説明

少なくとも1つのセキュリティー素子を備えたセキュリティー・ドキュメント

セキュリティー素子を備えたセキュリティー・ドキュメントの提案である。このセキュリティー素子は人間の触覚によって特定可能な形状を成している。これを可能とする1つの方法として、人間の触覚によって表面領域の形状および大きさを特定できるよう各種表面領域の表面特性をそれぞれ別々に選択することが可能である。別の方法として、セキュリティー・ドキュメントの基体に人間の触覚によって識別可能な適切な形状を有する開口部を設けることができる。異なる触感を有するこの種のセキュリティー素子を組み合せることも説明されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は少なくとも1つのセキュリティー素子を基体表面に有するおよび/または少なくともセキュリティー素子の一部を成す少なくとも1つの窓状開口部を基体に有して成るセキュリティー・ドキュメント、特に有価書類に関するものである。
【背景技術】
【0002】
有価書類、特に銀行紙幣、小切手、株券等には、偽造を難しくすると共に素人でも容易にその真正をチェックできることを意図したセキュリティー素子が益々多用されている。別のセキュリティー・ドキュメント、例えば、身分証明書および通行証、ビザ等にも同様の考慮が払われている。この点において、益々多用されているのが、例えば、光学回折効果を有する構造体、例えば、ホログラム、部分反射表面領域等のような光学可変証明または光学効果証明である。特別な印刷処理を施すか、紙またはプラスチックから成る特別な基体を使用することにより有価書類、特に銀行紙幣の安全性を向上させることも知られている。所定の印刷処理を行うか、または特別な基体を使用することにより、セキュリティー・ドキュメント、特に、銀行紙幣の表面に人間の触覚によって知覚可能な特有の粗さまたは構造体が付与される。しかし、特別な印刷処理または特別な基体材料によって得られる触覚は、特に銀行紙幣のように頻繁に使用される有価書類の場合には長期間持続しない。具体的には、特別な印刷処理または特別な使用材料によって得られる表面の性質は、銀行紙幣等の場合には、一般に、汗、汚れ、または異物が表面に蓄積することにより短時間のうちに変化するか、または機械的負荷および湿気によって比較的短期間のうちに変化する。
【0003】
有価書類の基体に窓を設け、少なくとも一部の領域を透明なフィルムで覆うことも特許文献1によって知られている。このような窓は触覚によって感じることができるが、窓を覆うフィルム領域、または通常の有価書類用基体に別の保護手段を設けない限り信頼のおける触知セキュリティー素子を形成することはできない。このため、少なくとも簡単な方法で模倣を困難にすることはできない。
【0004】
盲人または視覚障害者が感知でき、夫々の価値が分かるようにするための特別な特徴を有する構造体を銀行紙幣に設けることも知られている。しかし、このような視覚障害者支援機能も特別な訓練を受けたユーザー以外は正しく触知および認知できないため、一般的なセキュリティー素子としては不適切である。また、流通途上における諸作用によって触知性が著しく低下することも考えられる。
【0005】
セキュリティー素子を備えた別の書類が以下の公報から知られている。
【0006】
基準日以後に公開された特許文献2には触知性ハーフトーン・イメージを印刷したデーター・キャリアおよびその製造方法が記載されている。
【0007】
特許文献3には少なくとも目視検査可能なセキュリティー素子およびその部分領域にエンボス加工部を備えたデーター・キャリアが記載されている。
【0008】
特許文献4には一部がレリーフを成し触知可能な複数の構造体素子から成る印刷セキュリティー素子を備えたデーター・キャリアが記載されている。
【0009】
特許文献5には穿孔凹版による印刷を施したデーター・キャリアが記載されている。
【0010】
特許文献6には書込み可能被膜を施したプラスチック材料シートから成る偽造防止身分証明カードが記載されている。身分証明カードの1つの実施の形態において、書込み可能被膜が書込みを可能とする程非常に小さな直径のグリッド状の開口部を有している。
【0011】
特許文献7には貼付式有価スタンプが開示されている。
