説明

少なくとも1つの脂肪性物質を含有する創傷被覆材中の活性物質を放出させる新規物質

【課題】少なくとも1つの脂肪性物質を含有する創傷被覆材中の活性物質を放出させる新規物質の提供。
【解決手段】本発明は、2−メチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]−1−プロパンスルホン酸塩とプロペン酸2−ヒドロキシエチルエステルとの共重合体を、創傷被覆材用組成物中の活性物質を放出させる物質として使用することに関する。また、本発明は、少なくとも1つの脂肪性物質及び/又はエラストマーマトリックスと少なくとも1つの活性物質とを含有する創傷被覆材であって、上記共重合体を含む創傷被覆材にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1つの脂肪性物質を含有する創傷被覆材(ドレッシング)中の活性物質を放出させる新規物質に関する。
【背景技術】
【0002】
今日では、幾分かの量の親水コロイド粒子を含む、脂肪性物質(一般的には油状物やワセリンを主成分とするもの)及び/又はエラストマーマトリックスで構成される組成物を使用する多くの創傷被覆材が、創傷治療に用いられている。
【0003】
このようなものとして、例えば、Solvay Pharma社からTulle Gras<R>、Coloplast社からPhysiotulle<R>及びComfeel<R>、Laboratoires UrgoからUrgotul<R>、Algoplaque<R>及びCellosorb<R>の商品名で販売されている各製品が挙げられる。
【0004】
これらの創傷被覆材に使用される組成物は、一般的に、創傷部の環境を湿潤化することにより創傷に癒着せず、癒合を促進するよう設計されている。
【0005】
創傷からの滲出液を吸収できるように、上記組成物は、多量の親水コロイドを含有する場合(例えば、Laboratoires Urgo販売のAlgoplaque<R>、及び、Coloplast販売のComfeel<R>といった製品など)や、吸収性圧定布を1つ以上組み合わせた創傷被覆材に含まれる場合(例えば、Tulle Gras<R>、Physiotulle<R>及びUrgotul<R>といった製品など)や、吸収性発泡体と複合体を形成している創傷被覆材に含まれる場合(Cellosorb<R>といった製品など)がある。
【0006】
また、上記組成物は、当該組成物を含む創傷被覆材が皮膚に付着することにより粘着性ストリップをさらに使用せずとも定位置に保たれるように設計されていることもある。
【0007】
また、様々な活性物質を含み、その活性物質を放出させて、創床や、一般的に病変部周辺皮膚として知られる領域の創縁周辺で作用させることをねらった創傷被覆材用組成物も設計されている。
【0008】
上記活性物質の例としては、銀塩などの防腐化合物や抗菌化合物、癒合過程において作用する化合物(プロテアーゼ阻害剤など)、又は、鎮痛作用を有する化合物(非ステロイド系抗炎症薬など)が挙げられる。
【0009】
活性物質を含有する組成物を使用して作製される創傷被覆材は、例えば、Urgotul<R>SAgやCellosorb<R>Agの商品名でLaboratoires Urgo社から販売されている。
【0010】
しかしながら、脂肪性物質及び/又はエラストマーマトリックスを主体とした上記組成物中に活性物質を含ませるのは難しい問題である。
【0011】
上記組成物が疎水性であるため、当該組成物中に親水性の活性物質を含ませるのは困難である。
【0012】
さらに、活性物質は、通常、創傷滲出液のすぐそばで放出される。その結果として、活性物質は、多少の差はあるものの、親水性媒体への溶解度に応じて、組成物中に捕捉されたままとどまりそれに応じて利用可能となるという傾向がある。従って、活性物質が組成物中に捕捉されたままとどまる傾向を示すならば、当該活性物質を多量に含有させることが必要な場合もある。
【0013】
また、特に親水コロイドを多量に含有する組成物の場合、通常は確保し難い凝着性(cohesion)や吸収性(或いはさらに、皮膚に付着させるタイプの創傷被覆材の場合には粘着性(adhesion))を維持させつつ、創傷被覆材用組成物に活性物質を添加するのが望ましい。
【0014】
さらに、活性物質と組成物の構成成分との相互作用により起こり得る問題を回避しつつ、創傷被覆材用組成物に活性物質を添加するのが望ましい。
【0015】
これらの問題を改善するために、特許文献1において、滲出液の吸収に伴い膨潤して活性物質を放出する親水コロイド中に活性物質を含有させることが提案されている。
【0016】
この解決法は、実施するにはかなり複雑であることに加え、親水コロイドを少量しか含有しない組成物、ましてや親水コロイドを含有しない組成物には不適である。そのような組成物に対して、特許文献2において、活性物質、即ち、当該事例では銀塩などの抗菌物質の放出を促進させるために、界面活性剤、具体的には、Montanox<R>80の商品名で販売されている物質を組成物に含有させることが提案されている。
【0017】
しかしながら、創傷被覆材用組成物中に界面活性剤が存在することで別の問題が生じる。事実、界面活性化合物はその両親媒性という性質によって細胞壁に作用し、結果として細胞壁を溶解することが知られている。
【0018】
創傷治癒を目的とする癒合過程において、特に肉芽形成期中に、細胞増殖、より具体的には線維芽細胞の増殖を誘導又は加速することが求められる。上記線維芽細胞は、肉芽形成期において必須の細胞であり、結合組織を再生して創傷を治癒させることができる。しかしながら、界面活性剤、特に先行特許文献に記載のMontanox<R>80は線維芽細胞に対して毒性を有する。
【0019】
このような状況に基づき、癒合過程において細胞増殖を妨げないように、さらに好ましくは当該細胞増殖を促進するように界面活性剤ではない放出剤の使用が望まれている。
【0020】
また、組成物を(定性的及び定量的に)一から処方し直さなくてもよいように、上記放出剤としては、界面活性剤と同程度の濃度領域で作用し得るものであることも望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】欧州特許出願公開第272,149号明細書
【特許文献2】欧州特許第1,272,229号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
本発明の目的の一つは、活性物質を放出させる新規物質であって、細胞、特に線維芽細胞に対して毒性がなく、同時に、液体に対する、特に創傷滲出液に対する活性物質の溶解度に関わらず、親水コロイドの存在下又は非存在下で脂肪性物質及び/又はエラストマーマトリックスを主体とした創傷被覆材用組成物中に容易に含有させることができ、かつ当該組成物の凝着性(cohesion)、吸収性又は粘着性(adhesion)を損なうことがない物質を提供する、という技術的課題を解決することである。
