説明

少なくとも1の細孔を有するポリマー膜の製造方法

本発明は、少なくとも1つの細孔を有するポリマー膜の製造方法、このような方法により製造されたポリマー膜、及び、このようなポリマー膜の用途に関する。このように形成された細孔は、ナノメーターの範囲を有しており、それ故、このような多孔性の膜を単分子検出のための装置に使用することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、少なくとも1の細孔を有するポリマー膜の製造方法、そのような製造方法により製造されるポリマー膜、及びそのようなポリマー膜の用途に関する。このようにして形成された細孔は、ナノメートルの範囲にあるため、単分子検出用の装置における使用に適用可能な多孔質膜を提供する。
【背景技術】
【0002】
1.5〜100nmの範囲の直径を有する複数の細孔の組み合わせを有する人工膜に関する興味が増大している要因は、単分子検出の分野における潜在用途である。最近は、DNAの直接配列法の研究は、局所的な収縮を通じて起こるDNA分子の転移現象を検出するために、単一の細孔−主に、膜タンパク質の形成における生物学的な細孔−に集中している。分析されるターゲットDNA分子が直流磁界によって決定されるならば、細孔中のDNAの存在は、その細孔中を流れるイオン電流の部分的な阻止により検出される。細孔中のターゲットDNAの存在を検出することだけでなく、1ms(ミリ秒)当たり1塩基対の読み取りを超える比較的高速度で塩基配列を検出すること(直接塩基配列決定)は、数年前に始められた。しかしながら、極めて高い分解能(high−resolution)を有する測定技術が必要とされていることは明らかであった。最新の直接塩基配列決定法でも、単一の塩基の分解というレベルまでは未だ到達できていなかった。
【0003】
1996年の初期の研究で、J.J.Kasianowiczらは、DNA分子が、α−ヘモリジン細孔タンパク質(alpha−hemolysin pore protein)により形成された膜チャネルを介した転位の間に検出され得るということを示した(非特許文献1)。彼らは、2.6nmの膜チャネルを使用した個々のポリヌクレオチド分子の特性について報告した。彼らは、イオン電流の阻止寿命(blockade lifetime)は、分子長を求めるために利用され得る、ということを明らかにした。
【0004】
Akesonらは、α−ヘモリジンチャネルを使用することによる単一のRNA分子中のシトシン(polyC)及びアデニン(polyA)セグメントの識別方法を示した(非特許文献2、特許文献1)。
【0005】
その後、Mellerらは、その配列のみが異なる同じ長さのポリヌクレオチドの識別に成功したことを報告した。その研究ではまた、α−ヘモリジンチャネル及び標識されていないDNA分子が使用された(非特許文献3)。しかしながら、その配列からの直接読み取りは不可能であった。
【0006】
Howorkaらは、ナノポアを単一鎖DNA分子(プローブDNA=ターゲットDNA分子を検出する(senses)DNA分子)で共有結合的に修飾することで単一の塩基分解能(single−base resolution)を有するα−ヘモリジンナノポアを介したターゲットDNAの検出について報告した(非特許文献4)。ターゲットDNAは、異なった方法で連結鎖(tethered strand)と相互作用するナノポアを介して輸送され、その存在は、完全に一致しないか、一部一致するか、または完全に一致するかに依存していた。その相互作用は、イオン障害電流(ionic blocking current)を測定することにより、そのタイムスケールで決定された。
【0007】
ヘアピンDNA(hairpin DNA)分子を使用する異なるアプローチが、Vercoutereらにより公表された(非特許文献5)。特定種類のヘアピンDNAおよびその結果として生ずるイオン電流サイン(ionic current signature)が、単一のヌクレオチドの決定で迅速に識別するために使用された。ヘアピンDNAは、同時にナノポアを通過することはできないが、塩基との水素結合が解離した後には、細孔を通過するDNA分子の転移速度を低下させる、という事実は、電気的な読み取り(elctrical reading)をさらに容易にする。
進歩したナノテクノロジーによれば、最近は、人工のナノポアに基づくナノポアを用いた配列決定という考え(nanopore sequencing concept)が取り上げられてきている。薄いSiOまたはSi層上に形成されたナノポアが埋め込まれた人工の無機膜の大半は、メムス(MEMS:Micro Electro Mechanical Systems)の分野における様々な応用と区別されている。
【0008】
Liらは、イオン線エッチングを用いてシリコンチッ化膜に形成されたナノポアについてのデータを公表した(非特許文献6)。(湿式化学エッチング(wet chemical etching)または集束イオンビーム(FIB)エッチング方法により形成された)予め定められた穴が、集束Arイオンビームを照射することにより露出され、層ごとに物質を除去する(イオンスカルプティング(ion sculpting))最後に、穴が取り除かれ、薄膜内のナノポアとなる。そのサイズの調整は、エッチングされた膜の後ろに配置されたイオン検出器の形式のフィードバック回路を利用して行われる。ナノポアが開くとすぐに、イオンが後方で検出され、スカルプティング(sculpting)工程が停止される。彼らは、細孔の直径は、スカルプティング工程のイオン線量とバックグラウンド温度を調整することにより、さらに制御することができ、細孔を開けた直後に、細孔の直径は、細孔に向けたイオン誘導物質の輸送(ion−induced material transport)により減少され得る、ということを示した(非特許文献7)。彼らは、3−5nmの細孔の製造を明らかにした。この単一のナノポアを使用すると、500から10kまでの塩基を有するDNA分子が溶解状態で検出され得る。
【0009】
さらに最近では、3nmまで直径を小さくした人工の細孔が、細孔の直径を減少させるために、電子線リソグラフィ、湿式化学エッチング、及び高エネルギー集束電子ビーム(a high energy,focussed electron beam)を利用することにより、SiO膜に製造された(非特許文献9)。Stormらは、透過型電子顕微鏡の高エネルギーの電子線は、SiO表面の流動化を介して製造されたナノポアのサイズを縮小させるために利用され得る、ということを報告した。表面張力の増加の結果、細孔のサイズが減少するように誘導される。この直径の制御方法は、基本的に、TEMを介した視覚的なフィードバックに依存している。
