説明

局所排気装置付解剖実習台

【課題】解剖実習台上の全面にわたり均一な吸気能力を有し、かつメンテナンス性に優れた局所排気装置付解剖実習台を提供する。
【解決手段】局所排気装置付解剖実習台10は、上部が開口した筐体11と、筐体11に着脱自在に載置され、四周内向きに吸気口21が設けられたトレー20と、上部が筐体11に貫入し、上面がトレー20の下面と接し、下部が筐体から下方に突出するように設置された吸気ボックス12とを有し、トレー20の下面と筐体11の内壁面と吸気ボックス12の側壁とが囲む空間が吸気口21より吸入した空気を外気と遮断した状態で流通させる吸気流路22を構成し、筐体11に貫入した吸気ボックス12の側壁には、吸気流路22と連通する複数の開口23が設けられ、開口23には、吸気ボックス12側から吸気流路22側に斜めに延びるように開口23を貫通する整流板が設けられている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、局所排気装置付解剖実習台に関し、より具体的には、解剖実習台上の全面にわたり均一な吸気能力を有し、かつメンテナンス性に優れた局所排気装置付解剖実習台に関する。
【背景技術】
【0002】
医学生の必須科目である解剖実習に用いられる被剖検体には、腐敗や病原体の繁殖を長期間にわたって防止するために、高濃度のホルマリンによる防腐処置が施されている。そのため、解剖者及び遺体処置者は、被剖検体から発散される高濃度のホルムアルデヒドに長時間曝されることになる。ホルムアルデヒドは、粘膜への刺激性を中心とした急性毒性及び発ガン性に加え、いわゆるシックハウス症候群の原因物質であると考えられることから、作業環境及び家庭環境におけるホルムアルデヒド濃度に対する規制が厳格化しつつある。WHO、厚生労働省、文部科学省から示されたガイドラインによれば、大気中のホルムアルデヒド濃度は、特定作業環境において100ppb以下、一般家庭環境において80ppb以下であることを要する。
【0003】
従来、解剖実習室内のホルムアルデヒドガスの高濃度化を抑えるためには、窓を開放したり換気扇で室外に空気を送り出したりしている。しかし、このような方法では空調の効果を低減させ解剖実習環境を悪化させると共に、解剖実習台の周囲のホルムアルデヒドの局所濃度を効果的に低下させることは困難である。そこで、局所排気機能を有する解剖実習台が種々提案されてきた。例えば、特許文献1には、空気浄化装置を備えた架台上に被剖検体を載置可能のトレーを設けると共に、当該トレーの周囲に設けた吸引口から空気を吸引して前記空気浄化装置に導くための送風装置を備え、この送風装置の排風側に接続した排風ダクトの送風口を前記トレーの一側上方に配置し、この送風口から送風される空気を前記トレーの他側部側へ指向した構成であることを特徴とする空気浄化装置を備えた作業台が提案されている。また、特許文献2には、解剖台の四周内側に設けた吸気開口に吸込みボックスの吸気口を臨ませまた、前記吸込みボックスの排気側をダクトを介して集合吸気ボックスの吸気側に接続しさらに、前記集合吸気ボックスの排気側をフレキシブルダクトを介して排気ブロワに接続するとともに、解剖台の四周に、少なくとも被剖検体の鉛直方向寸法最大値の高さを有し、弾性変形能を有して術者の両手の動きに応じて内側に倒れ込みまた原形状に復元し得る可撓性材料からなり、術者の肘または腕の部分のみが内側に倒れ込む幅寸法で切り込みが形成されている可撓性ボード又は櫛歯状の可撓性ボードを設けてなる解剖台のホルムアルデヒドガス局所排気システムが提案されている。
【0004】
【特許文献1】特開2004−180961号公報
【特許文献2】特開2006−75592号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1記載の空気浄化装置を備えた作業台は、送風装置を必要とするため装置が大がかりになると共に、架台の下側に空気清浄装置を設置しているため、膝や下肢との干渉が生じ、解剖者が着座した状態で架台の下に脚を入れることができず、作業性が低下するという問題を有している。特許文献2に記載の解剖台のホルムアルデヒドガス局所排気システムにおいても、足下にダクト等が配置されているため、同様の問題が生じる。
【0006】
