説明

小動物保定器

【課題】 安価であって、病原菌のクロスコンタミネーション等の問題が生じないよう使い捨てが可能であるとともに、検体となる小動物の適所に正確に注射することができる小動物保定器を提供する。
【解決手段】 本発明による小動物保定器1は、注射針B1が貫通可能な透明のフィルムまたはシートよりなる筒状本体2と、筒状本体の前端部21に取り付けられかつ先端に開口部31を有する先細状のキャップ3と、筒状本体の後端部22よりなりかつクリップ5によって開閉自在に閉鎖される小動物出入口4とを備えている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、医学、薬学、生理学等の分野において、検体となるマウス、ラット等の小動物を保定するのに用いられる小動物保定器に関し、特に、小動物に注射する際に好適に用いられる小動物保定器に関する。
【背景技術】
【0002】
この種の小動物保定器として、検体となる小動物を包み込んで保定する袋状のものや、小動物を基台上にバンドで縛り付けることによって保定するものが従来より知られている(下記特許文献1、2参照)。
しかしながら、上記の小動物保定器の場合、いずれも保定作業が繁雑であって、小動物が作業者に噛み付く危険性がある上、保定後も小動物が暴れることがあるため、小動物にストレスがかかって適正な検査ができないおそれがあった。
【0003】
また、従来のその他の小動物保定器として、周壁に複数の小孔があけられた硬質アクリル樹脂製の筒体と、筒体の前端部に取り付けられたテーパ筒状のキャップと、筒体の後端部を閉鎖する閉鎖部材とを備えたものも知られている(下記特許文献3参照)。
上記の小動物保定器によれば、筒体内への小動物の導入が比較的容易であって、作業者が小動物に噛み付かれるおそれが少なく、また、保定後も小動物が暴れにくいため、ストレスが掛かりにくく、より適正な検査が可能となる。
しかしながら、上記のような硬質筒型の小動物保定器は、高価であり、繰り返し使用されるため、病原菌のクロスコンタミネーションが生じるおそれがあった。さらに、この小動物保定器を用いて小動物の胴部に注射する場合には、筒体の小孔を通じて行う必要があるため、適所に注射するのがきわめて困難であった。
【特許文献1】実公昭51−17178号公報
【特許文献2】実開平1−117319号公報
【特許文献3】特開平8−131465号公報
【発明の開示】
【0004】
本発明の目的は、安価であって、病原菌のクロスコンタミネーション等の問題が生じないよう使い捨てが可能であるとともに、検体となる小動物の適所に注射することができる小動物保定器を提供することにある。
【0005】
本発明による小動物保定器は、注射針が貫通可能な透明のフィルムまたはシートよりなる筒状本体と、筒状本体の前端部に取り付けられかつ先端に開口部を有する先細状のキャップと、筒状本体の後端部よりなりかつ閉鎖手段によって開閉自在に閉鎖される小動物出入口とを備えていることを特徴とするものである。
【0006】
本発明の小動物保定器によれば、フィルムまたはシートよりなる筒状本体とキャップとで構成されているため、安価に提供することができ、したがって使い捨てが可能となるので、病原菌のクロスコンタミネーション等の問題が生じるのを確実に回避することができる。また、本発明の小動物保定器によれば、筒状本体を形成している透明のフィルムまたはシート越しに、小動物の適所に正確に注射することが可能となる。
【0007】
本発明による小動物保定器において、筒状本体が、少なくとも内面が熱可塑性樹脂よりなるフィルムまたはシートの内面の両縁部どうしを重ね合わせてヒートシールすることにより形成されたものであって、径方向外方に突出したシール部を有しているのが好ましい。
【0008】
上記のようにして筒状本体を形成すれば、製造が容易であって、その分だけコストを抑えることができる。また、筒状本体の径方向外方に突出したシール部の存在によって筒状本体の転がりが防止されるので、検査が行い易くなり、小動物に掛かるストレスをより低減することができる。また、シール部は、検査や注射等の際に保定器の把持部として使用することもできるので、それによって作業性が向上する。
【0009】
本発明による小動物保定器において、更に、小動物出入口の閉鎖手段として、筒状本体の後端部に挟み止められるクリップを備えている場合がある。
【0010】