【課題を解決するための手段】
【0023】
2−メチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]−1−プロパンスルホン酸塩とプロペン酸2−ヒドロキシエチルエステルとの共重合体を、活性物質を放出させる物質として使用することにより、工業的規模で適用可能な、とりわけ簡便な方法で上記技術的課題を解決できることを見出した。これは、本発明の根幹を成すものである。
【0024】
本明細書中、「2−メチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]−1−プロパンスルホン酸塩」という表現は、当業者に公知のあらゆる種類の塩、例えばナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩などを意味するものである。本発明においては、2−メチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]−1−プロパンスルホン酸のナトリウム塩を使用するのが好ましい。
【0025】
当該共重合体は、その乳化安定化能や良好な増粘能のために特に化粧品分野でそれ自体は公知の物質である。そのような物質は、例えば、Sepinov EMT 10<R>の商品名でSeppic社から販売されている。
【0026】
従って、第一の態様によれば、本発明の目的の一つは、創傷被覆材用組成物中の活性物質を放出させる物質としての、2−メチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]−1−プロパンスルホン酸塩とプロペン酸2−ヒドロキシエチルエステルとの共重合体の使用である。
【0027】
当該共重合体は、少なくとも1つの脂肪性物質及び/又はエラストマーマトリックスを含む塊状体(masses)中に含有させる場合に、界面活性剤で得られるのと同等な割合で様々な活性物質を放出させることができる点で特に有利である。
【0028】
さらに、特に有益であることには、公知の界面活性化合物とは異なり、当該共重合体が線維芽細胞増殖を誘導する傾向を有することも見出した。より具体的には、癒合に対する、より具体的には線維芽細胞に対する、従来の界面活性剤、例えばポリソルベート80等の効果を検討した場合、当該界面活性剤はこれらの細胞に対して毒性を示すことが分かる。一方、2−メチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]−1−プロパンスルホン酸塩とプロペン酸2−ヒドロキシエチルエステルとの共重合体は線維芽細胞増殖を誘導する傾向を有することが確認された。
【0029】
第二の態様によれば、本発明は、少なくとも1つの脂肪性物質及び/又はエラストマーマトリックスと、少なくとも1つの活性物質とを含む創傷被覆材であって、上記定義を有した共重合体を含むことを特徴とする創傷被覆材に関する。
【0030】
本明細書中、「創傷被覆材(dressing)」という用語は、閉鎖性又は非閉鎖性の創傷被覆材(閉鎖包帯又は非閉鎖包帯ともいう)を包含することを意図している。
【0031】
非閉鎖性の創傷被覆材(非閉鎖包帯)としては、インターフェイス創傷被覆材が挙げられ、例えばTulle Gras<R>(Solvay Pharma製)、Physiotulle<R>(Coloplast製)、又は、Urgotul<R>(Laboratoires Urgo製)の商品名で販売されているものなどがある。
【0032】
これらのインターフェイス創傷被覆材は、一般的に、少なくとも1つの脂肪性物質及び/又はエラストマーマトリックスを含む塊状体(mass)で被覆されたメッシュ又はネット状の形態で提供されている。
【0033】
適用される創傷の種類に応じて、当該創傷被覆材は、メッシュやネットを用いない、貫通孔があってもなくてもよいシート状の塊状体で構成されていてもよい(塊状体の吸収力がほんのわずかしかないか、あるいは塊状体が吸収力を有しない場合、貫通孔のあるシートを滲出性創傷に使用するのが好ましく、そうすることで当該貫通孔から創傷滲出液が排出される)。
【0034】
上記インターフェイス創傷被覆材は、活性物質を1つ以上含んでいてもよい。このような活性物質を含む創傷被覆材は、例えば、Urgotul<R>SAg(Laboratoires Urgo製、スルファジアジン銀を含有する)、及び、Corticotulle Lumiere<R>(Solvay Pharma製、ネオマイシン硫酸塩とポリミキシンB硫酸塩を含有する)の商品名で販売されている。
【0035】
閉鎖性創傷被覆材は、その大部分が、創傷と接触する内層と、外層とを有した幾つかの層で構成されている。
【0036】
当該創傷被覆材は、吸収性圧定布と複合体を形成しているインターフェイス創傷被覆材の形態であってもよい。この場合、圧定布自体を粘着性の裏材との複合体としたものであってもよい。この種の創傷被覆材は公知であり、Cellosorb Ag<R>(当該製品において、インターフェイス創傷被覆材は活性物質として硫酸銀を含む)の商品名でLaboratoires Urgoから販売されている。
【0037】
本発明はさらに、上記共重合体を含む、ヒドロゲル又は親水コロイドを主体とする創傷被覆材の製造における用途も提供する。
【0038】
公知の親水コロイドを主体とする創傷被覆材は、例えば、Algoplaque<R>(Laboratoires Urgo製)、Duoderm<R>(Convatec製)、及び、Comfeel<R>(Coloplast製)の商品名で販売されている。このような創傷被覆材は、以下の特許出願:仏国特許出願公開第2,392,076号明細書、仏国特許出願公開第2,495,473号明細書、及び国際公開第98/10801号明細書、及び欧州特許出願公開第264,299号明細書に記載されている。
【0039】
本発明においては、脂肪性物質及び/又はエラストマーマトリックスと、親水コロイド又は親水コロイド粒子とで構成される組成物を使用する創傷被覆材が好ましい。
【0040】
本明細書中、「親水コロイド又は親水コロイド粒子」という用語は、水、生理食塩水、又は創傷からの滲出液などの水性液体を吸収できるものとして当業者に使用される化合物を意味するものである。
【0041】
好適な親水コロイドとしては、ペクチン、アルギナート、天然植物ゴム(特にカラヤゴムなど)、セルロース誘導体(カルボキシメチルセルロース等)及びそのアルカリ金属塩(ナトリウム塩やカルシウム塩など)、及び、「超吸収剤」として知られているアクリル酸塩系合成重合体(例えば、Luquasorb<R>1003の商品名でBASF社から販売されている製品やSalcare<R>SC91の商品名でCiba Specialty Chemicals社から販売されている製品など)が挙げられる。
【0042】
これらの親水コロイドは単独で使用しても、組み合わせて使用してもよい。
【0043】