【0010】
最近報告された直径の減少を制御する別のアプローチは、原子層蒸着技術を利用したAl薄膜の蒸着である(非特許文献10)。Si膜にFIBを用いて製造された約20nmの初期直径を有するナノポアは、Alの原子層を蒸着させることにより、ほとんど2nmまで縮小される。同時に、膜の厚みは、その物質が等方性をもって蒸着されることにより増加する。この方法の他の重要な側面は、FIB工程により導入された表面の欠陥が、Al層により被覆され得るということである。1/fノイズ(1/f noise)の明確な減少が観察され得る。また、Alの表面変化は、KCl緩衝液中の負の電荷を帯びたSiO及びSiのそれとは異なっている。Alは、pH〜9で、その等電点を有し、それゆえ、pH〜8で、DNAはその表面から当然はじかれることはない(非特許文献10)。
【0011】
このような酸化物ベースの膜とは対照的に、ポリマー物質をベースとする膜がよく研究されている。例えば、ホイル状のポリ(エチレン テレフタレート)を介して、高エネルギーのイオンを衝突させることにより、ナノポアが導入される(非特許文献11)。この技術は加速器を必要とすることから、このアプローチを魅力的でないものにしている。
【0012】
Salehらは、人工的なPDMSベースのナノポアを使用することによるDNA検出に成功したことについて報告している(非特許文献12)。200nmのオーダーの幅と1μm以上の長さを有する比較的大きな寸法の細孔のために、高分解能を有する検出は達成され得なかった。
【0013】
このように、ナノメーターの範囲の細孔を有するポリマー膜の単純な製造方法は存在しない。その人工膜は、多くのリソグラフィ工程及び加工工程を必要とするSiOやSiのような酸化物をベースとしている従来技術とは区別される。さらに、そのような人工膜の細孔のサイズの調整は、むしろ複雑なように見える。さらに、集束イオンビームを使用して製造された酸化物をベースとする人工膜は、中心に導入された欠陥及びトラップの存在のために、1/fノイズのレベルが高まるという欠点を有し得る。加えて、SiOのような酸化物をベースとする膜はバッファ溶液中で負に帯電され、このことにより、そのような膜を、核酸のような負に帯電された生体高分子の検出への使用に適さないものとする。
【0014】
【特許文献1】国際公開第2002/42496号パンフレット
【非特許文献1】J.J.Kasianowiczら、Natl.Acad.Sci、Vol.93(1996)、pp.13770−13773
【非特許文献2】M.Akesonら、Bio.Phys.J.,77、pp.3227−3233
【非特許文献3】A.Mellerら、Proc.Natl.Acad.Sci.97(2000)、pp.1079−1084
【非特許文献4】S.Howorkaら、Nature Biotechnology、19(2001)、pp.636−639
【非特許文献5】W.Vercoutereら、Nature Biotechnology、19(2001)、pp.248−252
【非特許文献6】J.Liら、Nature、412(2001)、pp.166−169
【非特許文献7】D.Steinら、Phys.Rev.Lett.89(2002)、276106−1
【非特許文献8】J.Liら、Nature Mater.2(2003)、pp.611−615
【非特許文献9】A.J.Stormら、Nature Mater.2(2003)、pp.537−540
【非特許文献10】P.Chen、Nano Lett.4(2004)、pp.1333−1337
【非特許文献11】Z.Siwyら、Europhys.Lett.60(2002)、p.349
【非特許文献12】O.A.Salehら、Nano.Lett.3(2003)、pp.37−38
【発明の開示】
【0015】
そこで、本発明の目的は、ナノメートルの範囲の細孔を有する膜の製造方法を提供することである。この方法は、実施することが容易である。さらに、本発明の目的は、その形成を簡単に観察することが可能な細孔を有する膜の製造を可能にする方法を提供することである。さらに、本発明の目的は、そのサイズを容易に調整することが可能なナノメーターの範囲の細孔を有する膜の製造方法を提供することである。さらに、本発明の目的は、単純であり、かつ、バッファ溶液中に置かれたときに負に帯電された膜を生成しないナノメーターの範囲の細孔を有する膜の製造方法を提供することである。本発明の目的はまた、粗エッチング工程(harsh etching steps)及び後続するそのようなエッチング工程に耐久性を有するマスクを被覆することを必要としないナノメーターの範囲の細孔を有する膜の製造方法を提供することである。
【0016】
これら全ての目的は、500nm以下の範囲の直径の少なくとも1の細孔を有するポリマー膜の製造方法であって、
a)基板を準備する工程と、
b)前記基板上にポリマー膜を成膜する工程と、
c)前記ポリマー膜をリソグラフィ工程に供した後に、前記ポリマー膜に500nm以下の範囲の直径を有する少なくとも1の細孔を導入し、選択的に複数の前記細孔のアレイを前記ポリマー膜に導入する工程と、
d)前記基板から前記膜を剥離させる工程と、
を含む、ポリマー膜の製造方法により解決される。
【0017】
一実施形態で、前記工程a)は、
aa)表面、好ましくは平坦な表面を有し、酸化物、金属及びプラスチックからなる群から選択される1の材料で作られた基板を準備する復工程と、
ab)前記基板の前記表面に、前記基板の前記表面に対して小さな付着力を有する固着防止層を成膜する復工程と、
ac)前記固着防止層上にキャリア膜を成膜し、前記固着防止層は、前記基板に対するよりも前記キャリア膜に対して大きな付着力を有する復工程と、
ad)1μmから500μmまでの範囲の直径を有する少なくとも1の凹部を、リソグラフィ工程により前記キャリア膜に導入することで、前記キャリア膜をパターン化する復工程と、
を含む。
ここで使用される「平坦な表面」との用語は、ナノポアの形成を妨げる突起やへこみなどのたくさんのでこぼこを有さない表面を特徴としていることを意味する。
【0018】
好ましくは、前記工程b)は、
