説明

小動物用保定器

【課題】小動物を確実に保定すると共に、保定後に該小動物の向きを任意に変えることが可能な保定器を提供する。
【解決手段】長尾の小動物が挿入される筒体2と、該筒体の後端に設けられたバックプレート24と、該筒体内に筒体の軸線方向に移動自在に挿設されたヘッドホルダーと、筒体の軸方向とほぼ平行の平面を有する基台を有し、該ヘッドホルダーには、小動物の頭部が挿入されるバスケットと、該バスケットに螺合した固定ねじが設けられている小動物用保定器であって、基台に固定して設けられた1又は2以上のアーム5、6を有し、該アームが前記筒体の胴部外周を支持し、かつすべてのアームの先端に開放部を有し、該開放部の位置が、すべて筒体の軸心線から共通の方向に設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マウスやラットなどの小実験動物の尾の血管への麻酔や薬液投与、採血の際に使用する保定器に関する。
【背景技術】
【0002】
動物実験における実験動物としてマウスやラット等の長尾の小動物が良く用いられる。これらの小動物に麻酔をかけ、あるいは採血する際は尾の血管がよく用いられる。以下、本明細書では、特に断らない限り、マウスやラット等の長尾の小動物を単に「小動物」と記載する。小動物に麻酔をかける操作も、採血する操作も注射器のピストンを押すか引くかの違いはあるものの、注射針を尾の血管に刺して行う点で共通しており、いずれの場合も操作時に小動物が動くと操作が困難となる。
【0003】
このため、操作時に動かないよう、小動物を保定するための装置がいくつか提案されている。特許文献1には、大径部と小径部を有する柔軟性材料からできた筒状の小動物用保定具が開示されている。小動物を、頭から大径部側より筒体内に入れた後、大径部側を折りたたんで、柔軟性材料に設けた隙間から尾のみを筒体から飛び出ださせる保定具である。この保定具は尾のみを筒体から飛び出させ、尾静脈への投与等の操作を容易にすることを目的としたものであるが、保定具自体が固定されていないため、小動物が動くと安定に操作できない問題がある。
【0004】
一方で、小動物を挿入した筒体が動かないようにするため、筒体を硬質材料で形成し、これを基台に固定して動かないようにした装置も提案されている(特許文献2)。この装置は、側面にスリットを有する硬質プラスチック製の筒体を、スリット側を上にして基台の上に固定し、筒体の後端にV字型のテールスリットを有する板を設けたもので、筒体の側面に設けたスリットに尾を通して筒の後端側に引っ張りつつ、小動物を筒体に挿入し、小動物の尻が後端に達したところで尾をV字型のスリットに嵌め、小動物を尾と共に保定する装置である。この装置の筒体内の後方には傾斜面が設けられ、小動物の左右の後脚が当たるため、小動物が筒体内で回転しにくく、筒体内の前方はスライドホルダにより小動物の頭部が被せられるので、小動物の体全体の動きが抑制される。
【0005】
【特許文献1】特開2009-34039号公報
【特許文献2】特開平8−47502号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献2に示した装置の場合、筒体を基台に固定することにより、筒体を比較的安定に維持することができる。しかし、このように筒体が固定されると、筒体内に挿入された小動物の向きを操作の途中で変更することができないため、小動物の尾の操作位置を変えたい場合、操作者は尾をねじるようにしながら操作しなければならなかった。
【0007】
このため、小動物を確実に保定すると共に、保定後に該小動物の向きを任意に変えることが可能な保定器が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0008】
以上に鑑み、本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、小動物を挿入保定するための筒体を軸心線回りに回転可能に基台上に支持することにより、上記問題を解決できることを見出した。
【0009】
すなわち本発明は、長尾の小動物が挿入される筒体と、該筒体の後端に設けられたバックプレートと、該筒体内に筒体の軸線方向に移動自在に挿設されたヘッドホルダーと、筒体の軸方向とほぼ平行の平面を有する基台を有し、該筒体には先端から後端まで延設された1のスリットが設けられ、該バックプレートには、辺縁部で前記スリットと繋がり、中心方向に向かって設けられた前記小動物の尾を通すためのテールスリットが設けられ、該ヘッドホルダーには、小動物の頭部が挿入されるバスケットと、該バスケットに螺合した固定ねじが設けられている小動物用保定器であって、基台に固定して設けられた1又は2以上のアームを有し、該アームが前記筒体の胴部外周を支持し、かつすべてのアームの先端に開放部を有し、該開放部の位置が、すべて筒体の軸心線から共通の方向に設けられていることを特徴とする小動物用保定器である。