本発明において好ましい親水コロイドは、カルボキシメチルセルロースのアルカリ金属塩、特にカルボキシメチルセルロースナトリウムである。
【0044】
ポリマーマトリックス中に含有させる親水コロイドの量は、当該塊状体の所望の吸収量に応じて調整する。従って、親水コロイドの量は、塊状体の総重量に対して約2重量%〜約50重量%の範囲であってもよい。
【0045】
本発明においては、仏国特許出願公開第2,495,473号明細書、仏国特許出願公開第2,392,076号明細書、又は国際公開第98/10801号パンフレットに記載されるような吸収性創傷被覆材の作製が望まれる場合、親水コロイドを塊状体の総重量に対して20重量%〜50重量%の量で使用するのが好ましい。
【0046】
国際公開第00/16723号パンフレットに記載されるような比較的吸収性の低い創傷被覆材の作製が望まれる場合、親水コロイドを塊状体の総重量に対して2重量%〜20重量%の量で使用するのが好ましい。
【0047】
本明細書中、「脂肪性物質」という用語は、天然物由来(鉱物、動物若しくは植物)又は合成物由来のオイル、脂肪、及び脂質物質(脂肪酸、グリセロール、ステロール、及び、その誘導体を含む)から選択されるあらゆる物質又はそれらの物質のあらゆる混合物であって、液体状、半固体状、又は固体状のもの(即ち、様々な分子量や構造(単量体や重合体)の物質であってもよい)を意味するものである。
【0048】
本発明において使用できる鉱油の中では、例えば、パラフィンオイル、ワセリンが挙げられ、より上位概念では、パラフィン系化合物、ナフテン系化合物、又は芳香族系化合物、又は、これらの各種割合の混合物、からなる鉱油が挙げられる。
【0049】
鉱油の例としては、Shell社から販売されている商品名:Ondina<R>及びRisella<R>、及びCatenex<R>の各製品が挙げられる。Ondina<R>及びRisella<R>は、ナフテン系化合物とパラフィン系化合物とを主成分とする混合物であり、Catenex<R>は、ナフテン系化合物と芳香族系化合物とパラフィン系化合物とを主成分とする混合物である。
【0050】
本発明においては、パラフィンオイル、特にOndina<R>917の商品名でShell社から販売されているオイルが好ましい。
【0051】
また、植物性油脂を本発明において使用してもよく、特に落花生油、ココナッツ油、コーン油、又は甘扁桃油などが挙げられる。これらの植物性油脂は水素添加物であってもよいし、過酸化物であってもよい。
【0052】
動物性油脂もまた好適であり、特に獣脂、ラノリン油、又は鯨油などが挙げられる。
【0053】
本発明においては、脂肪性物質と、エラストマーマトリックスと、親水コロイド又は親水コロイド粒子とで構成される組成物を使用する創傷被覆材が好ましい。
【0054】
本明細書中、「エラストマーマトリックス」という用語は、ポリ(スチレン−オレフィン−スチレン)ブロック共重合体類から選択される1つ以上のエラストマーと、「粘着性付与」物質及び可塑剤(好ましくは液状可塑剤)から選択される1つ以上の化合物とで構成される組成物を意味するものである。このような組成物は、「Advances in Pressure Sensitive Adhesive Technology」,Donatas Satas編集,1995年4月,第7章「Wound dressings」,158〜171頁に明記されており、当業者にも周知である。
【0055】
本発明で使用できる(スチレン−オレフィン−スチレン)ブロック共重合体系エラストマーは、創傷被覆材の作製において当業者に一般的に使用されるものである。必要に応じて、当該エラストマーを(スチレン−オレフィン)ブロック共重合体と組み合わせてもよい。
【0056】
従って、これらのブロック重合体は、2つのスチレン熱可塑性末端ブロックAと、オレフィンである中央エラストマーブロックBとで構成されるABA型のトリブロック共重合体、又は、スチレン熱可塑性ブロックAと、オレフィンであるエラストマーブロックBとで構成されるAB型のジブロック共重合体のいずれかである。当該共重合体のオレフィンBブロックは、例えば、イソプレンやブタジエンなどの不飽和オレフィン、又は、エチレン−ブチレンやエチレン−プロピレンなどの飽和オレフィンで構成されていてもよい。
【0057】
ABAトリブロック共重合体とABジブロック共重合体との混合物の場合、既に入手可能な、ABAトリブロック共重合体とABジブロック共重合体との市販の混合物を使用してもよいし、或いは、別々に入手可能な2つの物質を予め選択した任意の割合で配合した混合物を調製してもよい。
【0058】
不飽和中央ブロックを含有する物質は当業者に周知であり、例えば、Kraton<R>Dの商品名でKraton Polymers社から販売されている。また、ポリ(スチレン−イソプレン−スチレン)共重合体(SISと略す)として、Kraton<R>D1107やKraton<R>D1119BTの商品名で販売されている製品が挙げられ、ポリ(スチレン−ブタジエン−スチレン)共重合体として、Kraton<R>D1102の商品名で販売されている製品が挙げられる。ポリ(スチレン−イソプレン−スチレン)共重合体は他に、Vector<R>の商品名でExxon Mobil Chemical社からも販売されており、例えばVector<R>4113の商品名で販売されている製品などが挙げられる。
【0059】
Bがイソプレンである、ABAトリブロック共重合体とABジブロック共重合体との市販の混合物の例としては、Vector<R>4114の商品名でExxon Mobil Chemical社から販売されている製品や、コード:DPX−565で表された製品Vector<R>が挙げられる。
【0060】
上記イソプレン又はブタジエンを主体とする共重合体の全てにおいて、概して、スチレン含有量は当該共重合体の総重量に対して10重量%〜52重量%である。
【0061】
本発明においては、ポリ(スチレン−イソプレン−スチレン)(SISと略す)トリブロックブロック共重合体であって、スチレン含有量が当該SISの重量に対して14重量%〜30重量%である共重合体を使用してもよい。
【0062】
ポリ(スチレン−イソプレン−スチレン)トリブロックブロック共重合体としては、Kraton<R>D1111Kの商品名でKraton Polymers社から販売されている製品を使用するのが好ましく、ポリ(スチレン−イソプレン−スチレン)トリブロックブロック共重合体とポリ(スチレン−イソプレン)ジブロックブロック共重合体との混合物としては、Exxon Mobil Chemical社から販売されている製品:Vector<R>DPX−565を使用するのが好ましい。
【0063】