ba)前記ポリマー膜が前記キャリア膜を覆い、かつ、前記少なくとも1の凹部の部位で、前記少なくとも1の凹部の内部にライニングを形成するように、スピンコーティング及び蒸着から選択された1の方法により、前記少なくとも1の凹部を有する前記キャリア膜上にポリマー膜を成膜する復工程を含み、
前記工程c)は、
ca)前記少なくとも1の凹部の内部の前記ライニングにおいて、前記リソグラフィ工程を行う復工程を含む。
【0019】
一実施形態で、前記キャリア膜は、ポリマー及び酸化物からなる群から選択された1の電気的に絶縁性の材料で作られる、好ましくは、前記キャリア膜は、フォトレジスト材料で作られる。前記キャリア膜の生成に使用できる物質の典型的な例は、光(赤外光、可視光、紫外光)露光、電子露光、イオン露光またはX線露光のいずれかに敏感な化学的に増幅されたレジスト及び非化学的に増幅されたレジスト、より明確には、AZレジスト、ZEPレジスト、その他のフォトレジスト、UV6/UV5、その他のディープUVレジスト、ポリ(メチル(メタクリレート))(PMMA)、その他の電子線レジスト、及びナノインプリントリソグラフィに使用されるレジストである。
【0020】
好ましくは、前記ポリマー膜は、ポリマー及び酸化物からなる群から選択された1の電気的に絶縁性の材料で作られる、好ましくは、前記ポリマー膜は、フォトレジスト材料及び電子ビームレジスト材料から選択されたレジスト材料で作られる。前記ポリマー膜の生成に使用できる物質の典型的な例は、ポリエチレン(PE)、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリビニルクロライド(PVC)、ポリカーボネート、ペンタセン(pentacene)及びその他のプラスチック材料である。ある実施形態では、前記ポリマー膜は、前記の材料のうちの1つで形成されたポリマー層、及び、例えばSiO、Si、酸化物、絶縁材及び金属のような無機材料層を含む二層構造である。あるいは、前記ポリマー膜は、中間にさらにポリマー層および無機層を有する多層構造である。例えば、本発明によるポリマー膜は、第1のポリマー層、その上に位置する無機層、及び前記無機層の上に位置する第2のポリマー層を含む構造、すなわち、サンドウィッチ構造であってもよい。あるいは、この構造が数回繰り返され、Pなどの層配列を有する複数のサンドウィッチ構造を有するようになっていてもよい。P及びIは、それぞれ、x番目のポリマー層及び無機層を示す。
【0021】
一実施形態で、前記工程d)は、例えば吸引のような力を付加、又は、1もしくは複数の前記細孔を覆わないように1もしくは複数の穴を有する接着テープを前記ポリマー膜へ貼り付け、続いて、前記ポリマー膜を前記基板から剥離させることにより行われる。
【0022】
一実施形態で、前記固着防止層は、約1nmから約100nmまで、好ましくは約5nmから約75nmまで、さらに好ましくは約10nmから約60nmまで、最も好ましくは約20nmから約50nmまでの範囲の厚みを有する。
【0023】
一実施形態で、前記固着防止層は、ポリマー、酸化物、シラン、炭素(グラファイト)、スパッターされたSiO、Siからなる群から選択される1の材料で作られる。好ましくは、これらの材料は、ナノ粒子として提供される。一実施形態で、固着防止層は、導電性材料で作られ、別の実施形態で、固着防止層は、電気的に絶縁性の材料で作られ、さらに別の実施形態で、固着防止層は、それらの材料の混合物で作られる。
【0024】
好ましい実施形態で、前記製造方法は、e)適切な溶媒中で前記固着防止層を溶解させ、好ましくは、前記固着防止層は、金属、酸化物及びプラスチックからなる群から選択される1の材料で作られ、好ましくは、前記適切な溶媒は、アセトン、アルコール、有機酸のような塩基性水溶液(例えば、金属用)、KI/I水溶液(例えば、金属用)、水(例えば、水溶性酸化物用)及び有機溶媒(例えば、プラスチック用)である工程をさらに含む。ここで、好ましくは、工程d)及びe)は、同時に行われる。
【0025】
一実施形態で、前記工程c)における前記リソグラフィ工程は、光リソグラフィ、電子ビームリソグラフィ、及び原子間力顕微鏡(AFM)リソグラフィからなる群から選択され、かつ、現像工程を含む。
【0026】
一実施形態で、前記工程ad)における前記リソグラフィ工程は、光リソグラフィ及び電子ビームリソグラフィからなる群から選択され、かつ、現像工程を含む。
【0027】
好ましくは、前記工程ab)及びac)は、熱蒸着、電子銃蒸着、スピンコーティング、ディップコーティング、スパッタリング及び気相蒸着から選択された1の方法により行われる。
【0028】
一実施形態で、工程ad)及びca)における前記現像工程は、現像液を、前記キャリア膜と前記ポリマー膜のそれぞれに、好ましくは、導入された前記凹部と前記細孔のそれぞれの部位に添加することにより行われる。ここで、好ましくは、前記固着防止層は、導電性材料、好ましくは、金またはアルミニウムのような金属で形成され、より好ましくは、前記工程c)における前記ポリマー膜への500nm以下の範囲の直径を有する前記少なくとも1の細孔の前記導入は、一の電極を現像液と接続し、当該電極に対する対極を固着防止層と接続し、前記2つの電極の間で、電流及び/又は電圧の変動を測定することにより監視される。
【0029】
一実施形態で、直流定電圧または直流定電流は、前記2つの電極を通して加えられ、電流又は電圧は経時的に観察され、電流の増加及び/又は電圧の減少は、前記細孔の前記導入の完了を示している。
【0030】
他の実施形態で、前記2つの電極を通して、インピーダンスアナライザ又はロックイン増幅器を用いて交流電流及び/又は交流電圧の測定が行われ、このような測定は、時間曲線に対するインピーダンスの実部と虚部を提供し、その同相信号はインピーダンスの実部に相当し、電流の増加及び/又は電圧の減少は前記細孔の導入の完了を示しており、さらに、その異相信号は時間曲線に対するインピーダンスの虚部に相当し、前記細孔の導入が完了した後に、その同相信号及び異相信号は前記細孔の大きさについての情報を明らかにし、前記インピーダンスの同相信号は溶液中の前記細孔のオーム抵抗を反映し、それ故、前記細孔の深さ及び面積の大きさを反映し、前記インピーダンスの異相信号は前記細孔の電気容量を反映する。
【0031】
本発明の目的はまた、キャリア膜上に配置されて500nm以下の範囲の直径の少なくとも1の細孔を有するポリマー膜を含み、本発明による製造方法により製造される膜構造によって解決される。
【0032】
好ましくは、前記細孔は、0.1nmから100nmまで、好ましくは1nmから75nmまで、さらに好ましくは1nmから50nmまで、最も好ましくは1nmから10nmまでの範囲の直径を有する。