【0012】
特許文献8には偽造を困難にするパターンを有価書類に摩耗形成する方法が記載されている。
【0013】
特許文献9には複写による偽造を防止することができる銀行紙幣の技術的製造方法が記載されている。この方法においては、窓のような開口部が銀行紙幣に形成され、周知の銀糸同様、織地、編組、結節、または接着接合された格子材料が銀行紙幣の層の中心に配される。
【0014】
特許文献10には、切欠き開口パターンを有する切符のような有価印刷取引単位が開示されている。
【特許文献1】独国特許発明第43 34 847号明細書
【特許文献2】独国特許発明第101 62 050号明細書
【特許文献3】独国特許発明第100 44 464号明細書
【特許文献4】独国特許発明第199 63 849号明細書
【特許文献5】独国特許発明第100 15 097号明細書
【特許文献6】独国特許発明第1 632 482号明細書
【特許文献7】独国特許発明第946 585号明細書
【特許文献8】独国特許発明第2417549号明細書
【特許文献9】独国特許発明第43 42 964号明細書
【特許文献10】独国特許発明第195 36 461号明細書
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の目的は、認定製造業者にとって製造または適用が容易であり十分な保護効果を持たせることができると共に、周知の一般的なセキュリティー素子と著しく異なり、不慣れなユーザーでも容易に確認できるセキュリティー素子を備えたセキュリティー・ドキュメント、特に有価書類を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明によれば、本明細書の冒頭に記載のようなセキュリティー・ドキュメントにおいて、前記課題が達成される。本発明によれば、セキュリティー素子が、少なくとも隣接するまたは周囲の基体表面に対し空間的に変位、例えば、陥凹または隆起しているおよび/または(微細および微細構造的観点における)粗度、硬度、弾性、スリップ性、熱伝導率、および/または粘性が異なり、この違いにより人間の触覚によって特定可能である前記ドキュメントに特有の形状および大きさを有して成る少なくとも1つの表面領域から成っている。
【0017】
従って、本発明によれば、人間の触覚によってセキュリティー・ドキュメント、特に有価書類が所定のセキュリティー素子を備えているか否か、即ち、その真性を確かめることができる。この点において、本発明によれば、2つの特徴が組み合わされている。即ち、セキュリティー・ドキュメント表面全体における異なる触感を有する表面領域の組合せ、および所定の触感を有する少なくとも1つの表面領域の特有の幾何学的形状である。従って、真性をチェックする場合、セキュリティー素子を形成する少なくとも1つの表面領域の形状および異なる表面特性を特定する必要がある。この点において、特定の形状を成す領域内外の表面特性の違いにより、不慣れなユーザーであってもその知覚可能な違いによりセキュリティー素子を形成する領域を検知することができ、このようにしてそのドキュメントが本物であるか偽造されたものであるかをチェックすることができる。
【0018】
セキュリティー・ドキュメントに前記特有の形状を成す少なくとも1つの表面領域を形成する方法は幾つかある。
【0019】
1つの方法は、本発明によれば、少なくとも1つの表面領域が基体と異なる材料から成っている。この点において、基体および少なくとも1つの表面領域が、人間の触覚によって検知可能な特性が著しく異なる別の種類のフィルムから成っていることが好ましい。これに関連して、“別の種類のフィルム”とはプラスチック・フィルムまたは同様の製品のみならず、例えば、ペーパー・ウェブ、繊維材料等も意味する。この場合、特有の形状を成す少なくとも1つの表面領域が、基体を形成するフィルムまたはウェブに、例えば、積層またはエンボス加工することによりもたらされたその表面領域の特性を備えた第1フィルムによって形成されることが好ましい。
【0020】