また、飽和中央ブロックを含有する物質も当業者に周知であり、例えば、ポリ(スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン)(SEBSと略す)ブロック共重合体は、Kraton<R>Gの商品名(特にKraton<R>G1651、Kraton<R>G1654、又はKraton<R>G1652など)でKraton Polymers社から販売されており、また、ポリ(スチレン−エチレン−プロピレン−スチレン)(SEPSと略す)ブロック共重合体は、Septon<R>の商品名でKuraray社から販売されている。
【0064】
トリブロック−ジブロック共重合体の市販の混合物の一例としては、Kraton<R>G1657の商品名でKraton Polymers社から販売されている製品(当該製品のオレフィンブロックはエチレン−ブチレンである)が挙げられる。
【0065】
本発明において使用できるトリブロック−ジブロック混合物の具体例としては、Kraton<R>G1651の商品名でKraton Polymers社から販売されている製品などのトリブロックSEBSと、Kraton<R>G1702の商品名でKraton Polymers社から販売されているポリ(スチレン−エチレン−プロピレン)などのポリ(スチレン−オレフィン)ジブロック素材との混合物が挙げられる。
【0066】
本発明においては、SEBS又はSEPSトリブロック共重合体であって、スチレン含有量が当該SEBSの重量に対して25重量%〜45重量%である共重合体が好ましい。Kraton<R>G1651及びKraton<R>G1654の商品名でKraton Polymers社から販売されている製品は特に好ましい。
【0067】
一般的に、熱可塑性エラストマーは、ブロック共重合体の特性に応じて、組成物の総重量に対して約2重量%〜約40重量%の範囲の量で使用する。
【0068】
必要に応じて、酸化防止剤を上記ブロック共重合体に添加してもよい。本明細書中、「酸化防止剤」という用語は、親水コロイド(塊状)体の配合において使用される化合物、特に粘着性付与樹脂及びブロック共重合体に酸素、熱、オゾン、及び紫外線に対する安定性を付与するために当業者に一般的に使用される化合物を意味するものである。これらの酸化防止剤は1種類以上を使用又は併用してもよい。
【0069】
好適な酸化防止剤の例としては、フェノール系酸化防止剤、特にIrganox<R>1010、Irganox<R>565及びIrganox<R>1076の商品名でCiba Specialty Chemicals社から販売されている製品など、並びに、硫黄系酸化防止剤、特にPerkacit ZDBCの商品名でAkzo社から販売されているジブチルジチオカルバミン酸亜鉛などが挙げられる。
【0070】
これらの酸化防止剤は、親水コロイド(塊状)体の総重量に対して約0.05重量%〜約1重量%の範囲の量で使用してもよい。
【0071】
本発明においては、Irganox<R>1010を使用するのが好ましい。
【0072】
粘着性のエラストマー(塊状)体(elastomeric masses)とするために、エラストマー、特にポリ(スチレン−オレフィン−スチレン)ブロック共重合体を含有する粘着剤の調製において当業者に一般的に使用されるような「粘着性付与」物質を上記ブロック共重合体に添加することもまた可能である。この点に関しては、上述の先行技術文献や、Donatas Satas著のハンドブック「Handbook of Pressure Sensitive Technology」を引用できる。
【0073】
よって、本発明においては、最終組成物に対し所望される粘着力を得るために、1つ以上の粘着性付与物質を、組成物の他の構成成分に応じて、組成物の総重量に対して約1重量%〜約70重量%の範囲の割合で使用してもよい。
【0074】
1つの粘着性付与物質又は幾つかの粘着性付与物質の組合せは、組成物の総重量に対して10重量%〜40重量%の割合で使用するのが好ましい。
【0075】
当該粘着性付与物質は、通常、粘着性付与樹脂、低分子量ポリイソブチレン、及び、低分子量ポリブテン、又は、それらの混合物から選択される。
【0076】
本発明において好適な粘着性付与樹脂の中では、変性テルペン若しくはポリテルペン樹脂;ロジン樹脂;炭化水素系樹脂;環状芳香族系樹脂及び環状脂肪族系樹脂の混合物などや、これらの樹脂の混合物が挙げられる。
【0077】
このような物質は、例えば、Wingtack<R>の商品名でGoodyear社から販売されており、特に、Wingtack<R>86の商品名で販売されているC/C共重合体からなる合成樹脂、又は、Wingtack<R>10の商品名で販売されている合成ポリテルペン系樹脂などが挙げられる。他の例としては、Kristalex<R>の商品名でHercules社から販売されている樹脂、特にα−メチルスチレン系樹脂であるKristalex<R>3085などが挙げられる。
【0078】
本発明においては、Escorez<R>の商品名でExxon Mobil Chemical社から販売されている樹脂、とりわけEscorez<R>5380の商品名で販売されている合成樹脂を使用するのが好ましい。
【0079】
エラストマーマトリックスに対する粘着性付与物質として使用できる低分子量ポリブテンとしては、例えばNapvis<R>の商品名でBP Chimie社から販売されている製品など、当業者に周知の物質が挙げられる。
【0080】
本発明においては、Napvis<R>10の商品名で販売されている物質がとりわけ好ましい。
【0081】
上記ポリブテンは単独で使用しても、混合物として使用してもよい。
【0082】
上記ポリブテンは、組成物の総重量に対して5重量%〜30重量%の範囲の割合で使用するのが好ましく、8重量%〜15重量%の範囲の割合が特に好ましい。
【0083】
本発明において、「可塑剤」という用語は、熱可塑性エラストマーを含有する粘着剤、特にポリ(スチレン−オレフィン−スチレン)ブロック共重合体系粘着剤の調製のために当業者に一般的に使用されるものであり、伸び、可撓性、押出性、又は加工性を向上させることができる物質である可塑剤を意味するものである。この点に関して、上述の先行技術文献を引用できる。
【0084】
この可塑剤は、液状可塑剤であるのが好ましく、使用されるブロック共重合体のオレフィン中央ブロックとの融和性のある化合物である。液状可塑剤としては、可塑化オイル、特に、パラフィン系化合物、ナフテン系化合物、又は芳香族系化合物、又は、これらの各種割合の混合物、からなる鉱油を使用してもよい。
【0085】
これら鉱油の例としては、Shell社から販売されている商品名:Ondina<R>及びRisella<R>、及びCatenex<R>の各製品が挙げられる。Ondina<R>及びRisella<R>はナフテン系化合物とパラフィン系化合物とを主成分とする混合物であり、Catenex<R>は、ナフテン系化合物と芳香族系化合物とパラフィン系化合物とを主成分とする混合物である。
【0086】
本発明においては、パラフィンオイル、特にOndina<R>917の商品名でShell社から販売されているオイルを使用するのが好ましい。
