説明

少なくとも二価性の結合による基体の収着剤への選択的結合方法

基体の選択的結合のための結合能を有する少なくとも2つの異なる基を有する少なくとも1種類の収着剤を製造する方法であって、工程(i)ないし(ii)を含むことを特徴とする方法:
(i)合成または天然の第1基体から、収着剤との結合能を有する少なくとも2つの基を決定し、
(ii)合成または天然の第2基体との結合能を有する少なくとも2つの異なる基を、それぞれ1つのキャリヤーに付与して少なくとも1種類の収着剤を形成し、その際、これらの基は工程(i)のものと同一の基またはそれに相補的な基であり、工程(ii)の第2基体は工程(i)による第1基体と同一であるか、または異なり;
その際、第2基体との非共有結合に対する各基のギブスエネルギーの寄与により結合強化が起きるほどの負のギブスエネルギー△G値が得られ、その結果、分離除去すべき少なくとも1種類の物質に対する分離選択性が改善されるように、これらの基を決定する。

【発明の詳細な説明】
【発明の開示】
【0001】
本発明は、結合能を有する少なくとも2種の異なる基を有する基体の選択的結合のための少なくとも1種の収着剤の製造方法、ならびに前記収着剤による前記基体の選択的結合方法に関する。前記収着剤は、表面上にそれぞれ結合能を有する少なくとも2種の異なる基がある収着剤のコレクションから決定され、前記基は、合成または天然の基体から前記基を含有する成分への分割により得られる。とりわけ、選択的結合方法は、合成または同様に天然の有効物質の単離、ならびに前記有効物質の機能および性質の特性決定および同定に適している。本発明の他の主題はまた、前記基体の選択的結合で得られる収着剤/基体複合体である。さらに、本発明はまた、結合能を有する基として好ましくはそれぞれ少なくとも2種の異なるアミノ酸残基、糖残基、ヌクレオチド残基、ヌクレオシド残基、ピリミジン残基および/またはプリン塩基残基を有する収着剤および基体を含むコンビナトリアルライブラリーに関する。選択的結合方法およびコンビナトリアルライブラリーは、基体/受容体相互作用の検出、有効物質のスクリーニング、異性体化合物の選択的分離、ならびに基体の選択的分離および精製に用いることができる。
【0002】
高分子量の不溶性キャリヤーの表面に、特定の生体分子に対しとりわけ高い親和性を有する物質が化学的に固定化されることは、生体親和性クロマトグラフィーから既に公知である。その後、それらは前記生体分子を結合または保持できる。
【0003】
キャリヤー上に固定化される物質はおもに生体高分子である。他方、生体高分子の結合または保持が可能な低分子量物質を表面に付着させることも可能である。
これに関し、一般に、収着剤と物質が、互いに相補的であり一緒に結合を形成することができる基を有する場合にのみ、十分に高い親和性が存在する。例えば、相補性基は、水素結合または双極子もしくは多極子により互いに相互作用することができ、それにより結合が生じる親水性基である。
【0004】
生物学的系がいくつかの分子接触部位により互いに同時に相互作用することができることは既に公知である(M.Whithesides et al.,Angew.Chem.1998,110,2908−2953)。
【0005】
さらに、国際特許出願公開WO00/32649パンフレットから、基体の分離用の収着剤としてのポリマー、および前記収着剤による基体の分離方法が公知である。ここで、分離は少なくとも2種の異なるタイプの相互作用を介して可能になる。受容体として働く収着剤の結合能を有する基は単一タイプの基であってもよいが、2種以上の異なるタイプの基であってもよい。
【0006】
さらに、国際特許出願公開WO00/32648パンフレット、国際特許出願公開WO01/38009パンフレットおよび国際特許出願公開WO00/78825パンフレットには、少なくとも二価結合用の良好な条件を提供する収着剤/基体相互作用が開示されている。
【0007】
これらの方法において、標的に合わせた基体の結合のためには、それに適した生体高分子も、収着剤の一部として用いられるべき場合、公知かつ生産可能でなければならない。反対に、生体高分子が収着剤上に低分子物質により結合される場合、後者も同様に公知で、結合特性を変化させることなくキャリヤー上に固定化することができなければならない。
【0008】
生物学的または薬理学的に活性な物質の結合のためにポリマー化合物上に合成基を提供する方法も公知である。これに関し、生物学的または薬理学的に活性な物質である鋳型分子を、ポリマー化合物に固定する。基体の結合のための反応性官能基をポリマー化合物に付着させた後、鋳型分子を再び取り外す(国際特許出願公開WO00/13016パンフレット)。
【0009】
さらに、選択された有機化合物の選択的分離方法も公知である。これに関し、分離して取り出されるべき化合物の基に相補的である基をキャリヤー表面上に施用する。好ましくは、分離して取り出されるべき化合物は、イオン化しうる基を有する巨大分子である。キャリヤー表面上の結合基は、巨大分子の基に逆転して入る。しかしながら、収着剤上に、結合を生じさせる基は1タイプしかない(国際特許出願公開WO93/19844パンフレット)。
【0010】
さらに、米国特許出願公開公報US2002/0155509 A1にはまた、基体混合物から1種の基体を選択的に分離するために最終的に用いることができる方法が開示されている。これに関し、基体混合物を異なる収着剤および溶離剤に接触させる。脱着分光測定により、選択された収着剤/溶離剤の組合わせで基体が収着剤に結合するか否か、およびその結合強度を決定することができる。収着剤および溶離剤は、基体の選択的分離を可能にする適切な収着剤/溶離剤の組合わせが見いだされる限り変動させることができる(本明細書において、「収着剤」および「基体」という用語は、米国特許出願公開公報US2002/0155509 A1で用いられている定義とは異なり、本特許出願が準拠し、以下に説明する定義で用いる)。
【0011】
極性基をキャリヤー表面上の長鎖アルキルラジカルと一緒に固定化し、それにより結合能を有する少なくとも2種の異なる基を有する収着剤を生産することも既に公知である。ここで、第1の反応工程において、中鎖または長鎖アルキルラジカル、例えばC乃至C18ラジカルで好ましくは置換されているクロロシランを、キャリヤー表面のOH基、例えばシリカゲルのシラノール基と反応させ、それにより前記アルキルラジカルをキャリヤー表面上に固定化する。次に、第2工程においてキャリヤー表面をトリメトキシシランまたはトリエトキシシランと反応させ、アルコールからの分離下およびシラノール基の形成下での加水分解工程がこれに続く。さらに、オクタデシルトリメトキシシランなどのアルキルトリアルコキシシランのようなケイ素化合物をキャリヤー表面のOH基と反応させて、これにより最初にアルキルラジカルを固定化することも可能である。その後、未反応アルコキシ残基をシラノール基の形成下で加水分解して、これにより第2の結合能を有する基を生じさせることもできる。とりわけ、前記収着剤は水溶液からの基体の結合に使用可能であると考えられる(Column Watch,LCGC Europe,2002年12月,780〜786頁)。
【0012】
今のところ未知の構造および/または結合特性を有する基体を収着剤により分離して取り出すべき場合、従来技術に記載している方法では一般に、特定の収着剤が基体を選択的に結合できるか否かおよびその結合の程度を標的に合わせて予測することができない。ここで、おもに高価な実験で、公知の収着剤が前記基体の選択的結合に適しているか否か分析しなければならない。その後、適切な基体を見いだすことはむしろ偶然である。
【0013】
したがって、本発明の目的は、収着剤であって、これを用いると基体、好ましくは生理学的活性を有する基体を基体混合物から標的に合わせて分離することが可能である収着剤の製造方法を提供することである。さらに、本発明の目的は、前記収着剤により基体混合物から前記基体を標的に合わせて分離することを可能にする方法を提供することである。
【0014】
これらの目的は、基体における少なくとも2種の基と相補的に二価性で相互作用することができる結合能を有する少なくとも2種の異なる基を含有する、少なくとも1種の収着剤により解決することができた。これにより、選択性が非常に低い乃至非選択性である一価の相互作用と比較して強化が起こる。その結果、標的化合物は、一価性でのみ結合している競合物に比べ収着剤によって何倍も強く保持され、これにより前記競合物に比べ選択的な結合が達成される。他の多価の競合基体と比較して、選択的結合は最適化された収着剤により達成され、それに必要な収着剤の性質は収着剤のコレクションにより決定することができる。
【0015】
したがって、本発明の目的は、基体の選択的結合用の結合能を有する少なくとも2種の異なる基を有する少なくとも1種の収着剤の製造方法であって、下記工程(i)〜(ii)を含むことを特徴とする方法を提供することである:
(i)合成または天然の第1基体から、収着剤を結合できる少なくとも2種の基を決定し、
(ii)第2の合成または天然基体を結合できる少なくとも2種の異なる基を1種の各キャリヤーにそれぞれ施用し、これにより少なくとも1種の収着剤を形成する(ここにおいて、基は工程(i)と同じ基であるかまたはそれに相補的もしくは非相補的な基であり、工程(ii)の第2基体は工程(i)に従った第1基体と同一または異なる)。
【0016】
本発明の他の目的はまた、結合能を有する少なくとも2種の異なる基を有する基体を少なくとも1種の収着剤に選択的に結合するための方法であって、下記工程(i)〜(iv)を含むことを特徴とする方法を提供することである:
(i)合成または天然の第1基体から収着剤を結合できる少なくとも2種の基を決定し、
(ii)第2の合成または天然基体を結合できる少なくとも2種の異なる基を1種の各キャリヤーにそれぞれ施用し、これにより少なくとも1種の収着剤を形成し(ここにおいて、基は工程(i)と同じ基であるかまたはそれに相補的もしくは非相補的な基であり、工程(ii)の第2基体は工程(i)に従った第1基体と同一または異なる)、
(iii)工程(i)に従った第1基体と同一または異なっていてもよい少なくとも1種の第2基体を工程(ii)の少なくとも1種の収着剤と接触させ、
(iv)少なくとも1種の第2基体の工程(iii)の少なくとも1種の収着剤に対する結合強度を試験する。
【0017】
したがって、本発明は、収着剤と基体の間の結合を標的に合わせて強化すること、または同様に標的に合わせて弱めることを可能にし、これにより、基体混合物から分離して取り出されるべき基体に対する収着剤の結合の選択性も、標的に合わせて改善することができる。
【0018】
よって、本発明は、基体混合物からの基体に関する新規な分離原理に基づく。該原理は、分離されるべき任意の基体の対について有望な分離選択性を設計し実現するので、従来技術の方法の分離原理とは根本的に異なる。
【0019】
本発明の分離原理は、予測、定量化しうる推定、または収着剤および基体からの結合能を有する少なくとも2種の異なる基それぞれの間の相互作用により形成される非共有結合の強度測定に基づく。従来技術の方法の分離原理は、分離が、極性/非極性または親水性/疎水性というカテゴリーに大ざっぱに分類される実験的方法により実行されるという事実に基づいており、したがって無作為の方法である。これは、分離の成功によっても確認されるが、成功の頻度は今のところ不十分である。
【0020】
好ましくは、工程(ii)の基は、工程(i)の基と同じ基であるか、前記基に相補的である。
本発明の意味において、「基体」という用語は、選択的に結合され得る天然または合成発生源のすべての物質を包含する。好ましくは、これらの物質は有効物質であり、植物性または動物性生物体中の生理学的および/または生物学的活性を有する化合物でもある。原理上、これらの物質はすべて、2種以上の結合能を有する基を有する天然および合成の化学的および/または生物学的化合物である。好ましくは、これらは、アミノ酸;オリゴペプチド;ヌクレオチド;ヌクレオシド;タンパク質;糖タンパク質;抗原;抗原決定基;抗体;炭水化物;エンザイム;コエンザイム;酵素;ホルモン;アルカロイド;配糖体;ステロイド;ビタミン;代謝産物;ウイルス;微生物;植物性および動物性の組織、細胞、細胞断片、細胞区画、細胞破砕物の内容物質;レクチン;フラビリウム化合物;フラボンおよびイソフラボン;ならびに、医薬および植物保護薬のような合成有効物質である。
【0021】
結合されるべき有効物質が低分子の場合、文献において、前記有効物質はしばしば「配位子」ともよばれる。高分子量を有するタンパク質様結合物質はしばしば「受容体」とよばれる。
【0022】
基体という用語はまた、場合によってはさらに修飾した後に有効物質として適合することができる前段階を包含する。そのような潜在的有効物質はしばしば、それらの決定に用いられるスクリーニング方法に由来する場合ヒット(hit)またはリード(lead)とよばれ、あるいは、それらが構造特性に由来する場合スキャフォールド、ニードル(needle)またはファーマコフォア(pharmacophore)とよばれる。
【0023】
さらに、前記「基体」という用語はまた「資源(resource)」を包含し、混合物からのその単離、除去または獲得は経済的に有利であり得る。前記資源には、例えばプロセスの流れまたは廃棄物の流れからの低濃度資源および副産物も含まれる。資源は、ペプチドまたは体液からの代謝産物のような有機物か、あるいは放射性金属イオンまたは貴金属の金属イオンのような無機物であってもよい。
【0024】
「キャリヤー」という用語は、結合されるべき基のための支持体または足場として働く材料を包含する。前記基をキャリヤーに施用すると収着剤が形成する。クロマトグラフィーでの用途の場合、収着剤は固定相ともよばれる。
【0025】
「収着剤」という用語は、キャリヤーと、基体を結合できる少なくとも2種の異なる基とのあらゆる組合わせを包含する。
「成分」という用語は、基体、好ましくは有効物質の部分または断片であって、それぞれ少なくとも1種の結合能を有する基を有するものを意味する。そのような成分の例は「エピトープ」である。成分という用語は、「結合能を有する基」という用語と同一でもあり得る。以下において、基体中の成分の空間的配置は、しばしば「結合部位」と命名される。例えば、ヒスチジンは、結合能を有する基としてイミダゾール残基を持つ成分であり、イミダゾール残基も同様に、結合能を有する基としてアミジンまたはイミン基を含有する。
【0026】
「エピトープ」という用語は基体の分子領域をさす。例えば、エピトープという用語は、抗原の分子領域であって、抗体を結合できる領域をさす。抗原上での抗体のそのような結合部位はまた、抗原決定基と命名される。
【0027】
(異なる)「結合能を有する基」という用語は、共有結合的または非共有結合的相互作用により収着剤および/または基体を結合することができるすべての基を包含する。英語の文献において、前記用語は「結合部位残基:binding site residue」ともよばれる。その他の点では、これらの基は、「非共有結合」を形成できるものとして文献に記載されているすべての化合物または化合物の残基である。「非共有結合」という用語については以下で説明する。
【0028】
「結合能を有する基」は、好ましくはヒドロキシル、カルボキシル、アミド、アミノ、i−ブチル、フェニル、ニトロフェニル、ナフチルであるが、ジオール、ヒドロキシフェニル、カルボニル、イミン、アルキレン、アルキニル、インドリルおよびイミダゾリル残基でもある。したがって、「結合能を有する基」は、少なくとも1種の官能基を含有することができる。しかしながら、「結合能を有する基」は「官能基」に限定されない。
【0029】
「結合能を有する基」はまた、1種より多くの形のエネルギー的相互作用を実行できる、すなわち1種より多くのタイプの非共有結合を受けることができる。例えば、基本的にインドール残基は、結合されるべき適切な物質と同時にイオン性、ファンデルワールス、π−πおよび分散的相互作用を実行できる。しかしながら、インデン残基はイオン性相互作用能力に欠け、分散的相互作用の発現はより弱い。
【0030】
その上、結合に対する個々の寄与は溶媒にも依存する。それらは、溶媒成分、pHおよび温度の選択により標的に合わせて影響され得る。一般に、ファンデルワールス相互作用は、有機溶媒中では水性溶媒混合物中ほど強く発現しない。これと比較して、概して、非プロトン性溶媒中で支配的な水素結合相互作用は、水分の増加に伴い大きく弱まる。
【0031】
「異なる」という用語は、基が異なる元素成分を有するか、または、同じ元素成分について基中の元素が異なるように連結しているか、基が異なるように化学的に結合していることを意味する。少なくとも2種の結合能を有する基に関する差異はまた、結合されるべき物質と比較して立体的な配置を包含する。これに関する配置は、例えば、立体異性体、とりわけジアステレオマーおよびエナンチオマーの区別に関係する。例えば、cis配置にあるヒドロキシル基はtrans配置にあるヒドロキシル基とは異なり、または、R形のヒドロキシル基はS形のものとは異なる。そのような差異は、物理的方法、例えばNMR分光法により検出することができる。これは、そのような基は磁気的に同等でなく、NMRスペクトルに異なる共鳴信号を与えるためである。検出は、X線構造解析により実行することもできる。また、そのような基は、攻撃試薬に対し異なる反応性を有することができる点において特徴付けられる。
【0032】
したがって、とりわけ「結合能を有する異なる基」は、結合されるべき物質(第2基体)に対しそれぞれ相互作用エネルギーへの異なる寄与の一因となるような基である。前記相互作用エネルギーは、相互作用ギブスエネルギーΔGとも命名される。そのような基は、それらの構成、立体配置および立体配座において常に同一であってもよいが、それらの相互作用に対する寄与の点で異なっていてもよい。例えば、グルタミン酸誘導体においてカルボキシル基は相互作用に対し異なる寄与を有することができる。また、異なるように結合しているラムノース残基は相互作用に対し異なる寄与を有していてもよく、この寄与を、例えばナリンジンとルチンの分離に用いてもよい。
【0033】
同様に、相互作用ギブスエネルギーΔGに対する異なる寄与は、それぞれ異なるように高いエンタルピーおよびエントロピー成分を有することができる。したがって、結合されるべき物質に含有されるカルボキシル基の2種のイオン性相互作用は実際にエンタルピーΔHの相互作用に関しほぼ同じ寄与の一因となるが、第2の結合部位は比較的より高い負のエントロピー寄与ΔSを有すると考えられる。
【0034】
反対に、第1および/または第2の基体において、化学的に同一または同等である少なくとも2種の結合能を有する基が、直接的に相接しているということも起こる。相互作用に対するそれらの寄与は、場合によっては互いに徐々にしか異なっておらず、測定の正確度の範囲内でもはや識別しうるものではない。そのような基の互いの化学量論比または結合能を有する他の基に関しての化学量論比は、収着剤の製造時に誘導体化の程度により考慮に入れられる。収着剤の溶液または懸濁液の場合、前記誘導体化の程度は、濃度指定の尺度でもある。
【0035】
同一またはエネルギー的にほぼ同等の結合能を有する基の蓄積の例は、ステロイド受容体である。エストラジオールまたはプロゲステロンと接触して結合する場合、ステロイド受容体は最高7個のロイシン残基を含有し、このロイシン残基はそれらのアルキル基を介して配位子を非極性的に結合する。これに加えて、アルギニン、グルタミン(グルタミン酸)およびヒスチジンからなる最高3個の極性結合部位が存在する。本発明に従って、前記天然受容体は、メチル吉草酸からのi−ペンチルラジカル、およびコハク酸アミドのような極性基、ならびにアミンまたはイミダゾールのような塩基性基を適切な濃度比で挿入することにより、簡単にシミュレートすることができる。
【0036】
そのような収着剤は、標的分子エストラジオールだけでなく、生理学的試験およびin vivoにおいてエストロゲン様活性を示す一連の合成および天然物質を、適切な様式で強く結合することができる。これらの物質には、例えばジエチルスチルベストロールおよびゲニステインがある。
【0037】
したがって、収着剤は、合成的ポリマーである受容体として、そのような有効物質だけでなく、それに構造的に関連するが不活性な有効物質、例えばタモキシフェン、テストステロンまたはカテキンで校正することが好ましい。実際的な利点は、天然受容体に良好に結合している物質が収着剤にも強い結合を示す場合、これに反して既にモデルに弱くまたは非特異的に結合している物質に与えられる。構造の最適化では、結合能を有する基の比率のほか、結合部位の範囲および空間的状態を調節する架橋の程度も調整する。
【0038】
そのような収着剤は、溶解している物質の混合物のうち、生物学的タンパク質モデルでも強く結合されるような物質を主として、または全くそのような物質のみを結合する。したがって、天然または合成発生源の物質の混合物から、潜在的有効物質を迅速かつ簡単に純粋な形で単離することができる。
【0039】
本発明の重要な観点は、本発明に従った方法または使用における溶媒選択の自由度が高いことである。強く結合している物質と弱く結合している物質との間の結合エネルギーにおける差異の序列および規模は、水性溶離剤に大量のアルコールおよび追加的な酸または緩衝液が加えられる場合、意外にもほとんど変化しないままである。好ましくは、メタノールの添加は、強く結合している物質および弱く結合している物質の基中への分配に悪影響を及ぼすことなく、校正に用いられるすべての物質について結合をかなり弱くする。その結果、クロマトグラフィー条件下での溶離がかなり早くなる。したがって、有機溶媒の添加により結合定数は純水または生理学的緩衝液に比べ10の累乗で小さくなるので、重要な物質を無難な時間で試験し単離することができる。
【0040】
「非共有結合」という用語は、結合能を有する基が、好ましくはイオン対、水素結合、双極子−双極子相互作用、電荷移動相互作用、π−π相互作用、カチオン−π−電子相互作用、ファンデルワールス相互作用および分散的相互作用、疎水性(親油性)相互作用、錯体形成、好ましくは遷移金属カチオンの錯体形成により、そして前記相互作用の組合わせにより、互いに結合できることを意味する。
【0041】
「相補的」という用語は、互いに適合する基のみが結合を形成することができるという意味を有する。それに関し、結合をもたらす相互作用はエネルギー的に好都合でなければならない。前記基の非共有結合が互いにより顕著であるほど、基体はより強く少なくとも1種の収着剤に結合する。それに関し、いくつかの基が1つの基に対して相補的であってもよいことも可能である。例えば、カルボキシル基、アミン基およびアミド基が、ヒドロキシル基に相補的であり得る。
【0042】
相補性基」という用語はまた、そのような基が、相補性基と構造的に同様であるか前記基に構造的に関連する基により置き換えられてもよいということを包含する。例えば、π−π相互作用に基づく非共有結合において、ナフチル残基をアントラセン残基で置き換えることが可能であり、これにより、非共有結合の結合強度に対する芳香族炭化水素の寄与は、さらに修飾または増大され得る。同様に、アクリジン残基による置き換えにより分散非共有結合におけるインドール残基の寄与を増大させることが可能である。
【0043】
例えば結合定数として測定し表すことができる相補性基の間の相互作用の強さは、結合能を有する個々の基の寄与に起因する。これら結合定数に対する個々の寄与は、非共有結合的相互作用のタイプだけでなく、互いに相互作用する基の距離および配向(角度)ならびに溶媒の組成に依存する。相互作用の個々のタイプはエネルギー的に互いに著しく異なり、これにより結合およびしたがってギブスエネルギーは前記基の間の距離に伴い異なるように低下する。
【0044】
互いに対し相補的である基はまた、非共有結合に関する個々の基のギブスエネルギーの寄与が、(相応して大きな)負の値をとるギブスエネルギーΔGの変化をもたらすことを特徴とする。これに関し、本発明に従って、該基は、ギブスエネルギーΔGの変化が結合強度をもたらし、その結果分離して取り出されるべき物質に対し改善された分離選択性が生じるように選択される。
【0045】
一般に、改善された分離選択性は、生産された収着剤と第2基体(標的物質)の選択された相補性基の間の結合に関するΔG値が、前記収着剤と分離して取り出されるべき物質の間のΔG値に比べ十分な程度でより負である(またはより負になる)場合に生じる。クロマトグラフィーにおいて、このタイプの分離して取り出されるべき物質はより早く溶離し、前記物質はより弱く結合している。しかしながら、他の相補性基の挿入により、したがってそれに関連するΔG値の変化に基づいて、分離して取り出されるべき物質が第2基体(標的物質)より強く標的に合わせて結合している場合、改善された分離選択性が生じる。
【0046】
本発明に従って、収着剤と少なくとも1種の分離して取り出されるべき物質との複合体より収着剤/基体複合体において少なくとも1種の相補性基が第2基体との結合により多くまたはより強く(立体異性体のように)関与する場合、十分な分離選択性に基づく分離の目的は常に達成される。
【0047】
溶媒に依存している前記相互作用ギブスエネルギーΔG(kJ/モル)の典型的な値の例は、
−イオン性相互作用では−4〜−6、ここにおいて、前記相互作用の強度または範囲は、距離に反比例して低下する。そのような相互作用の例は、水中におけるカルボン酸と第四級アミン窒素との間の相互作用である;
−イオン/四極子相互作用では−1、ここにおいて、強度または範囲は距離の3乗で低下する。例は、水中におけるアンモニウム化合物中の第四級窒素とアレーン基との間の相互作用である;
−分散的相互作用(が誘導する双極子)では−1.75、ここにおいて、範囲または強度は距離の6乗で低下する。例は、クロロホルム中の2個のアレーン基の間の相互作用である;
−水素結合では−4〜−6。例は、クロロホルム中の2個のアミド基の間の相互作用である。四塩化炭素において、そのような基の間の相互作用エネルギーは約−10である;
−水中のアルカンとメチレンラジカルとの間の相互作用の結果として、疎水性作用では−2.3;
である。
【0048】
本発明に従って、クロロホルム中でヒダントインがアンモニウム基に二価性で結合している場合、最高−22kJ/モルのΔG値が測定される。しかしながら、スクシンイミド誘導体の一価性結合の場合、ΔG値は平均−9kJ/モルにすぎない。したがって、両ΔG値の差は約13kJ/モルであり、分離選択性に関する相当値は約200である。前記データは、水素結合、そして主として二価性相互作用のエントロピー的強化を示唆している。
【0049】
所定の溶媒系において、非共有結合的相互作用の各タイプならびに第1および第2基体(受容体/配位子)の各対に関し、距離に依存するギブスエネルギーは、エンタルピーおよびエントロピーの寄与から異なるように構成されることができる。
【0050】
本発明に従って、前記個々の寄与は、1、2、3、・・・n個の結合能を有する基を含有する第1基体と、例えば、結果が特定タイプの相互作用に潜在的に関連する態様で結合能を有する基が選択される一定量の第2基体との結合強度の分析により決定される。したがって、好ましくはアミノ、アセチル、ベンジル、ニトロフェニルおよびイソペンチル残基、ならびにそれら残基の2および3個の組合わせを含有する第1基体を用いることができる。その後、第2基体は、好ましくはアラニン、アスパラギン酸およびグルタミン酸の誘導体からなる。好ましくは、前記誘導体のN−末端保護基は脂肪族または芳香族のいずれかである。
【0051】
好ましくは、結合エネルギーは、アイソクラチックHPLC実験からk’−値として決定することができる。第1基体における結合能を有する基の濃度および固定(定常)相と移動相の間の相/容積比が公知である場合、結合定数Kはk’−値から決定することができ、同様に前記値からギブスエネルギーΔGの変化を決定することができる。エンタルピー変化ΔHおよびエントロピー変化ΔSは、例えば、マイクロ熱量的に、あるいは、ファントホッフプロット(van't Hoff plot)とも命名される平衡定数の温度依存性測定により、決定することができる。その後、選択された受容体変異体と配位子の間の各相互作用エネルギーの比較により、相互作用に対する寄与がどの程度積算され、強化され、または弱まるかを検証することができる。結合の決定方法が上記方法に制限されないことは自明である。この他、すべての一般的決定方法、例えば競合アッセイ、表面プラズモン共鳴またはNMR滴定を用いることができる。相互作用エネルギーの決定は、小規模アッセイの形で並行して実施することができる。
【0052】
立体的に好ましい条件下で、結合能を有する基に関するギブスエネルギーの部分は加算される。その結果、結合定数における部分は互いに増大する。さらに、さらなる結合強化に寄与する協同的作用も起こりうる。また、立体的にあまり好ましくない条件下で、主に少なくとも二価性の結合強化を達成することができる。結合能を有する残基の適切な選択の際に、結合強化は分離されるべき物質(付随物質/副産物)に対する改善された分離選択性をほぼ全面的にもたらすので、このことは実際の施用に関し非常に有利である。
【0053】
「非相補的」という用語は、基が実際に互いに相互作用できるが、前記基が相補性基に比べ非共有結合に弱く寄与することを意味する。その結果、非相補性基の間の結合強度は、相補性基の間の結合より弱く現れる。本発明に従って、互いに非相補的である基は、前記基の間に形成される非共有結合を弱めるか、それぞれの全体的結合部位を弱めるか、またはそれらは結合していない。それらは、非共有結合に関する個々の基のギブスエネルギーの寄与が、ゼロまたは正の値をとるギブスエネルギーΔGの変化をもたらすことを特徴とすることが好ましい。
【0054】
「決定」という用語は、標的化された選択、例えば、結合能を有する基の標的化された選択を意味する。
新規方法に従って生産される少なくとも1種の収着剤は、収着剤/基体相互作用の認識に用いることができる。該新規方法は、認識方法として、少なくとも1種の前記収着剤への前記基体の選択的結合にとりわけ適している。認識の尺度として結合強度を用いることができる。収着剤と基体が十分に強く結合している場合、基体のどの基と収着剤のどの基が互いに結合できるかという情報が得られる。
【0055】