【0033】
一実施形態で、前記ポリマー膜は、約0.1nmから約500nmまで、好ましくは約1nmから約250nmまでの範囲の厚みを有する。
【0034】
好ましくは、前記キャリア膜は、約1μmから約100μmまで、好ましくは約1μmから約50μmまで、さらに好ましくは約1μmから約20μmまでの範囲、最も好ましくは約10μmの厚みを有する。
【0035】
一実施形態で、n×m個の細孔のアレイが、本発明による製造方法を用いて前記ポリマー膜に導入される。n及びmは自然数であり、n及びmは、同じ自然数であってもよく、異なる自然数であってもよい。一実施形態で、前記ポリマー膜にさらにフィルムヒータが一体化されている。これは、細孔形成時におけるより正確な制御を可能にするとともに、細孔の形成後の細孔の更なる加工を可能にする。
【0036】
本発明の目的はまた、電子機器、好ましくは、生体高分子、好ましくはタンパク質又は核酸の大きさ及び/又は配列を測定するための電子機器と、ナノ粒子、タンパク質、核酸又は生体高分子用の計測器としての電子機器の少なくともいずれか一方における本発明による膜構造の用途によって解決される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明者らは、例えば、スピンコートされ得る、又は蒸着され得る、又は他の匹敵する方法で蒸着され得るポリマー材料をベースとする膜を使用する。例えばスピンコーティング又は蒸着のような方法は、当該分野の当業者によく知られている。ポリマー材料は、上部に薄い固着防止層を有するシリコンウェハの表面のシリコン酸化物のような平坦な表面に蒸着される。さらに、固着防止層の上には、別の安定化している(stabilizing)ポリマー層、いわゆる「キャリア層」があってもよい。この「キャリア層」は、ポリマー膜を安定化する目的で設けられる。このポリマーキャリア層の上には、必要に応じてポリマー層が蒸着される。続いて、このポリマー層には、ナノメートルの範囲の細孔が導入される。このような細孔の導入は、リソグラフィ、好ましくは、電子線リソグラフィ、AFMリソグラフィ、または光リソグラフィにより行われる。細孔が導入された後に、固着防止層、キャリア層及びポリマー膜を含む膜構造は、例えば、細孔の被覆を避けるように、中央に穴を有する接着テープを使用して膜構造を剥離させることにより、基板から簡単に除去され得る。人工のポリマー膜内の本発明による細孔は、例えば、逆に、SiO又はSi膜中の細孔には必要とされるKOHエッチングのようないかなるハードエッチング技術をも必要としない。KOHエッチングに耐久性を有するいかなるハードマスクも必要としない。そのようなマスクが、基板の両面に適用されなければならないため、本発明の製造方法では、高質の蒸着方法が必要とされない。本発明による細孔は、ポリマー材料をベースとしているため、最終的な細孔のサイズを制御する技術のアプローチを単純にすることができる。例えば、その細孔は、酸素プラズマ、加熱又は架橋結合を用いた処理により扱われ得る。ポリマーの表面電荷は、ある範囲内で変化することができ、そして、例えばSiO膜、Si膜のような酸化物膜の負に帯電した表面に対して明確な利点を有する中性に、簡単にすることができる。表面電荷は、ノイズ源および細孔の阻止(blocking)の1つである。さらに、ポリマー膜は柔軟であり、それ故、機械的な微小流体の環境(mechanical microfluidic environment)に統合することが容易である。固着防止層及びポリマーキャリア層、好ましくはフォトレジストで作られた層を使用する本発明者らのアプローチは、蒸着、スパッタリング、スピンコーティングなどにより積層され得る多くの異なる膜材料の統合を可能にする。さらに、2つの電極を使用して細孔形成/細孔導入を観察することによるフィードバック機構は、直接的で、かつ、実現することが容易である。これ故、本発明者らは、そのような観察のために従来技術で使用されていた透過型電子顕微鏡又はイオン検出方法に依存する必要がない。本発明者らのアプローチは、スピンコーティング、真空蒸着(evaporating)、または気相蒸着(depositing from the vapour phase)に適用可能な広範囲のポリマー材料をベースとする非常に薄いポリマー膜の形成を可能にする。さらに、本発明による膜は、標準的なリソグラフィ方法によりパターン化され得る。また、膜が1つの層、例えば、「統合された」後方電極(“integrated” back electrode)として機能することが可能な基板上の位置する固着防止層を用いて製造されるという事実は、例えば、基板の加熱とナノポアの形成の観察を同時に行いながらナノポアのサイズを設計することを可能にする。
【0038】
ここで使用される「500nm以下の範囲の直径を有する細孔」はまた、「ナノポア」として言及されることもある。さらに特別に、このような「ナノポア」という用語は、0.1nmから100nmまで、より好ましくは1nmから75nmまで、さらに好ましくは1nmから50nmまで、最も好ましくは1nmから10nmまでの範囲の直径を有する細孔に言及している。ここで使用される「固着防止層」という用語は、その基板に対する低い付着力のため、前記固着防止層上にさらに積層された層とともに前記固着防止層の前記基板からの剥離を可能にする層を記述することを意味する。前述の説明から、前記固着防止層は、基板の平坦な表面に対してのみ弱い付着力を有し、その反対側に固着防止層に付着された層に対して良好な付着特性を有するべきであることは明らかである。それ故、固着防止層の材質の的確な選択は、基板の材質に依存しており、過度の試行錯誤を行うことなく、当該分野の当業者の知識を用いて当業者により決定され得る。例えば、当業者は、金で形成された層は、シリコン酸化物表面に対して非常に小さな付着力を有することを知っている。一般的に、固着防止層は、基板が作られる材料に対して弱い付着力を示す金属、酸化物、プラスチック、または他の有機成分からなる群から選択された材料で作られる。固着防止層の材料として使用可能な例は、金、マイカ、炭素及びフッ化シランである。ある実施形態で、固着防止効果は、ナノ粒子として、固着防止層の材料を提供することにより達成される。本発明による基板は、酸化物、金属、プラスチックまたは他の有機成分からなる群から選択される材料で作られる。
【0039】