【0087】
また、液状可塑剤としては、可塑化オイルだけでなく、飽和炭化水素の液状混合物を原料とする合成物を使用することも可能である。上記合成物として、例えば、Gemseal<R>の商品名でTotal社から販売されている製品、特に、石油留分を完全に水素添加して得たイソパラフィン系混合物である製品:Gemseal<R>60などが挙げられる。
【0088】
本発明に係る親水コロイド(塊状)体の調製においては、液状可塑剤を組成物の総重量に対して約10重量%〜約95重量%の範囲の濃度で使用するのが好ましく、親水コロイド(塊状)体の総重量に対して約30重量%〜約75重量%の範囲がより好ましい。
【0089】
本明細書において、「活性物質」という用語は、薬理活性を示す物質のいずれか、特に、殺菌剤や静菌剤(クロラミン、クロルヘキシジン、銀塩、亜鉛塩、メトロニダゾール、ペニシリン等)、癒合促進剤(ホルモン類、ペプチド類等)、創傷洗浄を促進する酵素(ペプシン、トリプシン等)、プロテアーゼ若しくはメタロプロテアーゼ阻害剤、鎮痛剤や局部麻酔薬(リドカイン、シンコカイン)、又は、非ステロイド系抗炎症薬(イブプロフェン、ケトプロフェン、フェノプロフェン、ジクロフェナク)などを意味するものである。
【0090】
これらの活性物質は、創傷被覆材中に0.01重量%〜15重量%の濃度、好ましくは3重量%〜8重量%の濃度で存在していてもよく、この場合、使用される活性物質に応じて当該濃度は変化し得る。
【0091】
本発明において使用される共重合体が有する放出性、さらにはその線維芽細胞に対する特性は以下に示す実施例にて実証される。これらの特性が低投与量、即ち、2−メチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]−1−プロパンスルホン酸塩とプロペン酸2−ヒドロキシエチルエステルとの共重合体が創傷被覆材中に0.1重量%〜20重量%、好ましくは1重量%〜10重量%、より好ましくは約5重量%の量で含まれる場合に示されることに留意されたい。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】実施例1及び23の創傷被覆材の、線維芽細胞に直接接触させてから48時間後、96時間後及び168時間後の、細胞生存率に奏する効果を示すものであり、処理最終段階の線維芽細胞のMTT染色後の写真である。
【発明を実施するための形態】
【実施例】
【0093】
本発明において使用される共重合体の特性の実証
a.使用した構成成分
以下の構成成分を使用して本発明の創傷被覆材を種々作製した。
Sepinov EMT 10:2−メチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]−1−プロパンスルホン酸塩とプロペン酸2−ヒドロキシエチルエステルとの共重合体、SEPPIC社販売
Kraton G 1654及びG 1651:Kraton社販売の高分子量スチレン−エチレン−ブチレン−スチレン(S−EB−S)
Kraton D1111K:22%以上のポリスチレンを含有するスチレン−イソプレン−スチレン(SIS)共重合体、Kraton社販売
Ondina 917:Shell社販売の鉱油
Irganox 1010:Ciba Specialty Chemicals社販売のペンタエリスリトールテトラキス(3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート)
Codex Aワセリン:Aiglon社販売のワセリン
CMC Blanose 7H4XF:Hercules社販売のカルボキシメチルセルロースナトリウム
Luquasorb 1003:ポリアクリル酸ナトリウムの超吸収性重合体、BASF社販売
スルファジアジン銀:Argenol Bentley社販売
ショ糖オクタ硫酸エステルカリウム:Euticals社販売
【0094】
エラストマー体の製造
実施例1〜8
Zブレード・ミキサー中で混合することにより実施例1〜8のエラストマー体を調製した。実施例3〜4の設定温度は140℃であり、実施例1、2及び5〜8の設定温度は105℃であった。
(1)スチレン−エチレンブチレン−スチレントリブロックエラストマー又はスチレン−イソプレン−スチレントリブロックエラストマーを鉱油の半量及び酸化防止剤と混合した。
(2)30分に、混合物にワセリンを添加した。
(3)40分に、残りの鉱油を添加した。
(4)55分に、カルボキシメチルセルロースナトリウム又は超吸収性重合体、該当する場合は活性物質、所望により粘着性付与樹脂、及び、該当する場合はSepinov EMT 10共重合体を添加した。
70分にミキサーの中身を取り出した。
【0095】
実施例9
110℃の設定温度で以下の工程に従ってZブレード・ミキサー中で混合することにより、Sepinov EMT 10共重合体と、活性物質として、ショ糖オクタ硫酸エステルカリウム(Euticals社販売)を含む実施例9のエラストマー体を調製した。
(1)ワセリン(Aiglon社販売のCodex Aワセリン)と鉱油(Shell社販売のOndina 917)とを89℃の温度で混合した。
(2)7分に、共重合体を添加した。
(3)12分に、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Hercules社販売のCMC Blanose 7H4XF)と活性物質とを添加した。
(4)20分に、高分子量S−EB−S(Kraton社販売のKraton G 1654)と酸化防止剤(Ciba Specialty Chemicals社販売のIrganox 1010)とを添加した。その時、混合物の温度は106℃であった。
(5)60分に、粘着性付与樹脂(Exxon Mobil Chemical社販売のEscorez 5380)を添加した。
80分にミキサーの中身を取り出した。
【0096】
実施例10
110℃の設定温度で以下の工程に従ってZブレード・ミキサー中で混合することにより、ショ糖オクタ硫酸エステルカリウム(Euticals社販売)を活性物質として含む実施例10のエラストマー体を調製した。
(1)ワセリン(Aiglon社販売のCodex Aワセリン)と鉱油(Shell社販売のOndina 917)とを89℃の温度で混合した。
(2)3分に、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Hercules社販売のCMC Blanose 7H4XF)と活性物質とを添加した。
(3)10分に、高分子量S−EB−S(Kraton社販売のKraton G 1654)と酸化防止剤(Ciba Specialty Chemicals社販売のIrganox 1010)とを添加した。その時、混合物の温度は104℃であった。
(4)40分に、粘着性付与樹脂(Exxon Mobil Chemical社販売のEscorez 5380)を添加した。