【0010】
本発明に係る小動物用保定器は、筒体の外周を押さえているアームが開放部を有しており、該開放部の位置が筒体の軸心からみて共通の方向にあるため、筒体のスリットを開放部の方向に合わせることによって、アームが邪魔にならずに、小動物の尻尾を筒体のスリットを通してバックプレートまで引っ張りながら筒体内に挿入することができる。同様に、小動物の頭部を保定するためヘッドホルダーを筒体内に挿入する場合も、固定ねじのねじ部をスリットに通すことによって、ヘッドカバーのバスケットを筒体内部に挿入することができる。また、筒体をアームで周囲から支えているだけなので、小動物を固定した後も、小動物を筒体ごと回転でき、小動物を操作しやすい角度にすることが容易となる。
【発明の効果】
【0011】
以上の通り、本発明の小動物用保定器は、小動物を容易に筒体内に挿入・保定することができ、任意の角度に調整した状態で安定に薬液投与や採血をすることができるので動物実験を効率よく進めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】本発明の小動物用保定器の斜視図である。
【図2】筒体の外側に向けて膨らんだバックプレートの図である。
【図3】ヘッドホルダーの図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しながら本発明を詳述するが、以下の例は好ましい態様の例示であって、本発明の技術的思想の範囲を限定するものではない。
【0014】
本発明の小動物用保定器の好ましい一態様を図1に示す。この例では筒体2が2組の弧状のアーム5、6により横向きに支持され、アーム5、6はそれぞれのアームの下部構造であるアームベース51、61を介して基台1に接着固定されている。筒体2は胴周りをアームで挟まれているだけなので、操作者は、筒体2を軸心回りに容易に回転させることができる。図3のヘッドホルダー3は筒体内に挿入した小動物の頭部を押さえるためのもので、小動物を尻から筒体に挿入した後、バスケット38を筒体内に入れ、固定ねじ37のつまみ33を筒の外に出した状態で筒体の先端側から、筒底方向に移動させ、小動物の頭部をバスケット38で押さえた後、固定ねじ37をしめることによって小動物を筒内に保定できる。
【0015】
以下、図1を参照しながら具体的に説明する。基台1は、保定器を実験台等の上に安定に設置するための台である。基台は加工のしやすさからアクリルやポリカーボネートなどのプラスチックが好ましい。基台1は大きく重ければ安定感が増すが、重すぎると扱いづらい。安定感と取り扱いやすさの観点から適当な大きさのものが選択できる。基台の大きさが筒体の断面の数倍程度の大きさであっても、小動物が激しく動くと、保定器全体も動いてしまうこともあるが、その場合には基台を実験台に固定するか、基台上の筒体やアームなどの無い位置に重量物を載せるなどの操作をすることによって安定度を増すことができる。また、基台に用いる材料の厚みや材質を工夫し、十分な安定感を持たせて操作しやすくするなどの工夫を行う事も、もちろん可能である。
基台1には、筒体2を支えるためのアーム5、6のベース部分が固定される。固定の方法は、接着剤等を用いて接着する方法や、ねじ止め等により固定する方法等、基台の材質等に応じ、公知の手段から、適宜選択する事ができる。要は、筒体2を固定するためのアームが、基台上に、しっかりと固定されていれば良い。また、図1の例では、筒体2が軸方向に移動するのを防ぐため筒体2の先端21と後端22の外側にあたる位置に突起11、12も設けられている。これは、後述するように、操作時において、筒体2が軸方向に動いてしまう事を防ぐためのものである。
【0016】
上述したように、図1の例において、筒体2は、基台1に接着固定された2本のアーム5、6により支持されている。アーム5、6には、それぞれ基台との接着用にアームベース51、61が設けられている。アーム5、6は一部に切れ込み(後述する開放部に相当)の入った円筒状の形状で、内径が、筒体2の外径に等しいかやや大きい程度の弧を有しており、筒体2の先端および後端付近において、筒体の胴回りを支えている。筒体2は該アーム5、6及び基台1には固定されていないため、操作者は軸を中心に筒体を容易に回転することができる。アームの幅は、ヘッドホルダー3を固定した状態で筒体2を回転する際邪魔にならないよう小さいほうが望ましいが、小動物が暴れても筒体2をしっかり固定できる強度が必要なので、使用材料によって適宜選択される。また、アーム5、6は、図1のように開放部52、62を有している。これらの開放部は、それぞれのアームにおいて、筒体2の軸心から同一方向に設けられている。