本発明によるセキュリティー・ドキュメントの別のデザインにおいては、基体および少なくとも1つの表面領域が、表面の特性が著しく異なり人間の触覚によってそれぞれ検知可能な紙によって形成される。この点において、異なる紙の表面特性は、例えば、有価書類または証書を作製するための周知の特別な印刷方法によって適切な印刷を施すことによって得られる。異なる表面特性を紙に付与する別の方法には、部分的に機械処理、特に粗面処理、エンボス加工処理および/または艶出し処理を施す方法がある。
【0021】
本発明によれば、少なくとも1つの表面領域が、適切な形状を成し基体に貼付されるフィルム部から成っている。この方法によれば、比較的安価に作製できる。また、フィルム部を使用することにより、その表面を多様に形成することができる。例えば、フィルム部に適切なエンボス加工を施すか、または初めから、例えば、特有のパターンを成すよう厚さを違えることができる。
【0022】
本発明によるフィルム部に基体の表面を触知できる開口部を設けることによりセキュリティー素子の認知性および偽造防止特性が向上するため特に有益である。
【0023】
予防手段または偽造防止機能を更に向上させるため、基体の表面と表面特性が異なる適切にデザインした複数の表面領域をセキュリティー・ドキュメントに形成することが有益である。この場合、複数の表面領域はそれぞれ形状、大きさおよび/または表面特性が異なっていることが好ましい。
【0024】
また、本発明の別の主題は、少なくともセキュリティー素子の一部を構成する窓状開口部を基体に有して成るセキュリティー・ドキュメント、特に有価書類である。このようなセキュリティー・ドキュメントの場合、窓状開口部の形状および大きさがそのドキュメントに特有であること、および窓状開口部の形状および大きさが人間の触覚によって特定可能であることにより本発明の概念が体現されている。目視検査用の窓を備えた周知のセキュリティー・ドキュメントとは対照的に、本発明によれば非常に独特な形状および大きさを有する窓が付加され、それにより真性チェックを容易にすると共に偽造を困難にしている。
【0025】
窓を設けることにより銀行紙幣または別のセキュリティー・ドキュメントの耐久性を損ねないようにするため、周知の方法によって基体に固定されるフィルムによって窓を覆うことが適当である。この場合、フィルムの表面特性が基体の表面特性と著しく異なり、人間の触覚によって違いが検知できることが好ましい。
【0026】
このようなセキュリティー・ドキュメントの構成において、フィルムが基体の開口部を越えて突出し、基体表面を触知可能とする少なくとも1つの孔を突出領域に設け、実質的に別のセキュリティー素子を組み合わせることによりセキュリティー特性が更に改良される。
特別な大きさおよび形状を有する領域を形成するためのフィルムにエンボス加工等を施して構造化する既に述べた方法とは別に、フィルムに触知可能な特別な被膜、例えば、少なくとも部分的に印刷を施す方法もある。
【0027】
フィルムの少なくとも開口部を覆っている領域に貫通孔を設けることにより、特に容易に触知できるセキュリティー素子の形状が得られる。この場合、貫通孔が触れることにより容易に知覚できるパターン、例えば、英数字または容易に記憶可能な幾何学図形を形成していることが好ましい。
【0028】
特有の表面特性および形状を有する各種領域を基体に有して成る前記セキュリティー・ドキュメント同様、セキュリティー・ドキュメントに人間の触覚によって触知できる形状および大きさを有する複数の窓状開口部を設けることができる。この場合、開口部がそれぞれ異なる形状および/または大きさを有するおよび/または異なる特性を有するフィルムで覆うことが好ましい。
【0029】
セキュリティー素子の認知を容易にするため、少なくとも1つの表面領域の端部が簡単な幾何学的形状を成していることが好ましい。この場合、単純過ぎて識別機能を果たさないようであってはならないことは当然である。
【0030】
これに関連して、現実的な見地から、前記少なくとも1つの表面領域が長方形、特にストリップ形状を成していることが特に好ましい。
【0031】
更に、少なくとも前記1つの表面領域において、基体がエンボス加工により変形され、基体の表面に上方に湾曲した部分が形成されると共に、別の面に対応する凹部が形成される。これにより、人間の触覚によって触知可能な部分的に特別な形状を成すセキュリティー・ドキュメントが得られる。