本発明による製造方法の好ましい実施形態で、好適なポリマー、好ましくは、光リソグラフィ又は電子線リソグラフィによりパターン化され得るレジストをベースとするキャリア膜は、(それ自身が基板上に位置する)固着防止層に蒸着される。光または電子線リソグラフィによるパターン化の結果、キャリア膜内に穴または凹部ができる。その穴または凹部は、マイクロメーターの範囲(1μm−500μm)の直径を有する。このようなキャリア膜の上に、必要とされるポリマー膜が、好ましくはスピンコーティングまたは真空蒸着(evaporating)により積層される(deposited)。このような積層の結果、キャリア膜上に薄いポリマー膜ができ、前記キャリア膜内に前述した穴または凹部のライニングができる。このようにして、穴または凹部内に、すなわち、穴または凹部の底部及び壁面に、効果的に薄いポリマー膜を形成する。その後、さらなるパターン化、すなわち、ポリマー膜への実際のナノポアの導入が、好ましくは、ポリマー膜が前記の穴または凹部のライニングを形成する部位に行われる。このようなパターン化は、好ましくは、光リソグラフィ、電子線リソグラフィ、AFMリソグラフィ、または、例えば、イオン線リソグラフィ、X線リソグラフィ及び走査トンネリングリソグラフィ(scanning tunnelling lithography)のような従来技術と区別される他の方法により行われる。それだけでなく、ポリマー膜が無機層を含む場合には、エッチング技術も行われない。ポリマー膜だけでなくキャリア膜も、好ましくは、電気的に絶縁性である。キャリア膜の材料は、ポリマー及び酸化物からなる群から選択され、さらに好ましくは、フォトレジスト材料からなる群から選択される。好ましい実施形態では、ポリマー膜の材料は、ポリマー及び酸化物からなる群から選択され、さらに好ましい実施形態では、ポリマー膜の材料は、電子線レジスト材料及びフォトレジスト材料からなる群から選択される。ポリマー膜が、ポリマー層と無機材料の層を両方含む場合には、ナノポアを無機層に導入するために、ポリマー層のための技術とは異なる技術を使用しなければならない場合があることは、当業者にとって明らかである。前記のリソグラフィ工程がポリマー層に使用されるのに対し、無機層は、例えば、イオンエッチング、反応性イオンエッチング、湿式エッチング及びOプラズマエッチングのようなエッチング技術を必要とする場合がある。
【0040】
固着防止層、キャリア膜及びポリマー膜を含む全体の構造は、例えば、接着テープを使用することにより、基板から簡単に剥離され得る。剥離(lifting/peeling)後は、固着防止層は、適切な溶媒に溶解させることにより除去され得る。使用する溶媒は、固着防止層に使用する材料の選択に依存していることは、当業者にとって明らかである。例えば、当業者は、金及びアルミニウムのような金属は、KI/I2水溶液(金)または塩基性溶液(アルミニウム)に溶解し得ることを知っている。固着防止層に使用される水溶性の酸化物は、水を必要とする。有機性の固着防止層は、例えば、アセトン、エタノール、DMFなどのような適切な有機溶媒を使用することにより除去され得る。
【0041】
固着防止層、キャリア膜及びポリマー膜を含む全体の構造は、約1nmから約100nmまで、好ましくは約5nmから約75nmまで、さらに好ましくは約10nmから約60nmまで、さらに好ましくは約20nmから約50nmまでの範囲の固着防止層の厚みを有する。好ましくは、キャリア膜の厚みは、約1μmから約100μmまで、好ましくは約1μmから約50μmまで、さらに好ましくは約1μmから約20μmまでの範囲、最も好ましくは約10μmである。ポリマー膜の厚みは、約0.1nmから約500nmまで、好ましくは約1nmから約250nmまでの範囲である。ある実施形態では、ポリマー膜は、1nmから5nmまでのはに、好ましくは約2nmの厚みを有するに過ぎない。さらに、キャリア膜とポリマー膜の両方の厚みは、蒸着時間に応じて変化され得る。スピンコーティングの場合には、回転率(rotational rate)及び回転持続時間(duration of spinning)のパラメータは、その程度まで使用され得る。さらに、蒸着工程の後に、ポリマー膜及び/又はキャリア膜の層を除去するために、例えば酸素プラズマを使用して、後加工(post−processing)工程が使用されてもよい。膜がフォトレジスト材料で作られている場合には、現像時間が変化され得る。その結果として、その膜が異なる程度まで現像される。例えば、「暗条件の除去率(dark removal rate)」は、露光されていないレジスト領域の寄生的な現像(parasitic development)に関係する。
【0042】
細孔の直径に影響を及ぼす目的で、例えば、リソグラフィ工程や、それに続く、例えば、露光後の焼成工程のような加工工程における露光量(exposure dose)、及び、それに続く現像の継続時間のような様々なパラメータが影響されてもよい。さらに、熱アニーリングが、ポリマー膜をそのポリマーのガラス転移温度以上に加熱することにより、細孔の直径を変化させるために使用されてもよい。加えて、化学的及び/若しくはUV誘導(UV−induced)架橋結合工程を実施することにより、並びに/又は、プラズマ処理工程を実施することにより、細孔の直径を変化させてもよい。さらに、例えば、熱処理、化学的処理、光処理などのポリマー表面の表面電荷及び濡れ性(wettability)を変化させる更なる処理を実施することにより、ポリマー膜の表面特性を変化させてもよい。
【0043】
その上さらに、本発明は、ナノポアの直径を観察、制御及び調整するためのフィードバック機構を提供する。本発明者らのアイディアは、現像浴(debeloper bath)、すなわち、細孔の片側に位置する現像液と、固着防止層との間の電気的な抵抗を測定することである。ほとんどの現像液は、電気輸送測定(electric transport measurements)に使用され得るイオンを含有する。さらに、有機溶媒をベースとする現像液は、残留抵抗を示すか、又は、少量のイオンの添加により導電性を発現し得る。現像液の例は、光フォトレジストのうちのUVフォトレジストに使用するテトラメチルアンモニウムヒドロキシド(TMAH)、ポリ(メチルメタクリレート)に使用するメチルイソブチルケトン(MIBK)である。
【0044】