基体の基が未知である場合、結合に際しどの結合能を有する基が基体中の結合部位に存在することができるか結論することができる。
しかしながら、構造が未知の第1基体の分子領域を適切な成分、例えばエピトープに分離すること、および前記構造またはそれに相補的な構造を収着剤上の成分の適切な配置により調整することも可能である。
【0056】
それに関し、分離は、化学的、物理的または化学物理的方法に従って例えば化学的分解反応または超音波により、および同様に仮想実験により、実施することができる。前記仮想実験ではコンピューターを使った方法を用いることもでき、該方法により、基体の成分に存在する結合の可能性に関する情報を得ることができる。
【0057】
分離は、相互作用することができるすべての成分の量および結合能を有する基の数が、有限かつ限定的であり、具体的な問題に関してはさらに目的に応じて限定されうるということを出発点とする。任意に選択できるそのような基の各部分量から、m個の要素(m=2、3、4、・・・)をそれぞれ有する任意のクラスの組合わせを生産することができる。例は、例えばフェニル、アルキル、アミノ、カルボキシルおよびアミド基を有する選択n=5からの結合能を有する3個の基それぞれの考えうるすべての組合わせを有する、クラス3である。
【0058】
このようにして各タンパク質を20個の成分すなわちアミノ酸に分離することができ、該アミノ酸から同様にn=6〜n=9の結合能を有する基は、第2基体との非共有結合的相互作用について第一次近似の関係にある。この還元は、結合能を有する同一の基または同等の基、例えばヒドロキシル、カルボキシルおよびアミド基、ならびに、リシン、アルギニン、トリプトファンまたはヒスチジン間の段階的格付けが重要でない場合は塩基性官能基が、いくつかのアミノ酸に含有されることにより達成される。
【0059】
比較しうる方法において、8個の異性体的ケトヘキソースまたは16個の立体異性体的アルドヘキソースならびにこれらから誘導されるピラノシドおよびフラノシドを、オリゴ糖類を表す成分として用いることができる。
【0060】
これは、任意の未知の各基体が可算可能な数の成分からなり、これがそれぞれ同様に、定義された数の結合能を有する基を含有することを意味する。成分および結合能を有する基は化学的知識に由来しており、一般に、タイプおよび性質に応じて知られている。このことは主に、それらを有機化学または錯体化学に分類すべき場合に当てはまる。
【0061】
公知の成分および結合能を有する基の各組合わせについて、それに相補的および同一である収着剤の任意の範囲で予めライブラリーを合成することができるので、分子領域からの、または構造が未知の第1基体の結合部位からの各成分は基本的に、そのような収着剤のライブラリーを含むことができるか包含することができる。同じことが、結合能を有する基の組合わせに当てはまる。
【0062】
本発明に従った方法では、いくつかの収着剤、したがって収着剤のコレクションも得ることができる。ここで、第1基体とは異なっていてその結合能を有する基が公知である公知または未知の第2基体を、前記収着剤のコレクションと接触させて、結合強度を決定することができる。これにより、成分が第2基体の結合部位にどのように配置されているか、および結合部位の空間的構造がどのように配置されるかという情報が得られる。したがって、新規方法は、構造決定に用いることもできる。
【0063】
さらに、前記基体を選択的に結合するための新規方法は、有効物質の開発、好ましくは医薬品の開発にも非常に有益である。医薬品の有効性は、それが生理学的条件下で、例えばホルモンまたは酵素であってもよい天然受容体に結合することに基づくことが、一般に知られている。ここで、天然受容体の結合部位を上記方法で分離し、収着剤のコレクションを作り出すことが可能である。次に、前記収着剤のコレクションからの各収着剤は、前記結合部位の定義された成分(部分または一部)を含有する。これに関し、好ましくは成分の空間的配置、さらに好ましくは結合部位全体の成分の空間的配置も模倣される。ここで前記各合成受容体部分に対する任意の基体、例えば医薬品の結合強度が決定される場合であって、該合成受容体部分から各基体が天然受容体の他の構造部分を表す場合、前記基体が一般に天然受容体と十分に相互作用することができるか否か、そしてできる場合、空間的に配置された受容体の基のどれと一緒にか、という情報が結合データから得られる。次に、適切な化学的修飾により、基体、したがって開発されるべき医薬品を、受容体に対する最高の結合が得られるまで最適化することができる。
【0064】
好ましくは、該方法は、今のところ未知であるか特定の機能のためにのみ要求されている生体高分子、好ましくはタンパク質または糖タンパク質を単離するのに、そして前記タンパク質または糖タンパク質をそれらの性質に従って確認するのに適している。
【0065】
比較しうる方法において、混合物から直接有効物質分子、ファージディスプレイからペプチドを単離するために用いることができる、オリゴヌクレオチドまたは他のマトリックスに相補的である収着剤構造を合成することが考えられる。
【0066】
反対に、有効物質に典型的である構造部分を収着剤表面上に設計することにより、基体混合物からそれぞれ相当する基体を結合し、それを特徴付けることが考えられる。例えば、そのような基体は受容体である。
【0067】
工程(i)において、第1の合成または天然基体を収着剤に結合できる少なくとも2種の異なる基の選択は、合成第1基体または天然第1基体からの前記基の決定により実施される。第1の合成または天然基体を収着剤に結合できる少なくとも2種の異なる基の決定は、あらゆる想像しうる方法で実施することができる、すなわち、任意の基を、これらの基が結合できる限り任意の方法により選択することができる。好ましい態様において、選択は、基体との予想される非共有結合的相互作用に対応して実施される。
【0068】
本発明の前記態様において、好ましくは、工程(i)に従った決定は、合成または天然の第1基体を、収着剤を結合できる少なくとも2種の基を有する少なくとも2種の成分に分離することを含む。
【0069】
他の態様において、本発明は、少なくとも1種の第1基体が少なくとも1種の第2基体と同じ基体であり、第2基体を結合できる少なくとも2種の異なる基がそれぞれ、工程(i)で決定される基に相補的である基から選択されることを意図する。
【0070】
本発明の他の態様は、少なくとも1つの第1基体が少なくとも1つの第2基体と異なり、第2基体との結合能を有するそれぞれ少なくとも2つの異なる基を、工程(i)で決定した基に相補的である基から選択することを特徴とする。
【0071】
本発明の他の態様は、少なくとも1つの第2基体との結合能を有する少なくとも2つの基を、工程(i)に従って決定した基から選択することを特徴とする。すなわち、第2基体の、結合能を有する基は、第1基体の対応する基に相補的である。
【0072】
本発明の範囲において、1態様では、工程(i)で合成または天然の基体をそれぞれ1つの結合能を有する基を含む2つの構造単位のみに分割することができ、その際、工程(ii)において1種類の収着剤のみが得られる。
【0073】
しかし、合成または天然の基体を3つの構造単位に分割することもでき、それらの対合組合わせにより、工程(ii)において3種類の収着剤が得られる。
4つの構造単位に分割する場合、対合組合わせにより、工程(ii)において6種類の収着剤が得られる。
【0074】
しかし、3つの異なる構造単位の場合、工程(ii)において対合組合わせのほかにそれら3つの構造単位を一緒にトリプレットとして収着剤に付与することができる。その場合、前記3種類の収着剤のほかに、さらに第4の収着剤が得られる。
【0075】
同様に、4つの異なる構造単位がある場合、工程(ii)において6種類の収着剤が得られる対合組合わせのほかに、さらにそれぞれ3つの異なる構造単位を含む4種類の収着剤、および4つの構造単位すべてをカルテットとして含むさらに1種類の収着剤を得ることができる。
【0076】
したがって本発明は、
工程(i)において合成または天然の第1基体から収着剤との結合能を有する少なくとも2つの基を選択することにより、それぞれ収着剤との結合能を有する少なくとも1つの基を有する2つの構造単位が得られ、そして工程(ii)において1種類の収着剤が得られるか;工程(i)において合成または天然の第1基体から収着剤との結合能を有する少なくとも2つの基を選択することにより、それぞれ収着剤との結合能を有する少なくとも1つの基を有する3つの構造単位が得られ、そして工程(ii)において少なくとも3種類の収着剤が得られるか;あるいは工程(i)において合成または天然の第1基体から収着剤との結合能を有する少なくとも2つの基を選択することにより、それぞれ収着剤との結合能を有する少なくとも1つの基を有する4つの構造単位が得られ、そして工程(ii)において少なくとも6種類の収着剤が得られることを特徴とする。
【0077】
同様に、より多数のi個の構造単位からn個の構造単位を選択し、それから結合能を有する基それぞれm個よりなるマルチプレットを組合わせることも可能である。たとえば天然アミノ酸の群から構造単位フェニルアラニン、チロシン、イソロイシン、アスパラギン酸、アスパラギン、セリン、リシン、トリプトファンおよびヒスチジンを選択することができる(n=9)。これにより、きわめて重要な種類の非共有相互作用を含めることができる。この選択から、結合能を有する異なる基それぞれm=4を組み合わせると、126種類の異なる収着剤の変異形が得られ、これらもコンビナトリアル法で、または結合のためのアッセイおよび結合試験に使用できる。
【0078】
これらm個の非共有相互作用それぞれの寄与により、個々の収着剤それぞれに、結合すべき物質との全相互作用について特徴的な価値が与えられる。結合能を有する各基のこの個々の寄与(m=1)は、結合すべき任意の物質について、使用について無視できる変動範囲内で、実験的に溶媒依存性で決定できる。同様に、m=2のダブレット相互作用、m=3のトリプレット相互作用などについて、測定データを得ることができる。
【0079】
これにより異なる形および組合わせの非共有相互作用について広範な一連のエネルギー増加が得られ、こうして2つの任意の基体または構造単位間の結合強度を予測することができる。その際、異なる非共有相互作用は溶媒およびpHに依存するという事実も利用される。たとえば水素結合相互作用は非プロトン性非極性有機溶媒中では強い影響をもつが、プロトン性極性溶媒または水中ではほとんど影響がない。カルボキシル基は塩基性残基と有機溶媒中では強い塩結合を生成するが、水中では通常は比較的低いエントロピー駆動性相互作用が検出されるにすぎない。
【0080】
これらの関係は、たとえば異なる収着剤へのアミノ酸誘導体の結合に示される。その際、既に述べたように、収着剤に結合した構造単位または結合能を有する基の濃度が既知である場合、クロマトグラフィー測定のk’−値から結合定数Kを推論できる。これにより、結合部位に対して互いに競合する基体が複雑な混合物中にある場合でも、それらの基体の結合定数を得るために並行して実施できる迅速な方法が得られる。
【0081】
多数の相互作用の組合わせについて得られる結合定数および結合エネルギーの数値から、前記のように、結合すべき構造未知の物質の、結合能を有する基のタイプおよび個数を推論し、あるいは他の基の不存在を推定することができる。たとえば、結合したアミノ酸誘導体またはペプチド中のカルボキシル基、塩基性基、または脂肪族もしくは芳香族残基の個数に関して述べることができる。
【0082】
同様にして、結合能を有する基が分かると直ちに、構造未知の2つの基体間の構造に依存した結合挙動の予測または可能性を述べることができる。アミノ酸の組成が分かりさえすれば、これをペプチドまたはタンパク質フラグメントに応用できる。
【0083】
同様に、構造未知の2つの基体が選択した溶媒系中で安定な空間構造をとる場合、それらの基体間の結合挙動を予想または記述することも可能である。少なくとも1つの結合部位において互いに相互作用しうる特定の三次元構造をもつ2つのタンパク質または糖タンパク質は、それぞれ互いに相補的である収着剤ライブラリーのメンバーと同様な強度または程度の相互作用を行うであろう。
【0084】
他の重要な使用例には、タンパク質または糖タンパク質にある結合部位に相補的である結合能を有するすべての基の組合わせの完全な一組が存在する収着剤の製造を記載する。次いで、この収着剤のライブラリーを完全な一組のリガンドについて試験する。これらは、たとえばタンパク質結合部位にある結合能を有する基そのもののすべての2、3および4つの組合わせである。その場合、それぞれ最強の結合をもつ収着剤には、好ましくは開発予定の有効物質中に含まれるべき結合能を有する基が存在する。相補基のモデルとして利用したタンパク質もそれらの収着剤に結合しうることは自明である。
【0085】
同様にして、ファージアッセイにより得た環状ペプチドの結合パターンから、それに属するタンパク質ターゲット中の結合部位を推論できる。さらに、そのようなペプチドの相補的マッピングにより、そのペプチドに対応する適切な立体配置および立体配座(コンホメーション)をもつ新規な有効物質を見いだすための、収着剤担持マトリックスの作製が可能である。
【0086】
したがって、未知のタンパク質ターゲットの、および非競合的または調節的に作用する有効物質に対する結合部位の、結合、特性解明および評価のためにも、前記方法を使用できる。さらに、ペプチドのようにフレキシブルで不安定な有効物質を、十分に投与できる可能性のある剛性構造体に変換することができる。
【0087】
前記に挙げたすべての場合、基体を適切に選択した収着剤と接触させて結合データを測定することにより、構造予測が可能になる。その際、相補的な基体構造を演繹するために、相互作用の欠如または弱い相互作用も、強い結合と同様に重要である。たとえば、ある基体がアミノ基を含む場合、カルボキシル基を含む収着剤への結合は、ヒドロキシル基またはアミノ基自体をもつ収着剤に対する同一基体の結合より、特徴的なほど高いであろう。
【0088】
この方法の本質的な実際上の価値は、考えうる多数の結合可能性が排除されることにあり、これにより、さらに調査可能な数の可能性のある結合組合わせに対する作業が少なくとも軽減される。同じ原理が、物質混合物をそれに含まれる予め定めた構造特色をもつ物質について試験する際にも適用される。その際、きわめて高い有用性は、追加の経費なしで、使用できない大多数の物質の排除を達成できることである。
【0089】
好ましくは構造単位への分割は、天然基体または合成基体の結合部位において空間的に隣接する構造単位が得られるように行われる。その際、結合部位の空間的配列は、2つの構造単位に分割する場合はそれらの構造単位を直線的に、3つの構造単位の場合は三角形に、4つの構造単位の場合は(ひずんだ)正四面体に配置することにより表わすことができる。
【0090】
好ましくは結合能を有する少なくともそれぞれ1つの基を含む3または4つの構造単位が存在するように前記の結合部位を形成すると、たとえばラセミ混合物中に存在するような、前記の結合部位に対する立体異性基体は、一般に異なる強さで結合する。
【0091】
したがって、立体異性基体も本発明方法によれば、本発明による少なくとも1種類の収着剤を用いて、異なる強さで結合させることができる。この特性は有効物質の開発に利用できる。周知のとおり、立体異性化合物は異なる生理活性をもつ可能性があるからである。
【0092】
したがって、新規方法は1種類以上の立体異性化合物を立体異性化合物の混合物から選択的に分離するのに有用な方法である。たとえば本方法をラセミ体分割に利用できる。
選択的に結合しうる他の立体異性化合物としては、ジアステレオマー、配座異性体、幾何異性体、たとえばシスおよびトランス異性化合物、エピマー、ならびにアノマー、たとえばα−およびβ−グリコシド系糖類を挙げることができる。
【0093】
しかし新規方法によれば、立体異性化合物だけでなく、構造異性体、すなわち同一の元素組成をもつがそれらの元素が互いに相対的に異なる形で配列している化合物も、選択的に結合することができる。
【0094】
たとえば、炭素環の結合様式が異なる以外は同一の実験式をもつ縮合芳香族化合物の分離が可能である。
後記に述べるように、結合能を有する少なくとも2つの異なる基を本発明方法の工程(ii)のそれぞれ1つのキャリヤーに付与する際には、一般に、形成した収着剤の少なくとも1つにおいて、目的とする結合能を有する少なくとも2つの異なる基が互いにランダムに分布した結合領域が生成するだけでなく、本質的に同一基のみが存在する領域またはそれらの基に富む領域も生成するのは避けられない。しかし、そのような領域は前記基体の選択的分離を妨害しない。そのような領域は一般に、少なくとも2つの異なる基を含む領域より弱く基体に結合するからである。しかも大部分の場合、本質的に1つのタイプの結合能を有する基のみを含むそのような領域は、前記基体に反発する。非相補的な基が向き合った場合は特に、そのような領域は反発作用を示す。
【0095】
第1基体および第2基体において互いに向き合った非相補的な基は、一般に全体として結合を弱めるであろう。この作用は、二価結合において既に起きる。結合能を有する基としてたとえば一方ではカルボキシル残基、他方ではアミン残基を選択した場合、および一方ではフェニル残基、他方ではフルオレニル残基を選択した場合、少なくとも1つの極性残基が非極性残基と向き合った空間配列はいずれもエネルギーに関して、かなり不十分である。ポリマー鎖の可動性配列のため、収着剤に結合すべき第2基体は最大可能なギブスエネルギーを獲得する態様で自然に付加するであろう。
【0096】
この事実を一般に、収着剤中の結合能を有する一対の基は一対の相補的な基と向き合うにちがいないと表現することもできる。収着剤とリガンドの間の結合は、関与するすべての基がそれぞれ対またはマルチプレットとして相補的に配列できる場合に、その最大強度に達する。
【0097】
2つの基体の二価対合の場合に既に、方向依存性が明瞭になる。三価および四価の相互作用へ移行すると、この立体支配はかなり強くなる。エネルギー的に最適な結合部位を高収率で得るためには、特に高いコンホメーション可動性をもつポリマー誘導体が必要である。その際、結合した相互作用能をもつ基間に、高いコンホメーション可動性をもつ小領域、たとえばアルキル鎖が組み込まれたコポリマーを使用できる。
【0098】
少なくとも1種類の収着剤に付与した、結合能を有する少なくとも2つの異なる基のモル比または局所濃度比は、基体の選択的結合にとってきわめて重要である。好ましくは、結合されるべき基体にある各基もまた、収着剤にある結合能を有する基を見つけなければならない。
【0099】
したがって、好ましくは結合能を有する少なくとも2つの異なる基を、結合すべき基体の構造要求に最適に対応するモル比で収着剤に付与する。
したがって、第1または第2基体の基と同一であるか、またはそれに対して相補的な、結合能を有する少なくとも2つの異なる基を、結合すべき基体の構造要件に最適に対応するモル比で、収着剤に付与することが好ましい。
【0100】
好ましくは、第1または第2基体の基と同一であるか、またはそれに対して相補的な、結合能を有する少なくとも2つの異なる基を、結合すべき基体または複製された第1基体中にも存在するモル比で、収着剤に付与することが好ましい。このために特に使用される製造方法を以下にさらに記載する。
【0101】
工程(i)の合成または天然の基体は、低分子、好ましくは分子量1000Da未満のものであってよい。しかし、これはオリゴマーまたはポリマー、好ましくは生体高分子であってもよい。
【0102】
好ましくは、1つの基体は低分子、他の基体は生体高分子である。
好ましくは生物基体の結合に適した少なくとも1種類の収着剤は、好ましくは自然界に由来する構造体の結合またはそのような構造体の決定的な部分の結合に関与し、好ましくは生物基体と相互作用することができる、結合能を有する基を備えている。これらの基を以下において受容体または受容基とも呼ぶ。
【0103】
結合能を有する少なくとも2つの異なる基は、好ましくは官能基をもつ基体の構造単位の構成部分、または一部もしくはフラグメントである。その際、これには特に酵素、アミノ酸、ペプチド、糖類、アミノ糖、糖酸およびオリゴ糖の群、またはその誘導体、ならびにヌクレオチドおよびヌクレオシドが挙げられる。他の適切な基体は、ピリミジン塩基およびプリン塩基、たとえばシトシン、ウラシル、チミン、プリン、アデニン、グアニン、尿酸、ヒポキサンチン、6−プリンチオール、6−チオグアニン、キサンチンである。
【0104】
分子のフラグメントは、たとえばフェニルアラニン、チロシンまたはトリプトファンのフェニル、フェノールまたはインドール残基、およびヒドロキシル基、カルボキシル基、アミノ基およびアミド基である。上記の基に必須なことは、自然界で行われる受容体と基体の結合原理が維持または模倣されていることであり、したがって新規方法により、たとえば合成酵素、抗体の結合ドメインまたは他の生理的エピトープ、すなわち分子領域のもの、完成した宿主、ペプチド、糖ペプチド、タンパク質のエピトープ、糖タンパク質、およびオリゴヌクレオチドを使用できる。
【0105】
アミノ酸としては、好ましくは下記のものが挙げられる:
−脂肪族残基をもつアミノ酸、たとえばグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン;
−1個以上のヒドロキシル基を含む脂肪族側鎖をもつアミノ酸、たとえばセリン、トレオニン;
−芳香族側鎖をもつアミノ酸、たとえばフェニルアラニン、チロシン、トリプトファン;
−塩基性側鎖をもつアミノ酸、たとえばリシン、アルギニン、ヒスチジン;
−酸性側鎖をもつアミノ酸、たとえばアスパラギン酸、グルタミン酸;
−アミド側鎖をもつアミノ酸、たとえばアスパラギン、グルタミン;
−硫黄含有側鎖をもつアミノ酸、たとえばシステイン、メチオニン;
−修飾したアミノ酸、たとえばヒドロキシプロリン、γ−カルボキシルグルタメート、O−ホスホセリン;
−前記アミノ酸または場合により他のアミノ酸の誘導体、たとえばカルボキシル基(1以上)において、たとえば場合により適切に置換されていてもよいアルキル残基またはアリール残基でエステル化されたアミノ酸。
【0106】
アミノ酸の代わりに1種類以上のジペプチドまたはオリゴペプチドの使用も可能であり、たとえばβ−、γ−その他の構造異性アミノ酸およびそれから誘導されたペプチド、たとえばデプシペプチドを使用できる。
【0107】
その際、1つの構造単位により、結合能を有する少なくとも2つの異なる基を同時に導入することもできる。
したがって本発明方法は、1つの構造単位が、結合能を有する少なくとも2つの異なる基を保有することも特徴とする。
【0108】
結合能を有する4つ以上の基を同じ収着剤に付与しなければならない場合、好ましい態様は、結合能を有するそれぞれ少なくとも2つの基を一緒に、既に出来上がった構造単位により一定の空間配列で導入することにある。その際、好ましくは、結合能を有するそのような基を、既に第1基体中に同様な様式で隣接していた1つの構造単位で付与する。
【0109】
自明のとおり、数種類のそのような少なくとも二価の構造単位を順に、または同時に収着剤に導入し、それに一価の構造単位を結合させることも可能である。
二価構造単位の簡単な例は、フルオレニルメトキシカルボニル−グルタミン(Fmoc−グルタミンとも呼ばれる)である。この場合、カルボキシル基が収着剤への結合に用いられ、その際アミド残基はリガンドの極性結合能をもち、フルオレニル基はπ−π相互作用能をもつ。同様な方法でオリゴペプチドおよび櫛形オリゴマー誘導体も使用できる。
【0110】
好ましくは、少なくとも1種類の収着剤への前記基体の結合は、収着剤上にあるアミノ酸、糖類、ヌクレオチド、ヌクレオシドならびにピリミジン塩基およびプリン塩基に由来する残基または基により行われる。
【0111】
したがって本発明は、少なくとも1種類の収着剤の、結合能を有する少なくとも2つの異なる基を、アミノ酸、糖類、ヌクレオチド、ヌクレオシド、ピリミジン塩基およびプリン塩基の構造単位の群から選択することを特徴とする。
【0112】
他の態様においては、少なくとも1種類の第2基体の、結合能を有する少なくとも2つの異なる基を、アミノ酸、糖類、ヌクレオチド、ヌクレオシド、ピリミジン塩基およびプリン塩基の構造単位の群から選択することをも特徴とする。
【0113】
天然または合成に由来する、特に合成に由来する他の基の導入により、収着剤の非共有結合能を目的に応じて変更し、特に強化することができる。
たとえば、合成保護基を備えたアミノ酸を新規方法に使用できる。たとえばフルオレニル残基で保護されたアミノ酸を使用できる。フルオレニルのほかに、アントラセニル残基またはナフチル残基などの残基も使用できる。その際、保護基の芳香環と基体の結合性基との間にさらに非共有結合を形成することにより、結合作用の強化を達成できる。他の例として、ニトロフェニル残基およびオリゴフルオロフェニル残基、ならびにπ−π相互作用を形成しうる他の富電子および貧電子芳香族系が挙げられる。
【0114】
工程(ii)の収着剤には、好ましくは無機材料もしくは有機材料、または無機材料および有機材料から構築できるキャリヤーが含まれる。キャリヤー材料としては、工程(i)からの少なくとも2つの異なる基を適切な方法でそれに付与することができるすべての材料が適切である。
【0115】
キャリヤー材料が固体である場合、たとえばガラスまたは金属からなるプレートのようにその表面は平坦であってもよく、あるいは弯曲し、またはたとえば管状もしくはスポンジ様の多孔質物体中に埋め込まれていてもよい:たとえばゼオライト、シリカゲルまたはセルロースビーズ。さらに、キャリヤー材料は天然源のものでも合成によるものでもよい。たとえば特にゼラチン、コラーゲンまたは寒天が挙げられる。多孔質および非多孔質の樹脂ならびにプラスチック表面またはセラミック表面も使用できる。
【0116】
しかし、キャリヤーとして1種類以上の液体、特に高粘度のものも使用できる。その場合、適切な化合物は特に高粘度のシリコーン油である。
好ましくは、工程(i)のそれぞれ少なくとも2つの異なる基がポリマーに共有結合した形でキャリヤー上にある。
【0117】
その際、「ポリマー」という概念には、ポリマー化学において「オリゴマー」と呼ばれる比較的高い分子量の化合物も含まれる。その際、ポリマーもポリマー混合物も使用できる。特定のポリマーに限定したいわけではないが、可能なポリマーとしては特に下記のものが挙げられる:
−多糖、たとえばセルロース、アミロースおよびデキストラン;
−オリゴ糖、たとえばシクロデキストリン;
−キトサン;
−ポリビニルアルコール、ポリ−トレオニン、ポリ−セリン;
−ポリエチレンイミン、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリビニルイミダゾール、ポリアニリン、ポリピロール、ポリ−リシン;
−ポリ(メタ)アクリル酸(エステル)、ポリイタコン酸、ポリ−アスパラギン;
−ポリ−システイン。
【0118】
同様に、ホモポリマーだけでなく、コポリマーおよび特にブロック−コポリマーおよびランダムコポリマーも原則として本発明に使用するのに適切である。その際、コ−スチロールまたはコ−エチレンなどのように官能化できない成分を含むコポリマー、ならびにコ−ピロリドンのようなコポリマーも挙げられる。
【0119】
その際、前記ポリマーは、工程(i)からの結合能を有する少なくとも2つの異なる基によりポリマーに共有結合しうる、少なくとも2つの同一または異なる基を備えている。
したがって本発明の1態様は、工程(ii)においてそれぞれ少なくとも2つの異なる基が、それぞれポリマーに共有結合した状態で存在することを特徴とする。
【0120】
少なくとも2つの同一または異なる官能基を備えたポリマーの特に好ましい官能基としては、特にOH−基、場合により置換されたアミン基、SH−基、OSOH−基、SOH−基、OPO−基、OPOHR−基、PO−基、POHR−基、COOH−基、およびこれらのうち2以上の混合物が挙げられ、これらにおいてRは好ましくはアルキル残基を意味する。同様に、少なくとも2つの同一または異なる官能基を備えたポリマーは、さらに他の極性基、たとえば−CNを含むことができる。
【0121】
1態様においては、その際、工程(ii)において結合能を有する少なくとも2つの異なる基をまず、ポリマーの少なくとも2つの同一または異なる官能基によりポリマーに導入することができ、その際、前記の基で誘導体化されたポリマーが生成する。これらの誘導体化されたポリマーを、次いでキャリヤーに付与することができる。
【0122】
その際、少なくとも2つの基による官能化ポリマーの誘導体化は既知の方法に従って、均一相でも不均一相でも実施できる。
不均一相での誘導体化に際しては、固相反応を使用できる。
【0123】
少なくとも2つの同一または異なる官能基を備えたポリマーを均一液相において前記の結合能を有する少なくとも2つの異なる基で誘導体化する場合、最適な溶解度を得るために、好ましくは混合官能性ポリマーまたは予め誘導体化したポリマーを使用できる。その例としては、たとえば下記のものが挙げられる:
−部分または完全シリル化、アルキル化またはアシル化したセルロース;
−ポリ酢酸ビニル/ポリビニルアルコール;
−ポリビニルエーテル/ポリビニルアルコール;
−N−ブチルポリビニルアミン/ポリビニルアミン。
【0124】
同様に、ポリマー/コポリマー混合物も使用できる。その際、すべての適切なポリマー/コポリマー混合物、たとえば既に述べたポリマーおよびコポリマーからなる混合物を使用でき、その際、特にたとえば下記のものが挙げられる:
−ポリ(アクリル酸)−コ−酢酸ビニル;
−ポリビニルアルコール−コ−エチレン;
−ポリオキシメチレン−コ−エチレン;
−修飾ポリスチロール、たとえばスチロールと(メタ)アクリル酸(エステル)のコポリマー;
−ポリビニルピロリドン、およびそれとポリ(メタ)アクリラートのコポリマー。
【0125】
好ましくは、少なくとも2つの同一または異なる官能基を備えたポリマーを、少なくとも2つの異なる基で誘導体化する前に、活性剤と反応させる。そのような試薬およびその使用方法は、たとえば国際特許出願公開WO00/32649パンフレットに記載されている。
【0126】
たとえば、活性剤としては、スクシンイミドの構成要素から誘導され、その際、窒素上にある水素原子が−OCO−Cl−基により置換された化合物を使用できる。一例は、下記の化合物である:
【0127】
【化1】

