説明

小児慢性関節炎関連疾患治療剤

【課題】新規な小児慢性関節関連疾患治療剤の提供。
【解決手段】インターロイキン−6(IL-6)アンタゴニストを有効成分とする小児慢性関節関連疾患の治療剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はインターロイキン-6(IL-6)アンタゴニストを有効成分として含有する小児慢性関節炎関連疾患治療剤に関する。小児慢性関節炎関連疾患には、小児慢性関節炎及びスティル病等が含まれる。
【背景技術】
【0002】
IL-6はB 細胞刺激因子2 (BSF2)あるいはインターフェロンβ2 とも呼称されたサイトカインである。IL-6は、B リンパ球系細胞の活性化に関与する分化因子として発見され(Hirano, T. et al., Nature (1986) 324, 73-76 )、その後、種々の細胞の機能に影響を及ぼす多機能サイトカインであることが明らかになった(Akira, S. et al., Adv. in Immunology (1993) 54, 1-78)。IL-6は、T リンパ球系細胞の成熟化を誘導することが報告されている(Lotz, M. et al., J. Exp. Med. (1988)167, 1253-1258)。
【0003】
IL-6は、細胞上で二種の蛋白質を介してその生物学的活性を伝達する。一つは、IL-6が結合する分子量約80kDのリガンド結合性蛋白質のIL-6受容体である (Taga, T. et al., J. Exp. Med. (1987) 166, 967-981, Yamasaki, K. et al., Science (1987) 241, 825-828)。IL-6受容体は、細胞膜を貫通して細胞膜上に発現する膜結合型の他に、主にその細胞外領域からなる可溶性IL-6受容体としても存在する。
【0004】
もう一つは、非リガンド結合性のシグナル伝達に係わる分子量約130kD の膜蛋白質gp130 である。IL-6とIL-6受容体はIL-6/IL-6受容体複合体を形成し、次いでgp130 と結合することにより、IL-6の生物学的活性が細胞内に伝達される(Taga, T. et al., Cell (1989) 58, 573-581) 。
【0005】
IL-6アンタゴニストは、IL-6の生物学的活性の伝達を阻害する物質である。これまでに、IL-6に対する抗体(抗IL-6抗体)、IL-6受容体に対する抗体(抗IL-6受容体抗体)、gp130 に対する抗体(抗gp130 抗体)、IL-6改変体、IL-6又はIL-6受容体部分ペプチド等が知られている。
【0006】
抗IL-6受容体抗体に関しては、いくつかの報告がある(Novick, D. et al., Hybridoma (1991) 10, 137-146 、Huang, Y. W. et al., Hybridoma (1993) 12, 621-630 、国際特許出願公開番号WO 95-09873 、フランス特許出願公開番号FR 2694767、米国特許番号US 521628 )。その一つであるマウス抗体PM-1(Hirata, Y. et al., J. Immunol. (1989) 143, 2900-2906)の相捕性決定領域(CDR; complementarity determining region )をヒト抗体へ移植することにより得られたヒト型化PM-1抗体が知られている(国際特許出願公開番号WO 92-19759 )。
【0007】
小児慢性関節炎(Chronic Arthritides Diseases of Childhood)は、16歳未満に発症する慢性関節炎を主体とする疾患であり、小児に起こる膠原病のうち最も多い疾患である。成人の慢性関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis (RA))と異なりhomogeneousな疾患とは言えずさまざまな病型を持つため、成人の慢性関節リウマチとは別の疾患として扱う傾向がある。
【0008】
小児慢性関節炎の名称としては、日本においては米国の診断基準に従い「若年性関節リウマチ(Juvenile Rheumatoid Arthritis (JRA))」が用いられてきたがヨーロッパにおいては主に Juvenile Chronic Arthritis (JCA)が用いられていた。最近ではIdiopathic Chronic Arthritis (ICA)やJuvenile Idiopathic Arthritis (JIA)などの名称もよく用いられている。
【0009】
小児慢性関節炎の病型はさまざまな分類がなされており、アメリカリウマチ協会(American College of Rheumatology(ACR))では16歳未満の小児に発症する、6週間以上の持続する関節炎疾患として1)全身型(Systemic onset JRA)、2)多関節型(Polyarticular)、3)少関節型(Pauciarticular)との3病型に分類されている(ARA分類)(JRA Criteria Subcommittee of the Diagnostic and Therapeutic Criteria Committee of the American Rheumatism Association Arthritis Rheum 20(Suppl)195, 1977) 。また、ヨーロッパにおいてはEuropean League Against Rheumatism (EULAR)が、関節炎の持続期間が3ヶ月以上という点や、乾癬、強直性脊椎炎などを原因とする関節炎は除外する点などが上記ARA 分類とは異なるが、3病型は同様である分類を行っている(Bulletin 4, Nomenclature and classification of Arthritis in Children. Basel, National Zeitung AG, 1977.)。
【0010】
最近、この分類を見なおす動きがあり、International League of Associations for Rheumatology (ILAR)は1995年にIdiopathic Arthritides of Childhoodの分類案を提案し(Fink CW, Proposal for the development of classification criteia for idiopathic arthritides of childhood. J. Rheumatol., vol.22, 1566 (1995))、さらに1997年にはその改定をILAR案として提案している(Southwood TR, Classifying childhood arthritis. Ann. Rheum. Dis. Vol.56, 79 (1997))。この分類では、1)全身型関節炎(Systemic Arthritis)、2)多関節型(RF陽性型)(Polyarthritis RF positive)、3)多関節型(RF陰性型)(Polyarthritis RF negative)、4)少関節型(Oligoarthritis)、5)進展型少関節型(Extended oligoarthritis)、6)付着部炎関連関節炎(Enthesitis related Arthritis)、7)乾癬関連関節炎(Psoriatic Arthritis)、8)その他に分類されている。
【0011】
さらに本発明者らは、小児慢性関節炎を、
1)小児一次性慢性関節炎(Primary Chronic Arthritides of Childhood)
(1)SPRASH症候群(SPRASH syndrome)(SPRASH:spiking fever, pericarditis, rash, arthritis, splenomegaly, hepatomegaly)
弛張熱と皮疹に始まり、漿膜炎、肝脾腫を見とめ、同時あるいは遅れて関節炎を併発するが関節炎を見とめない場合もある。
(2)小児特発性慢性関節炎(Idiopathic Chronic Arthritides of Childhood)
基礎疾患がなく、関節炎が病態の中心である。
a)リウマトイド因子(RF)陽性型
b)抗核抗体(ANA)陽性型
c)RF/ANA陰性型
2)小児二次性慢性関節炎(Secondary Chronic Arthritides of Childhood)
遺伝性、非遺伝性の原疾患に伴い関節炎が発現する。
と分類する方法を提案している(横田俊平、「小児慢性関節炎の最近の治療法の進歩」、リウマチ、39巻、860、(1999))。
【0012】
小児慢性関節炎には各種のサイトカインが関与していることが報告されている。特に炎症性のサイトカインであるIL-1、IL-6、IL-12、TNF-αと抗炎症性サイトカインのIL-1ra(IL-1レセプターアンタゴニスト)、IL-10、IL-13、sTNFR(可溶性TNFレセプター)の不均衡が疾患と関連していると考えられている。
【0013】
小児慢性関節炎の治療としては、非ステロイド系抗炎症剤、副腎皮質ステロイド薬、抗リウマチ剤(金剤など)、免疫抑制剤、メソトレキセート(MTXなど)が用いられてきた。しかし、患者によりその治療効果は一定していないため、さらに有効な治療法の開発が望まれている。
【0014】
スティル病(Still's disease)は、1897年英国の小児科医スティルにより報告された、成人の慢性関節リウマチと明らかに異なっている臨床像をもつ疾患として報告された小児から成人(成人では特に青年期)に発症する疾患であり、発熱、紅斑、関節炎、漿膜炎などを主症状とする。その中で成人発症例を成人スティル病(Adult onset Still's disease)と呼称している。スティル病ではリウマトイド因子は通常陰性である。
【0015】
スティル病は小児においては、16歳未満の小児に発生する慢性関節炎である若年性関節リウマチ(Juvenile Rheumatoid Arthritis (JRA), JCA (Juvenile Chronic Arthritis), Juvenile Idiopathic Arthritis (JIA) )のうちの全身発症型(Systemic Type)の別名である。スティル病の原因についてはウィルスなどの環境要因やHLAなどの宿主要因および免疫異常などについての報告があるもののいまだ不明である。
