説明

履物及び履物用中敷き

【課題】高齢者や機能障害者の転倒防止、スポーツパフォーマンスの向上及び姿勢の改善等に役立つ履物及び履物用中敷きを提供する。
【解決手段】履物の土踏まず部を通り履物の巾方向に横断する段差を備え、該段差より前方部分の厚さが薄く、且つ前記段差より後方部分の厚さが厚く設けられてなる履物底を備えた履物。前記段差は、底面視にて履物の巾方向の中央部から両端部に向かって後方に湾曲する形状、直線状からなる形状又は直線状の段差の左右両端部の近傍において、厚さの厚い部分を後方に斜めにカットした形状のうちの何れかが好ましい。前記履物底の段差と同様の段差を備えた履物用中敷きが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高齢者や機能障害者の転倒防止、スポーツパフォーマンスの向上及び姿勢の改善等に役立つ履物及び履物用中敷きに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、靴、サンダル、ハイヒール等の履物は、一般に平板状の靴底を備えており、この靴底の後方部に、足の踵が位置する領域に踵が設けたものもある。一方、靴の中底や中敷きには、足の土踏まずに当接する位置に隆起を設けたものがある。健常者が通常歩行する場合は、履物を履く人の足にあった履物を選択して使用する限りにおいて、従来の履物によって特別の支障は生じない。しかし、近年、高齢化が進むにつれて、足に合うと思われる履物を履いているにもかかわらず転倒する高齢者が増加している。そして、高齢者は、若者と違って骨が脆く骨折する危険度が高く、一旦骨折すると直りにくいという問題点がある。
【0003】
前記問題点を解消するために、例えば、「高齢者用安全靴」(特許文献1)及び「高齢者、障害者又は病人用の靴」(特許文献2)が開示されている。特許文献1には、靴底の材質の収縮率を変え、接地面の摩擦係数の小さいものを使用して地面との引っかかりを回避することが記載されている。また、特許文献2には、靴底を後方乃至外側方向に突出するように形成して、横方向や後方の転倒を防止する記載がある。しかし、前記何れの文献記載の発明によっても、高齢者等の転倒防止の根本的な対策とはならない。
【0004】
【特許文献1】特開平11−221103号公報
【特許文献2】特開2002−191403号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
高齢者は咄嗟の変化に対応する反応が緩慢であり、歩行中つまずいた時に即座に体勢を立て直す間もなく転倒することがよくある。本発明者は、高齢者等の歩行と履物との関係について鋭意研究した結果、歩行中に履物底が歩行者の足裏と接触する状態が、歩行者の足趾部の緊張感と身体動揺度と密接な関係を有することを知見し本発明に想到するに至ったものであり、本発明の目的は、前記のような問題点を解消し、高齢者や機能障害者の転倒防止、スポーツパフォーマンスの向上及び姿勢の改善等に役立つ履物及び履物用中敷きを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記の課題を解決するために、本発明は、履物の土踏まず部を通り履物の巾方向に横断する段差を備え、該段差より前方部分の厚さが薄く、且つ前記段差より後方部分の厚さが厚く設けられてなる履物底を備えたことを特徴とする履物とする(請求項1)。
【0007】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、前記段差は、底面視にて履物の巾方向の中央部から両端部に向かって後方に湾曲する形状、直線状からなる形状又は直線状の段差の左右両端部の近傍において、厚さの厚い部分を後方に斜めにカットした形状のうちの何れかからなる履物底を備えたことを特徴とする前記の履物とすることが好ましい(請求項2)。
【0008】
また、前記の課題を解決するために、本発明は、前記の履物底の段差と同様の段差を備えたことを特徴とする履物用中敷きとすることが好ましい(請求項3)。
【発明の効果】
【0009】
(作用)
