜9実施例4で用いた2,5−ジメトキシアニリンのかわりに、等モルのアニリン、o−トルイジン、o−アニシジン、o−エトキシアニリンを用いた以外は、実施例4と同様にしてそれぞれのモノマ−に対応する表1に示したような重合体を化学的に重合し、1〜2wt%のNMP溶液を調製した。尚、アニリンの重合体は部分的にしかNMPに溶解しなかった。次いで、これらの重合体の溶液を用いた以外は実施例5と全く同様の方法で、複合物を成膜し、表面抵抗(25℃、窒素雰囲気)を測定したところ、表1のような結果が得られ、表面抵抗はほとんど変化しておらず、高温で安定な電気伝導性膜であることが確認できた。
【0025】実施例10実施例5での溶液の混合比の代りに、モノマー比として2,5−ジメトキシアニリン:PSSが2:1となるように溶液を混合した以外は実施例5と全く同様の方法で、複合物を成膜し、表面抵抗(25℃、窒素雰囲気)を測定したところ、表1のような結果が得られ、表面抵抗はほとんど変化しておらず、高温で安定な電気伝導性膜であることが確認できた。
【0026】比較例1、2実施例5で用いた4wt%PSS水溶液の代りに、4wt%の塩酸水溶液又は4wt%パラトルエンスルホン酸水溶液を用いた以外は実施例5と全く同様の方法で、複合物を成膜し、表面抵抗(25℃、窒素雰囲気)を測定したところ、表1のような結果が得られ、高温では不安定であった。
【0027】
【表1】


【特許請求の範囲】
【請求項1】 一般式(I)を繰り返し単位とするポリアニリン及びその誘導体と重合性スルホン酸とを複合後にスルホン酸を重合することを特徴とする導電性高分子複合物の製造方法。
【化1】


(式中、R1 〜R4 は、水素原子、炭素数1〜10のアルキル基又はアルコキシ基である。)
【請求項2】 重合性スルホン酸がパラスチレンスルホン酸である請求項1の導電性高分子複合物の製造方法。

【公開番号】特開平6−32845
【公開日】平成6年(1994)2月8日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平4−192479
【出願日】平成4年(1992)7月20日
【出願人】(000002004)昭和電工株式会社 (3,251)