【0016】
成人スティル病と小児のスティル病は発症年齢以外に若干の臨床像の違いはあるもののほぼ同一疾患と考えられている。小児のスティル病は前述のように全身発症型のJRAをさすものであるが、JRAと成人の関節リウマチ(Rheumatoid Arthritis, (RA))は臨床的にも異なる点が多いため別の疾患として扱われており、このことからも成人スティル病はリウマチ性の疾患の中で独立した疾患単位として扱われることが多い。
【0017】
スティル病の診断基準としては、Yamaguchi(Journal of Rheumatology. 19(3):424-30, 1992)、 Reginato(Seminars in Arthritis & Rheumatism. 17(1)39-57, 1987)、Cush(Rheumatology Grand Rounds, University of Pittsburgh Medical Center; Jan.30, 1984)、Goldman(Southern Medical Journal 73:555-563, 1980)らの基準が知られている。
【0018】
スティル病とサイトカインの関係については、IL-1、IL-2、IL-4、IL-6、IL-7、IL-8、IL-10,TNF-α、IFN-γなどのサイトカインとの関係が報告されており、なかでもIL-1、IL-6、TNF-α、IFN-γなどの炎症性サイトカインとスティル病の病態には何らかの関連があると考えられている。
【0019】
IL-6に関しては、de Benedettiらが小児スティル病において血清中IL-6の値が上昇しているという報告(Arthritis Rheum. Vol.34, 1158,1991)や、同じくde Benedettiらにより、小児スティル病患者の血清中にはIL−6/可溶性IL-6レセプター(sIL-6R)複合体が多く存在し、この複合体レベルとCRP値に相関関係が見られるという報告(J.Clin. Invest. Vol.93, 2114, 1994)がなされている。また、Rooneyらは小児スティル病患者では血漿中のIL-6とTNF-αのレベルが上昇しているという報告(Br J Rheumatol. Vol.34 454, 1995)をしている。
【0020】
スティル病の治療法としては、非ステロイド系抗炎症剤、副腎皮質ステロイド薬、抗リウマチ剤(金剤など)、免疫抑制剤、γグロブリン製剤、メソトレキセート(MTXなど)が用いられてきた。しかし、患者によりその治療効果は一定していないため、さらに有効な治療法の開発が望まれている。
【発明の概要】
【0021】
従って本発明は、従来の小児慢性関節炎関連疾患治療剤とは異るタイプの新規な小児慢性関節炎関連疾患治療剤を提供しようとするものである。本発明において、小児慢性関節炎関連疾患には、小児慢性関節炎及びスティル病が含まれる。
本発明者らは上記の課題を解決すべく、種々検討の結果、インターロイキン−6(IL-6)アンタゴニストが、小児慢性関節炎関連疾患治療効果を有することを見出し、本発明を完成した。
従って本発明は、インターロイキン−6(IL-6)アンタゴニストを有効成分として含んで成る小児慢性関節炎関連疾患治療剤を提供する。
より具体的には、本発明は、インターロイキン−6(IL-6)アンタゴニストを有効成分として含有する小児慢性関節炎治療剤を提供する。
本発明はさらに、インターロイキン−6(IL-6)アンタゴニストを有効成分として含有するスティル病治療剤を提供する。
【発明を実施するための形態】
【0022】
発明の実施の形態
前記IL-6アンタゴニストは、好ましくはIL-6受容体に対する抗体であり、好ましくはヒトIL-6受容体に対するモノクローナル抗体又はマウスIL-6受容体に対するモノクローナル抗体である。上記ヒトIL-6受容体に対するモノクローナル抗体としてはPM-1抗体が例示され、またマウスIL-6受容体に対するモノクローナル抗体としてはMR16-1抗体が挙げられる。
前記の抗体は、好ましくは、キメラ抗体、ヒト型化抗体またはヒト抗体であり、例えばヒト型化PM-1抗体である。
【0023】
本発明の治療剤による治療の対象となる小児慢性関節炎としては、先のARA 、EULAR 、ILARおよび発明者らの分類のすべての疾患が含まれる。血清学的診断法の進歩、治療法の進歩により、現在小児慢性関節炎の病型分類については世界的規模で見直しが進められており、いわば「病型分類の混乱期」にあるということができるが、本発明の治療剤の好ましい治療対象としては、ARA 分類では全身型、多関節型、少関節型、EULAR 分類では全身型、多関節型、少関節型、ILAR分類では、全身型、多関節型(RF陽性型)、多関節型(RF陰性型)、少関節型、進展型少関節型、本発明者らの分類では、小児一次性慢性関節炎(SPRASH症候群、小児特発性慢性関節炎(a.リウマトイド因子(RF)陽性型、b.抗核抗体(ANA)陽性型、c.RF/ANA陰性型))であり、特に好ましい治療対象としては、ARA 分類では全身型、多関節型、EULAR 分類では全身型、多関節型、ILAR分類では全身型、多関節型(RF陽性型)、多関節型(RF陰性型)、進展型少関節型、本発明者らの分類では、小児一次性慢性関節炎(SPRASH症候群、小児特発性慢性関節炎(a.リウマトイド因子(RF)陽性型、b.抗核抗体(ANA)陽性型))である。さらに最も好ましい治療対象としてはARA 分類では全身型、多関節型、EULAR 分類では全身型、多関節型、ILAR分類では全身型、多関節型(RF陽性型)、進展型少関節型、本発明者らの分類では、小児一次性慢性関節炎(SPRASH症候群、小児特発性慢性関節炎(a.リウマトイド因子(RF)陽性型)があげられる。
【0024】
本発明で使用されるIL-6アンタゴニストは、小児慢性関節炎関連疾患治療効果を示すものであれば、その由来、種類および形状を問わない。
IL-6アンタゴニストは、IL-6によるシグナル伝達を遮断し、IL-6の生物学的活性を阻害する物質である。IL-6アンタゴニストは、好ましくはIL-6、IL-6受容体及びgp130 のいずれかの結合に対する阻害作用を有する物質である。IL-6アンタゴニストとしては、例えば抗IL-6抗体、抗IL-6受容体抗体、抗gp130 抗体、IL-6改変体、可溶性IL-6受容体改変体あるいはIL-6又はIL-6受容体の部分ペプチドおよび、これらと同様の活性を示す低分子物質が挙げられる。
【0025】
本発明で使用される抗IL-6抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗IL-6抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマに産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものがある。この抗体はIL-6と結合することにより、IL-6のIL-6受容体への結合を阻害してIL-6の生物学的活性の細胞内への伝達を遮断する。
【0026】
このような抗体としては、MH166 (Matsuda, T. et al., Eur. J. Immunol. (1988) 18, 951-956) やSK2 抗体(Sato, K. et al., 第21回 日本免疫学会総会、学術記録(1991) 21, 166)等が挙げられる。
抗IL-6抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、IL-6を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
【0027】
具体的には、抗IL-6抗体を作製するには次のようにすればよい。例えば、抗体取得の感作抗原として使用されるヒトIL-6は、Eur. J. Biochem (1987) 168, 543-550 、J. Immunol. (1988) 140, 1534-1541 、あるいはAgr. Biol. Chem. (1990) 54, 2685-2688 に開示されたIL-6遺伝子/アミノ酸配列を用いることによって得られる。
【0028】
IL-6の遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中又は、培養上清中から目的のIL-6蛋白質を公知の方法で精製し、この精製IL-6蛋白質を感作抗原として用いればよい。また、IL-6蛋白質と他の蛋白質との融合蛋白質を感作抗原として用いてもよい。
【0029】
本発明で使用される抗IL-6受容体抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗IL-6受容体抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマに産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものがある。この抗体はIL-6受容体と結合することにより、IL-6のIL-6受容体への結合を阻害してIL-6の生物学的活性の細胞内への伝達を遮断する。
【0030】
このような抗体としては、MR16-1抗体(Tamura, T. et al. Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1993) 90, 11924-11928)、PM-1抗体 (Hirata, Y. et al., J. Immunol. (1989) 143, 2900-2906)、AUK12-20抗体、AUK64-7 抗体あるいはAUK146-15 抗体(国際特許出願公開番号WO 92-19759)などが挙げられる。これらのうちで、特に好ましい抗体としてPM-1抗体が挙げられる。
【0031】
なお、PM-1抗体産生ハイブリドーマ細胞株は、PM-1として、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1 丁目1 番地1 中央6 )に、平成2 年7 月10日に、FERM BP-2998としてブダペスト条約に基づき国際寄託されている。また、 MR16-1 抗体産生ハイブリドーマ細胞株は、Rat-mouse hybridoma MR16-1として、独立行政法人産業技術総合研究所特許生物寄託センター(茨城県つくば市東1 丁目1 番地中央6 )に、平成9 年3 月13日に、FERM BP-5875としてブダペスト条約に基づき国際寄託されている。