通常、骨格筋が収縮するとき、筋線維の収縮に先行して運動ニューロンの興奮が生起している。このことは、反射運動でも随意運動でも同様である。この際、予め運動ニューロンに低レベルの興奮が伝達され続けているとき、即ち骨格筋がアイドリング状態のときに、高レベルの興奮が伝達されると、筋線維の収縮を促す筋活動の開始がより早期に発現する。本発明の履物及び履物用中敷きは、前記のように構成されるので、歩行中に歩行者の足裏の特に足趾部乃至土踏まずの裏側が履物の中底又は履物用中敷きによって押圧され、且つ離間する動作を繰り返すことによって、足裏に適度な刺激と緊張感が生じ、この刺激が脳に伝達され、ヒラメ筋等の運動ニューロンに適度な興奮を生起する。この状態において、つまずき等に対応するムーブメントのための高レベルの興奮が伝達されると、とっさに転倒を防止する筋活動が早期に開始され、転倒回避の体勢づくりができるために、身体の動揺を防ぎ姿勢を維持することによって、転倒を未然に防止できるという機序に因る。
【0010】
(効果)
本発明の履物及び履物用中敷きは、前記のように構成されるので、高齢者や機能障害者の転倒を未然に防止し、姿勢の改善が図られる効果を奏する。また、ヒラメ筋等の運動ニューロンに適度な興奮を生起して、筋線維の収縮を促す筋活動の開始がより早期に発現することから、例えば、体操、ダンス、陸上競技など、身体の高度な敏捷性と安定性を要求されるスポーツにあっては、スポーツパフォーマンスが向上する効果がある。また、本発明の履物及び履物用中敷きは、通常の靴等と外観上さほど変わらないので、高齢者や機能障害者に限らず健常者の通勤靴やスポーツシューズ等にも適用できるので、利用価値がより高く優れている。健常者が装用した場合には、歩行・走行が楽で疲れにくいという効果が得られる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明を実施するための最良の形態(以下「本発明の実施の形態」と称する)について図面を参照して説明する。しかしながら本願発明は係る本発明の実施の形態によって何ら限定されるものではない。図1は、本発明の実施の形態に係る靴の靴底に足が接する状態を例示する説明図であり、図2は、本発明の実施の形態に係る靴の靴底を例示する底面図であり、図3は、本発明の実施の形態に係る靴とヒラメ筋の関係を例示する説明図である。図4は従来の靴とヒラメ筋との関係を例示する説明図である。
【0012】
本発明に係る履物は、靴、サンダル、ハイヒール等その種類が何ら限定されるものではなく、踵の有無に関係なく適用できるが、本発明の実施の形態においては、運動靴のような靴を例に挙げて説明する。図1に示すように、本発明の実施の形態に係る靴1の靴底2には、土踏まず部3の中間部4を通り履物の巾方向に横断する段差5が備えてあり、この段差5より前方部分6の厚さが薄く、且つ前記段差より後方部分7の厚さが厚く設けてある。土踏まず部3の中間部4は、図1に示す土踏まず部の中心線(C)から前後の横断線(F)(B)で囲まれた部分であって、土踏まず部の中央部を含む前後約60〜70%の領域を言う。段差は土踏まずの中間部を通るように設けることが好ましい。図2は、段差の底面視からの形状を表し、(a)は靴の巾方向の中央部から両端部に向かって後方に湾曲する段差を示し、(b)は直線状の段差を示し、(c)は直線状段差の左右両端部の近傍において、厚さの厚い部分を後方に斜めにカットした段差を示す。何れの形状の段差も前記効果を奏するが特に(a)の湾曲状の段差が好ましい。
【0013】
また、前記段差の側面視からの形状は、図1に示すように足裏から接地面に向かって少し斜めに傾斜する台形状に設けることが好ましい。そして、この傾斜する段差の薄肉部側の端部が土踏まず部のほぼ中間から土踏まず部の頂上近辺に位置するように設けることが好ましい。また、段差の高さは特に限定されないが、5mm〜30mmの範囲に設けることが好ましい。しかし、段差の高さや形状は履物の種類や足の形状に応じて任意に設定できることは言うまでもない。
【0014】
段差は、図1に示すように接地面側に凸に形成してもよいが、これとは逆に足裏側に凸に形成してもよい(図示せず)。この場合は足裏に違和感を生じない程度に、段差の傾斜をやや緩やかに形成することが好ましい。本発明に係る履物は、前記の履物底に段差を設ける以外は、通常の履物と同様の材料を用いて同様の方法で製造することができるのである。
【0015】
次に、本発明の実施の形態に係る靴の靴底2と足8の接触状態について図に基づいて説明する。図1(a)(b)(c)は、それぞれ体重無荷重時、体重全荷重時、歩行時の足裏と靴底の接触状態(太線部)を示すものである。体重無荷重時(a)には土踏まず部3は靴底2から離間した状態にあり、緊張感は有意度(−)である。一方、足趾部10は、踵の厚さの分だけ水平的に下位にあるため靴底に接しており、緊張感はやや有意(+)である。体重全荷重時(b)には靴底2の土踏まず部3が上方に持ち上がり、更に歩行時(c)には足趾部10と土踏まず3が靴底2に密接し、緊張感は有意度(++)となる。従来の靴等の場合は体重全荷重時と歩行時においても、足趾部及び土踏まずと靴底との間に隙間が生じ安定感に欠けるのに対して、本発明の実施の形態に係る靴の場合は安定感が高いことが分かる。