55分にミキサーの中身を取り出した。
【0097】
実施例11
130℃の設定温度で以下の工程に従ってZブレード・ミキサー中で混合することにより、Sepinov EMT 10共重合体と、活性物質として、スルファジアジン銀(Argenol Bentley社販売)を含む実施例11のエラストマー体を調製した。
(1)Sepinov EMT 10共重合体と鉱油(Shell社販売のOndina 917)とを110℃の温度で混合した。
(2)5分に、カルボキシメチルセルロースナトリウム(Hercules社販売のCMC Blanose 7H4XF)と活性物質とワセリン(Aiglon社販売のCodex Aワセリン)とを添加した。
(3)12分に、高分子量S−EB−S(Kraton社販売のKraton G 1651)と酸化防止剤(Ciba Specialty Chemicals社販売のIrganox 1010)とを添加した。その時、混合物の温度は106℃であった。
(4)55分に、粘着性付与樹脂(Exxon Mobil Chemical社販売のEscorez 5380)を添加した。
70分にミキサーの中身を取り出した。
【0098】
実施例12
130℃の設定温度で以下の工程に従ってZブレード・ミキサー中で混合することにより、スルファジアジン銀(Argenol Bentley社販売)を活性物質として含む実施例12のエラストマー体を調製した。
(1)鉱油(Shell社販売のOndina 917)とカルボキシメチルセルロースナトリウム(Hercules社販売のCMC Blanose 7H4XF)と活性物質とを92℃の温度で混合した。
(2)2分に、ワセリン(Aiglon社販売のCodex Aワセリン)を添加した。
(3)7分に、高分子量S−EB−S(Kraton社販売のKraton G 1651)と酸化防止剤(Ciba Specialty Chemicals社販売のIrganox 1010)とを添加した。その時、混合物の温度は113℃であった。
(4)41分に、粘着性付与樹脂(Exxon Mobil Chemical社販売のEscorez 5380)を添加した。
60分にミキサーの中身を取り出した。
【0099】
このようにして調製したエラストマー体の各種構成成分の量(100グラム当たりの重量として表す)を表1に示す。
【0100】
ワセリンを主成分とする塊状体の製造
実施例13〜18
実施例13〜18のワセリンを主成分とする塊状体をビーカー中、以下の工程により45℃で調製した。
【0101】
ワセリン(Aiglon社販売のCodex Aワセリン)、活性物質(Euticals社販売のショ糖オクタ硫酸エステルカリウム、又は、Argenol Bentley社から入手したスルファジアジン銀)、該当する場合はカルボキシメチルセルロース(Hercules社から入手したCMC Blanose 7H4XF)、及び、該当する場合は共重合体(SEPPIC社販売のSepinov EMT 10)を手動で混合した。
【0102】
これらの塊状体の各種構成成分の量(100グラム当たりの重量として表す)を表2に示す。
【0103】
【表1】

【0104】
【表2】

【0105】
c.創傷被覆材及び試験品の製造
.上記実施例1〜4のエラストマー体を使用して、エラストマー体で被覆されたメッシュで構成されるインターフェイス創傷被覆材を作製した。
【0106】
より具体的には、本製造例においては、縦糸方向及び横糸方向共に33デシテックスのポリエステル(ポリエチレンテレフタラート)ヤーンからなる熱硬化性マーキゼットでできた、目開きが約0.8〜1mmの正方形メッシュセルを有するメッシュ(MDB Texinov社販売のメッシュ555)を使用した。
【0107】
このメッシュを、135〜145℃で溶融させたエラストマー体の層で被覆した後、200μmのすき間を有する2つの固定ローラーの間に通して余剰分を取り除いた。このようにして得たストリップを裁断し、各両端において、厚さ23μmのポリエステル製保護フィルムと組み合わせて複合体とした。このようにして、個々に不浸透性の袋に包装し、25kGyのβ線で滅菌した一個単位の創傷被覆材を作製した。
【0108】
.2つのプレートの温度を95℃に設定した加熱プレスによって、シリコーン処理したポリエステル製75μmシート2枚の間に実施例5〜12のエラストマー体のシートを調製した。当該エラストマー体のシートの厚さを1150μmの厚さのインサートで調整し、平均1mmのシートを得た。
【0109】
.実施例13〜18の、ワセリンを主成分とする塊状体の一部をビスコース552メッシュ(MDB Texinov社販売)上に塗布し、さらに一部は、当該塊状体中に含まれる活性物質の放出量を分析するために保存した。
【0110】
.実施例1〜4のエラストマー体を使用して作製したインターフェイス創傷被覆材を4.5mmの厚さの親水性ポリウレタン発泡体(商品名:Vivo MFC.03、Corpura B.V社販売)と加熱により複合させた。当該複合体を2つのホットプレートの間に置き、約100℃の温度で加圧した。インターフェイス創傷被覆材の端に厚さ50μmのポリエステル製フィンガーリフトテープを貼った。このようにして得た複合創傷被覆材を不浸透性の袋に1つずつ包装し、25kGyのβ線で滅菌した。
【0111】
以下、このようにして得た創傷被覆材を「実施例19〜22」と表記し、さらに表3に示す。
【0112】
【表3】

【0113】
活性物質の放出量の測定法
2−メチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]−1−プロパンスルホン酸塩とプロペン酸2−ヒドロキシエチルエステルとの共重合体の、活性物質の放出を促進する能力を以下の分析法によって明らかにする。
【0114】
インターフェイス創傷被覆材の場合(実施例1〜4及び13〜18の塊状体で作製したもの)、25cmの創傷被覆材サンプル(目盛り付きパンチで裁断し、正確に秤量した)を生理食塩水10mlの入った三角フラスコ中に投入した。このガラス器具を密封し、37℃で24時間インキュベータ中に置いた。上澄みを取り出して濾過した。下記方法によって活性物質の量をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)によりアッセイした。
【0115】
発泡体との複合体としたインターフェイス創傷被覆材の場合(実施例19〜22)においては、デバイスに上記液体を完全に吸収させた。本例では、約10mlの上澄みを得るために、創傷被覆材を生理食塩水で飽和させた。
【0116】
方法を統一するため、吸収性創傷被覆材の25cmのサンプル(目盛り付きパンチで裁断し、正確に秤量した)を生理食塩水25mlの入った三角フラスコ中に入れた。このガラス器具を密封し、37℃で24時間インキュベータ中に置いた。上澄みを取り出して、下記方法によって活性物質の量をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)によりアッセイした。