【0128】
ここで、R〜R10は、好ましくは水素、アルキル残基、アリール残基、シクロアルキル残基および複素環残基である。R〜R10が水素である場合、この化合物を以下においてONB−Clとも呼ぶ。
【0129】
少なくとも2つの同一または異なる官能基を備えたポリマーを活性剤と反応させると、この反応生成物を、前記基体の結合に必要な基をもつ適切な化合物と反応させることができる。
【0130】
少なくとも2つの同一または異なる官能基を備えたポリマーを、2種類以上の適切な活性剤の混合物と反応させることも可能である。これらを同時にポリマーと反応させることができる。同様に、2種類以上の活性剤を順にポリマーと反応させることもできる。
【0131】
この場合、原則として、活性化ポリマーと反応することができ、間接的または直接的に目的ポリマーになり、次いでこれが誘導体化される、すべての化合物を使用できる。特に、誘導体化には少なくとも1つの求核基をもつ化合物を使用できる。
【0132】
他の可能性は、活性化ポリマーを、アミノ基を含有する一価または多価アルコールまたはチオールと反応させることである。少なくとも2つの官能基を含むポリマーをたとえばONB−Clで活性化すると、アミノ基を含有する一価または多価アルコールまたはアミノ基を含有する一価または多価アルコールまたはチオールは、選択的にそのアミノ基で反応する。こうしてポリマーに導入されたOH-基またはSH−基は、次いで後続工程で再びたとえば前記の活性剤の1つと反応し、これにより、それぞれ最初に使用したアルコールまたはチオールの価数に応じた連鎖延長および枝分かれが可能となる。
【0133】
他の態様においては、まず、結合能を有するそれぞれ少なくとも2つの異なる基を含む化合物を活性剤と反応させ、次いで前記ポリマーと再反応させることもできる。
好ましくは、アミノ酸、糖類、ヌクレオチド、ヌクレオシド、ピリミジン塩基およびプリン塩基の活性化誘導体を、少なくとも2つの同一または異なる官能基を備えたポリマーと反応させる。その際、好ましい態様においては、同様にこれらの化合物をONB−Clまたはこの構造タイプの化合物で活性化する。
【0134】
前記の反応は、ポリマーの架橋、ポリマーの安定化およびポリマーの枝分かれのために使用できる。
前記の反応により、多様な空間配列をもち、したがってこの空間配列がきわめて重要である多くの用途に使用できる、ポリマー誘導体の製造がさらに可能になる。
【0135】
たとえば、ヘアリーロッド、櫛形ポリマー、ネット、バスケット、皿、チューブ、ろうとまたケージなどの構造をもつ配列を実現できる。
その際、この反応は非プロトン−双極性溶媒および/または極性−プロトン溶媒または溶媒混合物、たとえば水性溶媒混合物中で実施できる。反応させるポリマーのタイプ、および使用する活性剤、および/または結合能を有するそれぞれ少なくとも2つの異なる基を含む化合物に応じて、この溶媒混合物中に水のほかに他の多様な溶媒混合物が存在してもよい。この場合、特にたとえば非プロトン−双極性溶媒、たとえばDMSO、DMF、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン、テトラヒドロフランまたはメチル−t−ブチルエーテルなどの溶媒を使用するのが好ましい。
【0136】
反応に際して選択できるpH値は、その際、一般に4〜14、好ましくは8〜12、特に好ましくは8〜10である。一定のpH範囲に調整するために、適切な緩衝液で処理することができる。
【0137】
溶媒およびpH値により、網目構造の膨潤性および収縮性を目的に従って調整することができ、これにより網目構造を介して収着剤への基体の到達に影響を及ぼすことができる。
【0138】
ポリマーの誘導体化の程度、すなわち結合能を有する少なくとも2つの基で官能化ポリマーを誘導体化する程度は、基体との可能な最大相互作用が達成されるようにすることができる。
【0139】
好ましくは1〜70%、特に好ましくは3〜60%、殊に好ましくは5〜50%の誘導体化度である。
したがって、少なくとも2つの同一または異なる官能基を受容体基として基体と相互作用するように誘導体化し、少なくとも1つの基体特異的に作用しない官能基および/または官能基をもたない1つのモノマー単位が誘導体化されたこれら2つの基の間にあることも可能であり、その際、官能基は互いに同一または異なり、前記の基から選択される。
【0140】
誘導体化されない形でポリマー中になお存在する官能基が基体との相互作用に関与する可能性もある。
少なくとも2つの同一または異なる官能基を備えたポリマーの誘導体であって、基体特異的に作用しない他の官能基を末端キャッピング基で誘導体化したものも使用できる。
【0141】
末端キャッピング基を適切に選択することにより、末端キャッピング基(1以上)を備えたポリマー誘導体の溶解度に影響を及ぼし、場合により行う後続反応における要件に適合させることもできる。
【0142】
末端キャッピング基としては原則として、官能基を基体との相互作用に対して不活性または可能な限り不活性にするいずれの基も選択できる。これに関して「不活性」という概念は、基体が誘導体化したポリマーの受容体基と行う相互作用が、これらの基体が末端キャッピング基により誘導体化した1以上の官能基と行う相互作用と比較して著しく強く、したがって基体が本質的に受容体基のみを介して結合することを意味する。
【0143】
たとえばクロマトグラフィー法において基体と受容体基の間の相互作用により2以上の異なる基体を分離したい場合、末端キャッピング基が前記のように可能性のある相互作用に対して官能基を完全に不活性にする必要はない。この場合、たとえば末端キャッピング基が分離すべき2以上の基体と行う相互作用が十分に弱いか、または非特異的であって、分離プロセスに何ら役割を果たさなければ十分である。
【0144】
その際、末端キャッピング基としては、従来技術に従って適切ないずれの基も使用できる。基体によっては、たとえば末端キャッピング基としてH−供与体ではない基を選択することも可能である。その際、好ましくは
【0145】
【化2】