【0032】
抗IL-6受容体モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、IL-6受容体を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナルな抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
【0033】
具体的には、抗IL-6受容体抗体を作製するには次のようにすればよい。例えば、抗体取得の感作抗原として使用されるヒトIL-6受容体は、欧州特許出願公開番号EP 325474 に、マウスIL-6受容体は日本特許出願公開番号特開平3-155795に開示されたIL-6受容体遺伝子/アミノ酸配列を用いることによって得られる。
【0034】
IL-6受容体蛋白質は、細胞膜上に発現しているものと細胞膜より離脱しているもの(可溶性IL-6受容体)(Yasukawa, K. et al., J. Biochem. (1990) 108, 673-676)との二種類がある。可溶性IL-6受容体抗体は細胞膜に結合しているIL-6受容体の実質的に細胞外領域から構成されており、細胞膜貫通領域あるいは細胞膜貫通領域と細胞内領域が欠損している点で膜結合型IL-6受容体と異なっている。IL-6受容体蛋白質は、本発明で用いられる抗IL-6受容体抗体の作製の感作抗原として使用されうる限り、いずれのIL-6受容体を使用してもよい。
【0035】
IL-6受容体の遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中又は、培養上清中から目的のIL-6受容体蛋白質を公知の方法で精製し、この精製IL-6受容体蛋白質を感作抗原として用いればよい。また、IL-6受容体を発現している細胞やIL-6受容体蛋白質と他の蛋白質との融合蛋白質を感作抗原として用いてもよい。
【0036】
ヒトIL-6受容体をコードするcDNAを含むプラスミドpIBIBSF2R を含有する大腸菌(E.coli)は、平成元年(1989年)1 月9 日付で工業技術院生命工学工業技術研究所に、HB101-pIBIBSF2R として、受託番号FERM BP-2232としてブダペスト条約に基づき国際寄託されている。
【0037】
本発明で使用される抗gp130 抗体は、公知の手段を用いてポリクローナル又はモノクローナル抗体として得ることができる。本発明で使用される抗gp130 抗体として、特に哺乳動物由来のモノクローナル抗体が好ましい。哺乳動物由来のモノクローナル抗体としては、ハイブリドーマに産生されるもの、および遺伝子工学的手法により抗体遺伝子を含む発現ベクターで形質転換した宿主に産生されるものがある。この抗体はgp130 と結合することにより、IL-6/IL-6受容体複合体のgp130 への結合を阻害してIL-6の生物学的活性の細胞内への伝達を遮断する。
【0038】
このような抗体としては、AM64抗体(特開平3-219894)、4B11抗体および2H4 抗体(US 5571513)B-S12 抗体およびB-P8抗体(特開平8-291199)などが挙げられる。
抗gp130 モノクローナル抗体産生ハイブリドーマは、基本的には公知技術を使用し、以下のようにして作製できる。すなわち、gp130 を感作抗原として使用して、これを通常の免疫方法にしたがって免疫し、得られる免疫細胞を通常の細胞融合法によって公知の親細胞と融合させ、通常のスクリーニング法により、モノクローナル抗体産生細胞をスクリーニングすることによって作製できる。
【0039】
具体的には、モノクローナル抗体を作製するには次のようにすればよい。例えば、抗体取得の感作抗原として使用されるgp130 は、欧州特許出願公開番号EP 411946 に開示されたgp130 遺伝子/アミノ酸配列を用いることによって得られる。
【0040】
gp130 の遺伝子配列を公知の発現ベクター系に挿入して適当な宿主細胞を形質転換させた後、その宿主細胞中又は、培養上清中から目的のgp130 蛋白質を公知の方法で精製し、この精製gp130 受容体蛋白質を感作抗原として用いればよい。また、gp130 を発現している細胞やgp130 蛋白質と他の蛋白質との融合蛋白質を感作抗原として用いてもよい。
【0041】
感作抗原で免疫される哺乳動物としては、特に限定されるものではないが、細胞融合に使用する親細胞との適合性を考慮して選択するのが好ましく、一般的にはげっ歯類の動物、例えば、マウス、ラット、ハムスター等が使用される。
感作抗原を動物に免疫するには、公知の方法にしたがって行われる。例えば、一般的方法として、感作抗原を哺乳動物の腹腔内又は、皮下に注射することにより行われる。具体的には、感作抗原をPBS (Phosphate-Buffered Saline )や生理食塩水等で適当量に希釈、懸濁したものを所望により通常のアジュバント、例えば、フロイント完全アジュバントを適量混合し、乳化後、哺乳動物に4-21日毎に数回投与するのが好ましい。また、感作抗原免疫時に適当な担体を使用することができる。
【0042】
このように免疫し、血清中に所望の抗体レベルが上昇するのを確認した後に、哺乳動物から免疫細胞が取り出され、細胞融合に付される。細胞融合に付される好ましい免疫細胞としては、特に脾細胞が挙げられる。
【0043】
前記免疫細胞と融合される他方の親細胞としての哺乳動物のミエローマ細胞は、すでに、公知の種々の細胞株、例えば、P3X63Ag8.653(Kearney, J. F. et al. J. Immnol. (1979) 123, 1548-1550)、P3X63Ag8U.1 (Current Topics in Microbiology and Immunology (1978) 81, 1-7) 、NS-1(Kohler. G. and Milstein, C. Eur. J. Immunol.(1976) 6, 511-519 )、MPC-11(Margulies. D. H. et al., Cell (1976) 8, 405-415 )、SP2/0 (Shulman, M. et al., Nature (1978) 276, 269-270 )、FO(de St. Groth, S. F. et al., J. Immunol. Methods (1980) 35, 1-21 )、S194(Trowbridge, I. S. J. Exp. Med. (1978) 148, 313-323)、R210(Galfre, G. et al., Nature (1979) 277, 131-133 )等が適宜使用される。
【0044】
前記免疫細胞とミエローマ細胞の細胞融合は基本的には公知の方法、たとえば、ミルステインらの方法(Kohler. G. and Milstein, C. 、Methods Enzymol. (1981) 73, 3-46)等に準じて行うことができる。
より具体的には、前記細胞融合は例えば、細胞融合促進剤の存在下に通常の栄養培養液中で実施される。融合促進剤としては例えば、ポリエチレングリコール(PEG )、センダイウィルス(HVJ )等が使用され、更に所望により融合効率を高めるためにジメチルスルホキシド等の補助剤を添加使用することもできる。
【0045】
免疫細胞とミエローマ細胞との使用割合は、例えば、ミエローマ細胞に対して免疫細胞を1〜10倍とするのが好ましい。前記細胞融合に用いる培養液としては、例えば、前記ミエローマ細胞株の増殖に好適なRPMI1640培養液、MEM 培養液、その他、この種の細胞培養に用いられる通常の培養液が使用可能であり、さらに、牛胎児血清(FCS )等の血清補液を併用することもできる。
【0046】
細胞融合は、前記免疫細胞とミエローマ細胞との所定量を前記培養液中でよく混合し、予め、37℃程度に加温したPEG 溶液、例えば、平均分子量1000〜6000 程度のPEG 溶液を通常、30〜60 %(w/v)の濃度で添加し、混合することによって目的とする融合細胞(ハイブリドーマ)が形成される。続いて、適当な培養液を逐次添加し、遠心して上清を除去する操作を繰り返すことによりハイブリドーマの生育に好ましくない細胞融合剤等を除去できる。
【0047】
当該ハイブリドーマは、通常の選択培養液、例えば、HAT 培養液(ヒポキサンチン、アミノプテリンおよびチミジンを含む培養液)で培養することにより選択される。当該HAT 培養液での培養は、目的とするハイブリドーマ以外の細胞(非融合細胞)が死滅するのに十分な時間、通常数日〜数週間継続する。ついで、通常の限界希釈法を実施し、目的とする抗体を産生するハイブリドーマのスクリーニングおよびクローニングが行われる。
【0048】
また、ヒト以外の動物に抗原を免疫して上記ハイブリドーマを得る他に、ヒトリンパ球をin vitroで所望の抗原蛋白質又は抗原発現細胞で感作し、感作B リンパ球をヒトミエローマ細胞、例えばU266と融合させ、所望の抗原又は抗原発現細胞への結合活性を有する所望のヒト抗体を得ることもできる(特公平1-59878 参照)。さらに、ヒト抗体遺伝子のレパートリーを有するトランスジェニック動物に抗原又は抗原発現細胞を投与し、前述の方法に従い所望のヒト抗体を取得してもよい(国際特許出願公開番号WO 93/12227 、WO 92/03918 、WO 94/02602 、WO 94/25585 、WO 96/34096 、WO 96/33735 参照)。
【0049】
このようにして作製されるモノクローナル抗体を産生するハイブリドーマは、通常の培養液中で継代培養することが可能であり、また、液体窒素中で長期保存することが可能である。
当該ハイブリドーマからモノクローナル抗体を取得するには、当該ハイブリドーマを通常の方法にしたがい培養し、その培養上清として得る方法、あるいはハイブリドーマをこれと適合性がある哺乳動物に投与して増殖させ、その腹水として得る方法などが採用される。前者の方法は、高純度の抗体を得るのに適しており、一方、後者の方法は、抗体の大量生産に適している。
【0050】