通常の使用形態では、小動物を筒体内に挿入する際、後述するスリット23から尾を外に出して尾を引っ張りながら筒体2に小動物を挿入するが、アーム5、6がスリット23を塞ぐと尾のバックプレートまでの移動に対する障害となるからである。また、小動物の頭部を押さえるためにスリット23に沿ってヘッドホルダー3をスライドさせる操作を可能にするためにも開放部52、62の方向をそろえ、スリット23を塞がないようにする必要がある。アームの開放部の大きさは、筒体2を支持できる程度に小さく、ヘッドホルダー3のつまみ下部35の径よりやや大きめであればよい。小動物の尾を通すにはスリット23の幅以上の大きさがあればよいが、ヘッドホルダー3の移動を容易にする観点から、ヘッドホルダーのつまみ下部35の径よりも開放部を大きくすることが好ましい。
【0017】
図1の例では、2つのアーム5、6で筒体の胴部に沿って筒体2をはさみ、該筒体2を軸心線回りに回転可能に支持しているが、筒体2を筒体2の軸心線回りに回転可能に支持できるものであればアームの数や形状に制限はない。また、アームの構造は図1のように、2本のアーム5、6がそれぞれアームベース51、61と一体となっている構造のほか、筒体の軸方向と同程度の長さを有する共通した1のアームベースの両端付近に2本のアームを有する一体構造でも良い。筒体を安定に支持することができ、かつヘッドホルダーを固定した状態で筒体を回転する際邪魔にならない幅であれば、広めの幅を有する一つのアームで筒体を支持する態様も使用可能である。アームの材料は、筒体を支持できる程度の強度を有する材料であれは特に限定する必要はないが、筒体内部の視認性を確保するためには透明材料がより望ましい。好適には、アクリルやポリカーボネートなどの透明プラスチックが用いられる。鉄やステンレスなどの金属材料は視認性の点で透明プラスチックよりも劣るが、十分な強度を有することから、設計上アームの幅を細くすることができる。こうすれば、視認性の低下を少なくでき、金属も使用可能である。
【0018】
また、図1では、突起11、12が基台1から突出するように筒体2の軸方向外側に設けられている。突起11、12は筒体2に小動物を挿入する場合や小動物が暴れた場合にも筒体2が軸方向に動かないようにするためである。とくに、小動物挿入時及び該小動物の尾に処置を行う際には筒体の後端方向に移動する力が生じるので、突起12によって筒体2の移動を防止できる。
突起11、12を必要に応じて基台1から着脱可能な構成とすることももちろん可能である。これによって、必要に応じて筒体2をアーム5、6から取り外すことができ、清浄等に便利である。たとえば、基台1に凹部を設け、これに嵌合する凸部を突起11、12の下方に下向きに設けておけば、突起11、12を着脱自在に基台1に取り付けできる。
【0019】
小動物を入れる筒体2は、先端21および後端22を有する円筒体であり、筒体2の底に相当する後端22にはバックプレート24が設けられている。筒体2の側面(図1では上側)にはスリット23が設けられている。スリット23は筒体先端21から始まり、軸方向に後端22まで達している。スリット23はバックプレート24の辺縁部から筒体の中心方向に向かってを横断するように形成されたテールスリット25に繋がっている。筒体2の軸方向の長さは、小動物の全身を挿入でき、かつヘッドホルダー3を用いて当該小動物を筒体内に保定するために十分な長さであれば良い。また、筒体2の内径は小動物を挿入可能であって、かつ動きが抑制できる程度の内径を有していれば良い。筒体2の軸方向の長さ及び内径は、実験に用いる動物の種類や週齢等に応じて任意に設定される。例えば、6週齢の平均的な大きさのマウスを用いる場合であれば、内径35mm、長さ100mmとすればよい。筒体2の材料としては、小動物が暴れても壊れない強度と内部を視認できる程度の透明性を要するため、アクリル、ポリカーボネートなどの透明プラスチックが好適に用いられる。筒体側面のスリット23は、小動物を挿入するときに尾を円筒から出して後端22まで引っ張るための通路であり、ヘッドホルダー3のねじ部34をスライドさせる通路でもあるため、小動物の尾およびねじ部が移動可能な幅があればよい。テールスリット25の幅はスリット23と同程度であれば使用可能である。
【0020】