観察のためのフィードバック機構の一実施形態の概略的な手順が図2aに示されている。電極、好ましくは、化学的に不活性の電極が現像液に挿入され、対極が固着防止層に接続される。この場合、固着防止層は導電性を有する。例は、湿式化学エッチングが行われ得る金、アルミニウム及びその他の材料由来の層である。現像液と導電性の固着防止層との間の電気的な抵抗は、現像の進行に依存する。ポリマー膜の厚みの減少及び最終的な除去(それぞれ、図2b及び図2c)は、検出し得る電気的信号となる。2種類の測定が可能である。
【0045】
1)漏れ電流(leakage current)及び貫通電流(break−through current)の直流測定
ナノポアの構造が一旦現像されると(貫通電流と貫通電圧(break−through voltage)がそれぞれ低下する)、一定のバイアス(電圧または電流のいずれか)は、電流変動又は電圧変動に至る。誘導された電気抵抗(the derived electrical resistance)は、基本的に、ナノポアが開いた時に低下する。貫通(break−through)前には、有意な量の漏れ電流が流出し得る場合には、ポリマー膜の厚みの減少が検出され得る。貫通後には、流出する電流又は電圧の低下のレベルがナノポアのサイズについての情報を明らかにする。
【0046】
2)層厚みの減少及び貫通を決定するための交流測定
交流電流及び電圧の測定は、インピーダンスアナライザ又はロックイン増幅器を使用することにより実施され得る。このような方法は、時間に対するインピーダンスの実部及び虚部を提供する。その同相信号はインピーダンスの実部に相当し、その情報の内容は、1)中で言及された内容に類似している。また、ポリマー膜の厚みの減少は、結果として、現像浴と固着防止層との間の容量(capacitance)の変化となる。この信号は、その異相信号成分として測定可能である。貫通後に、同相成分及び異相成分は、ナノポアのサイズについての情報を明らかにする。現像時間は、より大きな所望のナノポアの直径に達することを目的として、延長され得る。
【0047】
このフィードバックアプローチは、現像工程の際に、ナノポアの直径の直接的な制御につながる。このフィードバックアプローチはまた、現像工程が完了した後に、後現像調整(post−development−adjustment)として、ナノポアの直径を調整するために使用され得る。いくつかの方法は、すでに前記でリストアップされている。熱アニーリング若しくは他の方法を用いた直径の縮小、または、酸素プラズマ処理若しくは他の方法を用いた直径の拡大は、対極としての固着防止層を用いてナノポアを通過する電流又は電圧の低下を測定することにより、観察され得る。この場合、流動媒体(fluidic medium)は、現像液である必要はない。
【0048】
さらに、以下の実施例1に対して、図示された以下の参照が付されているが、その参照は、本発明を限定するものではない。
【0049】
本実施例は、200nmの厚みのUV6.02(米国のShipley Inc.,から市販されている)電子線レジストをベースとする膜における単一のナノポアの製造について記述している。支持膜は、10μmの厚みのSU−8フォトレジスト(ベルリンのMicroresist GmbHから市販されている)をベースとした。
【0050】
1. 固着防止層を、研磨されたSiO表面にスパッタ蒸着された50nmの厚みの金で作製した。
2. SU−8フォトレジストを、前記金層上に3000rpmでスピンコートした。その結果、約10μmの厚みとなった。そのレジストは、65℃で2分間及び95℃で5分間、ソフトベイク(soft−baked)した(図3b)。
3. 60μmの幅の穴または凹部は、SU−8レジスト層に対し、360nmの光で20分間露光した。そのサンプルを、65℃で1分間及び95℃で2分間、後焼成(postbaked)し、次いで、SU−8現像液中で2分間現像し、プロパノール中で洗浄した(図3c)。
4. 現像されたSU−8サンプルに対し、UV6.02(Shipley Inc.,製)を4000rpmでスピンコートした。その結果、レジスト層の厚みは、約200nmとなった。その層を、130℃で60分間ソフトベイクした(図3d)。
5. UV6.02レジスト層を単発電子線露光器(a single shot electron beam exposure)を用いて、10kV、18pA、及び125μC/cmの電子線量で露光した。露光したサンプルを130℃で90分間後焼成し、MIF 726 金属イオンフリー現像液(metal−ion free developer)中で45分間現像した。脱イオン(DI)水中で最終的な洗浄を行った(図3f)。
6. ナノポアを塞がないように中央に1つの穴を有する接着テープを使用して剥離することにより、膜層(membrane layer)を支持基板から除去した。シリコン酸化物上の金の弱い付着特性のために、スパッタされた金の剥離は良好に行われる(図3g)。
7. 50nmの厚みの固着防止層を、KI/I水溶液中で2分以内に除去した(図3h)。
【0051】
図4は、SU−8レジスト層にパターン化された60μmの穴または凹部のSEM画像を示している。その穴の中央部には、UV6.02膜及びナノポアが保持されている。図4における挿入図は、電子線露光によりUV6.02膜に導入された45nmのナノポアを示している。1桁ナノメーターの範囲またはさらにはサブナノメータの範囲(0.1nmまで低下)のナノポアが、このようにして容易に形成され得ることが認識される。
【0052】
図5は、本発明による細孔形成時の同相電流と時間との関係を示している。
【0053】
図6は、本発明によるPMMA系中の10nmの直径のナノポアを示している。
【0054】
一実施形態で、ポリマー膜はまた、ポリマー材料、並びに、例えば、SiO、Si、任意の酸化物、他の絶縁材、及び金属などの無機材料の2層及び多層から構成されていてもよい。このような構造の利点は、膜のより大きな機械的安定性、及び、ナノポアが形成された極めて薄い無機膜の実現である。図3b)は、可能なサンドウィッチ構造を示している。
【0055】