【0016】
次に、本発明の実施の形態に係る靴1の靴底2と足のヒラメ筋9との関係について説明する。ここで、ヒラメ筋9とは、腓腹筋の下層にあたり、内側及び外側腓腹筋とともに下腿三頭筋(ふくらはぎ)を形成する筋であって、両筋の下端は合わさってアキレス腱となる。ヒラメ筋は姿勢制御及び二足歩行と密接な関係があることが示唆されている。図3に示すように、本発明の実施の形態に係る靴を履いた場合において、体重全荷重時(a)には、足趾部10と土踏まず3の緊張感は有意度(+)であるが、ヒラメ筋の緊張感は未だ有意度(+−)である。歩行時(b)には、足趾部10と土踏まず3の緊張感が直ちに高まり、同時にヒラメ筋9の緊張感は有意度(++)と高まる。これに対して、従来品の場合は、図4に示すように足趾部3と土踏まず10の緊張感が有意度(−)であり、従って、ヒラメ筋の緊張感も有意度(−)である。歩行時にあっても、ヒラメ筋の緊張感は有意度(−)乃至有意度(+−)に止まり、本発明品に比較して緊張感に欠ける。前記のヒラメ筋の緊張感乃至興奮性は例えば運動時筋活動電位を測定することによって得られる。
【0017】
上記本発明の実施の形態に係る靴について説明してきたが、前記靴の靴底を靴用中敷きに置き換えれば、前記の説明は靴用中敷きにそのまま適用できるので、靴用中敷きについては説明を省略する。本発明の実施の形態に係る靴の種類として、スニーカー・カジュアルシューズ又はパンプス・ビジネスシューズなどの様々な靴に適用可能である。
【実施例】
【0018】
次に、本発明者は、スニーカー、カジュアルシューズ及びサンダルについてそれぞれ前記段差を設けた履物底を備えた履物と靴用中敷きを作成した。そして、60歳代乃至80歳代で、多少足が不自由な人、5人をモニターに選び、前記の履物を1ヶ月間使用してもらい、それぞれのモニターの意見を聞いた。その結果、段差を設けた履物は、歩行時に何れも足趾部の裏側と土踏まず部が靴底に接するので安定感があり、つまずいて転倒することがほとんどないとの報告を得た。中敷きを配置した靴については、前記段差を設けた靴底を備えた靴に比較すると効果の点で若干低いものの従来品の靴よりは安定感があり、つまずきによる転倒も少ないとの結果を得た。
【産業上の利用可能性】
【0019】
本発明に係る履物及び履物用中敷きは、高齢者や機能障害者の転倒防止、スポーツパフォーマンスの向上及び姿勢の改善等に役立ち、特にこれからの高齢化社会の到来に備えて極めて有用である。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施の形態に係る靴の靴底に足が接する状態を示す説明図である。
【図2】本発明の実施の形態に係る靴の靴底を示す底面図である。
【図3】本発明の実施の形態に係る靴とヒラメ筋の関係を示す説明図である。
【図4】従来の靴とヒラメ筋との関係を示す説明図である。
【符号の説明】
【0021】
1:靴、2:靴底、3:土踏まず部、4:中間部、5:段差、5h:段差の高さ、6:前方部分、7:後方部分、8:足、9:ヒラメ筋、10:足趾部、
C:中心線、F:前横断線、B:後横断線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
履物の土踏まず部を通り履物の巾方向に横断する段差を備え、該段差より前方部分の厚さが薄く、且つ前記段差より後方部分の厚さが厚く設けられてなる履物底を備えたことを特徴とする履物。
【請求項2】
前記段差は、底面視にて履物の巾方向の中央部から両端部に向かって後方に湾曲する形状、直線状からなる形状又は直線状の段差の左右両端部の近傍において、厚さの厚い部分を後方に斜めにカットした形状のうちの何れかからなる履物底を備えたことを特徴とする請求項1記載の履物。
【請求項3】
請求項1又は2記載の履物底の段差と同様の段差を備えたことを特徴とする履物用中敷き。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−271409(P2006−271409A)
【公開日】平成18年10月12日(2006.10.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−90197(P2005−90197)
【出願日】平成17年3月25日(2005.3.25)
【出願人】(591005040)
【Fターム(参考)】