【0032】
周囲の基体表面と表面特性が異なる少なくとも1つの表面領域、および少なくとも1つの開口部を基体が有するよう前記セキュリティー手段を組み合わせることができることは当然である。
【0033】
しかし、前記の他、別のセキュリティー素子と組み合わせることもできる。この点において、セキュリティー・ドキュメントが光学および/または機械チェック可能な少なくとも1つの別のセキュリティー素子を有していることが一般に好ましい。
【0034】
これに関連して、光学および/または機械チェック可能なセキュリティー素子が基体の周囲表面と異なる表面特性を有する少なくとも1つの表面領域および/または開口部と少なくとも部分的に重複していることが効果的である。この理由は、各種セキュリティー素子を重複させることにより、一般にセキュリティー・ドキュメントの偽造を非常に困難にするからである。
【0035】
本発明によれば、光学および/または機械チェック可能なセキュリティー素子が、ホログラムのような回折構造体および/または部分的な金属化によるパターンによって形成される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0036】
本発明の特徴、詳細、および効果は、添付図面を参照して以下に説明する2つの実施の形態例によって更に明らかになる。
【0037】
図1および図4のセキュリティー・ドキュメントは、それぞれ適切に処理された紙から成る基体1を有している。2つのセキュリティー・ドキュメントの違いは、基本的に異なる種類のセキュリティー素子を有していることである。
【0038】
図1のセキュリティー・ドキュメントは、左端領域近傍にフィルム・ストリップ2による特別な表面領域を有している。フィルム・ストリップ2は、図2および3の断面図から明らかなように、接着剤3によって基体1の表面4に固定されている。
【0039】
フィルム・ストリップ2により、セキュリティー・ドキュメントに別の表面領域と表面特性が異なる1つの表面領域が形成されている。本実施の形態において、フィルム2の基体から離間した表面5にエンボスまたはその他の構造体6が形成されている。このような構造体は表面を粗くするためのもので、図1に示すように、例えば、セキュリティー・ドキュメントの長手方向に波形に形成することができる。
【0040】
フィルム・ストリップ2によってもたらされ、セキュリティー素子の機能を果たす別の具体的な表面領域の形状は、フィルム・ストリップ2の独特の形状である。即ち、略中心領域に弓形端部7を有し、弓形端部7に対向する側に、2つの略三角を成す切込み8から成る端部を有していることである。本実施の形態のように、フィルム・ストリップ2の表面5の構造が基体1の表面4と著しく異なる場合には、フィルム・ストリップ2の三角端部領域8と弓形端部領域7との対比により、比較的または全く不慣れなユーザーでも、この独特の形状を容易に触知できる。
【0041】
別のセキュリティー素子として、フィルム・ストリップ2は、図1から分かるように形状が異なる2つの開口部9、10を備えている。具体的には、開口部9は円を成し、開口部10は細長い形状を成し、両側部がそれぞれ対向する方向に窪んで湾曲している。例えば、圧延方式により、フィルム・ストリップ2を基体1に適用する場合、フィルム・ストリップを基体に圧延する手段が開口部9、10に対応する領域に凹部を有していることが好ましい。これにより、図2および3の断面図が示すように、基体1を成す紙が基本的にフィルム・ストリップ2の全領域に押圧されるが、開口部9および10においては押圧されず、図2から特によく分かるように、少なくともフィルム・ストリップ2の表面5の高さまであるいはそれより幾分高くなるまで区切り表面領域11内に広がる。従って、開口部9および10において、ユーザーはフィルム・ストリップ2の表面5と異なる基体1の表面4に触れることができる。
【0042】
適切な場合、圧延時またはフィルム・ストリップ2を基体1にエンボス加工する際に、フィルム・ストリップ2の開口部9および10における基体1の表面領域11に特別な構造体、例えば、細い溝を設けることができる。
【0043】