【0146】
特に好ましくは
【0147】
【化3】

【0148】
を使用する。
受容体として、少なくとも2つの同一または異なる官能基を備えたポリマー中に、前記のいずれかの残基をさらに挿入することができ、それはポリマーと少なくとも2つの活性化した誘導体化試薬(少なくともそれぞれ1つの求核基を含む)との反応により、または活性化したポリマーと少なくとも2つのそのような誘導体化試薬との反応により得ることができる。
【0149】
前記のように、少なくとも2つの同一または異なる官能基を備えたポリマーの誘導体であって、化合物の少なくとも2つの受容体残基または化合物中の結合に関与する基を含むものが好ましい。その際、化合物はアミノ酸、糖類、ヌクレオチド、ヌクレオシド、ピリミジン塩基およびプリン塩基を含む群から選択される。
【0150】
官能基を備えたポリマーを、前記の化合物、それらの化合物の誘導体、もしくはそれらの化合物が含む基、またはそれらの混合物で誘導体化するためには、前記の方法に従って行うことができる。したがって、まずたとえばアミノ酸化合物と適切な活性剤の反応を実施し、次いで生成物をポリマーと反応させることができる。同様に、まずポリマーを適切な活性剤で活性化し、次いでアミノ酸と反応させることもできる。もちろん、ポリマー、アミノ酸および活性剤を直接に混和することも可能である。
【0151】
糖類、ヌクレオチド、ヌクレオシド、ピリミジン塩基およびプリン塩基の残基、またはこれらの化合物中に含まれる結合基、あるいはそれらの混合物の導入も、同様な方法で行うことができる。
【0152】
アミノ酸、糖類、ヌクレオチド、ヌクレオシド、ピリミジン塩基およびプリン塩基、または対応する残基もしくは誘導体、またはこれらの化合物中に含まれる結合基の選択によっては、場合によりそれに存在する官能基を誘導体化および/または活性化に際して保護基で保護する必要がありうる。その際、従来技術から既知のすべての適切な保護基が可能である。その後のポリマーの用途によって、これらの保護基をアミノ酸、糖類、ヌクレオチド、ヌクレオシド、ピリミジン塩基およびプリン塩基の残基に残しておくか、あるいは再び脱離することができる。
【0153】
アミノ酸の代わりに1種類以上のオリゴペプチドの使用も可能である。
基体との相互作用を最適化するために、液体ポリマー誘導体または溶媒もしくは溶媒混合物に溶解したポリマー誘導体を、この場合鋳型として作用する基体の存在下で変形させることができる。
【0154】
その際、変形は、適切な溶媒または溶媒混合物中で前記の誘導体化ポリマーを基体と混和し、ポリマーがエネルギー的に最も好ましい1以上のコンホメーションをとりうる態様で実施する。
【0155】
その際、誘導体化ポリマーを種々の基体と混和して変形させることも可能である。さらに、必要ならば種々の誘導体化ポリマーを1種類以上の異なる基体と混和して変形させることも可能である。
【0156】
少なくとも2つの同一または異なる官能基を備えたポリマーの誘導体を、鋳型なしに変形させることも可能である。
変形に続いて、鋳型の存在下での変形により形成されたポリマー誘導体のコンホメーションを固定することができる。
【0157】
その際、変形したポリマーを固定前にキャリヤーに付与することも可能である。
固定のためには、原則としてすべての可能な方法を使用できる。この場合、特に温度変化、溶媒交換、沈殿法および架橋が挙げられる。好ましくは、架橋によりコンホメーションを固定する。
【0158】
その際、キャリヤー材料およびキャリヤーの形態は本質的に自由に選択できるが、その際、ポリマーを持続的にキャリヤー上に付与しうるようにキャリヤーを調整しなければならない。好ましくは、誘導体化ポリマーを付与した後のキャリヤー材料は、分離すべき物質と非特異的相互作用を全くまたはほとんど行わない。
【0159】
その後の利用分野によっては、キャリヤー材料が圧力安定性であることが必要となる可能性がある。これに関して「圧力安定性」という概念は、キャリヤー材料が100barまでの圧力で形状安定性であることを意味する。
【0160】
キャリヤー材料としては、前記の材料を使用できる。その際、キャリヤー材料の形状は、その方法の要求に適合させることができ、制限はない。たとえばタブレット状、球状またはストランド状のキャリヤーが可能である。
【0161】
キャリヤー材料上への付与も大幅に自由に選択できる。たとえば対応するポリマー溶液中におけるキャリヤーの含浸、浸漬、ポリマーの吹付け、または蒸発によるポリマーの濃縮による付与が可能である。
【0162】
誘導体化ポリマーを、異なる適切なキャリヤーに付与することも可能である。2種類以上の互いに異なる誘導体化ポリマーを1以上の適切なキャリヤーに付与することも同様に可能である。本発明方法の他の態様においては、誘導体化、変形および固定したポリマーを多孔質材料に加工する。その場合、同時にキャリヤーが形成され、したがってさらにキャリヤー材料を必要としない。その際、たとえばビーズ、不規則な粒子、スポンジ、ディスク、ストランドまたは膜を得ることができる。
【0163】
その際、1タイプの誘導体化ポリマーから形成されたコンホメーションを固定することができる。しかし、2以上の互いに異なるタイプの誘導体化ポリマーから形成されたコンホメーションを同様に固定することも可能である。この場合、「異なるタイプの誘導体化ポリマー」という概念は、ポリマーが基礎ポリマーもしくは活性剤のタイプもしくは誘導体化により導入された受容体基もしくは活性化の程度もしくは誘導体化の程度または2以上のこれらの特徴の組合わせに関して異なることを意味する。
【0164】
その際、たとえば架橋は、誘導体化ポリマーの2以上の鎖を互いに直接反応させることにより達成できる。
これは、誘導体化により導入された基を、これらの基の間に共有結合および/または非共有結合を形成できるように調整することにより達成できる。ごく一般的に、これらの共有結合および/または非共有結合を、1つのポリマーストランドに結合している基の間に形成すること、および/または2以上のポリマーストランドに結合している基の間に形成し、したがって架橋により2以上のポリマーストランドを1以上の部位で互いに連結させることも可能である。
【0165】
1以上の適切な架橋剤を使用し、前記のようにこれらにより共有結合および/または非共有結合様式で、1つのポリマーストランド内の基および/または場合により異なる誘導体化ポリマーの幾つかのストランドに結合している基を架橋させることも可能である。
【0166】
架橋剤としては、原則として、従来技術から既知の適切なすべての化合物が考慮される。したがって、たとえば架橋は共有−可逆的結合様式、共有−不可逆的結合様式、または非共有結合様式で行うことができ、非共有結合様式での架橋の場合、たとえばイオン相互作用により、または電荷−移動−相互作用による架橋が挙げられる。
【0167】
共有−不可逆的架橋を導くことができる架橋剤としては、特に二官能性以上の化合物、たとえばジオール、ジアミンまたはジカルボン酸が挙げられる。その際、たとえば二価架橋剤を活性化したポリマー誘導体と反応させるか、あるいは少なくとも二価の活性化した架橋剤を活性化していないポリマー誘導体と反応させる。
【0168】
共有−可逆的架橋は、たとえば1または2つのポリマーストランドに結合している基の間に硫黄−硫黄−結合を形成してジスルフィド結合にすることにより実施できる。
イオン相互作用による架橋は、たとえば2つの残基により行われ、それらのうち一方は構造単位として第四級アンモニウムを、他方は構造単位としてたとえば−COO または−SOをもつ。
【0169】
水素結合による架橋は、たとえば2つの相補的な塩基対の間に、たとえば下記の構造により形成される:
【0170】
【化4】

