説明

少量排気を可能にしたスプレー塗装室

【課題】
塗装室の少量排気のために塗装室前面の開口部を小さくすることによる、スプレーガンの動作領域制限を緩和し、開口部を小さくしたままで十分なスプレー領域を確保する。

【解決手段】
塗装室内に配置した被塗装物に対し、塗装室の前面を縮小した開口部を形成し、この開口部を移動可能とする。移動可能開口部は、開口面積とこれに伴う排気量を可変とする。開口部が移動可能のため塗装室内の被塗装物が大きい場合や吹き付け方向が全面に渡り広くなっても開口部を必要な個所にもっていくことで必要な開口部を通過する最小の排気量で塗装が可能となる。
またスプレーガンの仕様や塗装条件によって開口部の大きさを変え、適正な排気量を選択することによって最も効率的な排気量での。塗装が可能となる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特に塗装ロボット等により自動的に塗装を行う場合に、スプレーによる飛散塗料ミストの捕集を行う塗装室として塗料ミスト処理に必要な吸引空気量を減少させ、環境維持に必要なエネルギーの削減を図ることのできる塗装室に関する。
【背景技術】
【0002】
塗装室、特にスプレー用塗装室は、噴霧に伴って被塗装物に付着されなかった塗料ミストを吸引捕集し、被塗装物等への不要な再付着を避けるため、また塗料ミストを含む周囲環境に悪影響を及ぼす有害物質の排気を削減するため必要不可欠な設備である。この塗装室は多くが工場建屋内と連通しており、その室内の空気を常に吸引し、排気する構造となっている。したがって排気のために塗装室につながる作業室内の空調した空気までもが排気されることになり、膨大なエネルギー損失になっている。
【0003】
通常塗装域の気流は毎秒20cmから1mの速度で流され、仮に10平方メートルの間口がある場合、1分間あたり数百立方メートルの空調空気が外部へ排出されることになり、大きな問題として現存している。これらの対応としてミスト処理後の空気を循環導入して実質的な排気を削減する方法、塗装室への導入空気を空調された室内空気とは別の新鮮空気、主には外部の空気をフィルターにより清浄化した空気、を強制給気して空調空気の損失を削減する方法が主として用いられている。
【0004】
塗装室の空調は作業者がいる場合はもちろん健康面での環境維持の上で避けることができない問題であり、完全に自動化された場合であっても塗料や被塗装物の条件は生活環境に近い条件で設定されていることがほとんどであり、むしろ塗装品質の安定化を図り、塗装不良を出さないためには常に一定の温湿度環境の維持が必要条件となるのは明らかである。特に近年の電子情報機器に代表される精密機器の塗装にとって塗装条件の安定化は絶対条件であり、その基本的な条件が室内空調と言うことができる。
【0005】
排気の循環再利用による方法は、排気空気の処理を十分に行って給気する必要があり、設備的にきわめて大規模な設備が必要となる。すなわち通常の排気であれば許容されるものが、希薄な臭気レベル以下にまで処理し、再び塗装室に戻しても人体や塗装に影響を及ぼさないよう清浄化する必要があり、その処理コストが大きな負担となり、十分な対策とはなっていないのが現状である。外気の新鮮空気供給は言うまでもなく温湿度等の変動が大きく、前記塗装条件の管理を考慮すると温湿度調整のされていない給気は、安定した塗装品質の塗装、精密塗装工業には採用しがたいものとなっている。
【0006】
一方排気される空気の量を削減する最も簡単な方法として、塗装室の間口を小さくすることが考えられるが、被塗装物に対する間口の大きさは作業のしやすさを考えれば余裕を持たせる必要があり、特に精密かつ複雑な塗装等複雑に入り組んだ形状、内部、奥部あるいは隅部にまで均一な塗装が要求されるような場合、スプレーは種々の方向からの吹き付けが必要であり、これに伴って塗装室に向かって吹き付ける範囲が広く要求されるため局部的な間口では対応できなくなる。
【0007】
また塗装室内への必要な給気を、ダクトを通して供給制限した設備も見られるが、これらは天井面の一部より広い室内に給気し床面より吸引するものが代表的で、部分的な気流の調節を行う技術としては、室内の気流の分布を給気側にパターン化された給気口を配置した装置も考えられているが、これらはシステム化された設備の一部として採用されている。しかしこの場合室内の気流は、たとえば自動車等の大型の被塗装物を設置して塗装する場合であれば被塗装物の周辺に適当な気流が生成されるが、これらに影響されない小型の被塗装物の場合は一部に集中するため周辺部はスプレーミストの吸引が不十分になる。したがってこのような場合は、天井部に整流手段を設け全体に均一な必要流速の気流ができるように構成しているのが一般的となっている。
【0008】
更に飛散塗料ミストを効果的に処理する手段として、一部に局所排気装置を設ける技術も提案されている(特公昭54−22461号公報)。しかしこの場合は排気装置の吸引部を分割したものであり、被塗装物が置かれる塗装室の間口は変わらず、全体の排気量が低減する構成にはなっていない。
【0009】
一般的に前面が開口された塗装室で室内に置かれた被塗装物を塗装する場合、作業者は正面より塗装室の後部に設置された排気口に向けて吹き付けを行うのが自然である。したがって被塗装物の側面や後面を塗装する場合は、被塗装物を回転させて正面側に向けて行い、更に凹凸面がある場合は斜め方向から吹き付けることになる。これは上下面であっても同様で、これらの吹き付け操作は溝部などをもつ複雑な形状であるほど均一な塗膜を施すために必要となっている。
【0010】
現在では作業者の環境や作業性、生産性などの理由から塗装をロボットに代表される自動塗装装置で行うことが広く行われるようになってきているが、前述の基本的操作は同じであり、被塗装物の前方周囲から吹き付けが行われる。そして斜め方向から吹き付けた場合、被塗装物に付着しなかったいわゆるオーバースプレーは塗装室の壁面に向かい付着する結果となる。したがって塗装室は十分に広く、壁面に到達する前に排気流により吸引されるよう被塗装物と壁面との距離が長いことが望ましいが塗装室は大型となり設備的には大きな負担となる。
【0011】
塗装室が狭く壁面と被塗装物との間が少ない場合、壁面には次第に付着塗料が重なり汚れとなって周囲や被塗装物への悪影響を与えることになる。特に天井面に付着した塗料は落下等によって被塗装物の塗装不良を引き起こす為、定期的な清掃作業が避けられず、生産性の低下や作業者の負担になっている。
【0012】
このため塗装室自体は対象となる被塗装物の範囲を考慮して、対象となるいずれの被塗装物にも可能な大きさが設置されるのが通常であって、被塗装物によっては大きな無駄が生じながらも使用することになる。すなわち必要以上に塗装室全体にわたって排気処理の気流が流されたまま、作業を継続することがしばしば行われている。