例えば、抗IL-6受容体抗体産生ハイブリドーマの作製は、特開平3-139293に開示された方法により行うことができる。工業技術院生命工学工業技術研究所(茨城県つくば市東1 丁目1 番3 号)に、平成2 年7 月10日に、FERM BP-2998としてブタペスト条約に基づき国際寄託されたPM-1抗体産生ハイブリドーマをBALB/cマウスの腹腔内に注入して腹水を得、この腹水からPM-1抗体を精製する方法や、本ハイブリドーマを適当な培地、例えば、10%ウシ胎児血清、5 %BM-Condimed H1(Boehringer Mannheim 製)含有RPMI1640培地、ハイブリドーマSFM 培地(GIBCO-BRL 製)、PFHM-II 培地(GIBCO-BRL 製)等で培養し、その培養上清からPM-1抗体を精製する方法で行うことができる。
【0051】
本発明には、モノクローナル抗体として、抗体遺伝子をハイブリドーマからクローニングし、適当なベクターに組み込んで、これを宿主に導入し、遺伝子組換え技術を用いて産生させた組換え型抗体を用いることができる(例えば、Borrebaeck C. A. K. and Larrick J. W. THERAPEUTIC MONOCLONAL ANTIBODIES, Published in the United Kingdom by MACMILLAN PUBLISHERS LTD, 1990参照)。
【0052】
具体的には、目的とする抗体を産生する細胞、例えばハイブリドーマから、抗体の可変(V )領域をコードするmRNAを単離する。mRNAの単離は、公知の方法、例えば、グアニジン超遠心法(Chirgwin, J. M. et al., Biochemistry (1979) 18, 5294-5299 )、AGPC法(Chomczynski, P. et al., Anal. Biochem. (1987)162, 156-159)等により全RNA を調製し、mRNA Purification Kit (Pharmacia製)等を使用してmRNAを調製する。また、QuickPrep mRNA Purification Kit(Pharmacia 製)を用いることによりmRNAを直接調製することができる。
【0053】
得られたmRNAから逆転写酵素を用いて抗体V 領域のcDNAを合成する。cDNAの合成は、AMV Reverse Transcriptase First-strand cDNA Synthesis Kit 等を用いて行うことができる。また、cDNAの合成および増幅を行うには5'-Ampli FINDER RACE Kit(Clontech製)およびPCR を用いた5'-RACE 法(Frohman, M. A. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1988) 85, 8998-9002;Belyavsky, A. et al., Nucleic Acids Res. (1989) 17, 2919-2932 )を使用することができる。得られたPCR 産物から目的とするDNA 断片を精製し、ベクターDNA と連結する。さらに、これより組換えベクターを作成し、大腸菌等に導入してコロニーを選択して所望の組換えベクターを調製する。目的とするDNA の塩基配列を公知の方法、例えば、デオキシ法により確認する。
【0054】
目的とする抗体のV 領域をコードするDNA が得られれば、これを所望の抗体定常領域(C 領域)をコードするDNA と連結し、これを発現ベクターへ組み込む。又は、抗体のV 領域をコードするDNA を、抗体C 領域のDNA を含む発現ベクターへ組み込んでもよい。
本発明で使用される抗体を製造するには、後述のように抗体遺伝子を発現制御領域、例えば、エンハンサー、プロモーターの制御のもとで発現するよう発現ベクターに組み込む。次に、この発現ベクターにより宿主細胞を形質転換し、抗体を発現させることができる。
【0055】
本発明では、ヒトに対する異種抗原性を低下させること等を目的として人為的に改変した遺伝子組換え型抗体、例えば、キメラ(Chimeric)抗体、ヒト型化(Humanized)抗体、ヒト(human)抗体を使用できる。これらの改変抗体は、既知の方法を用いて製造することができる。
【0056】
キメラ抗体は、前記のようにして得た抗体V 領域をコードするDNA をヒト抗体C 領域をコードするDNA と連結し、これを発現ベクターに組み込んで宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 125023 、国際特許出願公開番号WO 92-19759 参照)。この既知の方法を用いて、本発明に有用なキメラ抗体を得ることができる。
【0057】
例えば、キメラPM-1抗体のL 鎖およびH 鎖のV 領域をコードするDNA を含むプラスミドは、各々pPM-k3およびpPM-h1と命名され、このプラスミドを有する大腸菌は、National Collections of Industrial and Marine Bacteria Limitedに、1991年2 月11日に、各々NCIMB 40366 及びNCIMB40362としてブダペスト条約に基づき国際寄託されている。
【0058】
ヒト型化抗体は、再構成(reshaped)ヒト抗体とも称され、ヒト以外の哺乳動物、例えばマウス抗体の相補性決定領域(CDR)をヒト抗体の相補性決定領域へ移植したものであり、その一般的な遺伝子組換え手法も知られている(欧州特許出願公開番号EP 125023 、国際特許出願公開番号WO 92-19759 参照)。
【0059】
具体的には、マウス抗体のCDR とヒト抗体のフレームワーク領域(FR; framework region)を連結するように設計したDNA 配列を、末端部にオーバーラップする部分を有するように作製した数個のオリゴヌクレオチドからPCR 法により合成する。得られたDNA をヒト抗体C 領域をコードするDNA と連結し、次いで発現ベクターに組み込んで、これを宿主に導入し産生させることにより得られる(欧州特許出願公開番号EP 239400 、国際特許出願公開番号WO 92-19759 参照)。
【0060】
CDR を介して連結されるヒト抗体のFRは、相補性決定領域が良好な抗原結合部位を形成するものが選択される。必要に応じ、再構成ヒト抗体の相補性決定領域が適切な抗原結合部位を形成するように抗体の可変領域のフレームワーク領域のアミノ酸を置換してもよい(Sato, K.et al., Cancer Res. (1993) 53, 851-856)。
キメラ抗体、ヒト型化抗体には、ヒト抗体C 領域が使用される。ヒト抗体C 領域としては、 Cγが挙げられ、例えば、 Cγ1 、 Cγ2 、 Cγ3 又は Cγ4 を使用することができる。また、抗体又はその産生の安定性を改善するために、ヒト抗体C 領域を修飾してもよい。
【0061】
キメラ抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の可変領域とヒト抗体由来のC 領域からなり、ヒト型化抗体はヒト以外の哺乳動物由来抗体の相補性決定領域とヒト抗体由来のフレームワーク領域およびC 領域からなり、ヒト体内における抗原性が低下しているため、本発明に使用される抗体として有用である。
本発明に使用されるヒト型化抗体の好ましい具体例としては、ヒト型化PM-1抗体が挙げられる(国際特許出願公開番号WO 92-19759 参照)。
【0062】
また、ヒト抗体の取得方法としては先に述べた方法のほか、ヒト抗体ライブラリーを用いて、パンニングにによりヒト抗体を取得する技術も知られている。例えば、ヒト抗体の可変領域を一本鎖抗体(scFv)としてファージディスプレイ法によりファージの表面に発現させ、抗原に結合するファージを選択することもできる。選択されたファージの遺伝子を解析すれば、抗原に結合するヒト抗体の可変領域をコードするDNA配列を決定することができる。抗原に結合するscFvのDNA配列が明らかになれば、当該配列をを適当な発現ベクターを作製し、ヒト抗体を取得することができる。これらの方法は既に衆知であり、WO 92/01047, WO 92/20791, WO 93/06213, WO 93/11236, WO 93/19172, WO 95/01438, WO 95/15388を参考にすることができる。
【0063】
前記のように構築した抗体遺伝子は、公知の方法により発現させ、取得することができる。哺乳類細胞の場合、常用される有用なプロモーター、発現される抗体遺伝子、その3'側下流にポリA シグナルを機能的に結合させたDNA あるいはそれを含むベクターにより発現させることができる。例えばプロモーター/エンハンサーとしては、ヒトサイトメガロウィルス前期プロモーター/エンハンサー(human cytomegalovirus immediate early promoter/enhancer )を挙げることができる。
【0064】
また、その他に本発明で使用される抗体発現に使用できるプロモーター/エンハンサーとして、レトロウィルス、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、シミアンウィルス40(SV 40)等のウィルスプロモーター/エンハンサーやヒトエロンゲーションファクター1 α(HEF1α)などの哺乳類細胞由来のプロモーター/エンハンサーを用いればよい。
【0065】
例えば、SV 40 プロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mulliganらの方法(Mulligan, R. C. et al., Nature (1979) 277, 108-114) 、また、HEF1αロモーター/エンハンサーを使用する場合、Mizushima らの方法(Mizushima, S. and Nagata, S. Nucleic Acids Res. (1990) 18, 5322 )に従えば容易に実施することができる。
【0066】
大腸菌の場合、常用される有用なプロモーター、抗体分泌のためのシグナル配列、発現させる抗体遺伝子を機能的に結合させて発現させることができる。例えばプロモーターとしては、lacZプロモーター、araBプロモーターを挙げることができる。lacZプロモーターを使用する場合、Wardらの方法(Ward, E. S. et al., Nature (1989) 341, 544-546;Ward, E. S. et al. FASEB J. (1992) 6, 2422-2427 )、araBプロモーターを使用する場合、Betterらの方法(Better, M. et al. Science (1988) 240, 1041-1043 )に従えばよい。