【0171】
ごく一般的に、非共有架橋するポリマー誘導体は、架橋部位に関して相補的に構築することができ、その際、互いに相補的な構造単位は、たとえば酸/トリアミンまたはウラシル/メラミンである。同様に、非共有架橋の場合、架橋剤がポリマーストランドの架橋部位に相補的であってもよい。その例としては、たとえばポリマーストランドのアミン基と架橋剤としてのジカルボン酸が挙げられる。
【0172】
ペプチド化学から既知の結合剤を用いて、カルボキシレートからポリマーのアミノ基へのアミド結合を形成できる。同様にして、ポリマーに共有結合したカルボキシル基をポリビニルアミン中のアミノ基で架橋し、あるいは逆に、結合したアミノ基をたとえばポリアクリレートのカルボキシルで架橋する。
【0173】
架橋度は本質的に任意に選択でき、たとえば後記の利用分野に合わせて調整される。
工程(ii)において、結合能を有する少なくとも2つの異なる基と、少なくとも2つの基を含むポリマーとの反応は、不均一相で、すなわちポリマーの固体表面で行うこともできる。その際、有利には、前記ポリマーを、使用ポリマーに対してわずかな溶解力しかもたない溶媒に懸濁する。
【0174】
ポリマーの誘導体化およびキャリヤー上への生成ポリマーの付与は、前記の活性化工程および誘導体化工程ならびに架橋法およびコーティング法を使用できる。
他方、他のキャリヤー材料なしに、好ましくは不均一相で誘導体化したポリマーをキャリヤーとして使用することもできる。
【0175】
他の態様においては、好ましくは前記の均一相または不均一相で製造した誘導体化ポリマーを、段階的にキャリヤーに付与することができる。この場合、少なくとも1工程で少なくとも1種類のポリマー少なくとも1層をキャリヤー材料に結合させ、少なくともさらに1工程で少なくとも1種類のポリマーの少なくともさらに1層を、キャリヤー材料に結合している少なくとも1層のポリマー層に付与する。これに適した方法はWO01/38009に記載されている。
【0176】
その場合、少なくとも1種類のポリマーの段階的付与は、各工程につき少なくとも1層のポリマー層を確実に付与し、これにより層状のポリマー構造体がキャリヤー材料に付与される、すべての適切な方法に従って行われる。
【0177】
この方法では、少なくとも1種類のポリマーの少なくとも1層をキャリヤー材料に結合させる少なくとも1工程で、第1態様においては、少なくとも1種類のポリマーの溶液をこの少なくとも1種類のポリマーがキャリヤー材料に結合しない反応条件下でキャリヤー材料と接触させ、次いでこの少なくとも1種類のポリマーがキャリヤー材料に結合するように反応条件を変更する;あるいは第2態様においては、少なくとも1種類のポリマーの溶液を、この少なくとも1種類のポリマーの溶液がθ状態にある反応条件下でキャリヤー材料と接触させる。
【0178】
その際、第1態様に従ってキャリヤー材料と接触させる溶液は1種類以上の適切な溶媒を含み、その際、少なくとも1種類のポリマーは溶媒または溶媒混合物に溶解するか、またはコロイド状に溶解し、またはたとえばナノ懸濁液の形で懸濁してもよい。
【0179】
その際、反応条件は、溶液をキャリヤー材料と接触させる際にまずキャリヤー材料への少なくとも1種類のポリマーの結合が行われないように選択される。この反応条件は、たとえば1種類以上の適切な溶媒により調整される。好ましくは、これに関して、キャリヤー材料への結合が起きないほど良好に少なくとも1種類のポリマーが溶解する溶媒を使用する。
【0180】
本発明の意味において、「ポリマーがキャリヤー材料に結合しない」という概念は、分配係数の測定により本質的に結合を確認できないことを意味する。
同様に、この反応条件は、たとえば適切な温度選択により達成され、その際、キャリヤー材料への少なくとも1種類のポリマーの結合が起きないほど高い温度で溶液をキャリヤー材料と接触させる。
【0181】
さらに、キャリヤー材料への少なくとも1種類のポリマーの結合がpH依存性である場合、この反応条件はポリマー溶液の適切なpH調整により達成できる。
同様に2以上のこれらの方法を適切に組み合わせることにより、キャリヤー材料への少なくとも1種類のポリマーの結合をまず阻止することも可能である。
【0182】
この特別なタイプの反応操作により、特に、溶液中に含有される少なくとも1種類のポリマーが沈殿する反応条件の回避が達成される。
少なくとも1種類のポリマーの溶液と少なくとも1種類のキャリヤー材料の接触に関しては、原則としてすべての適切なプロセス操作が可能である。
【0183】
たとえば少なくとも1種類のポリマーを含有する溶液をキャリヤー材料と接触させることができる。同様に、キャリヤー材料をまず少なくとも1種類の溶媒と接触させ、次いでこの少なくとも1種類の溶媒中に少なくとも1種類のポリマーを導入することも可能である。同様に、まずキャリヤー材料を少なくとも1種類の溶媒と接触させ、次いで少なくとも1種類のポリマーを含有する溶液を添加することも可能である。2種類以上のポリマーを使用する場合、それらを個別に、または少なくとも1種類以上の他のポリマーと一緒に、それぞれ1種類の溶媒または溶媒混合物に溶解し、そしてそれぞれ少なくとも1種類のポリマーを含有する個々の溶液を一緒にまたは個別に、場合により既に溶解した、またはコロイド状に溶解もしくは懸濁した状態で少なくとも1種類の溶媒中に存在するキャリヤー材料と接触させる。
【0184】
原則として、既に前記に述べたキャリヤー材料が適切であり、これに少なくとも1種類のポリマーを結合により付与することができる。2種類以上の互いに異なるポリマーを使用する場合、それらのポリマーのうち1種類を結合によりキャリヤー材料に付与することができれば十分である。2種類以上の異なるポリマーを結合によりキャリヤー材料に付与することも可能である。
【0185】
2種類以上の互いに異なるポリマーおよび2種類以上の互いに異なるキャリヤー材料を使用する場合、特に、すべてのポリマーをすべてのキャリヤー材料に付与することも可能である。1種類以上のポリマーを1種類以上のキャリヤー材料に付与し、そのうち1種類以上の異なるポリマーをそのうち1種類以上の異なるキャリヤー材料に付与することも可能である。
【0186】
さらに、他のポリマーおよび化合物、たとえば一般に慣用される助剤を使用することができ、その際、キャリヤー材料へのポリマーの結合を他の相互作用または/および方法により達成することもできる。さらに、溶液中に存在するポリマーおよび/または化合物をキャリヤーに付与せず、たとえば溶液中に残留させることができる。特に、これらのポリマーのうち少なくとも1種類を追加工程で、たとえばこの追加工程の前にポリマーを含有する溶液と接触させたキャリヤー材料に付与することも可能である。
【0187】
第1態様によれば、接触後に、今度はキャリヤー材料への少なくとも1種類のポリマーの結合が行われるように、反応条件を変更する。前記のように、2種類以上の異なるポリマーおよび/または2種類以上の異なるキャリヤー材料を使用する場合、1種類のポリマーを1種類のキャリヤー材料に結合させることも可能である。
【0188】
したがって反応条件の変更に関しては、ポリマーのうち少なくとも1種類をキャリヤー材料に結合させるのに適したすべての変更が可能である。
結合が温度依存性である場合、どの変化が結合に好ましいかに応じて、たとえば温度を上昇または降下させることも可能である。同様に好ましい態様においては、少なくとも1種類のポリマーを含有する溶液の組成を変更するか、あるいはこの溶液を徐々に濃縮する。
【0189】
少なくとも1種類のポリマーを含有する溶液の組成の変更に関しては、原則として、その変更により結合を可能にするのに適したすべての方法が可能である。
好ましい態様においては、少なくとも1種類のポリマーを含有する溶液に、少なくとも1種類のポリマーに関してより低い溶解性を示す少なくとも1種類の他の溶媒を添加する。
【0190】
他の態様においては、少なくとも1種類の酸性化合物もしくは少なくとも1種類の塩基性化合物またはその2種類以上からなる混合物を添加するように溶液の組成を変更し、これにより少なくとも1種類のポリマーの結合が可能になるように溶液のpH値を変更する。1種類以上の緩衝液を添加し、これにより少なくとも1種類のポリマーの結合が可能になるように溶液のpH値を変更できることも自明である。
【0191】
さらに、適切な化合物、たとえば塩類、たとえば金属カチオンを含むもの、または適切な有機化合物を添加し、この添加により少なくとも1種類のポリマーの結合を行わせることができる。
【0192】
キャリヤー材料に結合すべき少なくとも1種類のポリマーの溶液中における濃度が十分に一定に維持される様式で、少なくとも1種類のポリマーを含有する溶液を濃縮することもできる。その際、この溶液濃縮は、ポリマー濃度を十分に一定に維持するのに対応した緩徐なプロセス操作により行われる。
【0193】
さらに、温度変化を含めた2以上の前記方法を適切に組み合わせることができる。したがって、たとえば溶液の組成を前記のように変更するほか、補助的に溶液を徐々に濃縮し、および/または温度を適切に変化させることが可能である。
【0194】
選択した反応条件に応じて、1種類のポリマーまたはそれ以上の互いに異なるポリマーをキャリヤー材料に付与することも可能である。特に、2種類以上の互いに異なるポリマーを同時にキャリヤー材料に付与するように反応条件を選択することが可能であり、その際、2種類以上の互いに異なるポリマーを含む1層がキャリヤー材料上に生成する。2以上の互いに異なるキャリヤー材料を使用する場合、各キャリヤー材料に1層のポリマーを付与することができ、これは1種類のポリマーまたは2種類以上の互いに異なるポリマーを含むことができる。
【0195】
さらに、1工程でキャリヤー材料に少なくとも1種類のポリマーを2層以上付与することも可能であり、その場合、ポリマーの第1層はキャリヤー材料に結合し、ポリマーの第2層は第1層に結合し、場合によりさらにポリマーの各層がそれぞれその前の層に結合する。その際、各層は原則として1種類のみのポリマーまたは2種類以上の互いに異なるポリマーを含むことができる。
【0196】
さらに、第2態様によれば、少なくとも1種類のポリマーの溶液がθ状態にある反応条件下でキャリヤー材料と接触させることができる。この態様に関して、キャリヤー材料への少なくとも1種類のポリマーの付与は、きわめて好ましくは溶液をキャリヤー材料と接触させる際に行われる。
【0197】
好ましくは、前記方法によれば、第1工程で少なくとも1種類のポリマーの1層をキャリヤー材料に付与し、この第1層上に第2工程で第2層を、そして第2層上に場合により第3工程で第3層を付与し、以後、同様に付与する。適切な付与方法に関しては、前記の考察が参照される。
【0198】
「キャリヤーへのポリマーの結合」という概念には、少なくとも1種類のポリマーがキャリヤー材料と、および/または場合により既にキャリヤー材料に付与されたポリマー層、もしくは場合により既にポリマー層上に付与されたポリマー層と相互作用しうる、共有−可逆的、共有−不可逆的および非共有相互作用のすべてが含まれる。
【0199】
したがって、たとえばそのような非共有相互作用を形成しうる本質的にすべてのポリマーを使用できる。この場合、特に、それによりポリマーがこれらのうち少なくとも1つの相互作用を行う少なくとも1つの官能基が、ポリマーストランド自体および/または少なくともポリマーストランドの側鎖中にあることが考えられる。
【0200】
しかし、相互作用はたとえばファンデルワールス相互作用を形成しうる炭化水素鎖および他の構造単位によって起きることも考えられる。
共有−可逆的相互作用に関しては、特にたとえばジスルフィド橋による、または不安定なエステルもしくはイミン、たとえばシッフ塩基もしくはエナミンによる結合が挙げられる。
【0201】
他の態様においては、前記のように少なくとも1種類のキャリヤー材料に対して共有相互作用および/または非共有相互作用を形成しうる限り、前記のすべてのポリマーおよび/またはコポリマーあるいはその混合物を、誘導体化していない形でキャリヤーに付与することもできる。
【0202】
キャリヤーに付与したポリマーを誘導体化するためには、前記の活性化工程および誘導体化工程を使用でき、これに続いてさらにたとえば国際特許出願公開WO00/32649パンフレットおよび国際特許出願公開WO00/78825パンフレットに記載されているような架橋工程を行うことができる。
【0203】
この態様において本発明方法は、少なくとも2つの同一または異なる官能基を備えたポリマーに少なくとも2つの異なる基を共有結合させる前に、それらのポリマーをキャリヤーに付与することを特徴とする。
【0204】
他の格別の態様において本方法は、少なくとも2つの同一または異なる官能基を付与したモノマーの重合または重縮合により、少なくとも2つの同一または異なる官能基を備えたポリマーを直接キャリヤー上で得ることを特徴とする。
【0205】
その際、好ましくは、OH−基、場合により置換されたアミン基、SH−基、OSOH−基、SOH−基、OPO−基、OPOHR−基、PO−基、POHR−基、COOH−基、およびこれらの2以上からなる混合物(Rは好ましくはアルキル残基を意味する)を含むオレフィン性不飽和モノマーを、既知の方法によりキャリヤー材料の存在下で互いに重合させることができる。これらのモノマーは他の極性基、たとえば−CNを含むこともできる。他の適切なモノマーは、たとえばエチレンイミン、アリルアミンまたはビニルピロリドンである。
【0206】
重合法としては、好ましくは乳化重合、懸濁重合、分散重合および沈殿重合が挙げられ、その際、キャリヤーまたはキャリヤー材料の存在下で重合を行う。重合は常法により、たとえばラジカル開始剤、たとえばアゾ化合物もしくは過酸化物により、カチオン開始剤もしくはアニオン開始剤により、または高エネルギー照射により開始できる。
【0207】
1態様においては、生成ポリマー鎖とキャリヤー表面の間に反応が起きない状態で重合を行うことができる。その際この態様は、好ましくは少なくとも2種類のモノマーの1つとして親水性モノマー、たとえばエチレンイミン、アリルアミンまたはビニルピロリドンを用いる場合に採用される。親水性キャリヤー、たとえばシリカゲルの存在下で、生成ポリマーは通常はキャリヤー表面に強く吸着する。
【0208】
コーティングしたキャリヤーの安定性を高めるために、ポリマーをキャリヤーと架橋させることもできる。これは、好ましくは加熱により達成でき、その際、最初に吸着したポリマーの官能基がキャリヤーと反応し、あるいはキャリヤーの官能基がポリマーと反応して、その際に結合が起きる。
【0209】
しかし、ポリマーがキャリヤーの表面に直接に化学結合するように(共)重合を実施することもできる。この態様は、特に安定なコーティングキャリヤーを製造すべき場合に好ましい。このためにキャリヤーに、キャリヤーの表面で形成されるポリマー鎖と重合条件下で反応する基を備えさせることができる。しかし、ポリマーの官能基がキャリヤーの表面と反応することも可能である。キャリヤー材料としてシリカゲルを使用する場合、たとえばシリカゲルの表面に存在するシラノール基を、少なくとも2つの官能基をもつモノマーの重合に関与させ、これによりキャリヤーとポリマーを互いに固着させることもできる。たとえばビニルシランをキャリヤーの表面に固着し、そのビニル基を、少なくとも2つの同一または異なる官能基をもつモノマーの共重合に関与させることもできる。
【0210】
形成された固定相の安定性をさらに高めるために、少なくとも2つの同一または異なる官能基をもつモノマーの重合を、1種類以上の架橋剤の存在下で実施することもできる。架橋剤は、たとえば二官能性化合物、たとえばジビニルベンゼンまたはエチレングリコールジアクリラートである。
【0211】
同様に、少なくとも2つの同一または異なる官能基をもつモノマー構造単位、好ましくは前記の基をもつものを、既知の方法により、キャリヤー材料の存在下で互いに重縮合させることができる。
【0212】
その際、同様に国際特許出願公開WO00/32649パンフレットおよび国際特許出願公開WO00/78825パンフレットに記載されるように、ONB−Clをベースとする方法および試薬を使用できる。
【0213】
得られた官能化された重縮合物は、好ましくはポリフェニレン、ポリエステル、ポリアミド、ポリエーテル、ポリエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリウレタンまたはポリシロキシルシランのタイプのものであってよい。この反応タイプの場合、混合重縮合物が生成する可能性もある。その際、この重縮合は溶液中でも溶融状態でも実施できる。
【0214】
好ましくは、ポリエステルタイプの重縮合物を使用する。これは、安定性を高めるために、他の多官能性化合物、たとえば多価アルコール、たとえばトリメチロールプロパン、ペンタエリトリトールまたは糖類の添加により、さらに架橋することができる。ポリエステルがイソシアネート基と反応性の基を備えている限り、多官能性イソシアネートによる架橋も可能である。たとえば、ヒドロキシル基含有ポリエステルをポリイソシアネートと反応させることができ、その際、ポリエステル/ウレタン単位が組み込まれる。
【0215】
次いで、得られたコーティングされたキャリヤー材料を、重合または重縮合に際して得られた反応混合物から濾過により単離し、そして適切な溶媒で洗浄することによりキャリヤー材料の表面に結合していない重合物粒子または重縮合物粒子を除去することができる。
【0216】
したがって本発明方法は、少なくとも2つの同一または異なる官能基をもつモノマーの重合または重縮合により、少なくとも2つの同一または異なる官能基を備えたポリマーをキャリヤー上で直接得ることも特徴とする。
【0217】
キャリヤーをコーティングするために行う前記の重合を既知の「インプリンティング法」と同様に、のちに検知すべき物質の存在下で実施することもできる。この技術の用語法では、「基体」という概念の代わりに「鋳型」という概念もしばしば用いられる。
【0218】
この重合の要件は、少なくとも2つの同一または異なる官能基をもつモノマーが既に結合能を有する基を備えていることである。この場合、好ましくは各モノマーがそれらの基を1つ備えており、その際それらの基は互いに異なっている。
【0219】
しかし、結合能を有する少なくとも2つの異なる基を既に備えたモノマー単位を使用することもできる。
好ましくは、重合はポア形成物質の存在下で実施される。
【0220】
この重合を実施するために、さらに前記の重合法を使用できる。
基体を適切な溶媒で溶解除去または洗浄除去した後、工程(ii)において、基体のための予め形成された相互作用空間をもつ少なくとも1種類の収着剤が得られる。
【0221】
好ましくは、この態様に関して重合に用いるモノマーは、キャリヤー上に形成されるポリマーが可能な限り堅牢な高架橋スキャフォールドをもち、このため相互作用空間が可能な限り安定であるように選択される。したがって、好ましくは少なくとも1種類の官能化モノマーとして、アクリル酸もしくはメタクリル酸またはその誘導体もしくはこれらの混合物を使用する。これらは周知のとおり、高いガラス転移温度をもつポリマーまたはコポリマーを製造できる。この目的に特に好適なモノマーとしては、たとえばメタクリル酸およびエチレングリコールジメタクリレートが挙げられる。
【0222】
他の例としては、メタクリル酸とアクリル酸ヒドロキシエチルの重合が挙げられ、その場合、結合能を有する基としてカルボキシル基およびヒドロキシル基を含むポリマーが得られる。
【0223】
しかし、のちに検知すべき物質の存在下でキャリヤーをコーティングする、前記の重縮合を実施することもでき、その際、モノマーとしては、結合能を有する異なる基を既に備えた化合物を使用する。その際、好ましくは各モノマーがこれらの基を備えており、その場合それらの基は異なる。
【0224】
しかし、結合能を有する少なくとも2つの異なる基を既に備えたモノマーを使用することもできる。
基体を適切な溶媒で溶解除去または洗浄除去した後、工程(ii)において、基体のための予め形成された相互作用空間をもつ少なくとも1種類の収着剤が得られる。
【0225】
したがってこの態様は、結合能を有する少なくとも2つの異なる基を有する少なくとも1種類のモノマー、またはそれぞれ結合能を有する少なくとも1つの基を有する少なくとも2種類のモノマー(その際、それらの基は異なる)の重合または重縮合により、ポリマーをキャリヤー上で直接製造することを特徴とし、この重合または重縮合はのちに結合すべき基体の存在下で行われる。
【0226】
好ましくは、前記モノマーの重合または重縮合をキャリヤーの存在下で直接実施するこの態様は、結合能を有する基を含まない少なくとも1種類の第2または第3モノマーの存在下で行われる。その際、この少なくとも1種類の第2または第3モノマーはスペーサーの機能をもつ。
【0227】
少なくとも二価の基体を少なくとも1種類の収着剤に結合させるために必要な少なくとも2つの異なる基がポリマーに結合していることは、必ずしも必要ではない。これらの基は、工程(ii)においてポリマーを用いずにキャリヤーの表面に直接固定化することもできる。
【0228】
好ましくは、キャリヤー上への直接固定化は、キャリヤーが無機材料から構築される場合に行われる。無機材料としては、好ましくはシリカゲルまたは酸化アルミニウムが挙げられる。
【0229】
好ましくは、固定化は活性剤および/またはシラン化剤により行われる。キャリヤーの表面との連結は、スペーサーを用いて行うこともできる。
好ましくは、活性剤として国際特許出願公開WO00/32648パンフレットに記載されたものを使用できる。
【0230】
シラン化剤には、好ましくはヒドロキシリル化反応を行うことができるケイ素化合物も含まれる。
好ましくは、シラン化剤としてハロシラン、好ましくはクロロシラン、アルコキシシランおよびシラザンを使用する。
【0231】
この場合、1態様においては、付与すべき基体を結合するのに必要な基をもつ化合物を、まず適切なケイ素化合物と反応させることができる。次いでこの生成物を、キャリヤーの表面にあるヒドロキシル基により、酸素−ケイ素−共有結合を形成して固定化することができる。たとえば、場合によりたとえばアミノ基、尿素基、エーテル基、アミド基およびカルバメート基で置換されていてもよいアルキル残基を、この方法でアルキル化シランの使用により表面に固定化できる。
【0232】
たとえば、この方法で3−アミノプロピル残基をケイ素原子によりキャリヤーの表面に固定化できる。その際、このアミノ基をさらに、たとえば酸塩化物と反応させてアミドにすることができる。脂肪族、好ましくは芳香族の酸塩化物、ならびに活性化した構造単位、特にONB−活性化した構造単位、たとえば国際特許出願公開WO00/32649パンフレットおよび国際特許出願公開WO00/78825パンフレットに記載のものを使用できる。
【0233】
アルキル残基をキャリヤーに付与することができるケイ素化合物の例は、メチルトリクロロシランおよびオクチルトリクロロシラン(これらを用いて比較的短かい、ないし中間のアルキル残基を導入できる)、ならびにオクタデシルトリクロロシラン、ドコシルトリクロロシランおよびトリコンチルトリクロロシラン(これらを用いて比較的長い鎖を導入できる)である。たとえば、3−アミノプロピル−トリエトキシシランを用いるとアミノ基を含有する短鎖アルキル残基を導入できる。
【0234】
さらに、加水分解後にジオール(ジオール相とも呼ばれる)を形成するシリルグリシジルエーテルも使用できる。
他方では、まずキャリヤーの表面を、さらに1以上の官能基をもつケイ素化合物と反応させることもできる。次いで、結合のために選択または決定した基(キャリヤーに固定化すべきもの)を適切な化合物により、この1以上の官能基を介して導入することができる。
【0235】
たとえば、キャリヤーの表面への導入のために、さらに1つの二重結合をもつケイ素化合物を使用できる。次いでこの二重結合を介して、結合のために予定した基を導入できる。適切なケイ素化合物の例は、ビニルシランまたは(メタ)アクリルオキシプロピルトリメトキシシランである。
【0236】
前記の方法を組み合わせて使用することもできる。
場合により、結合のために予定した基の結合はスペーサーを介して行うこともでき、その際、好ましくは固定化すべき基とキャリヤーの間に短鎖の炭素鎖を組み込む。キャリヤーと固定化すべき基との連結は、好ましくは適切なカルボジイミド、たとえばジシクロカルボジイミド、ジイソプロピルカルボジイミド、N−シクロヘキシル−N’−2−(N−メチルモルホリノ)−エチルカルボジイミド−p−トルエンスルホネート、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、クロロホルメート、カルボニルジイミダゾール、またはジイソシアネート、たとえばヘキサメチレンジイソシアネートにより行われる。ホモ−またはヘテロテロマーポリエチレングリコールも使用できる。
【0237】
スペーサーを使用すると、好ましくはブラシ形の相が生成し、結合能を有する少なくとも2つの異なる基が好ましくはスペーサーの末端および/またはスペーサーの側部に結合する。
【0238】
したがってこの態様は、工程(ii)において、第2基体との結合能を有する少なくとも2つの異なる基を、活性剤、シラン化剤およびスペーサーまたはそれらの試薬のうち2種類以上の混合物を含む群から選択される試薬によりキャリヤーに付与することをも特徴とする。
【0239】
結合能を有する少なくとも2つの異なる基として、先行技術に記載されている基、すなわちシリカゲルスキャフォールドからのヒドロキシル基、またはシラン化試薬により導入したシラノール基およびアルキル基をもつ収着剤を使用するのでは、基体特異的結合には不十分であることが証明された。したがって、ヒドロキシル、シラノールおよびアルキル、またはヒドロキシルおよびアルキル、またはシラノールおよびアルキルの基からなる組合わせ(これらの基はそれぞれシリカゲルに固定化されている)は、本発明から除外される。