上記の場合、クリップによって小動物出入口を閉鎖することにより、保定作業を簡単かつ迅速に行うことができる。なお、クリップは、筒状本体の後端部を挟んで小動物出入口を閉鎖し得るものであれば何でもよく、例えば、市販の事務用クリップをそのまま使用することが可能である。
【0011】
また、本発明による小動物保定器において、更に、小動物出入口の閉鎖手段として、筒状本体にその後端部から嵌め入れられかつ小動物の尾部を通すための切欠きまたは貫通孔を有する栓部と、栓部から後方に突出するように設けられた棒状の把持部とよりなるプランジャを備えている場合もある。
【0012】
上記の場合も、プランジャによって小動物出入口を閉鎖することにより、保定作業を簡単かつ迅速に行うことができる。また、プランジャは、小動物を筒状本体内に導入する際、後方から小動物を押して適所まで移動させるのに使用することも可能である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
次に、本発明の実施形態を図1〜図6を参照しながら説明する。
【0014】
(第1実施形態)
図1〜図4には、本発明の第1実施形態が示されている。図1は小動物保定器を示す斜視図であり、図2は小動物保定器の一部を示す縦断面図であり、図3は小動物保定器を用いて小動物を保定する工程を示す側面図であり、図4は小動物保定器の使用状態を示す側面図である。
【0015】
この実施形態において、本発明による小動物保定器(1)は、注射針(B1)が貫通可能な透明のフィルムまたはシートよりなる筒状本体(2)と、筒状本体(2)の前端部(21)に取り付けられかつ先端に開口部(31)を有する先細状のキャップ(3)と、筒状本体(2)の後端部(22)よりなりかつ閉鎖手段によって開閉自在に閉鎖される小動物出入口(4)とを備えている。
【0016】
筒状本体(2)は、少なくとも内面が熱可塑性樹脂よりなるフィルムまたはシートの内面の両縁部どうしを重ね合わせてヒートシールすることにより形成されたものであって、径方向外方に突出したシール部(23)を有している。
【0017】
筒状本体(2)を構成するフィルムまたはシートとしては、例えば、最内層がポリエチレン樹脂よりなり、その外側の1つまたは複数の層がポリエチレンテレフタレート樹脂および/またはポリプロピレン樹脂よりなる積層フィルムが用いられる。また、この積層フィルムによって筒状本体(2)を形成した場合、アルコール噴霧による消毒が可能となる。なお、フィルムまたはシートは、上記の樹脂材料よりなるものには限定されず、その他にも適宜のものが使用可能である。フィルムまたはシートの厚みは、注射針(B1)が貫通可能であってかつ所望の強度が得られるように、50〜500μm程度、好ましくは100〜250μm程度となされる。フィルムまたはシートには、通常、無色透明のものが用いられるが、検体となるマウス、ラット等の小動物(A)が筒状本体(2)に入り易くなるような色を付した有色透明のものを使用してもよい。
【0018】
シール部(23)は、筒状本体(2)の全長にわたって形成されている。このシール部(2)により、内部で小動物(A)が暴れた場合でも筒状本体(2)が転がり難くなっている。また、シール部(2)は、把持部として使用することもできる。
シール部(23)の幅は、好適には3mm以上となされる。シール部(23)の幅が3mm未満であると、シール部の強度が不十分となる。
なお、シール部(2)は、図1のように筒状本体(2)の全長にわたって形成する他、筒状本体(2)の後端部を除いた長さ部分に形成するようにしてもよい。後者の場合、筒状本体(2)の後端部に非シール部が生じる結果、小動物出入口(4)を大きく広げることができるので、小動物(A)が筒状本体(2)内に入りやすくなる。
【0019】
筒状本体(2)は、検体となる小動物(A)のサイズに応じた長さおよび内径を有する数種類のものを用意しておけばよい。もっとも、筒状本体(2)の長さについてはやや長めに設定しておき、実際に検体となる小動物(A)のサイズに合うように筒状本体(2)の後部をカットして使用することも可能である。
なお、筒状本体(2)は、通常、その全長にわたって同一の径を有する円筒状となされるが、後端の径が前端の径よりも若干大きくなるようなテーパ円筒状としてもよい。
また、この実施形態では、フィルムまたはシートを二つ折り状にしてその両縁部を合掌状に接合することにより筒状本体(2)を形成しているが、それ以外の方法によって筒状本体(2)を形成してもよい。例えば、帯状のフィルムまたはシートを螺旋状に巻きながら重合部を接着することによって筒状本体(2)を形成することも可能である。