【0067】
抗体分泌のためのシグナル配列としては、大腸菌のペリプラズムに産生させる場合、pelBシグナル配列(Lei, S. P. et al J. Bacteriol. (1987) 169, 4379-4383) を使用すればよい。ペリプラズムに産生された抗体を分離した後、抗体の構造を適切にリフォールド(refold)して使用する(例えば、WO96/30394を参照)。
【0068】
複製起源としては、SV 40 、ポリオーマウィルス、アデノウィルス、ウシパピローマウィルス(BPV)等の由来のものを用いることができ、さらに、宿主細胞系で遺伝子コピー数増幅のため、発現ベクターは選択マーカーとして、アミノグリコシドホスホトランスフェラーゼ(APH )遺伝子、チミジンキナーゼ(TK)遺伝子、大腸菌キサンチングアニンホスホリボシルトランスフェラーゼ(Ecogpt)遺伝子、ジヒドロ葉酸還元酵素(dhfr)遺伝子等を含むことができる。
【0069】
本発明で使用される抗体の製造のために、任意の産生系を使用することができる。抗体製造のための産生系は、in vitroおよびin vivo の産生系がある。in vitroの産生系としては、真核細胞を使用する産生系や原核細胞を使用する産生系が挙げられる。
【0070】
真核細胞を使用する場合、動物細胞、植物細胞、又は真菌細胞を用いる産生系がある。動物細胞としては、(1) 哺乳類細胞、例えば、CHO 、COS 、ミエローマ、BHK (baby hamster kidney) 、HeLa、Veroなど、(2) 両生類細胞、例えば、アフリカツメガエル卵母細胞、あるいは(3) 昆虫細胞、例えば、sf9 、sf21、Tn5 などが知られている。植物細胞としては、ニコチアナ・タバクム (Nicotiana tabacum)由来の細胞が知られており、これをカルス培養すればよい。真菌細胞としては、酵母、例えば、サッカロミセス(Saccharomyces)属、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、糸状菌、例えばアスペルギルス属(Aspergillus)属、例えばアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger )などが知られている。
【0071】
原核細胞を使用する場合、細菌細胞を用いる産生系がある。細菌細胞としては、大腸菌(E. coli)、枯草菌が知られている。
これらの細胞に、目的とする抗体遺伝子を形質転換により導入し、形質転換された細胞をin vitroで培養することにより抗体が得られる。培養は、公知の方法に従い行う。例えば、培養液として、DMEM、MEM 、RPMI1640、IMDMを使用することができ、牛胎児血清(FCS )等の血清補液を併用することもできる。また、抗体遺伝子を導入した細胞を動物の腹腔等へ移すことにより、in vivo にて抗体を産生してもよい。
【0072】
一方、in vivo の産生系としては、動物を使用する産生系や植物を使用する産生系が挙げられる。動物を使用する場合、哺乳類動物、昆虫を用いる産生系などがある。
哺乳類動物としては、ヤギ、ブタ、ヒツジ、マウス、ウシなどを用いることができる(Vicki Glaser, SPECTRUM Biotechnology Applications, 1993)。また、昆虫としては、カイコを用いることができる。植物を使用する場合、例えばタバコを用いることができる。
【0073】
これらの動物又は植物に抗体遺伝子を導入し、動物又は植物の体内で抗体を産生させ、回収する。例えば、抗体遺伝子をヤギβカゼインのような乳汁中に固有に産生される蛋白質をコードする遺伝子の途中に挿入して融合遺伝子として調製する。抗体遺伝子が挿入された融合遺伝子を含むDNA 断片をヤギの胚へ注入し、この胚を雌のヤギへ導入する。胚を受容したヤギから生まれるトランスジェニックヤギ又はその子孫が産生する乳汁から所望の抗体を得る。トランスジェニックヤギから産生される所望の抗体を含む乳汁量を増加させるために、適宜ホルモンをトランスジェニックヤギに使用してもよい。(Ebert, K.M. et al., Bio/Technology (1994) 12, 699-702 )。
【0074】
また、カイコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を挿入したバキュロウィルスをカイコに感染させ、このカイコの体液より所望の抗体を得る(Maeda, S. et al., Nature (1985) 315, 592-594)。さらに、タバコを用いる場合、目的の抗体遺伝子を植物発現用ベクター、例えばpMON 530に挿入し、このベクターをAgrobacterium tumefaciens のようなバクテリアに導入する。このバクテリアをタバコ、例えばNicotiana tabacum に感染させ、本タバコの葉より所望の抗体を得る(Julian, K.-C. Ma et al., Eur. J. Immunol. (1994) 24, 131-138)。
【0075】
上述のようにin vitro又はin vivo の産生系にて抗体を産生する場合、抗体重鎖(H 鎖)又は軽鎖(L 鎖)をコードするDNA を別々に発現ベクターに組み込んで宿主を同時形質転換させてもよいし、あるいはH 鎖およびL 鎖をコードするDNA を単一の発現ベクターに組み込んで、宿主を形質転換させてもよい(国際特許出願公開番号WO 94-11523 参照)。
本発明で使用される抗体は、本発明に好適に使用され得るかぎり、抗体の断片やその修飾物であってよい。例えば、抗体の断片としては、Fab 、F(ab')2 、Fv又はH 鎖とL 鎖のFvを適当なリンカーで連結させたシングルチェインFv(scFv)が挙げられる。
【0076】
具体的には、抗体を酵素、例えば、パパイン、ペプシンで処理し抗体断片を生成させるか、又は、これら抗体断片をコードする遺伝子を構築し、これを発現ベクターに導入した後、適当な宿主細胞で発現させる(例えば、Co, M.S. et al., J. Immunol. (1994) 152, 2968-2976、Better, M. & Horwitz, A. H. Methods in Enzymology (1989) 178, 476-496 、Plueckthun, A. & Skerra, A. Methods in Enzymology (1989) 178, 476-496 、Lamoyi, E., Methods in Enzymology (1989) 121, 652-663 、Rousseaux, J. et al., Methods in Enzymology (1989) 121, 663-66、Bird, R. E. et al., TIBTECH (1991) 9, 132-137 参照)。
【0077】
scFvは、抗体のH 鎖V 領域とL 鎖V 領域を連結することにより得られる。このscFvにおいて、H 鎖V 領域とL 鎖V 領域はリンカー、好ましくは、ペプチドリンカーを介して連結される(Huston, J. S. et al.、Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A. (1988) 85, 5879-5883)。scFvにおけるH 鎖V 領域およびL 鎖V 領域は、上記抗体として記載されたもののいずれの由来であってもよい。V 領域を連結するペプチドリンカーとしては、例えばアミノ酸12-19 残基からなる任意の一本鎖ペプチドが用いられる。
【0078】
scFvをコードするDNA は、前記抗体のH 鎖又は、H 鎖V 領域をコードするDNA 、およびL 鎖又は、L 鎖V 領域をコードするDNA を鋳型とし、それらの配列のうちの所望のアミノ酸配列をコードするDNA 部分を、その両端を規定するプライマー対を用いてPCR 法により増幅し、次いで、さらにペプチドリンカー部分をコードするDNA およびその両端を各々H 鎖、L 鎖と連結されるように規定するプライマー対を組み合せて増幅することにより得られる。
【0079】
また、一旦scFvをコードするDNA が作製されれば、それらを含有する発現ベクター、および該発現ベクターにより形質転換された宿主を常法に従って得ることができ、また、その宿主を用いて常法に従って、scFvを得ることができる。
これら抗体の断片は、前記と同様にしてその遺伝子を取得し発現させ、宿主により産生させることができる。本発明でいう「抗体」にはこれらの抗体の断片も包含される。
【0080】
抗体の修飾物として、ポリエチレングリコール(PEG)等の各種分子と結合した抗体を使用することもできる。本発明でいう「抗体」にはこれらの抗体修飾物も包含される。このような抗体修飾物を得るには、得られた抗体に化学的な修飾を施すことによって得ることができる。これらの方法はこの分野においてすでに確立されている。
【0081】
前記のように産生、発現された抗体は、細胞内外、宿主から分離し均一にまで精製することができる。本発明で使用される抗体の分離、精製はアフィニティークロマトグラフィーにより行うことができる。アフィニティークロマトグラフィーに用いるカラムとしては、例えば、プロテインA カラム、プロテインG カラムが挙げられる。プロテインA カラムに用いる担体として、例えば、Hyper D 、POROS 、Sepharose F.F.等が挙げられる。その他、通常のタンパク質で使用されている分離、精製方法を使用すればよく、何ら限定されるものではない。
【0082】
例えば、上記アフィニティークロマトグラフィー以外のクロマトグラフィー、フィルター、限外濾過、塩析、透析等を適宜選択、組み合わせれば、本発明で使用される抗体を分離、精製することができる。クロマトグラフィーとしては、例えば、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、ゲルろ過等が挙げられる。これらのクロマトグラフィーはHPLC(High performance liquid chromatography)に適用し得る。また、逆相HPLC(reverse phase HPLC)を用いてもよい。
【0083】