【0240】
これに対し、本発明の意味において特に好適な基は、フェニル、ヒドロキシフェニル、カルボキシル、アミンおよびアミド残基、ならびにヒドロキシル、インドール、イミダゾールおよびグアニジン残基などの基である。好ましくはこれらの残基は、スペーサーにより、ブラシ形の相を形成してキャリヤーの表面に結合する。
【0241】
したがって特に好ましい態様は、工程(ii)において、第2基体との結合能を有する少なくとも2つの異なる基を、フェニル、ヒドロキシフェニル、カルボキシル、アミン、アミド、ヒドロキシル、インドール、イミダゾールおよびグアニジン残基よりなる群から選択することを特徴とする。
【0242】
前記の方法に従って製造した少なくとも1種類の収着剤を、常法により、好ましくは箔、フィルム、マイクロタイタープレートまたはナノビーズに加工することができる。好ましくは、工程(ii)の少なくとも1種類の収着剤をナノ形態で製造して使用する。
【0243】
結合すべき基体、または基体混合物から選択的に結合すべき基体を、次いで工程(iii)において、少なくとも1種類の収着剤と接触させる。その際、基体または基体混合物は、固相、液相もしくは気相で、またはこれらの相のうち2以上の混合相で存在してもよい。
【0244】
好ましくは基体または基体混合物は液相で存在する。その際、基体または基体混合物の溶液も、懸濁液または分散液も使用できる。液体としては、水も、有機溶媒、有機溶媒の混合物、ならびに水および有機溶媒を含有する混合物も使用できる。すべての場合、緩衝剤、塩類、酸、塩基、または調節剤、たとえばイオン対試薬が、任意の濃度で前記の液体中に存在してもよい。好ましくは、濃度は1Lの液体に対して10ミリモルないし2モルである。好ましくは、結合すべき基体は水性形態で、たとえば体液として存在する。
【0245】
収着剤への基体の結合または結合挙動を試験するために、既知の方法および手法を採用できる。その際、収着剤と基体の結合は、好ましくは非共有結合であると解釈される。
その際、非共有結合は、好ましくは冒頭に記載した相互作用であると解釈される。
【0246】
しかし、少なくとも1種類の基体が共有−可逆的または共有−不可逆的に、少なくとも1種類の収着剤に結合することもできる。
好ましくは、工程(iv)において工程(iii)の少なくとも1種類の収着剤への少なくとも1種類の第2基体の結合強度を試験するためには、クロマトグラフィー法および分析法が適切である。特に挙げられるのはカラムクロマトグラフィー法、たとえば既知のHPLC法である。その場合、少なくとも1種類の収着剤をカラムの固定相として使用する。溶出した一連の基体から、それぞれ使用した収着剤へのその結合強度を直接推論できる。最も強く結合する基体が最後に溶出する。
【0247】
分離すべき基体混合物の希釈溶液を固定相に連続的に付与するフロント分析を実施できる。こうして、最も強く結合する基体をより弱く結合するものから識別できる。後者は最初に溶出液中に現われるからである。
【0248】
しかし、既知の溶出法も実施できる。その場合、比較的濃厚な基体混合物溶液をカラムヘッドに付与し、次いで溶離剤で溶離する。弱く結合する基体は最初に溶出液中に現われる。次いで、最も強く結合する基体を、場合によってはより強く溶離する溶離剤を用いて収着剤から脱着させることができる。
【0249】
好ましくは、微量熱量測定法も採用できる。その場合、基体が収着剤に結合する際に放出される吸着熱を測定する。
他の有利に使用できる方法は、表面プラズモン共鳴法であり、その場合、励起される電子の共鳴周波数を測定する。これは基体と収着剤の境界層の物理的特性に依存し、すなわち結合強度にも依存する。
【0250】
好ましくは、試験法として蛍光標識法も使用でき、その場合、蛍光色素で標識した基体が相補的な受容体と相互作用した場合にのみ蛍光を発する。
他の方法は、酵素結合イムノソルベントアッセイ法(Elisa)であり、その場合、たとえば収着剤に結合した抗原を免疫試薬で処理することにより検出できる。競合および非競合アッセイ法も使用でき、ラジオアッセイ法もそれに含まれる。
【0251】
したがって本発明のこの態様は、工程(iv)において収着剤への基体の結合強度を試験するためにクロマトグラフィー、微量熱量測定法、表面プラズモン共鳴法、蛍光標識法、競合および非競合アッセイ法(ラジオアッセイおよびElisaを含む)を含む群から選択される方法を使用することを特徴とする。
【0252】
結合強度から、どの収着剤またはそれに付与されたどの基が基体の結合に関与するかについて情報を得ることができる。したがってこれらの方法は、当該基体の単離、同定および特性解明を可能にする。したがって、基体の機能および特性を評価することができる。
【0253】
したがって、前記の基体を選択的に結合するための本発明方法は、さらに工程(v)を含むことを特徴とする:
(v)少なくとも1種類の第2基体を単離する。
【0254】
さらに、前記の基体を選択的に結合するための本発明方法は、工程(vi)をさらに含むことを特徴とする:
(vi)少なくとも1種類の第2基体を特性解明および同定する。
【0255】
新規方法により製造された収着剤は、特に天然基体または天然有効物質および合成有効物質を選択的に結合するのに適切である。これらの基体および有効物質は共通して、ファーマコフォア、すなわち生体内で生物作用のための基礎を形成する空間配列の基をもつ。ファーマコフォアは、その有効物質を天然受容体の結合ポケット内に連結させる。ファーマコフォアは、フレームすなわちスキャフォールド(Geruest)(英語文献ではscaffoldとも呼ばれる)に連結する。
【0256】
天然の基体および有効物質には、好ましくはアミノ酸、オリゴペプチド、ヌクレオチド、タンパク質、糖タンパク質、抗原、抗原決定因子、抗体、炭水化物、酵素、補酵素、発酵産物、ホルモン、アルカロイド、グリコシド、ステロイド、ビタミン、代謝産物、ウイルス、微生物、植物および動物の組織に含有される物質、細胞、細胞フラグメント、細胞コンパートメント、細胞分解物、レクチン、フラビリウム化合物、フラボン類、およびイソフラボン類が含まれる。
【0257】
本発明の範囲において、天然の受容体および酵素、または薬理作用をもつ他のタンパク質を分解し、本発明に従って収着剤の集合体を作製し、本発明に従って使用することは特に重要である。そのような受容体は、好ましくは合成または天然の有効物質を結合することができる細胞内タンパク質または膜内在性タンパク質である。
【0258】
細胞内受容体は、細胞質および細胞核から得ることができる。そのような受容体、またはこれらの受容体の少なくとも2つの結合基を含む収着剤は、ステロイドホルモン、たとえばグルココルチコイド、ミネラロコルチコイド、アンドロゲン、エストロゲン、ゲスタゲン、ビタミン−D−ホルモン、およびレチノイドまたは甲状腺ホルモンの選択的結合に使用できる。
【0259】
その結合基を本発明に従って収着剤に付与することができる膜内在性受容体は、グアニン−ヌクレオチド−タンパク質結合受容体、イオンチャンネル受容体および酵素関連受容体である。
【0260】
グアニン−ヌクレオチド−タンパク質結合受容体の群には、薬物療法に特に重要な神経伝達物質受容体、たとえばアデノシン受容体およびアドレナリン受容体、ATP−(P2Y−)受容体、ドーパミン受容体、GABAB受容体、(代謝共役型)グルタミン酸受容体、ヒスタミン受容体、ムスカリン受容体、オピオイド受容体およびセロトニン受容体が属する。ホルモン受容体および仲介物質受容体、たとえばアジウレチン、グルカゴン、ソマトスタチンおよびプロスタグランジンの受容体も、このグループに属する。
【0261】
イオンチャンネル受容体には、ATP−(P2X−)受容体、GABA受容体、(イオンチャンネル共役型)グルタミン酸受容体、グリシン受容体、5−HT受容体およびニコチン受容体が含まれる。
【0262】
酵素関連受容体には、チロシンキナーゼ活性、関連チロシンキナーゼ、グアニル酸シクラーゼ活性をもつ受容体および受容体−セリン−/トレオニンキナーゼが属する。
合成有効物質には、たとえば医薬および植物保護剤が含まれる。
【0263】
医薬は、たとえば神経系に対する作用をもつ物質(向精神薬、睡眠薬、覚醒薬、鎮痛薬、局所および全身麻酔薬、筋弛緩薬、抗痙攣薬、抗パーキンソン病薬、制吐薬、神経節作用物質、交感神経作用物質、副交感神経作用物質);ホルモン系に対する作用をもつ物質(視床下部ホルモン、下垂体ホルモン、甲状腺ホルモン、副甲状腺ホルモンおよび腎臓ホルモン、胸腺ホルモン、膵臓、副腎、性腺の島器官に作用する物質);仲介物質に対する作用をもつ物質(ヒスタミン、セロトニン、エイコサノイド、血小板活性化因子、キニン);心臓−循環系に対する作用をもつ物質;呼吸器管に対する作用をもつ物質(抗喘息薬、鎮咳薬、去痰薬、界面活性剤);消化管に対する作用をもつ物質(消化酵素、肝臓薬);腎臓および下部尿路に対する作用をもつ物質(利尿薬);眼に対する作用をもつ物質(眼薬);皮膚に対する作用をもつ物質(皮膚療法薬);感染性疾患の予防および治療のための物質(抗菌作用薬、抗真菌薬、ウイルス症および原虫症に対する化学療法薬、駆虫薬);悪性腫瘍に対する作用をもつ物質(代謝拮抗薬、細胞増殖抑制薬、トポイソメラーゼ阻害薬、細胞分裂阻害薬、細胞増殖抑制作用をもつ抗生物質、ホルモンおよびホルモンアンタゴニスト);免疫系に対する作用をもつ物質および免疫作用をもつ物質(血清、免疫調節薬、免疫抑制薬)である。
【0264】
植物保護剤は、たとえば防虫剤、除草剤、殺虫剤および殺真菌剤である。
合成有効物質の化合物および化合物クラスとしては、下記のものが挙げられる:フェノチアジンおよびフェノチアジン類似体、ブチロフェノンおよびジフェニルブチルピペリジン、ベンザミド、ベンゾジアゼピン、ヒドロキシトリプトファン、カフェイン、アンフェタミン、オピオイドおよびモルフィン、フェチジンおよびメサドン、サリチル酸誘導体およびアセチルサリチル酸誘導体、アリールプロピオン酸誘導体、アントラニル酸誘導体、アニリン誘導体、ピラゾール誘導体、スルファピリジン、ヒドロキシクロロキンおよびクロロキン、ペニシラミン、N−メチル化バルビツレートおよびチオバルビツレート、ジプロピル酢酸、ヒダントイン、ドーパミン、ノルアドレナリンおよびアドレナリン、麦角アルカロイド、カルバミン酸誘導体、リン酸エステル、ベラドンナアルカロイド、視床下部ホルモン、HLV−ホルモン、下垂体後葉ホルモン、チオウラシル類およびメルカプトイミダゾール類、スルホニル尿素類、ヒスタミン類、トリプタン類、プロスタグランジン、ジピラジモール、ヒルジンおよびヒルジン誘導体、チアジド、プソラレン、過酸化ベンゾイルおよびアゼライン酸、ビタミンA、ビタミンK、ビタミンB、B、B、ニコチン酸アミド、ビオチン、ビタミンB12、ビタミンC、ハロ化合物、アルデヒド類、アルコール類、フェノール類、N−含有複素環式化合物、ピレスリンおよびピレスロイド、リン酸エステル、チオリン酸エステル、カルバミンエステル、β−ラクタム、アミノグリコシド、テトラサイクリン、フルオロキノリン類、オキサゾリジノン類、ジアミノベンジルピリミジン類、ピラジンアミド類、グリセオフルビン、アジリジン、アクチノマイシン、アントラサイクリン、サイトカイン、モノクローナル抗体およびポリクローナル抗体。さらに、抗原決定因子、レクチン、フラビリウム化合物、フラボン類、およびイソフラボン類、ならびにオリゴ糖および多糖を挙げることができる。
【0265】
合成有効物質は、天然有効物質を用いて製造することもできる。さらにこの概念は、潜在有効物質、およびファルマコフォアをもつ物質、および前記ファルマコフォアを連結させるスキャフォールドも含まれる。
【0266】
冒頭に既に述べたように、前記基体を選択的に分離するための新規方法は、任意の基体が天然受容体と一般に相互作用しうるかどうかについての情報を得るのに特に適切である。逆に、たとえば基体認識に関連するすべての基を用いて、合成分子領域、たとえばエピトープのライブラリーを作製することもできる。ライブラリーの構成要素は、それぞれ2、3またはそれ以上の異なる相互作用部位を含有する。たとえば既知の有効物質をこの合成受容体ライブラリーと接触させると、天然受容体への結合部位のタイプに関する推定情報が得られる。
【0267】
したがって本発明においては、受容体または収着剤の側と基体の側にそれぞれ少なくとも2つの異なる化合物残基または化合物において結合に関与する基が含まれるという新規な相補性原理を利用する。その際、好ましくは化合物はアミノ酸、糖類、ヌクレオチド、ヌクレオシド、ピリミジン塩基およびプリン塩基を含む群から選択される。
【0268】
この二価分子範囲相互のすべての可能な組合せのうち、もちろんわずかな特定のものだけが相補性に適合し、すなわち相互作用エネルギー的に十分である。多数の組合わせ、たとえば一方は疎水性残基、他方は親水性残基のすべての対、または反発するすべての残基が、エネルギー的に不十分である。
【0269】
たとえば結合能を有する対合基、OH残基/フェニル残基とアミノ残基/アルキル残基の組合わせは適合するが、OH残基/フェニル残基とアルキル残基/アミノ残基の組合わせは適合しない。親水性のOH残基とアミノ基および疎水性のフェニル残基とアルキル残基のみが互いに結合するからである。他の適合する組合わせは、たとえばカルボキシル残基/アミノ残基とアミノ残基/カルボキシル残基、およびイミダゾール残基/ヒドロキシル残基とアミド残基/アミド残基である。この考察の意味において不適合なものは、ヒドロキシル残基/フェニル残基とアルキル残基/アミノ残基の組合わせである。親水性残基は疎水性残基を結合できないからである。
【0270】
20種類のアミノ酸の場合、結合能を有するそれぞれ少なくとも1つの基を含む構造単位のダブレットについて合計380の異なる組合わせが得られる。意味のある構造異形のみを含むライブラリーを得るためには、もちろん本質的にこれより少ないこれらの合成構造単位ダブレット(ダブレット受容体とも呼ぶことができる)を使用する。一連のアミノ酸において、たとえばトレオニンおよびセリンの場合、グルタミンおよびアスパラギンの場合、バリン、イソロイシンおよびロイシンの場合などのように、官能基は同一だからである。したがって、一般にこれら20種類のアミノ酸のうち好ましくは最高7種類を使用するだけで十分である。
【0271】
合成受容体中に移動可能な状態で結合した受容体基はその空間配位を基体の要求に応じて変更できるので、希望する結合目的のためにその異なる長い鎖をもつアミノ酸そのものを必要とせず、相互作用に必要な基本のみでよい場合が多い。この意味で、塩基性官能基のみが必要であるとすれば、たとえばアルギニン、リシン、トリプトファンおよびヒスチジンの官能基は、しばしば単にアミノ基により呈することができる。
【0272】
たとえば7種類のアミノ酸のうち4種類のアミノ酸またはこれらのアミノ酸の本発明の意味における基本のみを使用すると、順列により合計でわずか35の異なる組合わせのダブレット受容体が得られる。
【0273】
したがって本発明の他の対象は、少なくとも2つの異なる基をもつ少なくとも1種類の基体の結合に適した、それぞれ少なくとも2つの異なる基を有する収着剤の集合体を含むコンビナトリアルライブラリーでもあって、その際、収着剤のそれぞれ少なくとも2つの異なる基と少なくとも1種類の基体の少なくとも2つの異なる基が互いに相補的である。
【0274】
これらのコンビナトリアルライブラリーは、好ましくは収着剤の少なくとも2つの異なる基および少なくとも1種類の基体の少なくとも2つの異なる基を、異なるアミノ酸、糖類、ヌクレオチド、ヌクレオシド、ピリミジン塩基およびプリン塩基の構造単位の群から選択することを特徴とする。
【0275】
他の態様においてコンビナトリアルライブラリーは、収着剤の製造が工程(i)ないし(ii)を含むことを特徴とする:
(i)収着剤への合成または天然の第1基体の結合能を有する少なくとも2つの異なる基を決定し、
(ii)合成または天然の第2基体との結合能を有するそれぞれ少なくとも2つの異なる基を、それぞれ1つのキャリヤーに付与して少なくとも1種類の収着剤を形成し、その際、これらの基は工程(i)のものと同一の基またはそれに相補的な基であり、工程(ii)の第2基体は工程(i)による第1基体と同一であるか、または異なる。
【0276】
本発明の他の対象は、基体の選択的分離に際して得られる収着剤/基体複合体でもある。この収着剤/基体複合体は、結合能を有する少なくとも2つの異なる基を有する少なくとも1種類の収着剤、および結合能を有する少なくとも2つの異なる基を有する少なくとも1種類の基体を含み、その際、少なくとも1種類の収着剤の結合能を有する少なくとも2つの異なる基と、基体の結合能を有する少なくとも2つの異なる基とは、互いに相補的である。
【0277】
好ましくは、少なくとも1種類の収着剤の少なくとも2つの異なる基と、少なくとも1種類の基体の少なくとも2つの異なる基とは、異なる基を含み、それらはアミノ酸、糖類、ヌクレオチド、ヌクレオシド、ピリミジン塩基およびプリン塩基の構造単位である。
【0278】
収着剤/基体複合体において、少なくとも1種類の収着剤と基体の結合は、非共有−可逆的結合、共有−可逆的結合または共有−不可逆的結合である。好ましくは、この結合は非共有可逆的である。
【0279】
本発明の他の対象は、基体を少なくとも二価結合により収着剤に選択的に結合させるための新規方法の使用、およびコンビナトリアルライブラリーの使用でもある。
利用分野は、受容体/有効物質相互作用の検出および有効物質のスクリーニングである。
【0280】
好ましくは、受容体/有効物質相互作用の検出および有効物質のスクリーニングのために、前記の有効物質または有効物質クラスを使用する。
新規有効物質候補(リード物質)の開発にも、本発明を有利に使用できる。これらのリード物質を、それらの活性、選択性、生物学的利用能、薬物動態および毒性に関して、新規方法またはンビナトリアルライブラリーを使用して最適化することができる。
【0281】
その際、有効物質候補を1セクションの生物学的結合部位のみにおいて相互作用させることも可能である。少なくとも2つのセクションの生物学的結合部位において結合する少なくとも2種類のそのような有効物質候補の組合わせおよび結合により、簡単に新規有効物質を見いだすことができる。これらの有効物質探索は、高パラレル操作法を用いて行うこともできる。
【0282】
他の利用分野は、立体異性化合物および構造異性化合物の分離である。
さらに、基体および基体混合物の精製および/または分離が可能である。
好ましくは、この精製および/または分離はクロマトグラフィー法により行われる。他の適切な方法としては、電気泳動、等電点電気泳動、平坦床ゲル電気泳動、パラレルクロマトグラフィー、パラレルフラッシュクロマトグラフィーおよびキャピラレー法を挙げることができる。選択性が十分に高い場合、収着剤を添加して1種類の基体を溶解混合物から直接に吸着させ、沈殿させ、収着剤/基体複合体の形で濾過することができる。
【0283】
他の利用分野は、物質混合物からの有害物質および分解生成物の除去であり、その際、これらの物質がきわめて低い濃度で存在してもよい。
好ましくは体液、たとえば血液から、有害物質および分解生成物を除去できる。そのような有害物質および分解生成物は、たとえば中毒に際して代謝産物として存在する。それらは生物原性のものであっても体内自体で形成されたものであってもよいが、身体に外部から、たとえば皮膚を介して、口腔粘膜を介して、または注射により、たとえば血中に導入されたものであってもよい。有毒物質および分解生成物は、蛇毒液および麻酔剤でもある。
【0284】
好ましくは、新規収着剤を透析装置内に使用できる。
さらに、溶媒、プロセス水、および食品製造プロセスから有害物質を除去できる。
本発明を用いて、特に代謝および生物学的利用能について薬物動態の研究を行うことができる。
【0285】
選択的結合のための新規方法は、動的コンビナトリアルライブラリーのデプレションのためにも有利に使用できる。その場合、多数の抽出物のほかに目的物質、好ましくは有効物質を含有する混合物から後者を本発明に従って分離するように行うのが有利である。そのために、混合物中にさらに基体を形成して新たに平衡状態を成立させる。基体がもはや形成されなくまるまで、この分離操作を繰り返す。
【0286】
前記に述べたように、新規方法は基体を少なくとも1種類の他の基体との混合物から「目的に従って」かつ「選択的に」分離するために使用される。
したがって「選択的結合」という概念は、本発明によれば、少なくとも2つの異なる基を備えた基体を収着剤上にある少なくとも2つの異なる基と、随伴基体より強固に結合させることにより、その基体を少なくとも1種類の他の随伴基体との混合物から分離することであると理解される。
【0287】
本発明によれば、実施例によって明らかなように、相互作用の部位および相互作用のタイプを、特に下記の例によって、初めて正確に判定できる:
−目的に従って、希望する濃度および組合わせで結合部位を的確に受容体に導入することによる例、
−受容体および被験基体のいずれにおいても各結合部位を除去、付加、変更または遮断し、その際、結合強度に対する影響をそれぞれ厳密に(=エネルギー的に)決定することによる例、
−分光分析試験および吸着等温線の測定による例。
【0288】
たとえば、文献既知のそれぞれの非共有結合タイプそれぞれの寄与との比較により、多価結合の全体的な相互作用を予想外に良好に予測することができる。それぞれの結合エネルギーが予想高さで測定されると、逆にその結合に関与している基を推論することができる。
【0289】
したがって、選択した任意の分離課題に関して、目的に従った選択性を初めて達成できる。
この新規教示には、単離すべき標的化合物(基体)に関して、競合基体(随伴物質)との非共有相互作用と全く異なる、目的に沿った非共有多価相互作用を構築することが含まれる。
【0290】
本発明方法は、分離選択度(単に選択度とも呼ぶ)に関して高い値を示す。その際、分離選択度αは、収着剤への選択的に分離すべき基体それぞれの結合定数または容量係数と収着剤への随伴基体の結合の結合定数との商と定義される。
【0291】
たとえばある基体中のカルボキシル基を1個だけ除去した場合、分離選択度は35を超える値に達する。芳香族単環系を3環系に交換すると、10の値が得られる。
新規方法によれば技術的尺度の分離選択度を得ることができ、これは先行技術と比較して予想外に高く、これまでクロマトグラフィーにより不可能であった分離を可能にするのも稀ではない。
【0292】
少なくとも1種類の収着剤への結合能を有する少なくとも2つの異なる基を備えた選択的に結合すべき基体を、少なくとも1種類の収着剤を用いて基体混合物から分離する分離選択度αは、好ましくは1.4より大きい。
【0293】
分離選択度αは、好ましくは2より大きく、さらに好ましくは4より大きく、よりさらに好ましくは8より大きい。
分離選択度αは、さらに好ましくは10より大きく、よりさらに好ましくは35より大きい。
【0294】
さらに、結合定数は当業者に既知のギブスエネルギーの測定と直接関連するので、ギブスエネルギーと分離選択度の関係も示す。非共有結合のギブスエネルギー変化△Gが負であるほど、すなわち互いに結合する基の相補性が強く現われるほど、随伴物質に対する分離選択度もいっそう大きい。随伴物質は、ここで問題となっている結合能(標的物質との)をもつ基の導入により、ギブスエネルギー(これらの基または収着剤に対する)に関してさほど変化しない。
【0295】
さらに、任意の基体対に関する選択性を得るためには、結合能を有する基を1つ収着剤中に「追加」導入するだけで、分離すべき両基体のうち一方にその基に相補的なパートナーがない限り十分である。
【0296】
前記の方法で、同時に存在する(すなわち多価)結合の有無または結合のタイプを証明することもできる。これらの多価、特に結合定数およびギブスエネルギーに関して得られた設定値は、その基体を誘導フィットにより少なくとも一部は空間的に閉じ込めることができるか、または自身でコンホメーションを受容体に適合させる場合にのみ可能である。
【0297】
この適合は、「好ましくはポリマー網目構造」により可能であり、その際、なお十分なコンホメーション可動性があり、したがって基体構造への適合能が与えられるように、ポリマーナノフィルムの架橋度を選択する。分子質量1000ダルトン未満の小さな基体は、好ましくはポリマー網目構造に完全に閉じ込められる。より大きな基体、たとえばペプチドまたはタンパク質は、好ましくは限られた接触面積でポリマー網目構造の深部に結合し、これにより多価相互作用を行うことができるが、閉じ込めによる強すぎる結合は避けられる。
【0298】
選択的な多価結合部位の構築という構想を実現するためには、必要な結合点を空間内でコンホメーション可動性の状態で提供することがしばしば必要である。さらに、コンホメーション適合(誘導フィット)を達成するのに十分なほど強い結合性が基体により提供される必要がある。特に、目的とする結合事象がコンホメーション変化に基づいて多数実現されるほど高濃度で、少なくとも2つの必要な相互作用部位が空間内に予備組織化されなければならない。
【0299】
本発明を以下の実施例により説明する。
実施例1:ポリビニルアミン/シリカゲルをベースとする収着剤への、基体としてのN−ブロックアミノ酸の少なくとも二価結合による選択的結合
ポリビニルアミン/シリカゲルをベースとする4種類の異なる収着剤(表2中の収着剤)への、8種類の異なるアミノ酸誘導体(表1中の基体)の保持性を調べた。その際、分析法としてクロマトグラフィーを選択した。以下および他の実施例においても、収着剤を固定相、合成受容体、または受容体とも呼ぶ。
【0300】
アミノ酸誘導体は、アミノ基をそれぞれ4種類の異なる保護基アセチル(Ac)、t−ブチルオキシカルボニル(Boc)、ベンジルオキシカルボニル(Z)およびフルオレニルメトキシカルボニル(Fmoc)でブロックしたグルタミン誘導体(1〜4)およびグルタミン酸誘導体(5〜8)である。
【0301】
【表1】