図3b)の左側の工程フローは、薄い無機膜層をパターン化するために、ポリマーマスクがどのように使用され得るかを示している。無機膜材料は、適用可能であれば、真空蒸着、スパッタリングまたはスプレー/スピンコーティングのような標準的な蒸着方法により蒸着され得る(図3b、a))。無機膜層の厚みは、上記で開示されたポリマー膜層の厚みと類似するべきである。適用されるポリマー層(図3b、b))は、リソグラフィ工程(図3b、c))、例えば、電子線(ebeam)リソグラフィによりパターン化され得る。そして、その無機材料に依存して、パターン(ナノポア)は、例えば、反応性イオンエッチング、イオンエッチング、または湿式エッチングにより、無機材料に拡張され得る(図3b。d))。ナノポアへの接近抵抗(access resistance)を減少させることを目的として、図3b、e’)に示されているように、ナノポアへのアクセスホール(access hole)を拡張するためにOプラズマエッチングが適用され得る。逆に、膜構造は、上記(図3b、e)及びf’))に示されているように、固着防止層を除去することにより、ちょうど完成する。
【0056】
図3b)の右側の工程フローは、今述べられた工程にわずかな変更が加えられた例を示している。この場合、無機材料層は、2つのポリマー層の間に完全に組み込まれている。このアプローチの利点は、例えば、固着防止層の除去中における化学分解からの薄い無機材料層の保護をより強くできることである。図3b、1)は、第1ポリマー層が固着防止層上に蒸着されることを示している。次いで、無機材料層が加えられ(図3b、2))、最終的に、第2ポリマー層が蒸着される(図3b、3))。リソグラフィによるパターン化は、第2ポリマー層に適用される(図3b、4))。次いで、パターン(例えば、ナノポア)が、反応性イオンエッチング、イオンエッチング、湿式エッチングにより無機材料層に導入される(図3b、5))。第1ポリマー層に転写されたそのパターンは、更なる現像またはOプラズマエッチングのいずれかにより処理が行われ得る(図3b、5))。最後に、固着防止層が除去され、膜が完成する。
【0057】
本発明の特徴は、本明細書、特許請求の範囲、及び/又は添付された図面に開示されており、それら個別でも組み合わせてもよく、本発明には様々な形態があることを理解する上での材料となり得る。
【図面の簡単な説明】
【0058】
以下に、図面に対して参照が付されている。
【0059】
【図1】図1は、固着防止層及びそれを支持する(supporting)キャリア膜を使用してナノポアを形成する工程の流れの一実施形態を示している。
【図2】図2は、所定の制御された方法でレジスト膜にナノポアを形成するための、現像工程のセットアップ及び時間依存観察の例を示している。
【図3a】図3aは、金固着防止層、10μmの厚みのSU−8支持膜、及びUV6.02電子線レジスト膜を使用してナノポアを形成する工程の流れの一実施形態を示している。
【図3b】図3bは、ポリマー材料、及び、例えばSiO、Siなどの無機材料の2層または多層のポリマー膜を使用してナノポアを形成する工程の流れの一実施形態を示している。
【図4】図4は、SU8/UV6.02膜系のSEM画像を示している。挿入図は、電子線露光によりUV6.02レジストに導入された45nmのナノポアを示している。
【図5】図5は、細孔の現像工程において、UV6膜の露光時間及び現像液濃度(TMAH=テトラメチルアンモニウムヒドロキシド)を変化させたときの同相電流と時間との関係を示している。この曲線は、×10−6を意味する「μ」を用いたa.u(arbitrary unit)で表される同相電流を用いて、細孔の「貫通」時での同相電流の明確な上昇を示している。
【図6】図6は、10nmの直径のナノポアを有するポリ(メチルメタクリレート)系(600000の分子量)のSEM画像を示している。本発明者らは、1nmの範囲又はそれ以下(0.1nmまで低下)の直径のナノポアが製造され得ることを認識している。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
500nm以下の範囲の直径の少なくとも1の細孔を有するポリマー膜の製造方法であって、
a)基板を準備する工程と、
b)前記基板上にポリマー膜を成膜する工程と、
c)前記ポリマー膜をリソグラフィ工程に供した後に、前記ポリマー膜に500nm以下の範囲の直径を有する少なくとも1の細孔を導入し、選択的に複数の前記細孔のアレイを前記ポリマー膜に導入する工程と、
d)前記基板から前記膜を剥離させる工程と、
を含む、ポリマー膜の製造方法。
【請求項2】
前記工程a)は、
aa)表面、好ましくは平坦な表面を有し、酸化物、金属及びプラスチックからなる群から選択される1の材料で作られた基板を準備する復工程と、
ab)前記基板の前記表面に、前記基板の前記表面に対して小さな付着力を有する固着防止層を成膜する復工程と、
ac)前記固着防止層上にキャリア膜を成膜し、前記固着防止層は、前記基板に対するよりも前記キャリア膜に対して大きな付着力を有する復工程と、
ad)1μmから500μmまでの範囲の直径を有する少なくとも1の凹部を、リソグラフィ工程により前記キャリア膜に導入することで、前記キャリア膜をパターン化する復工程と、
を含む、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記工程b)は、
ba)前記ポリマー膜が前記キャリア膜を覆い、かつ、前記少なくとも1の凹部の部位で、前記少なくとも1の凹部の内部にライニングを形成するように、スピンコーティング及び蒸着から選択された1の方法により、前記少なくとも1の凹部を有する前記キャリア膜上にポリマー膜を成膜する復工程
を含み、
前記工程c)は、
ca)前記少なくとも1の凹部の内部の前記ライニングにおいて、前記リソグラフィ工程を行う復工程
を含む、請求項2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記キャリア膜は、ポリマー及び酸化物からなる群から選択された1の電気的に絶縁性の材料で作られる、好ましくは、前記キャリア膜は、フォトレジスト材料で作られる、請求項2〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記ポリマー膜は、ポリマー及び酸化物からなる群から選択された1の電気的に絶縁性の材料で作られる、好ましくは、前記ポリマー膜は、フォトレジスト材料及び電子ビームレジスト材料から選択されたレジスト材料で作られる、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
前記工程d)は、例えば吸引のような力を付加、又は、1もしくは複数の前記細孔を覆わないように1もしくは複数の穴を有する接着テープを前記ポリマー膜へ貼り付け、続いて、前記ポリマー膜を前記基板から剥離させることにより行われる、請求項1〜5のいずれかに記載の製造方法。
【請求項7】