【0020】
キャップ(3)は、筒状本体(2)の前端部を閉鎖する閉鎖体としての機能を持つとともに、小動物出入口(4)を通じて筒状本体(2)内に導入された小動物(A)の頭部(A1)を収容することによって、小動物(A)が筒状本体(2)を構成するフィルムまたはシートを噛み切るのを防止する機能と、小動物(A)が体を回転させるのを防止する機能とを持つものである。
キャップ(3)先端の開口部(31)は、通気孔として機能するとともに、小動物(A)が筒状本体(2)内に入り易くするためのものである。
上記のキャップ(3)は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂を射出成形することによって形成される。
キャップ(3)の形状は、通常、図1および図2に示すようなテーパ円筒状となされるが、それ以外の先細状のものであってもよい。
キャップ(3)のサイズは、前述した機能を発揮し得るように、筒状本体(2)や小動物(A)のサイズに応じて適宜に設定される。
この実施形態では、キャップ(3)は、その後端部が筒状本体(2)の前端部(21)に嵌め入れられて接着剤によって接合されるか或いはヒートシールされることにより、筒状本体(2)の前端部(21)に固定状に取り付けられている。但し、キャップ(3)の取付手段は、これに限定されるものではない。
【0021】
図4に示すように、この実施形態の小動物保定器(1)は、小動物出入口(4)の閉鎖手段として、筒状本体(2)の後端部(22)に挟み止められるクリップ(5)を備えている。クリップ(5)は、市販されている金属製の事務用クリップである。なお、クリップ(5)の形態は、筒状本体(2)の後端部(22)を挟んで小動物出入口(4)の閉鎖できるものであれば何でもよく、図示のものには限定されない。
【0022】
次に、上記の小動物保定器(1)を用いてマウス、ラット等の小動物(A)を保定する手順を説明する。まず、図3に示すように、筒状本体(2)の後端部(22)、即ち、小動物出入口(4)を開いておいて、ここから筒状本体(2)内に小動物(A)を前向きに導入し、小動物(A)をその頭部(A1)がキャップ(3)の内部に収まる位置まで移動させる。
【0023】
次に、図4に示すように、筒状本体(2)の後端部(22)にクリップ(5)を挟み止めて、小動物出入口(4)を閉鎖する。図4のクリップ(5)は、小動物(A)の尾部(A2)を挟まないように、斜めに挟み止められている。もっとも、比較的挟持力が小さいクリップ(5)を使用すれば、小動物(A)の尾部(A2)ごと挟み止めるようにすることも可能である。
【0024】
こうして小動物保定器(1)によって小動物(A)が保定され、この状態で所要の検査が行われる。この実施形態の小動物保定器(1)によれば、注射器(B)の注射針(B1)を、筒状本体(2)を構成する透明のフィルムまたはシート越しに小動物(A)の適所に正確に刺して、注射することが可能である。しかも、この際、筒状本体(2)のシール部(23)によって、小動物保定器(1)の回転が阻止されるため、安定して検査を行うことができる。また、小動物保定器(1)の向きを変えたい場合や動かないように押さえたい場合には、シール部(23)を手で持って行えばよいので、作業性に優れている。さらに、この小動物保定器(1)は、材料コストおよび製造コストが安く、安価に提供することが可能であるから、1回使用した後はそのまま廃棄すればよく、それによって病原菌のクロスコンタミネーション等の問題が生じるのを確実に回避することができる。また、使用済の小動物保定器(1)はそのまま焼却することができるので、廃棄処理が容易である。
【0025】
(第2実施形態)
図5〜図7には、本発明の第2実施形態が示されている。図5は小動物保定器に用いられるプランジャを示す斜視図であり、図6は小動物保定器の使用状態を示す側面図であり、図7は図6の小動物保定器の横断面図である。
【0026】
この実施形態は、小動物出入口(4)の閉鎖手段として図5〜図7に示すようなプランジャ(6)を備えている点を除いて、第1実施形態と同じである。
【0027】
プランジャ(6)は、筒状本体(2)にその後端部(22)から嵌め入れられかつ小動物(A)の尾部(A2)を通すための切欠き(611)有する栓部(61)と、栓部(61)から後方に突出するように設けられた棒状の把持部(62)とよりなる。