【0302】
使用した受容体相は、ポリビニルアミンコーティングした粒径20μmおよびポア直径1000Åの球状シリカゲルであった。コーティング操作においては、まずアミノ相Aを形成した。誘導体化した受容体相B〜Dは、既知の方法に従って固相合成法によりアミノ相Aから製造した。
【0303】
【表2】

【0304】
すべての受容体相が、なお測定可能な含量の遊離アミノ基を含有しており、それらはプロトン化した状態で、基体の適切なアニオン基、たとえばカルボキシレート基とイオン相互作用することができた。受容体CおよびDは、さらに親油性相互作用に適した基を含んでいた。
【0305】
受容体のアミノ基含量は、DMF中10mMの4−トルエンスルホン酸を用いたクロマトグラフィーブレークスルー曲線から判定された。アミノ基の測定量/受容体相gを表3にまとめる。
【0306】
【表3】

【0307】
基体1〜8のクロマトグラフィー試験の移動相としては、pH7.5の水性トリス−HCl−緩衝液を用いた。溶離は無勾配条件下で緩衝液濃度10〜500mMにおいて行われた。
【0308】
それぞれの緩衝液中における基体と受容体間の相互作用の尺度として、装置に無関係な相対溶出量k’(容量因子)を用いた。それは下記の方程式に示すように、最大ピークにおける溶出容量とカラム死容量の差をカラム死容量で割ったものから計算された:
【0309】
【数1】

【0310】
10mMまたは50mMトリス−HCl−緩衝液中における基体のk’値を表4および5にまとめる。
【0311】
【表4】

【0312】
【表5】

【0313】
表4および5内およびそれらの間でのk’値の比較により、下記の所見およびそれらの所見の解釈が得られた:
1.観察:アセチル化受容体相B(ND 03001#2)は、最低緩衝剤濃度においても、注目すべき量では基体のいずれとも結合しなかった(k’=1.6)。
【0314】
観察の解釈:前記受容体は、基体のカルボキシレート基との潜在的なイオン性相互作用のためにごく僅かなアミノ基を含有するにすぎない。受容体相のアセチル基又はポリビニルアミン鎖のいずれも、重要な親油性相互作用を受けることができない。
【0315】
2.観察:10mM緩衝液中で、2つのカルボキシレート基を有する基体(5〜8)は、1つのみのカルボキシレート基を有する対応基体(1〜4)よりも約20〜40倍強く結合した。50mM中では、ジカルボキシレートの結合はモノカルボキシレートよりもさらに10〜25倍強かった。
【0316】
観察の解釈:基体のカルボキシレート基と、受容体のアミノ基との間には、明らかにイオン性相互作用が存在する。相互作用の二価性に基づいて、この相互作用は、ジカルボキシレートの場合には、1個のみのカルボキシル基を有する基体の場合に比べて非常に強い結合を生じる。水性媒質中では、アミド基は注目に値する結合関与に寄与しない。
【0317】
3.観察:緩衝剤濃度が10mMから50mMに上昇すると、結合強度は、モノカルボキシレートでは約4の係数で、ジカルボキシレートでは約10の係数で低下した。
観察の解釈:この結果も、緩衝剤濃度が上昇すると、弱化するイオン性相互作用から説明することができる。この弱化は、明らかに、受容体のアミノ基に対する緩衝剤塩と、基体のカルボキシレート基との競合に起因する。基体5〜8の強い結合の場合には、それらの2つのカルボキシレート基が影響されるので、緩衝剤塩の競合はより強い効果を生じる。
【0318】
4.観察:その他の点では同じ基体に関しては、k’値はN−保護基の有機残基の大きさと共に増加する。前記結合増強の大きさは緩衝剤濃度に依存しなかった。
観察の解釈:これによると、基体のカルボキシレート基と、受容体のアンモニウム基との間のイオン性相互作用の他に、付加的に基体と受容体との間には親油性相互作用が存在することが分かる。したがって、N−保護基において小さい有機残基から大きい有機残基に移行すると、特に、結合強化は、その受容体基が親油性相互作用に特に適している受容体相CとDに効果を及ぼす。
【0319】
結論:上記実験によって、受容体と基体とがそれらの官能基に関して相補的であるという条件で、合成受容体が適当な基体との2つ又は3つの結合相互作用を同時に受けることができることを、明らかに実証することができた。
【0320】
それ故、標的物質に適当に相補的である受容体を設計することによって、付随物質又は副生成物を容易に分離することができると、結論することができる。この分離が実現するかどうかの指標は、k’値からの商、下記式で特定される選択度αである:
選択度:α=k’/k
例えば、移動相として10mMトリスHCl緩衝剤(pH7.5)を用いるZ−Gln(3)及びZ−Gln(7)のクロマトグラフィー分離に関して、選択度αはベンジル/アミノ受容体相Dでは約25(263/9.7)であった。
【0321】
これによって、それぞれ適切に挿入された分子残基と、結合強度との間には定量化できる相関関係が存在することを示すことができた。
実施例2:instrAction社の受容体相への、基体としてのフラバノン・ナリンゲニンの少なくとも二価結合による結合
ナリンゲニン(図1)と、instrAction社の7種類の受容体相(表6と7)との間の相互作用を、溶媒としてのアセトニトリル中で測定した。前記測定のために、いわゆる「撹拌ビーカー実験」に平衡測定の直接方法を用いた。
【0322】
【化5】

【0323】
【表6】

【0324】
撹拌ビーカー実験のために、受容体相の正確な質量(それぞれ、約100〜300mg)を、溶媒の正確に測定した量(15ml)中に懸濁させた。これらの懸濁液に、正確に測定した量のナリンゲニンを数回に分けて加えた(例えば、アセトニトリル中10mmol溶液1.0ml)。ナリンゲニンを受容体相と溶媒とに、動的平衡を確立しながら、分配した。
【0325】
高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)による溶媒中のナリンゲニン濃度の測定によって、平衡状態を正確に判定することができた。これから、液相(アセトニトリル)中のナリンゲニンの物質量が直接得られた。受容体相中のナリンゲニンの物質量は、加えたナリンゲニンと溶液中のナリンゲニンとの間の差として算出した。各撹拌ビーカー実験において、系中のナリンゲニン濃度を高めながら、平衡を反復して測定した(6〜12回)。この場合に生じた、ナリンゲニンと溶媒との添加及び除去を細心に清算して、物質量の計算のために考慮した。
【0326】
【表7】

【0327】
平衡が確立される毎に、吸着等温線(受容体結合ナリンゲニン[RS]対溶液中のナリンゲニン[S]のプロット)上の1点が得られた。吸着等温線のためのLangmuirモデルを用いることによって、平衡結合定数(K)と最大負荷可能性[R]とを非線形回帰によって計算した。
【0328】
Langmuir等温式:[RS]=[R]×[S]/(1/K+[S])
特に弱い相互作用の場合には、非線形回帰の方法は役に立たなかった。この場合には、Scatchardによるダイアグラム([RS]に対して[RS]/[S]をプロットしたもの)から線形回帰によって、KとRを決定した。Scatchardによるプロットでは、単純なLangmuir等温線は直線である:
Scatchard線形化:[RS]/[S]=−K×[RS]+K×[R
Scatchardプロットの重要な利点は、直線性からの逸脱を容易に検出することができることである。このような逸脱は、受容体相が異なる結合強度の結合部位及び結合数を同時に有することを実証することができる。
【0329】
結合定数 Kと最大負荷可能性 Rの値を表8に示す。
【0330】
【表8】

【0331】
観察と、観察の解釈:フェノール性ヒドロキシル基に基づいて、ナリンゲニンはアミノ相Aの第1級アミノ基と極性相互作用を形成することができた。非プロトン性溶媒アセトニトリル中で、前記相互作用は良好に測定することができた。強い結合部位(KA2)と弱い結合部位(KA1)の存在は、ナリンゲニンが、存在する3個のフェノール基に対応して一価、二価及び三価極性結合を形成する可能性を明らかに有するというように、解釈することができる。
【0332】
受容体相C、D及びGでは、相Aの第1級アミノ基の大部分は、親油性残基によって誘導体化されている。前記残基がナリンゲニンの結合に寄与しない場合には、前記相の負荷可能性Rは、低いアミノ基含量に対応して低下せざるを得ない。相互作用のタイプはまだ変化しないので、平衡定数はほぼ同じに留まる筈である。実際問題として、負荷可能性は、一部では、例えば、ナフトイル誘導体化受容体(受容体相AとG)では14.7mmol/g相から38.5mmol/g相までのように、明らかに上昇した。前記結果は、ナリンゲニンと誘導体化基(derivatization groups)との間の付加的な相互作用によってのみ説明することができる。前記遊離受容体基は共通して、親油性相互作用を受けることができなければならない。ナリンゲニンは、その側に、このような相互作用を分担するために親油性分子部分をも有する。
【0333】
このことから、ナリンゲニンが受容体相C、D及びGとの、即ち、まだ残留するアミノ基との極性結合と、受容体基MVS、BzIO若しくはNaphCarとの親油性結合とを同時に実現することができることが分かる。この親油性結合が有機溶媒(アセトニトリル)中で観察することができるという状態は、注目に値する。このことは、ナリンゲニンと親油性受容体基との間で、有機溶媒による親油性基の溶媒和とエネルギー的に強く競合する(compete in energy)接触が行われることを意味する。
【0334】
それ故、受容体相C、D及びGとの結合定数Kは、極性結合と親油性結合との関与から構成される。この場合、結合定数はアミノ相Aの場合よりも一貫して小さい。親油性結合は極性結合よりも明らかに弱く、このことは、用いた有機溶媒(アセトニトリル)が相対的に極性であることに帰因するといえる。
【0335】
受容体相E、F及びHは、親油性結合と極性結合の両方に関与することができる受容体基を含有する−3相の全てが、部分的に拡大された芳香族構造中に埋め込まれたアミノ基を含有する。実際に、受容体相EとFには、両方の最高のK値を見出すことができる。この場合には、極性結合関与部分と親油性結合関与部分との協力的相互作用が助長されたが、受容体C、D及びGには、親油性受容体基がアミノ基を犠牲にして組み込まれていたと、推測することができる。
【0336】
結果:この実施例では、1つの溶媒中で、基体(ナリンゲニン)が種々な結合を対応する受容体相に対して有することができることが判明した。固定相において受容体基を適当に選択すると、基体の結合のための極性相互作用と親油性相互作用を同時に活性化することができる。したがって、種々な結合可能性が同時に存在し、それによって選択的相互作用空間が作られるので、特定の基体又は基体の基の結合のために最適化される受容体相を合成することができる。
【0337】
実施例3:instrAction社の受容体相への、基体としての構造的同系(structurally related)ベンゼン誘導体の少なくとも二価結合による結合
構造的同系ベンゼン誘導体とinstrAction社受容体相C(ND02048#2,K1000-PVA-FA-2-4-Dod-MVS-100)との間の相互作用を、非極性有機溶媒混合物中で測定した。4−メチル吉草酸基(MVS)の他に、受容体相Cはさらに0.16mmol/gのアミノ基も含有した。溶媒は、メチル−t−ブチルエーテル/ヘプタン(1容量部/3容量部)の混合物であった。前記非極性溶媒混合物中では、一方では、主として極性の相互作用を期待することができ、他方では、試験すべき全ての物質が良好に溶解した。
【0338】
受容体相と試験物質との間の相互作用に関して結合定数(K)と最大負荷可能性(R)を、いわゆる「撹拌ビーカー実験」で測定した。
撹拌ビーカー実験のために、正確な重量の受容体相(それぞれ約200〜350mg)を正確に測定した量の溶媒(15ml)中に懸濁させた。該懸濁液に、正確に測定した基体量を数回にわけて加えた。試験すべき基体を、受容体相と溶媒とに、動的平衡を確立させながら分配した。溶媒中の基体濃度を高性能液体クロマトグラフィー(HPLC)によって測定することによって、平衡状態を正確に判定することができた。この場合に、溶媒中の基体の物質量は直接得た。受容体相の基体の物質量は、加えた基体と溶液中の基体との差として算出した。各撹拌ビーカー実験に関して、系の基体濃度を高めながら、該平衡を繰り返して測定した(6〜12回)。基体と溶媒との添加及び取り出しを細心に清算して、物質量の算出に考慮に入れた。
【0339】
平衡が確立される毎に、吸着等温線(受容体結合基体[RS]対溶液中の基体[S]のプロット)上の1点が得られた。吸着等温線のためのLangmuirモデルを用いることによって、平衡結合定数(K)と最大負荷可能性[R]とを非線形回帰によって計算した。
Langmuir等温式:[RS]=[R]×[S]/(1/K+[S])
特に弱い相互作用の場合には、非線形回帰の方法は役に立たなかった。この場合には、Scatchardによるダイアグラム([RS]に対して[RS]/[S]をプロットしたもの)から線形回帰によって、KとRを決定した。Scatchardによるプロットでは、単純なLangmuir等温線は直線である:
Scatchard線形化:[RS]/[S]=−Kx[RS]+Kx[R
表9に、得られた相互作用パラメータ、KとRを試験基体と共に示す。
【0340】
【表9】

【0341】
結果の考察:表9から、試験物質と受容体相との間の、結合定数Kによって表される相互作用強度は、ベンゼン環の置換基の数と共に増加したことがわかる。
1個のみの置換基を有するベンゼン環は、上記測定系における測定可能なボーダーである値の40L/モル以下の結合定数を有していた。
【0342】
ベンゼン環の第2置換基は、試験分子にさらなる相互作用可能性を与えた。2つの弱い相互作用が協同して、近似的に1置換ベンゼンの結合定数の積になる、2置換ベンゼン誘導体の結合定数を生じた。したがって、400〜1000L/モルのK値が得られた。
【0343】
ベンゼン環の第3置換基は、2置換ベンゼンの結合定数にそれ自体の相対的に弱い相互作用ポテンシャル(K〜20〜40L/モル)を乗じさせ、3置換ベンゼンに関しては17,722L/モルの結合定数が得られた。
【0344】
4−アミノ−3−ニトロベンゾニトリルに関して、Scatchardダイアグラムを図2に示す。
【0345】
【化6】

【0346】
図中、a、b及びcは下記意味を有する:
a:三価相互作用の領域
[S]=0.0044〜0.043mmol
A3=17,722L/mol
03=3.5μmol/g相
b:三価結合と二価結合の移行領域
[S]=0.0086〜0.30mmol
A2=2,350L/mol
02=16μmol/g相
c:二価相互作用の領域
[S]=0.40〜0.98mmol
A1=855L/mol
01=33μmol/g相
【0347】
Langmuir等温式から、結合定数Kの形で相互作用の強度が得られたのみでなく、最大負荷可能性Rとして相互作用部位数も得られた。三価相互作用の最大負荷可能性は、二価相互作用のRに比べて約5倍低かった。このことは、該合成受容体相では、3個の同時相互作用のために、2個の相互作用に又は1個のみの相互作用さえにも比べて、少ない結合部位が存在するにすぎないと推測することができるので、直接理解することができる。4−アミノ−3−ニトロベンゾニトリルは、三価結合部位の他に、二価結合部位及び一価結合部位さえも、当然、適当に低い結合強度(K)及び高い最大負荷可能性(R)で占有することができた。
【0348】
前記状況は、図2において説明される。非常に低い基体濃度でパラメータK及びRを測定した場合には、強い三価相互作用(KA3とR03)が主として観察された。弱い一価及び二価結合部位は、このような希薄な溶液からは、注目に値するほどには占有されなかった。高い基体濃度でK及びRを測定した場合には、弱い、非常に多くの二価結合部位の相互作用値(例えば、KA1とR01)が得られた。これらの基体濃度では、強い結合部位が既に飽和され、吸着等温線に一定の寄与を与えたにすぎなかった。一価相互作用は、図2に示さない。
【0349】
一般に、Scatchardダイアグラムでは、左方に増加する等温線の湾曲した推移は、種々な強さの結合部位が同時に存在することを実証する。
結果:図示した実験結果によって、受容体相C(構造K1000-PVA-FA-2-5-Dod-MVS-100)が3−アミノ−4−ニトロベンゾニトリルとの強い三価相互作用と、弱い一価及び二価相互作用との両方を受け得ることを示すことができた。
【0350】
低い置換基数を有する基体に対して、同じ受容体相は対応して挙動する、即ち、最大結合強度は基体分子の置換基数に対応した。
さらに、結合強度は、基体分子の永久双極子と誘導双極子との置換基依存性変化によって影響され得るものであった。
【0351】
実施例4:instrAction社の受容体相への、基体としてのステロイドの少なくとも二価結合による結合
単にアミノ基を含有する受容体相A(カラムPV 02007中のSBV 01044 VD/4)と、分枝アルキル基(4−メチル吉草酸)によって27%程度誘導体化された相C(カラムPV 02001中のND 02001/1)に対するエストラジオール及びテストステロンの結合(保持)を、勾配HPLCによって測定した。
【0352】
勾配HPLCのために、下記条件を用いた:
中性溶離剤:
溶離剤A:ジメチルホルムアミド1部+水9部(容量部)
溶離剤B:ジメチルホルムアミド
酸性溶離剤:
溶離剤A:(ジメチルホルムアミド1部+水9部(容量部))中10mmolトリフルオロ酢酸(TFA)
溶離剤B:ジメチルホルムアミド中10mmolトリフルオロ酢酸
勾配プロフィル:5分間は、0.2ml/分の流量での一定の溶離剤A、次に、物質が完全に溶離するまで、0.6ml/分において、2%/分でBを混合する。
【0353】
該勾配では、各物質は、移動相中での溶解過程のGibbsエネルギーが受容体−基体結合エネルギーを丁度超えたときに、溶離する。受容体/溶媒相互作用のGibbsエネルギーΔGはまた、エネルギー平衡にも影響を及ぼす:一般に、基体剥離(脱着)の過程では、より小さい溶媒分子が多数吸着されているため、エントロピーΔSは低下し、相互作用エンタルピーΔHはわずかに負である。
【0354】
適当に構成された受容体相では、基体結合(吸着)中に溶媒吸着の相互作用エンタルピーΔHは、受容体と基体との間の多価相互作用エンタルピーΔHの関与ほど大きく負にはならない。
【0355】
試験した物質は水中に難溶性であるが、DMF中には易溶性であったので、溶離のために必要である移動相中のDMF含量が、幾つかの基体の、受容体への結合強度を迅速に比較するための大まかではあるが、簡単に算出できる尺度であった。
【0356】
エストラジオールとテストステロンの両方が受容体相のアルキル基との親油性相互作用を受けることができると予想された、さらに、エストラジオールはイオン性(ion-like)フェノール−アミン結合を受けることが可能である筈であった。さらに、受容体相C(カラムPV02001中のND02001/l)中に存在する4−メチル吉草酸基は、アミノ相Aに比べて親油性結合部分をかなり強化する筈であった。
【0357】
テストステロンに反して、エストラジオールがイオン性部分及び親油性部分との二価結合を受けることができると予想された。この場合に、エストラジオールは、使用した溶媒勾配において受容体相Cからテストステロンよりもかなり遅く溶離する筈であった。一方、相Aでは、全体的に見て、明らかに短い保持時間並びにテストステロンとエストラジオールの溶離挙動の低い差を予想することができた。
【0358】
表10には、受容体−基体結合を破壊するために必要であった、移動相中のDMF割合を記載する。
【0359】
【表10】