更に別のセキュリティー素子として、図1のセキュリティー・ドキュメントは、基体1の幅方向、かつフィルム・ストリップ2と略平行に延びるセキュリティー・インプリント12を表面に備えている。本実施の形態によるセキュリティー・インプリント12は、幅が異なる2つのバー13を有し、その間に微細構造パターン14を備えている。インプリント12は人間の触覚によって触知できるようにすることも可能である。即ち、触れることによりインプリント12が存在しているか否かを判断することができる。
【0044】
図1のセキュリティー・ドキュメントの別のセキュリティー要素は、下端部の略中央に配されている数字15である。数字15は、特に点字または同様の文字の読み方を学習した者にとって容易に触知可能である。具体的には、数字15は基体1の表面4に対し隆起していると共に、裏面側が凹部17を成している。従って、数字15を垂直に見ると明確に認知することができる。更に、基体1の表面4側に印刷または金属被膜18を施すことにより強調される。
【0045】
更に別のセキュリティー素子として、図1のセキュリティー・ドキュメントは、例えば、ホログラム等の光学回折効果を有する格子構造体を含む、周知の光学可変セキュリティー素子19を備えている。この場合、セキュリティー素子19も適切な金属被膜を部分的に施すことにより特別な形態にすることができる。例えば、セキュリティー素子19に金属被膜を施した2つのストリップ20を備えると共に、文字21を適切に金属化することによってこれらを強調することができる。セキュリティー素子19はこのような目的に適った周知のセキュリティー素子であることが好ましく、転写フィルムの一部を成し、例えば、ホット・エンボス加工によって、場合により、フィルム・ストリップ2と同時に基体1に転写されることが好ましい。
【0046】
図1のセキュリティー・ドキュメントは連続した基体を有しているのに対し、図4のセキュリティー・ドキュメントの少なくとも特定のセキュリティー素子は、窓状の開口部により、または窓状の開口部と組み合せて形成されている。
【0047】
図1の実施の形態同様、図4のセキュリティー・ドキュメントも左端近傍に基体1の表面4をフィルム・ストリップ22で覆って成るストリップ状の表面領域を有している。フィルム・ストリップ22も、例えば、接着層(図示せず)によって基体の表面4に接合されている。しかし、図1の実施の形態とは異なり、フィルム・ストリップ22は滑らかな自由表面を有している。ユーザーの観点から、第一のセキュリティー機能として、フィルム・ストリップ22の滑らかな表面と、一般にもっと粗い基体1の表面4との違いを触知できる。
【0048】
図6および7が示すように、基体1の2つの開口部23、24がフィルム・ストリップ22によって覆われている。
【0049】
本実施の形態においては、開口部23は略円を成していると共に比較的小さいため、全体を1つの指で触知できる。
【0050】
開口部24は、図1のフィルム・ストリップ同様、独特の形状を成している。具体的には、細長い棒のような形状を成し、その略中心の両側面に三角突起を有している。この棒状の中央部26の端を越えて突出している突起の三角形状は比較的容易に触知できる。従って、開口部23、24を触知し比較することにより、真性をチェックすることができる。この場合、開口部23、24、またはその形状は基体1の裏面16において非常に簡単に検知することができる。
【0051】
フィルム・ストリップ22にも開口部を設けることができる。具体的には、図4のセキュリティー・ドキュメントの上端近傍の細長い六角形を成す開口部27である。ユーザーは、図6から分かるように、開口部27の領域において、基体1の表面4を触知できる。従って、この場合にも、開口部27の領域において滑らかなフィルム22と基体1の表面4との表面特性の顕著な違いを検知することができる。
他方、開口部24の領域においては、フィルム・ストリップ22に本実施の形態では直線状に配されている貫通孔28が設けられており、これにより別の識別オプションが得られる。
【0052】
開口部23の領域のフィルム・ストリップ22の自由表面には、印刷29または適切なエンボス加工が施されている。基体1に対し逆の関係になる印刷またはエンボス29と開口部23との組合せにより真正チェック手段が得られる。