前記固着防止層は、約1nmから約100nmまで、好ましくは約5nmから約75nmまで、さらに好ましくは約10nmから約60nmまで、最も好ましくは約20nmから約50nmまでの範囲の厚みを有する、請求項2〜6のいずれかに記載の製造方法。
【請求項8】
前記ポリマー膜は、約0.1nmから約500nmまで、好ましくは約1nmから約250nmまでの範囲の厚みを有する、請求項1〜7のいずれかに記載の製造方法。
【請求項9】
前記キャリア膜は、約1μmから約100μmまで、好ましくは約1μmから約50μmまで、さらに好ましくは約1μmから約20μmまでの範囲、最も好ましくは約10μmの厚みを有する、請求項2〜8のいずれかに記載の製造方法。
【請求項10】
前記製造方法は、
e)適切な溶媒中で前記固着防止層を溶解させ、好ましくは、前記固着防止層は、金属、酸化物及びプラスチックからなる群から選択される1の材料で作られ、好ましくは、前記適切な溶媒は、アセトン、アルコール、有機酸のような塩基性水溶液(例えば、金属用)、KI/I水溶液(例えば、金属用)、水(例えば、水溶性酸化物用)及び有機溶媒(例えば、プラスチック用)である工程
をさらに含む、請求項1〜9のいずれかに記載の製造方法。
【請求項11】
前記工程d)及びe)は、同時に行われる、請求項10に記載の製造方法。
【請求項12】
前記工程c)における前記リソグラフィ工程は、光リソグラフィ、電子ビームリソグラフィ、及び原子間力顕微鏡(AFM)リソグラフィからなる群から選択され、かつ、現像工程を含む、請求項1〜11のいずれかに記載の製造方法。
【請求項13】
前記工程ad)における前記リソグラフィ工程は、光リソグラフィ及び電子ビームリソグラフィからなる群から選択され、かつ、現像工程を含む、請求項2〜12に記載の製造方法。
【請求項14】
前記工程ab)及びac)は、熱蒸着、電子銃蒸着、スピンコーティング、ディップコーティング、スパッタリング及び気相蒸着から選択された1の方法により行われる、請求項2〜13のいずれかに記載の製造方法。
【請求項15】
工程ad)及びca)における前記現像工程は、現像液を、前記キャリア膜と前記ポリマー膜のそれぞれに、好ましくは、導入された前記凹部と前記細孔のそれぞれの部位に添加することにより行われる、請求項12〜14のいずれかに記載の製造方法。
【請求項16】
前記固着防止層は、導電性材料、好ましくは、金またはアルミニウムのような金属で形成される、請求項15に記載の製造方法。
【請求項17】
前記工程c)における前記ポリマー膜への500nm以下の範囲の直径を有する前記少なくとも1の細孔の前記導入は、一の電極を現像液と接続し、当該電極に対する対極を固着防止層と接続し、前記2つの電極の間で、電流及び/又は電圧の変動を測定することにより監視される、請求項16に記載の製造方法。
【請求項18】
直流定電圧または直流定電流は、前記2つの電極を通して加えられ、電流又は電圧は経時的に観察され、電流の増加及び/又は電圧の減少は、前記細孔の前記導入の完了を示している、請求項17に記載の製造方法。
【請求項19】
前記2つの電極を通して、インピーダンスアナライザ又はロックイン増幅器を用いて交流電流及び/又は交流電圧の測定が行われ、このような測定は、時間曲線に対するインピーダンスの実部と虚部を提供し、その同相信号はインピーダンスの実部に相当し、電流の増加及び/又は電圧の減少は前記細孔の導入の完了を示しており、さらに、その異相信号は時間曲線に対するインピーダンスの虚部に相当し、前記細孔の導入が完了した後に、その同相信号及び異相信号は前記細孔の大きさについての情報を明らかにし、前記インピーダンスの同相信号は溶液中の前記細孔のオーム抵抗を反映し、それ故、前記細孔の深さ及び面積の大きさを反映し、前記インピーダンスの異相信号は前記細孔の電気容量を反映する、請求項17に記載の製造方法。
【請求項20】
キャリア膜上に配置されて500nm以下の直径の少なくとも1の細孔を有するポリマー膜を含み、請求項1〜19のいずれかに記載の製造方法により製造される、膜構造。
【請求項21】
前記細孔は、0.1nmから100nmまで、好ましくは1nmから75nmまで、さらに好ましくは1nmから50nmまで、最も好ましくは1nmから10nmまでの範囲の直径を有する、請求項20に記載の膜構造。
【請求項22】
前記ポリマー膜は、約0.1nmから約500nmまで、好ましくは約1nmから約250nmまでの範囲の厚みを有する、請求項20〜21のいずれかに記載の膜構造。
【請求項23】
前記キャリア膜は、約1μmから約100μmまで、好ましくは約1μmから約50μmまで、さらに好ましくは約1μmから約20μmまでの範囲、最も好ましくは約10μmの厚みを有する、請求項20〜22のいずれかに記載の膜構造。
【請求項24】
n×m(n及びmは自然数である)個の細孔のアレイが請求項1〜19のいずれかに記載の製造方法により導入される、請求項20〜23のいずれかに記載の膜構造。
【請求項25】
前記膜構造にさらにフィルムヒータが一体化されている、請求項20〜24のいずれかに記載の膜構造。
【請求項26】
電子機器、好ましくは、生体高分子、好ましくはタンパク質又は核酸の大きさ及び/又は配列を測定するための電子機器と、ナノ粒子、タンパク質、核酸又は生体高分子用の計測器としての電子機器の少なくともいずれか一方における請求項20〜25のいずれかに記載の膜構造の用途。

【図1】
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【図2】
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【図3a】
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【図3b】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−545518(P2008−545518A)
【公表日】平成20年12月18日(2008.12.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−510462(P2008−510462)
【出願日】平成18年5月4日(2006.5.4)
【国際出願番号】PCT/EP2006/004182
【国際公開番号】WO2006/119915
【国際公開日】平成18年11月16日(2006.11.16)
【出願人】(397051508)ソニー ドイチュラント ゲゼルシャフト ミット ベシュレンクテル ハフツング (140)
【Fターム(参考)】