また、特許文献1及び2に記載の解剖実習台においては、解剖実習台上の位置により吸気口からの吸気能力が異なっており、一般に排気ブロワから遠くなるほど吸気能力が低下する傾向にある。そのため、被剖検体の足側で排気ブロワに接続されている解剖実習台において、大量のホルムアルデヒドが存在する頭部及び腹部の周辺で十分な吸気能力が得られないおそれがある。
【0007】
本発明はかかる事情に鑑みてなされたもので、解剖実習台上の全面にわたり均一な吸気能力を有し、かつメンテナンス性に優れた局所排気装置付解剖実習台を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
前記目的に沿う本発明は、上部が開口した筐体に着脱自在に載置されたトレーと、前記トレーの四周内向きに設けられた吸気口と、前記吸気口と連通し、該吸気口より吸入した空気を外気と遮断した状態で流通させる吸気流路と、前記筐体の下方に取り付けられ、ダクトを介して全体換気用の排気ブロワに接続され、複数の開口を介して前記吸気流路と連通している吸気ボックスとを有し、前記開口のそれぞれには、空気が流入する方向に向かって前記吸気ボックス側から前記吸気流路側に向かって延びるように該開口を貫通する1又は複数の整流板が設けられていることを特徴とする局所排気装置付解剖実習台を提供することにより上記課題を解決するものである。
【0009】
吸気口より吸入した空気を、筐体の下方に設けられた吸気ボックスを介して排気ブロワに導くことにより、吸引力を四方に均一に分散させると共に、空気の流速を高め、吸引力を増大できる。また、吸気流路と吸気ボックスとを連通させる開口に、空気が流入する方向に向かって吸気ボックス側から吸気流路側に向かって延びるように該開口を貫通する1又は複数の整流板を設けることにより、開口を通過する空気の流速を更に高めることができるため、排気ブロワから遠い開口においても十分な吸気能力を確保できる。そのため、解剖実習台上の全面にわたり高い吸気能力を有する。また、トレーが着脱可能であるため、取り外して容易に洗浄でき、メンテナンス性にも優れている。
【0010】
本発明に係る局所排気装置付解剖実習台において、前記トレーの下面と前記筐体の内壁面とが囲む空間が前記吸気流路を構成していることが好ましい。
吸気口と吸気ボックスとを連通させる配管やダクトを省略できるので、構造がシンプルになり、製造コストを低減できると共に、信頼性を向上できる。
【0011】
本発明に係る局所排気装置付解剖実習台において、前記吸気ボックスが、前記筐体に貫入し、その上面が前記トレーの下面と接するように設置され、前記開口は、前記吸気ボックスが前記筐体に貫入した部分の側壁上に設けられていることが好ましい。
吸気ボックスの筐体から下方への突き出し量を小さくできるので、筐体の下側の空間を広く確保でき、解剖者が着座した状態でも作業性を損なうことがない。
【発明の効果】
【0012】
本発明によると、解剖実習台上の全面にわたり均一な吸気能力を有する局所排気装置付解剖実習台が提供される。局所排気装置付解剖実習台は複雑な装置を必要としないため、安価に製造でき、信頼性も高い。また、筐体の下部の空間を広く確保できるため、解剖者の作業性も良好である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
続いて、添付した図面を参照しつつ、本発明を具体化した実施の形態につき説明し、本発明の理解に供する。
ここで、図1は本発明の一実施の形態に係る局所排気装置付解剖実習台の正面概略図、図2は同局所排気装置付解剖実習台の上面概略図、図3は同局所排気装置付解剖実習台正面の図2におけるA−A断面図、図4は同局所排気装置付解剖実習台上面のトレーを取り外した状態の概略説明図、図5は同局所排気装置付解剖実習台側面の筐体パネルを取り外した状態の概略説明図である。
【0014】
図1及び図2に示すように、局所排気装置付解剖実習台10において、筐体11の下方には吸気ボックス12が取り付けられており、長手方向の一端側(被剖検体の足側)で、ダクト13を介して全体換気用の排気ブロワ(図示しない)に取り付けられている。ダクト13の途中には、吸気能力を調節するために、風量調節用ダンパー(図示しない)が取り付けられていてもよい。筐体11から下方に向かって脚14が取り付けられ、その先端には、移動を容易にするためのキャスター15が取り付けられている。脚14の下側には、棚板16が設置されており、排水ホース18を介して、トレー20からの排水等を密閉状態に保持するための密閉容器17が設置されている。また、吸気ボックス12の下部には、洗浄水等を排水するためのドレインホース19が設置されている。また、トレー20の頭側(被剖検体の頭が配置される側)には排水口28が設けられている。