上記で得られた抗体の濃度測定は吸光度の測定又はELISA 等により行うことができる。すなわち、吸光度の測定による場合には、PBS(-)で適当に希釈した後、280 nmの吸光度を測定し、1 mg/ml を1.35 OD として算出する。また、ELISA による場合は以下のように測定することができる。すなわち、0.1M重炭酸緩衝液(pH9.6 )で 1μg/mlに希釈したヤギ抗ヒトIgG (TAG製) 100μlを96穴プレート(Nunc製)に加え、4℃で一晩インキュベーションし、抗体を固相化する。ブロッキングの後、適宜希釈した本発明で使用される抗体又は抗体を含むサンプル、あるいは標品としてヒトIgG (CAPPEL製)100μlを添加し、室温にて1時間インキュベーションする。
【0084】
洗浄後、5000倍希釈したアルカリフォスファターゼ標識抗ヒトIgG (BIO SOURCE製) 100μlを加え、室温にて1時間インキュベートする。洗浄後、基質溶液を加えインキュベーションの後、MICROPLATE READER Model 3550(Bio-Rad 製)を用いて405nm での吸光度を測定し、目的の抗体の濃度を算出する。
【0085】
本発明で使用されるIL-6改変体は、IL-6受容体との結合活性を有し、且つIL-6の生物学的活性を伝達しない物質である。即ち、IL-6改変体はIL-6受容体に対しIL-6と競合的に結合するが、IL-6の生物学的活性を伝達しないため、IL-6によるシグナル伝達を遮断する。
IL-6改変体は、IL-6のアミノ酸配列のアミノ酸残基を置換することにより変異を導入して作製される。IL-6改変体のもととなるIL-6はその由来を問わないが、抗原性等を考慮すれば、好ましくはヒトIL-6である。
【0086】
具体的には、IL-6のアミノ酸配列を公知の分子モデリングプログラム、たとえば、WHATIF(Vriend et al., J. Mol. Graphics (1990) 8, 52-56 )を用いてその二次構造を予測し、さらに置換されるアミノ酸残基の全体に及ぼす影響を評価することにより行われる。適切な置換アミノ酸残基を決定した後、ヒトIL-6遺伝子をコードする塩基配列を含むベクターを鋳型として、通常行われるPCR 法によりアミノ酸が置換されるように変異を導入することにより、IL-6改変体をコードする遺伝子が得られる。これを必要に応じて適当な発現ベクターに組み込み、前記組換え型抗体の発現、産生及び精製方法に準じてIL-6改変体を得ることができる。
【0087】
IL-6改変体の具体例としては、Brakenhoff et al., J. Biol. Chem. (1994) 269, 86-93 、及びSavino et al., EMBO J. (1994) 13, 1357-1367 、WO 96-18648 、WO96-17869に開示されている。
本発明で使用されるIL-6部分ペプチド又はIL-6受容体部分ペプチドは、各々IL-6受容体あるいはIL-6との結合活性を有し、且つIL-6の生物学的活性を伝達しない物質である。即ち、IL-6部分ペプチド又はIL-6受容体部分ペプチドはIL-6受容体又はIL-6に結合し、これらを捕捉することによりIL-6のIL-6受容体への結合を特異的に阻害する。その結果、IL-6の生物学的活性を伝達しないため、IL-6によるシグナル伝達を遮断する。
【0088】
IL-6部分ペプチド又はIL-6受容体部分ペプチドは、IL-6又はIL-6受容体のアミノ酸配列においてIL-6とIL-6受容体との結合に係わる領域の一部又は全部のアミノ酸配列からなるペプチドである。このようなペプチドは、通常10〜80、好ましくは20〜50、より好ましくは20〜40個のアミノ酸残基からなる。
IL-6部分ペプチド又はIL-6受容体部分ペプチドは、IL-6又はIL-6受容体のアミノ酸配列において、IL-6とIL-6受容体との結合に係わる領域を特定し、その一部又は全部のアミノ酸配列を通常知られる方法、例えば遺伝子工学的手法又はペプチド合成法により作製することができる。
【0089】
IL-6部分ペプチド又はIL-6受容体部分ペプチドを遺伝子工学的手法により作製するには、所望のペプチドをコードするDNA 配列を発現ベクターに組み込み、前記組換え型抗体の発現、産生及び精製方法に準じて得ることができる。
IL-6部分ペプチド又はIL-6受容体部分ペプチドをペプチド合成法により作製するには、ペプチド合成において通常用いられている方法、例えば固相合成法又は液相合成法を用いることができる。
【0090】
具体的には、続医薬品の開発第14巻ペプチド合成 監修矢島治明廣川書店1991年に記載の方法に準じて行えばよい。固相合成法としては、例えば有機溶媒に不溶性である支持体に合成しようとするペプチドのC 末端に対応するアミノ酸を結合させ、α- アミノ基及び側鎖官能基を適切な保護基で保護したアミノ酸をC 末端からN 末端方向の順番に1アミノ酸ずつ縮合させる反応と樹脂上に結合したアミノ酸又はペプチドのα- アミノ基の該保護基を脱離させる反応を交互に繰り返すことにより、ペプチド鎖を伸長させる方法が用いられる。固相ペプチド合成法は、用いられる保護基の種類によりBoc 法とFmoc法に大別される。
【0091】
このようにして目的とするペプチドを合成した後、脱保護反応及びペプチド鎖の支持体からの切断反応をする。ペプチド鎖との切断反応には、Boc 法ではフッ化水素又はトリフルオロメタンスルホン酸を、又Fmoc法ではTFA を通常用いることができる。Boc 法では、例えばフッ化水素中で上記保護ペプチド樹脂をアニソール存在下で処理する。次いで、保護基の脱離と支持体からの切断をしペプチドを回収する。これを凍結乾燥することにより、粗ペプチドが得られる。一方、Fmoc法では、例えばTFA 中で上記と同様の操作で脱保護反応及びペプチド鎖の支持体からの切断反応を行うことができる。
【0092】
得られた粗ペプチドは、HPLCに適用することにより分離、精製することができる。その溶出にあたり、蛋白質の精製に通常用いられる水- アセトニトリル系溶媒を使用して最適条件下で行えばよい。得られたクロマトグラフィーのプロファイルのピークに該当する画分を分取し、これを凍結乾燥する。このようにして精製したペプチド画分について、マススペクトル分析による分子量解析、アミノ酸組成分析、又はアミノ酸配列解析等により同定する。
IL-6部分ペプチド及びIL-6受容体部分ペプチドの具体例は、特開平2-188600、特開平7-324097、特開平8-311098及び米国特許公報US 5210075に開示されている。
【0093】
本発明で使用されるIL-6アンタゴニストのIL-6シグナル伝達阻害活性は、通常用いられる方法により評価することができる。具体的には、IL-6依存性ヒト骨髄腫株(S6B45, KPMM2)、ヒトレンネルトTリンパ腫細胞株KT3 、あるいはIL-6依存性細胞MH60.BSF2 を培養し、これにIL-6を添加し、同時にIL-6アンタゴニストを共存させることによりIL-6依存性細胞の 3H-チミジン取込みを測定すればよい。また、IL-6受容体発現細胞であるU266を培養し、 125I 標識IL-6を添加し、同時にIL-6アンタゴニストを加えることにより、IL-6受容体発現細胞に結合した 125I 標識IL-6を測定する。上記アッセイ系において、IL-6アンタゴニストを存在させる群に加えIL-6アンタゴニストを含まない陰性コントロール群をおき、両者で得られた結果を比較すればIL-6アンタゴニストのIL-6阻害活性を評価することができる。
【0094】
後述の実施例に示されるように、抗IL-6受容体抗体の投与により、 小児慢性関節炎患者において、治療効果が認められたことから、抗IL-6受容体抗体等のIL-6アンタゴニストは小児慢性関節炎関連疾患治療剤として有用であることが示唆された。
本発明における治療対象は哺乳動物である。治療対象の哺乳動物は、好ましくはヒトである。
【0095】
本発明の小児慢性関節炎関連疾患治療剤は、経口的にまたは非経口的に全身あるいは局所的に投与することができる。例えば、点滴などの静脈内注射、筋肉内注射、腹腔内注射、皮下注射、坐薬、注腸、経口性腸溶剤などを選択することができ、患者の年齢、症状により適宜投与方法を選択することができる。有効投与量は、一回につき体重1 kgあたり0.01 mg から100 mgの範囲で選ばれる。あるいは、患者あたり 1〜1000 mg 、好ましくは 5〜50 mg の投与量を選ぶことができる。
【0096】
好ましい投与量、投与方法は、たとえば抗IL-6レセプター抗体の場合には、血中にフリーの抗体が存在する程度の量が有効投与量であり、具体的な例としては、体重1 kgあたり1ヶ月(4週間)に0.5 mgから40mg、好ましくは1 mgから20mgを1回から数回に分けて、例えば2回/週、1回/週、1回/2週、1回/4週などの投与スケジュールで点滴などの静脈内注射、皮下注射などの方法で、投与する方法などである。投与スケジュールは、病状の観察および血液検査値の動向を観察しながら2回/週あるいは1回/週から1回/2週、1回/3週、1回/4週のように投与間隔を延ばしていくなど調整することも可能である。
【0097】
本発明の小児慢性関節炎関連疾患治療剤は、投与経路次第で医薬的に許容される担体や添加物を共に含むものであってもよい。このような担体および添加物の例として、水、医薬的に許容される有機溶媒、コラーゲン、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシビニルポリマー、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ポリアクリル酸ナトリウム、アルギン酸ナトリウム、水溶性デキストラン、カルボキシメチルスターチナトリウム、ペクチン、メチルセルロース、エチルセルロース、キサンタンガム、アラビアゴム、カゼイン、ゼラチン、寒天、ジグリセリン、プロピレングリコール、ポリエチレングリコール、ワセリン、パラフィン、ステアリルアルコール、ステアリン酸、ヒト血清アルブミン(HSA )、マンニトール、ソルビトール、ラクトース、医薬添加物として許容される界面活性剤などが挙げられる。使用される添加物は、剤型に応じて上記の中から適宜あるいは組合せて選択されるが、これらに限定されるものではない。
【実施例】
【0098】
以下、実施例および参考例により本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
実施例1.