【0117】
シート(塊状)体の場合(実施例5〜12)、25cmのシートサンプル(目盛り付きパンチで裁断し、正確に秤量した)を生理食塩水10mlの入った三角フラスコ中に入れた。当該ガラス器具を密封し、37℃で24時間インキュベータ中に置いた。上澄みを取り出して濾過した。下記方法によって活性物質の量をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)によりアッセイした。
【0118】
ペースト状/軟膏状(塊状)体の場合(実施例13〜18の塊状体を使用して得たもの)、1000mgの塊状体を生理食塩水10mlの入った三角フラスコの底に塗布した。このガラス器具を密封し、37℃で24時間インキュベータ中に置いた。上澄みを取り出して濾過した。下記方法によって活性物質の量をHPLC(高速液体クロマトグラフィー)によりアッセイした。
【0119】
ショ糖オクタ硫酸エステルカリウムのアッセイ法
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるアッセイには、下記条件を用いた。
【0120】
試薬
・硫酸アンモニウム、例えば、Prolaboから入手したNormapur コード21333296など。
・HPLCグレードの脱塩水
・ショ糖オクタ硫酸エステルカリウム
・オルトリン酸、例えば、Carlo Erba コード406002又は同等品など。
【0121】
クロマトグラフ条件
・Waters Alliance 2695 HPLC
・NHカラム
・溶離液:pH=3.00に調整した硫酸アンモニウム水溶液
・流速:1ml/分
・注入量:50μl
・カラム温度=30℃
・検出:屈折率測定(Tint=35℃)
【0122】
クロマトグラフ分析の標準液の調製
3つの対照濃度:0.3mg/ml−1mg/ml−2.5mg/mlを用いて較正範囲を設定した。
【0123】
ショ糖オクタ硫酸エステルカリウムの検出限界は0.06mg/mlであった。ピークが検出されない場合、その結果には検出限界を加算した。
【0124】
スルファジアジン銀のアッセイ法
下記条件でスルファジアジン銀を高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によりアッセイした。
【0125】
試薬
・HPLCグレードの水
・オルトリン酸、例えば、Carlo Erba コード406002又は同等品質のものなど。
・アセトニトリル
・スルファジアジン銀
【0126】
クロマトグラフ条件
・流速:1ml/分
・カラムオーブン温度:30℃
・波長λ:264nm
・溶離相:水/アセトニトリル/オルトリン酸(各容積:900/99/1)
【0127】
クロマトグラフ分析の標準液の調製
2つの対照濃度:0.4mg/ml−2.5mg/mlを用いて較正範囲を設定した。
【0128】
スルファジアジン銀の検出限界は0.0006mg/mlであった。ピークが検出されない場合、その結果には検出限界を加算した。
【0129】
アッセイ法:結果の表示
・較正点により較正直線をプロットし、当該直線の方程式y=ax+b(r>0.999)〔式中、
y=ピーク下の表面積
x=標準液の濃度(mg/mlで表される)
=決定係数〕
を算出した。
・ショ糖オクタ硫酸エステルカリウム又はスルファジアジン銀の含有量(x)を算出した。
【0130】
HPLC結果はmg/mlで表す。
【0131】
活性物質の放出パーセンテージを下記式により算出する。
【0132】
【数1】

【0133】
〔式中:
含有量=創傷被覆材中の理論上の含有量に対する活性物質の放出量
x=mg/mlで表される、活性物質の生理食塩水中への放出量(HPLCデータ)
V:放出試験中に投入された生理食塩水の体積(10ml、又は、吸収性創傷被覆材においては20ml)
m=コーティングの質量(mg)
C=コーティングの活性成分含有量(%)〕
【0134】
このようにして得た放出量測定の結果を表4〜7に示す。
【0135】
【表4】

【0136】
【表5】

【0137】
【表6】

【0138】
【表7】

【0139】
これらの結果から、ポリソルベート80(Montanox 80、SEPPIC社販売)等の界面活性剤がなくても、2−メチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]−1−プロパンスルホン酸塩とプロペン酸2−ヒドロキシエチルエステルとの共重合体により活性物質を放出させることができることが分かる。また、これらの結果から、どのような性質の活性物質(水溶性又は不水溶性)であっても、いずれの場合も放出が起こることが分かる。
【0140】
比較検討
少なくとも1つの脂肪性物質を含有する塊状体において、上記共重合体の、活性物質(ショ糖オクタ硫酸エステルカリウムやスルファジアジン銀など)を放出させる能力を測定し、界面活性剤、本例においてはポリソルベート80(SEPPIC社販売のMontanox 80)を用いて得た結果と比較した。
【0141】
この趣旨により、Sepinov EMT 10共重合体をSEPPIC社販売のMontanox 80に置き換える以外は実施例1〜8と同じ工程に従い、ポリソルベート80と活性物質(Euticals社販売のショ糖オクタ硫酸エステルカリウム)とを含有するエラストマー体を調製した。
【0142】
このようにして調製した塊状体(実施例23及び24)の各種構成成分の量(100グラム当たりの重量として表す)を表8に示す。
【0143】
このようにして調製した塊状体を使用して、エラストマー体で被覆されたメッシュで構成されるインターフェイス創傷被覆材を作製した。
【0144】
より具体的には、本製造例においては、縦糸方向及び横糸方向共に33デシテックスのポリエステル(ポリエチレンテレフタラート)ヤーンからなる熱硬化性マーキゼットでできた、目開きが約0.8〜1mmの正方形メッシュセルを有するメッシュ(MDB Texinov社販売のメッシュ555)を使用した。
【0145】
当該メッシュを、塊状体を115℃で溶融させた溶融物の層で被覆した後、200μmのすき間を有する2つの固定ローラーの間に通して余剰分を取り除いた。このようにして得たストリップを裁断し、各両端において、厚さ23μmのポリエステル製保護フィルムと組み合わせて複合体とした。このようにして、個々に不浸透性の袋に包装し、25kGyのβ線で滅菌した一個単位の創傷被覆材を作製した。
【0146】
【表8】

【0147】
本発明において使用される共重合体とポリソルベート80型界面活性剤との活性物質放出能の比較
上述のインターフェイス創傷被覆材からの活性物質の放出量を測定する方法に従って、実施例1及び3の創傷被覆材(放出剤としてSepinov EMT 10共重合体を含む)と実施例23及び24の創傷被覆材(放出剤としてMontanox 80を含む)を試験した。
【0148】
得られた結果を表9に示す。
【0149】
【表9】