【0053】
図1の印刷同様、図4のセキュリティー・ドキュメントにも、基体の幅方向全体にわたる印刷30が施されている。この場合も、印刷30が基体の表面4とは異なる構造体を備えていることが好ましい。しかし、図1の実施の形態と異なり、図4の印刷30は比較的簡単な形状、即ち、幅広のジグザク形状を成している。
【0054】
図4のセキュリティー・ドキュメントの別のセキュリティー素子は、略楕円を成す表面31である(下部右端)。表面31は比較的粗い構造体を含む表面領域である。この場合、領域31の表面の構造体は、例えば、基体の表面に接着されるフィルム等に形成された円錐台を成す隆起部32によって形成することができる。当然のことながら、基体表面に適切に印刷した層等によって構造化面31を形成することもできる。
【0055】
図1の実施の形態同様、図4のセキュリティー・ドキュメントにも隆起形成した文字33を備えることができる。この場合にも、有価書類または証書の基体の表面4を見たとき、容易に認知できるようにするため、文字の表面に印刷または金属被膜を施すことができる。文字33が基体1の表面4を越えて突出する一方、基体1の裏面16に対応する凹部34が存在している。
【0056】
図4のセキュリティー・ドキュメントは光学的に検知可能である効果的なセキュリティー素子35も備えている。図4から分かるように、セキュリティー素子35はフィルム・ストリップ22に重複している。即ち、セキュリティー素子35は、一部が基体1の表面4の領域、別の一部がフィルム・ストリップ22の表面に配されている。この場合も、セキュリティー素子35は図1のセキュリティー素子19と同様の形態を成し、例えば、構造化部分表面36および略平坦な部分表面37を有している。領域36の構造体は、例えば、光学回折効果を有するホログラムのような格子構造体を成すことができる。また、セキュリティー素子35は、周知の方法によって部分的に非金属化することにより、視認性またはセキュリティーを向上させることができる。この場合も、セキュリティー素子35は一般に転写層として形成されるか、または転写フィルムに配され、フィルム・ストリップ22を貼付した後、図4に示すように、フィルム・ストリップ22と基体1の表面4とに適切に重複させて、例えば、ホット・スタンピングを適用する。
【0057】
前記のように、本発明のセキュリティー素子を互いに組み合せることも、本発明のセキュリティー素子と周知のセキュリティー素子とを種々組み合せるもできる。従って、ここで説明した実施の形態は本発明がどのようなものであるかを説明するための例に過ぎないものと解釈されるべきである。特に、異なる表面特性を有する領域は、利用分野に応じて複雑な形状にすることができると共に、特定の利用分野に適したデザインとすることができる。
【0058】
また、前記の例においては、それぞれの表面領域に関し、基本的に表面粗度の違いについて説明した。当然のことながら、相互に隣接する表面領域が異なる硬度、弾性、スリップ性、熱伝導率、および/または粘性を有している場合には、異なる表面領域を触知できる。このような特性は、例えば、特別なプラスチック材料を表面領域として基体に貼付することによって得ることができる。また、当然のことながら、場合により適切な被覆を施した適切なプラスチック・フィルムによって基体1を形成することができる。
【0059】
本発明を利用することにより、一連のセキュリティー・ドキュメント、例えば、一連の銀行紙幣に対応するセキュリティー素子を備えることができる。この場合、すべての銀行紙幣に人間の触覚によって特定可能な同じセキュリティー素子を備えることができる。既に実際に行われている別の方法として、すべての銀行紙幣に対し基本的に同じ作用をもたらすが、違いが分かるように紙幣に応じて素子の大きさおよび形状を変えることができる。例えば、対応する銀行紙幣の価値に応じて、図1のフィルム・ストリップ2の幅を変えることができる。別の方法として、特別な端部領域7、8を異なる位置に配するか、または端部領域7の曲率または三角切込み8の数および形状を変えることにより、フィルム・ストリップ2の端部領域の形状を変えることができる。
【0060】
