説明

小型冷凍機

【発明の詳細な説明】
[産業上の利用分野]
本発明は、スターリングサイクルやギフォードマクマホンサイクル、ソルベーサイクル、ヴェルミェールサイクルなど、クライオポンプ等に用いられる蓄冷材を利用した小型冷凍機に関するものである。
[従来の技術]
第5図に示されるものは、小型冷凍機を代表するスプリット形スターリング冷凍機である。このものは、膨脹シリンダ101と圧縮シリンダ102が連結チューブ103によって接続されており、膨脹シリンダ101には膨脹室104を拡縮させるディスプレーサ105が摺動可能に嵌装され、圧縮シリンダ102には圧縮室106を拡縮させるピストン107が摺動可能に嵌装されている。前記ディスプレーサ105内には蓄冷器(リジェネレータ)108が収容されており、膨脹室104から送り出される作動ガス(He等)により寒冷を得て、次のサイクルで新たに膨脹室104に送り込まれる作動ガスを予冷する。この蓄冷器108は、通常、蓄冷材エレメント(円形に打ち抜いた銅製メッシュ等)をプリプレグと呼ばれる容器内に積層した構造をなしている。
一方、ディスプレーサ105の下端はガススプリング室109に臨ませてあり、このガススプリング室109に、前記膨脹室104の高圧時と低圧時とに該膨脹室104に現れる圧力の略中間圧に相当する付勢用ガスを封入している。これにより、ディスプレーサ105は封入ガスと作動ガスに差圧駆動されて上下動し、その結果、第6図に示す冷凍サイクルを営む。同図は膨脹室104内のガス圧(同図a)とディスプレーサ変位(同図b)との関係を表しており、ディスプレーサ105が上死点近傍に達した時点で膨脹室104内のガスが徐々に圧縮され、ディスプレーサ105が下死点近傍に達した時点で膨脹室104内のガスが断熱膨脹するため、コールドヘッド110は断続的に寒冷を得て極低温に至ることができる。
そして、叙述の如くディスプレーサを蓄冷器内蔵タイプとしていることの意義は、蓄冷器を膨脹シリンダ外に配置していた従前の冷凍機構造においては達成し得なかった冷凍機全体の小型軽量化と高効率化が促進される点にあり、これがためこの構造は近時における他の小型冷凍機にも多く見られるようになっているものである。
[発明が解決しようとする課題]
ところが、膨脹シリンダ101がかかる構造である場合、必然的に次に挙げる3つの不具合が避け難いものとなる。■ディスプレーサ105の外周摺動面105aが摩耗するため、数千時間ごとにメンテナンスが必要になる。■ディスプレーサ105及び膨脹シリンダ101には温度勾配が生じており、膨脹シリンダ101に対して相対的にディスプレーサ105の位置が変わる度に熱浸入を生じる(シャトルロスと呼ばれ、冷凍能力の十数%〜数十%を占める)。■ディスプレーサ105の慣性質量が大きく、したがって冷凍機の振動が大きくなる。
本発明は、このような問題点に着目してなされたものであって、膨脹シリンダ内の構造を工夫することにより、これらを有効に解決することを目的としている。
[課題を解決するための手段]
本発明は、かかる目的を達成するために、次のような構造を採用したものである。
すなわち、本発明の小型冷凍機は、膨脹シリンダ内に複数の蓄冷材エレメントが外周を固定しかつ内側部に厚み方向の可撓性を与えた状態で積層し、各エレメント内側部に積層方向に対する共通の変位を与えることで積層端とシリンダの間に形成される膨脹室を拡縮させるように構成したことを特徴としている。
[作用]
蓄冷材エレメントをロッド等を通じて駆動すると、各エレメントの外周はシリンダに固定されていて不動であるが、内側部は撓み変形することでシリンダに対して相対変位を許容されるため、ディスプレーサを廃しても膨脹シリンダ自体は従来と同等の原理に従って本来的機能を有効に発揮し得る。
そして、膨脹シリンダ内をこのような構造にしておけば、従来の不具合が次のように解消される。
■シリンダ内に機械的な摺動部分がなくなるため、耐久性が向上する。■蓄冷材エレメントの外周がシリンダに対して摺動しないので、シャトルロスを生じることがなく、冷凍能力が向上する。■可動部の質量が小さくなるため、冷凍機振動が低減される。
[実施例]
以下、本発明の一実施例を第1図および第2図を参照して説明する。
第1図は、本実施例に係るスターリング冷凍機の膨脹シリンダ1内を示している。この実施例の蓄冷材エレメント2には、例えば銅又はリン青銅、黄銅その他の銅合金等であって蓄冷効果を有した材料を選択し、これを細線状にして螺旋方向の目地と半径方向の目地とからなる円形メッシュに編み込んだものを用いている。この際、エレメント形状が第2図に示すように中央に開口部を有した椀状をなすように形成する。また、外周2a及び内周2bを固定のために補強し、さらに外周2aと内周2bによって囲繞される内側部2cは撓み変形可能な程度の柔軟性を持たせておく。そして、これら各エレメント2にロッド3を挿通して該ロッド3の各積層位置に固着し、このようにしてつくったものをロッド本体3aを中間圧室4aに挿入した状態でステンレス製のベース4に載置する。そして、上方からステンレス製の膨脹シリンダ1を外嵌し、シリンダ開口端1aを前記ベース4のフランジ部4bに螺着する。この螺着位置では、膨脹シリンダ1に蓋着されている銅製コールドヘッド1bの内壁が積層端エレメント2の外周2aに当接して各エレメント2の外周を前記ベース4との間で適度に緊締し、これにより各エレメント2がシリンダ1内に固定された状態となるように設定しておく。外周2aを固定された各エレメント2の内側部2cは、ロッド3が下死点に達した時点で第1図中実線及び第2図R>図(a)のように上方に向かって拡開した状態に変形し、該ロッド3が上死点に達した時点で第1図中想像線及び第2図(b)のように下方に向かって拡開した反転状態に変形する。そして、このような作動を通じて、積層端エレメント2とシリンダ1との間に閉成される膨脹室5が拡縮されることになる。なお、ロッド3は従来と同様に差圧駆動されるものであり、図示膨脹部のガスポート6を第5図に示した既存のスターリング冷凍機の連結チューブに接続すれば本実施例の冷凍機が構成される。