【特許文献1】特公昭54−22461号公報特開平8−266988号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0013】
塗装室を設置する場合、種々の大きさの被塗装物を見込んで設置すれば、小さい被塗装物では周辺での無駄が避けられない。また塗装作業において被塗装物が複雑になるほどスプレーガンの操作は多くの方向からの吹き付けが必要になり、この場合塗装室自体も十分な大きさが要求される。そのため適切に空調された空気を排気することによるエネルギーの損失のみならず、大量の排気によって希薄にされたミスト含有空気のミスト処理においても効率が低下し困難性が増加する問題がある。本発明は、排気量の無駄を削減し、前記したエネルギー損失や塗料付着からくる塗装室の汚れ防止等の問題点を解決し、結果として省エネルギーで塗装環境を維持して品質の高いかつ安定した塗装を可能とする効果的な排気量で使用できる塗装室を得ることにある。

【課題を解決するための手段】
【0014】
前記の問題点を解決するため、塗装室前面の開口部に壁面を設けてその一部を開口し、そこから吸引した空気流によって塗料ミストを処理して排気させることで排気量を低減する構成とし、前記塗装室前面の開口部を移動可能としておかれた被塗装物の大きさ、形状、位置等の変動要素によって適切な位置に開口部を設定できるように構成する。
【0015】
また開口部は遮蔽される移動板を個々に移動できるよう構成することで面積を変更できるようにすることによって被塗装物の大きさや形状の変化に対して、あるいは塗装機の操作範囲の変化に対しても適切な開口部に設定することが可能となり、必要であれば開口部の面積にあわせて排気装置側の処理風量を調節することにより、常に経済的な運転を行うことができるようになる。
【発明の効果】
【0016】
上記の構成とした本発明によれば塗装室の広さを変えず、必要な作業領域を維持した状態で前面開口部のみを縮小し、排気装置に吸引される気流を限定された範囲より流入させ、必要な流速で被塗装物の周囲に飛散する塗料ミストを吸引して処理装置に吸引させるため効率のよい処理が可能となる。すなわち開口部を通過する少ない処理空気量で飛散する塗料ミストを濃度の高い状態で処理することが可能なため、後処理を行う装置も従来のように大量の空気で希薄化された大容量の処理装置を用いる事無く、小型化も可能となる。
【0017】
また開口部の移動や変化を自動化することによって、塗装ロボットや自動塗装装置を使用してスプレーガンを自動操作させた場合にも、その動きに応じて開口部の位置や大きさを対応させることできるため、塗装作業が妨げられることが無く、作業性を維持したまま排気量を大幅に減少させた塗装が可能となる。更に塗装室の全体から空気を取り込むことがなくなり、開口部からの限られた吸い込みになるため、前述のように作業室内の空調された空気の排出が押さえられてエネルギーの大幅な低減が図れることになる。