本発明のセキュリティー素子の本質的な効果の1つは、前記のようなドキュメントにおいて、盲人または視覚障害者が触知できる特別な素子を必要としないことである。事実、本発明によるセキュリティー素子は一群の人々によって問題なく判定され識別されている。また、盲人にとっては、通常の点字を備えたものと比較して、セキュリティー・レベルが大幅に向上したセキュリティー・ドキュメントが得られる。実際のところ、このような文字はある程度標準化されているため比較的容易に模倣でき、この種のドキュメントの使用において深刻な被害を受けている。
【図面の簡単な説明】
【0061】
【図1】各種のセキュリティー素子を備え、基体が開口部を備えていないトラベラーズチェックのような架空のセキュリティー・ドキュメントの概略平面図。
【図2】図1のII−II線断面図。
【図3】図1のIII−III線断面図。
【図4】開口部を有すると共に、本発明による各種セキュリティー素子を備えた別の架空のセキュリティー・ドキュメントの図1と同様の概略平面図。
【図5】図4のV−V線断面図。
【図6】図4のVI−VI線断面図。
【図7】図4のVII−VII線断面図。
【符号の説明】
【0062】
1 基体
2、22 フィルム・ストリップ
4 基体の表面
6 構造体
7 弓形端部
8 切込み
9、10、27 フィルム・ストリップの開口部
12 インプリント
23、24 基体の開口部
28 フィルム・ストリップの貫通孔
29 印刷/エンボス加工
30 印刷
31 構造化面
32 隆起部



【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1つのセキュリティー素子を基体表面に有して成るセキュリティー・ドキュメントであって、
前記セキュリティー素子が、少なくとも隣接するまたは周囲の前記基体(1)の表面(4)に対し空間的に変位、例えば、陥凹または隆起しているおよび/または粗度、硬度、弾性、スリップ性、熱伝導率、および/または粘性が異なり、この異なる表面性質により人間の触覚によって特定可能である前記ドキュメントに特有の形状および大きさを有して成る少なくとも1つの表面領域(2、9、10、12、15;23、24、27、30、31、33)から成り、
前記少なくとも1つの表面領域が、対応する形状を有し、前記基体(1)に貼付され、該基体(1)と異なる材料から成り、該基体(1)の表面(4)を触知できる開口部(9、10;27)を有して成るフィルム部(2、22)から成っていることを特徴とするドキュメント。
【請求項2】
前記基体(1)およびフィルム部(2、22)が、それぞれ人間の触覚によって検知可能な特性が著しく異なるフィルムによって形成されていることを特徴とする請求項1記載のドキュメント。
【請求項3】
前記基体(1)およびフィルム部(2、22)が、それぞれ人間の触覚によって特定可能な表面特性が著しく異なる紙によって形成されていることを特徴とする請求項1記載のドキュメント。
【請求項4】
前記異なる紙の表面特性がそれぞれ対応する印刷によってもたらされていることを特徴とする請求項3記載のドキュメント。
【請求項5】
前記異なる紙の表面特性が、部分的な機械処理、特に粗面処理、エンボス加工および/または艶出し処理によってもたらされていることを特徴とする請求項3または4記載のドキュメント。
【請求項6】
前記基体表面(4)と異なる表面特性を有する複数の表面領域(2、11、12、15;22、29、30、31)を有して成ることを特徴とする請求項1〜5いずれか1項記載のドキュメント。
【請求項7】
前記複数の表面領域(2、11、12、15;22、29、30、31)がそれぞれ異なる形状、大きさおよび/または表面特性を有して成ることを特徴とする請求項6記載のドキュメント。
【請求項8】
前記フィルム(22)に少なくとも部分的に三次元エンボス加工が施され、独特の構造体(6)が形成されていることを特徴とする請求項1〜7いずれか1項記載のドキュメント。
【請求項9】
前記フィルム(22)に、例えば、印刷によって、触知可能な特別な表面特性をもたらす被膜(29)が部分的に施されていることを特徴とする請求項1〜8いずれか1項記載のドキュメント。
【請求項10】
少なくともセキュリティー素子の一部を構成する、少なくとも1つの窓状開口部を基体に有して成るセキュリティー・ドキュメントであって、