しかして、蓄冷材エレメント2が上述したようにロッド3を通じて軸心方向に共通の変位を与えられると、各エレメント2の外周2aはシリンダ1側に固定されていて不動であるが、内側部2cは撓み変形することでシリンダ1に対して相対変位を許容されるため、ディスプレーサを廃しても膨脹シリンダ1自体は従来と同等の原理で膨脹室5に断続的に寒冷を発生することができ、本来的機能を有効に発揮し得るものとなる。
そして、膨脹シリンダ1がこのような構造であると、シリンダ1内には図に明らかなように機械的な摺動部分がなくなり、その結果耐久性が向上して長期に亘るメンテナンスフリーが実現可能となる。しかも、蓄冷材エレメント2は内側部2cがシリンダ1に対して相対変位するものの、外周2aはシリンダ1に固定されていて不動であるため、原理的にシャトルロスを0にすることができ、従来に比して冷凍能力が格段に改善されたものとすることができる。さらに、可動部の質量は第5図図示のディスプレーサに比べて大巾に小さくなっており、低振動、低騒音化の効果が同時に達成されたものとなっている。
以上、本発明の一実施例について説明したが、本発明が膨脹シリンダを有した他の冷凍サイクルにも同様に適用できるものであることは勿論である。例えば、第4図はGM(ギフォードマクマホン)サイクルの場合を示しており、シリンダ11内に配設したロッド12には図示のように変形させた蓄冷材エレメント13が積層状態で取着してある。そして、該ロッド12を偏心カム14を介して上下駆動することで、各エレメント13は外周13aを定位置に保持しつつ内側部13bを積層方向に撓み変形させることでディスプレーサ収容形蓄冷器と同等の効果を奏する。一方、この冷凍機の作動としては、前記ロッド12の上下動に同期して高圧バルブ15、低圧バルブ16がそれぞれ開閉し、コンプレッサ17で昇圧されたHeガス(作動ガス)が導入される。すなわち、図外においてエレメント13の積層端とシリンダ11との間に形成される膨脹室の容積が最少のところで低圧バルブ16が閉、高圧バルブ15が開となり、該膨脹室の容積増加に合わせ高圧ガスが導入される。さらに、膨脹室の容積が最大のところで高圧バルブ15が閉、低圧バルブ16が開となり、このときガスがサイモン膨脹して低温を発生する。このように、全体的構成は前述したスターリング冷凍機と若干異なるものの、膨脹シリンダ内の機能に変わるところはなく、このためディスプレーサを廃したことによって得られる効果は前記実施例と全く同様である。
また、メッシュの編み方は必ずしも図示に習って螺旋状の細線と半径方向の細線との組合せでなければならない蓋然性は全くなく、例えば第3図18に示すように編み込んだものを始め、他に種々のものが考えられる。さらに、前記実施例の場合にも、半径方向と周方向の太さを変えることで撓みの度合や熱交換面積を適宜に設定することができるのは言うまでもない。
[発明の効果]
本発明の小型冷凍機においては、冷凍サイクルがディスプレーサを利用せずに蓄冷材エレメント自体の撓み変形を利用して実現されているため、シリンダ内から機械的な摺動部が除去され、この部分の耐久性、寿命が向上するとともに、シャトルロスが0になって高効率化が達成される。しかも、これによって可動部の質量が軽減されるため、低振動、低騒音化の効果も随伴するものとなる。
【図面の簡単な説明】
第1図及び第2図は本発明の一実施例を示し、第1図は膨脹シリンダ内を示す要部断面図、第2図は作用説明図である。第3図は他の実施例の蓄冷材エレメントを示す図、第4図は更に他の実施例の膨脹シリンダ内を示す断面図である。第5図および第6図は一従来例を示し、第5図5図はスターリング冷凍機の全体断面図、第6図は作用説明図である。
1、11……膨脹シリンダ
2、13……蓄冷材エレメント
2a、13a……外周
2c、13b……内側部
5……膨脹室

【特許請求の範囲】
【請求項1】膨脹シリンダを有した小型冷凍機であって、前記膨脹シリンダ内に複数の蓄冷材エレメントを外周を固定しかつ内側部に厚み方向の可撓性を与えた状態で積層し、各エレメント内側部に積層方向に対する共通の変位を与えることで積層端とシリンダの間に形成される膨脹室を拡縮させるように構成したことを特徴とする小型冷凍機。

【第2図】
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【第3図】
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【第4図】
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【第1図】
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【第5図】
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【第6図】
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【特許番号】第2689611号
【登録日】平成9年(1997)8月29日
【発行日】平成9年(1997)12月10日
【国際特許分類】
【出願番号】特願平1−139827
【出願日】平成1年(1989)5月31日
【公開番号】特開平3−5675
【公開日】平成3年(1991)1月11日
【出願人】(999999999)株式会社島津製作所