【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下本発明を実施する場合の詳細について図面を用いて説明する。図1は、実施の1形態を示した塗装室の概略構成を示している。スプレーガン1は自動スプレーガンで圧縮エアによって自動的に吹きつけが行われ、通常、制御装置からの信号により操作される電磁弁からの圧縮空気によって吹き付けが制御される。このスプレーガン1は自動塗装機である塗装ロボット2に搭載され吹き付けの位置、方向等を制御操作され被塗装物3への塗装を行う例が示されている。通常塗装ロボット2はアーム4によって上下、左右、前後の動きに加え、スプレーガン1取付け部の角度変化や回転操作によってスプレーガン1の自由な吹き付け操作が可能であり、教え込んだプログラムによって図示されていない制御装置からの信号により繰り返し作動が行われる。
【0019】
塗装室5は被塗装物3を中に置き、その周囲が十分にあるよう大きさが選択され、後部に排気装置6が備えられている。排気装置6は塗装室5の被塗装物3に吹き付けられた塗料のオーバースプレーミストを吸引し、これを処理して清浄な空気として排気する手段を備えている。排気装置6は排気ファンにより吸引した処理気流をミスト捕集装置、エリミネータ等で構成され多くの既存技術が知られている。本発明では排気装置の方式に関して特に限定されるものではない。
【0020】
塗装室5の前面は前面壁8により開口が制限され、一部を開口し、内部は被塗装物3が置かれた状態で周囲に作業に必要なスペースが確保されるだけの大きさを有する。前面壁8の開口7には別途開口部91を形成した移動板9が重ねられ、図の例では上下に移動可能となっている。移動板9の移動手段は図2に示す例のように、エアシリンダーやサーボアクチュエーター等の往復駆動装置10に取り付けられ、適当なレールもしくはガイドに沿って上下に往復移動が可能とされ、移動板9が上下に移動することで塗装室5前面の開口7に対する実質的な開口部91が上下に変化する。図3は上部に移動した図を示している。これらの移動手段そのものは知られている範囲でいくつかの既存技術が採用されうる。
【0021】
図の例に限らず左右に移動させる必要がある場合は、同様に構成すればよく、さらに左右上下のいずれにも移動が必要な場合は、一方の移動手段とこれによって移動する移動板が設置された第2移動板を設け、該第2移動板を第2の移動手段で移動するように構成することができる。これらの移動手段は機械的な移動に限らず単にガイドに沿って往復移動可能な構成として手動で調整することでも本発明の主たる目的を達成することができる。この場合、調整の必要性、頻度等によっては一部の移動手段のみを自動とすることでもよい。
【0022】
また塗装自体を手動で行う場合は、塗装位置を開口部91に合わせることも可能であるが、塗装ロボット等を使用する場合は塗装ロボット2のアーム4および先端に取り付けられたスプレーガン1が必要な範囲で作動位置を変えるため、開口部91が対応しなくなる場合が生ずる。このため開口部91の移動手段は、塗装ロボットの駆動制御と合わせて位置を変えるように塗装ロボット側の制御装置に教え込み、塗装作業に連動して開口位置を合わせることができる。
さらに被塗装物3の大きさや移動によって開口部91の移動が必要であれば、前記同様プログラムされた制御指令によって被塗装物3と連動させるようにすることも必要となる。
【0023】
図4の例は他の実施例を示し、開口部20を形成する移動板21が前述と同様、移動手段22によって移動するように構成されている。したがってこの移動板21を移動することで開口25の大きさを変更することができ、図のように四方に設けることによって移動の設定範囲によって開口25の大きさや位置の変更が可能になる。
【0024】