【0360】
1.観察:結果は、エストラジオールがアミノ相A(PV 02007)にテストステロンよりも既に強く結合していることを示し、このことは、付加的なイオン性相互作用の結果であると考えることができた。アルキル化相C(PV 02001)では、エストラジオールは46.7%DMFの濃度で初めて溶離し、このことは、基本相に比べて、33.6容量部の増加であった。DMFの溶離力を考慮すると、この結果は、非常な結合増強に相当した。これに反して、テストステロンの結合は18.5%DMFまでわずかに増強したにすぎなかった。
【0361】
2.観察:予想することができるように、移動相に10mMトリフルオロ酢酸を加えながら、固定相のアミノ基をプロトン化することによって、エストラジオールのイオン性相互作用可能性が大幅に除去された場合には、エストラジオールの結合は低下した。
【0362】
一方、テストステロンの結合は酸性媒質中で相Cに対してはわずかに強化され、相Aに対しては無変化に留まった。両方の基体に関して、溶離剤中のトリフルオロ酢酸のために生じた受容体のアミノ基が、アミンには使用に供されない付加的な相互作用を受けると、考えることができた。
【0363】
全体として、2つの異なる非共有結合型相互作用が用いられた場合には、受容体相における結合強化がかなり高くなることが注目された。脂肪族分子部分の親油性接触面を単に拡大することによる結合強化は、あまり明確ではなかった。
【0364】
さらに、この結果は、エストラジオール分子の特徴的な構造要素の保持を比較することによって、支持された。このような分子プローブによって、包括的なHPLC試験を迅速に行なうことができた。そこで、2−ナフトールはC型の相にナフタレンよりもかなり強く結合し、ナフタレンは1,2,3,4−テトラヒドロナフトールよりも良好に結合した。この挙動から、予想されるイオン性結合関与が再び導き出されたが、アルコール性OH基の極性結合は水性溶媒中では期待通りには生じなかった。
【0365】
結果:C(PV 02001)のようなアルキル−及びアミノ−基含有相へのフェノール系ステロイドの二価結合は、それを非芳香族系ステロイドから分離するためには有利であった。この場合、定組成分離条件(isocratic separation conditions)下で、10までのα値(分離選択度)が得られた。
【0366】
一方、弱疎水性イオン交換体A(PV 02007)では、この分離は満足できる分解能ではなかった。
説明した原理は、中性又は塩基性脂肪族からの、また芳香族からのフェノール性物質の分離のために一般化することができる。さらに、多価フェノールも良好に分離することができる。
【0367】
実施例5:instrAction社の受容体相への、基体としてのラクタムの少なくとも二価結合による結合
アミノ基80%及びベンジル基14%(架橋度5%)を含有する一連の受容体相(例えば、PV 99047,PV 00010)へのクロロホルムからのメチルフェニルヒダントイン(MPH)1、ジフェニルヒダントイン(DPH)2及びメチルフェニルスクシンイミド3の結合を、フロント分析によって測定した。
【0368】
このために、HPLCカラム(40×4mm)に充填した受容体相を、それぞれの飽和平衡にまで、基体溶液の濃度を上昇させながら、すすぎ洗いした。流量、物質が溶出するまでの時間及び基体濃度から、結合した基体の各濃度[RS]を、既知一定基体濃度[S]=[S]に対して計算することができる。10〜12の基体濃度に関して測定した溶出曲線から、吸着等温線又はScatchardダイアグラムを介して、結合定数K及び飽和濃度[R]を決定することができ、これによって、二価結合及び一価結合の領域を検出することができた。
【0369】
【化7】

【0370】
溶媒を選択することによって、本質的に極性の相互作用、特に水素結合が確実に実現した。
典型的な測定値を(a)〜(c)に示す。
【0371】
(a)シリカゲル上、6層、架橋したポリ(ベンジル−N−アリル−カルバメート)(PAA-OBzll4-2Dod,PV 99047)へのMPHの結合:
二価結合の領域
=12703M−1
ΔG=5.50Kcal/mol
=12.0μmol/g
一価結合の領域
=221M−1
ΔG=3.14Kcal/mol
=301.4μmol/g
(b)シリカゲル上、6層、架橋したポリ(ベンジル−N−アリル−カルバメート)(PAA-OBzll4-2Dod,PV 00010)へのDPHの結合:
二価結合の領域
=19880M−1
ΔG=5.76Kcal/mol
=4.6μmol/g
一価結合の領域
=201M−1
ΔG=3.09Kcal/mol
=226.7μmol/g
(c)シリカゲル上、3層、架橋したポリ(ベンジル−N−アリル−カルバメート)(PAA-OBzll4-2Dod,PV 99047)へのMPSの結合:
一価結合の領域
=75〜78M−1
=96.5〜97.4μmol/g
【0372】
1.観察:ヒダントイン1と2(MPHとDPH)の両方に関して、受容体相の幾つかの変数(例えば、PV 99047、PV 00010)に関する包括的な測定シリーズで、3μmol/g相〜12.6μmol/g相の飽和物質量Rにおいて、6000〜23000M−1の二価結合定数Kが測定された。このことは、アミンに対して2つの水素架橋が形成されうることを実証した。一価結合定数は109〜221M−1(R=239〜301μmol)であった。一方、スクシンイミド誘導体では、75〜78M−1の一価結合定数のみが96μmol/gの飽和値Rと共に見出された。このことは、スクシンイミドが1個のみの水素架橋を形成することができ、それ故、一価結合のみを形成することができることによって説明することができる。
【0373】
2.観察:二価結合の結合定数は、組み合わせた一価結合定数の値の積に非常に良好に相当する。対応する一価GibbsエネルギーΔGを近似値的に互いに加算する。五員環ラクタム基の単一水素架橋形成に関して、クロロホルム中で、2.5〜3.14Kcal/molのGibbsエネルギーΔGが25℃において測定され、二価H架橋に関しては5.06〜5.88Kcal/molが測定された。これらの値は、文献に基づいて溶媒クロロホルムに対して予想されるデータ(MPH:K=6.014M−1、ΔG=5.06Kcal/mol、R=3.2μmol/g;DPH:K=7.171M−1、ΔG=5.16Kcal/mol、R=6.9μmol/g、K=145M−1、ΔG=2.90Kcal/mol、R=264.0μmol/g)を超えている。
【0374】
結果:これによって、基体側と受容体側に2つの同様な相補的残基(結合部位残基)がそれぞれ、キレート効果の場合と同様に、相互作用する場合には、二価結合強化も生じることを示すことができた。上記場合では、これらは、基体のアミド基と、受容体のアミン基であった。この場合に、Gibbsエネルギーは近似値的に互いに加算される関係にあり、結合定数は積算関係にある。前記原理によると、特に、均質な物質、又は官能基に関して異なる原子価(例えば、一価〜六価アルコール(例えば、糖))を有する物質の分離に適した受容体相を開発することができる。
【0375】
実施例6:収着剤としてのポリビニルアミン/シリカゲルに基づく、基体としての幾つかのC−末端アミノ酸(C-blocked amino acids)の少なくとも二価結合による収着剤への結合
18種類のアミノ酸誘導体(表11における基体)の保持性を7種類の固定相(合成受容体)上でのクロマトグラフィーで研究した。
【0376】
アミノ酸誘導体(1〜18)は、アラニン、ロイシン、プロリン、リシン、ヒスチジン、フェニルアラニン、チロシン及びトリプトファンのエステルであった。これらのエステルは、イオン化可能なカルボキシレート官能基の好ましくない相互作用を排除するために、選択された。メチルエステルからは、ベンジルエステルとは非常に対照的に、注目に値するほどの相互作用関与が期待されなかった。
【0377】
【表11a】

【0378】
【表11b】

【0379】
【表11c】

【0380】
用いた受容体相は、粒度20μmと粒径1000Åを有するポリビニルアミン被覆球状シリカゲルであった。塗布過程では、最初に、アミノ相Aが生じた。誘導体化受容体相B〜Kをアミノ相Aから、既知方法による固体相合成によって製造した。これらの相を表12に要約する。
【0381】
【表12a】

【0382】
【表12b】

【0383】
クロマトグラフィー試験のための移動相として、pH7.5を有する水性10mMトリスHCl緩衝剤を用いた。
各緩衝剤溶液中の基体と受容体との間の相互作用の強度の尺度として、デバイス非依存性の相対的溶離値k’(容量比)を用いた。これは、ピーク最大時の溶離量とカラム死容積との差をカラム死容積で除して算出することができる:
【0384】
【数2】

【0385】
10mmolトリスHCl緩衝剤中の基体のk’値を表13に要約する。
【0386】
【表13】

【0387】
1.観察:実施例1では、カルボキシレート基を有するアミノ酸誘導体のk’値をアミノ相上で試験した。実施例1からのモノカルボキシレートAc−Gln1とBoc−Gln2は、アミノ相(BV 02042)上で9.5と8.8のk’値を得た。本実施例6では、例えばH−ala−OMe1及びH−leu−OMe3のような単純なモノアミンに関して、カルボキシレート相1上で13.7及び12.5のk’値を得た。
【0388】
観察の解釈:基体と受容体相中の相互作用基を交換した場合に、k’値はごく僅かに変化したに過ぎない。このことは、結合の強度が結合の方向に非依存性であることから、予想することができた。相互作用基の予定された用途のために、どちらの基が受容体に固定されるか又は基体中で移動可能であるかに関係なく、匹敵しうる結合が行なわれることが重要である。
【0389】
2.観察:アミノ相A及びアセトアミド相B上では、基体の保持は実際に行なわれなかった。
観察の解釈:受容体相AとBは、選択した溶媒中で基体との注目に値する相互作用が可能であるような受容体基を含有しない。したがって、k’値はほぼゼロであった。これらの相は、相対的相互作用スケール上のゼロ点として用いることができる。ポリマー骨格の親油性影響は結合平衡において無視することができる。
【0390】
3.観察:全ての基体は、カルボキシレート相1上での明確な保持を示した。k’値は4.5〜21.7の間であった。
観察の解釈:全ての試験した物質は、少なくとも1つのアミノ基を含有する。前記アミノ基は、pH7.5で殆どプロトン化されて、相のカルボキシレート・アニオンとの強いイオン性相互作用を受けることができる。
【0391】
4.観察:受容体相CとDは、単一親油性部分構造を含有する基体、例えば2、6、7、8、15又は17との弱い保持を示した。例えば4、14、16及び18のような、2つの大きい親油性分子部分を少なくとも有する基体とでは、強い保持(k’値>8)が見られた。したがって、芳香族受容体相Dへの結合は、各場合に、アルキル受容体相に比べて高かった。
【0392】
観察の解釈:受容体相CとDは、親油性相互作用のみを受けることができる。これらの結合は、イオン性相互作用に比べて相対的に弱い。一価親油性相互作用は、選択した緩衝剤中で、しばしば、検出限界にある。2つの長い親油性残基を有する基体は、親油性接触面の結果として、増強された保持を示す。
【0393】
5.観察:大抵の場合に、それぞれの基体の最高k’値が、受容体相K上で見出された。
観察の解釈:受容体相Kは、ほぼ等モル量で、カルボキシレート基及びベンジルオキシカルボニル基、即ち、イオン性相互作用及び親油性相互作用のための受容体基を含有する。相互作用基の総数は、純粋な受容体相C、D又はIの数にほぼ相当するので、混合受容体相K上では相Dと相Iとのk’値の間のk’値を予想された。混合受容体相上での検出された高いk’値は、これらの場合に、イオン性結合と親油性結合とが同時に行なわれ、それによって混合二価結合形式が存在することを実証する。
【0394】
芳香族系の間のπ−π接触の強度のために、芳香族残基を有する全ての基体の、ベンジル基含有相に対する結合は、分枝アルキル残基を有する相Jに対する結合よりも強い。
結果:上記実験によって、純粋な受容体基を適当に選択することによって、基体と受容体相との間の相互作用を適切に活性化及び不活化することができることを、明らかに実証することができた。アフィニティ及び選択性を調節するために、さらに溶媒組成、イオン強度及びpHを変えることができる。
【0395】
基体が2つの親油性分子部分を有する場合には、該基体は受容体相と二価的に相互作用することができ、このことが結合の有意な強化をもたらす。このような場合は、同種類の二価相互作用の問題である。
【0396】
受容体相と基体の両方が対応する相補的な基を含有する場合には、異なる種類の二価相互作用(イオン性と親油性)が可能であることもまた示された。この場合に、選択的な結合強化も行なわれる。
【0397】
標的物質に対応して相補的な受容体を設計することによって、付随物質又は副生成物を容易に分離することができる。分離の実行可能性の指標は、k’値の商、選択度αである:
選択度:α=k’/k
例えば、ベンジル/受容体相Dによると、Boc−Lys−OMe(9)とH−Lys(Boc)−OMe(10)のクロマトグラフィー分離は、殆ど不可能であると考えられる。カルボキシレート−受容体相I上では、1.59のα値が得られた。混合受容体相JとKは、既に、2.25と2.06のα値を示した。このことは、受容体相の適当な設計による、混合物のクロマトグラフィー分離可能性の有意な改良を支持している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基体の選択的結合のための結合能を有する少なくとも2つの異なる基を有する少なくとも1種類の収着剤を製造する方法であって、工程(i)ないし(ii)を含むことを特徴とする方法:
(i)合成または天然の第1基体から、収着剤との結合能を有する少なくとも2つの基を決定し、
(ii)合成または天然の第2基体との結合能を有するそれぞれ少なくとも2つの異なる基を、それぞれ1つのキャリヤーに付与して少なくとも1種類の収着剤を形成し、その際、これらの基は工程(i)のものと同一の基またはそれに相補的な基であり、工程(ii)の第2基体は工程(i)による第1基体と同一であるか、または異なり;
その際、第2基体との非共有結合に対する各基のギブスエネルギーの寄与により結合強化が起きるほどの負のギブスエネルギー△G値が得られ、その結果、分離除去すべき少なくとも1種類の物質に対する分離選択性が改善されるように、これらの基を決定する。
【請求項2】
少なくとも1種類の収着剤に対する結合能を有する少なくとも2つの異なる基を有する基体の選択的結合方法であって、工程(i)ないし(iv)を含むことを特徴とする方法:
(i)合成または天然の第1基体から、収着剤との結合能を有する少なくとも2つの基を決定し、
(ii)合成または天然の第2基体との結合能を有するそれぞれ少なくとも2つの異なる基を、それぞれ1つのキャリヤーに付与して少なくとも1種類の収着剤を形成し、その際、これらの基は工程(i)のものと同一の基またはそれに相補的な基であり、工程(ii)の第2基体は工程(i)による第1基体と同一であるか、または異なり、
(iii)工程(i)による第1基体と同一または異なる少なくとも1種類の第2基体を工程(ii)の少なくとも1種類の収着剤と接触させ、
(iv)工程(iii)の少なくとも1種類の収着剤に対する少なくとも1種類の第2基体の結合強度を試験し、
その際、第2基体との非共有結合に対する各基のギブスエネルギーの寄与により結合強化が起きるほどの負のギブスエネルギー△G値が得られ、その結果、分離除去すべき少なくとも1種類の物質に対する分離選択性が改善されるように、これらの基を決定する。
【請求項3】
工程(i)の決定が、合成または天然の第1基体を、収着剤との結合能を有する少なくとも2つの基を有する少なくとも2つの構造単位に分割することを含むことを特徴とする、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
1つの構造単位が、結合能を有する少なくとも2つの異なる基を有することを特徴とする、請求項1〜3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
少なくとも1つの第1基体が少なくとも1つの第2基体と同一であり、第2基体との結合能を有するそれぞれ少なくとも2つの異なる基を、工程(i)で決定した基に相補的な基から選択することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
少なくとも1つの第1基体が少なくとも1つの第2基体と異なり、第2基体との結合能を有するそれぞれ少なくとも2つの異なる基を、工程(i)で決定した基に相補的な基から選択することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
少なくとも1つの第2基体との結合能を有する少なくとも2つの基を、工程(i)に従って決定した基から選択することを特徴とする、請求項1〜4のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
工程(i)において、合成または天然の第1基体から収着剤との結合能を有する少なくとも2つの基を選択することにより、それぞれ収着剤との結合能を有する少なくとも1つの基を有する2つの構造単位が得られ、工程(ii)において1種類の収着剤が得られるか;
工程(i)において、合成または天然の第1基体から収着剤との結合能を有する少なくとも2つの基を選択することにより、それぞれ収着剤との結合能を有する少なくとも1つの基を有する3つの構造単位が得られ、工程(ii)において少なくとも3種類の収着剤が得られるか;
あるいは工程(i)において、合成または天然の第1基体から収着剤との結合能を有する少なくとも2つの基を選択することにより、それぞれ収着剤との結合能を有する少なくとも1つの基を有する4つの構造単位が得られ、工程(ii)において少なくとも6種類の収着剤が得られる
ことを特徴とする、請求項1〜7のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
少なくとも1種類の収着剤の、結合能を有する少なくとも2つの異なる基を、アミノ酸、糖類、ヌクレオチド、ヌクレオシド、ピリミジン塩基およびプリン塩基の構造単位の群から選択することを特徴とする、請求項1〜8のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
少なくとも1種類の第2基体の、結合能を有する少なくとも2つの異なる基を、アミノ酸、糖類、ヌクレオチド、ヌクレオシド、ピリミジン塩基およびプリン塩基の構造単位の群から選択することを特徴とする、請求項1〜9のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
工程(ii)においてそれぞれ少なくとも2つの異なる基が、ポリマーに共有結合した状態で存在することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
結合能を有する少なくとも2つの異なる基を備えた少なくとも1種類のモノマー、または結合能を有するそれぞれ少なくとも1つの基を備えた少なくとも2種類のモノマー(その際、それらの基は異なる)の重合または重縮合により、ポリマーをキャリヤー上で直接製造することを特徴とする、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
工程(ii)において、第2基体との結合能を有する少なくとも2つの異なる基を、活性剤、シラン化剤およびスペーサーまたはそれらの試薬のうち2種類以上の混合物よりなる群から選択される試薬によりキャリヤーに付与することを特徴とする、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
工程(ii)において、第2基体との結合能を有する少なくとも2つの異なる基を、フェニル、ヒドロキシフェニル、カルボキシル、アミン、アミド、ヒドロキシル、インドール、イミダゾールおよびグアニジン残基よりなる群から選択することを特徴とする、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
さらに、工程(v):
(v)少なくとも1種類の第2基体を単離する
を含むことを特徴とする、請求項1〜14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
さらに、工程(vi):
(vi)少なくとも1種類の第2基体を特性決定および同定する
を含むことを特徴とする、請求項1〜15のいずれか1項に記載の方法。
【請求項17】
基体がアミノ酸、オリゴペプチド、ヌクレオチド、タンパク質、糖タンパク質、抗原、抗体、炭水化物、酵素、補酵素、ホルモン、アルカロイド、ステロイド、ウイルス、微生物、植物および動物の組織に含有される物質、細胞、細胞フラグメント、細胞コンパートメント、細胞分解物、レクチン、フラビリウム化合物、フラボン類、およびイソフラボン類よりなる群から選択される1種類以上の天然有効物質、あるいは神経系に対する作用をもつ物質、ホルモン系に対する作用をもつ物質、仲介物質に対する作用をもつ物質、心臓−循環系に対する作用をもつ物質、呼吸器管に対する作用をもつ物質、消化管に対する作用をもつ物質、腎臓および下部尿路に対する作用をもつ物質、眼に対する作用をもつ物質、皮膚に対する作用をもつ物質、感染性疾患の予防および治療のための物質、悪性腫瘍に対する作用をもつ物質、ならびに免疫系に対する作用をもつ物質、および免疫作用をもつ物質、ならびに防虫剤、除草剤、殺虫剤および殺真菌剤の群から選択される1種類以上の合成有効物質を含むことを特徴とする、請求項1〜16のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
少なくとも2つの異なる第2基を有する少なくとも1種類の基体との非共有結合に適したそれぞれ少なくとも2つの異なる第1基を有する収着剤の集合体を含むコンビナトリアルライブラリーであって、その際、少なくとも2つの異なる第2基との非共有結合に対する第1基それぞれのギブスエネルギーの寄与を合わせると結合強化が起きるほどの負のギブスエネルギー△G値が得られ、その結果、分離除去すべき少なくとも1種類の物質に対する分離選択性が改善されるように、少なくとも2つの異なる第1基が選択された、コンビナトリアルライブラリー。
【請求項19】
収着剤の少なくとも2つの異なる基および少なくとも1種類の基体の少なくとも2つの異なる基を、アミノ酸、糖類、ヌクレオチド、ヌクレオシド、ピリミジン塩基およびプリン塩基の構造単位の群から選択することを特徴とする、請求項18に記載のコンビナトリアルライブラリー。
【請求項20】
少なくとも1種類の収着剤、および少なくとも2つの異なる第2基を有する少なくとも1種類の基体を含む、収着剤/基体複合体であって、その際、収着剤は、少なくとも2つの異なる第2基を有する少なくとも1種類の基体との非共有結合能を有する少なくとも2つの異なる第1基を有し、少なくとも2つの第1基は、少なくとも2つの異なる第2基との非共有結合に対する第1基それぞれのギブスエネルギーの寄与を合わせると結合強化が起きるほどの負のギブスエネルギー△G値が得られ、その結果、分離除去すべき少なくとも1種類の物質に対する分離選択性が改善されるように選択された、収着剤/基体複合体。
【請求項21】
受容体/有効物質相互作用の検出、有効物質のスクリーニング、リード物質の開発、基体の分離、基体の精製、異性化合物の分離、有害物質の除去による液体の精製、動的コンビナトリアルライブラリーのデプレションのための、請求項2〜17のいずれか1項に記載の方法の使用、または請求項18〜20のいずれか1項に記載のコンビナトリアルライブラリーの使用。

【公表番号】特表2006−523831(P2006−523831A)
【公表日】平成18年10月19日(2006.10.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−504851(P2006−504851)
【出願日】平成16年3月24日(2004.3.24)
【国際出願番号】PCT/EP2004/003138
【国際公開番号】WO2004/085046
【国際公開日】平成16年10月7日(2004.10.7)
【出願人】(505360395)インストラクション・ゲーエムーベーハー (2)