前記窓状開口部(23、24)の形状および大きさが前記セキュリティー・ドキュメントに特有であり、該窓状開口部(23、24)の形状および大きさが人間の触覚によって特定可能であり、該開口部(23、24)が前記基体の表面に固定されたフィルム(22)によって覆われているセキュリティー・ドキュメントにおいて、
a)前記フィルム(22)が前記基体(1)の開口部(23、24)を越えて突出し、前記基体(1)の表面(4)を触知可能とする少なくとも1つの孔(27)を該突出領域に有するおよび/または
b)前記フィルム(2)に少なくとも部分的に三次元エンボス加工が施され、独特の構造体(6)が形成されているおよび/または
c)前記フィルム(22)に、例えば、印刷によって、触知可能な特別な表面特性をもたらす被膜(29)が部分的に施されているおよび/または
d)少なくとも前記開口部(24)を覆う前記フィルム(22)の領域に容易に触知可能なパターンを成す貫通孔(28)が設けられている
ことにより、人間の触覚によって特定可能な前記フィルムの表面特性が、前記基体(1)の表面特性と著しく異なっていることを特徴とするドキュメント。
【請求項11】
大きさおよび形状が人間の触覚によって特定可能な複数の窓状開口部(23、24)を有して成ることを特徴とする請求項10記載のドキュメント。
【請求項12】
前記開口部(23、24)がそれぞれ異なる形状および/または大きさを有して成るおよび/または異なる特性を有するフィルム(22)によって覆われていることを特徴とする請求項11記載のドキュメント。
【請求項13】
前記少なくとも1つの表面領域(2、11、13、15;22、23、24、27、30、31、33)の端部(7、8)が簡単な幾何学的形状を成していることを特徴とする請求項1〜12いずれか1項記載のドキュメント。
【請求項14】
前記少なくとも1つの表面領域(2、13、22)が長方形、特にストリップ形状を成していることを特徴とする請求項13記載のドキュメント。
【請求項15】
少なくとも前記少なくとも1つの表面領域(15、33)において、前記基体(1)がエンボス加工により変形され、該基体(1)の表面(4)に上方に湾曲した部分が形成されていると共に、該基体(1)の別の面(16)に対応する凹部(17、34)が形成されていることを特徴とする請求項1〜14いずれか1項記載のドキュメント。
【請求項16】
前記基体(1)が、該基体(1)の周囲表面(4、2、22)と表面特性が異なる少なくとも1つの表面領域(2、11、12、15;22、27、29、30、31、33)、および少なくとも1つの開口部(23、24)を有して成ることを特徴とする請求項1〜15いずれか1項記載のドキュメント。
【請求項17】
光学または機械チェック可能な少なくとも1つの別のセキュリティー素子(19、35)を有して成ることを特徴とする請求項1〜16いずれか1項記載のドキュメント。
【請求項18】
前記光学または機械チェック可能なセキュリティー素子(35)が、前記基体(1)の周囲表面(4)と異なる表面特性を有する前記少なくとも1つの表面領域(22)および/または開口部(23、24)と少なくとも部分的に重複していることを特徴とする請求項17記載のドキュメント。
【請求項19】
光学チェック可能な前記セキュリティー素子(19、35)がホログラムのような回折構造体(36)および/または部分的な金属化によるパターンによって形成されていることを特徴とする請求項17または18記載のドキュメント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公表番号】特表2006−517159(P2006−517159A)
【公表日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−501458(P2006−501458)
【出願日】平成16年1月20日(2004.1.20)
【国際出願番号】PCT/DE2004/000007
【国際公開番号】WO2004/069560
【国際公開日】平成16年8月19日(2004.8.19)
【出願人】(398058348)レオナード クルツ ゲーエムベーハー ウント コンパニー カーゲー (9)