本来汎用性を求めた塗装室は種々の被塗装物や塗装条件のため開口部は大きな間口が一般的であるが、そのために前記したごときエネルギー損失等の大きな問題点があり、使用条件を限定し本発明の構成を採用することによって、これらの問題の解決を図ることができる。すなわち従来の塗装作業においても被塗装物に近い周辺からの吹付けに限定され、前面開口の全ての周辺隅部から塗装機、スプレーガンで吹付けを行うことはほとんど無く、塗装機、スプレーガンの操作上からは無駄な開口スペースとなっていたが、本発明の採用で開口部を必要範囲にとどめ、排気量の減少を図ることができるものである。
【0025】
また吸気通路の後部は塗装室内より排気装置に流入する速度が速い位置、すなわち通路が絞り込まれた位置に開口しており、排気流の吸引力によって効果的に吸い込まれることになり。これらの開口部もしくは開口位置あるいはそのいずれに対しても被塗装物の塗装条件によって適正に調整することによって、より効率の高い塗料ミスト処理を可能とし、自動塗装においてはこれらの調整を塗装ロボット等の塗装機の制御装置によるコントロールと連動して行うことによって、無駄を省くことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明を実施する場合の塗装室の態様を主な構成で示す説明図である。
【図2】塗装室の前面開口部の調整を可能とする構成の一例を示す正面図である。
【図3】図2の構成で、開口部を上方に移動したときの状態図である。
【図4】開口部を調整可能とする他の例で、移動板を四方に配置した場合の正面図である。
【符号の説明】
【0027】
1 スプレーガン
2 塗装ロボット
3 被塗装物
4 ロボットアーム
5 塗装室
6 排気装置
7 開口
8 前面壁
9 移動板
10 往復駆動装置
91 開口部
20 開口部
21 移動板
22 移動手段
25 開口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
塗装室の前面に形成した壁面の一部に開口部を形成し、後部にミスト処理用の排気装置を備え、前記開口部より吸引され塗装領域を経て塗料ミストを含有した気流を処理するよう構成した塗装室において、前記開口部の位置を移動可能としたスプレー塗装室。
【請求項2】
開口部の移動は、開口部を形成する移動板にエア駆動やサーボアクチュエーター等の各種往復装置を連接し、上下または左右もしくはそのいずれの方向にも移動可能とした請求項1に記載のスプレー塗装室。
【請求項3】
開口部は前面壁の可能範囲内で移動し、スプレーガンの作動もしくは被塗装物の移動と連動して制御される移動手段を備えた請求項1乃至請求項2に記載のスプレー塗装室。
【請求項4】
開口部の移動手段は塗装ロボットの制御手段からの出力信号により、作動制御される駆動装置である請求項3に記載のスプレー塗装室。
【請求項5】
塗装室の前面に形成した壁面の一部に開口部を形成し、後部にミスト処理用の排気装置を備え、前記開口部より吸引され塗装領域を経て塗料ミストを含有した気流を処理するよう構成した塗装室において、前記開口部は開口面積を変動可能とする駆動手段を備えたスプレー塗装室。
【請求項6】
開口部の面積の変動に伴って排気装置の駆動を制御して排気量を調節する手段を備えた請求項5に記載のスプレー塗装室。
























【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−224073(P2006−224073A)
【公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−44668(P2005−44668)
【出願日】平成17年2月21日(2005.2.21)
【出願人】(390028495)アネスト岩田株式会社 (224)
【出願人】(000006208)三菱重工業株式会社 (10,378)
【Fターム(参考)】