【0015】
筐体11には、載置されるトレー20や被剖検体の重量を保持するために必要な強度と、血液、体液、ホルムアルデヒドなどに対する十分な耐食性を備えた任意の材料を用いることができるが、好ましくは、ステンレス鋼等が用いられる。脚14,キャスター15の枠部分、棚板16、及び吸気ボックス12についても、耐食性等の観点からステンレス鋼等が好ましく用いられる。
【0016】
局所排気装置付解剖実習台10の図2におけるA−A断面図を図3に、筐体11側面のパネルを取り外した状態の局所排気装置付解剖実習台10の概略説明図を図5にそれぞれ示す。上部が開口した箱状の筐体11には、複数の支柱24により着脱自在に支持されたトレー20が載置されている。トレー20についても、筐体11等と同様の理由により、ステンレス鋼等が好ましく用いられる。
被剖検体は、トレー20の上に直接載置された状態で解剖実習に供されてもよいが、トレー20の上に図示しないすのこ等の板状部材を支持可能な構成とし、その上に載置してもよい。トレー20の四周内向きには、筐体11の外側からトレー20側に向かって下り傾斜となるように吸気口21が設置されている。図2中網かけで示した部分には、吸気可能なように、格子、金網、多数の穴等が設けられている。
トレー20の下面と、筐体11の内壁面とが囲む空間により、吸気口21と連通し、吸気口21より吸入した空気を外気と遮断した状態で流通させる吸気流路22が形成されている。トレー20の頭側に設けられている排水口28には、排水管29が下方に向かって取り付けられている。排水口28を使用しないときに塞ぐことができるように栓を設けてもよい。
【0017】
吸気ボックス12は、筐体11に貫入し、その上面がトレー20の下面と接するように設置され、吸気ボックス12が筐体11に貫入した部分の側壁上には、複数の開口23が設けられている。吸気口21より吸入された空気は、外気と遮断された状態で吸気流路22を流通し、開口23より吸気ボックス12に流入する。そのため、筐体11と吸気ボックス12との接合部は、溶接により、或いはパッキン等を介して当接することにより気密に保たれている。開口23の位置、大きさ及び数は、排気ブロワの吸気能力、局所排気装置付解剖実習台10において必要とされる吸気能力等に応じて変更してもよい。なお、図2では、全ての開口23の大きさが同一であるが、それぞれ大きさ及び形状が異なっていてもよい。また、開口23の大きさを調節するために、スライド式の扉を設けてもよい。
【0018】
筐体11上面のトレー20を取り外した状態の局所排気装置付解剖実習台10の概略説明図を図4に示す。開口23のそれぞれには、空気が流入する方向に向かって吸気ボックス12側から吸気流路22側に向かって延びるように開口23を貫通する整流板27が設けられている。このような整流板27を設置することにより、開口23を通過する気流の方向(図4中に矢印で示している)を制御し、速度を増大させることにより、排気ブロワから離れた位置でも吸気能力を大きくすることができる。なお、図3では、各開口23に1枚の整流板27が設置されている状態を図示しているが、1つの開口23に複数の整流板27を設置してもよい。また、整流板27と開口23とのなす角度を調節可能にしてもよく、開口23の位置に応じて整流板27の大きさ及び形状を変化させてもよい。
【0019】
筐体11には、排水ホース18と、トレー20下部に取り付けられた排水管29とを連通させるための排水管接続口25が設けられている。トレー20を筐体11に載置したときに、排水管29の先端が排水管接続口25に挿入されることにより、両者が連通する。
また、吸気ボックス12の下面には、ドレインホース19に連通するドレイン口26が設けられている。局所排気装置付解剖実習台10の使用時には、外部にホルムアルデヒドを含む空気が放出されたり、吸気能力が低下したりするのを防ぐために、ドレイン口26は図示しない栓により閉塞されている。
【実施例】
【0020】