以下の経過を有する全身型若年性関節リウマチ患者(5歳、男性)に対し、MRA 治療を行った。
【0099】
治療前の経過
弛張熱(連日〜40℃の一峰性発熱)、両膝関節痛、皮疹にて発症。白血球増多、抗核抗体陰性、リウマトイド因子陰性、赤沈値亢進、CRP 高値などから診断後、アスピリン投与が開始されたが弛張熱、関節炎の改善は認められず全身状態の悪化が進行した。そこで、大量ステロイド薬(プレドニゾロン30mg/日)の経口投与に切り替え諸症状の改善を見た。
【0100】
しかしプレドニゾロン漸減に伴い10mg/日量で再燃し、再入院し、メチルプレドニゾロン(mPSL)パルス療法および血漿交換療法、さらにシクロスポリンA(Cs A)の併用を行ったが改善を認めず、炎症症状が強く(白血球数 25400/μL、CRP 11.2mg/dL)、血漿交換療法+mPSLパルス療法+Cs Aにて見解に入った、後療法としてプレドニゾロン+フロベンにて弛張熱のコントロールを行い、臨床的には解熱をみたが、血液炎症所見は高値を維持したままで経過し(CRP>5mg/dL)、退院以後、周期的に弛張熱をみたが外来中心の治療観察を行っていた。
【0101】
しかし、発熱時に増強する背部痛を訴えるようになり、MBI などの精査の結果、第4〜5胸椎破壊傷が認められ、ステロイドによる圧迫骨折と考えられた。胸椎への免荷を必要とすることから、約1年間にわたりベット上安静状態が続き、下肢筋肉が著しく衰え歩行が全く不能の状態に至った。プレドニゾロン+フロベン+Cs Aの三者療法が継続されているが、CRP は5mg/dL以下に低下することなかった。
【0102】
治療の結果
2mg/kgから投与を開始したが特に副作用は見られなかったため、4mg/kgに増量し、週1回の投与を行った。それまで認められた発熱はすみやかに消失し、CRP は約2週間後に陰性化した。全身倦怠感もとれ、患者に活気が見られるようになった。プレドニゾロンも徐々に減量が可能となり、1mg/日まで減量している。
【0103】
以上の結果より、MRA はアスピリン、フロベンなどの非ステロイド性抗炎症薬、長期大量のステロイド薬(プレドニン、メドロールなど)、シクロスポリンA、メトトレキサートなどの免疫抑制薬でも病状を抑制できなかった小児慢性関節炎の治療に有用であることが明らかになった。したがって、IL-6アンタゴニスト、特に抗IL-6レセプター抗体は小児慢性関節炎、特にARA 分類の全身型、EULAR 分類の全身型、ILAR分類の全身型、発明者らの分類のSPRASH症候群の小児慢性関節炎の治療剤として有用であるということができる。
【0104】
実施例2
22歳女性。1998年4月、 大腿・前胸部・手指に点状紅斑出現、5月には肩・肘・膝関節痛、 38℃台の発熱が出現した。非ステロイド系抗炎症剤(NSAIDs)が開始されたが発熱は持続し、7月には白血球数18100/μl, CRP 18.3mg/dl,血清フェリチン 440ng/mlであり 、成人スティル病と診断された。2000年1月初めより39℃台の発熱及び関節痛出現し、成人スティル病の再燃(CRP15.8mg/dl、フェリチン205.8ng/ml)と考えられた。
【0105】
ステロイド減量困難なため、メソトレキセート(MTX)およびシクロスポリン(CsA)を併用したものの病勢は抑制できず。病勢の進行から呼吸状態が悪化し、人工呼吸管理となった。ステロイドパルス療法にて病勢は改善状態にあったが、重症骨粗鬆症を合併していることもあり、ヒト型化抗IL−6レセプター抗体(MRA)治療を開始した。MRA 200mgを2週間ごとに点滴にて静脈内注射した。炎症反応は投与6日後には陰性化し、副腎皮質ステロイド薬の減量も順調に進行し、重篤な副作用も認められなかった。
【0106】
以上の結果より、MRAはMTXとCsAの併用でも病状を抑制できなかった成人スティル病の治療に有用であることが明らかになった。したがって、IL−6アンタゴニスト、特に抗IL−6レセプター抗体はスティル病特に成人スティル病の治療剤として有用であるということができる。
【0107】
参考例1ヒト可溶性IL-6受容体の調製
Yamasakiらの方法(Yamasaki, K. et al., Science (1988) 241, 825-828)に従い得られたIL-6受容体をコードするcDNAを含むプラスミドpBSF2R.236を用いて、PCR 法により可溶性IL-6受容体を作成した。プラスミドpBSF2R.236を制限酵素Sph I で消化して、IL-6受容体cDNAを得、これをmp18(Amersham製)に挿入した。IL-6受容体cDNAにストップコドンを導入するようにデザインした合成オリゴプライマーを用いて、インビトロミュータジェネシスシステム(Amersham製)により、PCR 法でIL-6受容体cDNAに変異を導入した。この操作によりストップコドンがアミノ酸345 の位置に導入され、可溶性IL-6受容体をコードするcDNAが得られた。
【0108】
可溶性IL-6受容体cDNAをCHO 細胞で発現するために、プラスミドpSV (Pharmacia製)と連結させ、プラスミドpSVL344 を得た。dhfrのcDNAを含むプラスミドpECEdhfrにHind III-Sal Iで切断した可溶性IL-6受容体cDNAを挿入し、CHO 細胞発現プラスミドpECEdhfr344 を得た。
【0109】
10μgのプラスミドpECEdhfr344 をdhfr-CHO細胞株DXB-11(Urlaub, G. et al., Proc. Natl. Acad. Sci. USA (1980) 77, 4216-4220)へカルシウムフォスフェイト沈降法(Chen, C. et al., Mol. Cell. Biol. (1987) 7, 2745-2751 )により、トランスフェクトした。トランスフェクトしたCHO 細胞を1mM グルタミン、10% 透析FCS 、100U/ml のペニシリンおよび 100μg/ml のストレプトマイシンを含むヌクレオシド不含αMEM 選択培養液で3 週間培養した。
【0110】
選択されたCHO 細胞を限界希釈法でスクリーニングし、単一のCHO 細胞クローンを得た。このCHO 細胞クローンを20nM〜200nM の濃度のメトトレキセートで増幅し、ヒト可溶性IL-6受容体産生CHO 細胞株5E27を得た。CHO 細胞株5E27を5%FBS を含むイスコーブ改変ダルベコ培養液(IMDM、Gibco 製)で培養した。培養上清を回収し、培養上清中の可溶性IL-6受容体の濃度をELISA にて測定した。その結果、培養上清中には可溶性IL-6受容体が存在することが確認された。
【0111】
参考例2抗ヒトIL-6抗体の調製
10μgの組換型IL-6(Hirano, T. et al., Immunol. Lett. (1988) 17, 41 )をフロイント完全アジュバントとともにBALB/cマウスを免疫し、血清中に抗IL-6抗体が検出できるまで一週間毎にこれを続けた。局部のリンパ節から免疫細胞を摘出し、ポリエチレングリコール1500を用いてミエローマ細胞株P3U1と融合させた。ハイブリドーマをHAT 培養液を用いるOiらの方法(Selective Methods in Cellular Immunology, W.H.Freeman and Co., San Francisco, 351, 1980 )に従って選択し、抗ヒトIL-6抗体を産生するハイブリドーマを樹立した。
【0112】
抗ヒトIL-6抗体を産生するハイブリドーマは下記のようにしてIL-6結合アッセイをおこなった。すなわち、柔軟なポリビニル製の96穴マイクロプレート(Dynatech Laboratories, Inc. 製, Alexandria, VA)を0.1Mのcarbonate-hydrogen carbonate緩衝液(pH 9.6)中で 100μlのヤギ抗マウスIg(10μl/ml, Cooper Biomedical, Inc製 Malvern, PA)により4 ℃で一晩コートした。次いで、プレートを 100μlの1%ウシ血清アルブミン(BSA )を含むPBS により室温で2 時間処理した。
【0113】
これをPBS で洗浄した後、 100μlのハイブリドーマ培養上清を各穴へ加え、4 ℃にて一晩インキュベートした。プレートを洗浄して、2000cpm/0.5ng/wellとなるように 125I 標識組換型IL-6を各穴へ添加し、洗浄した後各穴の放射活性をガンマカウンター(Beckman Gamma 9000, Beckman Instruments, Fullerton, CA)で測定した。216 ハイブリドーマクローンのうち32のハイブリドーマクローンがIL-6結合アッセイにより陽性であった。これらのクローンのなかで最終的に安定なMH166.BSF2が得られた。該ハイブリドーマが産生する抗IL-6抗体MH166 はIgG1κのサブタイプを有する。
【0114】
ついで、IL-6依存性マウスハイブリドーマクローンMH60.BSF2 を用いてMH166 抗体によるハイブリドーマの増殖に関する中和活性を調べた。MH60.BSF2 細胞を1 ×104 /200μl/穴となるように分注し、これにMH166 抗体を含むサンプルを加え、48時間培養し、0.5 μCi/ 穴の 3H チミジン(New England Nuclear, Boston, MA )を加えた後、更に6 時間培養を続けた。細胞をグラスフィルターペーパー上におき、自動ハーベスター(Labo Mash Science Co., Tokyo, Japan )で処理した。コントロールとしてウサギ抗IL-6抗体を用いた。