【0150】
表から分かるように、Montanox<R>80又はSepinov EMT 10共重合体のどちらにおいても、活性物質の放出量は、当該活性物質の性質に関わりなく、実質的に等しい。
【0151】
本発明において使用される共重合体が線維芽細胞に対して細胞毒性を有さないことの実証
この有利な特性を実証するために、以下の方法により線維芽細胞培養においてインターフェイス創傷被覆材を試験した。
【0152】
材料と方法
使用細胞:
種類:正常ヒト皮膚線維芽細胞(NHDF)R9PF2のプール
培養:37℃、5%CO
培地:
DMEM(ダルベッコ変法イーグル培地、Invitrogen 21969035)
2mMのL−グルタミン(Invitrogen 25030024)
50 UI/mlのペニシリン、50μg/mlのストレプトマイシン(Invitrogen 15070063)
10%ウシ胎仔血清(v/v、Invitrogen 10270098)
【0153】
被験品:
実施例1及び23の創傷被覆材をウェルの大きさに合わせて裁断し、試験した。
【0154】
増殖に対する効果:
12ウェルプレートに線維芽細胞をコンフルエンス状態で播種した。
【0155】
各創傷被覆材を1.4cm×1.4cm(即ち、1.96cm)の大きさに裁断し、線維芽細胞側の面に張り付け、プラグにより定位置に保った。創傷被覆材は使用しないがプラグは使用する対照試験を行い、さらに、創傷被覆材もプラグも使用しない対照試験も行った。
【0156】
その後、細胞を48時間、96時間及び168時間(7日間)の間、37℃、5%COでインキュベートした。各インキュベート時間において、ミトコンドリア脱水素酵素活性を表す標準的なMTT試験により代謝活性を測定した。インキュベートの最終の24時間はトリチウム化チミジン([メチル−3H]−チミジン、Amersham TRK 686 最終濃度2.5μCi/ml)を添加し、その後、細胞層の細胞のDNAを抽出し、精製し、DNA中に取り込まれた放射能をシンチレーションカウンターで計数した。
【0157】
全ての実験は3連で行った。生の計数データを移し、Prism<R>ソフトウェア(Graph Pad Software)により処理した。
【0158】
得られた結果は、1分当たりの計数(cpm)として表し、さらに、下記式に準じて対照群に対するパーセンテージとして表す。
%(対照群)=(cpm(試験群)/cpm(対照群))×100
式中:
cpm(試験群):試験群で得た1分当たりの計数の値
cpm(対照群):対照群で得た1分当たりの計数の値
【0159】
得られた結果を表10に示す。
【0160】
処理最終段階の線維芽細胞の写真をMTT染色後、撮影した。当該写真を図1に再現する。
【0161】
【表10】

【0162】
表10の結果から明らかなように、創傷被覆材にSepinov EMT 10共重合体を、Montanox 80等の界面活性剤と同等な量で使用することにより、活性物質を同等な割合で放出させることが可能であり、さらに有利なことには、その使用により線維芽細胞増殖も促進される。
【0163】
図1は、実施例1及び23の創傷被覆材の、線維芽細胞に直接接触させてから48時間後、96時間後及び168時間後の、細胞生存率に奏する効果を示す。ここでは、創傷被覆材を取り除きMTTで染色した後に見られる線維芽細胞の形態を光学顕微鏡により可視化した。それぞれの代表的な写真(対物レンズ10×)の撮影により、Montanox 80と比較してSepinov EMT 10共重合体が線維芽細胞増殖に有益な効果を奏することが確認される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
創傷被覆材用組成物中の活性物質を放出させる物質としての、2−メチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]−1−プロパンスルホン酸塩とプロペン酸2−ヒドロキシエチルエステルとの共重合体の使用。
【請求項2】
前記2−メチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]−1−プロパンスルホン酸塩はナトリウム塩であることを特徴とする、請求項1に記載の使用。
【請求項3】
前記活性物質は、殺菌剤、静菌剤、癒合促進剤、創傷洗浄を促進する酵素、プロテアーゼ若しくはメタロプロテアーゼ阻害剤、鎮痛剤、局部麻酔薬、及び、非ステロイド系抗炎症薬から選択されることを特徴とする、請求項1又は2に記載の使用。
【請求項4】
前記組成物はエラストマーマトリックスを含むことを特徴とする、請求項1〜3のいずれか一項に記載の使用。
【請求項5】
前記組成物は親水コロイドを含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一項に記載の使用。
【請求項6】
少なくとも1つの脂肪性物質及び/又はエラストマーマトリックスと、少なくとも1つの活性物質とを含む創傷被覆材であって、
2−メチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]−1−プロパンスルホン酸塩とプロペン酸2−ヒドロキシエチルエステルとの共重合体を放出剤として含むことを特徴とする創傷被覆材。
【請求項7】
前記共重合体を0.1重量%〜20重量%、好ましくは1重量%〜10重量%の量で含むことを特徴とする、請求項6に記載の創傷被覆材。
【請求項8】
前記活性物質を0.01重量%〜15重量%、好ましくは3重量%〜8重量%の量で含むことを特徴とする、請求項6又は7に記載の創傷被覆材。
【請求項9】
前記2−メチル−2−[(1−オキソ−2−プロペニル)アミノ]−1−プロパンスルホン酸塩はナトリウム塩であることを特徴とする、請求項6〜8のいずれか一項に記載の創傷被覆材。
【請求項10】
前記活性物質は、殺菌剤、静菌剤、癒合促進剤、創傷洗浄を促進する酵素、プロテアーゼ若しくはメタロプロテアーゼ阻害剤、鎮痛剤、局部麻酔薬、及び、非ステロイド系抗炎症薬から選択されることを特徴とする、請求項6〜9のいずれか一項に記載の創傷被覆材。
【請求項11】
親水コロイドを含むことを特徴とする、請求項6〜10のいずれか一項に記載の創傷被覆材。

【図1】
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【公表番号】特表2010−527977(P2010−527977A)
【公表日】平成22年8月19日(2010.8.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−508889(P2010−508889)
【出願日】平成20年5月23日(2008.5.23)
【国際出願番号】PCT/FR2008/050893
【国際公開番号】WO2008/149036
【国際公開日】平成20年12月11日(2008.12.11)
【出願人】(504385395)
【Fターム(参考)】