【0028】
栓部(61)は、円板状のものであって、その下部に、切欠き(611)が形成されている。なお、切欠き(611)に代えて、栓部(61)の下部に、小動物(A)の尾部(A2)を通すための貫通孔をあけるようにしてもよい。把持部(62)は、その前端が栓部(61)の後面中心部に固定状に取り付けられている。これらの栓部(61)および把持部(62)は、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン等の合成樹脂によって形成される。
【0029】
この実施形態の小動物保定器(1)によれば、プランジャ(6)の把持部(62)を持って、栓部(61)を筒状本体(2)内に後端部(22)から嵌め入れるだけで小動物出入口(4)を閉鎖することができるので、保定作業を簡単かつ迅速に行うことができる。また、この実施形態では、筒状本体(2)内に前向きに導入した小動物(A)をその頭部(A1)がキャップ(3)の内部に収まる位置まで移動させる際、プランジャ(6)によって小動物(A)を前方に押すことができ、しかも、プランジャ(6)によって小動物(A)の保定状態を維持し易いため、検査をより安定して行うことが可能である。
【0030】
なお、上記2つの実施形態では、小動物出入口(4)の閉鎖手段としてそれぞれクリップ(5)とプランジャ(6)が用いられているが、閉鎖手段はこれらに限定されるものではない。例えば、特別な道具を使用せずに、作業者が筒状本体(4)の後端部を1回または数回折り曲げて、該折曲部を手で持っておくことによっても、小動物出入口(4)を閉鎖することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明の第1実施形態を示すものであって、小動物保定器の斜視図である。
【図2】図1のII−II線に沿う小動物保定器の部分縦断面図である。
【図3】図1の小動物保定器を用いて小動物を保定する際の1工程を示す側面図である。
【図4】図1の小動物保定器の使用状態を示す側面図である。
【図5】本発明の第2実施形態を示すものであって、小動物保定器に用いられるプランジャの斜視図である。
【図6】第2実施形態の小動物保定器の使用状態を示す側面図である。
【図7】図6のVII−VII線に沿う小動物保定器の横断面図である。
【符号の説明】
【0032】
(1):小動物保定器
(2):筒状本体
(21):前端部
(22):後端部
(23):シール部
(3):キャップ
(31):開口部
(4):小動物出入口
(5):クリップ(閉鎖手段)
(6):プランジャ(閉鎖手段)
(61):栓部
(611):切欠き
(62):把持部
(A):小動物
(A1):頭部
(A2):尾部
(B):注射器
(B1):注射針

【特許請求の範囲】
【請求項1】
注射針が貫通可能な透明のフィルムまたはシートよりなる筒状本体と、筒状本体の前端部に取り付けられかつ先端に開口部を有する先細状のキャップと、筒状本体の後端部よりなりかつ閉鎖手段によって開閉自在に閉鎖される小動物出入口とを備えていることを特徴とする、小動物保定器。
【請求項2】
筒状本体が、少なくとも内面が熱可塑性樹脂よりなるフィルムまたはシートの内面の両縁部どうしを重ね合わせてヒートシールすることにより形成されたものであって、径方向外方に突出したシール部を有していることを特徴とする、請求項1記載の小動物保定器。
【請求項3】
更に、小動物出入口の閉鎖手段として、筒状本体の後端部に挟み止められるクリップを備えていることを特徴とする、請求項1または2記載の小動物保定器。
【請求項4】
更に、小動物出入口の閉鎖手段として、筒状本体にその後端部から嵌め入れられかつ小動物の尾部を通すための切欠きまたは貫通孔を有する栓部と、栓部から後方に突出するように設けられた棒状の把持部とよりなるプランジャを備えていることを特徴とする、請求項1または2記載の小動物保定器。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2007−236525(P2007−236525A)
【公開日】平成19年9月20日(2007.9.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−61126(P2006−61126)
【出願日】平成18年3月7日(2006.3.7)
【出願人】(000145987)株式会社昭和丸筒 (28)