スリット23及びテールスリット25は筒体2の側面からバックプレート24の略中心まで連続して設けられていれば使用上差し支えないが、さらにバックプレート24の略中心を越えて横切り、反対側の側面に達するまで延びていても良い。保定器に閉じ込められた小動物は興奮やストレスなどのため、脱糞や排尿を起こすことがあるが、反対側の辺縁部近くまでテールスリット25が延びていると、糞や尿が筒体外部に出やすくなり、また洗浄もし易くなる。筒体2のバックプレート24は別体としても良いが、筒体2と一体に形成されたものを用いても良い。別体で用意した場合の筒体2へのバックプレートの取り付けは、筒体2への接着の他、例えば、筒体2の後端部側にねじ式で着脱可能とすることができる。またバックプレート24を、蝶番等を用いて筒体2に取り付け、開閉可能としたものでもよい。バックプレート24が着脱あるいは開閉可能であれば、脱糞、排尿による汚れを掃除するのに有利なだけでなく、実験等の終了後、直ちに小動物を筒体の後端から取り出すことができる点でも有利である。
また、バックプレートの形状は平面に限らず、図2に示すように筒体の外側に膨らませた形状とすることもできる。これによって小動物の臀部が収まりやすくなり、小動物が筒体内で動くのをより確実に抑えることができる。
【0021】
本発明に係る保定器を用いて小動物を保定するには、小動物が操作中に筒体2から飛び出さないようにする必要がある。通常の使用態様では小動物は尾を引っ張られながら筒体2のバックプレート側に尻を向けた状態で挿入されるので、小動物を固定するには、筒体2の先端21側に向いている小動物の頭を押さえることが必要となる。頭を押さえるには図3に例示したようなヘッドホルダー3を用いる。図3のヘッドホルダー3は、小動物の頭に被せる網部32、網部32を固定し、固定ねじ37とねじ止めするための雌ねじ部(図示せず)を設けたリング31からなるバスケット38と、リング31に設けられた雌ねじ部と螺合する雄ねじ34、雄ねじを回すために設けたつまみ33及びつまみ下部35を有する固定ねじ37からなる。バスケット38のリング31の外径は、筒体2に挿入できるよう筒体2の内径よりやや小さく、リングの厚み(筒体に挿入した場合の筒体の軸方向)は、バスケット38を筒体2に挿入したときに筒体内で回転しないよう一定以上の厚みであることが望ましい。網部32は小動物の鼻先から頭部を小動物の頭部に沿って覆うことができる形状、大きさに設計される。使用に際しては、小動物を筒体2に挿入した後、筒体2の先端側からヘッドホルダー3を挿入する。バスケット32とリング31は筒体に挿入されるが、つまみ33はスリット23の外側に出しておき、雄ねじ34はスリット23内をスライドさせる。そしてバスケット38が小動物の頭をしっかり覆ったところで、つまみ33を用いて雄ねじ34を締めることによってつまみ下部35とリング31を近づけて筒体側面を締め付け、ヘッドホルダー3を筒体2に固定する。網部32は小動物の頭を入れて押さえるので、小動物が呼吸できる状態を維持したまま押さえることが求められる。好ましい態様においては、網部には金属ネットが使用されるが、複数のスリットや通気孔を有していて頭に被せても小動物を窒息させないものであれば、他の構造・材質であっても使用可能である。

【符号の説明】
【0022】
1・・・・・・基台
2・・・・・・筒体
3・・・・・・ヘッドホルダー
5、6・・・・アーム
11、12・・突起
21・・・・・先端
22・・・・・後端
23・・・・・スリット
24・・・・・バックプレート
25・・・・・テールスリット
31・・・リング
32・・・・・網部
33・・・・・つまみ
34・・・・・雄ねじ部
35・・・・つまみ下部
37・・・・固定ねじ
38・・・・バスケット
51、61・・アームベース
52、62・・開放部





【特許請求の範囲】
【請求項1】
長尾の小動物が挿入される筒体と、
該筒体の後端に設けられたバックプレートと、
該筒体内に筒体の軸線方向に移動自在に挿設されたヘッドホルダーと、
筒体の軸方向とほぼ平行の平面を有する基台を有し、
該筒体には先端から後端まで延設された1のスリットが設けられ、
該バックプレートには、辺縁部で前記スリットと繋がり、中心方向に向かって設けられた前記小動物の尾を通すためのテールスリットが設けられ
該ヘッドホルダーには、小動物の頭部が挿入されるバスケットと、該バスケットに螺合した固定ねじが設けられている小動物用保定器であって、
基台に固定して設けられた1又は2以上のアームを有し、該アームが前記筒体の胴部外周を支持し、かつすべてのアームの先端に開放部を有し、該開放部の位置が、すべて筒体の軸心線から共通の方向に設けられていることを特徴とする小動物用保定器


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2013−94629(P2013−94629A)
【公開日】平成25年5月20日(2013.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−243375(P2011−243375)
【出願日】平成23年11月7日(2011.11.7)
【出願人】(000230250)日本メジフィジックス株式会社 (75)