【0115】
その結果、MH166 抗体はIL-6により誘導されるMH60.BSF2 細胞の 3H チミジンの取込みを容量依存的に阻害した。このことより、MH166 抗体はIL-6の活性を中和することが明らかとなった。
【0116】
参考例3抗ヒトIL-6受容体抗体の調製
Hirataらの方法(Hirata, Y. et al. J. Immunol. (1989) 143, 2900-2906 )により作成した抗IL-6受容体抗体MT18をCNBrにより活性化させたセファロース4B(Pharmacia Fine Chemicals製, Piscataway, NJ)と添付の処方にしたがって結合させ、IL-6受容体(Yamasaki, K. et al., Science (1988) 241, 825-828)を精製した。ヒトミエローマ細胞株U266を1%ジギトニン(Wako Chemicals製),10mMトリエタノールアミン(pH 7.8)および0.15M NaClを含む1mM p-パラアミノフェニルメタンスルフォニルフルオライドハイドロクロリド(Wako Chemicals製)(ジギトニン緩衝液)で可溶化し、セファロース4Bビーズと結合させたMT18抗体と混合した。その後、ビーズをジギトニン緩衝液で6 回洗浄し、免疫するための部分精製IL-6受容体とした。
【0117】
BALB/cマウスを3 ×109 個のU266細胞から得た上記部分精製IL-6受容体で10日おきに4 回免疫し、その後常法によりハイブリドーマを作成した。成長陽性穴からのハイブリドーマ培養上清を下記の方法にてIL-6受容体への結合活性を調べた。5 ラ107 個のU266細胞を35S −メチオニン(2.5mCi)で標識し、上記ジギトニン緩衝液で可溶化した。可溶化したU266細胞を0.04ml容量のセファロース4Bビーズと結合させたMT18抗体と混合し、その後、ジギトニン緩衝液で6 回洗浄し、0.25mlのジギトニン緩衝液(pH3.4 )により35S −メチオニン標識IL-6受容体を流出させ、0.025ml の1M Tris (pH 7.4)で中和した。
【0118】
0.05mlのハイブリドーマ培養上清を0.01mlのProtein G セファロース(Phramacia 製)と混合した。洗浄した後、セファロースを上記で調製した0.005ml の35S 標識IL-6受容体溶液とともにインキュベートした。免疫沈降物質をSDS-PAGEで分析し、IL-6受容体と反応するハイブリドーマ培養上清を調べた。その結果、反応陽性ハイブリドーマクローンPM-1(FERM BP-2998)を樹立した。ハイブリドーマPM-1から産生される抗体は、IgG1κのサブタイプを有する。
【0119】
ハイブリドーマPM-1が産生する抗体のヒトIL-6受容体に対するIL-6の結合阻害活性をヒトミエローマ細胞株U266を用いて調べた。ヒト組換型IL-6を大腸菌より調製し(Hirano, T. et al., Immunol. Lett. (1988) 17, 41-45)、ボルトン−ハンター試薬(New England Nuclear, Boston, MA )により 125I標識した(Taga, T. et al., J. Exp. Med. (1987) 166, 967-981 )。
【0120】
4 ×105 個のU266細胞を1 時間、70% (v/v )のハイブリドーマPM-1の培養上清および14000cpmの 125I標識IL-6とともに培養した。70μlのサンプルを 400μlのマイクロフュージポリエチレンチューブに 300μlのFCS 上に重層し、遠心の後、細胞上の放射活性を測定した。
その結果、ハイブリドーマPM-1が産生する抗体は、IL-6のIL-6受容体に対する結合を阻害することが明らかとなった。
【0121】
参考例4抗マウスIL-6受容体抗体の調製
Saito, T. et al., J. Immunol. (1991) 147, 168-173 に記載の方法により、マウスIL-6受容体に対するモノクローナル抗体を調製した。
マウス可溶性IL-6受容体を産生するCHO 細胞を10%FCSを含むIMDM培養液で培養し、その培養上清から抗マウスIL-6受容体抗体RS12(上記Saito, T. et al 参照)をAffigel 10ゲル(Biorad製)に固定したアフィニティーカラムを用いてマウス可溶性IL-6受容体を精製した。
【0122】
得られたマウス可溶性IL-6受容体50μgをフロイント完全アジュバンドと混合し、ウィスターラットの腹部に注射した。2 週間後からはフロイント不完全アジュバンドで追加免疫した。45日目にラット脾臓細胞を採取し、2 ×108 個を1 ×107 個のマウスミエローマ細胞P3U1と50% のPEG1500 (Boehringer Mannheim 製)をもちいて常法により細胞融合させた後、HAT 培地にてハイブリドーマをスクリーニングした。
【0123】
ウサギ抗ラットIgG 抗体(Cappel製)をコートしたプレートにハイブリドーマ培養上清を加えた後、マウス可溶性IL-6受容体を反応させた。次いで、ウサギ抗マウスIL-6受容体抗体およびアルカリフォスファターゼ標識ヒツジ抗ウサギIgG によるELISA 法によりマウス可溶性IL-6受容体に対する抗体を産生するハイブリドーマをスクリーニングした。抗体の産生が確認されたハイブリドーマクローンは2 回のサブスクリーニングを行い、単一のハイブリドーマクローンを得た。このクローンをMR16-1と名付けた。
【0124】
このハイブリドーマが産生する抗体のマウスIL-6の情報伝達における中和活性をMH60.BSF2 細胞(Matsuda, T. et al., J. Immunol. (1988) 18, 951-956) を用いた 3H チミジンの取込みで調べた。96ウェルプレートにMH60.BSF2 細胞を1 ラ104 個/200μl/ウェルとなるように調製した。このプレートに10pg/ml のマウスIL-6とMR16-1抗体又はRS12抗体を12.3〜1000ng/ml 加えて37℃、5%CO2 で44時間培養した後、 1μCi/ ウェルの 3H チミジンを加えた。4 時間後に 3H チミジンの取込みを測定した。その結果MR16-1抗体はMH60.BSF2 細胞の 3H チミジン取込みを抑制した。
したがって、ハイブリドーマMR16-1(FERM BP-5874)が産生する抗体は、IL-6のIL-6受容体に対する結合を阻害することが明らかとなった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
抗−インターロイキン−6(IL-6)抗体を有効成分として含んで成る小児慢性関節炎関連疾患治療剤において、前記小児慢性関節炎関連疾患が、ARA 分類では全身型、多関節型、少関節型、EULAR 分類では全身型、多関節型、少関節型、ILAR分類では、全身型、多関節型(RF陽性型)、多関節型(RF陰性型)、少関節型、進展型少関節型、本発明者らの分類では、小児一次性慢性関節炎(SPRASH症候群、小児特発性慢性関節炎(a.リウマトイド因子(RF)陽性型、b.抗核抗体(ANA)陽性型、c.RF/ANA陰性型))である、小児慢性関節炎関連疾患治療剤。
【請求項2】
抗−インターロイキン−6(IL-6)抗体を有効成分として含んで成る小児慢性関節炎関連疾患治療剤において、前記小児慢性関節炎関連疾患が、ARA 分類では全身型、多関節型、EULAR 分類では全身型、多関節型、ILAR分類では、全身型、多関節型(RF陽性型)、多関節型(RF陰性型)、進展型少関節型、本発明者らの分類では、小児一次性慢性関節炎(SPRASH症候群、小児特発性慢性関節炎(a.リウマトイド因子(RF)陽性型、b.抗核抗体(ANA)陽性型))である、小児慢性関節炎関連疾患治療剤。
【請求項3】
抗−インターロイキン−6(IL-6)抗体を有効成分として含んで成る小児慢性関節炎関連疾患治療剤において、前記小児慢性関節炎関連疾患が、ARA 分類では全身型、多関節型、EULAR 分類では全身型、多関節型、ILAR分類では、全身型、多関節型(RF陽性型)、進展型少関節型、本発明者らの分類では、小児一次性慢性関節炎(SPRASH症候群、小児特発性慢性関節炎(a.リウマトイド因子(RF)陽性型)である、小児慢性関節炎関連疾患治療剤。

【公開番号】特開2012−140464(P2012−140464A)
【公開日】平成24年7月26日(2012.7.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−91380(P2012−91380)
【出願日】平成24年4月12日(2012.4.12)
【分割の表示】特願2008−292518(P2008−292518)の分割
【原出願日】平成14年4月2日(2002.4.2)
【出願人】(000003311)中外製薬株式会社 (228)
【Fターム(参考)】