長さ1920mm、幅780mm、トレーの四周を囲む吸気口の幅90mm(開口率70%のパンチングメタル)の局所排気装置付解剖実習台を9台製作し、解剖実習室の排気ブロワにダクトを介して接続した。そのうち8台について、図2にa〜iで示した点における排気速度を測定した。結果は下記の表1に示すとおりであった。
【0021】
【表1】

【0022】
いずれの局所排気装置付解剖実習台についても、測定位置にかかわりなくほぼ同一の排気速度が観測された。また、トレー上に載置される遺体の頭側に相当する点a、e、及びiにおいても、十分に大きな排気速度が観測された。
【0023】
本発明は、前記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲での変更は可能であり、例えば、前記した実施の形態や変形例の一部又は全部を組み合わせて本発明の局所排気装置付解剖実習台を構成する場合も本発明の権利範囲に含まれる。
例えば、前記実施の形態の局所排気装置付解剖実習台において、吸気口は、トレーに対し直交するように設置してもよい。
また、前記実施の形態では筐体に貫入するように吸気ボックスを設置したが、筐体に貫入させないように設置してもよい。この場合において、吸気流路と吸気ボックスとを連通させる開口は、筐体の下面に設けられる。
更に、本実施の形態では、トレーの下面と筐体の内壁面とが囲む空間を吸気流路としたが、吸気口と吸気ボックスとを連通させる配管やダクトを設けてもよい。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】本発明の一実施の形態に係る局所排気装置付解剖実習台の正面概略図である。
【図2】同局所排気装置付解剖実習台の上面概略図である。
【図3】同局所排気装置付解剖実習台正面の図2におけるA−A断面図である。
【図4】同局所排気装置付解剖実習台上面のトレーを取り外した状態の概略図である。
【図5】同局所排気装置付解剖実習台側面の筐体パネルを取り外した状態の概略図である。
【符号の説明】
【0025】
10:局所排気装置付解剖実習台
11:筐体
12:吸気ボックス
13:排気ダクト
14:脚
15:キャスター
16:棚板
17:密閉容器
18:排水ホース
19:ドレインホース
20:トレー
21:吸気口
22:吸気流路
23:開口
24:支柱
25:排水管接続口
26:ドレイン口
27:整流板
28:排水口
29:排水管

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上部が開口した筐体に着脱自在に載置されたトレーと、
前記トレーの四周内向きに設けられた吸気口と、
前記吸気口と連通し、該吸気口より吸入した空気を外気と遮断した状態で流通させる吸気流路と、
前記筐体の下方に取り付けられ、ダクトを介して全体換気用の排気ブロワに接続され、複数の開口を介して前記吸気流路と連通している吸気ボックスとを有し、
前記開口のそれぞれには、空気が流入する方向に向かって前記吸気ボックス側から前記吸気流路側に向かって延びるように該開口を貫通する1又は複数の整流板が設けられていることを特徴とする局所排気装置付解剖実習台。
【請求項2】
前記トレーの下面と前記筐体の内壁面とが囲む空間が前記吸気流路を構成することを特徴とする請求項1記載の局所排気装置付解剖実習台。
【請求項3】
前記吸気ボックスが、前記筐体に貫入し、その上面が前記トレーの下面と接するように設置され、前記開口は、前記吸気ボックスが前記筐体に貫入した部分の側壁上に設けられていることを特徴とする請求項1及び2のいずれか1項記載の局所排気装置付解剖実習台。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−110480(P2010−110480A)
【公開日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−285990(P2008−285990)
【出願日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【特許番号】特許第4351291号(P4351291)
【特許公報発行日】平成21年10月28日(2009.10.28)
【出願人】(508331660)有限会社明光メディカル (1)